説明

卵加工品とその製造方法

【課題】 化学物質からなる化学抗酸化剤やジグリセリドのような乳化剤を主成分として使用することなく、長期間保存しても酸化安定性が損なわれることなく、消費者にとって好ましく受け入れられる、水中油型乳化食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させることを特徴とする卵加工品の製造方法と前記方法により得られる卵加工品を提供すると共に、油相と水相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、乳化剤として、前記卵加工品を用いることを特徴とする、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品の製造方法と前記方法により得られる、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品をそれぞれ提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵加工品とその製造方法に関し、詳しくは卵加工品とその製造方法、並びに該卵加工品を用いた、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品とその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、マヨネーズやドレッシング等の水中油型乳化食品に使用された場合に、強い酸化安定性を付与することのできる卵加工品とその製造方法、並びに該卵加工品を用いた、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品中に含まれる油脂は、保存期間中に徐々に酸素を吸収し、それらがある段階に達すると急速に酸化が進む結果、食品の変質、変色などの劣化をもたらす。
【0003】
ところで水相原料と油相原料とが水中油型に乳化され、エマルジョン状とされた水中油型乳化食品の代表的なものとして、マヨネーズやドレッシング類等がよく知られている。これらは、水相原料と油相原料とが水中油型に乳化された、美味しく、且つ、栄養価の高い食品となっている。
ここで、油相原料としては、大豆油、菜種油等の食用植物油が一般的に使用されており、乳化剤としては、通常、呈味、色調及び乳化安定性の観点から、卵黄が主に用いられている。
【0004】
しかしながら、卵黄を使用した、これらマヨネーズやドレッシング類等は酸化に弱く、長期間酸化条件に置かれると変色を生じたり、更には乳化が破壊され、油相が分離するなどの欠点があった。また、過酸化物から生ずる二次生成物の中には、人体に対して有害な物質も検出されている。
【0005】
上記のような酸化による劣化を防止するためには、抗酸化作用を有する化学物質からなる化学抗酸化剤を油脂食品に添加するのが一般的である。
例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステルを含有していることを特徴とする酸性調味料に関する発明が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この発明によれば、製造直後の風味がほぼ維持された風味安定性に優れた酸性調味料が得られるとされている。
しかしながら、近年、化学物質の生体機能への悪影響が問題となっており、消費者は一般的にこのような人工添加物を避ける傾向にある。
【0006】
そのほか、炭素数2〜10の脂肪酸及び炭素数10の脂肪酸より構成されるジグリセリドを含むことによる、酸化安定性に優れたマヨネーズやドレッシング類等に関する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、この技術で使用されるジグリセリドは乳化剤そのものであり、食品添加物である乳化剤を主成分とする食品に対して、消費者は一般的に敬遠する傾向にある。
【0007】
また、食品蛋白の機能性を改質する方法として、メイラード反応を利用して蛋白の側鎖を修飾する方法が知られている。メイラード反応とは、非酵素的な褐変反応を意味し、アミノ−カルボニル反応とも呼ばれている反応である。カルボニル基としては、アルデヒド類やケトン類の代表的なものとしての糖類等が、一方、アミノ基としては、アミノ酸類、ペプタイドや蛋白類が反応に関与する。
【0008】
このようなメイラード反応を利用した蛋白の改質方法として、蛋白質とキトサンとの複合体を形成させる技術(例えば、特許文献3参照)や、蛋白質とキシログルカンとの複合体を形成させる技術(例えば、特許文献4参照)が提案されている。
しかしながら、これらの技術では、メイラード反応を約50℃付近での乾燥系で行なっている為、長時間(数日間)を要し、更に、風味が消失し易いといった欠点があった。
【0009】
【特許文献1】特許第3072100号
【特許文献2】特開2005−237391号公報
【特許文献3】特開2005−187401号公報
【特許文献4】特開平7−258292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、化学物質からなる化学抗酸化剤やジグリセリドのような乳化剤を主成分として使用することなく、長期間保存しても酸化安定性が損なわれることなく、消費者にとって好ましく受け入れられる、水中油型乳化食品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させて得られる卵加工品を添加して得られる水中油型乳化食品が、優れた酸化安定性を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
なお、蛋白質と糖類とのメイラード反応は、食品の製造過程で通常見られる反応であるが、卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させて得られる卵加工品を添加して得られる水中油型乳化食品が優れた酸化安定性を有することは、これまで全く知られていなかった。
【0012】
即ち、請求項1に係る本発明は、卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させることを特徴とする卵加工品の製造方法を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、糖類が5炭糖類である請求項1記載の卵加工品の製造方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、請求項1又は2記載の方法により得られる卵加工品を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、油相と水相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、乳化剤として、請求項3記載の卵加工品を用いることを特徴とする、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品の製造方法を提供するものである。
請求項5に係る本発明は、請求項4記載の方法により得られる、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来のように化学物質からなる化学抗酸化剤や炭素数2〜10の脂肪酸及び炭素数10の脂肪酸より構成されるジグリセリドのような乳化剤を使用することなく、マヨネーズやドレッシング等の水中油型乳化食品に添加することにより、該水中油型乳化食品に優れた酸化安定性を付与することのできる、卵加工品が提供される。
さらに、本発明によれば、該卵加工品を乳化剤として用いることにより、酸化性安定に優れており、長期間保存可能な水中油型乳化食品及びその製造方法が提供される。
該卵加工品を用いて製造されたマヨネーズやドレッシング等の水中油型乳化食品は、生体への影響が懸念される化学物質やジグリセリドのような乳化剤を含有しないため、消費者が敬遠することなく、安心して食することができ、長期間酸化安定性に優れたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
請求項1に係る本発明は、卵加工品の製造方法に関し、卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させることを特徴とするものである。
【0015】
請求項1に係る本発明において用いる卵黄としては、全卵であってもよいし、或いは卵液から卵白を分離して得られる生卵黄であってもよい。また、生卵黄であってもよいし、或いは乾燥卵黄を水戻しした卵黄液であってもよい。さらには、卵黄の他に卵白等が少量加わっているものであってもよい。
また、卵黄としては、鶏卵の卵黄に限定されるのもではなく、広く家禽、その他の鳥類の卵の卵黄も使用することができる。
【0016】
次に、請求項1に係る本発明において用いる糖類としては、4炭糖類であるトレオロース等、5炭糖類であるキシロース、リボースやアラビノース等、6炭糖類であるグルコース、フラクトース、マンノースやガラクトース等、及び澱粉の加水分解物等の1種もしくは2種以上のものが挙げられる。
これらの糖類では、前記した卵黄とのメイラード反応を起こすために、還元性を持つことが必要である。特に澱粉の加水分解物では、DE(Dextrose Equivalent)として、25以上が必要であるが、好ましくは30以上が好適に用いられる。
これら糖類の種類として、実用性や経済性を考慮すると、請求項2に記載したように、還元性を有する5炭糖類である、キシロースやリボース等が好適に用いられる。
【0017】
請求項1に係る本発明における卵黄と糖類との使用割合については、卵黄と糖類との混合物中における糖類の濃度が1質量%以上であることが望ましく、特に3〜10質量%であることがより望ましい。
ここで、卵黄と糖類との混合物中における糖類の濃度が1質量%未満では、メイラード反応後の卵加工品に酸化安定性を充分に付与させることができない。また、卵黄と糖類との混合物中における糖類の濃度が10質量%を超えても、メイラード反応後の卵加工品の酸化安定性が向上せず、添加量に見合う効果が得られないため、好ましくない。
【0018】
請求項1に係る本発明は、上記した如き卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させることを特徴としている。
乾燥系でのメイラード反応に比べて、水系でのメイラード反応が有利な点としては、卵液を乾燥する操作などの煩雑さがないこと、処理時間が比較的短時間であること、更に卵風味が比較的、消失し難い、といった利点がある。
【0019】
卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させるにあたっては、まず糖濃度が1〜10質量%の卵黄液を調製し、pHを6.0〜9.5の範囲に調整する。
ここで、pHが6.0未満であると、得られるメイラード反応物は、水中油型乳化食品に充分な酸化安定性を付与することができない。一方、pHが9.5を超えると、卵黄がゲル化するため、ハンドリング性が極端に低下することから好ましくない。
【0020】
次いで、糖類を溶解した卵黄液を、温度50〜65℃及び0.5〜5時間の条件で熱処理を施す。この熱処理により、メイラード反応させる。通常、メイラード反応では、温度が低いほど長い処理時間を要し、温度が高いほど短時間の処理で効果が得られる。
【0021】
ここで熱処理の温度が50℃未満である場合、得られるメイラード反応物は、水中油型乳化食品に充分な酸化安定性を付与することができない。一方、熱処理の温度が65℃を超える場合では、卵黄がゲル化し、ハンドリング性が極端に低下するため、いずれも好ましくない。
従って、メイラード反応させる際の熱処理温度としては、通常、55〜60℃の温度領域が好適に用いられる。
【0022】
次に、メイラード反応させる際の熱処理時間が0.5時間未満では、得られるメイラード反応物は、水中油型乳化食品に充分な酸化安定性を付与することができない。一方、処理時間が5時間を超えても、効果が向上しないため、いずれも好ましくない。
従って、メイラード反応させる際の熱処理時間としては、通常、1〜4時間の時間領域が好適に用いられる。
【0023】
卵黄がどの程度、メイラード反応にあずかっているかについては、SDS−ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分析することができる。
即ち、アミノ−カルボニル反応により、糖類が卵黄蛋白の側鎖に結合した、請求項1に係る本発明の卵加工品では、分子量が増加するため、未反応の卵黄蛋白と比べて、蛋白バンドが高分子側にシフトすることが把握される(J. Food Sci., Vol51, p11151117, 1986)。
【0024】
このようにして得られたメイラード反応物が、請求項3に係る本発明の卵加工品であり、マヨネーズやドレッシング類等の調製時に乳化剤として使用することにより、酸化安定性に優れたマヨネーズやドレシング類等のような水中油型乳化食品を得ることができる。
【0025】
次に、水中油型乳化食品を製造するにあたり、このようにして得られる卵加工品を用いるのが、請求項4に係る本発明である。
即ち、請求項4に係る本発明は、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品の製造方法に関し、油相と水相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、乳化剤として、請求項3記載の卵加工品を用いることを特徴とするものである。
【0026】
ここで水中油型乳化食品の水相を構成する原料(水相原料)としては、乳化剤として請求項3に係る本発明の卵加工品を用いる以外には、マヨネーズやドレッシング類の製造に際して使用される原料や、その配合割合に準じて決定すればよく、特に制限されない。
通常、用いられる水相原料の例としては、水の他に、食塩,食酢,グルタミン酸ナトリウム,イノシン酸ナトリウム等の調味料、乳化剤、糖類、澱粉、ガム類、香辛料、着色料、着香料などがある。
なお、乳化剤としては、上記したように請求項3に係る本発明の卵加工品が用いられ、上記水相原料と一緒に混合・溶解して水相が調製される
【0027】
一方、水中油型乳化食品の油相を構成する原料(油相原料)としては、通常、食品に添加可能な親油性の物質であれば、特に制限がなく、例えば、食用植物油脂や、親油性のある香辛料や着香料等が挙げられる。
食用植物油としては、常温で液体の菜種油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ヒマワリ油等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
請求項4に係る本発明における油相と水相との割合については、特に制限はないが、通常は、油相10〜90質量%に対して、水相90〜10質量%、好ましくは油相30〜80質量%に対して、水相70〜20質量%とする。
ここで、油相の比率が10質量%未満であると、調製された水中油型乳化食品が美味しくなく、一方、油相の比率が90質量%を超えると転相を起こし易くなることから、いずれも好ましくない。
【0029】
また、請求項4に係る本発明において、水中油型乳化食品の製造は、既知の手法により行なえばよく、特に制限されない。
例えば、水以外の水相原料を水等に分散・溶解し、これらに油相原料を加えて、一般的な攪拌機、例えば市販の万能攪拌機を用いて予備乳化する。
次いで、コロイドミル等の乳化機を用いて、仕上げ乳化を行なうことによって、水中油型乳化食品を製造することができる。
【0030】
このようにして得られたものが、請求項5に係る本発明の水中油型乳化食品である。
このようにして製造された水中油型乳化食品は、乳化剤として、卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させて得られる卵加工品を用いていることから、エマルジョンの破壊が防止されており、長期間酸化安定性に優れたものとなっている。
【0031】
なお、卵黄と糖類とのメイラード反応物である卵加工品を乳化剤として使用することにより、水中油型食品に酸化安定性が付与される理由については、必ずしも明らかではないが、卵黄蛋白の側鎖と糖類との間で生じるアミノ−カルボニル反応基が、酸化のスタート物質であるラジカルを形成する際の触媒となる鉄等の金属イオンの封鎖や、油脂の自動酸化で生じるラジカルの消去等に関与しているものと考えられる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例等により詳しく説明するが、本発明の範囲をこれらにより何ら限定されるものではない。
【0033】
製造例1(本発明品1の製造)
卵黄1980gに、和光純薬工業(株)製のD−キシロース20gを加えた後、十分に混合・溶解し、D−キシロース濃度1質量%の卵黄液を得た。得られた卵黄液のpHは6.3であるが、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH8.5に調整した。
次いで、得られた卵黄液を3L容攪拌槽に充填し、56℃の品温で3時間、熱処理を行って、本発明の卵加工品(本発明品1)を得た。
【0034】
製造例2(本発明品2の製造)
卵黄1940gに、和光純薬工業(株)製のD−キシロース60gを加えた後、十分に混合・溶解し、D−キシロース濃度3質量%の卵黄液を得た。得られた卵黄液のpHは6.3であり、これをpH未調整のまま3L容攪拌槽に充填し、56℃の品温で3時間、熱処理を行なって、本発明の卵加工品(本発明品2)を得た。
【0035】
製造例3(本発明品3の製造)
卵黄1900gに、和光純薬工業(株)製のD−キシロース100gを加えた後、十分に混合・溶解し、D−キシロース濃度5質量%の卵黄液を得た。得られた卵黄液のpHは6.3であり、これをpH未調整のまま3L容攪拌槽に充填し、56℃の品温で3時間、熱処理を行って、本発明の卵加工品(本発明品3)を得た。
【0036】
製造例4(本発明品4の製造)
卵黄1980gに、和光純薬工業(株)製のD−リボース20gを加えた後、十分に混合・溶解し、リボース濃度1質量%の卵黄液を得た。得られた卵黄液のpHは6.3であるが、10質量%の水酸化ナトリウムの水溶液を用いて、pH8.5に調整した。
次いで、卵黄液を3L容攪拌槽に充填し、56℃の品温で3時間、熱処理を行って、本発明の卵加工品(本発明品4)を得た。
【0037】
製造例5(本発明品5の製造)
卵黄1940gに、和光純薬工業(株)製のD−リボース60gを加えた後、十分に混合・溶解し、リボース濃度3質量%の卵黄液を得た。得られた卵黄液のpHは6.3であり、これをpH未調整のまま、3L容攪拌槽に充填し、56℃の品温で3時間、熱処理を行って、本発明の卵加工品(本発明品5)を得た。
【0038】
製造例6(本発明品6の製造)
卵黄1900gに、和光純薬工業(株)製のD−リボース100gを加えた後、十分に混合・溶解し、リボース濃度5質量%の卵黄液を得た。得られた卵黄液のpHは6.3であり、これをpH未調整のまま、3L容攪拌槽に充填し、56℃の品温で3時間、熱処理を行って、本発明の卵加工品(本発明品6)を得た。
【0039】
比較製造例1(比較品1の製造)
pH未調整の卵黄(pH6.3)2000gを、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを8.5に調整し、次いで3L容攪拌槽に充填し、56℃の品温で3時間、熱処理を行って、卵黄液(比較品1)を得た。
【0040】
比較製造例2(比較品2の製造)
製造例3において、熱処理を行わないこと以外は製造例3と同様にして卵黄液(比較品2)を得た。
【0041】
比較製造例3(比較品3の製造)
製造例6において、熱処理を行わないこと以外は製造例6と同様にして卵黄液(比較品3)を得た。
【0042】
実施例1〜6
(1)水中油型乳化食品(マヨネーズ)の調製
下記表1に示す処方に従い、製造例1〜6で得られた卵加工品(本発明品1〜6)を用いて、6種類の水中油型乳化食品(マヨネーズ)2kgをコロイドミルにてそれぞれ調製した。なお、実施例1〜6の水中油型乳化食品(マヨネーズ)の配合割合において、卵加工品中の卵黄量は5質量%とし、全体が100質量%となるように水により調整した。
【0043】
(2)酸化安定性の評価
上記(1)にて得られた各水中油型乳化食品(マヨネーズ)の酸化安定性を、以下の方法で評価した。
約200g容のガラス瓶に、得られた水中油型乳化食品(マヨネーズ)の約100gを充填し、一重のサランラップで瓶の口を密封し、34℃暗所の条件下に保管した。5週間及び7週間後、水中油型乳化食品(マヨネーズ)表層の分離状態により、酸化安定性を次の4段階で評価した。
ここで、「安定」及び「やや安定」であれば、酸化安定性に優れていると言うことができる。なお、評価は、経験豊かな5名のパネラーによる視覚観察の平均値で示した。結果を表1に示す。
【0044】
[酸化安定性の評価]
・安定 :油分離していない。
・やや安定 :表層は強く褐変しているが、油分離していない。
・やや不安定 :表層がやや油分離している。
・不安定 :表層がひどく油分離している。
【0045】
【表1】

【0046】
比較例1〜3
(1)水中油型乳化食品(マヨネーズ)の調製
比較製造例1〜3で得られた卵黄液(比較品1〜3)を下記表2に示す所定量用い、下記表2に示す配合割合の水中油型乳化食品(マヨネーズ)2kgを、実施例1〜6と同様にして調製した。
【0047】
(2)酸化安定性の評価
上記(1)にて得られた各水中油型乳化食品(マヨネーズ)の酸化安定性を、実施例1〜6と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表1の結果から明らかなように、卵黄中に5炭糖類であるD−キシロース又はD−リボースを1〜5質量%添加し、熱処理を施して得られた本発明品1〜6を使用した水中油型乳化食品(マヨネーズ)は、34℃保存後でも表層が分離することなく、長期間の優れた酸化安定性を示した。
特に、実施例1〜3及び実施例4〜6の結果から明らかなように、D−キシロース及びD−リボース共に、卵黄中の添加量の増加に従って、酸化安定性が向上することが認められた。
【0050】
これに対して、表2の比較例1に示されるように、5炭糖類を添加せずに、熱処理のみを施した卵黄液(比較品1)を使用した水中油型乳化食品(マヨネーズ)では、34℃保存後の酸化安定性は著しく低かった。
また、比較例2及び3に示されるように、D−キシロース又はD−リボースを卵黄中に5質量%添加しているものの、熱処理を施さずメイラード反応を起こしていない卵黄液(比較品2及び3)を用いた水中油型乳化食品(マヨネーズ)においても、比較例1と同様に、34℃保存後の酸化安定性は著しく低いことが分った。
【0051】
以上の結果より、卵黄に糖類を添加し、且つ熱処理を施すことにより引き起こされるメイラード反応によって得られた卵加工品を用いた場合、長期間酸化安定性の優れた水中油型乳化食品(マヨネーズ)を調製できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、従来のように化学物質からなる化学抗酸化剤や炭素数2〜10の脂肪酸及び炭素数10の脂肪酸より構成されるジグリセリドのような乳化剤を使用することなく、マヨネーズやドレッシング等の水中油型乳化食品に添加することにより、該水中油型乳化食品に優れた酸化安定性を付与することのできる、卵加工品が提供される。
さらに、本発明によれば、該卵加工品を乳化剤として用いることにより、酸化性安定に優れており、長期間保存可能な水中油型乳化食品及びその製造方法が提供される。
該卵加工品を用いて製造されたマヨネーズやドレッシング等の水中油型乳化食品は、生体への影響が懸念される化学物質やジグリセリドのような乳化剤を含有しないため、消費者が敬遠することなく、安心して食することができ、長期間酸化安定性に優れたものである。
従って、本発明は食品産業分野において有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄と糖類とを水系でメイラード反応させることを特徴とする卵加工品の製造方法。
【請求項2】
糖類が5炭糖類である請求項1記載の卵加工品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により得られる卵加工品。
【請求項4】
油相と水相とが乳化されてなる水中油型乳化食品を製造するにあたり、乳化剤として、請求項3記載の卵加工品を用いることを特徴とする、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法により得られる、酸化安定性に優れた水中油型乳化食品。

【公開番号】特開2008−29231(P2008−29231A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204733(P2006−204733)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(591101504)クノール食品株式会社 (29)
【Fターム(参考)】