説明

反応射出成形用反応原液、反応射出成形方法及び反応射出成形体

【課題】設備的に負担が少なく、また、簡単な配合処方で、成形体内部に気泡のない反応射出成形体を提供する。
【解決手段】ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための反応原液であって、少なくともノルボルネン系モノマー、非塩基性充填材及び式(1)で表わされるシフ塩基配位メタセシス重合触媒を含有してなることを特徴とする反応射出成形用反応原液(A)。この反応射出成形用反応原液(A)を必須成分とする反応射出成形用配合液を金型内に注入し、金型内で塊状重合を行なう反応射出成形方法。この反応射出成形方法によって得られる反応射出成形体。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応射出成形用反応原液、これを用いる反応射出成形方法及びこの反応射出成形方法によって得られる反応射出成形体に関する。更に詳しくは、特定の配合物を含有してなる、反応射出成形時に発泡の少ないノルボルネン系モノマー含有反応射出成形用反応原液、これを用いる反応射出成形方法、及びこの反応射出成形方法によって得られる、内部に気泡が存在しない反応射出成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
反応射出成形法により、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン等のノルボルネン系モノマーを、メタセシス重合触媒を用いて、金型内で開環重合することにより、ノルボルネン系重合体が得られることは周知である。
このようにして得られるノルボルネン系重合体は、機械的強度、耐熱性及び寸法安定性に優れており、その成形品は、自動車、農業機器、建設機器等の部材や、電気機器、電子機器等のハウジング等に賞用されている。
これらの成形品のうち、特に大型のものについては、耐衝撃性が重視される。
ところが、反応射出成形時に気泡が発生することがあり、この気泡により成形体の強度が低下するという問題が生じる。
また、最近では、反応射出成形体が電気・電子材料分野で用いられることがあり、このような用途においては、反応射出成形体中に気泡が存在すると絶縁性が悪くなる、透湿性が大きくなるといった不具合が発生し、製品の特性に影響を与える恐れがある。
従って、内部に気泡を有しない反応射出成形体が求められている。
【0003】
このような内部に気泡のない反応射出成形体を得るための方法として、特許文献1には、メタセシス重合触媒及びノルボルネン系単量体を含有する反応性原液を型内に導入し、型内でメタセシス重合及び成形を行って重合体成形物を製造する方法において、前記反応性原液を成形型に充填し、次いで超音波を照射することにより重合反応を開始させることを特徴とするメタセシス重合体成形物の製造方法が提案されている。
しかしながら、超音波を発生させるための装置が必要であり、設備的に複雑となる一方、効果が十分に得られるとはいい難い。
また、特許文献2には、反応原液に特定のポリマーを配合することにより、金型内の保圧を行ない、気泡の発生を防止するとともに、強度に優れた成形品が得られることが報告されている。
しかしながら、製品設計によっては、このような特定のポリマーを配合することが好ましくない場合がある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−240659号公報
【特許文献2】特開2005−271535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、設備的に負担が少なく、また、製品設計を制限するようなポリマーの配合をすることなしに簡単な配合処方で、成形体内部に気泡のない反応射出成形体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このような反応射出成形体を得るための反応射出成形方法及び反応射出成形用反応原液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために、反応射出成形用配合液の組成について鋭意研究を進めた結果、配合液に特定の化合物を添加することにより、得られる反応射出成形体内部の気泡発生を防止することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための反応原液であって、少なくともノルボルネン系モノマー、非塩基性充填材及び式(1)で表わされるシフ塩基配位メタセシス重合触媒を含有してなることを特徴とする反応射出成形用反応原液(A)が提供される。
【化1】

(式(1)中、Mは、周期表第4〜12族に属する金属から選ばれる金属;Xは、アニオン性配位子;Lは、中性の電子供与性配位子;Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン、NR、PR又はAsR;Rは、R及びRの定義と同じもの;R及びRは、それぞれ、水素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基であり、これらの有機基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。;R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又はヘテロアリール基であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。;R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基である。)
【0008】
本発明の反応射出成形用反応原液において、非塩基性充填材が中性充填材であることが好ましい。
中性充填材は、アルミナ、水酸化アルミニウム、カーボン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素又はシリカであることが好ましく、アルミナであることがより好ましい。
【0009】
また、本発明の反応射出成形用反応原液において、シフ塩基配位メタセシス重合触媒が、式(2)で表わされる化合物であることが好ましい。
【化2】

(式(2)において、Mesは、メシチル基;R及びRは、それぞれ、水素原子又はメチル基であって、少なくとも一方はメチル基;Rは、水素原子;R及びR10は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基である。)
【0010】
更に、本発明の反応射出成形用反応原液において、シフ塩基配位メタセシス重合触媒が、式(3)で表わされる化合物であることが好ましい。
【化3】

【0011】
また、本発明によれば、反応射出成形用反応原液(A)を必須成分とする反応射出成形用配合液を金型内に注入し、金型内で塊状重合を行なう反応射出成形方法が提供される。
本発明の反応射出成形方法において、本発明の反応射出成形用反応原液(A)と、少なくともノルボルネン系モノマー及び共触媒を含有する反応原液(B)と、を混合して得られる反応射出成形用配合液を金型内に注入し、金型内で塊状重合を行なうことが好ましい。
更に本発明によれば、本発明の反応射出成形方法によって得られる反応射出成形体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反応射出成形用反応原液(A)を用いて得られる反応射出成形体は、それに含まれる気泡が少ないので、強度に優れ、また、絶縁性が高く透湿性が低い。
従って、本発明で得られる反応射出成形体は、バンパーやエアデフレクター等の自動車用途、ホイルローダーやパワーショベル等の建設・産業機械用途、ゴルフカートやゲーム機等のレジャー用途、医療機器等の医療用途、大型パネルや椅子等の産業用途、システムバスやシステムキッチン、シャワーパンや洗面ボウル等の住宅設備用途等の強度や意匠性に優れた製品が求められる用途や、電気・電子部品分野等の低透湿性が求められる用途において好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の反応射出成形用反応原液(A)(以下、単に「反応原液(A)」ということがある。)は、ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための配合液の調製に用いる反応原液であって、ノルボルネン系モノマー、非塩基性充填材及び式(1)で表わされるシフ塩基配位メタセシス重合触媒を含有してなる。
【0014】
本発明で用いるノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を有する化合物であれば、特に限定されない。
【0015】
ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)、ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体;等を挙げることができる。
これらのノルボルネン系モノマーは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;エチリデン基等のアルキリデン基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;等の置換基を有していてもよい。
更に、これらのノルボルネン系モノマーは、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、オキシ基、シアノ基、ハロゲン原子等の極性基を有していてもよい。
【0016】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエン共二量体、5−エチリデンノルボルネン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−ヘキサヒドロナフタレン、エチレンビス(5−ノルボルネン)等が挙げられる。
【0017】
ノルボルネン系モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記ノルボルネン系モノマーのうち、入手が容易であり、反応性に優れ、得られる成形体の耐熱性に優れる点から、三環体、四環体又は五環体のノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0018】
また、生成する開環重合体が熱硬化型となることが好ましく、そのためには、上記ノルボルネン系モノマーの中でも、対称性のシクロペンタジエン三量体等の、反応性の二重結合を二個以上有する架橋性モノマーを少なくとも含むものが用いられる。全ノルボルネン系モノマー中の架橋性モノマーの割合は、2〜30重量%であることが好ましい。
【0019】
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、ノルボルネン系モノマーと開環共重合し得るシクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロオクテン、シクロドデセン等の単環シクロオレフィン等を、コモノマーとして用いてもよい。
【0020】
本発明の配合液は、非塩基性充填材を含有することが必須である。
本発明において、非塩基性充填材とは、希塩酸に充填剤を混合した時、希塩酸と反応しない充填剤をいう。
非塩基性充填材には、中性充填材と酸性充填材とがあるが、本発明においては、中性充填材を使用するのが好ましい。なお、中性充填材とは、非塩基性充填材であって、pH=10の水酸化ナトリウム水溶液と反応しない充填材をいう。
中性充填材の具体例としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カーボン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、シリカ、酸化チタン、珪酸アルミニウム、カオリン、酸化亜鉛、窒化ホウ素、等を挙げることができる。
これらの中性充填材のうち、本発明の効果がより一層顕著になることから、アルミナ、水酸化アルミニウム、カーボン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及びシリカが好ましく、アルミナ、水酸化アルミニウム及びシリカがより好ましく、熱伝導性の観点からアルミナが特に好ましい。
非塩基性充填材の形状(アスペクト比等)は、特に限定されないが、粒径は、好ましくは、0.1〜100μm、特に好ましくは1〜30μmである。
また、非塩基性充填材の表面処理(疎水化処理)の有無等については、特に限定されない。
【0021】
充填材の量は、配合液全体の体積に対して3〜60容積%であることが好ましく、5〜40容積%であることがより好ましい。
充填材量が多すぎると、配合液を金型内に注入する際にタンクや配管内で沈降したり、注入ノズルが詰まったりする場合がある。逆に、少なすぎると、得られる成形体の剛性や寸法安定性が不十分な場合がある。
【0022】
本発明の配合原液(A)は、式(1)で表わされるシフ塩基配位メタセシス重合触媒を含有してなる。
【化4】

【0023】
式(1)において、Mは、周期表第4〜12族に属する金属から選ばれる金属である。
Mの好ましい具体例として、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、レニウム、銅、クロム、マンガン、パラジウム、白金、ロジウム、バナジウム、亜鉛、カドミウム、水銀、金、銀、ニッケル及びコバルトを挙げることができる。
これらのうち、ルテニウム、オスミウム、鉄、モリブデン及びチタンが好ましく、ルテニウム及びオスミウムが特に好ましい。
【0024】
式(1)において、Xは、アニオン性配位子である。
「アニオン性配位子」とは、触媒中心金属から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子である。
アニオン性配位子としては、F、Br、Cl、I等のハロゲン原子、ヒドリド、アセチルアセトナート基等のジケトナート基、シクロペンタジエニル基、アリル基、アルケニル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールカルボキシル基、カルボキシル基、アルキルまたはアリールスルフォネート基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、ハロゲン原子、シクロペンタジエニル基、アリル基、アルキル基及びアリール基が好ましく、ハロゲン原子が特に好ましい。
【0025】
式(1)において、Lは、中性の電子供与性配位子である。「中性の電子供与性配位子」とは、触媒中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子をいう。
【0026】
中性の電子供与性配位子としては、酸素、水、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エ−テル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スチビン類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、芳香族類、ジオレフィン類(環状であってもよい)、オレフィン類(環状であってもよい)、イソシアニド類、チオシアネ−ト類、複素環式カルベン化合物等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、ビピリジン等のピリジン類;トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のホスフィン類;芳香族類;環状ジオレフィン類;1,3−ジメシチルイミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン等の複素環式カルベンが好ましい。
これらのうち、複素環式カルベンがより好ましく、窒素含有複素環式カルベンが特に好ましい。
式(1)において、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン、NR、PR又はAsRであり、Rは、後述するR又はRと同様である。
【0028】
式(1)において、R及びRは、それぞれ、水素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基である。
ヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、アリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数2〜20のアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜8のアルキルチオ基、炭素数1〜20のカルボニルオキシ基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数1〜20のアルキルスルフィニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホン酸基、アリールスルホン酸基、炭素数1〜20のホスホン酸基、アリールホスホン酸基、炭素数1〜20のアンモニウム基及びアリールアンモニウム基を挙げることができる。
これらのヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基及びアリール基を挙げることができ、R及びRが結合して形成する環は、芳香環、脂環及びヘテロ環のいずれであってもよい。
【0029】
式(1)中、R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又はヘテロアリール基であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基及びアリール基を挙げることができ、環を形成する場合の環は、芳香環、脂環及びヘテロ環のいずれであってもよい。
式(1)中、R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基である。ヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、アリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルケニルオキシ基、炭素数2〜20のアルキニルオキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜8のアルキルチオ基、炭素数1〜20のカルボニルオキシ基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数1〜20のアルキルスルフィニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホン酸基、アリールスルホン酸基、炭素数1〜20のホスホン酸基、アリールホスホン酸基、炭素数1〜20のアンモニウム基及びアリールアンモニウム基を挙げることができる。
これらのヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基及びアリール基を挙げることができる。また、環を形成する場合の環は、芳香環、脂環及びヘテロ環のいずれであってもよい。
なお、式(1)で表わされるシフ塩基配位メタセシス重合触媒の具体例としては、国際公開公報第03/062253号パンフレットに記載のもの等が挙げられる。
【0030】
本発明において、好適に用いることができるシフ塩基配位メタセシス重合触媒の具体例として、式(2)に示す化合物を挙げることができる。
【化5】

(式(2)において、Mesは、メシチル基;R及びRは、それぞれ、水素原子又はメチル基であって、少なくとも一方はメチル基;Rは、水素原子;R及びR10は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基である。)
なお、「1価の有機基」としては、上述したR〜Rと同様のものが挙げられる。
この化合物は、国際公開公報第03/062253号パンフレットに記載の方法に従って合成することができる。
【0031】
本発明において、メタセシス重合触媒の使用量は、反応に使用するモノマー1モルに対し、通常、0.01ミリモル以上、好ましくは0.1ミリモル以上、且つ、50ミリモル以下、好ましくは20ミリモル以下である。メタセシス重合触媒の使用量が少なすぎると重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が悪く、使用量が多すぎると反応が激しすぎるため型内に十分に充填される前に硬化したり、触媒が析出したりし易くなり、均質に保存することが困難になる。
【0032】
本発明の反応射出成形方法においては、上記反応射出成形用配合液を金型内に注入し、金型内で塊状重合を行なう。
シフ塩基配位メタセシス重合触媒に、その重合活性を向上する目的で共触媒を併用する場合は、上記反応原液(A)と、少なくともノルボルネン系モノマー及び共触媒を含有する反応原液(B)とを混合して、反応射出成形用配合液を得、この反応射出成形用配合液を金型内に注入し、金型内で塊状重合を行なう。
【0033】
反応原液(B)は、少なくともノルボルネン系モノマー及び共触媒を含有してなる。
ノルボルネン系モノマーは、反応原液(A)に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0034】
共触媒は、シフ塩基配位メタセシス重合触媒の重合活性を向上させるものであり、以下「活性剤」という場合がある。
共触媒は、特に限定されず、その具体例としては、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド、アルコキシアルキルアルミニウムハライド等の有機アルミニウム化合物;テトラブチル錫等の有機スズ化合物;ジエチル亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジメチルモノクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、テトラクロロシラン、ビシクロヘプテニルメチルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、ジヘキシルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルトリクロロシラン等のクロロシラン化合物;等が挙げられる。
本発明において、これらの共触媒がヒンダードフェノール等と反応して塩酸等の酸(プロトン)を発生し、これが本発明で用いるシフ塩基配位メタセシス重合触媒からシフ塩基を遊離させ、これにより、触媒活性が発揮される。
【0035】
活性剤の使用量は、特に限定されないが、通常、反応に使用するメタセシス重合触媒1モルに対して、0.1モル以上、好ましくは1モル以上、且つ、100モル以下、好ましくは10モル以下である。活性剤を用いなかったり活性剤の使用量が少なすぎたりすると、重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が悪くなる。逆に、使用量が多すぎると、反応が激しすぎるので、型内に十分に充填される前に硬化することがある。
活性剤は、モノマーに溶解して用いるが、反応射出成形法による成形体の性質を本質的に損なわない範囲であれば、少量の溶剤に懸濁させた上で、モノマーと混合することにより、析出しにくくしたり、溶解性を高めたりして用いてもよい。
【0036】
重合触媒が活性剤を必要とするものである場合は、活性調節剤を併用するのが好ましい。活性調節剤は、後述するように重合触媒を含有する配合液と活性剤を含有する配合液とを混合して金型に注入して重合が開始する際、注入途中で重合が開始するのを防ぐためのものである。
かかる活性調節剤としては、エーテル、エステル、ニトリル等のルイス塩基;アセチレン類;及びα−オレフィン類が好適に使用される。具体的には、ルイス塩基としては、ブチルエーテル、安息香酸エチル、ジグライム等を例示することができる。また、アセチレン類としてはフェニルアセチレン等を、α−オレフィンとしてはビニルノルボルネン等を例示することができる。また、共重合モノマーとして極性基含有モノマーを用いる場合には、それ自体がルイス塩基であることがあり、活性調節剤としての作用を兼ね備えていることもある。活性調節剤は、活性剤を含む配合液に添加するのが好ましい。また、活性調節剤としては、アルコール類も好適に用いることができる。
更に、モノマーの重合転化率を向上させるため、重合促進剤を添加することが好ましい。重合促進剤としては、塩素原子含有化合物が好ましく、中でも有機塩素化合物が好ましい。その具体例としては、2,4−ジクロロベンゾトリクロリド、ヘキサクロロ−p−キシレン、2,4−ジクロロ−トリクロロトルエン等を挙げることができる。
上記活性調節剤及び重合促進剤の添加量は、特に限定されないが、重合性組成物(反応射出成形時における本発明の配合液であって、ノルボルネン系モノマー及び重合触媒のほか、活性剤等所要の成分を含有するものをいう。)重量の概ね10ppm〜10%である。
【0037】
本発明において、成形体の特性の改良又は維持のために、配合液に各種添加剤を配合してもよい。かかる添加剤としては、補強材、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、発泡剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、軟化剤、粘着付与剤、可塑剤、離型剤、防臭剤、香料、ジシクロペンタジエン系熱重合樹脂及びその水添物、等を挙げることができる。
【0038】
各種添加剤は、重合触媒や活性剤を含有する配合液に添加して用いる方法;別途モノマー溶液として調製し、反応射出成形時に触媒や活性剤を含有する配合液と混合する方法;予め型内に充填しておく方法;等により添加される。添加方法は、添加剤の種類により適宜選定すればよい。
【0039】
本発明において、ノルボルネン系モノマーのほか、必要に応じて重合触媒、活性剤等の各成分を含有してなる配合液を調製する方法は、特に限定されず、これらの成分を任意の方法で混合すればよい。
【0040】
本発明の反応射出成形方法においては、上記各配合原液を混合して得られた反応射出成形用配合液を、型内で塊状重合させて、成形体を得る。
反応射出成形用配合液の調製方法は、特に限定されないが、典型的には、重合触媒が活性剤を必要とするか否かによって、以下の二方法を示すことができる。
即ち、重合触媒が活性剤を必要としない場合には、ノルボルネン系モノマーを含有する配合液(i)と、重合触媒を少量の不活性溶媒に溶解又は分散して調製した配合液(ii)とを混合すればよい。
【0041】
一方、重合触媒が活性剤を必要とする場合には、ノルボルネン系モノマーと重合触媒とを含有する配合液(以下、「A液」ということがある。)と、ノルボルネン系モノマーと活性剤とを含有する配合液(以下、「B液」ということがある。)とを混合すればよい。このとき、ノルボルネン系モノマーのみからなる配合液(以下、「C液」ということがある。)を併用してもよい。
【0042】
非塩基性充填材は、上記のどの配合液(A液、B液若しくはC液、又は、配合液(i)若しくは配合液(ii))に配合してもよいが、配合液(i)、A液又はC液に配合して使用するのが好ましい。
【0043】
反応射出成形用配合液を金型内で塊状重合させるには、例えば、反応射出成形(RIM)装置として公知の衝突混合装置を用いることができる。
この衝突混合装置に、二種以上の配合液(A液、B液及びC液、又は、配合液(i)及び配合液(ii))を、それぞれ別個に導入して、ミキシングヘッドで瞬間的に混合させ、得られる重合性組成物を金型内に注入して、この金型内で塊状重合させることにより、反応射出成形体を得ることができる。
なお、衝突混合装置に代えて、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧注入機を使用することも可能である。
なお、反応射出成形に供する前の配合液の温度は、好ましくは10〜60℃であり、粘度は、例えば30℃において、通常、5〜3,000mPa・s、好ましくは50〜1,000mPa・s程度である。
【0044】
反応射出成形に使用する金型にも特に限定はないが、通常、雄型と雌型とで形成される金型を用いる。
金型の材質は、特に限定されず、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅、クロム等の金属及び樹脂を示すことができる。また、これらの金型は、鋳造、鍛造、溶射、電鋳等のいずれの方法で製造されたものでもよく、また、メッキされたものであってもよい。
型の構造は型に重合性組成物を注入する際の圧力を勘案して決めるとよい。また、金型の型締め圧力は、ゲージ圧で0.1〜9.8MPaである。
成形時間は、ノルボルネン系モノマー、重合触媒及び活性剤の種類、これらの組成比、金型温度等によって変化するので、一様ではないが、一般的には5秒〜6分、好ましくは10秒〜5分である。
【0045】
雄型及び雌型を対とする金型で形成されるキャビティ内に重合性組成物を供給して塊状重合させる場合において、一般に意匠面側金型の金型温度T1(℃)を意匠面に対応する側の金型の金型温度T2(℃)より高く設定しておくことが好ましい。これにより、成形体の表面外観をヒケや気泡のない美麗なものとすることができる。
T1−T2は、下限が好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、上限が好ましくは60℃以下である。T1は、上限が好ましくは110℃以下、より好ましくは95℃以下であり、下限が好ましくは50℃以上である。T2は、上限が好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下であり、下限が好ましくは30℃以上である。
金型温度を調整する方法としては、例えば、ヒータによる金型温度の調整;金型内部に埋設した配管中に循環させる温調水、油等の熱媒体の温度調整;等が挙げられる。
【0046】
塊状重合の終了後、金型を型開きして脱型することにより、本発明の反応射出成形体を得ることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。以下において「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
また、各特性は、下記に示す方法により測定した。
【0048】
(1)配合液の粘度(η1000)
配合液の温度を30℃とし、B型粘度計を用いて、M−4ローターを用い、回転数60rpmの条件で反応原液混合開始から粘度が1,000mPa・sになるまでの時間(単位:秒)を計測する。
この時間が短いほど、配合液の増粘が速いので、気泡の発生が少ない。
【0049】
(発泡の有無)
アルミ製の容器を80℃のオーブンで加温し、これに別の容器で反応原液(A)と反応原液(B)とを混合して得た配合液を注入し再度オーブンで加温する。配合液硬化後、容器を取り出した後、樹脂を半分にカットし、内部の気泡の有無を確認する。
【0050】
〔実施例1〕
(配合液の調製)
ジシクロペンタジエン90部及びトリシクロペンタジエン10部からなる混合モノマーに非塩基性充填材であるアルミナ(電気化学工業社製、商品名「DAW−10」)を100部、シフ塩基配位メタセシス重合触媒として、式(3)の構造を有するルテニウム触媒1(「VC843」)を0.064部、2,6−ジブチル−4(1−メチルプロピル)フェノール)(東京化成工業社製、商品名「Isonox132」)を1.5部混合し、反応原液(A)1を得た。
一方、ジシクロペンタジエン90部及びトリシクロペンタジエン10部からなる混合モノマーにフェニルトリクロロシラン(和光純薬工業社製)を0.18部混合し、反応原液(B)を得た。
【0051】
上記反応原液(A)1及び反応原液(B)を、それぞれ、50ml計量し、30℃で1時間保温した後、2液を攪拌混合して配合液とし、ストップウォッチでの計測をスタートした。同時にB型粘度計で粘度測定を開始し、η1000の測定を行った。
また、次いで先に示した方法により発泡の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0052】
〔比較例1〕
500Lのヘンシェルミキサーに塩基性充填材であるウォラストナイト(キンセイマテック社製、商品名「SH−400」、50%累積体積径:20μm、アスペクト比:18)75部と炭酸カルシウム(三共精粉社製商品名「エスカロン#2000」、50%累積体積径:1.8μm、アスペクト比:1)25部とを投入し、槽内温度30℃、回転速度360rpm(周速20m/s)で撹拌した。次いで、ミキサー内に、シランカップリング剤ビニルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−1003」)0.5部を噴霧することにより添加し、噴霧終了後、回転速度を720rpm(周速40m/s)で7分間撹拌した。その後、槽内温度を110℃に昇温し、回転速度を360rpm(周速20m/s)で10分間撹拌することにより、フィラーを乾燥した。次いで、ミキサー内に、チタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ社製、商品名「プレンアクトKR−TTS」)0.75部を噴霧することにより添加した。噴霧終了後、回転速度360rpm(周速20m/s)で5分間撹拌することにより、ハイブリッドフィラーを得た。
次いでアルミナに代えて、上記ハイブリッドフィラーを使用する以外は、実施例1と同様にして、反応原液(A)C1を得た。
反応原液(A)1に代えて、反応原液(A)C1を用いるほかは、実施例1と同様にして配合液を得、この配合液について、η1000を測定し、発泡の有無を確認した。結果を表1に示す。
【0053】
〔比較例2〕
グラブス型メタセシス重合触媒である、式(4)に示す構造を有するルテニウム触媒C2(C827)(アルドリッチ社より購入)8部を100部のトルエンに溶解させ反応原液(ii)を得た。次いでジシクロペンタジエン90部及びトリシクロペンタジエン10部からなる混合モノマーに非塩基性充填材であるアルミナを50部分散させ、反応原液(i)を得た。反応原液(i)100部に反応原液(ii)0.4部を混合し、この配合液について、η1000を測定し、発泡の有無を確認した。結果を表1に示す。
【化6】

式(3)中、Mesは、メシチル基、PCyは、トリシクロヘキシルホスフィンである。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示す結果から、以下のことが分かる。
シフ塩基配位メタセシス重合触媒及び塩基性充填材の組み合わせを用いた場合は、配合液の増粘が遅く、得られる成形体内部に気泡が存在する(比較例1)。
また、グラブス型メタセシス重合触媒及び非塩基性充填材の組み合わせを用いた場合も、配合液の増粘が遅く、得られる成形体内部に気泡が存在する(比較例2)。
これに対してシフ塩基配位メタセシス重合触媒及び非塩基性充填材の組み合わせを用いた場合(実施例1)は、配合液の増粘が速く、得られる成形体内部に気泡が存在しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系モノマーを型内で塊状重合させて反応射出成形するための反応原液であって、少なくともノルボルネン系モノマー、非塩基性充填材及び式(1)で表わされるシフ塩基配位メタセシス重合触媒を含有してなることを特徴とする反応射出成形用反応原液(A)。
【化1】

(式(1)中、Mは、周期表第4〜12族に属する金属から選ばれる金属;Xは、アニオン性配位子;Lは、中性の電子供与性配位子;Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン、NR、PR又はAsR;Rは、R及びRの定義と同じもの;R及びRは、それぞれ、水素原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基であり、これらの有機基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。;R及びRは、それぞれ、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、又はヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。;R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基である。)
【請求項2】
非塩基性充填材が中性充填材である請求項1に記載の反応射出成形用反応原液(A)。
【請求項3】
中性充填材がアルミナ、水酸化アルミニウム、カーボン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素又はシリカである請求項2に記載の反応射出成形用反応原液(A)。
【請求項4】
シフ塩基配位メタセシス重合触媒が、式(2)で表わされる化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応射出成形用反応原液(A)。
【化2】

(式(2)において、Mesは、メシチル基;R及びRは、それぞれ、水素原子又はメチル基であって、少なくとも一方はメチル基;Rは、水素原子;R及びR10は、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、又はヘテロ原子を含んでいてもよい1価の有機基である。)
【請求項5】
シフ塩基配位メタセシス重合触媒が、式(3)で表わされる化合物である請求項4に記載の反応射出成形用反応原液(A)。
【化3】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の反応射出成形用反応原液(A)を必須成分とする反応射出成形用配合液を金型内に注入し、金型内で塊状重合を行なう反応射出成形方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の反応射出成形用反応原液(A)と、少なくともノルボルネン系モノマー及び共触媒を含有する反応原液(B)と、を混合して得られる反応射出成形用配合液を金型内に注入し、金型内で塊状重合を行なう請求項6に記載の反応射出成形方法。
【請求項8】
請求項6〜7のいずれか1項に記載の反応射出成形方法によって得られる反応射出成形体。

【公開番号】特開2009−263469(P2009−263469A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113504(P2008−113504)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(503423096)RIMTEC株式会社 (23)
【Fターム(参考)】