説明

反射防止層を有する製品およびその製造方法

【課題】レンズなどの反射防止層を有する製品において、染色可能な製品を提供する。
【解決手段】レンズ基材1の上にプライマー層2およびハードコート層3を介して有機系の反射防止層4が形成されたレンズ10を提供する。反射防止層4は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第1の組成物により形成されたベース層となる中屈折率の層41と、高屈折率の層42と、有機ケイ素化合物と、多孔質シリカ微粒子とを含む第2の組成物により形成された低屈折率の層43とを含む。このレンズ10は、反射防止層4が染色性を有し、製造後であっても染色することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡などに用いられる反射防止層を有する製品であって、プラスチック製またはガラス製などを基材とし、染色可能な製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
視力矯正用レンズおよびサングラス等の色付きの眼鏡レンズは、基材あるいは基板を構成するプラスチックレンズを染色したものがある。特許文献1には、プラスチックレンズ基材の上に染色層を形成し、この染色層の上にハードコートを設け、このハードコートを介して染色層を着色する方法が開示されている。この方法は、ハードコート層を形成した後に染色できる点で優れており、染色レンズをハードコートまで成膜した段階でストックできる。
【特許文献1】特開2001−295185号公報
【特許文献2】特開2003−222703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
レンズ基材を染色せずに染色レンズを提供することは、染色する工程をレンズを製造する工程のうちの後工程、すなわち、工場出荷に近い段階、さらには、ディーラーで取り扱いできる段階に移動できる点で優れている。さらに、レンズ基材を選択する際において、染色性の要求を取り除くことができるので、他の要求にさらに合致したレンズ基材を選択することが可能となり、染色レンズのトータルの性能を向上できる。
【0004】
その一方で、特許文献1の技術では、レンズに染色性を示す層を追加することが要求される。染色のために、光学的には不用、あるいは有用性の少ない層を追加することと、染色性のレンズ基材を選択することとでは、種々の要素を含むトレードオフの問題が生じる。光学的に不用な層を追加することなく、さらに、レンズ基材を染色性にしなくても、染色可能なレンズを提供することにより、このトレードオフの問題は解決できる。
【0005】
特許文献2は、プラスチックレンズ基材上に、湿式法により、基材の最表層の屈折率よりも0.10以上低い屈折率の層を単層にて形成し、有機系の反射防止層として用いることが開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、基材の表面に直にまたは少なくとも1つの機能層を介して積層された反射防止層を有する製品であって、反射防止層は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第1の組成物により形成されたベース層と、有機ケイ素化合物と、多孔質シリカ微粒子とを含む第2の組成物により形成され、ベース層の基材と反対側に配置され、ベース層より低い屈折率を有する低屈折率層とを含む。
【0007】
この反射防止層を有する製品は、多層構造、すなわち、少なくともベース層と、それより低屈折率層との2層構造を備えた有機系の反射防止層を有する。そして、ベース層は、染色性能(着色性能)を備えている。したがって、染色性能を備えた反射防止層を有する製品を提供できる。この製品は、レンズ基材などの光学的に主要な機能を果たす基材と、反射防止層とを有する構成であれば、基材が染色性でなくても染色性能を有する製品を提供できる。そして、反射防止層は、多くの光学製品においては必要不可欠なものであり、その反射防止層を染色性にすることにより、光学的に不用あるいは有用ではない層を追加しなくても染色性能を備えた製品を提供できる。プラスチックレンズでは、多くのケースではハードコートが要求されるので、このハードコートを染色性にすることが考えられるが、ガラスレンズではハードコートは要求されない。この反射防止層を有する製品においては、ハードコートの有無とは無関係に、また、レンズ基材の染色性の有無とは無関係に染色性を備えた製品を提供できる。
【0008】
有機系の反射防止層は、基本的には、1層構造で低屈折率を実現できる。したがって、多層化することは要求されない。無機系の反射防止層と同様に多層化することにより、透過する周波数帯をさらに広げることが可能であり、それを目的とする場合は、高屈折率のゾルと、低屈折率のゾルと、シランカップリング剤との組み合わせで実現できる。これに対し、本発明の一態様にかかる反射防止層を有する製品においては、反射防止層は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む染色性のベース層と、有機ケイ素化合物と、多孔質シリカ微粒子とを含む低屈折率層とを有する。ベース層は、有機系で、密着性と、強い染色性を持つ。したがって、このプライマーとしての機能と染色性とを備えたベース層と、有機系で低屈折率の層とを組み合わせることにより、薄層で、染色性と、透過性との機能を兼ね備え、さらに、耐久性の高い有機系の反射防止層を実現している。
【0009】
反射防止層は、ベース層と低屈折率の層との間に、ベース層よりも高い屈折率を有する高屈折率層を含むことが望ましい。基材と反対側から、低屈折率−高屈折率−中屈折率という構成の反射防止層を構成でき、広い周波数範囲の透過性を確保できる。
【0010】
高屈折率層は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第3の組成物により形成することが好ましい。この第3の組成物により高屈折率の層を形成することにより、高屈折率の層に強い染色性を与えることが可能となり、反射防止層の染色性能を向上できる。
【0011】
高屈折率層を、金属酸化物微粒子と、有機ケイ素化合物と、エポキシ樹脂とを含む第4の組成物により形成することも好ましい。この第4の組成物により高屈折率層を形成することにより、高屈折率層の染色性は若干低下するが、高屈折率層の強度を向上することができ、反射防止層の耐久性を向上できる。
【0012】
また、低屈折率層を形成する第2の組成物は、さらにエポキシ樹脂を含むことが望ましい。低屈折率層の強度を向上できる。低屈折率層は、防汚層を除くと、多くのケースでは製品の最表層となるので、反射防止層の耐久性を向上するのに好適である。
【0013】
この反射防止層を有する製品は、汚れ防止のために、反射防止層の上に、撥水性を備えた防汚層を有することが望ましい。
【0014】
本発明の他の一態様は、基材の直上または少なくとも1つの機能層を介して反射防止層を積層する工程を有する、反射防止層を有する製品の製造方法である。この反射防止層を積層する工程は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第1の組成物によりベース層を形成する工程と、有機ケイ素化合物と、多孔質シリカ微粒子とを含む第2の組成物により、ベース層の基材と反対側に配置され、ベース層より低い屈折率を有する低屈折率層を形成する工程とを含む。
【0015】
この製造方法により製造される、反射防止層を有する製品は、染色性の反射防止層を有する。したがって、反射防止層を染色する工程をさらに設けることが可能であり、反射防止層が成層された製品に対して染色することができる。
【0016】
さらに、この多層の有機系の反射防止層は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第1の組成物によりベース層を有し、このベース層は基材との密着性が高いので、密着性の出しにくい基材への反射防止加工を可能とする。
【0017】
染色する工程の前または後に、反射防止層に重ねて防汚層を形成する工程を設けることが可能である。防汚層を介して反射防止層を染色することが可能であり、ほとんど完成した状態のレンズなどの反射防止層を有する製品を染色対象として選択することができる。
【0018】
この反射防止層を有する製品には、完成品への染色が可能な眼鏡レンズが含まれる。また、染色性のない基材を備えた製品、染色性のないハードコートを備えた製品が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1に、本発明の一実施形態にかかる眼鏡レンズの構成を示している。なお、レンズ基材に対して対称な構成になるため、レンズ基材に対して一方の面の構成を代表して示している。この眼鏡レンズ10は、プラスチック製のレンズ基材1を有し、その表面に、プライマー層2と、ハードコート層3と、反射防止層4と、防汚層5とが順番に積層されている。反射防止層4は3層構造になっており、ハードコート層3の側、すなわち、レンズ基材1の側から順番に、ベース層である中屈折率層(中屈層)41と、高屈折率層(高屈層)42と、低屈折率層(低屈層)43との3層を備えている。各層の層厚は、各層の屈折率により異なるが、基本的な構成は各層を50から200nm程度の範囲で積層したものになる。
【0020】
3層構造は、染色性の有機反射防止層を実現する上において、各層の樹脂組成を、反射防止層全体として、十分な染色性、密着性および透過性を備えたものにできるバランスが取れた好適な例である。中屈層41と、低屈層43の2層構造でも、染色性と透過性および密着性を備えた反射防止層を実現できる。また、4層以上の構成でも、染色性と透過性および密着性を備えた反射防止層を実現できる。
【0021】
最も基材1の側の中屈層41は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第1の組成物により形成されている。第1の組成物は、例えば、ポリエステル樹脂を20〜80wt%、望ましくは40〜60wt%含む。金属酸化物微粒子の好適なものは、ルチル型酸化チタン微粒子であり、この金属酸化物微粒子の含有量により屈折率を調整できる。ルチル型酸化チタン微粒子の含有量の一例は、20〜80wt%であり、さらに、望ましくは40〜60wt%である。ベース層41を中屈にすることにより、金属酸化物微粒子(ゾル)の含有量を減らし、染色性と、密着性とを優先した組成を採用できる。
【0022】
高屈層42は、中屈層41と同様の、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第3の組成物により形成できる。この第3の組成物による高屈層42は、染色性および密着性を優先する構成であり、屈折率は、金属酸化物微粒子、好適なものとしてルチル型酸化チタン微粒子の含有量により調整できる。ルチル型酸化チタン微粒子(金属酸化物微粒子)の含有量の一例は、40〜70wt%であり、望ましくは50〜60wt%である。
【0023】
高屈層42は、また、金属酸化物微粒子と、有機ケイ素化合物と、エポキシ樹脂とを含む第4の組成物により形成できる。染色性に加えて、強度および耐久性(耐候性)を優先した構成である。第4の組成物は、例えば、有機ケイ素化合物を5〜50wt%、望ましくは10〜40wt%含み、多官能性エポキシ化合物を5〜40wt%、望ましくは5〜30wt%含む。さらに、金属酸化物微粒子、好ましくはルチル型酸化チタン微粒子を40〜70wt%、望ましくは50〜60wt%含む。
【0024】
低屈層43は、有機ケイ素化合物と、多孔質シリカ微粒子とを含む第2の組成物により形成されている。第2の組成物は、例えば、多孔質シリカ微粒子(中空シリカゾル)を40〜85wt%、望ましくは50〜80wt%含み、有機ケイ素化合物を5〜60wt%、望ましくは20〜40wt%含む。さらに、第2の組成物は、多官能性エポキシ化合物を5〜30wt%含んでいることが望ましく、強度および耐久性の向上に適している。
【0025】
(ポリエステル樹脂)
中屈層41および高屈層42をそれぞれ形成する第1の組成物および第3の組成物に含まれるポリエステル樹脂は、樹脂中のエステル結合および側鎖に付いたヒドロキシル基やエポキシ基がプラスチックレンズ基材表面分子と相互作用を生じ易く、高い密着性を発現する。一方、ポリエステル樹脂のpHは弱酸性を示す場合が多く、フィラーとなる金属酸化物微粒子が安定に存在できるpHと合致する場合が多い。よって樹脂中に金属酸化物微粒子が局在化せずに均質に分散した状態となり、架橋密度を安定化もしくは向上させ、耐水性および耐光性が向上する。
【0026】
ポリエステル樹脂としては、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを例示することができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテルまたはポリエステルを使用したマルチブロック共重合体である。ハードセグメント(H)とソフトセグメント(S)との重量比率は、H/S=30/70〜90/10、好ましくは40/60〜80/20である。
【0027】
ハードセグメント構成成分としてのポリエステルは、基本的には、ジカルボン酸類と低分子グリコールよりなる。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、デカメチレンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等の炭素数4〜20の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、ε−オキシカプロン酸等の脂肪族オキソカルボン酸、ダイマー酸(二重結合を有する脂肪族モノカルボン酸を二量重合させた二塩基酸)等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でもテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が使用に際して望ましい。
【0028】
また、低分子グリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコール等、及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが使用に際して望ましい。
【0029】
ソフトセグメント構成成分としてのポリエステルは、ジカルボン酸類と長鎖グリコールより成り、ジカルボン酸類としては、上記のものが挙げられる。長鎖グリコールとしては、ポリ(1,2−ブタジエングリコール)、ポリ(1,4−ブタジエングリコール)及びその水素添加物等が挙げられる。また、ε−カプロラクトン(C6)、エナントラクトン(C7)及びカプロリロラクトン(C8)もポリエステル成分として有用である。これらの中でε−カプロラクトンが使用に際して望ましい。
【0030】
ソフトセグメント構成成分のポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等のポリ(アルキレンオキシド)グリコール類が挙げられ、これらの中でポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが使用に際して望ましい。
【0031】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの製造方法としては、例えばジカルボン酸の低級アルキルエステルを脂肪族長鎖グリコール及び過剰の低分子グリコールをテトラブチルチタネート等の触媒の存在下で150〜200℃の温度で加熱し、エステル交換反応を行い、まず低重合体を形成し、さらにこの低重合体を高真空下、220〜280℃で加熱攪拌し、重縮合を行い、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを得る。上記低重合体は、ジカルボン酸と長鎖グリコール及び低分子グリコールとの直接エステル化反応によっても得ることができる。
【0032】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、他のポリマーと混合して使用が可能であり、例えば通常のエステル系樹脂(PBT、PET等)、アミド系樹脂、さらには、アミド系熱可塑性エラストマー等任意であり、通常、ポリマー全体に占める割合は、50重量%未満、望ましくは30重量%未満とする。
【0033】
また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、溶液タイプのプライマー組成物に調製することができる。しかし、加工性及び環境保護の観点より水性エマルジョンのプライマー組成物として使用することが望ましい。この水性エマルジョン化は慣用の方法により行うことができるが、具体的には、ポリマーを界面活性剤(外部乳化剤)の存在下、高い機械的剪断をかけて強制的に乳化させる強制乳化法が望ましい。
【0034】
(ポリウレタン樹脂)
中屈層41および高屈層42をそれぞれ形成する第1の組成物および第3の組成物に含まれるポリウレタン樹脂(ウレタン系樹脂組成物)としては、ポリオール化合物または長鎖ジチオール化合物を含むことが望ましい。好適なポリオール化合物として、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル等がある。
【0035】
ポリプロピレングリコール(PPG)は、5重量%〜10重量%の範囲で含むことが望ましい。また、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル(DA)、ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(DB)、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル(DAB)の少なくともいずれか1種以上、5重量%〜30重量%の範囲で含むことが望ましい。
【0036】
好適な長鎖ジチオール化合物として、1,10−デカンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール等がある。
【0037】
(エポキシ樹脂)
低屈層43および高屈層42をそれぞれ形成する第2の組成物および第4の組成物に含まれるエポキシ樹脂としては、多官能エポキシ樹脂を挙げることができる。多官能性エポキシ化合物は、例えば、以下のようなものが挙げられる。過酸化法で合成されるポリオレフィン系エポキシ樹脂、シクロペンタジエンオキシドやシクロヘキセンオキシドあるいはヘキサヒドロフタル酸とエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエステルなどの脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールAやカテコール、レゾシノールなどの多価フェノールあるいは(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ソルビトールなどの多価アルコールとエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエーテル、エポキシ化植物油、ノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンから得られるエポキシノボラック、フェノールフタレインとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、グリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートアクリル系モノマーあるいはスチレンなどの共重合体、さらには上記エポキシ化合物とモノカルボン酸含有(メタ)アクリル酸とのグリシジル基開環反応により得られるエポキシアクリレート。
【0038】
さらに、多官能性エポキシ化合物としては、以下のようなものが挙げられる。1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールヒドロキシヒバリン酸エステルのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテル、等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物。
【0039】
(有機ケイ素化合物)
高屈層42および低屈層43をそれぞれ形成する第4の組成物および第2の組成物に含まれる有機ケイ素化合物としては、下記の一般式(A)で表される有機ケイ素化合物を挙げることができる。
SiX3−n (A)
(式中、nは0または1である。)
【0040】
ここで、Rは、重合可能な反応基または加水分解可能な官能基をもつ有機基である。重合可能な反応基の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられ、加水分解可能な官能基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基。
【0041】
は炭素数1〜6の炭化水素基である。具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。
【0042】
また、Xは加水分解可能な官能基であり、以下のものが挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基。
【0043】
の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、テトラメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。Xとしては、これらの官能基を2種以上混合して用いてもかまわない。また、Xは加水分解してから用いた方がより有効である。
【0044】
(金属酸化物微粒子)
中屈層41および高屈層42をそれぞれ形成する第1の組成物および第3または第4の組成物に含まれる金属酸化物としては、以下のようなものを挙げることができる。メタノール分散アンチモン酸化物被覆酸化チタン含有複合酸化物ゾル、あるいは、Si,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる1種以上の金属酸化物からなる、微粒子または複合微粒子、金属酸化物微粒子の最外表面を有機ケイ素化合物で改質処理を施した微粒子、それらの混合物、固溶状態、他の複合状態で含んでいるもの。酸化チタンは無定型であっても、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型或いはペロブスカイト型チタン化合物であっても良い。それらの中で、ルチル型の酸化チタンが最も望ましい。
【0045】
金属酸化物は、分散媒、たとえば水やアルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものである。また、複合酸化物微粒子は、その表面が有機ケイ素化合物又はアミン系化合物で処理され改質されていても良い。この際に用いられる有機ケイ素化合物は、単官能性シラン、あるいは二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等がある。処理に際しては加水分解性基を未処理で行ってもあるいは加水分解して行ってもよい。また処理後は、加水分解性基が微粒子の−OH基と反応した状態が好ましいが、一部残存した状態でも安定性には何ら問題がない。またアミン系化合物としてはアンモニウムまたはエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンがある。これら有機ケイ素化合物とアミン化合物の添加量は微粒子の重量に対して1〜15%程度の範囲内で加える必要がある。いずれも粒子径は約1〜300ミリミクロンが好適である。
【0046】
(多孔質シリカ微粒子)
低屈層43を形成する第2の組成物に含まれる多孔質シリカ微粒子の好適なものとしては、平均粒径1nm〜100nmの微粒子のシリカを分散媒させた、たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたシリカゾルを挙げることができる。
【0047】
さらに、シリカ系微粒子は、内部空洞(隙間)を有するものが望ましい。内部空洞を有するシリカ系微粒子を用いることによって、シリカ系微粒子の内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含され、空洞のないシリカ系微粒子より屈折率が低減し、被層の低屈折率化が達成される。
【0048】
(染色)
本実施形態にかかる有機系の反射防止層を染色可能な染料としては、以下のようなものを挙げることができる。
【0049】
染料としては、色ムラを抑制するために分散染料を用いることが望ましい。染色工程では、分散染料を水中に分散させた染色浴中へレンズを浸漬して染色する浸染を行うことが望ましい。染料は、堅牢性の高いものが好ましい。使用可能な染料は、例えば、アントラキノン系染料、キノフタロン系染料、ニトロジフェニルアミン系染料、アゾ系染料などの分散染料である。分散染料の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。p−アニシジン、アニリン、p−アミノアセトアニリド、p−アミノフェノール、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン、2−クロロ−4−ニトロアニリン、o−クロロニトロベンゼン、ジフェニルアミン、m−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アニリン、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン、フェノール等のベンゼン系中間物、p−クレシジン(6−メトキシ−m−トルイジン)、m−クレゾール、p−クレゾール、m−トルイジン、2−ニトロ−p−トルイジン、p−ニトロトルエン等のトルエン系中間物、1−ナフチルアミン、2−ナフトール等のナフタレン系中間物、1−アミノ−4−ブロモアントラキノン−2−スルホン酸(ブロマミン酸)、1−アントラキノンスルホン酸、1,4−ジアミノアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン(キニザリン)、1,5−ジヒドロキシアントラキノン(アントラルフィン)、1,2,4−トリヒドロキシアントラキノン(プルプリン)、2−メチルアントラキノン等の無水フタル酸、アントラキノン系中間物。また、分散染料は、単独で又は2種以上混合して使用してもよい。分散染料は、通常、水に分散して染色浴とされる。溶媒としてメタノール、エタノール、ベンジルアルコールなどの有機溶媒を併用してもよい。
【0050】
染色浴には、染料に対する分散剤としてさらに界面活性剤を添加することもできる。界面活性剤としては、以下のものを挙げることができる。アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリル硫酸塩などの陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチルアルキルエーテル、アルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤。これらの界面活性剤は、レンズの着色濃度に応じて、使用する染料の量に対して5〜200重量%の範囲で使用するのが好ましい。浸染は、分散染料及び界面活性剤を、水または水と有機溶媒との混合物中に分散させて染色浴を調製し、この染色浴中にプラスチックレンズを浸漬し、所定温度で所定時間染色を行う。染色温度および時間は、所望の着色濃度により変動する。通常、95℃以下で数分〜30分程度でよく、染色浴の染料濃度は0.01〜5重量%であるのが好ましい。
【0051】
以下ではさらに、具体的な実施例および比較例を幾つか説明する。
【0052】
(実施例1)
実施例1では、以下のように眼鏡レンズのサンプルS1を製造した。まず、レンズ基材を用意し、そのレンズ基材1に、プライマー層2と、ハードコート層3とを成層した。
【0053】
レンズ基材1としては、セイコーエプソン(株)製、セイコースーパーソブリン用レンズ生地(以下SSVと略す。)を用いた。屈折率1.67のプラスチックレンズ基材1である。
【0054】
プライマー用の塗布液として、市販のポリエステル樹脂「ペスレジンA−160P」(高松樹脂(株)製、水分散エマリジョン、固形分濃度27%)100部に、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)150部、希釈溶剤としてメチルアルコール350部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング(株)製、商品名L−7604)0.2部を混合し、均一な状態になるまで攪拌した液を用意した。この液をレンズ基材1に、ディッピング方式(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で20分間風乾して約600nm厚のプライマー層2付きレンズを得た。
【0055】
ハードコート用の塗布液として、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン95部に0.1N塩酸水溶液44部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた後、プロピレングリコールメチルエーテル45部、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)413部を混合した後、Fe(III)アセチルアセトネート1.4部、シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング(株)製、商品名FZ−2164)0.2部を添加した液を用意した。この液をディッピング方式(引き上げ速度45cm毎分)で上記プライマー付きレンズに塗布した。塗布後80℃で30分間風乾したのち、120℃で90分アニールを行った。プライマー層2上に2.1μm厚のハードコート層3を成層したレンズを得た。
【0056】
このハードコード層3に重ねて、3層構造(中屈、高屈、低屈)の有機系の反射防止層4を形成した。
【0057】
中屈折率層用の塗布液M1を用意した。市販のポリエステル樹脂「ペスレジンA−160P」(高松樹脂(株)製、水分散エマリジョン、固形分濃度27%)55部に、金属酸化物微粒子として、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)80部、希釈溶剤としてメチルアルコール1400部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング(株)製、商品名FZ−2164)0.3部を混合し、均一な状態になるまで攪拌した。
【0058】
この中屈折率層用の塗布液M1をハードコート層が形成されたレンズにディッピング方法(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。その後、塗布後80℃で20分間風乾することにより、約80nm厚の中屈折率(屈折率1.64)の層41が形成された。
【0059】
高屈折率層用の塗布液H1を用意した。有機ケイ素化合物として、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン14部に0.1N塩酸水溶液7部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた後、プロピレングリコールメチルエーテル1340部、金属酸化物微粒子として、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)124部、多官能エポキシ樹脂として、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)10部を混合した後、Fe(III)アセチルアセトネート0.6部、シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング(株)製、商品名FZ−2164)0.45部を添加した。
【0060】
この高屈折率層用の塗布液H1を、中屈層が形成されたレンズに、ディッピング方法(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で20分間風乾することにより、中屈折率の層41に重ねて、約160nm厚の高屈折率(屈折率1.67)の層42を形成できた。
【0061】
低屈折率層用の塗布液L1を用意した。有機ケイ素化合物として、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン10部に0.1N塩酸水溶液5部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた。この混合液にプロピレングリコールメチルエーテル1400部、多孔質シリカ微粒子として、中空シリカゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オスカル特殊品)75部、多官能エポキシ樹脂として、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセ化成工業(株)製、商品名デナコールEX313)7.5部、過塩素酸マグネシウム0.4部、シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング(株)製、商品名L−7001)0.45部を添加した。
【0062】
この低屈折率層用の塗布液L1を、高屈層42が形成されたレンズに、ディッピング方法(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で20分間風乾して、高屈折率の層42に重ねて、約100nm厚の低屈折率(屈折率1.36)の層43を成層できた。
【0063】
その後120℃で90分アニールすることにより、ハードコート層3の上に、中屈層41、高屈層42および低屈層43が順番に積層された3層構造の有機系反射防止層4を備えたレンズを製造できた。
【0064】
さらにこの反射防止層付きレンズをフッ素系シラン化合物で撥水処理し、防汚層(撥水層)5付きレンズサンプルS1を得た。
【0065】
(実施例2)
実施例2では、以下のように眼鏡レンズのサンプルS2を製造した。レンズ基材1に、プライマー層2と、ハードコート層3とを形成するまでは、実施例1と同様である。
【0066】
まず、実施例1と同じ中屈用の塗布液M1をレンズにディッピング方法(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で20分間風乾して、約80nm厚の中屈折率(屈折率1.64)の層を形成した。
【0067】
次に高屈層折率層用の塗布液H2を用意した。市販のポリエステル樹脂「ペスレジンA−160P」(高松樹脂(株)製、水分散エマリジョン、固形分濃度27%)45部に、金属酸化物微粒子として、ルチル型酸化チタン複合ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z)90部、希釈溶剤としてメチルアルコール800部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング(株)製、商品名FZ−2164)0.3部を混合し、均一な状態になるまで攪拌した。
【0068】
この高屈折率層用の塗布液H2を、中屈層が形成されたレンズに、ディッピング方法(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で20分間風乾することにより、中屈折率の層41に重ねて、約160nm厚の高屈折率(屈折率1.67)の層42を成層できた。
【0069】
次に、低屈折率層用の塗布液L2を用意した。有機ケイ素化合物として、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン22部に0.1N塩酸水溶液10部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた。この混合液にプロピレングリコールメチルエーテル1390部、多孔質シリカ微粒子として、中空シリカゾル(触媒化成工業(株)製、商品名オスカル特殊品)75部、過塩素酸マグネシウム0.4部、シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング(株)製、商品名L−7001)0.45部を添加した。
【0070】
この低屈折率層用の塗布液L2を、高屈層が形成されたレンズに、ディッピング方法(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で20分間風乾して、高屈折率の層42に重ねて、約100nm厚の低屈折率(屈折率1.36)の層43を成層できた。
【0071】
その後120℃で90分アニールすることにより、ハードコート層3の上に、中屈層41、高屈層42および低屈層43が順番に積層された3層構造の有機系反射防止層4を備えたレンズを製造できた。
【0072】
さらにこの反射防止層付きレンズをフッ素系シラン化合物で撥水処理し、防汚層(撥水層)5付きレンズサンプルS2を得た。
【0073】
(比較例1)
比較例1では、以下のように眼鏡レンズのサンプルSR1を製造した。レンズ基材1に、プライマー層2と、ハードコート層3とを形成するまでは、実施例1と同様である。
【0074】
エポキシ樹脂を含まない低屈用の塗布液L2をハードコート層まで形成されたレンズに、ディッピング方法(引き上げ速度15cm毎分)で塗布した。塗布後80℃で20分間風乾して約100nm厚の低屈折率(屈折率1.36)層を積層した。その後120℃で90分アニールした。
【0075】
さらにこの反射防止層付きレンズをフッ素系シラン化合物で撥水処理し、撥水層付きレンズサンプルSR1を得た。
【0076】
(評価)
上記の実施例1、2および比較例1において製作した各サンプルレンズについて、いくつかの評価を行った。その結果を図2にまとめて示してある。
【0077】
(染色性の評価)
上記の実施例1、2および比較例1において製作した各サンプルレンズを94℃の分散染料浴中に10分間浸漬し、染色を行った。このレンズの透過率を分光光度計(日立製作所(株)製、U−3500)で測定し、その可視光域(400nm〜800nm)の平均透過率を評価した。透過率80%以下を「◎」(良く染まる)、90%以下を「○」(染まる)、90%を越えるものを「×」(染まらない)とした。
【0078】
(反射防止効果の評価)
反射防止効果の試験および評価は、上記の実施例1、2および比較例1において製作した各サンプルレンズの表面反射率を、分光光度計(日立製作所(株)製、U−3500)で測定し、その可視光域(400nm〜800nm)の平均反射率(片面)を評価した。この評価では、「◎」は、平均反射率が2%以下であることを示しており、非常に反射防止効果が大きいことを示している。「○」は、平均反射率が3.5%以下であることを示しており、十分な反射防止効果があることを示している。「×」は、平均反射率が3.5%を越えることを示しており、反射防止効果がほとんどないことを示している。
【0079】
(密着性の評価)
上記の実施例1、2および比較例1において製作した各サンプルレンズ表面を約1mm間隔で碁盤目状に100目クロスカットし、このクロスカットした部分に、粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名セロテープ(登録商標))を強く貼り付けたのち、急速に粘着テープを剥がし、粘着テープを剥がした後の碁盤目の膜剥がれ状態を下記のa〜eの5水準で評価した。
a:全く膜剥がれがない(膜剥がれ目数=0/100)
b:ほとんど膜剥がれがない(膜剥がれ目数=1〜5/100)
c:やや膜剥がれが発生(膜剥がれ目数=6〜20/100)
d:膜剥がれ発生(膜剥がれ目数=21〜50/100)
e:密着不良(膜剥がれ目数=51〜100/100)
【0080】
(干渉色の評価)
上記の実施例1、2および比較例1において製作した各サンプルレンズを太陽光の下で、表面反射色を観察した。
【0081】
(評価結果)
図2に示すように、実施例1および2のサンプルS1、S2は、染色性、反射防止効果、密着性の全ての評価結果が良好で、干渉色も、最も好まれる「緑」であった。したがって、実施例1および2のサンプルS1およびS2は、防汚層を形成した後の、レンズとしてほぼ完成された状態であっても、着色することができ、出荷直前の状態あるいは販売店において、ユーザが好む、あるいはユーザに適したレンズを、ユーザの希望に基づいた色に染めてユーザに提供することが可能となる。
【0082】
これに対して、比較例1のサンプルSR1は、反射防止効果、密着性は良好であったが、染色性は得られなかった。また、干渉色はマゼンタであった。
【0083】
これらの評価から分かるように、実施例1および2により製造された3層の有機系反射防止層を有するレンズは、防汚層を形成した後に、十分に染色することができた。比較例1と比較すると、ハードコート層までは同じ条件で製造されているので、3層の有機系反射防止層が染色性を備えていることが分かる。
【0084】
なお、上記では基板がプラスチックレンズのものを例に説明しているが、ガラスレンズであっても同様の効果を得ることができる。さらに、上記では、眼鏡に用いるプラスチックレンズを染色レンズとして製造しているが、本発明は反射防止層が染色性を備えているので、適用可能な範囲は非常に広い。例えば、本発明の反射防止層を備えた製品には、眼鏡レンズに限らず、カメラ用などの多種多様なレンズ、その他の光学素子、例えば、プリズムなど、さらには、DVD等などの記録媒体、窓用のガラスなど多種多様なものが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】有機反射防止層を備えたプラスチックレンズの概略図。
【図2】実施例および比較例のレンズの評価を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に直にまたは少なくとも1つの機能層を介して積層された反射防止層を有する製品であって、
前記反射防止層は、
ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第1の組成物により形成されたベース層と、
有機ケイ素化合物と、多孔質シリカ微粒子とを含む第2の組成物により形成され、前記ベース層の前記基材と反対側に配置され、前記ベース層より低い屈折率を有する低屈折率層とを含む、反射防止層を有する製品。
【請求項2】
請求項1において、前記反射防止層は、前記ベース層と前記低屈折率層との間に、前記ベース層よりも高い屈折率を有する高屈折率層を含む、反射防止層を有する製品。
【請求項3】
請求項2において、前記高屈折率層は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第3の組成物により形成されている、反射防止層を有する製品。
【請求項4】
請求項2において、前記高屈折率層は、金属酸化物微粒子と、有機ケイ素化合物と、エポキシ樹脂とを含む第4の組成物により形成されている、反射防止層を有する製品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記低屈折率層を形成する前記第2の組成物は、さらにエポキシ樹脂を含む、反射防止層を有する製品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記反射防止層の表面に防汚層を有する、反射防止層を有する製品。
【請求項7】
基材の表面に直にまたは少なくとも1つの機能層を介して反射防止層を積層する工程を有する、反射防止層を有する製品の製造方法であって、
前記反射防止層を積層する工程は、
ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂と、金属酸化物微粒子とを含む第1の組成物によりベース層を形成する工程と、
有機ケイ素化合物と、多孔質シリカ微粒子とを含む第2の組成物により、前記ベース層の前記基材と反対側に配置され、前記ベース層より低い屈折率を有する低屈折率層を形成する工程とを含む、反射防止層を有する製品の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記反射防止層を染色する工程をさらに有する、反射防止層を有する製品の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記染色する工程の前または後に、前記反射防止層に重ねて防汚層を形成する工程を有する、反射防止層を有する製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−232872(P2007−232872A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52210(P2006−52210)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】