説明

原子炉格納容器の水素処理設備

【課題】水素処理性能の低下をさらに抑制できる原子炉格納容器の水素処理設備を提供する。
【解決手段】水素処理設備1は、ケーシング2、複数の触媒カートリッジ3およびヨウ素吸着材カートリッジ4を有する。内部に触媒を充填した板状の複数の触媒カートリッジ3が、ケーシング2内に設置され、ケーシング2内に平行に並んで配置されている。触媒カートリッジ3の相互間には、ガス通路5が形成される。ヨウ素吸着材を内部に充填した板状の複数のヨウ素吸着材カートリッジ4が、ケーシング2内に設置され、ケーシング2内に平行に並んで配置されている。ヨウ素吸着材カートリッジ4は、触媒カートリッジ3の真下に配置され、ヨウ素吸着材カートリッジ4の横断面積および横断面形状は、触媒カートリッジ3のそれらと同じである。ヨウ素吸着材カートリッジ4の相互間には、ガス通路5が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉格納容器の水素処理設備に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子炉格納容器の水素処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の安全設計において設計基準事象として考慮している冷却材喪失事故では、原子炉圧力容器内の高温高圧の冷却水が、原子炉圧力容器に接続された配管等の破断箇所から高温の蒸気になって原子炉格納容器内に放出される。原子炉圧力容器内の炉心に装荷されている燃料集合体の燃料棒の温度が上昇し、燃料棒の被覆管のジルコニウムと水が反応して水素ガスが発生する。この水素は、配管破断箇所から蒸気と共に原子炉格納容器内に放出される。また、配管破断箇所から原子炉格納容器内に放出された放射性物質が圧力抑制プールへ流入し、水の放射線分解によって水素ガスおよび酸素ガスが発生することが想定されている。
【0003】
このような事象への対策として、圧力抑制室を有する原子炉格納容器を採用している沸騰水型原子力プラントでは、運転中、原子炉格納容器内の雰囲気が窒素ガスに置換されている。さらに、万が一の冷却材喪失事故の発生に備えて、原子炉格納容器と配管で接続されている加熱式水素処理設備が設置されている。冷却材喪失事故が発生したときには、ブロアの駆動により原子炉格納容器内の水素および酸素を含むガスを加熱式水素処理設備に供給し、加熱式水素処理設備の電気ヒーターによる加熱により水素と酸素を再結合させて水蒸気に変換する。
【0004】
一方、近年では、受動的安全性に優れ、外部動力を必要としない触媒式の水素処理設備が開発されている。この触媒式水素処理設備の一例が、特開平10−227885号公報に記載されている。触媒式水素処理設備は、水素と酸素を反応させる触媒、および触媒を収納するチムニを有し、原子炉格納容器内の、原子炉圧力容器が配置されるドライウェル、および圧力抑制室に配置される。触媒層の上端からチムニ出口部までの高さが触媒層の高さの2倍以上で、チムニ出口部の流路面積がチムニ入口部の流路面積の25%以上になっている。
【0005】
原子炉格納容器内において、水素および酸素を含む、触媒式水素処理設備の周囲に存在するガスが、チムニ入口部からチムニ内の触媒層に流入する。水素および酸素は、触媒表面で化学反応を生じて再結合され、水になる。この化学反応は発熱反応であって、この発熱により触媒層内のガスが温められ、触媒層内で上昇流が発生する。温められたガスは、触媒層から流出してチムニ出口部から触媒式水素処理設備外に排出される。この結果、チムニ内が負圧になり、新たなガスが下端部のチムニ入口部からチムニ内の触媒層に流入し、触媒層内で水素と酸素が反応する。これらのプロセスを繰り返し、触媒式水素処理設備の周囲に存在するガスが水素および酸素を含んでいる場合に、触媒式水素処理設備は触媒により水素を処理しながら循環流を形成し、ガスに含まれる水素を連続的に処理する。
【0006】
一方、原子力プラントにおいて、例えば、原子炉格納容器内に冷却材を放出する冷却材喪失事故が発生した場合、配管等の破断箇所から原子炉格納容器内に蒸気と共に核分裂生成物であるヨウ素が放出される可能性がある。触媒式水素処理設備で水素を処理するとき、触媒層に流入したガスに含まれるヨウ素は、触媒表面に存在する貴金属であるパラジウム(または白金)と化合物を形成し、触媒機能を低下させる。ヨウ素による触媒機能の低下を抑制するために、触媒層の上流にヨウ素フィルタを配置した触媒式水素処理設備が提案されている(特開平11−94992号公報)。
【0007】
また、触媒式水素処理設備の他の例が、特表平5−507553号公報に記載されている。この触媒式水素処理設備は、原子力プラントの原子炉格納容器内に配置され、ケーシング内に触媒層および案内装置を設置している。触媒層は表面を白金(またはパラジウム)で覆った平板状の複数の触媒担体を有する。平板状の触媒担体は波形をしており、複数の触媒担体が触媒担体相互間に煙突状ガス通路を形成するように配置されている。案内装置は、ケーシング内において、触媒層の上流(下方)に配置されており、ケーシング内に流入して触媒層に導かれるガス流を整流する機能を有している。
【0008】
ディーゼルエンジンを備えた自動車の排ガスを浄化する排ガス浄化装置が、特開2004−100659号公報に記載されている。この排ガス浄化装置は、触媒層および排ガス整流構造体を有する。触媒層は、排ガス整流構造体の下流に配置され、耐火性多孔質無機酸化物担体に、貴金属(白金およびパラジウム等)または遷移金属(ニッケルおよび銅等)を担持した酸化触媒により形成される。排ガス整流構造体は、ハニカム構造体であって、触媒層に供給される排ガスを整流する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−227885号公報
【特許文献2】特開平11−94992号公報
【特許文献3】特表平5−507553号公報
【特許文献4】特開2004−100659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
冷却材喪失事故時に配管等の破断箇所から放出される蒸気に、水素および酸素以外にヨウ素が含まれている場合には、触媒式水素処理設備内に水素および酸素と共にヨウ素が流入し、触媒式水素処理設備内に配置された触媒の水素処理性能が、ヨウ素の影響により低下することが懸念される。
【0011】
発明者らは、ヨウ素が存在する場合でも、触媒式水素処理設備における水素処理性能の低下を抑制できる対策について検討を行った。冷却材喪失事故時では、原子炉格納容器内に蒸気が存在し、ヨウ素は、後述するように、ガス成分(ガスの状態)およびミスト成分として原子炉格納容器内に存在するため、発明者らは、ヨウ素のガス成分およびミスト成分と触媒の接触を抑制することによって、触媒式水素処理設備における水素処理性能の低下を抑制できることを見出した。
【0012】
本発明の目的は、水素処理性能の低下をさらに抑制できる原子炉格納容器の水素処理設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、ガス流入口を下端部に形成してガス排出口を上端部に形成したケーシングと、ケーシング内に設置されて水素と酸素を反応させる触媒が充填され、相互間にガス排出口に連絡される第2ガス通路を形成した複数の触媒カートリッジと、ケーシング内でそれぞれの触媒カートリッジの真下に配置され、ヨウ素吸着剤が充填されて相互間にガス流入口に第1ガス通路を形成した複数のヨウ素吸着材カートリッジとを備え、
第1ガス通路が第2ガス通路に連絡され、触媒カートリッジの横断面の形状および横断面積がヨウ素吸着材カートリッジの横断面の形状および横断面積と実質的に同じであることにある。
【0014】
原子炉内の冷却材が破断箇所から原子炉格納容器内に放出される事故が発生したとき、原子炉格納容器には、水素、酸素およびヨウ素を含むガスが存在する。このガスは、原子炉格納容器内に配置した水素処理設備内の複数のヨウ素吸着材カートリッジ相互間に形成された第1通路に流入する。第1ガス通路の下部では、水素、酸素およびヨウ素を含むガスの、第1通路内での流れが乱れているので、ヨウ素のガス成分およびミスト成分が、ヨウ素吸着材カートリッジ内のヨウ素吸着材に吸着される。ヨウ素吸着材カートリッジの作用によってガスの流れが整流されるため、第1ガス通路の出口側では、ガスの流れの乱れがなくなり、ガス成分よりも拡散性の低いミスト成分はガス成分に比べてヨウ素吸着材に吸着されにくくなる。整流されたガスが、複数の触媒カートリッジの相互間に形成された第2ガス通路内に流入するため、拡散性の低いミスト成分の、触媒カートリッジ内の触媒の表面への付着が著しく抑制される。このように、触媒表面へのヨウ素の付着が著しく抑制されるため、水素処理設備における水素処理性能の低下をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水素処理設備において、水素処理性能の低下をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の原子炉格納容器の水素処理設備の構成図である。
【図2】図1に示す水素処理設備内におけるヨウ素の流動状態を示す模式図である。
【図3】図1に示す水素処理設備の触媒カートリッジにおけるヨウ素のガス成分およびミスト成分の吸着量を示す特性図である。
【図4】整流板を設置していない水素処理設備内でのガスの流動状態を示す説明図である。
【図5】本発明の他の実施例である実施例2の原子炉格納容器の水素処理設備の構成図である。
【図6】ヨウ素吸着カートリッジの水素処理設備高さ方向における長さ/清流板間の幅と触媒カートリッジ部のヨウ素吸着率の関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、ヨウ素が存在する場合でも、触媒式水素処理設備における水素処理性能の低下を抑制できる対策について検討を行った。
【0018】
冷却材喪失事故時に、原子炉格納容器内に蒸気と共に放出された水素、酸素およびヨウ素は、原子炉格納容器内に元々存在する窒素ガスおよび蒸気と共に、原子炉格納容器内に設置された触媒式水素処理設備内に流入する。原子炉格納容器内に蒸気が存在するため、原子炉格納容器内に放出されたヨウ素は、ガス成分、およびヨウ素が水蒸気と反応して微細な粒子状になったミスト成分として原子炉格納容器内に存在する。このため、触媒式水素処理設備内に流入するガスは、ヨウ素のガス成分およびミスト成分をそれぞれ含んでいる。
【0019】
触媒を充填した板状の複数の触媒カートリッジが、相互間に所定の間隔を置いて触媒式水素処理設備のケーシング内に配置される。触媒カートリッジの相互間は、触媒水素処理設備内に流入したガスが流れる通路となる。
【0020】
発明者らは、ヨウ素のガス成分およびミスト成分を含むガスが触媒式水素処理設備内で流動している状態を検討した。図4を用いて、その検討結果を説明する。上記した複数の触媒カートリッジ3が触媒式水素処理設備のケーシング2内に相互間に間隔を置いて配置され、隣り合う触媒カートリッジ3間にガス通路5が形成される。冷却材喪失事故発生後において、原子炉格納容器内に存在する水素、酸素、およびヨウ素のガス成分およびミスト成分をそれぞれ含んでいるガスが、触媒式水素処理設備のケーシング2の下端に形成されたガス流入口から、触媒カートリッジ3の相互間に形成された各ガス通路5に流入する。
【0021】
ミスト成分の粒径は、通常、0.1μm以上の大きさであり、ガス成分に比べ拡散性が著しく低下する。このような場合、ガス通路5内でのヨウ素の移行経路は周囲のガスの流れに支配される。ガス通路5の下部では流入したガスの流れが乱れており、ヨウ素のガス成分およびミスト成分が共に触媒カートリッジ3内の触媒に接触して触媒の表面に付着する。触媒の表面積のうちヨウ素が付着する表面積が増加するほど、触媒による水素処理性能が低下する。
【0022】
そこで、発明者らは、触媒カートリッジ3相互間に形成されたガス通路5内のガスの流れを整流することによって、触媒へのヨウ素の付着が抑制できることを見出した。特表平5−507553号公報および特開2004−100659号公報に記載されたように、触媒カートリッジ3の上流に整流板を配置することが考えられる。しかしながら、上流に整流板を配置して触媒カートリッジ3相互間のガス通路5に流入するガスの流れを整流したとしても、ヨウ素のガス成分は、ミスト成分に比べて拡散性が高いので、触媒カートリッジ3の触媒の表面に付着しやすい。
【0023】
発明者らは、ミスト成分の触媒カートリッジの触媒への付着を抑制するために、触媒カートリッジの上流に配置する整流板をヨウ素吸着材で構成すれば良いことに気付いた。ヨウ素吸着材を充填したヨウ素吸着材カートリッジを触媒カートリッジの上流に配置した場合には、ヨウ素吸着材カートリッジ相互間にもガス通路(便宜的に、第1ガス通路という)が形成される。このガス通路に流入したガスの流れが乱されているため、そのガスに含まれたヨウ素のガス成分およびミスト成分がヨウ素吸着材カートリッジ内のヨウ素吸着材に吸着される。ミスト成分よりも拡散しやすいガス成分のヨウ素吸着材に吸着される量は、ミスト成分よりも多くなり、大部分のヨウ素のガス成分がヨウ素吸着材に吸着される。ヨウ素吸着材カートリッジ相互間のガス通路に流入したヨウ素のミスト成分の一部は、触媒カートリッジ相互間のガス通路(便宜的に、第2ガス通路という)に流入する。
【0024】
第1通路を通過して第2通路に流入したガスの流れは、ヨウ素吸着材カートリッジによって整流されており、ミスト成分の拡散性が低いので、第2通路内をガスが流れている間に、触媒カートリッジの触媒に付着するミスト成分が極めて少なくなる。ヨウ素のガス成分の大部分がヨウ素吸着材カートリッジ内のヨウ素吸着材に吸着されるので、そのガス成分の触媒に付着する量も、極めて少なくなる。したがって、ヨウ素による触媒性能の低下がさらに抑制される。ヨウ素吸着材カートリッジは、ヨウ素吸着機能とガスの整流機能を有する。
【0025】
以上の検討結果を反映した本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の好適な一実施例である原子炉格納容器の水素処理設備を、図1および図2を用いて説明する。
【0027】
まず、本実施例の水素処理設備が設置される原子力プラントの一例である沸騰水型原子力プラントを、説明する。沸騰水型原子力プラントは、特開平11−94992号公報の図6に示すように、原子炉圧力容器を有する原子炉、および原子炉を取り囲む原子炉格納容器を備えている。原子炉格納容器内は、ドライウェルと圧力抑制室に隔離される。原子炉は、ドライウェルに配置され、原子炉格納容器内に設置されたペデスタルに据え付けられている。圧力抑制室内には、冷却水を充填した圧力抑制プールが存在する。ペデスタル内に形成されてドライウェルに一端が開放された複数のベント通路の他端が、圧力抑制プールの冷却水中に開口している。環状のγ線遮蔽体が、ペデスタルに設置され、原子炉圧力容器を取り囲む。主蒸気配管が、原子炉圧力容器に接続され、原子炉格納容器を貫通してタービンまで達している。
【0028】
本実施例の水素処理設備1は、特開平11−94992号公報に記載されるように、ドライウェル、および圧力抑制室内で圧力抑制プールの冷却水液面より上方の空間内で複数の位置に設置される。この水素処理設備1の構成を具体的に説明する。
【0029】
水素処理設備1は、ケーシング2、複数の触媒カートリッジ3およびヨウ素吸着材カートリッジ4を有する。触媒カートリッジ3は、内部に触媒を充填しており、板状になっている。複数の触媒カートリッジ3が、ケーシング2内に設置され、ケーシング2の1つの側面からこの側面と対向する他の側面に向って、平行に並んで配置されている。触媒カートリッジ3の相互間には、図2に示すように、所定幅のガス通路5が形成される。触媒は、粒状であり、多孔質の金属担体の表面に無機酸化物、例えば酸化アルミナを担持し、酸化アルミナの表面に触媒金属である白金を添着して構成される金属触媒である。金属触媒の替りに、多孔質の無機酸化物、例えば、多孔質のアルミナの担体の表面に金属触媒を添着して構成される無機酸化物触媒を用いてもよい。触媒金属としては、白金の替りに、パラジウムを用いてもよい。
【0030】
ヨウ素吸着材カートリッジ4は、ヨウ素吸着材を内部に充填して、板状になっている。ヨウ素吸着材としては、比表面積の大きな粒状の活性炭が用いられる。活性炭以外に、ヨウ素吸着材として、一部に銅や銅合金を含む吸着材、またはパラジウムおよび白金などの貴金属を含む吸着材を用いてもよい。複数のヨウ素吸着材カートリッジ4が、触媒カートリッジ3と同様に、ケーシング2内に設置され、ケーシング2の1つの側面からこの側面と対向する他の側面に向って、平行に並んで配置されている。各々のヨウ素吸着材カートリッジ4は、触媒カートリッジ3の上流側で各触媒カートリッジ3の真下にそれぞれ配置されており(図2参照)、ヨウ素吸着材カートリッジ4の横断面積および横断面形状は、触媒カートリッジ3のそれらと同じである。ヨウ素吸着材カートリッジ4の相互間には、図2に示すように、所定幅を有するガス通路5が形成される。ヨウ素吸着材カートリッジ4の相互間に形成されたガス通路5の幅は、触媒カートリッジ3の相互間に形成されたガス通路5の幅と同じある。
【0031】
ケーシング2の底部にはガス流入口7が形成され、このガス流入口7はヨウ素吸着材カートリッジ4の相互間に形成されたガス通路5に連絡される。ケーシング2の上端部の側面に、ガス流出口8が形成されている。触媒カートリッジ3の相互間に形成されたガス通路5は、ケーシング2内で触媒カートリッジ3の上方に形成される内部空間6に連絡され、この内部空間6はガス流出口8に連絡される。
【0032】
原子炉格納容器内の複数箇所に本実施例の水素処理設備1を配置した沸騰水型原子力プラントにおいて、プラントの運転中に、例えば、原子炉格納容器内の主蒸気配管が破断して原子炉圧力容器内の冷却材が原子炉格納容器内に噴出する冷却材喪失事故が発生したことを想定する。原子炉圧力容器内の高温高圧の冷却水が、主蒸気配管の破断箇所から高温の蒸気となって原子炉格納容器のドライウェル内に噴出する。噴出する蒸気は、水素、酸素およびヨウ素を含んでいる。
【0033】
ドライウェルに噴出された蒸気は、ペデスタルの内部に形成されたベント通路を通って圧力抑制プールの冷却水中に噴出されて、凝縮される。このような蒸気の凝縮によって、冷却材喪失事故時に、原子炉格納容器内の圧力上昇が抑制される。
【0034】
水素および酸素は、原子炉圧力容器内で冷却水の放射線分解によって生成される。さらに、冷却材喪失事故時において、燃料集合体の燃料棒の温度が上昇し、燃料棒の被覆管のジルコニウムと水が反応して水素ガスが発生する。このようにして生成された水素および酸素が、主蒸気配管の破断箇所からドライウェル内に放出される蒸気に含まれている。なお、冷却材喪失事故が生じたときには、非常用炉心冷却系の作動により原子炉圧力容器内の炉心に冷却水が注水されて、炉心内の燃料集合体に含まれる複数の燃料棒の冷却が行われ、燃料棒の溶融を防いでいる。
【0035】
水素、酸素、ヨウ素および蒸気を含むドライウェル内の窒素ガスが、ドライウェルに配置された水素処理設備1に流入する。具体的には、このガスは、ガス流入口7からヨウ素吸着材カートリッジ4の相互間に形成されたそれぞれのガス通路5に流入する。ガスは、ヨウ素のガス成分およびミスト成分を含んでいる。
【0036】
水素処理設備1内の各ガス通路5におけるガスの流動状態を、図2を用いて説明する。ヨウ素吸着材カートリッジ4の下端の位置Iからヨウ素吸着材カートリッジ4の上端の位置(触媒カートリッジ3の下端の位置)Iの間で、ヨウ素吸着材カートリッジ4の相互間に形成されたガス通路5(第1ガス通路という)に流入したガスに含まれた、ヨウ素の、拡散性が高いガス成分、およびヨウ素の、拡散性の低いミスト成分は、第1ガス通路の下部ではガスの流れが乱れている関係上、共に、ヨウ素吸着カートリッジ4に充填されたヨウ素吸着材に吸着され、ガスから除去される。第1ガス通路の上部では、ヨウ素吸着カートリッジ4の作用によって整流されたガスが流れるため、拡散性の高い、ヨウ素のガス成分はヨウ素吸着カートリッジ4内のヨウ素吸着材に吸着されて除去される。しかしながら、第1ガス通路の上部を流れるガスに含まれた、拡散性の低い、ヨウ素のミスト成分は、整流されたガスと共に流れて、拡散によりヨウ素吸着材表面に到達しずらくなり、ヨウ素吸着材に吸着されにくくなる。
【0037】
このため、ヨウ素吸着材に吸着されなかった、ヨウ素のミスト成分が、位置Iから触媒カートリッジ3の上端の位置Iの間で、触媒カートリッジ3の相互間に形成されたガス通路5(第2ガス通路という)内に流入する。第2ガス通路内を流れるガスが各ヨウ素吸着カートリッジ4の作用によって整流されており、ヨウ素のミスト成分の拡散性が低いので、第2ガス通路内を流れているガスに含まれたそのミスト成分が、触媒カートリッジ3内の触媒表面に接触する確率が非常に小さくなる。このため、触媒表面に付着するヨウ素が著しく少なくなる。
【0038】
第2通路内を流れているガスに含まれた水素および酸素は、触媒カートリッジ3内の触媒の作用により再結合反応を生じて水になる。水素処理設備1内に流入したガスがヨウ素を含んでいる場合でも、水素処理設備1では、第2ガス通路を確定する触媒カートリッジ3内の触媒へのヨウ素の付着が著しく抑制されるので、触媒による水素の処理性能の低下を著しく抑制することができる。第2通路から内部空間6に排出された、水素濃度およびヨウ素濃度が低下したガスは、ガス流出口8から水素処理設備1の外部のドライウェル内に排出される。ドライウェル内のガスは、水素処理設備1内のガス通路5とドライウェルの間を循環するので、ドライウェル内の水素および酸素の濃度が低下する。
【0039】
圧力抑制室内に配置された水素処理設備1も、圧力抑制プールの冷却水の液面上方の空間に存在している水素を処理する。この空間に存在するガスがヨウ素を含んでいる場合には、このヨウ素のガス成分は、ヨウ素吸着カートリッジ4内のヨウ素吸着材に吸着される。ベント通路から圧力抑制プールの冷却水中に放出される蒸気は、窒素ガス、水素および酸素の非凝縮性ガスを含んでおり、この非凝縮性ガスは、圧力抑制室内の、冷却水液面上方の空間に蓄積される。非凝縮性ガスに含まれた水素は、圧力抑制室内に配置された水素処理設備1によって上記したように処理される。
【0040】
本実施例の水素処理設備1におけるヨウ素の触媒への付着状況を、発明者らは、実験によって確認した。この実験結果を、図3に示す。実験に用いた水素処理設備1のガス流入口に、水素、酸素およびヨウ素を含む試験用ガスを供給し、ヨウ素吸着材カートリッジ相互間に形成されたそれぞれの第1ガス通路に供給した。試験用ガスに含まれるヨウ素は、ガス成分およびミスト成分を含んでいる。図3では、位置Iでのガス中におけるヨウ素のガス成分およびミスト成分のそれぞれの濃度を100%にしており、位置Iとの位置Iの間の各位置でのガス濃度およびミスト濃度は、位置Iでのそれぞれの濃度に対する相対濃度で示している。
【0041】
ヨウ素吸着カートリッジ4相互間に形成される第1ガス通路内を流れる試験用ガスに含まれるヨウ素のミスト成分の濃度が、ヨウ素吸着カートリッジ4と触媒カートリッジ3の境界の位置である位置Iで約40%に低減されるのに対して、ヨウ素のガス成分の濃度は位置Iで約18%まで低下する。ヨウ素吸着カートリッジ4の設置により、第1ガス通路内に流入したガスに含まれるヨウ素のガス成分は、触媒カートリッジ3の相互間に形成される第2ガス通路に流入する時点で約82%低減される。第1ガス通路内に流入したガスに含まれるヨウ素のミスト成分は、第2ガス通路に流入する時点で約60%低減される。
【0042】
第2ガス通路に流入する時点においてガスに含まれるミスト成分の相対濃度はガス成分のその濃度よりも大きくなっているが、ガスが第2通路内を流れる間に触媒カートリッジ3の触媒表面に付着するヨウ素のミスト成分の濃度は、僅か8.3%である。ガスが第2通路内を流れる間に触媒カートリッジ3の触媒表面に付着するヨウ素のガス成分の濃度は、11.4%である。このように、触媒表面に付着するヨウ素が著しく抑制される。このため、触媒の水素処理性能をより長く保持することができる。なお、本実施例において、例えば、第2ガス通路に流入するヨウ素の濃度のうちガス成分の濃度が50%、ミスト成分の濃度が50%であるとしたとき、触媒カートリッジ3の触媒表面に付着するガス成分の絶対濃度は約4%であり、ミスト成分の絶対濃度は約6%になる。
【実施例2】
【0043】
本発明の他の実施例である原子炉格納容器の水素処理設備を、図5を用いて説明する。本実施例の水素処理設備1Aは、実施例1の水素処理設備1と実質的に同じ構成、すなわち、ケーシング2、複数の触媒カートリッジ3およびヨウ素吸着材カートリッジ4を有する。本実施例の水素処理設備1Aは、実施例1の水素処理設備1よりも、ヨウ素による触媒の水素処理性能の劣化をより有効に抑制することができる。これは、整流板であるヨウ素吸着カートリッジ4の相互間の幅(第2ガス通路の幅)dに対する上下方向におけるヨウ素吸着カートリッジ4の高さLの比(L/d)を、適切に設定することによって可能になった。
【0044】
発明者らは、比L/dと、触媒カートリッジ部(触媒カートリッジ3)におけるヨウ素吸着率の関係を実験により確認した。この実験結果を図6に示す。この実験結果により、発明者らは、比L/dが0以上で5未満の範囲ではヨウ素吸着率が低下するが、比L/dが5以上の領域では、触媒カートリッジ部(触媒カートリッジ3)におけるヨウ素吸着率は、ほぼ一定になることを新たに見出した。このため、比L/dを5以上に設定すると良い。また、水素処理設備を原子炉格納容器内に設置することを考慮すれば、比L/dは200以下にすると良い。したがって、比L/dは、5〜200の範囲内の値にすれば良い。
【0045】
本実施例では、比L/dが、例えば、20であり、dは1cm、Lは20cmである。このとき、触媒カートリッジ3の触媒のヨウ素吸着率は約20%に低減される。
【0046】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、比L/dが20であるので、ヨウ素による触媒の水素処理性能の低下を抑制することができる。
【0047】
前述の各実施例の水素処理設備は、加圧水型原子力プラントの原子炉格納容器内に設置してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1,1A…水素処理設備、2…ケーシング、3…触媒カートリッジ、4…ヨウ素吸着材カートリッジ、5…ガス通路、7…ガス流入口、8…ガス排出口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流入口を下端部に形成してガス排出口を上端部に形成したケーシングと、前記ケーシング内に設置されて水素と酸素を反応させる触媒が充填され、相互間に前記ガス排出口に連絡される第2ガス通路を形成した複数の触媒カートリッジと、前記ケーシング内でそれぞれの前記触媒カートリッジの真下に配置され、ヨウ素吸着剤が充填されて相互間に前記ガス流入口に第1ガス通路を形成した複数のヨウ素吸着材カートリッジとを備え、
前記第1ガス通路が前記第2ガス通路に連絡され、前記触媒カートリッジの横断面の形状および横断面積が前記ヨウ素吸着材カートリッジの横断面の形状および横断面積と同じであることを特徴とする原子炉格納容器の水素処理設備。
【請求項2】
前記第2通路の水平方向における幅が前記第1通路の水平方向における幅に等しい請求項1に記載の原子炉格納容器の水素処理設備。
【請求項3】
前記触媒カートリッジおよび前記ヨウ素吸着材カートリッジが板状をしている請求項1または2に記載の原子炉格納容器の水素処理設備。
【請求項4】
前記ヨウ素吸着材カートリッジの相互間の幅に対する前記ヨウ素吸着材カートリッジの高さの比を5〜200の範囲内の値にする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子炉格納容器の水素処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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