説明

印刷用塗被紙及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、印刷用塗被紙において、高速ブレード塗被、特にストリーク、スクラッチ、ブリーディングなどの塗被欠陥の発生を抑制し、良好な塗被状態による製造を可能とし、且つ塗被紙表面のクレーターの発生を抑制することである。これにより、優れたオフセット印刷適性、特に高白色度、高白紙光沢度、高印刷光沢を実現することである。
【解決手段】本発明に係る印刷用塗被紙は、塗被原紙の表面上に下塗り塗被層と最外塗被層の少なくとも2層の塗被層を設けた印刷用塗被紙であり、塗被原紙の両面に、顔料として平均粒子径が0.8〜1.2μmの湿式重質炭酸カルシウムを80〜100質量部用いた下塗り塗被液を、フィルム転写型塗工機によって両面の塗被量が10〜18g/mとなるように塗被して、下塗り塗被層を形成したものを塗被基紙として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原紙の少なくとも片面に、顔料と接着剤を主成分とする塗被層を2層以上設けた印刷用塗被紙に関するものであって、高いISO白色度(87%以上)で高い白紙光沢度(77%以上)を有し、塗被紙表面のクレーターの発生を抑制した印刷用塗被紙及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷物のビジュアル化の進展に伴い、画質が良い印刷塗被紙に対する需要が著しく増大し、高速オフセット印刷に耐えられ、白色度が高く、白紙及び印刷部の光沢が良好なカラー画像の再現性に優れた印刷用塗被紙が求められている。
【0003】
一般的に印刷用塗被紙の塗被層は、澱粉、合成高分子ラテックスなどのバインダーとカオリン、炭酸カルシウムを主たる顔料とする塗被液を塗被することで形成される。ブレードコーターで高速塗被を行なうためには、塗被液の濃度を低下させ、流動性を向上させる方法が一般的に採られるが、塗被液の濃度を低下させた場合には、着肉性などのオフセット印刷適性は著しく低下する。即ち、印刷適性の点からはむしろ高濃度化した塗被液を塗被する必要がある。
【0004】
これらの要求を満たすため、特に高速コーティング(塗被)適性を与えるため、粉砕した特定の粒子径、粒度分布、比表面積を有する天然炭酸カルシウムを顔料に用いてペーパーコーティング剤(塗工液)の流動性を改善する手法が採られている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、粉砕天然炭酸カルシウムを多用することは、コーテッド(塗工)紙の光沢を低下させ、着肉性も悪化させることから望ましい方向ではない。
【0005】
また微粒カオリンを用いることで塗被液の高速流動性を改善し、高固形分濃度塗被液の高速塗工を可能にする手法も用いられているが、微粒カオリンを多用すると、インキビヒクルの浸透性が増大し印刷光沢が著しく低下する(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
また、バインダー中の澱粉を冷水可溶性澱粉、デキストリンなどの低分子澱粉とし、高濃度化を図ると共に、塗工適性、印刷品質を向上させる考え方もあるが、低分子澱粉を用いた場合、澱粉の不均一なマイグレーションが起こりやすく、着肉ムラを発生しやすい(例えば特許文献4を参照。)。
【0007】
一般的に高い白紙光沢を得る場合、スーパーカレンダー処理を行ない、光沢付けや平滑度の向上を行なうが、余り強く掛けすぎると白色度や不透明度の低下を生じる問題があり、目標とする品質を得ることは難しい。
【0008】
また印刷用塗工紙において、塗工紙表面に20μm前後の泡状の粗大な穴(以下、「クレーター」と称する。)が発生すると、印刷時にインキが特異的に沈み込むなどの問題が発生し、著しく印刷面の視覚による光沢感が損なわれる。このため、塗工紙製造時、クレーター発生防止が求められ、クレーター回避のためにコーティングカラー(塗工液)中の泡を除く設備(サイクロン式脱泡器)がコーター(塗工機)には設置され、それなりの効果を上げてきている(例えば、非特許文献1を参照。)。しかし、それでも完璧な回避は難しい。
【0009】
クレーター発生を抑制するため、アルカリ溶解性アクリル系増粘剤を配合した塗工液を、クロムメッキブレードを用いて、原反との接触幅1.0〜2.5mmの条件でベント塗工する方法もあるが、ベント塗工の場合は高塗工量を対象としたもので、高速塗工にはあまり適さない(例えば、特許文献3を参照。)。
【0010】
【特許文献1】特開昭55−62296号公報
【特許文献2】特開昭59−30992号公報
【特許文献3】特開2004−292972号公報
【特許文献4】特開2000−110095号公報
【非特許文献1】「 紙パルプ製造技術シリーズ(8)コーティング」、紙パルプ技術協会、1993年8月17日初版発行、p.156−157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高速ブレード塗被、特にストリーク、スクラッチ、ブリーディングなどの塗被欠陥の発生を抑制し、良好な塗被状態による製造を可能とし、且つ塗被紙表面のクレーターの発生を抑制し、優れたオフセット印刷適性、特に白色度、白紙光沢度、印刷光沢等に優れた印刷用塗被紙及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記に鑑み鋭意研究した結果、本発明の印刷用塗被紙及びその製造方法を発明するに至った。即ち、本発明に係る印刷用塗被紙は、塗被原紙の表面上に下塗り塗被層と最外塗被層の少なくとも2層の塗被層を設けた印刷用塗被紙であり、前記下塗り塗被層は、前記塗被原紙の両面に、両面の塗被量が10〜18g/mとなるように形成されてなり、且つ、含有する顔料のうち、平均粒子径が0.8〜1.2μmの重質炭酸カルシウムの占める割合が80〜100質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る印刷用塗被紙では、前記最外塗被層は、前記塗被原紙の両面に設けられた前記下塗り塗被層の少なくともいずれか一方の面に形成されてなり、且つ、含有する顔料のうち、平均粒子径が0.4〜1.1μmの重質炭酸カルシウムの占める割合が50〜80質量%で中空有機顔料の占める割合が3〜8質量%であり、
得られた印刷用塗被紙は、前記最外塗被層側でのJIS P 8148:2001「紙,板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」によるISO白色度が87%以上で、JIS P 8142:1993「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」による白紙光沢度が77%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る印刷用塗被紙では、前記下塗り塗被層はフィルム転写型塗工機によって塗被されてなり、前記最外塗被層はブレードコーターによって塗被されてなる場合が包含される。
【0015】
また、本発明に係る印刷用塗被紙の製造方法は、塗被原紙の表面上に下塗り塗被層と最外塗被層の少なくとも2層の塗被層を設けた印刷用塗被紙の製造方法であり、前記塗被原紙の両面に、顔料として平均粒子径が0.8〜1.2μmの湿式重質炭酸カルシウムを80〜100質量部用いた下塗り塗被液を、フィルム転写型塗工機によって両面の塗被量が10〜18g/mとなるように塗被して、前記下塗り塗被層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る印刷用塗被紙の製造方法では、前記塗被原紙の両面に設けられた前記下塗り塗被層の少なくともいずれか一方の表面に、顔料として平均粒子径が0.4〜1.1μmの湿式重質炭酸カルシウムを50〜80質量部と中空有機顔料を3〜8質量部を用いた、固形分65%以上の上塗り塗被液を塗被して、前記最外塗被層を形成する工程を有することが好ましい。
【0017】
本発明に係る印刷用塗被紙の製造方法では、前記上塗り塗被液をブレードコーターによって塗被することが好ましい。
【0018】
本発明に係る印刷用塗被紙の製造方法では、前記最外塗被層を形成する工程において、得られる印刷用塗被紙の、前記最外塗被層側でのJIS P 8148:2001「紙,板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」によるISO白色度を87%以上とし、JIS P 8142:1993「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」による白紙光沢度を77%以上とすることが好ましい。
【0019】
本発明に係る印刷用塗被紙の製造方法では、前記塗被原紙を抄紙機により連続して供給し、前記塗被原紙に前記下塗り塗被液を連続して塗被して前記下塗り塗被層を形成し、該下塗り塗被層の上に前記上塗り塗被液を連続して塗被して前記最外塗被層を形成するオンマシン塗被によって製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の印刷用塗被紙は、高速ブレード塗被、特にストリーク、スクラッチ、ブリーディングなどの塗被欠陥の発生が少なく、良好な塗被状態となっている。さらに塗被紙表面のクレーターの発生が少ない。また、優れたオフセット印刷適性を有し、特に白色度、白紙光沢度、印刷光沢に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0022】
本実施形態に係る印刷用塗被紙の製造方法は、塗被原紙の表面上に下塗り塗被層と最外塗被層の少なくとも2層の塗被層を設けた印刷用塗被紙を製造する方法であり、塗被原紙の両面に、顔料として平均粒子径が0.8〜1.2μmの湿式重質炭酸カルシウムを80〜100質量部用いた下塗り塗被液を、フィルム転写型塗工機によって両面の塗被量が10〜18g/mとなるように塗被して、下塗り塗被層を形成する工程を行なう。さらに、塗被原紙の両面に設けられた下塗り塗被層の少なくともいずれか一方の表面に、顔料として平均粒子径が0.4〜1.1μmの湿式重質炭酸カルシウムを50〜80質量部と中空有機顔料を3〜8質量部を用いた、固形分65%以上の上塗り塗被液を塗被して、最外塗被層を形成する工程を行なうことが好ましい。
【0023】
即ち、下塗り塗被層に特定の平均粒子径の湿式重質炭酸カルシウムを用い、最外塗被層に特定の平均粒子径の湿式重質炭酸カルシウムと中空有機顔料を組み合わせることで、ストリーク等の操業性が良好で、且つクレーターの発生を抑え、高い白色度を維持しながら白紙光沢度と印刷光沢が良好になる。
【0024】
一般的に下塗り塗被液を塗被した後の平滑度が高い方が、最外層の被覆性は向上することが経験的に知られており、特にブレードコーターで下塗り塗被液を塗被する場合は最も効果が大きい。一方で平滑性が高くなり、上塗り塗被液を塗被する時のストリークの発生が多く、操業上で問題となる。
【0025】
フィルム転写型の塗工機で下塗り塗被液を塗被する場合、ブレード塗工機での下塗り塗被液の塗被とは異なり、一般的に平滑度の向上はあまり期待できず、上塗り塗被液を塗被した場合の品質向上に顕著ではない。また、フィルム転写型の塗工機で下塗り塗被液の塗被を行なうと、ストリークの発生はブレード塗工機に比べ少ないが、原因は定かではないが、一方でクレーターの発生が顕著となる。これは下塗り塗被液の塗被後の平滑性にもクレーター発生が依存しているものと推察される。
【0026】
下塗り塗被層を形成する場合、特定の平均粒子径の湿式重質炭酸カルシウムを用いること及び特定の下塗り塗被量範囲にすること、即ち、顔料として平均粒子径が0.8〜1.2μmの湿式重質炭酸カルシウムを80〜100質量部用いた下塗り塗被液を両面の塗被量が10〜18g/mとなるように塗被することで、フィルム転写型の塗工機でもクレーターの発生を抑制し、ストリーク等の操業性の良い条件とすることができる。
【0027】
特に最近では、上塗りの塗被として高速でブレード塗被を実施する操業がなされ、その際、湿式重質炭酸カルシウムは流動性が良好であるために多用されており、白色度の点では良いが、白紙光沢が発現し難くい。中空有機顔料は白紙光沢度の発現には良いが、その反面、ストリーク等の操業性が悪いという、相反する問題点がある。
【0028】
そこで前述した特定の下塗り塗被層と組み合わせて、最外塗被層の塗被液として、特定の平均粒子径の湿式重質炭酸カルシウムと中空有機顔料を組み合わせること、即ち、顔料として平均粒子径が0.4〜1.1μmの湿式重質炭酸カルシウムを50〜80質量部と中空有機顔料を3〜8質量部を用いた、固形分65%以上の上塗り塗被液を塗被することで、高い白色度を維持しながら高い白紙光沢度と印刷光沢のバランスの良い印刷用塗被紙を得ることを可能とした。
【0029】
なお、最外塗被層の塗被液の塗被量は、特に限定されないが、例えば、9〜14g/mとなるよう塗被する。
【0030】
本実施形態においては、下塗り塗被層の塗被液について、湿式重質炭酸カルシウムを80質量部未満とすると、ストリークが発生しやすく、ISO白色度が低下する。湿式重質炭酸カルシウムの平均粒子径が0.8〜1.2μmの範囲を外れた場合は、クレーターが発生しやすい。また、両面の塗被量が10g/m未満であると、クレーターの発生が顕著となり、一方、両面の塗被量が18g/mを超えると、ストリークが発生しやすい。下塗り塗被層の塗被液の固形分は、例えば43〜55%とする。
【0031】
また、上塗り塗被層の塗被液について、中空有機顔料を3質量部未満とすると、ISO白色度、白紙光沢度並びに印刷光沢度が低下する。一方、中空有機顔料を8質量部超とすると、白紙光沢度と印刷光沢度が向上するが、ストリークが発生しやすくなる。湿式重質炭酸カルシウムを50質量部未満とすると、ISO白色度が低下する。一方、重質炭酸カルシウムを80質量部超とすると、白紙光沢度と印刷光沢度が低下する。湿式重質炭酸カルシウムの平均粒子径が0.4〜1.1μmの範囲を外れた場合は、白紙光沢度と印刷光沢が低下する。さらに固形分65%未満の上塗り塗被液を用いると、クレーターの発生が顕著になる。
【0032】
以下、印刷用塗被紙に用いる主な主成分を以下に具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明に用いられる塗被原紙は、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ等の化学パルプ、GP、TMP等の機械パルプや古紙由来のパルプを適宜原料として用い、公知の長網多筒型抄紙機、長網の上に上部脱水作用を持つ機構のついたオントップ多筒型抄紙機、ギャップフォーマー等で抄紙される、酸性紙、中性紙を包含するものである。
【0034】
塗被原紙中には、カチオン澱粉、ポリアクリルアマイド等の紙力増強剤、ロジンサイズ、アルケニル無水琥珀酸、アルキルケテンダイマー、合成サイズ剤等のサイズ剤、タルク、炭酸カルシウム、合成ゼオライト、チタン等の填料及びコロイダルシリカ、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキサイド等の歩留まり向上剤、濾水剤等の抄紙補助薬品を含有させても良い。
【0035】
本実施形態で用いる印刷用塗被紙用の顔料としては、例えば、カオリン、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、サチンホワイト、酸化チタン、水酸化アルミニウム、タルク、シリカ、プラスチックピグメントなどが挙げられる。
【0036】
また本実施形態で用いるバインダーは、特に制限されるものではなく、公知のバインダーを用いることができる。例えば、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、酢酸ビニル・アクリル系、ブタジエン・メチルメタクリル系などの各種共重合体ラテックス、又は、ポリビニルアルコール、又は、酸化澱粉、エステル化澱粉、熱化学変性澱粉、酵素変性澱粉やそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性澱粉、又は、カゼイン、又は、デキストリンなどから選択して単独又は2種類以上を適宜混合して使用することができる。
【0037】
本実施形態による共重合体ラテックスとしては、スチレン、α―メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、1,3ブタジエン、2−メチル−1,3ブタジエンなどの脂肪族共役ジエン系単量体、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和酸単量体、アクリロニトリル単量体、或いは、エチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル、エチレン性不飽和カルボン酸アミド、他の有機カルボン酸又はその誘導体などの共重合可能な単量体を公知の方法で共重合して得られるものである。好ましくはスチレン・ブタジエン・メタクリル酸メチル・アクリロニトリル共重合体である。
【0038】
上述した顔料、ラテックスを含む塗被液の塗被方法は、下塗り塗被液としてはゲートロールコーターを代表とするフィルム転写型の塗工機によって行われ、上塗り塗被液はブレードコーターにより塗被される。そして、塗被原紙に2層以上の塗被層を設けたオンマシンで塗被された印刷用塗被紙を得る。
【0039】
このようにして塗被された印刷用塗被紙は、公知の乾燥機で乾燥された後に、スーパーカレンダーのような表面の仕上げ設備で平滑化処理される。
【0040】
なお、本実施形態では塗被原紙の表面上に下塗り塗被層と最外塗被層の2層の塗被層を設けた場合で説明をしたが、下塗り塗被層と最外塗被層共に複数層で形成していても良いし、また、本発明の作用効果を奏する範囲内で他の塗被層を設けていても良い。
【0041】
このように得られた印刷用塗被紙では、下塗り塗被層は、塗被原紙の両面に、両面の塗被量が10〜18g/mとなるように形成されてなり、且つ、含有する顔料のうち、平均粒子径が0.8〜1.2μmの湿式重質炭酸カルシウムの占める割合が80〜100質量%である。また、最外塗被層は、塗被原紙の両面に設けられた下塗り塗被層の少なくともいずれか一方の面に形成されてなり、且つ、含有する顔料のうち、平均粒子径が0.4〜1.1μmの湿式重質炭酸カルシウムの占める割合が50〜80質量%で中空有機顔料の占める割合が3〜8質量%である。そして、得られた印刷用塗被紙は、最外塗被層側でのJIS P 8148:2001「紙,板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」によるISO白色度が87%以上で、JIS P 8142:1993「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」による白紙光沢度が77%以上となりうる。
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれによって限定される物ではない。尚、以下において%とあるのは、全て質量%を示す。塗被液配合は部数で示す。

【実施例】
【0043】
(実施例1)
フリーネス450mlcsfの広葉樹晒クラフトパルプ100%の木材パルプ原料に、絶乾パルプ質量当たりで軽質炭酸カルシウム(商標TP121 奥多摩工業製)の含有量が10%となるよう添加し、更に中性ロジンサイズ剤(商標CC167 星光PMC製)0.2%を添加し、オントップ多筒型抄紙機で坪量72g/mの塗被原紙を抄紙し、ゲートロールコーターを用いて、表1に示した下塗り塗被液をオンマシン塗被して塗被基紙を得た。下塗り塗被液の塗被量は、両面乾燥塗被量10g/mとなるように塗被した。該塗被基紙は引き続き連続して、表2に示した上塗り塗被液を該抄紙機に設置されているバリドエルブレードコーターを用いて1000m/分の塗被速度で、片面乾燥塗被量10g/mとなるように片面にオンマシン塗被された後乾燥し、線圧50kg/cm、温度70℃、50m/分、2ニップでスーパーカレンダー処理して実施例1の印刷用塗被紙を仕上げた。
【0044】
【表1】


【表2】

なお、カービラックスは、固形分75%で、粒子径2μm未満の粒子が99%含有されている。カービタル90は、固形分75%で、粒子径2μm未満の粒子が90%含有されている。
【0045】
顔料の平均粒子径は、堀場製作所のLA−920(レーザー式粒度分布測定)を使用して測定し、操作方法は、メーカーの取扱い作業書に準拠し測定した。
【0046】
得られた印刷用塗被紙物性は次の方法で測定、評価した。
(1)クレーターの評価:
得られた印刷用塗被紙表面を画像解析装置DA−5000S(王子計測機器製)を用い評価した。クレーターの無いものを○(良好で実用に耐える)、多いものを×(劣り、実用に耐えない)及びこれらの中間のものを△(やや劣り、実用に耐えない)として評価した。
(2)ISO白色度:
得られた印刷用塗被紙表面を日本電色工業製PF−10で測定した。操作方法は、メーカーの取扱い作業書に準じ、JIS P 8148:2001「紙,板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」に準拠し測定した。
(3)塗被紙表面白紙光沢度:
得られた印刷用塗被紙表面をJIS P 8142:1993「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」に準拠し、光沢度計(GM−25/村上色彩技術研究所製)を用いて入射角75°の光沢度を測定した。
(4)塗被紙の印刷光沢度:
得られた印刷用塗被紙をRI印刷試験機(明製作所製)にて2色印刷し、23℃、50RH%にて一昼夜放置してインキを乾燥させた後、JIS P 8142:1993「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」に準拠し、該印刷面について光沢度計(GM−26D/村上色彩技術研究所製)を用いて入射角60°の光沢度を測定した。印刷インキは大日本インキ化学工業社製 Values−Gのアイ、ベニ各0.3mlを用いた。
(5)塗被液の塗被状況:
バリドエルブレードコーターを用いて塗被速度1000m/分で、上塗り塗被したときのストリークの発生状況を目視で評価した。5分間で観察した時のストリークの本数で評価した。5分間で2本以上発生するようであれば、実用に耐えない。
【0047】
(実施例2)
下塗り塗被液の顔料である二級カオリンクレーを0質量部とし、湿式重質炭酸カルシウムのカービタル90(平均粒子径1μm)を100質量部に変更した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0048】
(実施例3)
下塗り塗被量が両面乾燥塗被量で17g/mとなるように塗被した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0049】
(実施例4)
上塗り塗被液の顔料である湿式重質炭酸カルシウムのカービラックス(平均粒子径0.5μm)を75質量部、微細カオリンクレーを22質量部とし、上塗り塗被液の固形分を66.0%に変更した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0050】
(実施例5)
上塗り塗被液の顔料である中空有機顔料OP84Jを8質量部、微細カオリンクレーを17質量部、カービラックスを75質量部とし、上塗り塗被液の固形分を65.0%に変更した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0051】
(実施例6)
上塗り塗被液の顔料のカービラックス(75質量部)をカービタル90(75質量部)に変更した以外は実施例5と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0052】
(比較例1)
下塗り塗被液の顔料である湿式重質炭酸カルシウムのカービタル90(80質量部)をカービタル60(80質量部、イメリス製、平均粒子径1.9μm)に変更した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。なお、カービタル60は、固形分74.5%で、粒子径2μm未満の粒子が60%含有されている。
【0053】
(参考例1)
上塗り塗被液の顔料である微細カリオンクレー(ブラジル産)を55質量部、カービラックスを45質量部、OP84Jを0質量部に変更した以外は実施例1同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0054】
(参考例2)
上塗り塗被液の固形分を64.0%に変更した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0055】
(比較例2)
下塗り塗被液の顔料である二級カオリンクレーを40質量部とし、湿式重質炭酸カルシウムのカービタル90を60質量部に変更し、上塗り塗被液の固形分%を65.0%に変更した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0056】
(比較例3)
下塗り塗被量が両面乾燥塗被量で7g/mとなるように塗被した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0057】
(参考例3)
上塗り塗被液の顔料であるカービラックスを85質量部、OP−84Jも10質量部、微細カオリンクレーを5質量部と変更し、上塗り塗被液の固形分を65.0%に変更した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0058】
(比較例4)
下塗り塗被量が両面乾燥塗被量で20g/mとなるように塗被した以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0059】
(参考例4)
実施例1と同じ下塗り塗被液を使用した。上塗り塗被液にカービラックスを55質量部含有させる代わりに、カービタル60を55質量部含有させた以外は実施例1と同様にして印刷用塗被紙を仕上げた。
【0060】
表3に各塗被液の配合、塗被量及び評価結果を示した。

【表3】

【0061】
(評価結果)
表3からも明らかなように、実施例1〜実施例6の印刷用塗被紙は、ストリーク等の操業性に優れ、且つ塗被表面のクレーターの発生がなく、高い白色度を維持しながら高い白紙光沢度と印刷光沢度に優れた特徴を有するものである。
【0062】
一方、比較例1は、下塗り塗被層の塗被液の湿式重質炭酸カルシウムの平均粒径が1.9μmと大きかったため、クレーターが発生し、印刷光沢度が低かった。比較例2は、下塗り塗被層の塗被液の湿式重質炭酸カルシウムの質量部が60質量部と少なかったため、ストリークが発生し、ISO白色度が低下した。比較例3は、下塗り塗被層の両面の塗被量が7g/mと少なかったため、クレーターが発生し、白紙光沢度と印刷光沢度が共に低かった。比較例4は、下塗り塗被層の両面の塗被量が20g/mと多かったため、ストリークが発生した。
【0063】
ところで、下塗り塗被層を設けた塗被基紙自体は、その後、最表塗被紙を設けて最終製品(印刷用塗被紙)とする場合に、最終製品の性能に大きな影響を与える。すなわち、実施例1〜6で使用した各塗被基紙(下塗り塗被液を塗被したもの)を包含する本実施形態で説明した塗被基紙を使用することが、最表塗被層を設ける前に前提として要求される。各実施例と比較例1〜4とを比較することで、そのことは明らかである。一方、参考例1〜3は、本実施形態で説明した塗被基紙を使用した際に、最表塗被層の形成条件を検討するために行なった。参考例1〜4は、実施例1、4、5及び6と同じ下塗り塗被層を有している。しかし、参考例1では、上塗り塗被液に中空有機顔料が包含されておらず、またカービラックスが50質量部未満(45質量部)であるため、白紙光沢度と印刷光沢度が充分でなく、ISO白色度も低い。参考例2では、上塗り塗被液固形分が65.0%未満であるため、クレーターが発生し、白紙光沢度と印刷光沢度共に低く、ストリークが発生した。参考例3では、上塗り塗被液に中空有機顔料が10質量部と多く含まれていたため、ストリークが発生した。参考例4では、上塗り塗被液に平均粒径が1.9μmの湿式重質炭酸カルシウムが含有されているため、白紙光沢度と印刷光沢度が共に低くかった。したがって、本実施形態で説明した塗被基紙の使用を前提条件として、さらに本実施形態で説明した最表塗被層を形成することがより好ましい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗被原紙の表面上に下塗り塗被層と最外塗被層の少なくとも2層の塗被層を設けた印刷用塗被紙において、
前記下塗り塗被層は、前記塗被原紙の両面に、両面の塗被量が10〜18g/mとなるように形成されてなり、且つ、含有する顔料のうち、平均粒子径が0.8〜1.2μmの重質炭酸カルシウムの占める割合が80〜100質量%であることを特徴とする印刷用塗被紙。
【請求項2】
前記最外塗被層は、前記塗被原紙の両面に設けられた前記下塗り塗被層の少なくともいずれか一方の面に形成されてなり、且つ、含有する顔料のうち、平均粒子径が0.4〜1.1μmの重質炭酸カルシウムの占める割合が50〜80質量%で中空有機顔料の占める割合が3〜8質量%であり、
得られた印刷用塗被紙は、前記最外塗被層側でのJIS P 8148:2001「紙,板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」によるISO白色度が87%以上で、JIS P 8142:1993「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」による白紙光沢度が77%以上であることを特徴とする請求項1記載の印刷用塗被紙。
【請求項3】
前記下塗り塗被層はフィルム転写型塗工機によって塗被されてなり、前記最外塗被層はブレードコーターによって塗被されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の印刷用塗被紙。
【請求項4】
塗被原紙の表面上に下塗り塗被層と最外塗被層の少なくとも2層の塗被層を設けた印刷用塗被紙の製造方法において、
前記塗被原紙の両面に、顔料として平均粒子径が0.8〜1.2μmの湿式重質炭酸カルシウムを80〜100質量部用いた下塗り塗被液を、フィルム転写型塗工機によって両面の塗被量が10〜18g/mとなるように塗被して、前記下塗り塗被層を形成する工程を有することを特徴とする印刷用塗被紙の製造方法。
【請求項5】
前記塗被原紙の両面に設けられた前記下塗り塗被層の少なくともいずれか一方の表面に、顔料として平均粒子径が0.4〜1.1μmの湿式重質炭酸カルシウムを50〜80質量部と中空有機顔料を3〜8質量部を用いた、固形分65%以上の上塗り塗被液を塗被して、前記最外塗被層を形成する工程を有することを特徴とする請求項4記載の印刷用塗被紙の製造方法。
【請求項6】
前記上塗り塗被液をブレードコーターによって塗被することを特徴とする請求項5記載の印刷用塗被紙の製造方法。
【請求項7】
前記最外塗被層を形成する工程において、得られる印刷用塗被紙の、前記最外塗被層側でのJIS P 8148:2001「紙,板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色光反射率)の測定方法」によるISO白色度を87%以上とし、JIS P 8142:1993「紙及び板紙の75度鏡面光沢度試験方法」による白紙光沢度を77%以上とすることを特徴とする請求項4、5又は6記載の印刷用塗被紙の製造方法。
【請求項8】
前記塗被原紙を抄紙機により連続して供給し、前記塗被原紙に前記下塗り塗被液を連続して塗被して前記下塗り塗被層を形成し、該下塗り塗被層の上に前記上塗り塗被液を連続して塗被して前記最外塗被層を形成するオンマシン塗被によって製造することを特徴とする請求項4、5、6又は7記載の印刷用塗被紙の製造方法。

【公開番号】特開2006−257590(P2006−257590A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78375(P2005−78375)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000241810)北越製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】