説明

厚み測定に基づくナビゲーション装置及び方法

【課題】 透明面や鏡面や光学的な不均一性を含む平滑面や不均一のない平滑面などの異なるタイプの面に関して正確にナビゲートできる方法及び入力システムを提供する。
【解決手段】 厚み測定に基づくナビゲーション装置及び方法が記述される。装置は、厚みセンサシステム及び処理システムを含む。厚みセンサシステム12は、多数の各厚み測定サイクル中、物体の表面内の6以上の位置において、物体の厚みの各測定値のセットを生成する。処理システム14は、厚み測定値のセットのうちの1つから、物体に関する移動を示す移動測定値を生成する。方法に従って、多数の各厚み測定サイクル中、物体の表面内の6以上の位置において、物体の厚みの各測定値のセットが生成される(ステップ32)。物体に関する移動を示す移動測定値が、厚み測定値のセットのうちの1つから生成される(ステップ34)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
計算機にコマンドを入力するために、多くの異なるタイプのデバイスが開発されている。一般に、入力デバイスを操作することによって命令及び/又はデータをコンピュータに入力するために、例えば、コンピュータマウスやジョイスティックやトラックボールやタッチパッドやキーボードなどの手操作用の入力デバイスが使用されている。ユーザは、このような入力デバイスによって、例えば、コンピュータスクリーンを横切るカーソルなどの仮想ポインタの移動の制御と、コンピュータスクリーンに表示されたアイコン又はその他の仮想オブジェクトの選択又は移動と、異なる入力コマンドに対応するメニュー項目の開閉とが可能となる。入力デバイスは、デスクトップコンピュータシステムとポータブル計算システムとの両方に共通して使用される。
【背景技術】
【0002】
入力デバイスは、一般に、例えば、カーソル位置データやスクロール位置データや距離データなどのユーザインタフェース制御信号にユーザ入力を変換するためのメカニズムを含む。幾つかのタイプの入力デバイスは、入力デバイスのユーザ操作をユーザインタフェース制御信号に変換するために、電気機械式変換器を使用するが、最近開発された入力デバイスは、入力デバイスのユーザ操作をユーザインタフェース制御信号に変換するために光学ナビゲーションセンサを使用する。光学ナビゲーションセンサは、表面イメージのシーケンスを取得し、このイメージ内の対応する特徴との比較から、表面にわたった方向及び移動の大きさを数学的に決定することによって、位置変化を測定する光学ナビゲーション技術を適用する。そのような光学ナビゲーションシステムは、一般に、イメージ内で取得された検出済ピクセル毎の表面反射率差に基づいて、入力デバイスのスキャン経路を追跡する。これら反射率における変化は、表面媒体によってごく僅か(例えば、白い紙の場合6%のオーダ)であり得る。
【0003】
既存の光学ナビゲーションセンサに関する1つの問題は、例えば、ガラスのような非常に滑らかな表面上ではうまくナビゲートできないことである。なぜなら、そのような表面から反射されたイメージは十分ではなく、表面にわたった方向や移動の大きさが高い信頼性で決定されるものとは異なっているからである。この問題を解決するために、コヒーレントな光で滑らかな表面の物体を照らす光学ナビゲーションセンサが提案された。物体内又は物体上における光学的不均一性は、干渉光学ナビゲーションセンサによって検出可能な照明光における位相変化を引き起こす。この種の光学ナビゲーションセンサは、位相パターンを、物体に関する相対的な移動を決定するために使用される干渉パターン(又はインターフェログラム)に変換する干渉計を含む。このアプローチは、反射面、均一面、及び浅い特徴を備えた面に対するナビゲーション性能を改良するが、このアプローチは、構成要素である干渉計によってインターフェログラムに変換される位相パターンを生成するために、例えば、表面内又は表面上における引っ掻き傷や欠陥や微粒子などの光学的不均一性に依存する。その結果、このアプローチは、そのような特徴がない表面に関しては高い信頼性でナビゲートすることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
必要とされるものは、透明面や、鏡面や、光学的な不均一性を含む平滑面や、不均一のない平滑面などの異なるタイプの面に関して正確にナビゲートできる方法及び入力システムである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様では、本発明は、厚みセンサシステム及び処理システムを含む装置を特徴とする。厚みセンサシステムは、多数の各厚み測定サイクル中、物体の表面内の6以上の位置において、物体の厚みの各測定値のセットを生成する。処理システムは、厚み測定値のセットのうちの1つのセットの厚み測定値から、物体に関する移動を示す移動測定値を生成する。
【0006】
1つの態様では、本発明は、物体の厚みの各測定値のセットが、多数の各厚み測定サイクル中、物体の表面内の6以上の位置において、物体の各厚み測定値が生成される方法を特徴とする。物体に関する移動を示す移動測定値は、厚み測定値のセットのうちの1つのセットの厚み測定値から生成される。
【0007】
本発明の他の特徴および利点が、図面及び特許請求の範囲を含む以下の説明から明白になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下の説明では、類似の要素を識別するために類似の参照番号が使用される。更に、これら図面は、図解的な方式により、典型的な実施形態の主要な特徴を例示することを意図している。これらの図面は、実際の実施形態の全ての特徴を示すようにも、図示する要素の相対的な寸法を示すようにも、そして、スケールするように書かれることも意図されていない。
【0009】
I.概説
図1は、厚みセンサシステム12及び処理システム14を含むナビゲーション装置10の実施形態を示す。以下に詳述するように、ナビゲーション装置10は、厚み測定値に基づいて、物体に関しナビゲートできる。このように、ナビゲーション装置は、その厚みを測定することが可能な任意のタイプの物体に関しナビゲートできる。この物体は、例えば、表面不均一及び/又は体積不均一のない平滑面を備えた透明な物体のように、従来の光学ナビゲーション技術を用いてナビゲートすることが困難である物体を含む。例示的な目的のために、ナビゲーション装置10の動作は、本明細書では、平滑な正面18及び背面20を有する物体16に関して説明される。
【0010】
一般に、ナビゲーション装置10は、検知動作又は検知位置が有用な目的として適する任意のタイプのデバイス又はシステムへと組み込まれ得る。例示的な目的のために、本明細書では、ナビゲーション装置10は、計算機にコマンドを入力するためのデバイスの構成要素として記載されている。入力デバイスは、コンピュータマウスやジョイスティックやトラックボールやハンドルコントローラを含む種々異なる形態のファクタのうちのいずれかを有し得る。これらの実装においては、ナビゲーション装置10は、(例えば、タッチパッド、トラックボール、又はジョイスティックなどの)入力デバイスの構成要素のうちのユーザ操作、又は、入力デバイス自身の操作(例えば、表面にわたる入力デバイスの移動)を検知するように構成され得る。
【0011】
図1に示す例示的な動作環境では、ナビゲーション装置10は、ディスプレイ26を駆動するディスプレイコントローラ24へディスプレイ制御信号22を出力する。ディスプレイ制御信号22は、一般に、厚みセンサシステム12によって生成される厚み測定値28から導かれる移動測定値の形態をとる。この移動測定値は、一般に、位置パラメータ値と、変位パラメータ値と、速度パラメータ値と、加速度パラメータ値とのうちの1つ以上に相当する。ディスプレイコントローラ24は、例えば、ディスプレイ26上におけるポインタ30の動きを制御するためにディスプレイ制御信号22を処理する。ディスプレイコントローラ24は、一般に、ディスプレイ制御信号22を処理するために、ドライバを実行する。一般に、ドライバは、デジタル電子回路、又はコンピュータハードウェア、ファームウェア、又はソフトウェアを含む任意の計算又は処理環境で実現され得る。幾つかの実施形態では、ドライバは、オペレーティングシステム又はソフトウェアアプリケーションプログラムの構成要素である。ディスプレイ26は、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)やプラズマディスプレイやELディスプレイ(エレクトロルミネセンスディスプレイ)やFED(フィールドエミッションディスプレイ)などのフラットパネルディスプレであり得る。
【0012】
幾つかの実施形態では、ナビゲーション装置10及びディスプレイ26は、個別のポインティングデバイスや遠隔ディスプレイベースシステムなどの分離した個別のデバイスとして実現される。これらの実施形態では、遠隔システムは、汎用コンピュータシステムと専用コンピュータシステムとビデオゲームシステムとを含む、ユーザ入力を受信する任意のタイプのディスプレイベースの装置であり得る。ディスプレイ制御信号22は、有線通信リンク(例えば、RS−232シリアルポート、ユニバーサルシリアルバス、又はP5/2ポートなどのシリアル通信リンク)、又は、無線通信リンク(例えば、赤外線(IR)無線リンク又はラジオ周波数(RF)無線リンク)によって遠隔システムへ送信され得る。他の実施形態では、ナビゲーション装置10及びディスプレイ26は、ポータブル(例えば、ハンドヘルド)電子デバイスなどの単一のユニタリデバイスへ統合される。ポータブル電子デバイスは、人によって容易に運搬される任意のタイプのデバイスであり、セルラ電話とコードレス電話とページャとパーソナルデジタルアシスタント(PDA)とデジタルオーディオプレーヤとデジタルカメラとデジタルビデオゲームコンソールとを含む。
【0013】
図2は、図1に示すナビゲーション装置10によって実現されるナビゲーション方法の実施形態のフロー図を示す。
【0014】
この方法によれば、厚みセンサシステム12は、多数の各厚み測定サイクル中、物体16の正面18内の6以上の位置において、物体16の厚み測定値28の各セットを生成する(図2のブロック32)。一般に、厚み測定値28は、光学厚み測定処理及び非光学厚み測定処理を含む任意の種類の非接触厚み測定処理に従って生成され得る。典型的な光学厚み測定処理は、三角測量と焦点深度とモアレ縞と干渉分析(interferometry)とに基づくものである。典型的な非光学厚み測定処理は、物体の正面18と背面20との間の超音波エコーの時間遅れに基づいて厚みを測定する超音波処理と、渦電流又は磁束密度の測定に基づく磁気厚み測定処理とを含む。
【0015】
処理システム14は、厚み測定値28のセットのうちの1つから、物体16に関する移動を示す移動測定値を生成する(図2のブロック34)。以下に詳細に説明するように、幾つかの実施形態では、処理システム14は、少なくとも2方向において、物体表面18における2以上の位置において、物体16の厚みの傾斜の推定値から、移動測定値を生成する。処理システム14は、物体表面18における2以上の位置において測定された厚みの変化と、厚み傾斜推定値とに基づいて、1つの測定サイクルから次の測定サイクルへのナビゲーション装置10の変位量を決定する。幾つかの実施形態では、処理システム14は、測定サイクルレート(すなわち、厚み測定サンプリングレート)を変位量測定値に乗じることによって、ナビゲーション装置の速度を決定する。
【0016】
処理システム14は、どのような特定のハードウェア又はソフトウェア構成にも限定されない1以上の個別のモジュールによって実現され得る。この1以上のモジュールは、デジタル電子回路(例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)などの特定用途向け集積回路)、又はコンピュータハードウェア、ファームウェア、デバイスドライバ、又はソフトウェアを含む任意の計算又は処理環境により実現され得る。
【0017】
幾つかの実現では、処理システム14のモジュールを実施するためのコンピュータ処理命令と、これらモジュールによって生成されたデータとが、1以上の機械読み取り可能な媒体内に格納される。これらの命令及びデータを明確に組み込むのに適した記憶デバイスは、例えば、EPROMやEEPROMやフラッシュメモリデバイスなどの半導体メモリデバイスと、内部ハードディスクやリムーバブルディスクや光磁気ディスクやCD/DVD−ROMなどの磁気ディスクを含む全ての形態の非揮発性メモリとを含む。
【0018】
II.ナビゲーション装置の典型的な実施形態
A.典型的な厚みセンサシステム実施形態
図3は、厚みセンサシステム12及び処理システム14の実施形態44を含むハウジング42を含むナビゲーション装置10の実施形態40を示す。ハウジング42は、物体16(例えばガラス基板)の正面18にわたってスライドするように構成されたボトムサイド46を更に含む。この点に関して、ボトムサイド46は、1セットのスライダ50、52、54、56をサポートする。これらは、低摩擦面を有し、正面18にわたったスライドを容易する。厚みセンサシステム44は、6つの厚みセンサ58、60、62、64、66、68を含む。これらは、ハウジング42内の基板48上の同一平面上にある。
【0019】
幾つかの実施形態では、厚みセンサは、第1の測定グループと第2の測定グループとの少なくともいずれかに配置されている。第1の測定グループと第2の測定グループとは、互いに分離しており、少なくとも3つの厚みセンサのセットをそれぞれ含む。各測定グループにおける厚みセンサは、各厚み測定サイクル中、物体表面におけるそれぞれ異なる非同一直線上の位置において、厚み測定値をそれぞれ生成する。これらの実施形態のうちの幾つかでは、第1の測定グループにおける厚みセンサのうちの少なくとも2つは、第1の座標軸と平行な線に沿った同一直線上にあり、第1の測定グループにおける厚みセンサのうちの少なくとも2つは、第1の座標軸とは異なる第2の座標軸と平行な線に沿った同一直線上にある。更に、第2の測定グループにおける厚みセンサのうちの少なくとも2つは、第1の座標軸と平行な線に沿った同一直線上にあり、第2の測定グループにおける厚みセンサのうちの少なくとも2つは、第2の座標軸と平行な線に沿った同一直線上にある。一般に、第1の座標軸と第2の座標軸とは、平行ではない任意の方向に沿って向けられ得る。幾つかの実施形態では、第1の座標軸と第2の座標軸とは直交している。
【0020】
図3及び図5に示す実施形態では、厚みセンサ58〜68は、分離された第1の測定グループ90と第2の測定グループ92とに構成されている。第1の測定グループは厚みセンサ58〜62から成り、第2の測定グループ92は厚みセンサ64〜68から成る。グループ90、92のそれぞれの厚みセンサは、厚み測定サイクル中、物体16の正面18内のそれぞれ異なる非同一直線上の位置において厚み測定値をそれぞれ生成する。この点に関し、第1の測定グループ90における厚みセンサ58、60は、第1の座標軸(すなわちu軸)に平行な線に沿った同一直線上にあり、第1の測定グループ90における厚みセンサ58、60は、第1の座標軸と直交する第2の座標軸(すなわちv軸)に平行な線に沿った同一直線上にある。同様に、第2の測定グループ92における厚みセンサ64、66は、u軸と平行な線に沿った同一直線上にあり、第2の測定グループ92における厚みセンサ64、68は、v軸と平行な線に沿った同一直線上にある。
【0021】
図4に示すように、厚みセンサ58〜68は、厚みセンサ間の固定間隔を保って基板48に搭載される。厚みセンサ58と厚みセンサ60とは距離d1だけ離れており、厚みセンサ58と厚みセンサ62とは距離d2だけ離れており、厚みセンサ64と厚みセンサ66とは距離d3だけ離れており、厚みセンサ64と厚みセンサ68とは距離d4だけ離れている。一般に、隔離された距離d1,d2,d3,d4は、同じ値あるいは異なる値を有し得る。例示した実施形態では、隔離された距離d1,d2,d3,d4は、全て同じ値(つまりd1=d2=d3=d4)である。
【0022】
B.厚み測定値から移動測定値を決定する典型的なローカル近似ベースの方法
幾つかの実施形態では、処理システム14は、与えられた測定サイクル中、サンプリングポイント(すなわち、厚み測定が行われる正面18上の位置)のうちの少なくとも2つの近傍における正面18上の位置(x,y)の関数として、物体16の表面厚み関数h(x,y)のローカル近似に基づいて移動測定値を決定する。厚みセンサが、異なる測定グループへ分割される実施形態では、物体厚みの各ローカル近似が、各測定グループにおいて対応する厚みセンサによって測定される少なくとも1つのサンプリングポイントのために決定される。
【0023】
一般に、処理システム14は、ゼロ次関数情報に基づく近似、1次関数情報に基づく近似、高次関数情報に基づく近似を含む任意のタイプのローカル近似を使用し得る。幾つかの実施形態では、これらのローカル近似は、厚み関数h(x,y)のテイラー級数展開に基づく。これらの実施形態のうちの幾つかでは、処理システム14は、以下のようなテイラー級数に基づく線形近似
【数1】

を用いて、厚み関数h(x,y)を近似する。
【数2】

ここで、(x0,y0)は、第1の測定サイクル中にサンプリングされた最初のポイントの位置であり、(x,y)は、第2の測定サイクル中にサンプリングされた第2のポイントの位置である。この式では、x座標軸及びy座標軸は、ナビゲーション装置における厚みセンサの位置によって定義されたu座標軸及びv座標軸に対応する。例示した実施形態では、センサの座標軸(すなわちu軸及びv軸)と、ナビゲーション装置10の移動の座標軸とは同じである。他の実施形態では、u−v座標系とx−y座標系とは、互いに関してゼロではない角度に向けられ得る。更に、u−v座標軸は、それらが平行ではない限り、互いに関して任意の角度に向けられ得る。例えば、u−v座標軸は、図4に示すように、互いに直交しているか、あるいは、ゼロより大きい直交ではない角度に向けられ得る。
【0024】
処理システム14は、2つの異なる測定サイクル中に得られる厚み測定値に基づいて、変位パラメータ(x−x0)及び(y−y0)に対する値を決定する。この処理では、x方向及びy方向に従う厚み関数h(x,y)の第1の導関数が、隣接する厚みセンサを分離する既知の距離によって区分される厚みセンサのうちの隣接するもの同士の間の差分によって線形近似される。ナビゲーション装置40に関し、厚みセンサ58(センサ1)の位置の投影図に対応する位置(x1,y1)における第1の導関数は、
【数3】

によって与えられる。ここでHiは、第1の測定サイクル中にセンサiによって測定された厚みである。同様に、厚みセンサ64(センサ3)の位置の投影図に対応する位置(x3,y1における第1の導関数は、
【数4】

【数5】

によって与えられる。
【0025】
方程式(1)〜(5)は、2つの変位パラメータ値の関数
【数6】

及び
【数7】

である2つの線形方程式からなる以下の系を得るために結合される。
【数8】

ここで、
【数9】

は、次の測定サイクル中、センサ1によって測定される厚みであり、
【数10】

は、次の測定サイクル中、センサ3によって測定される厚みである。処理システム14は、任意の1つの方法又はクラメールの公式を含む種々様々な方法を用いて、変位パラメータΔx及びΔyの値を決定し得る。
【0026】
処理システム14は、決定した変位パラメータ値に基づいて、物体16に関するナビゲーション装置の相対的な位置変化に対応する幾つかのディスプレイ制御信号22のうちの1つを生成し得る。上述したように、処理システム14の幾つかの実施形態は、変位パラメータ値に、測定サイクルレート(すなわち、厚み測定サンプリングレート)を乗じることによって、ナビゲーション装置の速度を決定する。
【0027】
C.典型的な位置マップベースのナビゲーション装置
幾つかの実施形態では、処理システム14は、上述した実施形態に従って決定された移動測定値に基づいて、物体16に関する位置座標のセットを決定する。この点において、処理システム14は、ナビゲーション装置の初期スタートアップ位置に対応しているか、又は、物体16の正面18から持ち上げられた後に戻されるナビゲーション装置の初期位置に対応している起点位置に関する位置座標を決定する。現在の位置座標x(n),y(n)は、現在の測定サイクルn中、指定された起点に関する物体16の正面18におけるナビゲーション装置の位置をそれぞれ表している。現在の位置座標の各セットは、一般に、式(8)及び式(9)に従って、前の測定サイクル(n−1)中に決定された前の位置座標x(n−1),y(n−1)からの変位から決定される。
【数11】

【0028】
幾つかの実施形態では、処理システム14は、記録された位置座標と、関連する厚み測定値からディスプレイ制御信号22を生成するために使用できる位置マップとを生成する。この位置マップは、処理システム14によって移動測定値から決定されるものであり、各測定サイクル中、厚みセンサによって生成された厚み測定値のセットのうちの対応する1つから導かれる厚み値の各セットによってインデクスされる位置座標x,yを含むデータ構造である。
【0029】
図5は、各位置座標位置(xi,yj)が、それぞれのベクトル
【数12】

によってインデクスされる位置マップ94の実施形態を示す典型的な表である。ここで、i及びjは、x及びyのためのx位置座標位置及びy位置座標位置をインデクスする正の整数であり、kは、位置マップ94を生成するためにその測定値が使用される厚みセンサの数に対応する正の整数である。一般に、kは、ナビゲーション装置における厚みセンサの合計数以下である。
【0030】
図6は、位置マップ94を生成するために処理システム14の実施形態によって実行される方法を示す。
【0031】
この方法に従って、処理システム14は、測定サイクルnについて、厚み測定値の現在のセット{hp(xi,yj,n)}を得る。ここで、pは、厚みセンサインデクスに対応する正の整数値を持つ(図6のブロック96)。処理システム14は、前のセクションで記載した実施形態に従って、現在の移動測定値を決定する(図6のブロック98)。そして、処理システム14は、式(8)及び式(9)に関連して上述した処理に従って、現在の移動測定値から、ナビゲーション装置の現在位置(xi,yj)を決定する(図6のブロック100)。
【0032】
現在位置(xi,yj)が、位置マップ94における位置のうちのいずれにも一致しないのであれば(図6のブロック102)、処理システム14は、厚み測定値の現在のセット{hp(xi,yj,n)}に対応する厚みベクトル
【数13】

に関連する位置マップ94に、現在位置(xi,yj)を加える(図6のブロック104)。
【0033】
現在の位置座標が、位置マップ94内の位置(xi,yj)と一致するのであれば(図6のブロック102)、処理システム14は、現在位置(xi,yj)に関連する厚みベクトル
【数14】

を更新する(図6のブロック106)。幾つかの実施形態では、処理システム14は、前の測定サイクル中に生成され、かつ、同じ位置座標(xi,yj)を有すると判定された厚み測定値のセットの重み付けられた組み合わせから、現在の測定サイクルn中の各ベクトル
【数15】

における厚みパラメータの値を導く。これらの実施形態のうちの幾つかでは、処理システム14が、現在の厚みパラメータ値gp(xi,yj,n)
【数16】

を生成するために、式(10)に従って、厚みパラメータ値gp(xi,yj,n−1)を更新する。ここで、pは、位置座標(xi,yi)において、前の測定サイクル(n−1)中の現在の厚み測定値hp(xi,yj,n)と厚みパラメータ値gp(xi,yj,n−1)との間の差分に加えられる重みに対応する厚みセンサインデクスαnに対応する正の整数値である。ナビゲーション装置が、測定サイクルn中、位置座標(xi,yj)における厚み測定値を生成しないのであれば、値gp(xi,yj,n−1)は更新されない。幾つかの実施形態では、重みαnは、測定サイクル数とともに減少する。なぜなら、現在のオリジナルが選択されたからである。
【0034】
結果として得られる位置マップ94によって、処理システム14は、物体16に関連するナビゲーション装置の位置と、ディスプレイ26上の座標との間の1対1のマッピングを決定することが可能となる(図1を参照)。このように、ナビゲーション装置は、ナビゲーション装置の絶対的な位置に基づいて、制御信号を表示するように構成され得る。位置マップ94は、絶対的な位置座標間の差分に基づいて、相対的な移動測定値を決定するためにも使用され得る。
【0035】
幾つかの実施形態では、処理システム14は、現在の厚みマップが生成され、同じナビゲーション面上の新たな位置に移動されるか、又は、別のナビゲーション面に移動されるために、ナビゲーション装置がナビゲーション面から持ち上げられたとの判定に応じて、厚みマップをリセットする。
【0036】
ナビゲーション装置がナビゲーション面から持ち上げられ、同じナビゲーション面上の新しい位置へ移動された場合には、処理システムは、ナビゲーション装置が新たな位置に初めに配置された位置として、新たな厚みマップの起点を再定義する。幾つかの実施形態では、この新たな起点位置が、前の厚みマップにおける識別可能な位置に対応するのであれば、処理システム14は、この新たな起点位置に関して、前の厚みマップの少なくとも一部を解釈するように動作可能であり、そのため、前の厚みマップの解釈された部分における位置座標を再計算する必要がなくなる。
【0037】
ナビゲーション装置が別のナビゲーション面に移動した場合には、処理システム14は、現在のナビゲーション面の新たな厚みマップを決定する。ナビゲーション装置が新たなナビゲーション面に初めに配置された場所に、新たな厚みマップの起点が置かれる。これらの実施形態のうちのいくつかでは、処理システム14が、別のナビゲーション面のためにそれぞれ異なる厚みマップを格納する。
【0038】
ユーザは、ボタンに圧力を加える(図及び番号を書く)か、又は、ソフトウェアを用い、対応する命令を提供することによって、厚みマップをリセットするように処理システム14に指示することもできる。
【0039】
D.厚み測定値から移動測定値を決定する典型的な位置マップベースの方法。
【0040】
幾つかの実施形態では、一旦、全ての厚みパラメータ値gp(xi,yj)の変化が集まると(例えば、連続的に更新値がしきい値よりも低く下がった結果生じた変化の後)、処理システム14は、図6に示すような位置マップ構築処理を中止する。この点では、処理システム14は、結果として生じた位置マップ94を用いて、上述したように移動測定値を判定するローカル近似ベースの方法に基づいて、ナビゲーションを補完又は交換する。
【0041】
図7は、位置マップ94内にインデクスされた位置座標に基づいてディスプレイ制御信号22を生成するために、ナビゲーション装置によって実行されるナビゲーション方法の実施形態を示す。
【0042】
この方法に従って、処理システム14は、測定サイクルnのため、現在の厚み測定値のセット{hp(n)}を取得する。ここで、pは、厚みセンサインデクスに対応する正の整数値を有する(図7のブロック110)。処理システム14は、現在の厚み測定値のセット{hp(n)}と、位置マップ94における厚みベクトル
【数17】

のうちのそれぞれのセットとの間の相関を測定する(図7のブロック112)。
【0043】
一般に、現在の厚み測定値のセット{hp(n)}と、厚みベクトル
【数18】

のセットとの間の相関を測定するために、種々異なるベクトル相関方法のうちのいずれかが使用される。幾つかの実施形態では、処理システム14は、現在の厚み測定値のセット{hp(n)}と、数式(11)
【数19】

によって定義されるタイプのベクトルノルムfL(xi,yj)のうちの1つに対応する各厚みベクトル
【数20】

との間の距離を判定する。ここで、Lは、ベクトルノルムのタイプを指定する正の整数に対応する。L=1のベクトルノルムは、一般に、L1−normと称され、L=2のベクトルノルムは、一般に、L2−normと称される。これらの実施形態のうちの幾つかでは、相関属性は、指定されたしきい値未満であるベクトルノルム値fL(xi,yj)に対応する。
【0044】
位置マップ94における幾つかの厚みベクトル
【数21】

と、現在の厚み測定値のセット{hp(n)}との間の相関が、いずれも指定された相関属性を満足しない場合には(図7のブロック114)、処理システム14は、前の測定サイクルにおいて出力されたものと同じ移動測定値を出力する(図7のブロック116)か、又は、面厚み関数近似から導出された移動測定値を出力する。
【0045】
現在の厚み測定値のセット{hp(n)}と、位置マップ94における幾つかの厚みベクトル
【数22】

のうちの少なくとも1つとの相関が、指定された相関属性を満足する場合には(図7のブロック114)、処理システム14は、現在の厚み測定値のセット{hp(n)}と最も高い相関を有する厚みベクトルに関連する位置座標から導出される移動測定値を出力する(図7のブロック118)。図8に示す例示的な例では、処理システム14は、厚みベクトル
【数23】

が現在の厚み測定値のセット{hp(n)}と最も高い相関を有することを判定した後、位置座標(0,1)から導かれる移動測定値を出力する。
【0046】
一般に、処理システム14は、物体16に関するナビゲーション装置の絶対位置を記述するか、又は、物体16に関するナビゲーション装置の相対移動を記述する移動測定値を決定することができる。この絶対位置は、位置テーブル94内の位置座標に対応する。これら位置座標は、タブレットベースのナビゲーションに類似した方法により、物体16に関するナビゲーション装置の移動における1対1の対応を確立するために使用され得る。相対移動を記述する移動測定値は、ナビゲーション装置の現在の絶対位置と、ナビゲーション装置の前の絶対位置との間の差分から導かれ得る。これらの移動測定値は、従来の光学式及びトラックボール式のコンピュータマウスナビゲーション方法に類似した方法により、相対位置ナビゲーションを実行するために使用され得る。
【0047】
III.結論
本明細書に記載されたナビゲーション装置及び方法は、物体の厚みの測定値に基づいて、物体にわたるナビゲーションを可能にする。このようにして、これらの実施形態は、従来の光学ナビゲーション技術を用いることによってナビゲートすることが困難な不均一性のない平滑面を有する透明な物体などの物体を含む、その厚みが測定可能な任意のタイプの物体にわたるナビゲーションを可能にする。
【0048】
他の実施形態は、特許請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】典型的な動作環境における厚みセンサシステムと処理システムを含むナビゲーション装置の実施形態のブロック図である。
【図2】ナビゲーション方法の実施形態のフロー図である。
【図3】図1に示すナビゲーション装置の実施形態のブロック図である。
【図4】第1及び第2の測定グループ内に構成された6つの厚みセンサを含む厚みセンサシステムの実施形態の概略平面図である。
【図5】位置マップの実施形態の表である。
【図6】位置マップの実施形態を生成する方法の実施形態のフロー図である。
【図7】ナビゲーション方法の実施形態のフロー図である。
【図8】位置座標のセットと関連する厚み値のセットとが強調された、図5に示す位置マップを示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の厚み測定サイクルのそれぞれの間、物体の表面内の6以上の位置において、前記物体の各厚み測定値のセットを生成するように動作可能な厚みセンサシステムと、
前記厚み測定値のセットのうちの1つのセットの厚み測定値から、前記物体に関する移動を示す移動測定値を生成するように動作可能な処理システムと
を備えてなる装置。
【請求項2】
前記厚みセンサシステムは、各セットにおける前記厚み測定値を同時に生成するものである請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記厚みセンサシステムは、前記各測定サイクル中、前記物体の面内の位置のうちのそれぞれ1つにおいて、前記厚み測定値のうちのそれぞれを生成するように各々が動作可能な少なくとも6つの厚みセンサを備えている請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記厚みセンサは、少なくとも第1の測定グループと第2の測定グループとの中に構成され、前記第1の測定グループと前記第2の測定グループとは、互いに分離しており、前記各厚み測定サイクル中、前記物体の面内の、それぞれ異なる同一直線上ではない位置において各厚み測定値を生成するように動作可能な厚みセンサのうちの少なくとも3つを含むセットをそれぞれ備えている請求項3に記載の装置。
【請求項5】
基板を更に備え、前記第1及び第2の測定グループにおける厚みセンサは、前記基板上の同一平面上にあることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の測定グループ内の厚みセンサのうちの少なくとも2つは、第1の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にあり、前記第1の測定グループ内の前記厚みセンサのうちの少なくとも2つは、前記第1の座標軸と直交している第2の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にあり、
前記第2の測定グループ内の前記厚みセンサのうちの少なくとも2つは、前記第1の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にあり、前記第2の測定グループ内の前記厚みセンサのうちの少なくとも2つは、前記第2の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にあることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記処理システムは、前記測定サイクルのうちの第1の測定サイクルの間に生成された2つのセットの厚み測定値同士の差分を判定するように動作可能であり、前記処理システムは、前記判定された差分から、前記移動測定値の1つを生成し、前記第1の測定サイクルとは異なる前記測定サイクルの第2の測定サイクルの間に生成された前記厚み測定値の1つのセットの厚み測定値を生成するように動作可能である請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記処理システムは、前記移動測定値に基づいて、前記物体に関する位置座標を決定するように動作可能である請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記処理システムは、前記厚みセンサシステムによって生成された厚み測定値のセットのうちのそれぞれ1つから導かれる厚み値の各セットによってインデクスされた位置座標のうちの1つを備える位置マップを生成するように動作可能である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記処理システムは、厚みセンサシステムによって生成された各厚み測定値のセットを備えた前記位置マップにおける厚み値のセットのうちの対応するものの間の相関から、前記位置座標のうちの1つを識別するように動作可能であり、前記処理システムは、前記識別された位置座標に基づいて、前記移動測定値のうちの1つを生成するように動作可能である請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記処理システムは、対応する位置座標を持つと判定された厚み測定値のセットの重み付けられた組み合わせから、厚み値のセットの各々を導出するように動作可能である請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記処理システムは、前記物体の面に沿った方向の前記物体に関する移動を示す移動測定値のうちの1つを生成する、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
多数の各厚み測定サイクル中、物体の表面内の6以上の位置において、前記物体の厚みの各測定値のセットを生成するステップと、
前記厚み測定値のセットのうちの1つのセットの厚み測定値から、前記物体に関する移動を示す移動測定値を生成するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記各測定値のセットを生成するステップは、各セットにおける前記厚み測定値を同時に生成することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記各測定値のセットを生成するステップは、少なくとも第1の測定グループと第2の測定グループとの中の各セットにおける前記厚み測定値を生成することを含み、前記第1の測定グループと前記第2の測定グループとは、互いに分離しており、前記各厚み測定サイクル中、前記物体の面内の、それぞれ異なる同一直線上ではない位置において生成される厚み測定値のうちの少なくとも3つからなるセットをそれぞれ含んでいる請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の測定グループ内の厚み測定値のうちの少なくとも2つは、第1の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にある面の中の位置において生成され、前記第1の測定グループ内の厚み測定値のうちの少なくとも2つは、前記第1の座標軸とは平行ではない第2の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にある面の中の位置において生成され、
前記第2の測定グループ内の厚み測定値のうちの少なくとも2つは、前記第1の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にある面の中の位置において生成され、前記第2の測定グループ内の厚み測定値のうちの少なくとも2つは、前記第2の座標軸に対して平行な線に沿った同一直線上にある面の中の位置において生成される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記測定サイクルのうちの第1の測定サイクルの間に生成された一対の厚み測定値間の差分を判定するステップと、前記各測定値のセットを生成するステップが、前記判定された差分から、前記移動測定値の1つと、前記第1の測定サイクルとは異なる前記測定サイクルの第2の測定サイクルの間に生成された前記厚み測定値の1つのセットの厚み測定値とを生成することとを更に含む請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記移動測定値に基づいて、前記物体に関する位置座標を決定することを更に含む請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記厚み測定値のセットのうちのそれぞれ1つから導かれる厚み値の各セットによってインデクスされた位置座標のうちの1つを備える位置マップを生成するステップを更に含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
各厚み測定値のセットを備えた前記位置マップにおける厚み値のセットのうちの対応するものの間の相関から、前記位置座標のうちの1つを識別するステップを更に含み、前記各測定値のセットを生成するステップは、前記識別された位置座標に基づいて、前記移動測定値のうちの1つを生成することを含む請求項19に記載の方法。
【請求項21】
対応する位置座標を持つと判定された厚み測定値のセットの重み付けられた組み合わせから、厚み値のセットの各々を導出するステップを更に含む請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記各測定値のセットを生成するステップは、前記物体の面に沿った方向の前記物体に関する移動を示す移動測定値のうちの1つを生成することを含む請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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