説明

収集精密ろ過における剪断保護剤

透析ろ過中の収集流への緩衝液添加は、濁度の上昇を引き起こし、産物回収を制限することを含む他の望ましくない効果を有しうる。非イオン界面活性剤の使用に関する方法および組成物は、透析ろ過を改善するために提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、細胞培養の収集(harvest)精密ろ過の分野に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本出願は、全体を参照にして本明細書に一体化させた2005年1月25日提出の米国仮出願第60/647,184号の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
透析ろ過は、操作様式に応じて緩衝液交換と産物回収の生物工学的な応用に使用される。透析ろ過では、ろ液がシステムから除去されるのと同時に、緩衝液が再循環もしくは保持タンクに投入される。透析ろ過は、産物である保持液(retentate)を洗浄するか、又はろ過システムを通して産物を洗浄して収集する方法として使用され得る。プロセス流からの産物の回収を最大にすることが透析ろ過を用いる精密ろ過収集プロセスの目的である。
【発明の開示】
【0004】
(概要)
本発明は、精密ろ過プロセスの一部(例、タンジェンシャルフローフィルトレーション;TFF)として透析ろ過工程で用いられる緩衝液への非イオン界面活性剤、例えば、Pluronic(登録商標)F68、ポリエチレングリコール、あるいは他の非イオン性ブロック共重合体界面活性剤の添加がプロセス流体の濁度を減少させうるという知見に関する。従って、本発明は透析ろ過の方法を含む。該方法は透析ろ過に保持液を提供し、該保持液に非イオン界面活性剤を添加することを含む。該非イオン界面活性剤は、例えば、Pluronic(登録商標)F68又はポリビニルアルコール(PVA)であり得る。いくつかの具体例では、該非イオン界面活性剤は、緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水(PBS)中に存在する。緩衝液中の該非イオン界面活性剤濃度は、0.2g/Lと4g/Lの間、0.2g/Lと3g/Lの間、0.5g/Lと2.5g/Lの間、0.5g/Lと2g/Lの間、および0.5g/Lと1.5g/Lの間であり得る。いくつかの場合において、緩衝液中の該非イオン界面活性剤濃度は、約1g/L又は約2.5g/Lである。ある具体例において、該保持液は細胞および培地を包含する。本発明のある態様において、透析ろ過から生じるろ液の濁度は、非イオン界面活性剤の非存在下で行われる透析ろ過と比較して減少する。別の具体例において、該保持液からの産物の回収は、非イオン界面活性剤の非存在下における産物の回収と比較して非イオン界面活性剤の存在下で増加する。さらに別の具体例において、該保持液は、医薬品、例えば、組み換えタンパク質、組み換えペプチド、又は天然に存在するタンパク質もしくはペプチドを含む。いくつかの場合において、該保持液は、保持液中の細胞に対して等張である緩衝液、例えば、PBSを含む。別の具体例において、透析ろ過は約20℃〜25℃、2℃ないし37℃、又は2℃〜25℃の温度で行われる。透析ろ過は、例えば、不連続な透析ろ過又は一定容積の透析ろ過であり得る。ある場合において、非イオン界面活性剤の濃度は透析ろ過中に実質的に変化しない。非イオン界面活性剤は細胞培地中に含まれ得る。
【0005】
本発明はまた、例えば、本明細書記載のごとき透析ろ過の方法を用いて得られる産物にも関する。
【0006】
別の態様において、本発明は、約1g/Lの非イオン界面活性剤(例、Pluronic(登録商標)F68もしくはPVA)濃度を維持することを含む透析ろ過の方法に関する。
【0007】
さらに別の態様において、本発明は、約1g/L(例、Pluronic(登録商標)F68)もしくは約2.5g/L(例、PVA)の非イオン界面活性剤を含む透析ろ過用の組成物に関する。該組成物はまた、等張性緩衝液、例えば、PBSを含み得る。
【0008】
別段に規定がなければ、本明細書で用いられる全ての技術用語もしくは科学用語は、本発明が属する分野の当業者間で一般的に理解されることと同一の意味を有する。本明細書記載の方法と材料と同様又は等価であるものが、本発明の実施もしくは試験に使用され得るが、適する方法と材料が以下に記載される。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、全体を参照することで本明細書に一体化される。さらに、材料、方法、および実施例は例示に過ぎず、限定を意図しない。
【0009】
本発明の他の特徴と利点は、詳細な説明、図面、および特許請求の範囲から明白であろう。
【0010】
(詳細な説明)
タンパク質の処理において、TFFが回収プロセスの一部として用いられることにより、供給流中の他の組成物から未処理細胞と残屑が分離され得る。例えば、培養細胞を用いる産生プロセスは、濃縮と透析ろ過を包含する収集精密ろ過工程を使用しうる。このプロセスは、例えば、TFFを用いて、産生細胞系統に由来する組み換えタンパク質のごとき産物を含む細胞培養流動体を分離する。最初の収集精密ろ過(濃縮)後、一般的に、最初のろ過前の密度より高密度の細胞を含む保持液がろ過システムを通して再循環され、精密ろ過されることにより、収集精密ろ過システム(透析ろ過)に滞留されるさらなる産物が回収される。この透析ろ過工程では、一般的に等張性緩衝液(例、PBS)が保持液に添加される。この透析ろ過は、緩衝液を添加する不連続な方法もしくは一定容積の方法のどちらかを用いて実施され得る。
【0011】
一般に、用語「プロセス流」は、供給流、透過流、および保持流、すなわち細胞培養の産物を含むプロセスにおける可動流体を包含する。ろ液は、フィルターを透過するいずれかの物質、すなわち透過流である。「保持液」は、フィルターを透過しないが、ろ過装置に接触し、リザーバー(reservoir)に戻される物質を意味する。「供給流」は、リザーバーを離れ、ポンプを透過し、フィルターに送り込こまれる物質を意味する。
【0012】
上に記載のごとき方法の目的は、細胞培養液もしくは保持液から回収された産物、例えば、分泌タンパク質もしくはペプチド産物の量を最大にし、同時に細胞培養液とプロセス流の望ましくない物質の量を最小にすることである。細胞培養液もしくは保持液における濁り負荷(load)の上昇は、一般的に透過液濁度の上昇に関連する。望ましくない物質は、例えば、細胞内微粒子と残屑を含みうる。一般的に、濁度はプロセス流における望ましくない物質の負荷の指標として使用される。濁度はフィルターを見えなくし、清澄化トレイン(clarification train)の閉塞(例えば、孔の目詰まり)を引き起こし、細胞内酵素放出の介在を含む産物の質に害を及ぼし得る状態を示すので、培地もしくは緩衝液あるいは両混合液のごとき細胞懸濁溶液における過剰な濁度は望ましくない。収集される培養細胞の破壊(例、剪断による)は、プロセス流濁度の上昇を引き起こしうる。本明細書で報告されるように、透析ろ過中の保持液への緩衝液添加が濁度を上昇させうることは、緩衝液が等張性であっても観察された。
【0013】
本発明は、保持液への非イオン界面活性剤(例、Pluronic(登録商標)F68もしくはポリビニルアルコール(PVA)のごとき非イオンブロック共重合体界面活性剤)を含む緩衝液(例、PBS)の添加が、保持液への緩衝液単独の添加と比較して保持流および透過流における濁度の量を減少させるという知見に関する。一般に、保持液の濁度は、保持液に添加される緩衝液中又は他の溶液中の非イオン界面活性剤の存在下で該界面活性剤の非存在下より低い。加えて、ろ液の濁度は典型的に減少する。典型的には、非イオン界面活性剤はPluronic(登録商標)F68又はPVAである。使用され得る他の非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、例えば、少なくとも約1000の分子量を有するPEGを包含する。剪断保護剤(shear protectant)として機能できるだけでなく、イオン特性を有する特定の化合物、例えば、デキストランが使用され得る。本明細書記載の方法で用いられるデキストランの典型的な濃度は、少なくとも10g/Lである。他の適する化合物は本明細書記載の方法を用いて同定され得る。本明細書記載の方法で用いられる非イオン界面活性剤又は他の剪断保護剤の濃度は、一般的に0.2g/Lと3g/Lの間、0.2g/Lと4g/Lの間、0.5g/Lと2g/Lの間、0.5g/Lと2.5g/Lの間、0.5g/Lと1.5g/Lの間、又は約1g/Lである。いくつかの場合では、非イオン界面活性剤もしくは他の剪断保護剤の濃度は、少なくとも1g/Lもしくは少なくとも1.5g/Lである。最大量は、いくつかの場合では、2g/Lまで、5g/Lまで、10g/Lまでであり得る。
【0014】
いくつかの場合では、TFFの開始前に、緩衝液、例えば、PBSのごとき等張性緩衝液が保持液に添加される。一般的に、該緩衝液はPluronic(登録商標)F68のごとき非イオン界面活性剤を包含する。
【0015】
本明細書記載の方法の適用例においては、産生細胞系統に由来する組み換えタンパク質を含む細胞培養流動体を分離する収集精密工程を採用する、市販の組み換えタンパク質の製剤産生プロセスが用いられた。該収集システムは、0.65μmの精密ろ過(MF)膜モジュールを包含するProstakタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)unit(マサチューセッツ州、ビルリカのMillipore)であった。全細胞培養流動体(細胞を含む)は、TFFシステムの保持側の一連のProstakのモジュールを介して再循環され、収集タンクに戻された。細胞遊離培養流動体は、0.65μmのProstakのフィルターモジュール膜の片側を透過し、さらなる処理のために採集される。
【0016】
全細胞培養流動体は、最初のTFFプロセスにより10倍に濃縮された。ろ過トレインの保持側に生じる流動体は、本明細書では保持液と称する。細胞濃縮後、緩衝液透析ろ過工程が精密ろ過の最終保持液体積の1.8倍で行われることにより、収集精密ろ過および清澄化システムで滞留している産物の収率が改善された。
【0017】
収集スキームに用いられる透析ろ過緩衝液はPBSであった。他の等張性溶液、例えば、トリス緩衝食塩水のごとき緩衝液もしくは培地が本明細書記載の方法で使用され得る。非イオン性溶液もまた使用され得る。PBSは等張性であり、細胞生存率に有害な効果を有することが予想されていなかった。しかし、緩衝液が保持液に添加された後に、望ましくないレベルの濁度が観察された。収集透析ろ過緩衝液への1g/L濃度でのPluronic(登録商標)F68もしくは2.5g/L濃度でのPVAの添加は、収集プロセス流における濁り負荷の減少を生じた。
【0018】
特別な理論を有していないが、非イオン界面活性剤が本明細書記載の回収プロセスで用いられる場合に見られる濁り負荷の減少は、該非イオン界面活性剤が少なくとも部分的に剪断保護剤として作用することで、収集時の剪断誘導による細胞分解が減少するためであるかもしれない。
【0019】
透析ろ過時に緩衝液にPluronic(登録商標)F68又はPVAのごとき非イオン界面活性剤を添加する利点は、1)例えば、収集時に産生細胞系統から放出されるプロテアーゼの低レベル化の結果として、収集保持プールにおける産物安定性が改善されること、2)下流処理前のプロセス流における細胞由来の不純物負荷が減少すること、および3)収集フィルタートレインに必要な表面積が減少することであり得る。
【0020】
(有用な非イオン界面活性剤の同定方法)
非イオン界面活性剤は、本明細書記載の方法を用いて、例えば、収集流中の望ましくない物質(例、細胞残屑)の量を減少させることによる保持液の質を改善する能力についてテストされ得る。質はまた、例えば、非イオン界面活性剤の使用の存在下または不在下において回収される産物の純度又は産物の量を、ろ液をアッセイすることで調べられ得る。一般的に、非イオン界面活性剤は透析ろ過時に添加される緩衝液に含まれ、該保持液は、少なくとも1%、5%、10%、20%、50%、80%(v/v)もしくはそれ以上の緩衝液を包含する。保持液中の望ましくない物質の量が測定され、非イオン界面活性剤の添加がないこと以外は同一の緩衝液を用いて透析ろ過される保持液中の望ましくない物質の量と比較される。緩衝液に添加される非イオン界面活性剤は、細胞培地中の非イオン界面活性剤と同一もしくは相違たり得る。一般的に、非イオン界面活性剤は細胞培地のものと同一であり、緩衝液中の界面活性剤濃度は細胞培地中の濃度と同一である。非イオン界面活性剤の様々な濃度が測定されることにより、保持液中の望ましくない物質の量を最小にし、産物の回収を最大にする好適な濃度が決定され得る。いくつかの場合において、保持液をアッセイすることに加えて、あるいはその代わりにろ液の濁度が測定される。
【0021】
いくつかの具体例では、保持液の濁度は、緩衝液もしくは非イオン界面活性剤を含む緩衝液が保持液中で透析ろ過された後にテストされる。濁度は細胞内微粒子と細胞残屑の指標を提供する。一般的に、より低い濁度はより望ましい保持液の質に関連する。濁度は当該技術分野で知られる方法を用いて測定され得る。例えば、比濁分析法(Bakerら,Trends Biotechnol.2002 Apr;20(4):149−56)もしくは吸光度法が使用され得る。吸光度法は、一般的に吸光度:550nm−650nmを測定することでアッセイされる。非イオン界面活性剤の存在下での濁度の減少は、非イオン界面活性剤がTFFの保持液の質を高めることを示す。いくつかの場合では、様々な濃度の非イオン界面活性剤がテストされることにより、特定のプロセスにおける好ましい濃度が決定される。
【0022】
保持液の質を測定するか、もしくは細胞残屑の存在を試験するのに使用される当該技術分野で知られる他の方法を用いることにより、緩衝液を含む保持液の質を改善する非イオン界面活性剤の能力を測定することができる。例えば、保持液中および/もしくは透過液中の細胞内乳酸脱水素酵素(LDH)に対するテストが、細胞溶解物を検出する方法として使用され得る。使用され得る他の方法は、緩衝液が添加された保持液中における細胞数の測定を包含する。一般的に、保持液中の細胞数は、非イオン界面活性剤を含む緩衝液の存在下および緩衝液単独の存在下で測定される。有用な緩衝液組成物は、非イオン界面活性剤を含む緩衝液で透析ろ過された時に、細胞の合計数が透析ろ過開始時と比較して透析ろ過終了時の保持液中で一定数にとどまるものである。有用な組成物、すなわち、非イオン界面活性剤を加えた緩衝液はまた、透析ろ過後の保持液中の細胞数が緩衝液単独を用いる透析ろ過後の保持液中の細胞数より多い緩衝液組成物を包含する。
【0023】
透析ろ過プロセスの温度はまた、保持液からの産物回収の向上、濁りの減少、フィルターブラインディングの減少、又は緩衝液を含む保持液の他の望ましくない質の減少のために調整され得る。一般的に、透析ろ過は、例えば、約20℃〜25℃、2℃ないし37℃、又は2℃〜25℃の温度で行われる。
【0024】
本明細書記載の方法を用いて回収され得る非限定的な例は、タンパク質とペプチド、例えば、抗体、抗体断片、組み換えタンパク質、自然分泌性タンパク質、分泌されるように改良されたタンパク質とペプチド、および細胞で産生される非タンパク質産物を包含する。
【0025】
(実施例)
本発明はさらに以下の実施例で例示される。実施例は例示のみを目的として提供される。それらは決して本発明の範囲又は内容を限定して解釈されるものではない。
【0026】
実施例1:収集精密ろ過の開発
上に記載された収集と清澄化プロセスを、組み換えタンパク質を産生する細胞を用いてテストした。精密ろ過工程の細胞濃縮段階にわたって、細胞を細胞培地中のPVA(Celvol、テキサス州、ダラスのCelanese Chemicals)もしくはPluronic(登録商標)F68(ドイツ、ルートウィヒスハーフェンのBASF)のごとき剪断保護剤の存在下で再循環させた。透過液(ろ液)の濁度はこれらの条件下では低いままであり、保持液の濁度は細胞量の増加に比例して増加した。比濁分析法を用いて測定された濁度を使用して、プロセス流中の細胞内微粒子および残屑の負荷を定量した。保持液へのPBS透析ろ過緩衝液の添加(添加非イオン界面活性剤なし)は、保持液と透過液の濁度の上昇を生じた。
【0027】
透過流の過剰な濁りは、孔の目詰まりおよび他のメカニズムを介して清澄化トレインにおけるフィルターのブラインディング/閉塞を引き起こすので好ましくない。PBS緩衝液単独の添加は、該緩衝液が添加される時に、希釈による効果的な剪断保護剤濃度の減少を生じうる。それゆえ、細胞系統が剪断保護剤の非存在下の上昇した剪断レベルに曝露される。収集システムにおける剪断メカニズムを介する細胞分解は、プロセス流濁度の増加を引き起こしうる。
【0028】
剪断保護剤として作用しうる非イオン界面活性剤(例、PVAもしくはPluronic(登録商標)F68)を透析ろ過緩衝液に添加する有効性を表1に示す。これらの研究は、透析ろ過終了時の最終保持液濁度が8ないし33NTU/10細胞であり、透過液では2.6ないし4.1NTU/10細胞であることを示す。剪断保護剤が透析ろ過緩衝液に添加された収集液は、保持液中で9.7ないし10.1NTU/10細胞および透過液中で0.7ないし2.4NTU/10細胞の範囲の濁度であった。それゆえ、透析ろ過中における非イオン界面活性剤の存在と保持液濁度の減少の間には相関関係がある。透過液の濁度もまた減少する。
【0029】
表1.精密ろ過開始時および終了時における細胞数、保持液遠心(spun)濁度(1000rpmで5分間(約201xg))、ならびに透過液濁度。遠心濁度は細胞がプロセスサンプルから遠心された後の上澄み液の濁りの指標となる。
【表1】

【0030】
実施例2:ベンチスケールモデル
ベンチスケールモデル(bench−scale model)を用いて実験を行い、収集透析ろ過緩衝液に剪断保護剤を包含する有効性について調べた。該モデルは、細胞リザーバー(cell reservoir)から構成されており、該リザーバーから細胞が精密ろ過タンジェンシャルフローフィルトレーション(MFTFF)装置を介して投入され、リザーバーに戻される。該リザーバーに透析ろ過緩衝液が添加されると同時に、上澄み液をMFTFF装置から除去し、一定容積の透析ろ過が実施されることを可能にする。緩衝液のみが異なる同一バイオリアクターおよび同一テスト条件に由来する各試験細胞を用いた。該緩衝液は、PBS又は2.5g/L濃度の剪断保護剤ポリビニルアルコール(PVA)を含むPBSのどちらかであった。比濁分析法を用いて濁度を測定した。
【0031】
一般的に、透過液の濁度は、透析ろ過緩衝液へのPVAの包含を介して減少した。これは、透析ろ過前に開始細胞濃度に標準化した透過流濁度の測定により示される(表2、テスト1と2)。3番目のテスト(表2、テスト3)は、PBSとPBS/PVA条件に対して透過液の濁度が大部分等価であり、顕著な有効性が少ないことを示す。
【0032】
表2.PBSもしくはPVAを含むPBSを用いた細胞の透析ろ過
【表2】

【0033】
透析ろ過緩衝液中のPVA有無における生存細胞密度(VCD)および生存細胞消失の試験は、PVAを含む透析ろ過緩衝液の保護的な性質を明白に示す(表3を参照)。テスト3の細胞消失から発生した濁った物質がろ過装置の保持側に残留し、それが透過液濁度の顕著な増加に反映されることはないだろう。これは、透析ろ過開始時の生存細胞密度の増加する可能性が考えられ、例えば、さらなるケーク形成および/もしくは膜分極などを介するフィルターの保持機能を変化させ得るであろう。
【0034】
全テストケース(テスト1−3)において、PVA包含を介する生存細胞消失の最小化は、プロセス流のろ過特性の改善および孔の目詰まりメカニズムを介したフィルターブラインディングのリスクの減少を導く。
【0035】
表3.表2のテスト1−3の透析ろ過前後における生存細胞密度
【表3】

【0036】
他の具体例
本発明はその詳細な説明とともに記載される一方で、以上の記載は例示を意図し、発明の範囲を限定せず、発明の範囲は特許請求の範囲で定められる。他の態様、効果、および変更は特許請求の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析ろ過の方法であって、
(a)透析ろ過に保持液を提供し;および
(b)該保持液に非イオン界面活性剤を添加すること
を含む方法。
【請求項2】
該非イオン界面活性剤がPluronic(登録商標)F68である請求項1の方法。
【請求項3】
該非イオン界面活性剤がポリビニルアルコール(PVA)である請求項1の方法。
【請求項4】
該非イオン界面活性剤が緩衝液中にある請求項1の方法。
【請求項5】
該非イオン界面活性剤が緩衝液中にあり、緩衝液中の該非イオン界面活性剤の濃度が0.2g/Lと4g/Lの間、0.2g/Lと3g/Lの間、0.5g/Lと2.5g/Lの間、0.5g/Lと2g/Lの間、および0.5g/Lと1.5g/Lの間である請求項1又は請求項2の方法。
【請求項6】
緩衝液中の該非イオン界面活性剤の濃度が、約1g/L又は約2.5g/Lである請求項1又は請求項2の方法。
【請求項7】
該保持液が細胞と培地を含む請求項1又は請求項2の方法。
【請求項8】
透析ろ過から生じるろ液の濁度が、非イオン界面活性剤の非存在下で行われる透析ろ過と比較して減少する請求項1又は請求項2の方法。
【請求項9】
該保持液からの産物の定性的又は定量的な回収が、非イオン界面活性剤の非存在下の産物の回収と比較して非イオン界面活性剤の存在下で増加する請求項1又は請求項2の方法。
【請求項10】
該保持液が医薬品を含む請求項1又は請求項2の方法。
【請求項11】
該保持液が組み換えタンパク質を含む請求項1又は請求項2の方法。
【請求項12】
該保持液が細胞に対して等張である緩衝液を含む請求項1又は請求項2の方法。
【請求項13】
該保持液がリン酸緩衝食塩水(PBS)を含む請求項1又は請求項2の方法。
【請求項14】
透析ろ過の工程が約20℃〜25℃、2℃ないし37℃、又は2℃〜25℃の温度で行われる請求項1又は請求項2の方法。
【請求項15】
該透析ろ過が不連続な透析ろ過である請求項1の方法。
【請求項16】
該透析ろ過が一定容積の透析ろ過である請求項1の方法。
【請求項17】
該非イオン界面活性剤の濃度が透析ろ過中に実質的に変化しない請求項1の方法。
【請求項18】
該非イオン界面活性剤が細胞培養の培地中に存在する請求項1の方法。
【請求項19】
請求項1又は請求項2の方法を用いて得られる産物。
【請求項20】
約1g/Lの非イオン界面活性剤濃度を維持することを含む透析ろ過の方法。
【請求項21】
該非イオン界面活性剤がPluronic(登録商標)F68である請求項20の方法。
【請求項22】
約1g/L又は約2.5g/Lの非イオン界面活性剤を含む透析ろ過用の組成物。
【請求項23】
該非イオン界面活性剤がPluronic(登録商標)F68である請求項22の組成物。
【請求項24】
該非イオン界面活性剤がPVAである請求項22の組成物。
【請求項25】
該組成物が等張性緩衝液をさらに含む請求項22又は請求項23の組成物。
【請求項26】
該組成物がPBSをさらに含む請求項22又は請求項23の組成物。

【公表番号】特表2008−528273(P2008−528273A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552756(P2007−552756)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001231
【国際公開番号】WO2006/087643
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(507063300)ワイス・リサーチ・アイルランド・リミテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】WYETH RESEARCH IRELAND LIMITED
【Fターム(参考)】