説明

印刷装置

【課題】利害関係にあるユーザにとって印刷物の取得効率が良い印刷装置を提供すること。
【解決手段】プリンタ100は,ユーザを識別するユーザ認証を行い,その後,印刷物を取り除く機会を与える機会付与処理を実行する必要があるか否かを判断する(S102)。その判断では,識別されたユーザ(識別ユーザ)の印刷物が排紙部に載置されていると判断する第1条件と,識別ユーザのジョブがジョブキューにあると判断する第2条件との少なくとも一方を満たす場合に,機会付与処理の必要があると判断する。そして,機会付与処理が必要と判断された場合に(S103:YES),機会付与処理(例えば,排紙能力を低下させる処理)を実行する(S104)。一方,不要と判断された場合には(S103:NO),機会付与処理の実行を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,用紙に画像を印刷する印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,プリンタ,コピー機,FAX装置等の印刷機能を有する印刷装置では,印刷速度の向上が著しい。この印刷速度の高速化に伴って,連続印刷中に排紙先のトレイから印刷物を取り除き難い傾向にある。そこで,連続印刷中に,印刷物を取り除く機会を与える機会付与機能に関する技術が開示されている。
【0003】
この機会付与機能に関する技術としては,例えば特許文献1に開示された印刷装置がある。この印刷装置には,排紙先のトレイを切り換える切換スイッチがあり,ユーザが切換スイッチを操作して印刷物の排紙先を変更することで,ユーザに印刷物を取り除く機会を与えている。また,特許文献1では,一時停止スイッチによって装置を停止させる技術についても言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−016130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の印刷装置には,次のような問題があった。すなわち,印刷装置の切換スイッチ等は,ジョブを投入したユーザ以外のユーザ(つまり,利害関係に無いユーザ)であっても操作可能である。そのため,例えば,そのような利害関係に無いユーザに排紙先を切り換えられると,ジョブを投入したユーザ(つまり,利害関係にあるユーザ)にとっては意図しないトレイに印刷物が排紙されることになり,印刷物を捜す手間が増える。その結果,印刷物の取り出し作業に反って手間がかかる。また,例えば,利害関係に無いユーザが装置を一時停止させると,生産性の悪化を招く。
【0006】
本発明は,前記した従来の印刷装置が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,利害関係にあるユーザにとって印刷物の取得効率が良い印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた印刷装置は,用紙に印刷を行う印刷部と,印刷部によって印刷された印刷物の排紙先である排紙部と,ユーザを識別する識別部と,識別部によって識別されたユーザの印刷物が排紙部に載置されていると判断する第1条件と,識別部によって識別されたユーザのジョブがジョブキューにあると判断する第2条件との少なくとも一方を満たす場合に,印刷物を取り除く機会を与える機会付与処理を実行する実行部とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明の印刷装置は,機会付与処理の実行にあたって,ユーザを識別する。そして,識別されたユーザ(識別ユーザ)の印刷物が排紙部に載置されていると判断する第1条件と,識別ユーザのジョブがジョブキューにあると判断する第2条件との少なくとも一方を満たす場合に,機会付与処理を実行する。
【0009】
すなわち,本発明の印刷装置は,識別ユーザの印刷物が排紙先にあると判断できる,あるいはその識別ユーザのジョブがジョブキューにあると判断できる際に,機会付与処理を実行する。換言すると,印刷物もジョブも無いユーザ,すなわち利害関係に無いユーザによる,機会付与処理の実行を制限する。このことにより,利害関係にある識別ユーザの意図しないところでの,作業性の悪化や生産性の悪化が抑制される。
【0010】
また,本発明の印刷装置は,排紙部が複数あり,実行部は,識別部によって識別されたユーザの印刷物が積載されている排紙部を排紙先としている場合に,機会付与処理を実行するとよい。識別ユーザの印刷物が積載されている排紙部が排紙先となっていると,印刷物の取り出し性の問題が顕著になる。一方で,識別ユーザが利用していない排紙部が排紙先になっている場合には,識別ユーザの印刷物の取り除き作業は容易である。そのため,生産性の観点から,識別ユーザの印刷物がある排紙部が排紙先となっている場合にのみ機会付与処理を実行可能にする方が望ましい。
【0011】
また,本発明の印刷装置の実行部は,未印刷のジョブの量が規定値以下である場合には,機会付与処理の実行を制限するとよい。未印刷のジョブの量(例えば,残りの印刷枚数)が規定値以下の場合は,印刷が早期に完了すると予測される。印刷が早期に完了するのであれば,機会付与処理を行わずとも印刷完了を待って印刷物を取り除いてもユーザの不満は少ない。
【0012】
また,本発明の印刷装置の実行部は,第1条件の判断に,用紙に設けられた記憶素子との無線通信を利用するとよい。無線通信によって実際に用紙の存在を把握することで,実際に排紙部に載置されている用紙の有無に即した制御を行うことが期待できる。無線通信を可能にする記憶素子としては,例えば,RFID(Radio Frequency IDentification)タグが適用可能である。
【0013】
また,本発明の印刷装置の実行部は,所定時間が経過したことを契機に,機会付与処理の実行を取り消すとよい。機会付与処理は,印刷物を取り除く機会を与える一方で,生産性に対する悪影響が懸念される。そのため,所定期間にのみ機会付与処理を実行し,その期間が経過した後は元の状態に戻すことが望ましい。
【0014】
また,本発明の印刷装置は,低速印刷モードと高速印刷モードとがあり,実行部は,第1条件と第2条件との少なくとも一方を満たすとともに,高速印刷モードであった場合に,機会付与処理を実行するとよい。低速印刷モードでは,印刷物を取り除く際の問題が生じ難い。そのため,高速印刷モードでのみ機会付与処理を実行する方が望ましい。
【0015】
また,機会付与処理では,排紙部への排紙能力を低下させる低排紙処理を行うとよい。この構成のように機会付与処理で低出力印刷を行うことで,排紙間隔が長くなり,印刷物が取り除きやすくなることが期待できる。一方で,利害関係に無いユーザによって低排紙処理が実行されると,利害関係にあるユーザの意図しないところでの生産性の低下が懸念される。そのため,本発明のようにユーザによって低排紙処理の実行を制限することで,これを抑制できる。また,低排紙処理は,排紙先が同じであるため,ユーザが印刷物を捜す必要がない。なお,低排紙処理では,例えば,用紙搬送速度を落とす処理と,用紙搬送を停止する処理と,用紙の搬送間隔を広げる処理と,の少なくとも1つを行うとよい。
【0016】
また,機会付与処理は,排紙先を変更する処理であってもよい。この構成のように機会付与処理で排紙先を変更することで,これまで排紙先であったトレイ上の印刷物を容易に取り除くことができる。一方で,利害関係に無いユーザによって排紙先が変更されると,利害関係にあるユーザの意図しない排紙部に印刷物が散在してしまうおそれがあり,作業性の悪化が懸念される。そのため,本発明のようにユーザによって排紙先の変更を制限することで,これを抑制できる。また,出力能力を低下させないので印刷完了までの時間に遅れが生じ難い。
【0017】
また,本発明の印刷装置の実行部は,第1条件を満たす場合にのみ,機会付与処理を実行するとよい。第1条件を満たす場合には,識別ユーザの印刷物が排紙先にあり,その印刷物を取り除く可能性が高い。そのため,機会付与処理によって印刷物を取り除く機会を付与することが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,利害関係にあるユーザにとって印刷物の取得効率が良い印刷装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態にかかるプリンタの外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示したプリンタの内部構成を示す断面図である。
【図3】図1に示したプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】識別番号の入力画面の例を示す図である。
【図5】第1の形態にかかる排紙調整処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】第1の形態にかかる必要判定処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】印刷が完了したジョブの情報を記憶するデータベースの一例を示す図である。
【図8】第1の形態にかかる管理処理の手順を示すフローチャートである。
【図9】第2の形態にかかる排紙調整処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明にかかる印刷装置を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,高速印刷が可能な電子写真方式のプリンタに本発明を適用したものである。
【0021】
[プリンタの全体構成]
本形態のプリンタ100は,図1に示すように,用紙に印刷を行う本体部10と,本体部10で印刷された用紙の排紙先となる排紙トレイを複数具備する増設排紙部20とを備えている。本体部10は,カバー11内に印刷エンジンとなるプロセスカートリッジを収容する。増設排紙部20は,本体部10の上面に本体部10から着脱可能に取り付けられる。
【0022】
本体部10は,その底部に,印刷前の用紙を収容する給紙カセット91を備えている。なお,給紙カセット91は,1つに限るものではない。例えば,給紙カセット91のさらに下面に,増設給紙カセットを取り付けてもよい。また,本体部10は,その上面に,印刷後の用紙(印刷物)を印刷面が下向きになるように載置する排紙トレイ93を備えている。
【0023】
また,本体部10は,その前面に,手差し給紙を可能にする多目的トレイ94が設けられている。多目的トレイ94は,本体部10のカバー11に開閉自在に配設されており,下辺側に設けられた回転軸を中心に回動させると開放状態となる。そして,開放状態とすることで,多目的トレイ94を利用した給紙が可能になる。また,本体部10は,その背面に,印刷物を印刷面が上向きになるように載置する排紙トレイ95が設けられている。排紙トレイ95も,本体部10のカバー11に開閉自在に配設されており,開放状態とすることで排紙トレイ95を排紙先として利用可能になる。
【0024】
また,本体部10の上面には,液晶ディスプレイからなる表示部41と,OKボタン,キャンセルボタン,テンキー等から構成されるボタン群42とを備えた操作パネル40が設けられている。特に,ボタン群42には,ユーザ認証を行うための入力画面への切り換えを指示するユーザ認証ボタン421が含まれる。この操作パネル40により,動作状況の表示やユーザによる入力操作が可能になる。
【0025】
増設排紙部20は,5段の排紙トレイ群96を備えている。本形態では,排紙トレイ群96を構成する各排紙トレイを,下から順に上に向かって,排紙トレイ961,962,963,964,965とする。なお,増設排紙トレイ部20は,5段の排紙トレイに限るものではない。すなわち,4段以下であってもよいし,6段以上であってもよい。
【0026】
[プリンタの内部構成]
続いて,プリンタ100の内部構成について,図2を参照しつつ説明する。プリンタ100の本体部10は,電子写真方式によってトナー像を形成し,そのトナー像を用紙に転写するプロセス部50と,転写後の未定着のトナーを用紙に定着させる定着装置8と,用紙搬送に利用される各種ローラ(例えば,給紙ローラ71,レジストローラ72,排紙ローラ73,搬入ローラ74,排紙ローラ75)とを備えている。また,増設排紙部20は,排紙トレイ961に用紙を搬送する排紙ローラ761と,排紙トレイ962に用紙を搬送する排紙ローラ762と,排紙トレイ963に用紙を搬送する排紙ローラ763と,排紙トレイ964に用紙を搬送する排紙ローラ764と,排紙トレイ965に用紙を搬送する排紙ローラ765とを備えている。
【0027】
また,プリンタ100の本体部10内には,底部に位置する給紙カセット91に収容された用紙が,給紙ローラ71,レジストローラ72,プロセス部50,定着装置8を通り,排紙ローラ73を介して排紙トレイ93への導かれるように,略S字形状の搬送路21(図2中の一点鎖線)が設けられている。
【0028】
また,プリンタ100の本体部10内には,多目的トレイ94から搬入された用紙が搬入ローラ74を介してプロセス部50へ導かれるように,略直線状の搬送経路24が設けられている。また,プリンタ100の本体部10内には,定着装置8を通過した用紙が排紙ローラ75を介して排紙トレイ95へ導かれるように,略直線状の搬送経路25が設けられている。
【0029】
また,プリンタ100内には,印刷済みの用紙を増設排紙トレイ部20に搬入し,所定の排紙先に導かれるように,搬送路22が設けられている。具体的には,増設排紙部20に搬入された用紙は,排紙ローラ761を介して排紙トレイ961に導かれる。あるいは,排紙ローラ762を介して排紙トレイ962に導かれる。排紙ローラ763を介して排紙トレイ963に導かれる。排紙ローラ764を介して排紙トレイ964に導かれる。排紙ローラ765を介して排紙トレイ965に導かれる。
【0030】
プロセス部50は,周知の電子写真方式によってトナー像を形成するものであり,感光体1と,感光体1の表面を一様に帯電する帯電装置2と,感光体1の表面を露光して静電潜像を形成する露光装置3と,静電潜像に対してトナーによる現像を行う現像装置4と,感光体1上のトナー像を用紙に転写する転写装置5とを有している。感光体1,帯電装置2,および現像装置4は,プロセスカートリッジとして構成され,本体部10に対して着脱可能になっている。
【0031】
プロセス部50では,感光体1の表面が帯電装置2によって一様に帯電される。その後,露光装置3からの光により露光され,用紙に形成すべき画像の静電潜像が形成される。次いで,現像装置4を介して,着色剤であるトナーが感光体1に供給される。これにより,感光体1上の静電潜像は,トナー像として可視像化される。
【0032】
プリンタ100は,給紙カセット91に載置されている用紙あるいは多目的トレイ94から送り込まれた用紙を1枚ずつ取り出し,その用紙をプロセス部50に搬送する。そして,プロセス部50の感光体1上に形成されたトナー像を転写装置5によってその用紙に転写する。その後は,トナー像が転写された用紙を定着装置8に搬送し,トナー像をその用紙に熱定着させる。そして,定着後の用紙を,ジョブに指定された排紙トレイに排出する。
【0033】
また,プリンタ100は,本体部10内に,所定範囲内に存在するRFIDタグを検知し,そのRFIDタグに対してデータの読み出しおよび書き込みを行うことが可能なR/W装置61を備えている。R/W装置61は,RFIDタグが付着された用紙(以下,「RFID用紙」とする)がプリンタ100のどの排紙トレイ上に載置されたとしても,そのRFIDタグにアクセス可能な範囲に配置される。
【0034】
[プリンタの電気的構成]
続いて,プリンタ100の電気的構成について説明する。プリンタ100は,図3に示すように,CPU31と,ROM32と,RAM33と,NVRAM34と,ASIC35と,ネットワークインターフェース36とを備えた制御部30を有している。制御部30は,プロセス部50,操作パネル40,R/W装置61,さらには本体部10や増設排紙部20内に配置された各種ローラの駆動モータ(不図示)等と電気的に接続されている。
【0035】
CPU31は,プリンタ100における印刷機能や,後述する機会付与機能等の各種機能を実現するための演算を実行し,制御の中枢となるものである。ROM32には,プリンタ100を制御するための各種制御プログラムや各種設定,初期値等が記憶されている。RAM33は,各種制御プログラムが読み出される作業領域として,あるいは画像データを一時的に記憶する記憶領域として利用される。NVRAM(Non Volatile RAM)34は,不揮発性を有する記憶手段であって,各種設定ないし画像データ等を保存する記憶領域として利用される。
【0036】
CPU31は,ROM32から読み出した制御プログラムや各種センサから送られる信号に従って,その処理結果をRAM33またはNVRAM34に記憶させながら,プリンタ100の各構成要素をASIC35を介して制御する。
【0037】
ネットワークインターフェース36は,インターネット等のネットワークに接続され,パーソナルコンピュータ(PC)等の情報処理装置との接続を可能にしている。そして,ネットワークインターフェース36を介してジョブを受け渡すことができる。
【0038】
[ユーザ認証機能]
続いて,ユーザを識別するユーザ認証機能について説明する。プリンタ100は,ユーザが操作部40を操作することで,ユーザの識別番号を取得し,その識別番号に基づいてユーザを識別することができる。
【0039】
具体的には,ユーザによってユーザ認証ボタン421が押下されると,図4に示すように識別番号の入力を促す画面を表示部41に表示する。ユーザが識別番号を入力した後,OKボタンを押下すると,プリンタ100は,その識別番号を取得する。そして,プリンタ100は,プリンタ100自身が有するデータベースやサーバが有するデータベースにアクセスすることで,識別番号に対応するユーザを特定する。なお,以下の説明では,ユーザ認証によって識別されたユーザを「識別ユーザ」とする。
【0040】
[機会付与機能]
[第1の形態]
続いて,ユーザに印刷物を取り除く機会を与える機会付与機能について説明する。第1の形態では,連続印刷中に所定の条件を満たすことで,排紙能力を低下させ,印刷物の排紙ペースを下げる。具体的には,用紙搬送速度を落とす,用紙搬送を一時停止する,用紙の搬送間隔を広げるの,少なくとも1つを行うことで,排紙能力を低下させる。排紙能力が低下すると,印刷物の排出ペースが下がり,先に排出された印刷物を取り除き易くなる。つまり,第1の形態では,排紙能力を低下させることによって,ユーザに印刷物を取り除く機会を与える。第1の形態では,この排紙能力を低下させる処理を「機会付与処理」とする。
【0041】
[排紙調整処理]
以下,前述した機会付与機能を動作させる排紙調整処理の手順について,図5のフローチャートを参照しつつ説明する。この排紙調整処理は,ユーザ認証が行われる度に,CPU31によって実行される。
【0042】
まず,印刷ジョブの処理中であるか否かを判断する(S101)。プリンタ100が印刷物を排紙していなければ,印刷物が取り難くなる問題は生じない。そこで,印刷ジョブの処理中でなければ(S101:NO),機会付与処理を実行することなく,S107に移行する。一方,印刷ジョブの処理中であれば(S101:YES),所定の条件に基づいて機会付与処理の必要性を判定する(S102)。
【0043】
図6は,S102の必要判定処理の手順を示している。必要判定処理では,まず,高速印刷モードで印刷中であるか否かを判断する(S121)。プリンタ100は,高速印刷モードと低速印刷モードとを有している。そして,用紙種別や解像度によって印刷モードが決まる。例えば,厚紙に印刷する場合には,定着に時間がかかることから低速印刷モードになる。また,基準値以上の高解像度印刷を行う場合にも低速印刷モードになる。これらの要件を満たさない場合には,高速印刷モードになる。
【0044】
低速印刷モードでの印刷の際には,排紙ペースが遅く,印刷物が取り難くなる問題が生じ難い。そこで,低速印刷モードで印刷中の場合には(S121:NO),機会付与処理の必要無しと判定し(S131),必要判定処理を終了する。
【0045】
高速印刷モードで印刷中の場合には(S121:YES),ユーザ認証情報を取得する(S122)。さらに,印刷済みの印刷ジョブの情報を取得する(S123)。なお,プリンタ100は,図7に示すように,印刷済みの印刷ジョブの情報(ジョブ名,ユーザ,排紙先,完了日時等)を記憶するデータベース341を有している。そして,印刷ジョブが完了する度に,その印刷済みの印刷ジョブの情報(以下,「印刷済ジョブ情報」とする)をデータベース341に登録する。S123では,データベース341に記憶されている情報を読み出す。さらに,プリンタ100のジョブキューに現在登録されている印刷ジョブの情報を取得する(S124)。このジョブの情報にも,ユーザ名や排紙先等が含まれる。なお,S122,S123,S124の順番は不問である。
【0046】
次に,印刷中のジョブの未印刷分の印刷枚数と,後続ジョブの印刷枚数との総印刷枚数(以下,「印刷残枚数」とする)を計算し,その印刷残枚数が閾値以上であるか否かを判断する(S125)。印刷残枚数が閾値よりも少なければ,早期に印刷が完了することが予想される。印刷が早期に完了するのであれば,印刷完了を待ったとしてもユーザの不満は少ない。そこで,印刷残枚数が閾値よりも少ない場合には(S125:NO),機会付与処理の必要無しと判定し(S131),必要判定処理を終了する。
【0047】
印刷残枚数が閾値以上の場合には(S125:YES),S123あるいはS124で取得した情報の中に,識別ユーザのジョブがあるか否かを判断する(S126)。すなわち,S123で取得した印刷済ジョブ情報に基づいて,識別ユーザの印刷物が排紙トレイ上に載置されているか否かを判断する。さらに,S124で取得したジョブキューの登録情報に基づいて,識別ユーザのジョブが排紙予定であるか否かを判断する。
【0048】
なお,S123で取得した印刷済ジョブ情報は,あくまでも排紙先,ジョブ,およびユーザを関連付けた情報であって,ユーザがその印刷物を取り除いたか否かは不明である。そのため,実際に排紙トレイ上に存在するかは不問である。
【0049】
また,RFID用紙に印刷した場合には,R/W装置61によってRFIDタグにアクセスすることで,そのRFID用紙については排紙トレイ上に実際に印刷物が残っているか否かを判断できる。そのため,RFID用紙への印刷の場合には,R/W装置61が読み出した情報を優先して排紙トレイ上に印刷物があるか否かを判断する。
【0050】
識別ユーザのジョブがどの排紙トレイにも存在しない,さらにはどの排紙トレイにも排紙予定がない場合には,ユーザが印刷物を取り除く作業を行う可能性が低い。そこで,識別ユーザの印刷物あるいはジョブが無いと判断した場合には(S126:NO),機会付与処理の必要無しと判定し(S131),必要判定処理を終了する。
【0051】
識別ユーザの印刷物あるいはジョブがあると判断した場合には(S126:YES),識別ユーザの印刷物が載置されている排紙トレイを抽出する(S127)。そして,S127で抽出したトレイが排紙先となっているか否か,すなわち現在排紙先となっている排紙トレイが,S127で抽出した排紙トレイに含まれるか否かを判断する(S128)。
【0052】
現在排紙先となっている排紙トレイが抽出されなければ,ユーザがその排紙先となっている排紙トレイから印刷物を取り除く作業を行う可能性が低い。そこで,現在排紙先となっている排紙トレイが抽出されなければ(S128:NO),機会付与処理の必要無しと判定し(S131),必要判定処理を終了する。
【0053】
一方,現在排紙先となっている排紙トレイが抽出された場合には,ユーザがその排紙先となっている排紙トレイから印刷物を取り除く作業を行う可能性が高いと判断できる。そこで,現在排紙先となっている排紙トレイが抽出された場合には(S128:YES),機会付与処理の必要有りと判定し(S129),必要判定処理を終了する。
【0054】
図5の排紙調整処理に戻り,S102の処理にて機会付与処理が必要有りと判断されたか否かを判断する(S103)。機会付与処理が必要無しと判断された場合には(S103:NO),機会付与処理を実行することなく,S107に移行する。
【0055】
一方,機会付与処理が必要有りと判断された場合には(S103:YES),機会付与処理を実行する。具体的に第1の形態では,排紙能力を低下させる処理を実行する(S104)。これにより,印刷物の排紙ペースが下がり,排紙先となっている排紙トレイ上の印刷物が取り除き易くなる。
【0056】
S104による機会付与処理の開始後,規定時間が経過したか否かを判断する(S105)。規定時間が経過していない場合には(S105:NO),規定時間が経過するまで機会付与処理を継続する。規定時間が経過している場合には(S105:YES),排紙能力を元に戻す(S106)。つまり,一定期間,排紙能力を低下させて印刷物を取り除く機会を付与し,その後は機会付与処理が実行される前の状態に戻す。これにより,長時間,排紙能力が低下した状態になることを回避する。
【0057】
S106の後,あるいは印刷ジョブの処理中でなかった場合(S101:NO),あるいは機会付与処理の必要が無いと判断された場合には(S103:NO),データベース341中,識別ユーザの印刷済ジョブ情報を削除する(S107)。すなわち,印刷物を取り除く機会が与えられた後,あるいは印刷物を取り除く機会が不要であった場合には,その識別ユーザが印刷物を取り除く作業を行う可能性が低いと判断できる。そのため,データベース341中の,識別ユーザに関する印刷済ジョブ情報を削除し,これらの情報に起因して機会付与処理が繰り返し実行されることを回避する。S107の後,排紙調整処理を終了する。
【0058】
[管理処理]
続いて,印刷済みジョブ情報を管理する管理処理について,図8のフローチャートを参照しつつ説明する。この管理処理は,CPU31によって定期的に実行される。
【0059】
まず,完了した印刷ジョブがあるか否かを判断する(S151)。完了した印刷ジョブがある場合には(S151:YES),印刷済ジョブ情報を記憶するデータベース341に当該印刷ジョブの情報を登録する(S161)。この登録情報には,少なくとも,ジョブ,ユーザ,排紙先,完了日時をそれぞれ特定できる情報が含まれる。S161の後,管理処理を終了する。
【0060】
完了した印刷ジョブが無い場合には(S151:NO),タイムアウトした印刷済ジョブ情報があるか否かを判断する(S152)。具体的には,各印刷済ジョブ情報の完了日時を参照し,その時刻からの経過時間が基準時間(例えば,1時間)以上のデータをタイムアウトした印刷済ジョブ情報とする。
【0061】
各印刷済ジョブ情報の完了日時からの経過時間が長いジョブは,そのジョブに対応する印刷物が既に取り除かれた可能性が高い。そのため,タイムアウトした印刷済ジョブ情報がある場合には(S152:YES),その印刷済ジョブ情報をデータベース341から削除する(S171)。タイムアウトした印刷済ジョブ情報がない場合(S152:NO),あるいはS171の後,管理処理を終了する。
【0062】
[第2の形態]
続いて,排紙調整処理の他の実施例について説明する。第2の形態では,機会付与処理として,排紙先を切り換える。この点,機会付与処理として,排紙能力を低下させる第1の形態と異なる。以下,本形態の排紙調整処理を,図9のフローチャートを参照しつつ説明する。なお,第1の形態と同じ処理については同じステップ番号を付与し,説明を省略する。
【0063】
本形態の排紙調整処理では,S103にて機会付与処理が必要と判断された場合(S103:YES),切り換え先となる排紙トレイを自動選択する(S203)。S203では,識別ユーザの印刷物が載置されていないと判断される排紙トレイ,すなわち必要判定処理のS127の処理で抽出されなかった排紙トレイを優先して選択する。この他,印刷済ジョブ情報に基づいて各排紙トレイの印刷物の積載枚数を計算し,積載枚数が最も少ない排紙トレイを選択してもよい。
【0064】
その後,排紙先を,S203で選択された排紙トレイに切り換える(S204)。これにより,識別ユーザの印刷物が載置されている排紙トレイに排紙される可能性が低くなり,印刷物が取り除き易くなることが期待できる。その後,規定時間が経過するまで待機し(S105),規定時間の経過後は排紙先を元に戻す(S206)。これにより,識別ユーザ以外のユーザへの影響を少なくする。
【0065】
このように第2の形態では,排紙能力を低下させることなく,排紙先を切り換えて印刷物を取り除く機会を与える。そのため,第1の形態と比較して,印刷完了までの時間に遅れが生じ難い。一方,第1の形態では,排紙先を切り換えることなく,排紙能力を低下させて印刷物を取り除く機会を与える。つまり,1つのジョブの印刷物が1つの排紙トレイに纏まることから,第2の形態のように複数の排紙トレイに1つのジョブの印刷物が散在することがない。そのため,第2の形態と比較して,印刷物を収集する手間が少ない。
【0066】
以上詳細に説明したように実施の形態のプリンタ100は,ユーザ認証が行われた後,利害関係にある識別ユーザの印刷物が排紙先にあると判断できる(第1条件),あるいはその識別ユーザのジョブがジョブキューにあると判断できる(第2条件)等の,機会付与処理の実行の必要性を判断し,必要に応じて機会付与処理を実行する。換言すると,識別ユーザの印刷物あるいはジョブが無ければ機会付与処理の実行が制限される。このことにより,利害関係にあるユーザの意図しないところでの,印刷物を取り除く作業性の悪化や生産性の悪化が抑制される。
【0067】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,プリンタに限らず,複写機,複合機,FAX装置等,印刷機能を備えるものであれば適用可能である。また,プロセス部50の画像形成方式は,電子写真方式に限らず,インクジェット方式であってもよい。また,カラー画像の形成が可能であっても,モノクロ画像専用であってもよい。
【0068】
また,実施の形態では,プリンタ100が増設排紙部20を装着し,複数の排紙トレイを備えているが,排紙トレイが1つしかない印刷装置であっても本発明を適用できる。この場合,必要性判定処理において,他のトレイについての必要性判断(S127,128)は行わなくてもよい。
【0069】
また,実施の形態では,排紙先の情報とジョブキューの情報との両方を取得し,両方ともに識別ユーザの印刷物あるいはジョブが無い場合に機会付与処理が不要と判定しているが(S126),排紙先とジョブキューとのいずれか一方のみを取得し,機会付与処理の必要有無を判定してもよい。
【0070】
また,実施の形態では,ユーザがパネル操作によって識別番号を入力することでユーザ認証を行っているが,ユーザ認証方法としてはこれに限るものではない。例えば,RFIDタグを利用した無線通信によって自動認証を行ってもよい。この場合,RFIDタグが付着した社員証等をユーザが保持し,プリンタ100がR/W装置61によってそのRFIDタグの情報を読み取ることでユーザを識別する。
【0071】
また,実施の形態では,ユーザ認証を行ったことを契機に,排紙調整処理(すなわち,識別ユーザの情報等に基づいて機会付与処理の必要性を判定し,必要有りと判定された場合に機会付与処理を実行する処理)を実行しているが,排紙調整処理の実行条件はこれに限るものではない。例えば,機会付与処理の実行を指示する入力ボタンを設け,その入力ボタンの押下を契機に,排紙調整処理を実行してもよい。
【0072】
また,実施の形態では,ユーザ認証を行った際の必要判定処理で,機会付与処理が必要有りと判定されると,即時に機会付与処理を実行しているが,これに限るものではない。例えば,機会付与処理が必要有りと判定された後,現在印刷中の印刷ジョブの印刷完了を待って機会付与処理を実行してもよい。
【0073】
また,実施の形態では,規定時間の経過を待って機会付与処理を取り消しているが,機会付与処理の取り消し条件はこれに限るものではない。例えば,機会付与処理の取り消しを指示する入力ボタンを設け,その入力ボタンの押下を契機に,機会付与処理を取り消してもよい。また,各排紙トレイに重量センサを配置し,排紙先となっている排紙トレイのセンサが印刷物が取り除かれたことを検知したことを契機に,機会付与処理を取り消してもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 本体部
20 増設排紙部
40 操作パネル
41 表示部
50 プロセス部
61 R/W装置
91 給紙カセット
93 排紙トレイ
100 プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙に印刷を行う印刷部と,
前記印刷部によって印刷された印刷物の排紙先である排紙部と,
ユーザを識別する識別部と,
前記識別部によって識別されたユーザの印刷物が前記排紙部に載置されていると判断する第1条件と,前記識別部によって識別されたユーザのジョブがジョブキューにあると判断する第2条件との少なくとも一方を満たす場合に,印刷物を取り除く機会を与える機会付与処理を実行する実行部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載する印刷装置において,
前記排紙部が複数あり,
前記実行部は,前記識別部によって識別されたユーザの印刷物が積載されている排紙部を排紙先としている場合に,前記機会付与処理を実行することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する印刷装置において,
前記実行部は,未印刷のジョブの量が規定値以下である場合には,前記機会付与処理の実行を制限することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記実行部は,前記第1条件の判断に,用紙に設けられた記憶素子との無線通信を利用することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記実行部は,所定時間が経過したことを契機に,前記機会付与処理の実行を取り消すことを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載する印刷装置において,
低速印刷モードと高速印刷モードとがあり,
前記実行部は,前記第1条件と前記第2条件との少なくとも一方を満たすとともに,前記高速印刷モードであった場合に,前記機会付与処理を実行することを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記機会付与処理では,前記排紙部への排紙能力を低下させる低排紙処理を行うことを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
請求項7に記載する印刷装置において,
前記低排紙処理では,用紙搬送速度を落とす処理と,用紙搬送を停止する処理と,用紙の搬送間隔を広げる処理と,の少なくとも1つを行うことを特徴とする印刷装置。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記機会付与処理は,排紙先を変更する処理であることを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9の少なくとも1つに記載する印刷装置において,
前記実行部は,前記第1条件を満たす場合にのみ,前記機会付与処理を実行することを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−25061(P2012−25061A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166737(P2010−166737)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】