説明

印刷用紙の製造方法

【課題】本発明の課題は、抄紙速度が1300m/分以上で印刷用塗工紙を中性抄紙法で製造する方法であって、紙料中の微細成分のワイヤ上での歩留りを改善し、層間強度が良好な印刷用紙を得る方法を提供することである。
【解決手段】(a)疎水性モノマーおよびカチオン性モノマーを含むモノマー成分を重合して得られる4級化率が40モル%以上の共重合体と填料との混合物、および、(b)極限粘度法による重量平均分子量が1000万以上のエマルション型のカチオン性ポリアクリルアミドを併用することによって、高速抄紙における歩留りを改善し、層間強度に優れた印刷用紙を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用紙の製造方法に関する。また、本発明は、印刷用紙を製造するための紙料の調成方法に関する。特に本発明は、オンマシンコーターを備えたギャップフォーマ型抄紙機を用いて中性抄紙法により高速で印刷用紙を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抄紙機の開発・改良が進み、特に、生産性の高さから抄紙機の高速化・広幅化の傾向が顕著である。また、製紙用塗工機(コータ)については、近年、抄紙と塗工を一貫して行うことができるオンマシンコーターが広く普及している。
【0003】
抄紙機のワイヤパートに関しては、その脱水能力の向上という観点から、長網型フォーマからオントップ型のツインワイヤフォーマ、更にギャップフォーマへと移行してきた。ギャップフォーマ型抄紙機では、ヘッドボックスから噴出された原料ジェットをすぐに2枚のワイヤで挟み込むため原料ジェット表面の乱れが少なく表面性が良好である。また、ギャップフォーマ型抄紙機では、紙層の両側から脱水し、脱水量を調整しやすいことから、長網型やオントップ型のフォーマに比べて高速での抄紙が可能であり、得られる紙の表裏差が小さいという利点がある。一方、ギャップフォーマ型抄紙機では、紙料濃度がごく薄い段階から紙層の両側から急激に脱水されるため、紙層中の微細繊維や填料の分布が表層部へと局在し、紙の中層部の微細繊維量が減少する傾向がある。そのため、ギャップフォーマ型抄紙機には、層間強度が低下し、更には、抄紙工程におけるワイヤ上の紙料及び灰分の歩留まりが低いという課題があった。そのため、ギャップフォーマ型抄紙機で製造された塗工原紙を用いた印刷用塗工紙においては、その層間強度が小さいために、オフセット印刷後、加熱乾燥する際に塗工紙に含まれる水分が蒸発しても、水分が塗工層を通気できないために紙層間で剥離が生じ、塗工層が膨れた現象であるブリスターが発生し、そのため印刷面が荒れるなど、品質上の重大な問題が発生することがある。このため、ギャップフォーマ型抄紙機は、新聞用紙などの製造に限定されていた。
【0004】
印刷用塗工紙のブリスターを改善するためには、用いる塗工原紙の層間強度を高くする必要がある。一般に、層間強度を向上させるためには抄紙工程においてカチオン化澱粉やポリアクリルアミド等の紙力増強剤を添加する方法が用いられる。しかしながら、紙力増強剤を紙料中へ添加しても、紙力増強剤は微細繊維への定着が高いことから、微細繊維が局在した状態では十分な層間強度を得るための添加量が多くなり、濾水性の悪化や地合を損なうなどの問題がある。特に、高価なポリアクリルアミドはコストアップとなり、また凝集性が強いことから地合を悪化させて印刷品質の低下を招くこととなる。また、カチオン化澱粉の場合はポリアクリルアミドに比べて多くの添加量を必要とすることから濾水性を悪化させ、脱水不良や乾燥負荷の増大、湿紙強度の低下などの問題を引き起こす可能性がある。
【0005】
また、内添の紙力増強剤の添加に加えて、外添用の紙力増強剤を塗布することにより層間強度を向上させる方法も提案されている(特許文献1)。しかし、前述したように、ギャップフォーマ型抄紙機で抄造した紙のように微細繊維が紙表層に局在した状態では、紙力増強剤が原紙内部にまで浸透せず、十分な効果が得られない。
【0006】
近年、この課題を解決するためにハード面で種々の改良が加えられている。従来は初期の脱水過程においてフォーミングシューやフォーミングボード、サクションボックス等の機器により急激に脱水するため、微細繊維や灰分の紙表層への局在が顕著であったが、現在では、いわゆるロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機では、サクションを有したフォーミングロールによる初期脱水とその直後に脱水ブレードを併用することで緩やかに脱水できるようになり、更には加圧式の脱水ブレードによるパルス力で湿紙層にマイクロタービュランスを与えて繊維の分散を促進することで、紙層中の微細繊維や填料の分布を均一化できるようになり、地合も良好なものが得られている。そのため、紙層に極端に弱い部分はなくなり、また、紙料に添加した紙力増強剤は効果的に紙力を向上させることができるため、層間強度が改善されるようになっている。
【0007】
しかしながら、ロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機では初期脱水を緩やかにできるようになったことで紙層構造は改善されたものの、脱水ブレードにより加圧し湿紙内部へパルスを与えることで湿紙内部の微細繊維や填料が抜け出すため、ギャップフォーマ型抄紙機の従来からの課題である紙料歩留りの低下について大きな改善はなされていない。
【0008】
このため、歩留りを向上させる技術として、歩留剤としてカチオン性ポリアクリルアミドの添加後、ベントナイトやコロイダルシリカなどのアニオン性の無機微粒子を添加した上、更にアニオン性のポリマーを添加することで良好な地合を維持したまま微細繊維の高い歩留まりを得るなどの処方が提案されている(特許文献2)。しかし、高速化、高灰分化、DIP高配合化が進んでいる状況においては、層間強度、歩留まり、地合について、十分な改善はされていないのが現状である。
【0009】
ところで、コータについては、近年、抄紙と塗工を連続して行うオンマシンコータが広く普及している。オンマシンコータはオフマシンコータに比べ設備投資が少なく設置スペースが小さいという利点があり、また、原紙を速やかに塗工できるため生産コストを低減することができる。しかしながら、抄紙と塗工を連続で行うため、断紙が発生した場合、通紙時間が長くなるなど、生産効率の低下が大きくなる。特に、メタリングサイズプレスコータ、ゲートロールコータなどのフィルムトランスファコータを有するオンマシンコータで塗工し、連続して、オンマシンのブレードコータでさらに塗工する場合、原紙表面の異物による断紙が生じ易い。そのため、ブレードコータを効率良く操業するには原料中の異物を出来る限り少なくする必要があり、脱墨パルプなど異物混入の多いパルプの配合が制限されていた。また、断紙を少なくする方法として紙の強度を上げる必要があるため、前述のように強度の出にくいギャップフォーマ型抄紙機の利用が制限されていた。
【0010】
上記異物の原因物質としては、特に、塗工時に発生する損紙(コートブローク)を離解した原料に含まれる塗工層由来のホワイトピッチ、脱墨パルプ由来の粘着異物、機械パルプ由来のナチュラルピッチが挙げられる。このような異物対策として、調成工程において、配合前のコートブローク原料や脱墨パルプ、機械パルプに凝結剤と呼ばれるカチオン性ポリマーを添加することが知られている(特許文献3〜9)。一般に凝結剤は、ホワイトピッチや粘着異物、ナチュラルピッチ等を始めとするアニオン性コロイド粒子の表面電荷を中和し、アニオン性コロイド粒子を出来るだけ小さい状態で緩やかに繊維に定着させたソフトフロックを形成させて、異物トラブルを軽減させるものと考えられている。
【0011】
また、凝結剤の添加方法についても種々の報告がされている。例えば、古紙パルプに対して、抄紙機の原料調成工程へ流送する前に凝結剤を添加する方法(特許文献10)、古紙再生処理工程から配合チェストに流送される前に凝結剤を添加する方法(特許文献11・12)、種箱に供給する前の調成工程において複数の紙料に対して凝結剤を添加する方法(特許文献13)、雑誌古紙を主体とする配合前の原料にカチオン性水溶性高分子を添加する方法(特許文献14)などである。その他にも、配合前の一種以上の製紙原料それぞれにカチオン性水溶性高分子を添加した後、前記製紙原料を含むその他の製紙原料と混合した配合原料に対しカチオン性高分子歩留り剤を添加する方法(特許文献15)、回収清澄水と塗工損紙の混合物に他のパルプを添加した後の離解工程にてカチオン性高分子を添加する方法(特許文献16)などが報告されている。
【0012】
しかしながら、凝結剤は前述のように繊維との結合が緩やかなソフトフロックを形成させるため、特に、せん断力が強い高速抄紙機では、原料に対して添加した凝結剤の効果が工程を経るにつれ漸減し、定着したコロイド粒子が脱着する問題がある。このため、コロイド粒子の電荷を再度中和するために過剰量の凝結剤の添加や、脱着した粒子を再定着させるための歩留り剤添加量の増加を招き、コスト的に不利になるだけでなく、中途半端に粗粒化した異物と過剰量のカチオン薬品による二次的なデポジットの発生といった障害を生じていた。一般的に、粗粒化した異物に分子量の大きいカチオン薬品を添加すると、粗粒化した異物が紙へ定着し、結果として、紙の欠陥や断紙の増加を招くことが知られている。
【0013】
また、複数のパルプを含む製紙原料組成物に対して、カチオンポリマーとカチオンモノマーとの混合物を添加する方法が知られている(特許文献17)。しかしながら、この方法では、他のパルプや薬品と接触することによるコロイド物質の粗粒化や異物の不安定化が発生した後で凝結剤を添加するため、紙面異物トラブルなどを引き起しやすく、かえって紙の断紙につながることがある。
【0014】
さらに、抄紙系においてカチオン性の歩留り・濾水向上剤を添加するに際し、多価金属塩およびカチオン性ポリマーの少なくとも一方を、少なくとも2箇所に分割して添加する方法が報告されている(特許文献18)。しかし、この方法では、歩留り向上を目的としてカチオン性ポリマーを原料配合後の紙料に添加しているため、寧ろコロイド物質などの粗粒化が積極的に促されることになる。そのため、前述のようなコートブロークや脱墨パルプ、機械パルプに由来するデポジットの発生や断紙などの操業性に関する問題を抑制することはできず、逆にこれらの問題を誘発する場合がある。
【0015】
さらにまた、複数のパルプを含む抄紙原料の調製工程と種箱からワイヤーパートへの供給過程に対して凝結剤を添加する方法が報告されている(特許文献19)。この方法では、種箱以降の白水が多量に配合され、固形分濃度が一般的に1.5%未満となっている2次ポンプの後段のスクリーン前に凝結剤を添加し、さらに、スクリーン後に凝集剤を添加している。しかし、この方法でも、前述のようなコートブロークや脱墨パルプ、機械パルプに由来するデポジットの発生や断紙などの操業性に関する問題を抑制することはできず、逆にこれらの問題を誘発する場合がある。
【0016】
このように、従来の技術では、特に高速抄紙機での抄紙に関して、コロイド物質や異物などの粗粒化によるデポジットなどの問題を回避することが出来ず、生産性の低下を十分に克服することが出来なかった。また、これら異物を繊維に定着させるため過剰な歩留り剤の添加が必要となり、その結果、地合や填料分布が不均一になるといった紙品質の低下を招いていた。特に、ギャップフォーマ型抄紙機などの高速抄紙機で製造された塗工原紙から、オンラインで連続してコータを用いて塗工紙を製造する場合、断紙などの操業性の問題を回避することが出来ず、生産性が低下するとともに、紙品質の低下が生じる場合があった。
【0017】
オンマシンコーターに関しては、サイズプレスの吸液量が多くなる場合、ドライヤーでの乾燥付加がかかり、抄速を上げられないことや、断紙が発生することがあった。そこで、中性ロジン(特許文献20)やアルキルケテンダイマー系(以下、AKD)(特許文献21〜31)サイズ剤を使用する技術が利用されている。また、その他の内添サイズ剤として、アルケニル無水コハク酸(以下、ASA)、スチレンアクリル系などを使用する技術も知られている(特許文献32〜35)。しかし、AKDはサイズ性の立ち上がりが遅いことからサイズプレスでの吸液量を抑制できないことが問題であった。ASAについては、系内の汚れが発生し易く、欠陥や断紙が頻発する問題が起きる。中性ロジンは、高灰分紙においてサイズ性が悪く、またスチレンアクリル系はAKDやASAに比べてサイズ性が劣っていた。また、内添サイズ剤として疎水性モノマーおよびカチオン性モノマーを含むモノマー成分を重合して得られる4級化率が40モル%以上の共重合体と填料の混合物である製紙用添加剤を添加する技術が報告されているが(特許文献36)、ギャップフォーマ型抄紙機のように歩留りが低くなる抄紙条件では、当該製紙用添加剤の歩留りが低く、充分なサイズ性を発現することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平10−280296号公報参照
【特許文献2】WO2001/34910号公報
【特許文献3】特開2005−206978号公報
【特許文献4】特開2005−179831号公報
【特許文献5】特開2005−133238号公報
【特許文献6】特開2004−60084号公報
【特許文献7】特開2001−262487号公報
【特許文献8】特許第3681655号公報
【特許文献9】特開2005−2523号公報
【特許文献10】特開2005−206978号公報
【特許文献11】特開2005−179831号公報
【特許文献12】特開2005−133238号公報
【特許文献13】特開2004−60084号公報
【特許文献14】特開2001−262487号公報
【特許文献15】特許第3681655号公報
【特許文献16】特開2005−2523号公報
【特許文献17】特開2003−183995号公報
【特許文献18】特開2000−282390号公報
【特許文献19】特開2006−138044号公報
【特許文献20】特開2008−231602号公報
【特許文献21】特開2008−274464号公報
【特許文献22】特開2007−177378号公報
【特許文献23】特開2006−193842号公報
【特許文献24】特開2006−138045号公報
【特許文献25】特開2006−132012号公報
【特許文献26】特開2006−132013号公報
【特許文献27】特開2006−132018号公報
【特許文献28】特開2006−118076号公報
【特許文献29】特開2006−118077号公報
【特許文献30】特開2006−118078号公報
【特許文献31】特開2006−118079号公報
【特許文献32】特開2008−255503号公報
【特許文献33】特開2000−303382号公報
【特許文献34】特開2008−274524号公報
【特許文献35】特開2009−35831号公報
【特許文献36】WO2008/90787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このような状況に鑑み、本発明は、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機とオンマシンコーターを用いて、中性抄紙法により印刷用塗工紙を連続的に製造する場合において、特に、紙中填料率が高い印刷用塗工原紙を高速条件で抄造する場合であっても、サイズプレスの吸液量を抑制でき、紙料中の微細パルプ繊維や填料などの微細成分のワイヤ上での歩留りを大幅に改善でき、層間強度が良好で耐ブリスター性などの印刷品質の良好な塗工紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そして、本発明者らは、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いて印刷用塗工原紙を抄造する場合に、歩留り改善、及び塗工原紙としての品質向上について鋭意研究した結果、(a)疎水性モノマーおよびカチオン性モノマーを含むモノマー成分を重合して得られる4級化率が40モル%以上の共重合体と填料の混合物と(b)超高分子量のカチオン性ポリアクリルアミド系物質とを併用するによって、サイズプレスの吸液量を抑制でき、紙層中の微細繊維や填料の分布を均一なまま歩留まりを改善でき、層間強度が良好で耐ブリスター性などの印刷品質の良好な印刷用紙が製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1) フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機およびオンマシンコーターを用いて、中性抄紙法により1300m/分以上の速度で印刷用塗工紙を製造する方法であって、紙料に対して、(a)疎水性モノマーおよびカチオン性モノマーを含むモノマー成分を重合して得られる4級化率が40モル%以上の共重合体と填料との混合物、および、(b)極限粘度法による重量平均分子量が1000万以上のエマルション型のカチオン性ポリアクリルアミドを添加することを含む、上記印刷用塗工紙の製造方法。
(2) 前記共重合体が、カチオン性共重合体、または、アニオン性モノマーをさらに含む両性共重合体である、(1)に記載の製造方法。
(3) 前記填料が炭酸カルシウムである、(1)または(2)のいずれかに記載の製造方法。
(4) ロッドメタリングサイズプレス方式のコーターを用いて原紙上に最初に塗工する、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の製造方法。
(5) 前記共重合体の添加量が、パルプ固形分に対して0.05〜0.5重量%である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の製造方法。
(6) 前記印刷用塗工紙の原紙坪量が30〜70g/m2である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の製造方法。
(7) 原料パルプに20重量%以上の脱墨パルプ(DIP)が含まれる、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、高い歩留りや層間強度を達成することができる。特に抄紙速度が速く、紙中填料率が高い印刷用塗工紙の抄造に本発明を適用すると本発明の効果を大きく享受することができる。本発明は、抄紙速度が特に高速である場合において、ギャップフォーマ型抄紙機またはツインワイヤー型抄紙機を使用する場合、該抄紙機にメタリングサイズプレスコータ、ゲートローコータなどのフィルムトランスファロールコーターを備えたオンマシンコーターにて塗工する場合、更にフィルムトランスファロールコーターを備えたオンマシンコーターに続いてオンラインのブレードコーターなどで塗工液を塗工する場合などに、特に好適であり、サイズプレスの吸液量を抑制でき、紙料中の微細パルプ繊維や填料などの微細成分のワイヤ上での歩留りを大幅に改善でき層間強度が良好で耐ブリスター性などの印刷品質の良好な塗工紙を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機およびオンマシンコーターを用いて、中性抄紙法により抄紙速度が1300m/分以上で印刷用塗工紙を連続的に製造する方法に関する。本発明においては、(a)疎水性モノマーおよびカチオン性モノマーを含むモノマー成分を重合して得られる4級化率が40モル%以上の共重合体と填料の混合物である製紙用添加剤と、(b)極限粘度法による重量平均分子量が1000万以上のエマルション型のカチオン性ポリアクリルアミド系物質が、紙料に添加される。
【0023】
抄紙
従来のギャップフォーマ型抄紙機を用いて高速条件で印刷用塗工原紙を抄造する場合、脱水が紙層の両側から行われるために紙面の表裏差は良好となるものの、微細成分の紙表層部への局在化や歩留りの低下による操業の不安定化といった問題が生じていた。この問題を改良すべく、紙層中の微細成分を均一化できるロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機が提案されているが、微細繊維の歩留りの低下が大きくなると、脱水のバランスが調整できないために紙層中の微細成分の局在化が起こり、表面性の表裏差拡大といった問題を引き起こしていた。
【0024】
また、紙料の歩留りは、抄紙機の抄紙速度が高速、紙中填料率が高い、坪量が低いほど低下する傾向にあるが、現在の紙の製造方法は、高速、高灰分、低坪量化する傾向にあり、印刷用塗工紙原紙も同様である。
【0025】
本発明の印刷用塗工紙の製造方法は、フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いる製造方法である。特に本発明の製造方法は、上記ロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いる抄紙速度が高速の製造方法であり、紙中填料率が高いことが好ましい。
【0026】
本発明の抄紙速度は1300m/分以上であるが、本発明を適用して得られる効果は高速抄紙において特に大きくなることから、本発明は、1500m/分以上、さらには1600m/分以上での抄紙に適しており、1800〜2500m/分程度での抄紙も可能である。
【0027】
製紙用添加剤
本発明は、上述したように、(a)疎水性モノマーおよびカチオン性モノマーを含むモノマー成分を重合して得られる4級化率が40モル%以上の共重合体と填料との混合物を、製紙用添加剤として紙料に添加する。本発明の製紙用添加剤(a)に用いる共重合体のイオン性は、カチオン性モノマーを含むためカチオン性であるか、または、アニオン性モノマーをさらに含む場合は両性である。このような共重合体と填料を混合することで、填料に撥水性を付与でき、また、カチオン性基を有する共重合体と組み合わされた填料がアニオン性を帯びたパルプに吸着できるため、パルプと填料の両方を効率よく疎水化でき、紙のサイズ性を向上できる。紙のサイズ性が向上した結果、本発明においては、サイズプレスでの吸液量を抑制でき、断紙を防止し、抄速を高くすることができる。
【0028】
<共重合体のモノマー組成>
本発明の製紙用添加剤(a)に用いる共重合体は、疎水性モノマー(A)およびカチオン性モノマー(B)を必須とするモノマー成分から重合される。
【0029】
上記疎水性モノマー(A)は、スチレンまたはその誘導体、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルなどであり、特に、スチレンまたはその誘導体、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸のC〜C12アルキルエステルが好ましい。
【0030】
なお、本発明においては、「(メタ)アクリル」は「アクリル」または「メタクリル」を意味するものであり、同様に、「(メタ)アクリロ」は「アクリロ」または「メタクリロ」を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。
【0031】
上記スチレンまたはその誘導体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルトルエン、クロロメチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられ、スチレンが好ましい。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸のC〜C12アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどの炭化水素エステルが挙げられ、脂肪族だけでなく、脂環系や芳香族系の炭化水素基を含有する(メタ)アクリル酸エステルも使用できる。特に好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートである。
【0033】
上記カチオン性モノマー(B)は、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、1〜3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミド、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート、ジアリルジアルキルアンモニウムハライド等のように、分子内にカチオン性基を1個乃至複数個有するものであり、特に、3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、3級アミノ基含有(メタ)アクリレート、ジアリルジアルキルアンモニウムハライドが好ましい。
【0034】
上記3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0035】
上記3級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
また、上記1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリルアミドとしては、アミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの1級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、或は、メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどの2級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0037】
上記1〜2級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、アミノエチル(メタ)アクリレートなどの1級アミノ基含有(メタ)アクリレート、或は、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの2級アミノ基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
上記4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリルアミドおよび4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレートとしては、3級アミノ基含有(メタ)アクリルアミド又は3級アミノ基含有(メタ)アクリレートを、塩化メチル、塩化ベンジル、硫酸メチル、エピクロルヒドリンなどの4級化剤で4級化したモノ4級塩基含有モノマーが挙げられる。具体的には、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドプロピルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリエチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
【0039】
上記カチオン性共重合体を構成するモノマー成分としては、上記疎水性モノマー(A)および上記カチオン性モノマー(B)以外に、必要に応じて、その他のモノマーを使用することができる。上記その他のモノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのような水酸基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、iso−プロピル(メタ)アクリルアミドのようなアミド基含有モノマー、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0040】
上記カチオン性共重合体を構成するモノマー成分は、単用又は併用できる。モノマー成分の組成比は、填料に適度の撥水性を付与できる範囲で任意に設定できるが、疎水性モノマー(A)の含有量は60〜90重量%程度、カチオン性モノマー(B)の含有量は10〜40重量%程度がそれぞれ好ましい。
【0041】
本発明の共重合体は、疎水性モノマー(A)およびカチオン性モノマー(B)に加えて、アニオン性モノマー(C)を含むモノマー成分から重合することにより、両性共重合体とすることができる。
【0042】
上記アニオン性モノマー(C)は、α,β−不飽和カルボン酸類、α,β−不飽和スルホン酸類などである。上記α,β−不飽和カルボン酸類としては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)シトラコン酸、そのナトリウム、カリウム、アンモニウム塩などが挙げられる。上記α,β−不飽和スルホン酸類としては、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、その塩などが挙げられる。
【0043】
上記両性共重合体を構成するモノマー成分の場合も、上記各モノマーは単用又は併用できる。モノマー成分の組成比は、填料に適度の撥水性を付与できる範囲で任意に設定できるが、疎水性モノマー(A)の含有量は60〜90重量%程度、カチオン性モノマー(B)の含有量は9.8〜40重量%程度、アニオン性モノマー(C)の含有量は0.2〜10重量%程度がそれぞれ好ましい。
【0044】
上記両性共重合体を構成するモノマー成分にあっては、カチオン性モノマー(B)のカチオン当量に対するアニオン性モノマー(C)のアニオン当量の比率が0.1〜90%であることが必要である。好ましい当量比率は5〜20%であり、より好ましくは5〜15%である。すなわち、本発明における両性共重合体は、カチオン当量がリッチでアニオン当量の少ない方がサイズ効果を発現し易い。カチオン当量に対するアニオン当量の比率が多すぎると、アニオン性モノマー(C)がカチオン部分とイオンコンプレックスを形成して、パルプ繊維へのカチオンの作用を低下させ、サイズ性が発現しない恐れがあるので、上記比率の範囲のアニオン性モノマー(C)のアニオン当量が必要である。
【0045】
<4級化>
本発明の共重合体は上記モノマー成分を重合して得られるが、その4級化率は40モル%以上であることが重要である。4級化率は、好ましくは50〜100モル%である。4級化率が40モル%未満であると、填料及びパルプ繊維への有効な撥水性付与効果が得られにくくなる恐れがある。
【0046】
上記カチオン性共重合体または両性共重合体の4級化に際しては、例えば、カチオン性モノマー(B)として3級アミノ基含有モノマーを含むモノマー成分を重合した後、得られた共重合体を4級化剤で4級化してもよいし、予め4級化して得られた4級アンモニウム塩基含有モノマーをカチオン性モノマー(B)として用いて重合するようにしてもよい。4級化剤としては、塩化メチル、塩化ベンジル、エピクロルヒドリンなどを用いることができる。
【0047】
<填料>
本発明の製紙用添加剤(a)は、上記共重合体と填料とを混合して得られる。使用する填料としては、公知のものを任意で使用できる。例えば、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、カオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタンなどの無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料を単用または併用することができる。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。本発明では、カチオン性共重合体および両性共重合体が炭酸カルシウムへの作用に優れていること、炭酸カルシウムが安価であり且つ光学特性に優れていることから、炭酸カルシウムを使用することが好ましい。炭酸カルシウムとしては、炭酸カルシウム−シリカ複合物(例えば、特開2003−212539号公報あるいは特開2005−219945号公報等に開示の軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物)も使用可能である。
【0048】
上記共重合体と填料との混合は、通常、パルプスラリーに添加する前に、予め当該共重合体の水溶液と填料スラリーとを混合撹拌することにより行う。混合温度は10〜50℃程度、混合時間は1分以上が好ましい。
【0049】
上記共重合体と填料とを混合する際の、填料100重量部に対する共重合体の割合は0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.2〜5重量部であり、さらに好ましくは0.2〜2重量部である。共重合体の割合が少なすぎると、充分なサイズ効果が得られないおそれがある。一方、共重合体の割合を前記範囲より多くしても、得られるサイズ性の向上効果にはあまり変化がなく、コストの無駄になる傾向がある。
【0050】
カチオン性ポリアクリルアミド系歩留り向上剤
本発明は、上記の填料・共重合体混合物に加えて、(b)極限粘度法による重量平均分子量が1000万以上のエマルション型のカチオン性ポリアクリルアミドを併用する。上述したように、カチオン性基を有する共重合体と填料とを組み合わせて添加することにより、紙のサイズ性が高くなり、サイズプレスでの吸液量を抑制できる。しかし、本発明のように、ギャップフォーマ抄紙機により、高灰分・高速条件で抄紙する場合、灰分歩留が低くなるため、カチオン性基を有する共重合体と填料との上記組合せ物の歩留も低くなってしまい、求められるサイズ性を得ることが困難であった。そこで、本発明のように、(b)極限粘度法による重量平均分子量が1000万以上のエマルション型のカチオン性ポリアクリルアミドを用いると、灰分歩留が向上し、上記組み合わせ物の効果を十分に発揮させることができるため、紙のサイズ性も向上することを見出した。
【0051】
本発明は、極限粘度法による重量平均分子量が1000万以上、好ましくは1200万以上の直鎖または分岐型のカチオン性ポリアクリルアミド(PAM)系物質を歩留まり向上剤として紙料に添加して抄紙する。本発明のカチオン性ポリアクリルアミド系歩留り向上剤の分子量は、1500万以上であれば、後述するアニオン性微粒子を併用しなくても、地合、層間強度が優れた塗工原紙を高い歩留りで製造することができ、好適である。
【0052】
本発明の製造方法で使用するカチオン性ポリアクリルアミド系物質の形態は、エマルジョン型であるが、この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特に限定はないが、印刷用塗工原紙の紙料には塗被液由来のアニオン性物質が多く含まれるためにそのカチオン要求量は極めて高いので、歩留りを高める観点からカチオン電荷密度は高いほうが良く、具体的には1.0 meq/g以上が好ましく、1.5 meq/g以上がより好ましく、2.0 meq/g以上がさらに好ましい。カチオン電荷密度が10.0 meq/gを超える場合は系内電荷バランスが陽転する可能性があるため不適である。
【0053】
抄紙機前処理工程では、パルプ原料と内添抄紙薬品をミキサーで混合した紙料に、ファンポンプの前でフレッシュな填料が添加され、均一混合されるのが通常である。従って、カチオン性ポリアクリルアミド系物質の添加場所は、この填料添加後〜抄紙機ストックインレット前の間が好ましい。
【0054】
また、本発明のカチオン性PAMを、アニオン性微粒子と併用することもできる。アニオン性微粒子としては、ベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲルおよびこれらのアルミニウム改質物などの無機系の微粒子と、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子が挙げられ、一種以上のアニオン性微粒子を使用できる。好ましい無機系の微粒子としては、ベントナイトかコロイダルシリカである。有機系の微粒子としては、アクリル酸とアクリルアミドの共重合物が好ましい。また、無機系の微粒子と有機系の微粒子を併用する場合においてもベントナイトもしくはコロイダルシリカが好ましく、この場合の有機系の微粒子としてもアクリル酸とアクリルアミドの共重合物が好ましい。
【0055】
カチオン性ポリアクリルアミド系歩留り向上剤とアニオン性微粒子歩留り向上剤とを併用する場合には、カチオン性ポリアクリルアミド系物質を添加した後に、アニオン性微粒子を添加することが好ましい。本発明のカチオン性ポリアクリルアミド歩留まり向上剤の添加場所は、填料添加後〜一次スクリーン前の間が好ましい。
【0056】
歩留剤として添加する該カチオン性ポリアクリルアミド系物質の添加量は、紙料の性状や抄紙速度に応じて適宜決定されるので一概には言えないが、通常は、紙料固形分重量に対して50〜750ppmであり、50〜600ppmが好ましく、100〜600ppmがより好ましく、100〜500ppmが更に好ましい。該カチオン性高分子物質の添加量が50ppm未満であると、印刷用塗工原紙の地合は良好であるが、微細成分の充分な歩留りが得られない。750ppmを超えて添加すると、微細成分の歩留りは高くなるが、地合が悪化し、地合ムラに起因する印刷ムラなどの印刷不良の問題が発生する。
【0057】
製紙原料
本発明で製造される印刷用紙のパルプ原料としては、特に限定されるものではなく、機械パルプ(MP)、脱墨パルプ(DIP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)など、印刷用紙の抄紙原料として一般的に使用されているものであればよく、適宜、これらの1種類または2種類以上を配合して使用される。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)などが挙げられる。脱墨パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙を原料とする脱墨パルプであれば良く、特に限定はない。本発明においては、脱墨パルプが対パルプ20重量%以上、あるいは30重量%以上、更には50重量%以上配合しても、地合、歩留まり、層間強度を向上する効果を発揮することができる。
【0058】
本発明で使用される填料は公知のものを任意に使用でき、一般に無機填料および有機填料と呼ばれる粒子、または、その混合物を使用することができる。具体的には、無機填料として、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、タルク、ステアリン酸亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱産による中和で製造される非晶質シリカ、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合体、シリカ/二酸化チタン複合体など)、二酸化チタン、白土、ベントナイト、珪藻土、硫酸カルシウム、脱墨工程から得られる灰分を再生して利用する無機填料、および、再生する過程でシリカや炭酸カルシウムと複合体を形成した無機填料などが挙げられる。なお、炭酸カルシウム−シリカ複合物としては、特開2003−212539号公報や特開2005−219945号公報に記載の複合物を例示できる。炭酸カルシウムおよび/または軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用しても良い。この中でも、中性抄紙やアルカリ抄紙における代表的な填料である炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物が好ましく使用される。有機填料としては、メラミン系樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子、アクリルアミド複合体、木材由来の物質(微細繊維、ミクロフィブリル繊維、粉体ケナフ)、変性不溶化デンプン、未糊化デンプンなどが挙げられる。これらは単独でも2種類以上の組合せでも構わない。
【0059】
本発明で製造される印刷用塗工原紙の紙中填料率は1〜40固形分重量%が好ましく、5〜35固形分重量%がより好ましく、10〜35固形分重量%がさらに好ましい。抄紙においては紙中填料率が高いほど歩留りは低下する。従って、紙中填料率が高い印刷用塗工原紙の製造に本発明を適用したほうが本発明の効果が大きい。
【0060】
中性抄紙
本発明の製造方法は中性抄紙である。本発明において中性抄紙法とは、pHが6.0〜9.0の紙料系を用いて抄紙することである。より好ましい態様において、本発明はpH7.0〜8.5の紙料を用いて抄紙を行う。また、本発明は中性抄紙であることから、特に填料として炭酸カルシウムを内添することが好ましい。炭酸カルシウムにより、低コストでありながら、高白色度、高不透明度の塗工原紙を得ることができる。
【0061】
内添薬品
内添薬品としては、乾燥紙力向上剤、紙用嵩高剤、湿潤紙力向上剤、凝結剤、濾水性向上剤、染料などの薬品を必要に応じて使用しても良い。乾燥紙力向上剤としてはポリアクリルアミド、カチオン化澱粉が挙げられ、湿潤紙力向上剤としてはポリアミドアミンエピクロロヒドリンなどが挙げられる。凝結剤としてはポリエチレンイミンおよび第三級および/または四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミドおよびジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミンおよびビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物などのカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基などのアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性または両イオン性ポリマーとの混合物などが挙げられる。また、カチオン性や両イオン性、アニオン性の変性澱粉なども使用できる。サイズ剤としては、製紙用添加剤のみ添加してもよいし、中性ロジンやAKD、ASAと併用することもできる。その他にも、濾水性向上剤、着色剤、染料、蛍光染料などの従来から使用されている内添薬品、さらに紙を嵩高化(低密度化)するための紙用嵩高剤などを使用することができる。これらの薬品は地合や操業性などの影響の無い範囲で添加される。紙用嵩高剤を具体的に化合物で例示すると、油脂系非イオン界面活性剤、糖アルコール系非イオン活性剤、糖系非イオン界面活性剤、多価アルコール型非イオン界面活性剤、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、高級アルコールあるいは高級脂肪酸のポリオキシアルキレン付加物、高級脂肪酸エステルのポリオキシアルキレン付加物、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物のポリオキシアルキレン付加物、脂肪酸ポリアミドアミン、脂肪酸ジアミドアミン、脂肪酸モノアミドアミンなどが挙げられ、特に限定は無い。嵩高剤の使用により紙力が低下する傾向があるため、嵩高剤を含む紙料に本発明を適用すると紙力維持の観点から好適である。
【0062】
抄紙機
本発明の製造方法におけるフォーミングパートはロールアンドブレード形式のギャップフォーマであり、最初の脱水はバキュームを有したフォーミングロールのラップエリアで行われ、その直後に加圧ブレードモジュールによるブレード脱水が行われる。この機構より従来のフォーマよりも緩慢な脱水が可能となるため、均一な紙層構造や地合を有した紙が得られる。この時に使用されるフォーミングロールはその径が小さいと十分な抱き角度を得ることができず脱水の調整が不十分となるため1500 mm以上が望ましい。フォーミングロールやブレードによる脱水機構に加えて、その後段にサクションユニットやハイバキュームサクションボックスなどの脱水装置を適宜用いることでドライネスの調整を行うことができる。ブレード圧等の脱水条件としては特に限定はなく、通常の操業範囲で適宜設定できる。
【0063】
本発明の製造方法におけるプレスパートは、シュープレスを用いることが好ましく、抄紙速度が高速の場合、より好ましくは2段以上で処理することによりプレス後のドライネスを向上できることから、層間強度や裂断長などの強度が向上する。本発明のシュープレスはニップ幅が概ね150〜250mmの範囲にあってよく、回転駆動するプレスロールと油圧で押し上げる加圧シューの間を通紙させるもので、フェルトと加圧シューの間にスリーブを走行させるタイプであってよい。プレス圧はプレス出口水分や表裏差を加味して適宜調整でき、好ましくは400〜1200kN/mであり、更に好ましくは1000〜1200kN/mである。
【0064】
抄紙機プレドライヤー、アフタードライヤーも公用の装置を用いることができ、乾燥条件も特に限定はなく、通常の操業範囲で適宜設定できる。
【0065】
塗工紙
本発明は、上述のような原料および装置を用いて塗工原紙を製造するが、その塗工原紙に顔料塗工層を塗工して塗工紙を製造することもできる。1つの態様においては、本発明は、本発明により得られた塗工原紙に塗工液を塗工することを含む、印刷用塗工紙の製造方法である。本発明によって塗工紙を得る場合、オンマシンコータを用いるが、本発明によれば、コートブロークなどを製紙原料としても操業性の低下を招かないため、本発明は、オンマシンコーターを備える抄紙機への適用に好適である。また、本発明は、オンマシンコータを備えたギャップフォーマ型抄紙機を用いて抄紙から塗工工程をオンラインで連続して生産するため、製造効率が極めて高い。
【0066】
本発明によって塗工紙を製造する場合、顔料塗工層は1つであっても複数であってもよい。
【0067】
本発明において複数の顔料塗工層を設ける場合、顔料と接着剤を主成分とする下塗り顔料塗工液に使用する顔料については、重質炭酸カルシウムを好適に使用できるが、要求品質に応じて軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、サチンホワイト、プラスチックピグメント、二酸化チタン等を併用する。また、顔料塗工液に使用する接着剤としては、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系等の各種共重合体エマルジョン及びポリビニルアルコール、無水マレイン酸共重合体等の合成系接着剤、酸化デンプン、エステル化デンプン、酵素変性デンプン、エーテル化デンプンやそれらをフラッシュドライして得られる冷水可溶性デンプン等を用いる。本発明の顔料塗工液には分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤等通常の塗工紙用顔料に配合される各種助剤を使用しても良い。
【0068】
下塗り顔料塗工液の塗工量は、原紙の片面当たり固形分で0.7〜10.0g/mの範囲で塗工するのが好ましく、より好ましくは1.0〜5.0g/m、2〜5g/mの範囲で塗工するのが最も好ましい。0.7g/mより少ない量の塗被は装置上の限界から困難であり、塗工液濃度を下げた場合には、塗工液の原紙内部への浸透が大きくなり表面性が低下しやすい。10g/mより多い量を塗工する場合は、塗工液濃度を高くする必要があり、装置上塗工量のコントロールがしにくい。下塗り塗工後乾燥された塗工紙は、上塗り顔料塗工液の塗布前にソフトカレンダー等によるプレカレンダ処理を施しても良い。
【0069】
また、上塗り顔料塗工液の顔料、接着剤組成、配合量、塗被量等は特に限定されず、一般に使用される顔料、接着剤で良い。塗工液濃度は55〜70%が好ましく、塗被量は通常片面当たり固形分で6〜20g/mが好ましく、6〜14g/mがより好ましい。上塗り塗被装置は、特に限定されないが、通常ファウンテンブレード、あるいはロールアプリケーションブレードが用いられ、オフのコーターでもオンマシンコータでも構わない。
【0070】
上塗り顔料塗工液を塗工後乾燥された塗工紙は、通常のごとくスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の表面処理工程により光沢付けがなされる。カレンダー装置の種類と処理条件は特に限定はなく、金属ロールから成る通常のカレンダーやソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどの公用の装置を適宜選定し、印刷用紙の品質目標値に応じて、これらの装置の制御可能な範囲内で条件を設定すれば良い。
【0071】
このようにして得られる本発明の印刷用塗工紙は、耐ブリスター性などの印刷品質に優れる。塗工紙の坪量に限定はないが、通常30〜120g/mであり、好ましくは35〜100g/mであり、より好ましくは40〜80g/mでより効果を発揮するものである。また、塗工原紙の坪量も特に限定されないが、通常20〜80g/mであり、好ましくは25〜60g/mであり、より好ましくは25〜50g/mである。
【0072】
また、本発明で製造される印刷用塗工原紙を用いて製造された印刷用塗工紙は、オフセット印刷用、グラビア印刷用などの各種印刷用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、当然のことながら、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中、部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を示す。
【0074】
<測定方法>
(1)歩留りの測定方法
ストックインレット原料とワイヤを抜け落ちた白水(ワイヤ下白水と記述する)について、それぞれ固形分濃度と灰分濃度を測定した。灰分は、ストックインレット原料とワイヤ白水について、その固形分を525℃で灰化して測定した。
【0075】
下記式(1)により紙料歩留りを、下記式(2)により灰分歩留りを測定した。
【0076】
【数1】

【0077】
(2)紙の地合の測定方法
紙の地合は野村商事(株)製の地合計FMT−III(光透過光変動法)により評価した。なお、測定値が小さい程、地合は良好であることを示す。
【0078】
(3)紙の層間強度の測定方法
L&W ZD Tensile Tester SE 155(Lorentzen&Wettre社製)で、層間強度を測定した。
【0079】
(4)サイズプレス吸液量
ロッドメタリングサイズプレスに設置したオンラインの吸液量計により、サイズプレス吸液量を測定した。
【0080】
(5)印刷評価
オフセット輪転印刷機(4色、東芝製 B2T600)にて、オフ輪印刷用インキ(東洋インキ製造社製 レオエコー SOY M)を用いて印刷速度500rpm、乾燥時の紙面温度120℃で印刷した。得られた印刷物の墨単色50%網点部についてインキ着肉性を以下の基準で目視評価した(○:良好、△:やや劣る、×:劣る)。更に、4色ベタ部についてブリスターの発生の有無を確認した(○:ブリスター発生なし、△:ブリスターの発生ほとんどなし×:ブリスター発生)。
【0081】
<カチオン性共重合体および両性共重合体の合成>
(1)合成例1
温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素導入管を備えた0.5リットルの四つ口フラスコに、イソプロパノール30部、スチレン50部、メタクリル酸メチル20部、ブチルアクリレート10部、ジメチルアミノエチルメタクリレート20部、n−ドデシルメルカプタン1.5部を加え、攪拌しながら加熱し、温度を85℃まで上昇させた。次いで、温度を85〜90℃に保持しながら、t−ブチルパーオキシエチルヘキサネート1.5部とイソプロパノール3部からなる重合開始剤溶液を3時間で全量滴下し、1時間熟成させて、反応を完結させた。その後、温度を80℃に保持してカチオン性共重合体中和用の90%酢酸8.5部と温水260部を30分かけて添加して1時間保持し、エピクロルヒドリン9.5部を添加して80℃で2時間保持し、完全に水溶化させた。
【0082】
冷却後、水を添加して、固形分20%のカチオン性共重合体水溶液を得た。
【0083】
(2)合成例2
温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素導入管を備えた0.5リットルの四つ口フラスコに、イソプロパノール25部、90%酢酸7.6部を入れ、撹拌しながら温度を80℃まで加熱した。次いで、スチレン30部、iso−ブチルメタクリレート50部、無水マレイン酸1部、ジメチルアミノエチルメタクリレート19部のモノマー混合物に、n−ドデシルメルカプタン1.5部とアゾビスイソブチロニトリル1部を溶解した混合液を、フラスコ内温を80〜85℃に保ちながら3時間で全量滴下し、1時間熟成させて反応を完結させた。その後、温度を80℃に保持して温水300部を添加して1時間保持し、エピクロルヒドリン9部を添加して80℃で2時間保持し、完全に水溶化させた。冷却後、水を添加して、固形分20%の両性共重合体水溶液を得た。
【0084】
<印刷用塗工紙の製造>
(1)抄紙機:ロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機、もしくはブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機。
【0085】
(2)パルプ原料配合:針葉樹クラフトパルプ(濾水度CSF=600ml)30%、脱墨パルプ(濾水度CSF=240ml)70%
(3)原紙の紙中填料率(原紙の紙中灰分):ロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(平均粒子径2.5μm)を使用し、目標の紙中灰分となるように添加量を適宜調整した。
【0086】
(4)ロッドメタリングサイズプレスにおける下塗り用塗工液:重質炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)、ハイドロカーボ90)100部に対して、分散剤(東亜合成(株)、アロンT−40)を0.3部添加し、カウレス分散機を用いて水に分散した後、接着剤としてリン酸エステル化デンプン15部、スチレン・ブタジエン系ラテックス3部を配合し、固形分濃度48%の下塗り顔料塗工液を調製した。
【0087】
(5)上塗り用塗工液:上記重質炭酸カルシウムを70部、カオリン30部に対して、ポリアクリル酸ソーダ系分散剤0.3部を添加し、カウレス分散機を用いて水に分散し、接着剤としてリン酸エステル化デンプン5部とスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを10部配合し、固形分濃度65%の上塗り顔料塗工液を調製した。
【0088】
<塗工紙の評価>
塗工原紙を塗料で塗工した後の塗工紙について、画像解析法に基づいて0.05mm以上の紙面ダート個数をSpecScan2000(アポジーテクノロジー社製)を用いて測定した。
【0089】
オフセット輪転印刷機(B2T600、4色、東芝製)にて、オフ輪印刷用インキ(レオエコー SOY M、東洋インキ製造社製)を用いて印刷速度500rpm、乾燥時の紙面温度120℃で印刷した。得られた印刷物の墨単色50%網点部について、印刷再現性を目視評価した(○:良好、△:やや劣る、×:劣る)。
【0090】
<顔料塗工液の作成>
・下塗り用塗工液:重質炭酸カルシウム(ハイドロカーボ90、白石カルシウム(株))100部に対して、分散剤(アロンT−40、東亜合成(株))を0.3部添加し、カウレス分散機を用いて水に分散した後、接着剤としてリン酸エステル化デンプン15部、スチレン・ブタジエン系ラテックス3部を配合し、固形分濃度48%の下塗り顔料塗工液を調製した。
【0091】
・上塗り用塗工液:上記重質炭酸カルシウムを70部、カオリン30部に対して、ポリアクリル酸ソーダ系分散剤0.3部を添加し、カウレス分散機を用いて水に分散し、接着剤としてリン酸エステル化デンプン5部とスチレン・ブタジエン系共重合ラテックスを10部配合し、固形分濃度65%の上塗り顔料塗工液を調製した。
【0092】
実施例1
パルプに、凝結剤(片山ナルコ社製、N7527)をコートブロークに紙料固形分重量当たり250ppm、Mixチェストに紙料固形分重量当たり150ppm添加し、内添用合成紙力増強剤の両性ポリアクリルアミド(星光PMC株式会社製、DS4340)を紙料固形分重量当たり0.2%添加し、合成例1により調製したカチオン性共重合体水溶液と軽質炭酸カルシウムから調製した製紙用添加剤をカチオン性共重合体水溶液の添加率が対パルプ重量当たり0.1%となるように添加し、極限粘度法による重量平均分子量が2,000万のカチオン性ポリアクリルアミド系歩留剤(ソマール株式会社製リアライザーR300、カチオン電荷密度1.96meq/g)を紙料固形分重量当たり350ppm添加し、タンデムシュープレスを2基有し、フォーミングロール径が1600mmであるロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機を用いて抄紙速度1,600m/分で原子坪量34g/m、原紙の紙中灰分15%の印刷用塗工原紙を得た。その後、ロッドメタリングサイズプレスコータを用いて下塗り用塗工液を片面あたり2.5g/m両面塗工し、更にブレードコータを用いて上塗り用塗工液を片面あたり6g/m両面塗工した。表面処理として、金属ロール表面温度150℃、線圧300kg/cm、カレンダーニップ数6ニップの条件で高温ソフトニップカレンダー処理を行い、坪量51g/mの印刷用塗工紙を得た。本実施例においては、オンマシンコータを備えたギャップフォーマ型抄紙機を用いて、抄紙から塗工工程をオンラインで連続して生産した。
【0093】
実施例2
合成例1のカチオン性共重合体に代えて合成例2の両性共重合体を用いた以外は、実施例1と同様に印刷用塗工紙を得た。
【0094】
実施例3
実施例1の抄速を1300m/minとした以外は、実施例1と同様に印刷用塗工紙を得た。
【0095】
比較例1
実施例1の製紙用添加剤に代えてAKDサイズ剤(星光PMC社製)と軽質炭酸カルシウムの混合物を用いた以外は、実施例1と同様に印刷用塗工紙を得た。
【0096】
比較例2
実施例1の歩留剤をDR5700(ハイモ社製、分子量700万、カチオン性ポリアクリルアミド、電荷密度2.2meq/g)とした以外は、実施例1と同様に印刷用塗工紙を得た。
【0097】
比較例3
実施例2の抄速を1300m/minとした以外は、実施例1と同様に印刷用塗工紙を得た。
【0098】
【表1】

【0099】
表1に結果を示す。なお、紙料/灰分歩留は、58/28%以上で非常に良好、55/24〜57/27%で良好、54/26%以下で非常に悪いと判断した。サイズプレス吸液量は、5.5g/m以下で良好、5.6〜6.0g/mで悪く、6.1g/m以上で非常に悪いと判断した。
【0100】
実施例1〜3より、本発明の製紙用添加剤を用いるとサイズプレスの吸液量が抑制されており、その結果、インキ着肉性が良好となった。また、実施例1と比較例2を比較すると、歩留剤として高分子量のカチオン性ポリアクリルアミド(R300)を併用すると、紙料や灰分歩留が特に向上している。このため、微細繊維の歩留りが改善され、印刷用紙の層間強度および耐ブリスター性が向上した。一方、比較例2は、歩留りが低く、層間強度、耐ブリスター性、インキ着肉性も悪かった。
【0101】
実施例3では、実施例1より抄速1300m/minに下げたことで歩留がさらに向上し、サイズプレス吸液量、層間強度も良好であることが示されている。また、比較例3は、抄速1300m/minに下げたため、比較例2より歩留りが若干向上しているものの、R300には及ばす、望まれる品質の塗工紙が得られていないことが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォーミングロールによる初期脱水の直後に脱水ブレードによる脱水機構を有したロールアンドブレードフォーマ形式のギャップフォーマ型抄紙機およびオンマシンコーターを用いて、中性抄紙法により1300m/分以上の速度で印刷用塗工紙を製造する方法であって、
紙料に対して、(a)疎水性モノマーおよびカチオン性モノマーを含むモノマー成分を重合して得られる4級化率が40モル%以上の共重合体と填料との混合物、および、(b)極限粘度法による重量平均分子量が1000万以上のエマルション型のカチオン性ポリアクリルアミドを添加することを含む、上記印刷用塗工紙の製造方法。
【請求項2】
前記共重合体が、カチオン性共重合体、または、アニオン性モノマーをさらに含む両性共重合体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記填料が炭酸カルシウムである、請求項1または2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
ロッドメタリングサイズプレス方式のコーターを用いて原紙上に最初に塗工する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記共重合体の添加量が、パルプ固形分に対して0.05〜0.5重量%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記印刷用塗工紙の原紙坪量が30〜70g/mである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
原料パルプに20重量%以上の脱墨パルプ(DIP)が含まれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−236153(P2010−236153A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87004(P2009−87004)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】