説明

原子力プラントの水素処理設備

【課題】低酸素濃度環境における水素処理性能を向上できる原子力プラントの水素処理設備を提供する。
【解決手段】原子力プラントの水素処理設備は、触媒式水素処理設備であり、板状の複数の触媒カートリッジ5をケーシング内に配置している。ケーシング内には、複数の触媒カートリッジ5で仕切られた複数のガス通路9が形成される。各触媒カートリッジ5は、酸素吸蔵・放出材7で作られた担体部材6の表面に、触媒金属(白金)8を担持して構成される。水素処理設備は窒素ガスが充填された原子炉格納容器内に配置される。冷却材喪失事故時に、原子炉圧力容器に接続された配管に生じたき裂から原子炉格納器内に放出された蒸気及び水素を含む窒素ガスがガス通路9に供給される。ガス通路9に流入した窒素ガスに含まれる水素は触媒金属8の作用により酸素吸蔵・放出材7から放出された酸素と反応して水を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントの水素処理設備に係り、特に、沸騰水型原子力プラントの原子炉建屋内に配置するのに好適な原子力プラントの水素処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の安全設計において設計基準事象として考慮している冷却材喪失事故では、原子炉圧力容器内の高温高圧の冷却水が、原子炉圧力容器に接続された配管等の破断箇所から高温の蒸気になって原子炉格納容器内に放出される。原子炉圧力容器内の炉心に装荷されている燃料集合体の燃料棒の温度が上昇し、燃料棒の被覆管のジルコニウムと水が反応して水素ガスが発生する。この水素は、配管破断箇所から蒸気と共に原子炉格納容器内に放出される。また、配管破断箇所から原子炉格納容器内に放出された放射性物質が圧力抑制プールへ流入し、水の放射線分解によって水素ガス及び酸素ガスが発生することが想定されている。
【0003】
このような事象への対策として、圧力抑制室を有する原子炉格納容器を採用している沸騰水型原子力プラントでは、運転中、原子炉格納容器内の雰囲気が窒素ガスに置換されている。さらに、冷却材喪失事故の発生に備えて、原子炉格納容器と配管で接続されている加熱式水素処理設備が設置されている。冷却材喪失事故が発生したときには、ブロアの駆動により原子炉格納容器内の水素及び酸素を含むガスを加熱式水素処理設備に供給し、加熱式水素処理設備の電気ヒーターによる加熱により水素と酸素を再結合させて水蒸気に変換する。
【0004】
一方、近年では、受動的安全性に優れ、外部動力を必要としない触媒式の水素処理設備が開発されている。この触媒式水素処理設備の一例が、特開平10−227885号公報に記載されている。触媒式水素処理設備は、水素と酸素を反応させる触媒、及び触媒を収納するチムニを有し、原子炉格納容器内の、原子炉圧力容器が配置されるドライウェル、及び圧力抑制室に配置される。触媒層の上端からチムニ出口部までの高さが触媒層の高さの2倍以上で、チムニ出口部の流路面積がチムニ入口部の流路面積の25%以上になっている。
【0005】
原子炉格納容器内において、水素及び酸素を含む、触媒式水素処理設備の周囲に存在するガスが、チムニ入口部からチムニ内の触媒層に流入する。水素及び酸素は、触媒表面で化学反応を生じて再結合され、水になる。この化学反応は発熱反応であり、発熱により触媒層内のガスが温められ、触媒層内で上昇流が発生する。温められたガスは、触媒層から流出してチムニ出口部から触媒式水素処理設備外に排出される。この結果、チムニ内が負圧になり、新たなガスが下端部のチムニ入口部からチムニ内の触媒層に流入し、触媒層内で水素と酸素が反応する。これらのプロセスを繰り返し、触媒式水素処理設備の周囲に存在するガスが水素及び酸素を含んでいる場合に、触媒式水素処理設備は触媒により水素を処理しながら循環流を形成し、ガスに含まれる水素を連続的に処理する。
【0006】
また、触媒式水素処理設備を、原子炉建屋内で原子炉格納容器外に配置した例が、特開2009−69122号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−227885号公報
【特許文献2】特開2009−69122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
冷却材喪失事故時に放出される水素は、触媒式水素処理設備により電源が喪失した状況においても処理される。しかし、触媒式水素処理設備に供給されるガスに水素と共に酸素が含まれていないと、触媒式水素処理設備による水素処理が行われない。例えば、原子炉格納容器内の雰囲気が窒素ガスに置換されている場合、原子炉格納容器内の酸素ガス濃度は可燃限界濃度(〜5%以下)を下回るように調節されている。このような酸素ガス濃度が低い環境に触媒式水素処理設備を配置した場合には、この触媒式水素処理設備は、酸素が存在するうちは水素を継続的に処理することができるが、酸素がなくなると水素の処理を停止する。酸素がなくなるため、水素爆発の危険は回避されるが、潜在的に爆発危険性のある水素を例えば、原子炉格納容器内にそのまま放置することは好ましくない。
【0009】
発明者らは、触媒式水素処理設備において、周囲の酸素濃度が低下した場合においても水素処理をできるだけ維持できる方法について検討を行った。その結果、周辺環境の酸素濃度に応じて、酸素の吸蔵・放出能力のある材料に、水素と酸素を反応させる触媒金属を担持させることにより、低酸素濃度環境に触媒式水素処理設備を配置した場合においても触媒式水素処理設備の水素処理性能を向上できることを見出した。同時に、可燃限界濃度以下の酸素濃度を原子力プラントの水素が存在する環境に供給することにより、水素爆発の危険性を回避しつつ、効率良く水素処理を維持できることを見出した。
【0010】
本発明の目的は、低酸素濃度環境における水素処理性能を向上できる原子力プラントの水素処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、ガス流入口を下端部に形成してガス排出口を上端部に形成したケーシングと、そのケーシング内に配置され、酸素吸蔵・放出材を含む担体部材の酸素吸蔵・放出材の表面に、水素と酸素を反応させる触媒金属を担持している複数の触媒カートリッジとを備え、
前記複数の触媒カートリッジによって前記ケーシング内に前記ガス流入口及びガス放出口に連絡される複数のガス通路を形成していることにある。
【0012】
触媒カートリッジが酸素吸蔵・放出材を含む担体部材の酸素吸蔵・放出材の表面に触媒金属を担持しているので、酸素吸蔵・放出材から放出される酸素を水素との反応に利用することができ、低酸素濃度環境における水素処理設備の水素処理性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低酸素濃度環境における水素処理設備の水素処理性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの水素処理設備の構成図である。
【図2】図1に示す水素処理設備の触媒カートリッジ配置領域の縦断面図である。
【図3】図2に示す触媒カートリッジの拡大縦断面図である。
【図4】触媒カートリッジの酸素吸蔵・放出材の機能を示す説明図である。
【図5】触媒カートリッジの他の例における拡大縦断面図である。
【図6】実施例1の原子力プラントの水素処理設備において、触媒カートリッジに用いられた酸素吸蔵・放出材による効果を示す説明図である。
【図7】本発明の好適な一実施例である実施例2の原子力プラントの水素処理設備の構成図である。
【図8】実施例2の原子力プラントの水素処理設備において、触媒カートリッジに用いられた酸素吸蔵・放出材による効果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、低酸素濃度環境に配置された触媒式水素処理設備における水素処理性能の低下を抑制できる対策について検討を行った。その結果、周囲の雰囲気の酸素濃度に応じて酸素を吸蔵したり、放出したりすることができる材料として、例えば、希土類元素の酸化物、希土類元素とその他の金属との複合化合物、セリウム酸化物、セリウム-ジルコニウム複合酸化物、酸化マンガンを含む化合物、鉄酸化物、クロム酸化物、バナジウム酸化物、銅酸化物、及び銀酸化物のうち、少なくとも1種の酸化物を用い、この酸化物の表面に水素と酸素を反応させる触媒金属を担持させることが有効であることを見出した。また、触媒金属としては、貴金属が適しており、白金及びパラジウムなどの貴金属のうち、少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0016】
以上の検討結果を反映した本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの水素処理設備を、図1、図2及び図3を用いて説明する。
【0018】
本実施例の原子力プラントの水素処理設備1は、触媒式水素処理設備であり、ケーシング2及び複数の触媒カートリッジ5を有する。複数の板状の触媒カートリッジ5が、ケーシング2の下部でケーシング2内に平行に並んで配置されている(図2参照)。ケーシング2内には、複数の板状の触媒カートリッジ5で仕切られた複数のガス通路9が形成されている。これらのガス通路9は、ケーシング2の下端に形成されたガス流入口に連絡される。ケーシング2の上端部に形成されるガス流出口4も、各ガス通路9に連絡される。
【0019】
各触媒カートリッジ5は、酸素吸蔵・放出材7で作られた担体部材6の表面、すなわち、酸素吸蔵・放出材7の表面に、水素と酸素を反応させる触媒金属8を担持して構成される。触媒金属8は、ナノオーダーの大きさの粒状で担体部材6の表面に担持されている。本実施例では、酸素吸蔵・放出材7としてセリウム-ジルコニウム複合酸化物を用いており、担体部材6がセリウム-ジルコニウム複合酸化物で構成される。担体部材6は、セリウム-ジルコニウム複合酸化物以外に、希土類元素の酸化物、希土類元素とその他の金属との複合化合物、セリウム酸化物、酸化マンガンを含む化合物、鉄酸化物、クロム酸化物、バナジウム酸化物、銅酸化物、及び銀酸化物のうち、少なくとも1種の酸化物を用いて構成しても良い。本実施例では、触媒金属8として白金を用いている。触媒金属8には、パラジウムを用いても良いし、白金及びパラジウムを用いても良い。
【0020】
触媒金属8の表面積を増大させるためには、担体部材6は多孔質体であることが好ましい。本実施例では、担体部材6は、酸素吸蔵・放出材7の多孔質体である。
【0021】
本実施例の水素処理設備1は、例えば、沸騰水型原子力プラントの原子炉格納容器内に配置される。また、原子炉格納容器が設置される原子炉建屋内で原子炉格納容器の外側領域に、水素処理設備1を設置しても良い。
【0022】
原子炉格納容器内には原子炉圧力容器が配置されている。原子炉圧力容器に接続された主蒸気配管は、原子炉格納容器を貫通して原子炉建屋に隣接して配置されたタービン建屋まで伸びており、タービン建屋内に設置されたタービンに接続される。主蒸気配管の原子炉格納容器の貫通部付近で、原子炉格納容器の内外でそれぞれ隔離弁が主蒸気配管に設けられる。
【0023】
原子炉格納容器内で主蒸気配管に貫通するき裂が生じて冷却材喪失事故が発生した場合を例に挙げて、水素処理設備1の機能を説明する。冷却材喪失事故が発生したとき、主蒸気配管に設けられた各隔離弁が全閉状態になる。
【0024】
冷却材喪失事故の発生によって、原子炉圧力容器内の高温高圧の冷却水が、書蒸気配管に生じたき裂を通して原子炉格納容器内のドライウェルに高温の蒸気となって放出される。この蒸気と共に原子炉圧力容器内で発生した水素ガスが、ドライウェルに放出される。水素、微量の酸素及び蒸気を含むドライウェル内の窒素ガスが、ドライウェルに配置された水素処理設備1に流入する。具体的には、この窒素ガスは、ガス流入口3から触媒カートリッジ5によって仕切られてケーシング2内に形成されたそれぞれのガス通路9に流入する。
【0025】
水素及び微量の酸素を含む窒素ガスがガス通路9内を上昇している間に、窒素ガスに含まれる水素が、触媒カートリッジ5の触媒金属8の作用によってその窒素ガスに含まれる酸素と反応して水になる。酸素との反応により水素濃度が低下した窒素ガスが、ガス通路9から排出され、さらに、ガス流出口4を通って水素処理設備1の外部、すなわち、原子炉格納容器内のドライウェルに排出される。水素と酸素の反応は発熱反応であるため、ガス通路9内で温度が上昇した窒素ガスが上昇流となってガス流出口4から排出されると共に、水素処理設備1外のドライウェルの窒素ガスが新たにガス流入口3を通してガス通路9内に供給される。
【0026】
ガス通路9内に供給される窒素ガスに含まれる酸素ガスが無くなった場合には、担体部材6を構成する酸素吸蔵・放出材7に吸蔵されている酸素が放出されるため、この放出された酸素が触媒金属8の作用によりガス通路9内を上昇する窒素ガスに含まれる水素と反応し、水を生成する(図4参照)。ガス通路9内に供給される窒素ガスに酸素が含まれていなくても、担体部材6を構成する酸素吸蔵・放出材7から酸素が放出されるため、水素処理設備1内で水素の処理が継続して行われる。水素処理設備1による水素処理により、原子炉格納容器内の水素濃度が著しく低下する。
【0027】
本実施例で用いられる触媒カートリッジ5を、図5に示す板状の触媒カートリッジ5Aに替えても良い。この触媒カートリッジ5Aは、触媒カートリッジ5において担体部材5を担体部材5Aに替えた構成を有する。担体部材5Aは、担体基材10の表面に酸素吸蔵・放出材7を担持して構成される。担体基材10は、セラミックス及び金属基材のいずれかで構成される。触媒カートリッジ5Aは、担体部材5を構成する酸素吸蔵・放出材7の表面に触媒金属(たとえば、白金)8を担持して構成される。触媒金属8の表面積を増加させるために、担体基材10に多孔質体を用いることが望ましい。担体基材10は、例えば、多孔質のアルミナまたはスポンジ状金属基材で構成する。
【0028】
触媒カートリッジ5Aによって仕切られてケーシング2内に形成される各ガス通路9内に水素を含む窒素ガスが流入すると、その水素は酸素吸蔵・放出材7から放出される酸素と触媒金属8の作用によって反応し、水になる。
【0029】
発明者らは、水素処理設備1に用いた酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5による水素処理の効果を実験によって確認した。この実験結果を図6に示す。実験は、酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5、及び酸素吸蔵・放出材を有していない触媒カートリッジを用いて行い、最初の20時間は水素を含まないヘリウムガスの流れにそれぞれの触媒カートリッジを曝し、20時間を経過して50時間までは3%の水素を含むヘリウムガスの流れにそれぞれの触媒カートリッジを曝した。
【0030】
水素を含まないヘリウムガスの流れに曝した最初の20時間の間では、酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5(図6において丸印で示す)、及び酸素吸蔵・放出材を有していない触媒カートリッジ(図6において三角印で示す)は、両方とも、触媒カートリッジの重量が変化しなかった。しかしながら、両方の触媒カートリッジを3%の水素を含むヘリウムガスの流れに曝した場合には、酸素吸蔵・放出材を有していない触媒カートリッジでは触媒カートリッジの重量が変化しなかったが、酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5では触媒カートリッジの重量が減少した。
【0031】
これは、触媒カートリッジ5の酸素吸蔵・放出材7から酸素が放出され、酸素を含んでいなく3%の水素を含むヘリウムガスと接触する触媒金属8の作用により、ヘリウムガスに含まれる水素と酸素吸蔵・放出材7から放出された酸素が反応して水を生成する水素処理が行われていることを示している。すなわち、酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5を用いることによって、酸素が存在しない環境下でも水素処理が行われることを示している。酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5の重量の減少は、酸素吸蔵・放出材7から酸素が放出されることによって生じる。
【0032】
酸素吸蔵・放出材を有していない触媒カートリッジでは、3%の水素を含むヘリウムガスにこの触媒カートリッジを曝してもこの触媒カートリッジの重量は変化しないため、の変化は見られず、酸素吸蔵・放出材を有していない触媒カートリッジは、酸素が存在しない環境下では水素処理を行うことができない。
【0033】
本実施例は、低酸素濃度の環境、特に、無酸素の環境においても水素処理性能を向上することができる。
【実施例2】
【0034】
本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラントの水素処理設備を、図7を用いて説明する。
【0035】
本実施例の水素処理設備は、実施例1で述べた水素処理設備1及びこの水素処理設備1が設置される領域に酸素を供給する酸素供給装置11を備えている。
【0036】
本実施例では、沸騰水型原子力プラントの原子炉建屋12内に複数の水素処理設備1を設置している。これらの水素処理設備1は、原子炉建屋12内に設置された原子炉格納容器内、及び原子炉格納容器の外側で原子炉建屋12内に設置されている。酸素供給装置11は、酸素供給管により、原子炉建屋12内の水素処理設備1が配置された領域に連絡されている。酸素供給管には流量調節弁が設置される。水素処理設備1は、触媒カートリッジ5の替りに触媒カートリッジ5Aを用いても良い。
【0037】
冷却材喪失事故が発生したとき、前述したように、主蒸気配管に生じたき裂から高温の蒸気が、窒素ガスが充填されている原子炉格納容器内のドライウェルに放出される。冷却材喪失事故が発生したとき、水素処理設備1が配置された、原子炉建屋12内のそれぞれの領域内の酸素濃度が可燃限界濃度(〜5%以下)よりも小さくなるように流量調節弁の開度を調節して、酸素供給装置11から水素がそれらの領域にそれぞれ供給される。
【0038】
水素、酸素供給装置11から供給された低濃度の酸素、及び放出された蒸気を含む、ドライウェル内の窒素ガスが、ガス流入口3から触媒カートリッジ5によって仕切られてケーシング2内に形成されたそれぞれのガス通路9に流入する。流入した窒素ガスに含まれる水素と酸素、さらには、触媒カートリッジ5の酸素吸蔵・放出材7から放出された酸素が触媒金属8の作用により反応し水を生成する。このため、水素処理設備1から排出される窒素ガスの水素濃度が減少している。
【0039】
本実施例の水素処理設備による水素処理の効果を、図8を用いて説明する。図8において、丸印の特性は酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5を用いた水素処理設備1を備えている場合における水素の残存率を示し、三角印の特性は酸素吸蔵・放出材7を有していない触媒カートリッジを用いた水素処理設備を備えている場合における水素の残存率を示している。水素の残存率は、水素処理設備(触媒式水素処理設備)に流入したガスの水素濃度に対するその水素処理設備から排出されたガスの水素濃度の割合である。水素の残存率が小さいほど、水素処理設備において処理された水素の量が多くなる。酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5を用いた場合には、酸素吸蔵・放出材7がガス通路9を上昇する窒素ガスに含まれる酸素を吸蔵するため、酸素吸蔵・放出材7の表面における酸素濃度が高まり、この酸素を触媒金属8に供給することができる。このため、酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジ5を用いた水素処理設備1では、効率良く窒素ガスに含まれている水素を処理することができる。
【0040】
一方、酸素吸蔵・放出材7を有していない触媒カートリッジを用いた水素処理設備では、低い酸素濃度で触媒金属表面において水素と酸素の反応が起こるため、触媒金属への酸素の供給が制限され、水素の残存率は高いままとなる。酸素吸蔵・放出材7を有していない触媒カートリッジを用いた水素処理設備により処理される水素の量は、酸素吸蔵・放出材7を有する触媒カートリッジを用いた水素処理設備1により処理される水素の量よりも少なくなる。
【0041】
本実施例においても、低酸素濃度の環境、特に、無酸素の環境においても水素処理性能を向上することができる。
【0042】
実施例1及び2の水素処理設備は、加圧水型原子力プラントに適用することができる。それらの水素処理設備は、特に、加圧水型原子力プラントの原子炉格納容器内に設置することによって、冷却材喪失事故時に原子炉格納容器内に放出される蒸気に含まれる水素の処理を効率良く処理することができる。
【符号の説明】
【0043】
1…水素処理設備、2…ケーシング、5,5A…触媒カートリッジ、6,6A…担体部材、7…酸素吸蔵・放出材、8…触媒金属、9…ガス通路、10…担体基材、11…酸素供給装置、12…原子炉建屋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流入口を下端部に形成してガス排出口を上端部に形成したケーシングと、前記ケーシング内に配置され、酸素吸蔵・放出材を含む担体部材の前記酸素吸蔵・放出材の表面に、水素と酸素を反応させる触媒金属を担持している複数の触媒カートリッジとを備え、
前記複数の触媒カートリッジによって前記ケーシング内に前記ガス流入口及びガス放出口に連絡される複数のガス通路を形成していることを特徴とする原子力プラントの水素処理設備。
【請求項2】
前記担体部材が前記酸素吸蔵・放出材によって構成されている請求項1に記載の原子力プラントの水素処理設備。
【請求項3】
前記担体部材が、担体基材の表面に前記酸素吸蔵・放出材を担持するによって構成されている請求項1に記載の原子力プラントの水素処理設備。
【請求項4】
前記酸素吸蔵・放出材が、希土類元素の酸化物、希土類元素とその他の金属との複合化合物、セリウム酸化物、セリウム-ジルコニウム複合酸化物、酸化マンガンを含む化合物、鉄酸化物、クロム酸化物、バナジウム酸化物、銅酸化物、及び銀酸化物のうち、少なくとも1種の酸化物であり、前記触媒金属が貴金属である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子力プラントの水素処理設備。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水素処理設備を原子炉建屋内に配置し、前記水素処理設備が配置された領域に可燃限界濃度よりの低い濃度の酸素を供給する酸素供給装置を備えたことを特徴とする原子力プラントの水素処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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