原子捕捉素子及び原子捕捉方法
【課題】配線が配置された基板表面近傍においても、原子の強い閉じ込めを安定した状態でできるようにする。
【解決手段】まず、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却し、次に、レーザ照射部162からのレーザ照射により、加熱領域152を加熱して上記Tc以上にまで昇温し、当該部分を常伝導状態とする。次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域151の上に移動させ、この状態で、端子131及び端子132の間に電流を流して超伝導開回路103に電流が流れた状態とし、加えて、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域151に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。次に、レーザ照射部162からのレーザ照射を停止し、加熱領域152の加熱状態を停止し、超伝導閉回路102の全体が超伝導(超伝導閉回路)にされた状態とする。
【解決手段】まず、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却し、次に、レーザ照射部162からのレーザ照射により、加熱領域152を加熱して上記Tc以上にまで昇温し、当該部分を常伝導状態とする。次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域151の上に移動させ、この状態で、端子131及び端子132の間に電流を流して超伝導開回路103に電流が流れた状態とし、加えて、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域151に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。次に、レーザ照射部162からのレーザ照射を停止し、加熱領域152の加熱状態を停止し、超伝導閉回路102の全体が超伝導(超伝導閉回路)にされた状態とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子干渉計,原子及び超伝導固体素子の量子状態の変換,及び記憶・制御手段としての応用が可能となる、中性原子を捕捉する原子捕捉素子及び原子捕捉方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気モーメントがゼロでない原子は、磁場の勾配から力を受ける。従って、磁場の強いところでエネルギーが高くなる原子(中性原子)は、3次元的な極小点を持つ不均一磁場中に置かれることで、空間的に閉じ込められる。このような3次元的な極小点を持つ不均一な磁場による原子捕捉領域を基板の上に形成し、基板の原子捕捉領域で、安定した状態で原子を強く閉じ込めることができれば、光のシングルモードファイバーに相当する原子のシングルモード導波路が実現できる。このような原子のシングルモード導波路が実現できれば、例えば、より高性能な原子干渉計が可能となる。
【0003】
3次元的な極小点を持つ不均一磁場は、電流の周りに発生する磁場で構成することが可能である。電流の周りに発生する磁場は、電流に近い程、急峻な勾配が得られるので、固体(基板)の表面に微細な配線パターンを形成し、この配線を流れる電流の周りに発生する磁場により、急峻な磁場勾配が形成可能となり、これによる3次元的な極小点を持つ不均一磁場により、原子を捕捉させることが可能となる(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、より強い閉じ込めを実現するために、原子の捕捉中心を電流に近づけると、電流を流している配線が形成されている素子からの熱雑音,電流雑音,及び配線自身の不均一な組成などが問題となり、原子の捕捉寿命が著しく低下することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
【非特許文献1】R. Folman, et al. "MICROSCOPIC ATOM OPTICS: FROM WIRES TO AN ATOM CHIP", Advance in Atomic, Molecular, and Optical Physics, Vol.48, pp.263-356 ,2002.
【非特許文献2】C. Henkel, et al. ,"Fundamental limitsa for coherent manipulation on atom chip", Appl. Phys., B76, pp.173-182, 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の原子捕捉素子では、より強い閉じ込めのために捕捉中心を電流に近づけると、素子の熱雑音、電流雑音、配線自身の不均一な組成などが原因で、捕捉寿命が著しく低下する。このため、原子の強い閉じ込めを実現するために不可欠な、捕捉領域における表面近傍の安定な捕捉ができず、原子のシングルモード導波路は、実現されていない。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、配線が配置された基板表面近傍においても、原子の強い閉じ込めを安定した状態でできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る原子捕捉素子は、基板の上に形成されて超伝導電流が流れる超伝導閉回路と、超伝導閉回路に超伝導電流を流す超伝導電流生成手段と、超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在し、超伝導電流による第1磁場を生成する第1配線部と、少なくとも第1磁場及び第1磁場とは異なる方向の第2磁場から形成され、第1配線部の上部に形成される磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場から構成された原子捕捉手段とを備えるものである。従って、超伝導電流により生成された磁場ポテンシャルの極小点に、原子が捕捉される。
【0009】
上記原子捕捉素子において、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部とを少なくとも備え、第2磁場は、基板の上面と平行な平面内で第1方向に垂直な方向へ加えられる磁場であればよい。
【0010】
また、上記原子捕捉素子において、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第2方向に延在する第3配線部とを備え、原子捕捉手段は、第1磁場と、超伝導電流により第2配線部に生成される第2磁場と、超伝導電流により第3配線部に生成される第3磁場とから構成されていればよい。
【0011】
また、上記原子捕捉素子において、超伝導電流生成手段は、超伝導閉回路の周囲に超伝導閉回路に沿って設けられて超伝導電流の制御が可能とされた超伝導開回路と、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域とから構成されていればよい。また、超伝導電流生成手段は、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域と、加熱領域を挟むように超伝導閉回路に接続して電流が印加される2つの端子部とから構成されてても良い。
また、上記原子捕捉素子において、超伝導電流生成手段は、超伝導閉回路を貫く磁場を発生する電流駆動磁場発生手段と、超伝導閉回路を超伝導転移温度に制御する冷却手段とから構成されていてもよい。
【0012】
また、本発明に係る及び原子捕捉方法は、基板の上に形成された超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第1ステップと、超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在した第1配線部に、超伝導電流による第1磁場を生成するとともに、第1磁場とは異なる方向の第2磁場を生成し、第1磁場と第2磁場とから構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、第1配線部の上部に形成する第2ステップとを少なくとも備えるようにしたものである。
【0013】
上記原子捕捉方法において、第2ステップは、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、第1配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部とを流れる超伝導電流により第1磁場を生成する第3ステップと、基板の上面と平行な平面内で第1方向に垂直な方向の第2磁場を第1配線図に加える第4ステップとを備えていればよい。
【0014】
また、上記原子捕捉方法において、第2ステップでは、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、第1配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第2方向に延在する第3配線部とを流れる超伝導電流により、第1配線部に第1磁場を生成し、第2配線部に第2磁場を生成し、第3配線部に第3磁場を生成し、第1磁場とは180°異なる方向に、第1磁場を挟むように第2磁場及び第3磁場を生成し、第1磁場,第2磁場,及び第3磁場から構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、第1配線部の上部に形成する。
【0015】
また、上記原子捕捉方法において、第1ステップは、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、超伝導閉回路の周囲に超伝導閉回路に沿って設けられた超伝導開回路に超伝導電流を印加する第6ステップと、加熱領域の加熱を停止して超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップとを備え、第2ステップの後に、超伝導開回路に対する超伝導電流の印加を停止する第8ステップを備えるようにすればよい。
【0016】
また、上記原子捕捉方法において、第1ステップは、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、加熱領域を挟むように超伝導閉回路に接続した2つの端子部に超伝導電流を印加する第6ステップとを備え、第2ステップの後に、加熱領域の加熱を停止して超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップを備えるようにしてもよい。
【0017】
また、上記原子捕捉方法において、第1ステップは、超伝導閉回路が超伝導転移温度より高い状態で超伝導閉回路を貫く磁場を加える第5ステップと、超伝導閉回路を磁場が貫いている状態で、超伝導閉回路を超伝導転移温度以下にする第6ステップと、超伝導閉回路を貫く磁場を停止する第7ステップとを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、基板の上に形成された超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とし、超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在して超伝導電流による第1磁場を生成する第1配線部と、第1磁場及び第1磁場とは異なる方向の第2磁場から構成され、第1配線部の上部に形成される磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場から構成された原子捕捉手段とにより、原子を捕捉するようにしたので、配線が配置された基板表面近傍においても、原子の強い閉じ込めを安定した状態でできるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
[実施の形態1]
はじめに、本発明の第1の実施の形態について説明する。図1(a),図1(b)は、本発明の実施の形態1における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。図1(a)は平面図、図1(b)は、側面図である。
【0020】
本実施の形態1における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板101の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路102及び超伝導開回路103を備え、超伝導閉回路102に、捕捉部配線(第1配線部)121と2つの配線部(第2配線部)122,配線部(第3配線部)123とから構成されたZ型ワイヤー部120を備える。Z型ワイヤー部は、超伝導閉回路102の一部(局所的)に設けられている。超伝導開回路103は、超伝導閉回路102の周囲に沿って配置されていている。また、超伝導閉回路102は、先端部にヘアピンカーブを備えた形状の加熱領域152を備え、超伝導開回路103は、端子131及び端子132を備える。本実施の形態1では、以降に説明するように、超伝導開回路103や加熱領域152が、超伝導閉回路102に対する超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0021】
ここで、Z型ワイヤー部120についてより詳細に説明する。Z型ワイヤー部120は、まず、基板101の上部に原子を捕捉する捕捉領域151を形成する捕捉部配線121を備える。また、Z型ワイヤー部120は、捕捉部配線121の一端に接続して捕捉部配線121の延在方向とは異なる方向に延在する配線部122を備える。加えて、Z型ワイヤー部120は、捕捉部配線121の他端に接続して捕捉部配線121の延在方向及び配線部122の延在方向とは異なる方向に延在する配線部123を備えている。図1(a)に示す例では、配線部122は、捕捉部配線121に直交して接続し、配線部123は、配線部122と異なる方向に、捕捉部配線121に直交して接続している。従って、配線部122と配線部123は、基板101の平面上で、捕捉部配線121と起点として異なる方向に延在して互いに平行な関係となっている。なお、Z型ワイヤー部120の周囲にあたる超伝導開回路103の部分も、Z型ワイヤー部120と同様の構成となっている。
【0022】
また、本原子捕捉素子は、超伝導閉回路102が形成されている平面内において、Z型ワイヤー部120を構成する捕捉部配線121の延在方向に垂直な方向の磁場(第2磁場)161が、外部磁場発生部160より印加可能とされている。また、本原子捕捉素子は、レーザ照射部(加熱手段)162からの加熱領域152に対するレーザ照射により、加熱領域152の超伝導閉回路102が加熱可能とされている。なお、他の方法により加熱しても良い。また、本原子捕捉素子は、例えば液体ヘリウムなどを用いるクライオスタットなどの冷却部(冷却手段)171に取り付けて用いられ、超伝導閉回路102及び超伝導開回路103などの超伝導転移温度(Tc)以下まで冷却可能とされている。例えば、原子捕捉素子は、超伝導閉回路102などが形成されている面を、地面の方向に向けて冷却部171に取り付けられている。
【0023】
次に、本実施の形態における原子捕捉素子の製造について簡単に説明すると、例えば、分子線エピタキシー法により、基板101の上にMgB2膜が形成された状態とする。MgB2膜は、例えば、膜厚1.6μm程度に形成された状態とすればよい。次に、MgB2膜をよく知られたリソグラフィ技術に加工することで、基板101の上に超伝導閉回路102及び超伝導開回路103が形成された状態とする。例えば、超伝導閉回路102は、線幅100μm程度に形成され、超伝導開回路103は、線幅200μm程度に形成された状態とすればよい。また、超伝導開回路103の外形は、一辺が1cm程度の矩形の状態に形成された状態とすればよい。また、端子131及び端子132は、一辺が1mm程度の矩形に形成されていればよい。なお、これら材料及び寸法は一例であり、これに限るものではなく、超伝導電流を流すことが可能な配線材料や寸法であれば、他の材料から構成して異なる寸法に形成しても良いことは言うまでもない。
【0024】
次に、本実施の形態1における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。なお、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)から磁気光学トラップ(MOT)172(図1(b))で予備冷却した後、四重極磁場トラップ(QMT)173中に保持されているものとする。
【0025】
まず、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。これにより、超伝導閉回路102及び超伝導開回路103が超伝導状態となる。
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射により、加熱領域152を加熱して上記Tc以上にまで昇温し、当該部分を常伝導状態とする。
【0026】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域151の上に移動させる。この状態で、端子131及び端子132の間に電流を流して超伝導開回路103に電流が流れた状態とし、加えて、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域151に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。このことにより、超伝導開回路103の捕捉領域151にあたる配線部の上部に磁場トラップが生成され、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップ(捕捉領域151)に捕捉される状態となる。
【0027】
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射を停止し、加熱領域152の加熱状態を停止することで、加熱領域152が上記Tc以下にまで冷却された状態とし、超伝導閉回路102の全体が超伝導(超伝導閉回路)にされた状態とする。
【0028】
次に、端子131及び端子132の間に流していた電流を停止して超伝導開回路103への電流を遮断する。このことにより、超伝導状態とされている超伝導閉回路102に超伝導永久電流が流れる状態となる。言い換えると、超伝導開回路103及び加熱領域152を含む超伝導電流生成手段により、超伝導閉回路102に対して超伝導電流が生成されるようになる。このとき、外部磁場発生部160からの磁場161により捕捉領域151に外部からバイアス磁場が印加されているので、捕捉部配線121の上部に新たに磁場トラップ(原子捕捉手段)が形成され、上記原子の捕捉状態が継続される。Z型ワイヤー部120に流れる電流によって捕捉部配線121の上部に発生する磁場(第1磁場)と、均一な磁場161とが重なるところは、磁場ポテンシャルの極小点(3次元的な極小点)をもつ不均一な磁場が形成される。この不均一な磁場における極小点の領域が、磁場トラップとなり原子が捕捉されるようになる。
【0029】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉部配線121の上部に形成される磁場トラップは、超伝導閉回路102における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。これらのことにより、トラップ中心を捕捉部配線121に近づけても、トラップ寿命が著しく低下することが抑制されるようになり、トラップ中心を捕捉部配線121に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、原子を捕捉した状態においては、超伝導閉回路102に対する外部からの電源供給を必要としない。
【0030】
[実施の形態2]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図2は、本発明の実施の形態2における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。
【0031】
本実施の形態2における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板102の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路202を備え、超伝導閉回路202に、捕捉部配線221から構成されたZ型ワイヤー部を備える。このZ型ワイヤー部は、前述した実施の形態1のZ型ワイヤー部120と同様である。また、超伝導閉回路202は、加熱領域252を備え、加えて、加熱領域252を挟むように配置された端子204及び端子205を備える。前述した実施の形態1では、ヘアピン形状の加熱領域152を備えるようにしたが、これに限るものではなく、図2に示すように、超伝導閉回路202の矩形の一角を加熱領域252としてもよい。ただし、前述した加熱領域152のようにヘアピン状に形成した方が、加熱による他への影響が低減できる。本実施の形態2では、以降に説明するように、加熱領域252、端子204及び端子205が、超伝導閉回路202に対する超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0032】
また、本原子捕捉素子も、前述した実施の形態1と同様に、超伝導閉回路202が形成されている平面内において、捕捉部配線221の延在方向に垂直な方向の磁場161が、印加可能とされている。また、本原子捕捉素子も、加熱領域252に対するレーザ照射により、加熱領域252の超伝導閉回路202が加熱可能とされている。また、本原子捕捉素子は、例えば液体ヘリウムなどを用いるクライオスタットなどにより、超伝導閉回路202の超伝導転移温度(Tc)以下まで冷却可能とされている。これらのことは、図1(b)に示す基板101の代わりに、基板201を配置することで、実現可能である。
【0033】
なお、本実施の形態における原子捕捉素子においても、前述した実施の形態1と同様にすることで、製造可能であり、例えば、超伝導閉回路202は、線幅100μm程度に形成され、外形は一辺が1cm程度の矩形の状態に形成され、また、端子204及び端子205は、一辺が1mm程度の矩形に形成されていればよい。
【0034】
次に、本実施の形態2における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。なお、以下においても、図1(b)に示す外部磁場発生部160,レーザ照射部162,冷却部171,MOT172,及びQMT173を用いて説明する。まず、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)からMOT172で予備冷却した後、QMT173中に保持されているものとする。
【0035】
次に、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。これにより、超伝導閉回路202が超伝導状態となる。
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射により、加熱領域252を加熱して上記Tc以上にまで昇温し、当該部分を常伝導状態とする。
【0036】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域251の上に移動させる。この状態で、端子204及び端子205の間に電流を流して超伝導閉回路202に電流が流れた状態とし、加えて、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域251に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。このことにより、超伝導閉回路202の捕捉部配線221の上部(捕捉領域251)に磁場トラップ(原子捕捉手段)が生成され、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップ(捕捉領域251)に捕捉される状態となる。
【0037】
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射を停止し、加熱領域252の加熱状態を停止することで、加熱領域252が上記Tc以下にまで冷却された状態とし、超伝導閉回路202の全体が超伝導(超伝導閉回路)にされた状態とする。
【0038】
次に、端子204及び端子205の間に流していた電流を停止して超伝導閉回路202への電流を遮断する。このことにより、超伝導状態とされている超伝導閉回路202に超伝導永久電流が流れる状態となる。言い換えると、加熱領域252、端子204及び端子205を含む超伝導電流生成手段により、超伝導閉回路202に対して超伝導電流が生成されるようになる。このとき、外部磁場発生部160からの磁場161により捕捉領域251(捕捉部配線221)に外部からバイアス磁場が印加されているので、上記原子の捕捉状態が継続される。
【0039】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉部配線221の上部に形成される磁場トラップは、超伝導閉回路202における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。これらのことにより、トラップ中心を捕捉部配線221に近づけても、トラップ寿命が著しく低下することが抑制されるようになり、トラップ中心を捕捉部配線221に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、原子を捕捉した状態においては、超伝導閉回路202に対する外部からの電源供給を必要としない。
【0040】
[実施の形態3]
はじめに、本発明の第3の実施の形態について説明する。図3,図4は、本発明の実施の形態3における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。図3は平面図、図4は、側面図である。
【0041】
本実施の形態3における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板301の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路302を備え、超伝導閉回路302に、捕捉部配線321から構成されたZ型ワイヤー部を備える。このZ型ワイヤー部は、前述した実施の形態1のZ型ワイヤー部120と同様である。なお、本実施の形態における原子捕捉素子においても、前述した実施の形態1と同様にすることで、製造可能であり、例えば、超伝導閉回路302は、線幅100μm程度に形成され、外形は一辺が1cm程度の矩形の状態に形成されている。
【0042】
また、本原子捕捉素子は、超伝導閉回路302が形成されている平面内において、Z型ワイヤー部120を構成する捕捉部配線321の延在方向に垂直な方向の磁場161が、外部磁場発生部160より印加可能とされている。また、本原子捕捉素子は、電流駆動磁場発生部(電流駆動磁場発生手段)360により、超伝導閉回路302を貫く磁場361が印加可能とされている。また、本原子捕捉素子も、例えば液体ヘリウムなどを用いるクライオスタットなどの冷却部171に取り付けて用いられ、超伝導閉回路302の超伝導転移温度(Tc)以下まで冷却可能とされている。本実施の形態3では、以降に説明するように、超伝導閉回路302を貫く磁場361が超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0043】
次に、本実施の形態3における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。まず、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)からMOT172で予備冷却した後、QMT173中に保持されているものとする。
【0044】
次に、超伝導閉回路302がTcより高温の状態で、電流駆動磁場発生部360からの磁場361が、超伝導閉回路302を貫く状態とする。次に、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。次いで、電流駆動磁場発生部360を停止し、超伝導閉回路302を貫く磁場361が切れた状態とする。これにより、超伝導閉回路302が超伝導状態となり、超伝導永久電流が流れる状態となる。言い換えると、冷却部171及び電流駆動磁場発生部360を含む超伝導電流生成手段により、超伝導閉回路302に対して超伝導電流が生成されるようになる。
【0045】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域251の上に移動させる。この状態で、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域251に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。このことにより、超伝導閉回路302の捕捉部配線321の上部(捕捉領域351)に磁場トラップ(原子捕捉手段)が生成され、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップに捕捉される状態となる。このとき、超伝導閉回路302には、超伝導永久電流が流れているので、原子の捕捉状態が継続される。
【0046】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉部配線321の上部に形成される磁場トラップは、超伝導閉回路302における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。これらのことにより、トラップ中心を捕捉部配線321に近づけても、トラップ寿命が著しく低下することが抑制されるようになり、トラップ中心を捕捉部配線321に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、超伝導閉回路302に対する外部からの電源供給を必要とせずに原子の捕捉が可能となる。
【0047】
[実施の形態4]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図5は、本発明の実施の形態4における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。
【0048】
本実施の形態4における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板501の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路502を備え、超伝導閉回路502に、互いにほぼ平行な状態に配置された3つの配線部(第2配線部)531,配線部(第1配線部)532,及び配線部(第3配線部)533から構成された捕捉配線部503を備える。なお、本実施の形態における原子捕捉素子においても、前述した実施の形態1と同様にすることで、製造可能であり、例えば、超伝導閉回路502は、線幅100μm程度に形成され、外形は一辺が1cm程度の矩形の状態に形成されている。なお、本実施の形態4でも、以降に説明するように、超伝導閉回路502を貫く磁場361が超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0049】
ここで、捕捉配線部503について説明する。捕捉配線部503は、基板501の平面上で、超伝導閉回路502を構成する連続した配線の一部で構成されている。また、捕捉配線部503は、互いに180°異なる方向に往復する3つの配線部531,配線部532,及び配線部533を備えている。配線部531,配線部532,及び配線部533は、互いに平行に配置されている。言い換えると、配線部531は、超伝導閉回路502の一部に設けられ、配線部532一端に接続して配線部532が延在する方向とは180°異なる方向に延在し、配線部533は、超伝導閉回路502の一部に設けられ、配線部532他端に接続して配線部531と同じ方向に延在している。従って、超伝導閉回路502に電流が流れると、配線部531及び配線部533に流れる電流に対し、配線部532には180°異なる方向の電流が流れることになり、配線部532により生成する磁場(第1磁場)とは異なる方向の磁場(第2磁場、第3磁場)が、配線部531及び配線部533により生成される。また、捕捉配線部503においても、配線部532に着目すると、前述したZ型ワイヤー部と同様の構成となっている。
【0050】
このように、隣り合う電流が反平行となる3つの直線電流の周囲(断面方向)には、配線部532による第1磁場と、配線部531,533による第1磁場とは異なる方向の第2磁場、第3磁場が生成され、図6に示すように、磁場ポテンシャル(不均一な磁場)が形成され、配線部532の上にはポテンシャル極小点が形成される。本実施の形態4においては、捕捉配線部503において、磁場ポテンシャルの極小点(3次元的な極小点)をもつ不均一な磁場が形成される。この不均一な磁場におけるポテンシャル極小点の領域が、磁場トラップ(原子捕捉手段)となり、原子が捕捉されるようになる。
【0051】
次に、本実施の形態4における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。なお、以下においては、図4に示す電流駆動磁場発生部360,冷却部171,MOT172,及びQMT173を用いて説明する。まず、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)からMOT172で予備冷却した後、QMT173中に保持されているものとする。
【0052】
次に、超伝導閉回路502がTcより高温の状態で、電流駆動磁場発生部360からの磁場361が、超伝導閉回路502を貫く状態とする。次に、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。次いで、電流駆動磁場発生部360を停止し、超伝導閉回路502を貫く磁場361が切れた状態とする。これにより、超伝導閉回路502が超伝導状態となり、超伝導永久電流が流れる状態となる。
【0053】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域551の上に移動させる。前述したように、超伝導永久電流が流れている捕捉配線部503においては、配線部532の上方に磁場のポテンシャル極小点が形成され、磁場トラップが形成されている状態となっている。このため、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップに捕捉される状態となる。また、超伝導閉回路502には、超伝導永久電流が流れているので、上述した原子の捕捉状態が継続される。
【0054】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉配線部503(配線部532)の上部に形成される磁場トラップ(磁場ポテンシャル極小点)は、超伝導閉回路502における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。加えて、超伝導電流から発生する磁場のポテンシャル極小点を用いているので、電流ノイズが発生しない。
【0055】
これらのことにより、トラップ中心を配線部532に近づけても、トラップ寿命の低下が抑制されるようになり、トラップ中心を配線部532に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、超伝導閉回路502に対する外部からの電源供給を必要とせずに原子の捕捉が可能となる。なお、本実施の形態4においても、実施の形態1と同様に、超伝導閉回路502の周囲に超伝導閉回路502に沿って超伝導開回路を設け、また、超伝導閉回路502の一部に加熱領域を設け、超伝導開回路における超伝導電流の制御と加熱領域の加熱制御により、超伝導閉回路502に超伝導電流が流れるようにしても良い。また、実施の形態2と同様に、超伝導閉回路に加熱領域とこれを挟む端子部とを設け、超伝導閉回路502に超伝導電流が流れるようにしても良い。
【0056】
なお、上述では、矩形状態の超伝導閉回路の角の部分に、Z型ワイヤー部などの原子を捕捉する配線部を設けるようにしたが、これに限るものではない。例えば、図7(a)の平面図に示すように、矩形状態の超伝導閉回路702の辺の部分の中央部に、捕捉部配線721と2つの配線部722,配線部723とから構成されたZ型ワイヤー部720を設け、捕捉部配線721の上の捕捉領域751に磁場トラップ(原子捕捉手段)を形成するようにしても良い。
【0057】
また、上述では、矩形形状帯の超伝導閉回路の内側に、原子を捕捉する領域を設けるようにしたが、これに限るものではない、例えば、図7(b)の平面図に示すように、矩形状態の超伝導閉回路702の辺の部分の中央部において、回路の外側に配置されるように、捕捉部配線721aと2つの配線部722a,配線部723aとから構成されたZ型ワイヤー部720aを設け、捕捉部配線721aの上の捕捉領域751aに磁場トラップ(原子捕捉手段)を形成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上述した本発明の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、原子のシングルモードとラップ及び原子のシングルモード導波路が可能となり、高い感度を有する原子干渉計や、原子及び超伝導素子の量子状態の変換・記憶・制御手段などの応用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態3における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態3における原子捕捉方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施の形態4における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図6】隣り合う電流が反平行となる3つの直線電流の周囲(断面方向)に形成される磁場ポテンシャルの状態を示すポテンシャル図である。
【図7】本発明における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0060】
101…基板、102,202,302,502,702…超伝導閉回路、103…超伝導開回路、120…Z型ワイヤー部、121,221,321,721,721a…捕捉部配線、122,123…配線部、131,132,204,205…端子、151,251,351,551,751,751a…捕捉領域、152,252…加熱領域、160…外部磁場発生部、161…磁場、162…レーザ照射部、171…冷却部、172…磁気光学トラップ(MOT)、173…四重極磁場トラップ(QMT)、360…電流駆動磁場発生部、361…磁場。
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子干渉計,原子及び超伝導固体素子の量子状態の変換,及び記憶・制御手段としての応用が可能となる、中性原子を捕捉する原子捕捉素子及び原子捕捉方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気モーメントがゼロでない原子は、磁場の勾配から力を受ける。従って、磁場の強いところでエネルギーが高くなる原子(中性原子)は、3次元的な極小点を持つ不均一磁場中に置かれることで、空間的に閉じ込められる。このような3次元的な極小点を持つ不均一な磁場による原子捕捉領域を基板の上に形成し、基板の原子捕捉領域で、安定した状態で原子を強く閉じ込めることができれば、光のシングルモードファイバーに相当する原子のシングルモード導波路が実現できる。このような原子のシングルモード導波路が実現できれば、例えば、より高性能な原子干渉計が可能となる。
【0003】
3次元的な極小点を持つ不均一磁場は、電流の周りに発生する磁場で構成することが可能である。電流の周りに発生する磁場は、電流に近い程、急峻な勾配が得られるので、固体(基板)の表面に微細な配線パターンを形成し、この配線を流れる電流の周りに発生する磁場により、急峻な磁場勾配が形成可能となり、これによる3次元的な極小点を持つ不均一磁場により、原子を捕捉させることが可能となる(非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、より強い閉じ込めを実現するために、原子の捕捉中心を電流に近づけると、電流を流している配線が形成されている素子からの熱雑音,電流雑音,及び配線自身の不均一な組成などが問題となり、原子の捕捉寿命が著しく低下することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
【非特許文献1】R. Folman, et al. "MICROSCOPIC ATOM OPTICS: FROM WIRES TO AN ATOM CHIP", Advance in Atomic, Molecular, and Optical Physics, Vol.48, pp.263-356 ,2002.
【非特許文献2】C. Henkel, et al. ,"Fundamental limitsa for coherent manipulation on atom chip", Appl. Phys., B76, pp.173-182, 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の原子捕捉素子では、より強い閉じ込めのために捕捉中心を電流に近づけると、素子の熱雑音、電流雑音、配線自身の不均一な組成などが原因で、捕捉寿命が著しく低下する。このため、原子の強い閉じ込めを実現するために不可欠な、捕捉領域における表面近傍の安定な捕捉ができず、原子のシングルモード導波路は、実現されていない。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、配線が配置された基板表面近傍においても、原子の強い閉じ込めを安定した状態でできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る原子捕捉素子は、基板の上に形成されて超伝導電流が流れる超伝導閉回路と、超伝導閉回路に超伝導電流を流す超伝導電流生成手段と、超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在し、超伝導電流による第1磁場を生成する第1配線部と、少なくとも第1磁場及び第1磁場とは異なる方向の第2磁場から形成され、第1配線部の上部に形成される磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場から構成された原子捕捉手段とを備えるものである。従って、超伝導電流により生成された磁場ポテンシャルの極小点に、原子が捕捉される。
【0009】
上記原子捕捉素子において、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部とを少なくとも備え、第2磁場は、基板の上面と平行な平面内で第1方向に垂直な方向へ加えられる磁場であればよい。
【0010】
また、上記原子捕捉素子において、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第2方向に延在する第3配線部とを備え、原子捕捉手段は、第1磁場と、超伝導電流により第2配線部に生成される第2磁場と、超伝導電流により第3配線部に生成される第3磁場とから構成されていればよい。
【0011】
また、上記原子捕捉素子において、超伝導電流生成手段は、超伝導閉回路の周囲に超伝導閉回路に沿って設けられて超伝導電流の制御が可能とされた超伝導開回路と、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域とから構成されていればよい。また、超伝導電流生成手段は、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域と、加熱領域を挟むように超伝導閉回路に接続して電流が印加される2つの端子部とから構成されてても良い。
また、上記原子捕捉素子において、超伝導電流生成手段は、超伝導閉回路を貫く磁場を発生する電流駆動磁場発生手段と、超伝導閉回路を超伝導転移温度に制御する冷却手段とから構成されていてもよい。
【0012】
また、本発明に係る及び原子捕捉方法は、基板の上に形成された超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第1ステップと、超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在した第1配線部に、超伝導電流による第1磁場を生成するとともに、第1磁場とは異なる方向の第2磁場を生成し、第1磁場と第2磁場とから構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、第1配線部の上部に形成する第2ステップとを少なくとも備えるようにしたものである。
【0013】
上記原子捕捉方法において、第2ステップは、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、第1配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部とを流れる超伝導電流により第1磁場を生成する第3ステップと、基板の上面と平行な平面内で第1方向に垂直な方向の第2磁場を第1配線図に加える第4ステップとを備えていればよい。
【0014】
また、上記原子捕捉方法において、第2ステップでは、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の一端に接続して第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、第1配線部と、超伝導閉回路の一部に設けられ、第1配線部の他端に接続して第2方向に延在する第3配線部とを流れる超伝導電流により、第1配線部に第1磁場を生成し、第2配線部に第2磁場を生成し、第3配線部に第3磁場を生成し、第1磁場とは180°異なる方向に、第1磁場を挟むように第2磁場及び第3磁場を生成し、第1磁場,第2磁場,及び第3磁場から構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、第1配線部の上部に形成する。
【0015】
また、上記原子捕捉方法において、第1ステップは、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、超伝導閉回路の周囲に超伝導閉回路に沿って設けられた超伝導開回路に超伝導電流を印加する第6ステップと、加熱領域の加熱を停止して超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップとを備え、第2ステップの後に、超伝導開回路に対する超伝導電流の印加を停止する第8ステップを備えるようにすればよい。
【0016】
また、上記原子捕捉方法において、第1ステップは、超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、加熱領域を挟むように超伝導閉回路に接続した2つの端子部に超伝導電流を印加する第6ステップとを備え、第2ステップの後に、加熱領域の加熱を停止して超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップを備えるようにしてもよい。
【0017】
また、上記原子捕捉方法において、第1ステップは、超伝導閉回路が超伝導転移温度より高い状態で超伝導閉回路を貫く磁場を加える第5ステップと、超伝導閉回路を磁場が貫いている状態で、超伝導閉回路を超伝導転移温度以下にする第6ステップと、超伝導閉回路を貫く磁場を停止する第7ステップとを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、基板の上に形成された超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とし、超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在して超伝導電流による第1磁場を生成する第1配線部と、第1磁場及び第1磁場とは異なる方向の第2磁場から構成され、第1配線部の上部に形成される磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場から構成された原子捕捉手段とにより、原子を捕捉するようにしたので、配線が配置された基板表面近傍においても、原子の強い閉じ込めを安定した状態でできるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
[実施の形態1]
はじめに、本発明の第1の実施の形態について説明する。図1(a),図1(b)は、本発明の実施の形態1における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。図1(a)は平面図、図1(b)は、側面図である。
【0020】
本実施の形態1における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板101の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路102及び超伝導開回路103を備え、超伝導閉回路102に、捕捉部配線(第1配線部)121と2つの配線部(第2配線部)122,配線部(第3配線部)123とから構成されたZ型ワイヤー部120を備える。Z型ワイヤー部は、超伝導閉回路102の一部(局所的)に設けられている。超伝導開回路103は、超伝導閉回路102の周囲に沿って配置されていている。また、超伝導閉回路102は、先端部にヘアピンカーブを備えた形状の加熱領域152を備え、超伝導開回路103は、端子131及び端子132を備える。本実施の形態1では、以降に説明するように、超伝導開回路103や加熱領域152が、超伝導閉回路102に対する超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0021】
ここで、Z型ワイヤー部120についてより詳細に説明する。Z型ワイヤー部120は、まず、基板101の上部に原子を捕捉する捕捉領域151を形成する捕捉部配線121を備える。また、Z型ワイヤー部120は、捕捉部配線121の一端に接続して捕捉部配線121の延在方向とは異なる方向に延在する配線部122を備える。加えて、Z型ワイヤー部120は、捕捉部配線121の他端に接続して捕捉部配線121の延在方向及び配線部122の延在方向とは異なる方向に延在する配線部123を備えている。図1(a)に示す例では、配線部122は、捕捉部配線121に直交して接続し、配線部123は、配線部122と異なる方向に、捕捉部配線121に直交して接続している。従って、配線部122と配線部123は、基板101の平面上で、捕捉部配線121と起点として異なる方向に延在して互いに平行な関係となっている。なお、Z型ワイヤー部120の周囲にあたる超伝導開回路103の部分も、Z型ワイヤー部120と同様の構成となっている。
【0022】
また、本原子捕捉素子は、超伝導閉回路102が形成されている平面内において、Z型ワイヤー部120を構成する捕捉部配線121の延在方向に垂直な方向の磁場(第2磁場)161が、外部磁場発生部160より印加可能とされている。また、本原子捕捉素子は、レーザ照射部(加熱手段)162からの加熱領域152に対するレーザ照射により、加熱領域152の超伝導閉回路102が加熱可能とされている。なお、他の方法により加熱しても良い。また、本原子捕捉素子は、例えば液体ヘリウムなどを用いるクライオスタットなどの冷却部(冷却手段)171に取り付けて用いられ、超伝導閉回路102及び超伝導開回路103などの超伝導転移温度(Tc)以下まで冷却可能とされている。例えば、原子捕捉素子は、超伝導閉回路102などが形成されている面を、地面の方向に向けて冷却部171に取り付けられている。
【0023】
次に、本実施の形態における原子捕捉素子の製造について簡単に説明すると、例えば、分子線エピタキシー法により、基板101の上にMgB2膜が形成された状態とする。MgB2膜は、例えば、膜厚1.6μm程度に形成された状態とすればよい。次に、MgB2膜をよく知られたリソグラフィ技術に加工することで、基板101の上に超伝導閉回路102及び超伝導開回路103が形成された状態とする。例えば、超伝導閉回路102は、線幅100μm程度に形成され、超伝導開回路103は、線幅200μm程度に形成された状態とすればよい。また、超伝導開回路103の外形は、一辺が1cm程度の矩形の状態に形成された状態とすればよい。また、端子131及び端子132は、一辺が1mm程度の矩形に形成されていればよい。なお、これら材料及び寸法は一例であり、これに限るものではなく、超伝導電流を流すことが可能な配線材料や寸法であれば、他の材料から構成して異なる寸法に形成しても良いことは言うまでもない。
【0024】
次に、本実施の形態1における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。なお、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)から磁気光学トラップ(MOT)172(図1(b))で予備冷却した後、四重極磁場トラップ(QMT)173中に保持されているものとする。
【0025】
まず、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。これにより、超伝導閉回路102及び超伝導開回路103が超伝導状態となる。
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射により、加熱領域152を加熱して上記Tc以上にまで昇温し、当該部分を常伝導状態とする。
【0026】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域151の上に移動させる。この状態で、端子131及び端子132の間に電流を流して超伝導開回路103に電流が流れた状態とし、加えて、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域151に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。このことにより、超伝導開回路103の捕捉領域151にあたる配線部の上部に磁場トラップが生成され、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップ(捕捉領域151)に捕捉される状態となる。
【0027】
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射を停止し、加熱領域152の加熱状態を停止することで、加熱領域152が上記Tc以下にまで冷却された状態とし、超伝導閉回路102の全体が超伝導(超伝導閉回路)にされた状態とする。
【0028】
次に、端子131及び端子132の間に流していた電流を停止して超伝導開回路103への電流を遮断する。このことにより、超伝導状態とされている超伝導閉回路102に超伝導永久電流が流れる状態となる。言い換えると、超伝導開回路103及び加熱領域152を含む超伝導電流生成手段により、超伝導閉回路102に対して超伝導電流が生成されるようになる。このとき、外部磁場発生部160からの磁場161により捕捉領域151に外部からバイアス磁場が印加されているので、捕捉部配線121の上部に新たに磁場トラップ(原子捕捉手段)が形成され、上記原子の捕捉状態が継続される。Z型ワイヤー部120に流れる電流によって捕捉部配線121の上部に発生する磁場(第1磁場)と、均一な磁場161とが重なるところは、磁場ポテンシャルの極小点(3次元的な極小点)をもつ不均一な磁場が形成される。この不均一な磁場における極小点の領域が、磁場トラップとなり原子が捕捉されるようになる。
【0029】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉部配線121の上部に形成される磁場トラップは、超伝導閉回路102における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。これらのことにより、トラップ中心を捕捉部配線121に近づけても、トラップ寿命が著しく低下することが抑制されるようになり、トラップ中心を捕捉部配線121に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、原子を捕捉した状態においては、超伝導閉回路102に対する外部からの電源供給を必要としない。
【0030】
[実施の形態2]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図2は、本発明の実施の形態2における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。
【0031】
本実施の形態2における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板102の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路202を備え、超伝導閉回路202に、捕捉部配線221から構成されたZ型ワイヤー部を備える。このZ型ワイヤー部は、前述した実施の形態1のZ型ワイヤー部120と同様である。また、超伝導閉回路202は、加熱領域252を備え、加えて、加熱領域252を挟むように配置された端子204及び端子205を備える。前述した実施の形態1では、ヘアピン形状の加熱領域152を備えるようにしたが、これに限るものではなく、図2に示すように、超伝導閉回路202の矩形の一角を加熱領域252としてもよい。ただし、前述した加熱領域152のようにヘアピン状に形成した方が、加熱による他への影響が低減できる。本実施の形態2では、以降に説明するように、加熱領域252、端子204及び端子205が、超伝導閉回路202に対する超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0032】
また、本原子捕捉素子も、前述した実施の形態1と同様に、超伝導閉回路202が形成されている平面内において、捕捉部配線221の延在方向に垂直な方向の磁場161が、印加可能とされている。また、本原子捕捉素子も、加熱領域252に対するレーザ照射により、加熱領域252の超伝導閉回路202が加熱可能とされている。また、本原子捕捉素子は、例えば液体ヘリウムなどを用いるクライオスタットなどにより、超伝導閉回路202の超伝導転移温度(Tc)以下まで冷却可能とされている。これらのことは、図1(b)に示す基板101の代わりに、基板201を配置することで、実現可能である。
【0033】
なお、本実施の形態における原子捕捉素子においても、前述した実施の形態1と同様にすることで、製造可能であり、例えば、超伝導閉回路202は、線幅100μm程度に形成され、外形は一辺が1cm程度の矩形の状態に形成され、また、端子204及び端子205は、一辺が1mm程度の矩形に形成されていればよい。
【0034】
次に、本実施の形態2における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。なお、以下においても、図1(b)に示す外部磁場発生部160,レーザ照射部162,冷却部171,MOT172,及びQMT173を用いて説明する。まず、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)からMOT172で予備冷却した後、QMT173中に保持されているものとする。
【0035】
次に、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。これにより、超伝導閉回路202が超伝導状態となる。
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射により、加熱領域252を加熱して上記Tc以上にまで昇温し、当該部分を常伝導状態とする。
【0036】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域251の上に移動させる。この状態で、端子204及び端子205の間に電流を流して超伝導閉回路202に電流が流れた状態とし、加えて、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域251に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。このことにより、超伝導閉回路202の捕捉部配線221の上部(捕捉領域251)に磁場トラップ(原子捕捉手段)が生成され、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップ(捕捉領域251)に捕捉される状態となる。
【0037】
次に、レーザ照射部162からのレーザ照射を停止し、加熱領域252の加熱状態を停止することで、加熱領域252が上記Tc以下にまで冷却された状態とし、超伝導閉回路202の全体が超伝導(超伝導閉回路)にされた状態とする。
【0038】
次に、端子204及び端子205の間に流していた電流を停止して超伝導閉回路202への電流を遮断する。このことにより、超伝導状態とされている超伝導閉回路202に超伝導永久電流が流れる状態となる。言い換えると、加熱領域252、端子204及び端子205を含む超伝導電流生成手段により、超伝導閉回路202に対して超伝導電流が生成されるようになる。このとき、外部磁場発生部160からの磁場161により捕捉領域251(捕捉部配線221)に外部からバイアス磁場が印加されているので、上記原子の捕捉状態が継続される。
【0039】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉部配線221の上部に形成される磁場トラップは、超伝導閉回路202における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。これらのことにより、トラップ中心を捕捉部配線221に近づけても、トラップ寿命が著しく低下することが抑制されるようになり、トラップ中心を捕捉部配線221に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、原子を捕捉した状態においては、超伝導閉回路202に対する外部からの電源供給を必要としない。
【0040】
[実施の形態3]
はじめに、本発明の第3の実施の形態について説明する。図3,図4は、本発明の実施の形態3における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。図3は平面図、図4は、側面図である。
【0041】
本実施の形態3における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板301の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路302を備え、超伝導閉回路302に、捕捉部配線321から構成されたZ型ワイヤー部を備える。このZ型ワイヤー部は、前述した実施の形態1のZ型ワイヤー部120と同様である。なお、本実施の形態における原子捕捉素子においても、前述した実施の形態1と同様にすることで、製造可能であり、例えば、超伝導閉回路302は、線幅100μm程度に形成され、外形は一辺が1cm程度の矩形の状態に形成されている。
【0042】
また、本原子捕捉素子は、超伝導閉回路302が形成されている平面内において、Z型ワイヤー部120を構成する捕捉部配線321の延在方向に垂直な方向の磁場161が、外部磁場発生部160より印加可能とされている。また、本原子捕捉素子は、電流駆動磁場発生部(電流駆動磁場発生手段)360により、超伝導閉回路302を貫く磁場361が印加可能とされている。また、本原子捕捉素子も、例えば液体ヘリウムなどを用いるクライオスタットなどの冷却部171に取り付けて用いられ、超伝導閉回路302の超伝導転移温度(Tc)以下まで冷却可能とされている。本実施の形態3では、以降に説明するように、超伝導閉回路302を貫く磁場361が超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0043】
次に、本実施の形態3における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。まず、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)からMOT172で予備冷却した後、QMT173中に保持されているものとする。
【0044】
次に、超伝導閉回路302がTcより高温の状態で、電流駆動磁場発生部360からの磁場361が、超伝導閉回路302を貫く状態とする。次に、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。次いで、電流駆動磁場発生部360を停止し、超伝導閉回路302を貫く磁場361が切れた状態とする。これにより、超伝導閉回路302が超伝導状態となり、超伝導永久電流が流れる状態となる。言い換えると、冷却部171及び電流駆動磁場発生部360を含む超伝導電流生成手段により、超伝導閉回路302に対して超伝導電流が生成されるようになる。
【0045】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域251の上に移動させる。この状態で、外部磁場発生部160より磁場161を発生させて捕捉領域251に外部からバイアス磁場が印加された状態とする。このことにより、超伝導閉回路302の捕捉部配線321の上部(捕捉領域351)に磁場トラップ(原子捕捉手段)が生成され、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップに捕捉される状態となる。このとき、超伝導閉回路302には、超伝導永久電流が流れているので、原子の捕捉状態が継続される。
【0046】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉部配線321の上部に形成される磁場トラップは、超伝導閉回路302における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。これらのことにより、トラップ中心を捕捉部配線321に近づけても、トラップ寿命が著しく低下することが抑制されるようになり、トラップ中心を捕捉部配線321に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、超伝導閉回路302に対する外部からの電源供給を必要とせずに原子の捕捉が可能となる。
【0047】
[実施の形態4]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。図5は、本発明の実施の形態4における原子捕捉素子の構成を示す構成図である。
【0048】
本実施の形態4における原子捕捉素子は、例えばサファイアなどのAl2O3の結晶からなる基板501の上に、例えばホウ化マグネシウム(MgB2)からなる配線より構成された超伝導閉回路502を備え、超伝導閉回路502に、互いにほぼ平行な状態に配置された3つの配線部(第2配線部)531,配線部(第1配線部)532,及び配線部(第3配線部)533から構成された捕捉配線部503を備える。なお、本実施の形態における原子捕捉素子においても、前述した実施の形態1と同様にすることで、製造可能であり、例えば、超伝導閉回路502は、線幅100μm程度に形成され、外形は一辺が1cm程度の矩形の状態に形成されている。なお、本実施の形態4でも、以降に説明するように、超伝導閉回路502を貫く磁場361が超伝導電流生成手段を構成するものとなる。
【0049】
ここで、捕捉配線部503について説明する。捕捉配線部503は、基板501の平面上で、超伝導閉回路502を構成する連続した配線の一部で構成されている。また、捕捉配線部503は、互いに180°異なる方向に往復する3つの配線部531,配線部532,及び配線部533を備えている。配線部531,配線部532,及び配線部533は、互いに平行に配置されている。言い換えると、配線部531は、超伝導閉回路502の一部に設けられ、配線部532一端に接続して配線部532が延在する方向とは180°異なる方向に延在し、配線部533は、超伝導閉回路502の一部に設けられ、配線部532他端に接続して配線部531と同じ方向に延在している。従って、超伝導閉回路502に電流が流れると、配線部531及び配線部533に流れる電流に対し、配線部532には180°異なる方向の電流が流れることになり、配線部532により生成する磁場(第1磁場)とは異なる方向の磁場(第2磁場、第3磁場)が、配線部531及び配線部533により生成される。また、捕捉配線部503においても、配線部532に着目すると、前述したZ型ワイヤー部と同様の構成となっている。
【0050】
このように、隣り合う電流が反平行となる3つの直線電流の周囲(断面方向)には、配線部532による第1磁場と、配線部531,533による第1磁場とは異なる方向の第2磁場、第3磁場が生成され、図6に示すように、磁場ポテンシャル(不均一な磁場)が形成され、配線部532の上にはポテンシャル極小点が形成される。本実施の形態4においては、捕捉配線部503において、磁場ポテンシャルの極小点(3次元的な極小点)をもつ不均一な磁場が形成される。この不均一な磁場におけるポテンシャル極小点の領域が、磁場トラップ(原子捕捉手段)となり、原子が捕捉されるようになる。
【0051】
次に、本実施の形態4における原子捕捉素子による原子捕捉方法について説明する。なお、以下においては、図4に示す電流駆動磁場発生部360,冷却部171,MOT172,及びQMT173を用いて説明する。まず、原子捕捉素子に捕捉させようとする原子は、予め室温(20℃程度)からMOT172で予備冷却した後、QMT173中に保持されているものとする。
【0052】
次に、超伝導閉回路502がTcより高温の状態で、電流駆動磁場発生部360からの磁場361が、超伝導閉回路502を貫く状態とする。次に、冷却部171により、原子捕捉素子を上記Tc以下まで冷却する。次いで、電流駆動磁場発生部360を停止し、超伝導閉回路502を貫く磁場361が切れた状態とする。これにより、超伝導閉回路502が超伝導状態となり、超伝導永久電流が流れる状態となる。
【0053】
次に、原子を捕捉しているQMT173を、原子捕捉素子の捕捉領域551の上に移動させる。前述したように、超伝導永久電流が流れている捕捉配線部503においては、配線部532の上方に磁場のポテンシャル極小点が形成され、磁場トラップが形成されている状態となっている。このため、QMT173に捕捉されていた原子が、この磁場トラップに捕捉される状態となる。また、超伝導閉回路502には、超伝導永久電流が流れているので、上述した原子の捕捉状態が継続される。
【0054】
上述した本実施の形態の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、捕捉配線部503(配線部532)の上部に形成される磁場トラップ(磁場ポテンシャル極小点)は、超伝導閉回路502における超伝導永久電流により形成されるので、電源からのノイズの影響が発生しない。また、超伝導状態にまで冷却されているので、熱雑音などの発生も抑制されている。加えて、超伝導電流から発生する磁場のポテンシャル極小点を用いているので、電流ノイズが発生しない。
【0055】
これらのことにより、トラップ中心を配線部532に近づけても、トラップ寿命の低下が抑制されるようになり、トラップ中心を配線部532に近づけることによる原子の強い閉じ込めが安定した状態で実現可能となる。また、本実施の形態の原子捕捉によれば、超伝導閉回路502に対する外部からの電源供給を必要とせずに原子の捕捉が可能となる。なお、本実施の形態4においても、実施の形態1と同様に、超伝導閉回路502の周囲に超伝導閉回路502に沿って超伝導開回路を設け、また、超伝導閉回路502の一部に加熱領域を設け、超伝導開回路における超伝導電流の制御と加熱領域の加熱制御により、超伝導閉回路502に超伝導電流が流れるようにしても良い。また、実施の形態2と同様に、超伝導閉回路に加熱領域とこれを挟む端子部とを設け、超伝導閉回路502に超伝導電流が流れるようにしても良い。
【0056】
なお、上述では、矩形状態の超伝導閉回路の角の部分に、Z型ワイヤー部などの原子を捕捉する配線部を設けるようにしたが、これに限るものではない。例えば、図7(a)の平面図に示すように、矩形状態の超伝導閉回路702の辺の部分の中央部に、捕捉部配線721と2つの配線部722,配線部723とから構成されたZ型ワイヤー部720を設け、捕捉部配線721の上の捕捉領域751に磁場トラップ(原子捕捉手段)を形成するようにしても良い。
【0057】
また、上述では、矩形形状帯の超伝導閉回路の内側に、原子を捕捉する領域を設けるようにしたが、これに限るものではない、例えば、図7(b)の平面図に示すように、矩形状態の超伝導閉回路702の辺の部分の中央部において、回路の外側に配置されるように、捕捉部配線721aと2つの配線部722a,配線部723aとから構成されたZ型ワイヤー部720aを設け、捕捉部配線721aの上の捕捉領域751aに磁場トラップ(原子捕捉手段)を形成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0058】
上述した本発明の原子捕捉素子及び原子捕捉方法によれば、原子のシングルモードとラップ及び原子のシングルモード導波路が可能となり、高い感度を有する原子干渉計や、原子及び超伝導素子の量子状態の変換・記憶・制御手段などの応用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態1における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図3】本発明の実施の形態3における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図4】本発明の実施の形態3における原子捕捉方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施の形態4における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【図6】隣り合う電流が反平行となる3つの直線電流の周囲(断面方向)に形成される磁場ポテンシャルの状態を示すポテンシャル図である。
【図7】本発明における原子捕捉素子の構成例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0060】
101…基板、102,202,302,502,702…超伝導閉回路、103…超伝導開回路、120…Z型ワイヤー部、121,221,321,721,721a…捕捉部配線、122,123…配線部、131,132,204,205…端子、151,251,351,551,751,751a…捕捉領域、152,252…加熱領域、160…外部磁場発生部、161…磁場、162…レーザ照射部、171…冷却部、172…磁気光学トラップ(MOT)、173…四重極磁場トラップ(QMT)、360…電流駆動磁場発生部、361…磁場。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成されて超伝導電流が流れる超伝導閉回路と、
前記超伝導閉回路に前記超伝導電流を流す超伝導電流生成手段と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在し、前記超伝導電流による第1磁場を生成する第1配線部と、
少なくとも前記第1磁場及び前記第1磁場とは異なる方向の第2磁場から形成され、前記第1配線部の上部に形成される磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場から構成された原子捕捉手段と
を備えることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項2】
請求項1記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部と
を少なくとも備え、
前記第2磁場は、前記基板の上面と平行な平面内で前記第1方向に垂直な方向へ加えられる磁場である
ことを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項3】
請求項1記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して前記第2方向に延在する第3配線部と
を備え、
前記原子捕捉手段は、
前記第1磁場と、
前記超伝導電流により前記第2配線部に生成される前記第2磁場と、
前記超伝導電流により前記第3配線部に生成される第3磁場と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導電流生成手段は、
前記超伝導閉回路の周囲に前記超伝導閉回路に沿って設けられて超伝導電流の制御が可能とされた超伝導開回路と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導電流生成手段は、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域と、
前記加熱領域を挟むように前記超伝導閉回路に接続して電流が印加される2つの端子部と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導電流生成手段は、
前記超伝導閉回路を貫く磁場を発生する電流駆動磁場発生手段と、
前記超伝導閉回路を超伝導転移温度に制御する冷却手段と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項7】
基板の上に形成された超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第1ステップと、
前記超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在した第1配線部に、前記超伝導電流による第1磁場を生成するとともに、前記第1磁場とは異なる方向の第2磁場を生成し、前記第1磁場と前記第2磁場とから構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、前記第1配線部の上部に形成する第2ステップと
を少なくとも備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項8】
請求項7記載の原子捕捉方法において、
前記第2ステップは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、前記第1配線部と、前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部とを流れる前記超伝導電流により前記第1磁場を生成する第3ステップと、
前記基板の上面と平行な平面内で前記第1方向に垂直な方向の第2磁場を前記第1配線図に加える第4ステップと
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項9】
請求項7記載の原子捕捉方法において、
前記第2ステップでは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、前記第1配線部と、前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して前記第2方向に延在する第3配線部とを流れる超伝導電流により、前記第1配線部に前記第1磁場を生成し、前記第2配線部に前記第2磁場を生成し、前記第3配線部に第3磁場を生成し、
前記第1磁場とは180°異なる方向に、前記第1磁場を挟むように前記第2磁場及び前記第3磁場を生成し、前記第1磁場,前記第2磁場,及び前記第3磁場から構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、前記第1配線部の上部に形成する
ことを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の原子捕捉方法において、
前記第1ステップは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、前記加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、
前記超伝導閉回路の周囲に前記超伝導閉回路に沿って設けられた超伝導開回路に超伝導電流を印加する第6ステップと、
前記加熱領域の加熱を停止して前記超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、前記超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップと
を備え、
前記第2ステップの後に、
前記超伝導開回路に対する超伝導電流の印加を停止する第8ステップ
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の原子捕捉方法において、
前記第1ステップは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、前記加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、
前記加熱領域を挟むように前記超伝導閉回路に接続した2つの端子部に超伝導電流を印加する第6ステップと
を備え、
前記第2ステップの後に、
前記加熱領域の加熱を停止して前記超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、前記超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップ
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項12】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の原子捕捉方法において、
前記第1ステップは、
前記超伝導閉回路が超伝導転移温度より高い状態で前記超伝導閉回路を貫く磁場を加える第5ステップと、
前記超伝導閉回路を磁場が貫いている状態で、前記超伝導閉回路を超伝導転移温度以下にする第6ステップと、
前記超伝導閉回路を貫く磁場を停止する第7ステップと
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項1】
基板の上に形成されて超伝導電流が流れる超伝導閉回路と、
前記超伝導閉回路に前記超伝導電流を流す超伝導電流生成手段と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在し、前記超伝導電流による第1磁場を生成する第1配線部と、
少なくとも前記第1磁場及び前記第1磁場とは異なる方向の第2磁場から形成され、前記第1配線部の上部に形成される磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場から構成された原子捕捉手段と
を備えることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項2】
請求項1記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部と
を少なくとも備え、
前記第2磁場は、前記基板の上面と平行な平面内で前記第1方向に垂直な方向へ加えられる磁場である
ことを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項3】
請求項1記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して前記第2方向に延在する第3配線部と
を備え、
前記原子捕捉手段は、
前記第1磁場と、
前記超伝導電流により前記第2配線部に生成される前記第2磁場と、
前記超伝導電流により前記第3配線部に生成される第3磁場と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導電流生成手段は、
前記超伝導閉回路の周囲に前記超伝導閉回路に沿って設けられて超伝導電流の制御が可能とされた超伝導開回路と、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導電流生成手段は、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域と、
前記加熱領域を挟むように前記超伝導閉回路に接続して電流が印加される2つの端子部と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子捕捉素子において、
前記超伝導電流生成手段は、
前記超伝導閉回路を貫く磁場を発生する電流駆動磁場発生手段と、
前記超伝導閉回路を超伝導転移温度に制御する冷却手段と
から構成されていることを特徴とする原子捕捉素子。
【請求項7】
基板の上に形成された超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第1ステップと、
前記超伝導閉回路の一部に設けられて第1方向に延在した第1配線部に、前記超伝導電流による第1磁場を生成するとともに、前記第1磁場とは異なる方向の第2磁場を生成し、前記第1磁場と前記第2磁場とから構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、前記第1配線部の上部に形成する第2ステップと
を少なくとも備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項8】
請求項7記載の原子捕捉方法において、
前記第2ステップは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは異なる第2方向に延在する第2配線部と、前記第1配線部と、前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して第1方向及び第2方向とは異なる第3方向に延在する第3配線部とを流れる前記超伝導電流により前記第1磁場を生成する第3ステップと、
前記基板の上面と平行な平面内で前記第1方向に垂直な方向の第2磁場を前記第1配線図に加える第4ステップと
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項9】
請求項7記載の原子捕捉方法において、
前記第2ステップでは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の一端に接続して前記第1方向とは180°異なる第2方向に延在する第2配線部と、前記第1配線部と、前記超伝導閉回路の一部に設けられ、前記第1配線部の他端に接続して前記第2方向に延在する第3配線部とを流れる超伝導電流により、前記第1配線部に前記第1磁場を生成し、前記第2配線部に前記第2磁場を生成し、前記第3配線部に第3磁場を生成し、
前記第1磁場とは180°異なる方向に、前記第1磁場を挟むように前記第2磁場及び前記第3磁場を生成し、前記第1磁場,前記第2磁場,及び前記第3磁場から構成され、磁場ポテンシャルの極小点を備えた不均一な磁場を、前記第1配線部の上部に形成する
ことを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の原子捕捉方法において、
前記第1ステップは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、前記加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、
前記超伝導閉回路の周囲に前記超伝導閉回路に沿って設けられた超伝導開回路に超伝導電流を印加する第6ステップと、
前記加熱領域の加熱を停止して前記超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、前記超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップと
を備え、
前記第2ステップの後に、
前記超伝導開回路に対する超伝導電流の印加を停止する第8ステップ
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の原子捕捉方法において、
前記第1ステップは、
前記超伝導閉回路の一部に設けられた加熱領域を加熱して、前記加熱領域を常伝導状態とする第5ステップと、
前記加熱領域を挟むように前記超伝導閉回路に接続した2つの端子部に超伝導電流を印加する第6ステップと
を備え、
前記第2ステップの後に、
前記加熱領域の加熱を停止して前記超伝導閉回路の全体を超伝導状態とし、前記超伝導閉回路に超伝導電流が流れる状態とする第7ステップ
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【請求項12】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の原子捕捉方法において、
前記第1ステップは、
前記超伝導閉回路が超伝導転移温度より高い状態で前記超伝導閉回路を貫く磁場を加える第5ステップと、
前記超伝導閉回路を磁場が貫いている状態で、前記超伝導閉回路を超伝導転移温度以下にする第6ステップと、
前記超伝導閉回路を貫く磁場を停止する第7ステップと
を備えることを特徴とする原子捕捉方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図6】
【公開番号】特開2008−173745(P2008−173745A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11432(P2007−11432)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月18日 社団法人 日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第61巻第2号(2006年秋季大会)第2分冊」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成18年度独立行政法人 科学技術振興機構「アルカリ金属および希ガス原子を使った量子演算システムの開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月18日 社団法人 日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集 第61巻第2号(2006年秋季大会)第2分冊」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成18年度独立行政法人 科学技術振興機構「アルカリ金属および希ガス原子を使った量子演算システムの開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]