説明

反応性エマルションおよびその製造方法

本発明は、高価な付加重合性オキサゾリンの使用量を低減しつつ、優れた架橋性能を発揮しうる反応性エマルションを提供する。アクリル系エマルションの微粒子をコア部として、該コア部の周囲にオキサゾリン基含有重合体層をシェル部として含有する反応性エマルションによって課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェル部にオキサゾリン基含有重合体層を有する反応性エマルション、その製造方法、該反応性エマルションを含有するエマルション組成物、該エマルション組成物を含有するセルロース系基材加工用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オキサゾリン基を有するエマルションが水系樹脂の架橋剤として有用であり、水系樹脂の耐水性、耐溶剤性、強度、耐熱性等の改良が可能であることが知られている。また、オキサゾリン基を有するエマルションを塗膜化すると、基材との接着性が良好であることも知られている(米国特許第4460029号明細書、特公昭61−89217号公報、特開平2−99537号公報、特開2000−119968号公報、および特開2000−129144号公報を参照)。しかしながら、オキサゾリン化合物は極めて高価であるために、得られるエマルションも必然的に高価となっており、その用途が限られているのが現状である。
【発明の開示】
【0003】
したがって、本発明の目的は、少量のオキサゾリン化合物の使用で従来品と同等ないしより優れた接着性等の効果を有する新規な反応性エマルション、その製造方法、該反応性エマルションを含有するエマルション組成物、該エマルション組成物を含有するセルロース系基材架橋用樹脂組成物を提供することにある。
【0004】
上記諸目的は、下記(1)〜(10)により達成される。
【0005】
(1) アクリル系エマルションの微粒子をコア部とし、該コア部の周囲にオキサゾリン基含有重合体層をシェル部として形成してなる反応性エマルション、
(2) 該コア部100重量部に対する該シェル部の割合が1〜900重量部である前記(1)に記載のエマルション、
(3) 該シェル部における付加重合性オキサゾリンの割合が1重量%以上である前記(1)または(2)に記載のエマルション、
(4) アクリル系エマルションに、付加重合性オキサゾリンを必須成分とする単量体ないし単量体混合物を乳化剤の存在下に重合する段階を有する反応性エマルションの製造方法、
(5) 該アクリル系エマルションの固形分100重量部に対する付加重合性オキサゾリン含有単量体ないし単量体混合物の割合が1〜900重量部である前記(4)に記載の方法、
(6) 該単量体ないし単量体混合物が付加重合性オキサゾリンを1重量%以上含有してなる前記(4)または(5)に記載の方法、
(7) 前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の反応性エマルションおよび他の重合体よりなるエマルション組成物、
(8) 該他の重合体が、カルボキシル基、芳香族チオール基およびフェノール性水酸基からなる群から選ばれる1種以上の官能基を必須成分とする重合体である、前記(7)に記載のエマルション組成物、
(9) 前記(7)または(8)に記載のエマルション組成物を必須成分として含有するセルロース系基材加工用樹脂組成物、
(10) 水酸基並びに、カルボキシル基、芳香族チオール基およびフェノール性水酸基からなる群から選ばれる1種以上の官能基の双方と反応しうる官能基を有する化合物をさらに含有する、前記(9)に記載のセルロース系基材加工用樹脂組成物、
(11) 酸無水物基を有する化合物、または水酸基と反応しうる官能基およびカルボキシル基を有する化合物の少なくとも一方を必須成分としてさらに含有する、前記(9)または(10)に記載のセルロース系基材加工用樹脂組成物。
【0006】
本発明の他の目的、特徴および効果は以下の説明で例示される好ましい実施形態を参照することにより明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明による反応性エマルションは、アクリル系エマルションの微粒子をコア部とし、該コア部の周囲にオキサゾリン基含有重合体層をシェル部として形成してなるものである。なお、「コア部」とは、コア−シェル型の本発明の反応性エマルションにおいて中心部(内層)に位置する核部を意味し、「シェル部」とは、エマルションにおいてコア部の周囲(外層)に位置する殻部を意味する。よって、本発明のエマルションは「シェル部」が「コア部」の最表層のみにごく薄い層として存在する形態のみに制限されることはない。場合によっては、コア部に比べてかなり大きいシェル部が、コア部の周囲に存在してもよい。
【0008】
コア部となるアクリル系エマルションの微粒子の組成は特に制限されない。一例を挙げると、コア部である微粒子を構成する重合体(A)の単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα、β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン等のα、β−不飽和芳香族モノマー類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。
【0009】
本発明のエマルションのコア部においては、オキサゾリン基との反応性が高い官能基(以下、「オキサゾリン基反応性官能基」とも称する)の濃度が低いほど好ましい。コア部におけるこれらの官能基の濃度が低いと、エマルションを構成する同一粒子間での架橋が抑制され、後述する他の重合体(B)との反応性が向上する。なお、オキサゾリン基反応性官能基としては、例えば、カルボキシル基、芳香族チオール基、フェノール性水酸基などが挙げられる。
【0010】
コア部である微粒子を構成する重合体(A)の供給形態は、エマルションなどのような形態が望ましい。環境への配慮から本発明の樹脂組成物は水性であることが望ましいので、微粒子を構成する重合体(A)もエマルションの形態であることが好ましい。
【0011】
一例を挙げると、シェル部となる前記コア部の外層に形成されるオキサゾリン基含有重合体層は、付加重合性オキサゾリン(a)および必要に応じて少なくとも1種の他の単量体(b)を重合してなる重合体からなる樹脂組成物層である。
【0012】
本発明において使用される付加重合体オキサゾリンは、一般式(I):
【0013】
【化1】

【0014】
で表わされる。
【0015】
該付加重合性オキサゾリンの具体例としては、例えば2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンを挙げることができ、これらの群から選ばれる1種以上の混合物を使用することができる。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。付加重合性オキサゾリン(a)の使用量は特に限定されるものではないが、シェル部中の付加重合性オキサゾリンの含有量は1重量%以上である事が好ましい。1重量%未満の量では架橋性能が不充分となる傾向にある。付加重合性オキサゾリン(a)の使用量は、より好ましくは5〜50重量%であり、最も好ましくは8〜30重量%である。
【0016】
本発明に用いられる他の単量体(b)とは、オキサゾリン基と反応しない、付加重合性オキサゾリン(a)と共重合可能な単量体であれば、特に制限はなく、上記のコア部を構成する微粒子の原料として例示した単量体が同様に用いられる。
【0017】
本発明の反応性エマルションは、例えば乳化重合法により製造される。乳化重合法の詳細については、従来公知の知見を参照すればよい。例えば、乳化重合は、多段階フィード法またはパワーフィード法等の公知の方法で行うことができる。
【0018】
具体的には、乳化重合の前段においては、上記の重合体(A)の単量体を乳化剤の存在下で乳化重合する。これにより、本発明のエマルションのコア部である微粒子が生成する。この際、オキサゾリン基反応性官能基を有する単量体を用いないことが好ましい。
【0019】
続く乳化重合の後段においては、乳化重合の前段において生成したコア部に、付加重合性オキサゾリン(a)を必須の単量体とし、かつ必要に応じて少なくとも1種の他の単量体(b)よりなる単量体ないし単量体混合物を配合し、乳化重合する。これにより、コア部の外層にオキサゾリン基含有重合体層が形成される。他の単量体(b)としては、上記の重合体(A)の単量体と同様の単量体が用いられる。
【0020】
ここで、乳化重合が二段重合である場合、シェル部は1層であることから、当該シェル部がオキサゾリン基含有重合体を含んでいればよい。一方、乳化重合が三段重合以上であると、シェル部は2層以上となるが、この場合には最外層に位置するシェル部がオキサゾリン基含有重合体を含むことが好ましい。ただし、最外層のシェル部のみがオキサゾリン基含有重合体を含む形態のみに制限されるわけではなく、内層のシェル部にオキサゾリン基含有重合体が含まれてもよいことは勿論である。さらに、乳化重合がパワーフィード法により行われる場合には、シェル部のコア部側から表面側に向かうに従って、オキサゾリン基含有重合体の含有率が増加することが好ましい。
【0021】
重合開始剤としては、特に制限はなく、例えば、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド等の過酸化物;2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸、2,2′−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のアゾ化合物等が挙げられる。また、前記重合開始剤とともに、還元剤、および必要に応じてキレート化剤を併用したレドックス開始剤系を用いても良い。還元剤としては、例えば、ロンガリット(スルホキシル酸ナトリウム ホルムアルデヒド)等のアルカリ金属ホルムアルデヒドスルホキシレート類;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩;ピロ亜硫酸ナトリウム等のピロ亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウム等のチオ硫酸塩;亜リン酸ナトリウム等の亜リン酸塩類;ピロ亜リン酸ナトリウム等のピロ亜リン酸塩;メルカプタン類;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等のアスコルビン酸塩類;エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等のエリソルビン酸塩類;グルコース、デキストロース等の糖類;硫酸第一鉄、硫酸銅等の金属塩等が挙げられる。キレート化剤としては、ピロリン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩等が挙げられる。これらの使用量は、それぞれの開始剤系の組み合わせに応じ適量を用いる。
【0022】
本発明のエマルションにおいて、コア部とシェル部との質量比は、特に制限されないが、シェル部の割合は、コア部100重量部に対して、好ましくは1〜900重量部であり、より好ましくは10〜200重量部であり、さらに好ましくは20〜150重量部である。1重量部未満の量では架橋性能が不充分であり、900重量部より多くなると基材への密着性が損なわれる傾向にある。
【0023】
上述した本発明の反応性エマルションは、例えば、他の重合体と配合されて、エマルション組成物とされる。この組成物中で、本発明の反応性エマルションは、前記他の重合体を架橋させるための架橋剤として機能する。具体的には、本発明のエマルションのシェル部に集中して存在するオキサゾリン基が、他の重合体の架橋性基と反応することで、架橋が進行する。
【0024】
配合される「他の重合体」としては、特に制限されず、従来公知の重合体が用いられる。ただし、オキサゾリン基反応性官能基を有する重合体を用いることが好ましい。このような重合体としては、例えば、カルボキシル基含有重合体が挙げられる。カルボキシル基含有重合体としては、例えば、少なくとも不飽和カルボン酸を含む単量体成分を重合してなる、側鎖として複数個のカルボキシル基を有する重合体;末端および/またはペンダントとしてのカルボキシル基を含有する縮合系樹脂;後変性によりカルボキシル基を導入した樹脂、などが例示される。具体的には、カルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、スチレン含有樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。
【0025】
以上、カルボキシル基を含有する重合体を例示したが、オキサゾリン基反応性官能基を有する重合体としては、カルボキシル基含有重合体に限定されず、その他にも芳香族チオール基やフェノール系水酸基を含有する重合体などが用いられる。なお、これらの重合体は、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
本発明のエマルション組成物は、環境への配慮から水性であることが好ましいので、上記の「他の重合体」は水溶性、水希釈性または水分散性であることが好ましい。上記の「他の重合体」の供給形態は特に制限されないが、上記のような環境への配慮から、「他の重合体」も水溶液あるいはエマルションの形態であることが好ましい。なお、かような場合において、組成物中に前記他の重合体が本発明の反応性エマルションよりも多量に存在すると、当該組成物は一見するとエマルションの外観および性状を示さない場合がある。しかしながら、かような場合であっても、本発明の反応性エマルションを含む限り、本発明のエマルション組成物に含まれるものとする。
【0027】
本発明のエマルション組成物は、本発明の目的をそこなわない範囲で必要に応じて、溶剤、可塑剤、無機又は有機の充填剤、着色顔料、染料、増粘剤、分散剤、湿潤剤、消泡剤、防腐防カビ剤、防錆剤等を含んでもよい。
【0028】
本発明のエマルション組成物中の各成分の配合量は特に制限されない。一例を挙げると、エマルション組成物の全量に対して、本発明の反応性エマルションが1〜99重量%程度、および他の重合体(例えば、カルボキシル基含有重合体)が、1〜99重量%程度含まれる。また、他の重合体がカルボキシル基含有重合体である場合、本発明の反応性エマルションのシェル部に存在するオキサゾリン基(Ox基)と、前記他の重合体の有するカルボキシル基(COOH基)との含有量の比(Ox基/COOH基)は、1/100〜100/1程度であればよいが、この比が1/1に近づくほど、架橋性能が向上しうるため好ましい。
【0029】
本発明のエマルション組成物を製造するに際しては、特に限定されず、当該業者で慣用の手段を広く適用でき、例えば、本発明の反応性エマルションに、他の重合体及びその他添加剤を適宜添加、混合すれば良い。そして、エマルション組成物を塗料、表面処理剤、コーティング剤、接着剤、シーリング剤等に使用するに際しては、ロールコーター、スプレー、浸潰、刷毛塗り等当該業者で慣用の方法で基材に塗布すれば良い。
【0030】
上述した本発明のエマルション組成物は、塗料、表面処理剤、コーティング剤、接着剤、シーリング剤等の各種用途に対して非常に有効に適用されうる。なかでも、好ましくは、セルロース系基材加工用樹脂組成物として用いられる。すなわち、本発明のエマルション組成物は、綿織布といったセルロース基材を加工するための顔料捺染用バインダー、繊維加工剤、塗布または含浸加工剤、接着剤、コーティング剤などに用いられる。
【0031】
上述したように、本発明のエマルション組成物は、本発明の反応性エマルションおよび他の重合体(例えば、カルボキシル基含有重合体)を含む。含まれる各成分の詳細は上述したとおりである。
【0032】
ここで、本発明のセルロース系基材加工用樹脂組成物は、水酸基および、オキサゾリン基反応性官能基の双方と反応しうる官能基を有する化合物(C)をさらに含むことが好ましい。このような化合物は、例えば、水酸基および、オキサゾリン基反応性官能基の双方と反応しうる官能基を有する化合物であってもよいし、水酸基と反応しうる官能基、およびオキサゾリン基反応性官能基と反応しうる官能基の双方を有する化合物であってもよい。ここで、水酸基および、オキサゾリン基反応性官能基の双方と反応しうる官能基としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、メチロール基、カルボジイミド基などが挙げられる。また、これらの官能基以外に、水酸基と反応しうる官能基としては、アルデヒド基、酸無水物基などがあげられる。さらに、上記の官能基以外に、オキサゾリン基反応性官能基と反応可能な官能基としては、オキサゾリン基の他、アジリジニル基などが挙げられる。以上から化合物(C)としては、イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物が挙げられるが、中でもイソシアネート化合物が好ましく、特にブロックイソシアネート化合物が好ましい。本発明の樹脂組成物を水系で用いる場合、ブロック化していないイソシアネート化合物では水中でイソシアネート基が加水分解しやすく本発明の効果が望めず、また同じ理由から長期保管による性能維持も期待できないためである。ブロックイソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(pure MDI)、MDI重合物、キシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加XDI、水素添加MDI等のブロック化物を挙げることができ、ブロック化剤としては、フェノール、ε−カプロラクタム、メチルエチルケトオキシム、活性メチレン化合物等を挙げることができる。特に好ましいブロックイソシアネート化合物としては、100〜150℃で解離するブロックイソシアネート化合物が好ましい。100℃未満で解離するブロックイソシアネート化合物を使用した場合、樹脂組成物の保存安定性が悪化し、ゲル化するおそれがあるためである。一方、150℃より高い温度で解離するブロックイソシアネート化合物を使用した場合、低温処理時の添加効果が期待できない。
【0033】
本発明の樹脂組成物中の化合物(C)の配合量は、本発明の反応性エマルションに対して5〜2000重量%であることが好ましく、10〜500重量%がより好ましく、25〜200重量%がさらに好ましい。化合物(C)の配合量が5重量%より少ない場合には化合物(C)の添加効果が期待できず、化合物(C)の配合量が2000重量%よりも多い場合には、長期保管による組成物の黄変や性能低下のおそれがある。
【0034】
本発明のセルロース系基材加工用樹脂組成物は、水酸基との反応によりカルボキシル基を生成しうる官能基を有する化合物、または水酸基と反応しうる官能基およびカルボキシル基を有する化合物の少なくとも一方の化合物をさらに含むことが好ましい。水酸基との反応によりカルボキシル基を生成しうる官能基としては、酸無水物基などが挙げられる。また、水酸基と反応しうる官能基としては、酸無水物基の他、アルデヒド基、エポキシ基、イソシアネート基、メチロール基、カルボジイミド基などが挙げられる。
【0035】
ここで、好ましくは、酸無水物基含有化合物が本発明の樹脂組成物に含まれる。酸無水物基含有化合物は、低分子化合物であってもよいし、重合体であってもよい。また、酸無水物基含有化合物において、酸無水物基は、その全部または一部が開環していてもよいし、モノエステル化物やモノアミド化物となっていてもよい。なお、酸無水物基の開環物とは、酸無水物基が加水分解により開環したものであり、カルボキシル基どうしが隣接したものである。
【0036】
酸無水物基含有低分子化合物としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水コハク酸、テトラプロペニルコハク酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水グルタル酸、無水ジグリコール酸、ブタンテトラカルボン酸無水物、およびこれらの全部または一部の開環物、モノエステル化物、モノアミド化物などが挙げられる。
【0037】
酸無水物基含有重合体としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物、これらの全部または一部の開環物、モノエステル化物、モノアミド化物から選ばれる1種以上の単量体を必須の繰り返し単位として含むものが挙げられ、上記の単量体の1種以上を必須成分として含む単量体成分を重合するか、あるいはエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物のみを必須成分として含む単量体成分を重合し、重合中または重合後に、該不飽和ジカルボン酸無水物基の全部または一部を開環、モノエステル化、もしくはモノアミド化することによって得られる。このような単量体としては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、およびこれらの開環物、モノエステル化物、モノアミド化物が挙げられる。このような重合体としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。また、後変性により酸無水物基を導入した重合体も使用可能であり、例えば無水マレイン酸変性ポリオレフィン、無水マレイン酸グラフト重合体、これらの重合体に含まれる酸無水物基の全部または一部の開環物、モノエステル化物、モノアミド化物が挙げられる。なお、上記の酸無水物基含有化合物中の酸無水物基の数は、2個以上であることが好ましい。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、上記以外の各種添加剤を適宜含有していてもよく、例えば、溶剤、可塑剤、無機または有機の充填剤、着色顔料、染料、増粘剤、分散剤、湿潤剤、消泡剤、防腐防カビ剤、防錆剤を添加することができる。また、この他に、SBRやポリウレタンエラストマーのような水性エラストマーを適宜添加することにより、本発明の樹脂組成物の耐洗濯性を向上させることができる。水性エラストマーの使用量は上記の他の重合体(例えば、カルボキシル基含有重合体)の使用量の2〜50重量%であることが好ましく、5〜10重量%であることがより好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、前記したように環境への配慮などから水性であることが好ましく、従って溶剤としては水を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、セルロース系基材の加工に用いられる。本発明の樹脂組成物によって加工を行うセルロース系基材とは、セルロースを含む材料からなる基材である。基材の形状としては繊維、フィルム、板状物等が挙げられる。具体的には、綿、綿混紡(綿と各種合成繊維との混紡をいう。具体的には、綿/ポリエステル混紡など、以下同じ)、木材、紙、パルプ、麻の他、セルロース誘導体(ニトロセルロース、セルロイド、セルロースラッカー、アセチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、ビスコースレーヨン、CMC、HEC等)、これらを含む基材、およびこれらを塗布した基材が挙げられる。
【0041】
セルロース系基材の加工における用途としては、具体的には、顔料捺染用バインダー、繊維加工剤、塗布または含浸加工剤、接着剤、コーティング剤などが挙げられる。
【実施例】
【0042】
つぎに、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記実施例における「部」および「%」は、特にことわらない限り、それぞれ重量部および重量%である。
【0043】
製造例1(カルボキシル基含有アクリル水分散体の合成例)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えたフラスコに、脱イオン水623.9部およびハイテノールN−08(第一工業製薬株式会社製のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩)の15%水溶液14.0部を仕込み、緩やかに窒素ガスを流しながら70℃に加熱した。そこへ過硫酸カリウムの2%水溶液126部を注入し、続いて、予め調製しておいたスチレン336.0部、ブチルアクリレート470.4部、アクリル酸33.6部、15%N−08水溶液126.0部および脱イオン水154部からなる単量体混合物を3時間にわたって滴下した。反応中は窒素ガスを流しつづけ、フラスコ内の温度を70±1℃に保った。滴下終了後も2時間同じ温度に保った後、内温を80℃に昇温させて1時間撹拌を続けて反応を完結させた。その後冷却し、適量のアンモニア水でpH8.5に調節し、不揮発分40.0重量%のカルボキシル基含有アクリル水分散体を得た(理論酸分0.56mmol/g・solid)。
【0044】
実施例1(二段型オキサゾリン基含有アクリル水分散体(1)の合成例:コア/シェル比=5/5)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えた容量1リットルのセパフラスコに、脱イオン水228.1部、界面活性剤ハイテノールN−08(第一工業製薬製)の25%水溶液1.23部、および7%アンモニア水溶液1.9部を仕込み、緩やかに窒素ガスを流しながら70℃に昇温させた。70℃になったら、一段目として作成したブチルアクリレート141.8部、スチレン133.2部、ジビニルベンゼン0.3部、脱イオン水79.2部、ハイテノールN−08の25%水溶液15.5部、および7%アンモニア水0.3部からなるプレエマルションの10%を初期仕込みとして添加した。その後、過硫酸カリウム2.8部を純水34.4部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、重合を開始させた。さらに、一段目の残りのプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させた。滴下完了10分後から更に二段目として、ブチルアクリレート141.8部、スチレン78.2部、ジビニルベンゼン0.3部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン55.1部、脱イオン水79.2部、ハイテノールN−08の25%水溶液15.5部、および7%アンモニア水0.3部からなるプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させ、二段目滴下完了後80℃で2.5時間熟成させた。反応終了後、7%アンモニア水1.4部を添加し、pHを8.7に調節し、不揮発分55.6重量%のオキサゾリン基含有アクリル水分散体を得た(理論オキサゾリン基当量は0.90mmol/g)。
【0045】
実施例2(二段型オキサゾリン基含有アクリル水分散体(2)の合成例:コア/シェル比=6/4)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えた容量1リットルのセパフラスコに、脱イオン水228.1部、界面活性剤ハイテノールN−08(第一工業製薬製)の25%水溶液1.23部、および7%アンモニア水溶液1.9部を仕込み、緩やかに窒素ガスを流しながら70℃に昇温させた。70℃になったら、一段目として作成したブチルアクリレート170.1部、スチレン159.9部、ジビニルベンゼン0.4部、脱イオン水95.0部、ハイテノールN−08の25%水溶液18.6部、および7%アンモニア水0.4部からなるプレエマルションの10%を初期仕込みとして添加した。その後、過硫酸カリウム2.8部を純水34.4部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、重合を開始させた。さらに、一段目の残りのプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させた。滴下完了10分後から更に二段目として、ブチルアクリレート113.4部、スチレン62.5部、ジビニルベンゼン0.2部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン44.1部、脱イオン水63.4部、ハイテノールN−08の25%水溶液12.4部、および7%アンモニア水0.2部からなるプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させ、二段目滴下完了後80℃で2.5時間熟成させた。反応終了後、7%アンモニア水1.4部を添加し、pHを8.9に調節し、不揮発分55.6重量%のオキサゾリン基含有アクリル水分散体を得た(理論オキサゾリン基当量は0.72mmol/g)。
【0046】
実施例3(二段型オキサゾリン基含有アクリル水分散体(3)の合成例:コア/シェル比=7/3)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えた容量1リットルのセパフラスコに、脱イオン水228.1部、界面活性剤ハイテノールN−08(第一工業製薬製)の25%水溶液1.23部、および7%アンモニア水溶液1.9部を仕込み、緩やかに窒素ガスを流しながら70℃に昇温させた。70℃になったら、一段目として作成したブチルアクリレート198.5部、スチレン186.6部、ジビニルベンゼン0.4部、脱イオン水110.9部、ハイテノールN−08の25%水溶液21.7部、および7%アンモニア水0.4部からなるプレエマルションの10%を初期仕込みとして添加した。その後、過硫酸カリウム2.8部を純水34.4部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、重合を開始させた。さらに、一段目の残りのプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させた。滴下完了10分後から更に二段目として、ブチルアクリレート85.1部、スチレン46.9部、ジビニルベンゼン0.2部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン33.1部、脱イオン水47.5部、ハイテノールN−08の25%水溶液9.3部および7%アンモニア水0.2部からなるプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させ、二段目滴下完了後80℃で2.5時間熟成させた。反応終了後、7%アンモニア水1.4部を添加し、pHを8.8に調節し、不揮発分55.6重量%のオキサゾリン基含有アクリル水分散体を得た(理論オキサゾリン基当量は0.54mmol/g)。
【0047】
実施例4(二段型オキサゾリン基含有アクリル水分散体(3)の合成例:コア/シェル比=5/5)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えた容量1リットルのセパフラスコに、脱イオン水228.1部、界面活性剤ハイテノールN−08(第一工業製薬製)の25%水溶液1.23部、および7%アンモニア水溶液1.9部を仕込み、緩やかに窒素ガスを流しながら70℃に昇温させた。70℃になったら、一段目として作成したブチルアクリレート141.8部、スチレン133.2部、ジビニルベンゼン0.3部、脱イオン水79.2部、ハイテノールN−08の25%水溶液15.5部、および7%アンモニア水0.3部からなるプレエマルションの10%を初期仕込みとして添加した。その後、過硫酸カリウム2.8部を純水34.4部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、重合を開始させた。さらに、一段目の残りのプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させた。滴下完了10分後から更に二段目として、ブチルアクリレート141.8部、スチレン50.6部、ジビニルベンゼン0.3部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン82.7部、脱イオン水79.2部、ハイテノールN−08の25%水溶液15.5部、および7%アンモニア水0.3部からなるプレエマルションを1.3時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させ、二段目滴下完了後80℃で2.5時間熟成させた。反応終了後、7%アンモニア水1.4部を添加し、pHを8.7に調節し、不揮発分55.6重量%のオキサゾリン基含有アクリル水分散体を得た(理論オキサゾリン基当量は1.35mmol/g)。
【0048】
比較例1(一段型オキサゾリン基含有アクリル水分散体(1)の合成例)
撹拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えた容量1リットルのセパフラスコに、脱イオン水228.1部、界面活性剤ハイテノールN−08(第一工業製薬製)の25%水溶液1.23部、および7%アンモニア水溶液1.9部を仕込み、緩やかに窒素ガスを流しながら70℃に昇温させた。70℃になったら、ブチルアクリレート283.5部、スチレン211.4部、ジビニルベンゼン0.6部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン55.1部、脱イオン水158.4部、ハイテノールN−08の25%水溶液31.0部、および7%アンモニア水0.6部からなるプレエマルションの10%を初期仕込みとして添加した。その後、過硫酸カリウム2.8部を純水34.4部に溶解させた開始剤水溶液を添加し、重合を開始させた。さらに残りのプレエマルションを2.5時間かけて滴下し、撹拌しながら反応させ、滴下後80℃で2.5時間熟成させた。反応終了後、7%アンモニア水1.4部を添加し、pHを8.8に調節し、不揮発分55.6重量%のオキサゾリン基含有アクリル水分散体を得た(理論オキサゾリン基当量は0.90mmol/g)。
【0049】
実施例5〜8および比較例2
表1(全ての配合比は、特にことわらない限り、質量比である)に示す配合にてオキサゾリン基含有アクリル水分散体とカルボキシル基含有アクリル水分散体を用い、硬化性組成物を調整した。この硬化性組成物を用いて、以下に示す耐キシレン膨潤率試験を行った。
【0050】
(評価方法)
耐キシレン膨潤率
硬化性組成物を23℃、65%RHの条件下で四フッ化エチレン樹脂の板上にキャストした後1日放置して、膜厚約0.3mmのフィルムを作成し、試験片とした。試験片を所定の硬化条件にて硬化後、室温においてキシレン中に24時間浸漬し、その膨潤率を下式に従って算出した。膨潤率の数値が小さいほど耐溶剤性が良好である。
【0051】
【数1】

【0052】
【表1】

【0053】
表1に示す結果から、コア−シェル型の本発明の反応性エマルションは硬化性組成物として使用される場合、キシレン膨潤率が低く、優れた耐溶剤性を発揮することがわかる。
【0054】
実施例9〜12および比較例3、4
表2(全ての配合比は、特にことわらない限り、質量比である)に示す配合にてオキサゾリン基含有アクリル水分散体(上記の実施例1および比較例1における調整物)、カルボキシル基含有アクリル水分散体、および必要に応じて他の化合物を用い、セルロース系基材加工用樹脂組成物を調整した。この硬化性組成物を用いて、紙含浸加工を施し、引張強度を測定した。
【0055】
(含浸条件)
基材(濾紙:#1、アドバンテック製、長方形15nm×250nm)に対して組成物を1重量%に水希釈した液に十分含浸した後、120℃×30分で熱処理を行い、試験片を得た。
【0056】
(引張強度の測定条件)
試験片を、恒温恒湿室(温度25℃、湿度60%RH)で24時間保存後、引張強度をJIS P−8113に準拠して測定した。測定結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示す結果から、コア−シェル型の本発明の反応性エマルションはセルロース系基材加工用樹脂組成物として使用される場合、引張強度が大きく、優れた強度を発揮することがわかる。
【0059】
上記の実施例は本発明をより具体的に説明することを目的としており、本発明を実施例に制限するために記述されたものではない。
【0060】
本出願は、2005年4月20日に出願された日本国特許出願第2005−122442号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系エマルションの微粒子をコア部とし、該コア部の周囲にオキサゾリン基含有重合体層をシェル部として形成してなる反応性エマルション。
【請求項2】
該コア部100重量部に対する該シェル部の割合が1〜900重量部である請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
該シェル部における付加重合性オキサゾリンの割合が1重量%以上である請求項1または2に記載のエマルション。
【請求項4】
アクリル系エマルションに、付加重合性オキサゾリンを必須成分とする単量体ないし単量体混合物を乳化剤の存在下に重合する段階を有する反応性エマルションの製造方法。
【請求項5】
該アクリル系エマルションの固形分100重量部に対する付加重合性オキサゾリン含有単量体ないし単量体混合物の割合が1〜900重量部である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
該単量体ないし単量体混合物が付加重合性オキサゾリンを1重量%以上含有してなる請
求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応性エマルションおよび他の重合体よりなるエマルション組成物。
【請求項8】
該他の重合体が、カルボキシル基、芳香族チオール基およびフェノール性水酸基からな
る群から選ばれる1種以上の官能基を必須成分とする重合体である、請求項7に記載のエマルション組成物。
【請求項9】
請求項7または8に記載のエマルション組成物を必須成分として含有するセルロース系基材加工用樹脂組成物。
【請求項10】
水酸基並びに、カルボキシル基、芳香族チオール基およびフェノール性水酸基からなる
群から選ばれる1種以上の官能基の双方と反応しうる官能基を有する化合物をさらに含有する、請求項9に記載のセルロース系基材加工用樹脂組成物。
【請求項11】
酸無水物基を有する化合物、または水酸基と反応しうる官能基およびカルボキシル基を
有する化合物の少なくとも一方を必須成分としてさらに含有する、請求項9または10に
記載のセルロース系基材加工用樹脂組成物。

【公表番号】特表2008−536951(P2008−536951A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548633(P2007−548633)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【国際出願番号】PCT/JP2006/308675
【国際公開番号】WO2006/112538
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】