説明

反応容器及びそれを用いた自動分析装置

【課題】
内面に気泡が付きにくく、かつ反応液量の低減ができキャリオーバも少ない自動分析装置用反応容器を提供する。
【解決手段】
反応容器内の透光部分とその近傍のみを濡れ性が良くなるように表面処理を行う。
【効果】
透光面に気泡が付きにくいので信頼の出来る分析が可能となる。反応液の液面が水平平坦となるので光軸ぎりぎりまで反応液量を低減できる。
また、一部分のみ濡れ性を良くしているので濡れ性が良くなることによるキャリオーバの増大を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液,尿等の生体サンプルを定量あるいは定性分析する自動分析装置に係り、特に試料と試薬を反応させる反応容器及びそれを備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置においてはサンプル中の測定対象成分と反応して色が変る試薬を用い、試料と試薬を反応容器内で混合してその反応の進行を反応液を透過した光の吸光度変化に基づき測定している。反応容器の材質としては一般的にプラスチックやガラスが使用される。プラスチック反応容器は、成形時に用いる可塑剤が表面に残っている場合、濡れ性が悪く反応容器内面に気泡がつきやすいものがある。光束が透過する部分に気泡がつくと、測定結果に大きな誤差を与えてしまう懸念がある。一方、ガラス製の反応容器は濡れ性が良すぎる場合がある。その場合、液体の毛管現象により液面のU字現象(メニスカス)が激しくなるために透過測光できる液面高さが減り、反応液が少ない場合は充分に光度計の光束高さに足りる液面高さが確保できず、反応液量低減には限界がある。特に近年の自動分析装置では反応液量の低減のため、反応容器(反応セル)の径が小さくなる傾向にあるため、メニスカスの影響が大きくなってきている。
【0003】
またガラスはプラスチックに比べ濡れ性が高すぎるため反応容器を洗浄して再利用する場合、充分に洗浄しきれず前の反応液が残ってしまう、いわゆるキャリオーバが発生するという懸念があった。
【0004】
特許文献1には、反応容器壁面に付着した気泡に超音波を照射して気泡を除去する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−45113号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術はプラスチック製反応容器を用いた場合でも気泡の付着を防止できるというものであるが、気泡の除去のために専用の超音波照射装置を設けると、コスト高が懸念される。
【0007】
そのような積極的な機構を用いずに、反応容器自体がプラスチック製,ガラス製のそれぞれの長所を兼ね備えたものであることが望ましい。本発明の目的は、反応容器内部の光度計の光束が透過する部分に気泡が付着しにくく、反応液の微量化も可能で、かつ反応容器の洗浄不足に起因する反応液のキャリオーバも低く抑えられる自動分析装置用の反応容器及びそれを用いた自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
プラスチック反応容器内壁の一部(透光部とその周辺)に濡れ性を良くする表面処理を施すようにする。濡れ性を良くする方法としてはオゾン水を表面に浸漬する方法が良い。また、一部分のみを行うにはマスキングなどを行って濡れ性を向上させたくないところはオゾン水がかからないようにすれば良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反応容器内面の透光部分に気泡が付着することを防止でき信頼性の高い分析測光ができる。
【0010】
また、反応容器の透光部およびその近傍のみを濡れ性を改善しているので反応液の液面が平坦になるので反応液が微量でも測光できるようになり、さらに反応容器による反応液のキャリオーバも少なく押さえることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
現在の自動分析装置においては、反応容器に試料を分注し、それに試薬を添加して攪拌しその反応液の吸光度変化を測定して試料に含まれる成分を定量分析する方法がとられている。吸光度を測定する方法は図1に示したように反応容器1を反応ディスク2に配列させ反応容器がランプ3から発せられた光軸4を横切る瞬間に光度計5にて測定する。
【0012】
試薬を試薬ノズル11から吐出添加した際、あるいは反応液を撹拌する際に往々にして気泡を巻き込むことがある。反応容器の内面の透光部に気泡が付着すると測光精度に大きな誤差を発生させてしまうことになる。反応容器の濡れ性が悪いと気泡9が内面に付着しやすくなる(図2)。この場合でも、反応容器の内面を濡れ性が良いと、気泡が付着しないで浮上する。
【0013】
また、光量を確保するために、この光度計の光軸4はある程度の幅および高さを持っている必要がある。そうでないと光量がかせげず光度計のS/Nが悪くなってしまうことになる。昨今のユーザ要求である試薬量の低減を達成するために反応液面が光軸ぎりぎりまで下げるように設計されることが多い。反応容器の材質としてガラスを用いたり、プラスチックでも内面全体を濡れ性を良くすると毛管現象により図3のように反応液の液面10がU字になってしまい液面が光軸4をかすってしまうという不具合がおきる。したがってガラスを用いたり、内面全体を濡れ性を良くしたプラスチックは使用できない。そこで、図1に示したようにプラスチック反応容器の透光面となる部分のみを濡れ性を良くするようにする(図1で濡れ性を良くしたところは、6,7である)。そうすると光軸透光部よりわずかに多くの反応液を確保することで反応液の液面11は図4のように水平平坦になる。そうすることにより最小限の反応液により最大の光量を確保して測定することができる。また、ガラスを用いたり、内面全体を濡れ性を良くしたプラスチック反応容器は反応容器のキャリオーバが大きくなってしまう欠点がある。キャリオーバとは反応容器を洗って次の分析に再利用した場合、洗浄が不十分となって前の反応液が残ってしまい次の反応液を汚染してしまうことである。反応容器を洗浄する場合は反応容器全体を洗う必要があるために洗浄液を口元まで注入する。内面全体が濡れ性が良いと僅かに残った反応液と洗浄液の混在液が内面全体にわたって残ってしまい(一種の吸着)キャリオーバが増大してしまうことになる。図1に示した本実施例によれば、透光部付近といったほんの一部分を濡れ性を良くしただけなので(面積比で約1/15)キャリオーバを大幅に低減できる。また、反応液の攪拌は最近は超音波非侵襲攪拌が行われることが多く、そうすれば反応液に攪拌に使用した超音波攪拌素子を用いて、洗浄液に入った反応容器に超音波を照射すれば、洗浄は充分に行える。超音波照射範囲は濡れ性を良くした透光部だけでよく、この部分は必ず反応液を攪拌するうえで超音波を照射しなければならない高さのところであり、攪拌と洗浄がひとつの攪拌素子で行えるのは一石二鳥である。反応容器に用いるプラスチックとしては、環状ポリオレフィン系樹脂,ポリカーボネート樹脂,アクリル樹脂,ポリスチレン樹脂が好適である。
【0014】
反応容器の内面の一部を濡れ性を良くする方法を図5に示した。オゾン液を浸漬することにより、表面の活性値が変化し大変濡れやすくなる。反応容器内にオゾン液を流すためのゴムでできた配管ブッシュ12を挿入する。挿入した際、密着部15を反応容器内面に押し付け、密着部からはオゾン液が漏れないようにする。オゾン液を注入口13から流し、排出口14より排出する。そうすることにより透光面内面にオゾン液が接するように流れる。それにより反応容器の下部の透光部付近の内表面6,7の濡れ性が改善される。
【0015】
ほかに、濡れ性を良くする方法として、プラズマ照射方法がある。
【0016】
本発明では、反応容器内面の透光部とその周辺を濡れ性を良くしているので、透光部に気泡が付着することが少ない。また、最少液面高さ付近の反応容器内面は濡れ性が悪いままなのでメニスカスは小さくて済むので液面は平坦な状態が維持されており、測光に必要な液高さが確保されている。また、濡れ性を良くしたのは透光面という一部だけを行っておりそれによるキャリオーバの増大は最小限に抑えられている(キャリオーバの量は反応容器内壁全部を濡れ性を良くした場合の1/20に抑えられている)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を実施する自動分析装置の測光部分構成を示す図。
【図2】濡れ性が悪いときの反応容器内の液体の様子を示す図。
【図3】濡れ性が良すぎるときの反応容器内の液体の様子を示す図。
【図4】発明実施時の反応容器内の液体の様子を示す図。
【図5】本発明における表面処理方法(濡れ性向上方法)の一例を示す図。
【符号の説明】
【0018】
1…反応容器、4…光軸、6…濡れ性を良くした内面、8…反応液面、9…気泡、16…オゾン水。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と試薬を混合する反応容器であって、
該反応容器の内壁の、少なくとも光度計の光束が透過する部分の濡れ性が、該内壁の光束が透過しない部分の濡れ性に比べ良いことを特徴とする反応容器。
【請求項2】
試料と試薬を混合する反応容器であって、
該反応容器の内壁の、少なくとも光度計の光束が透過する部分の接触角が該内壁の光束が透過しない部分の接触角より大きいことを特徴とする反応容器。
【請求項3】
請求項1記載の反応容器であって、
前記反応容器の内壁部の濡れ性の良い部分の形状が光度計の光束形状に合わせて円形、または四角形形状となっていることを特徴とする反応容器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反応容器において、該反応容器が環状ポリオレフィン系樹脂,ポリカーボネート樹脂,アクリル樹脂,ポリスチレン樹脂から選択された1種であることを特徴とする反応容器。
【請求項5】
試料と試薬を混合する反応容器であって、
該反応容器が角柱形状であり、かつ該反応容器の内壁の、少なくとも光度計の光束が入射する内壁面の接触角が、該内壁の光束が入射しない内壁面の接触角より大きいことを特徴とする反応容器。
【請求項6】
試料を反応容器に分注するサンプル分注手段と、
該反応容器中の液体の光学的性質の変化を測定する測定手段と、
を備えた自動分析装置において、
前記反応容器が請求項1〜5のいずれかに記載の反応容器からなることを特徴とする自動分析装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−125897(P2006−125897A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311682(P2004−311682)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【出願人】(000233550)株式会社日立サイエンスシステムズ (112)
【Fターム(参考)】