説明

卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導能を持つ成体体性幹細胞

【課題】卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞へ分化誘導することができる成体体性幹細胞の樹立、該成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞への分化誘導を制御する方法。
【解決手段】哺乳類から採取して無血清または低濃度血清培地で第1〜8継代し、かつ転写因子Steroidogenic Factor-1 の発現を誘導することにより卵巣顆粒膜細胞ならびに卵巣夾膜細胞に分化することを特徴とする成体体性幹細胞、分化して得られた卵巣顆粒膜細胞ならびに卵巣夾膜細胞自体、それらを含有する細胞治療剤、それらの製造方法、それらの産生細胞及びそれらに分化することを誘導する因子の探索方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導能を持つ成体組織中の体性幹細胞ならびに該幹細胞から分化誘導した卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の急速な進展に伴い、加齢に依存して発症する疾患に対する新しい治療薬のニーズが高まってきている。更年期障害は典型的な加齢に依存する疾患の一つである。更年期障害とは“女性の更年期に現れる多種多様の症候群で、器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする疾患群”であると定義されている。更年期障害の原因としては、加齢に伴う性腺機能の変化が視床下部の神経活動に変化をもたらし、神経性・代謝性の様々な生体変化を引き起こすことによると考えられている。
【0003】
具体的には卵巣機能の衰退に伴うエストロゲンの低下によって、そのネガテイブ・フィードバック機構が破綻し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)が構成的に産生されるようになる。特に性腺刺激ホルモン放出ホルモンを産生する視床下部の機能亢進は、視床下部に自律神経中枢が存在することから、自律神経にも影響を及ぼし身体症状を中心とした自律神経失調症を招くと考えられている。卵巣で作られる主要なホルモンはエストロゲンとプロゲステロンであることから、更年期障害の治療のために従来からエストロゲン単独あるいはエストロゲンとプロゲステロンの併用薬の投与が行われている。
【0004】
しかしアメリカで1991年よりスタートしたWomen‘s Health Initiative (WHI)という大規模試験の途中で、エストロゲンとプロゲステロンの併用薬が乳ガンの発症を増加させることが報告された(Journal of American Medical Association 288巻、3号 321−333頁、2002年)。このような副作用が発現する理由としては、エストロゲンやプロゲステロンの投与量が一部の患者にとっては過剰となっていることや、卵巣が実際に生産しているエストロゲン、プロゲステロン以外の因子が該治療法では補充できていないことなどが原因と考えられる。
【0005】
成体体性幹細胞とは成体組織に存在する幹細胞のなかで体性細胞へと分化するものを総称する。ヒト由来の成体体性幹細胞としてよく研究されているものとして、脳内の神経幹細胞、骨髄中の造血幹細胞、骨格筋中のサテライト細胞がある。また、骨髄をはじめ様々な間葉系組織から血清中で培養することにより誘導される幹細胞に間葉系幹細胞がある。間葉系幹細胞は培養により線維芽細胞様の形態を獲得することによってはじめて同定されることから、試験管内で人工的に創製された幹細胞と考えられる。例えば国際公開番号WO2005/085425では、すでに間葉系幹細胞から副腎皮質細胞や精巣ライディッヒ細胞に分化させる方法については検討が行われているが、間葉系幹細胞から卵巣顆粒細胞や卵巣夾膜細胞へ実際に分化したという実施例はなく、これら方法を用いても間葉系幹細胞からエストロゲン産生細胞へ分化することは出来ない(Genes to Cells. 9巻、12号 1239-47頁、2004年;Endocrinology. 147巻、9号 4104-11頁、2006年)。
【0006】
また、特開2006-120040には体性多能性幹細胞からステロイド産生細胞に分化させる方法などが記載されているが、その実施例には、長期培養した骨髄由来の間葉系幹細胞からステロイド産生細胞を産生させた例が記載されているのみで、本発明のような低濃度血清または無血清培地で第1継代から第8継代の成体体性幹細胞から、卵巣顆粒膜細胞や夾膜細胞へ分化させる発明は記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞へ分化誘導することができる成体体性幹細胞の培養技術、ならびに該成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞への分化誘導を制御する方法を見出した。本発明は更年期障害をはじめ、女性のホルモン分泌不全を原因とする様々な疾患治療に有用な細胞治療の技術を提供するものである。さらに本発明の第1継代から第8継代の培養条件を用いることで成体体性幹細胞を形質を変化させずに増殖させる培養技術とレポーター系技術を組み合わせたスクリーニング・システムは、卵巣に内在する幹細胞を標的とする卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞の再生を促進する再生誘導薬の創薬標的探索や創薬のための不可欠の材料を提供するのである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、まずマウス成体卵巣由来の細胞を低濃度血清培地により初代細胞(第1継代された細胞)と第2継代細胞を培養し、幹細胞関連遺伝子(Musashi-1, TERT, Klf4, CXCR4, Nestin)を発現する小型のマウス卵巣由来体性幹細胞が存在することを見出し、卵巣に内在する幹細胞を標的とする再生誘導薬開発の有効性を明らかにした(実施例1)。同様に、マウス成体骨髄由来の細胞を低濃度血清培地により第1〜8継代細胞を培養し、幹細胞関連遺伝子(Musashi-1, TERT, Klf4, CXCR4, Nestin, Nanog, Oct4)を発現する小型のマウス骨髄由来体性幹細胞が存在することを見出した(実施例2)。
【0009】
さらに、マウス成体骨格筋由来の細胞を低濃度血清培地により第1〜8継代細胞を培養し、幹細胞関連遺伝子(Musashi-1, TERT, Klf4, CXCR4, Nestin)を発現する小型のマウス骨格筋由来体性幹細胞が存在することを見出した(実施例3)。これらの結果は中胚葉の組織である卵巣、骨格筋、骨髄に共通の性質を有する幹細胞が存在し、卵巣に内在する幹細胞を標的とする薬剤探索において骨格筋や骨髄由来の細胞を用いることが有効であることを明らかとした。
【0010】
次に発明者らは、実施例2でマウス骨髄より見出した体性幹細胞と同等の性質を有する幹細胞関連遺伝子(Musashi-1, Klf4, CXCR4, Nestin, Nanog, Oct4)を発現し、HLA class I(ヒトのMHC class I)陰性の小型のヒト骨髄由来体性幹細胞が存在することを見出した(実施例4)。このヒト組織由来成体体性幹細胞が生理的に産生量を制御してエストロゲン産生を行う卵巣顆粒膜細胞(卵胞刺激ホルモン(FSHR)陽性、黄体形成ホルモン受容体(LHR)陽性)やプロゲステロン産生を行う卵巣夾膜細胞(卵胞刺激ホルモン受容体陰性、黄体形成ホルモン受容体陽性)に分化誘導できることを明らかにした。
【0011】
まず、ヒト骨髄中より分離した単核球を低濃度血清培地により初代(第1継代)培養した。続いて浮遊している血球細胞と強固に接着しているマクロファージなどの骨髄球系細胞を除いた後、第1〜3継代の低濃度血清培養した成体体性幹細胞に転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子を導入した。その結果、該幹細胞へのSteroidogenic factor-1 遺伝子導入により、17βエストラジオール及びプロゲステロンが産生されることを見出した(実施例5)。これらの発見は、発明者らが樹立したヒト骨髄由来体性幹細胞は、転写因子Steroidogenic factor-1 を誘導発現することで、エストロゲン産生を行う卵巣顆粒膜細胞や、顆粒膜細胞の働きをサポートする卵巣夾膜細胞に分化誘導できることを示している。
【0012】
転写因子Steroidogenic factor-1の発現を誘導するときに、cAMPを加えても、第1継代から第8継代の成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞の産生はされるが、その産生を促進するほどの効果はなく、しかもcAMP自体に細胞障害性が認められるため、本発明の第1継代から第8継代の成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞を製造する過程においては、cAMPを添加しないほうが望ましい場合がある。
【0013】
実施例5では、cAMPを添加せずに、第1継代から第8継代の成体体性幹細胞に転写因子Steroidogenic factor-1の発現を誘導し、成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞及び夾膜細胞由来のステロイドホルモンであるエストロゲン及びプロゲステロンの産生を確認したが、比較例1では実施例5で用いた第1継代から第8継代の成体体性幹細胞との比較のために、ヒトの間葉系幹細胞(タカラバイオ)を用いて同様に転写因子 Steroidogenic factor-1の発現を誘導した結果を示しており(すなわち、cAMPを添加せずに、転写因子Steroidogenic factor-1を発現誘導することで顆粒膜細胞を産生するかを調べたところ)、エストロゲンの産生は認められず、当該実験においては、ヒトの間葉系幹細胞からの顆粒膜細胞への分化は見られなかった。
【0014】
さらに発明者らは、転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子プロモーター、アロマターゼ遺伝子プロモーター、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター、黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーターをそれぞれレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)上流に組み込んでレポーターベクターを作製し、ヒト骨髄由来成体体性幹細胞に導入してレポーター幹細胞を作製した。該レポーター幹細胞は転写因子Steroidogenic factor-1を強制発現することで応答することが見出された(実施例6)。この結果から、該レポーター系を適宜組み合わせて用いることで、成体体性幹細胞から、エストロゲン産生を行う卵胞刺激ホルモン受容体陽性、黄体形成ホルモン受容体陽性の卵巣顆粒膜細胞、および、卵胞刺激ホルモン受容体陰性、黄体形成ホルモン受容体陽性の卵巣夾膜細胞への分化を制御する因子を探索するのに利用できることが示された。
【0015】
即ち、(1)本発明の低濃度血清または無血清培地で第1〜8継代した成体体性幹細胞とSteroidogenic factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせ、卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法、
(2)本発明の成体体性幹細胞とアロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせ、卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法、
(3)本発明の成体体性幹細胞と卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせ、卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法、及び
(4)本発明の成体体性幹細胞と黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせ、卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法、
のいずれか、又は複数組み合わせて分化誘導因子を探索する。
【0016】
本発明の成体体性幹細胞にプロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法としては、本発明の成体体性幹細胞へプロモーター及び/又はレポーター遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを感染させる方法が望ましい。また、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ、GFP(Green Fluorescent Protein;緑蛍光蛋白質))、ベータ・ガラクトシダ−ゼ等が挙げられ、中でも、ルシフェラーゼ遺伝子は、検出感度が高く、増感も可能であり、本発明のレポーター系に組み合わせるのに望ましい。レポーター系を組み合わせれば、例えばレポーター遺伝子であるルシフェラーゼの活性の有無をDual-Glo Luciferase Assay System(プロメガ)などで測定することで分化誘導因子を探索できる。
【0017】
上記(1)の成体体性幹細胞とSteroidogenic factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる分化誘導因子を探索する方法、上記(2)の成体体性幹細胞とアロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる分化誘導因子を探索する方法、上記(3)の成体体性幹細胞と卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる分化誘導因子を探索する方法、並びに上記(4)の成体体性幹細胞と黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる分化誘導因子を探索する方法、のすべての方法において活性を有する分化誘導因子を探索すれば、成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞への分化誘導因子を探索できる。
【0018】
また、上記(1)の成体体性幹細胞とSteroidogenic factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる分化誘導因子を探索する方法、並びに上記(4)の成体体性幹細胞と黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる分化誘導因子を探索する方法の両方の方法において活性を有する分化誘導因子を探索すれば、成体体性幹細胞から卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索できる。
【0019】
すなわち本発明は例えば以下の種々の細胞および方法を提供するものである。
(1)哺乳類から採取して無血清または低濃度血清培地で第1〜8継代培養されており、かつ転写因子Steroidogenic Factor-1 の発現を誘導することにより卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞に分化することを特徴とする成体体性幹細胞。
(2)幹細胞関連遺伝子の発現がMusashi-1陽性及びTERT陽性であるか、または表面抗原がMHC class I陰性である、上記(1)に記載の成体体性幹細胞。
(3)低濃度血清が2%以下の濃度の血清である上記(1)または(2)に記載の成体体性幹細胞。
【0020】
(4)第1〜6継代培養されている、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
(5)更に、幹細胞関連遺伝子の発現がNanog陽性、Klf4陽性、CXCR4陽性、Nestin陽性、Oct4陽性またはSall4陽性である、上記(2)〜(4)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
(6)哺乳類卵巣由来である、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
【0021】
(7)哺乳類骨髄由来である、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
(8)哺乳類脂肪組織由来である、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
(9)哺乳類筋肉組織由来である、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
(10)哺乳類末梢血由来である、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
【0022】
(11)表面抗原がMHC class I陰性である、上記(2)記載の成体体性幹幹細胞。
(12)前記哺乳類がヒトである、上記(1)〜(11)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞。
(13)前記幹細胞関連遺伝子の発現がMusashi-1陽性及びNanog陽性である、上記(11)または(12)記載の成体体性幹細胞。
(14)前記幹細胞関連遺伝子の発現がMusashi-1陽性及びTERT陽性である、上記(2)記載の成体体性幹細胞。
【0023】
(15)前記哺乳類がマウスである、上記(1)〜(10)のいずれか1つまたは上記(14)に記載の成体体性幹細胞。
(16)上記(12)記載の成体体性幹細胞から分化誘導したヒト卵巣顆粒膜細胞。
(17)上記(12)記載の成体体性幹細胞から分化誘導したヒト卵巣夾膜細胞。
(18)上記(16)記載のヒト卵巣顆粒膜細胞と上記(17)記載のヒト卵巣夾膜細胞を有効成分とする細胞治療剤。
(19)上記(16)記載のヒト卵巣顆粒膜細胞と上記(17)記載のヒト卵巣夾膜細胞がマイクロキャリアに接着されている、上記(18)記載の細胞治療剤。
【0024】
(20)前記マイクロキャリアがゼラチンである、上記(19)記載の細胞治療剤。
(21)上記(12)記載の成体体性幹細胞から転写因子 Steroidogenic Factor-1 を誘導発現せしめることを特徴とする上記(16)記載のヒト卵巣顆粒膜細胞および/または上記(17)記載のヒト卵巣夾膜細胞を製造する方法。
(22)前記転写因子Steroidogenic factor-1を誘導発現する方法が、転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子の全長cDNAを挿入したアデノウィルスベクター、レトロウィルスベクターまたはレンチウィルスベクターを上記(12)記載の成体体性幹細胞に感染させる方法である、上記(21)に記載の製造する方法。
【0025】
(23)上記(12)記載の成体体性幹細胞中に転写因子Steroidogenic factor-1の発現を誘導することにより卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞へ分化することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞の産生細胞。
(24)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞を利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
(25)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞とSteroidogenic Factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【0026】
(26)前記成体体性幹細胞とSteroidogenic factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、Steroidogenic factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、上記(25)記載の探索する方法。
(27)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞とアロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【0027】
(28)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞とアロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、アロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、上記(27)記載の探索する方法。
(29)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞と卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【0028】
(30)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞と卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、上記(29)記載の探索する方法。
(31)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞と黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【0029】
(32)上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞と黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを上記(1)〜(15)のいずれか1つに記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、上記(31)記載の探索する方法。
(33)前記レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である上記(26)、(28)、(30)または(32)記載の探索する方法。
【0030】
(34)上記(25)に記載の探索する方法、上記(27)に記載の探索する方法、上記(29)に記載の探索する方法及び上記(31)に記載の探索する方法のすべての方法において活性を有する分化誘導因子を探索することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
(35)上記(25)に記載の探索する方法及び上記(31)に記載の探索する方法の両方の方法において活性を有する分化誘導因子を探索することを特徴とする、卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【0031】
(36)成体体性幹細胞以外の株化培養細胞に転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞、成体体性幹細胞以外の株化培養細胞にアロマターゼ遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞、成体体性幹細胞以外の株化培養細胞に卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞、及び成体体性幹細胞以外の株化培養細胞に黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞からなる群から選ばれた1または2以上の細胞を利用して卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化を抑制または誘導する因子群を予備的に選択し、該予備選択した因子群を更に探索することを特徴とする、上記(24)〜(35)のいずれか1つに記載の探索する方法。
【0032】
本発明の成体体性幹細胞とは、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞に分化することができる、哺乳類成体組織より単離される幹細胞を意味し、ここで、卵巣顆粒膜細胞は、遺伝子Steroidogenic factor-1 を誘導発現することで、生理的に制御された量のエストロゲン及びその他のホルモンを産生する細胞であり、そして卵巣夾膜細胞は、エストロゲンの基質であるアンドロゲンの元となるプロゲステロンを生産しこれを卵巣顆粒膜細胞に供給し当該卵巣顆粒膜細胞によるエストロゲン産生を支える細胞である。該成体体性幹細胞は、卵巣をはじめ骨髄中、筋肉中、脂肪細胞中ならびに末梢血中より採取可能である。
【0033】
本発明の成体体性幹細胞は低濃度血清(2%以下)を含有あるいは血清を含有しない細胞成長因子添加培地中で第1〜8継代まで一定期間培養することが可能である。本発明において低濃度血清とは、通常5%以下、望ましくは2%以下の濃度の血清であり、また本発明の成体体性幹細胞の培養期間は通常第1〜8継代、望ましくは第1〜6継代であり、第1継代された細胞とは、採取する哺乳類から分離された直後の細胞を意味する。なお、一般に細胞はインビトロの状態で継代数を重ねて長期培養を進めると、空気中の酸素などの影響を受けて細胞の形質が変化し、結果として多能性が失われていく傾向がある。そこで、成体から細胞を採取してからのインビトロでの培養期間を制限するため、8継代までの細胞を用いることとする。
【0034】
本発明の成体体性幹細胞は、細胞の増殖、分化に影響を与える各種成長因子を含む血清(標準プロトコールでは10%)を添加した培地で長期培養することを特徴とする間葉系幹細胞と性質を異にするものである。すなわち、本発明のヒト成体体性幹細胞は、幹細胞特異的に発現するNanog陽性、Musashi-1陽性であることを特徴としており、高い血清存在下で培養を行う間葉系幹細胞と比べて明らかに未分化な状態である。さらに、ほとんどすべての体細胞上に存在するMHC(major histocompatibility complex)class Iについては、本発明の成体体性幹細胞には発現しておらず(MHC class I陰性)、この点に関しても間葉系幹細胞とは性質を異にする。尚、ヒトについてのMHC class IがHLA(human leukocyte antigen)class Iであり、MHC class IにはHLA class Iも含まれる。
【0035】
本発明の卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法には、該分化誘導を促進する因子を探索する方法のほか、該分化誘導を抑制する因子を同定し、その同定した抑制因子を利用して分化誘導を促進する因子を探索することも含む。
本発明で使用する一般的な株化培養細胞とは、Hela、HEK293細胞などが挙げられる。
【0036】
以下本発明を詳細に説明する。
1.卵巣中の成体体性幹細胞同定法
まず、ヒト、マウスなどの哺乳類の卵巣幹細胞を同定するための免疫組織染色方法を説明する。以下はマウスを例とした同定法について述べる。
3週齢以上のメスマウス(C57BL6系統など)より、外科手術によりマウス卵巣を摘出後、10%ホルマリン溶液内で3時間から一晩、振とうして、組織を固定し、30%スクロース溶液に組織が沈むまで固定した組織を漬けてスクロース置換する。その後、クリオモルド(サクラファインテックジャパン:4566)に流し込んだOCTコンパウンド(サクラファインテックジャパン:45833)中に組織を入れ、ドライアイスで冷却したアセトンで凍結させて包埋する。さらに、クライオスタットで10マイクロミリの厚さで薄切し、MASコートスライドグラス(松浪硝子)に貼り付け、室温で乾燥させ、固定後凍結切片を作成することができる。
【0037】
次に、間接蛍光免疫組織染色の方法を示す。凍結した組織切片をドライヤーで完全に乾燥させたのち、PBSで3分間洗浄を三回行う。次にイムノブロック(Immunoblock、大日本住友製薬)でブロッキングを30分行ってから、目的抗原に対する抗体をイムノブロックで希釈して室温30分もしくは4度一晩反応させ、PBSで三分ずつ三回洗浄後、Alexa594蛍光標識二次抗体(Alexa 594 標識抗ラット抗体(molecular probes))をイムノブロックで希釈して室温で30分反応させる。PBSで三回洗浄後、DAPIによる各染色を行い、さらにPBSで三回洗浄して、最後に蒸留水で軽く洗浄し、ドライヤーで乾燥する。封入剤としてPristine mount(ファルマ)を使用し、カバーグラスをかけ、蛍光顕微鏡で、固定後に染色処理した細胞を観察、撮影できる。
【0038】
2.卵巣由来の成体体性幹細胞の単離法
以下マウスを例として、哺乳類の卵巣の幹細胞の単離法を説明する。
周辺の組織を含まないようにして、マウスの卵巣を氷上の10% FBS含有イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)に採取する。採集した卵巣を新しい10% FBS 含有IMDM中で洗浄したのち、卵巣の間質から成体体性幹細胞を回収する。その方法としては、IMDM+0.1% コラゲナーゼ+10% FBS溶液中で37℃にて2時間採取した卵巣をゆっくりと振蕩培養する。また、卵巣を完全に解離し、成体体性幹細胞を含む卵巣由来細胞を回収する方法としては、IMDM+0.2% コラゲナーゼ溶液中で37℃にて1時間振蕩培養した後に、ピペッティングにより卵巣を解離する。上記処理終了後、懸濁液を茶漉しに通して、大きな組織片を取り除く。続いて100μm、45μm、20μmのフィルターメッシュに懸濁液を順番に通す。
【0039】
この懸濁液を400 gで7分間遠心し、沈殿してきた細胞を、成体体性幹細胞を含んだ卵巣由来細胞として回収する。回収した細胞を無血清培地または低濃度血清培地、例えばMAPC培地(60% ダルベッコ変法イーグル培地-低グルコース (ギブコ), 40% MCDB 201 (ギブコ), 1×ITS 培地サプリメント(シグマ), 1×リノレイン酸アルブミン (シグマ), 10-9 Mデキサメタゾン(シグマ), 100μMアスコルビン酸(シグマ), 20 mg/L ゲンタマイシン (ナカライテスク), 2% ウシ胎児血清 (Cell Culture Technologies)) に懸濁し、105個/cm2の濃度で播種する。
【0040】
細胞の播種には予め10 ng/ml ファイブロネクチン含有リン酸緩衝液でコーティングしたものを用いる。培地には使用時に成長因子(10 ng/ml PDGF-BB (ペプロテック), 10 ng/ml EGF (ペプロテック), 10 ng/ml IGF-1 (ペプロテック))を添加する。播種から3日後に、培地は交換せず成長因子のみを添加する。6〜14日後にリン酸緩衝液で非接着細胞を洗い流し、0.05%トリプシン(ギブコ)で接着細胞を剥離して回収する。細胞数を数え、細胞数が3,000個/cm2となるように1.8x105個の細胞を低濃度血清培地10mlに懸濁し、10cm ディッシュ 1枚に播種し、第1〜8継代培養する。
【0041】
3.骨髄由来の成体体性幹細胞の単離法
次にヒト、マウスなどの哺乳類の骨髄から成体体性幹細胞を単離する方法を説明する。骨髄中より本発明の幹細胞を取得する方法としては、以下の方法があげられる。
マウスの場合を例にすると、まず、成体から骨を回収し、骨片表面の筋肉・腱・軟骨などの組織を除去した後、はさみ等で細かく切断ならびに破砕することで細かい骨片にする。細かい骨片をPBSで3回洗った後、酵素を含む培養液に懸濁し、37℃で2時間インキュベーションする。酵素としては、コラゲナーゼ、トリプシンなどがあげられるが、好ましくはコラゲナーゼがあげられる。
【0042】
具体的にはコラゲナーゼタイプA(シグマ)などがあげられる。コラゲナーゼ濃度としては、0.06〜0.6%、好ましくは0.2%があげられる。培養液としては、上述の酵素および2.4 units Dispase(ギブコ)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;ギブコ)などがあげられる。培養液を40μmマイクロフィルターに通過させ、骨髄由来単核球を回収することができるが、この骨髄由来単核球中には成体体性幹細胞が含有される。
ヒトの場合では、骨髄穿刺により骨髄液を得て、比重遠心法により成体体性幹細胞を含んだ単核球を得る。ヒト骨髄由来単核球はCambrex社など市販品を購入することもできる。
回収した骨髄由来単核球を無血清培地または低濃度血清培地で第1〜8継代培養し、成体体性幹細胞を得る。
【0043】
4.皮膚由来の成体体性幹細胞の単離法
ヒトを例として、哺乳類の皮膚より本発明の幹細胞を取得する方法としては、以下の方法があげられる。
ヒトのひざの裏や臀部より表皮、真皮を含む皮膚組織を採取する。該皮膚組織を0.6%トリプシン(ギブコ)/DMEM/F12(ギブコ)/1% anti-biotics、anti-mycotics(ギブコ)に皮膚内側を下にして浸し、37℃で30分間処理する。
【0044】
皮膚組織を裏返して内側をピンセットで軽くこすった後、はさみを使って皮膚組織を約1mm2に細断し、1,200 rpmで10分間室温で遠心分離する。上清を除去し、組織沈殿に対して25 mlの0.1%トリプシン/DMEM/F12/1% antibiotics、anti-mycoticsを加えスターラーを用いて37℃、200〜300 rpmで40分間で攪拌する。組織沈殿が十分消化されたことを確認後、3ml FBS (JRH)を加えガーゼ(PIP社製TypeI)、100μmナイロンフィルター(FALCON)、40μmナイロンフィルター(FALCON)の順で濾過する。1200 rpmで、室温で10分間遠心分離し上清を除去後、DMEM/F12/1% antibiotics、anti-mycoticsを加えて沈殿を洗浄し、1200 rpm、室温で10分間遠心分離する。上清を除去し、5 ml DMEM/F12/B-27(ギブコ)/1% antibiotics、anti-mycotics/20 ng/ml EGF(Genzyme)/40 ng/ml FGF(Genzyme)を加えφ60 mm浮遊細胞用培養皿(FALCON)を用いて37℃ 5% CO2で培養を行う。
【0045】
培養開始後1週毎にSphere形成細胞を含む浮遊細胞分画を回収し、1,200 rpm、室温で10分間遠心分離する。細胞沈殿をTransfer pipettes (Samco SM262-1S)を用いてほぐした後、培地を半量置換して培養を継続する。EGF,FGFは2〜3日毎に添加する。このようにして、取得されたSphereの中に皮膚由来の本発明の幹細胞が濃縮される。
【0046】
5.骨格筋由来の成体体性幹細胞の単離法
ヒトの骨格筋より幹細胞を取得する方法としては、以下の方法があげられる。
ヒトの上腕二頭筋の外側頭や下腿の縫工筋などの筋肉を含む結合組識を切皮して摘出後、縫合する。取得した全筋ははさみあるいはメスを利用して細かく切断した後、コラゲナーゼタイプA(シグマ)を0.06%、FBSを10%含むDMEM(高グルコース)に懸濁し、37℃で2時間培養する。裁断した筋肉より分離してきた細胞を回収後、遠心分離により細胞を回収しFBSを10%含むDMEM(高グルコース)に懸濁する。該懸濁液をまず40μmマイクロフィルターを通過させた後、20μmのマイクロフィルターに通すことにより骨格筋細胞由来細胞を回収することができる。この骨格筋由来細胞中には成体体性幹細胞が含有される。
【0047】
マウスの骨格筋より幹細胞を取得する方法としては、以下の方法があげられる。
マウスの骨格筋より以下の方法を用いて、幹細胞を取得する。筋肉は前脛骨筋、四頭筋、平目筋、足底筋等の、完全な状態で取りやすいものを用いる。筋肉は両端の腱で切除し、氷中のIMDM+10%FBSに回収する。一連の作業中、腱以外の部位には極力触れないようにする。採集した筋肉を新しいIMDM中で洗ったのち、IMDM+0.1%コラゲナーゼ+10%FBS溶液中で37℃にて2時間ゆっくりと振蕩培養する。処理後、懸濁液を茶漉しに通し、大きな組織片を取り除く。続いて100μm、45μm、20μmのフィルターメッシュを順番に通す。この懸濁液を400gで7分間遠心し、沈殿した成体体性幹細胞を含む骨格筋間質細胞を回収する。
回収した細胞を無血清培地または低濃度血清培地で第1〜8継代培養し、成体体性幹細胞を得る。
【0048】
6.脂肪組織由来の成体体性幹細胞の単離法
次にヒト、マウスなどの哺乳類の脂肪組織から成体体性幹細胞を単離する方法を説明する。
本発明の方法で有用な脂肪組織由来間質細胞は、当業者には知られた様々な方法で単離することができる。たとえば、こうした方法は米国特許第6,153,432号に記載されており、その全体が本願に組み込まれる。好ましい方法では、脂肪組織は哺乳類の対象、好ましくはヒトの患者から単離される。好ましい脂肪組織源は、大網脂肪細胞である。ヒトでは、脂肪細胞は典型的には脂肪吸引により単離される。本発明の細胞がヒトの患者に移植されるべきときは、脂肪組織は同じ患者から単離して自家移植とすることが好ましい。あるいは、投与する組織は同種異質遺伝子型(allogenic)でもよい。
【0049】
脂肪細胞由来間質細胞を単離する1つの方法においては、脂肪組織を、0.01%〜0.5%、好ましくは0.04%〜0.2%、最も好ましくは約0.1%のコラーゲナーゼ、0.01%〜0.5%、好ましくは0.05%〜0.4%、最も好ましくは約0.2%のトリプシンおよび/または0.5 ng/ml〜10 ng/mlのヂスパーゼ、または有効量のヒアルロナーゼもしくはDNアーゼおよび約0.01〜約2.0 mM、好ましくは約0.1〜約1.0 mM、最も好ましくは0.53 mMの濃度のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)で、25〜50℃、好ましくは33〜40℃、最も好ましくは37℃で、10分〜3時間、好ましくは30分〜1時間、最も好ましくは45分間処理する。細胞を、20μmから800μm、より好ましくは40μmから400μm、最も好ましくは70μmのナイロンまたはチーズクロスメッシュフィルタに通す。
【0050】
次いで細胞を培地のまま直接、あるいは、FicollまたはPercollもしくは他の顆粒勾配を用い、微分遠心分離にかける。細胞は、100〜3000 g、より好ましくは200〜1500 g、最も好ましくは500 g、1分〜1時間、より好ましくは2〜15分間、最も好ましくは5分間、4〜50℃、好ましくは20〜40℃、より好ましくは約25℃で遠心分離して、脂肪組織の成体体性幹細胞を含む脂肪細胞由来間質細胞を単離し、回収することが出来る。回収した細胞は無血清培地または低濃度血清培地で、第1〜8継代培養する。
【0051】
7.末梢血または臍帯血由来の成体体性幹細胞の単離法
ヒト末梢血より幹細胞を取得する方法としては、以下の方法があげられる。
まず静脈中から血液を50 mlから500 ml程度採取して細胞を回収し、Ficoll-Hypaque法により単核細胞を回収する[Kanof, M. E. and Smith, P. D. 1993 isolation of whole mononuclear cells from peripheral blood. in Current Protocol in Immunology (J. E. Coligan, A. M. Kruisbeek, D. H. Margulies, E. M. Shevack, and W. Strober, eds.), pp7.1.1-7-7.1.5, John Wiley & Sons, New York.]。
【0052】
次にヒト末梢血単核細胞1x107〜1x108程度を10%牛胎児血清(JRH Biosciences)100μg/ml Streptomycin 100 units/ml、Penicillin(インビトロジェン)を含むRPMI1640培地(インビトロジェン)(以下末梢血幹細胞培養基本培地と称する)に懸濁し、2度洗浄して回収する。回収した細胞は末梢血幹細胞培養基本培地で再懸濁し、100 mm ディッシュ(BD Falcon)当たり細胞数1x107個になるように播種して37℃インキュベーターにて5%のCO2条件下で培養し、10時間後に浮遊細胞を除去して付着細胞のみをピペッティングにて取得する。
【0053】
取得した付着細胞はFibronectin(BD)処理(5μg/ml)したtissue cultured dish(BD Falcon)に3 nM phorbol 12-myristate 13-acetate (PMA、ナカライ社製)、50 ng/mlのヒトマクロファージ・コロニー刺激成長因子(macrophage colony-stimulating growth factor、以下、M-CSFと略記する、シグマ)、または50 ng/mlのヒトM-CSF及び1000 units/mlのヒトリューケミア・阻害因子(Leukemia Inhibitory factor、以下、LIFと略記する、シグマ)を含む末梢血幹細胞培養基本培地を用いて細胞濃度5x104個/cm2にて播種し、5〜7日に一度培地を半分交換しながら培養する。培養開始後およそ2〜3週間で、双極性の形態を有する末梢血中の成体体性幹細胞を増幅して取得することができる。
【0054】
ヒト、マウスなどの哺乳類の末梢血または臍帯血中の成体体性幹細胞を単離する方法をさらに詳しく説明する。本発明の細胞分画の他の態様は、末梢血または臍帯血細胞より単離・精製して得た単核細胞分画であって、卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞へ分化しうる成体体性幹細胞を含む細胞分画である。成体体性幹細胞を含む細胞分画は、例えば、末梢血または臍帯血細胞から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、選択することにより得ることができる。
【0055】
また、卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞へ分化しうる成体体性幹細胞を含む細胞分画は、脊椎動物から採取した末梢血細胞、臍帯血細胞を、900 gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07 g/mlから1.1 g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、細胞の由来する動物の種類(例えば、ヒト、ラット、マウス)により変動しうる。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficoll液やPercoll液を用いることができるが、これらに制限されない。臍帯血細胞を利用する場合には、骨髄バンクに保存してある臍帯血から採取することも可能である。
【0056】
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した末梢血液(25 ml)または臍帯血を同量のPBS溶液に混合し、遠心(900 gで10分間)し、沈降細胞をPBSに混合して回収(細胞密度は4x107細胞/ml程度)することにより、血液成分を除去する。その後、そのうち5mlをPercoll液(1.073 g/ml)と混合し、遠心(900 gで30分間)し、単核細胞分画を抽出する。細胞の洗浄のために、抽出した単核細胞分画を培養溶液(DMEM,10% FBS、1% anti-biotics-anti-mycotic solution)に混合し、遠心(2,000 rpmで15分間)する。次いで、遠心後の上澄みを除去し、沈降した細胞を回収し、培養する(37℃、5% CO2)。
【0057】
本発明の細胞分画の他の態様は、末梢血細胞、臍帯血細胞より分離して得た単核細胞分画(Lin(−))であって、卵巣顆粒膜細胞や卵巣夾膜細胞へ分化しうる間質細胞を含む細胞分画である。間質細胞を含む細胞分画は、例えば、臍帯血細胞、末梢血から遠心分離して得た上記の細胞分画の中から、上記Lin等の細胞表面マーカーを有する細胞を選択することにより得ることができる。
【0058】
また、脊椎動物から採取した末梢血細胞、臍帯血細胞を、800 gで比重に応じた分離に十分な時間、溶液中にて密度勾配遠心を行ない、遠心後、比重1.07 g/mlから1.1 g/mlの範囲に含まれる一定の比重の細胞分画を回収することにより調製することができる。ここで「比重に応じた分離に十分な時間」とは、密度勾配遠心のための溶液内で、細胞がその比重に応じた位置を占めるのに十分な時間を意味する。通常、10〜30分間程度である。回収する細胞分画の比重は、好ましくは1.07g/mlから1.08g/mlの範囲(例えば、1.077g/ml)である。密度勾配遠心のための溶液としては、Ficoll液やPercoll液を用いることができるがこれらに制限されない。
【0059】
具体例を示せば、まず、脊椎動物から採取した臍帯血、末梢血を同量の溶液(PBS+2% BSA+0.6%クエン酸ナトリウム+1% ペニシリン−ストレプトマイシン)溶液に混合し、そのうちの5mlをFicoll+Paque液(1.077 g/ml)と混合し、遠心(800 gで20分間)し、単核細胞分画を抽出する。この単核細胞分画を細胞の洗浄のために培養溶液(Alfa MEM,12.5% FBS、12.5% ウマ血清、0.2% i-イノシトール,20 mM 葉酸,0.1mM 2-メルカプトエタノール,2mM L-グルタミン、1μM ヒドロコルチゾン、1% anti-biotic-anti-mycotic solution)に混合し、遠心(2,000 rpm、15分間)する。次いで、遠心後の上澄みを除去した後、沈降した細胞を回収し、培養する(37℃、5% CO2)。
【0060】
8.培地の種類
本発明の方法において有用な培地の例(但し、これらに限定されない)としては、最少必須イーグル(Eagle)培地、ADC-1、LPM(ウシ血清アルブミンを含まない)、F10(HAM)、F12(HAM)、DCCM1、DCCM2、RPMI 1640 、BGJ培地(Fitton-Jacksonの修正のあるものおよびないもの)、バーゼルイーグル培地(Basal Medium Eagle)(BME-(Earle)塩ベースが添加されたもの))、ダルベッコ(Dulbecco)修正イーグル培地(DMEM−血清なし)、山根(Yamane)、IMEM-20、グラスゴウ(Glasgow)修正イーグル培地(GMEM)、ライボヴィッツ(Leibovitz)L-15培地、マッコイ(McCoy)5A培地、M199培地(M199E-Earle塩に基づくもの)、M199培地(M199H-Hank塩に基づくもの)、最少必須イーグル培地(MEM-E-Earle塩に基づくもの)、最少必須イーグル培地(MEM-H-Hank塩に基づくもの)および最少必須イーグル培地(MEM-NAA非必須アミノ酸を含むもの)、また、他の多数の培地、たとえば、199培地、CMRL 1415、CMRL 1969、CMRL 1066、NCTC 135、MB 75261、MAB 8713、DM 145、Williams’ G、Neuman & Tytell、Higuchi、MCDB 301、MCDB 202、MCDB 501、MCDB 401、MCDB 411、MDBC 153。本発明で用いるのに好ましい培地はDMEMである。
【0061】
これらのまた他の有用な培地はInvitrogen (Invitrogen Corp. Carlsbad, CA, USA)やバイオロジカルインダストリーズ(Biological Industries, Bet HaEmek, Israel)などから入手できる。これらの多数の培地については、Methods in Enzymology, Volume LVIII, “Cell Culture”, pp.62-72 (William B. JakobyおよびIra H. Pastan編、出版元Academic Press, Inc.)に詳細にまとめられている。
【0062】
2%の低濃度血清培地を用いる場合、MAPC培地(培地の組成は前述のとおり)を含む培養液が好ましい。
【0063】
9.培地に添加する因子
培地に添加する「成長因子、サイトカイン、ホルモン」は、以下の因子を含むがこれらに限定されない。すなわち、成長ホルモン、エリスロポエチン、スロンボポイエチン、インターロイキン3、インターロイキン6、インターロイキン7、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、c-kitリガンド/幹細胞因子、オステオプロテゲリン、リガンド、インスリン、インスリン様成長因子、上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、神経成長因子、毛様体神経栄養因子、血小板由来成長因子、白血病阻害因子および骨形態形成タンパク質である。好ましくは、血小板由来成長因子、上皮成長因子及びインスリン様成長因子(ヒトの場合)又は白血病阻害因子(マウスの場合)である。使用濃度はpg/mlからmg/mlのレベルの濃度である。好ましくは、1 ng/mlから100 ng/mlであり、より好ましくは10 ng/mlである。
【0064】
さらに別の追加成分を培地に添加し得ることも理解される。こうした成分としては、抗生物質、抗真菌剤、アルブミン、アミノ酸、および当業者に知られている他の成分が挙げられる。
【0065】
10.フローサイトメーターを用いた解析方法
以下の操作において、細胞懸濁液にはFACS液としてPBS+2% BSA+0.02% EDTA溶液を用いる。細胞106個あたり20〜100μlに懸濁する。液量は細胞の大きさ、用いる細胞数により、扱いやすい液量を選ぶ。細胞懸濁液にブロッキング抗体(抗Fc Receptor抗体)を添加する。マウス細胞にはeBioscience社のCD16/32抗体、ヒト細胞にはMiltenyi社のFcR Blockを使用している。4℃にて15分Blockingしたのち、懸濁液を各抗体ごとに必要な量を1.5 mlチューブに分注する。(BD、eBioscience製抗体)106個あたり1〜2μlの特異抗体を添加する。(Chemicon製抗体)懸濁液1 ml あたり10〜20μlを添加する。4℃にて30分間インキュベートする。抗体を反応させたのち、各チューブにFACS溶液を1 ml加え、遠心する(洗浄)。遠心の速度(1000 rpm〜2000 rpm)、時間(5〜15分)は細胞種(大きさ)に応じて調整する。
【0066】
二次抗体が必要な場合は、上清を除いたのち沈殿した細胞を一次抗体反応時と同じ液量に懸濁する。106個あたり1〜2μlの二次抗体を添加し、4℃にて30分間インキュベートする。各チューブに溶液を1 ml加え、遠心する。
沈殿してきた細胞は、106個あたり1 ml程度のFACS液に懸濁し、フローサイトメーターで解析する。
【0067】
11.成体体性幹細胞に転写因子Steroidogenic factor-1などの外来遺伝子を導入する方法
次にヒト、マウスなどの哺乳類の組織から分離した成体体性幹細胞に転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子を導入する方法を説明する。
成体体性幹細胞への遺伝子導入の為に使用可能なウィルスベクターとしては、レトロウィルスベクター(レンチウィルスベクターを含む)、アデノウィルスベクター等がある。
転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子に関しては、これらのウイルスベクタープラスミド内のプロモーターの下流にウシSteroidogenic factor-1 遺伝子の全長cDNAを挿入することにより、組換えウイルスベクタープラスミドを造成する。
【0068】
プロモーターとしては、ヒト組織中で発現できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、SRαプロモーター等をあげることができる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
該組換えウイルスベクタープラスミド造成後、該ウイルスベクタープラスミドに適合したパッケージング細胞に導入する。
【0069】
パッケージング細胞としては、ウイルスのパッケージングに必要なタンパク質をコードする遺伝子の少なくとも1つを欠損している組換えウイルスベクタープラスミドの該欠損する蛋白質を補給できる細胞であればいかなるものも用いることができる。例えばヒト腎臓由来のHEK293細胞、マウス線維芽細胞NIH3T3などを用いることができる。
【0070】
パッケージング細胞で補給する蛋白質としては、レトロウイルスベクターの場合はレトロウイルス由来のgag、pol、envなどの蛋白質、レンチウイルスベクターの場合はHIVウイルス由来のgag、pol、env、vpr、vpu、vif、tat、rev、nefなどの蛋白質、アデノウイルスベクターの場合はアデノウイルス由来のE1A、E1Bなどの蛋白質などの蛋白質を用いることができる。
【0071】
ウイルスベクタープラスミドとしては、pMxs-puro [Exp. Hematol. 31, 1007(2003)]、MFG[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 6733-6737(1995)]、pBabe-Puro[Nucleic Acids Research, 18, 3587(1990)],LL-CG、CL-CG、CS-CG、CLG[Journal of Virology, 72, 8150(1998)]、pAdex1[Nucleic Acids Res., 23, 3816(1995)]等が用いられる。
【0072】
上記組換えウイルスベクタープラスミドを上記パッケージング細胞に導入することで組換えウイルスベクターを生産することができる。上記パッケージング細胞への上記ウイルスベクタープラスミドの導入法としては、特に限定されるものではなく、リン酸カルシウム法[特開平2-227075]、リポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987)]、エレクトロポレーション法、など種々の遺伝子導入方法が知られているので、公知の遺伝子導入方法の中から適切なものを選択すればよい。
上述した組換えウイルスベクターを、試験管内で卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化能を有する成体体性幹細胞に感染させることで、転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子を当該幹細胞に導入することが出来る。
【0073】
12.成体体性幹細胞に、転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子、及びアロマターゼ遺伝子、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子または黄体形成ホルモン受容体遺伝子のプロモーター・レポーター系を導入する方法
次に成体体性幹細胞に転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子及び、転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子プロモーター・レポーター系やアロマターゼ遺伝子プロモーター・レポーター系を導入する方法を説明する。
【0074】
成体体性幹細胞への遺伝子導入の為に使用可能なウイルスベクターとしては、上記項目11において前述したように、レトロウイルスベクター(レンチウィルスベクターを含む)、アデノウイルスベクター等があり、これらのウイルスベクタープラスミド内に、転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子、アロマターゼ遺伝子、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子、黄体形成ホルモン受容体遺伝子のそれぞれのプロモーター配列を挿入してプロモーター・レポーター系を作製できる。しかしながら、これらのウイルスベクタープラスミドは、該プラスミドに導入するプロモーター・レポーター系の機能に影響を与えるような、例えばCMVなどのプロモーター配列を含んでいてはならない。なお、本プロモーター・レポーター系を導入する方法において使用するウイルスベクターとしては、アデノウイルスベクターが望ましい。
【0075】
該組換えウイルスベクタープラスミド造成後、該ウイルスベクタープラスミドに適合したパッケージング細胞に導入する。パッケージング細胞およびウイルスベクタープラスミドについても前述の通りである。
上述した組換えウイルスベクターを、試験管内で卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化能を有する成体体性幹細胞に感染させることで、転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子及び転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子、アロマターゼ遺伝子、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子、黄体形成ホルモン受容体遺伝子のプロモーター・レポーター系を当該幹細胞に導入することが出来る。
【0076】
発明の効果
本発明はエストロゲン産生能を有する卵巣の顆粒膜細胞・夾膜細胞に分化することができる成体体性幹細胞をはじめて提供するものである。
患者より採取した該幹細胞を本発明の分化誘導方法を用いて卵巣顆粒膜細胞ならびに夾膜細胞へ分化した後に患者に移植することで疾患などにより失われたエストロゲンなどのホルモンを適切な容量で補充することが可能である。また該幹細胞に卵巣顆粒膜細胞ならびに夾膜細胞への分化を指示するレポーター系を組み込むことで、該幹細胞から卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化を制御する分子群を探索することが可能である。該分子群は卵巣内に内在する該幹細胞に作用し再生を誘導する薬剤の探索ならびに開発に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
成体体性幹細胞とは成体の卵巣、骨髄、脂肪組織、骨格筋組織、末梢血に存在する多能性幹細胞であり、転写因子Steroidogenic factor-1 を誘導発現することで卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞へと分化する性質を有する。
成体体性幹細胞はプラスチックシャーレを用いて培養することができる。2%の血清を用いる場合には、ヒト細胞にはPDGF、EGF、IGF、マウス細胞にははPDGF、EGF、LIFを培養液に添加して用いる。この場合、血清入り培地で長期培養を行うと成体体性幹細胞の性質が変化することから、血清濃度は2%以下、継代培養数は8回程度に制限することが重要である。
【0078】
2%の低濃度血清を用いる場合には、低濃度血清培地(MAPC培地(培地組成は前述のとおり))を培養液として用いる。培養条件としては通常の培養細胞と同じく温度37℃、CO2濃度は5%のインキュベーターで培養を行う。低酸素、例えば3%酸素濃度にすることも可能である。培養皿は10 ng/ml〜1μg/mlフィブロネクチン溶液などでコートする事が望ましい。
【0079】
成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導を行うには、以下の方法を用いる。まず、配列番号:1に記載のウシ由来の転写因子Steroidogenic factor-1のコード領域の配列を有するcDNAを搭載したアデノウイルスベクターを作製し、HEK293細胞に導入してアデノウイルスベクターのウイルス液を調整する。このウイルス液をMultiplicity of Infection (m.o.i、細胞数に対するウイルス粒子の比率)が1から50でヒト成体体性幹細胞に添加して、Steroidogenic factor-1導入成体体性幹細胞に導入する。この細胞では培養4日目以降からエストロゲンの分泌が確認できるが、8br-cAMPなどのプロテインキナ−ゼの添加によりさらなるエストロゲン分泌量の増大が可能である。細胞からのエストロゲンまたはプロゲステロンの分泌量は、標識したエストロゲンまたはプロゲステロン認識抗体により検出できる。
【0080】
次に、患者自身もしくはドナーなどから調整される、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化能を有するヒト由来成体体性幹細胞を、試験管内(インビトロ)で卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞へと分化誘導したのち、それらの細胞を細胞治療剤として応用する方法をここに記載する。
本発明の応用により、成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化を制御する因子を探索できうる。探索した因子(siRNAまたは化学物質)を、プラスチックシャーレ上で培養した成体体性幹細胞に添加することで、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導を行う。
【0081】
インビトロで卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞の作成の際に、ドナーなどの患者以外の供給源由来の細胞を用いる場合は、患者の自己免疫反応から細胞を保護する必要がある。また、細胞は互いに接着および密な集塊あるいは集合体を形成する傾向を有すること、その場合、集団となった細胞塊の中心に包埋されてしまった細胞へは栄養素や酸素が届き難く、死滅しやすい。さらに、顆粒膜細胞、夾膜細胞は、単独で浮遊して生存することが出来ず、適当なマトリックスが存在しない場合に死滅するという問題がある。導入細胞の大半が導入後まもなく壊死してしまうことにより、壊死細胞から放出される過剰の細胞性タンパク質が、免疫応答を誘発し、患者にダメージを与える可能性もある。そのため、ドナー由来、患者自身の細胞を用いる場合いずれにおいても、本発明を細胞治療剤へ応用するためには、患者へ導入する細胞が利用可能な適当なマトリックスの存在が必要であり、移植可能なマトリックスとして、マイクロキャリアを使用する。
【0082】
マイクロキャリアは、表面に細胞を付着させ、増殖させるための微粒子である。通常、直径約100〜300μm、表面積約3000〜6000 cm2 /gの略球体状であり、表面に複数の窪みを有している。デキストラン、ゼラチンあるいはポリスチレン等の生体適合性材料により構成されているおり、細胞培養用担体および、細胞のキャリアとして使用できる(エイ.エル.ヴァン ウェゼル(A.L.van Wezel)著, 「ネイチャー(Nature)」,第216巻, (英国),1967年,p64〜65)。マイクロキャリアの比重は1.03〜1.05であり、自然浮遊性を備えている。
【0083】
マイクロキャリアが細胞治療に応用されている例として、ゼラチンのマイクロキャリア上に、ドパミンレベルを上昇させる作用を有する網膜色素上皮(PRE)細胞を付加した生物製剤Spheramineがある(Cherksey BD. U. S. Patent 6,060,048 (05/09/00))。これはパーキンソン病治療を目的とした生物製剤であり、現在、第2相の臨床実験が遂行されているが、マイクロキャリアに保持された導入細胞が長期に渡って生存することにより、生体内での安定したドパミン供給が認められており、期待される開発後期段階の製品である。
【0084】
このSpheramine技術を応用することで、卵巣顆粒膜細胞及び卵巣夾膜細胞付着マイクロキャリアはインビトロで形成することができる。マイクロキャリアに卵巣顆粒膜細胞及び卵巣夾膜細胞を付着させたものは「注射式再生医療工学(Injectable Tissue Engineering)」として公知の方法を用いれば、外科手術の必要なくヒトなどの哺乳類の皮下などに移植できる。
【0085】
次に本発明を応用して、成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化を制御する因子をハイスループットスクリーニング系を用いて探索する方法を以下に説明する。因子の探索においては、1) siRNAライブラリ、2) cDNAライブラリ、3) 化合物ライブラリを使用し、スクリーニング系を構築する。
【0086】
まずsiRNAライブラリについて説明する。siRNAとは、ある遺伝子に対し、その配列の一部約19塩基対のRNA2重鎖で、かつ、RNA干渉作用により、その遺伝子より蛋白への翻訳を阻害する効果のあるものを言う。ある遺伝子に対するsiRNAの細胞への導入の結果、特異的にそのたんぱく質が担う機能のみを欠失させ得ることが可能となる。このことから、全ゲノムsiRNAライブラリを特定の細胞に使用することにより、その細胞における全遺伝子中の一つだけの機能を失わせた状態を、全ての遺伝子に対して個々に観察することができる。
【0087】
よって、上記siRNAライブラリを使用して、成体体性幹細胞を用いたスクリーニングを行えば、成体体性幹細胞を卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞に分化させることを抑制している遺伝子を同定可能である。このことによって、同定された遺伝子の阻害剤を利用することにより、成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導をさらに促進することが可能である。スクリーニングでは、成体体性幹細胞のみを用いて目的遺伝子を探索する場合と、始めにHela、HEK293細胞などの成体体性幹細胞以外の一般的な株化培養細胞を使用して、スクリーニングにより該分化を制御する因子群を予備的に選択し、その後、予備選択した遺伝子の効果を本発明の成体体性幹細胞で確認することで、目的遺伝子を探索する場合がある。
【0088】
後者の場合は、培養が簡便である一般的な株化細胞を用いることで、スクリーニングに要する時間とコストを抑えるメリットがある反面、成体体性幹細胞のみによるスクリーニングで得られるべき目的因子が得られない可能性も否定できないため、いずれの方法を用いるかは、目的遺伝子のプロモーター・レポーターの種類などにより考慮する。
【0089】
尚、一般的な株化培養細胞を使用したスクリーニング方法は、本発明の成体体性幹細胞を利用して卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法と同様にして行うことができ、一般的な株化培養細胞に、転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子、アロマターゼ遺伝子、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子または黄体形成ホルモン受容体遺伝子のプロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだ各細胞を利用して行うことができる。その遺伝子のプロモーター及びレポーター遺伝子を組み込む方法はウイルスベクターを使用しなくても通常の方法で組み込むことができる。
【0090】
siRNAライブラリとしては、ヒト全遺伝子約25,000 に対し、それぞれの遺伝子に各4ずつのsiRNAを合成し、それらを等量ずつ混合し、384穴培養プレートに分注したもの使用し、スクリーニングを行う(キアゲン)。詳細は以下のとおりである。各遺伝子に対して合成された4種のsiRNAは、等量ずつ混合し、384穴培養プレートの各ウェルに、2.5 pmolずつ分注する。全遺伝子約25,000を網羅するためには、73枚の384穴プレートが必要である。各プレートの所定のウェルには、細胞へのsiRNAの導入効率の測定ならびに各プレート間でのその効率の補正のため、陽性、および陰性の参照siRNAを2.5 pmolずつ分注する。siRNAの終濃度は50nMとなる。
【0091】
siRNAの準備が整った後、1次スクリーニングを行う。標的となる細胞中の目的遺伝子の活性化を検出する方法においては、目的遺伝子のプロモーターレポーターアッセイ(レポーター遺伝子としては、EGFP、ルシフェラーゼなど)、細胞免疫染色法などがある。
siRNAの細胞へのトランスフェクションは、リポフェクション法を用いる。siRNAが分注された全73枚のプレート上の各ウェルに、10μlのOpti-MEM(Invitrogen社) 中に0.1μlのLipofectAMINE RNAiMax(Invitrogen社)を加えたものを分注する。10分後、40μlまでの培地中に、1 穴あたり、800個〜1000個になるように調整した標的細胞を、73枚のプレート上の全ウェルに分注し、siRNAを細胞に導入する。細胞の数、培地の量は、スクリーニングに使用する細胞によって、適正な数を決定して用いる。
【0092】
レポーターアッセイを行う際には、スクリーニングに用いる細胞(HEK293などの株細胞も含む)に、転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子、アロマターゼ遺伝子、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子、黄体形成ホルモン受容体遺伝子それぞれのプロモーター・レポーター系を導入する。HEK293、Hela等の遺伝子導入効率の高い細胞株を用いるスクリーニングの場合は、リポフェクション法などで一過的にレポータープラスミドを細胞に導入したうえで、6〜24時間後にスクリーニングに用いるか、もしくは、siRNAと同時にレポーター系を導入して用いる。
【0093】
成体体性幹細胞のようにリポフェクション法やリン酸カルシウム法では遺伝子導入の難しい細胞に対しては、レトロウイルスベクター(レンチウイルスを含む)で恒常的にレポーターシステムを組み込んだ細胞を作成するか、または、目的のレポーター系を搭載したアデノウイルスベクターに感染後1-7日目の細胞を用いる。感染時に用いるアデノウイルスの量は、2〜50 plaque forming unitsで行うのが好ましい。
【0094】
トランスフェクション試薬、細胞を分注した全73枚のプレートは、37度、CO2濃度5%に保持された培養装置中で、2〜7日間培養する。培養時間は、細胞種、検出したい遺伝子の種類などによって適宜、対応する。
【0095】
レポーターコンストラクトにルシフェラーゼを用いる場合、細胞に導入されたsiRNAの効果は、ルシフェラーゼレポーターの活性を測定することによって同定できる。トランスフェクションより2〜7日後、培養プレートを培養装置より取り出し、たとえば、Steady GLO試薬やBlight-GLO試薬(いずれもプロメガ社)を50μlずつ全ウェルに分注、撹拌、10分間の静置の後、EnVisionプレートリーダー(パーキンエルマージャパン社)により各ウェルの発光強度を測定する。
【0096】
各プレート上に分注した、陰性ならびに陽性参照siRNAの結果より、各プレート間の発光強度のばらつきを補正した後、発光強度の強いものより順位を付け、特に発光強度の高いものを陽性と判断する。以降、2次スクリーニングから場合によっては3次、4次とスクリーニングを繰り返し、上記の操作を繰り返し、最終的な候補遺伝子数を10以下に絞り込む。レポーター遺伝子にGFPを用いる場合は、EnVisionプレートリーダー(パーキンエルマージャパン社)あるいは、ArrayScan(Cellomics, Inc. Pittsburgh, PA, USA)などを用いて各ウェルの蛍光強度を測定する。
【0097】
本発明では、1次スクリーニングで転写因子Steroidogenic factor-1 遺伝子プロモーター・レポーター系を用いてSteroidogenic factor-1遺伝子の発現に影響を与える因子を同定(〜1000)さらに、2次スクリーニングにてアロマターゼ遺伝子プロモーター・レポーター、3次スクリーニングにて卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター・レポーター、4次スクリーニングにて黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター・レポーター系を用いることで、最終的に卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導を促す候補因子を10以下に絞り込む。検討対象となる遺伝子を、さらに詳細に解析し、選択する。まず、個々のsiRNAを細胞に導入し、その遺伝子、タンパク質の量が減少することを確認する。
【0098】
6穴培養プレートに細胞種に合わせた適切な数(成体体性幹細胞であれば、1x105個/wellで2mlの培地を使用)の細胞を播種し、24時間後に終濃度20 nMでsiRNAをトランスフェクションする。48時間後、スクレイパーにより細胞を培養プレートの底面よりはがした後、マイクロチューブに培養液ごと回収する。5分間、1000rpmの遠心後、培養上清を捨て、1 ml のPBSに懸濁し、500μlずつ、2つのマイクロチューブに分注する。再度遠心の後、一方をタンパク質回収用、もう一方をRNA回収用とし、それぞれより調整したタンパク質溶液、RNA溶液を用いて、ウエスタンブロッティング、qPCRを行い、同遺伝子、タンパクの発現量の減少を確認する。参照として、スクランブルsiRNAをトランスフェクションした細胞を用いて調整したタンパク質溶液、RNA溶液を用いて比較する。上記の作業により、siRNAにおいて遺伝子発現の減少が見られるものについて、以降、解析を行う。
【0099】
次に、cDNAライブラリを用いたスクリーニングについて述べる。上記siRNAライブラリを用いたスクリーニングと同様に、siRNAの代わりに哺乳類細胞で高転写活性を持つCMVなどのプロモーター下に結合したcDNAのライブラリを用い、それを遺伝子ごとに異なるウェルに分注し、トランスフェクションを行うことで、各ウェル中では、特定の遺伝子のみ高発現させた状態を得ることができる。この場合、トランスフェクション試薬はプラスミドトランスフェクションに適したものを使用する。例えば、FuGene6(ロッシュ)、LipofectAMINE2000(インビトロジェン)などである。個々の遺伝子をそれぞれ単独のウェル内で発現させた状態で、スクリーニングの対象となる細胞に導入されたレポーター遺伝子の活性を測定することにより、レポーターを活性化する因子を同定可能である。つまりこの因子が、顆粒膜細胞及び夾膜細胞への分化誘導を促す候補因子となる。
【0100】
化合物ライブラリを用いる場合も、上記siRNAを使用したスクリーニングと同様に行う。siRNAの代わりに、各ウェルに化合物をスポットし、細胞を分注し培養、同様に測定を行う。トランスフェクションの作業は不要となる。
【実施例】
【0101】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
実施例1. マウス卵巣由来の成体体性幹細胞の低濃度血清培養と幹細胞マーカーの検出
以下マウスを例として、哺乳類の卵巣の幹細胞の単離法を説明する。
周辺の組織を含まないようにして、マウスの卵巣を氷上の10% FBS含有イスコブ改変ダルベッコ培地(IMDM)に採取した。採集した卵巣を新しいIMDM中で洗ったのち、IMDM+0.1%コラゲナーゼ+10% FBS溶液中で37℃にて2時間ゆっくりと振蕩培養した。酵素処理後、懸濁液に10%FBS含有IMDMを加えて酵素反応を停止させた後、ピペッティングにより細胞を解離し、45μm径のフィルターを通した。この懸濁液を400 gで7分間遠心し、沈殿した成体体性幹細胞を含んだ細胞群を回収した。
【0102】
低濃度血清培地(MAPC培地(培地の組成は前述のとおり))で初代(第1継代)から第2継代培養した卵巣由来の成体体性幹細胞からRNeasy Micro Kit (キアゲン)を用い、以下の手順によりRNA抽出を行った。
【0103】
細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、β-メルカプトエタノール 0.75μlを添加したBuffer RLT (キット添付) 75 μlに溶解した。細胞溶解液をボルテックスによりよく攪拌し、細胞溶解液をQIAshredder spin column (キアゲン)に移し、15,000rpmで2分間遠心分離した。カラムを通過した溶解液に70% エタノール 75μlを加えてピペッティングにより混合した。細胞溶解液をRNeasy MinElute Spin column (キット添付)に移し、13,000 rpmで15秒間遠心分離し、カラムを透過した液を捨てた。カラムにBuffer RW1 350μlを加えて13,000 rpmで15秒間遠心分離した。 カラムを透過した液を捨て、DNaseI10μlとBuffer RDD 70μlを混合したものをカラムに加え、室温で15分間放置した。
【0104】
Buffer RW1 350μlを加えて13,000rpmで15秒間遠心分離した。新しいコレクションチューブ(キットに添付)にカラムを置き、96〜100% エタノールを添加した Buffer PRE (キット添付)500μlを加え、13,000 rpmで15秒間遠心分離した。カラムを透過した液を捨て、80% エタノール 500μlを加え、15,000 rpmで2分間遠心分離した。新しい1.5 mlチューブ(キット添付)にカラムを置き、キャップを開いた状態で、さらに15,000 rpmで5分間遠心分離した。新しい1.5mlチューブ(キット添付)にカラムを置き、RNase free water (キット添付)14μlを加え、13,000rpmで1分間遠心分離してRNAを溶出した。分光光度計Nano Drop (Nano Drop Technologies)によりRNA濃度を測定した。
【0105】
RNA PCR KIT (タカラバイオ)を用い、以下の手順によりRNAから1本鎖DNA(cDNA)を合成した。25mM MgCl2 4μl、10 x RT buffer 2μl、各10mM dNTP Mixture 2μl、40U/μl RNase Inhibitor 0.5μl、5U/μl AMV Reverse Transcriptase XL 1μl, 50pmol/μl Random 9mer 1μl、RNA 1μgを加え、滅菌蒸留水にて全量を20μlになるように混合した。Authorized Thermal Cycer (eppendorf)により、30℃にて10分、42℃にて30分、99℃にて5分、5℃にて5分、および4℃にて1分(1サイクル)でPCR反応を行った。
【0106】
得られたcDNAを鋳型として、Ex taq (タカラバイオ)を用い、内在性コントロールであるHPRT、幹細胞関連遺伝子であるTERT、Musashi-1、Nestin、Klf-4及びCXCR-4の各遺伝子を増幅した。5 U/μl Ex taq 0.1μl、10 x Ex taq buffer 2μl、2.5 mM dNTP Mixture 1.6μl、cDNA 1μl、目的遺伝子の正方向プライマー (10μM) 1μl、目的遺伝子の逆方向プライマー (10μM) 1μl、および滅菌蒸留水 18.3μlの全量25μlを混合した。Gene Amp PCR System 9700 (Applied Biosystem)により、94℃にて30秒(1サイクル)、94℃にて30秒、55℃にて30秒、および72℃にて30秒(30〜35サイクル)でPCR反応を行った。
【0107】
プライマーには、HPRT F; CCTGGCGTCGTGATTAGTGAT(配列番号:7)とHPRT R; AGACGTTCAGTCCTGTCCATAA(配列番号:8)、TERT F; AGTGGTGAACTTCCCTGTGG(配列番号:9)とTERT R; TGACACTTCAACCGCAAGAC(配列番号:10)、Musashi-1 F; ATGGTGGAATGCAAGAAAGC(配列番号:11)とMusashi-1 R; TAGGTGTAACCAGGGGCAAG(配列番号:12)、Nestin F; GCTGGAACAGAGATTGGAAGG(配列番号:13)とNestin R; CCAGGATCTGAGCGATCTGAC(配列番号:14)、Klf-4 F; CAGGCTGTGGCAAAACCTAT(配列番号:15)とKlf-4 R; CCTGTGTGTTTGCGGTAGTG(配列番号:16)、およびCXCR-4 F; ACGGCTGTAGAGCGAGTGTT(配列番号:19)とCXCR-4 R; CCGTCATGCTCCTTAGCTTC(配列番号:20)をそれぞれ用いた。
【0108】
増幅されたPCR産物の有無を、電気泳動で分離したバンドにより確認した。TAE緩衝液中で臭化エチジウムを含む1.5%アガロースゲル上にPCR産物5μlを流し、泳動を行った。画像撮影装置FAS-III (東洋紡)によりゲルに紫外線照射し、目的遺伝子のサイズ(bp)のバンドを検出した。低濃度血清培養したマウス卵巣由来の成体体性幹細胞は、PCR反応30サイクルで幹細胞関連遺伝子Musashi-1(191 bp)、TERT(240 bp)、Nestin(125 bp)およびKlf-4(154 bp)が陽性、PCR反応35サイクルでCXCR-4(249 bp)が陽性であった。
【0109】
実施例2. マウス骨髄由来の成体体性幹細胞の低濃度血清培養と幹細胞マーカーの検出
マウス(C57BL/6N系統、4週齢、メス)から他の組織を極力持ち込まないように大腿骨・脛骨を摘出した。回収した骨を70%エタノールに短時間浸して骨の外側に付着した細胞を殺し、骨髄以外の細胞の混入を防ぐようにした。エタノール処理後、骨はただちにIMDMに移し、骨髄内部の細胞の死滅を防いだ。骨の外側を一本づつキムワイプでぬぐい、結合組織を除去した。IMDMを入れた乳鉢に処理の終わった骨を全て移し、乳棒で叩き潰した。IMDMにて数回洗浄したのち、骨をハサミで細断した。
【0110】
さらにIMDMで数回洗浄したのち、骨片を遠心チューブに移した。IMDMを除いたのちに、5匹分あたり10mlの0.2%コラゲナーゼ含有IMDMを添加し、37℃にて1時間振とうした。振とう後、ピペットマンを用いて懸濁液を数回攪拌したのち、上清を別のチューブに移して等量の冷えた10% FBS含有IMDMを添加して酵素反応を停止させた。酵素処理後の骨片を、冷えた10% FBS含有IMDMを入れた乳鉢に移し、再度乳棒で叩き潰し、数回攪拌したのちに上清を回収した。このようにして回収した細胞懸濁液を、70μm径・40μm径のナイロンメッシュに順次通してろ過した。細胞懸濁液を4℃下で600 gにて7分間遠心し、マウス骨髄深部由来細胞を回収した。
【0111】
マウス骨髄深部由来細胞は低濃度血清培地(MAPC培地(培地の組成は前述のとおり)) に懸濁し、105個/cm2の濃度で播種した。細胞の播種には予め10 ng/ml ファイブロネクチン含有リン酸緩衝液でコーティングしたディッシュを用いた。培地には使用時に成長因子(10 ng/ml PDGF-BB (ペプロテック)、10 ng/ml EGF (ペプロテック)、10 ng/ml IGF-1 (ペプロテック))を添加した。播種から3日後に、培地は交換せず成長因子のみを添加した。6日後にリン酸緩衝液で非接着細胞を洗い流し、0.05%トリプシン(ギブコ)で接着細胞を剥離して回収した。細胞数を数え、細胞数が3,000個/cm2となるように1.8x105個の細胞を低濃度血清培地10mlに懸濁し、10cm ディッシュ 1枚に播種し、第1〜8継代培養した。
【0112】
RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用い、以下の手順によりRNA抽出を行った。細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、0.05%トリプシンで接着細胞を剥離して回収し、β-メルカプトエタノール 3.5μlを添加したBuffer RLT (キット付属) 350μlに溶解し、ボルテックスによりよく攪拌した。細胞溶解液をQIAshredder spin column (QIAGEN)に移し、15,000rpmで2分間遠心分離した。カラムを通過した溶解液に70% エタノール 350μlを加えてピペッティングにより混合した。細胞溶解液をRNeasy mini column (キット添付)に移し、13,000rpmで15秒間遠心分離し、カラムを透過した液を捨てた。RNeasy columnにBuffer RW1 350μlを加えて13,000rpmで15秒間遠心分離した。
【0113】
DNaseI10μlとBuffer RDD 70μlを混合したものをRNeasy columnに加え、室温で15分間放置した。Buffer RW1 350μlを加えて13,000rpmで15秒間遠心分離した。新しいコレクションチューブ (キット添付)にRNeasy columnを置き、96〜100% エタノールを添加した Buffer PRE (キット添付)500μlを加え、13,000rpmで15秒間遠心分離した。カラムを通過した液を捨て、再度Buffer PREを加え、15000rpmで2分間遠心分離した。新しい1.5mlチューブ(キット添付)にRNeasy columnを置き、RNase free water (キット添付)30μlを加え、13,000rpmで1分間遠心分離してRNAを溶出した。精製したRNAからSuperScript III RT-PCR KIT (インビトロジェン)を用い、以下の手順によりRNAからcDNAを合成した。cDNA合成1反応にはRNA1μgを使用し、プライマーにはOligoDTプライマーを用いた。逆転写酵素は50℃にて1時間反応させた。
【0114】
得られたcDNAを鋳型として、Blend taq (東洋紡)を用い、内在性コントロールとして常時発現遺伝子であるHPRT、幹細胞マーカーであるOct-4、Klf-4、TERT、CXCR-4およびNanog、並びに神経幹細胞マーカーであるMusashi-1およびNestinの各遺伝子を増幅した。Gene Amp PCR System 9700 (Applied Biosystem)により、94℃にて30秒(1サイクル)、94℃にて30秒、58℃にて30秒、および72℃にて30秒(35サイクル)でPCR反応を行った。
【0115】
プライマーには、HPRT F; CCTGGCGTCGTGATTAGTGAT(配列番号:7)とHPRT R; AGACGTTCAGTCCTGTCCATAA(配列番号:8)、TERT F; AGTGGTGAACTTCCCTGTGG(配列番号:9)とTERT R; TGACACTTCAACCGCAAGAC(配列番号:10)、Musashi-1 F; ATGGTGGAATGCAAGAAAGC(配列番号:11)とMusashi-1 R; TAGGTGTAACCAGGGGCAAG(配列番号:12)、Nestin F; GCTGGAACAGAGATTGGAAGG(配列番号:13)とNestin R; CCAGGATCTGAGCGATCTGAC(配列番号:14)、Oct-4 F; GAGGAGTCCCAGGACATGAA(配列番号:17)とOct-4 R; AGATGGTGGTCTGGCTGAAC(配列番号:18)、Klf-4 F; CAGGCTGTGGCAAAACCTAT(配列番号:15)とKlf-4 R; CCTGTGTGTTTGCGGTAGTG(配列番号:16)、Nanog F; CGTTCCCAGAATTCGATGCTT(配列番号:35)とNanog R; TTTTCAGAAATCCCTTCCCTCG(配列番号:36)、およびCXCR-4 F; ACGGCTGTAGAGCGAGTGTT(配列番号:19)とCXCR-4 R; CCGTCATGCTCCTTAGCTTC(配列番号:20)をそれぞれ用いた。
【0116】
増幅されたPCR産物の有無を、電気泳動で分離したバンドにより確認した。TAE緩衝液中で臭化エチジウムを含む1.5%アガロースゲル上にPCR産物5μlを流し、泳動を行った。FAS-III (東洋紡)によりゲルに紫外線照射し、目的遺伝子のサイズのバンドを検出した。低濃度血清培養したマウス骨髄由来の成体体性幹細胞は、幹細胞関連遺伝子Musashi-1(191 bp)、TERT(240 bp)、Nanog(230 bp)、Oct4(154 bp)、Klf4(154 bp)、CXCR4(249 bp)およびNestin(125 bp)が陽性であった。
【0117】
実施例3. マウス骨格筋由来の成体体性幹細胞の低濃度血清培養と幹細胞マーカーの検出
マウスの骨格筋より以下の方法を用いて、幹細胞を取得した。筋肉は前脛骨筋、四頭筋、平目筋、足底筋等の、完全な状態で取りやすいものを用いる。筋肉は両端の腱で切除し、氷中のIMDM+10%FBSに回収する。一連の作業中、腱以外の部位には極力触れないようにする。採集した筋肉を新しいIMDM中で洗ったのち、IMDM+0.1%コラゲナーゼ+10%FBS溶液中で37℃にて2時間ゆっくりと振蕩培養する。処理後、懸濁液を茶漉しに通し、大きな組織片を取り除く。続いて100μm、45μm、20μmのフィルターメッシュを順番に通す。この懸濁液を400gで7分間遠心し、沈殿した成体体性幹細胞を含む骨格筋間質細胞を回収する。
【0118】
マウス骨格筋由来の成体体性幹細胞は低濃度血清培地(MAPC培地(培地の組成は前述のとおり))に懸濁し、105個/cm2の濃度で播種した。細胞の播種には予め10ng/ml ファイブロネクチン含有リン酸緩衝液でコーティングしたディッシュを用いた。
【0119】
培地には使用時に成長因子(10 ng/ml PDGF-BB (ペプロテック)、10 ng/ml EGF (ペプロテック)、10 ng/ml IGF-1 (ペプロテック))を添加した。播種から3日後に、培地は交換せず成長因子のみを添加した。6日後にリン酸緩衝液で非接着細胞を洗い流し、0.05%トリプシン(ギブコ)で接着細胞を剥離して回収した。細胞数を数え、3,000細胞/cm2となるように1.8x105cellsを低濃度血清培地10mlに懸濁し、10cm ディッシュ1枚に播種し、第1〜8継代培養した。
【0120】
RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用い、以下の手順によNA抽出を行った。細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、0.05%トリプシンで接着細胞を剥離して回収し、β-メルカプトエタノール 3.5μlを添加したBuffer RLT (キット添付) 350μlに溶解し、ボルテックスによりよく攪拌した。細胞溶解液をQIAshredder spin column (QIAGEN)に移し、15,000 rpmで2分間遠心分離した。カラムを通過した溶解液に70% エタノール 350μlを加えてピペッティングにより混合した。細胞溶解液をRNeasy mini column (キット添付)に移し、13,000 rpmで15秒間遠心分離し、カラムを透過した液を捨てた。RNeasy columnにBuffer RW1 350μlを加えて13,000 rpmで15秒間遠心分離した。
【0121】
DNaseI10μlとBuffer RDD 70μlを混合したものをRNeasy columnに加え、室温で15分間放置した。Buffer RW1 350μlを加えて13,000 rpmで15秒間遠心分離した。新しいコレクションチューブ (キット添付)にRNeasy columnを置き、96〜100% エタノールを添加した Buffer PRE (キット添付)500μlを加え、13,000 rpmで15秒間遠心分離した。カラムを透過した液を捨て、Buffer PRE 500μlを加え、15,000 rpmで2分間遠心分離した。新しい1.5mlチューブ(キット添付)にRNeasy columnを置き、RNase free water (キット添付)30μlを加え、13,000 rpmで1分間遠心分離してRNAを溶出した。
【0122】
精製したRNAからSuperScript III RT-PCR KIT (インビトロジェン)を用い、以下の手順によりRNAからcDNAを合成した。cDNA合成1反応にはRNA1μgを使用し、プライマーにはRandom 9 mersを用いた。逆転写酵素は50℃にて1時間反応させた。
得られたcDNAを鋳型として、Blend taq (東洋紡)を用い、内在性コントロールであるHPRT、並びに幹細胞関連遺伝子であるTERT、Klf-4、Musashi-1、CXCR-4およびNestinの各遺伝子を増幅した。Gene Amp PCR System 9700 (Applied Biosystem)により、94℃にて30秒(1サイクル)、94℃にて30秒、58℃にて30秒および72℃にて30秒(30〜35サイクル)でPCR反応を行った。
【0123】
プライマーには、HPRT F; CCTGGCGTCGTGATTAGTGAT(配列番号:7)とHPRT R; AGACGTTCAGTCCTGTCCATAA(配列番号:8)、TERT F; AGTGGTGAACTTCCCTGTGG(配列番号:9)とTERT R; TGACACTTCAACCGCAAGAC(配列番号:10)、Musashi-1 F; ATGGTGGAATGCAAGAAAGC(配列番号:11)とMusashi-1 R; TAGGTGTAACCAGGGGCAAG(配列番号:12)、Nestin F; GCTGGAACAGAGATTGGAAGG(配列番号:13)とNestin R; CCAGGATCTGAGCGATCTGAC(配列番号:14)、Klf-4 F; CAGGCTGTGGCAAAACCTAT(配列番号:15)と Klf-4 R; CCTGTGTGTTTGCGGTAGTG(配列番号:16)、およびCXCR-4 F; ACGGCTGTAGAGCGAGTGTT(配列番号:19)とCXCR-4 R; CCGTCATGCTCCTTAGCTTC(配列番号:20)をそれぞれ用いた。
【0124】
増幅されたPCR産物の有無を、電気泳動で分離したバンドにより確認した。TAE緩衝液中で臭化エチジウムを含む1.5%アガロースゲル上にPCR産物5μlを流し、Mupid-exu (タカラバイオ)により泳動を行った。FAS-III (東洋紡)によりゲルに紫外線照射し、目的遺伝子のサイズのバンド(bp)を検出した。低濃度血清培養したマウス骨格筋由来の成体体性幹細胞は、PCR反応30サイクルで幹細胞関連遺伝子Musashi-1(191 bp)、TERT(240 bp)およびKlf4(154 bp)陽性、PCR反応35サイクルでCXCR4(249 bp)及びNestin(125 bp)が陽性であった。
【0125】
実施例4. ヒト骨髄由来の成体体性幹細胞の低濃度血清培養と幹細胞マーカーの検出
ヒト骨髄由来単核細胞(hBMMNCs; CAMBREX Lot 041225女性23歳白人)1バイアル(2.5x107個の細胞)を37℃ウォーターバスで解凍し、低濃度血清培地(MAPC培地(培地の組成は前述のとおり)) 20 mlに懸濁した。凍結溶液中のDMSOを除去するため、4℃、600 gで7分間遠心分離し、上清を除去した。
【0126】
得られた細胞塊を低濃度血清培地40 mlで再懸濁し、10 cm ディッシュ (Falcon)4枚に播種した。成長因子(10 ng/ml PDGF-BB (ペプロテック)、10 ng/ml EGF (ペプロテック)、10 ng/ml IGF-1 (ペプロテック))を添加した。3日後、成長因子のみ添加した。7日後、接着細胞はそのままで浮遊細胞と培地を回収して4℃、600 gで7分間遠心分離し、上清を半量捨てて新しい培地を半量加えた。懸濁した細胞液をもとの10cm ディッシュに戻し、成長因子を添加した。接着細胞が集密になった11日後、リン酸緩衝液で非接着細胞を洗い流し、0.05%トリプシン(ギブコ)で接着細胞を剥離して回収した。細胞数を数え、3,000個/cm2となるように1.8x105個の細胞を低濃度血清培地10 mlに懸濁し、10 cm ディッシュ1枚に播種し、第1〜3継代培養した。
【0127】
RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用い、以下の手順によりRNA抽出を行った。細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、β-メルカプトエタノール 3.5 μlを添加したBuffer RLT (キット添付) 350μlに溶解し、ボルテックスによりよく攪拌した。細胞溶解液をQIAshredder spin column (QIAGEN)に移し、15,000rpmで2分間遠心分離した。カラムを通過した溶解液に70% エタノール 350μlを加えてピペッティングにより混合した。細胞溶解液をRNeasy mini column (キット添付)に移し、13,000 rpmで15秒間遠心分離し、カラムを透過した液を捨てた。カラムにBuffer RW1 350μlを加えて13,000 rpmで15秒間遠心分離した。
【0128】
カラムを透過した液を捨て、DNaseI10μlとBuffer RDD 70μlを混合したものをカラムに加え、室温で15分間放置した。Buffer RW1 350μlを加えて13,000 rpmで15秒間遠心分離した。新しい回収用チューブ(collection tube、キット添付)にカラムを置き、96〜100% エタノールを添加した Buffer PRE (キット添付)500μlを加え、13,000 rpmで15秒間遠心分離した。カラムを透過した液を捨て、80% エタノール 500μlを加え、15,000 rpmで2分間遠心分離した。新しい2mlチューブにカラムを置き、キャップを開いた状態で15,000rpmで5分間遠心分離した。新しい1.5 mlチューブ(キット添付)にカラムを置き、RNase free water (キット添付)30μlを加え、13,000 rpmで1分間遠心分離してRNAを溶出した。分光光度計Nano Drop (Nano Drop Technologies)によりRNA濃度を測定した。
【0129】
RNA PCR KIT (タカラバイオ)を用い、以下の手順によりRNAから1本鎖DNAを合成した。25mM MgCl2 6μl、10 x RT buffer 3μl、各10 mM dNTP Mixture 3μl、40 U/μl RNase Inhibitor 0.75μl、5U/μl AMV Reverse Transcriptase XL 1.5μl、50 pmol/μl Random 9mer 1.5μlおよびRNA 1.5μgを混合し、滅菌蒸留水を全量を30μlになるよう加えた。Authorized Thermal Cycer (eppendorf)により、30℃にて10分、42℃にて30分、99℃にて5分、5℃にて5分、および4℃にて1分(1サイクル)でPCR反応を行った。
【0130】
得られたcDNAを鋳型として、Ex taq (タカラバイオ)を用い、内在性コントロールであるHPRT、並びに幹細胞関連遺伝子であるOct-4、Klf-4、Nanog、Musashi-1、NestinおよびCXCR-4の各遺伝子を増幅した。5 U/μl Ex taq 0.1μl、10 x Ex taq buffer 2μl、2.5 mM dNTP Mixture 1.6μl、cDNA 1μl、目的遺伝子の正方向プライマー (10μM) 1μl、目的遺伝子の逆方向プライマー (10μM) 1μl、滅菌蒸留水 18.3μlの全量25μlを混合した。Gene Amp PCR System 9700 (Applied Biosystem)により、94℃にて30秒(1サイクル)、94℃にて30秒、55℃にて30秒、72℃にて30秒(30サイクル)でPCR反応を行った。
【0131】
プライマーには、HPRT F; AGTCTGGCTTATATCCAACACTTCG(配列番号:23)とHPRT R; GACTTTGCTTTCCTTGGTCAGG(配列番号:24)、OCT-4 F; CGACCATCTGCCGCTTTGAG(配列番号:25)とOct-4 R; CCCCCTGTCCCCCATTCCTA(配列番号:26)、Klf-4 F; CCCACACAGGTGAGAAACCT(配列番号:27)とKlf-4 R; ATGTGTAAGGCGAGGTGGTC(配列番号:28)、Nanog F; CTAAGAGGTGGCAGAAAAACA(配列番号:21)とNanog R; CTGGTGGTAGGAAGAGTAGAGG(配列番号:22)、Musashi-1 F; GCCCAAGATGGTGACTCG(配列番号:29)とMusashi-1 R; ATGGCGTCGTCCACCTTC(配列番号:30)、Nestin F; GGCGCACCTCAAGATGTCC(配列番号:31)とNestin R; CTTGGGGTCCTGAAAGCTG(配列番号:32)、およびCXCR-4 F; GGTGGTCTATGTTGGCGTCT(配列番号:33)とCXCR-4 R; TGGAGTGTGACAGCTTGGAG(配列番号:34)をそれぞれ用いた。
【0132】
増幅されたPCR産物の有無を、電気泳動で分離したバンドにより確認した。TAE緩衝液中で臭化エチジウムを含む1.5%アガロースゲル上にPCR産物5μlを流し、泳動を行った。FAS-III (東洋紡)によりゲルに紫外線照射し、目的遺伝子のサイズのバンドを検出した。その結果、低濃度血清培養したヒト骨髄由来の成体体性幹細胞は、幹細胞関連遺伝子Musashi-1 (114 bp)、Nanog (83 bp)、Oct4 (573 bp)、Klf4 (169 bp)、CXCR4 (227 bp) 及び Nestin (127bp)が陽性であった。
【0133】
上記の低濃度血清で第1継代培養したヒト骨髄由来の成体体性幹細胞の表面抗原を解析した(図1)。
FITC標識した抗HLA class I抗体(ヒトの抗MHC class I抗体)(ベクトンディッキンソン社、Cat. No. 555552)を細胞数106個あたり2μl加えて4℃にて30分間染色した。FACS用緩衝液(2%BSA/0.02%EDTA/PBS)を1ml加えたのち、300gにて5分間遠心して余剰の抗体を洗浄した。沈殿を再度FACS用緩衝液で懸濁し、FACSで解析した。その結果、間葉系幹細胞では陽性であるHLA class I(ヒトのMHC class I)が、本発明のヒト骨髄由来の成体体性幹細胞では陰性であり、明らかに間葉系幹細胞とは異なる細胞である事を示した。
【0134】
実施例5. ヒト骨髄由来の成体体性幹細胞から卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導
本発明で、ヒト骨髄細胞から単離された成体体性幹細胞を用いて、細胞へウシSteroidogenic factor-1 遺伝子を導入し、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導を以下のように行った。
まず、配列番号:1で表されるウシSteroidogenic factor-1のコード領域の配列を有するcDNAを搭載したアデノウイルスベクターを作成した。具体的には、Adeno-X Expression System 1キット(タカラバイオ・クロンテック)を使用した。Adeno-X Expression Systemでは、タカラバイオ社よりキットに添付された実験方法に基づき、まずpShuttleと呼ばれるベクターのマルチクローニングサイトに、ウシSteroidogenic factor-1遺伝子をクローニングした。
【0135】
次に、pShuttleの発現カセットの両端にある切断サイト、PI-Sce IサイトとI-Ceu Iサイトで発現カセットを切り出し、Adeno-X Viral DNA中のPI-Sce IサイトとI-Ceu Iサイトの間に目的遺伝子を含むDNA断片を挿入したのち、制限酵素Swa Iで処理して、組み込みが不成立だったアデノウイルスDNAを除去した。このプラスミドを大腸菌DH5株にて形質転換を行った後、アデノウイルスDNAに目的の遺伝子導入が正しく行われたかについて、制限酵素処理やPCRなどにより確認後、プラスミドを大量調整し、Pac I制限酵素で切断した。このようにして得られた組み換えアデノウイルスDNAを用いて6穴に播種したHEK 293細胞(MicroBix社)にLipofectamin2000 (インビトロジェン)を用いて細胞への遺伝子導入を行い、2週間後、細胞が細胞変性効果(Cytopathic effect、CPE)を示した時点で培地ごと回収した。
【0136】
その後、細胞懸濁液を3度、凍結融解して、細胞を破壊し、細胞中に存在するウイルス粒子を液中に放出させた。このようにして調整したウイルス懸濁液を、10センチプレート一枚分のHEK293細胞(5x106個)に添加して細胞を感染させ、ウイルスを増幅し、さらに15センチプレート4枚のHEK293細胞を用いてウイルスを大量調整後、アデノウイルス精製キット(クロンテック)を用いてウイルスを精製し、摂氏零下八十度で凍結保存した。ウイルスの力価(プラーク形成単位、plaque forming unit, PFU)については、24穴プレートに、一穴当たり、HEK293細胞を5x104個の濃度で播種し、段階希釈したウイルスを細胞に感染して、100%のCPEを示したウェルのウィルス力価を5x104として算出した。
【0137】
ヒト骨髄中より分離した単核球を低濃度血清培地により初代(第1継代)培養し、続いて浮遊している血球細胞と強固に接着しているマクロファージなどの骨髄球系細胞を除くため、第1〜3継代の低濃度血清培養した成体体性幹細胞へ、作製したSteroidogenic factor-1搭載アデノウイルスベクターを感染させることで、Steroidogenic factor-1遺伝子の導入を行った。なお、コントロール実験として、EGFPを搭載したアデノウイルスベクター(GFP recombinant adenovirus 、コスモバイオ、#ADV-004)の感染実験も併せて行った。
【0138】
アデノウイルスベクター感染前日に、骨髄液から樹立後2度のみ継代した成体体性幹細胞を96穴プレート(Falcon)に1穴あたり5000個の細胞数で播種した。これは、感染当日におおよそ90%から100%くらいの播種密度になる細胞数である。播種後、細胞を一晩、37℃、5% CO2の条件下で培養した。
【0139】
感染当日、大量調整後に−80℃で凍結保存しておいたSteroidogenic factor-1 もしくはEGFP遺伝子を搭載したアデノウイルスベクターを氷の上で融解し、幹細胞1細胞当たり2個もしくは5個のプラーク形成能のあるウイルス(2 pfu(plaque forming unit)または5 pfu)が感染する濃度(multiplicity of infection; m.o.i=2もしくは5)のウイルス液をPBSに希釈し調製した。感染時に用いるウイルス液の量は1穴あたり10μlを用いた。ウイルス液を氷上にて調整後、96穴に播種した成体体性幹細胞から培地を取り除き、用意したウイルス液を加え、室温で30分整置した。穴の中央部にある細胞が乾かないように、10-15分おきにプレートをゆっくりと揺らした。ただし、細胞が剥がれてしまう恐れがあるため、30分継続的に振とうすることは避けた。
【0140】
30分整置後、90μlの低濃度血清培地を添加し、成長因子(10 ng/ml PDGF-BB (ペプロテック)、10 ng/ml EGF (ペプロテック)、10 ng/ml IGF-1 (ペプロテック))を添加し、24時間、37℃、5% CO2の条件下で細胞を培養した。24時間後に低濃度血清培地(ダルベッコ変法イーグル培地-低グルコース-非含有フェノールレッド(シグマ、D5921)、10% FBS(チャコール・デキストラン処理済FBS; EQUITECH、lot.SFB31-158))100μlと交換した。つまり、ヒト骨髄細胞から単離された成体体性幹細胞に、非感染、コントロール用EGFP搭載ベクターもしくはSteroidogenic factor-1 搭載ベクターによるm.o.i=2及び5での感染という計5種類の処理を行った。
【0141】
感染後七日目に培養上清100μlを採取し、17β−エストラジオールLIAキット(IBL, RE62041)を用いて、上清中に細胞から産生された17β−エストラジオールの量を測定した。その結果、ウシSteroidogenic factor-1を導入した成体体性幹細胞では、17β−エストラジオールの産生が認められた。なお、実験では、各ウイルス及び薬剤の処理を2穴分ずつ行っており、得られた結果には、統計処理後の平均値を示してある。また、プロゲステロン産生についてもProgesterone LIAキット(IBL, E62021)を用いて同様の手法により測定し、Steroidogenic factor-1を導入した成体体性幹細胞ではプロゲステロン産生が認められた。これにより、成体体性幹細胞からのプロゲステロン産生についてもSteroidogenic factor-1により誘導されたことが確認された(図2)。
【0142】
比較例1.
なお、ヒト骨髄由来の成体体性幹細胞をヒトの骨髄由来間葉系幹細胞(CAMBREX、23歳女性由来 Lot#4F1560)に代えること以外前記実施例5と同様にして、17beta-Estradiolの産生を調べたところ、図3で示したように、Steroidogenic factor-1を誘導したのみでは、17β−エストラジオールの産生誘導はほとんど認められなかった。
【0143】
実施例6. レポーター系の実施(スクリーニング方法)
本発明で、ヒト骨髄細胞から単離された成体体性幹細胞の卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化能の評価系を確立するため、Steroidogenic factor-1とアロマターゼのレポーター系を用いて、それぞれのレポーター系がSteroidogenic factor-1の過剰発現により機能するかについて検討を行った。まず、ルシフェラーゼ遺伝子をコードしたpMxs-puroベクター(東大医科学研究所北村俊雄教授より供与)の3'LTR領域の一部を欠損させて、レトロウイルスベクターの持つプロモーター活性を不活性化したもの(pMxs-SIN-puro:配列番号:2)に、配列番号:3で表されるヒトSteroidogenic factor-1のプロモーター配列を逆向きに搭載したもの、及び、配列番号:4で表されるヒトアロマターゼのプロモーター配列を逆向きに搭載したベクターを作成した。
【0144】
また、Steroidogenic factor-1及びアロマターゼのプロモーター系は、転写因子Steroidogenic factor-1により活性化されることが知られているため(Nomura M他 J Biol Chem. 1996 Apr 5;271(14):8243-9.;Mendelson CR他、J Steroid Biochem Mol Biol. 2005 May;95(1-5):25-33)、pMxs-puroベクターにウシSteroidogenic factor-1 遺伝子を搭載した発現ベクターを作成し、Steroidogenic factor-1及びアロマターゼレポーター系の活性化を惹起する刺激剤として用いた。
【0145】
これらのレポータープラスミドおよびSteroidogenic factor-1の発現ベクターを用いて、23歳女性の骨髄液から樹立後1度のみ継代した成体体性幹細胞でのレポーターアッセイを行った。
成体体性幹細胞への遺伝子導入については、Microporator MP-100(Digital Bio)を用いた。
【0146】
レポータープラスミド及びウシSteroidogenic factor-1 遺伝子発現ベクターを構築後、3x105個の成体体性幹細胞に、1.5μgのpMx-puro-ウシSteroidogenic factor-1 もしくは、pMx-puroベクターに、0.6μgのpGL4.20ベクターにそれぞれSteroidogenic factor-1 プロモーターおよびアロマターゼプロモーター配列を逆向きに搭載したプロモーターレポーターコンストラクト、および180 ngの内部標準用のpRL-CMVを加え、36μlのResuspension Buffer Rを加えてピペットマンを用いて十分に懸濁後、そのうち三分の一量をGold-TipMP-K10にとり、Electrolytic Buffer Eを十分量(約3 ml)加えたマイクロポレーションチューブMPT-100内にセットして、エレクトロポレーションを行った。その後、MAPC培地(培地の組成は前述のとおり)500 μlにサンプルを再懸濁して、24穴プレート1穴に播種した。残った細胞とDNAの懸濁液についても同様の処置を行い、計3回、同じサンプルでのエレクトロポレーションを行った。
【0147】
エレクトロポレーションの条件としては、パルスボルテージ990 V、パルス幅40 msにて一度のパルスを行った。細胞は、24穴に播種後、5% CO2下で、37℃で培養した。
15時間後、培地を取り除き、MAPC培地(培地の組成は前述のとおり)を添加し、最終的に、Steroidogenic factor-1 レポーター系にコントロールベクターpMx-puroのみ、またはpMx-puro-ウシSteroidogenic factor-1を加えたもの、及び、アロマターゼレポーター系にコントロールベクターpMx-puroのみ、またはpMx-puro-ウシSteroidogenic factor-1を加えたものの、計4種類の処置を施した。24時間、5% CO2下で、37℃で培養後、Dual-Glo Luciferase Assay System (プロメガ)を用いて、レポーター遺伝子であるルシフェラーゼの活性を測定した。
【0148】
詳細については以下のとおりである。まず、細胞より培養液を取り除き、100μlのDual-Glo Luciferase Reagent(ホタルルシフェラーゼの基質を含む細胞溶解液)を添加後、ピペット操作により細胞を十分溶解した後、総量を5 ml (75 mm x直径12 mm)のチューブ(Sarstedt)に移して、Lumat LB9507 (EG&G Berthold)を用いて、ホタルルシフェラーゼの活性を測定後、100μlのDual-GloStop & Glo Reagent(ホタルルシフェラーゼによる発光を瞬時に抑え、ウミシイタケルシフェラーゼの基質として機能)を加えて、よく攪拌し、10分後に内部標準値を得た。ホタルルシフェラーゼ活性の値をウミシイタケルシフェラーゼ活性のデータで補正した。結果、Steroidogenic factor-1 レポーター系も、アロマターゼレポーター系も、いずれも、Steroidogenic factor-1遺伝子の導入により、活性化することが認められた。
【0149】
以上により、本発明において、成体体性幹細胞でSteroidogenic factor-1とアロマターゼ遺伝子のレポーターアッセイ系を確立させたことを証明した(図4)。
【0150】
さらに、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーターレポーター系及び黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーターレポーター系についても同様の検討を行った。配列番号:5で示される卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター配列及び配列番号:6で示される黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター配列をそれぞれルシフェラーゼ遺伝子を搭載したレポーターアッセイ用ベクターpGL4.20(プロメガ)に挿入し、Steroidogenic factor-1の発現ベクターと共に用いて、23歳女性の骨髄液から樹立後2度のみ継代した成体体性幹細胞で、前述したようなレポーターアッセイを行った。その結果、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーターレポーター系及び黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーターレポーター系についてもSteroidogenic factor-1遺伝子の導入により該アッセイ系が働くことを確認した(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】図1は、ヒト骨髄由来の成体体性幹細胞の表面抗原を、FITC標識した抗HLA class I抗体(ヒトの抗MHC class I抗体)で染色し、FACSで解析した結果を示す。その結果、間葉系幹細胞では陽性であるHLA class I(ヒトのMHC class I)が、本発明のヒト骨髄由来の成体体性幹細胞では陰性であることを確認した。P2は非特異抗体での染色領域であり、従って、P2に属する細胞はHLA class I陰性である。FITC-Aは蛍光強度を表わし、Countは細胞数を表わす。
【図2】図2は、ヒト骨髄由来の成体体性幹細胞にSteroidogenic Facotor-1遺伝子を導入後、17β-エストラジオールおよびプロゲステロンの産生量を測定した。図中、EGFPはEGFPを搭載したアデノベクターを感染した成体体性細胞を表し、bSF-1はウシSteroidogenic factor-1を導入した成体体性幹細胞を表し、そしてm.o.i.はmultiplicity of infectionを表す。Humun Bone marrow-Low serum cultured cells(P2)は、低濃度血清培地で培養されたヒト骨髄由来の第2継代成体体性幹細胞である。
【図3】図3は、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞にSteroidogenic Facotor-1遺伝子を導入後、17β−エストラジオールの産生量を測定した。図中、EGFPはEGFPを搭載したアデノベクターを感染した間葉系幹細胞を表し、bSF-1はウシSteroidogenic factor-1を導入した間葉系幹細胞を表し、そしてm.o.i.はmultiplicity of infectionを表す。
【図4】図4は、ヒト骨髄由来の成体体性幹細胞を用いて、Steroidogenic factor-1プロモーター・レポーター系(図中、SF-1 promoter/reporterと記載)、アロマターゼプロモーター・レポーター系(図中、aromatase promoter/reporterと記載)、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター・レポーター系(図中、FSHR promoter/reporterと記載)及び黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター・レポーター系(図中、LHR promoter/reporter記載)についての検証を行った。それぞれのレポーター系の刺激剤として、ウシSteroidogenic factor-1遺伝子発現ベクターを用いて、ウシSteroidogenic factor-1遺伝子を強制的に発現させた。 図中、pMxはSteroidogenic factor-1レポーター系にコントロールベクターpMx-puroのみを加えたものであり、pMx-bSF-1はSteroidogenic factor-1レポーター系にpMx-puro-ウシSteroidogenic factor-1を加えたものである。 LSC-P1は、低濃度血清培地で培養した第1継代成体体性幹細胞であり、LSC-P2は、低濃度血清培地で培養した第2継代成体体性幹細胞である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類から採取して無血清または低濃度血清培地で第1〜8継代されており、かつ転写因子Steroidogenic Factor-1 の発現を誘導することにより卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞に分化することを特徴とする成体体性幹細胞。
【請求項2】
幹細胞関連遺伝子の発現がMusashi-1陽性及びTERT陽性であるか、または表面抗原が MHC class I陰性である、請求項1に記載の成体体性幹細胞。
【請求項3】
低濃度血清が2%以下の濃度の血清である請求項1または2に記載の成体体性幹細胞。
【請求項4】
第1〜6継代培養されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項5】
更に、幹細胞関連遺伝子の発現がNanog陽性、Klf4陽性、CXCR4陽性、Nestin陽性、Oct4陽性またはSall4陽性である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項6】
哺乳類卵巣由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項7】
哺乳類骨髄由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項8】
哺乳類脂肪組織由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項9】
哺乳類筋肉組織由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項10】
哺乳類末梢血由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項11】
表面抗原がMHC class I陰性である、請求項2記載の成体体性幹幹細胞。
【請求項12】
前記哺乳類がヒトである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞。
【請求項13】
前記幹細胞関連遺伝子の発現がMusashi-1陽性及びNanog陽性である、請求項11または12記載の成体体性幹細胞。
【請求項14】
前記幹細胞関連遺伝子の発現がMusashi-1陽性及びTERT陽性である、請求項2記載の成体体性幹細胞。
【請求項15】
前記哺乳類がマウスである、請求項1〜10のいずれか1項または請求項14に記載の成体体性幹細胞。
【請求項16】
請求項12記載の成体体性幹細胞から分化誘導したヒト卵巣顆粒膜細胞。
【請求項17】
請求項12記載の成体体性幹細胞から分化誘導したヒト卵巣夾膜細胞。
【請求項18】
請求項16記載のヒト卵巣顆粒膜細胞と請求項17記載のヒト卵巣夾膜細胞を有効成分とする細胞治療剤。
【請求項19】
請求項16記載のヒト卵巣顆粒膜細胞と請求項17記載のヒト卵巣夾膜細胞がマイクロキャリアに接着されている、請求項18記載の細胞治療剤。
【請求項20】
前記マイクロキャリアがゼラチンである、請求項19記載の細胞治療剤。
【請求項21】
請求項12記載の成体体性幹細胞から転写因子 Steroidogenic Factor-1 を誘導発現せしめることを特徴とする請求項16記載のヒト卵巣顆粒膜細胞および/または請求項17記載のヒト卵巣夾膜細胞を製造する方法。
【請求項22】
前記転写因子Steroidogenic factor-1を誘導発現する方法が、転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子の全長cDNAを挿入したアデノウィルスベクター、レトロウィルスベクターまたはレンチウィルスベクターを請求項12記載の成体体性幹細胞に感染させる方法である、請求項21に記載の製造する方法。
【請求項23】
請求項12記載の成体体性幹細胞中に転写因子Steroidogenic factor-1の発現を誘導することにより卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞へ分化することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞の産生細胞。
【請求項24】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞を利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞あるいは卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【請求項25】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞とSteroidogenic Factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【請求項26】
前記成体体性幹細胞とSteroidogenic factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、Steroidogenic factor-1遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、請求項25記載の探索する方法。
【請求項27】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞とアロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【請求項28】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞とアロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、アロマターゼ遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、請求項27記載の探索する方法。
【請求項29】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞と卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【請求項30】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞と卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、請求項29記載の探索する方法。
【請求項31】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞と黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせて利用することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【請求項32】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞と黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター系を組み合わせる方法が、黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーター及びレポーター遺伝子を組み込んだアデノウィルスベクターを請求項1〜15のいずれか1項に記載の成体体性幹細胞へ感染させる方法である、請求項31記載の探索する方法。
【請求項33】
前記レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である、請求項26、28、30または32記載の探索する方法。
【請求項34】
請求項25に記載の探索する方法、請求項27に記載の探索する方法、請求項29に記載の探索する方法及び請求項31に記載の探索する方法のすべての方法において活性を有する分化誘導因子を探索することを特徴とする、卵巣顆粒膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【請求項35】
請求項25に記載の探索する方法及び請求項31に記載の探索する方法の両方の方法において、活性を有する分化誘導因子を探索することを特徴とする卵巣夾膜細胞への分化誘導因子を探索する方法。
【請求項36】
成体体性幹細胞以外の株化培養細胞に転写因子Steroidogenic factor-1遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞、成体体性幹細胞以外の株化培養細胞にアロマターゼ遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞、成体体性幹細胞以外の株化培養細胞に卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞、及び成体体性幹細胞以外の株化培養細胞に黄体形成ホルモン受容体遺伝子プロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだ細胞からなる群から選ばれた1または2以上の細胞を利用して卵巣顆粒膜細胞または卵巣夾膜細胞への分化を抑制または誘導する因子を予備的に選択し、該予備選択した因子を更に探索することを特徴とする請求項24〜35のいずれか1項に記載の探索する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−228632(P2008−228632A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71416(P2007−71416)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】