説明

反射電極構造体及びイオン源

【課題】被スパッタ面の面積を可及的に大きくすると同時に、被スパッタ部材の取り付け構造を簡単化するだけでなく反射電極構造体をコンパクトにしつつ、陰極から射出される電子の反射効率を向上させる。
【解決手段】プラズマ生成容器2内に設けられ、陰極3に対向配置されて電子を陰極3側に反射する反射電極構造体4であって、プラズマによりスパッタリングされて所定のイオンを放出するものであり、被スパッタ面41Aとその裏面とを貫通する貫通孔411を有する被スパッタ部材41と、被スパッタ部材41の貫通孔411に挿入されて被スパッタ部材41を支持するとともに、貫通孔411を介して被スパッタ面41A側に露出した反射電極面42Xを有する電極本体42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源に関し、特にイオン源におけるプラズマ生成容器内に設けられて電子を放出する陰極に対向配置されて電子を陰極側に反射する反射電極の構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、イオン源におけるプラズマ生成容器内においては、陰極により原料ガスをプラズマ化して、当該プラズマにより被スパッタ材料をスパッタリングすることによって、イオンビーム内に所望のイオン種を含有させることが考えられている。
【0003】
具体的には特許文献1に示すように、安定したイオン種の発生が可能となるように、反射電極の先端部に設けられた被スパッタ材料を交換可能に保持している。その詳細な構成は、筒状をなす反射電極と当該反射電極先端部に収容される被スパッタ部材(スラグ)とを備えている。また、反射電極先端部の内側周面に内側に突出する段部を設け、被スパッタ部材の外側周面に前記段部に係止する係止部を設けている。そして、前記反射電極の段部に前記被スパッタ部材の係止部が係止した状態で被スパッタ部材を上部から反射電極内側周面に形成されたねじ部に螺合するねじ付きブロックを螺合させることによって、反射電極内に被スパッタ部材を固定するように構成されている。
【0004】
しかしながら、被スパッタ部材の外側周面を反射電極により固定する構造であり、プラズマ生成容器という限られた空間内に配置することを考えると、反射電極のサイズが制約される。そうすると、反射電極の内側に収容される被スパッタ部材のサイズも制約されてしまい、被スパッタ面の面積を大きくすることが難しいという問題がある。
【0005】
また、被スパッタ部材の外側周面に反射電極が配置される構成であり、反射電極が大型化してしまうという問題もある。さらに、円筒内側周面にねじ付きブロックを螺合させるためのねじ部が設けられており、反射電極の構造が複雑になるだけでなく、単一部材から削り出して製作する場合等において材料コスト及び加工コストが増大する恐れがある。
【0006】
その上、陰極から射出される電子に対して、反射電極が被スパッタ部材の外周に配置される構成となり、陰極の電子が放出される部分に対向する部材が被スパッタ部材となってしまい、電子の反射効率が低下し、プラズマの生成効率が低下してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−117780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、被スパッタ面の面積を可及的に大きくすると同時に、被スパッタ部材の取り付け構造を簡単化するだけでなく、反射電極構造体をコンパクトにしつつ、陰極から射出される電子の反射効率を向上させることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る反射電極構造体は、イオン源におけるプラズマ生成容器内に設けられ、原料ガスをプラズマ化させるための電子を放出する陰極に対向配置されて電子を陰極側に反射する反射電極構造体であって、プラズマによりスパッタリングされて所定のイオンを放出するものであり、被スパッタ面とその裏面とを貫通する貫通孔を有する被スパッタ部材と、前記被スパッタ部材の貫通孔に挿入されて前記被スパッタ部材を支持するとともに、前記貫通孔を介して被スパッタ面側に露出した反射電極面を有する電極本体とを備えることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、被スパッタ部材に貫通孔を設け、当該貫通孔に電極本体を挿入して支持するようにしているので、プラズマ生成容器内において反射電極の構成に関わらず被スパッタ部材の被スパッタ面を可及的に大きくすることができ、長期間安定したイオンの生成が可能となる。また、電極本体をコンパクトにできるだけでなく、電極本体に対して被スパッタ部材を簡単な構造により固定することができるようになり、被スパッタ部材の交換作業を容易にすることができる。さらに、被スパッタ部材の貫通孔を介して反射電極面が露出するように構成しているので、この反射電極面を陰極の電子が放出される部分に対向させることができ、陰極から射出された電子の反射効率を向上させることができる。これによりプラズマの生成効率を向上させることができる。
【0011】
前記被スパッタ部材が、その被スパッタ面において前記貫通孔の開口部を拡径した座ぐり部を有するものであり、前記電極本体が、先端部に形成されて前記座ぐり部に係合する大径部を有するものであり、前記座ぐり部に前記大径部が係合した状態において、前記被スパッタ部材が前記電極本体に支持されるとともに、前記大径部の先端面が反射電極面となることが望ましい。これならば、被スパッタ部材と電極本体との位置決めを簡単に行うことができる。また、反射電極構造が鉛直下向きに設けられる場合には、その他の固定用部品を不要とすることができ、反射電極構造体を極めて簡単な構成とすることができる。
【0012】
イオンビームの生成工程において、被スパッタ部材の消耗が電極本体の消耗よりも大きいと考えられる。このことから、生成工程において消耗された結果、反射電極面が被スパッタ面よりも陰極側に位置することが生じ得る。この場合、被スパッタ面よりも前方に位置する反射電極面にプラズマ中のイオンが引き寄せられてしまう。この為、被スパッタ面にプラズマ中のイオンが衝突しにくくなり、イオンビーム生成効率が低下してしまうという問題がある。この問題を解決するためには、前記座ぐり部に前記係合部が係合した状態において、前記被スパッタ面が前記反射電極面よりも陰極側に位置するように構成されていることが望ましい。
【0013】
被スパッタ部材及び電極本体を簡単な構成により固定するためには、前記電極本体の外側周面にねじ部が形成されており、前記被スパッタ部材の裏面からナット部材を前記ねじ部に螺合させることによって、前記大径部及び前記ナット部材により前記被スパッタ部材を挟持固定するものであることが望ましい。
【0014】
被スパッタ部材の周方向の取り付け精度を考慮することなく、又は反射電極面の周方向に沿って被スパッタ部材から均一にイオンが放出されるようにするためには、前記被スパッタ部材が概略円板形状をなすものであり、前記貫通孔が前記被スパッタ部材の略中央部に形成されていることが望ましい。
【0015】
また、本発明に係るイオン源は、内部でプラズマが生成される容器であって、陽極を兼ねていて内部に原料ガスが導入されるとともに、イオン引出し口を有するプラズマ生成容器と、前記プラズマ生成容器に設けられ、前記原料ガスをプラズマ化するための電子を放出する陰極と、前記プラズマ生成容器内において前記陰極に対向配置されて電子を陰極側に反射する反射電極構造体とを具備し、前記反射電極構造体が、前記プラズマによりスパッタリングされて所定のイオンを放出するものであり、被スパッタ面とその裏面とを貫通する貫通孔を有する被スパッタ部材と、前記被スパッタ部材の貫通孔に挿入されて前記被スパッタ部材を支持するとともに、前記貫通孔を介して被スパッタ面側に露出した反射電極面を有する電極本体とを備えることを特徴とする。
【0016】
反射電極面における電子の反射効率を可及的に向上させるためには、前記陰極の電子放出部の中心と前記反射電極面の中心とが略同軸上に配置されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、被スパッタ面の面積を可及的に大きくすると同時に、被スパッタ部材の取り付け構造を簡単化するだけでなく反射電極構造体をコンパクトにしつつ、陰極から射出される電子の反射効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るイオン源の一実施形態を示す模式的断面図である。
【図2】同実施形態の反射電極構造体の模式的斜視図である。
【図3】同実施形態の反射電極構造体の模式的断面図である。
【図4】同実施形態の被スパッタ部材の平面図である。
【図5】同実施形態のナット部材の平面図である。
【図6】反射電極構造体の変形例を示す図である。
【図7】反射電極構造体の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係るイオン源の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係るイオン源100は、図1に示すように、アルミニウムイオン等の所定のイオンを含むイオンビームIBを発生させるものであり、プラズマ生成容器2と、このプラズマ生成容器2に設けられた熱陰極3と、プラズマ生成容器2内において前記熱陰極3に対向配置された反射電極構造体4とを備えている。
【0021】
以下、各部2〜4について説明する。
【0022】
プラズマ生成容器2は、内部でプラズマが生成される例えば直方体形状をなす容器であって、アーク放電の陽極を兼ねていて、内部に原料ガスであるイオン化ガスを導入するためのガス導入口21と、内部で生成されたイオンを外部に引き出すためのイオン引出し口22とを有する。なお、ガス導入口21及びイオン引出し口22は、プラズマ生成容器2の壁面に形成されている。
【0023】
プラズマ生成容器2内には、ガス導入口21を通じて、例えばフッ素を含むイオン化ガスが導入される。ガス導入口21の位置は、図1に示すように、例えばイオン引出し口22の対向位置に設けられている。なお、ガス導入口21の位置は、プラズマ生成容器2内に原料ガスが導入される位置であれば、これに限定されない。フッ素を含むイオン化ガスを用いるのは、フッ素は化学作用が非常に強くて他の物質との反応性が強いので、フッ素を含むイオン化ガスを電離させたプラズマによって、後述する被スパッタ部材41から、アルミニウムイオン等の所定のイオンを放出させる作用が強いからである。
【0024】
フッ素を含むイオン化ガスは、例えば、フッ化ホウ素(BF)、四フッ化ケイ素(SiF)、フッ化ゲルマニウム(GeF)等のフッ化物又はフッ素(F)を含むガスである。このフッ素を含むイオン化ガスは、例えばフッ化物ガスそのもの又はフッ素そのものを用いても良いし、それらを適当なガス(例えばヘリウムガス)で希釈したガスであっても良い。
【0025】
プラズマ生成容器2内の一方側(図1において上側)には、プラズマ生成容器2から電気的に絶縁して、プラズマ生成容器2内に熱電子を放出する熱陰極3が設けられている。
【0026】
本実施形態の熱陰極3は、図1に示すように、傍熱型と言われるものであり、加熱されることによって熱電子を放出する陰極部材31と、当該陰極部材31を加熱するフィラメント32とを有している。
【0027】
フィラメント32には、それを加熱する加熱電源11が接続されている。フィラメント32と陰極部材31との間には、フィラメント32から放出された熱電子を陰極部材31に向けて加速して、当該熱電子の衝撃を利用して陰極部材31を加熱する直流のボンバード電源12が、陰極部材31を正極側にして接続されている。陰極部材31とプラズマ生成容器2との間には、直流のアーク電源13が接続されている。このアーク電源13は、陰極部材31とプラズマ生成容器2との間にアーク電圧Vを印加して、両者の間でアーク放電を生じさせて、プラズマ生成容器2内に導入されたイオン化ガスを電離させてプラズマを生成するためのものであり、その正極側がプラズマ生成容器2に接続されている。
【0028】
プラズマ生成容器2内の他方側(熱陰極3とは反対側であり図1において下側)に、熱陰極3に対向されて、プラズマ生成容器2内の電子(主として、熱陰極3から放出された熱電子。以下同様)を反射して熱陰極3側に向かわせる反射電極構造体4が設けられている。
【0029】
反射電極構造体4は、絶縁体(本実施形態では間隙)を介してプラズマ生成容器2から電気的に絶縁されている。具体的に反射電極構造体4は、図2及び図3に示すように、プラズマによりスパッタリングされて所定のイオンを放出する被スパッタ部材41と、被スパッタ部材41を支持するとともに、電子を反射させる反射電極面42Xを有する電極本体42とを備える。
【0030】
なお、電極本体42には、直流のバイアス電源14から、プラズマ生成容器2の電位を基準にして負のバイアス電圧Vが印加される(図1参照)。このバイアス電圧Vの大きさは、電極本体42(反射電極面42X)による電子の反射作用やプラズマ中のイオンによる被スパッタ部材41(被スパッタ面41A)をスパッタリングする作用等の兼ね合いで決定される。このような観点からバイアス電圧Vは、例えば、40V〜150V程度が好ましい。その内でも、イオン化ガスがフッ化ホウ素(BF)を含むガスである場合は、バイアス電圧Vは60V〜120V程度がより好ましい。
【0031】
被スパッタ部材41は、プラズマに曝されることによって所定のイオンを放出するものであり、本実施形態ではアルミニウムイオンビームIBを生成すべく酸化アルミニウム(Al)からなる。
【0032】
具体的に被スパッタ部材41は、図2〜図4に示すように、概略円板形状であり、その略中央部に、スパッタリングされる面である被スパッタ面41Aとその裏面とを貫通する貫通孔411が形成されている。この貫通孔411は、本実施形態では、後述する電極本体42の断面形状と略同一の丸孔であるが、その他の形状であっても良い。
【0033】
なお、アルミニウムイオンビームIBを生成するための被スパッタ材料としては、窒化アルミニウム(AlN)等のアルミニウム化合物を用いることもできる。その他、イオンビームIBの種類によって用いられる被スパッタ部材41は、取り出したい所定のイオンを含む材料を用いる。
【0034】
そして、被スパッタ部材41は、被スパッタ面41Aにおいて貫通孔411の被スパッタ面41A側の開口部を拡径した座ぐり部412を有している。座ぐり部412は、貫通孔411と同心円状に形成されている。つまり、本実施形態の被スパッタ部材41は回転体形状をなすものである。
【0035】
電極本体42は、図2及び図3に示すように、概略円柱形状をなすものであり、貫通孔411に挿脱自在な外径を有する小径部421と、当該小径部421よりも外径が大きく貫通孔411に挿入不可であり、且つ座ぐり部412に係合する大径部422とを有する。
【0036】
この大径部422の中心軸方向断面形状(本実施形態では円形状)は、座ぐり部412の中心軸方向断面形状(本実施形態では円形状)と略同一であり、大径部422が座ぐり部412にがたなく又は若干のがたつきを持って嵌る。このように、被スパッタ部材41及び電極本体42が回転体形状をなすことから、電極本体42及び被スパッタ部材41の径方向における相対位置に関係なく、貫通孔411に電極本体42を挿入することができ、座ぐり部412に大径部422を嵌めることができる。これにより組み立て作業及び被スパッタ部材41の交換作業を簡単化することができる。
【0037】
なお、電極本体42は、例えば等断面円形状をなす素材から切削加工により形成される。電極本体42の材質としては、例えばチタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)又はカーボン(C)等の高融点材料、又はそれらの合金を用いることができる。
【0038】
また、大径部422の先端面(図2、図3においては上面)が反射電極面42Xとなる。これにより、電極本体42及び被スパッタ部材41を接続した状態で、反射電極面42Xが被スパッタ面41A側に露出するように構成している。つまり、大径部422を座ぐり部412に嵌合させた状態で、反射電極面42Xが被スパッタ面41A側から視認されるように構成されている。これにより熱陰極3からの電子に直接電場を作用させることができ、電子の反射効率を向上させることができる。
【0039】
さらに、大径部422の軸方向長さが座ぐり部412の軸方向長さよりも短く構成されており、座ぐり部412に大径部422が係合した状態において、被スパッタ面41Aが反射電極面42Xよりも陰極3側に位置するように構成されている。このような構成により、イオンビーム生成工程において、反射電極面42Xが被スパッタ面41Aよりも陰極3側に位置することによるスパッタリング効率の低下を防止して、イオンビーム生成効率の低下を防止することができる。これにより長期間安定したイオンビームIBの供給が可能となる。
【0040】
さらに電極本体42の大径部422以外の一部又は全部(つまり小径部421の軸方向における一部又は全部)の外側周面にねじ部421nが形成されている(図3参照)。そして、被スパッタ部材41の裏面からナット部材43を当該ねじ部421nに螺合させることによって、大径部422及びナット部材43により被スパッタ部材41を挟持固定するものである。これにより、被スパッタ部材41が電極本体42から抜け落ちることを防止している。このとき、大径部422及びナット部材43により被スパッタ部材41を挟持固定できる範囲にねじ部421nが形成されていれば良く、本実施形態では座ぐり部412に大径部422が係合した状態において、ナット部材43の螺合が可能な範囲にねじ部421nが形成されている。
【0041】
ナット部材43は、図5に示すように、概略円環形状をなすものであり、例えばチタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)又はカーボン(C)等の高融点材料からなる。またナット部材43は、製造工程及び製造コストの問題から円環形状となりがちであるが、締め付け作業を容易にするため、少なくとも対向する辺43L、43Mを有するように削られている。これによりユーザが手によってナット部材43を締め付け易く構成している。
【0042】
そして、このように構成された反射電極構造体4は、プラズマ生成容器2の外部に設けられたクランプ等の把持機構5に把持されて、陰極3の電子放出部3aの中心と反射電極面42Xの中心とが略同軸(中心軸C)上に位置するように配置される(図1参照)。このとき、把持機構5は、反射電極構造体4を把持した状態で反射電極面42Xの中心が陰極3の電子放出部3aの中心と略同軸C上となるように、プラズマ生成容器2に対して位置決めされている。なお、把持機構5は、反射電極構造体4の電極本体42のうち被スパッタ部材41が接続されていない端部側を把持する。この構成によれば、反射電極面42Xの中心及び陰極3の電子放出部3aの中心とが略同軸(中心軸C)にあり、電子の反射効率を向上させることができる。また、本実施形態では把持機構5により把持された反射電極構造体4とプラズマ生成容器2との間には間隙が形成され、当該間隙が絶縁体となり、プラズマ生成容器2に対して反射電極構造体4を電気的に絶縁する構成としている。
【0043】
なお、イオン引出し口22は、その中心線Cに沿って形成された長いスリット形状をなすものである。また、イオン引出し口22がその中心線Cに沿って形成されているので、イオンビーム生成効率を向上させることができる。
【0044】
その他、プラズマ生成容器2の外部には、プラズマ生成容器2内に、熱陰極3と反射電極構造体4(具体的には電極本体42)とを結ぶ線(中心線C)に沿う磁界を発生させる磁石6が設けられている。この磁石6は、例えば電磁石であるが、永久磁石でもよい。磁界の向きは、図1とは逆向きであっても良い。
【0045】
上記のような反射電極構造体4及び磁界の存在によって、プラズマ生成容器2内の電子は、磁界の方向を軸として磁界中で旋回しながら熱陰極3と反射電極構造体4との間を往復運動するようになり、その結果、当該電子とイオン化ガスのガス分子との衝突確率が高くなってイオンがガスの分離効率が高まるので、プラズマの生成効率が高まる。より具体的には、熱陰極3と反射電極構造体4との間において密度の高いプラズマを生成することができる。
【0046】
イオン引出し口22の出口近傍には、プラズマ生成容器2内から(より具体的にはそこに生成されらプラズマから)イオンビームIBを引き出す引出し電極系7が設けられている。この引出し電極系7は、図1では1枚の電極で構成されているが、それに限られるものではなく、複数枚の電極で構成されていても良い。
【0047】
このイオン源100においては、酸化アルミニウムからなる被スパッタ部材41は、フッ素を含むイオン化ガスを電離させて生成されたプラズマに曝される。そして、このプラズマ中のフッ素イオン、フッ素ラジカル等により侵食や、当該プラズマ中のフッ素イオン等のイオンによるスパッタリング等によって、被スパッタ部材41からアルミニウムイオン等のアルミニウム粒子がプラズマ中に放出され、プラズマ中にアルミニウムイオンが含まれるようになる。被スパッタ部材41から放出されるアルミニウム粒子には、アルミニウムイオンとして放出されるものもあるし、中性のアルミニウム原子として放出されるものもある。中性のアルミニウム原子も、ある程度の割合で、プラズマ中の電子と衝突することによって電離されてアルミニウムイオンになる。このようにしてプラズマ中にアルミニウムイオン(例えばAl+、Al2+、Al3+。以下同様)が含まれるようになる。その結果、当該アルミニウムイオンを含むイオンビームIBが生成される。
【0048】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係るイオン源100によれば、被スパッタ部材41に貫通孔411を設け、当該貫通孔411に電極本体42を挿入して支持するようにしているので、プラズマ生成容器2内において電極本体42の構造に制約されることなく被スパッタ部材41の被スパッタ面41Aを可及的に大きくすることができ、長期間安定したイオンを生成することができる。また、電極本体42をコンパクトにできるだけでなく、電極本体42に対して被スパッタ部材41を簡単な構造により固定することができるようになり、被スパッタ部材41の交換作業を容易にすることができる。さらに、被スパッタ部材41の貫通孔411を介して反射電極面42Xが露出するように構成しているので、この反射電極面42Xを陰極3の電子が放出される部分に対向させることができ、陰極3から射出された電子の反射効率を向上させることができる。これによりプラズマの生成効率が向上し、ひいてはイオンビームIBの生成効率を向上させることができる。
【0049】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0050】
例えば、反射電極構造体4における被スパッタ部材41及び電極本体42の接続構造としては、前記実施形態に限られず、下記の通り種々の方法が考えられる。
【0051】
図6(A)に示すように、反射電極構造体4が鉛直下向きを向いて取り付けられる場合(前記実施形態において熱陰極3及び反射電極構造体4を逆に配置)にはナット部材43を用いる必要が無い。なお、このとき電極本体42にねじ部421nを設ける必要もない。これにより構造を一層簡単にすることができ、部品点数を削減することができる。
【0052】
また、図6(B)に示すように、被スパッタ部材41の貫通孔411の内側周面にねじ部411nを形成するとともに、電極本体42の先端部にねじ部42nを形成し、それらを螺合させることによって、被スパッタ部材41と電極本体42とを接続するようにしても良い。なお、このとき、電極本体42において挿入側先端面が反射電極面42Xとなる。
【0053】
さらに、図6(C)に示すように、被スパッタ部材41の貫通孔411を下方に行くに従って拡開するテーパ状とし、電極本体42の先端部を先端に行くに従って縮径するテーパ状として、貫通孔411に電極本体42のテーパ部を嵌め合わせる構成としても良い。このとき、電極本体42において挿入側先端面が反射電極面42Xとなる。これにより、ねじ部を形成する必要が無いので構造を一層簡単にすることができ、部品点数を削減することもできる。なお、いずれか一方をテーパ状として、被スパッタ部材41の貫通孔411に電極本体42の先端部を挿入した状態で引っ掛かるように構成しても良い。
【0054】
その上、図6(D)に示すように、電極本体42の中間部に被スパッタ部材41を下方から支える支持部423を設け、電極本体42の先端部が被スパッタ部材41の貫通孔411に挿入された状態で、被スパッタ部材41が下に抜け落ちないように支持部423により支持する構成としても良い。このとき、電極本体42において挿入側先端面が反射電極面42Xとなる。これにより、電極本体42及び被スパッタ部材41にねじ部を形成する必要がなく、構成を簡単にすることができる。
【0055】
ナット部材43の構成に関して言うと、図7(A)に示すように、大径部422との関係で被スパッタ部材41を挟持固定した状態において、被スパッタ部材41の下面全面を覆うような構成としても良い。これならば、被スパッタ部材41が破損してもその破片が落下することを防止でき、スパッタリングによるイオン発生効率の低下を防止することができる。このとき、被スパッタ部材41の落下をさらに防止するためには、ナット部材43が、被スパッタ部材41の外周を覆うような皿状をなすものであっても良い。
【0056】
ナット部材43を用いない構成においては、前記図7(B)に示す支持部423を被スパッタ部材41の下面全面を覆うような構成としても良いし、支持部を被スパッタ部材41の外周を覆うような皿状としても良い。このとき、電極本体42を一体形成すると製造コストがかかることが懸念されるため、電極本体42の本体部材と、支持部を構成する支持部材と製作し、支持部材の孔に本体部材を圧入することによって構成することが考えられる。
【0057】
また、前記実施形態の熱陰極は、傍熱型であったが、その他、直熱型であっても良い。
【0058】
さらに、反射電極構造体を把持機構により固定するものの他、プラズマ生成容器に絶縁物を介して固定するようにしても良い。
【0059】
その上、被スパッタ部材の形状は概略円板状に限られず、その他種々の形状であっても良い。また、電極本体の断面形状も被スパッタ部材に形成された貫通孔に挿入可能な形状であれば断面円形状に限定されない。
【0060】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0061】
100 ・・・イオン源
2 ・・・プラズマ生成容器
22 ・・・イオン引出し口
3 ・・・陰極(熱陰極)
3a ・・・電子放出部
4 ・・・反射電極構造体
41 ・・・被スパッタ部材
41A ・・・被スパッタ面
411 ・・・貫通孔
412 ・・・座ぐり部
42 ・・・電極本体
42X ・・・反射電極面
422 ・・・大径部
421n・・・ねじ部
43 ・・・ナット部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源におけるプラズマ生成容器内に設けられ、原料ガスをプラズマ化させるための電子を放出する陰極に対向配置されて電子を陰極側に反射する反射電極構造体であって、
プラズマによりスパッタリングされて所定のイオンを放出するものであり、被スパッタ面とその裏面とを貫通する貫通孔を有する被スパッタ部材と、
前記被スパッタ部材の貫通孔に挿入されて前記被スパッタ部材を支持するとともに、前記貫通孔を介して被スパッタ面側に露出した反射電極面を有する電極本体とを備える反射電極構造体。
【請求項2】
前記被スパッタ部材が、その被スパッタ面において前記貫通孔の開口部を拡径した座ぐり部を有するものであり、
前記電極本体が、先端部に形成されて前記座ぐり部に係合する大径部を有するものであり、
前記座ぐり部に前記大径部が係合した状態において、前記被スパッタ部材が前記電極本体に支持されるとともに、前記大径部の先端面が反射電極面となる請求項1記載の反射電極構造体。
【請求項3】
前記座ぐり部に前記係合部が係合した状態において、前記被スパッタ面が前記反射電極面よりも陰極側に位置するように構成されている請求項2記載の反射電極構造体。
【請求項4】
前記電極本体の外側周面にねじ部が形成されており、前記被スパッタ部材の裏面からナット部材を前記ねじ部に螺合させることによって、前記大径部及び前記ナット部材により前記被スパッタ部材を挟持固定するものである請求項2又は3記載の反射電極構造体。
【請求項5】
前記被スパッタ部材が概略円板形状をなすものであり、前記貫通孔が前記被スパッタ部材の略中央部に形成されている請求項1、2、3又は4記載の反射電極構造体。
【請求項6】
内部でプラズマが生成される容器であって、陽極を兼ねていて内部に原料ガスが導入されるとともに、イオン引出し口を有するプラズマ生成容器と、
前記プラズマ生成容器に設けられ、前記原料ガスをプラズマ化するための電子を放出する陰極と、
前記プラズマ生成容器内において前記陰極に対向配置されて電子を陰極側に反射する反射電極構造体とを具備し、
前記反射電極構造体が、
前記プラズマによりスパッタリングされて所定のイオンを放出するものであり、被スパッタ面とその裏面とを貫通する貫通孔を有する被スパッタ部材と、
前記被スパッタ部材の貫通孔に挿入されて前記被スパッタ部材を支持するとともに、前記貫通孔を介して被スパッタ面側に露出した反射電極面を有する電極本体とを備えるイオン源。
【請求項7】
前記陰極の電子放出部の中心と前記反射電極面の中心とが略同軸上に配置されている請求項6記載のイオン源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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