説明

反応器の構造充填物

反応器のための構造充填物が金属シートから形成されて、反応器の壁部付近における熱伝達および物質移動を促進する。構造充填物は、少なくとも一つの反応器壁部でのジェット衝突が促進されるように、充填物の中を流れる流体の側方流動を発生させる。充填物は、触媒反応器または熱交換器など、円筒形、環形、またはプレート型の反応器に使用される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年2月9日に出願された米国仮特許出願第61/207,170号の優先権を主張する。前記出願の開示内容は、全体として、ここに援用される。
【0002】
本発明は、反応器の構造充填物に関連する。充填物は、触媒反応器または熱交換器などの円筒形、環形、またはプレート型の反応器で使用される。
【背景技術】
【0003】
化学反応器および熱交換器などの反応器は、熱伝達、物質移動、および/または化学反応速度を促進するのに広く使用される。化学反応器などの反応器の場合には、(吸熱反応などのため)熱を反応器に伝達する、または(発熱反応などのため)熱を反応器から伝達する必要のあることが多い。大量生産での慣行では、規模の経済性を達成するため、直径の大きな反応器を使用することが望ましい。反応器内容物と周囲との間の熱の伝達を促進するには、反応器内の熱伝達率が高いことが望ましい。反応器の外径部付近では、反応器内の高い熱伝達率が特に望ましく、この場合、径方向熱流束のための表面積の内部容積に対する比は最小であり、径方向に伝達される熱の量は反応器の熱源内部の容積に比例する。流体と反応器壁部との間の摩擦により、高い熱伝達率が最も望ましい反応器壁部付近で、比較的低い速度、したがって比較的低い熱伝達率となることが多い。
【0004】
固定床、不均一、および触媒反応器では、反応器壁部への熱伝達が吸熱反応の反応速度を制限するか、反応器からの熱伝達が発熱反応の制御または安全動作を制限する。概して、反応器の内壁部の数を制限することで、熱が径方向に伝わらなければならない低速および低熱伝達率の境界層の数を最少にすることが望ましい。触媒反応器の表面積が増えると、触媒が効果的に分散される部位をより多く設けることにより、反応が加速する機会が多くなる。特に、触媒反応器の壁部付近の幾何学的表面エリアが増えると、熱が反応器に出入する短い距離において、発熱反応を実施するための有効熱量と吸熱反応のためのヒートシンクとがそれぞれ増加する。
【0005】
ランダムに充填された触媒床において可能である薄い壁部を含むことで、ランダム充填床で達成されるものと匹敵する、またはこれより軽い圧力低下で広い幾何学的表面積を含むようにして、金属基板で構成される加工充填物が構築されることが知られている。反応器壁部の付近で望ましい高さの熱伝達率を提供するように加工充填物が設計されることも知られている。
【0006】
特許文献1、特許文献2、特許文献3は、反応器壁部の付近で特異的に良好な熱伝達または幾何学的表面積を設けるのではなく、所望の軽い圧力低下で反応器の容積全体で幾何学的表面積および熱伝達を均一に向上させるための多様な設計の加工充填物に関する。
【0007】
特許文献4は、第1壁部と第2壁部の方へそれぞれ流体を誘導して反応器を通過する流体の乱流を誘発する交互性柱状体の通路を設ける環形体または二つの壁部の間での使用に適した加工充填物を開示している。このような充填物は、所望の軽い圧力低下で反応器壁部の付近に望ましい熱伝達および幾何学的表面積をもたらすが、製造が困難であるという短所も有する。
【0008】
特許文献5は、ディーゼルエンジン排気ガスから煤煙粒子を除去するためのフィルタボデーに関する。隣接のフィルタシートに流体を流すように設計された開示の構造は、流体を壁部に衝突させてこれから偏向させ、所望の熱伝達をもたらすのには適していない。
【0009】
特許文献6は、反応器軸の付近のコア構造と、コアと反応器壁部との間の筐体構造とを含む非環形反応器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,882,130号明細書
【特許文献2】米国特許第4,719,090号明細書
【特許文献3】米国特許第4,340,501号明細書
【特許文献4】米国特許第4,985,230号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0013580号明細書
【特許文献6】国際出願PCT/US2005/42425号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
圧力低下を著しく助長することなく固定床不均一触媒反応器などの反応器の特に反応器壁部付近における幾何学的表面積および/または熱伝達率を上昇させる反応器の構造充填物を提供することが、本発明の目的である。
【0012】
圧力低下を著しく助長することなく熱交換器の熱伝達率を上昇させる熱交換器の構造充填物を提供することが、本発明の別の目的である。
【0013】
本発明の以上の目的および他の目的は、以下に記載される発明の詳細から明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の構造充填物は、シートを切断してから反応器の壁部に流体を交互に衝突させて戻すため反応器軸に対して反対の斜配向で配置された翼部を含む交互性柱状体を包含する構造にシートを折り曲げることにより、容易に準備される。柱状体は、実質的に直線状の分離壁部によって相互に分離されている。同じシートから折り曲げられた翼部は、同じシートから折り曲げられたウェブにより、辺に沿って分離壁部に結合される。好ましくはシートが金属箔であって、順送りの曲げブランクダイにより構造が形成されることが好ましい。
【0015】
本発明の構造充填物は、環形反応器の環形体において円筒形の反応器チューブまたは筐体の内径部の付近、またはプレート型熱交換器の2枚の平坦壁の間など、別の反応器形状の2枚の壁部の間に設けられる。すべての場合で、本発明の構造充填物は流体を反応器壁部に衝突させることにより、この壁における熱伝達を上昇させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明の構造充填物の横断面図である。
【図1B】求心性翼部を示す本発明の構造充填物の長手方向かつ径方向断面図(図1AのBB断面に対応)である。
【図1C】求心性翼部を示す本発明の構造充填物の長手方向かつ径方向断面図(図1AのAA断面に対応)である。
【図2】本発明の構造充填物に形成されるシートの平面図である。
【図3】本発明の構造充填物に形成されるシートのより詳細な図である。
【図4】本発明の構造充填物の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の構造充填物は、入口と出口と少なくとも一つの壁部とを有する反応器に利用され、
(a)前後に折り曲げられることで、分離壁部により相互に分離される交互性の第1および第2柱状体の列を形成するシートと、
(b)第1翼部の少なくとも一部が反応器壁部に対する斜角で傾斜して第2翼部の少なくとも一部が反応器壁部に対する反対の斜角で傾斜するように、第1および第2柱状体にそれぞれ設けられた第1および第2方向翼部と、
(c)第1および第2翼部の少なくとも一部の少なくとも一つの側辺に沿って、第1および第2翼部の少なくとも一部を分離壁部に接続するウェブと、
(d)入口から前記出口まで延在する、分離壁部と前記反応器壁部との間の多数の間隙と、
を包含する。
【0018】
本発明の構造充填物は、金属シートまたは箔である単一のシートから形成されることが好ましい。上の段落(b)で言及された反対の斜角は、すべて同じか異なる大きさでよい。上の段落(d)で言及された間隙は不連続であることが好ましい。
【0019】
一般的に、本発明の構造充填物を含む反応器は円筒形を有し、内側および外側の同心壁部とその間の環形体とを含む。本発明の構造充填物は、第1および第2翼部をそれぞれ備える交互性の第1および第2柱状体の列を包含して、列が環形体に配置されることが好ましい。環形体と充填物とに配置されるプレートが、第1および第2翼部をそれぞれ備える交互性の第1および第2柱状体の列を好ましくは包含して、列が環形体に配置されることも好ましい。
【0020】
上述したように、反応器は化学反応器、例えば触媒反応器であっても、熱交換器であってもよい。触媒反応器の場合、シートの表面の少なくとも一部分に触媒が存在することが好ましい。
【0021】
図1Aを参照すると、反応器1は、円筒形壁部2と、壁部1の中に位置する陰影エリアとして描かれた構造充填物3とを有する。充填物3の外径部4は壁部1の内径部に対応する。充填物3は内径部5を有し、(陰影ドットエリアとして描かれた)長手方向柱状体6と(陰影斜線エリアとして描かれた)長手方向柱状体7とに分割される。柱状体6および7は交互して、径方向壁部8により相互から分離されている。反応器1の軸方向長さに沿って径方向壁部8と反応器壁部2との間に配置された断続的間隙(不図示)を反応器1は有する。反応器1の長さに沿って流れる流体は、柱状体6の中では遠心方向に、柱状体7の中を流れる間は求心方向に誘導される。
【0022】
図1B(図1AのB‐B断面における反応器1の長手方向断面図)を参照すると、柱状体6は外径部4から内径部5まで延在している。柱状体6の外径部4は、反応器壁部2を境界とする。柱状体6の軸方向長さは翼部9を含む。翼部9は、反応器1の上部から底部へ流体が流れる際に流体を遠心状に誘導する通路10を形成する。
【0023】
図1C(図1AのA‐A断面における反応器1の長手方向断面図)を参照すると、求心性柱状体7は、その外径部4から内径部5まで延在する。柱状体7の外径部4は、反応器壁部2を境界とする。柱状体7の軸方向長さは翼部11を含む。翼部11は、反応器1の上部から底部まで流体が通過する際に流体を求心状に誘導する通路12を形成する。
【0024】
図2を参照すると、求心状翼部を形成する反復形状30で構成される柱状体21と、遠心状翼部を形成する反復形状40で構成される柱状体22とを切断して折り曲げることにより、シート20が本発明の構造充填物に形成される。シート20は延性の剛性材料を包含し、金属箔であることが好ましい。
【0025】
図3を参照すると、図2の柱状体21からの形状30と図2の柱状体22からの形状40とが、より詳細に示されている。形状30では、翼部と、翼部をその形成材料であるシートに接続する二つの側方ウェブとがシート20から形成される。実線は、シートが切断される箇所を示す。点線は、シートの約90°の曲げ部を示す。鎖線は、シートの約180°の曲げ部を示す。
【0026】
ライン31,32,33に沿ってシート20が切断され、水平ライン33は、図示された形状30に類似している下の隣接形状(不図示)の水平ライン32に対応する。シートは、ライン34に沿って紙面と反対に約90°折り曲げられ、ライン35に沿って紙面の方へ約180°折り曲げられる。こうして形成された翼部9は、ライン32,33,34を境界とする本質的平坦面で構成される。翼部9は、翼部の2辺に沿ってウェブ37によりシートの残部に接着される。ウェブ37は、ライン31,34,35を境界とする。環形または円形の充填物については、図のように翼部9は底部よりも上部で幅が広くなっていることが好ましい。翼部9は、反応器1の上部から底部まで流体が流れるようにするための求心状通路を形成する翼部である。二つの平行な平坦壁部の間の充填物については、翼部9は上部と底部とで同じ幅を有することが好ましい。
【0027】
シート20はライン41,42,43に沿って切断され、水平ライン43は、図示された形状40と類似する下の隣接形状(不図示)の水平ライン42に対応する。シート20はライン44に沿って紙面の方へ約90°折り曲げられ、ライン45に沿って紙面と反対に約180°折り曲げられる。こうして形成された翼部11は、ライン42,43,44を境界とする本質的に平坦な表面で構成される。翼部11は、翼部の2辺に沿ってウェブ47によりシートの残部に接着される。ウェブ47は、ライン41,44,45を境界とする。環形または円形の充填物については、翼部11は図のように底部よりも上部で幅が狭くなっていることが好ましく、翼部11は、反応器1の上部から底部まで流れる流体の遠心状通路を形成する。二つの平行な平坦プレートの間に配置される充填物については、翼部47は上部と底部で同じ幅を有することが好ましい。
【0028】
図2および3を参照すると、シート20の下方エッジ23の上に、柱状体21の底部形状30の一部のみが配置されていることが分かる。柱状体21の底部形状30の切断エッジ31,32により、空隙、つまりこのような底部形状の充填物が存在しない部分が生じる。同様に、シート20の上方エッジ24の下に、柱状体22の上部形状40の一部のみが配置されていることが分かる。したがって、上方形状40は上部エッジ24により先が切り取られた形となる。
【0029】
上述のように形成されたシートは横方向長さに切断され、リングまたは環形に折り曲げられるか、さもなければ一つか二つの反応器の壁部付近に挿入される。リングの両端部は溶接や接着により、または両端部の連結により結合される。
【0030】
図4を参照すると、図4は、円筒形または環形の反応器のための本発明の構造充填物の切除斜視図であって、上述した図に対応する図4のすべての部材には、上述した図に記載されたものと同じ数字が付けられている。
【0031】
図4には、反応器壁部は示されていない。充填物の交互性分離壁部8は、相互に異なる陰影度でそれぞれ図示されている。翼部とウェブには陰影が付けられていないことに注意すること。充填物3は、箇所4が外径部となり、箇所5が内径部となる。ウェブ37により分離壁部に接着された遠心状翼部9は、充填物の遠心状柱状体となる。ウェブ37により分離壁部に接着された求心状翼部11は、充填物の求心状柱状体となる。遠心状および求心状の柱状体は筐体の周囲で交互しており、好ましくは反応器入口から反応器出口まで反応器1の全長に延在する。
【0032】
代替実施形態において、本発明の多数の構造充填物は、熱源とヒートシンクとの間で単一の反応器内に連続的に配置される。例えば、環形または円形の反応器において、二つ以上の構造充填物ユニットが同心状に相互に隣接して設けられるとよい。二つのプレート状反応器壁部の間、または異なる形状の二つの反応器壁部の間で、二つ以上の構造充填物ユニットが相互に隣接して平行に設けられてもよい。
【0033】
前出の実施形態は、本発明の実例である。しかし、発明の趣旨または以下の請求項の範囲を逸脱せずに、当該技術の当業者に周知であるかここに開示されるもの以外の手段が採用されてもよいことを理解すべきである。
【符号の説明】
【0034】
1 反応器
2 円筒形壁部
3 構造充填物
4 外径部
5 内径部
6,7 長手方向柱状体
8 径方向壁部
9 翼部
10 通路
11 翼部
12 通路
20 シート
21,22 柱状体
23 下方エッジ
24 上部エッジ
30 反復形状
31,32,33,34,35 ライン
37 ウェブ
40 反復形状
41,42,43,44,45 ライン
47 ウェブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口と出口と少なくとも一つの壁部とを有する反応器のための構造充填物であって、
(a)前後に折り曲げられることで、分離壁部により相互に分離された交互性の第1および第2柱状体の列を形成するシートと、
(b)第1翼部の少なくとも一部が前記反応器壁部に対して斜角で傾斜して第2翼部の少なくとも一部が前記反応器壁部に対して反対の斜角で傾斜するように、前記第1および第2柱状体の各々に設けられた第1および第2方向翼部と、
(c)前記第1および第2翼部の少なくとも一部の少なくとも一つの側辺に沿って前記第1および第2翼部の前記少なくとも一部を前記分離壁部に接続するウェブと、
(d)前記入口から前記出口まで延在する、前記分離壁部と前記反応器壁部との間の多数の間隙と、
を備える構造充填物。
【請求項2】
前記充填物が単一のシートから形成される、請求項1の構造充填物。
【請求項3】
前記シートが金属シートまたは箔を備える、請求項1の構造充填物。
【請求項4】
前記反対の斜角がすべて同じ大きさである、請求項1の構造充填物。
【請求項5】
前記反対の斜角がすべて異なる大きさである、請求項1の構造充填物。
【請求項6】
前記間隙が不連続である、請求項1の構造充填物。
【請求項7】
前記反応器が円筒形であって、内側および外側の同心壁部と、その間の環形体とを備える、請求項1の構造充填物。
【請求項8】
各々の前記第1および第2翼部を備える交互性の第1および第2柱状体の列を前記充填物が包含し、前記列が前記環形体に配置される、請求項7の構造充填物。
【請求項9】
前記環形体にプレートが配置され、各々の前記第1および第2翼部を備える交互性の第1および第2柱状体の列を前記充填物が包含し、前記列が前記環形体に配置される、請求項7の構造充填物。
【請求項10】
前記シートの少なくとも一部分に触媒が存在する、請求項1の構造充填物。
【請求項11】
前記反応器が触媒反応器を備える、請求項1の構造充填物。
【請求項12】
前記反応器が熱交換器を備える、請求項1の構造充填物。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−517338(P2012−517338A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549172(P2011−549172)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/021401
【国際公開番号】WO2010/090817
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(511164352)トリビュート クリエーションズ エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】