説明

双安定マイクロアクチュエータおよび光スイッチ

双安定マイクロアクチュエータは、電気接触層で融着され一体化した第1および第2の「絶縁体にシリコンをのせた」ウエハーから形成される。V字型溝を備えたカバーが光軸を規定している。V字溝内のコリメート光信号源が、光信号をV字溝内の光ポートに結合する。移動部材上のミラー面は光信号を遮断または反射する。移動部材は、第1および第2の端部に支持点を有する。膨張可能構造体は、移動部材の第1および第2の支持点において、圧縮軸に沿って圧縮力を加えて、移動部材を第1の弓なり状態または第2の弓なり状態に保持する。膨張可能構造体内の過熱要素に入力される制御信号が、圧縮力を小さくさせて、移動部材を第2の状態へと切り替えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信ネットワークの分野に関し、さらに詳しく言えば、光ファイバコンポーネントの分野、および、光スイッチで使用するためのMEMS(Micro Electro - mechanical Systems:マイクロ電子機械システム)関連プロセスによって製造されるマイクロアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、「双安定マイクロアクチュエータおよび光スイッチ」に関して2001年2月27日になされた出願(09/794,773号)の継続出願である。
光スイッチとは、ある光ポートから別の光ポートへ光信号を伝えたり、論理信号などの電気的コマンドに応じて光信号を遮断する働きをしたりするものである。Blonderによる米国特許4,932,745号の発明(AT&Tに譲渡)(その開示内容全体が参照の形で本文書に組み入れられるものとする)における光スイッチ構成は、光路の外または光路内に配置されて入力ファイバと出力ファイバとの間で光信号を偏向させる、というミラーを有している。当該スイッチ構成は第1、第2、第3そして第4の光ポートを有し、各ポートは第1、第2、第3そして第4のファイバセグメントのそれぞれの近接端部(proximate end)に形成され、各セグメントは、シリコン基板ベースにエッチングまたはその他の手法で形成された溝の中に一つずつ配置されている。また、このスイッチ構成には、第1、第2、第3そして第4のレンズレットがさらに含まれ、当該レンズレットは、第1のファイバから出て、第2のファイバに入るか、あるいは第3または第4のファイバに入る、という光ビームをそれぞれコリメートする。これら光ビームの源は、光源(図示せず)によって供給され、公知の光システムで処理される。ミラーは正面側反射平面を有するが、背面側にも並行反射平面を持たせることができる。
【0003】
米国特許5,042,889号の発明(AT&Tに譲渡)(その開示内容全体を参照の形で本文書に組み入れるものとする)は、さらに別の型の光スイッチを開示している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は双安定マイクロアクチュエータであり、第1の選択可能な実施の形態においては光スイッチとして示される。本アクチュエータはフレームを有する。また、可撓性移動部材が第1および第2の支持点において支持されている。当該部材は、その第1の支持点から第2の支持点へと延びる圧縮軸を有する。
【発明の効果】
【0005】
また、膨張可能構造体が、フレームに結合されていると共に、その第1および第2の端部は、移動部材の第1および第2の支持点を駆動するために結合されている。組み立てられた状態では、可撓性移動部材は事前加圧されており、それによって、膨張可能構造体を圧縮すると共に、可撓性移動部材自身も圧縮されて、弓なりの状態に保持される。可撓性移動部材の中央部分は、垂直面上で圧縮軸から外れる形に移動させられる。第1の状態(この状態では、ヒーター電極に電圧は印加されない)と第2の状態(この状態では、予め決められた振幅と幅とを有する電圧パルスがヒーター電極に印加される)とを有する制御信号がヒーター電極に入力され、それによって、膨張可能構造体の要素が加熱され、加熱された構造体が膨張すると可撓性移動部材に加わる圧縮力は小さくなる。圧縮力が弱まると、第2状態を示す制御信号に応じて、可撓性移動部材の中央部分は圧縮軸を越えて移動する。第2状態の制御信号の入力に応じて可撓性移動部材が移動すると、予め決められた時間間隔の後、制御信号は第1の状態に戻る。この時間間隔は、可撓性移動部材が第2の弓なり状態に入ることが保証されるように長さが決められている。なお、この第2の弓なり状態から第1の状態への復帰は、制御信号を第2の状態に戻すことによってのみ可能となる。制御信号を第1の状態に戻すことでヒーターを冷却すれば、膨張可能構造体から可撓性移動部材に加えられる圧縮力を元に戻すことができる。
【0006】
また、もう一つの選択可能な実施の形態においては、第1のコリメート光信号源がフレームに結合されており、これは光信号経路を介して光信号を供給するためである。また、第1の光ポートもフレームに結合されており、これは、コリメート信号源と同軸的に直線上にあることで、光信号を受信できるようになっている。移動部材面は、可撓性移動部材の中央部分上に位置づけられている。移動部材面とは、縦に配置されたミラー面などであり、可撓性移動部材上に配置されることで、可撓性移動部材が圧縮されて第1の弓なり状態にある時には、光信号経路から離れた位置に来るようになっている。可撓性移動部材が圧縮されて第2の弓なり状態になる時には、移動部材面は、光信号経路を完全にブロックまたは反射するような位置に移動させられる。この構成では、双安定マイクロアクチュエータは、光スイッチ機能を果たす形で働く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1(a)および図1(b)にしめす、本発明の一側面に基づく双安定マイクロアクチュエータ10は、2枚の市販のSIO(silicon-on insulator)ウエハーから、MEMS技術を使用して形成されている。これらウエハーは、ウエハー「A」(第1のウエハー)およびウエハー「B」(第2のウエハー)であり、それぞれ縦括弧で囲んで示してある。図1(a)は階層を上側の視点から見て描いており、図1(b)は階層を下側の視点から見て描いている。なお、図1(a)、図1(b)、図2(a)、図2(b)そして図3には、ウエハー「A」および「B」の各層構を展開した形で示しているが、これはあくまで説明のためであることを理解していただきたい。実際には、ウエハー「A」およびウエハー「B」の各層は互いと一体化しており、図に示すように分離されることはない。図2(a)、図2(b)そして図3は、下から見上げる形で示した図1(b)の一部を拡大して示したものである。層を貫通するボイドスペースは参照番号87で示してあるが、図3におけるボイドスペース55は、ハンドル層40の途中までしかない。図2(a)はウエハーAの各層を示し、図3はウエハーBの各層を示す。
【0008】
図1(a)および図1(b)では、階層の一番上の位置に、第1のカバー12が示されている。このカバーは、外側面17と内側面またはベース19を有する。図1(a)では、第1のカバー12の下に4つの光ファイバ14、16、18、20が見られる。図1(b)および図2(a)には、第1のカバー12の底面またはベース19が図示してある。第1のカバー12の底面またはベース19には、V字形溝22、24、26、28が形成されており、これらがファイバ14、16、18、20を受け入れる。ファイバは、カバーが層32上に配置される前に、V字形溝の中に設置される。
【0009】
次に図2(a)を参照する。光ファイバ14が表すのは第1の光信号源であり、これは、外部の光信号源から出てファイバ14のピグテイル21において受信される光信号を介して駆動される。ファイバ14は、コリメートレンズ25を介して出力信号を出力する。第1の光信号は、狭いギャップ27を通過して、ファイバ16の左側端部に位置する第2のコリメートレンズ29に達する。光ファイバ16が表すのは光信号ポートであり、ピグテイル端部30から第1の光信号を出力する。光ファイバ18、20とそれらの作動とは、配置および機能において、ファイバ14、16と同様である。
【0010】
単一モードファイバーの端部でのコリメートレンズ使用については、米国特許出願:第09/628,015号(2000年7月28日出願)で述べられている。この出願「単一モード光スイッチのためのファイバレンズアセンブリ」は、ノリス・ルイスによるもので、譲受人が共通しており、本明細書には、その内容の全体が参照の形で組み入れられるものとする。
【0011】
使用されるファイバは単一モードファイバーを含むが、これに限定はされない。ファイバを第1のカバーに取り付ける前の状態では、ファイバのジャケットは外されていて、ファイバのクラッド(cladding)は露出しているが、その径は約125umである。単一モードファイバーのコア(図示せず)の径は、7〜9マイクロメートルの範囲である。屈折率分布型レンズ(graded-index-lens)が、X字形の中央に当たる各ファイバの端部の位置に図示されている。屈折率分布型レンズは、長さが約300umであり、コリメートレンズの機能を実現する。多モードファイバーが実用的か否かは、光スイッチ構成内のレンズによって作られる光線の径によって決定されるであろう。多モードファイバーのコアは、径が単一モードファイバーに比べて非常に大きく、結果として生じるビームの径もより大きくなる。ビーム径がより大きいということは、より大きな駆動偏向(actuation deflection)が必要とされることを意味し、それはさらに、膨張可能構造体全体の寸法もより大きくしなければならないことを意味する。
【0012】
第1のウエハー(ウエハーA)の各層を図2(a)に示す。第1のウエハーは、約325umの厚みを有するハンドル層32、約0.5umの厚みを有する酸化物層34、そして、約16umの厚みを有するデバイス層36を有する。また、金(gold)製の電気的接触およびトレースの第1パターン38が、デバイス層36のベースに配置されている。
次いで、第2のウエハー(ウエハーB)の各層を図3に示す。第2のウエハーは、階層の一番下に位置して約325umの厚みを有するハンドル層40、約0.5umの厚みを有する酸化物層42、そして約16umの厚みを有するデバイス層44を有する。また、金(gold)製の電気的接触およびトレースの第2パターン46が、デバイス層44の上側に配置されている。第1および第2のパターン38、46は互いと対応する形に作られており、加熱および加圧による熱圧縮接合を用いて一体化(fused together)されるが、これは、第1のウエハーを第2のウエハー上に位置合わせした上で第2のウエハーに接合する、という形で行われる。さらに、第2または下側のカバー50が、ハンドル層40の底面に取り付けられている。
【0013】
図4(a)乃至図4(c)は、第1のウエハー(ウエハーA)の各層の上に設けられたパターンを示し、第1のウエハーの階層の一番上のハンドル層32から可撓性移動部材を有するデバイス層36がある同階層の一番下まで進んでいく形で、各層を示している。
図5(a)乃至図5(c)は、第2のウエハー(ウエハーB)の各層の上に設けられたパターンを示し、第2のウエハーの階層の一番上のデバイス層44からハンドル層40がある同階層の一番下まで順番に進んでいく形で、図1乃至3に示した各層を示している。
・本発明の双安定マイクロアクチュエータの動作
第1および第2のウエハーがMEMS技術を使用して処理され、熱と圧力とを用いて、形の対応する電気的接触層38、46において接合されると、ウエハー「A」とウエハー「B」との間には機械的な連結が確立される。図1(a)、図1(b)、図2(a)そして図3が展開図となっているのは、単に位置関係の説明を目的としたものであり、各ウエハーの層は、実際には分離されることはない。ここで図4(a)乃至図4(c)を参照する。鏡ハンドル層32上の第1ウエハー領域56、酸化物層34上の領域58、そして可撓性移動部材のデバイス層36上の領域60は、ウエハーの構造によって、実際は一体化した形となっている。第1のウエハー(またはウエハー「A」)のデバイス層36は、機械的連結を確立する層38と層46との熱圧縮接合の操作によって、第2のウエハー(またはウエハー「B」)のデバイス層44に結合されている。酸化物層の絶縁部(図示せず)は、必要に応じて配置され、マスク処理され、そしてエッチング処理されて、熱センサーおよび状態監視センサーのために第1および第2のウエハーから必要とされる電気的接触を容易にしている。次いで、図5(a)乃至図5(c)を参照する。デバイス層44の領域62、64、65、66、そして、酸化物層42の領域68、70、71、72は、膨張可能構造体ハンドル層40の領域74と一体化されてフレームを形成し、当該フレームに膨張可能構造体が結合されている。
【0014】
再び図1および図2を参照する。ハンドル層32はエッチング加工され、第1のV字形溝76が形成されており、これにV字形溝78、86、88がつながっている。これらV字形溝78、86、88は、第1のカバー12が階層の一番上となった時点で第1のカバー12の内側に形成されたV字形溝22、24、26、28と相補的な位置関係になるように配置されている。4つの光ファイバ14、16、18、20は、第1のカバー12のベース19に形成されたV字形溝に先ずはめ込まれ、その後、V字形溝76、78、86、88に光ファイバがおさまるように、ハンドル層32に第1のカバーが位置合わせされる。
【0015】
ここで図2を参照する。第1のV字形溝76は、光信号経路を規定する軸を有する。したがって、光ファイバ14は、ピグテイル21において外部光信号源(図示せず)から受信される光信号によって駆動される第1の光信号源ということになる。ファイバ14は、コリメートレンズ24を介して出力信号を出力する。第1の光信号は、狭いギャップ26を通過して、ファイバ16の左端にある第2のコリメートレンズ29に達する。したがって、光ファイバ16は、V字形溝78の第2の部分に置かれた第1の光信号ポートということになる。これは、コリメート信号源と同軸上に並んで光信号を受信し、自身の右端にあるピグテイル端部30から第1の光信号を出力する。光ファイバ18、20とそれらの働きとは、構成および機能においてファイバ16と同様である。
【0016】
図2(a)、図4(c)、そして、断面図である図6(a)乃至図6(c)には、ウエハーAのデバイス層36に形成された可撓性移動部材90が図示してある。図において、ミラー面92は、ウエハーAのハンドル層32の中心部94から形成され、その位置は、可撓性移動部材90の中心部94上である。また、図に示示す可撓性移動部材では、括弧98で示す第1の支持点の位置、括弧100で示す第2の支持点の位置は、それぞれ、圧縮軸102の第1の端部、そして第2の端部となっている。図6(b)を見ると、可撓性移動部材の中心部94は、距離104の分だけ圧縮軸102から位置がずれて(図における距離104の大きさは誇張してある)、第1の状態に入っている。鏡面92の垂直位置は、この第1の状態では、上に上げられている。単一のマイクロアクチュエータは、約100の機械ゲイン(mechanical gain)を有する。支持パッド98および支持パッド100の上および下に形成された支柱が圧縮軸102に沿って1ミクロン移動すると、中心領域104または中心領域106が、垂直方向に約100マイクロインチ移動することになる。
【0017】
図には、鏡92の左側および右側に、ハンドル層32から形成された補強材93a、93bが示されている。補強材は可撓性移動部材90にマス(mass)を加えると共に、制御信号による指示を受けた移動部材が行う、ある状態から別の状態へのトグル運動の完了を助ける。可撓性移動部材はその全長にわたって湾曲しようとするが、湾曲は補強材93a、93bが占める領域のところで抑制され、結果、必要な屈曲がそれ以外の領域全体に転移される。
【0018】
ボッシュプロセス(Bosh Process)は、誘導結合プラズマイオンエッチング(ディープイオンエッチング、またはRIEと呼ばれることもある)を含むものである。設備メーカーとしては、カリフォルニア州レッドウッドシティーにある、Surface Technology Systemsなどの会社がある。フォトマスクを介して連続的に行われるエッチングステップおよび不動態化ステップから成る手順において、プラズマを反応性ガスとの組み合わせで使用し、表面にわずかに波形のついた壁面を生成する。ボッシュ社は本プロセスをライセンスするものと信じられている。エッチング速度は、フローの速度と圧力とによって制御される。本プロセスは、当業者にとっては公知のものである。ボッシュプロセスで行われるエッチングは、ウエハーの結晶面(crystallographic planes)の影響を受けない。
【0019】
本発明の鏡を作る際に用いられる技法は、異方性(anisotropic)エッチングプロセスである。異方性エッチングは、湿式化学エッチングプロセスであり、これは、いくつかあるエッチング材または腐食液のうちの1つとして、KOHまたは水酸化カリウムを使用するのが典型的な形である。エッチング速度は、結晶面の影響を受けるもの(function)であり、それが異方性であるというのは、エッチングの方向が異なればその速度も異なるという意味においてである。これは、V字形溝およびミラー構造の形成において用いられる。また、これは標準プロセスとなっており、契約で外部に出されることもある(アメリカ合衆国カリフォルニア州のミルピタスにあるIC Sensors社などの会社に)。なお、カリフォルニア州フリーモントのNova Sensors社も、このサービスの提供元になっていると信じられている。一般的な分野としてはマイクロ機械加工にあたり、アメリカ合衆国内ではMEMS(Micro Electro-Mechanical Systems:マイクロ電気機械システム)と呼ばれる。
【0020】
異方性エッチングプロセスを使用することで、可撓性移動部材のハンドル層から鏡面92を作ることが可能となる。本プロセスは、機械的45度の並び(automatic 45 degree alignment)の鏡面に、光源および光ポートを直線上に並べる働きをするV字形溝を与える。本プロセスを用いることで、製造される鏡は充分に薄くなるので、単一モード光に関する耐性ビルド(tolerance build)に対応でき、さらに、交差するビームの通り道に配置された際には、2本のビームの同時反射にも対応できる。
【0021】
ウエハー「A」と「B」とは同一のものである。SOI(silicon on insulator)ウエハーを供給するベンダーは、原料としての2枚の4インチウエハーまたは2枚の6インチウエハーから始める。ハンドル部は、厚さ325ミクロンが典型的である。二酸化ケイ素層の厚さは、約2分の1ミクロンある。デバイス層は、厚さ約16ミクロンである。
図6(c)は、圧縮軸102からずれて第2の状態にある可撓性移動部材の中心部94を示す(移動距離106については誇張して示している)。同図には基板「B」の一部が図示されており、可撓性移動部材の中心部94は低い位置へ移動してリセスに収まっている。当該リセスは、デバイス層44、酸化物層42を通過し、ハンドル層40の途中にまで達する形で形成されている。リセスの大きさについては、干渉のない第1の状態に可撓性移動部材が移動するのを許すと共に、可撓性移動部材とウエハー「B」の壁との間に熱絶縁を実現するのに充分な大きさとする。
【0022】
その圧縮軸102に沿って加えられる圧縮力を受けている間、可撓性移動部材90は、安定した状態で、第1の弓なり状態、または第2の弓なり状態を保つ。この圧縮力は、膨張可能構造体に含まれる要素(例えば、図3および図5(a)に示される熱膨張可能アーム108、110)から、それぞれ、ポスト112、114の所にある膨張可能構造体の第1および第2の支持点の位置で結合部を介して加えられる。
【0023】
移動部材の鏡面92は、可撓性移動部材が第1の弓なり状態にある時は、光信号経路から離れた位置を保つ。
図3に示すとおり、第2の二酸化ケイ素層のデバイス層44に形成された膨張可能構造体は、デバイス層44の領域64、65にそれぞれ附属する膨張可能アーム108、110を介して、フレームに結合されている。領域64、65はそれぞれ、領域70、71において酸化物層42に接合されている。そうして、領域70がハンドル層の領域74に接合されている一方、領域71は、領域75に接合されている。また、領域64については、電気的接触層を介して、ウエハー「A」のデバイス層36における領域60に接合されている。領域60は酸化物層58を介して、ウエハー「A」のハンドルにおける領域56に接合されている。
【0024】
図3で示すように、膨張可能構造体の膨張可能アーム108、109、110、111は第1および第2の端部を有し、それらは、それぞれデバイス層44上にある膨張可能構造体の第1および第2の端部パッド112、114が終端となっている。図において、層44の第1および第2の端部パッド112、114は、酸化物層42のパッド118、120を介して、ハンドル層40のパッド122、124に、一体化または接合されている。これらのパッド領域は、SOI構造によって一体化されることで、それぞれ、膨張可能構造体の第1および第2のポスト113、115を形成している。
【0025】
ここで図2(a)を参照する。膨張可能構造体の第1および第2のポストは、第1および第2の末端パッド112、114、電気的接触層の金属を介して、可撓性移動部材のデバイス層36の上のパッド98、100の位置で、可撓性移動移動部材の第1および第2の支持点に結合されている。パッド98、100は、酸化物層34の対応する形のパッドを介して、第1および第2の可撓性移動部材ポストが形成されているハンドル層32上にある形の対応するパッドに対し、SOIウエハーの特性によって一体化されている。つまり、第1および第2の柔軟部材ポストは膨張可能構造体の第1および第2のポストと一体化されているのである。次いで、図3および図5(a)乃至図5(c)を参照する。ウエハー「B」には、8つの横梁またはウェブ(格子状の構造)128、129、130、132、133、134、135、136がMEMS技法のプロセスによって形成されており、膨張可能構造体の第1および第2のポストをハンドル層40に結合している。また、図2および図4(a)乃至図4(c)を参照すると、8つの横梁またはウェブ140、141、142、143、144、145、146、147が、MEMS技法のプロセスによってウエハー「A」に形成され、第1および第2の可撓性移動部材ポスト99、101を、それぞれ、第1および第2の支持点パッド98、100において、ハンドル層32に結合している。ウエハー「A」および「B」が、個々のデバイス層の外表面に形成された電気的接触層によって一体に接合されると、膨張可能構造体のポストと可撓性移動部材のポストとは一体に結合されて、可撓性移動部材の各端部に2つのポストを別々に形成し、4つのウェブまたは横支持要素がポストからフレームまで延びた形となっている。
【0026】
組立作業においては、ウエハー「A」をウエハー「B」に接合する前の段階で、工作器具を用いて膨張可能構造体を事前に偏らせておく。そうすることで、膨張可能構造体は、圧縮軸102に沿って、第1の支持点と第2の支持点との間に圧縮力を加えることとなり、その結果、可撓性移動部材90は、第1の弓なり状態または第2の弓なり状態に圧縮状態で保持されることになる。
【0027】
次いで図3を参照する。第1の実施例の動作においては、制御信号(例えば、充分な高電力(power handling capability)を有する駆動装置からの、バッファされた5Vの論理信号(すなわち、0〜5Vの論理信号))がヒーターを駆動する。当該ヒーターは膨張可能構造体要素(要素109と一続きの要素108、そして要素111と一続きの要素110など)で成り、膨張可能構造体を膨張させる。別の実施の形態では、同じ論理信号が同時に領域64および65に加えられる。また、この構成では、ポスト112および114はアースされている。
【0028】
第1の実施の形態では、論理信号は、0ボルトまたは非常に低い値である第1の状態と、5Vなどの高い値である第2の状態とを有し、領域64または領域65に加えられる。なお、その時、領域64および領域65のうち信号が加えられていない方の領域はアースされている。論理信号は、膨張可能構造体の膨張可能アーム108、109、110、111に電流を通してアームを加熱することで、それらアームを膨張および伸長させ、それによって、可撓性移動部材の第1および第2の支持点パッド98、100に加わる圧縮力を小さくするか、あるいはゼロにする。
【0029】
第2の状態を示す制御信号に応じる形で膨張可能構造体が膨張し、これに伴って、可撓性移動部材に加わる圧縮力が低下すると、可撓性移動部材の中心部は移動可能となり、当該中心部は、第1の弓なり状態から圧縮軸を通過して第2の弓なり状態へ、あるいは、その後に続く、膨張可能構造体による圧縮力の回復に伴い、第2の弓なり状態から圧縮軸を通過して第1の弓なり状態へと移動する。
【0030】
第1の実施の形態では、移動部材の中心領域94が移動することで、ミラー面92も、コリメート光信号源またはピグテイル21,14,26と光学ポート28、16、30との間の位置に移動し、その結果、ギャップ26において、光信号経路を完全にブロックするか、または完全に反射する(鏡が間に入った場合)。その時、可撓性移動部材は圧縮されて、第2の弓なり状態となっている。こうして、本双安定マイクロアクチュエータは、ギャップ26を横切る光信号の流れを中断または反射することで、光スイッチとしての機能を実現するように働く。
【0031】
動作時、制御信号の立ち上がりエッジは鋭く、これに対応する膨張可能構造体の膨張可能アームの加熱も非常に短い時間のうちに実現し、その結果、可撓性移動部材に加わる圧縮力も鋭く瞬間的に低下する。制御信号による加熱の速度は、制御信号の前縁の傾斜や振幅の調節によって調節され、可撓性移動部材の中心部を圧縮状態の軽減に応じて圧縮軸方向に向けて加速させるのに充分な程度に急激なものとすることができる。可撓性移動部材の中心部の加速およびマスは、可撓性移動部材の中心部を、圧縮軸をはさんで、それまでの状態からもう一方の(トグル運動後の)弓なり状態(第1または第2の弓なり状態)にまで移動させるのことができる程度の大きさである。ここで、移動後の状態がどちらになるかは、移動開始前の状態による。また移動は、制御信号の除去に応じて膨張可能構造体からの圧縮力が回復するのに伴って生じる。
【0032】
図3と図5(a)乃至図5(c)に示す実施の形態では、要素108、109、110、111として4つの膨張可能構造体加熱要素が形成されており、第2状態の制御信号下にあって必要とされる加熱を実現するには、これら要素における半導体材料の抵抗率を調節すればよい。なお、明記しておくべきこととして、特定の設計目標を満たすために、異なるパターン(弧を描く形状や楕円形状のセグメントを有する加熱要素など)を考案する場合もありうる。
【0033】
図6(a)乃至図6(c)は、ウエハー「A」のデバイス層36にドープ処理された2つのインディフューズ(indiffused)領域140、142を示す。これらは、第1の電気信号(可撓性移動部材が第1の弓なり状態にあるタイミングを示すように特徴づけられたもの)、および第2の電気信号(可撓性移動部材が第2の弓なり状態にあるタイミングを示すように特徴付けられたもの)を提供する手段となっている。別の実施の形態の最初のものにおいては、当該2つの領域は、可撓性移動部材のデバイス層36上にあるインディフューズ圧電抵抗サイトで成る。2つの領域は電気的接触層に電気的に結合されており、それによって、これら領域を信号定義回路と共に用い、可撓性移動部材をどの方向に曲がっているかを判定する、という使用法が可能となる。バイアスがかかると、インディフューズ領域は、可撓性移動部材が第1の弓なり状態(すなわち、第1の光信号が狭いギャップ27を通過して、干渉なしに、ファイバ16の左端にある第2のコリメートレンズ29に達する、という状態)にあることを示す第1の出力信号を発生させる。また、第2の電気信号は、可撓性移動部材が第2の弓なり状態にある時に、これを示すために発生させられる。
【0034】
図6(a)乃至図6(c)は図2(a)に図示した内容の概略断面図であり、可撓性移動部材90の縦軸を通る断面を示す図である。図3からも対応する層を図示してある。別の実施の形態では、圧電抵抗センサーを、図示したのとは別の位置として、可撓性移動部材の上にまたは内部に配置することも可能であろう。図6(b)および図6(c)に示すインディフューズ領域140、142を見ると分かるように、各圧電性抵抗要素は、図6(c)に示す第1の状態(鏡92が光ビームの経路より下にある状態)では張力を受けるが、その後、可撓性移動部材が図6(c)に示す第1の安定状態から図6(b)に示す第2の安定状態に移動するにつれ、圧縮力を受けるようになる。圧電抵抗デバイスの抵抗は、可撓性移動部材の状態に応じて変わるであろう。圧電抵抗デバイスの端部への電気的接続は、図4(a)に示す横梁140〜143と144〜147に沿って、図5に示す半円形端部接続パッド(図示せず)まで信号線を引き出すことによって実現されるであろう。ここで再び図2を参照する。ここでは、圧電抵抗デバイスがウエハーAに見られるが、接触部は、図7に示される層内のパッド160、162のような金(gold)パッドを介して、ウエハー「B」における半円筒形の端部接続に接続されている。ここから、各信号線はパッケージの端部にあるアパーチャにつながれ、さらには、浮動リードを介してカードまたは保護パッケージピンに接続される。上でも述べた通り、図7に示したような金属加工領域は、あくまで例示目的である。実際にどのようなパターンが必要になるかは、必要とされる電気的接続を実現する目的でなされるデザイン選択の結果で決まるものであり、その電気的接続とは、ヒーター要素からパッケージ上の端部接続部まで、そして、可撓性伝達要素が置かれている状態(すなわち、光ビームが制限なしにその経路を通ってポートに達するような第1の状態、または、光ビームがブロックされるか別のポートへ反射されるという第2の状態)を特定する目的で設けられた圧電抵抗ディフュージョンからのものである。
【0035】
図8は、図3および図5(a)の展開図における切断線8−8に沿っての、ウエハー「B」の概略断面図であり、ハンドル層から金属電気接続層までの、半円形端部接続パッド180〜186を示す。図8は、電気的接触層から保護パッケージまたはカードにおけるポストまで、電気接触がどのように確立されているかを示す。
以上、本発明は、いくつかの実施の形態に関連付けて説明してきたが、本特許の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ確定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)光信号源と光ポートと共に動作して光スイッチとして機能する、本発明による双安定マイクロアクチュエータの展開図であって、階層を上側の視点から見た図である。 (b)光信号源と光ポートと共に動作して光スイッチとして機能する、本発明による双安定マイクロアクチュエータの展開図であって、階層を下側の視点から見た図である。
【図2】(a)本発明によるウエハー「A」の層を拡大して示す展開斜視図である。 (b)図2(a)のうち、可撓性移動部材の中央部分を示す中心部を拡大して示す斜視図であって、その中央部分の頂上にあるミラーが左下からの第1のビームと右下からの第2のビームとを偏向させる状態を示す図である。
【図3】ウエハー「B」を構成する層を拡大して示す展開斜視図である。
【図4】ウエハー「A」を構成する層を示す平面図である。
【図5】ウエハー「B」を構成する層を示す平面図である。
【図6】双安定マイクロアクチュエータの概略断面図であって、可撓性移動部材が(a)力が加わっていない状態、(b)第1の状態、(c)第2の状態、にある場合について示した図である。
【図7】ウエハー「A」のデバイス層の底面、および、ウエハー「B」のデバイス層の頂上に形成された電気的接触層を示す平面図である。
【図8】図3および図5の展開図に示した断面線8−8における、ウエハー「B」の概略断面を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1状態と第2状態とを有する制御信号に反応するマイクロアクチュエータであって、
圧縮軸に沿って位置する中央部分と第1および第2の端部とを有する可撓性移動部材であって、第1または第2の弓なり状態にある、という前記可撓性移動部材と、そして、
移動部材の第1および第2の端部に連結された、制御信号に反応する膨張可能構造体であって、圧縮軸にほぼ沿った形で可撓性移動部材に圧縮力を加え、当該可撓性移動部材を、制御信号によって決定される形で、第1の弓なり状態と第2の弓なり状態との間で状態を切り替えさせるように作られている、という前記膨張可能構造体と、
を有することを特徴とする前記マイクロアクチュエータ。
【請求項2】
前記膨張可能構造体はフレームを有し、当該フレームは可撓性移動部材に連結されていると共に、制御信号に応じて膨張して可撓性移動部材に加えられる圧縮力を増大または縮小するように作られており、それにより、可撓性移動部材の中央部分は、膨張可能構造体からの圧縮力の回復に伴い、初期状態の第1の弓なり状態から、圧縮軸を通過して、第2の弓なり状態に入ること、
を特徴とする請求項1に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項3】
マイクロアクチュエータであって、
圧縮軸の第1の端部および第2の端部の位置に第1および第2の支持点を有する可撓性移動部材であって、中央部分を圧縮軸から外れた位置に移動させる、という前記可撓性移動部材と、
第1の状態と第2の状態とを有する制御信号と、そして、
移動部材の第1および第2の支持点に連結された第1および第2の端部を有する膨張可能構造体とを有し、
当該膨張可能構造体は、可撓性移動部材の圧縮軸に沿って第1の支持点と第2の支持点との間に圧縮力を加えることで可撓性移動部材を圧縮された第1の弓なり状態に保持する、という形に作られているとともに、可撓性移動部材に加えられる圧縮力を制御信号に応じて小さくし、それにより、膨張可能構造体による圧縮力が回復と共に、当該可撓性移動部材の中央部分が、圧縮軸を越えて第2の弓なり状態に入るように移動する、ということ
を特徴とする前記マイクロアクチュエータ。
【請求項4】
膨張可能構造体の第1および第2の端部はさらに、
膨張可能構造体から可撓性移動部材上の支持点まで延びる第1の支持ポストを、少なくとも有すること、
を特徴とする請求項3に記載のマイクロアクチュエータ。
【請求項5】
膨張可能構造体の第1および第2の端部はさらに、
膨張可能構造体の第1の端部から可撓性移動部材上の第1の支持点まで延びる第1の支持ポストと、
膨張可能構造体の第2の端部から可撓性移動部材上の第2の支持点まで延びる第2の支持ポストと、を有すること、
を特徴とする請求項3に記載のマイクロアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−513871(P2006−513871A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568313(P2004−568313)
【出願日】平成15年11月12日(2003.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/035890
【国際公開番号】WO2004/072705
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(505113724)ノースロップ グルーマン コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】