原位置施工における複合軽量土の造成方法
【課題】自然な植物片を難腐朽材または絶腐朽材とすることにより、土中での耐腐朽性を維持し、もって軽量盛土工法等に好適な複合軽量土の造成方法を提供する。
【解決手段】原位置土をトレンチャー式の撹拌混合機にて掘削しながら、その原位置土とアルカリ性の添加材であるセメント系の固化材および木質片の三者を下記(ア),(イ)の条件のもとで撹拌混合する。結果として、三者混合後の水素イオン指数がpH8以上、望ましくはpH10以上のアルカリ性の複合軽量土を造成する。(ア)土の重量をρtとし、植物片の重量をρwとしたとき、両者の混合割合がρw=0.02〜0.3×ρtであること。(イ)土の体積1m3当たりの添加材の混合割合が少なくとも50kg以上であること。
【解決手段】原位置土をトレンチャー式の撹拌混合機にて掘削しながら、その原位置土とアルカリ性の添加材であるセメント系の固化材および木質片の三者を下記(ア),(イ)の条件のもとで撹拌混合する。結果として、三者混合後の水素イオン指数がpH8以上、望ましくはpH10以上のアルカリ性の複合軽量土を造成する。(ア)土の重量をρtとし、植物片の重量をρwとしたとき、両者の混合割合がρw=0.02〜0.3×ρtであること。(イ)土の体積1m3当たりの添加材の混合割合が少なくとも50kg以上であること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原位置施工における複合軽量土の造成方法、より具体的には原位置土とアルカリ性の添加材と植物片とを混合してなる複合軽量土の造成方法に関し、地盤改良工法のうちでも特に軟弱地盤対策のための盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法等に好適な複合軽量土の原位置施工における造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤上や傾斜地における盛土造成には軽量化が求められ、従来から例えば大型の発泡スチロールブロックを盛土材料として用いたEPS(Expanded Poly−Styrol)工法や、特許第3847302号公報に代表されるような発泡ビーズ混合軽量土工法が知られている。また、急勾配盛土や堤防としての盛土造成には靱性や耐浸食性が要求されることがあり、そのための手段として例えば特開2006−214145号公報に代表されるような短繊維混合補強土工法が知られている。
【0003】
これらの工法は、いずれも発泡スチロールブロックや発泡ビーズあるいは化学繊維といった化石燃料を原料とする材料が必須であることから、当該材料が自然界に流出することの将来への懸念やCO2排出量削減の観点から代替技術が要望されている。
【0004】
その一環として、例えば特許文献1または特許文献2に記載のように、粉砕木質チップや竹質チップを含有した複合土が提案されている。この特許文献1に記載の複合土は緑化基盤材であって、土と、セメントと、廃材を原料とした粉砕木質チップを含有している。そして、この緑化基盤材を用いて緑化基盤が形成され、植生に供されることになる。また、特許文献2では、竹チップを含む地盤改良材が提案され、繊維状にした竹チップと現地にある土と固化材に水を加え混合敷き均し転圧することで、透水性、保水性のほか、歩きやすい適度な弾性を有する地盤改良材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−325527号公報
【特許文献2】特開2008−260905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の複合土はあくまで緑化基盤材であって、植物育成助成剤に含まれるセメント鉱物は5〜50質量%としており、その植物育成剤を緑化基盤に10〜30kg/m3使用するとしている。つまり、緑化基盤材に含まれるセメント(アルカリ性材料)の添加量は緑化基盤材1m3当たり5〜15kgと微量であり、植生を可能にする上で保水性や通気性を確保することを目的とするものであり、法面等の緑化造成に用いる技術である。よって、その施工方法は、緑化造成箇所である法面(原位置)ではなく別の箇所にて複合材を製造した上で法面に吹き付けたり、油圧ショベル等で法面に張り付けることとしている。
【0007】
また、特許文献2に記載の複合土は、竹を繊維状に粉砕した竹チップと、現地の土およびセメント等の固化材とを混合して、地盤の保護、雑草の抑制を目的とするものであり、庭、公園、果樹園、歩道やグラウンド等に5〜10cm程度被覆する地盤改良材(被覆材)である。その品質特性は、歩行性を重視して適度な硬さと柔らかさに着目しているに過ぎず、その施工方法も複合材を敷き詰め、転圧するとしているだけである。
【0008】
いずれも土に添加する粉砕木質チップや竹質チップの耐腐朽性は考慮しておらず、また靱性あるいは軽量化の上でも必ずしも十分ではない。特に、盛土や基礎への埋め戻し土などの土構造物の形成に用いた場合には、その土構造物の形成に必要な強度や靱性さらには軽量化の度合いが不足するおそれがあり、複合材の品質特性ならびにその造成方法になおも改善の余地を残している。
【0009】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、先に述べた化石燃料系材料に代えて、自然な植物片を難腐朽材または絶腐朽材とすることにより、土中での耐久性(耐腐朽性)を維持し、もって短繊維混合補強土工法や発泡ビーズ混合軽量土工法等に代わる盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法等に好適な複合軽量土の造成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を下記(ア),(イ)の条件のもとで撹拌混合して、三者混合後の水素イオン指数がpH8以上のアルカリ性を呈する複合軽量土を造成することを特徴とする。
【0011】
(ア)原位置土の重量をρtとし、植物片の重量をρwとしたとき、両者の混合割合がρw=0.02〜0.3ρtであること。
【0012】
(イ)原位置土の体積1m3当たりの添加材の混合割合が少なくとも50kg以上であること。
【0013】
ここに言う植物片には、例えば間伐材のほか、伐根、伐採材、廃材等の不要木材を破砕してチップ化した木質片を用いることができる。また、アルカリ性の添加材は固化性を有していても良く、例えばセメントや石灰を使用することが可能である。さらに、原位置土と植物片の混合割合であるところの上限値ρw=0.3ρtなる条件は、その複合軽量土が地下水位以下となっても浮き上がらないようにする上で重要であるとともに、複合軽量材盛土体等を造成した場合に重要な品質特性(強度特性)である破壊抵抗値比率の限界を示している(後述の図11参照)。また、同様に原位置土と植物片との混合割合であるところの下限値ρw=0.02ρtなる条件は、植物片を添加混合した複合軽量土において一軸圧縮強さのピークを示すときの添加量である。
【0014】
より具体的な造成方法としては、請求項2に記載のように、撹拌混合手段を原位置土中に貫入して、原位置土を掘削しながら当該原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を撹拌混合することを特徴とする。
【0015】
この場合において、上記撹拌混合手段は、例えば請求項3に記載のように、周回駆動されるエンドレスなチェーンに複数の撹拌混合翼を装着してなるトレンチャー式撹拌混合機とする。
【0016】
望ましくは、請求項4に記載のように、三者混合後の水素イオン指数がpH10以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与するものとする。より望ましくは、請求項5に記載のように、三者混合後の水素イオン指数がpH11以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与するものとする。ここに言う難腐朽効果または絶腐朽効果とは、木材腐朽菌に対する耐性にほかならない。
【0017】
さらに、請求項6に記載のように、三者混合後の複合軽量土の重量ρmがρm≧1000kg/m3となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することが望ましい。これは、先にも述べたように、その複合軽量土が地下水位以下となっても浮き上がらないようにする上で必要な条件となる。
【0018】
ここで、上記のように重量比での原位置土に対する植物片の混合割合の上限を30%としたときに、複合軽量土の体積比率は2.6倍となる。故に、請求項7に記載の発明は、この点を明確化しており、体積比での植物片の混合割合が土の体積の2.5倍を超えないように調整することを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、複合軽量土の重量変化率であるところの軽量化比率(重量軽減率)を規定しており、原位置土の重量をρtとし、三者混合後の複合軽量土の重量をρmとしたとき、三者混合後の複合軽量土の重量変化率がρm/ρt≧0.5となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することを特徴とする。
【0020】
また、植物片を含んでいない複合土の破壊抵抗値を基準に、植物片を含んでいる複合軽量土の破壊抵抗値の割合を示すパラメータとして破壊抵抗値比率がある。植物片が含まれている複合軽量土の破壊抵抗値は、植物片が含まれていない複合土の破壊抵抗値の2倍以上の値を有することが実験により確認できたので、請求項9に記載の発明はこのことを明確化している。すなわち、請求項9に記載の発明は、上記複合軽量土に含まれる添加材がセメントまたはセメント系固化材であって、植物片が含まれている複合軽量土の破壊抵抗値が植物片が含まれていない複合土の破壊抵抗値の2倍以上となるように植物片の混合割合を調整することを特徴とする。
【0021】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、植物片を含む複合軽量土がpH8以上のアルカリ性を呈するならば、植物片に難腐朽性または絶腐朽性を付与して、腐朽に対する耐久性の付与ひいてはその腐朽防止を図ることが可能であり、植物片がもつ繊維質本来の機能を長期にわたって維持できるようになる。
【0022】
特に請求項2および3に記載の発明では、現位置土と添加材および植物片の三者の撹拌混合は、周回駆動されるエンドレスなチェーンに複数の撹拌混合翼を装着してなるトレンチャー式撹拌混合機を現位置土中に貫入して撹拌混合することで、三者が均質に撹拌混合されることとなり、複合軽量土の造成に際して例えば従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維混合補強土工法等と同等もしくは両工法の特徴を兼ね備えた機能を発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、不要木材等を有効利用した上で、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維混合補強土工法等に代わる盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法に好適な複合軽量土の造成ができ、必要な強度および靱性等を確保しつつその増量効果をもって軽量化を達成できる。特に植物片にはpH8以上のアルカリ性の環境下で実質的に難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することができるので、植物片がもつ繊維質の機能を長期にわたって安定して維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】間伐材を破砕した木質片の状態を示す写真。
【図2】図1に示した木質片を大きさ別に分けたときの写真。
【図3】代表的な土のpH値とそれらの土に対するセメント系固化材の添加量との相関を示す特性図。
【図4】代表的な土に対してセメント系固化材を添加した場合のpH値の変動を示す特性図。
【図5】本発明に係る複合軽量土のより具体的な実施の形態を示す図で、土重量に対して特定の割合で木質片およびアルカリ性の添加材である高炉セメントを添加した時のイメージ図。
【図6】複合軽量土の湿潤密度と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図7】複合軽量土の一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図8】複合軽量土の圧縮ひずみと木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図9】複合軽量土の軽量化比率と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図10】複合軽量土の体積比率と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図11】複合軽量土の破壊抵抗値比率と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図12】複合軽量土の一軸圧縮強さと圧縮ひずみとの相関を示す特性図。
【図13】一軸圧縮試験での供試体の破壊状況を示す写真。
【図14】同じく一軸圧縮試験での供試体の破壊状況を示す写真。
【図15】図9において、軽量化比率を指定して木質片の添加率を求めるときの説明図。
【図16】原位置施工による原土を用いて複合軽量土を造成する際のイメージ図。
【図17】複合軽量土の盛土を造成する際の施工手順を示す説明図。
【図18】図17に続く施工手順を示す説明図。
【図19】図18に続いてトレンチャー式の撹拌混合機にて撹拌混合する際の説明図。
【図20】図19に示したトレンチャー式の撹拌混合機の拡大説明図。
【図21】図20の左側面説明図。
【図22】図19に続く施工手順を示す説明図。
【図23】固化材の吐出を地中粉体吐出方式とした場合のシステムの概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
建設用途で複合軽量土を造成する場合、その長期耐久性を有する必要がある。本実施の形態での複合軽量土は、原位置土(土)とセメント等のアルカリ性の添加材と植物片とを混合して、所定の強度と靱性のほか、軽量性を併せ持たせたものである。植物片として間伐材、建築廃材等の不要木材をチップ状に粉砕した木質片を用いる場合、有機物である木質片の耐久性を確認しておく必要がある。ここでは、植物片として木質片(木材片)を用いる場合の耐腐朽性に関する評価を実施した。
【0026】
ここでの評価に用いる木質片は、杉、檜、雑木等の間伐材を工場内に設置したチッパーシュレッダーにより破砕してチップ状にしたものをふるい分けし、比較的大きなチップを除いた残砕である。その木質片径は0.01mm〜最大でも5mm程度、木質片長0.2mm〜15mm程度での範囲にある。この木質片のふるい分け試験結果(目合0.85〜5mmのふるい)を表1に、木質片の状況写真を図1,2にそれぞれ示す。なお、木質片の評価項目のうち、粒度試験はJIS A 1204(土の粒度試験)に、含水比試験はJIS A 1203(土の含水比試験)に、湿潤密度はJIS A 1104(土の密度試験)にそれぞれ準じた。
【0027】
【表1】
【0028】
表1から明らかなように、0.85〜2mmの粒径のものが全体の87.5%を占め、一般的に製紙原料やマルチング材に用いられている木材チップ材に比べて粒径が小さいものである。また、定量分析の結果、その組成はリグニン39.3%、セルロース35.5%、ヘミセルロース22.3%であった。さらに、その湿潤密度(かさ密度)は0.225g/cm3、含水比は47.5%であった。
【0029】
なお、ここでの木質片は、先にも述べたように、杉、檜、雑木等の間伐材を破砕してチップ状にしたものをふるい分けした上で、比較的大きなチップを除いた残砕としているが、杉、檜、雑木等は単に入手しやすい故に例示したに過ぎず、例えば松や竹のほかリグニンを多く含む草木類等も同様に用いることが可能であり、使用可能な植物片の種類を特に限定するものではない。
【0030】
木質片(木材)の主成分は、先にも述べたようにリグニン、セルロース、ヘミセルロースであり、セルロースとヘミセルロースはリグニンによりコーティングされている。したがって、木質片の耐久性はリグニンの耐久性であると言い換えることができる。リグニンは基本的に微生物に分解され難い物質であるが、複合軽量土として長期間使用する場合の耐腐朽性について確認しておく必要がある。
【0031】
本試験では、木材腐朽菌としてリグニンを分解する能力をもつ白色腐朽菌、セルロースとヘミセルロースを分解する褐色腐朽菌、主としてヘミセルロース(リグニンやセルロースを分解するものもある。)を分解する軟腐朽菌の代表的なものを選定し、木材腐朽菌のアルカリ域における耐性を評価するため、平板培養試験を行い生育性の確認をした。
1)試験で用いた寒天培地
グルコース、ペプトン、麦芽抽出物、寒天、蒸留水による寒天培地および炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)のアルカリ調整液によるアルカリ寒天培地を作成した。
2)木材腐朽菌の培養
1)で作成した寒天培地に木材腐朽菌を接種し、25℃で保存し、経時的に生育を観察した。
3)平板培養試験結果
白色腐朽菌による生育状況は表2に、褐色腐朽菌による生育状況は表3に、軟腐朽菌による生育状況は表4にそれぞれ示す。
【0032】
表中および以降の説明の記号は以下の通りである。
【0033】
・−:菌の生育なし
・+:菌が数個生育
・++:菌がプレート上に半分程度生育
・+++:菌がプレート全体に生育している
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
(1)弱酸性域における寒天培地の試料1(pH5.23)において、菌の接種7日後には、白色腐朽菌では(++)を確認。褐色腐朽菌および軟腐朽菌では(+++)を確認した。これは、いずれの腐朽菌においても木材の腐朽を示唆していることにほかならない。
【0038】
(2)白色腐朽菌に対する培養試験結果
・菌の接種7日後では、試料13(pH7.43)にて(+)を確認するが、試料9(pH8.20)、試料14(pH8.38)では(−)を確認した。
【0039】
・試料10(pH9.06)、試料3(pH10.34)では、菌の接種49日後であっても(−)を確認し、試料17(pH10.65)では菌の接種56日後であっても(−)を確認した。
【0040】
・白色腐朽菌は、pH8.2以上のアルカリ域に入ると生育がし辛くなる状態となり(難腐朽状態)、pH8.94で生育が見られず、pH10.34以上では長期間においても生育は見られなくなった。
【0041】
(3)褐色腐朽菌に対する培養試験結果
・菌の接種7日後では、試料3(pH10.34)にて(+)を確認するが、試料4(pH10.57)では(−)を確認した。
【0042】
・試料5(pH10.67)では、菌の接種49日後であっても(−)を確認し、試料17(pH10.65)では菌の接種56日後であっても(−)を確認した。
【0043】
・褐色腐朽菌は、pH10.57以上のアルカリ域に入ると生育がし辛くなり、pH10.67以上となると生育は見られなくなった。
【0044】
(4)軟腐朽菌に対する培養試験結果
・菌の接種7日後では、試料6(pH10.73)にて(+)を確認するが、試料7(pH10.87)では(−)を確認した。
【0045】
・試料5(pH10.87)では、菌の接種42日後であっても(−)を確認し、水酸化カルシウムによるpH10.65試料17にて菌の接種56日後であっても(−)を確認した。
【0046】
・軟腐朽菌は、pH10.65以上のアルカリ域にて生育は見られなくなった。
【0047】
(5)腐朽菌のアルカリ域における耐性試験総括
前述の試験により、腐朽菌の種類によって、腐朽菌が発生するアルカリ域に差異が生じることがわかる。一般に存在する木材の腐朽菌の90%以上が白色腐朽菌であるとも言われていることより、pH8以上のアルカリ域にて木質片は難腐朽状態となる。加えて、望ましくはpH10以上、より望ましくはpH11以上とすることにより、白色腐朽菌、褐色腐朽菌、軟腐朽菌のいずれにおいても発生しなくなる。取りも直さず、土(原位置土)とアルカリ性の添加材(セメント等の固化性を有するものを含む。)と木質片とを混合した複合軽量土をpH8以上とすることにより難腐朽の複合軽量土となり、加えて、pH10以上、より望ましくはpH11以上とすることにより、絶腐朽の複合軽量土となることが確認できた。
【0048】
(6)その他
・先に述べたセメントの主成分はCaOであり、土(原位置土)との混合により水酸化カルシウム系のアルカリ状態となる。耐アルカリ性の強い軟腐朽菌においても、pH10.65(試料17)にて生育の確認はできなかった。なお、軟腐朽菌は含水率100%以上の木材を好むため、地下水位以下の地盤材料として用いる場合には、pH11以上とすることで腐朽菌の発生は避けられる。
【0049】
・土の性状によって、土そのもののpH値(自然界では概ね6〜7の範囲にある)は異なる。
【0050】
次に、土の水素イオン指数(アルカリイオン指数)とアルカリ性の添加材との関係について説明する。
【0051】
まさ土、藤森粘土および関東ロームの3種類の土にアルカリ性の添加材としてセメント系固化材(商品名:タフロックTL−3)を0kg/m3、30kg/m3、50kg/m3、70kg/m3、100kg/m3と添加量を変化させた場合の土のpH値の変動(変化)を測定した。その結果を表5に示す。なお、盛土材料として一般的に使用されるまさ土に比べて、藤森粘土は有機物が多く酸化により強酸性を示している。また、関東ロームはローム土の特徴である弱酸性を示している。
【0052】
【表5】
【0053】
表5から明らかなように、セメント系固化材を添加する前のそれぞれの土のpH値は、まさ土で7.3、藤森粘土で3.3、関東ロームで6.3であったが、それらの土にセメントを30kg/m3添加したところ、pH値が3.03〜4.95上昇した。50kg/m3添加では、pH値が3.16〜5.66の上昇となった。なお、それぞれの土のpH値とセメント系固化材の添加量との相関特性を図3に示す。
【0054】
図3から明らかなように、いずれの土(原位置土)においても難腐朽材としての目安となるpH8以上とするためには、セメント系固化材を30kg/m3添加することで満足できている。また、強酸性土(pH3.3)であった藤森粘土を難腐朽材とするのに望ましいとされるpH10とするためには、セメント系固化材を86kg/m3添加すれば良いことがわかる。さらに、藤森粘土を絶腐朽材とするのに望ましいとされるpH11以上とするためには、セメント系固化材を118kg/m3以上、概ね120kg/m3以上添加すれば良いことがわかる。
【0055】
その一方、関東ロームではローム土の特徴であるアロフェンやハロイサイトが含まれることにより、pH値の上昇が抑えられる傾向にあるが、pH10以上とするにはセメント系固化材を64kg/m3添加すれば良く、pH11以上とするにはセメント系固化材を108kg/m3以上、概ね110kg/m3以上添加すれば良いことがわかる。さらに、まさ土においては、元々のpH値が比較的高く(pH7.3)、pH11以上とするにもセメント系固化材を50kg/m3添加すれば良いことがわかる。
【0056】
図4は、それぞれの土に対するセメント系固化材の添加量とそれに応じたpH値の変動との相関を示す特性図である。
【0057】
図4から明らかなように、強酸性土である藤森粘土は、セメント系固化材の添加量が少なくてもpH値の上昇が大きく、セメント系固化材を100kg/m3添加すればpH7.2の上昇が見られる。逆に、関東ロームは先にも述べたようにpH値の上昇は少なく、セメント系固化材を100kg/m3添加してもpH4.5の上昇が見られるだけであり、120kg/m3添加してもpH5の上昇が予測されるにすぎない。関東ロームのpH値は6〜6.5程度であり、これからみてもpH11以上とするには概ね120kg/m3のセメント系固化材の添加が必要となる。また、まさ土はセメント系固化材を100kg/m3添加してもpH3.9の上昇が見られるにすぎない。これは、まさ土の元々のpH値が7.3で弱アルカリ性であることに起因している。
【0058】
以上のことから、土(原位置土)の種類によってもpH値は大きく異なり、且つアルカリ性の添加材(セメント系固化材)に対する変動(上昇度合い)も異なることが本試験から理解できる。藤森粘土は強酸性であるが、pH値の上昇は大きく、関東ロームは弱酸性であるが、pH値の上昇は比較的緩やかとなっている。藤森粘土のpH値は一般的には自然界にあまり存在しない強酸性土であり、関東ロームもローム土としての特殊土に分類される。いずれの特殊土においてもアルカリ性の添加材(セメント系固化材)を50kg/m3添加すればpH8以上の難腐朽材となり、増量してアルカリ性の添加材を100kg/m3添加すればpH10以上の望ましい難腐朽材となる。さらに、アルカリ性の添加材を120kg/m3添加すればpH11以上の絶腐朽材となる。
【0059】
このように、複合土の原料となる原位置土(土)の性状によって、難腐朽または絶腐朽の耐腐朽材とするのに必要なアルカリ性の添加材の添加量は異なる。よって、複合土のpH値を8以上、望ましくは10以上、より望ましくは11以上とするにあたり、予め原位置土を採取してアルカリ性の添加材であるセメント系固化材とを撹拌混合し、施工前の事前試験にてpH値を測定した上でセメント系固化材の添加量を決定する。
【0060】
一方、複合土の用途によって必要となるところの一軸圧縮強さ、圧縮ひずみ等の強度特性や湿潤密度、体積比率等の物性特性(品質特性)は異なる。よって、セメント系固化材の添加量の決定にあたっては、難腐朽材としてのpH8以上、望ましくはpH10以上、絶腐朽材としてのpH11以上とするのに必要なセメント系固化材の添加量であって、且つ用途に応じた強度特性または物性特性の両面を満足させる添加量とする。ここでの難腐朽材と絶腐朽材の使い分けは、半年〜2年程度の使用期間となる仮設材的な使用の場合は難腐朽材でも良く、10年、20年と恒久的な使用に耐えさせるには絶腐朽材とすることが望ましい。
【0061】
なお、アルカリ性の添加材としては、先に述べたような固化性のあるセメント系固化材のほか、セメント、石灰あるいは石灰系固化材、さらには酸化マグネシウムや酸化マグネシウム系固化材等を用いることが可能である。
【0062】
ローム土は火山灰質粘性土と呼ばれるものであって、アロフェンやハロイサイトを含み、これらの物質はセメントに含まれるカルシウムイオンを吸着する性質を有する。また、アロフェンは非常に微細な気孔を多く含み、大きな比表面積を持ち、毛細管現象によって物理的に吸着・吸湿機能を有する。これらの機能が、セメントや石灰等を添加混合した場合にpH値の上昇(変動)を阻害する要因なっている。これらの特徴を示す代表的なローム土が関東ロームである。
【0063】
pH値の上昇が押さえられる関東ロームにおけるpH値の変動は、図4から明らかなように、セメント系固化材を50kg/m3添加加することでpH値が3.4だけ上昇し、120kg/m3の添加にてpH値が5.0だけ上昇することとなる。関東ロームのpH値は6弱〜6.5程度であり、図3から明らかなように、セメント系固化材を50kg/m3添加することでpH値が8以上の難腐朽状態となり、同様にセメント系固化材を120kg/m3添加すればpH値が11以上の絶腐朽状態となり、耐不朽性を確保することが可能となる。
【0064】
同様に、pH値が3.3と酸性の強い藤森粘土においても、そのpH値を10とするにはセメント系固化材を86kg/m3添加することで可能であり、pH値を11とするにはセメント系固化材を118kg/m3添加することで可能となる。
【0065】
上記より、多様な原位置土(土)と植物片とアルカリ性材料との混合による複合軽量土を難腐朽の目安であるpH8以上とするには、前述の通りアルカリ性材料の添加量を原位置土1m3当たり少なくとも50kg/m3以上とする必要がある。
【0066】
次に、アルカリ性の添加材としてセメントを用いた場合の複合軽量土の強度特性試験について室内試験を実施した。室内試験に用いた土は、複合軽量土の造成箇所より採取した原位置土(原土)である。
1)室内試験に用いた原材料
・原土の土質分類:シルト質砂
・原土の湿潤密度(重量):1715kg/m3
・原土の含水比:36.4%
・アルカリ性の添加材(固化材):高炉セメント(粉体状)
・木質片:表1および図1,2に示した木質片
2)配合計画
・木質片の添加量:原土の湿潤重量に対して0%、5%、10%、15%、20%添加の5種類とする。
【0067】
・高炉セメントの添加量:複合軽量土(Vcm=土+木質片+高炉セメント)1m3内に85kgの添加とする。
【0068】
図5は、原位置土(原土)重量に対して木質片20%の添加と、アルカリ性の添加材である高炉セメント85kg/m3(内割)が添加されて、複合軽量土(Vcm)1m3を構成するイメージ図であって、後述する表6および表7の試料(5)に相当するイメージ図を示す。
3)供試体の作成と試験方法
(1)供試体作製手順
(1−1)モールド、1.5kgランマー及びカラーを用いて複合軽量土を突固め、供試体を作製する。
【0069】
(1−2)突固め方法は、質量1.5kgのハンマーを20cmの高さから自由落下させ、3層で突固める。突固め回数は各層15回とする。
【0070】
(1−3)3層突固め後は、カラーを取り外してモールド上部の余分の土をストレージエッジで注意深く削り取る。砂粒などのために表面にできた穴は複合軽量土の細粒分で埋め、モールド上面と同じ高さになるように平滑に仕上げる。
【0071】
(1−4)供試体は温度20±3℃、湿度95%以上の恒温恒湿槽内あるいはこれに準じる条件で所定材齢まで密封養生をする。
【0072】
(2)試験方法(試験方法の規格)
土の一軸圧縮試験方法:JIS A 1216もしくは地盤工学会基準(JGS 0511−2000)による。土懸濁液のpH試験方法:地盤工学会基準(JGS 0211−2000)による。
4)試験結果
試験結果のほかデータより算出したそれぞれの値を表6および表7に示す。これらの表6,7において、試料番号(1)〜(5)は○囲み数字の1〜5で表示してあるほか、先に述べた高炉セメントは便宜上「固化材」と表示してある。
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
5)試験結果概要
(1)湿潤密度と重量比の変化
表6より、原土の湿潤密度(重量)は1715kg/m3であったが、アルカリ性の添加材であるセメントの添加(複合軽量土1m3内に85kgのセメント量を含む)により、試料(1)の複合軽量土(原土+セメント)の湿潤密度(重量)は1742kg/m3となった。これは、セメントが持つ固化性により、軟弱(ルーズ)な原土が固化処理されたことを示す。木質片の添加量が増加するのに伴い、試料(2)〜(5)の複合軽量土(いずれも、原土+木質片+セメント)の湿潤密度は1450〜1046kg/m3へと軽量化する結果が得られた。なお、表6における湿潤密度と木質片の添加割合との相関特性を図6に示す。
【0076】
表7より、体積変化率であるところの軽量化比率(複合軽量土の湿潤密度/原土の湿潤密度)においては、木質片が含まれない試料(1)の複合土では、わずかではあるが増加を示したが、木質片を含む試料(2)〜(5)の複合軽量土では、原土の湿潤密度に対して0.85〜0.61と木質片の割合が多くなるのに伴い軽量化されていることを示した。なお、表7における軽量化比率と木質片の添加割合との相関特性を図9に示す。
【0077】
(2)一軸圧縮強さ(qu)と圧縮ひずみ(ε)の変化
表6より、木質片が含まれていない試料(1)の複合土での一軸圧縮強さは572kN/m2、圧縮ひずみ0.77%であったが、木質片5%添加により一軸圧縮強さ665kN/m2、圧縮ひずみ1.63%と、一軸圧縮強さと圧縮ひずみ共に伸びて、木質片を混合した効果が見られる。以後、木質片の混合割合を10%、15%、20%と増やすのに伴い、一軸圧縮強さは601kN/m2、530kN/m2、487kN/m2とわずかに小さくなるものの、圧縮ひずみは2.79%、3.75%、4.51%と木質片の割合増加とともに伸びている。なお、表6における一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関特性を図7に示す。
【0078】
(3)破壊抵抗値と破壊抵抗値比率
造成土の持つ破壊抵抗値(強度)は、一般的には一軸圧縮強さ、曲げ強さ、引っ張り強さ等で表す。通常の安定処理土(造成土)では、一軸圧縮強さと圧縮ひずみは反比例するが、先に述べた公知の短繊維混合補強土工法では一軸圧縮強さと曲げ強さを兼ね備えた品質特性を示すことが特徴である(破壊抵抗エネルギーの大きい造成土とは、圧縮ひずみが大きく、靱性の高いものをいう。)。
【0079】
そこで、本実施の形態では、その造成土(複合軽量土)における一軸圧縮強さ(qu)と、一軸圧縮試験時における最大応力時のひずみ(圧縮ひずみε)と、の積(qu×ε)をもって破壊抵抗値(破壊抵抗係数)と定義する。なお、試料(1)と試料(5)における一軸圧縮強さと圧縮ひずみとの相関特性を図12に示す。図12における斜線部の面積が破壊抵抗エネルギー(破壊抵抗値)に相当する。
【0080】
表6,7より、(2)の「一軸圧縮強さ(qu)と圧縮ひずみ(ε)との積の変化」を破壊抵抗値として説明するならば、試料(1)の複合軽量土は440(572×0.77)であるが、試料(2)は1084、試料(3)は1676、試料(4)は1988、試料(5)は2195と、木質片の割合増加とともに破壊抵抗値も増加している。これは、木質片が複合軽量土の引っ張り強度を高めていることを示し、靱性の高い複合軽量土となったことを意味する。なお、これらの破壊抵抗値と木質片の添加割合との相関特性を図11に示す。
【0081】
本発明の複合軽量土の特徴は、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法と短繊維混合補強土工法の両工法の特徴である軽量性と靱性を併せ持つところにあるといえる。すなわち、発泡ビーズ混合軽量土工法では軽量性は期待できても靱性の向上は期待できず、他方、短繊維混合補強土工法では繊維混合量は原土に対する乾燥重量比で0.1〜数%程度であることから軽量性の期待はできず、結果として本発明は両工法の特徴である軽量性と靱性を併せ持つところに特徴があるといえる。
【0082】
図13,14は先の一軸圧縮試験における供試体の破壊状況を示す写真である。図13は木質片が無添加の複合土の場合であり、供試体が裂けるように破壊していて供試体としての一軸圧縮強さはあるが、脆さがうかがえる。他方、図14は木質片20%添加の複合軽量土の場合であり、図13に示したような裂けるような破壊はなく、木質片による引っ張り抵抗の寄与がうかがえる。そして、この引っ張り抵抗が複合軽量土としての靱性の増加に貢献しているものと推測される。
【0083】
(4)水素イオン濃度の変化
表6より、試料(1)〜(5)のいずれの供試体においてもpH11以上を示し、前述での腐朽菌の生育試験における絶腐朽領域に達している。これは、自然の木質片が繊維混合補強土工法における繊維や発泡ビーズ混合軽量土工法における発泡ビーズに代わるものとして使用可能であって、高靱性複合土および軽量化複合土のいずれにおいても難腐朽材もしくは絶腐朽材となったといえる。
6)その他(特性評価)
本実施の形態での複合軽量土は、従来の短繊維混合補強土工法や発泡ビーズ混合軽量土工法に使用されている化石燃料を原料とする繊維や発泡ビーズに換えて、間伐材や竹等の自然の植物片(木質片)を靱性材や軽量材として用いようとするものである。これらの総合的な裏付けとして、図6〜図11をもって説明する。図6,7および図9,11が何を示す図であるかは先に述べたとおりである。図8は、表6における圧縮ひずみと木質繊維の添加割合との相関特性を示す図であり、図10は表7における体積比率と木質片の添加割合との相関特性を示す図である。なお、図中の破線部は、試験の結果よりシュミレーションしたものであって、それぞれの特徴の限界値を示すものである。
【0084】
(1)木質片を軽量化材として使用して複合軽量土とする場合、複合軽量土の湿潤密度(複合材重量)が1000kg/m3以上にすることが重要である。これは、軽量化した複合軽量土が地下水位以下となっても浮き上がらないことを意味する。
【0085】
図6より、木質片30%添加時における複合軽量土の推定湿潤密度は、960kg/m3とわずかに1000kg/m3を下回っている。しかし、本試験で用いた木質片の含水比が約47.5%であったことと、経時変化による木質片の吸水を考慮すれば、原土重量(湿潤密度)比30%が木質片の添加上限といえる。また、軽量化を目的とする複合土の場合には、図6,図9の相関曲線でも明らかなように、木質片30%添加にてほぼ水平となり重量変化(軽量化比率)の限界を示している。この点から見ても、原土重量(湿潤密度)比30%が木質片の添加上限といえる。
【0086】
(2)さらに、図10から明らかなように、前述での木質片の添加率上限を30%としたときに、複合軽量土の体積比率は2.6倍程度となるものと推測される。故に、本発明の実施にあたっては2.5倍以下とすることが望ましい。
【0087】
(3)木質片の添加率上限を30%とするのは、前述の軽量化比率の限界や図11で示す相関曲線での破壊抵抗値比率においてもほぼ限界を示している。これは、これ以上の木質片を添加しても軽量性、靱性度のいずれにおいてもそれ以上の効果がなくなることを示唆している。物理特性、強度特性からみても2.5倍以下とすることが複合軽量土にとって望ましいといえる。
【0088】
(4)図11の破壊抵抗値比率とは、表7にも示すように、木質片を含まない複合土の破壊抵抗値C1を基準としたときの木質片を含んだ複合軽量土の破壊抵抗値C2の割合、すなわちC1/C2を示すものである。木質片5%添加では2.46倍を示し、15%添加までは直線的に上昇している。また、図11から明らかなように、木質片20%添加では破壊抵抗値比率は概ね5倍であるが、伸びの収束域に入り、木質片30%添加では5.2倍にてほぼ横ばい状態となっている。この点から見ても、木質片の上限添加率は30%といえる。
【0089】
(5)複合軽量土の下限値を示すにあたり、図7の一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関図より一軸圧縮強さがピークになるときの、一軸圧縮強さ715kN/m2と木質片の添加率2%を求める。図8の圧縮ひずみと木質片との相関図より木質片2%添加時における圧縮ひずみ1.2%を求める。以上により、木質片2%添加時における破壊抵抗値C1は715×1.2=858となる。よって、本発明による破壊抵抗値比率の下限値は858/440=1.95≒2.0となる。言い換えるならば、複合軽量土の強度特性における木質片の添加率下限は原土重量(湿潤密度)比2%と言える。
【0090】
(6)図7は、一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関特性を示す図である。木質片2%(実試験では5%)添加をピークに木質片の増加とともに一軸圧縮強さは減少している。しかし、図8では、圧縮ひずみは直線的に伸びている。これは、複合軽量土の破壊抵抗を増すものであって、複合軽量土の靱性が上昇していると言える。少なくとも、複合軽量土に及ぼす応力を複合軽量土の圧縮応力(一軸圧縮強さ)を超えない範囲(場合によっては、設計最大応力を圧縮応力(一軸圧縮強さ)の50%以内にて利用する。)にて利用する場合には、木質片を添加したほうが、破壊抵抗の面からより安全と言える。
【0091】
(7)破壊抵抗値の増加割合を示す指標として、木質片を含んだ試料(2)〜(5)の複合軽量土の破壊抵抗値(C2)を木質片が含まれていない試料(1)の複合軽量土の破壊抵抗値(C1)にて除した値(C2/C1)を破壊抵抗値比率とすることは先に述べた。該破壊抵抗比率では、図11に示すように、木質片2%添加にて概ね2.0(推定値)、木質片5%添加にて2.46となり、木質片20%添加では4.98となっている。つまり、複合軽量土に含まれるセメントの添加量は85kg/m3(内割)といずれの試料も同量であるが、木質片が含まれていない複合土よりも木質片が含まれた複合軽量土の方が、破壊抵抗値が大きくなっている。加えて、木質片の割合増加に伴い試料(1)よりも試料(5)の破壊抵抗値は概ね5倍となっている。
【0092】
以上のことから、本実施の形態での複合軽量土は、木材腐朽菌に対する耐久性を有していることはもちろんのこと、強度(一軸圧縮強さ)、靱性(破壊抵抗値)および増量効果による軽量性等において十二分に実用レベルに達しており、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維補強土工法等との特徴を兼ね備えた複合軽量土として盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法等に適用できることが確認できた。
【0093】
次に、いわゆる原位置施工での複合軽量土の造成手順について、軟弱な地盤上に盛土高さ2mの軽量盛土を施す場合を例にとって説明する。
1)施工条件
・使用するアルカリ性の添加材:高炉セメント(粉体状)
・使用する木質片:杉材の間伐材をチップ状にした木質片
・原位置土の湿潤密度(重量):1500kg/m3
・複合軽量土の目標湿潤密度(重量):1000kg/m3
・高炉セメントの添加量:85kg/m3(複合軽量土1m3当たりに含まれる高炉セメントの添加量)
なお、ここに言う高炉セメントの添加量は、盛土体としての必要な強度(一軸圧縮強さ、破壊抵抗値等)を満足し、尚且つ複合軽量土の耐腐朽性を維持できるpH値11以上となることが予め室内試験にて確認された添加量である。
2)木質片の添加率と混合深度
(1)軽量化比率と木質片の添加割合との相関特性を示す図9より、
軽量化比率=1000/1500=0.666≒0.67
となる、木質片の添加率を求める。
【0094】
図15より、木質片の添加率は、原土の重量に対して15%とする。
【0095】
(2)体積比率と木質片の添加割合との相関特性を示す図10より、木質片15%時における体積比率を求めることもできるが、原土の体積Vに対する複合軽量土の体積Vcmの割合であり、下記式により求めても良い。
【0096】
体積比率Vcm/V=
(ρt/ρcm)×{(1+αw)/(1−c/ρcm)}
ここで、
V:原土の体積
Vcm:複合軽量土の体積
ρt:原土の湿潤密度(重量)
ρcm:複合軽量土の湿潤密度(重量)
αw:木質片の添加率
c:高炉セメントの添加量
上記式より、
体積比率=(1500/1000)×{1+(15/100)}/{(1−(85/100)}
=1.885≒1.89となる。
【0097】
なお、室内試験では、体積比率は1.88であった(表7参照)。
【0098】
(3)体積比率を1.89とした時における、盛土高さ2mを確保するに必要な改良深度hを求める。なお、そのイメージを図16に示す。なお、符号G1は改良域における原土(原位置土)を、符号G2は原土G1のほか高炉セメントと木質片との撹拌混合により造成された複合軽量土層を、Mはその複合軽量土層G2をもって構成された盛土をそれぞれに示す。
【0099】
図16より、
1.89h≧2+h
∴ h≧2.247m
よって、改良深度h≒2.3mとする。
【0100】
(4)上記(3)より、区割1m3あたりに必要な主要材料を求める。
【0101】
原土重量:1500kg/m3×2.3m×1m3=3450kg
木質片の重量:3450kg×15/100=517.5≒518kg
高炉セメント添加量:複合軽量土(原土+木質片+高炉セメント)1m3内に85kg添加とするときの1m2あたりに必要な高炉セメントの添加量を求める。
【0102】
高炉セメント添加量=(複合軽量土総重量)−(原土重量+木質片の重量)
(高炉セメント添加量=(1000kg/m3×2.3×1.89×1m2)−(3450kg+518kg)=379kg/m2
この添加量を1m3当たりに割り戻すと、379/4.3=88kg/m3となる。
【0103】
よって、複合軽量土1m3内に88kg(≧85kg)の固化材を添加することとなる。
【0104】
(5)主要材料のまとめ
原土(原位置土)1m2あたり、木質片を518kg、高炉セメント379kgを用いて、原地盤より2.3mの深度を原位置撹拌混合することにより、盛土高さ2mの木質片による複合軽量土G2の盛土Mが造成されることになる。
【0105】
ここで、これまでの例ではアルカリ性の添加材として高炉セメントを用いた場合について説明したが、土質等に応じて高炉セメント以外の各種セメントのほか、セメント系固化材、さらには生石灰、消石灰および石灰系固化材を用いることも可能であることは言うまでもない。
3)次に、1区画を10m2とする場合の施工手順を以下に示す。
【0106】
(1)必要な主要材料
・造成される複合軽量土:(2+2.3)×10=43m3
・固化材(高炉セメント):379×10=3790kg≒3.8t
・木質片:518×10=5180kg≒5.2t
(2)土堰堤の造成
造成箇所に、例えば図17に示すように、バックホウ1を用いて周辺の土砂あるいは客土により所定高さの一対の土堰堤D1,D2を造成する。この土堰堤D1,D2の高さは、原位置土と木質片と固化材(高炉セメント)とを撹拌混合するときに、それらが造成箇所以外に飛散や流出しない高さとする。前述した室内試験に用いた木質片のかさ密度は約0.22t/m3であった。土堰堤D1,D2の高さを、少なくとも使用する木質片の相当高さとする場合の高さは下記のとおりである。
【0107】
(5.2/10)/0.22=2.36m
よって、原地盤より約2.4mの高さの土堰堤D1,D2を造成する。
【0108】
(3)木質片の敷き均し
土堰堤D1,D2が造成されたならば、図18に示すように、袋詰めされた所定量の木質片Wをバックホウ(クレーン様式)1等にて対向する土堰堤D1,D2同士の間の空間に投入し、解袋した上で均一に敷き均す。木質片Wの袋詰めは1.5〜3.0m3/袋(0.33〜0.66t/袋)であり、1区画あたり8〜16袋の木質片Wが使用される。また、ここで使用する木質片Wは、先にも述べたように杉、檜、ブナ等の間伐材や家屋の解体や建築廃材から発生する木材をチップ化(木質片化)したものであっても良い。さらに、孟宗竹、真竹等の竹類を粉砕して植物片化したものであっても良い。
【0109】
(4)固化材の散布
固化材の散布は、木質片Wの敷き均し後に所定量の固化材(高炉セメント)を木質片W上に散布、敷き均しする。なお、固化材の散布は木質片Wの敷き均し前であってもよい。この実施例での固化材の荷姿は、ローリー車(約10t/車)、フレキシブルコンテナバッグ(1t/袋)、紙袋(25kg/袋)のいずれであってもよい。造成箇所への入荷をローリー車とする場合には、10m2当たり3.8tとなるように検収枡による小分け作業をして均一な散布をする。また、フレキシブルコンテナバッグを用いる場合には、4/0.379=10.55≒10.5m2として造成面積を変更して使用材料の均一を図る。
【0110】
(5)原位置土、木質片、固化材の撹拌混合
固化材の散布、敷き均しに続いて、図19に示すように、撹拌混合手段として例えばトレンチャー式の撹拌混合機4を貫入して原位置土G1を垂直方向に掘削しつつ撹拌混合するとともに、当該撹拌混合機4を水平方向にも移動させて、掘削した現位置土G1、木質片Wおよび固化材の三者を均質となるように撹拌混合する。原位置土G1の撹拌混合深度の誤差は、原位置土量(原土量)と木質片Wと固化材(高炉セメント)との複合割合が変わることとなり、複合軽量土の特徴である軽量化比率、体積比率、破壊抵抗値比率の変化となる。よって、撹拌混合深度の施工管理には、十分留意したう上で原位置土G1と木質片Wと固化材とを入念に撹拌混合をする。ここでの撹拌混合にあたり、トレンチャー式の撹拌混合機4を用いることにより、品質特性の異なる原位置土G1と木質片Wおよび固化材のそれぞれの原材料が互層状態となっているが、トレンチャー式撹拌混合機の縦撹拌(垂直撹拌)により均質な撹拌混合が可能となる。
【0111】
ここで使用するトレンチャー式の撹拌混合機4は、例えば汎用型のバックホウをベースマシンとして用い、図17,18に示したようなバケット2に代えてバックホウ3のアーム5に支持させたものである。そして、トレンチャー式の撹拌混合機4は、図20,21に示すように、例えば角柱状のフレーム6の上下に支持させた駆動輪7と従動輪8との間にエンドレスなドライブチェーン9を巻き掛けるとともに、そのドライブチェーン9に所定幅寸法の多数の撹拌混合翼10を所定のピッチで装着したもので、油圧モータ11駆動の駆動輪7の起動によりそれらの撹拌混合翼10がドライブチェーン9とともに上下方向に周回駆動され、結果として原位置土G1が垂直方向に掘削されながら、その原位置土G1、木質片Wおよび固化材(高炉セメント)の三者が撹拌混合されて、先に述べた複合軽量土G2(図22参照)と化することになる。
【0112】
なお、かかるトレンチャー式の撹拌混合機4は、例えば本出願人による特開2005−307675号公報等において公知である。また、原位置土G1の土質によっては、高炉セメントに代えて、粉体状の高炉セメントと水とを予め混練りしたいわゆる固化材スラリを用いることも可能である。その場合には、トレンチャー式の撹拌混合機4の先端における図示外の吐出ノズルから固化材スラリを原位置土中に吐出しながら撹拌混合することになる。
【0113】
(6)複合軽量土の敷き均しおよび転圧
撹拌混合処理により複合軽量土G2が造成されたならば、図22に示すように、速やかに複合軽量土G2を敷き均し整正・転圧をする。転圧は、バックホウ1のバケット2により行う。複合軽量土G2の造成深度によっては、最上部からの転圧のみでは所定の密度が得られにくく、品質に影響を及ぼすこともある。本実施例では、複合軽量土G2の造成深度が4.3mであることからして、4層に分割して転圧(概ね1m/層の転圧)することで複合軽量土G2としての品質を得ることとする。以上をもって、土堰堤D1,D2とともに複合軽量土G2による盛土M1が造成されたことになる。
【0114】
(7)固化材の別の供給方法
固化材(高炉セメント)の供給方法として、前述の表面散布に変えて、粉体状の固化材を空気圧送し、地中に吐出させて撹拌混合するいわゆる地中粉体吐出方式を採用することも可能である。その一例を図23に示す。
【0115】
(7−1)固化材サイロ22に貯留されている粉体状の固化材を粉体供給機20の加圧タンク(約800〜1000kg収容)21A,21Bのうちいずれか一方の加圧タンク、例えば加圧タンク21Aに投入する。
【0116】
(7−2)投入後、固化材の投入口を閉じ、加圧タンク21Aにコンプレッサー23から圧縮空気を送り、加圧タンク21A内を加圧する。
【0117】
(7−3)加圧タンク21A内の加圧終了後、加圧タンク21Aの下部のロータリーバルブを開き、流量計にて固化材吐出量を計量しながらトレンチャー式攪拌機4の先端部まで空気圧送し、図示外の固化材吐出口から原位置土中に吐出させる。
【0118】
(7−4)一方の加圧タンク21A内の固化材がなくなるまでに、もう一方の加圧タンク21Bへの固化材の投入と加圧タンク21B内の加圧を終える。
【0119】
(7−5)先に吐出させた加圧タンク21A内の固化材が吐出終了すると同時に、もう一方の加圧タンク21B内の固化材を先の場合と同様に吐出させる。この繰り返しにより、粉体状の固化材は、連続的に地中内へ吐出される。
【0120】
(7−6)撹拌混合機4の先端部より地中吐出させならが、原位置土の所定深度まで撹拌混合する。
【0121】
(7−7)この方式では、連続的に計量しながらの地中吐出による撹拌混合であり、前述のローリー車、フレキシブルコンテナバッグ、紙袋による固化材の表面散布方式よりも、固化材の撹拌混合が均質となるとともに、一区画の造成面積による材料ロスは小さくなる。なお、本方式の粉体供給機20は例えば特開平10−292363号公報に記載されている公知のものである。
【0122】
このような施工手順によれば、起動性に優れたバックホウ3をベースマシンとするトレンチャー式の撹拌混合機4を用いることで、原位置施工にて複合軽量土G2による盛土M1を容易に造成することが可能となる。
【0123】
また、先にも述べたように、不用木材等を有効利用した上で、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維混合補強土工法等に代わる盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法に好適な複合軽量土を得ることができるほか、必要な強度および靱性等を確保しつつその増量効果をもって軽量化をも達成できるようになる。特に木質片WにはpH8以上のアルカリ性の環境下で実質的に難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することができるので、木質片Wがもつ繊維質の機能を長期にわたって安定して維持できる利点がある。
【0124】
ここで、本発明は、pH8以上、望ましくはpH10以上、より望ましくはpH11以上とすることで植物繊維を難腐朽もしくは絶腐朽とする、ことを主旨としている。よって、本発明に使用する固化材は、実施例で述べた高炉セメントのみならず、セメントおよびセメント系固化材のいずれであってもよい。また、生石灰、消石灰および石灰系固化材であっても良く、場合によってはマグネシウム系の固化材であってもよい。
【符号の説明】
【0125】
4…トレンチャー式の撹拌混合機
G2…複合軽量土(複合軽量土層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、原位置施工における複合軽量土の造成方法、より具体的には原位置土とアルカリ性の添加材と植物片とを混合してなる複合軽量土の造成方法に関し、地盤改良工法のうちでも特に軟弱地盤対策のための盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法等に好適な複合軽量土の原位置施工における造成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤上や傾斜地における盛土造成には軽量化が求められ、従来から例えば大型の発泡スチロールブロックを盛土材料として用いたEPS(Expanded Poly−Styrol)工法や、特許第3847302号公報に代表されるような発泡ビーズ混合軽量土工法が知られている。また、急勾配盛土や堤防としての盛土造成には靱性や耐浸食性が要求されることがあり、そのための手段として例えば特開2006−214145号公報に代表されるような短繊維混合補強土工法が知られている。
【0003】
これらの工法は、いずれも発泡スチロールブロックや発泡ビーズあるいは化学繊維といった化石燃料を原料とする材料が必須であることから、当該材料が自然界に流出することの将来への懸念やCO2排出量削減の観点から代替技術が要望されている。
【0004】
その一環として、例えば特許文献1または特許文献2に記載のように、粉砕木質チップや竹質チップを含有した複合土が提案されている。この特許文献1に記載の複合土は緑化基盤材であって、土と、セメントと、廃材を原料とした粉砕木質チップを含有している。そして、この緑化基盤材を用いて緑化基盤が形成され、植生に供されることになる。また、特許文献2では、竹チップを含む地盤改良材が提案され、繊維状にした竹チップと現地にある土と固化材に水を加え混合敷き均し転圧することで、透水性、保水性のほか、歩きやすい適度な弾性を有する地盤改良材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−325527号公報
【特許文献2】特開2008−260905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の複合土はあくまで緑化基盤材であって、植物育成助成剤に含まれるセメント鉱物は5〜50質量%としており、その植物育成剤を緑化基盤に10〜30kg/m3使用するとしている。つまり、緑化基盤材に含まれるセメント(アルカリ性材料)の添加量は緑化基盤材1m3当たり5〜15kgと微量であり、植生を可能にする上で保水性や通気性を確保することを目的とするものであり、法面等の緑化造成に用いる技術である。よって、その施工方法は、緑化造成箇所である法面(原位置)ではなく別の箇所にて複合材を製造した上で法面に吹き付けたり、油圧ショベル等で法面に張り付けることとしている。
【0007】
また、特許文献2に記載の複合土は、竹を繊維状に粉砕した竹チップと、現地の土およびセメント等の固化材とを混合して、地盤の保護、雑草の抑制を目的とするものであり、庭、公園、果樹園、歩道やグラウンド等に5〜10cm程度被覆する地盤改良材(被覆材)である。その品質特性は、歩行性を重視して適度な硬さと柔らかさに着目しているに過ぎず、その施工方法も複合材を敷き詰め、転圧するとしているだけである。
【0008】
いずれも土に添加する粉砕木質チップや竹質チップの耐腐朽性は考慮しておらず、また靱性あるいは軽量化の上でも必ずしも十分ではない。特に、盛土や基礎への埋め戻し土などの土構造物の形成に用いた場合には、その土構造物の形成に必要な強度や靱性さらには軽量化の度合いが不足するおそれがあり、複合材の品質特性ならびにその造成方法になおも改善の余地を残している。
【0009】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、先に述べた化石燃料系材料に代えて、自然な植物片を難腐朽材または絶腐朽材とすることにより、土中での耐久性(耐腐朽性)を維持し、もって短繊維混合補強土工法や発泡ビーズ混合軽量土工法等に代わる盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法等に好適な複合軽量土の造成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を下記(ア),(イ)の条件のもとで撹拌混合して、三者混合後の水素イオン指数がpH8以上のアルカリ性を呈する複合軽量土を造成することを特徴とする。
【0011】
(ア)原位置土の重量をρtとし、植物片の重量をρwとしたとき、両者の混合割合がρw=0.02〜0.3ρtであること。
【0012】
(イ)原位置土の体積1m3当たりの添加材の混合割合が少なくとも50kg以上であること。
【0013】
ここに言う植物片には、例えば間伐材のほか、伐根、伐採材、廃材等の不要木材を破砕してチップ化した木質片を用いることができる。また、アルカリ性の添加材は固化性を有していても良く、例えばセメントや石灰を使用することが可能である。さらに、原位置土と植物片の混合割合であるところの上限値ρw=0.3ρtなる条件は、その複合軽量土が地下水位以下となっても浮き上がらないようにする上で重要であるとともに、複合軽量材盛土体等を造成した場合に重要な品質特性(強度特性)である破壊抵抗値比率の限界を示している(後述の図11参照)。また、同様に原位置土と植物片との混合割合であるところの下限値ρw=0.02ρtなる条件は、植物片を添加混合した複合軽量土において一軸圧縮強さのピークを示すときの添加量である。
【0014】
より具体的な造成方法としては、請求項2に記載のように、撹拌混合手段を原位置土中に貫入して、原位置土を掘削しながら当該原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を撹拌混合することを特徴とする。
【0015】
この場合において、上記撹拌混合手段は、例えば請求項3に記載のように、周回駆動されるエンドレスなチェーンに複数の撹拌混合翼を装着してなるトレンチャー式撹拌混合機とする。
【0016】
望ましくは、請求項4に記載のように、三者混合後の水素イオン指数がpH10以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与するものとする。より望ましくは、請求項5に記載のように、三者混合後の水素イオン指数がpH11以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与するものとする。ここに言う難腐朽効果または絶腐朽効果とは、木材腐朽菌に対する耐性にほかならない。
【0017】
さらに、請求項6に記載のように、三者混合後の複合軽量土の重量ρmがρm≧1000kg/m3となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することが望ましい。これは、先にも述べたように、その複合軽量土が地下水位以下となっても浮き上がらないようにする上で必要な条件となる。
【0018】
ここで、上記のように重量比での原位置土に対する植物片の混合割合の上限を30%としたときに、複合軽量土の体積比率は2.6倍となる。故に、請求項7に記載の発明は、この点を明確化しており、体積比での植物片の混合割合が土の体積の2.5倍を超えないように調整することを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、複合軽量土の重量変化率であるところの軽量化比率(重量軽減率)を規定しており、原位置土の重量をρtとし、三者混合後の複合軽量土の重量をρmとしたとき、三者混合後の複合軽量土の重量変化率がρm/ρt≧0.5となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することを特徴とする。
【0020】
また、植物片を含んでいない複合土の破壊抵抗値を基準に、植物片を含んでいる複合軽量土の破壊抵抗値の割合を示すパラメータとして破壊抵抗値比率がある。植物片が含まれている複合軽量土の破壊抵抗値は、植物片が含まれていない複合土の破壊抵抗値の2倍以上の値を有することが実験により確認できたので、請求項9に記載の発明はこのことを明確化している。すなわち、請求項9に記載の発明は、上記複合軽量土に含まれる添加材がセメントまたはセメント系固化材であって、植物片が含まれている複合軽量土の破壊抵抗値が植物片が含まれていない複合土の破壊抵抗値の2倍以上となるように植物片の混合割合を調整することを特徴とする。
【0021】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、植物片を含む複合軽量土がpH8以上のアルカリ性を呈するならば、植物片に難腐朽性または絶腐朽性を付与して、腐朽に対する耐久性の付与ひいてはその腐朽防止を図ることが可能であり、植物片がもつ繊維質本来の機能を長期にわたって維持できるようになる。
【0022】
特に請求項2および3に記載の発明では、現位置土と添加材および植物片の三者の撹拌混合は、周回駆動されるエンドレスなチェーンに複数の撹拌混合翼を装着してなるトレンチャー式撹拌混合機を現位置土中に貫入して撹拌混合することで、三者が均質に撹拌混合されることとなり、複合軽量土の造成に際して例えば従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維混合補強土工法等と同等もしくは両工法の特徴を兼ね備えた機能を発揮させることが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、不要木材等を有効利用した上で、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維混合補強土工法等に代わる盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法に好適な複合軽量土の造成ができ、必要な強度および靱性等を確保しつつその増量効果をもって軽量化を達成できる。特に植物片にはpH8以上のアルカリ性の環境下で実質的に難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することができるので、植物片がもつ繊維質の機能を長期にわたって安定して維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】間伐材を破砕した木質片の状態を示す写真。
【図2】図1に示した木質片を大きさ別に分けたときの写真。
【図3】代表的な土のpH値とそれらの土に対するセメント系固化材の添加量との相関を示す特性図。
【図4】代表的な土に対してセメント系固化材を添加した場合のpH値の変動を示す特性図。
【図5】本発明に係る複合軽量土のより具体的な実施の形態を示す図で、土重量に対して特定の割合で木質片およびアルカリ性の添加材である高炉セメントを添加した時のイメージ図。
【図6】複合軽量土の湿潤密度と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図7】複合軽量土の一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図8】複合軽量土の圧縮ひずみと木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図9】複合軽量土の軽量化比率と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図10】複合軽量土の体積比率と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図11】複合軽量土の破壊抵抗値比率と木質片の添加割合との相関を示す特性図。
【図12】複合軽量土の一軸圧縮強さと圧縮ひずみとの相関を示す特性図。
【図13】一軸圧縮試験での供試体の破壊状況を示す写真。
【図14】同じく一軸圧縮試験での供試体の破壊状況を示す写真。
【図15】図9において、軽量化比率を指定して木質片の添加率を求めるときの説明図。
【図16】原位置施工による原土を用いて複合軽量土を造成する際のイメージ図。
【図17】複合軽量土の盛土を造成する際の施工手順を示す説明図。
【図18】図17に続く施工手順を示す説明図。
【図19】図18に続いてトレンチャー式の撹拌混合機にて撹拌混合する際の説明図。
【図20】図19に示したトレンチャー式の撹拌混合機の拡大説明図。
【図21】図20の左側面説明図。
【図22】図19に続く施工手順を示す説明図。
【図23】固化材の吐出を地中粉体吐出方式とした場合のシステムの概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
建設用途で複合軽量土を造成する場合、その長期耐久性を有する必要がある。本実施の形態での複合軽量土は、原位置土(土)とセメント等のアルカリ性の添加材と植物片とを混合して、所定の強度と靱性のほか、軽量性を併せ持たせたものである。植物片として間伐材、建築廃材等の不要木材をチップ状に粉砕した木質片を用いる場合、有機物である木質片の耐久性を確認しておく必要がある。ここでは、植物片として木質片(木材片)を用いる場合の耐腐朽性に関する評価を実施した。
【0026】
ここでの評価に用いる木質片は、杉、檜、雑木等の間伐材を工場内に設置したチッパーシュレッダーにより破砕してチップ状にしたものをふるい分けし、比較的大きなチップを除いた残砕である。その木質片径は0.01mm〜最大でも5mm程度、木質片長0.2mm〜15mm程度での範囲にある。この木質片のふるい分け試験結果(目合0.85〜5mmのふるい)を表1に、木質片の状況写真を図1,2にそれぞれ示す。なお、木質片の評価項目のうち、粒度試験はJIS A 1204(土の粒度試験)に、含水比試験はJIS A 1203(土の含水比試験)に、湿潤密度はJIS A 1104(土の密度試験)にそれぞれ準じた。
【0027】
【表1】
【0028】
表1から明らかなように、0.85〜2mmの粒径のものが全体の87.5%を占め、一般的に製紙原料やマルチング材に用いられている木材チップ材に比べて粒径が小さいものである。また、定量分析の結果、その組成はリグニン39.3%、セルロース35.5%、ヘミセルロース22.3%であった。さらに、その湿潤密度(かさ密度)は0.225g/cm3、含水比は47.5%であった。
【0029】
なお、ここでの木質片は、先にも述べたように、杉、檜、雑木等の間伐材を破砕してチップ状にしたものをふるい分けした上で、比較的大きなチップを除いた残砕としているが、杉、檜、雑木等は単に入手しやすい故に例示したに過ぎず、例えば松や竹のほかリグニンを多く含む草木類等も同様に用いることが可能であり、使用可能な植物片の種類を特に限定するものではない。
【0030】
木質片(木材)の主成分は、先にも述べたようにリグニン、セルロース、ヘミセルロースであり、セルロースとヘミセルロースはリグニンによりコーティングされている。したがって、木質片の耐久性はリグニンの耐久性であると言い換えることができる。リグニンは基本的に微生物に分解され難い物質であるが、複合軽量土として長期間使用する場合の耐腐朽性について確認しておく必要がある。
【0031】
本試験では、木材腐朽菌としてリグニンを分解する能力をもつ白色腐朽菌、セルロースとヘミセルロースを分解する褐色腐朽菌、主としてヘミセルロース(リグニンやセルロースを分解するものもある。)を分解する軟腐朽菌の代表的なものを選定し、木材腐朽菌のアルカリ域における耐性を評価するため、平板培養試験を行い生育性の確認をした。
1)試験で用いた寒天培地
グルコース、ペプトン、麦芽抽出物、寒天、蒸留水による寒天培地および炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)のアルカリ調整液によるアルカリ寒天培地を作成した。
2)木材腐朽菌の培養
1)で作成した寒天培地に木材腐朽菌を接種し、25℃で保存し、経時的に生育を観察した。
3)平板培養試験結果
白色腐朽菌による生育状況は表2に、褐色腐朽菌による生育状況は表3に、軟腐朽菌による生育状況は表4にそれぞれ示す。
【0032】
表中および以降の説明の記号は以下の通りである。
【0033】
・−:菌の生育なし
・+:菌が数個生育
・++:菌がプレート上に半分程度生育
・+++:菌がプレート全体に生育している
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
(1)弱酸性域における寒天培地の試料1(pH5.23)において、菌の接種7日後には、白色腐朽菌では(++)を確認。褐色腐朽菌および軟腐朽菌では(+++)を確認した。これは、いずれの腐朽菌においても木材の腐朽を示唆していることにほかならない。
【0038】
(2)白色腐朽菌に対する培養試験結果
・菌の接種7日後では、試料13(pH7.43)にて(+)を確認するが、試料9(pH8.20)、試料14(pH8.38)では(−)を確認した。
【0039】
・試料10(pH9.06)、試料3(pH10.34)では、菌の接種49日後であっても(−)を確認し、試料17(pH10.65)では菌の接種56日後であっても(−)を確認した。
【0040】
・白色腐朽菌は、pH8.2以上のアルカリ域に入ると生育がし辛くなる状態となり(難腐朽状態)、pH8.94で生育が見られず、pH10.34以上では長期間においても生育は見られなくなった。
【0041】
(3)褐色腐朽菌に対する培養試験結果
・菌の接種7日後では、試料3(pH10.34)にて(+)を確認するが、試料4(pH10.57)では(−)を確認した。
【0042】
・試料5(pH10.67)では、菌の接種49日後であっても(−)を確認し、試料17(pH10.65)では菌の接種56日後であっても(−)を確認した。
【0043】
・褐色腐朽菌は、pH10.57以上のアルカリ域に入ると生育がし辛くなり、pH10.67以上となると生育は見られなくなった。
【0044】
(4)軟腐朽菌に対する培養試験結果
・菌の接種7日後では、試料6(pH10.73)にて(+)を確認するが、試料7(pH10.87)では(−)を確認した。
【0045】
・試料5(pH10.87)では、菌の接種42日後であっても(−)を確認し、水酸化カルシウムによるpH10.65試料17にて菌の接種56日後であっても(−)を確認した。
【0046】
・軟腐朽菌は、pH10.65以上のアルカリ域にて生育は見られなくなった。
【0047】
(5)腐朽菌のアルカリ域における耐性試験総括
前述の試験により、腐朽菌の種類によって、腐朽菌が発生するアルカリ域に差異が生じることがわかる。一般に存在する木材の腐朽菌の90%以上が白色腐朽菌であるとも言われていることより、pH8以上のアルカリ域にて木質片は難腐朽状態となる。加えて、望ましくはpH10以上、より望ましくはpH11以上とすることにより、白色腐朽菌、褐色腐朽菌、軟腐朽菌のいずれにおいても発生しなくなる。取りも直さず、土(原位置土)とアルカリ性の添加材(セメント等の固化性を有するものを含む。)と木質片とを混合した複合軽量土をpH8以上とすることにより難腐朽の複合軽量土となり、加えて、pH10以上、より望ましくはpH11以上とすることにより、絶腐朽の複合軽量土となることが確認できた。
【0048】
(6)その他
・先に述べたセメントの主成分はCaOであり、土(原位置土)との混合により水酸化カルシウム系のアルカリ状態となる。耐アルカリ性の強い軟腐朽菌においても、pH10.65(試料17)にて生育の確認はできなかった。なお、軟腐朽菌は含水率100%以上の木材を好むため、地下水位以下の地盤材料として用いる場合には、pH11以上とすることで腐朽菌の発生は避けられる。
【0049】
・土の性状によって、土そのもののpH値(自然界では概ね6〜7の範囲にある)は異なる。
【0050】
次に、土の水素イオン指数(アルカリイオン指数)とアルカリ性の添加材との関係について説明する。
【0051】
まさ土、藤森粘土および関東ロームの3種類の土にアルカリ性の添加材としてセメント系固化材(商品名:タフロックTL−3)を0kg/m3、30kg/m3、50kg/m3、70kg/m3、100kg/m3と添加量を変化させた場合の土のpH値の変動(変化)を測定した。その結果を表5に示す。なお、盛土材料として一般的に使用されるまさ土に比べて、藤森粘土は有機物が多く酸化により強酸性を示している。また、関東ロームはローム土の特徴である弱酸性を示している。
【0052】
【表5】
【0053】
表5から明らかなように、セメント系固化材を添加する前のそれぞれの土のpH値は、まさ土で7.3、藤森粘土で3.3、関東ロームで6.3であったが、それらの土にセメントを30kg/m3添加したところ、pH値が3.03〜4.95上昇した。50kg/m3添加では、pH値が3.16〜5.66の上昇となった。なお、それぞれの土のpH値とセメント系固化材の添加量との相関特性を図3に示す。
【0054】
図3から明らかなように、いずれの土(原位置土)においても難腐朽材としての目安となるpH8以上とするためには、セメント系固化材を30kg/m3添加することで満足できている。また、強酸性土(pH3.3)であった藤森粘土を難腐朽材とするのに望ましいとされるpH10とするためには、セメント系固化材を86kg/m3添加すれば良いことがわかる。さらに、藤森粘土を絶腐朽材とするのに望ましいとされるpH11以上とするためには、セメント系固化材を118kg/m3以上、概ね120kg/m3以上添加すれば良いことがわかる。
【0055】
その一方、関東ロームではローム土の特徴であるアロフェンやハロイサイトが含まれることにより、pH値の上昇が抑えられる傾向にあるが、pH10以上とするにはセメント系固化材を64kg/m3添加すれば良く、pH11以上とするにはセメント系固化材を108kg/m3以上、概ね110kg/m3以上添加すれば良いことがわかる。さらに、まさ土においては、元々のpH値が比較的高く(pH7.3)、pH11以上とするにもセメント系固化材を50kg/m3添加すれば良いことがわかる。
【0056】
図4は、それぞれの土に対するセメント系固化材の添加量とそれに応じたpH値の変動との相関を示す特性図である。
【0057】
図4から明らかなように、強酸性土である藤森粘土は、セメント系固化材の添加量が少なくてもpH値の上昇が大きく、セメント系固化材を100kg/m3添加すればpH7.2の上昇が見られる。逆に、関東ロームは先にも述べたようにpH値の上昇は少なく、セメント系固化材を100kg/m3添加してもpH4.5の上昇が見られるだけであり、120kg/m3添加してもpH5の上昇が予測されるにすぎない。関東ロームのpH値は6〜6.5程度であり、これからみてもpH11以上とするには概ね120kg/m3のセメント系固化材の添加が必要となる。また、まさ土はセメント系固化材を100kg/m3添加してもpH3.9の上昇が見られるにすぎない。これは、まさ土の元々のpH値が7.3で弱アルカリ性であることに起因している。
【0058】
以上のことから、土(原位置土)の種類によってもpH値は大きく異なり、且つアルカリ性の添加材(セメント系固化材)に対する変動(上昇度合い)も異なることが本試験から理解できる。藤森粘土は強酸性であるが、pH値の上昇は大きく、関東ロームは弱酸性であるが、pH値の上昇は比較的緩やかとなっている。藤森粘土のpH値は一般的には自然界にあまり存在しない強酸性土であり、関東ロームもローム土としての特殊土に分類される。いずれの特殊土においてもアルカリ性の添加材(セメント系固化材)を50kg/m3添加すればpH8以上の難腐朽材となり、増量してアルカリ性の添加材を100kg/m3添加すればpH10以上の望ましい難腐朽材となる。さらに、アルカリ性の添加材を120kg/m3添加すればpH11以上の絶腐朽材となる。
【0059】
このように、複合土の原料となる原位置土(土)の性状によって、難腐朽または絶腐朽の耐腐朽材とするのに必要なアルカリ性の添加材の添加量は異なる。よって、複合土のpH値を8以上、望ましくは10以上、より望ましくは11以上とするにあたり、予め原位置土を採取してアルカリ性の添加材であるセメント系固化材とを撹拌混合し、施工前の事前試験にてpH値を測定した上でセメント系固化材の添加量を決定する。
【0060】
一方、複合土の用途によって必要となるところの一軸圧縮強さ、圧縮ひずみ等の強度特性や湿潤密度、体積比率等の物性特性(品質特性)は異なる。よって、セメント系固化材の添加量の決定にあたっては、難腐朽材としてのpH8以上、望ましくはpH10以上、絶腐朽材としてのpH11以上とするのに必要なセメント系固化材の添加量であって、且つ用途に応じた強度特性または物性特性の両面を満足させる添加量とする。ここでの難腐朽材と絶腐朽材の使い分けは、半年〜2年程度の使用期間となる仮設材的な使用の場合は難腐朽材でも良く、10年、20年と恒久的な使用に耐えさせるには絶腐朽材とすることが望ましい。
【0061】
なお、アルカリ性の添加材としては、先に述べたような固化性のあるセメント系固化材のほか、セメント、石灰あるいは石灰系固化材、さらには酸化マグネシウムや酸化マグネシウム系固化材等を用いることが可能である。
【0062】
ローム土は火山灰質粘性土と呼ばれるものであって、アロフェンやハロイサイトを含み、これらの物質はセメントに含まれるカルシウムイオンを吸着する性質を有する。また、アロフェンは非常に微細な気孔を多く含み、大きな比表面積を持ち、毛細管現象によって物理的に吸着・吸湿機能を有する。これらの機能が、セメントや石灰等を添加混合した場合にpH値の上昇(変動)を阻害する要因なっている。これらの特徴を示す代表的なローム土が関東ロームである。
【0063】
pH値の上昇が押さえられる関東ロームにおけるpH値の変動は、図4から明らかなように、セメント系固化材を50kg/m3添加加することでpH値が3.4だけ上昇し、120kg/m3の添加にてpH値が5.0だけ上昇することとなる。関東ロームのpH値は6弱〜6.5程度であり、図3から明らかなように、セメント系固化材を50kg/m3添加することでpH値が8以上の難腐朽状態となり、同様にセメント系固化材を120kg/m3添加すればpH値が11以上の絶腐朽状態となり、耐不朽性を確保することが可能となる。
【0064】
同様に、pH値が3.3と酸性の強い藤森粘土においても、そのpH値を10とするにはセメント系固化材を86kg/m3添加することで可能であり、pH値を11とするにはセメント系固化材を118kg/m3添加することで可能となる。
【0065】
上記より、多様な原位置土(土)と植物片とアルカリ性材料との混合による複合軽量土を難腐朽の目安であるpH8以上とするには、前述の通りアルカリ性材料の添加量を原位置土1m3当たり少なくとも50kg/m3以上とする必要がある。
【0066】
次に、アルカリ性の添加材としてセメントを用いた場合の複合軽量土の強度特性試験について室内試験を実施した。室内試験に用いた土は、複合軽量土の造成箇所より採取した原位置土(原土)である。
1)室内試験に用いた原材料
・原土の土質分類:シルト質砂
・原土の湿潤密度(重量):1715kg/m3
・原土の含水比:36.4%
・アルカリ性の添加材(固化材):高炉セメント(粉体状)
・木質片:表1および図1,2に示した木質片
2)配合計画
・木質片の添加量:原土の湿潤重量に対して0%、5%、10%、15%、20%添加の5種類とする。
【0067】
・高炉セメントの添加量:複合軽量土(Vcm=土+木質片+高炉セメント)1m3内に85kgの添加とする。
【0068】
図5は、原位置土(原土)重量に対して木質片20%の添加と、アルカリ性の添加材である高炉セメント85kg/m3(内割)が添加されて、複合軽量土(Vcm)1m3を構成するイメージ図であって、後述する表6および表7の試料(5)に相当するイメージ図を示す。
3)供試体の作成と試験方法
(1)供試体作製手順
(1−1)モールド、1.5kgランマー及びカラーを用いて複合軽量土を突固め、供試体を作製する。
【0069】
(1−2)突固め方法は、質量1.5kgのハンマーを20cmの高さから自由落下させ、3層で突固める。突固め回数は各層15回とする。
【0070】
(1−3)3層突固め後は、カラーを取り外してモールド上部の余分の土をストレージエッジで注意深く削り取る。砂粒などのために表面にできた穴は複合軽量土の細粒分で埋め、モールド上面と同じ高さになるように平滑に仕上げる。
【0071】
(1−4)供試体は温度20±3℃、湿度95%以上の恒温恒湿槽内あるいはこれに準じる条件で所定材齢まで密封養生をする。
【0072】
(2)試験方法(試験方法の規格)
土の一軸圧縮試験方法:JIS A 1216もしくは地盤工学会基準(JGS 0511−2000)による。土懸濁液のpH試験方法:地盤工学会基準(JGS 0211−2000)による。
4)試験結果
試験結果のほかデータより算出したそれぞれの値を表6および表7に示す。これらの表6,7において、試料番号(1)〜(5)は○囲み数字の1〜5で表示してあるほか、先に述べた高炉セメントは便宜上「固化材」と表示してある。
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
5)試験結果概要
(1)湿潤密度と重量比の変化
表6より、原土の湿潤密度(重量)は1715kg/m3であったが、アルカリ性の添加材であるセメントの添加(複合軽量土1m3内に85kgのセメント量を含む)により、試料(1)の複合軽量土(原土+セメント)の湿潤密度(重量)は1742kg/m3となった。これは、セメントが持つ固化性により、軟弱(ルーズ)な原土が固化処理されたことを示す。木質片の添加量が増加するのに伴い、試料(2)〜(5)の複合軽量土(いずれも、原土+木質片+セメント)の湿潤密度は1450〜1046kg/m3へと軽量化する結果が得られた。なお、表6における湿潤密度と木質片の添加割合との相関特性を図6に示す。
【0076】
表7より、体積変化率であるところの軽量化比率(複合軽量土の湿潤密度/原土の湿潤密度)においては、木質片が含まれない試料(1)の複合土では、わずかではあるが増加を示したが、木質片を含む試料(2)〜(5)の複合軽量土では、原土の湿潤密度に対して0.85〜0.61と木質片の割合が多くなるのに伴い軽量化されていることを示した。なお、表7における軽量化比率と木質片の添加割合との相関特性を図9に示す。
【0077】
(2)一軸圧縮強さ(qu)と圧縮ひずみ(ε)の変化
表6より、木質片が含まれていない試料(1)の複合土での一軸圧縮強さは572kN/m2、圧縮ひずみ0.77%であったが、木質片5%添加により一軸圧縮強さ665kN/m2、圧縮ひずみ1.63%と、一軸圧縮強さと圧縮ひずみ共に伸びて、木質片を混合した効果が見られる。以後、木質片の混合割合を10%、15%、20%と増やすのに伴い、一軸圧縮強さは601kN/m2、530kN/m2、487kN/m2とわずかに小さくなるものの、圧縮ひずみは2.79%、3.75%、4.51%と木質片の割合増加とともに伸びている。なお、表6における一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関特性を図7に示す。
【0078】
(3)破壊抵抗値と破壊抵抗値比率
造成土の持つ破壊抵抗値(強度)は、一般的には一軸圧縮強さ、曲げ強さ、引っ張り強さ等で表す。通常の安定処理土(造成土)では、一軸圧縮強さと圧縮ひずみは反比例するが、先に述べた公知の短繊維混合補強土工法では一軸圧縮強さと曲げ強さを兼ね備えた品質特性を示すことが特徴である(破壊抵抗エネルギーの大きい造成土とは、圧縮ひずみが大きく、靱性の高いものをいう。)。
【0079】
そこで、本実施の形態では、その造成土(複合軽量土)における一軸圧縮強さ(qu)と、一軸圧縮試験時における最大応力時のひずみ(圧縮ひずみε)と、の積(qu×ε)をもって破壊抵抗値(破壊抵抗係数)と定義する。なお、試料(1)と試料(5)における一軸圧縮強さと圧縮ひずみとの相関特性を図12に示す。図12における斜線部の面積が破壊抵抗エネルギー(破壊抵抗値)に相当する。
【0080】
表6,7より、(2)の「一軸圧縮強さ(qu)と圧縮ひずみ(ε)との積の変化」を破壊抵抗値として説明するならば、試料(1)の複合軽量土は440(572×0.77)であるが、試料(2)は1084、試料(3)は1676、試料(4)は1988、試料(5)は2195と、木質片の割合増加とともに破壊抵抗値も増加している。これは、木質片が複合軽量土の引っ張り強度を高めていることを示し、靱性の高い複合軽量土となったことを意味する。なお、これらの破壊抵抗値と木質片の添加割合との相関特性を図11に示す。
【0081】
本発明の複合軽量土の特徴は、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法と短繊維混合補強土工法の両工法の特徴である軽量性と靱性を併せ持つところにあるといえる。すなわち、発泡ビーズ混合軽量土工法では軽量性は期待できても靱性の向上は期待できず、他方、短繊維混合補強土工法では繊維混合量は原土に対する乾燥重量比で0.1〜数%程度であることから軽量性の期待はできず、結果として本発明は両工法の特徴である軽量性と靱性を併せ持つところに特徴があるといえる。
【0082】
図13,14は先の一軸圧縮試験における供試体の破壊状況を示す写真である。図13は木質片が無添加の複合土の場合であり、供試体が裂けるように破壊していて供試体としての一軸圧縮強さはあるが、脆さがうかがえる。他方、図14は木質片20%添加の複合軽量土の場合であり、図13に示したような裂けるような破壊はなく、木質片による引っ張り抵抗の寄与がうかがえる。そして、この引っ張り抵抗が複合軽量土としての靱性の増加に貢献しているものと推測される。
【0083】
(4)水素イオン濃度の変化
表6より、試料(1)〜(5)のいずれの供試体においてもpH11以上を示し、前述での腐朽菌の生育試験における絶腐朽領域に達している。これは、自然の木質片が繊維混合補強土工法における繊維や発泡ビーズ混合軽量土工法における発泡ビーズに代わるものとして使用可能であって、高靱性複合土および軽量化複合土のいずれにおいても難腐朽材もしくは絶腐朽材となったといえる。
6)その他(特性評価)
本実施の形態での複合軽量土は、従来の短繊維混合補強土工法や発泡ビーズ混合軽量土工法に使用されている化石燃料を原料とする繊維や発泡ビーズに換えて、間伐材や竹等の自然の植物片(木質片)を靱性材や軽量材として用いようとするものである。これらの総合的な裏付けとして、図6〜図11をもって説明する。図6,7および図9,11が何を示す図であるかは先に述べたとおりである。図8は、表6における圧縮ひずみと木質繊維の添加割合との相関特性を示す図であり、図10は表7における体積比率と木質片の添加割合との相関特性を示す図である。なお、図中の破線部は、試験の結果よりシュミレーションしたものであって、それぞれの特徴の限界値を示すものである。
【0084】
(1)木質片を軽量化材として使用して複合軽量土とする場合、複合軽量土の湿潤密度(複合材重量)が1000kg/m3以上にすることが重要である。これは、軽量化した複合軽量土が地下水位以下となっても浮き上がらないことを意味する。
【0085】
図6より、木質片30%添加時における複合軽量土の推定湿潤密度は、960kg/m3とわずかに1000kg/m3を下回っている。しかし、本試験で用いた木質片の含水比が約47.5%であったことと、経時変化による木質片の吸水を考慮すれば、原土重量(湿潤密度)比30%が木質片の添加上限といえる。また、軽量化を目的とする複合土の場合には、図6,図9の相関曲線でも明らかなように、木質片30%添加にてほぼ水平となり重量変化(軽量化比率)の限界を示している。この点から見ても、原土重量(湿潤密度)比30%が木質片の添加上限といえる。
【0086】
(2)さらに、図10から明らかなように、前述での木質片の添加率上限を30%としたときに、複合軽量土の体積比率は2.6倍程度となるものと推測される。故に、本発明の実施にあたっては2.5倍以下とすることが望ましい。
【0087】
(3)木質片の添加率上限を30%とするのは、前述の軽量化比率の限界や図11で示す相関曲線での破壊抵抗値比率においてもほぼ限界を示している。これは、これ以上の木質片を添加しても軽量性、靱性度のいずれにおいてもそれ以上の効果がなくなることを示唆している。物理特性、強度特性からみても2.5倍以下とすることが複合軽量土にとって望ましいといえる。
【0088】
(4)図11の破壊抵抗値比率とは、表7にも示すように、木質片を含まない複合土の破壊抵抗値C1を基準としたときの木質片を含んだ複合軽量土の破壊抵抗値C2の割合、すなわちC1/C2を示すものである。木質片5%添加では2.46倍を示し、15%添加までは直線的に上昇している。また、図11から明らかなように、木質片20%添加では破壊抵抗値比率は概ね5倍であるが、伸びの収束域に入り、木質片30%添加では5.2倍にてほぼ横ばい状態となっている。この点から見ても、木質片の上限添加率は30%といえる。
【0089】
(5)複合軽量土の下限値を示すにあたり、図7の一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関図より一軸圧縮強さがピークになるときの、一軸圧縮強さ715kN/m2と木質片の添加率2%を求める。図8の圧縮ひずみと木質片との相関図より木質片2%添加時における圧縮ひずみ1.2%を求める。以上により、木質片2%添加時における破壊抵抗値C1は715×1.2=858となる。よって、本発明による破壊抵抗値比率の下限値は858/440=1.95≒2.0となる。言い換えるならば、複合軽量土の強度特性における木質片の添加率下限は原土重量(湿潤密度)比2%と言える。
【0090】
(6)図7は、一軸圧縮強さと木質片の添加割合との相関特性を示す図である。木質片2%(実試験では5%)添加をピークに木質片の増加とともに一軸圧縮強さは減少している。しかし、図8では、圧縮ひずみは直線的に伸びている。これは、複合軽量土の破壊抵抗を増すものであって、複合軽量土の靱性が上昇していると言える。少なくとも、複合軽量土に及ぼす応力を複合軽量土の圧縮応力(一軸圧縮強さ)を超えない範囲(場合によっては、設計最大応力を圧縮応力(一軸圧縮強さ)の50%以内にて利用する。)にて利用する場合には、木質片を添加したほうが、破壊抵抗の面からより安全と言える。
【0091】
(7)破壊抵抗値の増加割合を示す指標として、木質片を含んだ試料(2)〜(5)の複合軽量土の破壊抵抗値(C2)を木質片が含まれていない試料(1)の複合軽量土の破壊抵抗値(C1)にて除した値(C2/C1)を破壊抵抗値比率とすることは先に述べた。該破壊抵抗比率では、図11に示すように、木質片2%添加にて概ね2.0(推定値)、木質片5%添加にて2.46となり、木質片20%添加では4.98となっている。つまり、複合軽量土に含まれるセメントの添加量は85kg/m3(内割)といずれの試料も同量であるが、木質片が含まれていない複合土よりも木質片が含まれた複合軽量土の方が、破壊抵抗値が大きくなっている。加えて、木質片の割合増加に伴い試料(1)よりも試料(5)の破壊抵抗値は概ね5倍となっている。
【0092】
以上のことから、本実施の形態での複合軽量土は、木材腐朽菌に対する耐久性を有していることはもちろんのこと、強度(一軸圧縮強さ)、靱性(破壊抵抗値)および増量効果による軽量性等において十二分に実用レベルに達しており、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維補強土工法等との特徴を兼ね備えた複合軽量土として盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法等に適用できることが確認できた。
【0093】
次に、いわゆる原位置施工での複合軽量土の造成手順について、軟弱な地盤上に盛土高さ2mの軽量盛土を施す場合を例にとって説明する。
1)施工条件
・使用するアルカリ性の添加材:高炉セメント(粉体状)
・使用する木質片:杉材の間伐材をチップ状にした木質片
・原位置土の湿潤密度(重量):1500kg/m3
・複合軽量土の目標湿潤密度(重量):1000kg/m3
・高炉セメントの添加量:85kg/m3(複合軽量土1m3当たりに含まれる高炉セメントの添加量)
なお、ここに言う高炉セメントの添加量は、盛土体としての必要な強度(一軸圧縮強さ、破壊抵抗値等)を満足し、尚且つ複合軽量土の耐腐朽性を維持できるpH値11以上となることが予め室内試験にて確認された添加量である。
2)木質片の添加率と混合深度
(1)軽量化比率と木質片の添加割合との相関特性を示す図9より、
軽量化比率=1000/1500=0.666≒0.67
となる、木質片の添加率を求める。
【0094】
図15より、木質片の添加率は、原土の重量に対して15%とする。
【0095】
(2)体積比率と木質片の添加割合との相関特性を示す図10より、木質片15%時における体積比率を求めることもできるが、原土の体積Vに対する複合軽量土の体積Vcmの割合であり、下記式により求めても良い。
【0096】
体積比率Vcm/V=
(ρt/ρcm)×{(1+αw)/(1−c/ρcm)}
ここで、
V:原土の体積
Vcm:複合軽量土の体積
ρt:原土の湿潤密度(重量)
ρcm:複合軽量土の湿潤密度(重量)
αw:木質片の添加率
c:高炉セメントの添加量
上記式より、
体積比率=(1500/1000)×{1+(15/100)}/{(1−(85/100)}
=1.885≒1.89となる。
【0097】
なお、室内試験では、体積比率は1.88であった(表7参照)。
【0098】
(3)体積比率を1.89とした時における、盛土高さ2mを確保するに必要な改良深度hを求める。なお、そのイメージを図16に示す。なお、符号G1は改良域における原土(原位置土)を、符号G2は原土G1のほか高炉セメントと木質片との撹拌混合により造成された複合軽量土層を、Mはその複合軽量土層G2をもって構成された盛土をそれぞれに示す。
【0099】
図16より、
1.89h≧2+h
∴ h≧2.247m
よって、改良深度h≒2.3mとする。
【0100】
(4)上記(3)より、区割1m3あたりに必要な主要材料を求める。
【0101】
原土重量:1500kg/m3×2.3m×1m3=3450kg
木質片の重量:3450kg×15/100=517.5≒518kg
高炉セメント添加量:複合軽量土(原土+木質片+高炉セメント)1m3内に85kg添加とするときの1m2あたりに必要な高炉セメントの添加量を求める。
【0102】
高炉セメント添加量=(複合軽量土総重量)−(原土重量+木質片の重量)
(高炉セメント添加量=(1000kg/m3×2.3×1.89×1m2)−(3450kg+518kg)=379kg/m2
この添加量を1m3当たりに割り戻すと、379/4.3=88kg/m3となる。
【0103】
よって、複合軽量土1m3内に88kg(≧85kg)の固化材を添加することとなる。
【0104】
(5)主要材料のまとめ
原土(原位置土)1m2あたり、木質片を518kg、高炉セメント379kgを用いて、原地盤より2.3mの深度を原位置撹拌混合することにより、盛土高さ2mの木質片による複合軽量土G2の盛土Mが造成されることになる。
【0105】
ここで、これまでの例ではアルカリ性の添加材として高炉セメントを用いた場合について説明したが、土質等に応じて高炉セメント以外の各種セメントのほか、セメント系固化材、さらには生石灰、消石灰および石灰系固化材を用いることも可能であることは言うまでもない。
3)次に、1区画を10m2とする場合の施工手順を以下に示す。
【0106】
(1)必要な主要材料
・造成される複合軽量土:(2+2.3)×10=43m3
・固化材(高炉セメント):379×10=3790kg≒3.8t
・木質片:518×10=5180kg≒5.2t
(2)土堰堤の造成
造成箇所に、例えば図17に示すように、バックホウ1を用いて周辺の土砂あるいは客土により所定高さの一対の土堰堤D1,D2を造成する。この土堰堤D1,D2の高さは、原位置土と木質片と固化材(高炉セメント)とを撹拌混合するときに、それらが造成箇所以外に飛散や流出しない高さとする。前述した室内試験に用いた木質片のかさ密度は約0.22t/m3であった。土堰堤D1,D2の高さを、少なくとも使用する木質片の相当高さとする場合の高さは下記のとおりである。
【0107】
(5.2/10)/0.22=2.36m
よって、原地盤より約2.4mの高さの土堰堤D1,D2を造成する。
【0108】
(3)木質片の敷き均し
土堰堤D1,D2が造成されたならば、図18に示すように、袋詰めされた所定量の木質片Wをバックホウ(クレーン様式)1等にて対向する土堰堤D1,D2同士の間の空間に投入し、解袋した上で均一に敷き均す。木質片Wの袋詰めは1.5〜3.0m3/袋(0.33〜0.66t/袋)であり、1区画あたり8〜16袋の木質片Wが使用される。また、ここで使用する木質片Wは、先にも述べたように杉、檜、ブナ等の間伐材や家屋の解体や建築廃材から発生する木材をチップ化(木質片化)したものであっても良い。さらに、孟宗竹、真竹等の竹類を粉砕して植物片化したものであっても良い。
【0109】
(4)固化材の散布
固化材の散布は、木質片Wの敷き均し後に所定量の固化材(高炉セメント)を木質片W上に散布、敷き均しする。なお、固化材の散布は木質片Wの敷き均し前であってもよい。この実施例での固化材の荷姿は、ローリー車(約10t/車)、フレキシブルコンテナバッグ(1t/袋)、紙袋(25kg/袋)のいずれであってもよい。造成箇所への入荷をローリー車とする場合には、10m2当たり3.8tとなるように検収枡による小分け作業をして均一な散布をする。また、フレキシブルコンテナバッグを用いる場合には、4/0.379=10.55≒10.5m2として造成面積を変更して使用材料の均一を図る。
【0110】
(5)原位置土、木質片、固化材の撹拌混合
固化材の散布、敷き均しに続いて、図19に示すように、撹拌混合手段として例えばトレンチャー式の撹拌混合機4を貫入して原位置土G1を垂直方向に掘削しつつ撹拌混合するとともに、当該撹拌混合機4を水平方向にも移動させて、掘削した現位置土G1、木質片Wおよび固化材の三者を均質となるように撹拌混合する。原位置土G1の撹拌混合深度の誤差は、原位置土量(原土量)と木質片Wと固化材(高炉セメント)との複合割合が変わることとなり、複合軽量土の特徴である軽量化比率、体積比率、破壊抵抗値比率の変化となる。よって、撹拌混合深度の施工管理には、十分留意したう上で原位置土G1と木質片Wと固化材とを入念に撹拌混合をする。ここでの撹拌混合にあたり、トレンチャー式の撹拌混合機4を用いることにより、品質特性の異なる原位置土G1と木質片Wおよび固化材のそれぞれの原材料が互層状態となっているが、トレンチャー式撹拌混合機の縦撹拌(垂直撹拌)により均質な撹拌混合が可能となる。
【0111】
ここで使用するトレンチャー式の撹拌混合機4は、例えば汎用型のバックホウをベースマシンとして用い、図17,18に示したようなバケット2に代えてバックホウ3のアーム5に支持させたものである。そして、トレンチャー式の撹拌混合機4は、図20,21に示すように、例えば角柱状のフレーム6の上下に支持させた駆動輪7と従動輪8との間にエンドレスなドライブチェーン9を巻き掛けるとともに、そのドライブチェーン9に所定幅寸法の多数の撹拌混合翼10を所定のピッチで装着したもので、油圧モータ11駆動の駆動輪7の起動によりそれらの撹拌混合翼10がドライブチェーン9とともに上下方向に周回駆動され、結果として原位置土G1が垂直方向に掘削されながら、その原位置土G1、木質片Wおよび固化材(高炉セメント)の三者が撹拌混合されて、先に述べた複合軽量土G2(図22参照)と化することになる。
【0112】
なお、かかるトレンチャー式の撹拌混合機4は、例えば本出願人による特開2005−307675号公報等において公知である。また、原位置土G1の土質によっては、高炉セメントに代えて、粉体状の高炉セメントと水とを予め混練りしたいわゆる固化材スラリを用いることも可能である。その場合には、トレンチャー式の撹拌混合機4の先端における図示外の吐出ノズルから固化材スラリを原位置土中に吐出しながら撹拌混合することになる。
【0113】
(6)複合軽量土の敷き均しおよび転圧
撹拌混合処理により複合軽量土G2が造成されたならば、図22に示すように、速やかに複合軽量土G2を敷き均し整正・転圧をする。転圧は、バックホウ1のバケット2により行う。複合軽量土G2の造成深度によっては、最上部からの転圧のみでは所定の密度が得られにくく、品質に影響を及ぼすこともある。本実施例では、複合軽量土G2の造成深度が4.3mであることからして、4層に分割して転圧(概ね1m/層の転圧)することで複合軽量土G2としての品質を得ることとする。以上をもって、土堰堤D1,D2とともに複合軽量土G2による盛土M1が造成されたことになる。
【0114】
(7)固化材の別の供給方法
固化材(高炉セメント)の供給方法として、前述の表面散布に変えて、粉体状の固化材を空気圧送し、地中に吐出させて撹拌混合するいわゆる地中粉体吐出方式を採用することも可能である。その一例を図23に示す。
【0115】
(7−1)固化材サイロ22に貯留されている粉体状の固化材を粉体供給機20の加圧タンク(約800〜1000kg収容)21A,21Bのうちいずれか一方の加圧タンク、例えば加圧タンク21Aに投入する。
【0116】
(7−2)投入後、固化材の投入口を閉じ、加圧タンク21Aにコンプレッサー23から圧縮空気を送り、加圧タンク21A内を加圧する。
【0117】
(7−3)加圧タンク21A内の加圧終了後、加圧タンク21Aの下部のロータリーバルブを開き、流量計にて固化材吐出量を計量しながらトレンチャー式攪拌機4の先端部まで空気圧送し、図示外の固化材吐出口から原位置土中に吐出させる。
【0118】
(7−4)一方の加圧タンク21A内の固化材がなくなるまでに、もう一方の加圧タンク21Bへの固化材の投入と加圧タンク21B内の加圧を終える。
【0119】
(7−5)先に吐出させた加圧タンク21A内の固化材が吐出終了すると同時に、もう一方の加圧タンク21B内の固化材を先の場合と同様に吐出させる。この繰り返しにより、粉体状の固化材は、連続的に地中内へ吐出される。
【0120】
(7−6)撹拌混合機4の先端部より地中吐出させならが、原位置土の所定深度まで撹拌混合する。
【0121】
(7−7)この方式では、連続的に計量しながらの地中吐出による撹拌混合であり、前述のローリー車、フレキシブルコンテナバッグ、紙袋による固化材の表面散布方式よりも、固化材の撹拌混合が均質となるとともに、一区画の造成面積による材料ロスは小さくなる。なお、本方式の粉体供給機20は例えば特開平10−292363号公報に記載されている公知のものである。
【0122】
このような施工手順によれば、起動性に優れたバックホウ3をベースマシンとするトレンチャー式の撹拌混合機4を用いることで、原位置施工にて複合軽量土G2による盛土M1を容易に造成することが可能となる。
【0123】
また、先にも述べたように、不用木材等を有効利用した上で、従来の発泡ビーズ混合軽量土工法や短繊維混合補強土工法等に代わる盛土荷重軽減工法あるいは軽量盛土工法に好適な複合軽量土を得ることができるほか、必要な強度および靱性等を確保しつつその増量効果をもって軽量化をも達成できるようになる。特に木質片WにはpH8以上のアルカリ性の環境下で実質的に難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することができるので、木質片Wがもつ繊維質の機能を長期にわたって安定して維持できる利点がある。
【0124】
ここで、本発明は、pH8以上、望ましくはpH10以上、より望ましくはpH11以上とすることで植物繊維を難腐朽もしくは絶腐朽とする、ことを主旨としている。よって、本発明に使用する固化材は、実施例で述べた高炉セメントのみならず、セメントおよびセメント系固化材のいずれであってもよい。また、生石灰、消石灰および石灰系固化材であっても良く、場合によってはマグネシウム系の固化材であってもよい。
【符号の説明】
【0125】
4…トレンチャー式の撹拌混合機
G2…複合軽量土(複合軽量土層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を下記(ア),(イ)の条件のもとで撹拌混合して、三者混合後の水素イオン指数がpH8以上のアルカリ性を呈する複合軽量土を造成することを特徴とする原位置施工おける複合軽量土の造成方法。
(ア)原位置土の重量をρtとし、植物片の重量をρwとしたとき、両者の混合割合がρw=0.02〜0.3ρtであること。
(イ)原位置土の体積1m3当たりの添加材の混合割合が少なくとも50kg以上であること。
【請求項2】
撹拌混合手段を原位置土中に貫入して、原位置土を掘削しながら当該原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を撹拌混合することを特徴とする請求項1に記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項3】
上記撹拌混合手段は、周回駆動されるエンドレスなチェーンに複数の撹拌混合翼を装着してなるトレンチャー式撹拌混合機であることを特徴とする請求項2に記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項4】
三者混合後の水素イオン指数がpH10以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項5】
三者混合後の水素イオン指数がpH11以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項6】
三者混合後の複合軽量土の重量ρmがρm≧1000kg/m3となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項7】
体積比での植物片の混合割合が原位置土の体積の2.5倍を超えないように調整することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項8】
原位置土の重量をρtとし、三者混合後の複合軽量土の重量をρmとしたとき、三者混合後の複合軽量土の重量変化率がρm/ρt≧0.5となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項9】
添加材がセメントまたはセメント系固化材であって、
植物片が含まれている複合軽量土の破壊抵抗値が植物片が含まれていない複合土の破壊抵抗値の2倍以上となるように植物片の混合割合を調整することを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項1】
原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を下記(ア),(イ)の条件のもとで撹拌混合して、三者混合後の水素イオン指数がpH8以上のアルカリ性を呈する複合軽量土を造成することを特徴とする原位置施工おける複合軽量土の造成方法。
(ア)原位置土の重量をρtとし、植物片の重量をρwとしたとき、両者の混合割合がρw=0.02〜0.3ρtであること。
(イ)原位置土の体積1m3当たりの添加材の混合割合が少なくとも50kg以上であること。
【請求項2】
撹拌混合手段を原位置土中に貫入して、原位置土を掘削しながら当該原位置土とアルカリ性の添加材および植物片の三者を撹拌混合することを特徴とする請求項1に記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項3】
上記撹拌混合手段は、周回駆動されるエンドレスなチェーンに複数の撹拌混合翼を装着してなるトレンチャー式撹拌混合機であることを特徴とする請求項2に記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項4】
三者混合後の水素イオン指数がpH10以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項5】
三者混合後の水素イオン指数がpH11以上のアルカリ性を呈するように添加材の混合割合を調整して、植物片に対する難腐朽効果または絶腐朽効果を付与することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項6】
三者混合後の複合軽量土の重量ρmがρm≧1000kg/m3となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項7】
体積比での植物片の混合割合が原位置土の体積の2.5倍を超えないように調整することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項8】
原位置土の重量をρtとし、三者混合後の複合軽量土の重量をρmとしたとき、三者混合後の複合軽量土の重量変化率がρm/ρt≧0.5となるように添加材および植物片のそれぞれの混合割合を調整することを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【請求項9】
添加材がセメントまたはセメント系固化材であって、
植物片が含まれている複合軽量土の破壊抵抗値が植物片が含まれていない複合土の破壊抵抗値の2倍以上となるように植物片の混合割合を調整することを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の原位置施工における複合軽量土の造成方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図1】
【図2】
【図13】
【図14】
【図4】
【図5】
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【図10】
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【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図1】
【図2】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−174227(P2011−174227A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37002(P2010−37002)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(508155882)株式会社三木地盤環境工学研究所 (3)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【出願人】(000140694)株式会社加藤建設 (50)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(508155882)株式会社三木地盤環境工学研究所 (3)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【出願人】(000140694)株式会社加藤建設 (50)
【Fターム(参考)】
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