説明

双性イオンおよび/または酸官能化イオン性液体を含むパラジウム触媒系

本発明は、触媒系、特に、パラジウム(Pd)と、双性イオンおよび/または酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む触媒系に関する。ここで、このPd触媒は、Pd(CH3COO)2、PdCl2、Pd(CH3COCHCOCH3)、Pd(CF3COO)2、Pd(PPh3)4またはPd2(ジベンジリデンアセトン)3などの錯体前駆体によって提供することができる。このような触媒系は、たとえば、アルコキシカルボニル化反応、カルボキシル化反応、および/または共重合反応、たとえば、プロピオン酸メチルおよび/またはプロピオン酸の製造において、場合により、メタクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸を生成させるプロセスにおいて使用することができる。本発明による触媒系は、分離可能な生成物相と触媒相とを形成させる反応、および担持イオン性液相SILP用途に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒系、特に、パラジウム(Pd)と、双性イオンおよび/または酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む触媒系に関する。このような触媒系は、たとえば、担持イオン性液相(SILP)用途を含め、カルボキシル化、アルコキシカルボニル化および/または重合反応に適している。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸メチル(MMA)は、式CH2=C(CH3)CO2CH3有機化合物である。この無色の液体、メタクリル酸(MAA)のメチルエステルは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、たとえばプレキシガラスの生産のために大規模に生産されるモノマーである。
【0003】
【化1】

【0004】
MMAの約80%を消費する主要な用途は、ポリメタクリル酸メチルアクリルプラスチックの製造である。メタクリル酸メチルは、PVCの改質剤として用いられるメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン(MBS)共重合体の生産にも使用される。
【0005】
いくつかの方法によってMMAを製造することができるが、その主要な一方法は、原材料としてアセトンおよびシアン化水素を用いるアセトンシアノヒドリン(ACH)経路である。中間体であるシアノヒドリンは、硫酸を用いてメタクリルアミドの硫酸エステルへと転換され、そのメタノリシスにより重硫酸アンモニウムおよびMMAが得られる。広く使用されてはいるが、このACH経路は相当量の硫酸アンモニウムも同時に生成する。一部の生産者はイソブチレン、または同等にtert-ブタノールから始め、順にまずメタクロレインへ、その後メタクリル酸へと酸化し、その後メタノールでエステル化する。酸の存在下でプロペンをイソ酪酸へとカルボニル化することができ、このイソ酪酸を続いて脱水素化する。異なる合成経路を図1〜3に示す。これら技術を組み合わせると、1年に30億キログラムを上回る生産量である。プロピオン酸メチルおよびホルムアルデヒドからMMAを作製することもできる。
【0006】
Pd触媒を用いてエチレンをプロピオン酸メチルへとメトキシカルボニル化することができることが知られている。
【0007】
【化2】

【0008】
Wangらの米国特許7115763号は、アルケンの共重合のためのパラジウム触媒系に関し、「双性イオン錯体」を含む。これら双性イオン錯体は、本発明による双性イオンおよび/または官能化イオン性液体とは異なる。
【0009】
水素化、SuzukiおよびHeckカップリング反応など、様々なパラジウム触媒反応が、イオン性液体中で行われてきたが、WO06122563は、担持イオン性液相(SILP)触媒作用による連続カルボニル化プロセスに関する。
【0010】
Balazsら(2006)は、ホスフィンおよび添加ブレンステッド酸による従来のイオン性液体中におけるスチレンのパラジウム触媒アルコキシカルボニル化を報告した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7115763号
【特許文献2】WO06122563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
驚くべきことに、また予想外に、1種もしくは複数種の双性イオンおよび/または1種もしくは複数種の酸官能化イオン性液体の使用によって、活性の著しい変化を引き起こすことなくPd触媒系の安定性および再利用性を向上させることができることを本発明者らは見出した。とりわけ、双性イオンを含む前記Pd触媒系は、トリフェニルホスフィンなど好ましいモノホスフィン配位子を含有する場合であっても、安定化剤としての従来のブレンステッド酸の添加なしで安定であることが見出されている。
【0013】
酸官能化イオン性液体を使用すると、相分離可能な系を反応後に得ることが可能であり、この系では、相互の混和性が低いため、生成物とイオン性液体触媒とを別々の相に保持することができる。これにより生成物の容易な分離、およびイオン性液体触媒相の再利用が可能となる。
【0014】
酸官能化イオン性液体の不揮発性により、本発明によるPd触媒系はSILP触媒作用にも適していると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は触媒系、特に、パラジウム(Pd)、双性イオンおよび/または酸官能化イオン性液体を含む触媒系に関し、Pd触媒は、錯体前駆体によって供給することができる。このような触媒系は、たとえば、アルコキシカルボニル化反応、カルボキシル化反応および/または共重合反応に使用することができる。本発明による触媒系は、分離可能な生成物相と触媒相とを形成する反応に、また担持イオン性液相SILPへの応用に適している。
【0016】
したがって、第1の態様において、本発明は、パラジウム(Pd)触媒および双性イオンおよび/または酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む触媒および/または触媒系に関する。
【0017】
一実施形態によれば、この触媒系は、Pd触媒と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む。
【0018】
一実施形態によれば、この触媒系は、Pd触媒と、酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む。
【0019】
一実施形態によれば、この触媒系は、Pd触媒と、双性イオンと、酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む。
【0020】
一実施形態によれば、この系は二相系を含み、Pd触媒および反応生成物は基本的に異なる相に含まれている。
【0021】
一実施形態によれば、触媒は担持イオン性液相(SILP)触媒である。
【0022】
本発明の第2の態様は、第1の態様による触媒系によって触媒される反応、たとえば、カルボキシル化反応、アルコキシカルボニル化反応および/または重合反応に関する。
【0023】
一実施形態によれば、これらの反応は、
Rr1Rr2C=CHRr3+CO+Rr4OH→Rr1Rr2CH-CHRr3COORr4および/または
nr(Rr1Rr2C=CHRr3)+mrCO→(-Rr1Rr2C-CHRr3-CO-)nr+(mr-nr)COである。
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、以下で示すように選択することができる。
【0024】
本発明の第3の態様は、たとえば第2の態様による反応における、第1の態様による触媒または触媒系の使用に関する。
【0025】
一実施形態によれば、メタクリル酸メチルの生成において、および/またはメタクリル酸の生成においてこの触媒を使用する。
【0026】
本発明の第4の態様は、第1の態様による触媒を提供する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】メタクリル酸メチル/メタクリル酸(MMA/MAA)へのC-3経路を示す図である。
【図2】MMA/MAAへのC-2経路を示す図である。
【図3】MMA/MAAへのC-4経路を示す図である。
【図4】添加酸および昇順濃度の添加双性イオンをそれぞれ有するPd触媒溶液を示す図である(左側から右側)。
【図5】酸官能化Pd触媒系の連続使用を示す図である。
【図6】反応前(左)および二相系が得られる反応後(右)の反応混合物を示す図である。
【図7】ホスフィンの異なる実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に関して、用語「前後(around)」、「約(about)」、「〜」または「おおよそ(approximately)」は同じ意味で使用され、記載されている値を指すが、+/-0.1%、+/-1%または+/-10%の大きさの変動を含めることができる。特にlog10間隔の場合、変動はより大きくなることがあるが、記載されている値+/-50%または100%を含めることができる。用語「前後」、「約」、「〜」または「おおよそ」は、当技術分野で共通の、および/または一般に認められている不確実性および/または変動の程度を反映することもできる。
【0029】
本発明に関して、用語「場合により(optionally)」および「代わりに(alternatively)」は同じ意味で使用される。多くの場合、場合によるおよび/または代替の実施形態を示すためにこれらの用語が使用される。
置換基の定義
【0030】
置換基の定義
本明細書において使用する場合、用語「C1〜C20アルキル」は、1〜20個の炭素原子を含んだ直鎖または分岐飽和炭化水素を指す。このような基の例として、メチル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、2-メチル-2-プロピル、2-メチル-1-ブチル、1-ヘキシル、1-オクチル、1-デシルおよび1-ドデシルが含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
同様に、用語「C1〜C6アルキル」は、1〜6個の炭素原子を含んだ直鎖または分岐飽和炭化水素を指す。
【0032】
同様に、用語「C1〜C4アルキル」は、1〜4個の炭素原子を含んだ直鎖または分岐飽和炭化水素を指す。
【0033】
本明細書において使用する場合、用語「C3〜C6シクロアルキル」は通常、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを指す。
【0034】
本明細書において使用する場合、用語「C1〜C6アルコキシ」は、酸素上に開放原子価がある1〜6個の炭素原子を含んだ直鎖または分岐飽和アルコキシ基を指す。このような基の例として、メトキシ、エトキシ、n-ブトキシ、2-メチル-ペントキシおよびn-ヘキシルオキシが含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書において使用する場合、用語「C1〜C6アルコキシド」は、酸素原子上に負電荷がある1〜6個の炭素原子を含んだ直鎖または分岐飽和アルカノールのアニオンを指す。典型的な例として、メトキシドおよびtert-ブトキシドが挙げられる。
【0036】
本明細書において使用する場合、用語「アルケン」は、1〜20個の炭素原子を含んだ、また1個の二重結合または孤立していても共役していてもよい2個以上の二重結合を有する直鎖、分岐または環状炭化水素を指す。
【0037】
本明細書において使用する場合、用語「ハロゲン化物」は、ハロゲン原子のアニオンを指す。
【0038】
本明細書において使用する場合、用語「ホスフィン」は、上で定義したような一般式(II)の化合物を指す。同様にして、本明細書において使用する場合、用語「ホスフィンオキシド」は、その関連オキシドに酸化された一般式(II)のホスフィンを指す。
【0039】
本明細書において使用する場合、用語「アレーン」および「アリール」は共に、6〜12個の炭素原子を含んだ単環式または二環式芳香族基を指す。このような基の例として、フェニル、ナフチル、インデニル、テトラヒドロナフチルおよびインダニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書において使用する場合、用語ビ(C6〜C12アリール)は、各基が6〜12個の炭素原子を含んだ、単結合によって結合している2つの単環式または二環式芳香族基を指す。このような基の典型的であるが非限定的な例がビフェニルである。
【0041】
本明細書において使用する場合、用語アリール-C1〜C4アルキルは、上で定義したようなC1〜C4アルキルで置換されている、上で定義したようなアリール基を指し、C1〜C4アルキル基の末端炭素上に開放原子価を有する。このような基の例として、ベンジルおよびフェニルエチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本明細書において使用する場合、用語「アルシン」は、式As(R)3の化合物を指し、式中Rは同じであっても異なっていてもよく、上で定義したようなC1〜C6アルキルおよびアリールから選択することができる。
【0043】
本明細書において使用する場合、用語「ヘテロアリール」は、5〜10個の炭素原子および1〜3個のヘテロ原子を含んだ単環式または二環式ヘテロ芳香族基を指し、ヘテロ原子はN、OおよびSから個々に選択される。このような基の例として、ピリジル、2-チエニル、3-チエニル、2-フリル、3-フリル、キノリニルおよびナフチリジルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
[略称]
別に規定しない限り、下記略称は以下を含むことを意図する。
Bn:ベンジル
COD:1,5-シクロオクタジエン
Cy:シクロヘキシル
Cyp:シクロペンチル
ICy:1,3-ジシクロヘキシルイミダゾール-2-イリデン
IiPr:1,3-ジ-イソ-プロピルイミダゾール-2-イリデン
IMe:1,3-ジメチルイミダゾール-2-イリデン
IMes:1,3-ジメシチルイミダゾール-2-イリデン
Imid:イミダゾール
ItBu:1,3-ジ-tert-ブチルイミダゾール-2-イリデン
KHMDS:カリウムビス(トリメチルシリル)アミド
Me:メチル
Mes:メシチル、すなわち2,4,6-トリメチルフェニル
NHC:N-複素環カルベン
Q:定量的
RCM:閉環メタセシス
【0045】
[触媒]
本発明による金属触媒はPdである、またはPdを含む。Pd触媒錯体は、分解すると「パラジウム黒」として知られている暗色または黒色の沈殿物を形成することが知られている。これらは元素パラジウムで構成されると考えられている。この触媒系は、錯体前駆体によって得る、もしくは形成する、またはそれから誘導することができる。
【0046】
[溶解したPd錯体]
本発明に関して、用語「溶解したPd錯体」とは、1種または複数種のPd前駆体錯体の溶媒への溶解によって形成されるPd錯体を含むことを意図する。
【0047】
[錯体前駆体]
本発明に関して、用語「錯体前駆体」とは、式PdXcmc、PdXcmcYcncまたはPdZcocを有する錯体前駆体を含むことを意図し、式中、Xcは、Rc1Rc2Rc3CCOOの1種または複数種を含む、またはそれからなる群から独立に選択することができ、Rc1、Rc2およびRc3は、H、CI、Br、IまたはF、CH3COO、CF3COO、CI、Br、I、NO3、SO4、アセチルアセトネート、ジベンジリデンアセトン、トリシクロヘキシルホスフィンおよびトリ-o-トリルホスフィン、ならびにこれらの任意の1種または複数種の混合物から独立に選択され、Ycは、ノルボルナジエン、1,5-シクロオクタジエン、トリ-o-トリルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス-t-ブチルホフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)-プロパン、ベンゾニトリル、アセトニトリル、2-ビス(フェニルスルフィニル)エタンおよび2-メチルアリル、ならびにこれらの任意の混合物の1種または複数種を含む、またはそれらからなる群から独立に選択することができ、Zcは、トリフェニルホスフィン、アセトニトリル、トリス-t-ブチルホスフィンおよびジベンジリデンアセトン、ならびにこれらの任意の混合物の1種または複数種を含む、またはそれらからなる群から独立に選択することができ、「mc」、「nc」または「oc」は、たとえば、mc=1または2、nc=1およびoc=4など、1、2、3および/または4から独立に選択することができる。
【0048】
[双性イオン]
本発明に関して、用語「双性イオン」は、分子中の異なる原子が形式正電荷および形式負電荷を帯びている、全体が中性となる荷電化学分子を含むことを意図する。このような双性イオンは、たとえば、式Qz-Rz-Szの共有結合分子でよく、Qzは、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル基、場合により置換されたC6〜C18アリール基、および/または場合により置換された炭素数4〜12の環状基を含めた1つまたは複数の有機基で場合により置換された四級窒素、四級リン、三級硫黄、三級セレンを含む、またはそれらからなる群から選択される官能基など、1つまたは複数の正荷電官能基であり、環状基の環は、窒素、酸素および/または硫黄や、これらの任意の組合せなど、1つまたは複数のヘテロ原子を含み、Rzは、たとえば、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C10アルキリデン基、たとえば、トリメチレンおよびテトラメチレン、または場合により置換されたC6〜C18アリール基、または場合により置換された炭素数4〜12の環状基を含めた、1〜20個の共有結合性炭素原子の1種または複数種を含む、またはそれらからなる群から選択される有機架橋基またはスペーサ-であり、環状基の環は、窒素、酸素、硫黄や、これらの任意の組合せなど、1つまたは複数のヘテロ原子を含み、有機架橋基上の例示的な置換基として、たとえば、ハロゲン、アルコキシおよびカルボキシ基が含まれ、Szは、カルボキシレート、チオカルボキシレート、カルボネート、スルホネート、サルフェート、セレノネート、セレネート、ホスホネートおよびホスフェート、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル基、場合により置換された1種または複数種のC6〜C18アリール基、または場合により置換された環状またはN-、O-もしくはS-複素環のヒドロカルビル誘導体を含む、またはそれらからなる群から選択される官能基など、1つまたは複数の負荷電官能基である。Qz、Rzおよび/またはSzに関し、すべての基を独立に選択することができ、適切なアルキル基として、中でも、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロオクチルが挙げられる。ヘテロ原子を含有する例示的な環状基として、中でも、1-ピリジルおよび3-メチルイミダジル
が挙げられる。アリール基として、たとえば、フェニル、ベンジル、クメニル、メシチル、トリルおよびキシリルが挙げられる。
【0049】
[双性イオン錯体]
本発明に関して、用語「双性イオン錯体」は、中心金属イオンへの電子対供与により1つまたは複数の負荷電配位子が配位している正荷電中心金属イオンで構成される、または含む中性となる荷電体を含むことを意図する。
【0050】
[ホスフィン]
本発明に関して、用語「ホスフィン」は通常、式I:(Rp1)3-Pの単座ホスフィン、または下記式IIの二座ホスフィンを含むことを意図する。
【0051】
【化3】

【0052】
式Iにおいて、Pはリン原子を示し、Rp1は場合により置換された有機基を示す。この有機基は、好ましくはC1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、または炭素数4〜12の環状基であり、環状基の環は、窒素など、1種または複数種のヘテロ原子も含む。アルキル基として、中でも、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、tert-ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルまたはシクロオクチルが挙げられる。ヘテロ原子を含む例示的な環状基として、中でも、6-メチル-2-ピリジルおよび4,6-ジメチル-2-ピリジルが挙げられる。アリール基として、たとえば、ナフチル、フェニル、ベンジル、クメニル、メシチル、トリルおよびキシリルが挙げられる。有機基は、たとえば、ハロゲン原子、たとえばCl、BrまたはFで、またはC1〜C6アルキル、C6〜C18アリール、C1〜C6アルコキシ、カルボキシ、カルバルコキシ、アシル、トリハロゲンメチル、シアノ、ジアルキルアミノ、スルホニルアルキルもしくはアルカノイルオキシ基で置換することができる。置換基は、電子求引性または電子供与性を有する基でよい。
【0053】
単座ホスフィン配位子として、たとえば、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、ジメチルフェニル-ホスフィン、エチルジフェニルホスフィンまたはシクロヘキシルジフェニルホスフィンが挙げられる。
【0054】
ホスフィンの式IIにおいて、P2およびP3はリン原子を示し、Rp2、Rp3、RP5およびRp6は、同一であっても異なっていてもよい場合により置換された有機基を示す。Rp2、Rp3、RP5およびRp6は、Rp1について先に特定したような任意の基でもよい。Rp4は炭素数3〜20の有機架橋基であり、場合によりRp4はRzについて定義したような任意の基でもよい。
【0055】
さらに、P原子1つに結合しているRp2、Rp3、RP5およびRp6のいずれか1つから選択される2つの基が、二価の有機基、たとえば、ジアリール基またはC2〜C20のアルキレン基を形成することができる。例示的なアルケニル基がブテニル基である。ジアリール基の例として、ジフェニルおよびジナフチル基が挙げられる。
【0056】
有機基Rp2、Rp3、RP5およびRp6に対する置換基は、単座ホスフィン配位子についての上記と同じでよい。可能な脂肪族基およびアリール基の例として、Rp2、Rp3、RP5およびRp6についての上記の基を挙げることができる。
【0057】
Rp4などの二価の有機架橋基は、C4〜C10アルキリデン基、たとえば、テトラメチレン、ペンタメチレンまたはトランス-1,2-シクロブテン、ならびにたとえばジナフチルやジフェニルなど、C6〜C20の二価のアリール基で構成する、または含むことができる。ヘテロ原子が1つ、たとえば窒素、酸素または硫黄がRp4中に存在していてもよい。
【0058】
本発明に関する適切なホスフィン配位子は、たとえば、図7に示す1種または複数種のホスフィンである、トリフェニルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、(PCy3)、1,2-ビス(ジ-tertブチル-ホスフィノ-メチル)ベンゼン(「(P-P)」または「(P-P)配位子」)、トリ-o-トリルホスフィン、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)エタンなどを含む。
【0059】
[酸]
本発明に関して、用語「酸」とは、1種または複数種の無機および/または有機のブレンステッド酸、またこれらの任意の組合せを含むことを意図する。ブレンステッド-ローリー酸(または単にブレンステッド酸)は、ブレンステッド-ローリー塩基にプロトンを供与する種である。
【0060】
[揮発性-不揮発性]
本発明に関して、揮発性および/または不揮発性という用語は通常、1種または複数種の化合物と関して使用される。一般に、不揮発性化合物は、化合物を使用しようとする条件において測定不可能な、無視できる、および/またはわずかな蒸気圧を有することを特徴とする。一方、揮発性化合物は、測定可能な、無視できない、および/または相当な蒸気圧を有し、その使用下で蒸発し得る。
【0061】
[酸官能化イオン性液体]
本発明に関して、用語「酸官能化イオン性液体」とは、通常式[AH]+[B]-または[A]+[BH]-の、1つまたは複数のカチオンAと1つまたは複数のアニオンBとの組合せを含むことを意図する。「H」はブレンステッド酸のプロトンを示し、pKaは通常5未満である。前記ブレンステッド酸のプロトンHは、たとえば、前記Aおよび/またはBカチオンに共有結合して含まれるカルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸基に由来してもよく、Aは、1種または複数種の四級窒素、四級リン、三級硫黄、三級セレンをベースとするカチオン、またこれらの任意の組合せを含む、またはそれらからなる群から選択することができ、Bは、1種または複数種のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、スルホニルアミド、リン酸塩、ホウ酸塩、アンチモン酸塩、酢酸塩、また水素、ハロゲン、ヒドロキシルまたはC1-C6アルコキシで場合により置換したこれらの任意のヒドロカルビル誘導体を含む、またはそれらからなる群から選択することができる。
【0062】
酸官能化イオン性液体は、当該カチオンAが、以下の(i)、(ii)、(iii)、(iv)または(v)を含む、またはそれからなる群から場合により選択される、カルボン酸および/またはスルホン酸および/またはホスホン酸および/またはこれらの任意の誘導体である化合物を含むことができる。
【0063】
(i)は下記式を有する。
【0064】
【化4】

【0065】
式中、Rf1、Rf2、Rf3およびRf4は、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル、場合により置換された環状C3〜C20アルキルおよび場合により置換されたC6〜C20アリール基からなる群から独立に選択可能であり、YはNまたはPである。
【0066】
(ii)は下記式を有する。
【0067】
【化5】

【0068】
式中、Rf5およびRf7は、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル、場合により置換された環状C3〜C20アルキルおよび場合により置換されたC6〜C20アリール基からなる群から独立に選択され、Rf6、Rf8およびRf9は、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル、場合により置換された環状C3〜C20アルキルおよび場合により置換されたC6〜C20アリール基から独立に選択される。
【0069】
(iii)は下記式を有する。
【0070】
【化6】

【0071】
Rf10は、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル、場合により置換された環状C3〜C20アルキルおよび場合により置換されたC6〜C20アリール基からなる群から独立に選択可能であり、Rf11およびRf12は、水素、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル、場合により置換された環状C3〜C20アルキルおよび場合により置換されたC6〜C20アリール基から独立に選択可能である。
【0072】
(iv)は下記式を有する。
【0073】
【化7】

【0074】
Rf13およびRf14は、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル、場合により置換された環状C3〜C20アルキルおよび場合により置換されたC6〜C20アリール基からなる群から独立に選択可能であり、XはC、N、OまたはSであり、nfおよびmfは互いに独立して0〜6の整数である。ただし、和は1≦mf+nf≦6である。
【0075】
(v)は下記式を有する。
【0076】
【化8】

【0077】
Rf15、Rf16およびRf17は、場合により置換された直鎖または分岐鎖のC1〜C20アルキル、場合により置換された環状C3〜C20アルキルおよび場合により置換されたC6〜C20アリール基からなる群から独立に選択可能であり、ZはSまたはSeである。
【0078】
[溶媒]
本発明に関して、用語「溶媒」とは、固体または液体化合物を溶解させて均一溶液を形成することができる反応媒体、化合物および/または組成物を含むことを意図する。溶媒は通常、本発明による使用および/または反応前、中、または後に液体の物質状態にある。溶媒は、基質および/または水のような反応生成物を含む液体、1種または複数種のイオン性液体、ならびに/あるいは、たとえばアルコールなど、1種または複数種の有機液体の混合物でもよい。溶媒は、たとえば、室温もしくは環境温度で、または反応条件下で液体でもよい。イオン性液体および/または酸官能化イオン性液体も、溶媒となり得る。
【0079】
[担持イオン性液相(SILP)]
本発明に関して、用語「担持イオン性液相」または「SILP」は互換的に使用することができ、たとえば、参照によりその全体が本明細書中に援用されるWO06122563に開示されているような任意の例または実施形態を含むことを意図する。多くの場合、SILP触媒を多孔質担体に担持する。適切な担体材料として、たとえば、シリカ、有機高分子、炭素、ゼオライト、粘土、アルミナ、チタニア、ジルコニアならびにこれらの任意の混合物および組合せを挙げることができる。
【0080】
本発明の第1の態様には、パラジウム(Pd)触媒と、双性イオンおよび/または酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む、触媒および/または触媒系に関する。
【0081】
したがって、一実施形態によれば、この触媒系は、Pd触媒と、1種または複数種の双性イオンと、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む。
【0082】
別の実施形態によれば、この触媒系は、Pd触媒と、1種または複数種の酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む。
【0083】
さらなる一実施形態によれば、この触媒系は、Pd触媒と、1種または複数種の双性イオンと、1種または複数種の酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む。
【0084】
一実施形態によれば、この系は二相系を含み、Pd触媒および反応生成物は基本的に異なる相に含まれている。
【0085】
一実施形態によれば、触媒は担持イオン性液相(SILP)触媒である。
【0086】
一実施形態によれば、この触媒系は溶解したPd錯体を含む。前記錯体は、たとえば、1種または複数種の錯体前駆体から提供する、またはその錯体前駆体を介して形成することができる。多くの場合、錯体前駆体は1種または複数種のパラジウム(II)またはパラジウム(0)錯体前駆体を含む、またはその錯体前駆体で構成されることになるが、それらに限られない。適切な錯体前駆体として、たとえば、Pd(CH3COO)2、PdCl2、Pd(CH3COCHCOCH3)、Pd(CF3COO)2、Pd(PPh3)4またはPd2(ジベンジリデンアセトン)3、またこれらの任意の誘導体、組合せおよび/または混合物のうちの1種または複数種を挙げることができる。
【0087】
双性イオンを含む触媒系、または1種もしくは複数種の双性イオンの場合、1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム、1-(4-スルホニルブチル)3-メチルイミダゾリウム、1-(4-スルホニルブチル)トリエチルアンモニウムおよび1-(4-スルホニルブチル)トリ-フェニルホスホニウム、またこれらの任意の組合せおよび/または混合物を含む、またはそれらからなる群から、適切な双性イオンを選択することができる。本発明の一実施形態によれば、1種または複数種の双性イオンは、上で定義したような式Qz-Rz-Szの共有結合分子でもよい。
【0088】
本発明による触媒系は、1種または複数種のホスフィンも含む。本発明の一実施形態によれば、1種または複数種のホスフィンは、上で定義したように、
下式の共有結合分子
式I:(Rp1)3-P
または下記式IIの二座ホスフィン
【0089】
【化9】

【0090】
である。
【0091】
一実施形態によれば、1つまたは複数のホスフィン配位子は、モノホスフィン、ビホスフィン、単座ホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、二座ホスフィン、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジフェニル-ホスフィノ)エタンおよび1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチル)ベンゼン、ならびにこれらの任意の組合せおよび/または混合物を含む、またはそれらからなる群から選択することができる。さらなる一実施形態によれば、1種または複数種のホスフィンは図7に示すホスフィンである。
【0092】
本発明による触媒系が、1種または複数種の無機および/または有機ブレンステッド酸など、1種または複数種の酸を含むこともできる。本発明に関する適切な酸は、たとえば、任意の酸を含むことを意図し、この酸は、1種または複数種のメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ブタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、1,2-エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、フルオロスルホン酸、クロロスルホン酸、スルファミン酸、ペルフルオロオクタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、メチオン酸、o-クレゾールスルホン酸、フェノール-4-スルホン酸、2-ピリジンスルホン酸、4-ヨードベンゼンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、4-ビフェニルスルホン酸、フェニルヒドラジン-4-スルホン酸、フェノール-4-スルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ジメチル-ベンゼンスルホン酸、5-スルホサリチル酸二水和物、ギ酸、シュウ酸、2,6-ジピコリン酸、トリカルバリル酸、硫酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、過塩素酸、トリフルオロメチルスルホン酸およびフルオロスルホン酸-五フッ化アンチモン(pentafluoroantimon)マジック酸、ならびにこれらの組合せおよび混合物を含む、またはそれらで構成される群から選択される。さらなる一実施形態によれば、ホスフィンは、図7に示すホスフィンである。
【0093】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系は、1種または複数種の双性イオンと1種または複数種の酸とを含むことができる。
【0094】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系は1種または複数種の溶媒を含む。
【0095】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系は1種または複数種のイオン性液体を含み、前記イオン性液体は、完全または本質的にイオンで構成される塩であり、前記塩は反応条件において溶融される。別の実施形態によれば、1種または複数種のイオン性液体は酸官能化イオン性液体である。
【0096】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系は、1種または複数種の溶媒と、1種または複数種のイオン性液体とを含む。
【0097】
別の実施形態によれば、酸官能化イオン性液体および/またはイオン性液体は溶媒として作用する。
【0098】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系は、(a)Pd触媒と、(b)1種または複数種の酸官能化イオン性液体と、(c)1つまたは複数のホスフィン配位子とを含む。別の実施形態によれば、この触媒系は、官能化イオン性液体とは別にさらなる酸を含むことはない。
【0099】
本発明の一実施形態によれば、酸官能化イオン性液体は、1つまたは複数のカチオンAと1つまたは複数のアニオンBとの組合せを含み、上で定義したような式[AH]+[B]-または[A]+[BH]-を有する。本発明の一実施形態によれば、酸官能化イオン性液体の「H」はブレンステッド酸のプロトン、すなわち、ブレンステッド酸に由来するプロトンであり、ブレンステッド酸のpKaは5前後、または5未満、あるいは4前後または4未満である。
【0100】
本発明の一実施形態によれば、1種または複数種の酸官能化イオン性液体は、1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム硫酸水素塩、1-(4-スルホニルブチル)トリエチルアンモニウム硫酸水素塩、1-(4-スルホニルブチル)-イミダゾリウム硫酸水素塩、1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウムメタンスルホネートおよび1-(4-カルボキシブチル)イミダゾリウムクロリド、ならびにこれらの任意の組合せを含む、またはそれらからなる群から選択することができる。
【0101】
本発明によれば、[AH]+[B]-型の適切な酸官能化イオン性液体は、1種または複数種の1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムトリフルオロメチルスルホネート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムp-トルエンスルホネート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムメタンスルホネート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウム硫酸水素塩、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムトリフルオロアセテート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムクロリド、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムブロミド、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウム硝酸塩、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムジエチルホスフェート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド、1-メチル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウムトリフルオロメチルスルホネート、1-メチル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウムメタンスルホネート、1-エチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムトリフルオロメチルスルホネート、1-エチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムp-トルエンスルホネート、1-エチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムメタンスルホネート、1-エチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウム硫酸水素塩、1-エチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムトリフルオロアセテート、1-エチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムクロリド、1-エチル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウムトリフルオロメチルスルホネート、1-エチル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウムメタンスルホネート、1-ブチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムトリフルオロアセテート、1-ブチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムトリフルオロメチルスルホネート、1-ブチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムp-トルエンスルホネート、1-ブチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウムメタンスルホネート、1-ブチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウム硫酸水素塩、1-ブチル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウムトリフルオロメチルスルホネート、1-ブチル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウムメタンスルホネート、トリフェニル(4-スルホブチル)ホスホニウムトリフルオロアセテート、トリフェニル(4-スルホブチル)ホスホニウムトリフルオロメチルスルホネート、トリフェニル(4-スルホブチル)ホスホニウムp-トルエンスルホネート、トリフェニル(4-スルホブチル)ホスホニウムメタンスルホネート、トリフェニル(4-スルホブチル)ホスホニウム硫酸水素塩、トリフェニル(3-スルホプロピル)ホスホニウムトリフルオロメチルスルホネート、トリフェニル(3-スルホプロピル)ホスホニウムメタンスルホネート、1-(4-スルホブチル)ピリジニウムトリフルオロアセテート、1-(4-スルホブチル)ピリジニウムトリフルオロメチルスルホネート、1-(4-スルホブチル)ピリジニウムp-トルエンスルホネート、1-(4-スルホブチル)ピリジニウムメタンスルホネート、1-(4-スルホブチル)ピリジニウム硫酸水素塩、1-(4-スルホブチル)ピリジニウムクロリド、1-(3-スルホプロピル)ピリジニウムトリフルオロメチルスルホネート、1-(3-スルホプロピル)ピリジニウムメタンスルホネート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)ピロリジニウムトリフルオロアセテート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)ピロリジニウムトリフルオロメチルスルホネート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)ピロリジニウムp-トルエンスルホネート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)ピロリジニウムメタンスルホネート、1-メチル-3-(4-スルホブチル)ピロリジニウム硫酸水素塩、1-メチル-3-(3-スルホプロピル)ピロリジニウムトリフルオロメチルスルホネート、1-メチル-3-(3-スルホプロピル)ピロリジニウムメタンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリメチルアンモニウムトリフルオロアセテート、N-(4-スルホブチル)トリメチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリメチルアンモニウムp-トルエンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリメチルアンモニウムメタンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリメチルアンモニウム硫酸水素塩、N-(3-スルホプロピル)トリメチルアンモニウムトリフルオロアセテート、N-(3-スルホプロピル)トリメチルアンモニウムメタンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリエチルアンモニウムトリフルオロアセテート、N-(4-スルホブチル)トリエチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリエチルアンモニウムp-トルエンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリエチルアンモニウムメタンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリエチルアンモニウム硫酸水素塩、N-(3-スルホプロピル)トリエチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホネート、N-(3-スルホプロピル)トリエチルアンモニウムメタンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリブチルアンモニウムトリフルオロアセテート、N-(4-スルホブチル)トリブチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリブチルアンモニウムp-トルエンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリブチルアンモニウムメタンスルホネート、N-(4-スルホブチル)トリブチルアンモニウム硫酸水素塩、N-(3-スルホプロピル)トリブチルアンモニウムメタンスルホネート、N-(3-スルホプロピル)トリブチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホネート、ジメチル(4-スルホブチル)スルホニウムトリフルオロメチルスルホネート、ジメチル(4-スルホブチル)スルホニウムメタンスルホネート、ジエチル(4-スルホブチル)スルホニウムトリフルオロメチルスルホネート、ジエチル(4-スルホブチル)スルホニウムメタンスルホネート、ならびにこれらの任意の混合物および組合せを含む、またはそれらからなる群から選択される任意の化合物を含むこともできる。
【0102】
本発明によれば、[A]+[BH]-型の適切な酸官能化イオン性液体は、1種または複数種の1-メチル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-エチル-3-エチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-エチル-3-エチルイミダゾリウムセレン酸水素塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムセレン酸水素塩、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウム硫酸水素塩、N-メチルピリジニウム硫酸水素塩、N-ブチルピリジニウム硫酸水素塩、N-ブチルピリジニウムセレン酸水素塩、N-ジメチルピロリジニウム硫酸水素塩、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム硫酸水素塩、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム硫酸水素塩、テトラメチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラメチルアンモニウムセレン酸水素塩、テトラエチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラエチルアンモニウムセレン酸水素塩、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウムセレン酸水素塩、およびトリエチルスルホニウム硫酸水素塩、ならびにこれらの任意の混合物および組合せを含む、またはそれらからなる群から選択される任意の化合物を含むことができる。
【0103】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系はPd触媒と、双性イオンと、1つまたは複数のホスフィン配位子を含むが、前記系は酸、イオン性液体、酸官能化イオン性液体および双性イオン錯体を含まない。別の実施形態によれば、この触媒系はPd触媒と、酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子を含むが、前記系は酸、酸官能化イオン性液体以外のイオン性液体、双性イオンおよび双性イオン錯体を含まない。さらなる一実施形態によれば、この触媒系はPd触媒と、双性イオンと、酸官能化イオン性液体と、1つまたは複数のホスフィン配位子を含むが、前記系は酸、酸官能化イオン性液体以外のイオン性液体、双性イオンおよび双性イオン錯体を含まない。
【0104】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系は二相系を含み、Pd触媒および反応生成物は基本的に異なる相に含まれている。
【0105】
本発明によれば、この触媒系は担持イオン性液相(SILP)用途に適合することができる。一実施形態によれば、触媒は担持イオン性液相(SILP)触媒である。このSILP触媒は、多孔質担体上のイオン性液体触媒溶液内に閉じ込めることができ、多孔質担体は、たとえば、シリカ、有機高分子、炭素、ゼオライト、粘土、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ならびにこれらの任意の誘導体、混合物および組合せを含む、またはそれらからなる群から選択することができる。一実施形態によれば、触媒活性のPdは、最大25重量%、好ましくは最大10重量%の量で存在する。本発明の一実施形態によれば、SILP触媒は、最大5、10、15、20または25重量%の量で存在するPdを含む。別の実施形態においては、SILP触媒は、最大10重量%前後の量で存在するPdを含む。一実施形態によれば、(酸官能化)イオン性液体は、たとえば、最大66重量%、最大50重量%または最大33重量%の量で存在する。
【0106】
本発明の一実施形態によれば、この触媒系は以下の反応を触媒する。
Rr1Rr2C=CHRr3+CO+Rr4OH→Rr1Rr2CH-CHRr3COORr4または
(Rr1Rr2C=CHRr3)nr+mrCO→(-Rr1Rr2C-CHRr3-CO-)nr+(mr-nr)CO
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、H、CH3、CH3CH2、アルキル、アリール、環状基、C1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、環状基の環中に窒素などの1種または複数種のヘテロ原子を場合により含む炭素数4〜12の環状基からなる群から独立に選択することができ、nrは、2〜10,000、2〜100,000、または100,000以上であり、mrはnrよりも大きい。別の実施形態において、Rr1、Rr2およびRr3はHである。さらなる一実施形態において、Rr1、Rr2およびRr3はH、Rr4はCH3である。
【0107】
本発明の第2の態様は、たとえば、カルボキシ化反応、アルコキシカルボニル化反応および/または重合反応を含む、第1の態様による触媒系によって触媒される反応に関する。
【0108】
一実施形態によれば、これらの反応はたとえば以下のものである。
【0109】
【化10】

【0110】
Rr1Rr2C=CHRr3+CO+Rr4OH→Rr1Rr2CH-CHRr3COORr4および/または
nr(Rr1Rr2C=CHRr3)+mrCO→(-Rr1Rr2C-CHRr3-CO-)nr+(mr-nr)CO
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、上述のように選択および/または定義することができる。
【0111】
本発明の一実施形態において、基質は、オレフィンやオレフィンの混合物などのエチレン性不飽和化合物である。適切なエチレン性不飽和化合物として、中でも、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、ペンテンニトリル、メチル3-ペンタノエート、2-および3-ペンテン酸が挙げられる。
【0112】
本発明の第3の態様は、たとえば第2の態様による反応における、第1の態様による触媒または触媒系の使用に関する。
【0113】
一実施形態によれば、メタクリル酸メチルの生成において、および/またはメタクリル酸の生成においてこの触媒を使用する。
【0114】
本発明の一実施形態によれば、アルコキシカルボニル化反応、カルボニル化反応、カルボキシル化反応および/または重合反応において、第1の態様による触媒系を使用する。
【0115】
本発明の別の実施形態によれば、この触媒系を、アルコキシカルボニル化反応、カルボキシル化反応および/または共重合反応において、場合によりプロピオン酸メチルおよび/またはプロピオン酸の生成において、場合によりメタクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸を形成するプロセスにおいて使用する。
【0116】
本発明のさらなる一実施形態によれば、この触媒系を、メタクリル酸メチルの生成、および/またはメタクリル酸の生成、および/またはポリ-MMAの生成において使用する。
【0117】
本発明の第4の態様は、第1の態様による触媒を提供する方法に関する。
【0118】
アルケン、COおよびアルコールを選択的に反応させてエステルを生成するアルコキシカルボニル化反応において、双性イオンおよび/またはイオン性液体の存在下、パラジウム触媒錯体の安定性および再利用を増大させることができることも示されている。
【0119】
共触媒および/または安定化剤および/または処理助剤としての、双性イオンおよび/または酸官能化イオン性液体の使用および/または適用により、酸添加剤なしでパラジウム触媒アルコキシカルボニル化を効率的に行い、したがって処理を簡略化することが可能となる。
【0120】
理論に束縛されることは望まないが、より高価なホスフィンをより安価なホスフィンに置き換え、たとえば、コストを削減することができると考えられる。
【0121】
溶媒としてイオン性液体を適用すると、たとえば、生成物の容易な分離(たとえば、デカンテーションによる)、およびたとえば効果的な固定化によるパラジウム触媒系の再利用が可能となる相分離可能な反応系が得られる。
【0122】
本発明を限定すると解釈されることは望まないが、実験的証拠を以下の節で示す。これには、双性イオン/イオン性液体を有するパラジウム触媒系の実施例が含まれる。触媒される反応には、プロピオン酸メチルを得るための、COおよびメタノールによるエチレンのメトキシカルボニル化が含まれる。
【0123】
理論に束縛されることは望まないが、酸官能化イオン性液体またはイオン性液体は、事実上不揮発性で、多くの場合可燃性および/または毒性が低いと考えられる。溶媒として、該イオン性液体は、幅広い液体範囲、良好な熱/化学安定性、および調整可能な溶解特性を有する。該イオン性液体により金属触媒の安定性が向上し、その粘度によりバルク系における拡散を制限し得る。酸官能化イオン性液体またはイオン性液体の役割として、触媒、共触媒、配位子源、反応媒体および分離媒体としての使用が挙げられる。
【0124】
表および図面を含めた以下の非限定的な実施例において、本発明をさらに例示する。
【実施例】
【0125】
[実施例1]:1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム
【化11】

【0126】
ピリジン(0.077mol)と1,4-ブタンスルトン(0.07mol)との混合物を、撹拌しながら70℃で一晩加熱した。完了次第、得られた白い固体を、80mLのジエチルエーテルで3回洗浄した。最後に、生成物を真空下で乾燥させた。収率は97.6%であった。
【0127】
[実施例2]:1-(4-スルホニルブチル)3-メチルイミダゾリウム
【化12】

【0128】
3-メチルイミダゾール(0.099mol)と1,4-ブタンスルトン(0.09mol)との混合物を、撹拌しながら75℃で2時間加熱した。完了次第、得られた白い固体を、80mLのジエチルエーテルで3回洗浄した。最後に、生成物を真空下で乾燥させた。収率は93.4%であった。
【0129】
[実施例3]:1-(4-スルホニルブチル)トリ-エチルアンモニウム
【化13】

【0130】
トリエチルアミン(0.077mol)と1,4-ブタンスルトン(0.07mol)との混合物を、撹拌しながら60℃で一晩加熱した。完了次第、得られた白い固体を、80mLのジエチルエーテルで3回洗浄した。最後に、生成物を真空下で乾燥させた。収率は60.5%であった。
【0131】
[実施例4]:1-(4-スルホニルブチル)トリ-フェニルホスホニウム
【化14】

【0132】
トリフェニルホスフィン(0.05mol)と1,4-ブタンスルトン(0.045mol)との30mLのトルエン中の混合物を、撹拌しながら一晩還流した(約120℃)。完了次第、得られた白い固体を、20mLのトルエンで2回、80mLのジエチルエーテルで3回洗浄した。最後に、生成物を真空下で乾燥させた。収率は7.2%であった。
【0133】
理論に束縛されることは望まないが、この低い収率は、使用したトルエンの体積および選択した反応条件によって説明され得る。この双性イオンはMeOH中で非常に低い溶解度を示した。
【0134】
[実施例5]:1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム硫酸水素塩
【化15】

【0135】
1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム(0.077mol)と硫酸(0.07mol)との混合物を、撹拌しながら60℃で一晩加熱した。この間に固体が液化し、その結果わずかに黄色い粘着性の油として1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム硫酸水素塩が形成され、この油を真空下で一晩乾燥させた。収率は97.6%であった。
【0136】
[実施例6]:1-(4-スルホニルブチル)トリエチルアンモニウム硫酸水素塩
【化16】

【0137】
1-(4-スルホニルブチル)トリエチルアンモニウム(0.077mol)と硫酸(0.07mol)との混合物を、撹拌しながら60℃で一晩加熱した。この間に固体が液化し、その結果わずかに黄色い粘着性の油として1-(4-スルホニルブチル)トリエチルアンモニウム硫酸水素塩が形成され、この油を真空下で一晩乾燥させた。収率は92.7%であった。
1-(4-カルボキシブチル)イミダゾリウムクロリド
【0138】
[実施例7]:
【化17】

【0139】
1-メチルイミダゾール(0.077mol)と4-クロロブタン酸(0.05mol)との混合物を、撹拌しながら70℃で一晩加熱した。完了次第、エーテルを添加した。固体状の油をエーテルで洗浄した(50mL×3)。わずかに黄色い粘着性の油を真空下で乾燥させた。
【0140】
[実施例8]:1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウム硫酸水素塩
【化18】

【0141】
1-(4-スルホニルブチル)イミダゾール(0.077mol)と硫酸(0.07mol)との混合物を、撹拌しながら60℃で一晩加熱した。この間に固体が液化し、その結果わずかに黄色い粘着性の油として1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウム硫酸水素塩が形成され、この油を真空下で一晩乾燥させた。
【0142】
[実施例9]:1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウムメタンスルホネート
【化19】

1-(4-スルホニルブチル)イミダゾール(0.077mol)とメタンスルホン酸(0.07mol)との混合物を、撹拌しながら60℃で一晩加熱した。この間に固体が液化し、その結果わずかに黄色い粘着性の油として1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウムメタンスルホネートが形成され、この油を真空下で一晩乾燥させた。
【0143】
[実施例10]:触媒試験:(A)予備活性化なしの系
50mLのパール社(Parr)製オートクレーブ内で触媒反応を行った。酢酸パラジウム(11.2mg、0.05mmol)を含み、双性イオンは含まないか、または双性イオン(1、2、3もしくは4=実施例1、2、3もしくは4からの双性イオン)を含み、1mmolの双性イオン(Pd/双性イオン=1/20)、2mmolの双性イオン(Pd/双性イオン=1/40)、もしくは3mmolの双性イオン(Pd/双性イオン=1/60)、1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチル)ベンゼン(0.25mmol)を含み、これらをメタノールに溶解させた反応器を、ガス混合物CO/エチレン/N2(40/40/20)で3回パージした。その後オートクレーブを、同じガス混合物CO/エチレン/N2(40/40/20)を用いて20バールまで加圧し、室温から80℃まで加熱した。反応期間中、圧力は低下するに任せた。反応時間後、オートクレーブの急冷によって反応を終了させ、未反応のガスを放出させた。その後、反応スラリーをろ過し、液体をGC分析用に保管した。プロピオン酸のメチルの形成活性を、ガスクロマトグラフィによって決定した。
これらの実験から選択した結果がTable Iに含まれる。
【0144】
[実施例11]:触媒試験:(B)触媒系の再利用
オートクレーブの急冷によって反応を終了させた後、未反応のガスを放出させた。その後、試験2に向けて、オートクレーブを再度ガス混合物(20バール)で満たし、室温から80℃まで加熱した。反応期間中、圧力は低下するに任せた。反応時間後、オートクレーブを冷却することによって反応を終了させ、未反応のガスを放出させた。触媒系の再利用には同じ順に従った。
これらの実験から選択した結果がTable IIに含まれる。
【0145】
[実施例12]:触媒試験:(C)ホスフィン配位子として1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチルまたはトリフェニルホスフィンを用いた予備活性化ありの系
50mLのパール社(Parr)製オートクレーブ内で触媒反応を行った。酢酸パラジウム(11.2mg、0.05mmol)を含み、双性イオンは含まないか、または双性イオン(1、2、3もしくは4=実施例1、2、3もしくは4からの双性イオン)を含み、1mmolの双性イオン(Pd/双性イオン=1/20)、2mmolの双性イオン(Pd/双性イオン=1/40)、もしくは3mmolの双性イオン(Pd/双性イオン=1/60)、1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチル)ベンゼン(0.25mmol)またはトリフェニルホスフィン(0.5mmol(1:10)(Pd/P)もしくは1.25mmol(1:25)(Pd/P))を含み、これらをメタノールに溶解させた反応器を、アルゴンで3回パージした。その後オートクレーブを、アルゴンを用いて2バールまで加圧し、80℃で一晩(12h、14hまたは16h)加熱した。その後オートクレーブを室温まで冷却し、ガス混合物CO/エチレン/N2(40/40/20)で3回パージした。次いでオートクレーブを、同じガス混合物CO/エチレン/N2(40/40/20)を用いて20バールまで加圧し、室温から1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチルの場合には80℃まで、トリフェニルホスフィンの場合には100℃まで加熱した。反応期間中、圧力は低下するに任せた(バッチモード)。反応時間後、オートクレーブの急冷によって反応を終了させ、未反応のガスを放出させた。その後、反応スラリーをろ過し、液体をGC分析用に保管した。プロピオン酸メチルの形成活性を、ガスクロマトグラフィによって決定した。
【0146】
トリフェニルホスホニウム双性イオンは、MeOHにわずかしか溶けなかった。理論に束縛されることは望まないが、この双性イオンは、適切な溶媒が双性イオンの可溶化のために選択されると、たとえばエチレンの、たとえばアルコキシカルボニル化において活性が高くなり得ると考えられる。
これらの実験から選択した結果がTable IIIに含まれる。
【0147】
[実施例13]:触媒試験:(D)1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチル配位子を用いた酸官能化イオン性液体ありの系
50mLのパール社(Parr)製オートクレーブ内で触媒反応を行った。メタノール単独、またはメタンスルホン酸を有するメタノール-イオン性液体(1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートまたは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム硫酸水素塩)、または実施例8および9からの酸官能化イオン性液体を有するメタノールに溶解させた、酢酸パラジウム(22.6mg、0.1mmol)および1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチル)ベンゼン(0.5mmol)(1:10)(Pd/P)を含む反応器を、ガス混合物CO/エチレン/N2(40/40/20)で3回パージした。次いでオートクレーブを、同じガス混合物CO/エチレン/N2(40/40/20)を用いて20バールまで加圧し、室温から80℃まで加熱した。反応期間中、圧力は低下するに任せた(バッチモード)。反応時間後、オートクレーブの急冷によって反応を終了させ、未反応のガスを放出させた。その後、反応スラリーをろ過し、液体をGC分析用に保管した。プロピオン酸メチルの形成活性を、ガスクロマトグラフィによって決定した。
これらの実験から選択した結果がTable IVに含まれる。
【0148】
[実施例14]:相分離:(E)1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)メチル配位子を用いた酸官能化イオン性液体ありの系
実施例13で説明した、酸官能化イオン性液体1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウムメタンスルホネートを有し、Pd触媒を溶解した反応混合物を、図6に示す。反応前の均一反応混合物を左側に、反応完了後の相分離した反応混合物を右側に示す。分離した上部の透明な相は、痕跡量のメタノールを伴うプロピオン酸メチルで構成され、下部の着色した相は、溶解Pd触媒を含有するイオン性液体で構成されている。
この実施例は、再利用可能なPd触媒系からの生成物の容易な分離を例示している。
【0149】
【表1】

【0150】
【表2】

【0151】
【表3】

【0152】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム(Pd)触媒と、
a)双性イオンおよび/または
b)酸官能化イオン性液体と、
c)1つまたは複数のホスフィン配位子と
を含む触媒系。
【請求項2】
前記Pd触媒が、場合により1種または複数種の錯体前駆体から、場合により1種または複数種のパラジウム(II)またはパラジウム(0)錯体前駆体から提供または形成されたものであってよい溶解したPd錯体を含み、場合により、前記錯体前駆体が、Pd(CH3COO)2、PdCl2、Pd(CH3COCHCOCH3)、Pd(CF3COO)2、Pd(PPh3)4またはPd2(ジベンジリデンアセトン)3であってよい、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
前記双性イオンが、1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム、1-(4-スルホニルブチル)3-メチルイミダゾリウム、1-(4-スルホニルブチル)トリエチルアンモニウムおよび1-(4-スルホニルブチル)トリフェニルホスホニウムからなる群から選択される、請求項1または2に記載の触媒系。
【請求項4】
前記1つまたは複数のホスフィン配位子が、モノホスフィン、ビホスフィン、単座ホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、二座ホスフィン、1,2-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンおよび1,2-ビス((ジ-tert-ブチルホスフィノ)-メチル)ベンゼン、ならびにこれらの任意の誘導体、組合せおよび/または混合物からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項5】
1種または複数種の無機および/または有機ブレンステッド酸をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項6】
1種または複数種のホスフィンと、1種または複数種の双性イオンと、1種または複数種の酸とを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項7】
1種もしくは複数種の溶媒および/または1種もしくは複数種のイオン性液体をさらに含み、前記イオン性液体が反応条件において溶融される塩である、請求項1から6のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項8】
(a)Pd触媒と、(b)1種または複数種の酸官能化イオン性液体とを含み、場合により、前記官能化イオン性液体とは別にさらに酸を含んでいなくてよい、請求項1から7のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項9】
前記酸官能化イオン性液体が、1つまたは複数のカチオンAと1つまたは複数のアニオンBとの組合せを含み、式[AH]+[B]-または[A]+[BH]-を有し、場合により、Hが、pKaが5未満のブレンステッド酸に由来するプロトンであってよい、請求項8に記載の触媒系。
【請求項10】
前記酸官能化イオン性液体が、1-(4-スルホニルブチル)ピリジニウム硫酸水素塩、1-(4-スルホニルブチル)トリエチルアンモニウム硫酸水素塩、1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウム硫酸水素塩、1-(4-スルホニルブチル)イミダゾリウムメタンスルホネートおよび1-(4-カルボキシブチル)イミダゾリウムクロリド、ならびにこれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の触媒系。
【請求項11】
1種または複数種の双性イオンと、1種または複数種のホスフィンとをさらに含む、請求項8から10のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項12】
下記反応を触媒する、請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系であって、
Rr1Rr2C=CHRr3+CO+Rr4OH→Rr1Rr2CH-CHRr3COORr4
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、H、CH3、CH3CH2、アルキル、アリール、環状基、C1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、環状基の環中に窒素などの1種または複数種のヘテロ原子を場合により含んでいてよい炭素数4〜12の環状基からなる群から独立に選択することができ、nrは、2〜100,000または100,000以上であり、mrはnrよりも大きく、場合により、Rr1、Rr2およびRr3はH、Rr4はCH3であってよい、触媒系。
【請求項13】
下記反応を触媒する、請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系であって、
nr(Rr1Rr2C=CHRr3)+mrCO→(-Rr1Rr2C-CHRr3-CO-)nr+(mr-nr)CO
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、H、CH3、CH3CH2、アルキル、アリール、環状基、C1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、環状基の環中に窒素などの1種または複数種のヘテロ原子を場合により含んでいてよい炭素数4〜12の環状基からなる群から独立に選択することができ、nrは、2〜100,000または100,000以上であり、mrはnrよりも大きく、場合により、Rr1、Rr2およびRr3はH、Rr4はCH3であってよい触媒系。
【請求項14】
前記系が二相系を含み、前記Pd触媒および反応生成物が基本的に異なる相中に含まれていて、場合により、前記系が、1種もしくは複数種の基質および/または1種もしくは複数種の前記反応生成物を除いて揮発性化合物を含まないものであってよい、請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項15】
前記触媒が、担持イオン性液相(SILP)触媒であり;場合により、前記SILP触媒が多孔質担体上に担持されていてよく;場合により、前記触媒活性Pdが最大25重量%、好ましくは最大10重量%の量で存在していてよく;場合により、前記多孔質担体が、シリカ、有機高分子、炭素、ゼオライト、粘土、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ならびにこれらの任意の誘導体、混合物および組合せからなる群から選択されていてよく;場合により、最大66重量%、好ましくは最大33重量%の量で存在するイオン性液体を含んでいてよい、請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系。
【請求項16】
アルコキシカルボニル化反応、カルボキシル化反応および/または共重合反応における、場合によりプロピオン酸メチルおよび/またはプロピオン酸の生成における、場合によりメタクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸を形成するプロセスにおける、請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系の使用。
【請求項17】
下記反応を触媒するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系の使用であって、
Rr1Rr2C=CHRr3+CO+Rr4OH→Rr1Rr2CH-CHRr3COORr4
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、H、CH3、CH3CH2、アルキル、アリール、環状基、C1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、環状基の環中に窒素などの1種または複数種のヘテロ原子を場合により含んでいてよい炭素数4〜12の環状基からなる群から独立に選択することができ、nrは、2〜100,000または100,000以上であり、mrはnrよりも大きく、場合により、Rr1、Rr2およびRr3はH、Rr4はCH3であってよい、使用。
【請求項18】
下記反応を触媒するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系の使用であって、
nr(Rr1Rr2C=CHRr3) + mrCO→(-Rr1Rr2C-CHRr3-CO-)nr+(mr-nr)CO
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、H、CH3、CH3CH2、アルキル、アリール、環状基、C1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、環状基の環中に窒素などの1種または複数種のヘテロ原子を場合により含んでいてよい炭素数4〜12の環状基からなる群から独立に選択することができ、nrは、2〜100,000または100,000以上であり、mrはnrよりも大きく、場合により、Rr1、Rr2およびRr3はH、Rr4はCH3であってよい、使用。
【請求項19】
下記反応を触媒するための方法であって、
Rr1Rr2C=CHRr3+CO+Rr4OH→Rr1Rr2CH-CHRr3COORr4
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、H、CH3、CH3CH2、アルキル、アリール、環状基、C1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、環状基の環中に窒素などの1種または複数種のヘテロ原子を場合により含んでいてよい炭素数4〜12の環状基からなる群から独立に選択することができ、nrは、2〜100,000または100,000以上であり、mrはnrよりも大きく、場合により、Rr1、Rr2およびRr3はH、Rr4はCH3であってよい、
請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系の使用を含む方法。
【請求項20】
下記反応を触媒するための方法であって、
nr(Rr1Rr2C=CHRr3)+mrCO→(-Rr1Rr2C-CHRr3-CO-)nr+(mr-nr)CO
式中、Rr1、Rr2、Rr3およびRr4は、H、CH3、CH3CH2、アルキル、アリール、環状基、C1〜C20アルキル基、C6〜C18アリール基、環状基の環中に窒素などの1種または複数種のヘテロ原子を場合により含んでいてよい炭素数4〜12の環状基からなる群から独立に選択することができ、nr=2〜100,000または100,000以上であり、mrはnrよりも大きく、場合により、Rr1、Rr2およびRr3はH、Rr4はCH3であってよい、
請求項1から11のいずれか一項に記載の触媒系の使用を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2013−503733(P2013−503733A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527307(P2012−527307)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062797
【国際公開番号】WO2011/026860
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(512054241)テクニカル・ユニヴァーシティ・オブ・デンマーク (1)
【Fターム(参考)】