説明

収音装置

【課題】振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイクを備えた収音装置であって、指向性を劣化させることなく、洗練されたデザインで、筐体を薄型化することができる収音装置を提供する。
【解決手段】放収音装置1の筐体10の内部には、複数のマイク2(2A〜2C)を保持するための保持部材4が設置される。保持部材4は、中央にマイク2を格納する格納部42を設け、両側にスピーカSPを格納する格納部41,43を設ける。格納部42には、底部421の略中央に桶状の凹部5が設置される。凹部5の桶内部には、マイク2が保持部材4と接する面の周囲を覆うように、マイク2を設置する。すなわち、マイク2が保持部材4と接する面が上面側筐体11よりも下方(下面側)に設置される。また、凹部5には、周壁部51の高さと同一の厚さを有する吸音部材6が桶内部に嵌め入れられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイク(例えば、単一指向性マイクや双指向性マイク)を備えた収音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単一指向性マイクや双指向性マイクを備えた収音装置が各種提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1のステレオマイクでは、単一指向性マイクの出力信号と双指向性マイクの出力信号とにそれぞれ信号処理を行い、左チャンネルと右チャンネルの音声信号を生成している。ステレオマイクでは、単一指向性マイク及び双指向性マイクの収音面に対する中心軸方向を指向方向として、該中心軸方向に空間を設ける必要がある。しかしながら、これらのマイクの周囲に空間を設けるよう筐体に設置するには、例えば、図4(A)に示すように、筐体100Aの上面にマイク2を設置することになる。この場合、マイク2が筐体100Aの上面から突出してしまうので、上面の出っ張りが目立って、デザインが洗練されない。また、例えば、図4(B)に示すように、筐体100B内にマイク2を設置して、筐体100Bにおけるマイク2の収音面に対する指向方向をメッシュ加工(斜線の個所)すると、筐体100Bが分厚くなるので、筐体100Bが大きくなってしまう。以上のように、振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成する単一指向性マイクや双指向性マイクからなるステレオマイクを、洗練されたデザインで、薄型化することは難しい。
【特許文献1】特開平11−205888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、例えば、図4(C)に示すように、ステレオマイクを薄型化するために、これらのマイク2を筐体100Cの上面より下方に設置することが考えられる。具体的には、筐体100Cに凹部5’を設け、該凹部5’の内部にマイク2を設置する。しかしながら、図5に示すように、筐体100Cの凹部5’の内部に設置されたマイク2は、筐体100Cの凹部5’に入射した音声71の反射音72を収音してしまう。この際、マイク2に直接収音された音声71と反射音72とでは、収音時刻に差が生じるため、位相のずれが生じてしまい、マイク2の指向性が劣化してしまうという問題が生じる。特に、時間差が大きいほど、実用帯域での劣化が顕著に生じる。
【0005】
そこで、この発明は、振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイクを備えた収音装置において、指向性を劣化させることなく、洗練されたデザインで、薄型化した収音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の収音装置は、振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイクを備えた収音装置であって、筐体の内部に設けられ、前記マイクの設置面が筐体の上面よりも下に位置するように、前記マイクを保持する保持部材と、前記保持部材の内部に設けられ、前記マイクの周囲を覆う桶状の凹部と、前記凹部の桶内部に嵌め入れられ、該桶内部の高さと同一の厚さを有する吸音部材と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成では、収音装置は、振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイク、例えば、単一指向性マイクや双指向性マイク等を備えている。収音装置の筐体の内部には、マイクを保持するための保持部材が設けられる。この保持部材は、マイクが保持部材の内部に設置され、マイクの保持部材への設置面が筐体の上面よりも下に位置するように筐体に設置される。また、保持部材の内部には、桶状の凹部が設けられ、各マイクの保持部材への設置面の周囲が凹部により覆われる。凹部の桶内部には、桶内部の高さと同じ厚さを有する吸音部材が嵌め入れられる。これにより、収音装置は、桶状の凹部を設けることで、マイクが収音する音声と反射音との時間差を小さくすることができるので、実用帯域において指向性の劣化を抑制することができる。また、収音装置は、吸音部材を設けることで、マイクが反射音を収音しにくくなるので、指向性の劣化を更に抑制することができる。更に、収音装置は、マイクの底面が筐体の上面より下に位置されるので、筐体からマイクが出っ張らないようにすることができる。このため、収音装置は、指向性を劣化させることなく、洗練されたデザインで、筐体を薄型化することができる。
【0008】
また、この発明の収音装置の前記吸音部材は、前記凹部の対向する側面の間の距離が音波の略半波長となる周波数帯域を吸音することを特徴とする。
【0009】
この構成では、収音装置に設けた吸音部材は、保持部材の凹部の対向する側面間の距離が音波の略半波長となる周波数帯域、すなわち、マイクの振動板に直接入射する音声とその反射音との干渉が生じる周波数帯域に高い吸音率を有する。これにより、干渉が生じる周波数帯域で、マイクが収音する反射音のレベルが低下する。この結果、音声帯域での指向性を劣化させずに収音することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の収音装置は、振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイクを備えた収音装置であって、指向性を劣化させることなく、洗練されたデザインで、筐体を薄型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る放収音装置1について、図1を参照して説明する。図1は、放収音装置の外観図である。図1(A)は、放収音装置の上面図であり、図1(B)は、放収音装置の斜視図である。なお、図1(A)に示す面を上面と称し,図1(A)の紙面に向かって下方を正面と称し、図1(A)の紙面に向かって右方を右側面と称し,図1(A)の紙面に向かって左方を左側面と称す。
【0012】
図1(A)に示すように、放収音装置1は、上面から見て、略矩形の形状をしている。放収音装置1には、メッシュ加工されたマイクカバー21が筐体10の略中央に設けられる。筐体10の内部でマイクカバー21の下方には、マイク2(図2参照)が設けられる。マイク2は、2本の双指向性マイク2A,2Bと1本の無指向性マイク2Cとからなり、周囲の音声を収音して収音信号を生成する。この収音信号に対して各種信号処理を行うことで、放収音装置1は、指向性を有する収音ビーム信号を形成している。
【0013】
放収音装置1には、マイクカバー21の両側に複数のスリット22が連子状に形成される。筐体10の内部でスリット22の下方には、それぞれスピーカSPが設けられる。スピーカSPは、放音用信号を放音する。
【0014】
放収音装置1は、正面側壁に沿うように操作部31を筐体10の上面に設け、該操作部31に対して正面側壁と対向する側に、該操作部31に対応する表示部33を筐体10の上面に設ける。操作部31は、ユーザの操作入力を受け付け、操作入力内容に応じた操作信号を制御部(不図示)に出力する。制御部は、操作信号に応じて、各種処理を行う。また、表示部33は、LEDやランプ等の発光体からなり、操作部31に対応するよう設けられる。表示部33は、制御部の指示に応じて、操作入力された操作部31に対応する発光体を発光させる。これによりユーザは、操作部31への操作入力内容を目視で確認することができる。
【0015】
放収音装置1は、装置の正面側壁に電源ケーブル35を備える。放収音装置1は、電源ケーブル35を介して、電源(不図示)から電力を供給する。また、放収音装置1は、電源ケーブル35を介して、他の放収音装置1とPLCによる通信を行う。放収音装置1は、電源ケーブル35を介して、生成した収音ビーム信号を他の放収音装置へ送信し、電源ケーブル35を介して、他の放収音装置から放音用信号を受信する。
【0016】
また、図1(B)に示すように、放収音装置1の筐体10は、上面側筐体11と下面側筐体12とからなる。この筐体10の内部には、マイク2を保持するための保持部材4が設置される。なお、保持部材4の詳細については、後述する。
【0017】
放収音装置1は、装置の右側面側壁にボリューム32とオーディオ入力端子34とを設ける。ボリューム32は、スピーカSPからの放音音量を調整する操作部である。オーディオ入力端子34は、オーディオプレイヤー等の再生装置に接続され、再生装置から放音用信号が入力される。
【0018】
次に、本発明の特徴部である保持部材4について、図2を参照して説明する。図2は、保持部材の外観図である。図2(A)は、保持部材の上面図を示し、図2(B)は、保持部材の斜視図を示す。なお、図2(A)に示す面を上面と称し、図2(A)の紙面の裏側から見た面を下面と称し、図2(A)の紙面に向かって下方を正面と称し、図2(A)の紙面に向かって上方を背面と称し、図2(A)の紙面に向かって右方を右側面と称し、図2(A)の紙面に向かって左方を左側面と称す。
【0019】
図2(A),(B)に示すように、保持部材4は、中央にマイク2を格納する格納部42を設け、該格納部42の両側にそれぞれスピーカSPを格納する格納部41,43を設ける。格納部41は、底部411と該底部411の周囲を覆う周壁部412とを備える。格納部41は、開口部413において上面側が開口している。同様に、格納部42は、底部421と該底部421の周囲を覆う周壁部422とを備える。格納部42は、開口部423において上面側が開口している。格納部43は、底部431と該底部431の周囲を覆う周壁部432とを備える。格納部43は、開口部433において上面側が開口している。なお、周壁部412と周壁部422とが一部同じ壁を共有し、周壁部422と周壁部432とが一部同じ壁を共有する。
【0020】
保持部材4は、格納部41〜43のそれぞれの開口部413,423,433が同一面上に形成される。また、保持部材4は、底部411と底部431とが同一面上に形成され、底部421が底部411より開口部423側に形成される。このため、保持部材4は、周壁部412と周壁部432とが同じ高さに形成され、周壁部422が周壁部412より短い高さに形成される。
【0021】
保持部材4は、周壁部412と周壁部432との外周面に、ネジ止部441〜444が形成されている。保持部材4は、底部411,421,431を下面側筐体12側に、開口部413,423,433を上面側筐体11側に配置して、ネジ止部441〜444により筐体10にネジ止めされる。
【0022】
格納部41は、底部411の略中央に円形に開口された嵌込部414を設け、周壁部412の正面側に切欠部415を設けている。スピーカSPは、放音面を開口部413に向けて嵌込部414に嵌め入れて固定される。スピーカSPからの配線は、切欠部415から格納部41の外方へ出される。
【0023】
同様に、格納部43は、底部431の略中央に円形に開口された嵌込部434を設け、周壁部432の正面側に切欠部435を設けている。スピーカSPは、放音面を開口部433に向けて嵌込部434に嵌め入れて固定される。スピーカSPからの配線は、切欠部435から格納部43の外方へ出される。
【0024】
格納部42には、底部421の略中央に桶状の凹部5が設置される。凹部5の周壁部51は、周壁部422と同じ高さに形成される。そのため、凹部5の開口部52は、開口部423と同一面上に形成される。
【0025】
凹部5の桶内部には、背面方向から正面方向に向けて、マイク2A,2B,2Cの順でマイク2A〜2Cが設置される。双指向性マイク2Aは、左側面と右側面とに振動板を向けて設置され、双指向性マイク2Bは、正面と背面とに振動板を向けて設置される。また、無指向性マイク2Cは開口部52に振動板を向けて設置される。また、マイク2は、マイク2が保持部材4と接する面(本発明におけるマイクの設置面に相当する。)の周囲を覆うように凹部5の桶内部に設置される。これにより、マイク2は、凹部5により囲われることで、直接入射する音声と反射音との収音時間差が小さくなるので、直接入射する音声と反射音とが逆相になる波長が短くなり、周波数が高くなるので、実用帯域において、干渉による指向性の劣化を低減することができる。
【0026】
ここで、直接入射する音声と反射音との行路差d、音速vとすると、直接入射する音声と反射音とが逆相になる周波数fは、f=v/2dで表すことができる。例えば、音速v=340m/sで、マイク2の振動板に対して水平方向に音声が入射された場合を考えると、本実施形態の凹部5の直径が35mm程度なので、マイクの厚みを無視すれば、行路差d=0.035mとなる。この時、f=340/0.07=4.857kHzとなる。実際には、音波が斜め方向からも入射するので、干渉の影響を受ける周波数帯域は更に若干低くなるが、凹部5により反射音の入射角度が制限されるためその差は小さく、約4.8kHz以下の周波数帯域では干渉を低減することができる。
【0027】
また、マイク2は、凹部5の桶内部に設置されるので、マイク2が保持部材4と接する面が上面側筐体11よりも下方(下面側)に設置される。これにより、放収音装置1は、マイク2が筐体10から突出することを最小限にすることができる。このため、放収音装置1のデザインを洗練するとともに、放収音装置1の筐体10を薄型化することができる。
【0028】
更に、この際、マイク2の振動板が上面側筐体11より上方(上面側)になるようにマイク2を設置すると、筐体10や保持部材4がマイク2に入射する音声の障壁とならずに、音声を収音することができる。すなわち、マイク2が保持部材4と接する面が上面側筐体11より下方(下面側)で、且つマイク2の振動板が上面側筐体11より上方(上面側)の場合に、放収音装置1は、適切な収音を行うとともに、筐体10をできる限り薄型化することができる。
【0029】
また、凹部5には、周壁部51の高さと同一の厚さを有する吸音部材6が桶内部に嵌め入れられる。この吸音部材6は、ウレタン等の多孔質吸音材料からなり、入射された音声を吸音するので、反射音のレベルを抑制する。
【0030】
次に、凹部5の桶内部に吸音部材6を嵌め入れたことでの効果について、図3を参照して説明する。図3は、マイクへの入射音声を視覚化した説明図である。図3に示すように、凹部5に入射した音声71は、凹部5の桶内部に設けられた吸音部材6により吸音され、反射音のレベルが低下する。このため、マイク2は、直接入射された音声71を高レベルで収音し、反射音を収音しないので、直接入射する音声と反射音とで干渉が起こらないので、指向性を劣化させずに収音することができる。
【0031】
また、多孔質吸音材料の吸音部材6は、一般に高音域で吸音率が高くなるような特性を備えるが、密度や厚さ等により吸音率を調整することができるので、仕様に応じて吸音率を適宜調整することができる。例えば、約4.8kHz以上で吸音率が50%程度を超えるように調整すれば、反射音による干渉を低減することができる。この結果、音声帯域での干渉を確実に低減することができ、音声帯域の指向性を劣化させずに収音することができる。
【0032】
なお、本実施形態では、2本の双指向性マイク2A,2Bと1本の無指向性マイク2Cを備えた放収音装置1を例に挙げて説明した。しかし、マイクの構成はこれに限らない。振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイクを備える放収音装置において、本発明を適応することで、指向性を劣化させることなく、洗練されたデザインで筐体を薄型化することができる。
【0033】
また、本実施形態では、保持部材4は、マイク2とスピーカSPとを保持したが、スピーカSPを保持しなくてもよく、マイク2のみを保持すればよい。
【0034】
更に、本実施形態では、放収音装置1を例に挙げて説明したが、放音機能を備える必要はなく、振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイク、例えば、単一指向性マイクや双指向性マイク等を備える収音装置であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】放収音装置の外観図である。
【図2】保持部材の外観図である。
【図3】マイクへの入射音声を視覚化した説明図である。
【図4】従来の収音装置における筐体とマイクの取り付けに関する説明図である。
【図5】従来の収音装置におけるマイクへの入射音声を視覚化した説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1…放収音装置,2(2A〜2C)…マイク,4…保持部材,5…凹部,6…吸音部材,10,100A〜100C…筐体,11…上面側筐体,12…下面側筐体,21…マイクカバー,22…スリット,31…操作部,32…ボリューム,33…表示部,34…オーディオ入力端子,35…電源ケーブル,41〜43…格納部,51…凹部の周壁部,52…凹部の開口部,71…音声,72…反射音,411,421,431…格納部の底部,412,422,432…格納部の周壁部,413,423,433…格納部の開口部,414,434…格納部の嵌込部,415,435…格納部の切欠部,441〜444…ネジ止部,SP…スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板の前後に入射する音声の位相差を利用して指向性を形成するマイクを備えた収音装置であって、
筐体の内部に設けられ、前記マイクの設置面が筐体の上面よりも下に位置するように、前記マイクを保持する保持部材と、
前記保持部材の内部に設けられ、前記マイクの周囲を覆う桶状の凹部と、
前記凹部の桶内部に嵌め入れられ、該桶内部の高さと同一の厚さを有する吸音部材と、を備えた収音装置。
【請求項2】
前記吸音部材は、前記凹部の対向する側面の間の距離が音波の略半波長となる周波数帯域を吸音する請求項1に記載の収音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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