説明

印刷装置

【課題】ウェブ蓄積部に形成されるウェブループの底部の上下動を無くし、更に張力計や、用紙に掛かる重力情報などを必要としない、低コストでシンプルな印刷装置を提供する。
【解決手段】搬送されるウェブWに画像を形成する印写部と、印写部に対しウェブ搬送方向上流側に設けられウェブWに弛みを与える蓄積部と、ウェブWを蓄積部へ搬入するインフィードローラ3a,3bと、蓄積部の天井部からウェブWの弛み部の底部までの距離を検出する測距センサ8を有し、蓄積部に存在するウェブWの搬送方向の長さを、測距センサ8からの距離情報より放物線の式に基づいて算出し、微少時間毎のウェブWの長さの変化量よりインフィードローラ3a,3bの回転速度を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置に係り、特に用紙バッファ部を有する印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2は、印刷装置の概略構成図である。給紙装置より供給されたウェブWは、印刷装置100の内部に送り込まれ、搬送経路上に配置されたガイドローラ2に案内され、ウェブバッファ機構10に向けて搬送される。ウェブバッファ機構10は、搬送されるウェブWを一時的に蓄える蓄積部10aと、蓄積部10aに対しウェブ搬送方向上流部に設けられた一対のローラ3a,3bと、蓄積部10aにおけるウェブWの弛み量(バッファ量)を監視する複数のセンサ(本例においては2対の光学式センサ5a,5bを使用している)とを備えている。蓄積部10aにおいては、通常、弛んだウェブWの底面がセンサ5aのレベルとなるようにローラ3aの回転速度を制御する。
【0003】
このウェブバッファ機構10のウェブ搬送制御方法の一例として、例えば特開2004−331326号公報を挙げることができる。
【0004】
また、ループ形状の媒体を搬送する他の制御方法としては、特開平2−305769号公報が知られている。この場合、ウェブ蓄積部におけるウェブのループ深さは、電磁式のループ深さ検出機によって検出される。また、ウェブにかかる張力を張力計によって測定する。この張力実測値Tおよび懸垂曲線式(カテナリ式)に基づきウェブ蓄積部にあるウェブの長さを算出する。ここで、ウェブの単位長さ当たりの重量をw(kg/m)、ロールスパンをl(m)、カテナリ深さをd(m)とすると、懸垂曲線式より、T=(w×l)/(8×d)(kg)の関係が成立し、この関係式に基づいてウェブ蓄積部に存在するウェブの長さが求められる。このようにして求められた蓄積部のウェブの長さに基づいてウェブ蓄積部へ搬入する速度を制御する。
【0005】
【特許文献1】特開2004−331326号公報
【特許文献2】特開平2−305769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが上述した特開2004−331326号公報における制御では、センサ5aを中心として、ウェブWの底部は上下することになる。この上下動の影響により、ウェブバッファ機構10の下流において負荷変動が発生し、印刷品質に影響を及ぼすことになる。
【0007】
また、特開平2−305769号公報における制御では、ウェブの張力を測定する機構や、ウェブの単位長さ当たりの重力の情報が必要であり、また計算式も複雑なものとなる。
【0008】
本発明の目的は、ウェブ蓄積部に形成されるウェブのU字ループ形状を安定させることができる、動作信頼性の高い印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の第1の手段は、搬送されるウェブに画像を形成する印写部と、その印写部のウェブ搬送方向上流側に設けられ前記ウェブに弛みを与える蓄積部と、前記ウェブを前記蓄積部へ搬入する搬入手段と、前記蓄積部の天井部から前記ウェブの弛み部の底部までの距離を検出する測距センサ有する印刷装置において、前記蓄積部に存在するウェブの搬送方向の長さを、前記測距センサからの距離情報より放物線の式に基づいて算出し、微少時間毎のウェブの長さの変化量より前記搬入手段の搬入速度を調整する構成になっていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第2の手段は前記第1の手段において、当該印刷装置の印刷停止時の前記搬入手段の搬送速度を、次回の印刷開始時に設定することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第3の手段は前記第2の手段において、前記測距センサからの距離情報が所定の期間、所定の範囲内に収まっており、それと同時に前記搬入手段の搬送速度が同速度であることが継続している場合のみ、その時の前記搬入手段の搬送速度を、次回の印刷開始時に設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
前記第1の手段によれば、測距センサからの距離情報より放物線(二次曲線)の式に基づいて算出し、微少時間毎のウェブの長さの変化量より搬入手段の搬入速度を調整するため、ウェブ蓄積部に形成されるウェブのU字ループ形状を安定させることができる。
【0013】
前記第2の手段によれば、印刷停止時の搬入手段の搬送速度を、次回の印刷開始時に設定しているので、印刷開始時からウェブ蓄積部に形成されるウェブのU字ループ形状を安定させることができる。
【0014】
前記第3の手段によれば、測距センサからの距離情報が所定の期間、所定の範囲内に収まっており、それと同時に搬入手段の搬送速度が同速度であることが継続している場合のみ、その時の搬入手段の搬送速度を、次回の印刷開始時に設定しているので、ウェブのU字ループ形状が不安定な過渡的な状態における搬入手段の速度を排除でき、常に印刷開始時からウェブ蓄積部に形成されるウェブのU字ループ形状を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。図1は本発明の印刷装置の一実施例を示す模式図である。印刷装置の内部に送り込まれたウェブWは、搬送経路上に配置されたガイドローラ2に案内され、ウェブバッファ機構10に向けて搬送される。ウェブバッファ機構10は、搬送されるウェブWを一時的に蓄える蓄積部10aと、蓄積部10aに対しウェブ搬送方向上流部に設けられた一対のインフィードローラ3a,3b(搬入手段)と、蓄積部10aの天井部からウェブWの弛み底部までの距離を監視する測距センサ8とを備えている。蓄積部10aのウェブ搬出部には、図1に示すように固定された2本のシャフト6を備えており、ウェブWはこれらのシャフト6の間に通して搬送される。
【0016】
ここで、ロープや電線などの両端を持って垂らした時に形成される用紙ループは放物線として近似可能である。図4に放物線の定義図を示す。放物線は式1のように表すことができる。
〔式1〕

【0017】
図3に示すように、ウェブバッファ機構10の水平方向をx軸、垂直方向をy軸と定義する。ウェブバッファ機構10に出来る用紙ループの水平方向の中心をx軸の0点と定義すると、y軸の左右においてループの形状、長さは同等となる。x=0地点からインフィードローラ3a、3bまでの距離をm、地面から測距センサ8までの距離をsとする。
【0018】
まず、印刷開始時に測距センサ8が認識する距離(以下、測距センサ出力とする)を読み込む。この時の測距センサ出力をl、地面からウェブWのループの底部までの距離をaとすると、印刷開始時におけるウェブバッファ機構10のウェブのループ形状は下記の式2で表すことができる。
〔式2〕

【0019】
式2より、印刷開始時にウェブバッファ機構10に存在するウェブWの搬送方向における長さLは、次の式3により求めることができる。
〔式3〕

【0020】
印刷を開始すると、印刷装置の所定の用紙搬送速度(以下、プロセス速度vとする)と同速度にて、インフィードローラ3aの回転動作を開始する。
【0021】
続いて、印刷開始から微少時間Δt経過時の測距センサ出力をl、地面からウェブWのループの底部までの距離をaとすると、この時のウェブバッファ機構10のウェブのループ形状は下記の式4で表すことができる。
〔式4〕

【0022】
式4より、印刷開始から微少時間Δt経過時にウェブバッファ機構10にある用紙の長さLは、次の式5により求めることができる。
〔式5〕

【0023】
よって、印刷開始から微少時間Δt経過時までに、ウェブバッファ機構10におけるウェブ長の変化量ΔLは以下の式6で求めることができる。
〔式6〕

【0024】
微小時間Δtの間にウェブ長がΔL変化したことより、微少時間Δtの期間におけるウェブ搬送速度の変動分Δvは、次の式7により求めることができる。
〔式7〕

【0025】
式7により求めたウェブ搬送速度の変動分Δvとプロセス速度vとの和により、印刷開始から微少時間Δt経過した時点でのインフィードローラ3aのウェブ搬送速度vを求めることができる。
〔式8〕

【0026】
よって、印刷開始から微少時間Δt経過時点で、インフィードローラ3aのウェブ搬送速度を式8により求めたウェブ搬送速度vに設定する。
【0027】
続いて、印刷開始からΔt×n(但し、n>0の正数)時間経過時の制御に関して説明する。印刷開始からΔt×n時間経過時の制御を考えるにあたり、そのΔt時間前の状態、即ち印刷開始からΔt×(n−1)時間経過時の状態を考える。印刷開始からΔt×(n−1)時間経過時の測距センサ8出力をln−1、地面からウェブWのループの底部までの距離をan−1とすると、この時のウェブバッファ機構10のウェブのループ形状は下記の式9で表すことができる。
〔式9〕

【0028】
式9より、印刷開始から微少時間Δt×(n−1)経過時にウェブバッファ機構10にあるウェブWの長さLn−1は、次の式10により求めることができる。
〔式10〕

【0029】
続いて、印刷開始からΔt×n時間経過時の測距センサ8出力をl、地面からウェブWのループの底部までの距離をaとすると、この時のウェブバッファ機構10のウェブのループ形状は下記の式11で表すことができる。
〔式11〕

【0030】
式11より、印刷開始から微少時間Δt×n経過時にウェブバッファ機構10にある用紙の長さLは、次の式12により求めることができる。
〔式12〕

【0031】
よって、印刷開始からΔt×(n−1)時間経過時から、印刷開始からΔt×n時間経過時までにウェブバッファ機構10におけるウェブ長の変化量ΔLは以下の式13で求めることができる。
〔式13〕

【0032】
印刷開始からΔt×(n−1)時間経過時から、印刷開始からΔt×n時間経過時までにウェブ長がΔL変化したことより、この期間におけるウェブ搬送速度の変動分Δvは、次の式14により求めることができる。
〔式14〕

【0033】
印刷開始からΔt×(n−1)時間経過時点でのインフィードローラ3aのウェブ搬送速度をvn−1とすると、式14により求めたウェブ搬送速度の変動分Δvとウェブ搬送速度vn−1との和により、印刷開始からΔt×n時間経過した時点でのインフィードローラ3aのウェブ搬送速度vを次の式15により求めることができる。
〔式15〕

【0034】
よって、印刷開始からΔt×n時間経過時点では、インフィードローラ3aのウェブ搬送速度を、式15により求めたウェブ搬送速度vに設定する。
【0035】
ここで、インフィードローラ3aの摩耗などの影響により、ウェブバッファ機構10内へと搬送する速度と、ウェブバッファ機構10から機外へと搬送される速度との間に速度差が発生している場合を考えると、これらの要因は短時間で変動する要因では無く、比較的に長時間かけて変動していく値であるため、インフィードローラ3aのウェブ搬送速度をプロセス速度vに設定してから印刷を開始すると、毎回、同じ搬送速度に補正されることになる。
【0036】
そこで、本発明の更に好ましい実施例を示す。まず、印刷中の測距センサ8の出力と、インフィードローラ3aのウェブ搬送速度を同時に監視する。測距センサ8の出力が所定の範囲内に収まっている場合には、用紙のループ形状が安定していると判断し、それと同時にインフィードローラ3aのウェブ搬送速度が等速度である状態が一定時間継続した場合には、その時のインフィードローラ3aのウェブ搬送速度が現在のウェブバッファ機構10にとって最適な設定値であると認識し、次回の印刷開始時にはその搬送速度をインフィードローラ3aのウェブ搬送速度として設定する。これにより、ウェブバッファ機構10のウェブループ形状は、印刷開始時から安定した形状となる。
【0037】
以上の制御を実施することにより、ウェブバッファ機構10のウェブのU字形状を安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の印刷装置の一実施例を示す模式図である。
【図2】従来の印刷装置の概略構成図である。
【図3】本発明の印刷装置の概念図である。
【図4】放物線の定義図を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
Wはウェブ、2はガイドローラ、3a,3bはインフィードローラ、5a,5bはセンサ、6はシャフト、8は測距センサ、10はウェブバッファ機構、10aは蓄積部、100は印刷装置である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるウェブに画像を形成する印写部と、その印写部のウェブ搬送方向上流側に設けられ前記ウェブに弛みを与える蓄積部と、前記ウェブを前記蓄積部へ搬入する搬入手段と、前記蓄積部の天井部から前記ウェブの弛み部の底部までの距離を検出する測距センサを有する印刷装置において、
前記蓄積部に存在するウェブの搬送方向の長さを、前記測距センサからの距離情報より放物線の式に基づいて算出し、微少時間毎のウェブの長さの変化量より前記搬入手段の搬入速度を調整する構成になっていることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1記載の印刷装置において、当該印刷装置の印刷停止時の前記搬入手段の搬送速度を、次回の印刷開始時に設定することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2記載の印刷装置において、前記測距センサからの距離情報が所定の期間、所定の範囲内に収まっており、それと同時に前記搬入手段の搬送速度が同速度であることが継続している場合のみ、その時の前記搬入手段の搬送速度を、次回の印刷開始時に設定することを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−143723(P2010−143723A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323484(P2008−323484)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】