説明

印刷用紙用の非木材パルプを極高収率で製造する方法

【課題】バガス等の非木材植物原料は通常約2/3量のラインド(皮)と約1/3量のピス(髄質)からなり、パルプの白色度向上と、ろ水性のコントロールの可能、収率の飛躍的向上と、低公害生産システム化のために大量にピスを含む植物原料から印刷用紙用の高収率パルプを製造する方法を提供する。
【解決手段】大量にピスを含む植物原料(全バガス)を予めピスとラインドに分別し、分別されたピスとラインドはそれぞれにPA蒸解薬液(過酸化水素のアルカリ溶液)で軽度の処理をし、機械的に解繊して中質及び下級印刷用紙の主原料として使用可能な、高白色度で適度のろ水性を持つ高収率ピスパルプと高収率ラインドパルプを低公害で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大量にピス(髄質)を含む植物原料から印刷用紙用の非木材パルプを極低公害、極高収率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人類は2,000年前に麻ぼろから非木材パルプと非木材紙を発明した。以来紙パルプは工房で少量生産され、貴重品として使われた。19世紀に木材パルプと木材紙が発明され、一挙に供給量と需要が増え始め、紙パルプ工業は必要な周辺技術を整備しながら巨大産業に発展した。しかし、原料として毎年5億m以上の木材を消費し、森林を伐採することは地球環境を破壊するものだとの反対の声は強まっている。
木材パルプを高収率で生産できれば木材の節約になり、環境に優しいといえる。木材パルプに代わって印刷用紙の原料として使える非木材パルプを極高収率かつ低公害で製造できる技術が発明されればさらに地球環境の保全に役立つであろう。
一方、地球上には殆ど利用されてない非木材繊維原料は極めて多い。中でもピスの多い非木材の植物原料であるバガス、トウモロコシ及びスイートソルガム等の幹茎は農業の副産物として毎年大量に発生する。これらを代表するバガスは砂糖キビの幹茎の搾り粕で、製糖工場及びエタノール工場から毎年長期間にわたって、かなり纏った量が排出されるのでパルプ原料として注目されてきた。
【0003】
しかし非木材パルプ工業の発展を阻害する要因は余りに多かった。経営の殆どは零細企業か、中小企業であって、従事する研究者および技術者の層も極めて薄かった。非木材パルプの生産国では木材と非木材繊維原料の類似点には注目したが、その本質的な違いや、環境負荷等には無視し、必要な生産技術は木材パルプ技術の援用か、延長線上で改造、改良して間に合わせてきた。
そして20世紀の終わりに途上国の中には上質紙用のパルプを大量に確保する大増産をした。彼らの中には公害問題を隠すため、小規模又は零細の工場を多数作り、河川や大気を汚しながら総生産量を世界一だと誇示した国もあった。しかし、21世紀になって環境は激変した。問題が明るみに出るようになって従来の技術では公害問題に対応できず、量産化によるコストダウンもできず、在来の体質のままでは技術の革新は望めず、非木材パルプ工業は壁にぶつかり、産業として失速し、多数の工場を閉鎖して、大量の木材パルプを輸入する状態に逆戻りした。
【0004】
これまでパルプ化技術は多数発明されてきたがその殆ど全ては木材パルプ工業で生まれた。パルプ化技術はKP法やAP法で代表される化学パルプ(CP)技術、砕木機械やディスクリファイナー等でパルプ化する機械パルプ(MP)技術と、半化学半機械パルプ技術とも言えるセミケミカルパルプ(SCP)技術の3つに大別できる。非木材のパルプ技術はそれら技術の模倣か一部改良あるいは改悪したものと言えよう。
【0005】
CP法。木材及び非木材等のセルロース原料はセルロースとリグニン及びヘミセルロースからなる。CP法の原理とは、セルロース原料を蒸解薬液で高温処理してリグニンを溶出させてセルロース繊維を取り出す方法で、他のパルプ化法に比べ純度の高いパルプが得られる。同時にヘミセルロースもセルロースの一部までが蒸解薬液中に溶け込みパルプ廃液となるのでパルプの収率は50%を大きく割り込むことになる。そのためパルプ廃液の固形分の量は収得するパルプの量よりもはるかに大きくなる。これを処理せずに河川に放流すれば環境を大いに破壊することになる。
【0006】
かつて非木材パルプ工業では、主に上質の木材パルプ代替品をKP法やAP法等のCP法で製造する研究開発が重点的に行われた。得られる未晒パルプは暗褐色で、べた付き、ろ水性は極めて悪い。この工業では塩素系の漂白剤を用いる多段漂白法を導入して高白色度の晒パルプを約40%の収率で製造した。しかし、有機塩素化合物を含む晒排水の処理には悩まされ続けた。ろ水性を良くするため、脱ピス処理し、ラインドだけをパルプ化したが、対全バガス収率は一挙に約2/3の30%以下にまで低下した。CP法は非木材を高収率パルプ化するのになじまない。
【0007】
MP法。砕木パルプで代表されるMPは、主に北米および北欧のモミ,ツガ等の良質な針葉樹と大量の電力と水さえあれば、グラインダー又はディスクリファイナー等の砕木機械を使って摺り潰すだけの単純な方法で90〜95パーセントという極めて高収率で得られる。MPは強度が低いが軽度の非塩素系の漂白によってかなり白くできる。NBKP(針葉樹の晒KP)を少量混ぜればかなり補強されるので下級、中級の印刷用紙が抄造できる。新聞用紙、教科書用紙、雑誌用紙等、教育文化の担い手として欠かせない。南の諸国には針葉樹資源がない。木材より柔らかいバガス等の非木材繊維原料を利用すれば、少ないエネルギーでMP類似のパルプが容易かつ大量に得られそうである。しかし、実際には多くの困難な問題を抱え、工業生産に成功した例は報告されてない。
【0008】
バガスの保存性。バガス等のパルプ原料には優れた貯蔵方法が無いに等しかった。糖液を搾られたときに白色のバガスが発生する。バガスは約50%の固形分と約50%の水分のほか少量の残糖を含むので、高温の産地では即時に発酵が始まり腐敗が進行し、セルロースは劣化し、ヘミセルロースは変質崩壊し、順次色も黄色から褐色遂には黒褐色に変わりパルプ原料が遂にはパルプ原料でなくなる。新たな環境問題を起こすので残留性の防腐剤や保存剤を用いることが制約される。周年操業が求められるパルプ工場に取って、色が白くなければならないMPの製造に変質したバガスは致命的障害になる。しかし、暗褐色の未晒パルプを製造する化学パルプの製造にとっては不利ではあっても利用可能であった。
【0009】
バガスの2成分とその形状。原料バガスはラインド(皮)とピス(髄質)の混合物である。ラインドは比較的強くてしなやかである。形状がまちまちで大体長さは2〜20 cm、幅は2〜5cm、厚みは1〜4mmである。ピスは直径が1〜2mmと丸く膜状で弱く脆い。このように形状と性質の異なるラインドとピスの混合物が原料では、MP法でパルプ化したくともそのまま使える既存の技術も設備もなかった。
【0010】
バガスとMP法。グラインダーによる針葉樹のパルプ化では、機械の大きさに合わせて鋸で長さを1〜2m程度に揃え、太いものは割って10〜20cmの太さに揃え、短く小さいものは除いて磨砕している。バガスは形状も大きさも全く異にするので通常のグラインダーは到底利用できない。
ディスクリファイナーによる木材のパルプ化では、長さ2〜4cm、幅3〜4cm、厚さ3〜5mmに大きさを揃えたの木材チップに水を加えて動力を使って磨砕すればMPが得られる。ここではグラインダーで使えない小サイズの木材もチップ化すればパルプ化ができる。
原料がバガスの場合、形状がまちまちであっても、長いバガスは予め切断すれば、ディスクリファイナーで処理できるようになりパルプとなって出てくる。しかし、これはパルプであっても製紙用パルプとは言えない。全バガスをディスクリファイナーに掛ければ微細な針状の破片と、粉の混合物にはなるが、パルプとしては強度がなく、ろ水性が良すぎて抄紙機上で地合いが取れず紙にするのは困難である。この非木材パルプはNBKP(針葉樹の晒KP)を少量混ぜればかなり補強され紙にはなるが、嵩張り過ぎ,ふかふかして締まらず表面は毛羽立ち印刷用紙としては評価できず、利用することは容易ではない。原料対策を含めて全く新しいMP法が求められている。
【0011】
SCP法。半化学半機械パルプともいえる。エネルギーが異常に安く、環境問題が殆ど取り上げられなかった時代に発明され一時大いに発展普及した。原料チップは針葉樹でも広葉樹でもよく樹種を選ばない。CPの蒸解薬液で軽く蒸解後、柔らかくなりかけたチップをディスクリファイナーで磨砕すると、多くのリグニンを残した状態で褐色のSCPが60〜85%程度の高収率で得られる。SCPはCPに近い強度を持ち、MPよりはエネルギーの消費量が少ない。産業用紙でも段ボールの中芯原紙のように、人目につかない処で大きな需要を見出し大量に生産された。
【0012】
未晒のSCPは漂白が可能ではあるが。CPの漂白に比べ数倍量の塩素系漂白剤を使い、多段漂白すれば印刷用紙用のBSCP(晒セミケミカルパルプ)が得られることが研究発表されると、工業化を計画する企業が多数現れた。その後、エネルギーは異常に高騰し、環境問題は極めて厳しくなった。塩素系の漂白剤を大量に使うことは塩素化リグニンを始め多くの有機塩素化合物を大量に含む廃液排水を出すことになるので地球環境問題と激突する。また紙パルプの分野では、古紙の回収とその利用技術が進み、再生パルプから段ボール原紙ができるようになり、未晒のSCPも要らなくなった。そして、SCPの工場の殆ど全ては地球上から消えた。
程々の白さを持った印刷用紙用のパルプを高収率で製造することを目的とする場合、SCP法はなじまない。
【0013】
非木材パルプ工業の躍進を妨げる問題は多く、多岐にわたり、それが複雑に絡み合っていた。従来は問題の一つだけを単純に取り上げても、その改善に熱中するだけでは新たな問題が幾つも発生し混乱が起き、改善が妨げられてきた。
今後は発想法を変え、総合的に見たうえで、一つの問題が解決できれば、それが多くの問題の改善の糸口になるような抜本的な解決方式で、問題と混乱を収束させ、新たな進歩を図ることが紙パルプ産業を活性化にとって必要であるとし、以下発明を開示する。
【非特許文献1】「御田昭雄、アルファ(Alpha) 1992年3月号 p2.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
バガス等ピスの多い非木材を原料として、下級及び中質の印刷用紙等の主な中間原料となる砕木パルプ級の非木材パルプを簡単な設備と簡単な手段で極低公害、極高収率で大量生産できる製造技術を開発し、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
【特許文献1】特公告昭和59−9677号公報 発明者は鋭意研究を進めた結果、全バガスを振動篩でピスとラインドに約1:3の比率で乾式分離した。ピスとラインドをそれぞれPA蒸解薬液(過酸化水素のアルカリ性水溶液に微量の助剤を加えたもの)をもって軽度の処理することで軽度の脱リグニン、軽度の軟化と軽度の漂白を促した。更にピスはディスクリファイナーで処理することで、容易に解繊効果と叩解効果が得られて高白色度の砕木パルプ類似のピスパルプを対ピス86.5%の高収率で得た。ラインドはビーターによる機械処理で容易に解繊効果と叩解効果が得られて高白色度の砕木パルプ類似のラインドパルプを対ラインド90.2%の高収率で得た。また、同様に処理されたピスパルプの収量とラインドパルプの収量の合計は全バガスの量に対して88.9%と極め高い総合収率を示すことが確認された。 このようにして得られたピスパルプもラインドパルプも適度のろ水性を示しNBKP(針葉樹の晒KP)を少量配合するだけでそれぞれ地合いの良い中質及び下級の印刷用紙が容易に製造できた。本発明はこの新事実を基に研究をさらに発展させて完成されたものである。すなわち、 原料の前処理。砂糖キビを木材チッパーで短く斜めに切断し、所望によりさらに平行に切断し、スクリュープレスで搾汁することで破砕するとともに、長さの揃ったバガスを糖液から分離した。湿式分離することでバガスは更に長さの揃ったラインドとピスにきれいに分離した。ラインドとピスはそれぞれPA 蒸解薬液を添加混合して常温で長期保存が可能となり、1年以上貯蔵したピスもラインドも全く腐敗することなく軟化し、機械的解繊が容易となり、白色度はさらに上昇した。この保存したラインドには長いラインド等の異物がないため、ディスクリファイナーによる連続的な解繊と叩解の工程が極めて容易となり、適度なろ水度と白色度のラインドパルプを得ることができた。ピスも同様処理することで適度のろ水度と白色度のピスパルプを得ることができた。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は大きく多岐にわたるが、波及効果も大きい。以下主なものだけを列挙する。(1)PA蒸解薬液による軽度の処理と、軽度の機械的解繊処理だけで、新聞用紙、グラビア印刷用紙、教科書用紙などの下級及び中質の印刷用紙の主原料として必要な、中程度以上の白色度を持った砕木パルプ類似のパルプを高収率で製造可能。(2)パルプの製造に耐圧性の蒸解釜や反応容器が不要。(3)中程度以上の白さの高収率パルプを製造するのに、塩素系の漂白剤を全く使わず、漂白設備も不要。(4)そのため工場の建設と操業及び環境対策が容易。(5)世界で年間砂糖キビが11億トン生産され、バガスが1.3億t(絶乾量で)発生するならば、所望により約1億tのバガスパルプの製造も可能。また、この技術をトウモロコシ、スウィートソルガムなど大量のピスを含む非木材原料のパルプ化に適用すれば更に数倍量の数億tの高収率パルプの製造も可能。(6)木材を伐採しないで済む分だけ大量の二酸化炭素排出量の削減が可能。二酸化炭素の排出権取引に使えば、パルプを生産する途上国と紙パルプと二酸化炭素排出権を輸入する先進国との間に大きな取引と協力関係が生まれ、世界の経済活性化と安全保障に役立ち、地球環境の改善に貢献。(7)パルプ化の際に用いるアルカリは炭酸塩及び又は水酸化物の混合液で苛性化率がゼロ又は極低い状態(炭酸塩割合が多く水酸化物がゼロ又は非常に少ない)で使用が可能。このことはパルプ廃液を集めて濃縮燃焼処理すれば、アルカリ金属の炭酸塩として灰が回収される。回収不能のアルカリをアルカリ金属の水酸化物で補えば、炭酸アルカリの苛性化工程、苛性化装置、および苛性化に必要な生石灰の回収用キルンが必要でないので、極めてシンプルな工場の建設が可能。(8)不純物の混入と蓄積でアルカリの回収利用が不能となってもカリウムベースを採用すれば肥料として利用可能なだけに廃棄物をゼロに近付けられる。(9)PA法のパルプ工場と隣接する場合、パルプ廃液からの薬液の回収施設の共有と共同管理による合理化、並びに排水の処理設備の共有による合理化が期待できる。(10)PA蒸解薬液が原料の腐敗防止と長期貯蔵に使用でき、原料のパルプ化の前処理に合理的に利用できる。(11)パルプが30%の収率のときに比べ、90%の収率のときにはパルプ廃液に溶込む有機物量が約1/20に減り環境対策が非常に容易。(12)砂糖キビの粕から主製品のエタノールより遥かに多いパルプが得られるようになると、南の諸国の植民地時代からの負の遺産であるモノカルチャーから総合利用、貧困から繁栄、季節雇用から定期雇用の拡大の道が開ける。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1〜3図に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明では全ガスを乾式もしく湿式でピスとラインドに篩分けして、それぞれを最適条件でパルプ化する。乾式分離は得られるピスとラインドの水分が少ないので蒸解薬液の濃度の幅を広く設定できる利点がある。湿式分離の利点としては粉塵の発生を抑えることができ、両者の分離が容易な事があげられる。
【0018】
【特許文献2】特公昭63―32918公報 PA法(過酸化水素アルカリ法)の蒸解薬液は過酸化水素のアルカリ溶液に少量の蒸解助剤を加えたものを用いる。 用いる薬品とその使用量(以下対絶乾バガスで表示)。過酸化水素の使用量はH2O2として0. 2〜5%、好ましくは0.5〜3%である。アルカリとその使用量。ナトリウムまたは及びカリウムの水酸化物または及び炭酸塩で、Na2O換算で0.2〜15パーセント 好ましくは2〜5%使用。
【0019】
パルプ化助剤とその使用量。過酸化水素の安定剤として水ガラス及びまたはキレーと剤を使用。水ガラスは0.05〜0.5%、好ましくは0.1〜0.3%を使用。その他キレート剤としてEDTA、DTPA、及びアルキル基を有するジフォスフォン酸又はその塩(特許文献2参照)等のキレート剤のうち少なくとも一種以上を使用。0.05〜1.0%好ましくは0.1〜0.5%用いることは安定剤としての効果があり、製品パルプの白色度の向上にも役立つ。
アントラキノン類とその使用量。アントラキノンとエチル、ターシャルブチル、アミルアンアントラノン等のアルキルアントラキノン類及びその還元状態のヒドロキシアントラセン類のうち少なくとも1種以上を蒸解薬液に添加することは原料中のリグニンの溶出除去及び軟化を促し、機械式解繊工程を容易にし、繊維を傷めずにパルプを得るのに役立つ。その添加量は総量で0.01〜0.5%、好ましくは0.02〜0.1%である。
【0020】
パルプ化における解薬液による処理。液比は1.2〜10.0L/kgの気相及び液相における処理が可能である。高濃度における混合、攪拌、加温等の処理が可能であれば、気相処理で液比を小さくして行うことは反応容器を小さくでき、薬品濃度をあげ、処理温度を下げ、加温および攪拌のエネルギーの節約と時間の短縮ができて有利である。その液比とは1.2〜4.0L/kgで、好ましくは1.8〜3.0L/kgである。
処理に要する時間は処理温度が60〜100℃であれば60〜400分である。強制攪拌しつつ気相処理を行えば、通常の蒸解に比べて低温の40〜60度に下げ、40〜200分程度に時間短縮可能となり、加熱及び保温に要する熱量の節約が可能。
機械的な離解はビーター、エッジランナー、ディスクリファイナー,ホットリファイナー等の多くの離解機の利用が可能で、同時に叩解の効果も期待できる。ビーター以外の機械を用いれば連続処理と高濃度処理が可能でエネルギーの節約が可能。得られるパルプの繊維が傷まず、量産化に有利。
【0021】
原料の貯蔵におけるPA蒸解薬液と蒸解廃液の効果。さらに、砂糖キビを搾汁したときに発生するバガスにPA蒸解薬液又は及びPA蒸解廃液またはその濃縮液を混合することは、バガスの腐敗の進行をほぼ完全に止めるので、バガスの貯蔵及び輸送における損失を防ぐのに効果がある。その効果は約1年もの長期保存を可能とするとともに、その間緩やかなPA蒸解及び漂白が進むので、長期保存の場合は改めてバガスに殆ど又は全く蒸解薬液による処理を行う必要がなくなり、直接ディスクリファイナー等で機械的に処理することで解繊と叩解が行え、白色度55〜75%で、好みによりろ水度を450〜750mlのパルプを対全バガス収率75〜90%で得ることができる。これは化学パルプ化法による収率(25〜30%)の約3倍に達する。
このようにして別々に得られるラインドパルプとピスパルプの2種のパルプは、単独で、もしくは好みの割合で配合し、強度増強用のパルプ例えばNBKP(針葉樹の晒KP)を20〜40%添加すれば、下級又は中質印刷用紙の製造を可能として、消費者に大量供給を可能とする。
【0022】
PA蒸解薬液2段処理の効果。本発明の未晒パルプは第1段目の処理で得られた未晒パルプは白色度が55〜65%もあって新聞用紙製造にそのまま配合できる。第2段目の処理で得られた未晒は白色度が60〜75%に達し、グラビア印刷用紙や教科書用紙以上の品質の印刷紙の製造にもそのまま配合できる。
【0023】
以下実施例をもって本発明をさらに説明する。ただし本発明は当該実施例ののみに限定されるものではない。ここでは(1)全バガスに対しての全収率80%以上で、(2)カナディアンろ水度450〜750ml(3)1段処理で白色度60%以上、2段処理で70%以上のパルプを製造可能であった実施例と、参考のため従来法のパルプ化による実験結果との比較を行った。
また特に指定しない限り(%)は重量%を指す。使用した薬品の量は原料の対絶乾物比(%)で表示。なお、過酸化水素はHとして表示、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの使用量は相互に比較するため等モルのNaOとして換算して表示、水ガラスは有り姿で表示した。なお、パルプ収率は絶乾パルプ対絶乾原料で示した。ろ水度はCSF(カナダ標準ろ水度)で表した。
【実施例1】
【0024】
固形分が50.5%の全バガス(ラインドとピスの混合物)を絶乾量として100kgをとり、乾式の振動篩でラインド65.2kg(絶乾量で)とピス32.6kg(絶乾量で)に分離した。
【0025】
ラインド1.00kgに対してはPA法の蒸解薬液(液比2.5L/kg、過酸化水素を2.0パーセント、炭酸ナトリウム を4%、水酸化ナトリウムを0.5% 、水ガラスを0.2%、DTPAを0.05%、アントラキノン0.02%)を加えてニーダーに入れ 95℃で30分間強強制攪拌した。得られた蒸解物はビーターで解繊し、白色度65.2%、CSF720mlのパルプを90.2%の収率(対全バガス収率60.1%)で得た。
ピスに対してはPA法の蒸解薬液(液比2.4L/kg、Hを2%、炭酸ナトリウム を4%、水ガラスを有り姿で0.2% 、DTPAを0.05% )を加えてニーダーに入れ75度で30分間強強制攪拌した。得られた蒸解物はディスクリファイナーで解繊し白色度62.2%、ろ水度650mlのパルプを85.4%の収率(対全バガス収率28.5%)で得た。全パルプの対全バガスの収率で88.6%であった。
【0026】
本発明と従来の最も代表的パルプ化法であるKP法と比較を試みた。全バガスから分離されたらラインドを絶乾量として1.0kg相当を取り、ステンレス製オートクレーヴに入れ、KP法の蒸解薬液(液比5.0 l/kg、全アルカリNaOとして18%、硫化度25%、)を加えて最高温度170℃で90分間保持して蒸解し、ろ水度590ml、白色度18.2%の暗褐色の精選未晒パルプを収率44.5%)で得た。精選未晒パルプは塩素化―アルカリ抽出―次世亞塩素酸塩処理―二酸化塩素処理の4段漂泊で、ろ水度CSF320ml、白色度81.5%の晒パルプを収率42.3%で得たが、対全バガス晒パルプ収率で表すと28.2%で、本発明と比べて1/3 以下であった。KP法はパルプを高収率で求める方法として不適である。
【0027】
本発明と代表的な高収率パルプ化法として知られているNSSCP法(中性亜硫酸セミケミカル法)との比較を試みた。ラインドを絶乾量として1.0kg相当をステンレス製オートクレーヴに入れ、これにNSSCP法(中性亜硫酸セミケミカル法)の蒸解薬液(液比4.5L/kg、亜硫酸ナトリウムをNaOとして12.0%、炭酸ナトリウムをNaOとして4.0%)を加えて回転式オートクレーヴに入れ165℃で30分間蒸解した。得られた蒸解物はディスクリファイナーで解繊し、褐色で白色度29.8%、ろ水度650ml のパルプを78.2%の収率で得た。
このようにNSSCP法は、BKPより収率、ろ水度は高く、白色度もUKPよりはるかに高いが、白色度が29.8%のパルプでは漂白しなければ印刷用紙の原料パルプとして到底使えず、収率も対全バガスで表示すると収率が52.1%にしかならない。NSSCP法は印刷用紙用のパルプの製造方法として不適である。
【実施例2】
【0028】
実施例1より更に高白色度のパルプを得るためPA蒸解薬液による2段処理を行った。第1段の工程で得られたパルプに対して第2段目の処理を行った。
ラインドに対してはKベースのPA法の蒸解薬液(液比3.3L/kg、過酸化水素を2パーセント、 炭酸カリウム を4パーセント、水酸化カリウムを0.5%、水ガラスを0.2% 、DTPAを0.05パーセント、アントラキノン0.05%)を加えてニーダーに入れ 90度で20分間強強制攪拌した。得られた蒸解物はディスクリファイナーで軽く解繊し一旦パルプ化した、このパルプに対して第2段目の処理を行った。すなわち、PA法の蒸解薬液(液比5.2L/kg、過酸化水素を2%、 炭酸カリウム を2%、水ガラスを0.2パーセント、DTPAを0.05パーセント、)を加えてニーダーを用い70度で20分間強強制攪拌し、白色度74.2%、ろ水度640ml のパルプを85.4%の収率で得た。
ピスに対しては同様の2段処理を行い、白色度78.2%、ろ水度620mlのパルプを90.0 %の収率で得た。ラインドパルプとピスパルプの合計を対全バガス収率で表すと84.0%であった。
【実施例3】
【0029】
原料の前処理方法。糖液とラインドと大量のピスの3つ成分からなる砂糖キビ及びスウィートソルガム等の植物原料からまず糖液を分離し、連続的かつ順調に薬液処理と、解繊処理ができるラインドとピスを得るための最も好適な連続的前処理方法を以下のように開発した。
砂糖キビの幹茎は木材チップ製造用のチッパーを用いて、斜めにかつ並行に切断し、さらに幹茎の上下に向かってに平行に切断し、約3.5cmの長さ、約5mmの厚みを持った砂糖キビのチップを得た。このチップはスクリュープレスで処理して破砕するとともに、糖液と全バガスとに固液分離した。バガスは逆流洗浄して残糖を稀糖液として回収し、更に湿式できれいなラインドとピスを分離収得した。このラインドとピスはそれぞれ形状が揃い、PA蒸解薬液を用いる連続処理と、ディスクリファイナー等による連続的な解繊と叩解が極めて容易になった。
【実施例4】
【0030】
図4は、ピスを大量に含むが搾汁を必要としないトウモロコシ及び高粱等のパルプ原料から連続的に薬液処理と、連続的に解繊処理ができる蒸解用原料のラインドとピスを得る方法として示す。トウモロコシを実施例3と同様チッパーで切断し、さらにチップを平行に切断し長さ約3.5cm、厚さ約5mmのチップにした。このチップはスクリュープレスで処理し組織を破壊し、さらに湿式分離法で71.5%のラインドと26.2%ピスを分離収得した。ラインドとピスはそれぞれPA蒸解薬液を用いて処理し、ディスクリファイナーで機械的に解繊し、ラインドパルプとピスパルプをそれぞれ容易に得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
ここでは砂糖キビに限らずラインドとピスの集合体を全バガスと呼んだ。
【図1】全バガスをラインドとピスに分離してそれぞれパルプ化した。
【図2】砂糖キビを予めチップ化して大きさを揃えてから搾汁し、形の揃ったバガスをラインドとピスに分離してそれぞれパルプ化した。
【図3】大量のピスを含み搾汁を要しない幹茎(トウモロコシおよびもろこし等)をチップ化して形の揃ったラインドとピスに分離しパルプ原料として利用
【符号の説明】
【0032】
1. 全バガス(ラインド+ピス)
2. 篩分け
3. ラインド
4. 高収率パルプ化
5. 精選
6. ラインド粕
7. ラインドパルプ
8. ピス
9. 高収率パルプ化
10. 精選
11. ピス粕
12. ピスパルプ
13.原料
14.チッパーで切断
15.茎に平行に切断
16.搾汁
17.糖液
18.バガス(ラインド+ピス)
19. 原料(ソルガム、トウモロコシ等)
20. チッパーで切断
21. 茎に平行に切断
22. バガス(ラインド+ピス)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインド(皮)と大量のピス(髄質)からなる植物繊維原料をラインドとピスに篩分け、ラインドとピスのそれぞれをPA蒸解薬液(過酸化水素のアルカリ溶液に少量の助剤を加えた液)で軽度の処理をし、さらに軽度の機械的解繊をすることを特徴とする、かなり高い白色度で、適度のろ水性を有する印刷用紙用のパルプを極めて高収率で得る方法。
【請求項2】
大量にピスと糖液を含む幹茎をチッパーで処理して、得られたチップを所望により薄片に削り、さらに搾汁して、糖液とバガスを分取し、バガスは篩分けしてラインドとピスを精密に分取し、ラインドとピスはそれぞれパルプ化に供する請求項1の方法。
【請求項3】
大量にピスを含む幹茎をチッパーで処理して、得られたチップを所望により薄片に削り、さらに圧縮破砕後、篩分けしてラインドとピスを精密に分取し、ラインドとピスをそれぞれパルプ化に供する請求項1の方法。
【請求項4】
篩分けして得られる、ラインドとピスにそれぞれPA蒸解薬液及び又はPA蒸解廃液を加えて防腐貯蔵し、それぞれパルプ化に供する請求項1、請求項2、および請求項3の方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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