説明

厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手

【課題】大入熱突合せ溶接された、50mmを超える板厚の50mm厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の突合せ溶接部で発生して進展する脆性亀裂を、この突合せ溶接部付近で確実に停止させることができ、十分な疲労強度を有し、しかも作業性、経済性に優れた厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手を提供する。
【解決手段】厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wの突合せ溶接部3の長手方向の途中に溶接不連続部4を形成すると共に、この溶接不連続部4の形成位置に、第1厚鋼板1と第2厚鋼板2との表裏面のそれぞれに当接し、中央部にボルト挿通穴が設けられてなる一対の添接部材5を、ボルト挿通穴に共通ししたボルト6、およびこのボルト6のネジ部6aに螺着したナット7により固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手に係り、より詳しくは、所定の間隔を隔てて配設され、50mmを超える板厚の第1厚鋼板と第2厚鋼板との相対する側の端面に形成された開先同士の間の少なくとも一部が大入熱突合せ溶接されてなる突合せ溶接部を有する厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の世界的な荷動きの増加に伴って、造船分野においてはコンテナ船が大型化しており、これに伴ってより板厚が厚い厚鋼板が使用されるようになってきている。しかしながら、従来の強度の鋼板(降伏応力:390N/mm以下)を採用する場合、最近建造されるようになった5000TEU積み以上のコンテナ船ではさらに板厚が厚い鋼板を使用する必要がある。鋼構造物の設計においては、外力に対して降伏や疲労破壊を配慮すると共に、脆性亀裂の伝播停止特性が求められるが、鋼板の板厚が厚くなると、一般に鋼構造物の溶接継手部の破壊靭性が低下してしまうため、脆性亀裂が進展し易くなるという問題が生じる。
【0003】
一般に、溶接構造体の鋼板継ぎ手の溶接部には残留応力が存在するのに加えて、溶接部は破壊靭性が母材よりも劣る。従って、鋼板継ぎ手の溶接部には疲労亀裂が発生し易いだけでなく、高い応力が作用した場合は、溶接部を脆性亀裂が進展してしまう恐れがある。
最近では、省力化を目的として、溶接構造体はエレクトロガスアーク溶接等の大入熱溶接により製造されている関係上、その溶接部の破壊靭性がさらに低下するということが懸念されている。
【0004】
これまで、溶接構造体の溶接部で発生した亀裂の脆性的進展は、残留応力の存在により母材側に侵入するため、母材に十分な脆性亀裂伝播停止特性があれば、脆性亀裂の進展が停止すると考えられてきた。ところが、昨今の研究により、少なくとも50mm以上の板厚の厚鋼板の大入熱突合せ溶接部を進展する脆性亀裂は、母材側に逸れることなく溶接部(溶接金属部)を進み、特段の措置を講じなければ脆性亀裂の進展を停止させることができないということが明らかになってきている。
【0005】
ところで、脆性亀裂が伝播するのを阻止し得るようにした耐脆性亀裂伝播性に優れた溶接構造体が知られている。この従来例に係る耐脆性亀裂伝播性に優れた溶接構造体は、下記のとおりである。
【0006】
即ち、溶接構造体の脆性亀裂が伝播する可能性のある突合せ溶接継ぎ手において、脆性亀裂の進展を停止させる領域に対し、当該領域の突合せ溶接継ぎ手の一部をガウジング、あるいは機械加工により除去した後、当該部分を補修溶接することにより突合せ溶接部に比べて高い靭性を有し、かつ、突合せ溶接部の長手方向に対する外縁方向の角度φが10度以上、60度以下である補修溶接部を形成することにより、亀裂を母材側に逸らせて脆性亀裂の進展を停止させるようにしたものである(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−131708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来例に係る耐脆性亀裂伝播性に優れた溶接構造体によれば、突合せ溶接部の途中に補修溶接部を形成するにより、亀裂を母材側に逸らせて脆性亀裂の進展を停止させることができるので、脆性亀裂の進展停止機能の観点からすれば、極めて優れていると考えられる。しかしながら、突合せ溶接部のガウジングや機械加工を行うことは、作業工数の増加を来たすことになるため、施工に多大な労力と時間を要するので、溶接構造体の製造コストの観点から好ましくない。
【0008】
従って、本発明の目的は、大入熱突合せ溶接された、板厚が50mmを超える厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の突合せ溶接部で発生して進展する脆性亀裂を、この突合せ溶接部付近で確実に停止させることができ、十分な疲労強度を有し、しかも作業性、経済性に優れた厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、下記の点を知見して本発明を具現するに至ったものである。即ち、大入熱溶接で突合せ溶接された、50mmを超える板厚の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の母材または突合せ溶接部に、何らかの原因(例えば、疲労等)で亀裂が発生し、高応力作用時に脆性亀裂が熱影響部あるいは溶接金属部に侵入すると、突合せ溶接部に沿って進展することを知見した。これは、突合せ溶接部の破壊靭性が小さいため、残留応力の影響の有無に拘わらず、脆性亀裂が突合せ溶接部に沿って進展すると解することができる。そして、脆性亀裂の進展を停止させるためには、突合せ溶接部の途中に溶接不連続部を設ければ、この溶接不連続部で進展が停止すると考えたものである。
【0010】
従って、上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手が採用した手段の要旨は、予め設定された所定の間隔を隔てて配設され、50mmを超える板厚の第1厚鋼板と第2厚鋼板との相対する側の端面に形成された開先同士の間の少なくとも一部が大入熱溶接されてなる突合せ溶接部を有する厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記突合せ溶接部の長手方向の途中に溶接不連続部が形成されると共に、この溶接不連続部の形成位置に、前記第1厚鋼板と第2厚鋼板との表裏面のそれぞれに個別に当接し、中央部にボルト挿通穴が設けられてなる一対の添接部材が、これら一対の添接部材それぞれのボルト挿通穴に共通しされたボルト、およびボルトのネジ部に螺着されたナットにより固定されてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項2に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手が採用した手段の要旨は、請求項1に記載の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記添接部材のボルト挿通穴に共通されたボルトは、前記溶接不連続部を貫通してなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の請求項3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手が採用した手段の要旨は、請求項2に記載の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記添接部材の前記突合せ溶接部の長手方向の幅寸法は、前記溶接不連続部の長さ寸法以上に設定されてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項4に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手が採用した手段の要旨は、予め設定された所定の間隔を隔てて配設され、50mmを超える板厚の第1厚鋼板と第2厚鋼板との相対する側の端面に形成された開先同士の間の少なくとも一部が大入熱溶接されてなる突合せ溶接部を有する厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記突合せ溶接部の長手方向の途中であって、かつ少なくとも前記第1厚鋼板と第2厚鋼板とのうちの何れか一方の厚鋼板の前記突合せ溶接部の近傍位置に貫通穴が穿設され、この貫通穴に通されたボルト、およびボルトのネジ部に螺着されたナットにより厚鋼板が締付けられてなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の請求項5に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手が採用した手段の要旨は、請求項4に記載の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記貫通穴の穿設位置は、熱影響部であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1乃至3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手によれば、突合せ溶接部の長手方向の途中に溶接不連続部が形成されている。従って、亀裂が突合せ溶接部を進展してきた場合には、溶接不連続部に相対する突合せ溶接部の自由表面で脆性亀裂の進展を停止させることができる。一方、脆性亀裂が熱影響部を進展してきた場合には、脆性亀裂を溶接不連続部に相対する突合せ溶接部の自由表面で停止させるか、または脆性亀裂の進展方向を、添接部材を介して母材側に逸らせることにより、脆性亀裂の進展を停止させることができる。
【0016】
また、本発明の請求項1乃至3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手によれば、突合せ溶接部の長手方向の途中に形成された溶接不連続部の形成位置に、第1厚鋼板と第2厚鋼板との表裏面のそれぞれに当接し、中央部にボルト挿通穴が設けられてなる一対の添接部材が、これら一対の添接部材それぞれのボルト挿通穴に共通しされたボルト、およびボルトのネジ部に螺着されたナットにより固定されている。従って、溶接不連続部に相対する突合せ溶接部の自由表面で脆性亀裂の進展が停止した後においても、ボルトと、ナットとで固定された添接部材で応力を伝達させることにより、応力再配分後に脆性亀裂を停止させた溶接不連続部に相対する突合せ溶接部の自由表面の反対側の突合せ溶接部の自由表面に亀裂が発生するのを防止することができる。
【0017】
本発明の請求項2に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手によれば、添接部材のボルト挿通穴に共通されたボルトは、溶接不連続部を貫通している。従って、突合せ溶接継ぎ手の厚鋼板にボルト挿通穴を加工する必要がないので、厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の加工工数の低減に対して寄与することができる。
【0018】
厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の溶接不連続部では、突合せ溶接部が不連続であるため応力集中を招き易い他、溶接部に不良が発生し易い等の理由により、疲労強度に対する弱点になる恐れがある。しかしながら、本発明の請求項3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手によれば、添接部材の突合せ溶接部の長手方向の幅寸法は、溶接不連続部の長さ寸法以上に設定されている。従って、幅寸法が溶接不連続部の長さ寸法以上に設定された添接部材により、突合せ溶接部の設計上の不連続が解消されると共に、溶接不連続部における応力集中が緩和されるから、疲労強度の低下を防止することができる。
【0019】
本発明の請求項4または5に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手によれば、突合せ溶接部の長手方向の途中であって、かつ少なくとも前記第1厚鋼板と第2厚鋼板とのうちの何れか一方の厚鋼板の前記突合せ溶接部の近傍位置に貫通穴が穿設され、この貫通穴に通されたボルト、およびボルトのネジ部に螺着されたナットにより厚鋼板が締付けられている。
従って、突合せ溶接部に残留応力が付与され、突合せ溶接部に沿って進展してきた脆性亀裂の進展方向を母材側に逸らせることができるため、母材として十分な亀裂進展停止機能を備えた素材からなる厚鋼板を採用することにより、亀裂の進展を停止させることができる。さらに、貫通穴の穿設により、溶接による残留応力が低減されるという効果も得ることができる。
【0020】
本発明の請求項5に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手によれば、貫通穴の穿設位置は、熱影響部である。従って、突合せ溶接部の応力分布を大きく変化させることができるので、脆性亀裂の進展方向を母材側に逸らせる効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態1乃至3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手を、添付図面を参照しながら説明する。先ず、本発明の実施の形態1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手を、厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の主要部斜視図の図1と、図1のA矢視方向から見た厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の正面図の図2と、図2のB−B線断面図の図3と、図2のC−C線断面図の図4とを順次参照しながら説明する。
【0022】
図に示す符号Wは、板厚が50mmを超える、本発明の実施の形態1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手である。この厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wは、所定の間隔を隔てて第1厚鋼板1と第2厚鋼板2とが配設されている。前記第1厚鋼板1の、前記第2厚鋼板2の端面に相対する端面に開先1aが形成され、また前記第2厚鋼板2の、前記第1厚鋼板1の端面に相対する端面に開先2aが形成されており、これら開先1a,2aの間の横断断面形状はV型形状、いわゆるV型開先となっている。
【0023】
前記開先1a,2aの間は、大入熱溶接されてなる突合せ溶接部3を有しており、この突合せ溶接部3の長手方向の途中に溶接不連続部4が形成されており、開先1a,2aの斜面が相対している。この溶接不連続部4に対応する位置には、前記第1厚鋼板1と前記第2厚鋼板2との表裏面のそれぞれに個別に当接して押圧する添接部材5,5が配設されている。これら添接部材5それぞれの前記第1厚鋼板1と前記第2厚鋼板2に相対する側の前記突合せ溶接部3の長手方向と直交する長さ方向の両端部の前記V型開先を避けた位置、換言すれば突合せ溶接部3を避けた、この突合せ溶接部3を挟む両側の位置に、前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2の方向に突出する鋼板押圧部5a,5aが形成されると共に、中央部にボルト挿通穴5bが穿設されている。
【0024】
そして、これら添接部材5,5それぞれのボルト挿通穴5bに共通しされたボルト6が前記溶接不連続部4を貫通すると共に、このボルト6の前記添接部材5から突出するネジ部6aにナット7が螺着されることにより、前記添接部材5,5が締め付けられて固定されている。これにより、これら添接部材5の鋼板押圧部5a,5aを介して前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2の表裏面が押圧されて締結されている。なお、前記添接部材5の前記突合せ溶接部3の長手方向の幅寸法5wは、図2に示すように、前記溶接不連続部4の長さ寸法4l以上に設定されている。
【0025】
以下、本発明の実施の形態1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手1の作用態様について説明する。即ち、本発明の実施の形態1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wによれば、前記突合せ溶接部3の長手方向の途中に溶接不連続部4が形成されて、ビードが不連続になっている。従って、脆性亀裂8が突合せ溶接部3を進展してきた場合は、溶接不連続部4に相対する突合せ溶接部3の自由表面で脆性亀裂の応力集中を消滅させて、脆性亀裂の進展を停止させることができる。一方、脆性亀裂が熱影響部を進展してきた場合は、脆性亀裂を溶接不連続部4に相対する突合せ溶接部の自由表面で停止させるか、または脆性亀裂の進展方向を、添接部材5,5を介して母材側に逸らせることにより、脆性亀裂の進展を停止させることができる。
【0026】
また、本発明の実施の形態1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wによれば、一対の添接部材5,5それぞれのボルト挿通穴5bに共通しされたボルト6が溶接不連続部4における第1厚鋼板1の開先1aと第2厚鋼板2の開先2aとの間を貫通すると共に、このボルト6の前記添接部材5から突出するネジ部6aにナット7が螺着されることにより添接部材5,5が締め付けられて、これら添接部材5の鋼板押圧部5a,5aを介して前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2の表裏面が押圧されて締結されている。
【0027】
従って、溶接不連続部4に相対する突合せ溶接部3の自由表面で脆性亀裂の進展が停止した後においても、ボルト6と、ナット7とで締付けられた添接部材5を介しての第1厚鋼板1と第2厚鋼板2との母材側への応力配分により、脆性亀裂を停止させた溶接不連続部4に相対する突合せ溶接部3の自由表面の反対側の突合せ溶接部3の自由表面に亀裂が発生するのを防止することができる。
【0028】
また、本発明の実施の形態1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wによれば、前記添接部材5,5それぞれのボルト挿通穴5bに共通されたボルト6は、上記のとおり、溶接不連続部4における第1厚鋼板1の開先1aと第2厚鋼板2の開先2aとの間を貫通している。従って、突合せ溶接継ぎ手Wの前記第1厚鋼板1や第2厚鋼板2にボルト挿通穴を加工する必要がなく、加工工数が低減されるので、突合せ溶接継ぎ手Wの製造コストの低減に寄与することができる。
【0029】
ところで、厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wの溶接不連続部4では、突合せ溶接部3が不連続であるため応力集中を招き易い他、溶接止端部に不良が発生し易い等の理由により、疲労強度に対する弱点になる恐れがある。しかしながら、本発明の実施の形態1に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wによれば、添接部材5の幅寸法5wは、上記のとおり、溶接不連続部4の長さ寸法4l以上に設定されている。従って、幅寸法5wが溶接不連続部4の長さ寸法4l以上に設定された添接部材5により、突合せ溶接部3の設計上の不連続が解消されると共に、溶接不連続部4における応力集中が緩和されるから、疲労強度の低下を防止することができる。なお、本発明の実施の形態1においては、添接部材5,5を1本のボルトで締付けているが、2本以上で締付ける構成であっても良い。
【0030】
本発明の実施の形態2に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手を、その正面図の図5(a)と、図5(a)のD矢視図の図5(b)とを参照しながら説明する。但し、上記実施の形態1の説明のために用いた図1乃至4と、本発明の実施の形態2の説明のための図5(a),(b)との比較においてよく理解されるように、本発明の実施の形態2が上記実施の形態1と相違するところは、添接部材の構成の相違にあるから、同一のものには同一符号を付して、主としてその相違する点について説明する。
【0031】
即ち、本発明の実施の形態2に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wでは、溶接不連続部4に対応する位置には、前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2との表裏面のそれぞれに、中央部にボルト挿通穴15bが穿設されてなる、平板状の添接部材15,15が配設されている。この添接部材15は、前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2に相対する平面が、これら第1厚鋼板1と第2厚鋼板2との表裏面のそれぞれに当接して押圧する鋼板押圧部15aになるように構成されている。
【0032】
そして、これら一対の添接部材15それぞれのボルト挿通穴15bに共通しされたボルト6が前記溶接不連続部4を貫通すると共に、このボルト6の前記添接部材15から突出するネジ部6aにナット7が螺着されることにより、前記添接部材15,15が締め付けられている。勿論、上記実施の形態1の場合と同様に、前記添接部材15の前記突合せ溶接部3の長手方向の幅寸法15wは、図5(a)に示すように、前記溶接不連続部4の長さ寸法4l以上に設定されている。
【0033】
従って、本発明の実施の形態2に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wによれば、添接部材15の前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2に相対する平面である鋼板押圧部15aを介して前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2の表裏面を押圧することができるから、本実施の形態2は上記実施の形態1と同等の効果を得ることができる。
【0034】
本発明の実施の形態3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手を、その正面図の図6(a)と、図6(a)のE矢視図の図6(b)とを参照しながら説明する。但し、上記実施の形態1の説明のために用いた図1乃至4と、本発明の実施の形態3の説明のための図6(a),(b)との比較においてよく理解されるように、本発明の実施の形態3が上記実施の形態1と相違するところは、添接部材の有無にあるから、同一のものには同一符号を付して、主としてその相違する点について説明する。
【0035】
本発明の実施の形態3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wでは、第1厚鋼板1の開先と第2厚鋼板2の開先の間が大入熱溶接されてなる突合せ溶接部13の長手方向の途中であって、かつ前記突合せ溶接部の長手方向と直交する幅方向の外側の両側の熱影響部に、2個ずつ(合計:4個)の貫通穴9が穿設されている。そして、これら4個の貫通穴9のそれぞれにボルト6が挿通され、これらボルト6の前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2から突出するネジ部6aにナット7が螺着されることにより、前記第1厚鋼板1と第2厚鋼板2が締付けられてなる構成になっている。
【0036】
本発明の実施の形態3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wによれば、突合せ溶接部3の長手方向の途中であって、かつ前記突合せ溶接部3の長手方向と直交する幅方向の外側に穿設された2個ずつ(合計:4個)の貫通穴9にボルト6が挿通されると共に、ネジ部6aに螺着されてナット7により、第1厚鋼板1と第2厚鋼板2とが締付けられている。
これにより、突合せ溶接部3に残留応力が付与されるため、この突合せ溶接部3に沿って進展してきた脆性亀裂の進展方向を母材側に逸らせることができる。
【0037】
従って、母材として十分な亀裂進展停止機能を備えた素材からなる厚鋼板を採用することにより、脆性亀裂の進展を停止させることができる。また、貫通穴9の穿設により、溶接による残留応力が低減されるという効果も得ることができる。さらに、貫通穴9を熱影響部に穿設することにより、合せ溶接部の応力分布を大きく変化させることができるので、脆性亀裂の進展方向を母材側に逸らせるという効果も得ることができる。
【0038】
ところで、本実施の形態3の場合には、前記突合せ溶接部3の長手方向と直交する幅方向の外側の両側の熱影響部に、2個ずつ(合計:4個)の貫通穴9が穿設され、そしてこれら4個の貫通穴9のそれぞれにボルト6が挿通されているが、ボルト6が挿通されると共にナット7で締付けられる個所は、突合せ溶接部3の長手方向と直交する幅方向の外側の両側に一個所ずつ設けられていても良く、また三個所以上ずつ設けられていても良い。
さらに、第1厚鋼板1と第2厚鋼板2とのうちの何れか一方の突合せ溶接部3の近傍位置、つまり突合せ溶接部3の長手方向と直交する幅方向の外側の片側に、少なくとも一個所設けられていてもそれなりの効果を得ることができる。
【実施例】
【0039】
図5(a)と、図5(b)とに示す(実施の形態2)構成の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の試験体を用いた実施例を説明する。この試験体の仕様は、下記のとおりである。
(1)試験体の板厚 : 60mm
(2)試験体の幅寸法 :1000mm
(3)試験体の長さ寸法 :5000mm
(4)試験体の材質 :降伏応力390N/mm級鋼
(5)溶接 :エレクトロガスアーク溶接
(6)ボルトの材質 :降伏応力980N/mm級ボルト(φ30mm)
(7)ナットの締付けトルク:1750N・m
上記のような仕様の試験体に対して引張試験機で設計応力に対応する荷重を付加しながら、この試験体を−10℃に冷却して、脆性亀裂を熱影響部に進展させた。その結果、脆性亀裂が突合せ溶接部に進展したが、溶接不連続部に相対する突合せ溶接部の自由表面で脆性亀裂が抜けて停止した。
【0040】
なお、厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手から添接部材を取外した構成の試験体に対しても上記と同様の試験を行った。そして、溶接不連続部に相対する突合せ溶接部の自由表面に進展した脆性亀裂が、前記突合せ溶接部の反対側の自由表面に進展することを確認し、添接部材を取付けることが、脆性亀裂の前記突合せ溶接部の反対側の自由表面への進展防止にとって極めて有効であることを確認している。
【0041】
上記のとおり、本発明の実施の形態1乃至3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wによれば、第1鋼板に高応力を発生させた場合に進展する脆性亀裂を、突合せ溶接部の長手方向の途中に形成した溶接不連続部、または突合せ溶接部の長手方向の途中に穿設した貫通穴のボルトとナットによる締付け部で確実に停止させることができる。そして、従来例のように、突合せ溶接部の一部をガウジングや機械加工によって除去する必要がないから、十分な疲労強度を有し、しかも作業性、経済性に優れた突合せ溶接継ぎ手Wを提供することができる。
【0042】
ところで、以上の実施の形態1乃至3に係る厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手Wにおいては、何れも第1厚鋼板1と第2厚鋼板2との相対する端面に、突合わせた場合にV型開先が形成される場合を例として説明した。しかしながら、これに限らず、例えば突合わせた場合にX型開先が形成されるように構成されていても良く、また表裏面側に両U型開先が形成されるように構成されていても良い。従って、突合わせた場合に形成される開先の形状に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態1に係り、厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の主要部斜視図である。
【図2】図1のA矢視方向から見た厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の正面図である。
【図3】図2のB−B線断面図である。
【図4】図2のC−C線断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係り、図5(a)は厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の正面図であり、図5(b)は図5(a)のD矢視図である。
【図6】本発明の実施の形態3に係り、図6(a)は厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手の正面図であり、図6(b)は図6(a)のE矢視図である。
【符号の説明】
【0044】
…突合せ溶接継ぎ手
1…第1厚鋼板,1a…開先
2…第2厚鋼板,2a…開先
3…突合せ溶接部
4…溶接不連続部,4l…長さ寸法
5…添接部材,5a…鋼板押圧部,5b…ボルト挿通穴,5w…幅寸法
6…ボルト,6a…ネジ部
7…ナット
8…脆性亀裂
9…貫通穴
15…添接部材,15a…鋼板押圧部,15b…ボルト挿通穴,15w…幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された所定の間隔を隔てて配設され、50mmを超える板厚の第1厚鋼板と第2厚鋼板との相対する側の端面に形成された開先同士の間の少なくとも一部が大入熱溶接されてなる突合せ溶接部を有する厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記突合せ溶接部の長手方向の途中に溶接不連続部が形成されると共に、この溶接不連続部の形成位置に、前記第1厚鋼板と第2厚鋼板との表裏面のそれぞれに個別に当接し、中央部にボルト挿通穴が設けられてなる一対の添接部材が、これら一対の添接部材それぞれのボルト挿通穴に共通しされたボルト、およびボルトのネジ部に螺着されたナットにより固定されてなることを特徴とする厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手。
【請求項2】
前記添接部材のボルト挿通穴に共通されたボルトは、前記溶接不連続部を貫通してなることを特徴とする請求項1に記載の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手。
【請求項3】
前記添接部材の前記突合せ溶接部の長手方向の幅寸法は、前記溶接不連続部の長さ寸法以上に設定されてなることを特徴とする請求項2に記載の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手。
【請求項4】
予め設定された所定の間隔を隔てて配設され、50mmを超える板厚の第1厚鋼板と第2厚鋼板との相対する側の端面に形成された開先同士の間の少なくとも一部が大入熱溶接されてなる突合せ溶接部を有する厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手において、前記突合せ溶接部の長手方向の途中であって、かつ少なくとも前記第1厚鋼板と第2厚鋼板とのうちの何れか一方の厚鋼板の前記突合せ溶接部の近傍位置に貫通穴が穿設され、この貫通穴に通されたボルト、およびボルトのネジ部に螺着されたナットにより厚鋼板が締付けられてなることを特徴とする厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手。
【請求項5】
前記貫通穴の穿設位置は、熱影響部であることを特徴とする請求項4に記載の厚鋼板の突合せ溶接継ぎ手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−113079(P2009−113079A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288668(P2007−288668)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】