説明

印刷装置及びその制御方法

【課題】印刷装置において印刷剤残量データの読み書きを頻繁に実行してもスループットを向上させる。
【解決手段】印刷剤を用いて印刷を行う印刷装置において,印刷剤の残量データが記憶される第1メモリと,印刷剤の残量を監視して印刷剤の消費ごとに残量データを更新する印刷剤残量管理タスクと,印刷実行に関するその他タスクと,第1メモリにデータを読み書きするメモリ管理タスクとを切り替えて実行する。また印刷剤残量管理タスクでデータの読み書きが可能な第2メモリに残量データを記憶する。その他タスクで第1メモリにデータの読み書きをする場合は,メモリ管理タスクを実行する。印刷剤残量管理タスクでは第2メモリから残量データを読み出し,第2メモリに更新された残量データを書き込み,かつメモリ管理タスクを実行して第1メモリに更新された残量データを書き込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,印刷剤の残量データをメモリに記憶する印刷装置及びその制御方法に関し,特に,印刷剤の残量データの読み書きを行うタスクと,メモリへのデータの読み書きを行うタスクと,その他のタスクとを交互に切り替えて実行する印刷装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクなどの印刷剤を吐出して印刷用紙に印刷を行うインクジェット式印刷装置では,インクカートリッジ内のインク終了時期を検出してインクカートリッジの交換をユーザに促すために,インク残量の変化を監視することが求められる。そのための方法として,インクが充填されたインクカートリッジが装着された時点からインクカートリッジ内のインク残量をメモリなどに記憶しておき,インク消費ごとにインク滴の吐出を積算してインク消費量を求め,インク消費前のインク残量からインク消費量を減算することによりインク残量データを逐次更新してメモリに記憶するインク残量の管理方法が提案されている。
【0003】
上記のような方法でインク残量を管理するインクジェット式印刷装置では,インクジェット式印刷装置の電源がオフにされた場合でもインク残量データが保持される必要があるので,EEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)などの不揮発性メモリにインク残量データが記憶される。例えば,インク残量データが記憶されるEEPROMをインクカートリッジに設けたインクジェット式印刷装置の例が特許文献1に記載されている。
【0004】
かかるインクジェット式印刷装置では,インク終了時期を適時に検出してユーザに通知できるように,印刷の実行中においてもインク残量がインク終了閾値を下回ったかを監視したり,インクが消費されたときはインク残量データを更新したりする印刷剤残量管理タスクが頻繁に実行される。よって,印刷剤残量管理タスクがインク残量データの読出しや更新を行うために,EEPROM,あるいはその記憶内容の複製を記憶(ミラーリング)するミラーメモリに対し,頻繁にインク残量データの読み書きが発生する。
【特許文献1】特開2001−315323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,インクジェット式印刷装置においては,印刷実行に際し画像処理タスクや印刷タスクといった印刷剤管理タスク以外の種々のタスクが交互に切り替えて実行される。そして,これらのタスクの実行に必要な各種情報,例えばインク滴を吐出するインクジェットヘッドのノズルのハード特性を補正する情報や,電源がオフされたときの紙詰まりの有無といった直前の動作状況などがEEPROMに記憶される。よって,こうした種々のデータの書き込みにEEPROMの領域を割り当て,データの不整合が生じないようにするために,EEPROMへのデータの読み書き,またはミラーメモリへの読み書きはメモリ管理専用のタスク(メモリ管理タスク)により一元的に行われる。
【0006】
すると,上記のように印刷剤残量管理タスクから頻繁にEEPROMやミラーメモリへの読み書きが発生すると,その度に印刷剤残量管理タスクからメモリ管理タスクにタスク切り替えがなされてメモリ管理タスクによりデータの読み書きが実行される。このように,印刷ジョブの最中であっても,タスク間でCPU資源の割り当ての切り替えが発生するため,タスク切り替え時間が生じ,印刷装置のスループットが低下するという問題が生じていた。
【0007】
そこで,本発明の目的は,インクなどの印刷剤の残量データを頻繁に読み書きしてもスループットを向上させることができる印刷装置及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために,本発明の第1の側面によれば,印刷剤を用いて印刷を実行する印刷装置において,前記印刷剤の残量データが記憶される第1メモリと,前記印刷剤の残量を監視して印刷剤の消費ごとに前記残量データを更新する印刷剤残量管理タスクと,印刷実行に関するその他タスクと,前記印刷剤残量管理タスク及び前記その他タスクの要求に応じて前記第1メモリにデータを読み書きするメモリ管理タスクとを切り替えて実行するタスク実行手段と,前記メモリ管理タスクによらずに前記印刷剤残量管理タスクでデータの読み書きが可能な,前記残量データを記憶する第2メモリとを有し,前記タスク実行手段は,前記その他タスクで前記第1メモリにデータの読み書きをする場合は,前記メモリ管理タスクを実行することにより当該データの読み書きを行い,前記印刷剤残量管理タスクで前記印刷剤の残量監視を行う場合は前記第2メモリから前記残量データを読み出し,前記第2メモリに更新された残量データを書き込み,かつ前記メモリ管理タスクを実行して前記第1メモリに当該更新された残量データを書き込むことを特徴とする。
【0009】
上記側面によれば,タスク実行手段はメモリ管理タスクを実行することなく印刷剤残量管理タスクで第2メモリから印刷剤の残量データを読み出すので,残量データの読出しにかかる印刷剤残量管理タスクとメモリ管理タスクとの切り替え時間が削減でき,印刷装置のスループットを向上させることが可能となる。 上記側面の好ましい態様によれば,前記残量データは印刷剤の色ごとに記憶され,前記タスク実行手段は,前記印刷剤の色ごとに前記第2メモリから前記残量データを読み出し,前記メモリ管理タスクを実行して前記印刷剤の色ごとに前記第1メモリへ更新された残量データを書き込むことを特徴とする。よって,第2メモリに記憶される残量データと更新されるべき残量データとが同じである印刷剤の色については更新された残量データが第1メモリへ書き込まれないので,その分更新された残量データの書き込みにかかる印刷剤残量管理タスクとメモリ管理タスクとの切り替え時間が削減でき,さらにスループットを向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下,図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し,本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0011】
図1は,本実施形態における印刷装置の構成図である。この印刷装置は例えば印刷剤としてインクを用いるインクジェット式印刷装置である。このインクジェット式印刷装置は,紙送りモータ140により回転駆動して印刷用紙160を搬送する紙送りローラ130と,駆動ベルト122によりキャリッジモータ120と接続され,キャリッジモータ120の回転駆動力により印刷用紙160の搬送方向と直角の方向へ摺動軸150に沿って往復動作するキャリッジ85とを有する。
【0012】
キャリッジ85にはノズル開口からインク滴の吐出を行うインクジェットヘッド70と,インクジェットヘッド70へインクを供給するインクカートリッジ80とが搭載される。インクカートリッジ80は,C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),K(ブラック),lc(ライトシアン),lm(ライトマゼンタ)のインク色ごとに設けられる6個のインクカートリッジからなる。これらインク色ごとのインクカートリッジはインク終了にともない交換可能なようにインクジェットヘッド70に着脱可能に設けられる。
【0013】
制御部10は制御プログラムを格納するROM14と,ROM14の制御プログラムに従って第2のRAM19を作業領域として用い後述する各種のタスクを実行するCPU12とを有する。よってCPU12は「タスク実行手段」に対応する。CPU12による各種のタスク実行に必要なデータ,及びインクカートリッジ80のインク残量のデータはEEPROM18に記憶される。そしてCPU12は後述するように第1のRAM16をミラーメモリとして用い,第1のRAM16を介してEEPROM18にデータの読み書きを行う。また制御部10は,パーソナルコンピュータなどのホストコンピュータから印刷データ19を受信するインターフェース20,ユーザに対するインク終了などの各種通知を表示させる表示部62,電源の供給状態を監視する電源監視部61,及び印刷装置各部へ駆動信号を送出する駆動制御部50を有する。
【0014】
CPU12は後述の各種タスクを実行してホストコンピュータから受信する印刷データ19を処理して駆動制御部50に画像等の印刷実行を指示する。駆動制御部50はこれに応答して駆動信号をキャリッジモータドライバ50a,紙送りモータドライバ50b,及びインクジェットヘッドドライバ30に入力し,これに対応してキャリッジモータドライバ50aはキャリッジモータ120を,紙送りモータドライバ50bは紙送りモータ140を,インクジェットヘッドドライバ30はインクジェットヘッド70をそれぞれ駆動する。その結果として,紙送りローラ130が印刷用紙160を搬送しながら,その搬送方向と直角方向にインクジェットヘッド70が印刷用紙160を走査しつつ印刷すべき画像の画素に対応したインク滴をノズル開口から印刷用紙160に吐出して,印刷ジョブが実行される。
【0015】
また,インクジェットヘッド70のインク滴の吐出は,増粘したインクによるノズル開口の目詰まりを防止するために,駆動制御部50からの駆動信号により印刷とは関係なくある一定の頻度で行われる(フラッシング)。また,同じくノズル開口の目詰まりを防止するために,駆動制御部50からの駆動信号に対応してポンプモータドライバ50cから与えられる駆動信号によりポンプ75が駆動され,ポンプ75に連通するキャップ76によりノズル開口の増粘したインクの吸引(クリーニング)が行われる。
【0016】
図2はタスク実行手段であるCPU12により実行されるタスクを模式的に説明する図である。CPU12では,ジョブ制御タスク12b,画像処理タスク12a,印刷タスク12c,印刷剤残量管理タスク12d,及びメモリ管理タスク12eなどの各種タスクがオペレーティングシステム12fにより交互に切り替えられて実行される。各タスクはCPU12の割り当てを得て次に説明するような処理を実行し,その結果として駆動制御部50から駆動信号が送出されて,インクジェット式印刷装置が動作する。なお,これらの代表的なタスクの他にも,CPU12では図示されない種々のタスクが実行される。
【0017】
ジョブ制御タスク12bは,インターフェース20により受信されるホストコンピュータからの印刷データ19から印刷コマンド20bを取り出し,印刷コマンド20bに基づいて画像処理タスク12a,印刷タスク12c,印刷剤残量管理タスク12dにそれぞれの処理の実行・中止などを指示し,各タスクの処理手順を制御する。
【0018】
画像処理タスク12aは,印刷データ19から画像データ20aを取り出し,画像データ20aの画素をインクジェットヘッド70のノズル開口の配列により印刷可能なように並び変え,画素が並び替えられた画像データを印刷タスク12cへ渡す。
【0019】
印刷タスク12cは,駆動制御部50を制御することによりキャリッジモータドライバ50a,紙送りモータドライバ50bを駆動制御し,その結果上述した印刷用紙160の搬送動作,キャリッジ85の往復動作が実行される。また印刷タスク12cは,駆動制御部50を制御することによりインクジェットヘッドドライバ30を駆動制御して画像処理タスク12aから受け取った画像データの画素に対応するインク吐出をインクジェットヘッド70に実行させたり,インクジェットヘッド70のノズル開口の目詰まりを解消するためのインク吐出,つまりフラッシングをインクジェットヘッド70に実行させたりする。また印刷タスク12cは,駆動制御部50を制御することによりポンプモータドライバ50cを駆動制御してポンプ75にクリーニングを実行させる。さらに印刷タスク12cは,駆動制御部50がインクジェットヘッドドライバ30へ送出する駆動信号に対応してC,M,Y,K,lc,lmのインク色ごとにインク滴の吐出をカウントし,カウント値を第2のRAM19に記憶する。
【0020】
上記のジョブ制御タスク12b,画像処理タスク12a,及び印刷タスク12cは本実施形態の「その他タスク」に対応する。また,「その他タスク」には,これら代表的なタスク以外の図示されない種々のタスクが含まれてもよい。
【0021】
印刷剤残量管理タスク12dは,インク消費のたびにインク消費量の計算を行う。例えば,印刷用紙160に対してインクジェットヘッド70による一方向への移動動作,つまり1パス分の移動動作における印刷が実行される度,または1ページ分の印刷開始時や不図示のタイマによる一定周期の割り込みなどのタイミングでフラッシングやクリーニングが実行される度に,インク消費量が計算される。そして印刷剤残量管理タスク12dは,計算されたインク消費量に基づいて後述するようにEEPROM18に格納されるインク残量データの更新を行う。
【0022】
また印刷剤残量管理タスク12dは,インク残量データの更新後やタイマによる一定周期ごと,あるいはホストコンピュータのプリンタドライバからインク残量通知要求を受けた場合などに,それぞれのインク色ごとにEEPROM18から読み出されるインク残量とインク終了閾値を比較してインク終了判定を行う。そして印刷剤残量管理タスク12dは,インク残量がインク終了閾値を下回ったインク色について,表示部62にその色のインク終了を通知する表示を行わせ,ユーザにインクカートリッジの交換を促す。このように,印刷剤残量管理タスク12dはインク残量の監視とインク残量データの更新を含むインク残量管理を行う。
【0023】
メモリ管理タスク12eは,上記ジョブ制御タスク12b,画像処理タスク12a,印刷タスク12c,印刷剤残量管理タスク12dなどのタスクの要求に応じてEEPROM18へのデータの読み書きを行う。不揮発性メモリであるEEPROM18には,インクジェット式印刷装置が印刷動作を実行するために必要な,電源がオフになっても保持される必要があるデータが記憶される。かかるデータには,インクジェット式印刷装置の機種情報,インクジェット式印刷装置各部の動作状況,インクジェットヘッド70のノズルの補正情報,そしてC,M,Y,K,lc,lmのインク色ごとのインクカートリッジ80内のインク残量と各インク色のインク終了閾値などのデータが含まれる。
【0024】
メモリ管理タスク12eは,EEPROM18へのデータ読み書きに際し,EEPROM18よりアクセス速度の速い第1のRAM16の一部をミラーメモリとして用いる。すなわち,インクジェット式印刷装置の電源がオンになると,メモリ管理タスク12eは,EEPROM18に記憶されるデータの複製を第1のRAM16のミラーメモリ領域17へ書き込む(ミラーリング)。その際,第1のRAM16のミラーメモリ領域17は,画像処理タスク用データ領域17a,ジョブ制御タスク用データ領域17b,印刷タスク用データ領域17c,及び印刷剤残量管理タスク用データ領域17dに区分され,それぞれのデータ領域には対応する画像処理タスク12a,ジョブ制御タスク12b,印刷タスク12c,印刷剤残量管理タスク12dの各タスク用のデータが記憶される。
【0025】
そして,メモリ管理タスク12eはそれぞれのタスクの要求に応じて第1のRAM16のミラーメモリ領域17に対し目的のデータの読み書きを行う。さらに,インクジェット式印刷装置の電源がオフにされたことを電源監視部61が検知してCPU12のNMI(マスク不能割り込み)端子63に検知信号が送られると,メモリ管理タスク12eは第1のRAM16のミラーメモリ領域17に記憶されたデータをEERPROM18に書き込み,これによりEEPROM18の記憶内容が更新される。このように,本実施形態では,第1のRAM16のミラーメモリ領域17が「第1メモリ」に対応する。
【0026】
次に,各タスクからのRAM16のミラーメモリ領域17に対するデータの読み書きについて説明する。ジョブ制御タスク12bは,電源オフ時の紙詰まりの有無や,印刷用紙の装填状態を第1のRAM16のジョブ制御タスク用データ領域17bに書き込むべくメモリ管理タスク12eに要求し,メモリ管理タスク12eにCPU12が割り当てられ,メモリ管理タスク12eが第1のRAM16のジョブ制御タスク用データ領域17bへこれらの情報の書き込みを行う。そして,電源がオンになるとメモリ管理タスク12eによりこれらの情報が読み出され,ジョブ制御タスク12bにより表示部62に紙詰まりの有無などの状況が表示されユーザへの通知がなされる。
【0027】
画像処理タスク12aは,画像処理に際し第1のRAM16の画像処理タスク用データ領域17aにEEPROM18からミラーリングされるインクジェット式印刷装置の機種情報,例えば印刷可能な印刷用紙サイズなどの読み出しをメモリ管理タスク12eに要求し,メモリ管理タスク12eにCPU12が割り当てられ,メモリ管理タスク12eが第1のRAM16の画像処理タスク用データ領域17aからこれらの情報を読み出す。そして画像処理タスク12aは,その情報に基づきホストコンピュータから送られる印刷データに基づく画像が印刷用紙160に印刷可能な範囲の画像であるかを判断し,印刷不可能な場合は所定のエラー処理を実行する。
【0028】
また,印刷タスク12cは,印刷動作の実行に際し,第1のRAM16の印刷タスク用データ領域17cにEEPROM18からミラーリングされるインクジェットヘッド70のノズルの補正情報の読み出しをメモリ管理タスク12eに要求し,メモリ管理タスク12eにCPU12が割り当てられ,メモリ管理タスク12eが第1のRAM16の印刷タスク用データ領域17cからこれらの情報を読み出す。そして,印刷タスク12cはこれらの情報に基づき,ノズル開口の位置や方向といったハード特性を補正する処理を実行する。
【0029】
上記のようなジョブ制御タスク12b,画像処理タスク12a,印刷タスク12cなどの「その他タスク」からメモリ管理タスク12eへの切り替えによって行われる第1のRAM16のミラーメモリ領域17からのデータ読出しは,インクジェット式印刷装置の電源オンから電源オフまでの間に通常1回行われる。しかしながら,印刷剤残量管理タスク12dからのメモリ管理タスク12eへの切り替えとこれに伴うメモリ管理タスク12eによる第1のRAM16のミラーメモリ領域17へのデータの読出し・書き込みは,従来のインク残量管理動作において極めて頻繁に行われていた。ここで,従来のインク残量管理動作の手順について図3(A)を参照しつつ説明する。
【0030】
印刷剤残量管理タスク12dは,タイマによる一定周期ごとにインク終了判定を行う場合やホストコンピュータのプリンタドライバからインク残量通知要求を受けた場合,あるいはインク消費後にインク残量データの更新を行う場合に,図3(A)に示すようにインク残量読み出し処理S100を行う。すなわち印刷剤残量管理タスク12dは第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用のデータ領域17dにEEPROM18からミラーリングされるインク残量データの読み出し要求をメモリ管理タスク12eに送る(S110)。そして,データ読出し要求が送られる度にメモリ管理タスク12eにタスク切り替えが行われ,メモリ管理タスク12eがインク残量データを第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用のデータ領域17dから読出し,読み出されたインク残量データが印刷剤残量管理タスク12dにより受け取られる(S111)。ここで,インク残量データは図2の符号18aに示されるようにC,M,Y,K,lc,lm各インク色ごとのインクカートリッジ80内のインク残量データが含まれる。よって,前記の一連の処理は各インク色ごとに,つまり6色分の6サイクル実行される。
【0031】
そして印刷剤残量管理タスク12dはインク残量データを更新する場合にはインク残量計算処理S120において,印刷タスク12cにより第2のRAM19に記憶された1パス分のインク滴のカウント値を読出し,これに所定のパラメータを乗算してそのパスの印刷に消費されたインクの消費量を求める。あるいはフラッシングが行われた場合はフラッシングで吐出したインク滴に所定のパラメータを乗算してインク消費量を計算し,クリーニングが行われた場合はポンプ76により吸引される所定量のインク消費量を求める。そして,読み出されたインク残量から求めたインク消費量を減算して更新されたインク残量データを求める。
【0032】
そして印刷剤残量管理タスク12dはインク残量書込み処理S140において,更新されたインク残量データの書き込み要求をインク色ごとにメモリ管理タスク12eに送り(S150),データ書き込み要求が送られる度にメモリ管理タスク12eにタスク切り替えが行われ,メモリ管理タスク12eにより第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用のデータ領域17dにインク残量データの書き込みが行われる。そして,メモリ管理タスク12eからの書き込み完了通知を印刷剤残量管理タスク12dで受け取る(S151)。これら一連の処理も,各インク色ごとに,つまり6サイクル実行される。
【0033】
さらに印刷剤残量管理タスク12dで更新後のインク残量に基づくインク終了判定を行う場合は,インク残量読み出し処理S160でメモリ管理タスク12eに対しインク残量データの読み出し要求を送り(S170),要求の度にメモリ管理タスク12eに切り替えが行われてメモリ管理タスク12eがインク残量データの読出しを行い,読み出されたインク残量データを印刷残量タスク12dが受け取る(S171)。そして,第1のRAM16から読み出されるインク残量データとインク終了の閾値と比較して,インク残量がインク終了閾値を下回った場合は,表示部62にその色のインク終了を通知する表示を行わせる。これら一連の処理も,各インク色ごとに,6サイクル実行される。
【0034】
このように従来の手順では,印刷剤残量管理タスク12dはインク終了判定やインク残量データ更新に際し,C,M,Y,K,lc,lmの各インク色ごとにインク残量データの読み出しをメモリ管理タスク12eに要求し,その都度CPU12の資源の割当てが印刷剤残量管理タスク12dとメモリ管理タスク12eとの間で行われ,タスク切り替え時間が生じていた。なおかつ,こうしたタスク切り替えは,1パスの分の印刷やタイマによる一定周期のたびに極めて頻繁に行われるため,インクジェット式印刷装置のスループットが悪化するという問題が生じていた。
【0035】
そこで,本実施形態においては,図3(B)に示すように,印刷剤残量管理タスク12dにおいて,印刷剤残量管理タスク12dの実行に割り当てられる第2のRAM19の領域にタスク内変数Pを設け,タスク内変数PにC,M,Y,K,lc,lmの各インク色のインク残量データ18aを格納する。このタスク内変数Pは単なる参照用の変数ではなく,印刷剤残量管理タスク12dが起動されたときにメモリ管理タスク12eを介してインク色ごとのインク残量データを第1のRAM16から読み込むモジュールであり,このタスク内変数Pによって印刷剤残量管理タスク12d内で一種のキャッシュ機能が実現される。
【0036】
このようなタスク内変数Pを設けることにより,印刷剤残量管理タスク12dはインク残量読み出し処理S100でメモリ管理タスク12eへ各インク色ごとにインク残量データの読み出し要求をすることなく,タスク内変数Pを直接参照することによりC,M,Y,K,lc,lm各インク色ごとのインク残量データを読み出すことができる(S210)。そして,インク残量計算処理S120の後インク残量書込み処理S140においてタスク内変数Pに格納されるインク残量を書き換える(S220)とともに,メモリ管理タスク12eに対してEEPROM18のインク残量データの書き込みを要求し(S230),メモリ管理タスク12eによるインク残量データ書き込みの後にメモリ管理タスク12eから書き込み完了通知を受け取る(S231)。そして,インク残量データ更新後にインク終了判定を行うためのインク残量読み出し処理S160でも,メモリ管理タスク12eに対し各インク色ごとにインク残量データの読み出し要求を送ることなく,タスク内変数Pを直接参照して各インク色の更新されたインク残量データを読み出す(S250)ことができる。
【0037】
このように,本実施形態では印刷剤残量管理タスク12dからメモリ管理タスク12eへの読み出し要求の回数を削減でき,よって印刷剤残量管理タスク12dからメモリ管理タスク12eへのタスク切り替え時間を削減できるので,インクジェット式印刷装置のスループットが向上する。さらに,インク残量データが更新されるときにはメモリ管理タスク12eにより第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用データ領域17dに更新されたインク残量データが書き込まれ,電源がオフになるとそのデータがEEPROM18に書き込まれる。これによりEEPROM18のインク残量データが更新され,EEPROM18に記憶される残量管理データは最新のデータに維持される。
【0038】
次に,上述した本実施形態におけるインクジェット式印刷装置のインク残量管理手順を図4と図5を用いて具体的に説明する。
【0039】
図4は,本実施形態のインクジェット式印刷装置におけるインク残量データの読み出し手順を具体的に説明するチャート図である。まず,インクジェット式印刷装置の電源がオンになったときは,メモリ管理タスク12eによりEERPROM18からインク残量データを含むデータが読み出され,読み出されたデータが第1のRAM16のミラーメモリ領域17へ書き込まれる(S10)。ここで,インク残量データは,C,M,Y,K,lc,lmのインク色ごとに,Cのインク残量,Mのインク残量,Yのインク残量,Kのインク残量,lcのインク残量,lmのインク残量が第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用データ領域17dへ書き込まれる。
【0040】
次に,印刷剤残量管理タスク12dが,例えばホストコンピュータのドライバプログラムからインク残量通知要求されたときやタイマによる一定周期でのインク終了判定を行うためにインク残量データを読み出すときは,まずタスク内変数Pの読み出しを行い,印刷剤残量管理タスク12dにCPU12が割り当てられた直後でタスク内変数Pにインク残量データが格納されておらずタスク内変数Pからインク残量を読み出せない場合は(S11)メモリ管理タスク12eへインク残量データの読み出し要求を送る(S12)。メモリ管理タスク12eはインク残量データ読出し要求に応答し,その度に第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用データ領域17dからインク残量データを読み出し(S15),タスク内変数Pは読み出されたインク残量データを自身に格納する(S16)。そして,印刷剤残量管理タスク12dは,タスク内変数Pに格納されたインク残量データを読み出す(S18)。そして,タスク内変数Pにインク残量データが格納された後は,印刷剤残量管理タスク12dはインク終了判定などで各インク色のインク残量データをタスク内変数Pから読み出す(S20)。これら手順S11〜S20は,C,M,Y,K,lc,lmの各インク色ごとに実行される。その結果,従来の手順ではメモリ管理タスク12eへ6色分の読み出し要求を送り,そのたびに読み出されたデータを受け取っていたところ,一旦インク残量データがタスク内変数Pに格納された後は直接タスク内変数Pからインク残量データを読み出すことで印刷剤残量管理タスク12dとメモリ管理タスク12eとのタスク切り替え時間が削減される。
【0041】
図5は,本実施形態のインクジェット式印刷装置におけるインク残量データの書き込み手順を具体的に説明するチャート図である。まず,印刷剤残量管理タスク12dはインクが消費された場合にインク残量データを更新すべく,タスク内変数Pからインク残量データを読み出す(S22)。そして印刷剤残量管理タスク12dは第1のRAM16の作業領域に一時的に記憶されたインク滴の吐出カウント値に基づいてインク消費量を計算し,読み出したインク残量データから計算したインク消費量を減算して更新されたインク残量データを求める(S24)。フラッシングやクリーニングが行われた場合も,同様にして更新されたインク残量データが求められる。そして,印刷剤残量管理タスク12dは,更新されたインク残量データと,更新前のインク残量データとを比較し,インク残量データの書き込みを行うかを判断する(S26)。ここで,C,M,Y,K,lc,lmの6色すべてのインクが消費されていれば,各インク色のインク残量データは更新されるので更新前後でインク残量データは異なる。しかし,印刷する画像の色によっては必ずしもすべての色のインクが消費されるわけではないので,消費されないインク色のインク残量データは更新前後で同じとなる。
【0042】
そこで,印刷剤残量管理タスク12dは更新されたインク残量データが更新前のインク残量データと異なる場合は,更新されたインク残量データをタスク内変数Pに書き込み(S28),かつメモリ管理タスク12eに更新されたインク残量データの書き込みを要求する(S30)。すると,メモリ管理タスク12eはこれに応答して第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用データ領域17dに更新されたインク残量データを書き込んで(S32),第1のRAM16にミラーリングされたインク残量データを更新する。そして,メモリ管理タスク12eからは書き込み完了通知が返される(S33)。一方,更新前のインク残量データと更新後のインク残量データが同じである場合は,タスク内変数Pも第1のRAM16にミラーリングされたインク残量データも変更する必要はないので,タスク内変数Pの更新もメモリ管理タスク12eへの書き込み要求も行わない。このようにして,タスク内変数Pに格納されるインク残量データと第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用データ領域17dに格納されるインク残量データとの整合性が保たれる。
【0043】
このように,上記の手順S22〜S33もC,M,Y,K,lc,lmの各インク色ごとに6サイクル実行される。したがって,インク残量データが更新前後で異なるインク色とインク残量データが更新前後で同じインク色とが存在する場合は,印刷剤残量管理タスク12dは更新前後で異なるインク色の更新後のインク残量データのみを上記手順でタスク内変数Pと第1のRAM16に書き込み,更新前後で同じインク色については書き込みを行わない。そうすることで,更新前後で同じインク残量データを書き込むためのメモリ管理タスク12eへの不必要な要求を回避でき,タスク切り替え時間をさらに削減することが可能となる。
【0044】
また,印刷剤残量管理タスク12dの起動直後でタスク内変数Pにインク残量が格納されておらず,更新前のインク残量データが無効であり,そのため手順S26で更新前のインク残量と更新後のインク残量とが異なる場合には,タスク内変数Pにインク残量が格納されていないことを確認し,図4の手順S12〜S16を実行する。そして,インク残量データをタスク内変数Pから読出して(S22)インク残量を更新し(S24),更新されたインク残量データをタスク内変数Pと第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用データ領域17dに書き込む(S26,S28,S30,S32)。そうすることにより,タスク内変数Pに格納されるインク残量データと第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク用データ領域17dに格納されるインク残量データとの整合性が保たれる。
【0045】
そして,インク残量データ更新後のタイミングでインク終了判定を行うために印刷剤残量管理タスク12dがインク残量データを読み出す場合には,印刷剤残量管理タスク12dは各インク色の更新されたインク残量データをタスク内変数Pから読み出す(S34)。このようにして,更新されたインク残量データの読み出し要求をメモリ管理タスク12eへ送ることなくタスク内変数Pから読み出すことができ,タスク切り替え時間が削減できる。
【0046】
そして,インクジェット式印刷装置の電源オフが検知されると,メモリ管理タスク12eにより第1のRAM16のミラーメモリ領域17に書き込まれた更新後のインク残量データを含む各種データがEEPROM18に書き込まれ(S36),EEPROM18の記憶内容が更新される。
【0047】
なお,上述の説明においては,は第1のRAM16のミラーメモリ領域17を「第1メモリ」として説明したが,メモリ管理タスク12eはミラーメモリを用いずに各タスクからの要求のたびにEEPROM18へデータの読み書きを行う構成とすることも可能であり,その場合はEEPROM18が「第1メモリ」に対応する。また,第2のRAM19を「第2メモリ」として第2のRAM19にタスク内変数Pが設けられたが,第1のRAM16のミラーメモリ領域17以外の領域を印刷剤残量管理タスク12dの実行に割り当て,その領域にタスク内変数Pを設けてもよい。その場合は,第1のRAM16の印刷剤残量管理タスク12dの実行に割り当てられる領域が「第2メモリ」に対応する。
【0048】
また上述の説明においては,印刷剤残量管理タスク12dはインク消費前のインク残量からインク消費量を減算することにより更新されたインク残量を求め,インク残量がインク終了閾値を下回る時期を検出することによりインク終了時期を検出する。しかし,インク残量の代わりにインク消費量を第1メモリに記憶しておき,インク消費ごとにインク消費量を加算し,インク消費量が一定の閾値を上回ることでインク終了時期を検出する構成としてもよい。その場合は,第1メモリには各インク色のインク消費量データが記憶され,印刷剤残量管理タスク12dのタスク内変数Pに対応する第2メモリにも第1メモリから読み出されるインク消費量データを格納する。そして,印刷剤残量管理タスク12dはインク消費のたびにインク滴の吐出カウントに基づくインク消費量を加算して,更新されたインク消費量データをタスク内変数P(第2メモリ),および第1メモリに書き込む手順とすることも可能である。
【0049】
さらに以上の説明ではインクを印刷剤として用いるインクジェット式印刷装置を例としているが,トナーなどインク以外の印刷剤であっても,印刷剤の残量データをメモリに記憶し,監視するタスクを実行する印刷装置に本実施の形態は適用できる。
【0050】
以上説明したように,本実施形態によれば,頻繁にインク残量データの更新をしてもタスク切り替え時間を削減でき,印刷ジョブのスループットを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態における印刷装置の構成図である。
【図2】CPU12により実行されるタスクを模式的に説明する図である。
【図3】印刷剤残量管理タスク12dによるインク残量管理動作の手順について説明する図である。
【図4】本実施形態のインクジェット式印刷装置におけるインク残量データの読み出し手順を具体的に説明するチャート図である。
【図5】本実施形態のインクジェット式印刷装置におけるインク残量データの書き込み手順を具体的に説明するチャート図である。
【符号の説明】
【0052】
12:CPU 16: 第1のRAM 18: EEPROM
19:第2のRAM 12e:メモリ管理タスク 12d:印刷剤残量管理タスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷剤を用いて印刷を実行する印刷装置において,
前記印刷剤の残量データが記憶される第1メモリと,
前記印刷剤の残量を監視して印刷剤の消費ごとに前記残量データを更新する印刷剤残量管理タスクと,印刷実行に関するその他タスクと,前記印刷剤残量管理タスク及び前記その他タスクの要求に応じて前記第1メモリにデータを読み書きするメモリ管理タスクとを切り替えて実行するタスク実行手段と,
前記メモリ管理タスクによらずに前記印刷剤残量管理タスクでデータの読み書きが可能な,前記残量データを記憶する第2メモリとを有し,
前記タスク実行手段は,前記その他タスクで前記第1メモリにデータの読み書きをする場合は,前記メモリ管理タスクを実行することにより当該データの読み書きを行い,前記印刷剤残量管理タスクで前記印刷剤の残量監視を行う場合は前記第2メモリから前記残量データを読み出し,前記第2メモリに更新された残量データを書き込み,かつ前記メモリ管理タスクを実行して前記第1メモリに当該更新された残量データを書き込むことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1において,
前記残量データは印刷剤の色ごとに記憶され,
前記タスク実行手段は,前記印刷剤の色ごとに前記第2メモリから前記残量データを読み出し,前記メモリ管理タスクを実行して前記印刷剤の色ごとに前記第1メモリへ更新された残量データを書き込むことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
印刷剤を用いて印刷を実行し,前記印刷剤の残量データが記憶される第1メモリを備える印刷装置の制御方法において,
前記印刷剤の残量を監視して印刷剤の消費ごとに前記残量データを更新する印刷剤残量管理工程と,
印刷実行に関するその他工程と,
前記印刷剤残量管理工程及び前記その他工程の要求に応じて前記第1メモリにデータを読み書きするメモリ管理工程とを切り替えて実行し,
前記その他工程で前記第1メモリにデータの読み書きをする場合は,前記メモリ管理工程を実行することにより当該データの読み書きを行い,
前記印刷剤残量管理工程で前記印刷剤の残量監視を行う場合は,前記メモリ管理工程によらずに前記印刷剤残量管理工程でデータの読み書きが可能な,前記残量データを記憶する第2メモリから前記残量データを読み出し,前記第2メモリに更新された残量データを書き込み,かつ前記メモリ管理工程により前記第1メモリに当該更新された残量データを書き込むことを特徴とする印刷装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−44220(P2008−44220A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221629(P2006−221629)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】