説明

反応システム及び反応生成物の生成方法

【課題】反応前駆体の分解又は凝固を充分に抑制でき且つ環境負荷を軽減できる反応システム等を提供すること。
【解決手段】複数の反応前駆体を反応する反応システムは、反応前駆体の各々を収容する酸化剤槽51及び含窒素化合物槽と、これら酸化剤槽51及び含窒素化合物槽の各々からの酸化剤及び含窒素化合物の反応を行う反応手段と、酸化剤槽51に収容された酸化剤と熱交換する熱交換部と、を備える。この熱交換部は、酸化剤槽51の側壁511に熱伝導可能に設けられ冷媒が流通する流路と、この流路に熱媒を供給する熱媒供給手段と、を有する。流路は、熱媒供給手段に接続され冷媒が導入される導入口524aと、冷媒が導出される導出口524bと、を除いて略密閉されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の反応前駆体を反応する反応システム及び反応生成物の生成方法に関し、特に複数の反応前駆体からスライムコントロール剤を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の反応前駆体を反応させて反応生成物を生成する技術は、従来周知である(例えば、特許文献1参照)。かかる技術には、副産物発生の抑制や、反応生成物の収率向上といった課題の解決が常に求められるところ、その前提として、複数の反応前駆体を想定通りの量及び比率で反応させることが大変重要である。
【0003】
ところで、上述のような反応を行う反応システムは、一般に、室温に比べて高温の工場等に設置されることが想定される。このため、使用前の収容段階において、反応前駆体が少なからず分解することが懸念される。しかも、収容される複数の反応前駆体は、その分解の程度が互いに異なる場合が多い。
【0004】
他方、冬場等の低温条件下では、収容される反応前駆体が凝固することが懸念される。しかも、収容される複数の反応前駆体の凝固点が互いに異なるために、その凝固の程度も互いに異なる場合が多い。
【0005】
このため、複数の反応前駆体を想定通りの量及び比率で反応させることは、困難である。それにもかかわらず量及び比率を適切に調節するためには、収容されている各反応前駆体の濃度や状態を反応直前に毎回測定する必要があるが、かかる測定作業は煩雑を極める。
【0006】
収容段階における反応前駆体の分解を抑制するためには、反応前駆体を低温に保持する措置が有望である。また、収容段階における反応前駆体の凝固を抑制するためには、反応前駆体を凝固点以上に保持する措置が有望である。従来、反応前駆体を収容する槽に外部から冷水又は温水をかけ、反応前駆体を間接的に冷却又は加温する試みがなされている。
【特許文献1】特開平5−146785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述の技術では、槽の外壁が常時濡れているため、外壁に藻が発生しやすい。すると、藻によって水と反応前駆体との熱交換が阻害されることから、反応前駆体の分解又は凝固を充分に抑制しきれないことが懸念される。また、水使用量に対する熱交換効率が低下するので、環境負荷の観点から改善が必要である。
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、反応前駆体の分解又は凝固を充分に抑制でき且つ環境負荷を軽減できる反応システム及び反応生成物の生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、反応前駆体との間で温度交換を行う熱媒を外気から略遮断することで、槽の外壁での藻の発生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 複数の反応前駆体を反応する反応システムであって、
反応前駆体の各々を収容する複数の前駆体槽と、
前記前駆体槽の各々からの前駆体同士の反応を行う反応手段と、
前記複数の前駆体槽から選択される一以上の被熱交換槽に収容された反応前駆体と熱交換する熱交換手段と、を備え、
前記熱交換手段は、前記被熱交換槽の外壁に熱伝導可能に設けられ熱媒が流通する流路と、
前記流路に熱媒を供給する熱媒供給手段と、を有し、
前記流路は、前記熱媒供給手段に接続され熱媒が導入される導入口と、熱媒が導出される導出口と、を除いて略密閉されている反応システム。
【0011】
(1)の発明によれば、流路を被熱交換槽の外壁に熱伝導可能に設けたので、流路を流通する熱媒と、被熱交換槽に収容された反応前駆体との間で熱交換が行われる。
ここで、導入口及び導出口を除いて流路を略密閉したので、外気中を漂う藻の胞子が熱媒に混入することが抑制され、被熱交換槽の外壁に藻が発生するのが抑制される。これにより、熱媒と反応前駆体との効率的な熱交換が継続されるので、反応前駆体の分解又は凝固を充分に抑制でき且つ環境負荷を軽減できる。
【0012】
(2) 前記流路は、前記導入口及び前記導出口を除き略密閉された空間が内部に形成された中空部材が前記外壁に設けられることで形成されている(1)記載の反応システム。
【0013】
略密閉された流路は、空間が開放された部材(例えば、断面が部分円弧状)を被熱交換槽の外壁に密着することで形成することもできる。しかし、この態様では、部材及び外壁の密着性が不充分になる結果、流路から熱媒が漏出し、外気と接触することが懸念される。
【0014】
そこで(2)の発明によれば、中空部材を外壁に設けることで流路を形成したので、中空部材及び外壁の密着性が不充分になったとしても、流路から熱媒が漏出する事態は起こりにくい。このため、藻の発生がより確実に抑制されるため、反応前駆体の分解又は凝固をより確実に抑制でき且つ環境負荷をより確実に軽減できる。
【0015】
(3) 前記中空部材は、柔軟性を有する柔軟素材からなる(2)記載の反応システム。
【0016】
(3)の発明によれば、中空部材を柔軟素材で構成したので、中空部材が撓み、広範囲に亘って外壁に密着する。これにより、外壁が外気から断熱されるので、反応前駆体の分解又は凝固効率及び環境負荷の軽減効率を向上できる。
【0017】
(4) 前記導出口から導出される熱媒を前記熱媒供給手段に還流する還流手段を更に備える(1)から(3)いずれか記載の反応システム。
【0018】
(4)の発明によれば、導出口から導出された熱媒が熱媒供給手段に還流され、やがて導入口から流路へと導入される。このように、熱媒が再利用されるため、環境負荷をより軽減できる。
【0019】
(5) 前記反応前駆体は、酸化剤及び含窒素化合物を含み、少なくとも前記酸化剤は、前記被熱交換槽に収容され、
前記反応手段は、前記酸化剤及び前記含窒素化合物を反応して、スライムコントロール剤を生成する(1)から(4)いずれか記載の反応システム。
【0020】
水処理に使用される有用なスライムコントロール剤は、酸化剤及び含窒素化合物を反応させることで得られるブロマミン化合物を含有する。しかし、酸化剤及び含窒素化合物の反応比率が適切範囲から僅かでも外れると、所望のブロマミン化合物の収量が激減するとともに、水処理効果の低い副産物が生成される。しかも、特に酸化剤は温度変化に対して極めて弱く、容易に分解されるため、反応比率の調節が大変困難である。
【0021】
そこで(5)の発明によれば、被熱交換槽に酸化剤を収容したので、酸化剤の分解を充分に抑制でき且つ環境負荷を軽減できる。これにより、水処理効率に優れたスライムコントロール剤を簡便に生成できる。
【0022】
(6) 複数の反応前駆体を反応して反応生成物を生成する方法であって、
反応前駆体の各々を収容する複数の前駆体槽から選択される一以上の被熱交換槽の外壁に、流路を熱伝導可能に設け、熱媒が導入される導入口及び熱媒が導出される導出口を除いて略密閉し、
前記流路の導入口から熱媒を供給する手順を有する方法。
【0023】
(7) 前記流路は、前記導入口及び前記導出口を除き略密閉された空間が内部に形成された中空部材を前記外壁に設けることで形成する(6)記載の方法。
【0024】
(8) 前記中空部材は、柔軟性を有する柔軟素材からなり、
前記方法は、前記中空部材を撓んだ状態で前記外壁に設ける(7)記載の方法。
【0025】
(9) 前記導出口から導出される熱媒を還流し、前記導入口から再導入する手順を更に有する(6)から(8)いずれか記載の方法。
【0026】
(10) 前記反応前駆体は、酸化剤及び含窒素化合物を含み、
前記方法は、少なくとも前記酸化剤を前記被熱交換槽に収容し、
前記酸化剤及び前記含窒素化合物を反応して、スライムコントロール剤を生成する手順を有する(6)から(9)いずれか記載の方法。
【0027】
(6)〜(10)に記載の方法は、(1)〜(5)に記載の反応システムを、反応生成物の生成方法として展開したものである。よって、(6)〜(10)の発明によれば、(1)〜(5)の発明と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、流路を被熱交換槽の外壁に熱伝導可能に設けたので、流路を流通する熱媒と、被熱交換槽に収容された反応前駆体との間で熱交換が行われる。
ここで、導入口及び導出口を除いて流路を略密閉したので、外気中を漂う藻の胞子が熱媒に混入することが抑制され、被熱交換槽の外壁に藻が発生するのが抑制される。これにより、熱媒と反応前駆体との効率的な熱交換が継続されるので、反応前駆体の分解又は凝固を充分に抑制でき且つ環境負荷を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、第1実施形態以外の各実施形態の説明において、第1実施形態と共通するものについては、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0030】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る反応システム50を含む抄紙システム10の概略構成図である。図1に示されるように、抄紙システム10は、抄紙装置11と、反応システム50と、白水回収システム60と、を備える。各構成要素について、以下詳細に説明する。
【0031】
〔抄紙装置〕
抄紙装置11は原料を紙へと加工する装置であって、上流から順に、原料貯留部20、ウェット部30、及び乾燥部40を備える。
【0032】
(原料貯留部)
原料貯留部20はパルプチェスト21を有し、このパルプチェスト21には図示しないパルパで脱墨処理された回収パルプスラリが貯留され、この回収パルプスラリはやがてミキシングチェスト23に移送される。このミキシングチェスト23には蒸解及び漂白を介して得られた原料パルプスラリも供給されるため、ミキシングチェスト23内で回収パルプスラリ及び原料パルプスラリの混合スラリが作成されることになる。この混合スラリは、マシンチェスト24及び種箱25を経て、ウェット部30に移送される。
【0033】
回収パルプスラリ及び原料パルプスラリには、必要に応じて叩解されたパルプ繊維、及び填料、歩留まり向上剤、紙力向上剤、消泡剤、染料等の薬剤の混合物が含有されている。
【0034】
(ウェット部)
ウェット部30は紙料流出部(インレット)31を備え、この紙料流出部31は、原料貯留部20から移送された混合物を適切な濃度に希釈して紙料とする。そして、紙料流出部31は紙料を脱水部(ワイヤーパート)32の全幅に均一に噴出する。紙料流出部31から噴出された時点の紙料は、通常99%程度の含水量を有する。
【0035】
脱水部32は輪状の下ワイヤ324を備え、この下ワイヤ324は下ロール325の回転に伴って運動する。これにより、紙料流出部31から噴出された紙料が下流方向(図1における左方向)へと搬送される。ここで、脱水部32は上ロール323の回転に伴って運動する上ワイヤ321を更に備えており、この上ワイヤ321は紙料を挟んで下ワイヤ324と対向する。下ワイヤ324によって搬送された紙料はやがて上ワイヤ321及び下ワイヤ324に挟まれ、上下面均等に脱水された後、後述する圧搾部(プレスパート)33へと搬送される。脱水部32から搬送された時点での紙料の含水量は、通常80%程度となっている。
【0036】
圧搾部33は、上流から順に、第1圧搾ロール331、押出ロール333、及び第2圧搾ロール334を備え、第1圧搾ロール331は第1搬送ロール336と同期して回転することで第1圧搾ワイヤ335を運動させ、第2圧搾ロール334は第2搬送ロール338と同期して回転することで第2圧搾ワイヤ337を運動させる。これにより、圧搾部33に搬送された紙が更に下流方向へと搬送される。
【0037】
また、第1圧搾ロール331、押出ロール333、及び第2圧搾ロール334は、搬送方向に対して互い違いに配置されている。これにより、搬送される紙料は強制的に上下方向に伸ばされ、含有する水が搾り出される。その後、紙料は湿紙として乾燥部40に搬送される。この時点での湿紙の含水量は通常55%程度である。
【0038】
なお、脱水部32及び圧搾部33の下方には後述の受け皿61が設けられており、この受け皿61は脱水して落下する白水を受け止める。
【0039】
(乾燥部)
乾燥部40は、上流から順に、搬送方向に対して互い違いに配置された第1押ロール411、第1ドライヤーロール413、第2押ロール414、第2ドライヤーロール415、及び第3押ロール416を備え、これらが同期して回転することでカンバス42を運動させる。湿紙はカンバス42に沿って搬送され、強制的に上下方向に伸ばされることで、含有する水を搾り出される。第1ドライヤーロール413及び第2ドライヤーロール415を併せてドライヤーロール41と称する。
【0040】
また、加熱された第1ドライヤーロール413及び第2ドライヤーロール415の表面に湿紙が接触することで、湿紙中の水分が蒸発する。これにより、湿紙は急速に乾燥させられ、含水量5〜10%の紙Pとなって搬出される。その後、紙Pは適宜更なる加工を施された後、製品として出荷されることになる。
【0041】
なお、乾燥部40は図示しないフードによって全体が覆われており、この状態では、外部から乾燥部40の内部状態を観察することが困難である。
【0042】
〔白水回収システム〕
白水回収システム60は、脱水部32及び圧搾部33で生じる白水を回収する。前述のように、白水回収システム60の受け皿61は、脱水部32及び圧搾部33の下方に設けられており、脱水部32及び圧搾部33で脱水して落下する白水を受け止める。受け皿61で受け止めた白水は白水サイロ63に収集され、ミキシングチェスト23へと適宜戻され、再利用されることになる。
【0043】
かかる白水は、多種多様の炭水化物を含有するため、藻類、菌類、及び細菌等の生物が繁殖しやすい環境を有する。これらの生物は、やがてスライムと称される粘性体を形成し、種々の不具合を誘発する。しかし、かかる不具合は、次の反応システム50によって抑制される。
【0044】
〔反応システム〕
反応システム50は、前駆体槽としての酸化剤槽51及び含窒素化合物槽53、並びに反応槽54を有する。酸化剤槽51は、酸化剤を収容し、酸化剤供給路512を介して反応槽54に酸化剤を供給する。また、含窒素化合物槽53は、含窒素化合物を収容し、窒素供給路531を介して反応槽54に含窒素化合物を供給する。これら酸化剤及び含窒素化合物の供給量及び供給量比は、酸化剤供給路512に設けられた酸化剤供給弁513、及び窒素供給路531に設けられた窒素供給弁533の開度によって調節できる。このように、反応槽54、酸化剤供給弁513、及び窒素供給弁533は、反応手段を構成する。
【0045】
酸化剤としては、特に限定されないが、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウム、及び二酸化塩素等のハロゲン供与体、並びに過酸化水素等が挙げられる。また、含窒素化合物としては、特に限定されないが、臭化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、硫酸アンモニウム等の無機臭素化合物、窒素原子を有するハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩が挙げられる。これらの酸化剤及び含窒素化合物、特に酸化剤は、温度変化に対して極めて弱く、容易に分解される。
【0046】
ここで、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを、含窒素化合物として臭化アンモニウムを用いた場合において、反応槽54内で生じる反応を以下に示す。
NHBr+NaOCl→[NHBrCl]+NaOH
【0047】
この反応で生成された反応生成物である[NHBrCl]なるブロマミン化合物は、非常に高い水処理能力を有することが知られている(特開平5−146785号公報参照)。ただし、かかるブロマミン化合物は安定性が低いため、生成後、短時間の間に分解が開始される場合が多い。このため、使用する直前に生成され、生成されたブロマミン化合物は速やかに使用されることが好ましい。生成から使用までの時間は、ブロマミン化合物がおかれる条件に(例えば温度)に応じて適宜設定されてよいが、通常、10分以下であることが好ましく、より好ましくは1分以内、最も好ましくは10秒以内である。
【0048】
ブロマミン化合物を含有するスライムコントロール剤は、供給路55を介して、白水サイロ63、マシンチェスト24、及びパルプチェスト21に供給され、各部位において水処理機能を発揮しスライムを軽減する。このため、供給路55は、スライムコントロール剤が上記の時間内に白水サイロ63、マシンチェスト24、及びパルプチェスト21に到達するよう設計されることが好ましい。なお、本実施形態では、スライムコントロール剤を白水サイロ63、マシンチェスト24、及びパルプチェスト21に供給したが、これに限られず、スライム形成が懸念される任意の箇所に供給してよい。
【0049】
ところで、上記反応における窒素原子/塩素原子(モル比)が所定範囲(例えば1以下)を超えると、[NHBrCl]の収量が激減するとともに、水処理能力に劣る副産物が生成される傾向がある。また、上述の通り、特に酸化剤は、温度変化に対して極めて弱く、容易に分解される。
【0050】
そこで、本実施形態に係る反応システム50は、熱媒供給源56を更に有する。この熱媒供給源56は、熱媒としての冷媒を熱媒供給路563を介して流路形成部52に導入し、この流路形成部52から導出される冷媒を熱媒還流路565を介して回収する。このように熱媒供給源56及び熱媒供給路563は熱媒供給手段を構成し、熱媒供給源56及び熱媒還流路565は還流手段を構成する。
【0051】
冷媒としては、特に限定されず種々の流体が使用できるが、比熱が高く安価である点で、水が好ましい。また、冷媒は、冷媒が流れる部位における生物発生等を抑制できる点で、殺菌成分を含有していてもよい。
【0052】
図2は、酸化剤槽51への流路形成部52の設置状態を示す斜視図であり、図3は図2の酸化剤槽51及び流路形成部52の縦断面図である。
【0053】
図2に示されるように、本実施形態における流路形成部52は、内部に空間が形成された一本の中空部材としてのホース521からなり、このホース521が酸化剤槽51の外壁としての側壁511に巻回されることで、流路が形成されている。そして、熱媒供給路563からの冷媒は、ホース521の一端に位置する導入口524aから導入され、ホース521内部の流路を通って側壁511の周囲を周回した後、ホース521の他端に位置する導出口524bから熱媒還流路565へと導出される。このように、流路形成部52の流路は、導入口524a及び導出口524bを除き略密閉されているため、外気との接触が抑制されている。
【0054】
ホース521は、ゴム(例えば、エチレンプロピレンゴム)等の柔軟性を有する柔軟素材からなり、側壁511に設けられている。これにより、図3のαに示されるように、ホース521が撓んでいるため、接触部522が広い面積で側壁511と接触する。また、本実施形態の柔軟素材は伸縮性も兼ね備えており、ホース521は側壁511に伸張された状態で設けられている。そして、流路形成部52の流路を流通する冷媒は、かかる接触部522及び側壁511を介して酸化剤515と熱交換を行うことになる。このように、酸化剤槽51は被熱交換槽を構成する。
【0055】
このように酸化剤515と熱交換を行い、温められた冷媒は、熱媒還流路565を介して熱媒供給源56に還流される。その後、冷媒は、熱媒供給源56の図示しない冷却部によって冷却された後、熱媒供給路563を介して再びホース521に導入されることになる。
【0056】
以上の流路形成部52及び熱媒供給源56は、熱交換手段を構成する。
【0057】
[作用効果]
本実施形態によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0058】
流路を酸化剤槽51の側壁511に熱伝導可能に設けたので、流路を流通する冷媒と、酸化剤槽51に収容された酸化剤との間で熱交換が行われる。
ここで、導入口524a及び導出口524bを除いて流路を略密閉したので、外気中を漂う藻の胞子が冷媒に混入することが抑制され、酸化剤槽51の側壁511に藻が発生するのが抑制される。これにより、冷媒と酸化剤との効率的な熱交換が継続されるので、酸化剤の分解を充分に抑制でき且つ環境負荷を軽減できる。
【0059】
ホース521を側壁511に設けることで流路を形成したので、ホース521及び側壁511の密着性が不充分になったとしても、流路から冷媒が漏出する事態は起こりにくい。このため、藻の発生がより確実に抑制されるため、酸化剤の分解をより確実に抑制でき且つ環境負荷をより確実に軽減できる。
【0060】
ホース521を柔軟素材で構成したので、ホース521が撓み、広範囲に亘って側壁511に密着する。これにより、側壁511が外気から断熱されるので、酸化剤の分解効率及び環境負荷の軽減効率を向上できる。
【0061】
伸縮素材からなるホース521を伸張された状態で側壁511に設けたので、伸縮素材の収縮力によって、ホース521が側壁511に自然に密着する。また、伸縮素材の収縮に伴ってホース521が撓むため、ホース521の接触部522と側壁511との接触面積が増加し、冷媒と酸化剤との熱交換が促進される。これにより、酸化剤の分解効率及び環境負荷の軽減効率を相乗的に向上できる。
【0062】
導出口524bから導出された冷媒が熱媒供給源56に還流され、やがて導入口524aから流路へと導入される。このように、冷媒が再利用されるため、環境負荷をより軽減できる。
【0063】
酸化剤槽51に酸化剤を収容したので、酸化剤の分解を充分に抑制でき且つ環境負荷を軽減できる。これにより、スライムコントロール剤の使用の度ごとに、酸化剤の残存濃度を測定し、この濃度に応じて酸化剤供給弁513及び窒素供給弁533の開度を調節するといった煩雑な作業が軽減される。よって、水処理効率に優れたスライムコントロール剤を簡便に生成できる。
【0064】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る流路形成部52Aの概略構成図であり、図5は酸化剤槽51への流路形成部52Aの設置状態を示す図である。本実施形態は、流路形成部52Aの構成において、第1実施形態と異なる。
【0065】
図4に示されるように、流路形成部52Aは長さが短いホース521Aを複数有し、これらホース521Aが互いに平行に配置されている。これらホース521A群の一端は第1合流部材523aの側部に接続され、他端は第2合流部材523bの側部に接続されている。
【0066】
第1合流部材523aの反対側部には、リング状の固定部525aが固着され、この固定部525aはリング状の被固定部527bと係合し固定されている。この被固定部527bは、帯状の係合バンド526の一端に固着される一方、この係合バンド526の他端には、先端C字状の係止部527aが固着されている。この係止部527aは、第2合流部材523bの反対側部に固着されたリング状の被係止部525bに係止可能である。なお、係合バンド526は非伸縮素材からなる一方、図示しない長さ調節機構を有しており、この長さ調節機構によって長さが自在に調節可能である。
【0067】
図5に示されるように、ホース521Aは側壁511に巻回され、この状態で係止部527aは被係止部525bに係止されている。そして、長さ調節機構によって係合バンド526の長さが適宜調節され、これによりホース521Aが伸張状態で側壁511に設けられている。
【0068】
ところで、第1合流部材523a及び第2合流部材523bの内部には、図示しない合流路がそれぞれ形成されている。この合流路は、第1合流部材523aに設けられた導入口524aA、及び第2合流部材523bに設けられた導出口524bAを、ホース521Aの両端と連通する。このため、導入口524aAから合流路に導入された冷媒は、ホース521Aの各々が形成する流路を流通し、側壁511の外周を略一周した後、再び合流して導出口524bAから導出される。
【0069】
なお、本実施形態では、側壁511の外周の一部分にはホース521Aが巻回されていないが、この部分ができる限り狭くなるよう、側壁511の外周を考慮してホース521Aの長さを設定することが好ましい。また、ホース521Aの設置技術は特に限定されず、各部材の構成及び連結構造等も特に限定されるものではない。
【0070】
[作用効果]
本実施形態によれば、前述した第1実施形態による作用効果に加えて、以下のような作用効果が得られる。
【0071】
521Aを複数設けるとともに、各ホース521Aの長さを短縮したので、導入口524aAから導入された冷媒は、酸化剤515と短時間のみ熱交換し、温められる前に速やかに導出口524bAから導出されて再び冷却される。これにより、高容量の酸化剤515が充分に低温の冷媒と熱交換できるため、酸化剤515の分解をより充分に抑制できる。また、冷媒は還流されて再利用されるため、環境負荷の増大も最低限に抑制できる。
【0072】
冷媒が還流する経路全体の長さが短縮されるので、冷媒の流通に必要な圧力が低下する。これにより、圧力損失を低減でき、熱媒供給源56を経済的に稼動できる。
【0073】
<第3実施形態>
図6は、本発明の第3実施形態に係る反応システム50Bの概略構成図である。本実施形態は、温度差検出部57及び冷媒調整部58を具備する点において、第1実施形態と異なる。
【0074】
即ち、反応システム50Bは温度差検出部57を更に備え、この温度差検出部57は熱媒供給路563を流れる冷媒の温度から、熱媒還流路565を流れる冷媒の温度を差し引いた温度差ΔTを検出する。この検出値は、酸化剤槽51内の酸化剤515との熱交換によって冷媒が温められた程度の指標であり、冷媒調整部58に送信される。
【0075】
冷媒調整部58は、受信した検出値に基づいて、熱媒供給源56の冷却部561を制御する。即ち、冷媒調整部58は、検出値の多少に応じて冷却部561の出力を増減し、これにより酸化剤515と熱交換を行う冷媒が所定温度に維持される。
【0076】
なお、本実施形態では、温度差ΔTを、熱媒供給路563を流れる冷媒の温度から、熱媒還流路565を流れる冷媒の温度を差し引いた値としたが、その逆であってもよい。
【0077】
[作用効果]
本実施形態によれば、前述した第1実施形態による作用効果に加えて、以下のような作用効果が得られる。
【0078】
冷媒調整部58を更に設けたので、酸化剤515と熱交換を行う冷媒が所定温度に維持される。これにより、酸化剤515が所望の温度に常時冷却されるので、酸化剤515の分解をより確実に抑制できる。しかも、冷却部561の出力を必要最低限に制御することで、環境負荷をより軽減できる。
【0079】
酸化剤515は腐食性を有するため、酸化剤515の温度を継続的に計測する場合、温度計の消耗が激しく、維持費用が増加する。しかし、本実施形態によれば、温度差検出部57を酸化剤槽51の外部に設け、温度差ΔTに基づいて冷媒調整部58が制御を行う構成を採用したので、維持費用を削減でき且つ冷却部561の制御を継続的に行うことができる。
【実施例】
【0080】
<試験例1>
有効塩素濃度13%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、37℃又は20℃の条件下にそれぞれ静置し、30日経過後に次亜塩素酸ナトリウム濃度を測定した。
【0081】
その結果、37℃の条件下の濃度低下は約40%である一方、20℃の条件下における濃度低下は10%以下にとどまった。これにより、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の液温を低く保つことで、次亜塩素酸ナトリウムの分解を大幅に抑制できることが確認された。
【0082】
<実施例>
稼動中のある製紙工場において、実施例を行った。この工場建屋内に設置されていた次亜塩素酸ナトリウム槽は、収容可能量5000Lのポリエチレン製タンクであり、槽の周囲を取り囲む壁部材は設置されておらず、気温変化は屋外の外気温と略等しかった。
【0083】
かかるタンクの外周に、エチレンプロピレンゴム製熱交換器「クーリングロールCRN」(第一工業社製、長さ5470mm×幅900mm、熱交換面積4.8m)を巻回した。この熱交換器と、冷却能力1kWの小型空冷式チラー「RSK−400F」(オリオン社製)との間で、20℃の冷水を20L/分の流量で循環通水させ、タンク内の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を冷却した。
【0084】
[評価1]
この状態を約60日間に亘り維持し、その間、定期的に次亜塩素酸ナトリウム水溶液の温度を測定した。この結果を、外気温の変化とともに図8に示す。
【0085】
図8に示されるように、試験期間中の外気温は、平均値が約30℃であり、最高値が33℃以上に至る高温であった。冷却を開始する前における次亜塩素酸案トリウム水溶液の温度も、外気温と同様に30℃を超えていた。なお、新しい次亜塩素酸案トリウム水溶液を補充すると、極めて短期間に限り液温が低下するが、その後速やかに昇温していた。
【0086】
これに対して、冷却を開始すると、その直後に液温が急低下し、20℃〜23℃の範囲で安定した。20℃の条件下では少なくとも30日間に亘り次亜塩素酸ナトリウムの分解が大幅に抑制された試験例1の結果を踏まえると、本実施例に係る装置及び方法によって、次亜塩素酸ナトリウムの分解が大幅に抑制されていることが示唆される。
【0087】
[評価2]
タンク冷却前及び冷却後において、次亜塩素酸ナトリウム槽から放出した次亜塩素酸ナトリウムを、槽へ補充した溶液の濃度に基づきモル比が1:1となるように臭化アンモニウムを反応した。生成された反応生成物のpHを測定した。
【0088】
すると、タンク冷却前では、次亜塩素酸ナトリウムの補充直後の反応で得られた反応生成物のpHは9.7であったが、補充48時間後の反応で得られた反応生成物のpHは9.3であった。
【0089】
図8に示されるように、タンク冷却前の補充48時間後の液温は、既に昇温が進行しており、27〜28℃である。この事実を踏まえると、かかるpH低下は、高アルカリ性である次亜塩素酸ナトリウムの濃度低下によるものと推測される。pHが低下すると、ブロマミン化合物が更に不安定化し、分解がより促進されるのみならず、未反応の臭化アンモニウムが増加するため、非効率になる。
【0090】
これに対して、タンク冷却後では、補充7日後の反応で得られた反応生成物のpHは9.7であり、補充直後のpHと有意には変わらなかった。図8に示されるように、タンク冷却後における液温は20℃〜23℃の範囲で安定していた事実を踏まえると、本評価試験における結果は、次亜塩素酸ナトリウムの分解が充分に抑制されていたことによることが強く示唆される。
【0091】
<変形例>
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0092】
前記実施形態では、流路を形成するために、中空部材であるホース521を用いたが、これに限られない。例えば、図7に示される52Cは、断面C字状の部分円環管521Cからなり、この部分円環管521Cの切欠部分が側壁511に密着されることで、流路が形成されている。即ち、この態様では、流路を流通する冷媒が、側壁511に直接的に接触することになる。ただし、漏水を抑制するべく、部分円環管521Cは金属等の高硬度部材で構成されることが好ましい。
【0093】
前記実施形態では、ホース521が側壁511の中腹に巻回されているが、これに限られず、全体に巻回されていてもよい。また、前記実施形態では、一本のホース521が側壁511に巻回されているが、これに限られず、複数本のホースを巻回してもよく、ホースを周方向ではなく酸化剤槽51の軸方向に沿って設けてもよい。ホース521は、側壁511以外の外壁、例えば下壁及び上壁に設けてもよいが、酸化剤515との熱交換効率を向上できる点では、側壁511又は下壁に設けることが好ましい。
【0094】
前記実施形態では、導出口524bから導出された冷媒は熱媒還流路565を介して熱媒供給源56に還流されるが、これに限られず、冷媒の一部又は全部を廃棄してもよい。
【0095】
前記実施形態では、反応システム50を抄紙システム10に設置したが、これに限られず、水処理が必要な水が生成される種々の箇所に使用できる。また、本実施形態では熱媒として冷媒を用いたが、熱交換する対象及び目的に応じて、温媒を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1実施形態に係る反応システムを含む抄紙システムの概略構成図である。
【図2】前記実施形態に係る反応システムが備える被熱交換槽への中空部材の設置状態を示す斜視図である。
【図3】図2の被熱交換槽及び中空部材の縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る中空部材の概略構成図である。
【図5】前記実施形態に係る被熱交換槽への中空部材の設置状態を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る反応システムの概略構成図である。
【図7】本発明の一変形例に係る流路の構造を示す図である。
【図8】本発明の一実施例に係る反応システムが備える被熱交換槽に収容された反応前駆体の温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
50、50B 反応システム
51 酸化剤槽(前駆体槽、被熱交換槽)
511 側壁(外壁)
513 酸化剤供給弁(反応手段)
515 酸化剤(反応前駆体)
52、52A、52C 流路形成部(熱交換手段)
521、521A ホース(中空部材)
524a、524aA 導入口
524b、524bA 導出口
53 含窒素化合物槽(前駆体槽)
533 窒素供給弁(反応手段)
54 反応槽(反応手段)
56 熱媒供給源(熱交換手段、熱媒供給手段、還流手段)
563 熱媒供給路(熱媒供給手段)
565 熱媒還流路(還流手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応前駆体を反応する反応システムであって、
反応前駆体の各々を収容する複数の前駆体槽と、
前記前駆体槽の各々からの前駆体同士の反応を行う反応手段と、
前記複数の前駆体槽から選択される一以上の被熱交換槽に収容された反応前駆体と熱交換する熱交換手段と、を備え、
前記熱交換手段は、前記被熱交換槽の外壁に熱伝導可能に設けられ熱媒が流通する流路と、
前記流路に熱媒を供給する熱媒供給手段と、を有し、
前記流路は、前記熱媒供給手段に接続され熱媒が導入される導入口と、熱媒が導出される導出口と、を除いて略密閉されている反応システム。
【請求項2】
前記流路は、前記導入口及び前記導出口を除き略密閉された空間が内部に形成された中空部材が前記外壁に設けられることで形成されている請求項1記載の反応システム。
【請求項3】
前記中空部材は、柔軟性を有する柔軟素材からなる請求項2記載の反応システム。
【請求項4】
前記導出口から導出される熱媒を前記熱媒供給手段に還流する還流手段を更に備える請求項1から3いずれか記載の反応システム。
【請求項5】
前記反応前駆体は、酸化剤及び含窒素化合物を含み、少なくとも前記酸化剤は、前記被熱交換槽に収容され、
前記反応手段は、前記酸化剤及び前記含窒素化合物を反応して、スライムコントロール剤を生成する請求項1から4いずれか記載の反応システム。
【請求項6】
複数の反応前駆体を反応して反応生成物を生成する方法であって、
反応前駆体の各々を収容する複数の前駆体槽から選択される一以上の被熱交換槽の外壁に、流路を熱伝導可能に設け、熱媒が導入される導入口及び熱媒が導出される導出口を除いて略密閉し、
前記流路の導入口から熱媒を供給する手順を有する方法。
【請求項7】
前記流路は、前記導入口及び前記導出口を除き略密閉された空間が内部に形成された中空部材を前記外壁に設けることで形成する請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記中空部材は、柔軟性を有する柔軟素材からなり、
前記方法は、前記中空部材を撓んだ状態で前記外壁に設ける請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記導出口から導出される熱媒を還流し、前記導入口から再導入する手順を更に有する請求項6から8いずれか記載の方法。
【請求項10】
前記反応前駆体は、酸化剤及び含窒素化合物を含み、
前記方法は、少なくとも前記酸化剤を前記被熱交換槽に収容し、
前記酸化剤及び前記含窒素化合物を反応して、スライムコントロール剤を生成する手順を有する請求項6から9いずれか記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−179617(P2009−179617A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22057(P2008−22057)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】