説明

反応容器及びこの容器を用いた自動分析装置

【課題】ラマン分光分析法における検体分注を簡易に行うことが可能な反応容器及びこの容器を用いた自動分析装置を提供すること。
【解決手段】ラマン分光分析に使用する反応容器及びこの容器を用いた自動分析装置。反応容器10は、少なくとも容器壁の一部に容器内の反応液が散乱する光の波長とは異なる波長の光を散乱するラマン活性を有した内部標準物質Sを含み、自動分析装置は、内部標準物質を少なくとも容器壁の一部に含む反応容器10を使用し、光学測定部は、ラマン散乱光を分光して測定する分光測定部を有し、光学測定部が測定した容器ラマン散乱光の測定値と反応液ラマン散乱光の測定値とをもとに検体の分析値を演算する分析部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン分光分析に使用する反応容器及びこの容器を用いた自動分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ラマン分光分析法は、ラマン散乱を利用して物質の定性分析や定量分析に利用されている。このラマン分光分析法による分析装置は、ラマンシフトがそれぞれ異なる内部標準物質と検体とを反応容器内に混在させた状態で試薬を分注し、測定光の照射によって発生するラマン散乱光に含まれる物質に固有のラマンスペクトルを測定することで検体を分析している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特表2000−516342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ラマン分光分析法による分析装置は、検量線作成の場合を含め、検体分析の都度、各反応容器に内部標準物質と検体とを正確に秤量して分注する必要があり、内部標準物質と検体の分注に手間と時間を要するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ラマン分光分析法における検体分注を簡易に行うことが可能な反応容器及びこの容器を用いた自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の反応容器は、ラマン分光分析に使用する反応容器であって、少なくとも容器壁の一部に当該容器内の反応液が散乱する光の波長とは異なる波長の光を散乱するラマン活性を有した内部標準物質を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の反応容器は、上記の発明において、前記反応容器は、前記内部標準物質によって容器壁の表面が被覆され、或いは前記内部標準物質を前記容器壁に含むか又は前記容器壁が前記内部標準物質からなることを特徴とする。
【0008】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の自動分析装置は、検体と試薬とを反応容器内で反応させ、反応液の光学的特性を光学測定部で測定して前記検体を分析する自動分析装置において、前記反応容器は、当該容器内の反応液が散乱する光の波長とは異なる波長の光を散乱するラマン活性を有する内部標準物質を少なくとも容器壁の一部に含む反応容器であり、前記光学測定部は、前記内部標準物質から散乱される容器ラマン散乱光及び前記反応液から散乱される反応液ラマン散乱光を分光して測定する分光測定手段を有し、前記光学測定部が測定した容器ラマン散乱光の測定値と反応液ラマン散乱光の測定値とをもとに前記検体の分析値を演算する分析部を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記容器ラマン散乱光の強度をもとに前記反応容器を検体測定に測定するか否かを判定する判定手段を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の自動分析装置は、上記の発明において、前記反応容器は、前記内部標準物質によって容器壁の表面が被覆され、或いは前記内部標準物質を前記容器壁に含むか又は前記容器壁が前記内部標準物質からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応容器は、少なくとも容器壁の一部に容器内の反応液が散乱する光の波長とは異なる波長の光を散乱するラマン活性を有する内部標準物質を含み、自動分析装置は、前記反応容器を使用するので、分析の都度内部標準物質を分注する必要がないので、検体分注を簡易に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の反応容器及びこの容器を用いた自動分析装置を、酵素免疫測定法(EIA)によって被検血液の抗原抗体反応を行なって免疫検査を実施する自動分析装置を例に説明する。
【0013】
図1は、本発明の自動分析装置の概略構成を示す模式図である。自動分析装置1は、図1に示すように、検体と試薬との間の反応物の作用による発光基質の発光量を測定する測定機構2と、測定機構2を含む自動分析装置1全体の制御を行なうと共に、測定機構2における測定結果の分析を行なう制御機構4とを備えている。自動分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体の免疫学的な分析を自動的に行なう。
【0014】
測定機構2は、図1に示すように、検体移送装置21、チップ格納部22、検体分注装置23、免疫反応テーブル24、BFテーブル25、第1試薬庫26、第2試薬庫27、第1試薬分注装置28、第2試薬分注装置29、酵素反応テーブル30、光学測定部31、第1反応管移送装置32及び第2反応管移送装置33を備えている。測定機構2の各構成部は、所定の動作処理を行なう単数または複数のユニットを備えている。
【0015】
検体移送装置21は、図1に示すように、検体を収容した複数の検体容器21aを保持した複数の検体ラック21bを図中の矢印方向に順次搬送する。検体容器21aに収容された検体は、検体の提供者から採取した血液または尿などである。検体移送装置21は、ベルトコンベアをモータ等の駆動部21cによって駆動することによって検体ラック21bを搬送する。
【0016】
チップ格納部22は、複数のチップを整列したチップケースが設置されている。チップ格納部22は、このケースからチップを検体分注装置23のノズルに供給する。このチップは、感染症項目測定時のキャリーオーバー防止のため、検体分注装置23のノズル先端に装着され、検体分注ごとに交換されるディスポーザブルタイプの検体分注用チップである。
【0017】
検体分注装置23は、図1に示すように、鉛直方向への昇降及び自身の基端部を回転軸として回転するアーム23aを備えており、ステッピングモータ23bに駆動され、アーム23aの先端に検体の吸引及び吐出を行なうチップが着脱自在に取り付けられる。検体分注装置23は、検体移送装置21によって吸引位置に移動された検体容器21a内の検体をチップによって吸引し、アーム23aを旋回させ、BFテーブル25によって搬送される反応管10に所定タイミングで分注する。
【0018】
ここで、反応管10は、1回の分析ごとに使い捨てられる合成樹脂製の容器であり、少なくとも管壁の一部にラマン活性を有する内部標準物質を含んでいる。即ち、本発明の反応管10は、図2に示すように、円筒形に成形された本体10a上部の開口10b外周に鍔部10cが形成され、本体10aの底部は半球状に成形され、外表面にはラマン活性を有する内部標準物質Sがコーティングされている。このとき、内部標準物質Sは、反応管10内で反応した反応液が散乱する光の波長とは異なる波長の光を散乱する物質を予め選択しておく。このようなラマン活性を有する内部標準物質としては、例えば、例えば、金(Au)や銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)などの金属で形成されたナノ粒子(ナノコロイド、ナノロッド、ビーズ、GAN粒子を含む)を使用することができるが、これ以外にも周知のラマン活性分子を用いて構わない。
【0019】
ここで、反応管10は、ラマン活性を有する内部標準物質を容器壁に含むか又はラマン活性を有する内部標準物質によって反応管10全体を成形してもよい。この場合の内部標準物質としては、上記のものを使用することができる。
【0020】
免疫反応テーブル24は、図1に示すように、複数の反応管10を配列する反応ラインが同心円上に複数配置されており、モータ等の駆動部24aによって中心を通る回転軸の周りに回転し、配置した反応管10を矢印で示す周方向に搬送する。免疫反応テーブル24は、各反応ラインのそれぞれに配置された反応管10内で検体と分析項目に対応する所定の試薬とを反応させる。免疫反応テーブル24は、前記反応ラインごとに回動し、免疫反応テーブル24に配置された反応管を所定タイミングで所定位置に移送する。
【0021】
BFテーブル25は、図1に示すように、複数の反応管10を配列する反応ラインが同心円上に複数配置されており、モータ等の駆動部25aによって中心を通る回転軸の周りに回転し、配置した反応管10を矢印で示す周方向に搬送する。BFテーブル25は、所定の洗浄液を反応管10へ吸引吐出して検体または試薬における未反応物質を分離するBF(Bound-Free)分離を実施するBF洗浄処理を行なう。このため、BFテーブル25は、BF分離に必要な磁性粒子を集磁する集磁機構、BF洗浄液を反応管10内に吐出・吸引してBF分離を実施するBF洗浄ノズルを有するBF洗浄部25b及び集磁された磁性粒子を分散させる攪拌機構等を有している。
【0022】
第1試薬庫26は、図1に示すように、BFテーブル25に配置される反応管10内に分注する第1試薬を収容した第1試薬容器26aが複数収納され、モータ等の駆動部26bによって中心を通る回転軸の周りに回転される。この回転により、第1試薬庫26は、収納した第1試薬容器26aを矢印で示す周方向に搬送する。第1試薬は、分析対象である検体内の抗原または抗体と特異的に結合する反応物質を不溶性担体である磁性粒子に固着させた試薬である。
【0023】
第2試薬庫27は、図1に示すように、第2試薬を収容した第2試薬容器27aや標識物質との酵素反応によって発光する基質を含む基質液を収容した基質液容器27bを複数収納する。第2試薬庫27は、モータ等の駆動部27cによって中心を通る回転軸の周りに回転され、収納した第2試薬容器27aや基質液容器27bを矢印で示す周方向に搬送する。第2試薬は、磁性粒子と結合した抗原または抗体と特異的に結合する標識物質(たとえば酵素)を含む試薬である。
【0024】
第1試薬分注装置28は、図1に示すように、鉛直方向への昇降及び自身の基端部を回転軸として回転するアーム28aを備えており、第1試薬の吸引および吐出を行なうプローブがアーム28aの先端に取り付けられている。第1試薬分注装置28は、モータ等の駆動部28bによって駆動され、第1試薬庫26が吸引位置に搬送した第1試薬容器26aから第1試薬を吸引し、BFテーブル25上の第1試薬吐出位置に搬送された反応管10に吐出して第1試薬の分注を行う。また、第1試薬分注装置28は、第2試薬庫27が吸引位置に搬送した基質液容器27bから基質液を吸引し、BFテーブル25上の基質液吐出位置に搬送された反応管10に吐出して基質液の分注も行う。
【0025】
第2試薬分注装置29は、第1試薬分注装置28と同様に、先端にプローブを取り付けたアーム29aと、モータ等の駆動部29bとを有している。第2試薬分注装置29は、第2試薬庫27が試薬吸引位置に搬送した第2試薬容器27aから第2試薬を吸引し、BFテーブル25上の第2試薬吐出位置に搬送された反応管10に吐出して第2試薬の分注を行う。
【0026】
酵素反応テーブル30は、図1に示すように、BFテーブル25から移送される反応管10を周方向に沿って配列する反応ラインを有し、反応管10内に注入された基質液内の基質が発光するように酵素反応処理を行なう。酵素反応テーブル30は、モータ等の駆動部30aによって中心を通る回転軸の周りに回転し、配置した反応管10を矢印で示す周方向に搬送する。反応管10内の反応液内の基質から発する発光は、光学測定部31によって測定される。
【0027】
光学測定部31は、図3に示すように、光源31a、照射側レンズ31b、受光側レンズ31c及び分光測定部31dを有している。
【0028】
光源31aは、測定光を反応管10に照射するレーザ光源である。照射側レンズ31bは、光源31aと反応管10との間に配置され、光源31aから出射された測定光を集光して反応管10に照射する。受光側レンズ31cは、反応管10と分光測定部31dとの間に配置されている。受光側レンズ31cは、反応管10に照射され、管壁の外表面にコーティングされた内部標準物質Sから散乱される容器ラマン散乱光及び反応管10内の反応液から散乱される検体ラマン散乱光を平行にして分光測定部31dへ入射させる。
【0029】
分光測定部31dは、光源31aが出射する測定光の光軸Aに対して90°の角度をなす位置に配置されている。分光測定部31dは、入射する容器ラマン散乱光と検体ラマン散乱光とを分光するモノクロメータと、分光された入射光を増幅してラマン強度を測定する検出器とを有している。分光測定部31dは、分光された各スペクトルのラマンシフト(cm-1)とラマン強度とを測定し、測定したラマンシフト(cm-1)とラマン強度に関する信号(アナログ)をデジタル化した測定信号を制御部41へ出力する。このデジタル化された測定信号は、記憶部44へ出力されて記憶される。
【0030】
第1反応管移送装置32は、図1に示すように、鉛直方向への昇降及び自身の基端部を回転軸として回転するアーム32aを備えており、ステッピングモータ32bによって駆動される。第1反応管移送装置32は、液体を収容した反応管10をアーム32aによって所定タイミングの下に免疫反応テーブル24、BFテーブル25、酵素反応テーブル30、反応管供給部及び反応管廃棄部(共に図示せず)の所定位置に移送する。
【0031】
第2反応管移送装置33は、第1反応管移送装置32と同様に構成され、図1に示すように、アーム33aとステッピングモータ33bとを有しており、アーム33aの駆動経路の一部が第1反応管移送装置32のアーム32aと重複している。第2反応管移送装置33は、液体を収容した反応管10をアーム33aによって所定タイミングの下に酵素反応テーブル30、光学測定部31及び反応管廃棄部(図示せず)の所定位置に移送する。
【0032】
制御機構4は、制御部41、入力部42、分析部43、記憶部44、出力部45、送受信部46及び判定部47を備えている。測定機構2及び制御機構4が備えるこれらの各部は、制御部41と電気的に接続されている。制御機構4は、一又は複数のコンピュータシステムを用いて実現される。制御機構4は、自動分析装置1の各処理にかかわる各種プログラムを用いて、測定機構2が実行する動作処理の制御を行なうと共に、測定機構2における測定結果の分析を行なう。
【0033】
制御部41は、制御機能を有するCPU等を用いて構成され、自動分析装置1の各構成部位の処理及び動作を制御する。制御部41は、これらの各構成部位に入出力される情報について所定の入出力制御を行ない、かつ、この情報に対して所定の情報処理を行なう。制御部41は、記憶部44が記憶するタイムチャートを含むプログラムをメモリから読み出すことにより自動分析装置1の制御を実行する。
【0034】
ここで、制御部41は、被駆動手段である検体移送装置21、検体分注装置23、免疫反応テーブル24、BFテーブル25、第1試薬庫26、第2試薬庫27、第1試薬分注装置28、第2試薬分注装置29、酵素反応テーブル30、第1反応管移送装置32及び第2反応管移送装置33の作動を制御する。
【0035】
入力部42は、種々の情報を入力するためのキーボード、出力部45を構成するディスプレイの表示画面上における任意の位置を指定するためのマウス等を用いて構成され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。
【0036】
分析部43は、制御部41と連係し、測定機構2から取得した光学測定部31におけるラマン散乱光の測定値をもとに検体の分析値の演算やラマン散乱光の測定値を検体の分析値とするための検量線や検量表の作成、反応管10のスクリーニング並びに反応液ラマン散乱光の強度補正を含む分析処理等を行なう。
【0037】
記憶部44は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、自動分析装置1が処理を実行する際にその処理にかかわる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて構成され、検体の分析結果や異常停止時の回復方法等を含む諸情報を記憶している。記憶部44は、CD−ROM、DVD−ROM、PCカード等の記憶媒体に記憶された情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えていてもよい。
【0038】
出力部45は、プリンタ、スピーカー等を用いて構成され、制御部41の制御のもと、分析に関する諸情報を出力する。出力部45は、ディスプレイ等を用いて構成された表示部45aを備えている。
【0039】
送受信部46は、図示しない通信ネットワークを介して所定の形式に従った情報の送受信を行なうインターフェースとしての機能を有している。
【0040】
判定部47は、光学測定部31が測定した反応管10の容器ラマン散乱光の強度をもとにエラー判定をする判定手段である。判定部47は、容器ラマン散乱光の強度が所定閾値範囲内の場合には反応管10を検体測定に使用可と判定し、所定閾値範囲外の場合には適正な測定ができなかったとしてエラー判定する。判定部47は、反応管10についての判定結果を制御部41へ出力する。
【0041】
ここで、反応管10について測定した容器ラマン散乱光の強度が所定閾値範囲外の場合、反応管10は、光学測定部31が出射する測定光の光軸に対して位置が大きくずれている場合か、コーティングされた内部標準物質Sの量が規定値に満たない等による不良品の場合のいずれかであり、測定に不適である。このため分析部43は、、分析に使用する反応管10の再チェックを目的として各反応管10の容器ラマン散乱光の強度をもとにスクリーニングを実行する。分析部43による反応管10のスクリーニングについては後述する。
【0042】
一方、反応管10は、第2反応管移送装置33によって酵素反応テーブル30から光学測定部31へ移送されてくる。このため、反応管10は、光学測定部31における位置が微妙にばらつくことがある。この結果、図3に示すように、反応管10の中心Cが光源31aから出射される測定光Lの光軸Aに対してずれていると、光学測定部31が測定する反応管10から散乱される容器ラマン散乱光Lcや反応液ラマン散乱光Lrの強度が変動することになる。このため、分析部43は、測定時の各反応管10の反応液ラマン散乱光の強度を補正する。この反応液ラマン散乱光の強度補正についても後述する。
【0043】
以上のように構成される自動分析装置1においては、第1試薬分注処理、検体分注処理、第1BF洗浄処理、第2試薬分注処理、第2BF洗浄処理、基質液分注処理、測定処理および分析処理が行われる。
【0044】
まず、図4(1)に示すように、図1に示さない反応管供給部より、BFテーブル25の所定位置に第1反応管移送装置32によって反応管10が移送され、この反応管10内に磁性粒子61を含む第1試薬が第1試薬分注装置28から分注される第1試薬分注処理が行われる。その後、図4(2)に示すように、検体移送部21によって所定位置に移送された検体容器21a内から、チップ格納部22から供給されたチップを装着した検体分注装置23によって、BFテーブル25上の反応管10内に検体が分注される検体分注処理が行われる。そして、反応管10は、BFテーブル25の攪拌機構によって攪拌された後、第1反応管移送装置32によって、免疫反応テーブル24の中周ライン24bに移送される。この場合、一定の反応時間経過によって、検体中の抗原62と磁性粒子61とが結合した反応物64(図4(3)参照)が生成する。なお、磁性粒子61は磁性粒子担体に検出対象である検体中の抗原62に対する抗体が固相されている。
【0045】
そして、反応管10は第1反応管移送装置32によってBFテーブル25に移送され、図4(3)に示すように、1回目の第1BF洗浄処理が行われる。第1BF洗浄処理においては、BFテーブル25の集磁機構25bを用いて構成物として磁性体を有する反応物64を集磁させた状態で、BF液吐出ノズル251aによるBF液の注入およびBF液吸引ノズル251bによるBF液の吸引が行なわれるBF分離が実施される。この結果、図示のように、反応管10内の未反応物質63が除去される。
【0046】
そして、図4(4)に示すように、BF分離後の反応管10内に標識抗体65を含む標識試薬が第2試薬として第2試薬分注装置29から分注され、攪拌機構によって攪拌される第2試薬分注処理が行われる。この結果、反応物と標識抗体65とが結合した免疫複合体67が生成される。その後、反応管10は、第1反応管移送装置32によって免疫反応テーブル24の内周ライン24cに移送され、一定の反応時間が経過した後、BFテーブル25に移送される。
【0047】
そして、図4(5)に示すように、反応管10に対して、2回目の第2BF洗浄処理が行われる。第2BF洗浄処理においては、BFテーブル25の集磁機構25bを用いて構成物として磁性体を有する免疫複合体67を集磁させた状態で、BF液吐出ノズル251aによるBF液の注入およびBF液吸引ノズル251bによるBF液の吸引が行なわれるBF分離が実施される。この結果、図4(5)に示すように、反応管10から反応物64と結合していない標識抗体65が除去される。
【0048】
そして、図4(6)に示すように、反応管10には、基質66を含む基質液が分注され再度攪拌される基質液分注処理が行われる。つぎに、反応管10は、第1反応管移送装置32によって酵素反応テーブル30に移送され、酵素反応に必要な一定の反応時間が経過した後、第2反応管移送装置33によって光学測定部31に移送される。反応管10は、光学測定部31から図4(7)に示すように測定光Lが照射され、酵素反応を経た基質は、免疫複合体67の酵素作用によりラマン散乱光Lrを発する。この状態で、光学測定部31によって基質66から発せられるラマン散乱光Lrが測定される測定処理が行われる。
【0049】
このとき、光学測定部31は、反応管10及び基質から散乱されるラマン散乱光のラマン強度とラマンシフト(cm-1)を測定する。光学測定部31は、例えば、図5に示すように、反応管10の外表面にコーティングした内部標準物質Sから散乱される容器ラマン散乱光Lcと、酵素反応を経た基質を含む反応液から散乱される反応液ラマン散乱光Lrとを分光スペクトルとして測定する。このとき、容器ラマン散乱光Lcは、反応液ラマン散乱光Lrとは波長が異なっている。そして、分析部43は、測定されたラマン散乱光の測定値をもとに検体の分析値を演算する。
【0050】
このように、本発明の自動分析装置1は、反応容器として外表面にラマン活性を有する内部標準物質Sがコーティングされた反応管10を使用している。このため、検体の分析に際し、従来のように検体分注の都度内部標準物質を分注する必要がないので、ラマン分光分析法における検体分注を簡易に行うことができ、内部標準物質用の分注手段が不要なうえ、内部標準物質の分注に要する手間と時間を省略することができる。
【0051】
そして、例えば、初期化時等を利用して検量線を作成する際、自動分析装置1は、制御部41と分析部43との連係のもとに、以下のようにして分析に使用する複数の反応管10に関する検量線を分析部43が作成する。以下、分析部43が実行する反応管10のスクリーニングと検量線の作成手順を、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0052】
先ず、空の反応管10を光学測定部31にセットさせる(ステップS100)。次に、光学測定部31に空の反応管10のラマン散乱光を測定させる(ステップS102)。これにより、光学測定部31が空の反応管10について容器ラマン散乱光のラマン強度とラマンシフト(cm-1)を測定する。次いで、測定した空の反応管10のラマン強度が所定閾値範囲内か否かを判定部47に判定させる(ステップS104)。
【0053】
判定部47による判定の結果、容器ラマン散乱光の強度が所定閾値範囲を超えている場合(ステップS104,No)、その反応管10について適正な測定ができず、測定に不適としてエラー判定する(ステップS106)。判定部47がエラー判定をした場合、表示部45aにエラー判定を表示させる(ステップS108)。これにより、オペレータがその反応管10の交換や光学測定部31における配置のチェック等のメンテナンスを実行し、測定に不適な反応管10がスクリーニングされる。そして、オペレータは、メンテナンス終了時はリセットボタンの押下や入力部42からのメンテナンス終了を入力することにより、判定部47によるエラー判定や表示部45aにおけるエラー判定の表示を解除させる。
【0054】
一方、容器ラマン散乱光の強度が所定閾値範囲内の場合(ステップS104,Yes)、その反応管10は、測定に適している。このため、このような反応管10には、それぞれ濃度の異なる標準試料と試薬を順次分注し、上述したBF洗浄処理及び酵素反応処理を実行させる(ステップS110)。これにより、分注された標準試料と試薬について上述したBF洗浄処理及び酵素反応処理が実行される。このとき、反応管10は、上述したように第1反応管移送装置32及び第2反応管移送装置33によって免疫反応テーブル24、BFテーブル25及び酵素反応テーブル30を移送される。
【0055】
その後、光学測定部31に反応管10のラマン散乱光を測定させる(ステップS112)。これにより、標準試料にBF洗浄処理及び酵素反応処理が実行され、酵素反応を経た基質を含む反応液を保持した反応管10について、光学測定部31によって内部標準物質Sから散乱される容器ラマン散乱光と、反応液、即ち、酵素反応を経た基質から散乱される反応液ラマン散乱光が分光して測定される。
【0056】
次に、測定した反応液ラマン散乱光の実測ラマン強度を補正する(ステップS114)。この補正は、分析部43によって各反応管10について実行され、先ず、反応管10について測定した容器ラマン散乱光のラマン強度Icと空の反応管10について測定した容器ラマン散乱光のラマン強度Iccをもとに式(1)で示される補正係数Cを計算する。
C=Icc/Ic……………(1)
【0057】
次いで、分析部43は、補正係数Cを用い、各反応管10について測定した反応液ラマン散乱光のラマン強度Irに関する補正ラマン強度Ircを式(2)によって計算する。
Irc=C・Ir……………(2)
【0058】
分析部43は、複数の反応管10に関する前記データをもとに補正ラマン強度Ircと標準試料の濃度とに関する検量線を作成する(ステップS116)。これと共に、分析部43は、これら複数の反応管10に関する反応液ラマン散乱光の補正ラマン強度Irc及び標準試料の濃度を反応管10毎に対応付け、分析データとして制御部41を介して分析部43から記憶部44へ出力し、記憶部44に記憶させる。これにより、分析部43が実行する反応管10のスクリーニングと検量線の作成手順が終了する。
【0059】
ここで、反応管10は、空の反応管10の容器ラマン散乱光の強度を測定することなく、標準試料と試薬を分注し、酵素反応を経た基質のラマン散乱光を光学測定部31に測定させてもよい。但し、このようにすると、容器ラマン散乱光の強度が所定閾値範囲を超えてエラー判定された場合に、分注した標準試料や試薬に加えBF洗浄処理及び酵素反応処理が無駄になる。このため、ステップS102における空の反応管10の容器ラマン散乱光の強度測定を先行して行う必要がある。これは、検体を分析する場合も同様である。
【0060】
また、分析部43は、補正ラマン強度Ircと標準試料の濃度とに関する検量線を作成するが、数式化不能の場合には検量表を作成する。
【0061】
一方、検体を分析する場合、自動分析装置1は、制御部41と分析部43との連係のもとに、分析部43が以下のようにして反応管10ごとに検体を分析する。以下、反応管10ごとに分析部43が実行する反応液ラマン散乱光の強度補正を含む分析手順を、図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0062】
先ず、空の反応管10を光学測定部31にセットさせる(ステップS200)。次に、光学測定部31に空の反応管10のラマン散乱光を測定させる(ステップS202)。次いで、判定部47にラマン強度が所定閾値範囲内か否かを判定させる(ステップS204)。
【0063】
判定部47による判定の結果、容器ラマン散乱光の強度が所定閾値範囲を超えている場合(ステップS204,No)、その反応管10について適正な測定ができず、測定に不適としてエラー判定する(ステップS206)。判定部47がエラー判定をした場合、表示部45aにエラー判定を表示させる(ステップS208)。このエラー判定が表示された場合、オペレータは、当該反応管10の交換や光学測定部31における配置のチェック等のメンテナンスの実行によって測定に不適な反応管10のスクリーニングを行った後、検量線作成の場合と同様にしてエラー判定を解除させる。
【0064】
一方、容器ラマン散乱光の強度が所定閾値範囲内の場合(ステップS204,Yes)、標準試料と試薬を順次反応管10に分注し、上述したBF洗浄処理及び酵素反応処理を実行させる(ステップS210)。その後、光学測定部31に反応管10のラマン散乱光を測定させる(ステップS212)。これにより、検体にBF洗浄処理及び酵素反応処理が実行され、酵素反応を経た基質を含む反応液を保持した反応管10について、内部標準物質Sから散乱される容器ラマン散乱光と、反応液から散乱される反応液ラマン散乱光が分光して測定される。
【0065】
次に、測定した反応液ラマン散乱光の実測ラマン強度を補正する(ステップS214)。この補正は、検量線作成の場合と同様にして分析部43が実行する。次いで、分析部43は、作成した検量線を用い反応液ラマン散乱光の補正ラマン強度Ircから検体の分析値を演算する(ステップS216)。このようにして得られる複数の反応管10に関する反応液ラマン散乱光の補正ラマン強度Irc及び分析値は、反応液ラマン散乱光の測定ラマン強度データ及び分析値データとして制御部41を介して分析部43から記憶部44へ出力され、記憶される。このようにして複数の反応管10に関する反応液ラマン散乱光の強度補正を含む分析手順が終了する。
【0066】
尚、光学測定部31は、図8に示すように、光源31aと反射管10Aとの間に照射側レンズ31b、ビームスプリッタ31e及び出射側レンズ31fをこの順に直線上に配置し、反応管10から散乱され、ビームスプリッタ31eで反射したラマン散乱光の出射側に受光側レンズ31c及び分光測定部31dを配置してもよい。
【0067】
また、本発明の反応容器は、少なくとも容器壁の一部にラマン活性を有する内部標準物質を含んでいれば、特に形状に限定はない。例えば、図8に示した反応管10Aのように、四角筒形状であってもよいし、多角筒形状であってもよい。更に、本発明の反応容器は、例えば、マイクロ流体チップのように板状であってもよい。
【0068】
一方、光学測定部31は、図8に示す場合、測定光を集光して反応管10Aに照射した。しかし、光学測定部31は、平行光を反応管10,10Aに照射してもよい。また、反応管10,10Aから散乱されたラマン散乱光を測定する方向は、上述した側方の他、反応管10,10Aの上方や下方からであってもよい。また、光学測定部31は、分光測定部31dを光源31aが出射する測定光の光軸に対して90°の角度をなす位置に配置したが、レイリー光を除去フィルタ等によって除去できるので、この角度に限定されるものではない。
【0069】
また、反応管10は、測定光の光軸に対して適切な位置となるように光学測定部31に対して位置決めすることができ、また、コーティングされた内部標準物質Sの量が規定値を満たすことがメーカーによって保証されていれば、上述したラマン散乱光測定(ステップS102,S202)及びラマン強度が所定閾値範囲内かの判定(S104,S204)は不用である。
【0070】
更に、上記実施の形態は、免疫検査用の自動分析装置1を例に説明したが、本発明の自動分析装置は、ラマン散乱光を測定することによって検体を分析するものであれば、生化学検査用や遺伝子検査用の自動分析装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の自動分析装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の反応容器の一例を示す反応管の斜視図である。
【図3】図1に示す自動分析装置の光学測定部の概略構成を反応管の平面図と共に示す図である。
【図4】図1に示す自動分析装置における検体に対する分析処理を説明する図である。
【図5】光学測定部が測定した反応管のラマン散乱光の一例を示すスペクトル分布図である。
【図6】反応管ごとに分析部が実行する反応管のスクリーニングと検量線の作成手順を説明するフローチャートである。
【図7】反応管ごとに分析部が実行する反応液ラマン散乱光の強度補正を含む分析手順を説明するフローチャートである。
【図8】光学測定部の他の構成と、反応管の他の形状の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 自動分析装置
2 測定機構
10,10A 反応管
21 検体移送装置
22 チップ格納部
23 検体分注装置
24 免疫反応テーブル
25 BFテーブル
26 第1試薬庫
27 第2試薬庫
28 第1試薬分注装置
29 第2試薬分注装置
30 酵素反応テーブル
31 光学測定部
31d 分光測定部
32 第1反応管移送装置
33 第2反応管移送装置
4 制御機構
41 制御部
42 入力部
43 分析部
44 記憶部
45 出力部
46 送受信部
47 判定部
S 内部標準物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光分析に使用する反応容器であって、
少なくとも容器壁の一部に当該容器内の反応液が散乱する光の波長とは異なる波長の光を散乱するラマン活性を有した内部標準物質を含むことを特徴とする反応容器。
【請求項2】
前記反応容器は、前記内部標準物質によって容器壁の表面が被覆され、或いは前記内部標準物質を前記容器壁に含むか又は前記容器壁が前記内部標準物質からなることを特徴とする請求項1に記載の反応容器。
【請求項3】
検体と試薬とを反応容器内で反応させ、反応液の光学的特性を光学測定部で測定して前記検体を分析する自動分析装置において、
前記反応容器は、当該容器内の反応液が散乱する光の波長とは異なる波長の光を散乱するラマン活性を有する内部標準物質を少なくとも容器壁の一部に含む反応容器であり、
前記光学測定部は、前記内部標準物質から散乱される容器ラマン散乱光及び前記反応液から散乱される反応液ラマン散乱光を分光して測定する分光測定手段を有し、
前記光学測定部が測定した容器ラマン散乱光の測定値と反応液ラマン散乱光の測定値とをもとに前記検体の分析値を演算する分析部を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
前記容器ラマン散乱光の強度をもとに前記反応容器を検体測定に測定するか否かを判定する判定手段を有することを特徴とする請求項3に記載の自動分析装置。
【請求項5】
前記反応容器は、前記内部標準物質によって容器壁の表面が被覆され、或いは前記内部標準物質を前記容器壁に含むか又は前記容器壁が前記内部標準物質からなることを特徴とする請求項4に記載の自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−17607(P2011−17607A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162257(P2009−162257)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】