受配電機器の余寿命診断方法および余寿命診断装置
【課題】受配電機器の固体絶縁物の余寿命をオンラインで精度良く診断できる余寿命診断方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることにより、受配電機器に含まれる診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率を取得する(S1)。診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体を受配電機器に設置する(S2)。センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定して、診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する(S3,S4)。診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求める(S5)。診断対象の絶縁物に付着するイオンの種類および付着量に基づいて、相関関係に対応する閾値を決定する(S6)。相関関係と閾値とから得られる寿命年数と現在の使用年数との差分によって余寿命が算出される(S7)。
【解決手段】湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることにより、受配電機器に含まれる診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率を取得する(S1)。診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体を受配電機器に設置する(S2)。センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定して、診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する(S3,S4)。診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求める(S5)。診断対象の絶縁物に付着するイオンの種類および付着量に基づいて、相関関係に対応する閾値を決定する(S6)。相関関係と閾値とから得られる寿命年数と現在の使用年数との差分によって余寿命が算出される(S7)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、受配電機器の余寿命を診断するための方法および装置に関する。より詳しくは、この発明は、稼動中の受配電機器に使用される固体絶縁物の絶縁抵抗の低下による余寿命を精度よく診断するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
受配電設備は、電気エネルギーを工場や建物へ供給する役割を担う設備である。受配電設備には、信頼性、安定性を確保して稼動することが要求される。長期間にわたる受配電設備の使用によって受配電設備に用いられる絶縁物が劣化し、それにより電気的トラブルが発生した場合には、生産での損失あるいは設備の補修といったような、生産設備あるいは建物に与える影響が大きくなる。このため受配電設備に用いられる絶縁物の劣化を精度よく診断するための技術が望まれている。
【0003】
受配電設備中の絶縁物の劣化プロセスは、一般的に、次のように考えられている。(1)絶縁物表面の抵抗が低下する。(2)漏れ電流によるジュール熱のために、局部的な乾燥帯が絶縁物に形成される。(3)その乾燥帯への電圧集中によってシンチレーション放電が発生する。(4)放電による有機物の炭化(炭化導電路の形成)による絶縁破壊の発生。
【0004】
絶縁物の劣化を診断するための方法として、従来では、絶縁抵抗を測定する方法、あるいは、部分放電を測定する方法などが主に実施されてきた。しかしながら絶縁抵抗の測定値あるいは部分放電の測定値は湿度に依存して大きく異なりうる。したがって診断精度が十分であるとは言えない。電気的トラブルを未然に防止するとともに、メンテナンス周期を適正化して保守コストを削減するためには、湿度条件を考慮した絶縁余寿命の診断が重要である。
【0005】
このため、湿度条件を考慮して絶縁物の余寿命を診断する方法が提案されている。たとえば、絶縁特性と湿度との間の相関関係に基づいて絶縁寿命を求める方法が提案されている(たとえば特許文献1を参照)。あるいは、絶縁物に櫛形電極を取り付けて漏れ電流を測定することによって絶縁物の表面抵抗率の変化をモニタし、そのモニタ結果から絶縁物の劣化を診断する方法が提案されている(たとえば特許文献2を参照)。
【0006】
具体的には特許文献1には、以下のような絶縁物の余寿命推定方法が開示されている。すなわち、寿命推定の基準曲線として初期特性曲線と限界特性曲線とがシステムに入力される。初期特性曲線は、電動機絶縁体の初期における絶縁特性と相対湿度との間の相関関係に基づくものである。限界特性曲線は、限界時における絶縁特性と相対湿度との間の相関関係に基づくものである。システムは、上記基準曲線に基づいて現特性曲線とを算出する。この現特性曲線は、絶縁寿命推定対象となる電動機の絶縁特性と、その電動機の相対湿度とによって定まる特性点を通る曲線である。システムは、その現特性曲線と、対象電動機の使用年数と、対象電動機の汚損速度とに基づいて、対象電動機の絶縁寿命を推定する。
【0007】
特許文献2には、以下のような絶縁余寿命推定方法が開示されている。すなわち、受配電設備に、絶縁診断センサが取り付けられる。このセンサは、上記の受配電設備を構成する主回路部分に用いる固体絶縁材料と同等材料からなる。センサは、故意に劣化させた劣化部位と、劣化させていない未劣化部位とを有し、劣化部位および未劣化部位には、表面電気抵抗率を測定するためのくし型電極が設けられる。両方の部位の表面電気抵抗率の変化が測定され、表面電気抵抗率の時間依存性を表わす基準曲線と、その表面電気抵抗率の変化とに基づいて受配電設備の余寿命が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−177383号公報
【特許文献2】特開2002−372561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
実際に受配電機器が設置されている現場での絶縁体の劣化は、大気中のNOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、塵埃あるいは汚染物等の影響を受ける。このため絶縁体の実際の劣化は、種々の劣化モードが複雑に変化しながら進行する。
【0010】
特許文献1に記載の絶縁余寿命診断方法では、絶縁物に付着しているイオン性物質の種類あるいは相対量によって絶縁特性の湿度依存性が変わる可能性について考慮されていない。特許文献1に記載の方法では、強制的に絶縁劣化させた電動機を用いて湿度と絶縁抵抗との関係が作成される。湿度と絶縁抵抗との関係は、たとえば環境実験室内の湿度条件を変更することによって作成される。あるいは、ある特定のフィールドの電動機を用いて、測定日を変えることによって広い湿度範囲での湿度と絶縁抵抗の関係が作成される。または、フィールドからある特定の電動機を引き取り、環境実験室等により湿度と絶縁抵抗の関係を作成している。
【0011】
一方、特許文献2に記載の方法も、特許文献1に記載の方法と同様に、サンプルの加速試験によって湿度と絶縁抵抗との間の相関関係が作成される。したがって設備の設置現場における環境の相違点あるいは環境の変化といった要因は、上記の相関関係に反映されていない。このような理由によって、特許文献2に記載の方法も、絶縁体の劣化の検出精度の点が課題となる。
【0012】
実際の環境では湿度は変化している。湿度が高くなると抵抗は低下する一方で、湿度が低くなると抵抗は高くなる。しかしながら特許文献1の図3に示されるように、特許文献1の方法によれば、いずれの湿度で電動機を使用したとしても同じ寿命が求められる。言い換えると特許文献1の方法では、湿度に対応した余寿命を提示できない。このため、特許文献1の方法では、リスクを考慮して設備運用、更新計画を立てるのが困難であるという問題点がある。
【0013】
一方、特許文献2の方法では、センサを受配電機器に一定期間設置した後に、所定の湿度でセンサの表面抵抗率を測定する必要がある。すなわち特許文献2の方法では、受配電機器に設置したセンサを回収して、所定の湿度に設定された環境実験室等でセンサの表面抵抗率を測定しなければならない。このため、特許文献2の方法によれば、リアルタイムで余寿命診断を実施できないという問題点がある。
【0014】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、受配電機器の固体絶縁物の余寿命をオンラインで精度良く診断できる余寿命診断方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある局面に係る受配電機器の余寿命診断方法は、絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断方法であって、湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることにより、受配電機器に含まれる診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率を取得するステップと、診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体を、受配電機器に設置するステップと、湿度に依存しない表面抵抗率とセンサ絶縁体の表面抵抗率との間の換算係数を求めるステップと、センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定するステップと、測定されたセンサ絶縁体の表面抵抗率を、換算係数を用いて診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算するステップと、換算するステップによって得られた診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求めるステップと、相関関係から求められる、センサ絶縁体の設置時における診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度および表面抵抗率の間の予め求められた関係とから、相関関係が得られる湿度を決定するステップと、決定された湿度と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の予め求められた関係とから、相関関係に対応する閾値を決定するステップと、相関関係と対応する閾値とから決定される使用年数と、現在の使用年数との差分により受配電機器の余寿命を決定するステップとを備える。
【0016】
本発明の他の局面に係る受配電機器の余寿命診断装置は、絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断装置であって、受配電機器に設置され、診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体の表面抵抗率を逐次取得する表面抵抗率取得部と、センサ絶縁体の表面抵抗率を、予め取得された換算係数を用いて診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する表面抵抗率換算部と、診断対象の絶縁体の表面抵抗率と診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求める相関関係計算部と、相関関係に対応する閾値を決定する閾値計算部と、相関関係と閾値とから決定される寿命年数と、現在の使用年数との差分により受配電機器の余寿命を決定する余寿命計算部とを備える。換算係数は、センサ絶縁体の設置時におけるセンサ絶縁体の表面抵抗率を、湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることによって取得された、センサ絶縁体の設置時における診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率に換算するための係数である。閾値計算部は、相関関係から求められる、センサ絶縁体の設置時における診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度と表面抵抗率との間の予め求められた関係から、相関関係が得られる湿度を決定する。閾値計算部は、決定された湿度および、湿度と表面抵抗率の閾値との間の予め求められた関係から、相関関係に対応する閾値を決定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受配電機器が備える絶縁体の余寿命をオンラインで精度よく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】受配電機器に用いられる遮断器の概観を示した図である。
【図2】モールドフレームの概観図である。
【図3】本実施の形態に係る受配電機器の余寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】センサを示した平面図である。
【図5】表面抵抗率の置き換えを説明するための概念図である。
【図6】市場で使用された1500個の絶縁体を用いて使用年数と表面抵抗率との間の関係を評価した結果を示した図である。
【図7】受配電機器の余寿命を求める方法を説明した図である。
【図8】設置環境の湿度に依存した、受配電機器の余寿命を求める方法を説明するための図である。
【図9】相関直線から湿度を算出するための方法を説明するための図である。
【図10】データベースに記憶された湿度−表面抵抗率特性を例示した図である。
【図11】湿度90%RHでの表面抵抗率の閾値を決定するための方法を説明するための図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る余寿命診断方法を実行するシステムの概略構成図である。
【図13】図12に示した制御部の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0020】
[実施の形態1]
実施の形態1に係る受配電機器の余寿命診断方法は、絶縁体を備える受配電機器の余寿命を求める余寿命診断方法である。受配電機器は、たとえば、遮断器、断路器、母線・導体などの主回路構成品と計測機器とから構成される。以下に受配電機器の構成の一例を説明するが、この構成によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、受配電機器に用いられる遮断器の概観を示した図である。図1を参照して、交流の3相にそれぞれ対応して遮断部51,52,53が設置される。遮断部51〜53の各々はモールドフレーム54で支持されている。図2は、モールドフレームの概観図である。図1および図2を参照して、モールドフレーム54は、たとえばフェノール絶縁物によって形成される。なお、図2には、モールドフレーム54の寸法が示されているが、この寸法は、一例であって本発明を限定するものではない。
【0022】
次に、実施の形態1に係る受配電機器の余寿命診断方法について説明する。図3は、本実施の形態に係る受配電機器の余寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。図3を参照して、まず、受配電機器が備える診断対象の絶縁物の表面抵抗率を湿度に影響しない手法により把握する(ステップS1)。診断対象の絶縁体とは、受配電機器が備える絶縁体のうち、絶縁劣化を診断したい絶縁体、例えば、絶縁劣化が激しいために受配電機器の寿命への影響が大きい絶縁体である。そのような絶縁体の一例としては、上述のモールドフレームが挙げられる。
【0023】
湿度に影響しない絶縁体の表面抵抗率の把握方法として、例えば、特許第3923257号公報に記載された方法、あるいは特許第4121430号公報に記載された方法などを適用することができる。これらの方法の概略を説明すると、純水に浸されたイオン試験紙を診断対象の絶縁体に接触させて、そのイオン試験紙の色の変化からイオン量あるいは色彩を測定する。これらのデータをマハラノビス・タグチシステム法などの方法で解析することにより、当該データを1つの指標で表す。この指標と表面抵抗率の関係は予め取得されており、その関係と、上記データを表す指標とに基づいて診断対象の絶縁体の表面抵抗率を求める。イオン量や色彩は湿度により変化しないため、湿度に影響されない表面抵抗率を得ることができる。なお、湿度に影響されない表面抵抗率を得ることが可能であれば、そのための方法は特に限定されず、任意の方法が適用可能である。
【0024】
また、診断対象の絶縁体は予め特定されていてもよい。あるいは、受配電機器が備える複数の絶縁体の各々の表面抵抗率を求めて、表面抵抗率が最も低い絶縁体を診断対象の絶縁体として決定してもよい。また、診断対象の絶縁体の数は複数でもよい。
【0025】
ステップS2において、受配電機器にセンサを設置する(ステップS2)。センサは、絶縁体を含み、その絶縁体は、診断対象の絶縁体と同じあるいは同等の材質からなる。一般に、絶縁体は、樹脂、充填材、フィラー、添加剤等から構成される。「同等」とは、たとえば、2つの絶縁体の構成要素が互いに同じであり、かつ、2つの絶縁体の間で構成比率を比較した場合に、同一要素に対する構成比率の差が±10%以内であることを意味する。センサ10を設置する位置は、受配電機器の機能に影響しない範囲内でできるだけ診断対象の絶縁体に近い位置であることが望ましい。
【0026】
図4は、センサを示した平面図である。図4を参照して、センサ10は、絶縁体1および一対の櫛形電極2a,2bを備える。絶縁体1の材質は、受配電機器が備える絶縁体の材質と同じか同等であり、たとえば不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂などが該当する。本実施の形態では、絶縁体1の材質は、炭酸カルシウムなどの添加剤とガラス繊維とを含む不飽和ポリエステル絶縁体であるものとする。
【0027】
櫛形電極2a,2bは絶縁体1の表面に配置される。櫛形電極2a,2bの材質は、導電性を示すものであればよく、長期使用による腐食等に耐えうるものがより望ましい。本実施の形態では、櫛形電極2a,2bはSUS製である。
【0028】
図4中に示した寸法の単位はいずれもmmである。櫛形電極2a,2b同士の間隔は、たとえば1.0〜5.0mmとされる。本実施の形態では、櫛形電極2a,2bの各々の幅(紙面横方向の長さ)および櫛形電極2a,2bの間隔(沿面距離3)が、いずれも2.0mmとされる。図3の紙面横方向に延在する電極部分の長さは1970mmとされる。ただし図3では、電極全体(1970mm)のうちの長さ100mmの部分が示されている。この電極に例えば200Vの電圧を印加して、櫛形電極2a,2b間の漏れ電流を漏れ電流計により測定する。これによってセンサ10の絶縁体1の表面抵抗率が求められる。なお、以後は受配電機器の絶縁体と区別するため、センサ10の絶縁体1を「センサ絶縁体」とも呼ぶ。
【0029】
図3に戻り、ステップS3において、センサ絶縁体の表面抵抗率を、診断対象の絶縁体の表面抵抗率に置き換えてセンサ絶縁体の設置時の表面抵抗率とする。なお、以後は表面抵抗率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に置き換えることを「表面抵抗率の換算」とも呼ぶ。
【0030】
センサ絶縁体は新品である。一方、センサ絶縁体を設置するときには、診断対象の絶縁体が使用開始済みであることが多い。このため、センサ絶縁体の材質が診断対象の絶縁体の材質と同じあるいは同等であっても、センサ絶縁体の設置時における表面抵抗率は、センサ絶縁体と診断対象の絶縁体との間で異なりうる。このため表面抵抗率の換算が必要となる。
【0031】
図5は、表面抵抗率の置き換えを説明するための概念図である。図5を参照して、例えば、診断対象の絶縁体の表面抵抗率が1012Ωであり、センサ絶縁体の表面抵抗率が1015Ωであるとする。この場合、センサ絶縁体の表面抵抗率を1/1000倍(10-3倍)することで、センサ絶縁体の設置時におけるセンサ絶縁体の表面抵抗率を、診断対象の絶縁体の表面抵抗率と同じ値、すなわち1012Ωへと置換する。以後、センサ絶縁体の漏れ電流に基づいて計算された表面抵抗率を1/1000倍することによって表面抵抗率の換算が行なわれる。すなわち、センサ絶縁体の表面抵抗率から診断対象の絶縁体の表面抵抗率への換算が行なわれる。
【0032】
図6は、市場で使用された1500個の絶縁体を用いて使用年数と表面抵抗率との間の関係を評価した結果を示した図である。図6を参照して、グラフの縦軸は、湿度50%RH(RH:相対湿度)における絶縁体の表面抵抗率を表すための対数軸である。グラフの横軸は絶縁体の使用年数を表すための線形軸である。グラフは、使用年数に対する表面抵抗率の平均値をプロットしたものである。
【0033】
表面抵抗率のデータはNOx等の環境要因による誤差を含みうる。しかしサンプル数が約1500であり、このサンプル数は、表面抵抗率の経年劣化傾向を把握するのに充分であると考えられる。
【0034】
受配電機器の絶縁物の主たる劣化要因は、上記のようなNOxあるいは海塩などといった環境要因である。したがって、使用電圧等の動作条件が受配電機器とセンサ10との間で異なっていても、周囲環境が同じであればセンサ絶縁体の劣化と受配電機器の絶縁体との劣化とは同じように進展する。
【0035】
図6は、使用年数のリニア値と表面抵抗率の対数値とが直線関係となることを示している。直線の傾きは一定であるので、表面抵抗率の対数値は使用年数に応じて同一の直線(図6に示す直線)上で変化する。センサ絶縁体の劣化は、受配電機器の絶縁体の劣化と同じように進む。したがって、測定されたセンサ絶縁体の表面抵抗率に一定の係数(上記の場合には1/1000)を掛けることによって、診断対象の絶縁体の表面抵抗率を得ることができる。
【0036】
図3に再び戻り、ステップS4において、センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定するとともに、その測定値に対して換算を逐次実施する。この測定および換算は所定の周期、たとえばセンサ絶縁体の使用開始から1時間ごとに行なう。これにより、センサ絶縁体の表面抵抗率が診断対象の絶縁体の表面抵抗率へと逐次換算される。
【0037】
次に、ステップS5において、ステップS4で算出された表面抵抗率と、診断対象の絶縁物の使用年数との間の相関関係を逐次求める。相関関係は例えば最小二乗法を用いて求められる。ステップS4の処理によって測定および換算が実行されるたびに、使用年数と表面抵抗率との間の相関関係が求められる。診断対象の絶縁物の使用年数は受配電機器の使用年数とされる。
【0038】
続いて、ステップS5で求めた使用年数と表面抵抗率との間の相関関係に基づいて、受配電機器の余寿命を求める(ステップS6,S7)。
【0039】
図7は、受配電機器の余寿命を求める方法を説明した図である。図7を参照して、グラフ中の点は、ステップS4で算出された診断対象の絶縁物の表面抵抗率を診断対象の絶縁物の使用年数に対してプロットした点である。グラフ中の相関直線11は、ステップS5の処理によって求められた相関関数を表わす直線である。ステップS6では、相関直線11に基づいて、表面抵抗率の所定の閾値Dに対応する寿命年数を算出する。その寿命年数と現在までの使用年数Bとの差分により、受配電機器の余寿命を求める。なお、Aは、現在の使用年数に対応する、相関直線11上の表面抵抗率である。
【0040】
寿命年数Cは、相関直線11と、表面抵抗率の所定の閾値Dを示す直線12との交点に対応する使用年数である。表面抵抗率の所定の閾値Dは、たとえば所定の湿度において放電が発生する表面抵抗率のうちの最高値に予め設定される。図7の例では、本実施の形態では、表面抵抗率の所定の閾値Dは、109Ω/□に設定されているものとする。図7の例では、寿命年数Cは33年となる。その寿命年数C(33年)から、余寿命診断時の使用年数B(図7の例では30年)を減算して求められる年数(3年)が、受配電機器の余寿命とされる。
【0041】
ここでステップS5の処理によって求められた相関直線は、設置環境での平均湿度での表面抵抗率と、使用年数との間の関係と考えられる。ステップS5の処理によって、設置環境での平均湿度における受配電機器の余寿命を求めることができる。
【0042】
以上の工程からなる受配電機器の余寿命診断方法によれば、ステップS4,S5の処理によって、使用年数と表面抵抗率との間の相関関係(相関直線)が逐次更新される。この方法によれば設置現場での環境の違い、あるいは環境の変化が相関直線に反映されるため、絶縁体の劣化を精度良く検出できる。これにより、診断対象の絶縁体(受配電機器が備える絶縁体)の余寿命を精度よく診断することができる。その結果、受配電機器が備える絶縁体の劣化によって起こりうる電気的トラブルを未然に防ぐことができる。
【0043】
以上説明した方法は、設置環境での湿度が平均湿度である場合における余寿命の診断方法である。次に、設置環境での湿度が平均湿度以外の任意の湿度(例えば、湿度90%RH)である場合の余寿命診断方法について説明する。
【0044】
図8は、設置環境の湿度に依存した、受配電機器の余寿命を求める方法を説明するための図である。図7と同様に、図8には、使用年数と診断対象の絶縁体の表面抵抗率との間の相関関係を表わす相関直線13が示される。ただし表面抵抗率の所定の閾値Dは、余寿命に想定される湿度に応じて変更される。図8に示したX,Yの各々は、余寿命に想定される表面抵抗率の所定の閾値に対応する。X(Ω/□)は、設置環境での平均湿度(たとえば50%RH)での閾値であり、Y(Ω/□)は、湿度90%RHでの閾値である。
【0045】
湿度90%RHにおける余寿命を求めるには、まず、寿命年数Gを求める。寿命年数Gは、相関直線13と、表面抵抗率の所定の閾値Y(Ω/□)を表す直線との交点に対応する使用年数である。次に、その寿命年数Gから余寿命診断時の使用年数Eを減算する。これにより、受配電機器の余寿命が求められる。
【0046】
表面抵抗率の所定の閾値を、余寿命に想定される湿度に応じて変更する方法を説明する。まず、ステップS1で求められた診断対象の絶縁体の表面抵抗率(湿度に依存しない表面抵抗率)を平均湿度(湿度50RH%)での表面抵抗率であるとする。
【0047】
図9に示されるように、たとえば使用年数10年(センサ10の設置時期に等しい)において、湿度に依存しない絶縁体の表面抵抗率が1012(Ω/□)と求められる。相関直線14は、ステップS5で求められた使用年数と表面抵抗率との間の相関関係を示す。相関直線14から、センサ10の設置時期(使用年数10年)の表面抵抗率が5×1010(Ω/□)と求められる。センサ設置時期における表面抵抗率の差は湿度の影響によるものと考えられる。ステップS1で測定された、診断対象の絶縁物に付着したイオンの種類と付着量とを用いて、データベースに記憶された湿度−表面抵抗率特性が参照される。
【0048】
図10は、データベースに記憶された湿度−表面抵抗率特性を例示した図である。図10を参照して、グラフの横軸は相対湿度を示し、グラフの縦軸は表面抵抗率を示す。相対湿度が50%RH(平均湿度)であるときの表面抵抗率(言い換えると湿度に依存しない表面抵抗率)は1012(Ω/□)である。この曲線に従うと、センサ設置時期における表面抵抗率が5×1010(Ω/□)である場合の相対湿度が60%RHと求められる。
【0049】
図11は、湿度90%RHでの表面抵抗率の閾値を決定するための方法を説明するための図である。図11を参照して、ステップS1で測定した診断対象の絶縁物の付着イオンの種類と量とを用いて、閾値を決定するための湿度−表面抵抗特率特性が参照される。
【0050】
まず湿度90%での表面抵抗率の所定の閾値は予め決定される。この実施形態では、湿度90%での表面抵抗率の所定の閾値は109(Ω/□)とする。一方、図9に示した相関直線14は、湿度60%での表面抵抗率と使用年数との間の相関関係を表している。図11に示された特性から、湿度が90%RHでの表面抵抗率が109(Ω/□)である場合には、湿度が60%RHでの表面抵抗率は1010(Ω/□)と求められる。したがって、相関直線14と比較される閾値は、湿度60%での閾値すなわち1010(Ω/□)に設定される。
【0051】
以上のように、ステップS6では、相関直線に対応する湿度と、その湿度に対応する閾値とが決定される。ステップS7において、閾値を表わす直線と相関直線14との交点に対応する使用年数が寿命年数として決定される。そして、その寿命年数と現在までの使用年数との差分が余寿命として算出される。
【0052】
このように、本実施の形態では、表面抵抗率の所定の閾値を、余寿命に想定される湿度に応じて変更する。これにより、湿度が高くなり表面抵抗率が低下した場合に対応した表面抵抗率の閾値を求めることができる。このように閾値を変化させることで受配電機器の余寿命の精度を高めることができるので、リスクを考慮した設備運用計画、あるいは設備更新計画を立てることが可能になる。
【0053】
図12は、本発明の実施の形態に係る余寿命診断方法を実行するシステムの概略構成図である。図12を参照して、余寿命診断装置100は、たとえば磁気ディスク等の記録媒体に記録されたプログラムによってその動作が制御される制御ボードの形態で実現される。ただし制御ボードは余寿命診断装置100の一例であって、余寿命診断装置100のハードウェア構成は特に限定されるものではない。
【0054】
余寿命診断装置100は、入力部101と、記憶部102と、制御部103と、出力部104とを備える。
【0055】
入力部101は、たとえばキーボードおよびマウス、あるいはタブレット等の入力デバイスを含む。入力部101は、診断対象絶縁体55の余寿命の診断に必要な各種データの入力を受け付けるとともに、その入力されたデータを記憶部102へ送る。たとえば湿度−表面抵抗率特性のデータが、余寿命の診断に先立って入力される。また、センサ10には所定の電圧(たとえば200V)が測定器20によって印加され、センサ10に流れる漏れ電流が測定器20によって計測される。測定器20から送られた漏れ電流の値が入力部101に入力される。さらに、診断対象の絶縁体に付着しているイオンの種類と量との測定データも入力部101に入力される。
【0056】
記憶部102は、たとえばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクなどを含むメモリデバイスであり、余寿命診断方法を実施するためのプログラム、湿度−表面抵抗率特性(図10、図11参照)、漏れ電流値から表面抵抗率を計算するためのセンサ10に関するデータ(たとえば櫛形電極2a,2bの長さ、幅、ピッチなど)などの各種データを記憶する。また、記憶部102は、入力部101に入力された各種のデータ、たとえば診断対象の絶縁体に付着しているイオンの種類と量との測定データ、センサ10の漏れ電流の値のデータを記憶する。
【0057】
制御部103は、たとえばマイクロプロセッサ(MPU)によって実現され、記憶部102に記憶されたプログラムを読み込むことにより、そのプログラムに記述された手順に従って余寿命診断に関する処理を実行する。出力部104は、制御部103による余寿命の診断結果を外部の出力装置105に出力する。たとえば出力装置105は、プリンタ、ディスプレイまたはこれらの両方を含みうる。
【0058】
図13は、図12に示した制御部の機能ブロック図である。図13を参照して、制御部103は、表面抵抗率計算部111と、表面抵抗率換算部112と、相関直線計算部113と、閾値計算部114と、余寿命計算部115とを含む。
【0059】
表面抵抗率計算部111は、センサ10の漏れ電流の値、センサ10に関するデータ(たとえば櫛形電極2a,2bの長さ、幅、ピッチなど)を用いて湿度に依存しない表面抵抗率を取得する。すなわち表面抵抗率計算部111は、ステップS1の処理を実行する。ステップS1では、診断対象の絶縁体に付着しているイオンの種類と付着量とが測定されるが、これらの測定結果は入力部101に入力されて、記憶部102に記憶される。
【0060】
表面抵抗率換算部112は、換算係数を用いて、表面抵抗率計算部111が算出した表面抵抗率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率へと換算する。すなわち表面抵抗率換算部112は、ステップS3の処理を実行する。
【0061】
なお、表面抵抗率計算部111は、センサ10の漏れ電流値を測定結果を逐次受信するとともに、その漏れ電流値からセンサ絶縁体の表面抵抗率を算出する。表面抵抗率換算部112は、換算係数を用いて、センサ絶縁体の表面抵抗率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する。すなわち表面抵抗率計算部111および表面抵抗率換算部112はステップS4の処理も実行する。
【0062】
相関直線計算部113は、表面抵抗率換算部112から表面抵抗率の値を受けるとともに記憶部102から使用年数を読み出す。相関直線計算部113は、表面抵抗率と使用年数との間の相関関係を示す相関直線を逐次計算する。すなわち相関直線計算部113は、ステップS5の処理を実行する。
【0063】
閾値計算部114はステップS6の処理を実行する。具体的に説明すると、閾値計算部114は、まず、ステップS1で入力したイオンの種類と量とに基づいて、記憶部102(データベース)に保存されている複数の湿度−表面抵抗率特性の中から最適の特性を選定する。図10に示されるように、閾値計算部114は、相関直線計算部113によって求められた相関直線に基づいて、現在の使用年数に対応する表面抵抗率を決定する。そして選定された湿度−表面抵抗率特性に基づいて、その表面抵抗率に対応する湿度を決定する。
【0064】
記憶部102は、相関直線上の表面抵抗率から湿度を決定するための複数の湿度−表面抵抗率特性を記憶する。これらの複数の特性は、イオンの種類および量に応じて異なっている。閾値計算部114は、ステップS1で入力したイオンの種類と量とに基づいて、複数の特性の中から、湿度を決定するための最適の特性を選定する。
【0065】
なお、この実施の形態では、センサ絶縁体設置時における診断対象の絶縁体の使用年数は10年である。しかしセンサ設置時期に対応する使用年数は変化しうる。この場合、付着イオンの種類および付着量に基づいて選定された湿度−表面抵抗率特性を、診断対象の湿度に依存しない表面抵抗率に基づいて補正すればよい。たとえば、平均湿度(50%RH)における表面抵抗率が診断対象の湿度に依存しない表面抵抗率と一致するように、湿度−表面抵抗率特性が補正される。
【0066】
また、診断対象の絶縁物に付着するイオンの種類の数はある程度制限されているが、そのイオンの付着量は様々であると考えられる。したがって、記憶部102には(イオンの種類の数)×(付着量の代表値の個数)に対応した数の湿度−表面抵抗率特性が記憶される。閾値計算部114は、ステップS1で入力されるイオンの種類、付着量に基づいて、複数の湿度−表面抵抗率特性のうち、最も近い条件の特性を選び出し、その特性をイオン付着量に基づいて補正する。
【0067】
次に、閾値計算部114は、上記の処理によって決定された湿度から表面抵抗率の閾値を決定する。記憶部は、閾値を決定するための複数の湿度−表面抵抗率特性を記憶する。これらの湿度−表面抵抗率特性も、上記と同様に、イオンの種類および量に応じて異なっている。閾値計算部114は、ステップS1で入力されるイオンの種類、付着量に基づいて、複数の湿度−表面抵抗率特性のうち、最も近い条件の特性を選び出す。そして、閾値計算部114は、選定された湿度−表面抵抗率特性と、上記の処理によって決定された湿度とに基づいて、閾値を決定する。
【0068】
余寿命計算部115は、相関直線計算部113によって求められた相関直線と、閾値計算部114によって求められた閾値とに基づいて、診断対象の絶縁体の寿命年数を算出する。次に、余寿命計算部115は、現在までの使用年数をその寿命年数から減算することにより余寿命を算出する。すなわち、余寿命計算部115は、ステップS7の処理を実行する。余寿命計算部115によって算出された余寿命は、出力部104へと出力される。
【0069】
以上のように実施の形態1によれば、センサ絶縁体の表面抵抗率から換算した診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、その絶縁体の使用年数との間の相関関係が逐次求められる。実施の形態1によれば、換算係数を用いてセンサ絶縁体の表面率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算し、その換算結果を用いて相関関係が逐次更新されるため、受配電機器が備える絶縁体の余寿命をオンラインで診断することができる。
【0070】
さらに、センサ絶縁体は診断対象の絶縁体と同じ環境に設置される。これにより、最初に求められた換算係数を用いてセンサ絶縁体の表面率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に換算できるとともに、その換算後の表面抵抗率の値の信頼性も高くなる。
【0071】
さらに、余寿命を決定するための表面抵抗率の閾値は、湿度に依存して変化する。湿度に依存して変化する閾値と、表面抵抗率と使用年数との間の相関関係とから余寿命を求めることにより、診断対象の絶縁物の余寿命をオンラインで、かつ高精度に診断できる。余寿命の診断精度が高くなる(算出された余寿命の精度が高くなる)ことによって、効率的な設備運用のための計画、あるいは効率的な設備更新のための計画を立てることができる。したがって受配電設備の絶縁体の劣化による電気的トラブルを未然に防ぐことができる。
【0072】
さらに実施の形態1によれば、絶縁物に付着しているイオン性物質の種類あるいは相対量によって絶縁特性の湿度依存性が変わる可能性を考慮して余寿命を診断できる。これにより余寿命の診断精度をより一層高めることができる。
【0073】
さらに、実施の形態1によれば、余寿命を高精度で評価できることにより、たとえば、これまでの設備更新の周期(サイクル)が必要以上に短かったと判断できる場合には、設備更新サイクルを長くすることができる。このような場合には受配電機器の長寿命化を図ることができる。
【0074】
[実施の形態2]
実施の形態1では、取得された表面抵抗率のデータの全てを用いて使用年数と表面抵抗率の相関直線が求められる。実施の形態2では、取得された表面抵抗率のデータの中から選択されたデータを用いて相関直線が決定される。
【0075】
なお、実施の形態2に係る余寿命診断方法は、上記の点を除いては実施の形態1に係る余寿命診断方法と同様である。したがって実施の形態2に係る余寿命診断装置の構成も、実施の形態1に係る余寿命診断装置の構成と同様である。
【0076】
図7を参照して、実施の形態2では、取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低い方から50%以内のデータ、好ましくは30%以内、より好ましくは10%以内のデータを用いて表面抵抗率と使用年数との相関関係が逐次求められる。
【0077】
図7に示されるように、実施の形態1では、相関直線、すなわち使用年数と表面抵抗率との間の関係を近似する近似直線を用いて寿命が推定される。近似直線は平均を表すため、求められた余寿命は平均余寿命である。したがって、相関直線によって求められた寿命年数の時点では、実際の寿命年数を超えている絶縁物が半分の確率で存在することとなる。上記のように、表面抵抗率が低い方から50%以内のデータ、好ましくは30%以内、より好ましくは10%以内のデータを用いて相関直線を作成することによって、推定された寿命年数が実際の寿命年数を超える可能性を小さくすることができる。したがって、たとえば焼損等が発生する前に設備更新を行なうといった対策を立てることができる。
【0078】
また、実施の形態2によれば、過去の実績のある比較的高湿度条件での余寿命が求められるので、過去実績のない湿度条件になるリスクを許容する必要はあるが、実績に応じた設備運用、更新計画を立てることが可能になる。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 絶縁体(センサ絶縁体)、2a,2b 櫛形電極、3 沿面距離、10 センサ、11,13,14 相関直線、12 直線(閾値)、20 測定器、51〜53 遮断部、54 モールドフレーム、55 診断対象絶縁体、100 寿命診断装置、101 入力部、102 記憶部、103 制御部、104 出力部、105 出力装置、111 表面抵抗率計算部、112 表面抵抗率換算部、113 相関直線計算部、114 閾値計算部、115 余寿命計算部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、受配電機器の余寿命を診断するための方法および装置に関する。より詳しくは、この発明は、稼動中の受配電機器に使用される固体絶縁物の絶縁抵抗の低下による余寿命を精度よく診断するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
受配電設備は、電気エネルギーを工場や建物へ供給する役割を担う設備である。受配電設備には、信頼性、安定性を確保して稼動することが要求される。長期間にわたる受配電設備の使用によって受配電設備に用いられる絶縁物が劣化し、それにより電気的トラブルが発生した場合には、生産での損失あるいは設備の補修といったような、生産設備あるいは建物に与える影響が大きくなる。このため受配電設備に用いられる絶縁物の劣化を精度よく診断するための技術が望まれている。
【0003】
受配電設備中の絶縁物の劣化プロセスは、一般的に、次のように考えられている。(1)絶縁物表面の抵抗が低下する。(2)漏れ電流によるジュール熱のために、局部的な乾燥帯が絶縁物に形成される。(3)その乾燥帯への電圧集中によってシンチレーション放電が発生する。(4)放電による有機物の炭化(炭化導電路の形成)による絶縁破壊の発生。
【0004】
絶縁物の劣化を診断するための方法として、従来では、絶縁抵抗を測定する方法、あるいは、部分放電を測定する方法などが主に実施されてきた。しかしながら絶縁抵抗の測定値あるいは部分放電の測定値は湿度に依存して大きく異なりうる。したがって診断精度が十分であるとは言えない。電気的トラブルを未然に防止するとともに、メンテナンス周期を適正化して保守コストを削減するためには、湿度条件を考慮した絶縁余寿命の診断が重要である。
【0005】
このため、湿度条件を考慮して絶縁物の余寿命を診断する方法が提案されている。たとえば、絶縁特性と湿度との間の相関関係に基づいて絶縁寿命を求める方法が提案されている(たとえば特許文献1を参照)。あるいは、絶縁物に櫛形電極を取り付けて漏れ電流を測定することによって絶縁物の表面抵抗率の変化をモニタし、そのモニタ結果から絶縁物の劣化を診断する方法が提案されている(たとえば特許文献2を参照)。
【0006】
具体的には特許文献1には、以下のような絶縁物の余寿命推定方法が開示されている。すなわち、寿命推定の基準曲線として初期特性曲線と限界特性曲線とがシステムに入力される。初期特性曲線は、電動機絶縁体の初期における絶縁特性と相対湿度との間の相関関係に基づくものである。限界特性曲線は、限界時における絶縁特性と相対湿度との間の相関関係に基づくものである。システムは、上記基準曲線に基づいて現特性曲線とを算出する。この現特性曲線は、絶縁寿命推定対象となる電動機の絶縁特性と、その電動機の相対湿度とによって定まる特性点を通る曲線である。システムは、その現特性曲線と、対象電動機の使用年数と、対象電動機の汚損速度とに基づいて、対象電動機の絶縁寿命を推定する。
【0007】
特許文献2には、以下のような絶縁余寿命推定方法が開示されている。すなわち、受配電設備に、絶縁診断センサが取り付けられる。このセンサは、上記の受配電設備を構成する主回路部分に用いる固体絶縁材料と同等材料からなる。センサは、故意に劣化させた劣化部位と、劣化させていない未劣化部位とを有し、劣化部位および未劣化部位には、表面電気抵抗率を測定するためのくし型電極が設けられる。両方の部位の表面電気抵抗率の変化が測定され、表面電気抵抗率の時間依存性を表わす基準曲線と、その表面電気抵抗率の変化とに基づいて受配電設備の余寿命が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−177383号公報
【特許文献2】特開2002−372561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
実際に受配電機器が設置されている現場での絶縁体の劣化は、大気中のNOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、塵埃あるいは汚染物等の影響を受ける。このため絶縁体の実際の劣化は、種々の劣化モードが複雑に変化しながら進行する。
【0010】
特許文献1に記載の絶縁余寿命診断方法では、絶縁物に付着しているイオン性物質の種類あるいは相対量によって絶縁特性の湿度依存性が変わる可能性について考慮されていない。特許文献1に記載の方法では、強制的に絶縁劣化させた電動機を用いて湿度と絶縁抵抗との関係が作成される。湿度と絶縁抵抗との関係は、たとえば環境実験室内の湿度条件を変更することによって作成される。あるいは、ある特定のフィールドの電動機を用いて、測定日を変えることによって広い湿度範囲での湿度と絶縁抵抗の関係が作成される。または、フィールドからある特定の電動機を引き取り、環境実験室等により湿度と絶縁抵抗の関係を作成している。
【0011】
一方、特許文献2に記載の方法も、特許文献1に記載の方法と同様に、サンプルの加速試験によって湿度と絶縁抵抗との間の相関関係が作成される。したがって設備の設置現場における環境の相違点あるいは環境の変化といった要因は、上記の相関関係に反映されていない。このような理由によって、特許文献2に記載の方法も、絶縁体の劣化の検出精度の点が課題となる。
【0012】
実際の環境では湿度は変化している。湿度が高くなると抵抗は低下する一方で、湿度が低くなると抵抗は高くなる。しかしながら特許文献1の図3に示されるように、特許文献1の方法によれば、いずれの湿度で電動機を使用したとしても同じ寿命が求められる。言い換えると特許文献1の方法では、湿度に対応した余寿命を提示できない。このため、特許文献1の方法では、リスクを考慮して設備運用、更新計画を立てるのが困難であるという問題点がある。
【0013】
一方、特許文献2の方法では、センサを受配電機器に一定期間設置した後に、所定の湿度でセンサの表面抵抗率を測定する必要がある。すなわち特許文献2の方法では、受配電機器に設置したセンサを回収して、所定の湿度に設定された環境実験室等でセンサの表面抵抗率を測定しなければならない。このため、特許文献2の方法によれば、リアルタイムで余寿命診断を実施できないという問題点がある。
【0014】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、受配電機器の固体絶縁物の余寿命をオンラインで精度良く診断できる余寿命診断方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある局面に係る受配電機器の余寿命診断方法は、絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断方法であって、湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることにより、受配電機器に含まれる診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率を取得するステップと、診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体を、受配電機器に設置するステップと、湿度に依存しない表面抵抗率とセンサ絶縁体の表面抵抗率との間の換算係数を求めるステップと、センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定するステップと、測定されたセンサ絶縁体の表面抵抗率を、換算係数を用いて診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算するステップと、換算するステップによって得られた診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求めるステップと、相関関係から求められる、センサ絶縁体の設置時における診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度および表面抵抗率の間の予め求められた関係とから、相関関係が得られる湿度を決定するステップと、決定された湿度と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の予め求められた関係とから、相関関係に対応する閾値を決定するステップと、相関関係と対応する閾値とから決定される使用年数と、現在の使用年数との差分により受配電機器の余寿命を決定するステップとを備える。
【0016】
本発明の他の局面に係る受配電機器の余寿命診断装置は、絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断装置であって、受配電機器に設置され、診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体の表面抵抗率を逐次取得する表面抵抗率取得部と、センサ絶縁体の表面抵抗率を、予め取得された換算係数を用いて診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する表面抵抗率換算部と、診断対象の絶縁体の表面抵抗率と診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求める相関関係計算部と、相関関係に対応する閾値を決定する閾値計算部と、相関関係と閾値とから決定される寿命年数と、現在の使用年数との差分により受配電機器の余寿命を決定する余寿命計算部とを備える。換算係数は、センサ絶縁体の設置時におけるセンサ絶縁体の表面抵抗率を、湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることによって取得された、センサ絶縁体の設置時における診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率に換算するための係数である。閾値計算部は、相関関係から求められる、センサ絶縁体の設置時における診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度と表面抵抗率との間の予め求められた関係から、相関関係が得られる湿度を決定する。閾値計算部は、決定された湿度および、湿度と表面抵抗率の閾値との間の予め求められた関係から、相関関係に対応する閾値を決定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、受配電機器が備える絶縁体の余寿命をオンラインで精度よく診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】受配電機器に用いられる遮断器の概観を示した図である。
【図2】モールドフレームの概観図である。
【図3】本実施の形態に係る受配電機器の余寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】センサを示した平面図である。
【図5】表面抵抗率の置き換えを説明するための概念図である。
【図6】市場で使用された1500個の絶縁体を用いて使用年数と表面抵抗率との間の関係を評価した結果を示した図である。
【図7】受配電機器の余寿命を求める方法を説明した図である。
【図8】設置環境の湿度に依存した、受配電機器の余寿命を求める方法を説明するための図である。
【図9】相関直線から湿度を算出するための方法を説明するための図である。
【図10】データベースに記憶された湿度−表面抵抗率特性を例示した図である。
【図11】湿度90%RHでの表面抵抗率の閾値を決定するための方法を説明するための図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る余寿命診断方法を実行するシステムの概略構成図である。
【図13】図12に示した制御部の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0020】
[実施の形態1]
実施の形態1に係る受配電機器の余寿命診断方法は、絶縁体を備える受配電機器の余寿命を求める余寿命診断方法である。受配電機器は、たとえば、遮断器、断路器、母線・導体などの主回路構成品と計測機器とから構成される。以下に受配電機器の構成の一例を説明するが、この構成によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、受配電機器に用いられる遮断器の概観を示した図である。図1を参照して、交流の3相にそれぞれ対応して遮断部51,52,53が設置される。遮断部51〜53の各々はモールドフレーム54で支持されている。図2は、モールドフレームの概観図である。図1および図2を参照して、モールドフレーム54は、たとえばフェノール絶縁物によって形成される。なお、図2には、モールドフレーム54の寸法が示されているが、この寸法は、一例であって本発明を限定するものではない。
【0022】
次に、実施の形態1に係る受配電機器の余寿命診断方法について説明する。図3は、本実施の形態に係る受配電機器の余寿命診断方法を説明するためのフローチャートである。図3を参照して、まず、受配電機器が備える診断対象の絶縁物の表面抵抗率を湿度に影響しない手法により把握する(ステップS1)。診断対象の絶縁体とは、受配電機器が備える絶縁体のうち、絶縁劣化を診断したい絶縁体、例えば、絶縁劣化が激しいために受配電機器の寿命への影響が大きい絶縁体である。そのような絶縁体の一例としては、上述のモールドフレームが挙げられる。
【0023】
湿度に影響しない絶縁体の表面抵抗率の把握方法として、例えば、特許第3923257号公報に記載された方法、あるいは特許第4121430号公報に記載された方法などを適用することができる。これらの方法の概略を説明すると、純水に浸されたイオン試験紙を診断対象の絶縁体に接触させて、そのイオン試験紙の色の変化からイオン量あるいは色彩を測定する。これらのデータをマハラノビス・タグチシステム法などの方法で解析することにより、当該データを1つの指標で表す。この指標と表面抵抗率の関係は予め取得されており、その関係と、上記データを表す指標とに基づいて診断対象の絶縁体の表面抵抗率を求める。イオン量や色彩は湿度により変化しないため、湿度に影響されない表面抵抗率を得ることができる。なお、湿度に影響されない表面抵抗率を得ることが可能であれば、そのための方法は特に限定されず、任意の方法が適用可能である。
【0024】
また、診断対象の絶縁体は予め特定されていてもよい。あるいは、受配電機器が備える複数の絶縁体の各々の表面抵抗率を求めて、表面抵抗率が最も低い絶縁体を診断対象の絶縁体として決定してもよい。また、診断対象の絶縁体の数は複数でもよい。
【0025】
ステップS2において、受配電機器にセンサを設置する(ステップS2)。センサは、絶縁体を含み、その絶縁体は、診断対象の絶縁体と同じあるいは同等の材質からなる。一般に、絶縁体は、樹脂、充填材、フィラー、添加剤等から構成される。「同等」とは、たとえば、2つの絶縁体の構成要素が互いに同じであり、かつ、2つの絶縁体の間で構成比率を比較した場合に、同一要素に対する構成比率の差が±10%以内であることを意味する。センサ10を設置する位置は、受配電機器の機能に影響しない範囲内でできるだけ診断対象の絶縁体に近い位置であることが望ましい。
【0026】
図4は、センサを示した平面図である。図4を参照して、センサ10は、絶縁体1および一対の櫛形電極2a,2bを備える。絶縁体1の材質は、受配電機器が備える絶縁体の材質と同じか同等であり、たとえば不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール樹脂などが該当する。本実施の形態では、絶縁体1の材質は、炭酸カルシウムなどの添加剤とガラス繊維とを含む不飽和ポリエステル絶縁体であるものとする。
【0027】
櫛形電極2a,2bは絶縁体1の表面に配置される。櫛形電極2a,2bの材質は、導電性を示すものであればよく、長期使用による腐食等に耐えうるものがより望ましい。本実施の形態では、櫛形電極2a,2bはSUS製である。
【0028】
図4中に示した寸法の単位はいずれもmmである。櫛形電極2a,2b同士の間隔は、たとえば1.0〜5.0mmとされる。本実施の形態では、櫛形電極2a,2bの各々の幅(紙面横方向の長さ)および櫛形電極2a,2bの間隔(沿面距離3)が、いずれも2.0mmとされる。図3の紙面横方向に延在する電極部分の長さは1970mmとされる。ただし図3では、電極全体(1970mm)のうちの長さ100mmの部分が示されている。この電極に例えば200Vの電圧を印加して、櫛形電極2a,2b間の漏れ電流を漏れ電流計により測定する。これによってセンサ10の絶縁体1の表面抵抗率が求められる。なお、以後は受配電機器の絶縁体と区別するため、センサ10の絶縁体1を「センサ絶縁体」とも呼ぶ。
【0029】
図3に戻り、ステップS3において、センサ絶縁体の表面抵抗率を、診断対象の絶縁体の表面抵抗率に置き換えてセンサ絶縁体の設置時の表面抵抗率とする。なお、以後は表面抵抗率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に置き換えることを「表面抵抗率の換算」とも呼ぶ。
【0030】
センサ絶縁体は新品である。一方、センサ絶縁体を設置するときには、診断対象の絶縁体が使用開始済みであることが多い。このため、センサ絶縁体の材質が診断対象の絶縁体の材質と同じあるいは同等であっても、センサ絶縁体の設置時における表面抵抗率は、センサ絶縁体と診断対象の絶縁体との間で異なりうる。このため表面抵抗率の換算が必要となる。
【0031】
図5は、表面抵抗率の置き換えを説明するための概念図である。図5を参照して、例えば、診断対象の絶縁体の表面抵抗率が1012Ωであり、センサ絶縁体の表面抵抗率が1015Ωであるとする。この場合、センサ絶縁体の表面抵抗率を1/1000倍(10-3倍)することで、センサ絶縁体の設置時におけるセンサ絶縁体の表面抵抗率を、診断対象の絶縁体の表面抵抗率と同じ値、すなわち1012Ωへと置換する。以後、センサ絶縁体の漏れ電流に基づいて計算された表面抵抗率を1/1000倍することによって表面抵抗率の換算が行なわれる。すなわち、センサ絶縁体の表面抵抗率から診断対象の絶縁体の表面抵抗率への換算が行なわれる。
【0032】
図6は、市場で使用された1500個の絶縁体を用いて使用年数と表面抵抗率との間の関係を評価した結果を示した図である。図6を参照して、グラフの縦軸は、湿度50%RH(RH:相対湿度)における絶縁体の表面抵抗率を表すための対数軸である。グラフの横軸は絶縁体の使用年数を表すための線形軸である。グラフは、使用年数に対する表面抵抗率の平均値をプロットしたものである。
【0033】
表面抵抗率のデータはNOx等の環境要因による誤差を含みうる。しかしサンプル数が約1500であり、このサンプル数は、表面抵抗率の経年劣化傾向を把握するのに充分であると考えられる。
【0034】
受配電機器の絶縁物の主たる劣化要因は、上記のようなNOxあるいは海塩などといった環境要因である。したがって、使用電圧等の動作条件が受配電機器とセンサ10との間で異なっていても、周囲環境が同じであればセンサ絶縁体の劣化と受配電機器の絶縁体との劣化とは同じように進展する。
【0035】
図6は、使用年数のリニア値と表面抵抗率の対数値とが直線関係となることを示している。直線の傾きは一定であるので、表面抵抗率の対数値は使用年数に応じて同一の直線(図6に示す直線)上で変化する。センサ絶縁体の劣化は、受配電機器の絶縁体の劣化と同じように進む。したがって、測定されたセンサ絶縁体の表面抵抗率に一定の係数(上記の場合には1/1000)を掛けることによって、診断対象の絶縁体の表面抵抗率を得ることができる。
【0036】
図3に再び戻り、ステップS4において、センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定するとともに、その測定値に対して換算を逐次実施する。この測定および換算は所定の周期、たとえばセンサ絶縁体の使用開始から1時間ごとに行なう。これにより、センサ絶縁体の表面抵抗率が診断対象の絶縁体の表面抵抗率へと逐次換算される。
【0037】
次に、ステップS5において、ステップS4で算出された表面抵抗率と、診断対象の絶縁物の使用年数との間の相関関係を逐次求める。相関関係は例えば最小二乗法を用いて求められる。ステップS4の処理によって測定および換算が実行されるたびに、使用年数と表面抵抗率との間の相関関係が求められる。診断対象の絶縁物の使用年数は受配電機器の使用年数とされる。
【0038】
続いて、ステップS5で求めた使用年数と表面抵抗率との間の相関関係に基づいて、受配電機器の余寿命を求める(ステップS6,S7)。
【0039】
図7は、受配電機器の余寿命を求める方法を説明した図である。図7を参照して、グラフ中の点は、ステップS4で算出された診断対象の絶縁物の表面抵抗率を診断対象の絶縁物の使用年数に対してプロットした点である。グラフ中の相関直線11は、ステップS5の処理によって求められた相関関数を表わす直線である。ステップS6では、相関直線11に基づいて、表面抵抗率の所定の閾値Dに対応する寿命年数を算出する。その寿命年数と現在までの使用年数Bとの差分により、受配電機器の余寿命を求める。なお、Aは、現在の使用年数に対応する、相関直線11上の表面抵抗率である。
【0040】
寿命年数Cは、相関直線11と、表面抵抗率の所定の閾値Dを示す直線12との交点に対応する使用年数である。表面抵抗率の所定の閾値Dは、たとえば所定の湿度において放電が発生する表面抵抗率のうちの最高値に予め設定される。図7の例では、本実施の形態では、表面抵抗率の所定の閾値Dは、109Ω/□に設定されているものとする。図7の例では、寿命年数Cは33年となる。その寿命年数C(33年)から、余寿命診断時の使用年数B(図7の例では30年)を減算して求められる年数(3年)が、受配電機器の余寿命とされる。
【0041】
ここでステップS5の処理によって求められた相関直線は、設置環境での平均湿度での表面抵抗率と、使用年数との間の関係と考えられる。ステップS5の処理によって、設置環境での平均湿度における受配電機器の余寿命を求めることができる。
【0042】
以上の工程からなる受配電機器の余寿命診断方法によれば、ステップS4,S5の処理によって、使用年数と表面抵抗率との間の相関関係(相関直線)が逐次更新される。この方法によれば設置現場での環境の違い、あるいは環境の変化が相関直線に反映されるため、絶縁体の劣化を精度良く検出できる。これにより、診断対象の絶縁体(受配電機器が備える絶縁体)の余寿命を精度よく診断することができる。その結果、受配電機器が備える絶縁体の劣化によって起こりうる電気的トラブルを未然に防ぐことができる。
【0043】
以上説明した方法は、設置環境での湿度が平均湿度である場合における余寿命の診断方法である。次に、設置環境での湿度が平均湿度以外の任意の湿度(例えば、湿度90%RH)である場合の余寿命診断方法について説明する。
【0044】
図8は、設置環境の湿度に依存した、受配電機器の余寿命を求める方法を説明するための図である。図7と同様に、図8には、使用年数と診断対象の絶縁体の表面抵抗率との間の相関関係を表わす相関直線13が示される。ただし表面抵抗率の所定の閾値Dは、余寿命に想定される湿度に応じて変更される。図8に示したX,Yの各々は、余寿命に想定される表面抵抗率の所定の閾値に対応する。X(Ω/□)は、設置環境での平均湿度(たとえば50%RH)での閾値であり、Y(Ω/□)は、湿度90%RHでの閾値である。
【0045】
湿度90%RHにおける余寿命を求めるには、まず、寿命年数Gを求める。寿命年数Gは、相関直線13と、表面抵抗率の所定の閾値Y(Ω/□)を表す直線との交点に対応する使用年数である。次に、その寿命年数Gから余寿命診断時の使用年数Eを減算する。これにより、受配電機器の余寿命が求められる。
【0046】
表面抵抗率の所定の閾値を、余寿命に想定される湿度に応じて変更する方法を説明する。まず、ステップS1で求められた診断対象の絶縁体の表面抵抗率(湿度に依存しない表面抵抗率)を平均湿度(湿度50RH%)での表面抵抗率であるとする。
【0047】
図9に示されるように、たとえば使用年数10年(センサ10の設置時期に等しい)において、湿度に依存しない絶縁体の表面抵抗率が1012(Ω/□)と求められる。相関直線14は、ステップS5で求められた使用年数と表面抵抗率との間の相関関係を示す。相関直線14から、センサ10の設置時期(使用年数10年)の表面抵抗率が5×1010(Ω/□)と求められる。センサ設置時期における表面抵抗率の差は湿度の影響によるものと考えられる。ステップS1で測定された、診断対象の絶縁物に付着したイオンの種類と付着量とを用いて、データベースに記憶された湿度−表面抵抗率特性が参照される。
【0048】
図10は、データベースに記憶された湿度−表面抵抗率特性を例示した図である。図10を参照して、グラフの横軸は相対湿度を示し、グラフの縦軸は表面抵抗率を示す。相対湿度が50%RH(平均湿度)であるときの表面抵抗率(言い換えると湿度に依存しない表面抵抗率)は1012(Ω/□)である。この曲線に従うと、センサ設置時期における表面抵抗率が5×1010(Ω/□)である場合の相対湿度が60%RHと求められる。
【0049】
図11は、湿度90%RHでの表面抵抗率の閾値を決定するための方法を説明するための図である。図11を参照して、ステップS1で測定した診断対象の絶縁物の付着イオンの種類と量とを用いて、閾値を決定するための湿度−表面抵抗特率特性が参照される。
【0050】
まず湿度90%での表面抵抗率の所定の閾値は予め決定される。この実施形態では、湿度90%での表面抵抗率の所定の閾値は109(Ω/□)とする。一方、図9に示した相関直線14は、湿度60%での表面抵抗率と使用年数との間の相関関係を表している。図11に示された特性から、湿度が90%RHでの表面抵抗率が109(Ω/□)である場合には、湿度が60%RHでの表面抵抗率は1010(Ω/□)と求められる。したがって、相関直線14と比較される閾値は、湿度60%での閾値すなわち1010(Ω/□)に設定される。
【0051】
以上のように、ステップS6では、相関直線に対応する湿度と、その湿度に対応する閾値とが決定される。ステップS7において、閾値を表わす直線と相関直線14との交点に対応する使用年数が寿命年数として決定される。そして、その寿命年数と現在までの使用年数との差分が余寿命として算出される。
【0052】
このように、本実施の形態では、表面抵抗率の所定の閾値を、余寿命に想定される湿度に応じて変更する。これにより、湿度が高くなり表面抵抗率が低下した場合に対応した表面抵抗率の閾値を求めることができる。このように閾値を変化させることで受配電機器の余寿命の精度を高めることができるので、リスクを考慮した設備運用計画、あるいは設備更新計画を立てることが可能になる。
【0053】
図12は、本発明の実施の形態に係る余寿命診断方法を実行するシステムの概略構成図である。図12を参照して、余寿命診断装置100は、たとえば磁気ディスク等の記録媒体に記録されたプログラムによってその動作が制御される制御ボードの形態で実現される。ただし制御ボードは余寿命診断装置100の一例であって、余寿命診断装置100のハードウェア構成は特に限定されるものではない。
【0054】
余寿命診断装置100は、入力部101と、記憶部102と、制御部103と、出力部104とを備える。
【0055】
入力部101は、たとえばキーボードおよびマウス、あるいはタブレット等の入力デバイスを含む。入力部101は、診断対象絶縁体55の余寿命の診断に必要な各種データの入力を受け付けるとともに、その入力されたデータを記憶部102へ送る。たとえば湿度−表面抵抗率特性のデータが、余寿命の診断に先立って入力される。また、センサ10には所定の電圧(たとえば200V)が測定器20によって印加され、センサ10に流れる漏れ電流が測定器20によって計測される。測定器20から送られた漏れ電流の値が入力部101に入力される。さらに、診断対象の絶縁体に付着しているイオンの種類と量との測定データも入力部101に入力される。
【0056】
記憶部102は、たとえばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクなどを含むメモリデバイスであり、余寿命診断方法を実施するためのプログラム、湿度−表面抵抗率特性(図10、図11参照)、漏れ電流値から表面抵抗率を計算するためのセンサ10に関するデータ(たとえば櫛形電極2a,2bの長さ、幅、ピッチなど)などの各種データを記憶する。また、記憶部102は、入力部101に入力された各種のデータ、たとえば診断対象の絶縁体に付着しているイオンの種類と量との測定データ、センサ10の漏れ電流の値のデータを記憶する。
【0057】
制御部103は、たとえばマイクロプロセッサ(MPU)によって実現され、記憶部102に記憶されたプログラムを読み込むことにより、そのプログラムに記述された手順に従って余寿命診断に関する処理を実行する。出力部104は、制御部103による余寿命の診断結果を外部の出力装置105に出力する。たとえば出力装置105は、プリンタ、ディスプレイまたはこれらの両方を含みうる。
【0058】
図13は、図12に示した制御部の機能ブロック図である。図13を参照して、制御部103は、表面抵抗率計算部111と、表面抵抗率換算部112と、相関直線計算部113と、閾値計算部114と、余寿命計算部115とを含む。
【0059】
表面抵抗率計算部111は、センサ10の漏れ電流の値、センサ10に関するデータ(たとえば櫛形電極2a,2bの長さ、幅、ピッチなど)を用いて湿度に依存しない表面抵抗率を取得する。すなわち表面抵抗率計算部111は、ステップS1の処理を実行する。ステップS1では、診断対象の絶縁体に付着しているイオンの種類と付着量とが測定されるが、これらの測定結果は入力部101に入力されて、記憶部102に記憶される。
【0060】
表面抵抗率換算部112は、換算係数を用いて、表面抵抗率計算部111が算出した表面抵抗率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率へと換算する。すなわち表面抵抗率換算部112は、ステップS3の処理を実行する。
【0061】
なお、表面抵抗率計算部111は、センサ10の漏れ電流値を測定結果を逐次受信するとともに、その漏れ電流値からセンサ絶縁体の表面抵抗率を算出する。表面抵抗率換算部112は、換算係数を用いて、センサ絶縁体の表面抵抗率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する。すなわち表面抵抗率計算部111および表面抵抗率換算部112はステップS4の処理も実行する。
【0062】
相関直線計算部113は、表面抵抗率換算部112から表面抵抗率の値を受けるとともに記憶部102から使用年数を読み出す。相関直線計算部113は、表面抵抗率と使用年数との間の相関関係を示す相関直線を逐次計算する。すなわち相関直線計算部113は、ステップS5の処理を実行する。
【0063】
閾値計算部114はステップS6の処理を実行する。具体的に説明すると、閾値計算部114は、まず、ステップS1で入力したイオンの種類と量とに基づいて、記憶部102(データベース)に保存されている複数の湿度−表面抵抗率特性の中から最適の特性を選定する。図10に示されるように、閾値計算部114は、相関直線計算部113によって求められた相関直線に基づいて、現在の使用年数に対応する表面抵抗率を決定する。そして選定された湿度−表面抵抗率特性に基づいて、その表面抵抗率に対応する湿度を決定する。
【0064】
記憶部102は、相関直線上の表面抵抗率から湿度を決定するための複数の湿度−表面抵抗率特性を記憶する。これらの複数の特性は、イオンの種類および量に応じて異なっている。閾値計算部114は、ステップS1で入力したイオンの種類と量とに基づいて、複数の特性の中から、湿度を決定するための最適の特性を選定する。
【0065】
なお、この実施の形態では、センサ絶縁体設置時における診断対象の絶縁体の使用年数は10年である。しかしセンサ設置時期に対応する使用年数は変化しうる。この場合、付着イオンの種類および付着量に基づいて選定された湿度−表面抵抗率特性を、診断対象の湿度に依存しない表面抵抗率に基づいて補正すればよい。たとえば、平均湿度(50%RH)における表面抵抗率が診断対象の湿度に依存しない表面抵抗率と一致するように、湿度−表面抵抗率特性が補正される。
【0066】
また、診断対象の絶縁物に付着するイオンの種類の数はある程度制限されているが、そのイオンの付着量は様々であると考えられる。したがって、記憶部102には(イオンの種類の数)×(付着量の代表値の個数)に対応した数の湿度−表面抵抗率特性が記憶される。閾値計算部114は、ステップS1で入力されるイオンの種類、付着量に基づいて、複数の湿度−表面抵抗率特性のうち、最も近い条件の特性を選び出し、その特性をイオン付着量に基づいて補正する。
【0067】
次に、閾値計算部114は、上記の処理によって決定された湿度から表面抵抗率の閾値を決定する。記憶部は、閾値を決定するための複数の湿度−表面抵抗率特性を記憶する。これらの湿度−表面抵抗率特性も、上記と同様に、イオンの種類および量に応じて異なっている。閾値計算部114は、ステップS1で入力されるイオンの種類、付着量に基づいて、複数の湿度−表面抵抗率特性のうち、最も近い条件の特性を選び出す。そして、閾値計算部114は、選定された湿度−表面抵抗率特性と、上記の処理によって決定された湿度とに基づいて、閾値を決定する。
【0068】
余寿命計算部115は、相関直線計算部113によって求められた相関直線と、閾値計算部114によって求められた閾値とに基づいて、診断対象の絶縁体の寿命年数を算出する。次に、余寿命計算部115は、現在までの使用年数をその寿命年数から減算することにより余寿命を算出する。すなわち、余寿命計算部115は、ステップS7の処理を実行する。余寿命計算部115によって算出された余寿命は、出力部104へと出力される。
【0069】
以上のように実施の形態1によれば、センサ絶縁体の表面抵抗率から換算した診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、その絶縁体の使用年数との間の相関関係が逐次求められる。実施の形態1によれば、換算係数を用いてセンサ絶縁体の表面率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算し、その換算結果を用いて相関関係が逐次更新されるため、受配電機器が備える絶縁体の余寿命をオンラインで診断することができる。
【0070】
さらに、センサ絶縁体は診断対象の絶縁体と同じ環境に設置される。これにより、最初に求められた換算係数を用いてセンサ絶縁体の表面率を診断対象の絶縁体の表面抵抗率に換算できるとともに、その換算後の表面抵抗率の値の信頼性も高くなる。
【0071】
さらに、余寿命を決定するための表面抵抗率の閾値は、湿度に依存して変化する。湿度に依存して変化する閾値と、表面抵抗率と使用年数との間の相関関係とから余寿命を求めることにより、診断対象の絶縁物の余寿命をオンラインで、かつ高精度に診断できる。余寿命の診断精度が高くなる(算出された余寿命の精度が高くなる)ことによって、効率的な設備運用のための計画、あるいは効率的な設備更新のための計画を立てることができる。したがって受配電設備の絶縁体の劣化による電気的トラブルを未然に防ぐことができる。
【0072】
さらに実施の形態1によれば、絶縁物に付着しているイオン性物質の種類あるいは相対量によって絶縁特性の湿度依存性が変わる可能性を考慮して余寿命を診断できる。これにより余寿命の診断精度をより一層高めることができる。
【0073】
さらに、実施の形態1によれば、余寿命を高精度で評価できることにより、たとえば、これまでの設備更新の周期(サイクル)が必要以上に短かったと判断できる場合には、設備更新サイクルを長くすることができる。このような場合には受配電機器の長寿命化を図ることができる。
【0074】
[実施の形態2]
実施の形態1では、取得された表面抵抗率のデータの全てを用いて使用年数と表面抵抗率の相関直線が求められる。実施の形態2では、取得された表面抵抗率のデータの中から選択されたデータを用いて相関直線が決定される。
【0075】
なお、実施の形態2に係る余寿命診断方法は、上記の点を除いては実施の形態1に係る余寿命診断方法と同様である。したがって実施の形態2に係る余寿命診断装置の構成も、実施の形態1に係る余寿命診断装置の構成と同様である。
【0076】
図7を参照して、実施の形態2では、取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低い方から50%以内のデータ、好ましくは30%以内、より好ましくは10%以内のデータを用いて表面抵抗率と使用年数との相関関係が逐次求められる。
【0077】
図7に示されるように、実施の形態1では、相関直線、すなわち使用年数と表面抵抗率との間の関係を近似する近似直線を用いて寿命が推定される。近似直線は平均を表すため、求められた余寿命は平均余寿命である。したがって、相関直線によって求められた寿命年数の時点では、実際の寿命年数を超えている絶縁物が半分の確率で存在することとなる。上記のように、表面抵抗率が低い方から50%以内のデータ、好ましくは30%以内、より好ましくは10%以内のデータを用いて相関直線を作成することによって、推定された寿命年数が実際の寿命年数を超える可能性を小さくすることができる。したがって、たとえば焼損等が発生する前に設備更新を行なうといった対策を立てることができる。
【0078】
また、実施の形態2によれば、過去の実績のある比較的高湿度条件での余寿命が求められるので、過去実績のない湿度条件になるリスクを許容する必要はあるが、実績に応じた設備運用、更新計画を立てることが可能になる。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
1 絶縁体(センサ絶縁体)、2a,2b 櫛形電極、3 沿面距離、10 センサ、11,13,14 相関直線、12 直線(閾値)、20 測定器、51〜53 遮断部、54 モールドフレーム、55 診断対象絶縁体、100 寿命診断装置、101 入力部、102 記憶部、103 制御部、104 出力部、105 出力装置、111 表面抵抗率計算部、112 表面抵抗率換算部、113 相関直線計算部、114 閾値計算部、115 余寿命計算部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断方法であって、
湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることにより、受配電機器に含まれる診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率を取得するステップと、
前記診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体を、前記受配電機器に設置するステップと、
前記湿度に依存しない表面抵抗率と前記センサ絶縁体の表面抵抗率との間の換算係数を求めるステップと、
前記センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定するステップと、
測定されたセンサ絶縁体の表面抵抗率を、前記換算係数を用いて前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算するステップと、
前記換算するステップによって得られた前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、前記診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求めるステップと、
前記相関関係から求められる、前記センサ絶縁体の設置時における前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、前記湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度および表面抵抗率の間の予め求められた関係とから、前記相関関係が得られる湿度を決定するステップと、
決定された湿度と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の予め求められた関係とから、前記相関関係に対応する閾値を決定するステップと、
前記相関関係と前記対応する閾値とから決定される使用年数と、現在の使用年数との差分により前記受配電機器の余寿命を決定するステップとを備える、受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項2】
前記診断対象の絶縁体に付着しうるイオンの種類および付着量に応じた、湿度および表面抵抗率の間の複数の関係と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係とを準備するステップと、
前記診断対象の絶縁体に付着したイオンの種類と付着量とを測定するステップとをさらに備え、
前記湿度を決定するステップは、
湿度および表面抵抗率の間の複数の関係の中から、測定されたイオンの種類および付着量に応じた関係を選択するステップを含み、
前記対応する閾値を決定するステップは、
湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係の中から、前記測定されたイオンの種類および付着量に応じた関係を選択するステップを含む、請求項1に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項3】
前記相関関係を逐次求めるステップにおいて、前記換算するステップによって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから50%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項2に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記相関関係を逐次求めるステップにおいて、前記換算するステップによって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから30%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項3に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項5】
前記相関関係を逐次求めるステップにおいて、前記換算するステップによって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから10%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項4に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項6】
絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断装置であって、
前記受配電機器に設置され、診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体の表面抵抗率を逐次取得する表面抵抗率取得部と、
前記センサ絶縁体の表面抵抗率を、予め取得された換算係数を用いて前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する表面抵抗率換算部と、
前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と前記診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求める相関関係計算部と、
前記相関関係に対応する閾値を決定する閾値計算部と、
前記相関関係と前記閾値とから決定される寿命年数と、現在の使用年数との差分により前記受配電機器の余寿命を決定する余寿命計算部とを備え、
前記換算係数は、前記センサ絶縁体の設置時における前記センサ絶縁体の表面抵抗率を、湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることによって取得された、前記センサ絶縁体の設置時における前記診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率に換算するための係数であり、
前記閾値計算部は、前記相関関係から求められる、前記センサ絶縁体の設置時における前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、前記湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度と表面抵抗率との間の予め求められた関係から、前記相関関係が得られる湿度を決定し、決定された湿度および、湿度と表面抵抗率の閾値との間の予め求められた関係から、前記相関関係に対応する閾値を決定する、受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項7】
前記診断対象の絶縁体に付着しうるイオンの種類および付着量に応じた、湿度および表面抵抗率の間の複数の関係と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係とを記憶する記憶部をさらに備え、
前記閾値決定部は、
湿度および表面抵抗率の間の複数の関係の中から、前記診断対象の絶縁体に付着したイオンの種類および付着量に応じた関係を選択することにより前記相関関係が得られる湿度を決定し、湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係の中から、前記診断対象の絶縁体に付着したイオンの種類および付着量に応じた関係を選択することにより、前記対応する閾値を決定する、請求項6に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項8】
前記相関関係計算部は、前記表面抵抗率換算部によって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから50%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項7に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項9】
前記相関関係計算部は、前記表面抵抗率換算部によって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから30%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項8に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項10】
前記相関関係計算部は、前記表面抵抗率換算部によって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから10%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項9に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項1】
絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断方法であって、
湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることにより、受配電機器に含まれる診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率を取得するステップと、
前記診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体を、前記受配電機器に設置するステップと、
前記湿度に依存しない表面抵抗率と前記センサ絶縁体の表面抵抗率との間の換算係数を求めるステップと、
前記センサ絶縁体の表面抵抗率を逐次測定するステップと、
測定されたセンサ絶縁体の表面抵抗率を、前記換算係数を用いて前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算するステップと、
前記換算するステップによって得られた前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、前記診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求めるステップと、
前記相関関係から求められる、前記センサ絶縁体の設置時における前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、前記湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度および表面抵抗率の間の予め求められた関係とから、前記相関関係が得られる湿度を決定するステップと、
決定された湿度と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の予め求められた関係とから、前記相関関係に対応する閾値を決定するステップと、
前記相関関係と前記対応する閾値とから決定される使用年数と、現在の使用年数との差分により前記受配電機器の余寿命を決定するステップとを備える、受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項2】
前記診断対象の絶縁体に付着しうるイオンの種類および付着量に応じた、湿度および表面抵抗率の間の複数の関係と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係とを準備するステップと、
前記診断対象の絶縁体に付着したイオンの種類と付着量とを測定するステップとをさらに備え、
前記湿度を決定するステップは、
湿度および表面抵抗率の間の複数の関係の中から、測定されたイオンの種類および付着量に応じた関係を選択するステップを含み、
前記対応する閾値を決定するステップは、
湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係の中から、前記測定されたイオンの種類および付着量に応じた関係を選択するステップを含む、請求項1に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項3】
前記相関関係を逐次求めるステップにおいて、前記換算するステップによって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから50%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項2に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記相関関係を逐次求めるステップにおいて、前記換算するステップによって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから30%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項3に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項5】
前記相関関係を逐次求めるステップにおいて、前記換算するステップによって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから10%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項4に記載の受配電機器の余寿命診断方法。
【請求項6】
絶縁体を含む受配電機器の余寿命診断装置であって、
前記受配電機器に設置され、診断対象の絶縁体と同じまたは同等の材質からなるセンサ絶縁体の表面抵抗率を逐次取得する表面抵抗率取得部と、
前記センサ絶縁体の表面抵抗率を、予め取得された換算係数を用いて前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率に逐次換算する表面抵抗率換算部と、
前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と前記診断対象の絶縁体の使用年数との間の相関関係を逐次求める相関関係計算部と、
前記相関関係に対応する閾値を決定する閾値計算部と、
前記相関関係と前記閾値とから決定される寿命年数と、現在の使用年数との差分により前記受配電機器の余寿命を決定する余寿命計算部とを備え、
前記換算係数は、前記センサ絶縁体の設置時における前記センサ絶縁体の表面抵抗率を、湿度に影響しない表面抵抗率の評価技術を用いることによって取得された、前記センサ絶縁体の設置時における前記診断対象の絶縁体の湿度に依存しない表面抵抗率に換算するための係数であり、
前記閾値計算部は、前記相関関係から求められる、前記センサ絶縁体の設置時における前記診断対象の絶縁体の表面抵抗率と、前記湿度に依存しない表面抵抗率と、湿度と表面抵抗率との間の予め求められた関係から、前記相関関係が得られる湿度を決定し、決定された湿度および、湿度と表面抵抗率の閾値との間の予め求められた関係から、前記相関関係に対応する閾値を決定する、受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項7】
前記診断対象の絶縁体に付着しうるイオンの種類および付着量に応じた、湿度および表面抵抗率の間の複数の関係と、湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係とを記憶する記憶部をさらに備え、
前記閾値決定部は、
湿度および表面抵抗率の間の複数の関係の中から、前記診断対象の絶縁体に付着したイオンの種類および付着量に応じた関係を選択することにより前記相関関係が得られる湿度を決定し、湿度および表面抵抗率の閾値の間の複数の関係の中から、前記診断対象の絶縁体に付着したイオンの種類および付着量に応じた関係を選択することにより、前記対応する閾値を決定する、請求項6に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項8】
前記相関関係計算部は、前記表面抵抗率換算部によって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから50%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項7に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項9】
前記相関関係計算部は、前記表面抵抗率換算部によって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから30%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項8に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【請求項10】
前記相関関係計算部は、前記表面抵抗率換算部によって逐次取得された表面抵抗率のうち、表面抵抗率が低いほうから10%以内のデータに基づいて、前記相関関係を逐次求める、請求項9に記載の受配電機器の余寿命診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−231633(P2012−231633A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99355(P2011−99355)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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