説明

印刷機

【課題】 特別なセンサを設けることなくスプレー装置の噴射タイミングを正確に補正することができる印刷機を提供すること。
【解決手段】 排紙部6に設けられた枚葉紙通過検知センサ40でチェーン6cの二つのグリッパ軸を検出することによりチェーン4c、6cの伸び量を計測し、排紙部6に設けられたスプレー装置50の噴射タイミングを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷機に関し、特にスプレー装置の噴射タイミングの補正に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1に示す印刷機1は、印刷された枚葉紙の汚損を防止したり美観を向上させたりするために、紙にニスによるコーティングを施すニスコーティング装置5を備えたものである。この印刷機1は、枚葉紙搬送方向の上流から下流に向けて、給紙部2、印刷部3、搬送部4、ニスコーティング装置5、排紙部6と続く各ユニットで構成されている。搬送部4は内部にチェーンを有し、枚葉紙を印刷部3からニスコーティング装置5へ搬送する。ニスコーティング装置5でニスをコーティングされた枚葉紙は、排紙部6内部のチェーンでニスコーティング装置5から排紙パイルの上方へと運ばれる。
【0003】
排紙部6では枚葉紙を排紙パイル上へ積み重ねていくので、インキの裏移りを防止するために、スプレー装置でスプレー粉を枚葉紙に万遍なく散布している。スプレー粉のムダを省き、効率よく散布するためにはスプレー装置のスプレーノズル下に枚葉紙の先端が到着するタイミング(噴射タイミング)をとらえてスプレー装置に噴射指令を出すことが重要である。
【0004】
しかし、特許文献1でも指摘されているように、印刷機を長く使用しているとチェーンが伸びて長くなるという問題がある。特に、搬送部4に内蔵されたチェーンはそれより下流側の各ユニットを駆動するという役目もあるため負荷が大きく伸びやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−132777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
チェーンが伸びるとチェーンで搬送中の枚葉紙はチェーンが伸びていないときに比べて早めにスプレー装置の下を通過することになり、正確にスプレー粉を枚葉紙上にスプレーすることができなかった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであり、特別なセンサを設けることなくスプレー装置の噴射タイミングを正確に補正することができる手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
排紙部6には搬送中の枚葉紙の落下を検知するために枚葉紙通過検知センサ40が設けられているが、上記目的を達成するために、この枚葉紙通過検知センサ40を利用して、チェーン4c、6cの伸びを計測し、噴射タイミングを補正するようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、枚葉紙通過検知センサを利用して、チェーンの伸びを計測し、噴射タイミングを補正するようにしたので、新たにセンサーを設けることなく噴射タイミングを補正できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかる印刷機を示す図である。
【図2】図1における搬送部、ニスコーティング部、排紙部の詳細図である。
【図3】チェーンの伸びを説明する図である。
【図4】チェーンの部分拡大図である。
【図5】スプレー装置の制御回路図である。
【図6】スプレー装置の動作タイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
図1において、印刷部3は4色印刷が一度で可能になるように4印刷ユニット構成としてあり、通常搬送方向の上流からブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインキで印刷するものである。7は版胴、8はゴム胴、9は圧胴である。
【0013】
搬送部4は印刷部3の最後の圧胴9から枚葉紙を受け取ってニスコーティング装置5の圧胴5aに引き渡すもので、圧胴9によって駆動される搬送部前スプロッケト4aと搬送部後スプロケット4b間にチェーン4cを巻架して構成されている。図2に拡大して示しているように、チェーン4cが伸びてたるむことがないようにテンション付与部11内をチェーン4cが通過するように構成されており、テンション付与部11はテンショナー11aとその両側に位置するローラ11b、11bで構成され、テンショナー11aは上方へ移動することができ、チェーン4cに与える付勢力を調整することが可能である。
【0014】
排紙部6はニスコーティング装置5の圧胴5aから枚葉紙を受け取って排紙パイル上へ枚葉紙を搬送するもので、圧胴5aによって駆動される排紙部前スプロケット6aと排紙部後スプロケット6bにチェーン6cを巻架して構成されている。チェーン6cの伸びによるたるみの防止は、排紙部後スプロケット6bを水平方向で下流側に付勢することで行われ、この構成は既によく知られている。
【0015】
チェーン4cおよびチェーン6cにはチェーングリッパ30がそれぞれ複数箇所に懸架されている。チェーングリッパ30の懸架間隔は、圧胴9が1回転したときチェーン4c、6cが進む距離とされ、この印刷機1の例ではそれぞれ7箇所に懸架されている。
【0016】
また、チェーン6cの下方には枚葉紙通過検知センサ40が設けてあり、チェーングリッパ30が通過した後に枚葉紙の有無を検出し、その検出信号は後述するマイコン(CPU)61に入力され、枚葉紙がないと判断した場合は印刷機1の図示しないメインコントローラにマイコン(CPU)61が信号を送ることにより印刷機1の運転を止める等の制御を行っている。50はスプレー装置であり、印刷された枚葉紙の表面にスプレー粉を万遍なく散布するものである。
【0017】
圧胴9は図示しない圧胴軸により印刷機1のフレーム間にベアリングを介して軸支されている。同様に、チェーン4cを駆動する搬送部前スプロケット4aは図示しないチェーン駆動軸により印刷機1のフレーム間にベアリングを介して軸支されている。印刷機1の図示しない駆動モータの駆動力は、圧胴9に締結されているギアによってチェーン駆動軸に締結されているギアへ伝達され、搬送部前スプロケット4aがその駆動力で回転することによりチェーン4cが駆動され、チェーン4cにはチェーングリッパ30が懸架されているので、チェーングリッパ30に把持された枚葉紙は印刷機1の下流側へと搬送される。同様な構成は、ニスコーティング装置5の圧胴5aと排紙部6の排紙部前スプロケット6a間にも見られる。また、圧胴9の圧胴軸にはロータリーエンコーダ20が取り付けられており、圧胴9の回転に応じて原点パルスGPと回転パルスRPを出力するものである(図5参照)。圧胴9が1回転すると原点パルスGPは1つ出力され、回転パルスRPは複数(N)パルス出力されるものが印刷機1では採用されている。原点パルスGPの発生タイミングは、枚葉紙が圧胴9から搬送部4のチェーングリッパ30に咥え替えされる位置になるよう、ロータリーエンコーダ20の圧胴軸への取り付けが調整されている。
【0018】
チェーングリッパ30は、図示しない爪と爪台からなり、それぞれ異なるグリッパ軸に固定されている。よって一つのチェーングリッパ30には二つのグリッパ軸が存在することとなる。
【0019】
図3はチェーンの伸びとタイミングのズレを説明するための概念図で、Lは搬送部前スプロケット4aが圧胴9から枚葉紙を受け取る位置からスプレー装置50の位置までの概念的な距離を表している。
【0020】
図4はチェーン4c、6cの部分拡大図であって、外リンクと内リンクでチェーン4c、6cの最小単位が構成されている。Qはチェーン4c、6cがまだ新しく、伸びがない場合のピッチを表している。
【0021】
図5はスプレー装置50を制御する制御回路であり、排紙部6の図示しない操作パネル等の近くに配置され、図6はそのタイミングチャートであってチェーン4c、6cに伸びが発生していない場合のものである。マイコン(CPU)61には、ロータリーエンコーダ20の回転にともなって出力される原点パルスGP、回転パルスRPが入力され、枚葉紙通過検知センサ40の信号JSも入力される。また、マイコン(CPU)61には、印刷機1の図示しないメインコントローラから印刷機1がアイドリング中であるかどうかを示す信号も入力される。マイコン(CPU)61はこれらの信号を基にスプレーコントローラ51に対し噴射指令STを出力し、スプレーコントローラ51はその信号によりスプレー装置50を駆動してスプレー粉を噴射する。印刷機1がアイドリング中であれば、圧胴9が1回転する間に、枚葉紙通過検知センサ40はチェーン6cの図示しない二つのグリッパ軸を検出する2パルスで構成される信号JSを1回発生する。二つのグリッパ軸が前後に少しすき間を置いて離れているので2パルス続けて発生するのである。また、通常の印刷運転中であれば、その間に、噴射指令STが1回出力される。62はマイコン(CPU)61に内蔵された記憶素子であり、本発明では、噴射タイミングを補正するためのパルス数が記憶されたデータテーブルである。このパルス数は印刷機1の製造段階における計算あるいは実験により求めることができる。
【0022】
以上の如く構成された印刷機のスプレー装置の動作について説明する。印刷機1を長年使用しているとチェーン4c、6cは少し伸びてくる。このままではチェーン4c、6cにたるみが生じるので、チェーン4cについてはテンション付与部11により、チェーン6cについては排紙部後スプロケット6bを水平方向で下流側に付勢することでテンションを与えてたるみを防ぐのである。しかし、チェーン4c、6cのピッチQはQ+αとなるので、図3に示す距離Lに入るチェーンを構成する最小の単位であるリンクの個数は、チェーン4c、6cが使用により伸びた場合は、チェーン4c、6cがまだ新しく伸びが発生していない場合より少ないこととなる。チェーングリッパ30はチェーン4c、6cを構成するある特定のリンクに固定されているので、チェーン4c、6cが伸びた場合にはチェーングリッパ30にくわえられている枚葉紙は、チェーン4c、6cが伸びていない場合に比べて早くスプレー装置50の位置に到達することになり、ロータリーエンコーダ20の回転パルスRPをカウントしてスプレー装置50の噴射タイミングを制御している印刷機1の制御方法では噴射タイミングにズレが発生することになる。そこで、噴射タイミングのズレをなくし正確なタイミングで噴射指令STを出力するために、チェーン4c、6cの伸びを測定することが必要となるが、本発明では伸びを測定するために新たにセンサ等を設けることなく既存の枚葉紙通過検知センサ40を利用することとした。
【0023】
図5、図6において、印刷機1がアイドリング中であれば、マイコン(CPU)61は枚葉紙通過検知センサ40からの信号JSを基にチェーン4c、6cの伸びを計測するプログラムを実行する。マイコン(CPU)61には、初期値として、チェーン4c、6cに伸びが発生していない場合の、原点パルスGPが出力されてから二つのグリッパ軸が枚葉紙通過検知センサ40によって検出されるまでの回転パルスRPのパルス数R(N>R)が記憶されている。また、同じく噴射タイミングに至るまでの回転パルスRPのパルス数M(N>M)が記憶されている。チェーン4c、6cが伸びてピッチQがQ+αとなった場合の枚葉紙通過検知センサ40によって検出される回転パルスRPのパルス数をRαとすると、その差(R−Rα)だけ、チェーン4c、6cに伸びが発生していない場合に比べて早くグリッパ軸が枚葉紙通過検知センサ40によって検出されることになる。このパルス数(R−Rα)を基に、マイコン(CPU)61に予め記憶されているスプレー装置50の噴射タイミングを調整するパルス数をデータテーブル62から呼び出して、噴射指令STの出力タイミングを補正するパルス数を求めるのである。すなわち、(R−Rα)に対応するデータテーブル62のパルス数がBであるとすると、(M−B)パルス目に噴射タイミングを設定すればよい。印刷機1がアイドリング中から通常の印刷運転に移ると、その信号はマイコン(CPU)61に伝達され、マイコン(CPU)61からの噴射指令STは、原点パルスGPを受信後、回転パルスRPの(M−B)パルス目にスプレーコントローラ51へ出力するよう制御される。
【0024】
このようにチェーンの伸びを測定しながらスプレー粉の噴射タイミングを適性に保つことが出来るので、確実にスプレー粉を枚葉紙上に散布することが可能となる。
【0025】
本発明に係る印刷機1は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲で記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上記実施例ではニスコーティング装置5を備えた印刷機1として説明したが、ニスコーティング装置5を備えていない印刷機であっても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明は、印刷機において有用である。
【符号の説明】
【0027】
1 印刷機
2 給紙部
3 印刷ユニット
4 搬送部
4a 搬送部前スプロケット
4b 搬送部後スプロケット
4c チェーン
5 ニスコーティング装置
6 排紙部
6a 排紙部前スプロケット
6b 排紙部後スプロケット
6c チェーン
7 版胴
8 ゴム胴
9 圧胴
9a ギア
11 テンション付与部
11a テンショナー
11b ローラ
20 ロータリーエンコーダ
30 チェーングリッパ
40 枚葉紙通過検知センサ
50 スプレー装置
51 スプレーコントローラ
61 マイコン(CPU)
62 データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枚葉紙を搬送するチェーンを内蔵する排紙部を備えた印刷機において、該排紙部に設けられた枚葉紙通過検知センサで該チェーンの伸び量を計測し、該排紙部に設けられたスプレー装置の噴射タイミングを補正することを特徴とする印刷機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−5686(P2011−5686A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149560(P2009−149560)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000006943)リョービ株式会社 (471)
【Fターム(参考)】