説明

収差補正素子とこれを備えたアクチュエータ、光ピックアップ装置、光情報処理装置

【課題】単一のプラスチック製対物レンズで、3種類の光記録媒体の記録面に、必要な開口数(NA)で収束でき、光利用効率の損失なく温度変動での球面収差を良好に補正して安定した記録,再生を行う。
【解決手段】対物レンズ106で発生の球面収差を補正するため、収差補正素子501の発生位相差が、対物レンズ106の球面収差の位相分布と同じ形状の逆方向で、位相シフタ面503での発生位相差が最大となる段差の向きが入れ替わる折り返しまでの領域ψtは、収差補正素子501の有効径raのとき0.6×ra≦ψt≦0.8×raを満たす範囲とする。この位相段差の領域ψtは、回折面502の有効範囲ψdに対して、ψd≦ψtを満たす範囲に形成され、領域ψt内の段差は、α×rで表される関数に近似の段差形状とする。これにより必要開口数(NA)で収束し、光利用効率の損失なく球面収差を補正し記録,再生できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報処理装置に用いられる光ピックアップ装置、アクチュエータに設けられ、特に記録密度が異なる複数種類の光記録媒体に対して、情報の記録,再生を行う際に、互換性を実現する収差補正素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
映像情報、音声情報、またはコンピュータ上のデータを保存する手段として、記録容量0.65GBのCD、記録容量4.7GBのDVDなどの光記録媒体が普及しつつある。そして、近年、さらなる記録密度の向上および大容量化の要求が強くなっている。
【0003】
このような光記録媒体の記録密度を向上させる手段としては、光記録媒体に情報の書き込みまたは読み出しを行う光ピックアップ装置において、対物レンズの開口数(以下、NAという)を大きくすること、あるいは、光源の波長を短くすることにより、対物レンズによって集光され、光記録媒体上に形成されるビームスポットを小径化することが有効である。
【0004】
そこで、例えば「CD系光記録媒体」では、対物レンズのNAが0.50、光源の波長が780nmとされているのに対して、「CD系光記録媒体」よりも高記録密度化がなされた「DVD系光記録媒体」では、対物レンズのNAが0.65、光源の波長が660nmとされている。そして、光記録媒体は、前述したように、さらなる記録密度の向上および大容量化が望まれており、そのためには、対物レンズのNAを0.65よりもさらに大きく、あるいは、光源の波長を660nmよりもさらに短くすることが望まれている。
【0005】
このような大容量の光記録媒体および光情報処理装置として、「Blu-ray Disc」(以下、BDという)の規格が提案されている。青色の波長領域の光源とNAが0.85の対物レンズを用いて、22GB相当の容量確保を満足する光記録媒体である。
【0006】
BDのような高密度な情報の記録および/または再生を行える光ピックアップ装置であっても、従来から大量に供給されたCD,DVDに対しても情報の記録および/または再生を確保する必要がある。そして、記録,再生すべき光記録媒体の種類に応じて、適切な波長の光源を選択し、この選択した光束に対して適切な光学処理を施し、それぞれの光記録媒体で基板厚さの違いによって生じる球面収差を補正することが望ましい。
【0007】
異なる光記録媒体を1つの光ピックアップ装置を用いて記録あるいは再生するものとして、1つの対物レンズを用いる手段が提案されている(特許文献1参照)。これにより、部品点数の削減、小型化ために1つの対物レンズにより複数規格の光ディスクに対応するものである。
【0008】
この特許文献1では、対物レンズを構成する材質をガラス製としている。これに対して、プラスチック製の対物レンズを用いた場合、軽量で射出成形による製造コストの削減を行うことができる。しかしながら、プラスチック製レンズはガラス製レンズに比べ、温度依存性が高く温度変動により光学特性の劣化が大きい。光ピックアップ装置内部の温度変動に起因して、プラスチック製レンズの形状、材料の屈折率、および光源から出射される光束の発振波長などが変化することで、集光スポットに収差が発生し、記録および再生が正常に行われない恐れがある。
【0009】
そして、光ピックアップ装置内部の温度変化によって生じ、光記録媒体の情報記録面に対する集光スポットの形成性能の劣化を補償する手段として、回折レンズを用いる手段が提案されている(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されるように、対物レンズを構成する材質をガラス製とする場合、対物レンズの重量が大きくなりアクチュエータへの負荷が大きくなるという課題がある。さらに、ガラス製では、射出成形による製造が難しく、プラスチック製の対物レンズと比較してコストが増加するとういう課題もある。
【0011】
また、単一の対物レンズに加え収差補正機能を有する回折素子を用いて、異なる光記録媒体との間で互換性を実現しているため、単一レンズで光ピックアップ装置の構成が可能であり、コスト的に有利である。しかし、回折素子のような光学面に複数の輪帯形状を構成する場合、球面収差補正量やワーキングディスタンス(WD)の条件に応じて輪帯ピッチが小さくなり、射出成形による製造が困難となりコストが増加するという課題がある。特に、対物レンズの小径化に伴う回折構造の有効範囲縮小のため、その傾向は顕著になる。
【0012】
また、そのような細かい回折構造の輪帯を回折光学素子の金型に形成することは困難であり、さらに回折光学素子の成形時に転写不良の恐れもある。設計値通りに光学面に回折輪帯を形成できないと、回折効率が低下するため、所望の光学特性を発揮できないこととなる。
【0013】
そして、対物レンズの温度特性を補償する特許文献2には、1つの対物レンズを用いて、この対物レンズの曲面上に温度補償のための位相構造を形成することが記載されている。しかしながら、青色対応のNA0.85を満たす対物レンズの非球面上に位相構造を形成することは困難であり、製造上の課題が大きい。また、温度補正機構に回折構造を用いているため、光利用効率が低下するという課題がある。
【0014】
また、温度補償構造のない対物レンズの例も示されているが、この場合、2つの収差補正面に加えて温度補償面を有することから、部品点数が多くなり、小型化,低コスト化に適さない。
【0015】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するものであり、使用波長に応じた複数の光源を備えながら、軽量で射出成形による製造コストの削減が可能な単一のプラスチック製の対物レンズを用いて、3種類の光記録媒体の記録面に、必要な開口数(NA)で光束を収束することができるとともに、光利用効率の損失なく温度変動による球面収差を良好に補正して安定した記録,再生ができ、部品点数の削減,小型化,低コスト化を実現する収差補正素子とこれを備えたアクチュエータ、光ピックアップ装置、光情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載した収差補正素子は、第1の光源から出射する波長λ1の第1の光束により記録,再生する基板厚t1の第1光記録媒体と、第2の光源から出射する波長λ2の第2の光束により記録,再生する基板厚t2の第2光記録媒体と、第3の光源から出射する波長λ3の第3の光束により記録,再生する基板厚t3の第3光記録媒体と、光源からの光束を光記録媒体の情報記録面に集光させて情報の記録および/または再生を行う光ピックアップ装置に用いられ、第1光記録媒体に最適化されたプラスチック製の単一レンズからなる対物レンズと集光ユニットを構成する収差補正素子において、収差補正素子は、一方の面が回折面で構成され、他方の面が位相シフタ面で構成されてなり、回折面は、第1の光束に対して回折せず、第2,第3の光束を回折する回折面であって、位相シフタ面は、3以上30以下の数の輪帯からなり、隣り合う輪帯同士が、入射光に対して所定の光路差を生じるように形成され、かつ段差の向きが有効径内で少なくとも一度入れ替わる折り返し構造を光学面上に有する位相シフタ構造となっており、第1光記録媒体に対して、対物レンズで温度変化に比例して発生する球面収差ΔSA1とは逆方向の球面収差−ΔSA1が発生する構造を形成した位相シフタ面であり、常温において、第1の光束は位相差を与えず不感帯として透過し、第2,第3の光束は回折面、位相シフタ面の両面を透過することで、光記録媒体の違いにより生じる球面収差を補正することを特徴とする。
【0017】
この構成によって、単一の対物レンズ、単一の収差補正素子により複数の光記録媒体の互換が可能となり、位相シフタ面によって、光ピックアップ装置内部の温度変化に比例し発生する球面収差に対して逆方向の球面収差を適切な発生量として、第1光記録媒体の記録面に集光可能な温度特性が得られ、また、第2,第3の光束に対して、位相シフタ面で付与される位相差を、光情報記録媒体の違いで生じる球面収差の補正に利用し、回折面の補正量を低減し、回折パターンの構造が簡易化できる。
【0018】
また、請求項2に記載した発明は、請求項1の収差補正素子であって、収差補正素子の回折面は、光軸を中心とする第1回折構造を有する第1領域と、第1領域よりも光軸垂直方向の外側に形成されるとともに第2回折構造を有する環状の第2領域と、第2領域よりも光軸垂直方向の外側に形成されるとともに光学平面である環状の第3領域とを有し、第1領域および対物レンズを通過した第1の光束〜第3の光束は、第1〜第3光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成し、第2領域および対物レンズを通過した第1の光束〜第3の光束の内、第1の光束および第2の光束は、第1,第2光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成し、第3の光束は、第3光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成せず、第3領域および対物レンズを通過した第1の光束〜第3の光束の内、第1の光束は、第1情報記録面上に集光スポットを形成し、第2の光束および第3の光束は、第2,第3光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成しないよう構成され、収差補正素子の位相シフタ面の位相段差構造と、回折面の回折構造は、収差補正素子の有効径をra、段差の向きが入れ替わる折り返しまでの領域をψt、回折面の第1領域と第2領域を含む有効範囲をψdとしたとき、以下の条件「0.6×ra≦ψt≦0.8×ra」、「ψd≦φt」を満たす範囲に設定されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によって、位相シフタ面で段差の向きが入れ替わる折り返しまでの領域ψtが「0.6×ra≦ψt≦0.8×ra」の範囲にあることで、温度変化に伴い発生する位相が、対物レンズの球面収差を打ち消す位相分布となり、良好な補正効果が得られ、また、回折面の有効領域ψdと領域ψtを「ψd≦ψt」として、回折領域を通過して集光スポットを形成する光束が、位相シフタ面の段差が入れ替わる変曲点を通過しないため、位相シフタ面により受ける特性を劣化させる位相差の発生を小さくできる。
【0020】
また、請求項3に記載した発明は、請求項1または2の収差補正素子であって、収差補正素子の位相シフタ面の領域ψt内において、光軸から遠くなるにつれて輪帯の各領域の光軸方向の厚さが薄くなるように段差が形成され、領域ψt外において、光軸から遠くなるにつれて輪帯の各領域の光軸方向の厚さが厚くなるように段差構造が形成され、位相シフタ面の領域ψt内の段差は、α×rで表される関数に近似される階段形状であり、次の条件、
「位相シフタ面の領域ψt内の段差H1は、
(n1−1)×H1=k1×λ1
(k2+0.2)×λ2≦(n2−1)×H1
(k3+0.2)×λ3≦(n3−1)×H1
位相シフタ面の領域ψt外の段差H2は、
(n1−1)×H2=k4×λ1
ここで、k1〜k4:整数、n1,n2,n3:収差補正素子材料の波長λ1,λ2,λ3に対する屈折率」
を満たす範囲に設定されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によって、位相シフタ面の領域ψt内の段差は、α×r(αは係数)で表される半径rの2次関数に近似される高さの階段形状としたことで、領域ψtを透過する光束により集光スポットが形成される波長λ2、λ3の波面にα×rで表されるデフォーカス成分を加えることができ、第1の光束に対して、段差が波長の整数倍で構成されているため、常温において、位相シフタ面の段差形状が、第1の光束に対して不感帯となって位相差を生じさせることなく、3波長互換のための回折面と同一光路中に配置でき、第2,第3の光束に対しては、段差を波長の整数倍からずらすことで位相差を発生させ、また、第2,第3の光束は、位相シフタ面の領域ψt内の透過光束のみが集光スポットを形成し、位相シフタ面の領域ψt外の段差H2は、第1の光束に対してのみ不感帯であれば良く、回折面と位相シフタ面の一体形成も可能となり、また位相段差による効率低下を抑制できるため、高光利用効率を実現できる。
【0022】
また、請求項4に記載したアクチュエータは、請求項1〜3のいずれか1項に記載の収差補正素子を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項5に記載した光ピックアップ装置は、請求項4記載のアクチュエータを備えたことを特徴とする。
【0024】
また、請求項6に記載した光情報処理装置は、請求項5記載の光ピックアップ装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、使用波長に応じた複数の光源を備えながら、軽量で安価なプラスチック製の対物レンズを用いて、3種類の光記録媒体の情報記録面に良好な集光性能を実現するとともに、光利用効率の損失なく温度変動による球面収差を良好に補正ができ、これによりアクチュエータの負荷を低減し、安定した記録,再生の動作が可能となり、さらに小型化,低コスト化,高効率化した高精度な収差補正素子とこれを備えたアクチュエータ、光ピックアップ装置、光情報処理装置が実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態における光ピックアップ装置の概略構成を示す図
【図2】本実施形態の収差補正素子と対物レンズの断面拡大図
【図3】本実施形態の収差補正素子の断面拡大図
【図4】本実施形態の収差補正素子の回折面を示す図
【図5】本実施形態の回折面の高さ(溝深さ)とピッチを説明する図
【図6】本実施形態の回折面のWDと輪帯ピッチ、輪帯数の関係を表す図
【図7】BD系,DVD系,CD系光束の温度変化に対する球面収差の増加量を示す図
【図8】有効半径位置に対する位相分布を表すOPD収差特性を示す図
【図9】本実施形態の収差補正する原理を説明する図
【図10】本実施形態の位相シフタ面の断面拡大図
【図11】本実施形態の位相シフタ面を示す図
【図12】本実施形態の位相シフタ面の段差形状を示す図
【図13】対物レンズで発生する球面収差の位相関数を示す図
【図14】収差補正する回折面で発生する波面の位相関数を示す図
【図15】位相シフタ面の領域ψtで発生する位相差関数を示す図
【図16】対物レンズの発生収差から位相シフタ面の領域ψtの発生収差を差し引いた回折面で発生する波面の位相関数を示す図
【図17】位相シフタ面による温度特性の補正効果を示す図
【図18】軸ずれに伴って発生するコマ収差を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明の実施形態における光ピックアップ装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、単一の対物レンズ106で、異なる光源波長を用いて、3種類の光記録媒体(BD系,DVD系,CD系)を異なる有効瞳半径で記録または再生を行う互換型の光ピックアップ装置である。
【0029】
BD系,DVD系,CD系の光記録媒体107,117,127の基板厚は、それぞれ0.1mm,0.6mm,1.2mmであり、それぞれBD系,DVD系,CD系の光記録媒体に対応する。開口数は、それぞれNA0.85,NA0.65,NA0.45であり、また第1,第2,第3の光源の波長λ1,λ2,λ3は、それぞれ405nm,660nm,785nmである。
【0030】
図1に示す光ピックアップ装置は、BD系光記録媒体107に対して、半導体レーザ101,コリメートレンズ102,プリズム104,1/4波長板105,対物レンズ106,偏光ビームスプリッタ103,検出レンズ108,受光素子110,収差補正素子501により構成される。第1の光源である半導体レーザ101の中心波長は405nmであり、対物レンズ106の開口数(NA)は0.85である。また、BD系光記録媒体107の基板厚は0.1mmである。
【0031】
半導体レーザ101の出射光は、コリメートレンズ102により略平行光にされる。コリメートレンズ102を通過した光は偏光ビームスプリッタ103に入射し、プリズム104より偏向される。そして、1/4波長板105,収差補正素子501,対物レンズ106を介して集光される。BD系光記録媒体107からの反射光は対物レンズ106,1/4波長板105を通過した後、偏光ビームスプリッタ103により入射光と分離して偏向され、検出レンズ108により受光素子110上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
【0032】
また、DVD系光記録媒体117に対して、中心波長が660nmの半導体レーザ130aから出射した光は、発散角変換レンズ132,波長選択性ビームスプリッタ133を経て、プリズム104により偏向される。そして、1/4波長板105,収差補正素子501、対物レンズ106を介して、DVD系光記録媒体117に集光される。このDVD系光記録媒体117の基板厚は0.6mmであり、対物レンズ106のNAは0.65である。NAの切替えは、収差補正素子501により行われる。DVD系光記録媒体117からの反射光は対物レンズ106,1/4波長板105を通過した後、波長選択性ビームスプリッタ133により偏向され、ホログラム素子130bにより入射光と分離して受光素子130c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
【0033】
さらに、CD系光記録媒体127に対して、中心波長が785nmの半導体レーザ140aから出射した光は、発散角変換レンズ142,波長選択性ビームスプリッタ143を経て、プリズム104により偏向される。そして、1/4波長板105,収差補正素子501,対物レンズ106を介して、CD系光記録媒体127に集光される。このCD系光記録媒体127の基板厚は1.2mmであり、対物レンズのNAは0.45である。NAの切替えは、収差補正素子501により行われる。CD系光記録媒体127からの反射光は対物レンズ106,1/4波長板105を通過した後、波長選択性ビームスプリッタ143により偏向され、ホログラム素子140bにより入射光と分離して受光素子140c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
【0034】
ここで、対物レンズ106は厚さ0.1mmのBD系光記録媒体107を高精度に記録,再生できるように最適に設計されている。設計波長は405nmであり、405nmでは波面収差が0.01λrms以下と十分小さくなるよう設計されている。
【0035】
なお、本実施形態の対物レンズ106は、厚さ0.1mmのBD系光記録媒体107に最適に設計されているが、これに限定されるものではない。例えば、情報記録面を2層有する2層のBD系光記録媒体では、情報記録面は光の入射側から0.075mm,と0.1mmの位置に有するため、その中間値の厚さ0.0875mmを設計中央値とするように、異なる厚さの基板厚に最適設計されていても良い。
【0036】
本実施形態における対物レンズ106は両面非球面形状であり、面の頂点を原点とし、光源から光記録媒体へ向かう光軸方向をX軸とした直交座標系において、rを近軸曲率半径、κを円錐係数、A,B,C,D,E,F,G,H,J,・・・を非球面係数とするとき、面の光軸方向の距離xと半径Rの関係より、非球面形状は、(数1)で表される。
【0037】
【数1】

【0038】
各面および各領域の面データを(表1)に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
ここで、対物レンズ106の有効瞳半径は3.0mmである。また、対物レンズ106の材料としては、軽量で射出成形による製造コストの削減が可能である樹脂を用いる。
【0041】
図2および図3に本実施形態の収差補正素子の断面図を示す。収差補正素子501は、回折構造が形成されている回折面502と、位相段差構造が形成されている位相シフタ面503を有する。なお、図2,図3では回折面502を対物レンズ106側、位相シフタ面503を光源側としたが、この配置は逆であっても良い。
【0042】
また、収差補正素子501の平板面の一部に回折構造および位相シフタ構造が形成されていれば良く、構造が形成されていない領域があって良い。
【0043】
ここでいう回折面502とは、垂直断面形状を周期的な凹凸形状とし、波長に応じた回折光を生じさせる回折構造が形成されている面である。また、位相シフタ面503とは、垂直断面形状を非周期的な凹凸形状とし、凹凸による光路差により位相差を生じさせる位相段差構造が形成されている面である。
【0044】
収差補正素子501の材料としては樹脂を用いる。樹脂はガラスと比べて軽く、かつ成形加工が容易であるため大量生産がしやすい。本実施形態の収差補正素子501は対物レンズ106の可動部120に搭載され、対物レンズ106と一体駆動するため、軽い方が望ましい。
【0045】
樹脂としては、例えば吸湿が小さく青色波長に対して耐久性の良好である日本ゼオン社製のZEONEX(ゼオネックス:登録商標)などである。
【0046】
ここで、前述の回折面502について図4を参照しながら説明する。回折面502は、図4に示すように光束が通過する範囲内に、同心円状に分割された3つの領域、中心の第1領域502a、中心から2番目の第2領域502b、中心から3番目の第3領域502cを有する。
【0047】
第1領域502aはCD系光記録媒体127に対するNA0.45の領域に相当し、本実施形態では半径0.82mmと設定する。第1領域502aには、波長405nmの第1の光束をそのまま透過させ、DVD系,CD系光記録媒体117,127の基板厚の違いと、波長の違いより生じる球面収差を補正するように、第2,第3の光束を回折させる回折構造が形成されている。
【0048】
第2領域502bは、CD系光記録媒体127に対するNA0.45の領域からDVD系光記録媒体117に対するNA0.65の領域に相当し、本実施形態では半径0.82mmから1.08mmに設定する。第2領域502bには、波長405nmの第1の光束をそのまま透過させ、DVD系光記録媒体117の基板厚の違いと、波長の違いより生じる球面収差を補正するように、第2の光束を回折させ、かつ第3の光束は、CD系光記録媒体127の記録面に集光しないような回折構造が形成されている。
【0049】
第3領域502cは、DVD系光記録媒体117に対するNA0.65からBD系光記録媒体107に対するNA0.85の領域に相当し、本実施形態では半径1.08mmから1.50mmに設定する。第3領域502cは回折構造が形成されない平坦部(図3参照)であり、第1,第2,第3の光束をそのまま透過させるため、BD系光記録媒体107に対しては対物レンズ106より集光され、DVD系,CD系光記録媒体117,127に対しては集光されない構造となる。
【0050】
したがって、回折面502は、DVD系,CD系光記録媒体117,127に対して、第2,第3の光束で発生する収差を補正し、かつ開口を切替えるような構成となり、良好なスポットを形成できる。
【0051】
収差補正素子501は、平行光で入射してきた光束を発散方向に回折させることで、収差の補正を行っている。つまり、発散光を対物レンズ106へ入射するときに発生する収差と、基板厚や波長の違いによって発生する収差を逆極性にすることで補正している。発散光を対物レンズ106へ入射させると、対物レンズ106と光記録媒体との距離であるワーキングディスタンス(WD)が広がるため、小径で高NAの対物レンズ106でCD系光記録媒体127のような基板厚の厚いものに集光させる際には、都合の良い構成となる。
【0052】
収差補正素子501の第1領域502aの断面は、図3に示されるように同心円状に形成された複数の輪帯状凹凸部からなる。各輪帯状凹凸部は階段形状であり、4つの段数を有する。ここで、段数とは、最下段も含めて数えている。輪帯状凹凸部のピッチは、この回折構造がレンズ効果を有するように内側から外側に向かって徐々に狭くなっている。
【0053】
この回折面502の光路差関数は、(数2)と定義される。
【0054】
【数2】

【0055】
ただし、光軸垂直面の光軸と交わる点を原点とし、光軸方向をX軸とした直交座標系において、φは光路差関数、Rは半径(光軸からの距離)、C,C,…は光路差係数である。第1領域502aの面における光路差係数を(表2)に示す。また、輪帯数とは回折構造の1周期(図5に示すピッチ200)の数である。
【0056】
【表2】

【0057】
同じピッチであれば、回折光の次数の絶対値が大きいほど、回折する角度が大きい。DVD系,CD系光記録媒体117,127において発生する球面収差量は、DVD系よりCD系の光記録媒体の方が大きい。これは基板厚差や波長の差が大きいためである。
【0058】
したがって、収差補正量がより大きいCD系光記録媒体127に対して用いる回折光の次数の方を、DVD系光記録媒体117より大きくすると、DVD系,CD系光記録媒体117,127に対して同時に、収差を補正することが可能となる。つまり、第1,第2,第3の光束で最も強く発生する回折光の次数を、それぞれN11,N12,N13とするとき、|N11|<|N12|<|N13|の関係が成り立つ必要がある。
【0059】
本実施形態では、N11=0,N12=−1,N13=−2としている。これは用いる次数は小さい方が、回折効率が高いためである。
【0060】
また、収差補正素子501の第2領域502bの断面は、図3に示されるように同心円状に形成された複数の輪帯状の凹凸部からなる。各輪帯状の凹凸部は階段形状であり、輪帯状の凹凸部のピッチは、この回折構造がレンズ効果を有するように内側から外側に向かって徐々に狭くなっている。
【0061】
この輪帯状の凹凸部のピッチは、DVD系光記録媒体117に対して、発生する収差を補正するよう設定される。したがって、第1,第2の光束で最も強く発生する回折光の次数を、それぞれN21,N22とするとき、|N21|<|N22|が成り立つよう設定する。本実施形態ではN21=0,N22=+1を用いた。
【0062】
第2領域502bは、CD系光記録媒体127に対しては開口を制限する機能を有するよう、−2次回折光が発生しない階段状の溝深さが設定されている。
【0063】
階段形状の回折面502の回折効率は、段数が多いほど、図5の破線に示すような鋸歯状のキノフォーム形状に近づくため、回折効率は向上する。また、ピッチ200が同じ場合、溝深さDは浅い方がより回折効率が良い。さらに波長や温度変動による効率低下の影響を受けにくい。そのため、回折構造としては、溝深さDが浅く、段数が多い方が望ましい。
【0064】
しかしながら、回折面502はピッチ200が狭くなると、効率が低下することが知られている。したがって、ピッチ200が狭くなる周辺部は効率が低下する。第1領域502aは周辺にいくに従い、光量の低下が著しくなる。また、第2領域502bは、第1領域502aよりもさらにピッチ200が狭くなる。段数が多いと一段当たりのピッチ200が狭くなり、製造することが困難になって、製造誤差によるだれなどの影響で効率低下が発生する。
【0065】
ここで、回折面502のピッチ200は、補正対象となる収差の位相関数によって決定される。基板厚の差に起因する球面収差は、4次の関数で与えられる位相関数となるが、ここに、最適像面となる対物レンズと光記録媒体(保護基板)までの距離であるワーキングディスタンス(WD)を変えたときのデフォーカス成分を加えた波面の収差が互換素子の補正対象の収差となる。したがって、WDを変えることで位相関数は変化し、最適化された回折面を構成する輪帯ピッチは変わる。
【0066】
本実施形態の回折面のみの場合のWDと輪帯ピッチ、輪帯数の関係を図6に表す。対物レンズと収差補正素子の光軸方向の間隔は一定とした。回折面を狭WDで最適化した場合の方が、輪帯ピッチは広くなり、製造の難易度は下がる。したがって、製造誤差によるだれなどの影響によって効率が低下することを抑制できる。これに対して、回折面を広WDで最適化した場合、輪帯数が多くなり輪帯ピッチは狭くなる。
【0067】
前述の回折面で形成される収差補正機構は、対物レンズとともに用いられ、光記録媒体の基板厚や各波長の違いによる球面収差を補正するものであるが、対物レンズに樹脂材料を用いた場合、光ピックアップ装置の動作中にアクチュエータからの放熱や環境温度の変化に伴って球面収差が増加する。この対物レンズの温度特性による球面収差は、主に、プラスチック材料の屈折率変化、レンズ形状の膨張収縮、または光源の波長変動に起因して発生する。
【0068】
例えば、光ピックアップ装置内部の温度上昇が生じると、半導体レーザの発振波長は長波長側にシフトし、第1の光束(本実施形態では波長λ1=405nm)の光源の場合には、その変化量はおよそ0.06nm/℃となる。また樹脂は、波長変化と温度変化の影響を受け、屈折率が低くなる。
【0069】
そのため、対物レンズにより集光したスポットには、主に3次の球面収差が発生する。この球面収差の変化量は、対物レンズの開口数(NA)の4乗に比例して増大するため、NAが0.85となるBD系光記録媒体の場合は特に問題となる。
【0070】
図7に、第1,第2,第3の光束の温度変化に対する球面収差の増加量を示す。図7に示すグラフの横軸T[℃]は光ピックアップ装置内の温度変化を表し、縦軸は温度変化に伴う球面収差量を表す。常温を25℃とした。また計算には、温度変化に伴う光源の発振波長λ1の変化量dλ1/dTを、dλ1/dT=6.0×10−2[nm/℃]とし、発振波長λ2,λ3の変化量dλ1/dTを、dλ1/dT=2.0×10−1[nm/℃]とし、屈折率の変化量dn1/dTを、dn1/dT=−1.3×10−4[1/℃]とした。また、材料の線膨張係数を7.6×10−5とした。
【0071】
DVD系,CD系光記録媒体と比較し、BD系光記録媒体の増加量が大きく、およそ0.05λrms/10℃程度の変化量をもつ。DVD系,CD系光記録媒体は前述の回折面により球面収差が補正された状態において温度依存性を計算した結果である。また、図8に有効半径位置に対する位相分布を表すOPD(Optical Path Difference:光路長差)収差特性を示す。
【0072】
温度の上昇に比例して球面収差は増加する。対物レンズの収差は主に3次の球面収差であるため、4次の関数で与えられるゼルニケ多項式「6×ρ−6×ρ+1」で表される。
【0073】
光ピックアップ装置内の温度変動により生じるスポット特性の劣化に対して、収差補正素子の位相シフタ面の温度特性を利用して、収差補正を行う。この原理について図9を用いて説明する。温度が上昇した場合、前述と同様に、光源の発振波長は長波長側にシフトし、樹脂の屈折率が低下し、また段差形状は温度上昇により膨張するため、段差は増加する。
【0074】
このとき、発生する位相差は、波長の整数倍からずれるため、素子透過光に波面収差が発生する。対物レンズ106の球面収差ΔSA1の発生方向と、温度変化より生じる位相シフタ面503の球面収差−ΔSA1の発生方向が、互いに反対方向であり、これを利用して、段差形状の高さと半径位置を適切な値とする。このことにより、対物レンズ106に発生する球面収差とは、逆位相の球面収差を付与できるため、温度によるスポット性能の劣化を低減できる。
【0075】
図9において、横軸は対物レンズの瞳半径位置、縦軸は位相(λ)である。図9の401は環境温度の変化に伴って発生する収差の波面形状を示している。波面形状401の波面を補正するために、波面形状402で示す階段状の位相差を付与することにより、残留収差の波面形状403のように、光軸中心よりも進んでいる波面や遅れている波面が光軸中心とほぼ同じ位相に補正される。
【0076】
次に、収差補正素子の位相シフタ面503の構造について説明する。位相シフタ面503には硝材として対物レンズと同様に樹脂が用いられる。本実施形態では、シクロオレフェン系樹脂とした。波長λ1が405nmの光束の屈折率n1は1.525であり、波長λ2が660nmの光束の屈折率n2は1.507あり、波長λ3が780nmの光束の屈折率n3は1.503である。
【0077】
位相シフタ面503は、一例として図10および図11に示されるように、光軸中心とした複数の輪帯状領域に分割され、隣接する輪帯状領域との境界が段差Δhを有する位相シフタ面503が、平行平板(収差補正素子501)の一方の面に形成されたものである。ただし、図10,図11は位相シフタ面503の簡略的な段差形状を示したものであり、本実施形態の構成は後述する(表3)および図12に示す。
【0078】
前述したように位相シフタ面503は、複数の輪帯形状から構成され、かつ、隣り合う輪帯同士が、入射光に対して所定の光路差を生じるように形成された輪帯構造であり、段差の向きが有効径内で少なくとも一度入れ替わる折り返し構造となっている。図11の直径d2の位置までは光軸から離れるに従って、輪帯状領域の厚みが薄くなり、直径d1からd2の位置までは光軸から離れるに従って、輪帯状領域の厚みが厚くなっている。
【0079】
対物レンズで発生する球面収差を良好に補正するためには、収差補正素子で発生する位相差が、対物レンズの球面収差の位相分布と同じ形状であることが望ましい。したがって、対物レンズの収差は主に3次の球面収差であるため、ゼルニケ多項式「6×ρ−6×ρ+1」において極値点をとるρ=0.71の近傍で、位相シフタ面503での発生位相差が最大となることが望ましい。位相シフタ面503の段差の向きが入れ替わる折り返しまでの領域ψtは、収差補正素子の有効径raのとき0.6×ra≦ψt≦0.8×raを満たす範囲に形成されていることが望ましい。
【0080】
【表3】

【0081】
位相シフタ面503の段差形状の半径位置と高さを(表3)に示す。隣接する輪帯状領域との境界における段差は、常温において対物レンズの設計波長λ1(本実施形態ではλ1=405nm)の整数倍の光路差が生じるように設定されている。同時に波長λ2(本実施形態ではλ2=660nm)と波長λ3(本実施形態ではλ3=785nm)に対しては、位相差が発生するよう光路差が設定されている。
【0082】
位相シフタ面503の段差形状は図12に示すように、位相段差の領域ψtは、回折面502の有効範囲ψdに対して、ψd≦ψtを満たす範囲に形成され、領域ψt内の段差は、α×rで表される関数に近似される段差形状である。
【0083】
ここで、本実施形態では、BD系光記録媒体107の場合には、光源(半導体レーザ101)からの光束は、一例として図2にLaで示されるように、略平行光状態で位相シフタ面503に入射する。位相シフタ面503は、BD系光記録媒体107の使用波長λ1の整数倍の位相差を付与するような段差を形成しており、k1×λ1/(n1−1)の整数倍だけ厚みが異なるように構成されている。
【0084】
したがって、温度変動が小さいときには、波長λ1=405nmに対しては、実質上位相差を与えず、位相シフタ面503では何ら作用を受けることなくそのまま透過する。
【0085】
一方、DVD系光記録媒体117の場合には、回折面502が開口制限機能を有しているため、光源(半導体レーザ130a)からの光束の内、一例として図2にLbで示されるような略平行光状態で位相シフタ面503に入射する光束が記録面上のスポットを形成する。
【0086】
同様に、CD系光記録媒体127の場合には、回折面502が開口制限機能を有しているため、光源(半導体レーザ140a)からの光束の内、一例として図2にLcで示されるような略平行光状態で位相シフタ面503に入射する光束が記録面上のスポットを形成する。
【0087】
光束Lb、Lcが入射する領域では、本実施形態における位相シフタ面503の領域ψt内に形成され、輪帯状領域の段差により位相差が発生する。したがって、領域ψt内の位相段差を、前述のようにBD系の波長λ1の整数倍とし、かつDVD系,CD系の波長λ2,λ3に対しては所望の位相差を発生するよう適切な段差を設定することで、発生位相差は、対物レンズで発生する収差を低減する方向に作用し、回折面502で補正すべき収差量を低減させることができる。
【0088】
対物レンズで発生する球面収差の位相関数を図13に示す。この収差を補正するための回折面で発生する波面の位相関数を図14に示す。図13,図14にし示すように、発生収差の位相分布は、逆極性でかつ類似した分布であるため、スポット上では収差が補正される。
【0089】
回折面502の輪帯形状は、この位相関数により決定される。ここでは前述した図6のWDが、およそ0.43mmに最適化した回折面の計算例であり、このとき輪帯数は40、輪帯ピッチはおよそ0.015mmとなる。これに対して、位相シフタ面503の領域ψtにより発生する位相差関数を図15に示す。回折面と同様に、対物レンズで発生する球面収差とが逆極性であり、α×rで表される関数によって、領域ψt内の段差にゼルニケ多項式でフォーカスシフト成分を示す「2×ρ−1」の位相差が発生する。
【0090】
したがって、回折面502で発生する波面の位相関数は、対物レンズで発生する収差(図13)から、位相シフタ面503の領域ψtにより発生する収差(図15)を差し引いた分の補正量で良く、図16に表されるように位相関数はより緩やかな分布になる。この位相関数により決定される回折面の輪帯形状は回折面の輪帯数がへり輪帯ピッチを広くすることができる。WDがおよそ0.43mmに最適化した回折面の場合、輪帯数は35、輪帯ピッチはおよそ0.020mmとなる。
【0091】
通常、最適像面位置を決定して回折面を設計する場合、所望のNAと回折次数を定めてしまえば、設計の自由度は小さく、輪帯数は大よそ対物レンズの特性で決まってしまう。対物レンズが小径化した場合に、回折構造の狭ピッチ化が避けられず、もしくは狭WDで利用することが必要となる。
【0092】
しかし、本実施形態のように、回折構造と、位相シフタ構造の一部を利用して、2面を透過する位相差を利用して、基板厚差に起因する球面収差の補正を行い互換性を確保すことで、回折面の輪帯数を低減でき、製造上の難易度を低減することが可能である。また、ピッチが狭くなる周辺部での効率低下を抑制することができる。
【0093】
図6で示したように、対物レンズと素子間隔一定で、WDを広く確保して最適化すると、大きな発散角が必要なことから、輪帯数が多くピッチが狭い回折構造になる。前述のように、位相関数を緩やかにして発散角を小さくし、擬似的に狭WDとすれば輪帯数は減少し、ピッチは大きくすることができる。
【0094】
なお、位相シフタ面における段差の大きさ、および各段差の光軸からの距離は、本実施形態に限定されるものではなく、対物レンズの形状および設計波長、位相シフタ面(収差補正素子)を構成する材料、適切な開口数(NA)などによって異なる。
【0095】
DVD系,CD系光記録媒体は、前述の回折面により球面収差が補正されたスポットにおいて、温度変化による球面収差の増加量は小さい。そのため、温度変化時においても位相シフタ面の影響が小さいことが望ましい。
【0096】
以上のように各段差は波長λ1に対して略整数倍の位相差を付与するような段差を形成している。また波長λ2,λ3に対して整数倍からずらし、位相差を付与するような段差Δhを形成している。望ましくは次の条件
「位相シフタ面の領域ψt内の段差H1は、
(n1−1)×H1=k1×λ1
(k2+0.2)×λ2≦(n2−1)×H1
(k3+0.2)×λ3≦(n3−1)×H1
位相シフタ面の領域ψt外の段差H2は、
(n1−1)×H2=k4×λ1
ここで、k1〜k4:整数、n1,n2,n3:収差補正素子材料における波長λ1,λ2,λ3に対する屈折率」
を満たすように設定される。
【0097】
前述の実施形態における、位相シフタ面による温度特性の補正効果を示すグラフを図17に示す。図17に示すグラフの横軸Δt[℃]は常温からの温度変化量を表し、縦軸は温度変化に伴う球面収差量を表す。前述の図7に示したグラフと比べ、位相シフタ面の温度特性によりBD系光記録媒体に対して、対物レンズの発生収差は良好に補正できる。DVD系,CD系光記録媒体に関しては、対物レンズの温度依存性が小さい。
【0098】
また、収差補正素子の一方の片面に回折構造、他方の片面に位相シフタ構造を設けることで以下のような効果がある。
【0099】
対物レンズの光軸に対して、収差補正素子の光軸ずれが生じた場合、回折面により発散光となるDVD系,CD系の光束は、軸ずれに伴って図18に示すようなコマ収差が発生する。通常、このコマ収差を指標として軸ずれ調整組み付けが行われ、例えばDVD系の記録面に集光するためのスポットを、顕微鏡レンズなどにより拡大観察して、スポットに発生するコマ収差が小さくなる位置を最適組み付け位置として定める。
【0100】
一方、常温において透過、温度変化時に位相差を生じる位相シフタ面の場合、常温においては前記のようなコマ収差は発生せず、軸ずれの指標となる収差を定めにくい。単一の温度補正位相シフタの場合は、組み付け公差を大きくするなどの設計上の制限が発生する。
【0101】
しかし、本実施形態に示すように、互換用の回折面と一体形成することで、通常の調整・組み付け方法を用いることができ、製造上の課題を軽減する効果がある。
【0102】
以上に説明したように、光ピックアップ装置内部の温度変化に起因して、対物レンズの形状、屈折率が変化した場合や、光源から出射される光束の波長が設計波長から変化した場合でも、良好な波面を保つことができ、その結果として、波長変動に強い高精度な光ピックアップ装置を提供することが可能となる。
【0103】
さらに、アクセス対象がBD系,DVD系,CD系光記録媒体のいずれであっても、単一のプラスチック製の対物レンズで、良好な光スポットが記録面に形成されるため、装置の小型化および低コスト化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る収差補正素子とこれを備えたアクチュエータ、光ピックアップ装置、光情報処理装置は、使用波長に応じた複数の光源を備えながら、軽量で安価なプラスチック製の対物レンズを用いて、3種類の光記録媒体の情報記録面に良好な集光性能を実現するとともに、光利用効率の損失なく温度変動による球面収差を良好に補正ができ、情報の記録,再生を行う際にも互換性を実現することができ有用である。
【符号の説明】
【0105】
101,130a,140a 半導体レーザ
102 コリメートレンズ
103 偏光ビームスプリッタ
104 プリズム
105 1/4波長板
106 対物レンズ
107 BD系光記録媒体
108 検出レンズ
110,130c,140c 受光素子
117 DVD系光記録媒体
120 可動部
121 鏡筒
127 CD系光記録媒体
130b,140b ホログラム素子
132,142 発散角変換レンズ
133,143 波長選択性ビームスプリッタ
200 ピッチ
401 発生収差の波面形状
402 付与位相差の波面形状
403 残留収差の波面形状
501 収差補正素子
502 回折面
502a 第1領域
502b 第2領域
502c 第3領域
503 位相シフタ面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0106】
【特許文献1】特開2005−339718号公報
【特許文献2】特開2006−92720号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光源から出射する波長λ1の第1の光束により記録,再生する基板厚t1の第1光記録媒体と、
第2の光源から出射する波長λ2の第2の光束により記録,再生する基板厚t2の第2光記録媒体と、
第3の光源から出射する波長λ3の第3の光束により記録,再生する基板厚t3の第3光記録媒体と、
光源からの光束を光記録媒体の情報記録面に集光させて情報の記録および/または再生を行う光ピックアップ装置に用いられ、前記第1光記録媒体に最適化されたプラスチック製の単一レンズからなる対物レンズと集光ユニットを構成する収差補正素子において、
前記収差補正素子は、一方の面が回折面で構成され、他方の面が位相シフタ面で構成されてなり、
前記回折面は、第1の光束に対して回折せず、第2,第3の光束を回折する回折面であって、
前記位相シフタ面は、3以上30以下の数の輪帯からなり、隣り合う輪帯同士が、入射光に対して所定の光路差を生じるように形成され、かつ段差の向きが有効径内で少なくとも一度入れ替わる折り返し構造を光学面上に有する位相シフタ構造となっており、前記第1光記録媒体に対して、前記対物レンズで温度変化に比例して発生する球面収差ΔSA1とは逆方向の球面収差−ΔSA1が発生する構造を形成した位相シフタ面であり、
常温において、第1の光束は位相差を与えず不感帯として透過し、第2,第3の光束は回折面、位相シフタ面の両面を透過することで、光記録媒体の違いにより生じる球面収差を補正することを特徴とする収差補正素子。
【請求項2】
前記収差補正素子の回折面は、光軸を中心とする第1回折構造を有する第1領域と、前記第1領域よりも光軸垂直方向の外側に形成されるとともに第2回折構造を有する環状の第2領域と、前記第2領域よりも光軸垂直方向の外側に形成されるとともに光学平面である環状の第3領域とを有し、
前記第1領域および対物レンズを通過した第1の光束〜第3の光束は、第1〜第3光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成し、
前記第2領域および対物レンズを通過した第1の光束〜第3の光束の内、前記第1の光束および第2の光束は、第1,第2光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成し、前記第3の光束は、第3光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成せず、
前記第3領域および対物レンズを通過した第1の光束〜第3の光束の内、前記第1の光束は、第1光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成し、前記第2の光束および前記第3の光束は、第2,第3光記録媒体の情報記録面上に集光スポットを形成しないよう構成され、
前記収差補正素子の位相シフタ面の位相段差構造と、前記回折面の回折構造は、収差補正素子の有効径をra、段差の向きが入れ替わる折り返しまでの領域をψt、回折面の第1領域と第2領域を含む有効範囲をψdとしたとき、以下の条件
0.6×ra≦ψt≦0.8×ra
ψd≦ψt
を満たす範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載の収差補正素子。
【請求項3】
前記収差補正素子の位相シフタ面の領域ψt内において、光軸から遠くなるにつれて輪帯の各領域の光軸方向の厚さが薄くなるように段差が形成され、前記領域ψt外において、光軸から遠くなるにつれて輪帯の各領域の光軸方向の厚さが厚くなるように段差構造が形成され、前記位相シフタ面の領域ψt内の段差は、α×rで表される関数に近似される階段形状であり、次の条件
前記位相シフタ面の領域ψt内の段差H1は、
(n1−1)×H1=k1×λ1
(k2+0.2)×λ2≦(n2−1)×H1
(k3+0.2)×λ3≦(n3−1)×H1
前記位相シフタ面の領域ψt外の段差H2は、
(n1−1)×H2=k4×λ1
ここで、k1〜k4:整数、n1,n2,n3:収差補正素子材料の波長λ1,λ2,λ3に対する屈折率
を満たす範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の収差補正素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の収差補正素子を備えたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項5】
請求項4記載のアクチュエータを備えたことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項6】
請求項5記載の光ピックアップ装置を備えたことを特徴とする光情報処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−28821(P2011−28821A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176517(P2009−176517)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】