説明

印刷装置の送り制御方法および印刷システム

【課題】媒体送り部おける、記録媒体の送り開始からトルクバランスが安定するまでの不安定な送りを解消することができる印刷装置等を提供する。
【解決手段】第1送り部21と第2送り部22とにより記録媒体4を送る媒体送り部14と、媒体送り部14に対し媒体送り方向下流側に配設した印刷部15と、を備え、印刷部15の駆動に同期して、媒体送り部14により記録媒体4を送ることで印刷が行われる印刷装置2の送り制御方法であって、記録媒体4の送り量差によって生ずる第1送り部21と第2送り部22とのトルクバランスが安定した状態の定常単位送り量を基準送り量とし、記録媒体4の送り開始からトルクバランスが安定するまでの初期単位送り量を、基準送り量と同一となるように補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体送り方向に離間して配設された第1送り部および第2送り部により、記録媒体を送る印刷装置の送り制御方法および印刷システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の印刷装置として、ヘッド部を挟んで上流側のトラクター機構部と下流側の排出ローラーとで、印字用紙(記録媒体)を送るプリンター装置が知られている(特許文献1参照)。このプリンター装置では、印字用紙の初期送り込み時に、トラクター機構部と排出ローラーとの間に生ずる印字用紙のたるみを取るために、予め試験的に求めた補正値により段階的に紙送り量を変化させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−16656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のプリンター装置において、排出ローラーをヘッドの上流側近傍に配置し、排出ローラーの紙送り量(送り速度)をトラクター機構部の紙送り量(送り速度)より僅かに多くすれば、印字用紙(記録媒体)を、たるみをとった後、ヘッド部に送り込むことができる。すなわち、印字用紙のたるみによる印刷への影響を排除することができると共に、上記の紙送り量の補正制御を必要としない。
しかし、このように構成しても、トラクター機構部のガタ等により、トラクター機構部と排出ローラーとのトルクバランスが安定せず、印字用紙の初期送り込み時には、排出ローラーの紙送り量が僅かに多くなる分、過剰に紙送りが行われる虞がある。
【0005】
本発明は、媒体送り部おける、記録媒体の送り開始からトルクバランスが安定するまでの不安定な送りを解消することができる印刷装置の送り制御方法および印刷システムを提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷装置の送り制御方法は、互いに送りトルクが異なる第1送り部と第2送り部とにより記録媒体を送る媒体送り部を備えた印刷装置の送り制御方法であって、記録媒体の送り量差によって生ずる第1送り部と第2送り部とのトルクバランスが安定した状態の定常単位送り量を基準送り量とし、記録媒体の送り開始からトルクバランスが安定するまでの初期単位送り量を、基準送り量と同一となるように補正することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、記録媒体の送り開始からトルクバランスが安定するまでの初期単位送り量を、基準送り量と同一となるように補正するようにしているため、第1送り部および/または第2送り部のスリップやガタ等に基づく不安定な送りを解消することができる。これにより、印刷品質の悪化を防止することができる。
【0008】
この場合、記録媒体として、材質の異なる複数種のものが用意されており、送り開始からトルクバランスが安定するまでの記録媒体の送り量は、記録媒体の種別毎に規定されていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、第1送り部および/または第2送り部のスリップやガタに加え、記録媒体の種類により異なる伸びに基づく不安定な送りを解消することができる。
【0010】
一方、 前記媒体送り部に対し媒体送り方向下流側に配設した印刷部を有し、印刷部の主走査と、媒体送り部の間欠送りとなる副走査とにより、記録媒体に印刷が行われ、初期単位送り量の補正は、副走査における間欠送りの単位で行われることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、改行(副走査)により生ずる筋状のドット抜けやドットの重複等の、印刷品質の悪化を有効に防止することができる。
【0012】
また、第1送り部は、媒体送り方向上流側に配設したトラクター機構で構成され、第2送り部は、トラクター機構に対し送り方向下流側に離間して配設したニップローラー機構で構成され、前記ニップローラー機構は前記トラクター機構より送りトルクが大きいように構成されていることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、トラクター機構のガタ等に基づくニップローラー機構の不安定な送りを防止することができ、印刷品質の悪化を有効に防止することができる。
【0014】
本発明の印刷システムは、互いに送りトルクが異なる第1送り部と第2送り部とを有し、第1送り部と第2送り部とにより記録媒体を送る媒体送り部と、記録媒体に印刷する印刷部と、を備えた印刷システムであって、媒体送り部および印刷部を制御する制御部を備え、制御部は、記録媒体の送りに際し、記録媒体の送り量差によって生ずる第1送り部と第2送り部とのトルクバランスが安定した状態の定常単位送り量を基準送り量とし、記録媒体の送り開始からトルクバランスが安定するまでの初期単位送り量を、基準送り量と同一となるように補正することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、記録媒体の送り開始からトルクバランスが安定するまでの初期単位送り量を、基準送り量と同一となるように補正するようにしているため、第1送り部および/または第2送り部のスリップやガタ等に基づく不安定な送りを解消することができる。これにより、印刷品質の悪化を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る印刷システムの説明図である。
【図2】補正の目標値を表した図(a)、および補正方法を表した図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態に係る印刷システムについて説明する。
図1は、印刷装置を主体とする印刷システムの説明図であり、同図に示すように、印刷システム1は、インクジェットプリンタで構成された印刷装置2と、インターフェースを介して印刷装置2に接続されたホストコンピューター3と、を備えている。印刷装置2は、スプロケット孔付き記録媒体(以下、「記録媒体」という。)4を印刷対象物とし、ホストコンピューター3から受信した印刷ジョブに基づいて印刷を実施すると共に、制御コマンドに基づいて所望の媒体送り動作(紙送り動作)を実施する。なお、実施形態の印刷装置2は、記録媒体4として、ミシン目付きの連続紙のみならず、単票紙(いずれもスプロケット孔付き)も導入可能に構成されている。
【0018】
図1に示すように、印刷装置2は、給紙口11から排紙口12に向かって略水平に延在する送り経路13を備えると共に、この送り経路13に沿って、給紙口11側から順に、媒体送り部14、印刷部15および排紙部16を備えている。また、印刷装置2は、これら媒体送り部14、印刷部15および排紙部16等を制御すると共にホストコンピューター3とリンク(接続)するコントローラー17を備え、コントローラー17は、CPU18の他、ROMおよびRAM等の記憶部19を有している。
【0019】
媒体送り部14は、スプロケット孔に係合して記録媒体4を送るトラクター機構21と、トラクター機構21と協働して記録媒体4を送るニップローラー機構22と、トラクター機構21およびニップローラー機構22を同時に駆動する単一のフィードモーター23と、フィードモーター23の動力をトラクター機構21およびニップローラー機構22に伝達するベルト伝動機構24と、を有している。また、ニップローラー機構22は、駆動ローラー27と従動ローラー28から成るニップローラー26を有すると共に、ニップローラー26による記録媒体4の送り量を検出するエンコーダー29を有している。
【0020】
トラクター機構21は、給紙口11の下流側近傍に配設され、ニップローラー機構22は、印刷部15の上流側近傍に配設されていて、トラクター機構21とニップローラー機構22とは、記録媒体4の送り方向に離間して配設されている。このため、記録媒体4は、トラクター機構21からニップローラー機構22に受け渡すようにして送られる。この場合、トラクター機構21の媒体送り速度に比して、ニップローラー機構22の媒体送り速度が僅かに速く、送りトルクが大きくなるように設計されており、記録媒体4を張った状態で送るようになっている。このとき、ニップローラー機構22は、トラクター機構21の媒体送り速度に合わせるように、ベルト伝動機構24から駆動ローラー27までの間の伝達機構にクラッチ等の滑る機構を備えている。また、トラクター機構21とニップローラー機構22との間には、記録媒体4の送りを送り経路13に沿ってガイドする媒体ガイド31が配設され、更に媒体ガイド31の下流側に位置して、記録媒体4の先端或いは尾端を検出する媒体端検出センサー32が配設されている。さらに、トラクター機構21には、記録媒体4の有無(セット状態)を検出する媒体検出センサー33が組み込まれている。
【0021】
印刷部15は、キャリッジ41に下向きに搭載したインクジェットヘッド42と、キャリッジ41を介してインクジェットヘッド42を、記録媒体4の送り方向と直交する方向(記録媒体4の幅方向)に往復動させるキャリッジ移動機構43と、インクジェットヘッド42の直下に位置し、インクジェットヘッド42のノズル面42aに所定のギャップを存して平行に対峙する媒体支持板(プラテン)44と、を備えている。キャリッジ41には、インクジェットヘッド42の上側に位置してインクカートリッジ(図示省略)が搭載されており、インクカートリッジからインクジェットヘッド42にインクが供給される。インクジェットヘッド42のノズル面42aには、複数の吐出ノズル45aを媒体送り方向に列設したノズル列45(実際には、色別複数のノズル列)が設けられると共に、ノズル列45から上流側の外れた位置に、主として記録媒体4の幅を検出する幅検出センサー46が設けられている。
【0022】
キャリッジ移動機構43は、記録媒体4の幅方向に延在し、キャリッジ41をスライド自在に支持する2本のガイドロッド51,51と、一部をキャリッジ41に固定したタイミングベルト52と、タイミングベルト52を正逆両方向に走行させるキャリッジモーター53と、を有している。キャリッジモーター53が正逆回転すると、タイミングベルト52を介して、2本のガイドロッド51,5に案内されたキャリッジ41が記録媒体4の幅方向に往復動する。この往復動の往動および/または復動に同期して、インクジェットヘッド42を吐出駆動することにより、記録媒体4に印刷が行われる(いわゆる主走査)。
【0023】
排紙部16は、記録媒体4を挟持しスリップしながら回転送りする、駆動側の排紙駆動ローラー62および従動側のスターホイール63から成る排紙ローラー61と、排紙駆動ローラー62を回転させる排紙モーター64と、を備えている。下側に位置する排紙駆動ローラー62は、記録媒体4の裏面に転接し記録媒体4に送り力を付与する一方、上側に位置するスターホイール63は、排紙駆動ローラー62側に付勢された状態で、自由回転しながら記録媒体4の記録面(表面)に転接する。この場合、排紙駆動ローラー62の媒体送り速度に比して、ニップローラー機構22の媒体送り速度が僅かに遅くなるように設計されており、記録媒体4は、排紙駆動ローラー62のスリップ回転により、張りを与えられた状態で上記の媒体支持板44に添うようにして送られ、更に排紙口12から装置外部に送り出される(排紙)。
【0024】
ここで、ホストコンピューター3の印刷ジョブおよび制御コマンドに基づいて、コントローラー17により実施される印刷装置2の基本制御動作について説明する。
先ず、ユーザーがトラクター機構21に記録媒体4をセットした後、機構系の初期化が実施される。この初期化は、媒体送り部14等を覆っている印刷装置2の蓋体(図示省略)を閉塞すること、或いは蓋体を閉塞した後の釦操作で開始される。初期化が開始されると、媒体検出センサー33による記録媒体4の「有」検出を前提として、共通の駆動源であるフィードモーター23を介してトラクター機構21およびニップローラー機構22が駆動を開始する。これにより、トラクター機構21にセットされた記録媒体4は、送り経路13に沿って、媒体ガイド31、ニップローラー機構22、更に印刷部15に送られる。より具体的には、トラクター機構21から送り出されてゆく記録媒体4は、その先端を媒体端検出センサー32により検出され、この先端検出から所定送りステップ数送ったところで停止する。これにより、記録媒体4はその先端が、インクジェットヘッド42のノズル列45における下流側最外端に位置する、いわゆる1番ノズル(1番目の吐出ノズル45a)の位置、すなわち初期化位置48に停止する。
【0025】
続いて、キャリッジ41が記録媒体4を横断するように1往復し、インクジェットヘッド42に設けられた幅検出センサー46が、記録媒体4の幅を検出する。この検出結果は、ホストコンピューター3における記録媒体4の設定結果と照合される(合わないときには、設定変更或いは記録媒体4の交換が促される)。一方、キャリッジ41は、元の位置に戻ったところで図外のセンサーにより位置検出される。これにより、インクジェットヘッド(キャリッジ41)42のホーム位置が確定する。このようにして、機構系の初期化が行われる。
【0026】
続いて、印刷指令が発令(印刷ジョブ)されると、予め上余白が設定されている場合には、上余白部の記録媒体4の送りが実施された後、印刷動作に移行する。印刷動作では、停止状態の記録媒体4に対し、インクジェットヘッド(キャリッジ41)42が往動しながら、印刷データーに基づいてインク吐出(印刷:主走査)を実施する。この印刷幅は、インクジェットヘッド42のノズル列45の長さ分となっており、続くインクジェットヘッド42の復動に先立って、トラクター機構21およびニップローラー機構22に加え排紙ローラー61が駆動して、記録媒体4をノズル列45の長さ分(厳密には、ノズル列長+1ノズルピッチ)送る(改行送り:副走査)。このノズル列45分の改行送り(間欠送り)が完了したら、インクジェットヘッド42が復動に移行し、往動時と同様に印刷(インク吐出)を実施する。
【0027】
このようにして、インクジェットヘッド42の往復動に伴うインク吐出(主走査)と、記録媒体4の間欠送り(改行送り:副走査)とが繰り返されることにより、記録媒体4に印刷データーに基づく所望の印刷が行われる。一方、記録媒体4の印刷済み部分は、排紙ローラー61によりスリップ送りされながら、排紙口12から装置外部に送り出されてゆく。
ここで、記録媒体4が単票紙である場合には、記録媒体4の尾端が排紙ローラー61を越えたところで(例えば媒体端検出センサー32の尾端検出から所定の送りストップ数送る)、排紙ローラー61等の駆動を停止し、印刷動作を終了する。
【0028】
一方、記録媒体4が連続紙である場合には、最終の主走査が終了し(実印刷終了)、ミシン目単位で印刷済み部分が排紙口12の外に送り出されたところで、排紙ローラー61等の駆動を停止する。ここで、ユーザーは、ミシン目を利用して記録媒体4の印刷済み部分を切り離し、釦操作等により記録媒体4の逆送りを指令する。逆送りが指令されると、トラクター機構21、ニップローラー機構22および排紙ローラー61が逆転し、記録媒体4はその先端がトラクター機構21に位置、すなわち媒体検出センサー33により先端検出されるところまで引き戻される(頭出し)。そして、連続紙の場合には、ここで印刷動作が終了する。以降、ユーザーは、上記と同じ動作を指令し、或いは記録媒体4を交換(用紙交換)した後、上記と同じ動作を指令することになる。
【0029】
ところで、記録媒体4が上記の初期化位置48に停止している状態から、印刷のための改行送りを実施すると、数回の改行送りが行われる間、記録媒体4の過剰な送りが為されてしまうことが確かめられている。上述のように、記録媒体4は、共通するフィードモーター23で同時に駆動するトラクター機構21(第1送り部)およびニップローラー機構22(第2送り部)で送られ、且つニップローラー機構22の方が送り速度が幾分速いため、トラクター機構21のガタや記録媒体4の伸び等により、両者のトルクバランスが安定するまで、記録媒体4の過剰送りが発生するものと考えられる。本実施形態の媒体送り部14では、トラクター機構21とニップローラー機構22とのトルクバランスが安定した状態での単位送り量を基準として、改行送りが実施される。このため、送り開始から両者のトルクバランスが安定するまでの間、ニップローラー機構22のトルクが勝って、改行送りにおける過剰送りが発生する。
【0030】
トラクター機構21は、駆動プーリー71と従動プーリー72との間にスプロケットベルト73を掛け渡した構造であり(図1参照)、角棒状の駆動軸74と駆動プーリー71との嵌め合いにおける寸法公差やスプロケットベルト73の伸び、或いは駆動プーリー71とスプロケットベルト73との滑り等、いわゆるメカ的なガタを有している。また、記録媒体4は、その材質等により伸びが異なっている。このため、記録媒体4の送り開始(初期化位置48から送り開始)から所定量送るまでは、このガタや伸びにより、トラクター機構21とニップローラー機構22とのトルクバランスが安定せず、過剰送りとなる。
【0031】
実際の改行送りでは、上記のエンコーダー29の検出結果に基づいて、送り開始から改行送りの送り量に相当する送りステップ数をカウントダウンし、これがゼロになったところで、送りを停止するが、過剰送りが発生すると、改行前後の印刷結果に横断方向のスジが発生する。このスジの幅寸法が剰送り分として把握される。
そこで、本実施形態では、送り開始からトルクバランスが安定するまでの所定の送り区間(補正送り区間L)において、その送り量を補正し、過剰送りを解消するようにしている。
【0032】
図2(a)は、記録媒体4別に表した、トルクバランスが安定するまで記録媒体4の送り量(補正送り区間L)と、その際の剰送りを解消するため補正量とを表している。同図に示すように、記録媒体4が「薬袋紙」の場合には、送り開始から5.2インチ(補正送り区間L)送るまでに0.016インチ、補正するようになっている。同様に、「普通紙」では、送り開始から10インチ(補正送り区間L)送るまでに0.031インチ、補正するようになっている。いずれにあっても、補正送り区間Lにおいて、1インチ当り約0.003インチの補正量となる。実際の改行送りでは、約1インチの間欠送りとなるため、補正送り区間Lでは、各間欠送り毎に約0.003インチの補正を行うことになる。
【0033】
図2(a)に示す記録媒体4別の数値や、以下に示す制御方法(図2(b))は、上記のコントローラー17に搭載されている記憶部19に制御テーブル等として記憶されており、ホストコンピューター3からの制御コマンド、例えば記録媒体4の種別コマンドに基づいて、以下の制御が実施される。
【0034】
図2(b)は、印刷動作における記録媒体4別の送り制御方法を表している。この例では、「薬袋紙」および「普通紙」のいずれも2ページに亘って印刷を行う場合を表しており、いずれも1ページの長さ(ミシン目間の距離)が7.5インチである。「薬袋紙」の補正送り区間Lは5.2インチであり、1ページの長さが7.5インチであるため、「薬袋紙」では、最初の1ページ目において必要される0.016インチの補正を実施する。1ページの長さが7.5インチであり、改行送りの回数(整数:7−1=6回)を加味すると、1ページの中の7.058インチが印刷領域であり、印刷のための送り量(「1ページ目改行指令量」)である。したがって、7.058インチの送りにおいて、比例配分的に0.016インチ(6回の各間欠送りごとに約0.003インチ)の補正を実施する。すなわち、エンコーダー29に基づいて、7.042インチ分の送り(「補正した改行実施量合計」)を実施する。
【0035】
その後、ミシン目を跨いで2ページに移るが、この改ページのための送り量である0.441インチは、既に補正送り区間Lを越えて送られているため、補正は行わない。同様に、2ページ目の送りおよびこれに続く改ページのための送りにおいても、補正は行わない。
【0036】
一方、「普通紙」では、補正送り区間Lは10インチであり、1ページの長さが7.5インチであるため、1ページ目から2ページ目にかけて必要される計0.031インチの補正を実施する。この場合には、補正送り区間Lの10インチのうちの1ページ目における送り量、続く改ページにおける送り量、2ページ目における送り量で、補正量0.031インチを比例配分し、1ページ目の補正量を0.022インチ、改ページの補正量を0.001インチ、2ページ目の補正量を0.008インチとしている。
【0037】
したがって、1ページ目の送りでは、「薬袋紙」の場合と同様に、7.058インチの送りにおいて、比例配分的に0.022インチ(各間欠送りごとに約0.003インチ)の補正を実施する。すなわち、制御上、7.036インチの送りを実施する。続く改ページでは、0.441インチの送りにおいて、0.001インチの補正を行い、制御上、0.440インチの送りを実施する。さらに、2ページ目の送りでは、7.058インチの送りにおいて、0.008インチの補正を行い、制御上、7.050インチの送りを実施する。もっとも、2ページ目の補正量は、0.008インチなので、実質的には、最初の3回の間欠送りで補正を実施し(各間欠送りごとに約0.003インチ)、残りの3回の間欠送りでは補正を行わない。
【0038】
このように、記録媒体4の送り開始からトラクター機構21とニップローラー機構22とのトルクバランスが安定するまでの、記録媒体4の補正送り区間Lにおいて、記録媒体4の送り量を基準の送り量と同一となるように補正しているため、トラクター機構21のガタや記録媒体4の伸び等に基づく過剰送りを解消することができる。これにより、改行境界部分にスジ等印刷むらが発生することがなく、印刷品質の悪化を防止することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、トラクター機構21およびニップローラー機構22の2つの送り部の関係で過剰送りを解消する制御方法について説明したが、本発明は、他の構造の2つの送り部において、過剰送りや送り不足を解消する制御方法に適用可能である。また、実施形態の印刷システム1を、一体の装置で構成することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 印刷システム、2 印刷装置、3 ホストコンピューター、4 記録媒体、13 送り経路、14 媒体送り部、15 印刷部、16 排紙部、17 コントローラー、19 記憶部、21 トラクター機構、22 ニップローラー機構、23 フィードモーター、24 ベルト伝動機構、26 ニップローラー、29 エンコーダー、41 キャリッジ、42 インクジェットヘッド、43 キャリッジ移動機構、48 初期化位置、61 排紙ローラー、L 補正送り区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに送りトルクが異なる第1送り部と第2送り部とにより記録媒体を送る媒体送り部を備えた印刷装置の送り制御方法であって、
前記記録媒体の送り量差によって生ずる前記第1送り部と前記第2送り部とのトルクバランスが安定した状態の定常単位送り量を基準送り量とし、
前記記録媒体の送り開始から前記トルクバランスが安定するまでの初期単位送り量を、前記基準送り量と同一となるように補正することを特徴とする印刷装置の送り制御方法。
【請求項2】
前記記録媒体として、材質の異なる複数種のものが用意されており、
前記送り開始から前記トルクバランスが安定するまでの前記記録媒体の送り量は、前記記録媒体の種別毎に規定されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置の送り制御方法。
【請求項3】
前記媒体送り部に対し媒体送り方向下流側に配設した記印刷部を有し、
前記印刷部の主走査と、前記媒体送り部の間欠送りとなる副走査とにより、前記記録媒体に印刷が行われ、
前記初期単位送り量の補正は、前記副走査における間欠送りの単位で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷装置の送り制御方法。
【請求項4】
前記第1送り部は、前記媒体送り方向上流側に配設したトラクター機構で構成され、
前記第2送り部は、前記トラクター機構に対し前記送り方向下流側に離間して配設したニップローラー機構で構成され、前記ニップローラー機構は前記トラクター機構より送りトルクが大きいように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の印刷装置の送り制御方法。
【請求項5】
互いに送りトルクが異なる第1送り部と第2送り部とを有し、前記第1送り部と前記第2送り部とにより記録媒体を送る媒体送り部と、
前記記録媒体に印刷する印刷部と、を備えた印刷システムであって、
前記媒体送り部および前記印刷部を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記記録媒体の送りに際し、
前記記録媒体の送り量差によって生ずる前記第1送り部と前記第2送り部とのトルクバランスが安定した状態の定常単位送り量を基準送り量とし、
前記記録媒体の送り開始から前記トルクバランスが安定するまでの初期単位送り量を、前記基準送り量と同一となるように補正することを特徴とする印刷システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−40004(P2013−40004A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177419(P2011−177419)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】