説明

印刷装置及び印刷方法

【課題】印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の大きさを適切に設定できる印刷装置及び印刷方法を提供する。
【解決手段】印刷装置のコントローラー86は、取得した分割印刷データを1走査分のビットマップデータに変換する画像展開処理部109と、分割印刷データが1走査分のビットマップデータに変換される際の展開速度及び生成速度の少なくとも一方を取得する変換速度取得部110と、印刷手段の1回の駆動によってロール紙にインクが噴射される領域の副走査方向における間隔が、展開速度及び生成速度の少なくとも一方に応じた間隔となるように、印刷手段を制御する印刷制御部105と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの印刷材を用いて印刷媒体に印刷処理を行う印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の印刷装置として、例えば特許文献1に記載の印刷装置が提案されている。この特許文献1に記載の印刷装置は、主走査方向に沿って往復移動するキャリッジ(移動体)と、該キャリッジに支持され且つ複数のノズルを有する印刷ヘッドと、印刷装置全体を制御する制御装置とを備えている。この制御装置は、外部装置から無線通信で受信した印刷データをバッファーに格納し、該バッファーに格納される印刷データに基づき印刷処理を行っている。
【0003】
ところで、無線通信で印刷データを受信する場合、印刷装置と外部装置との距離の変化や障害物の有無などによって、印刷装置と外部装置との間での通信速度が変化することがある。通信速度が変化すると、バッファーに格納される印刷データの単位時間あたりの蓄積量が変動する。特に通信速度が遅くなった場合には、キャリッジの1走査分の印刷データの受信及び制御装置内でのデータ処理が完了するまで、キャリッジが待機状態となるおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の印刷装置において、制御装置は、通信速度に応じて、キャリッジの1走査分の印刷データのデータ長の変更を促す指示を外部装置に送信する。その結果、通信速度が速い場合には、第1のデータ長を有する第1印刷データが外部装置から送信される。そして、印刷装置では、第1印刷データに基づき、印刷ヘッドの全てのノズルを用いる第1印刷処理が行われる。一方、通信速度が遅い場合には、第1のデータ長よりも短い第2のデータ長を有する第2印刷データが外部装置から送信される。そして、印刷装置では、第2印刷データに基づき、印刷ヘッドの一部のノズルを用いる第2印刷処理が行われる。すなわち、通信速度によって、1回のキャリッジの移動によって印刷媒体にインクが付着される領域の副走査方向における間隔が調整される。そのため、印刷処理中に、印刷データ待ちになってキャリッジが待機状態になることが抑制されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−248751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、制御装置では、受信した印刷データに対して、展開処理や生成処理などの変換処理を行い、該変換処理後の印刷データに基づき印刷ヘッドによるインクの噴射やキャリッジの移動が制御される。こうした変換処理に要する時間は、印刷データの圧縮形式や記述形式などによって変動する。しかしながら、特許文献1に記載の印刷装置では、外部装置との間での通信速度を考慮して使用し得るノズル数を設定しているものの、制御装置内での印刷データの処理に要する時間について何ら考慮していない。そのため、キャリッジの1回の移動によって印刷媒体に印刷される領域の副走査方向における間隔の設定精度に改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の大きさを適切に設定できる印刷装置及び印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の印刷装置は、印刷材を印刷媒体に付着させる印刷ヘッドを有する印刷手段と、前記印刷ヘッドを基準として、印刷媒体を所定の搬送方向に相対的に移動させる搬送手段と、取得された印刷データを動作データに変換するデータ変換手段と、前記データ変換手段によって変換された動作データに基づき前記印刷手段及び前記搬送手段を制御し、印刷媒体への印刷材の付着と前記印刷ヘッドを基準とする印刷媒体の相対移動とを交互に行わせる印刷制御手段と、を備えた印刷装置において、前記データ変換手段によって印刷データが動作データに変換される際の変換速度を取得する速度取得手段をさらに備え、前記印刷制御手段は、前記速度取得手段によって取得された変換速度が所定速度よりも遅い場合に、前記印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の前記搬送方向における間隔を前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも狭くする。
【0009】
上記構成によれば、印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の間隔は、印刷装置で取得された印刷データを動作データに変換する際の変換速度が遅い場合には変換速度が速い場合よりも狭くなる。すなわち、印刷装置内でのデータの変換速度に応じて上記領域の間隔が設定されるため、データの変換速度を考慮することなく上記領域の間隔を設定する場合と比較して、上記領域の間隔の設定精度を向上させることができる。したがって、印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の大きさを適切に設定できる。
【0010】
本発明の印刷装置において、前記印刷手段は、前記印刷ヘッドを支持し且つ前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動する移動体をさらに有し、前記印刷制御手段は、前記速度取得手段によって取得された変換速度が前記所定速度よりも遅い場合には前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも印刷データに伴う印刷処理時における前記移動体の移動回数が多くなるようにする。
【0011】
上記構成によれば、データの変換速度が遅い場合には、変換速度が速い場合よりも印刷処理時における移動体の移動回数を多くし、上記領域の間隔が狭くされる。この場合、データの変換速度に関係なく一定のデータ長を有する動作データの生成が完了するまで印刷手段を待機させる場合と比較して、印刷処理中における印刷手段の待機時間を短くできる。
【0012】
本発明の印刷装置において、前記印刷ヘッドは、印刷材を噴射する複数のノズルを有し、前記各ノズルは、前記搬送方向にそれぞれ配置されており、前記印刷制御手段は、前記速度取得手段によって取得された変換速度が前記所定速度よりも遅い場合には前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも前記各ノズルのうち印刷処理時に使用し得る候補ノズルの数が少なくなるようにする。なお、候補ノズルが複数の場合、搬送方向において互いに隣り合う候補ノズル同士の間には、候補ノズル以外の他のノズルが介在しない。また、各ノズルが搬送方向にそれぞれ配置されているということは、搬送方向に平行であるものに限られず、搬送方向に直交していなければ、搬送方向と交差していてもよい。
【0013】
上記構成によれば、データの変換速度が遅い場合には、変換速度が速い場合と比較して、印刷処理時に使用され得る候補ノズルの数が少なくなる。そのため、データ長の短い動作データに基づき、候補ノズルを用いた印刷処理を速やかに行わせることができる。したがって、データの変換速度に関係なく一定のデータ長を有する動作データの生成が完了するまで印刷手段を待機させる場合と比較して、印刷処理中における印刷手段の待機時間を短くできる。
【0014】
本発明の印刷装置は、圧縮された印刷データを取得するデータ取得手段をさらに備え、前記データ変換手段は、前記データ取得手段によって取得された印刷データを、その圧縮形式に応じた展開処理を行い、展開後の印刷データを、その記述方式に応じた処理を行うことにより、動作データに変換するようになっており、前記速度取得手段は、前記データ取得手段によって取得された印刷データの圧縮方式及び記述方式のうち少なくとも一方に基づいた変換速度を取得する。
【0015】
上記構成によれば、上記領域の間隔は、印刷データの圧縮方式及び記述方式のうち少なくとも一方に基づき設定される。こうした圧縮方式や記述方式は、データ変換手段によるデータの変換の開始直後に判断できる。したがって、印刷媒体への印刷材の付着が開始される前に、変換速度を取得できる。
【0016】
本発明の印刷装置において、前記印刷制御手段は、印刷途中に、前記速度取得手段によって取得される変換速度が速くなった場合には、前記印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の前記間隔を、前記変換速度が速くなる前の状態で維持する。
【0017】
上記構成によれば、データの変換速度が、印刷途中に速くなったとしても、上記領域の間隔が維持される。
本発明の印刷装置は、前記印刷ヘッドから噴射された印刷材を受容する印刷材受容部と、印刷媒体への印刷精度を維持するために、前記印刷材受容部内に前記印刷ヘッドから印刷材を噴射させるべく前記印刷手段を制御する維持制御手段と、をさらに備え、前記維持制御手段は、印刷媒体への印刷途中に、前記印刷材受容部を前記印刷ヘッドに対向配置させ、前記候補ノズルから印刷材を前記印刷材受容部に噴射させる一方で、前記候補ノズル以外の他のノズルから前記印刷材受容部への印刷材の噴射を規制するように前記印刷手段を制御する。
【0018】
上記構成によれば、候補ノズル以外の他のノズルには、印刷媒体への印刷精度を維持するための処理(「メンテナンス」ともいう。)が行われない。そのため、他のノズルにもメンテナンスを行う場合と比較して、該メンテナンスに伴う印刷材の消費量を低減できる。
【0019】
本発明の印刷方法は、取得した印刷データに基づいた印刷手段の駆動により所定の搬送方向に搬送される印刷媒体に対して印刷材を用いて印刷する印刷方法において、印刷データを動作データに変換する際における変換速度を取得させる速度取得ステップと、前記速度取得ステップで取得した変換速度が所定速度よりも遅い場合には前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも、前記印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の前記搬送方向における間隔が狭くなるように印刷処理を行わせる印刷ステップと、を有する。
【0020】
上記構成によれば、上記印刷装置と同等の作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)(b)は第1の実施形態の印刷装置の概略斜視図。
【図2】第1の実施形態のインク噴射部を模式的に示す平面図。
【図3】第1の実施形態のインク噴射部及び搬送装置を模式的に示す側面図。
【図4】ノズル形成面を模式的に示す平面図。
【図5】ノズル検査装置を説明する模式図。
【図6】第1の実施形態の印刷装置の電気的構成の要部を示すブロック図。
【図7】コントローラーの機能構成の要部を示すブロック図。
【図8】(a)は印刷処理が施された様子を説明する作用図、(b)は図8(a)の一部拡大図。
【図9】第1の実施形態の印刷処理ルーチンを説明するフローチャート。
【図10】印刷処理時におけるデータの変換と印刷処理とのタイミングを説明するタイミングチャート。
【図11】第2の実施形態において、印刷処理が施される様子を説明する作用図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図10に基づいて説明する。
図1(a)は、本実施形態の印刷装置の構成の一例を示す斜視図である共に、図1(b)は、印刷装置の主要部の内部構成の一例を示す斜視図である。図1(a)(b)に示すように、印刷装置11は、印刷媒体の一例としてロール状の印刷用紙P(以下、「ロール紙」ともいう。)に印刷処理を行うシリアルタイプのインクジェット式プリンターである。こうした印刷装置11は、ロール紙Pに対して印刷処理を行う印刷装置本体12と、該印刷装置本体12を重力方向における下方から支持する支持用脚部13とを備えている。
【0023】
また、印刷装置本体12の前面側から見て左側には、複数(本実施形態では6つ)のインクカートリッジ14を収容するホルダー部15と、該ホルダー部15をその前面から覆う開閉可能なホルダー用カバー16とが設けられている。各インクカートリッジ14には、互いに種類(例えば、色)の異なるインク(印刷材)がそれぞれ収容されている。また、印刷装置本体12の前面側から見て右側上部には、ユーザーによって操作される操作パネル17が設けられており、該操作パネル17は、液晶画面と各種ボタンとを有している。
【0024】
印刷装置本体12の上側には、ロール紙Pが収容される媒体収容部18が設けられている。この媒体収容部18内に収容されるロール紙Pは、主走査方向Xに沿って延びる軸部材19に巻かれている。媒体収容部18内において主走査方向Xにおける両側には、軸部材19を回転自在な状態で支持する軸支持部20がそれぞれ設けられている。そして、軸部材19が所定の回転方向(図3で矢印で示す方向)に回転することにより、ロール紙Pは、長尺状の用紙として印刷装置本体12内に送り出される。なお、媒体収容部18の前面側には、該媒体収容部18内に収容されるロール紙Pを覆う取り外し可能な収容部用カバー21が設けられている。
【0025】
印刷装置本体12内には、ロール紙Pにおいて印刷装置本体12内に搬送された部分に対してインクを噴射するインク噴射部22と、該インク噴射部22に向けてロール紙Pを搬送する搬送手段の一例としての搬送装置23(図3参照)とが設けられている。また、印刷装置本体12には、ロール紙Pにおいてインク噴射部22によってインクが付着した部分、即ち印刷が完了した部分が排紙される排紙部24が設けられている。なお、印刷装置本体12は、該印刷装置本体12内を覆うための開閉可能な本体カバー25を有している。
【0026】
次に、インク噴射部22について説明する。
図2及び図3に示すように、インク噴射部22は、主走査方向X(図2では左右方向)に延びる支持部材30を備えている。この支持部材30は、主走査方向Xにほぼ直交する副走査方向(搬送方向)Yにおいて上流側(媒体収容部18側)のほうが下流側(排紙部24側)よりも上方に位置するように配置されている。すなわち、支持部材30は、水平面に対して斜状をなす支持面30aを有している。こうした支持部材30の支持面30aは、ロール紙Pのうち印刷装置本体12内に搬送された部分を支持する。
【0027】
また、インク噴射部22は、主走査方向Xに延びるガイド軸31を備えており、該ガイド軸31は、支持部材30の支持面30aに対向して配置されている。こうしたガイド軸31は、移動体としてのキャリッジ32を主走査方向Xに沿って往復移動可能な状態で支持している。
【0028】
また、インク噴射部22は、正逆両方向に回転可能なキャリッジモーター(以下、「CRモーター」ともいう。)33と、該CRモーター33から出力された駆動力をキャリッジ32に伝達するキャリッジ駆動部34とを備えている。このキャリッジ駆動部34は、印刷装置本体12の後面において主走査方向Xにおける両端側に回転自在な状態で支持される一対のプーリー35,36を有しており、一方(図2では右側)のプーリー35には、CRモーター33の出力軸(図示略)が動力伝達可能な状態で連結されている。また、一対のプーリー35,36間には、一部がキャリッジ32に連結された無端状のタイミングベルト37が掛装されている。そして、キャリッジ32は、CRモーター33からの駆動力がキャリッジ駆動部34を介して伝達されることにより、主走査方向Xに沿ってガイド軸31にガイドされながら移動する。
【0029】
キャリッジ32の後面側には、該キャリッジ32の主走査方向Xにおける位置、移動速度及び移動方向を検出するためのリニアエンコーダー38が設けられている。このリニアエンコーダー38は、図6に示すように、主走査方向Xに延びる被検出用テープ39と、キャリッジ32に支持される検出部40とを備えている。被検出用テープ39は、印刷装置本体12に移動不能な状態で支持されると共に、主走査方向Xに沿って等間隔に形成される多数のスリット39aを有している。検出部40は、主走査方向Xにおいて互いに異なる位置に配置される複数(一例として2つ)のセンサー(図示略)を有している。そして、検出部40の各センサーからは、キャリッジ32の移動距離に相当するパルス状の検出信号が制御回路80(図6参照)にそれぞれ出力される。
【0030】
キャリッジ32上には、各インクカートリッジ14から供給された各種インクを個別に一時的に貯留する複数(本実施形態では6つ)のサブタンク(図示略)が設けられている。これら各サブタンクには、インク供給装置41(図6参照)の駆動によって個別対応するインクカートリッジ14からインクがそれぞれ供給される。
【0031】
また、キャリッジ32において支持部材30に対向する側には、図2及び図3に示すように、印刷ヘッド42が設けられている。この印刷ヘッド42には、サブタンクからインクが供給される複数(図2では6つのみ図示)のノズル43と、各ノズル43に個別対応する図示しない複数の駆動素子(一例として、圧電素子)とが設けられている。そして、ノズル43からは、サブタンクから供給されたインクが、駆動素子の駆動によって支持部材30に向けて噴射(供給)される。したがって、本実施形態では、印刷ヘッド42及びキャリッジ32により、ロール紙Pにおいてインク噴射部22に搬送された部分にインクを付着させる印刷手段が構成される。
【0032】
印刷ヘッド42において支持部材30に対向する対向面は、図4に示すように、各ノズル43が開口するノズル形成面44とされており、該ノズル形成面44には、副走査方向Yに延びる複数(本実施形態では6つ)のノズル列45(図4では二点鎖線で囲まれた部分)が形成されている。これら各ノズル列45は、各インクカートリッジ14に個別対応すると共に、主走査方向Xに沿って所定間隔で配置されている。また、ノズル列45は、副走査方向Yに沿って所定のノズルピッチr間隔で配置されるn個(一例として360個)のノズル43によって形成されており、ノズル列45の副走査方向Yにおける長さは、ヘッド長Rに設定されている。ちなみに、ノズル列45を構成するノズル43には、副走査方向Yにおける下流側ほど若い番号が付されている。つまり、ノズル43(1)は、ノズル43(3)よりも排紙部24側に位置している。
【0033】
図2に示すように、支持部材30の主走査方向Xにおける一方側(図2では右側)には、ロール紙Pが供給されないホームポジションが形成されており、該ホームポジションには、印刷ヘッド42の各種メンテナンスを行うためのメンテナンス装置60が設けられている。このメンテナンス装置60は、ホームポジションに位置する印刷ヘッド42に対して、接離する方向(図2では上下方向であって、支持面30aに直交する方向)に移動する有底略筒状のキャップ(印刷材受容部)61と、該キャップ61を昇降移動させる昇降機構62とが設けられている。また、メンテナンス装置60には、キャップ61内に受容されたインク(廃インク)を図示しない廃インクタンクに排出させるための吸引ポンプ(図示略)が設けられている。キャップ61は、図5に示すように、印刷ヘッド42に対向する側に開口するように配置されると共に、キャップ61内には、ホームポジションに位置する印刷ヘッド42から噴射(排出)されたインク(「廃インク」ともいう。)を吸収するインク吸収材63が収容されている。
【0034】
本実施形態のメンテナンス装置60には、各ノズル43のうち不良ノズルを検出するためのノズル検査装置64が設けられている。なお、不良ノズルとは、ノズル43内におけるインクの粘度が高くなるなどによってインクを噴射できない、又は後述する制御回路80側からの指示に応じた量のインクを噴射できないノズルのことを示している。
【0035】
ノズル検査装置64は、キャップ61内においてインク吸収材63の上面(印刷ヘッド42に対向する側の面)を覆う金属製の網材(電極部)65と、キャップ61の底部中央に配置された+側の端子66とを備えており、網材65は、+側の端子66に電気的に接続されている。また、ノズル検査装置64には、ノズル検査回路67(図5では破線で囲まれた部分)が電気的に接続されている。このノズル検査回路67には、網材65と印刷ヘッド42のノズル形成面44との間に電圧を印加するための電圧印加回路68と、網材65とノズル形成面44との間の電圧値の変化を検出する電圧検出装置69とが設けられている。電圧印加回路68は、網材65が正極になると共にノズル形成面44が負極になるように、直流電源(例えば400V)と抵抗素子(例えば1MΩ)とを備えている。そのため、網材65において印刷ヘッド42に対向する面(図5では上面)には、正の電荷が帯電する一方で、印刷ヘッド42のノズル形成面44には、負の電荷が帯電する。
【0036】
電圧検出装置69は、網材65からの検出信号を積分して出力する積分回路69aと、該積分回路69aから出力された信号を反転増幅して出力する反転増幅回路69bと、該反転増幅回路69bから出力された信号をA/D変換してコントローラー86へ出力するA/D変換回路69cとを備えている。
【0037】
そして、ノズル検査装置64によるノズル検査時には、検査対象となるノズル43からインクがキャップ61内に噴射される。このとき、ノズル43から噴射されたインクには、負の電荷が帯電している。こうしたインクが網材65に接近するに連れて、該網材65では、静電誘導によって正の電荷が次第に増加する。その結果、網材65と印刷ヘッド42のノズル形成面44との間の電位差は、静電誘導に基づく誘導電圧により、ノズル43からインクが噴射されない場合と比較して大きくなる。
【0038】
そして、インクが網材65に着弾すると、網材65の正の電荷の一部が、インクに帯電していた負の電荷によって中和される。すると、網材65と印刷ヘッド42のノズル形成面44との間の電位差(電圧)は、ノズル43からインクが噴射されない場合と比較して小さくなる。その後、網材65と印刷ヘッド42のノズル形成面44との間の電位差は、当初の大きさに戻る。こうした電位差に関する検出信号は、積分回路69a、反転増幅回路69b及びA/D変換回路69cを介してコントローラー86に入力される。
【0039】
すると、コントローラー86では、A/D変換回路69cから入力された検出信号の振幅Vd(網材65と印刷ヘッド42のノズル形成面44との間の電圧値の変化量)が検出される。そして、検出された振幅Vdが予め設定された振幅閾値以上である場合には、検査対象のノズル43が正常ノズルであると判定される一方、検出された振幅Vdが振幅閾値未満である場合には、検査対象のノズル43が不良ノズルであると判定される。
【0040】
次に、搬送装置23について説明する。
図3に示すように、搬送装置23は、副走査方向Yに沿ってロール紙Pを搬送する装置である。こうした搬送装置23は、副走査方向Yにおいて支持部材30の上流側(図3では右斜め上方であって、媒体収容部18側)に配置される給紙ローラー対50と、副走査方向Yにおいて支持部材30の下流側(図3では左斜め下方であって、排紙部24側)に配置される排紙ローラー対51とを備えている。給紙ローラー対50及び排紙ローラー対51は、紙送りモーター(以下、「PFモーター」ともいう。)52から伝達される駆動力によって回転する駆動ローラー50a,51aと、該駆動ローラー50a,51aの回転に伴い従動回転する従動ローラー50b,51bとでそれぞれ構成されている。PFモーター52は、その出力軸近傍に設けられたロータリーエンコーダー53を用いて回転速度、回転量及び回転方向などが制御される。そして、PFモーター52から伝達される駆動力によって各駆動ローラー50a,51aが図3で示す矢印方向に回転することにより、各ローラー対50,51に挟持されるロール紙Pは、副走査方向Yにおいて排紙部24側に紙送り(搬送)される。
【0041】
なお、本実施形態において「ロール紙Pを搬送」とは、媒体収容部18内において軸部材19が所定の方向(図3の矢印が示す方向)に回転することにより、ロール紙Pが、長尺状の用紙として送り出されることを示している。
【0042】
次に、印刷装置11の電気的構成について説明する。
図6に示すように、印刷装置11には、ホスト装置HCが図示しない通信ケーブルを介して接続されている。すなわち、印刷装置11の制御回路80は、インターフェイスIFを介してホスト装置HCとの間で印刷データなどの各種情報を送受信可能とされている。また、制御回路80のインターフェイスIFには、ユーザーによる操作パネル17の操作結果に関する操作情報が入力される。
【0043】
ホスト装置HCには、印刷データを生成するプリンタードライバーPDが、ホスト装置HCのCPU(図示略)とプログラムとにより構築されている。印刷データは、コマンドと、ロール紙Pに印刷すべき画像に関する画像データとを含んでいる。プリンタードライバーPDは、画像データの解像度を印刷装置11の印刷解像度に変換し、変換後の画像データに対して色変換処理を行う。続いて、プリンタードライバーPDは、色変換処理済みの画像データに対してハーフトーン処理(階調数変換処理)を行う。そして、プリンタードライバーPDは、上記各種処理が施された画像データを含む印刷データを印刷装置11側に送信させる。このとき、プリンタードライバーPDは、印刷データの拡張子によっては、上記各処理のうち一部の処理を行うことなく印刷装置11側に送信させることもある。
【0044】
なお、プリンタードライバーPDは、印刷データを複数に分割し、該分割された印刷データを印刷装置11側に順次送信させる。すなわち、プリンタードライバーPDは、プリンタードライバーPDは、始めにホスト装置HC側で設定された印刷条件に関するデータを印刷装置11側に送信させる。印刷条件は、印刷モード(ドラフト印刷モード又は高詳細印刷モード)、1回の紙送り量(搬送量)、印刷媒体における余白の幅、印刷データの拡張子、圧縮形式及び記述形式などを含んでいる。
【0045】
続いて、プリンタードライバーPDは、印刷データをキャリッジ32の1走査分のデータ(以下、「分割印刷データ」ともいう。)に分割し、各分割印刷データを印刷装置11側に順次送信させる。詳しくは後述するが、プリンタードライバーPDは、印刷条件に関するデータを送信した後、その返答として印刷装置11側からデータ長Ds(図7参照)に関する情報を受信する。そして、プリンタードライバーPDは、印刷装置11から指示されたデータ長Dsの分割印刷データを生成し、該生成した分割印刷データを印刷装置11側に順次送信させる。なお、最後(最終パス用)の分割印刷データは、印刷の終了を指示する終了情報を含んでいる。
【0046】
次に、印刷装置11の制御回路80について説明する。
制御回路80は、CPU81、ASIC82((Application Specific IC(特定用途向けIC))、ROM83、不揮発性メモリー84及びRAM85を有するコントローラー86(図4では一点鎖線で囲まれた部分)を備えている。このコントローラー86は、バス87を介して、ノズル検査回路67及び各種ドライバー88,89,90,91に電気的に接続されている。そして、コントローラー86は、PF用ドライバー88を介してPFモーター52を制御すると共に、CR用ドライバー89を介してCRモーター33を制御する。また、コントローラー86は、ヘッド用ドライバー90を介して印刷ヘッド42(具体的には、印刷ヘッド42内の各駆動素子)を制御すると共に、インク供給用ドライバー91を介してインク供給装置41を制御する。
【0047】
ROM83には、各種制御プログラム及び各種データなどが記憶されている。不揮発性メモリー84には、ファームウェアプログラムを始めとする各種プログラム及び印刷処理に必要な各種データなどが記憶されている。RAM85には、CPU81によって実行されるプログラムデータ、CPU81による演算結果及び処理結果である各種データ、及びASIC82で処理された各種データなどが一時記憶される。また、RAM85は、受信バッファー85a、中間バッファー85b及び出力バッファー85cを有している。受信バッファー85aには、ホスト装置HCから受信した印刷データ(即ち、各分割印刷データ)が格納されると共に、中間バッファー85bには、処理途中のデータが格納される。さらに、出力バッファー85cには、処理後のデータが格納される。
【0048】
次に、本実施形態のコントローラー86について説明する。
図7に示すように、コントローラー86は、ハードウェア及びソフトウェアのうち少なくとも一方により実現される機能部分として、データ受信部100、データ処理部101、データ長指示部103、計時部104、印刷制御部105及びメンテナンス制御部106を備えている。
【0049】
データ受信部100は、ホスト装置HCから受信したデータ(印刷条件に関するデータや分割印刷データなど)を一時的に記憶する第1メモリー107を備えている。この第1メモリー107は、受信バッファー85aを含んで構成されている。したがって、本実施形態では、データ受信部100が、データ取得手段として機能する。
【0050】
そして、データ受信部100は、第1メモリー107に一時的に記憶(格納)されたデータをデータ処理部101に出力する。また、データ受信部100は、ホスト装置HCから送信されたデータを受信する場合に、ホスト装置HCと印刷装置11との間での通信速度を検出する。例えば、データ受信部100は、予め設定された基準時間内で取得(受信)できたデータのデータ数(byte)に基づき通信速度(具体的には、ホスト装置HCから印刷装置11へのデータの送信速度)を検出する。そして、データ受信部100は、検出した通信速度に関する情報をデータ長指示部103に出力する。したがって、本実施形態では、データ受信部100が、通信速度取得手段としても機能する。
【0051】
データ処理部101は、情報取得部108(図7では破線で囲まれた部分)と、画像展開処理部109と、変換速度取得部110とを備えている。情報取得部108は、データ受信部100から印刷条件に関するデータが入力された場合に、該データに基づき各種情報を取得する。例えば、情報取得部108は、印刷条件に関するデータに基づき、印刷データの記述形式(「記述言語」と言い換えてもよい。)を取得(判別)する記述方式取得部111と、印刷条件に関するデータに含まれる印刷データの拡張子に関する情報などに基づいて圧縮方式を取得する圧縮方式取得部112とを有している。そして、情報取得部108は、取得した記述形式に関する情報及び圧縮方式に関する情報を画像展開処理部109及び変換速度取得部110に出力する。
【0052】
画像展開処理部109は、データ受信部100の第1メモリー107に格納された分割印刷データのうちコマンドを除いたデータを、印刷ドットが階調値で示されたビットマップデータに変換し、該ビットマップデータを展開する。このとき、印刷データの圧縮形式が第1の圧縮形式である場合と、圧縮形式が第2の圧縮形式である場合とでは、データ長Dsが同一長であったとしても、データの展開に要する時間が互いに異なることがあり得る。
【0053】
続いて、画像展開処理部109は、展開したデータに基づき、1走査分のビットマップデータ(動作データ)を生成する。このとき、印刷データの記述形式が第1の記述形式(例えば、RGB系の形式)である場合と、記述形式が第2の記述形式(例えば、CMYK系の形式)である場合とでは、1走査分のビットマップデータの生成に要する時間が互いに異なることがあり得る。そして、画像展開処理部109は、印刷制御部105から指示が入力された場合、生成した1走査分のビットマップデータを印刷制御部105に出力する。したがって、本実施形態では、画像展開処理部109が、データ変換手段として機能する。なお、「1走査分のビットマップデータ」とは、キャリッジ32の1回の主走査方向Xへの移動時、即ち印刷手段の1回の駆動時に、ロール紙Pに対してインクを噴射させるために必要なデータのことである。
【0054】
変換速度取得部110は、情報取得部108から入力された各情報に基づき、印刷装置11内での分割印刷データの変換速度を取得する。すなわち、変換速度取得部110は、取得された圧縮形式に応じた展開速度を記憶する第1マップと、取得された記述形式に応じた生成速度を記憶する第2マップとを予め記憶するマップ記憶部113を有している。
【0055】
なお、「展開速度」とは、受信した分割印刷データのデータ長を、展開処理に要する時間で除算した値に相当する速度であって、受信する印刷データの圧縮形式を取得することにより取得可能な速度である。そこで、本実施形態では、複数の圧縮形式と、該各圧縮形式に個別対応する展開速度とが記憶される第1マップを用いることにより、受信した分割印刷データの圧縮形式に応じた展開速度が取得される。そして、変換速度取得部110は、取得(設定)した展開速度に関する情報をデータ長指示部103に出力する。
【0056】
また、「生成速度」とは、生成された1走査分のビットマップデータのデータ長を、展開処理が完了してから生成処理が完了するまでに要する時間で除算した値に相当する速度であって、受信する印刷データの記述形式を取得することにより取得可能な速度である。そこで、本実施形態では、複数の記述形式と、該各記述形式に個別対応する生成速度とが記憶される第2マップを用いることにより、受信した分割印刷データの記述形式に応じた生成速度が取得される。そして、変換速度取得部110は、取得(設定)した生成速度に関する情報をデータ長指示部103に出力する。したがって、本実施形態では、変換速度取得部110が、画像展開処理部109によって印刷データが動作データに変換される際の変換速度を取得する速度取得手段として機能する。
【0057】
データ長指示部103は、データ受信部100から入力された通信速度に関する情報と、変換速度取得部110から入力された展開速度に関する情報及び生成速度に関する情報を格納する図示しない格納部を有している。こうしたデータ長指示部103は、その格納部に格納した各種情報に基づき、ホスト装置HCから送信される分割印刷データのデータ長Dsを算出(設定)し、該算出したデータ長Dsに関する情報をホスト装置HCに送信する。
【0058】
ここで、データ長Dsの設定方法について説明する。なお、ロール紙Pの印刷領域の副走査方向Yにおける一端側(図8では右端側)から他端側(図8では左端側)にキャリッジ32が移動するのに要する時間を「メカ駆動時間Tm」というものとする。また、分割印刷データがホスト装置HC側から送信され各種処理が完了して出力バッファー85cに格納されるまでの時間を「データ処理時間Td」というものとする。
【0059】
本実施形態では、データ処理時間Tdがメカ駆動時間Tmと同一又はそれよりも短時間となるように、データ長Dsが算出される。具体的には、データ処理時間Tdは、以下の関係式(式1)に基づき算出される。なお、「1つのノズルに必要な最大データ数Dmax」とは、キャリッジ32の1走査で常にインクを噴射し続ける場合(即ち、所謂ベタ印刷をする場合)に必要なデータ数のことを示している。
【0060】
「Dmax/A」は、1つのノズル43に対する全てのデータの受信に要する時間を示すと共に、「Dmax/B」は、1つのノズル43に対する全てのデータの展開に要する時間を示す。さらに、「Dmax/C」は、1つのノズル43に対する全てのデータの生成に要する時間を示す。
【0061】
【数1】


ただし、Td…データ処理時間、Dmax…1つのノズルに必要な最大データ数、A…通信速度、B…展開速度、C…生成速度、N…ノズル列を構成するノズル数
また、メカ駆動時間Tmは、今回の印刷データに基づきロール紙Pでインクが付着される印刷領域の主走査方向Xにおける幅Hx(図8参照)と、キャリッジ32の移動速度とを取得できれば一義的に算出することができる。そして、データ処理時間Tdとメカ駆動時間Tmとが同一であるとすると、ノズル列45を構成する各ノズル43のうち候補ノズルに設定される数(以下、「候補ノズル数」ともいう。)KNは、以下に示す関係式(式2)に基づき算出される。なお、関係式(式2)による演算結果に小数点以下が存在する場合、候補ノズル数KNは切り上げられる。
【0062】
【数2】


ただし、KN…候補ノズル数、Tm…メカ駆動時間、Dmax…1つのノズルに必要な最大データ数、A…通信速度、B…展開速度、C…生成速度、N…ノズル列を構成するノズル数、RN…ノズル列の数(=色数)
候補ノズルとは、今回の印刷データに基づき印刷処理時に使用され得るノズルのことであり、候補ノズル以外の他のノズル(「未使用ノズル」ともいう。)は、今回の印刷データに基づく印刷処理時には使用されない。そのため、図8(a)(b)に示すように、関係式(式2)で算出された候補ノズル数KNが少ないほど、キャリッジ32の1走査で印刷される領域(以下、「1走査領域」ともいう。)Tyの副走査方向Yにおける間隔Hy(=候補ノズル数KN×ノズルピッチr)が狭くなる。すなわち、間隔Hyは、通信速度Aが、通信速度の基準として予め設定された所定速度よりも遅い場合には、通信速度Aが所定速度よりも速い場合よりも狭くなる。また、間隔Hyは、展開速度Bが、展開速度の基準として予め設定された所定速度よりも遅い場合には、展開速度Bが所定速度よりも速い場合よりも狭くなる。また、間隔Hyは、生成速度Cが、生成速度の基準として予め設定された所定速度よりも遅い場合には、生成速度Cが所定速度よりも速い場合よりも狭くなる。そして、データ長Dsは、以下に示す関係式(式3)に基づき算出される。なお、図8(b)では、各ノズル43のうち、候補ノズルを黒丸で示す一方で、未使用ノズルを破線の丸で示している。
【0063】
【数3】


ただし、Ds…データ長、Dmax…1つのノズルに必要な最大データ数、KN…候補ノズル数、RN…ノズル列の数(色数と言い換えてもよく、本実施形態では6)
そして、データ長指示部103は、上記各関係式(式1)(式2)(式3)に基づき算出されたデータ長Dsに関する情報をホスト装置HCに送信する。すると、ホスト装置HCは、印刷装置11側から受信したデータ長Dsを有する分割印刷データを生成し、該分割印刷データを印刷装置11側に順次送信する。
【0064】
図7に示すように、計時部104は、第1タイマー114と、第2タイマー115と、第3タイマー116とを備えている。これら各タイマー114〜116は、クロック回路などによってそれぞれ構成されている。第1タイマー114は、メンテナンス処理の一種であるフラッシングを行う間隔を計時するためのタイマーである。第2タイマー115は、メンテナンス処理の一種である上記ノズル検査処理を行う間隔を計時するためのタイマーである。第3タイマー116は、メンテナンス処理の一種であるクリーニングを行う間隔を計時するためのタイマーである。計時部104は、後述するメンテナンス制御部106から指示があった場合、該指示に応じたタイマー(例えば第1タイマー114)で計時される時間に関する情報をメンテナンス制御部106に出力する。
【0065】
印刷制御部105は、データの出力の指示をデータ処理部101に出力する。そして、印刷制御部105は、データ処理部101から入力された1走査分のビットマップデータに基づき、CRモーター33、印刷ヘッド42(詳しくは、印刷ヘッド42に内蔵された各駆動素子)及びPFモーター52を制御することにより、ロール紙Pに対して印刷処理を行う。したがって、本実施形態では、印刷制御部105が、印刷制御手段として機能する。なお、次のインク噴射制御を行うための1走査分のビットマップデータの生成がデータ処理部101で完了していない場合、印刷制御部105は、生成が完了するまでキャリッジ32(及び印刷ヘッド42)を待機させる。
【0066】
メンテナンス制御部106は、第1タイマー114で計時される時間が予め設定された第1基準値を超えた場合、フラッシング処理を行う。また、メンテナンス制御部106は、第2タイマー115で計時される時間が予め設定された第2基準値を超えた場合、ノズル検査処理を行う。さらに、メンテナンス制御部106は、第3タイマー116で計時される時間が予め設定された第3基準値を超えた場合、クリーニング処理を行う。すなわち、メンテナンス制御部106は、定期的又は不定期で、ロール紙Pへの印刷精度を維持させるためのメンテナンス処理を実行させる。したがって、本実施形態では、メンテナンス制御部106が、維持制御手段として機能する。
【0067】
次に、本実施形態のコントローラー86が実行する印刷処理ルーチンについて、図9に示すフローチャート及び図10に示すタイミングチャートに基づき説明する。
さて、ホスト装置HCからの印刷データの受信が開始されたタイミングで、印刷処理ルーチンが実行される。すると、初めのステップS10において、コントローラー86は、印刷開始処理を行う。具体的には、コントローラー86は、ロール紙Pの先端をインク噴射部22内に進入させるべくPFモーター52を制御する。
【0068】
次のステップS11において、コントローラー86は、候補ノズル数KNを設定する候補ノズル数設定処理を行う。今回の印刷処理ルーチンの実行にあたって初めて候補ノズル数設定処理が行われる場合、コントローラー86は、印刷データのうち印刷条件に関するデータを受信し、該受信したデータを分析(解析)することにより、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cを取得する。そして、コントローラー86は、取得した各速度A,B,Cなどを上記関係式(式1)〜(式3)に代入することによりデータ長Dsを算出し、該算出したデータ長Dsに関する情報をホスト装置HC側に送信する。
【0069】
ここで、図9のタイミングチャートに示すように、印刷データのうち印刷条件に関するデータの受信がデータ受信部100で開始されると、このデータ受信の際に、ホスト装置HCと印刷装置11との間での通信速度Aがデータ受信部100で取得される(第1のタイミングt11)。また、印刷データのうち印刷条件に関するデータの受信が完了する(第2のタイミングt12)と、受信した印刷データのうち印刷条件に関するデータが解析され、今回の印刷データの圧縮方式及び記述方式が情報取得部108で取得される。また、取得された圧縮方式及び記述方式に基づき、展開速度B及び生成速度Cが変換速度取得部110で取得される。そして、データ長Dsがデータ長指示部103で算出され、該データ長Dsに関する情報がホスト装置HCに送信される。すると、設定されたデータ長Dsを有する分割印刷データの受信が開始される(第3のタイミングt13)。
【0070】
図8のフローチャートに戻り、2回目以降の候補ノズル数設定処理が行われる場合、コントローラー86は、実際に印刷を行うためのデータ、即ち分割印刷データを分析し、データ長Dsを算出する。このとき、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cは、今回の印刷処理中で変動する可能性がある。特に、通信速度Aについては、ホスト装置HC側での制御負荷の急激な変化などによって変動する可能性があり得る。そのため、印刷途中で通信速度A、展開速度B及び生成速度Cのうち少なくとも一つの速度が変化した場合に、コントローラー86は、データ長Dsを再設定し、該再設定後のデータ長Dsに関する情報をホスト装置HC側に送信する。このとき、コントローラー86は、上記少なくとも一つの速度(例えば、通信速度A)が遅くなった場合にはデータ長Dsを再設定する一方、上記少なくとも一つの速度が速くなった場合にはデータ長Dsを再設定しない。すなわち、本実施形態では、印刷装置11で受信する分割印刷データのデータ長Dsは、印刷処理の途中で短くなることはあっても、印刷の途中で長くなることはない。したがって、本実施形態では、ステップS11が、速度取得ステップに相当する。
【0071】
次のステップS12において、コントローラー86は、ロール紙Pへの印刷精度の維持を図るためのメンテナンス処理を行う。具体的には、コントローラー86は、今回の印刷処理ルーチンの実行にあたって初めてメンテナンス処理が行われる場合、各タイマー114〜116で計時する各時間を取得する。そして、コントローラー86は、フラッシング処理、ノズル検査処理及びクリーニング処理を必要に応じて行う。
【0072】
また、2回目以降のメンテナンス処理が行われる場合、コントローラー86は、第1タイマー114で計時する時間を取得し、フラッシング処理を必要に応じて行う。すなわち、ノズル検査処理及びクリーニング処理は、ロール紙Pへのインク噴射が開始される直前に実行されることはあっても、ロール紙Pへのインク噴射が開始されてから実行されることはない。本実施形態では、フラッシング処理やノズル検査処理を行う場合、コントローラー86は、ステップS11の処理で設定された候補ノズルに対してフラッシング処理やノズル検査処理を行う一方で、未使用ノズルに対してフラッシング処理やノズル検査処理を行わない。
【0073】
続いて、コントローラー86は、インク噴射処理(ステップS13)を行い、紙送り処理(ステップS14)を行う。したがって、本実施形態では、ステップS13,S14によって、印刷ステップが構成される。
【0074】
インク噴射処理では、印刷制御部105は、データ処理部101によって生成された1走査分のビットマップデータに基づき、キャリッジ32の移動を制御すると共に、印刷ヘッド42の各ノズル43のうち候補ノズルからのインクの噴射を制御する。なお、インク噴射処理は、紙送り処理が終了したと同時又は直後から印刷ヘッド42によるインク噴射が行われるように、PFモーター52の駆動が停止する前からCRモーター33の駆動を開始させるべく実行されてもよい。
【0075】
紙送り処理では、印刷制御部105は、プリンタードライバーPD側で設定された紙送り量に基づき、PFモーター52を制御する。この紙送り処理では、印刷方式が双方向印刷方式である場合、印刷ヘッド42からのインク噴射が終了した直後(又はキャリッジ32の移動が一時的に停止した直後)から給紙ローラー対50及び排紙ローラー対51が駆動される。また、印刷方式が一方向印刷方式である場合、紙送り処理は、インク噴射処理が完了してキャリッジ32が主走査方向Xにおける一方側に移動している最中に、給紙ローラー対50及び排紙ローラー対51が駆動される。
【0076】
なお、「双方向印刷方式」とは、図8(a)に示すように、キャリッジ32が順方向(図8(a)では左方)に移動する際に印刷ヘッド42からインクを噴射させると共に、キャリッジ32が逆方向(図8(a)では右方)に移動する際にも印刷ヘッド42からインクを噴射させる印刷方式である。また、「一方向印刷方式」とは、キャリッジ32が順方向に移動する際にのみ印刷ヘッド42からインクを噴射させる印刷方式である。
【0077】
次のステップS15において、コントローラー86は、今回の印刷処理が終了したか否かを判定する。すなわち、コントローラー86は、終了情報を含んだ分割印刷データに基づいたインク噴射処理が完了したか否かを判定する。そして、コントローラー86は、今回の印刷処理が終了していない場合(ステップS15;NO)、印刷処理を継続させるべく、その処理を前述したステップS11に移行する一方、今回の印刷処理が終了した場合(ステップS15;YES)、その処理を次のステップS16に移行する。
【0078】
ステップS16において、コントローラー86は、印刷終了処理を行う。すなわち、コントローラー86は、ロール紙Pのうちインクが付着した部分、即ち画像が形成された部分を排紙部24に排紙すべくPFモーター52を制御すると共に、印刷ヘッド42をホームポジションに移動させるべくCRモーター33を制御する。そして、コントローラー86は、ホームポジションに位置する印刷ヘッド42を保護する目的で、キャップ61を印刷ヘッド42に接近させ、該印刷ヘッド42をキャッピングする。その後、コントローラー86は、印刷処理ルーチンを終了する。
【0079】
ここで、図9のタイミングチャートに示すように、分割印刷データの受信が完了すると、受信した分割印刷データが画像展開処理部109によって展開される(第4のタイミングt14)。そして、分割印刷データの展開が完了すると、1走査分のビットマップデータの生成が画像展開処理部109によって開始される(第5のタイミングt15)。このとき、画像展開処理部109は、受信した分割印刷データに基づいたデータが候補ノズルに割り当てられると共に、未使用ノズルにはダミーデータ(ヌルデータ)が割り当てられるように、1走査分のビットマップデータを生成する。
【0080】
そして、1走査分のビットマップデータの生成が画像展開処理部109によって完了されると、次の分割印刷データがデータ受信部100によって受信され始める(第6のタイミングt16)。このように、データの受信、展開及び生成が繰り返し実行される。なお、第3のタイミングt13から第6のタイミングt16までの間が、データ処理時間Tdに相当する。
【0081】
また、第6のタイミングt16では、ロール紙Pにインクを噴射させるべくキャリッジ32の移動が開始されると共に、印刷ヘッド42からは、適切なタイミングでインクが噴射される。その後、キャリッジ32の移動、即ちインク噴射処理が完了すると、紙送り処理が開始される(第7のタイミングt17)。そして、紙送り処理が完了すると、次の1走査分のビットマップデータの生成が完了しているため、キャリッジ32の移動及び印刷ヘッド42からのインクの噴射が直ぐに開始される(第8のタイミングt18)。このように、インク噴射処理及び紙送り処理が繰り返し行われる。
【0082】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)キャリッジ32の1回の移動によってロール紙Pにインクが付着される1走査領域Tyの副走査方向Yにおける間隔Hyは、印刷装置11で受信した分割印刷データを展開する際の展開速度B、及び1走査分のビットマップデータを生成する際の生成速度Cが遅いほど狭くなる。展開速度B及び生成速度Cは、印刷処理を行うための印刷データの圧縮形式や記述形式の種類に応じた速度となる。そのため、本実施形態では、展開速度B及び生成速度Cに基づき1走査領域Tyの間隔Hyが設定されるため、展開速度B及び生成速度Cを考慮することなく1走査領域Tyの間隔Hyを設定する場合と比較して、1走査領域Tyの間隔Hyの設定精度を向上させることができる。したがって、1走査領域Tyの大きさを適切に設定できる。
【0083】
(2)データ処理時間Tdがメカ駆動時間Tm以下となるように、展開速度B及び生成速度Cに応じて分割印刷データのデータ長Dsが設定される。そのため、前回のインク噴射処理と今回のインク噴射処理との間との間におけるキャリッジ32の待機時間を、展開速度B及び生成速度Cを考慮することなくノズル列45を構成する全てのノズル43にビットマップデータを割り当てることができるように分割印刷データのデータ長Dsを設定する場合と比較して短くできる。したがって、印刷装置11の動作が正常ではないとユーザーに誤認させてしまう可能性を低減できる。
【0084】
(3)前回のインク噴射処理によって形成された1走査領域Ty(以下、「前回領域」ともいう。)に付着したインクが乾燥した後に、今回のインク噴射処理によって形成する1走査領域Ty(以下、「今回領域」ともいう。)が形成された場合には、以下に示す問題が発生するおそれがある。すなわち、今回のインク噴射処理では、前回領域に隣接する部分にインクが噴射される。このとき、一部のインクが、前回領域に付着する可能性がある。すると、既に乾燥したインクの上に新たなインクが付着することになり、前回領域と今回領域との境界部分で画質が低下するおそれがあった。この点、本実施形態では、キャリッジ32の待機時間が短くなるため、前回領域に付着したインクが乾燥する前に今回領域が形成される可能性を高くできる。そのため、ロール紙Pに印刷される画像の画質低下を抑制できる。
【0085】
(4)展開速度B及び生成速度Cが遅い場合は、1走査領域Tyの間隔Hyを狭くして、印刷処理時におけるキャリッジ32の移動回数を多くする。この場合、展開速度B及び生成速度Cに関係なく一定のデータ長を有するビットマップデータの生成が完了するまでキャリッジ32を待機させる場合と比較して、印刷処理中におけるキャリッジ32の待機時間を短くできる。
【0086】
(5)一方、展開速度B及び生成速度Cが速い場合は、1走査領域Tyの間隔Hyを広くして、印刷処理時におけるキャリッジ32の移動回数を少なくする。その結果、展開速度B及び生成速度Cが遅い場合と比較して、印刷処理に要する時間を短くできる。
【0087】
(6)展開速度B及び生成速度Cが遅い場合は、展開速度B及び生成速度Cが速い場合と比較して、印刷処理時に使用され得る候補ノズル数KNを少なくする。そのため、データ長Dsの短いビットマップデータに基づき、候補ノズルを用いた印刷処理を速やかに行わせることができる。したがって、展開速度B及び生成速度Cに関係なく一定のデータ長を有する分割印刷データに基づき1走査分のビットマップデータが生成されるまでキャリッジ32を待機させる場合と比較して、印刷処理中におけるキャリッジ32の待機時間を短くできる。
【0088】
(7)1走査領域Tyの間隔Hyは、印刷データの圧縮方式及び記述方式に基づき設定される。こうした圧縮方式や記述方式は、最初に印刷装置11が受信する印刷条件に関するデータを解析することにより判断できる。そのため、インク噴射処理が開始される前に、展開速度B及び生成速度Cを取得できる。よって、キャリッジ32の最初の移動時から、1走査領域Tyの間隔Hyを適切に設定できる。
【0089】
(8)通信速度A、展開速度B及び生成速度Cは、印刷処理中に変動する可能性がある。特に、通信速度Aは、ホスト装置HC側での制御負荷の増大などに起因して急激に変動するおそれがある。そこで、本実施形態では、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cのうち少なくとも一つの速度が遅くなった場合には、該速度の変動に合わせて、候補ノズル数KN及びデータ長Dsを小さな値に再設定する。その結果、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cのうち少なくとも一つの速度が遅くなったとしても、印刷処理中におけるキャリッジ32の待機時間が長くなることを抑制できる。
【0090】
(9)その一方で、もし仮に通信速度A、展開速度B及び生成速度Cのうち少なくとも一つの速度が速くなった場合には、上記各関係式(式1)〜(式3)を用いて演算すると、候補ノズル数KN及びデータ長Dsが大きな値に再設定される。この場合、新たに候補ノズルに設定されたノズルには、今までインク噴射を行っていなかったため、インク噴射を適切に行うことができるようにクリーニング処理又はフラッシング処理を行う必要がある。すると、印刷処理の途中にクリーニング処理又はフラッシング処理が行われるため、印刷速度が大幅に低下するおそれがある。この点、本実施形態では、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cのうち少なくとも一つの速度が速くなった場合には、候補ノズル数KN及びデータ長Dsが再設定されない。そのため、印刷処理中に、クリーニング処理又はフラッシング処理が行われることを回避でき、印刷速度の低下を回避できる。
【0091】
(10)本実施形態では、印刷処理中に実行されるフラッシング処理では、候補ノズル以外の未使用ノズルからインクを排出させない。そのため、未使用ノズルからもインクを排出させるようなフラッシング処理を行う場合と比較して、フラッシング処理に伴うインク消費量を低減できる。
【0092】
(11)また、印刷処理開始時に実行されるノズル検査処理は、今回の印刷処理では使用されない未使用ノズルを検査しない。そのため、未使用ノズルの検査も行う場合と比較して、ノズル検査処理に要する時間を短縮できると共に、ノズル検査処理時におけるインク消費量を低減できる。
【0093】
(12)近年では、ロール紙Pに印刷する画像の解像度が高くなる傾向があり、結果として、印刷データのデータ量が増大する傾向にある。そのため、データの受信、展開及び生成などに要する時間が長くなり、印刷処理中におけるキャリッジ32の待機時間が長くなる傾向がある。この点、本実施形態では、インク噴射処理時におけるキャリッジ32の1走査間で処理できる分だけのデータ長Dsが設定され、該データ長Ds単位でデータの受信、展開及び生成が行われる。そのため、印刷処理中におけるキャリッジ32の待機時間の長時間化を抑制できる。また、画像の高解像度化が進んでも、印刷処理に要する時間の増大を抑制できる。
【0094】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図11に基づき説明する。なお、第2の実施形態は、印刷方法の一部が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0095】
本実施形態では、マイクロウィーブ印刷方式の印刷処理が行われる。このマイクロウィーブ印刷方式とは、図11に示すように、前回のインク噴射処理によって形成された1走査領域Tyの一部(副走査方向Yにおける上流側端部(図11では下端部))と、今回のインク噴射処理によって形成される1走査領域Tyの一部(副走査方向Yにおける下流側端部(図11では上端部))とを重ね合わせる方式である。なお、図11では、一のノズル列45を構成するノズル43の数が13個であるものとし、各ノズル43(1)〜43(13)のうち、ノズル43(3)〜43(11)が候補ノズルとされ、ノズル43(1),43(2),43(12),43(13)が候補ノズル以外の未使用ノズルであるものとする。
【0096】
マイクロウィーブ印刷方式で印刷処理を行う場合は、マイクロウィーブ印刷方式に対応した分割印刷データをコントローラー86が受信する第1ケースと、マイクロウィーブ印刷方式に対応していない分割印刷データをコントローラー86が受信する第2ケースとが考えられる。第1ケースでは、コントローラー86の画像展開処理部109は、受信した分割印刷データを、ビットマップデータに変換して展開する。そして、画像展開処理部109は、各候補ノズル43(3)〜43(11)に対して、展開したビットマップデータに応じたデータが割り当てられると共に、未使用ノズル43(1),43(2),43(12),43(13)に対して、ダミーデータが割り当てられるように、1走査分のビットマップデータを生成する。その後、生成された1走査分のビットマップデータに基づき、該印刷制御部105は、インク噴射処理及び紙送り処理を行う。
【0097】
一方、第2ケースでは、コントローラー86の画像展開処理部109は、受信した分割印刷データを、ビットマップデータに変換して展開する。そして、画像展開処理部109は、以下に示す方法で各ノズル43(1)〜43(13)にデータが割り当てられるように、1走査分のビットマップデータを生成する。
【0098】
すなわち、画像展開処理部109は、各候補ノズル43(3)〜43(11)のうち、第2領域Txに対応する各候補ノズル43(5)〜43(9)に対して、展開されたビットマップデータに応じたデータを割り当てる。また、画像展開処理部109は、第1領域Tzに対応する候補ノズル43(3),43(4),43(10),43(11)のうち、副走査方向Yにおいて所定個おきの候補ノズルに対して、展開されたビットマップデータを割り当てる。図11では、画像展開処理部109は、各候補ノズル43(3),43(4),43(10),43(11)のうち、候補ノズル43(3),43(11)に対して、展開されたビットマップデータに応じたデータを割り当てると共に、候補ノズル43(4),43(10)に対して、ダミーデータを割り当てる。また、画像展開処理部109は、未使用ノズル43(1),43(2),43(12),43(13)に対して、ダミーデータを割り当てる。
【0099】
そして、このように生成された1走査分のビットマップデータに基づき、印刷制御部105は、インク噴射処理及び紙送り処理を行う。
したがって、本実施形態では、上記第1の実施形態と同等の作用・効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
【0100】
(13)本実施形態の印刷処理では、前回のインク噴射処理によって形成された1走査領域Tyの一部と、今回のインク噴射処理によって形成される1走査領域Tyの一部とが重なる。そのため、前回のインク噴射処理によってロール紙Pに付着したインクが乾燥する前に、今回のインク噴射処理を行うことが画質向上の観点から好ましい。この点、本実施形態では、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cに基づきデータ長Dsが設定されるため、印刷処理中におけるキャリッジ32の待機時間を短くできる。その結果、前回のインク噴射処理が終了してから、今回のインク噴射処理が開始されるまでの時差を短くできる。したがって、前回のインク噴射処理によってロール紙Pに付着したインクが乾燥する前に、今回のインク噴射処理を行える可能性を高くでき、ひいてはロール紙Pに印刷される画像の画質の向上に貢献できる。
【0101】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよいし、これらを組み合わせてもよい。
・各実施形態において、候補ノズル数KNが算出された場合、一のノズル列45を構成する各ノズル43のうち、副走査方向Yにおける下流側に位置するノズルを、候補ノズルに設定してもよい。また、一のノズル列45を構成する各ノズル43のうち、副走査方向Yにおける上流側に位置するノズルを、候補ノズルに設定してもよい。また、一のノズル列45を構成する各ノズル43のうち、副走査方向Yにおける中央側に位置するノズルを、候補ノズルに設定してもよい。
【0102】
・各実施形態において、上記関係式(式2)に基づき算出された候補ノズル数KNの1桁目を切り上げてもよい。この場合、候補ノズル数KNは、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cに基づき、「10個」単位で設定される。
【0103】
・各実施形態では、印刷処理中にフラッシング処理を行う場合には、各ノズル43のうち候補ノズル以外の未使用ノズルからインクを排出させないが、印刷処理中ではない場合に実行されるフラッシング処理では、全てのノズル43からインクを排出させてもよい。このように構成することにより、ノズル43内におけるインクの粘度上昇などに伴うノズル43の目詰まりを抑制できる。
【0104】
同様に、印刷処理中ではない場合に実行されるノズル検査処理では、全てのノズル43を検査してもよい。
・各実施形態において、印刷途中に通信速度Aが速くなった場合には、候補ノズル数KN及びデータ長Dsを再設定してもよい。この場合、候補ノズル数KNが、それ以前よりも多くなるため、印刷ヘッド42にクリーニングを行ってもよい。また、新たに候補ノズルに設定されたノズル43に対しては、フラッシング処理を行ってもよい。このように構成することにより、インクの噴射不良を抑制でき、印刷精度の低下を抑制できる。
【0105】
・各実施形態では、ホスト装置HCと印刷装置11とは、通信ケーブルを介して接続されているため、印刷処理中に通信速度Aが変動する可能性は低いと考えられる。そのため、上記関係式(式1)(式2)を用いてデータ処理時間Td及び候補ノズル数KNを算出する場合には、通信速度Aを予め設定された所定値としてもよい。ただし、所定値は、実際の通信速度を実験やシミュレーションなどによって取得し、該取得結果に基づいた定数であることが好ましい。
【0106】
・各実施形態において、印刷装置11で印刷可能な印刷データの記述方式が1つのみである場合には、生成速度Cを予め設定された所定値としてもよい。この場合、候補ノズル数KNは、展開速度Bに応じた値に設定されることになる。ただし、所定値は、展開されたビットマップデータから1走査分のビットマップデータを生成する際に要する時間を実験やシミュレーションなどによって取得し、該取得結果に基づいた定数であることが好ましい。
【0107】
・各実施形態において、印刷装置11で印刷可能な印刷データの圧縮形式が1つのみである場合には、展開速度Bを予め設定された所定値としてもよい。この場合、候補ノズル数KNは、生成速度Cに応じた値に設定されることになる。ただし、所定値は、受信した分割印刷データを展開する際に要する時間を実験やシミュレーションなどによって取得し、該取得結果に基づいた定数であることが好ましい。
【0108】
・各実施形態では、1走査領域Tyの間隔Hyを、通信速度Aが遅いほど狭めに設定しているが、段階的に設定してもよい。
同様に、1走査領域Tyの間隔Hyを、展開速度Bが遅いほど狭めに設定しているが、段階的に設定してもよい。
【0109】
同様に、1走査領域Tyの間隔Hyを、生成速度Cが遅いほど狭めに設定しているが、段階的に設定してもよい。
・各実施形態において、メンテナンス装置60は、ノズル検査装置64を備えない構成でもよい。
【0110】
・各実施形態において、印刷装置を、印刷処理中に、印刷媒体を基準として、印刷ヘッド42が所定の搬送方向に相対移動する印刷装置に具体化してもよい。
・各実施形態において、印刷装置11は、ホスト装置HCを介さずに、外部メモリー(メモリーカードなど)や電子カメラなどから印刷データを直接取得可能な印刷装置であってもよい。この場合、外部メモリーに記憶される印刷データは、印刷装置11内のメモリー(RAM85など)にコピーされ、該メモリーに記憶された印刷データに基づいて印刷処理が行われる。そのため、印刷データを受信するための通信速度Aを考慮することなく、候補ノズル数KNを設定してもよい。
【0111】
また、印刷装置11は、スキャナー部などを備えた複合機であってもよい。
・各実施形態において、印刷装置11は、印刷中に印刷ヘッドが移動しない所謂ラインヘッドタイプの印刷装置でもよいし、主走査方向Xに複数の印刷ヘッド42が配置される所謂ラテラルタイプの印刷装置であってもよい。こうした印刷装置であっても、各ノズル43は、印刷媒体の搬送方向に沿って配置されることが好ましい。
【0112】
・各実施形態において、ノズル列45は、印刷媒体の搬送方向(即ち、副走査方向Y)と直交する方向以外の任意の方向に延びる構成であってもよい。
・各実施形態において、印刷装置11で印刷される印刷媒体は、ロール紙に限らず、他の用紙(例えば単票紙)であってもよい。
【0113】
・各実施形態において、印刷装置11は、インクカートリッジ14がキャリッジ32に着脱可能な状態で搭載される所謂オンキャリタイプのプリンターに具体化してもよい。
・各実施形態では、印刷装置11として、インクジェット式プリンターが採用されているが、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置を採用してもよい。また、微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。この場合、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態を言い、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置が挙げられる。さらに、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。また、流体は、トナーなどの粉粒体でもよい。なお、本明細書でいう流体には、気体のみからなるものは含まないものとする。
【0114】
・各実施形態において、印刷装置11は、ドットインパクト方式、レーザー方式などの他の印刷方式の印刷装置でもよい。
・各実施形態において、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cを、プリンタードライバーPDで取得してもよい。すなわち、プリンタードライバーPDは、印刷装置11との通信方式を認識できれば通信速度Aを一義的に設定することができる。また、プリンタードライバーPDは、印刷データの圧縮方式や記述方式についても認識できるため、印刷装置11内でのデータの展開速度B及び生成速度Cも設定できる。そして、プリンタードライバーPDは、上記関係式(式1)(式2)(式3)に基づき候補ノズル数KN及びデータ長Dsを設定し、設定したデータ長Dsの分割印刷データを印刷装置11側に順次送信させてもよい。
【0115】
このように構成すると、印刷装置には、通信速度A、展開速度B及び生成速度Cに基づき設定されたデータ長Dsの分割印刷データが送信される。そして、印刷装置では、印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の間隔が、受信した分割印刷データのデータ長Dsに応じた間隔に設定される。そのため、展開速度B及び生成速度Cを考慮することなく上記領域の間隔を設定する場合と比較して、上記領域の間隔の設定精度を向上させることができる。
【0116】
次に、上記各実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)外部から印刷データを受信する際の通信速度を取得する通信速度取得手段をさらに備え、
前記印刷制御手段は、印刷途中に、前記通信速度取得手段によって取得される通信速度が速くなった場合には、前記印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の前記間隔を、前記変換速度が速くなる前の状態で維持することを特徴とする。
【0117】
上記構成によれば、印刷処理中に通信速度が速くなった場合には、印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の間隔を広くすることが可能である。しかしながら、上記間隔を広くするということは、候補ノズル数を増やすことになる。この場合、新たに候補ノズルに設定されたノズルには、今までインク噴射を行っていなかったため、インク噴射を適切に行うことができるようにメンテナンス処理を行う必要がある。すると、印刷処理の途中にメンテナンス処理が行われるため、印刷速度が大幅に低下するおそれがある。この点、本実施形態では、通信速度が速くなった場合には、印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の間隔が変更されない。そのため、印刷処理中に、メンテナンス処理が行われることを回避でき、印刷速度の低下を回避できる。
【0118】
(ロ)印刷データを印刷装置に送信するホスト装置に実行されるプログラムであって、
前記ホスト装置の制御部に、
前記印刷装置に印刷データを送信する際の通信方式に基づいた通信速度を推定させるステップと、
印刷データの圧縮方式に基づき、印刷装置での印刷データの展開速度を推定させるステップと、
印刷データの記述方式に基づき、印刷装置における印刷手段の1回の駆動に必要な動作データを生成させる際の生成速度を推定させるステップと、
前記各ステップで推定した通信速度、展開速度及び生成速度に基づき、1回の通信で前記印刷装置側に送信するデータのデータ長を設定させるステップと、
印刷データを、前記ステップで設定したデータ長単位で分割して生成した分割印刷データを前記印刷装置側に順次送信させるステップと、を実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0119】
11…印刷装置、23…搬送手段としての搬送装置、32…印刷手段を構成するキャリッジ(移動体)、42…印刷手段を構成する印刷ヘッド、43…ノズル、61…印刷材受容部としてのキャップ、64…コントローラー、100…データ取得手段、通信速度取得手段としてのデータ受信部、105…印刷制御手段としての印刷制御部、106…維持制御手段としてのメンテナンス制御部、109…データ変換手段としての画像展開処理部、110…速度取得手段としての変換速度取得部、Hy…間隔、P…印刷媒体としてのロール紙、Ty…1走査領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷材を印刷媒体に付着させる印刷ヘッドを有する印刷手段と、
前記印刷ヘッドを基準として、印刷媒体を所定の搬送方向に相対的に移動させる搬送手段と、
取得された印刷データを動作データに変換するデータ変換手段と、
前記データ変換手段によって変換された動作データに基づき前記印刷手段及び前記搬送手段を制御し、印刷媒体への印刷材の付着と前記印刷ヘッドを基準とする印刷媒体の相対移動とを交互に行わせる印刷制御手段と、を備えた印刷装置において、
前記データ変換手段によって印刷データが動作データに変換される際の変換速度を取得する速度取得手段をさらに備え、
前記印刷制御手段は、前記速度取得手段によって取得された変換速度が所定速度よりも遅い場合に、前記印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の前記搬送方向における間隔を前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも狭くすることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記印刷手段は、前記印刷ヘッドを支持し且つ前記搬送方向と交差する走査方向に往復移動する移動体をさらに有し、
前記印刷制御手段は、前記速度取得手段によって取得された変換速度が前記所定速度よりも遅い場合には前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも印刷データに伴う印刷処理時における前記移動体の移動回数が多くなるようにすることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記印刷ヘッドは、印刷材を噴射する複数のノズルを有し、前記各ノズルは、前記搬送方向にそれぞれ配置されており、
前記印刷制御手段は、前記速度取得手段によって取得された変換速度が前記所定速度よりも遅い場合には前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも前記各ノズルのうち印刷処理時に使用し得る候補ノズルの数が少なくなるようにすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
圧縮された印刷データを取得するデータ取得手段をさらに備え、
前記データ変換手段は、
前記データ取得手段によって取得された印刷データを、その圧縮形式に応じた展開処理を行い、展開後の印刷データを、その記述方式に応じた処理を行うことにより、動作データに変換するようになっており、
前記速度取得手段は、前記データ取得手段によって取得された印刷データの圧縮方式及び記述方式のうち少なくとも一方に基づいた変換速度を取得することを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記印刷制御手段は、印刷途中に、前記速度取得手段によって取得される変換速度が速くなった場合には、前記印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の前記間隔を、前記変換速度が速くなる前の状態で維持することを特徴とする請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記印刷ヘッドから噴射された印刷材を受容する印刷材受容部と、
印刷媒体への印刷精度を維持するために、前記印刷材受容部内に前記印刷ヘッドから印刷材を噴射させるべく前記印刷手段を制御する維持制御手段と、をさらに備え、
前記維持制御手段は、印刷媒体への印刷途中に、前記印刷材受容部を前記印刷ヘッドに対向配置させ、前記候補ノズルから印刷材を前記印刷材受容部に噴射させる一方で、前記候補ノズル以外の他のノズルから前記印刷材受容部への印刷材の噴射を規制するように前記印刷手段を制御することを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項7】
取得した印刷データに基づいた印刷手段の駆動により所定の搬送方向に搬送される印刷媒体に対して印刷材を用いて印刷する印刷方法において、
印刷データを動作データに変換する際における変換速度を取得させる速度取得ステップと、
前記速度取得ステップで取得した変換速度が所定速度よりも遅い場合には前記変換速度が前記所定速度よりも速い場合よりも、前記印刷手段の1回の駆動によって印刷媒体に印刷材が付着される領域の前記搬送方向における間隔が狭くなるように印刷処理を行わせる印刷ステップと、を有することを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−11616(P2012−11616A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148755(P2010−148755)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】