説明

反応媒体からオキシランを分離する事を含むオキシランの製造方法

【課題】副生成物の形成を最小限にしながら、高選択性と同時に高活性(又は高い反応速度)でオキシシランを製造する方法を提供する。
【解決手段】連続して配列された少なくとも二つの反応器のそれぞれが触媒の部分を含む反応器において、触媒と溶媒の存在下でオレフィンと過酸化物化合物との反応によりオキシランを製造するに際して、第一の反応と、次の反応との間において、第一の反応で得られた反応媒体から、蒸留により、一旦、生成したオキシシランを分離した後、オキシランに富む媒体から分離された、オキシシランの除去された媒体を、オキシシランの合成に必要な反応体を追加して、次の反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及び溶媒の存在下で、オレフィンと過酸化物化合物との間の反応によるオキシランの製造方法に関し、特に、本発明は、TS−1を含む触媒の存在下で過酸化水素を使用してプロピレン(又は塩化アリル)のエポキシ化によるプロピレンオキシド(又はエピクロロヒドリン)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
TS−1の存在下でプロピレンと過酸化物化合物との間の反応によってプロピレンオキシドを製造する事は公知の方法である。例えば、米国特許第5,849,937号明細書では、その様な方法が、連続して配列した幾つかの反応器で行われる。
【0003】
本発明者は、例えば、この公知の方法において過酸化物化合物として過酸化水素水溶液を使用し、溶媒としてメタノールを使用すると、この方法は副生成物を形成する欠点のある事を見付けた。特に、プロピレンオキシドがこれらの条件下で製造される時は、プロピレンオキシドと水又はメタノールとの間の反応によって副生成物、特に、式CH3−CHOH−CH2−OCH3とCH3−CH(OCH3)−CH2OHのプロピレングリコール及びメトキシプロパノールが形成される。エピクロロヒドリンが製造される時は、エピクロロヒドリンと水又はメタノールとの間の反応によって副生成物、特に、式ClCH2−CHOH−CH2−OCH3とCl−CH2−CH(OCH3)−CH2OHの1−クロロプロパンジオール及びクロロメトキシプロパノールが形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高選択性と同時に高活性(又は高い反応速度)を維持する新規な方法を用意する事によってこの欠点を解消するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的の為に、本発明は、連続して配列された少なくとも二つの反応器のそれぞれが触媒の部分を含む反応器において、触媒と溶媒の存在下でオレフィンと過酸化物化合物との反応によりオキシランを製造する方法であって、オレフィンの第一の部分、溶媒及び過酸化物化合物が第一の反応器に導入され、オレフィンの第一の部分のエポキシ化がその中で行われてオキシランの第一の部分を形成し、形成されたオキシランの第一の部分、溶媒、未転化のオレフィン及び、必要な場合には未消費の過酸化物化合物を含む媒体をこの反応器から除去して蒸留塔に導入し、形成されたオキシランと未転化のオレフィンの大部分を該塔の頂部で収集し、オキシランが消耗し、必要な場合には未消費の過酸化物化合物を含む媒体を、該塔の底部で収集し、オキシランが消耗した媒体及びオレフィンのその他の部分並びに任意に過酸化物化合物のその他の部分を次の反応器に導入し、オレフィンのその他の部分のエポキシ化をその中で行いオキシランのその他の部分を形成し、この様にして形成されたオキシランのその他の部分を収集する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明方法の好ましい実施態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の重要な特徴の一つは、二つのエポキシ化反応の間で行われる中間蒸留に在る。特に、これは、副生成物の形成を最小限にする事を可能とする。
蒸留は、反応媒体中で形成されるオキシランを出来るだけ素早く除去し、オキシランを反応媒体中のその他の成分と接触させない様にして副生成物の形成を防ぐのに役立つ。この分離は、エポキシ化反応器とは分離されていて且つ異なる蒸留塔において行われる。触媒はエポキシ化反応器を出ないので、蒸留はエポキシ化触媒の無い状態で行われ、形成されたオキシランと、副生成物の形成を促進するエポキシ化触媒との接触が防がれる。
【0008】
蒸留は、エポキシ化反応媒体から、形成されたオキシランの大部分を分離する事を可能とする。この大部分は、一般的に、第一の反応器で形成されるオキシランの量の80%以上である。通常は90%以上であり、普通は、99%以下であり、特に、95%以下である。
蒸留が行われる条件は、オキシランの性質(及び、特に、その沸点)、蒸留塔に導入される媒体中のその濃度、媒体のその他の成分(未転化オレフィン及び溶媒)の性質、それらの沸点及び必要とされる蒸留収率に依存する。
【0009】
蒸留は、一般的に、10℃以上の温度、好ましくは、35℃以上で行われ、45℃以上の値が薦められる。温度は、一般的に、125℃以下であり、最も一般的には100℃以下であり、90℃以下の値が好ましい。
蒸留は、一般的に、0.1bar以上、好ましくは、0.5bar以上の圧力で行われ、1bar以上の値が最も一である。圧力は、一般的に、10bar以下、特に、5bar以下であり、2bar以下の値が最も推奨される。本明細書においては、蒸留圧力は蒸留塔の頂部で測定される絶対圧に相当するものである。
【0010】
本発明方法において使用されても良い蒸留塔は、それ自身公知のものである。例えば、通常のプレートを持つ塔、或いは、「二相流」タイプのプレートを持つ塔、或いは、自由な又は構造化されたパッキングを持つ塔を使用することが出来る。
蒸留塔における理論段数は一般的に、20以上であり、特に、30以上である。80以下の数が良好な結果を与える。60以下の数が推奨される。
蒸留塔におけるモル還流の度合い(塔の頂部から取出される全体の蒸留物(蒸気+液体)に対する塔の頂部に送られる液のモル流量に相当する)は、通常、0.5以上、好ましくは0.8以上である。この度合いは、一般的に、5以下であり、通常は2.5以下である。
【0011】
本発明方法においては、少なくとも二つの連続して配列され且つ一緒に連結されたエポキシ化反応器を含むプラントが使用される。それぞれの反応器にオレフィンは供給される。過酸化物化合物及び溶媒は第一の反応器に導入される。又、新鮮な過酸化物化合物は、一個以上の次の反応器に導入されても良い。それぞれの反応器は、反応器を出ない触媒の部分を含む。触媒が固定床の形態で存在する時は、一般的に、反応器に触媒を保持する事に注意する必要はない。その代わりに、触媒は粒子の形態で存在しても良く、その内の少なくとも幾つかは、液体流によって、或いは機械的攪拌によって、又はガスによって流動化された状態で存在する。液体流が使用される時は、運動している触媒粒子を停止させる為に流動床の上に落下帯域を設けること及び/又は反応器の出口にフィルターを設ける事が推奨される。
【0012】
言うまでもなく、プラントは連結された二つ以上の反応器を含んでも良い。この場合、連結の第一の反応器にはオレフィン、過酸化物化合物、溶媒(及び任意に、この反応器に相当する蒸留塔の底部で得られる媒体の留分)が供給され、それぞれの次の反応器には、オレフィン、この系列の先行反応器から得られる媒体の残部及び任意に新しい過酸化物化合物が供給される。好ましくは、系列において三つの反応器が使用される。
本発明方法では、同じ寸法の反応器が使用されるのが好ましい。これは、一つの反応器において失活した触媒を新しい又は再生された触媒で置換える時に、プラントの機能(所謂、「回転」機能)を壊す事無しに、反応器の機能を交換する事を可能とする。
本発明方法においては、系列の第一の反応器だけではなく、それぞれの次の反応器に蒸留塔が続き、これは「次の蒸留」としてここでは参照される。この引き続いての蒸留は、第一及び第二エポキシ化の間で行われる中間蒸留と同じ機能を有する。引き続いての蒸留の条件は、中間蒸留に対して上で述べた条件と同様である。この実施態様では、それぞれの次の反応器を出る媒体であって、オキシランのその他の部分、溶媒、未転化オレフィン及び未消費の過酸化物化合物を含む媒体は、次の蒸留塔に導入され、オキシランのその他の部分と未転化オレフィンがその塔頂部で収集され、溶媒と未消費の過酸化物化合物は塔底部で収集される。連続プロセスでは、最後の蒸留塔の底部で収集された媒体(及び、溶媒と未消費の過酸化物化合物を含む媒体)を第一の反応器中に再循環する事が有利である。例えば、本発明方法が二つの反応器系で行われる時は、第二の蒸留塔の底部で収集された媒体は、第一の反応器に再循環されても良い。
【0013】
本発明方法の第二の実施態様では、オキシランと、蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)の頂部で収集された未転化オレフィンとの混合物が容器に導入され、そこでオキシランが未転化オレフィンから分離される。次いで、この未転化オレフィンが、反応器の一つに、好ましくは第一の反応器に再循環される。この容器は、凝縮器又は吸収液又は吸収固体或いはイオン交換膜(permselective membrane)を含む。凝縮器が使用するのに適当である。
本発明方法の第三の実施態様は粒子形態の触媒の使用に在り、少なくとも触媒の一部は流動化形態(本願と同日に出願された本願出願人の特許出願である、発明の名称が「粒子形態の触媒の存在下でのオキシランの製造方法」に開示されていて、その内容は参照によって導入される)に在る。この場合、反応器(第一の及び/又は次の反応器)を出る媒体が蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)に導入される前に通過するフィルターを設ける事が推奨される。この実施態様は、エポキシ化媒体中での触媒の均質な分散、良好な熱交換、従って、反応温度の容易な調節を可能とする。
【0014】
本発明方法の第四の実施態様では、蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)に入る媒体は、初めに、この蒸留塔に導入される前に減圧に掛けられる。この実施態様は、特に、エポキシ化が加圧下で、或いは、ガス状化合物の存在下で行われる時に適当である。このガス状化合物はオレフィンそれ自身であっても良く(例えば、プロピレン)、或いは、本願出願人の特許出願であるWO99/48883に開示されている様な、オキシランを連行して反応器から除去する為にエポキシ化反応媒体中に導入される不活性ガスであっても良い。
【0015】
本発明方法の第五の実施態様では、本願と同日に出願された本願出願人の特許出願である、発明の名称が「過酸化物化合物を使用するオキシランの製造方法」に開示されている様に(その内容は参照によって導入される)過酸化物化合物の全部が第一の反応器に導入される。次の反応器には、従って、新しい過酸化物化合物は供給されず、先行反応器から得られる媒体中に存在する過酸化物化合物及び先の反応器中で消費されなかった過酸化物化合物だけである。一般的に、水は、又、過酸化物化合物と一緒に第一反応器に導入される。過酸化物化合物が次の反応器に添加されない事は、同じ合計量の過酸化物化合物を使用して、それぞれの反応器に新たな過酸化物化合物として供給する方法に比べて、反応速度を減少させる事無しに、使用される過酸化物化合物の合計量の100%を消費する事を可能とする。
【0016】
本発明方法の好ましい実施態様は、図1において概略的に表される。この好ましい実施態様において、第一の反応器1は、触媒の部分、好ましくは流動床2を含む。反応器1にはパイプ3を経て次いでパイプ4を介してオレフィンが供給され、パイプ5を介して次いでパイプ4を経て過酸化物化合物が、そして、後に述べられるプラントの別の部分からパイプ4を介して溶剤が供給される。第一の反応器では、オレフィンの第一の部分が、触媒の存在下で過酸化物化合物と反応してオキシランの第一の部分を形成する。パイプ6を経て反応器1を出る媒体は、溶媒、オキシランの第一の部分、未消費の過酸化物化合物及び未転化のオレフィンを含む。この媒体はフィルター7を通過し、パイプ8を経て容器9の中に運ばれ、そこで減圧に掛けられる。媒体は、次いで、パイプ10を介して蒸留塔11に移送される。オキシランと未転化オレフィンの混合物は、この蒸留塔11の頂部で回収される。この混合物は、パイプ12を経て凝縮器13に運ばれ、ここで、未転化オレフィンからオキシランが分離される。未転化オレフィンはパイプ14、3及び4を経て反応器1へ再循環される。オキシランの第一の部分は、パイプ15を経て最終生成物として収集される。溶媒、反応器1で消費されなかった過酸化物化合物及び恐らく未転化オレフィンの一部を含む媒体は蒸留塔11の底部で収集される。その一部が、任意に、パイプ30を介して反応器1に再循環されても良いこの媒体は、パイプ16を介して、触媒、好ましくは流動床18の形態にある触媒のその他の部分を含む第二の反応器17に移送される。第二の反応器17には、パイプ19を介してオレフィンの第二の部分が供給される。第二の反応器17では、オレフィンの第二の部分が、触媒18の存在下で、第一の反応器からの未消費の過酸化物化合物と反応してオキシランの第二の部分を形成する。第二の反応器17における条件は、好ましくは、第一の反応器からの過酸化物化合物の全部が消費される様な条件である。パイプ20を介して反応器17を出る媒体は、従って、溶媒、オキシランの第二の部分及び未転化のオレフィンを含む。この媒体はフィルター21を通過してパイプ22を介して容器23に運ばれそこで減圧に掛けられる。次いで、媒体はパイプ24を経て第二の蒸留塔25に移送される。オキシランの第二の部分と未転化オレフィンの混合物は、この蒸留塔の頂部で回収される。この混合物はパイプ26を経て容器27に運ばれ、ここでオキシランが未転化オレフィンから分離される。この未転化オレフィンはパイプ28、14、3及び4を介して反応器1に再循環される。オキシランの第二の部分はパイプ29を経て最終生成物として収集される。パイプ4を介して第一の反応器1に再循環される溶媒及び、パイプ31を経て排出される水性流出液は、蒸留塔25の底部で収集される。
【0017】
本発明方法で使用される触媒は、活性要素としてゼオライト、好ましくは、チタニウムゼオライトを含む。「チタニウムゼオライト」と言う用語は、ゼオライトタイプの細孔構造を有し、幾つかのケイ素原子がチタニウム原子で置き換えられているシリカを含む固体を表すものである。チタニウムゼオライトは、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、MCM−41又はZSM−48タイプの結晶構造を有する。又、ベータゼオライトタイプの結晶構造、好ましくは、アルミニウム無しの結晶構造を有する。約950−960cm-1での赤外吸収バンドを持つゼオライトが使用に適する。シリケートタイプのチタニウムゼオライトが好ましい。式xTiO2(1−x)SiO2(ここで、xは、0.0001〜0.5、好ましくは、0.001〜0.05である)に相当するものが高い性能を与える。このタイプの材料は、TS−1の名称で公知であり、ゼオライトZSM−5に類似の細孔結晶構造を有する。
【0018】
本発明方法で使用される触媒は、好ましくは、本願出願人の特許出願のWO99/28029に開示されている様な押出しによって、或いは、本願出願人の特許出願のWO99/24164に開示されている様な噴霧方法によって得られる粒子の形態である。これら二つの特許出願の内容は参照によってここに導入される。
本発明方法で使用される溶媒は、飽和、直鎖又は分岐脂肪族アルコールから選ばれても良い。アルコール溶媒は、一般的に、10個迄の炭素原子を含み、好ましくは、1〜6個の炭素原子を含む。アルコール溶媒の例としては、メタノールとエタノールが挙げられる。メタノールが好ましい。
【0019】
第一の反応器で使用される溶媒の量は、一般的に、第一の反応器に存在する液体反応媒体の少なくとも25質量%、特に、少なくとも40質量%、例えば、少なくとも50質量%である。この量は、通常、99質量%を超えず、特に、95質量%を超えない。
本発明方法で使用されるオレフィンと過酸化物化合物の量の間のモル比は、一般的に、少なくとも0.1、特に、少なくとも0.2、好ましくは0.5である。このモル比は、通常、100よりは多くなく、特に、50より多くなく、好ましくは25よりも多くない。
本発明方法は連続又はバッチであっても良い。
本発明方法では、連続で行われる時は、過酸化物化合物は、一般的に、第一の反応器において、第一の反応器中に存在する触媒の少なくとも0.005モル/時間/g、特に、少なくとも0.01モルの量で使用される。過酸化物化合物の量は、通常、25モル以下、特に、10モル以下である。好ましくは、過酸化物化合物の量は0.03モル〜2.5モルの範囲である。
【0020】
本発明方法では、過酸化物化合物は、好ましくは、水溶液の形態で使用される。一般的に、この水溶液は、少なくとも2質量%、特に、少なくとも5質量%の過酸化物化合物を含む。通常は、90質量%以下、特に、70質量%含む。
オレフィンと過酸化物化合物との間の反応温度は、10℃〜125℃の範囲であっても良い。本願出願人の特許出願EP99/08703に開示されている有利な実施態様では、反応温度は、触媒の漸進的な失活を無くす為に35℃よりも高い。反応温度は、40℃以上、好ましくは、45℃以上である。50℃以上の温度が最も好ましい。反応温度は、好ましくは100℃未満である。
【0021】
本発明方法では、オレフィンと過酸化物化合物との間の反応は、大気圧で生起する。又、加圧下で行われても良い。この圧力は、一般的に、40barを超えない。20barの圧力が実際には適当である。
本発明方法で使用されても良い過酸化物化合物は、活性酸素を放出する事ができ且つエポキシ化を行う事のできる一種以上の過酸化物官能(−OOH)を含む過酸化物化合物である。過酸化水素及び、エポキシ化反応の条件下で過酸化水素を生成する事のできる過酸化物化合物が使用に適する。過酸化水素が好ましい。
過酸化水素が使用される時は、本発明方法では、粗製形態の水性過酸化水素溶液、即ち、精製されていない形態で使用するのが好ましい。例えば、少なくとも一種のアルキルアントラヒドロキノンの酸化(「自動酸化AOプロセス」として知られている方法)から誘導される混合物を実質的に純粋な水を用いて単純な抽出で、その後の洗浄及び/又は精製処理無しで得られる溶液が使用されても良い。これらの粗製過酸化水素溶液は、一般的に、TOC(Total Organic Carbon)として表示される有機不純物を0.001〜10g/l含む。それらは、通常、0.01〜10g/lの含有量で、金属カチオン(例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えば、ナトリウム)及びアニオン(例えば、リン酸塩及び硝酸塩)を含む。
【0022】
本発明方法のその他の実施態様では、メタノールの存在下で酸素と水素を使用する直接合成によって製造される過酸化水素溶液が使用されても良い。
本発明方法によって製造されるオキシランは、一般式:
【0023】
【化1】

【0024】
に相当する基を含む有機化合物である。
オキシランは、一般的に、2〜10個の炭素原子、好ましくは3〜6個の炭素原子を含む。本発明方法で有利に製造されるオキシランは、1,2−エポキシプロパン及び1,2−エポキシ−3−クロロプロパンである。好ましいオキシランは1,2−エポキシプロパンである。
本発明方法において適当なオレフィンは、一般的に、2〜10個の炭素原子、好ましくは3〜6個の炭素原子を含む。プロピレン、ブテン及び塩化アリルが使用に適する。プロピレンと塩化アリルが好ましく、最も好ましいのはプロピレンである。
【0025】
本発明方法では、液相のpHをモニターすることが有利である事がわかる。例えば、オレフィンと過酸化物化合物との間の反応中の液相のpHを、例えば、本願出願人の特許出願WO99/48882(この内容は参照によって本特許出願に導入される)で推奨されている様に、塩基(水酸化ナトリウム)をエポキシ化媒体に添加して4.8〜6.5の値に維持することが有利である。この塩基は、単一反応器(例えば、第一の反応器)又は幾つかの反応器に導入されても良い。好ましくは、それぞれの反応器に導入される。
【0026】
オレフィンと過酸化物化合物との間の反応は、本願出願人の特許出願EP99/08703(この内容は参照によって本特許出願に導入される)に開示されている様に、塩化ナトリウムの様な塩の存在下で行われても良い。この塩は、単一反応器(例えば、第一の反応器)又は幾つかの反応器に導入されても良い。好ましくは、それぞれの反応器に導入される。
オレフィンを一種以上のアルカンに希釈した形態で導入するのが有利である。例えば、オレフィンと、一種以上のアルカンの少なくとも10容量%(特に、20%、例えば、少なくとも30%)を含む流体をエポキシ化反応器中に導入しても良い。例えば、プロピレンの場合、再循環される未転化プロピレンが反応器に導入される時は、プロピレンを少なくとも10容量%のプロパンと混合しても良い。又、プロパンを僅かに含むプロピレン源であっても良い。
以下の実施例は本発明を例示するものであってその範囲を限定するものではない。
例1と2は、アスペンテクノロジー社のアスペンプラスソフトウエアを使用して、文献に記載された実験結果並びに液−気平衡を元に決められた反応の動力学的パラメーターを使用して計算された。
【実施例】
【0027】
この例では、プロピレンオキシドの合成が、第一の反応器で形成されたプロピレンオキシドの中間体の分離無しに、連続する二つの反応器で行われた。
326.5キロモル/hの過酸化水素と1,100キロモル/hの水を、反応温度において全てのプロピレンを溶解するのに十分な圧力下で、1,500キロモル/hのメタノールと250キロモル/hのプロピレンと混合した。反応混合物を、600kgの触媒を含む反応器に70℃で連続的に導入した。反応器流出液を、反応温度において全てのプロピレンを溶解するのに十分な圧力で、200キロモル/hのプロピレンと混合し、600kgの触媒を含む第二の反応器に70℃で連続的に導入した。
第二の反応器からの流出液は、2.3キロモル/hの未転化の過酸化水素、243.9キロモル/hのプロピレンオキシド及び77.4キロモル/hの副生成物(主に、メトキシプロパノールとプロパンジオール)を含んでいた。C3の収率は、過酸化水素の転化率99.3%に対して74.7%であった。
例2(本発明による)
この例では、プロピレンオキシドの合成が、第一の反応器で形成されたプロピレンオキシドの中間体の分離を伴い、連続する二つの反応器で行われた。
326.5キロモル/hの過酸化水素と1,100キロモル/hの水を、反応温度において全てのプロピレンを溶解するのに十分な圧力下で、1,500キロモル/hのメタノールと250キロモル/hのプロピレンと混合した。反応混合物を、600kgの触媒を含む反応器に70℃で連続的に導入した。
反応器流出液は、理論段数50の精留カラムに運ばれた。供給物は10番目の理論棚段(冷却器から数えて)に導入された。カラムは1.1 バール(絶対)で運転された。カラムの加熱温度は40℃(蒸留物が部分的に蒸発する)に維持された。モル還流の程度は1に設定された。蒸留物の流量は、カラム供給物中に存在するプロピレンオキシドの95%をカラムの頂部で回収できる様に調整された。
カラムの底部から取り出された混合物(プロピレンオキシドが除去されている)を、反応温度において全てのプロピレンを溶解するのに十分な圧力で、200キロモル/hのプロピレンと混合し、600kgの触媒を含む第二の反応器に70℃で連続的に導入した。第二の反応器からの流出液は、0.5キロモル/hのプロピレンオキシド及び68.5キロモル/hの副生成物(主に、メトキシプロパノールとプロパンジオール)を含んでいた。カラム蒸留物は168.8キロモル/hのプロピレンオキシドを含んでいた。C3の収率は、過酸化水素の転化率99.9%に対して78.0%であった。
【0028】
本発明の好ましい態様は、以下の通りである。
1. 連続して配列された少なくとも二つの反応器のそれぞれが触媒の部分を含む反応器において、触媒と溶媒の存在下でオレフィンと過酸化物化合物との反応によりオキシランを製造する方法であって、オレフィンの第一の部分、溶媒及び過酸化物化合物を第一の反応器に導入し、オレフィンの第一の部分のエポキシ化をその中で行ってオキシランの第一の部分を形成し、形成されたオキシランの第一の部分、溶媒、未転化のオレフィン及び、必要な場合には未消費の過酸化物化合物を含む媒体をこの反応器から除去して蒸留塔へ導入し、形成されたオキシランと未転化のオレフィンの大部分を該塔の頂部で収集し、オキシランが消耗し、必要な場合には未消費の過酸化物化合物を含む媒体を該塔の底部で収集し、オキシランが消耗した媒体及びオレフィンのその他の部分並びに任意に過酸化物化合物のその他の部分を次の反応器に導入し、オレフィンのその他の部分のエポキシ化をその中で行ってオキシランのその他の部分を形成し、この様にして形成されたオキシランのその他の部分を収集する事を特徴とする方法。
2. 次の反応器を出る媒体であって、オキシランのその他の部分、溶媒、未転化オレフィン及び、場合により未消費の過酸化物化合物を含む媒体を次の蒸留塔に導入し、オキシランのその他の部分と未転化のオレフィンの大部分をこの塔の頂部で収集し、溶媒及び、場合により未消費の過酸化物化合物をこの塔の底部で収集する、上記1に記載の方法。
3. 方法が、連続して配列された二つの反応器において実施され、第二の蒸留塔の底部で収集された媒体が第一の反応器に再循環される、上記2に記載の方法。
4. オキシランと、蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)の頂部で収集された未転化オレフィンとの混合物が凝縮器に導入されて、反応器の一つに再循環される未転化オレフィンからオキシランが分離される、上記1〜3の何れか一項に記載の方法。
5. 全ての反応器が同じ寸法である、上記1〜4の何れか一項に記載の方法。
6. 触媒が、それぞれの反応器において粒子形態で存在し、少なくともその一部が流動化形態である、上記1〜5の何れか一項に記載の方法。
7. 反応器(第一の及び/又は次の反応器)を出る媒体が、蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)に導入される前にフィルターを通過する、上記6に記載の方法。
8. 蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)に入る媒体が、初めに、この蒸留塔に導入される前に減圧操作に掛けられる、上記1〜7の何れか一項に記載の方法。
9. 過酸化物化合物の全部が第一の反応器に導入される、上記1〜8の何れか一項に記載の方法。
10. オキシランがプロピレンオキシド又はエピクロロヒドリンであり、オレフィンがプロピレン又は塩化アリルであり、過酸化物化合物が過酸化水素であり、溶媒がメタノールであり、触媒がTS−1を含む、上記1〜9の何れか一項に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続して配列された少なくとも二つの反応器のそれぞれが触媒を含む反応器において、触媒と溶媒の存在下でオレフィンと過酸化物化合物との反応によりオキシランを製造する方法であって、オレフィンの第一の部分、溶媒及び過酸化物化合物を第一の反応器に導入し、オレフィンの第一の部分のエポキシ化をその中で行ってオキシランを形成し、オキシランの第一の部分、溶媒、未転化のオレフィン及び、必要な場合には未消費の過酸化物化合物を含む媒体をこの反応器から除去して蒸留塔へ導入し、形成されたオキシランと未転化のオレフィンの大部分を該塔の頂部で収集し、オキシランが消耗し、必要な場合には未消費の過酸化物化合物を含む媒体を該塔の底部で収集し、オキシランが消耗した媒体及びオレフィンの別の部分並びに任意に過酸化物化合物の別の部分を次の反応器に導入し、オレフィンのその別の部分のエポキシ化をその中で行って更に別の部分のオキシランを形成し、形成された別の部分のオキシランを収集する事を特徴とする方法。
【請求項2】
次の反応器を出る媒体であって、別の部分のオキシラン、溶媒、未転化オレフィン及び、場合により未消費の過酸化物化合物を含む媒体を次の蒸留塔に導入し、オキシランと未転化のオレフィンの大部分をこの塔の頂部で収集し、溶媒及び、場合により未消費の過酸化物化合物をこの塔の底部で収集する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
連続して配列された二つの反応器において実施され、第二の蒸留塔の底部で収集された媒体が第一の反応器に再循環される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)の頂部で収集された、オキシランと、未転化オレフィンとの混合物が凝縮器に導入されて、反応器の一つに再循環される未転化オレフィンからオキシランが分離される、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
全ての反応器が同じ寸法である、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
触媒が、それぞれの反応器において粒子形態で存在し、少なくともその一部が流動化形態である、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応器(第一の及び/又は次の反応器)を出る媒体が、蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)に導入される前にフィルターを通過する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
蒸留塔(第一の及び/又は次の塔)に入る媒体が、初めに、この蒸留塔に導入される前に減圧操作に掛けられる、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
過酸化物化合物の全部が第一の反応器に導入される、請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
オキシランがプロピレンオキシド又はエピクロロヒドリンであり、オレフィンがプロピレン又は塩化アリルであり、過酸化物化合物が過酸化水素であり、溶媒がメタノールであり、触媒がTS−1を含む、請求項1〜9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
第一の反応器で形成するオキシシランの80%以上が蒸留により反応媒体から分離される請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
第一の反応器で形成するオキシシランの90%以上が蒸留により反応媒体から分離される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
蒸留が、10℃以上の温度で行われる請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
蒸留が、120℃以下の温度で行われる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
蒸留が、0.1bar以上10bar以下で行われる請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49726(P2013−49726A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−269535(P2012−269535)
【出願日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【分割の表示】特願2002−505383(P2002−505383)の分割
【原出願日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】