説明

双眼鏡

【課題】それぞれ左右一対の対物光学系、正立光学系、および接眼光学系とを有する双眼鏡の光軸調整において、部品点数が少なく衝撃にも強い構造を提供する。
【解決手段】上記構造の双眼鏡において、左右一対のレンズ保持筒1L,1Rがあり、左右一対のレンズ保持筒1L、1Rは固定部材2の先端部の所定位置に位置決め固定される。調整部材が基準部材に対しレンズ保持筒1L、1Rの光軸をはさんで対向位置に配置されている。レンズ保持筒1L、1Rの後端部周上には複数のフランジ形状があり、固定部材2の先端部周上には対応する複数のフランジ形状がある。それら二つのフランジ形状によりバヨネット結合を行う。またレンズ保持筒1L、1Rは、光軸と垂直な平面内で移動可能で、基準部材を揺動の中心としてレンズ保持筒を調整部材でそれぞれ異なる方向に揺動させることで光軸調整を行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右一対の光学系の光軸の平行度調整を簡易的な方法で行うことのできる光軸調整機構を有する双眼鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
双眼鏡には左右一対の対物光学系と、複数のプリズムやミラ−から成る左右一対の正立光学系、および、左右一対の接眼光学系とが備えられており、光軸調整については種々の構成が提案されている。
【0003】
特許文献1では、左右一対の対物レンズ鏡筒と固定部材があり、対物レンズ鏡筒のそれぞれには取付用穴を有している。
【0004】
対物レンズ鏡筒は、2つのビスで固定部材に固定される。ここで、取付用穴は、取付用ビスに対して穴径が多少大きく設定されており、対物レンズ鏡筒を光軸と直交する方向に移動させることで、光軸調整を行う構成が提案されている。
【0005】
特許文献2では、対物レンズの全部を保持した対物レンズ枠が光学系の光軸と同方向に延出された対物軸に配設されており、対物レンズ枠は対物軸を回動中心として揺動可能となっており、一部ネジ形状で先端部が鏡筒本体部の底面側に当接している光軸調整ビスが配設されている。この光軸調整ビスを回転させ上下方向の光軸調整を行う。また接眼レンズを保持した接眼レンズ枠の長穴が鏡筒から伸びている2本の凸部に係合して動かすことで左右方向の光軸調整を行う。更に対物レンズ枠の繰り込みや繰り出し動作でピント調節や視度調節を行う構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-211303号公報
【特許文献2】特開平9-281411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、対物レンズ鏡筒と固定部材に取付用穴を介して取付用ビスで固定しているので、大きな質量の対物レンズ鏡筒では衝撃に対して不利である。また、特許文献2では上下方向と左右方向のそれぞれで光軸調整機構を設けており、部品点数が増え構造が複雑になりコストも増える。さらに光軸調整ビスが外装本体部に当接しており、落下等の物理的な衝撃が対物レンズ枠に伝わり易い。
【0008】
そこで、本発明の例示的な目的は、上述した問題を解消した新規な構成の光軸調整可能な双眼鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
少なくとも左右一対の対物光学系と、左右一対の接眼光学系とを有する双眼鏡において前記左右一対の対物光学系の一部または全部のそれぞれを保持する左右一対のレンズ保持筒と、前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれが先端部の所定位置に位置決め固定される固定部材と、前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれを前記固定部材に光軸と垂直な平面内で位置決めするための基準を成す左右一対の基準部材と、前記左右一対の基準部材のそれぞれに対して前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれの光軸をはさんで略対向位置に配置される左右一対の調整部材とから成り、前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれの後端部周上に設けた複数のフランジ形状と前記固定部材の先端部周上に対応して設けた複数のフランジ形状の組み合わせにより、いわゆるバヨネット結合を構成することで、前記左右一対のレンズ保持筒を前記固定部材の所定位置に位置決めすると共に光軸と垂直な平面内での移動を可能とし、前記左右一対の調整部材で前記左右一対のレンズ保持筒を前記左右一対の基準部材を揺動中心として、それぞれ異なる方向に揺動させることで光軸調整を行うと共に前期左右一対のレンズ保持筒を前記固定部材に対して位置決めする事を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レンズ保持筒と固定部材の連結構造に上下方向と左右方向の両方向の光軸調整機能を持たせたことで部品点数を減らした簡易的な構造で光軸調整を行うことができ、コストも抑えられる。光軸調整作業後の調整部材は物理的な衝撃に対する強化部材となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の要部断面図
【図2】実施例1の斜視図
【図3】実施例1の正面図
【図4】実施例1の分解斜視図
【図5】実施例1の鏡筒1Rと固定筒2の拡大した分解斜視図
【図6】実施例1の図3の鏡筒1Rと固定筒2のAA部の断面図
【図7a】実施例1の偏芯部材の正面図
【図7b】実施例1の偏芯部材の側面図
【図8a】実施例1の偏芯部材の矩形部分
【図8b】実施例1の偏芯部材の図8aのBB部の断面図
【図9】実施例1の振れ補正ユニットの分解斜視図
【図10】実施例1の鏡筒1Rの揺動概略図
【図11】実施例1の光軸調整手順図1
【図12a】実施例1の光軸調整手順図2
【図12b】実施例1の光軸調整手順図2
【図12c】実施例1の光軸調整手順図2
【図12d】実施例1の光軸調整手順図2
【図12e】実施例1の光軸調整手順図2
【図12f】実施例1の光軸調整手順図2
【図13】実施例2の斜視図
【図14】実施例2の側面図
【図15】実施例2の図14のAA断面における要部断面図
【図16】実施例2の固定筒と鏡筒の分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
[実施例1]
図1、図2、図3及び図4は本発明を振れ補正機能を有する双眼鏡に適用した第一の実施例を説明する。図1は左右一対の対物光学系および左右一対の接眼光学系のそれぞれ左右の光軸を含む面での要部断面図である。ただし、左右一対の正立光学系は投影形状で表している。図2は斜視図、図3は正面図、図4は分解斜視図である。
【0014】
図1および図2において、OLは対物光学系の左の光軸、ORは対物光学系の右の光軸であり、ELは接眼光学系の左の光軸、ERは接眼光学系の右の光軸である。
【0015】
L1L、L1Rは左右一対の対物光学系の一部を成すレンズ群。L2L、L2Rは左右一対の対物光学系の一部を成すレンズ群であり、左右それぞれの光学系の偏芯調整基準レンズである。L3L、L3Rは左右一対の対物光学系の一部を成す振れ補正レンズ群であり、レンズ群L1L、L1R、L2L、L2Rに対して上下左右に動くことで対物光学系の作る被写体の像を移動させる。
【0016】
L4L、L4Rは左右一対の正立光学系であるポロII型正立プリズム、L5L、L5Rは左右一対の接眼光学系であるところの接眼レンズ群である。ポロII型正立プリズムL4L、L4Rは、それぞれ対物光学系により結像される被写体の像を正立させると共に、対物光学系の光軸OL、ORを接眼光学系の光軸EL、ERへ偏芯させる働きをしている。同様の働きは周知のダハプリズム、平行四辺形のプリズム、ミラー等を組み合わせて実現してもよい。
【0017】
1L、1Rはレンズ保持筒であるところのそれぞれレンズ群L1L、L1Rを保持する鏡筒、2は固定部であるところの固定筒で偏芯調整基準レンズL2L、L2Rを含んでいる。50は固定筒と左右一対の振れ補正レンズ群L3L、L3Rとを含む振れ補正ユニットである。
【0018】
レンズ群L1L、L1Rと偏芯調整基準レンズL2L、L2Rと振れ補正レンズ群L3L、L3Rとで左右一体化された対物光学系を構成している。
【0019】
振れ補正ユニット50の詳細構成については後述する。
【0020】
5L、5Rは接眼レンズ群L5L、L5Rをそれぞれ保持する接眼鏡筒、4L、4RはポロII型正立プリズムL4L、L4Rおよび接眼鏡筒5L、5Rをそれぞれ保持する支持枠、6L、6Rは接眼鏡筒5L、5Rにそれぞれに一体的に固定された観察用の目当てゴムである。
【0021】
接眼鏡筒5L、5Rの外周にはそれぞれオスヘリコイド、支持枠4L、4Rの内周壁にはメスヘリコイドが形成されており、周知のヘリコイド構成を成している。従って、接眼鏡筒5L、5Rを回転させることで、接眼レンズ群L5L、L5Rを光軸方向に進退せしめ、左右の視度調節が可能となっている。以上により、左右一対の接眼ユニット7L、7Rをそれぞれ構成している。
【0022】
8は接眼ユニット7L、7Rを対物光学系の光軸OL、ORを軸として回転可能に支持すると共に、左右一対の対物光学系の全部を光軸方向に進退させて観察する被写体距離に応じてピント合わせを行う構成の支持部となるベ−ス部材である。
【0023】
ベ−ス部材8には対物光学系の光軸OL、ORに垂直な8a部に、それぞれ同軸に設けられた開口部8L、8Rが設けられ、支持枠4L、4Rにそれぞれ設けられた円筒部4La、4Raが嵌合せしめられる。
【0024】
9L、9Rは接眼ユニット7L、7Rの対物光学系のそれぞれの光軸OL、ORを軸としての回転の動きを連動させる連動板である。
【0025】
連動板9L、9Rにはそれぞれギア部9La、9Raが設けられ、互いに噛合している。更に、連動板9L、9Rには正規位置に組み込まれることで光軸方向に付勢力を発生させる複数の腕部9Lb、9Rbがそれぞれ設けられ、ベ−ス部材8a部を挟んで支持枠4L、4Rと連動板9L、9Rとは、それぞれビスにて締結される。これにより、接眼ユニット7L、7Rがベ−ス部材8に対して、対物光学系のそれぞれの光軸OL、ORを軸として回転の動きを連動させた状態で回転可能に結合される。
【0026】
接眼光学系の光軸EL、ERは対物光学系の光軸OL、ORに対して偏芯しているので、接眼ユニット7L、7Rを対物光学系のそれぞれの光軸OL、ORで連動させて内向きもしくは外向きに回転させることで接眼光学系の光軸EL、ERの幅が変化する。これにより、双眼鏡の観察者の左右の瞳の間隔と接眼光学系の光軸EL、ERの間隔を一致させる、いわゆる眼幅調整が可能となる。また、接眼ユニット7L、7Rのそれぞれで、左右の接眼レンズ群L5L、L5Rで観察される被写体の像が眼幅調整時にずれないようにポロII型正立プリズムL4L、L4Rの位置がそれぞれ調整される。この調整は、接眼ユニット7L、7Rのそれぞれの回転軸と接眼レンズ群L5L、L5Rの光軸を、それぞれ一致するようにするものである。
【0027】
8bはベ−ス部材8の対物光学系の光軸OL、ORに平行な部分であり、左右一対の対物光学系の全部を光軸方向に進退させて、観察する被写体距離に応じてピント合わせを行う構成の支持部である。8b部には4箇所のエンボス加工された凸部8cが設けられている。
【0028】
10は対物光学系が固定されるフォ−カス支持部材である。フォ−カス支持部材10には、光軸方向に設けられた同幅のガイド溝10a、10bと10a、10bよりも幅が広い10c、10dが設けられる。
【0029】
11は4個のガイド部材であり、ガイド溝10a、10bの幅に嵌合するガイド部11aと両側に腕部11bを有する。4個のガイド部材11はフォ−カス支持部材10のガイド溝10a、10bと10c、10dをガイド部11aが貫通してベ−ス部材8の8b部にそれぞれビスにて固定される。
【0030】
フォ−カス支持部材10はガイド溝10a、10bそれぞれに嵌合するガイド部材11のガイド部11aで光軸方向に進退自在に案内される。
【0031】
ガイド溝10a、10bと10c、10dの溝の両側部分をガイド部材11の両側の腕部11bで押えられることでベ−ス部材8の凸部8cに圧接される。
【0032】
更に、12は定位置で回転する送りねじ。13は送りねじ12と後端にて結合される操作ダイアル。14は送りねじ12と結合される操作ダイアル13を定位置で回転するように支持する軸受けであり、ベ−ス部材8の8b部の後端に直角に曲げ起された8d部にビスにて固定される。15は送りねじ12に螺合する雌ねじ部材であり、フォ−カス支持部材10の後端に直角に曲げ起された10e部にビスにて固定される。以上の構成により操作ダイアル13を回転させることでフォ−カス支持部材10を光軸方向に進退させることが出来る。
【0033】
16は送りねじ12に雌ねじ部材15を螺合させた後に送りねじ12の先端部に固定されるストッパであり、フォ−カス支持部材10の光軸方向の進退はストッパ16と8d部の間で規制される。
【0034】
固定筒2にはフォ−カス支持部材10にビス締結するための取り付けボス部2a、2b、2g、2f、左右方向の位置を決める位置決めピン2c、光軸方向の位置を決める位置決めピン2d、2eが設けられている。取り付けボス部2a、2bと位置決めピン2cはベ−ス部材8の8b部に空けられた開口部8eを貫通して2本のビス17によりフォ−カス支持部材10に固定される。位置決めピン2d、2eはフォ−カス支持部材10に設けられた長溝10e、10fに嵌合している。
【0035】
以上の構成で左右一体化された対物光学系がフォ−カス支持部材10に光軸方向に固定されるので、フォ−カス支持部材10の光軸方向への移動により観察する被写体距離に応じてピント合わせを行うことが可能となる。
【0036】
22は左右の対物光学系および光軸調整機構、ピント合わせ機構等を囲う外装部材である。図2、図3、および図4では図示を省略している。
【0037】
図5はレンズ群L1Rを保持する鏡筒1Rと固定筒2の結合構成を示す斜視図である。図6は図3の鏡筒1Rと固定筒2のフランジが見えるA−A断面である。
【0038】
1Raはフランジ形状であるところの2つの凸形状部であり、鏡筒1Rを固定筒2に取付けるために、鏡筒側面の後ろ端に設けられている。2iRはフランジ形状であるところの2つの凸形状部であり、固定筒2の開口部の内側に設けられている。
【0039】
鏡筒1Rを固定筒2の開口部の内側で凸形状部2iRのない部分に鏡筒1Rの凸形状部1Raを挿し込み、一定の角度をまわして光軸方向を位置だしするバヨネット構成で鏡筒1Rを固定筒2へ装着する。このとき、鏡筒1Rの凸形状部1Raと固定筒2の凸形状部2iRとは光軸方向に軽圧入状態になっている。
【0040】
1Rdは鏡筒1Rの側面部の突出部であり、貫通穴1Reが空けられている。1Rbは鏡筒1Rの側面部の突出部1Rdに対し光軸を挟んで対向位置にある突出部で、長溝1Rcが空けられている。20は調整部材であるところの偏芯部材である。
【0041】
図7aは偏芯部材20の正面図で、図7bは右側面図である。偏芯部材20は偏芯軸20aと基準軸20bとドライバ−先端部が挿入可能な溝20cを有している。偏芯軸20aは基準軸20bに対し定量値ε偏芯している。
【0042】
2kRは固定筒2の突出部で貫通穴2mRが空けられている。2hRは固定筒2の突出部で貫通穴2jRが空けられている。21は基準部材であるところの固定基準ピンで直径の大きさは貫通穴2mRと貫通穴1Reに圧入可能である。
【0043】
鏡筒1Rを固定筒2へ装着する過程を説明する。
【0044】
図8aは図3の矩形枠で囲った箇所の拡大図である。図8bは図8aのBB面の断面図である。鏡筒1Rの突出部1Rbの長溝1Rcと固定筒2の突出部2hRの貫通穴2jRに偏芯部材20を組み込む。偏芯部材20の偏芯軸20aは長溝1Rcと長手方向に摺動可能な隙間を有して嵌合し、基準軸20bは貫通穴2jRに軽圧入している。以降説明する光軸調整作業後の偏芯部材20を固定筒2に接着固定することで、物理的な衝撃で鏡筒1Rの調整位置がずれることが抑止される。以上右眼側の説明であるが図4に示す様に左眼側も同様の構成が対称に配置されており、右眼側で添字”R”で示す構成が左眼側では添字”L”で表現されている。鏡筒1L、1Rはそれぞれの揺動中心である固定基準ピン21を中心に異なる方向へ揺動することで以降説明する光軸調整を行う。
【0045】
図10a、図10b、図10cは本実施例の光軸調整機構を分かり易く説明するために動き量を実際より大きくして動きが分かるようにした模式図であり図1の符号と対応している。水平線と垂直線の交点は揺動前の鏡筒中心を表している。
【0046】
図10aは偏芯部材20が初期位置の図である。偏芯部材20の偏芯軸20aは基準軸20bを中心に偏芯回転運動する。矢印Pは偏芯部材20の反時計回りの回転方向である。矢印Qは偏芯部材20の時計回りの回転方向である。偏芯部材20を回転方向P、Qに回す。鏡筒1Rは固定基準ピン21を中心にして揺動する。矢印Mは偏芯部材20を回転方向Pへ回したときの鏡筒1Rの中心の変位方向である。矢印Nは偏芯部材20を回転方向Qへ回したときの鏡筒1Rの中心の変位方向である。また、揺動量は微小量なので変位方向M、Nを直線と見なしている。
【0047】
図10bは偏芯部材20を回転方向Pへ回したときの鏡筒1Rの様子である。偏芯部材20を回転方向Pへ回転させると鏡筒1Rは固定基準ピン21を中心に変位方向Mへ揺動する。
【0048】
図10cは偏芯部材20を回転方向Qへ回したときの鏡筒1Rの様子である。偏芯部材20を回転方向Qへ回転させると鏡筒1Rは固定基準ピン21を中心に変位方向Nへ揺動する。
【0049】
図11a、図11b、図11cは鏡筒1L、1Rの変位方向を表す概念図である。左の円は鏡筒1Rの略図で、右の円は鏡筒1Lの略図である。鏡筒1L、1Rの水平線と垂直線の交点ははそれぞれの鏡筒中心を表す。左の円の変位方向M、Nは図10の変位方向と対応している。
【0050】
Kは鏡筒1Lの変位方向で、鏡筒1Rの変位方向Mと双眼鏡の対称面に対し対称な方向を向いている。Jは鏡筒1Lの変位方向で、鏡筒1Rの変位方向Nと双眼鏡の対称面に対して対称な方向を向いている。
【0051】
図11aは左右方向の光軸調整を行う図である。光軸の左右間隔を短くする場合には変位方向N、Jへ鏡筒1L、1Rを変位させる。また、光軸の左右間隔を長くする場合には変位方向M、Kへ鏡筒1L、1Rを変位させる。
【0052】
図11bは光軸の左右間隔を保ちながら鏡筒1Rの光軸を上げて、鏡筒1Lの光軸を下げるという上下光軸調整を行う図である。変位方向N、変位方向Kの水平方向成分が同一量、同一方向で、垂直方向成分が同一量、異方向のため鏡筒1R、1Lの左右間隔を維持したまま、鏡筒1Rを鏡筒1Lに対し相対的に上方へ変位させることができる。
【0053】
図11cは光軸の左右間隔を保ちながら鏡筒1Rの光軸を下げて、鏡筒1Lの光軸を上げるという上下光軸調整を行う図である。変位方向M、変位方向Jの水平方向成分が同一量、同一方向で、垂直方向成分が同一量、異方向のため鏡筒1R、1Lの左右間隔を維持したまま、相対的に鏡筒1Rを鏡筒1Lに対し下方へ変位させることができる。
【0054】
図12a、図12b、図12cは基準被写体を目印に左右光軸調整を行う手順を説明するために、本双眼鏡を通して光軸調整のための基準被写体を覗いた左右の視野範囲内の様子である。
【0055】
図12a は光軸調整前の視野範囲内の目印の初期位置を示す。40は左目の視野範囲内で、41は右目の視野範囲内である。また、基準被写体の目印は無限遠にある”+”である。42Lおよび42Rはそれぞれ左右光学系を通して接眼光学系L5LおよびL5Rで観察される目印”+”の像である。目印42L、42Rの視野範囲内40、41における位置はそれぞれ異なっている。実際の光軸調整作業では、左右の視野範囲内を一つに合成する作用のある光軸調整機を用いる。
【0056】
図12bは図12aの視野範囲内40、41を重ねて表している。
【0057】
二点鎖線Uは鏡筒1Lを揺動させたときの目印42Lの軌跡を表している。二点鎖線Vは鏡筒1Rを揺動させたときの目印42Rの軌跡を表している。
【0058】
但し正立光学系L4L、L4Rにより上下左右が反転されるので、目印の動く方向は鏡筒のそれと逆方向となる。
【0059】
調整手順は左右光軸調整後、上下光軸調整を行う場合とその逆の手順で上下光軸調整後、左右光軸調整を行う場合の2通り考えられる。
【0060】
図12cでは図12bから左右の光軸調整作業後の目印の位置を示す。変位方向N、M、Kは図11aにおける鏡筒1Rの変位方向と対応している。図10は対物鏡筒の動きを表し、図11は接眼鏡筒から観察される視野範囲内を表す。プリズム光学系を透過した接眼光学系の像は対物光学系より入射した像に対して上下左右反転している。
【0061】
重ねて表した視野範囲内40、41の便宜上破線で示した目印42Rを図12cの変位方向Mへ補助線Vに沿って移動させた。目印42L、42Rは上下で揃って並んでおり、左右光軸調整が終了している。次に、同時に目印42Rを変位方向Nへ、目印42Lを変位方向Kへ移動させ両矢印が重なるまで両目印を近づける。そうして、両目印が重なると調整終了であり、図12cにおける補助線U、Vの交点位置に重なることになる。図12eは左右及び上下光軸調整後の目印42L、42Rの様子である。目印42L、42Rは補助線U、Vの交点に一致し、上下左右方向の光軸調整が終了している。
【0062】
図12dでは図12bから上下左右の光軸調整作業後の目印の位置を示す。重ねて表した視野範囲内40、41の便宜上破線で示した目印42Lを変位方向Kへ補助線Uに沿って移動させた。目印42L、42Rは左右で揃って並んでおり、上下光軸は一致している。次に、同時に目印42Rを変位方向Mへ、目印42Lを変位方向Kへ移動させ重なるまで両目印を近づける。そうして、両目印が重なると調整終了である。図12dにおける補助線U、Vの交点位置に重なることになる。図12eは左右及び上下光軸調整後の目印42L、42Rの様子である。目印42L、42Rは補助線U、Vの交点に一致し、上下左右方向の光軸調整が終了している。
【0063】
以上に説明した様に手順は異なっても調整結果は同じになる。
【0064】
図12fは鏡筒1L、1Rの揺動方向に平行な複数の補助線が引かれたチャートを光軸調整機に内蔵させた際の調整機表示系43の様子である。目印42L、42Rを通る夫々の補助線の交点が調整目標地点である。別の双眼鏡から見た目標42の調整機表示系43における様子が目印42L’、42R’である。この場合でも同様にチャートの補助線の交点が調整目標地点となる。
【0065】
両者とも予め調整目標地点が分かっているので上記の左右、上下の光軸調整手順を踏むことのない効率の良い調整作業を行うことができる。
【0066】
また、双眼鏡の光軸調整規格の左右光軸の平行度は日本工業規格の[JIS B 7121]に規格が定められている。
【0067】
例えば10倍の倍率を有するAA級双眼鏡では、許容値は実視界での角度で、上下方向が2.5分、左右の外方向が3.5分、内方向が7.5分となっている。内方向とはいわゆる寄り目になる方向である。人は近距離の物を見る時には自然に寄り目になるので、寄り目方向の調節は比較的に無理なく行うことが出来る。しかし、外方向および上下方向の目の動きは自然に出来るものではないので、ずれ量が大きい場合には、非常に疲れる、もしくは左右の被写体の像を重ねることが困難となる。尚、上述の許容値は倍率が高くなると、より小さな値となる。
【0068】
また図10aにおけるθは水平線と変位方向M、Nとの揺動角度である。光軸調整規格が、左右方向より上下方向が厳しいことから、鏡筒1Lまたは1Rの上下方向調整敏感度を左右方向調整敏感度よりも小さくした方が、より精密に上下光軸調整がやり易く、また衝撃等に対する信頼性も高くなる。そのために揺動角θを45°以下とすることが望ましい。
【0069】
図9は振れ補正ユニット50の分解斜視図である。24は振れ補正レンズ群L3L、L3Rを一体的に保持する可動部材である。可動部材24が固定筒2に対して回転せずに上下左右に動くことでレンズ群L1L、L1Rと振れ補正レンズ群L3L、L3Rが偏芯して対物光学系が作る被写体の像が移動する。
【0070】
25は固定筒2に対して横方向のみに移動可能に支持されたガイド部材である。26、27はガイド部材25の横方向の動きを案内するガイドバ−であり、その端部がそれぞれ、固定筒2の溝部2a、2bおよび2c、2dに挿入され圧入もしくは接着等でベ−ス部材2に固着される。28は駆動コイルでありガイド部材25に接着等で固着されている。29は駆動マグネットであり、図示するように左右方向にN極およびS極の2極に着磁されている。31はヨ−クであり、ガイド部材25を貫通している固定筒2に設けられた取り付けボス部2eにビスにて固定されている。
【0071】
ヨ−ク31は駆動マグネット29の手前側に空間を空けて磁気回路を閉じている。駆動マグネット29とヨ−ク31の間に駆動コイル28が配置されている。駆動コイル28に通電されると、ロ−レンツ力が発生してガイド部材25を横方向に移動せしめる。また、駆動コイル28の中心には磁気センサであるホ−ル素子32がガイド部材25に一体となるように配置されている。ホ−ル素子32は駆動マグネット29の2極着磁の境界部(マグネットの中央部)の光軸方向の磁束密度を電気信号に変換することでガイド部材25の横方向の位置を検出する。
【0072】
33、34はガイドバ−であり、可動部材24をガイド部材25に対して縦方向のみに移動可能に支持している。ガイドバ−33、34のそれぞれの端部はガイド部材25の溝部25a、25bおよび25c、25dに挿入され圧入もしくは接着等でガイド部材25に固着される。35は駆動コイルであり、可動部材24に接着等で固着されている。36は駆動マグネットであり、駆動マグネット29と同じものが角度を90度変えて上下方向にN極およびS極が配置されている。37は駆動マグネット36の背面ヨ−クである。駆動マグネット36の駆動コイル35側のヨ−クはヨ−ク31で兼用することで、駆動マグネット36の磁気回路を閉じている。38は駆動マグネット36の支持部材であり、固定筒2に位置決めのうえでビス固定されている。駆動コイル35に通電されると、ロ−レンツ力が発生して可動部材24を縦方向に移動せしめる。
【0073】
本実施例の図には図示していないが、振れ補正ユニット50には電気基板が一体的に固定される。基板には双眼鏡のピッチングおよびヨ−イング方向の角速度を検出するセンサ、例えば振動ジャイロおよび上述のホ−ル素子32、39および駆動コイル28、35の為の処理回路や振れ補正動作を制御するためのマイクロコンピュ−タ等が実装される。また、電気基板に電力を供給するための電源ユニットや振れ補正の動作の作動と不作動を切り替える操作スイッチや動作状態を示すLED等の表示装置等が外装22と一体的に配置される。
【0074】
ピント合わせに伴って可動する部分や光軸調整機構は外装部材によって保護されており直接に外部からの力を受けない構成としているので、双眼鏡の振動、落下衝撃等に対して有利である。
【0075】
[実施例2]
図13は本発明の実施例1の鏡筒1L、1Rを高倍率対物鏡筒に変更し、調整部材を光軸に対して垂直方向に配置した双眼鏡の第2の実施例の斜視図である。図14は側面図、図15は図14においてAA断面の鏡筒101Rと固定筒102の結合構成を示す要部断面図、図16a、図16bは固定筒と鏡筒の分解斜視図である。図13において、実施例1と同様にOLは対物光学系の左の光軸、ORは対物光学系の右の光軸であり、ELは接眼光学系の左の光軸、ERは接眼光学系の右の光軸である。
【0076】
L11L、L11Rは左右一対の対物光学系の一部を成すレンズ群。101L、101Rはそれぞれレンズ群L11L、L11Rを保持する鏡筒である。実施例2の双眼鏡は実施例1と比較して高倍率で明るい仕様となっている。そのため、実施例2の鏡筒101Rは大きくなったレンズ群L11L、L11Rに合わせた直径となっている。
【0077】
106L、106Rは左右一対の接眼ユニットである。107は左右一対の接眼ユニットおよび左右一対の対物光学系を支持する固定部であるところの固定筒である。接眼ユニット106L、106Rはベ−ス部材107の対物光学系の光軸OL、ORに垂直な107a部に取り付けられている。取り付け構成および眼幅調整機構は実施例1と同等なので説明は省略する。150は振れ補正ユニットである。
【0078】
図16a、図16bにおいて、101Raは鏡筒101Rの後端に取り付いた凸形状部である。101Rbは鏡筒101Rの後端の長溝である。101Rdは鏡筒101Rの突出部であり、貫通穴101Rcが空けられている。101Raはフランジ形状であるところの2つの凸形状部であり、鏡筒101Rを固定筒102に取付けるために、鏡筒側面の後ろ端に設けられている。
【0079】
102iRはフランジ形状であるところの2つの凸形状部であり、固定筒102の開口部の内側に設けられている。102kRは固定筒102の突出部であり、貫通穴102mRがあいている。102aRは102mRに対し光軸を挟んで対向位置にある貫通穴である。
【0080】
120は調整部材であるところの偏芯部材である。基準軸120aと偏芯軸120bとドライバ−先端部が挿入可能な溝120cを有している。121は基準部材であるところの固定基準ピンであり、その直径は貫通穴102mRと貫通穴101Rcの両方に圧入出来る大きさとなっている。
【0081】
次に固定筒102と鏡筒101Rの組立て方法を説明する。鏡筒101Rを固定筒102の開口部の内側で凸形状部102iRのない部分に鏡筒101Rの凸形状部101Raを挿し込み、一定の角度をまわして光軸方向を位置出しするバヨネット構成で鏡筒101Rを固定筒102へ装着する。このとき、鏡筒101Rの凸形状部101Raと固定筒102の凸形状部102iRとは光軸方向に軽圧入状態となっている。
【0082】
101Rdは鏡筒1Rの側面部の突出部であり、貫通穴101Rcが空けられている。101Rbは鏡筒101Rの側面部の突出部101Rdに対し光軸を挟んで対向位置にある長溝である。
【0083】
鏡筒101Rを固定筒102へ装着する過程を説明する。鏡筒101Rを固定筒102へバヨネット構成で結合させ、光軸方向を位置出しする。これにより、鏡筒101Rは光軸と垂直な平面内で移動可能となる。次に、鏡筒101Rの突出部101Rdの貫通穴101Rcと固定筒102の突出部102kRの貫通穴102mRに鏡筒101Rの後方から固定基準ピン121を圧入させる。
【0084】
特に固定基準ピン121の挿入方法において、実施例1の鏡筒101Rは鏡筒1Rと同じように鏡筒前方から挿入することは難しい。そこで実施例2の固定基準ピン121は貫通穴101Rc、102mRに固定筒102の後方から圧入する。
【0085】
次に鏡筒101Rの長溝101Rbと固定筒102の貫通穴102aRに偏芯部材120を組み込む。偏芯部材120の基準軸120aは貫通穴102aRに軽圧入しており、偏芯軸120bは長溝101Rbに長手方向に摺動可能な隙間を有して嵌合する。実施例1と同じように偏芯部材120を回転させることで固定筒102に対して鏡筒101Rを揺動させることができる。
【0086】
光軸調整作業後の偏芯部材120を固定筒102に接着固定することで、物理的な衝撃で鏡筒101Rの調整位置がずれることが抑止される。
【0087】
以上右眼側の説明であるが図16a、図16bに示す様に左眼側も同様の構成が対称に配置されており、右眼側で添字”R”で示す構成が左眼側では添字”L”で表現されている。鏡筒101L、101Rはそれぞれの揺動中心である固定基準ピン121を中心に異なる方向へ揺動することで光軸調整を行う。なお、光軸調整手順は実施例1と同様のため省略する。振れ補正ユニット150の構成も図9で説明した実施例1の構成と同様のため説明は省略する。
【0088】
実施例1、実施例2では鏡筒1L、1Rが対称に揺動する構成であるが、実際には異方向に揺動変位すれば調整することが可能である。例えば、左右の対物光学系の光軸を含む平面に対して鏡筒1Rを垂直方向に揺動させ、鏡筒1Lを平行方向に揺動させる構成でもよい。また、振れ補正機能を有する双眼鏡について説明したが、振れ補正機能のない双眼鏡でも本発明が適用できることは言うまでもない。
【0089】
以上本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0090】
OL、OR 対物光学系の光軸
EL、ER 接眼光学系の光軸
L1L、L1R 対物光学系の一部を成すレンズ群
L2L、L2R 対物光学系の一部を成す偏芯調整レンズ
L3L、L3R 振れ補正レンズ群
L4L、L4R ポロII型成立プリズム
1L、1R レンズ保持筒
50 振れ補正ユニット
4L、4R 支持枠
5L、5R 接眼鏡筒
6L、6R 目当てゴム
7L、7R 接眼ユニット
8 ベ−ス部材
9L、9R 連動板
10 フォ−カス支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも左右一対の対物光学系と、左右一対の接眼光学系とを有する双眼鏡において、
前記左右一対の対物光学系の一部または全部のそれぞれを保持する左右一対のレンズ保持筒と、
前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれが先端部の所定位置に位置決め固定される固定部材と、
前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれを前記固定部材に光軸と垂直な平面内で位置決めするための基準を成す左右一対の基準部材と、
前記左右一対の基準部材のそれぞれに対して前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれの光軸をはさんで対向位置に配置される左右一対の調整部材とから成り、
前記左右一対のレンズ保持筒のそれぞれの後端部周上に設けた複数のフランジ形状と前記固定部材の先端部周上に対応して設けた複数のフランジ形状の組み合わせにより、いわゆるバヨネット結合を構成することで、
前記左右一対のレンズ保持筒を前記固定部材の所定位置に位置決めすると共に光軸と垂直な平面内での移動を可能とし、
前記左右一対の調整部材で前記左右一対のレンズ保持筒を前記左右一対の基準部材を揺動中心として、それぞれ異なる方向に揺動させることで光軸調整を行うと共に前期左右一対のレンズ保持筒を前記固定部材に対して位置決めする事を特徴とする双眼鏡。
【請求項2】
前記左右一対のレンズ保持筒の前記左右一対の基準部材を中心とする揺動可能な方向が左右で対称であることを特徴とする請求項1に記載の双眼鏡。
【請求項3】
前記左右一対のレンズ保持筒の前記左右一対の基準部材を中心とする揺動可能な方向が前記左右一対の対物光学系の光軸を共に含む平面に対して45度以下の角度であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の双眼鏡。
【請求項4】
前記左右一対の対物光学系の一部を成す左右一対の振れ補正レンズ群を一体的に縦および横に動かすことで振れ補正を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の双眼鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図12d】
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【図12e】
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【図12f】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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