説明

受音装置および携帯電話機

【課題】耳を当てて音を聞き取る装置の利用において、ユーザがその音を明瞭に聞こえるようにする。
【解決手段】携帯電話機は、スピーカ18によって放音される参照音のうち、耳100によって反射され、調整用マイクロホン20により収音される反射音に基づいて、ユーザの耳穴と受音領域30とが所定の位置関係にあるか否かを判断する。そして、携帯電話機は、参照音に対して、反射音の所定の周波数域における音圧の低下量が閾値以上なく、位置関係が適切でないと判断すると、携帯電話機に内蔵されている板状部材303を移動させ、受音部Rの位置を変更する。携帯電話機は位置関係が最適になるまで、これを繰り返す。これにより、ユーザは携帯電話機の姿勢や位置の調整を行わなくても、通話相手の声を聞き取りやすい状況で、携帯電話機を利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザによる耳を当てて音を聞き取る装置の利用を助けるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機を利用するユーザは、受話器を自身の耳を当てる際に音声を聴き取りやすいように、携帯電話機の姿勢や受話器の位置を調整する。ユーザが受話器を耳に当てるときの動作を助けるための技術として、特許文献1に開示されたものがある。
【特許文献1】特開2003−188957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ユーザは、自身の耳(耳穴)に対する受話器の位置や電話機本体の姿勢をどのように調整するのが最適であるかを即座に判断することは難しく、この調整に手間取ってしまうことがある。また、ユーザの体勢によってはその調整を自在に行うことが難しいことがあり、ユーザは携帯電話機からの音を明瞭に聞き取ることができないという不都合が生じることがある。
そこで、本発明は、耳を当てて音を聞き取る装置の利用において、ユーザがその音を明瞭に聞こえるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するため、本発明の第1の構成の受音装置は、放音手段と、前記放音手段が設けられている空間と自装置の外部空間とを連通する孔と、前記孔の位置を移動させる移動手段と、収音手段と、前記放音手段に所定の参照音を放音させる放音制御手段と、前記放音手段により放音された前記参照音の反射音を前記収音手段が収音したときに、収音された当該反射音の特徴に基づき、前記ユーザの耳穴と前記孔とが所定の位置関係にあるか否かを判断する判断手段と、前記判断手段によって前記ユーザの耳穴と前記孔とが前記所定の位置関係にないと判断された場合に、前記移動手段により前記孔の位置を移動させて、その位置を変更する位置変更手段とを備えることを特徴とする。
【0005】
また、本発明の第2の構成の受音装置は、放音手段と、前記放音手段の位置を移動させる移動手段と、収音手段と、前記放音手段に所定の参照音を放音させる放音制御手段と、前記放音手段により放音された前記参照音の反射音を前記収音手段が収音したときに、収音された当該反射音の特徴に基づき、前記ユーザの耳穴と前記放音手段とが所定の位置関係にあるか否かを判断する判断手段と、前記判断手段によって前記ユーザの耳穴と前記放音手段とが前記所定の位置関係にないと判断された場合に、前記移動手段により前記放音手段の位置を移動させて、その位置を変更する位置変更手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の第3の構成の受音装置は、上記第1又は2の構成の受音装置において、前記判断手段は、前記放音手段により放音される前記参照音における所定の周波数成分の音圧に対して、前記収音手段により収音される前記反射音における前記所定の周波数成分の音圧が小さく、且つその差が閾値以上である場合には、前記所定の位置関係にあると判断することを特徴とする。
【0007】
本発明の第4の構成の受音装置は、上記第1〜3のいずれか1の構成の受音装置において、前記判断手段は、前記放音手段により放音される前記参照音の振幅に対して、前記収音手段が収音した前記反射音の振幅が小さく、且つその差が閾値以上である場合には、前記所定の位置関係にあると判断することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第5の構成の携帯電話機は、上記第1〜4のいずれかの構成の受音装置と、無線による送受信を行う通信手段と、前記収音手段とは異なる第2の収音手段と、前記通信手段により受信した音声データに応じた音を前記放音手段に放音させ、前記第2の収音手段により収音した音に応じた音声データを前記通信手段から送信させる制御手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耳を当てて音を聞き取る装置の利用において、ユーザがその音を明瞭に聞こえるようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下で述べる「携帯電話機」は、法令上の携帯電話機に限らず、これと同等の機能を有するPHS(Personal Handyphone System;登録商標)等の電話機も含み、ユーザが携帯可能で、無線通信を利用して送受信を行う電話機全体を指すものとする。
(1)構成
図1は、携帯電話機10の外観を示した図である。
携帯電話機10は、複数のボタンからなる操作部13や、各種情報を表示する表示部14を本体前面に有し、無線で他の通信機との間でデータを遣り取りするためのアンテナ16を有する。また、表示部14の上方側には受音領域30が設けられている。ユーザは、通話相手の話声等の音声を聴くときには、受音領域30に自身の耳100を当てる。携帯電話機10には後述するスピーカ18が内蔵されており、ユーザは、このスピーカ18により放音された音を、受音領域30に設けられた「受音部R」を介して聞き取る。受音部Rの位置には孔が設けられており、その孔を介して携帯電話機10の外部に放音される。なお、ユーザは、受音部Rの近くに耳100を当てることで、スピーカ18からの音声を明瞭に聞き取ることができる。また、図1に示す位置の携帯電話機10の内部空間に調整用マイクロホン20が内蔵されており、調整用マイクロホン20は受音領域30に設けられた孔を介して、内部空間に伝搬する音声を収音する。また、操作部13の下方側には送音領域40が設けられている。ユーザが携帯電話機10を利用するときには、送音領域40はユーザの口元近くに位置し、携帯電話機10に内蔵された通話用マイクロホン19によってユーザの発話音等の音声は、この通話用マイクロホン19によって収音されて相手方の電話機等へと送られる。
なお、図1に示すように、携帯電話機10において本体の長手方向に沿う方向を「y方向」とし、それに直交する紙面に平行な方向を「x方向」とし、x方向、y方向に直交する方向を「z方向」とする。
【0011】
図2は、携帯電話機10の構成を示すブロック図である。同図に示すように、携帯電話機10は、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、表示部14と、通信部15と、アンテナ16と、音声処理部17と、スピーカ18と、通話用マイクロホン19と、調整用マイクロホン20と、駆動部21とを備えている。
制御部11は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備えており、携帯電話機10の各部を制御する。ROMには、CPUが各種制御を実行するための制御プログラムが記憶されており、CPUは、ROMや記憶部12に記憶された制御プログラムに基づいて、RAMをワークエリアとして各種制御を行う。
【0012】
記憶部12は、例えばEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)又はフラッシュメモリであり、制御部11によって実行される処理の手順が記述されたプログラム等の各種情報が記憶されている。操作部13は、例えば「0」から「9」までのテンキーや、電話番号等の発信を指示する発信ボタン等を備えており、ユーザによる操作に応じた操作信号を制御部11に供給する。制御部11は、この操作信号に基づき、ユーザの操作によって指示された内容を判断して、その判断結果に応じた制御を行う。表示部14は、例えば液晶ディスプレイや液晶駆動回路を備えており、制御部11の制御に応じて各種情報を表示する。
【0013】
通信部15は、無線による送受信を行う通信手段である。携帯電話機10が通話中の動作をするときには、通信部15は、図示せぬ携帯電話網の基地局から送信されてくる無線信号をアンテナ16によって受信すると、これを復調し、復調して得られるデジタル形式の音データを音声処理部17に出力する。また、通信部15は、音声処理部17からデジタル形式の音データを取得すると、これに変調及び周波数変換等を施して、アンテナ16を介して無線信号を送信させる。これ以外にも、通信部15は、これと同様の制御により、データ通信に関わる各種データを送受信する。なお、以下では、デジタル形式の音データのことを、単に「音データ」ということがあり、アナログ形式の音信号を、単に「音信号」ということがある。
【0014】
音声処理部17は、例えばDSP(Digital Signal Processor)であり、各種音声処理を行う。例えば、音声処理部17は、通信部15から供給される音データに対し、D/A(デジタル/アナログ)変換及び増幅処理を施し、アナログ形式の音信号をスピーカ18に供給する。また、音声処理部17は、通話用マイクロホン19から供給される音信号に対し、増幅及びA/D(アナログ/デジタル)変換を施してデジタル形式の音データに変換し、通信部15に出力する。スピーカ18は、供給された音信号に応じて受話音等の音声を放音する放音手段である。通話用マイクロホン19は、送音領域40に設けられ、ユーザの送話音声等の音声を収音し、収音した音を表す音信号を音声処理部17に出力する。調整用マイクロホン20は、例えばシリコンマイクであり、携帯電話機10に内蔵された収音手段である。この調整用マイクロホン20は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により製造された超小型・軽量のマイクロホンである。調整用マイクロホン20は、収音した音を表す音信号を制御部11に出力する。駆動部21は、モータやワイヤ等を有し、携帯電話機10における受音部Rの位置を移動させる移動手段である。具体的には、駆動部21は、後述する板状部材303を移動させて、受音部Rの位置を変更する。駆動部21による駆動の態様について詳しくは後述する。
【0015】
ここで、シリコンマイクである調整用マイクロホン20の構造について説明する。図3は、調整用マイクロホン20の構成を示す分解斜視図である。
筐体201は、セラミック製の箱型をなしており、収音素子202及び信号処理回路203を収容する。収音素子202は、振動板として機能する柔軟なシリコン膜211と、静止電極である硬い背面電極212(プレート)とを備えたコンデンサマイクロホンであり、いわゆるシリコンマイクである。シリコン膜211が音圧に応じた量だけ変位することにより収音素子202の静電容量が変化する。すなわち、収音素子202は音圧を静電容量に変換する。信号処理回路203は、例えばアナログLSI(Large Scale integrated circuit)であり、収音素子202の静電容量の変化を電気信号に変換し、この電気信号を音信号として音声処理部17に出力する。上面部材204は、金属からなる平面状の部材であり、筐体201の開口部を塞ぐように設けられている。上面部材204の一部に孔Pが設けられており、この孔Pを介して筐体201内部に伝搬する音を、収音素子202は収音する。
【0016】
図4は、携帯電話機10の内部の構成を模式的に表した図で、図1の切断線a−aで切断したときの断面を表している。同図に示すように、受音領域30は、携帯電話機10において、ユーザの耳が当てられるとともに、スピーカ18及び調整用マイクロホン20が設けられた領域である。
同図に示すように、電子回路等が設けられ、その上面が平面状の基材301上にスピーカ18及び調整用マイクロホン20が固定されて設けられている。携帯電話機10の筐体302は、これらスピーカ18及び調整用マイクロホン20の周囲を囲むようにして設けられている。また、受音領域30にあっては、筐体302の上面に設けられた円形の孔HS及び孔HMにて開口している。つまり、孔HSは、スピーカ18が設けられている空間(内部空間)と自装置の外部空間とを連通し、孔HMは、調整用マイクロホン20が設けられている空間(内部空間)と自装置の外部空間とを連通する。スピーカ18は孔HSを介して外部空間に放音する。また、筐体302は、例えば比較的遮音性に優れた、例えば樹脂からなる板状部材303を支持している。板状部材303は、駆動部21によって、紙面に対して左右方向であるx方向及びy方向に移動可能に設けられている。
【0017】
図5は、板状部材303を、図4に示す矢印V方向から見た図である。
同図に示すように、板状部材303の中央付近に円形の孔HTが設けられており、孔HTのサイズは孔HSのサイズよりも小さい。なお、孔HTは、受音領域30内を埃等から保護するために、例えば音を透過させる不織布状の布材によって覆われていることが好ましい。このような構成の板状部材303にあっては、図4に示すように、板状部材303の孔HTと筐体302の孔HSの一部とは互いに重なり合うように配置されている。スピーカ18によって放音された音は、この重なりあった部分、すなわち、孔HT及び孔HSを介してユーザの耳100側へと伝搬する。つまり、携帯電話機10において、孔HTのx,y方向に対する位置が、ユーザが耳100を当てて音を聞き取る位置である「受音部R」の位置を表す。受音部Rの位置は、板状部材303の移動に従って変更される。例えば、図6(a)に示すように、板状部材303がx方向に対する移動可能な範囲の端(左端)に移動させられたときには、受音部Rは同図(a)の位置となるし、板状部材303が同範囲における反対側のx方向の端(右端)に移動させられたときには、受音部Rは同図(b)に示す位置となる。y方向についても、同様に移動可能な範囲があり、例えば図1に示す一点鎖線で囲んだ矩形の範囲内で、板状部材303が移動させられて、受音部Rの位置が変更される。
【0018】
図4に戻って説明する。
ユーザの耳100側から到来する音は、孔HMを介して携帯電話機10の内部空間に伝搬し、調整用マイクロホン20はこの音を収音する。ユーザの耳100側から到来する音は、具体的には、ユーザの耳100が受音領域30に当てられているときにスピーカ18によって放音された音のうち、耳100が反射した反射音である。また、スピーカ18が収容される内部空間と調整用マイクロホン20が収容される内部空間とは、筐体302によって隔絶されている。このような構造としているのは、受音領域30にユーザの耳100が当てられたときに、スピーカ18によって放音された音が、直接、調整用マイクロホン20に収音されないようにするためである。このような構成とする理由については後述するが、調整用マイクロホン20は、スピーカ18によって放音されて外部空間へ伝搬した音のうち、ユーザの耳100側から到来する反射音のみを収音することになる。
【0019】
ところで、携帯電話機10を利用するユーザは、自身の耳100を受音領域30に当てるときに、受音領域30からの音声が聴き取りやすいように、自身の耳穴に対する携帯電話機10の受音領域30の位置や電話機本体の姿勢を調整する。本実施形態の携帯電話機10は、ユーザがこの調整を精密に行わなくても音が明瞭に聞こえるようにするための制御を行う。この制御のことを、以下では「受音部変更制御」という。携帯電話機10にあっては、制御部11及び音声処理部17が、調整用マイクロホン20によって収音した音に基づいて、この受音部変更制御を行う。
ところで、図4を見ると分かるように、板状部材303を設けなければ、スピーカ18によって放音される音は孔HS全域を介して耳100へ伝搬するから、受音部Rの面積は孔HSの面積と同等に大きくなり、ユーザによる調整が精密でなくても音を明瞭に聞き取ることはできるといえる。しかしながら、これではユーザの周囲にも受音領域30からの音が洩れてしまい、プライバシーや騒音等の観点からも好ましくない。よって、これらの問題が起こらないように、孔HSのサイズを或る程度小さくする必要がある。このような事情から、携帯電話機10において受音部Rのサイズを小さめにしている。ただし、ここでいう受音領域30と耳100の耳穴との位置関係は、厳密に言うと、板状部材303に設けられた孔HTとユーザの耳穴との位置関係のことである。
【0020】
図7は、受音部変更制御時における制御部11及び音声処理部17の機能を示したブロック図である。同図に示す各機能は、制御部11及び音声処理部17のハードウェア又はソフトウェアによって実現される。
放音制御部171は、放音指示を取得すると、所定の参照音を放音させるための放音制御信号をスピーカ18に供給し、スピーカ18に参照音を放音させる。ここでは、放音制御部171は、例えば、短い拍の音が所定間隔を空けながら連続する、パルス音のような参照音を、スピーカ18に放音させる。参照音は、その音の特徴として、図8(a)に示すような周波数特性FGを有し、この周波数特性FGを表すデータは、製造段階で予めROM又は記憶部12に記憶されている。この参照音の周波数特性や音量については、ユーザの耳障りとならないように決められている。なお、参照音の放音指示は、ユーザにより発信ボタンが押下されたときに放音制御部171に供給される。
【0021】
収音音声取得部172は、調整用マイクロホン20によって収音された音を表す音信号SAを取得し、取得した音信号SAをデジタル形式の音データSDに変換して、収音音声解析部173に供給する。発信ボタンがユーザにより押下されると、ユーザは直ちに受音領域30を自身の耳に当てる動作を行う。よって、放音制御部171は、ユーザの耳100が受音領域30に当てられている状態で参照音を放音させ、収音音声取得部172は、参照音が耳100を反射し、調整用マイクロホン20によって収音された反射音を表す音信号SAを取得することになる。
【0022】
収音音声解析部173は、音データSDを解析して、調整用マイクロホン20によって収音された反射音の周波数特性を求め、この周波数特性を判断部174に供給する。ここでは、収音音声解析部173は、ユーザの耳穴に参照音を放音したときの反射音の特徴として、図8(b)に示すような周波数特性FRを求める。
【0023】
判断部174は、スピーカ18により放音された参照音の反射音を調整用マイクロホン20が収音したときに、その反射音の特徴に基づき、ユーザの耳穴と受音領域30とが所定の位置関係にあるか否かを判断し、その判断結果を位置変更部175及び放音制御部171に供給する。図8(a)、(b)に示すように、スピーカ18が放音する参照音の周波数特性FGと、調整用マイクロホン20が収音した反射音の周波数特性FRとは異なっており、判断部174は、この差異に基づいて両者の位置関係を判断する。ここでの“所定の位置関係”は、携帯電話機10の受音領域30と、ユーザの耳穴との位置関係が適切である場合の位置関係のことをいい、例えば、耳穴から或る距離の範囲内に受音領域30が含まれる場合に、位置関係が適切であるとする。一方、ユーザの耳穴との位置関係が適切でない場合には、両者の位置関係は所定の位置関係にないということである。
【0024】
位置変更部175は、判断部174によってユーザの耳穴と受音領域30とが上記の所定の位置関係にないと判断された場合に、受音部R(つまり、孔HT)の位置を移動させて、その位置を変更する。具体的には、位置変更部175は、位置関係が最適でない場合に、板状部材303を所定量だけ移動させるための移動制御信号を駆動部21に出力する。例えば、位置変更部175が板状部材303をx方向に「0.5mm」だけ移動させるための移動制御信号を出力した場合、移動制御信号が供給された駆動部21は、これに従って、板状部材303をx方向に「0.5mm」だけ移動させる。板状部材303をy方向に対する移動させるための移動制御信号が駆動部21に供給された場合には、駆動部21は、板状部材303をy方向に所定量だけ移動させる。
【0025】
放音制御部171は、判断部174からユーザの耳穴と受音領域30とが、上記の所定の位置関係にない旨を表す判断結果を取得すると、そのままスピーカ18に放音制御信号を供給し続ける。その一方で、放音制御部171は、判断部174から所定の位置関係にある旨を表す判断結果を取得すると、放音制御信号の供給を停止する。つまり、放音制御部171は、ユーザの耳穴と受音領域30とが所定の位置関係になるまで参照音を放音させる。なお、筐体302によりスピーカ18が収容される内部空間と調整用マイクロホン20が収容される内部空間とは隔絶されると上述したが、これは反射音の特徴から耳穴と受音領域30との位置関係を判断しているためである。
【0026】
ここで、参照音の周波数特性FGと、参照音が耳100を反射した反射音の周波数特性FRとに基づき、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切であるか否かを判断することができる理由について、図9を参照しつつ説明する。
図9は、耳100の構造を模式的に表した図である。同図に示すように、耳100は、受音領域30が接触する耳介110、鼓膜130までの音の伝搬経路となる外耳道120、及びユーザが音を認識するための鼓膜130とを含む。なお、本実施形態におけるユーザの耳100における耳穴は、図9に示す外耳道120である。
受音領域30に耳100が当てられると、受音領域30が外耳110に接触された状態となる。このとき、携帯電話機10と耳100とによって形成される空間は一種の音響空間となり、受音領域30から放音された参照音は、外耳道120を介して鼓膜130に伝搬する。鼓膜130に参照音が伝搬すると、その音圧により鼓膜130は振動させられる。ユーザ(人間)は、この鼓膜130の振動によって、耳100で聞いた音を認識する。この鼓膜130の振動により、参照音の音エネルギーの一部が、鼓膜130を振動させるための振動エネルギーとして消費される。音圧による鼓膜130の振幅が大きいほど、ユーザは聞いた音を認識しやすいから、参照音の音エネルギーのうち、鼓膜130を振動させるための振動エネルギーとして消費された音エネルギーが大きいほど、ユーザは受音領域30からの音を明瞭に聞き取りやすいといえる。この場合、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係は適切である。
【0027】
ところで、上記のようにして鼓膜130に伝搬する参照音の他に、耳100を伝搬する参照音の一部は、例えば耳介110や外耳道120の内壁等を反射し、反射音として携帯電話機10の受音領域30に戻る。調整用マイクロホン20は、このようにして耳100から受音領域30に戻ってきた反射音を収音する。耳100を反射して受音領域30に戻る反射音の音エネルギーは、振動エネルギーとして消費された量に応じて、参照音の音エネルギーよりも小さくなる。したがって、図8(a)に示す参照音の周波数特性FGと、同図(b)に示す反射音の周波数特性FRとを比較すると、鼓膜130の振動に影響しやすい周波数成分の音圧は、周波数特性FGに対して周波数特性FRの方が小さくなる。よって、図8に示す周波数成分foのように、音圧の差がかなり大きい周波数成分が存在する。一方、鼓膜130の振動に影響しにくい周波数域にあっては、周波数特性FGと周波数特性FRとで音圧の差異はさほど大きくない。なお、全周波数域において、周波数特性FGの音圧に対して周波数特性FRの音圧が小さくなっているのは、耳介110や外耳道120を介して耳100以外の部位にも伝搬することで音のエネルギーが失われたことによるものであるが、この度合いはユーザの耳穴と受音領域30との位置関係によらず、大きさ差異はないとみなすことができる。
【0028】
上記と反対で、耳100に対する受音領域30の位置や、携帯電話機10本体の姿勢が良好に調整されていない場合、つまり、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切でない場合、参照音の音エネルギーのうち、鼓膜130を振動させるための振動エネルギーとして消費されるエネルギーは小さく、ユーザは受音領域30からの音を明瞭に聞き取ることができない。このとき、参照音にあっては、鼓膜130まで到達することなく、耳介110や、鼓膜130に達するまでの外耳道120の周囲の内壁によって反射されやすい。よって、音エネルギーが振動エネルギーとして消費される量は、位置関係が適切である場合と比べて小さくなる。また、受音領域30に対して近い位置の耳100の部位によって参照音は反射されやすい。このような理由から、位置関係が適切である場合と比べれば、受音領域30に戻る反射音を表す音エネルギーは大きくなる。この場合、調整用マイクロホン20によって収音される反射音の周波数特性において、周波数成分foにおける音圧は、図8(b)の場合ほどには大きくならないはずである。
【0029】
以上述べた理由により、鼓膜130の振動に影響しやすい反射音の周波数成分foの音圧にあっては、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切であるか否かに応じて異なるので、所定の周波数域における周波数成分foの音圧の差異に基づいて、ユーザの耳穴と受音領域30とが、適切な位置関係(所定の位置関係)にあるか否かを判断することができる。具体的には、携帯電話機10は、参照音における所定の周波数成分foの音圧に対して、調整用マイクロホン20により収音される反射音における所定の周波数成分foの音圧が閾値以上小さい場合には、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切であり、所定の位置関係にあると判断する。なお、本実施形態では、「A」に対して「B」が小さく、且つその差が閾値以上であることを「BがAよりも閾値以上小さい」と称することがある。
なお、上記の音圧の低下量に対する閾値や、鼓膜130の振動に影響を与えやすい周波数成分(周波数域)は、外耳110や外耳道120の内壁の性質に依存するから、予め実験的に求められた値が用いられるとよい。また、外耳の形状や寸法等の個人個人でその値は異なるから、ユーザに問わず適用可能なように、統計的に求められた値が用いられることが好ましい。
以上が、受音部変更制御における制御部11及び音声処理部17の機能の説明である。
【0030】
(2)動作
次に、携帯電話機10が「受音部変更制御」を行うときの動作について、図10のフローチャートに従って説明する。
まず、通話を開始するときに、ユーザは操作部13を操作して相手先の電話番号を入力する。そして、電話番号の入力が終わると、ユーザは発信ボタンを押下する。制御部11は、発信ボタンが押下されたことを示す操作信号を操作部13から取得すると、「受音部変更制御」を開始する(ステップS1;YES)。ユーザは発信ボタンを押下すると、通話に備えるために、携帯電話機10の受音領域30を自身の耳100に当てる動作を行うから、ここでは発信ボタンの押下を契機として、携帯電話機10が受音部変更制御を開始する。
【0031】
受音部変更制御において、まず、制御部11は音声処理部17に放音指示を供給し、スピーカ18によって所定の参照音を放音する(ステップS2)。これにより、スピーカ18から参照音が放音されるので、ユーザはこの参照音を聞きながら、スピーカの位置や電話機本体の姿勢を調整する動作を開始する。制御部11は、参照音の放音を行うとともに、調整用マイクロホン20によって耳100からの反射音を収音し(ステップS3)、音声処理部17によってその反射音を表す音信号を取得する(ステップS4)。そして、制御部11は、取得した音信号を音声処理部17によって解析し、反射音の周波数特性FRを求める(ステップS5)。そして、制御部11は、音声処理部17により求められた、反射音の周波数特性FR(図8(b))の所定の周波数成分foの音圧が、参照音の同周波数域の周波数特性FGの周波数成分の音圧に対して閾値以上小さいか否かを判断する(ステップS6)。
【0032】
ステップS6において、制御部11は、反射音の周波数成分foの音圧が、参照音の周波数特性FGの同じ周波数域の周波数成分の音圧に対して閾値以上小さくないと判断すると(ステップS6;NO)、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切でなく、所定の位置関係にないと判断する。この場合、制御部11は、移動制御信号を駆動部21に出力し、駆動部21によって板状部材303を所定量だけ移動させて、受音部Rの位置を変更する(ステップS7)。ここでは、制御部11は、例えば受音部をx方向に「0.5mm」だけ移動させるための移動制御信号を出力する。
【0033】
そして、制御部11は、ステップS3に戻り、受音部Rの位置を変更させてからの参照音の反射音に基づいて、周波数特性を求める(ステップS3〜S5)。そして、ステップS6において、再び、制御部11は、反射音の周波数特性FRの所定の周波数成分foの音圧が、参照音の同周波数域の周波数特性FGの周波数成分の音圧に対して閾値以上小さいか否かを判断する。ここで、再び、制御部11が「NO」と判断すると、ステップS7において、さらに受音部をx方向に「0.5mm」だけ移動させるための移動制御信号を、駆動部21に出力する。制御部11は、ステップS6で「NO」と判断する限り、このような受音部Rの位置の変更を繰り返す。例えば、制御部11は、板状部材303が移動可能な位置まで移動させたら、y方向に「0.5mm」だけ移動させ、その後、位置関係が適切でない場合であれば、x方向への「0.5」mmずつの移動を繰り返す。この移動制御の態様は、予め所定のアルゴリズムが記述されたプログラムが記憶部12乃至ROMに記憶されており、制御部11はそのアルゴリズムに基づいて移動制御を行う。
【0034】
そして、ステップS6において、制御部11は、反射音の周波数特性FRの所定の周波数成分foの音圧が、参照音の同周波数域の周波数特性FGの周波数成分の音圧に対して閾値以上小さいと判断すると(ステップS6;YES)、ユーザの耳100と受音領域30との位置関係が所定の関係になったと判定する。この場合、制御部11は、ステップS8に進み、放音指示を音声処理部17に供給し、スピーカ18による参照音の放音を停止させる(ステップS8)。そして、制御部11は、受音部変更制御を終了する。つまり、制御部11は、ユーザの耳100と受音領域30との位置関係が所定の関係になるまで、反射音の収音、周波数特性を求める、受音部Rの位置の変更という処理ステップを繰り返すことになる。
ユーザは、参照音が停止されたことを知ると、位置関係が適切であることを認識し、耳100に対する携帯電話機10の位置や姿勢を維持したまま通話を開始するまで待機する。そして、通話が開始されると、ユーザは、通話中において、この姿勢を概ね維持する限り、受音領域30からの音声を聞き取りやすい状態で通話を続けることができる。
【0035】
以上説明したように、携帯電話機10は、自装置に内蔵されるスピーカ18によって放音される参照音のうち、耳100によって反射され、調整用マイクロホン20により収音される反射音に基づいて、ユーザの耳穴と受音領域30とが所定の位置関係にあるか否かを判断する。そして、携帯電話機10は、参照音と反射音とにおいて、所定の周波数域の音圧の差異に基づいて位置関係が適切でないと判断すると、板状部材303を移動させることにより、受音部Rの位置を変更する。この位置関係が最適になるまで、携帯電話機10は、同様の移動を繰り返す。そして、携帯電話機10は、位置関係が適切になると判定すると、受音部Rに位置をそこに決める。これにより、ユーザは携帯電話機10の姿勢や、耳100に対する位置の調整を自在に行うことが難しい場合、ユーザが携帯電話機10の姿勢や位置の精密な調整を行わない場合であっても、ユーザは携帯電話機10からの音を明瞭に聞き取ることができる。また、携帯電話機10が備える調整用マイクロホン20は小型且つ、軽量であるから、ユーザは重量感等の違和感をもつこともないし、携帯電話機10の装置構成や制御内容も簡素で済む。
【0036】
(3)変形例
なお、上記実施形態を次のように変形してもよい。具体的には、例えば以下のような変形が挙げられる。これらの変形は、各々を適宜に組み合わせることも可能である。
(3−1)変形例1
上述した実施形態では、携帯電話機10は、参照音の周波数特性と反射音の周波数特性とに基づいて、鼓膜130の振動に影響しやすい周波数成分foの音圧の差により、ユーザ耳穴と受音領域30との位置関係が適切であるか否かを判断していた。これに対し、携帯電話機10は、参照音の振幅と反射音の振幅とに基づいて、両者が所定の位置関係にあるか否かを判断するようにしてもよい。
実施形態において、参照音と反射音との周波数特性を比較していたのは、鼓膜130の振動に用いられる振動エネルギーの消費によって、参照音の音エネルギーが小さくなるため、所定の周波数成分の音圧が低下するという理由に基づくものであった。これと同様の理由により、反射音の振幅も、振動エネルギーの消費によって参照音の振幅に対して小さくなる。よって、ステップS5,6において、制御部11は、スピーカ18により放音される参照音の振幅に対して、調整用マイクロホン20が収音した反射音の振幅が閾値以上小さい場合には、十分な音エネルギーが鼓膜130まで達したとして、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切であると判断する。一方、参照音の振幅に対して反射音の振幅が閾値以上小さくない場合には、反射音の音エネルギーが大きく、十分な音エネルギーが鼓膜130に達していないとして、制御部11は、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切でないと判断する。この構成においても、位置関係が適切な場合における、反射音の振幅の減衰量を実験的に求めておき、携帯電話機10に対して製造段階でこれに応じた閾値が設定されている。
また、制御部11は、実施形態で述べたような所定周波数成分の音圧の低下量と、反射音の振幅の減衰量との両方に基づいて、位置関係の判断を行うようにしてもよい。この場合、例えば、制御部11は、両方の結果により位置関係が適切である条件を満たしていると判断した場合に、位置関係が適切であると判断しても良いし、いずれか一方が位置関係が適切である条件を満たしていると判断した場合に、位置関係が適切であると判断しても良い。また、異なる複数の参照音を用いて受音部変更制御を行ってもよい。
【0037】
(3−2)変形例2
参照音がどのような音であっても、携帯電話機10は受音部変更制御を行うことができる。制御部11及び音声処理部17は、反射音の周波数特性や振幅等の一致・不一致により受音領域30とユーザの耳穴との位置関係が適切であるか否かの判定を行うから、周波数特性や振幅がどのような特徴を有していてもよい。また、参照音は必ずしも人間が聞き取ることのできる可聴域の音である必要もない。
【0038】
また、参照音を表す音信号として、理想的なインパルスを近似した、周期の極めて短いパルス信号を意味するインパルス信号を用いてもよい。携帯電話機10及び耳100からなる音の伝搬空間は、実施形態でも述べたように参照音及び反射音が伝搬する一種の音響空間とみなすことができる。よって、インパルス信号を用いた音響特性の測定と同等の原理により、インパルス信号を用いることが効果的なのである。つまり、ユーザ毎に反射音の周波数特性(音響特性)は異なるから、携帯電話機10は、所有者に対する周波数特性を記憶部12に記憶しておき、これと、受音部変更制御時において求めた反射音(インパルス応答)の周波数特性とを照合し、位置関係が適切であるか否かの判定を行う。そして、制御部11は、両者の一致度が閾値以上に高ければ、位置関係が適切であると判定する。ここでの一致度の判断手法は、実施形態で述べた周波数特性の一致・不一致を確認する場合と同様の手法を用いることができる。このように、インパルス信号を用いることで、以下のようなメリットがある。インパルス信号は広帯域の周波数成分を持っているため,測定周波数ごとに音源を切り替えることなしに測定できるから、ユーザは受音部変更制御に要する時間を短縮できる。また、反射音を表すインパルス応答からは、残響時間以外にも明瞭度や音の大きさなどに対応した音響特性も同時に求められるから、受音部変更制御の高精度化の効果を得ることができる。
【0039】
(3−3)変形例3
上述した実施形態では、携帯電話機10は、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切でない場合には、x方向又はy方向に所定量だけ板状部材303を移動させることにより、受音部Rの位置を変更していた。この移動方向や移動量について実施形態で述べた態様は一例に過ぎず、これ以外の態様であってもよい。
また、携帯電話機10において、孔HT及びスピーカ18を移動させることにより受音部Rの位置を変更するようにしてもよい。ここで、図11は、本変形例に係る携帯電話機の内部の構成を模式的に示した図で、図1の切断線a−aで切断したときの断面を表している。同図に示すように、携帯電話機10の内部空間において、支持台304が基材301上で移動可能に設けられている。支持台304上にはスピーカ18が設けられ、スピーカ18は、例えば接着によって支持台304の上面に固定(支持)されている。すなわち、スピーカ18は移動可能に設けられている。また、携帯電話機10は、スピーカ駆動部22を有している。スピーカ駆動部22は、モータ等を備えており、制御部11の制御の下、図示せぬガイドレールに沿って支持台304をx方向、或いはy方向に移動させる。この移動に応じて、スピーカ18もx方向或いはy方向に移動させられて、その位置が変更される。
【0040】
このような構成の携帯電話機10において、制御部11は、受音領域30とユーザの耳穴との位置関係が所定関係にないと判断した場合には、駆動部21に移動制御信号を供給するとともに、スピーカ駆動部22にも移動制御信号を供給する。スピーカ駆動部22は、この移動制御信号に応じて、支持台304をx方向或いはy方向に所定量だけ移動させて、受音部Rの位置を変更する。この支持台304の移動にあっては、制御部11は、受音部Rのほぼ下方側にスピーカ18の中央付近を位置させるように移動させる。すなわち、孔HTの中心とスピーカ18との中心を結ぶ一点鎖線Lが、概ね基材301の上面と直交する(z方向)ように移動させられる。このようにスピーカ18を移動させることにより、受音部Rの位置の下方にスピーカ18の中央付近が位置するから、ユーザはより明瞭に音を聞き取ることができるという効果がある。また、これにより、孔HSの面積を大きくして、受音部Rの位置の変更範囲を大きくしても聴取性を悪化させることもない。
また、この場合において、駆動部21及びスピーカ駆動部22に代えて、1つの駆動手段によって板状部材303及びスピーカ18の両方を移動させてもよいし、板状部材303及びスピーカ18をユニット化してこれらを移動させてもよい。
【0041】
また、携帯電話機10において、孔HTの位置を変更せずに、スピーカ18のみを移動させて、受音部の位置を変更するようにしてもよい。この場合、孔HSを、受音部Rの位置が変更される範囲に相当する或る程度大きなサイズとしておき、スピーカ駆動部22により、その範囲内でスピーカ18を移動させる。また、孔HSとして複数の孔を受音領域30に設けておき、これらのいずれかの孔から放音されるようにスピーカ18が移動させられるようにして、受音部Rの位置を変更してもよい。
【0042】
また、上記のようにスピーカ18そのものを移動させる場合において、携帯電話機10は、スピーカ18をz方向に移動させて、受音部Rの位置を変更させてもよい。この場合、支持台304をz方向に移動可能にしておき、スピーカ18をユーザの耳100に近づいたり、耳100から遠ざかったりする方向に移動させられることになる。例えば、x方向及びy方向の移動のみで周波数域foの低下量が或る値よりも大きくならない場合、受音領域30と耳100とが或る程度大きく離れており、x方向及びy方向への受音部Rの移動のみでは鼓膜130に十分に参照音が届かず、ユーザが音を明瞭に聞き取ることができないことがあると考えられる。この場合、携帯電話機10は、ユーザの耳100側のz方向にスピーカ18を移動させる。これにより、スピーカ18が耳100に近づいて、参照音は鼓膜130まで到達しやすくなる。このようにすれば、携帯電話機10は、ユーザが受音領域30からの音声をより明瞭に聞き取ることができるような受音部変更制御を行うことができる。一方で、低下量が大きければ、鼓膜130に十分すぎる音エネルギーが伝搬しているから、携帯電話機10はスピーカ18を耳100から遠ざける方向に移動させてもよい。
【0043】
(3−4)変形例4
上述した実施形態では、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切である場合の周波数特性FGは、製造段階で予めROM又は記憶部12に記憶されるものであったが、ユーザ自身がこの周波数特性を携帯電話機10に対して登録する構成としてもよい。
この場合、携帯電話機10は「登録モード」という動作モードを有し、ユーザにより登録モードとして動作することが指示されると、制御部11は、実施形態と同じようにしてスピーカ18により参照音を放音する。ユーザは受音領域30に耳を当て、参照音が聴こえやすいように、受音領域30の位置や携帯電話機10本体の姿勢を調整する。そして、ユーザは、参照音が聞こえやすいと判断すると、例えば携帯電話機10の所定の決定ボタンを押下する。制御部11は、この決定ボタンが押下されたことを示す操作信号を取得すると、そのタイミングで調整用マイクロホン20によって反射音を収音する。そして、制御部11は、この反射音を表す音信号を解析して周波数特性を求め、この周波数特性を、記憶部12に記憶(登録)しておく。そして、以降の受音部変更制御時においては、制御部11は、登録モードで登録した周波数特性と、制御時において収音した反射音の周波数特性とに基づいて、ユーザの耳穴と受音領域30との位置関係が適切であるか否かを判断する。
ユーザの耳の形状や寸法には個人差があるため、例えば位置関係が適切である場合であっても、この位置関係に応じて音圧に差が生じやすい周波数成分(周波数域)がユーザによって微妙に違うことも考えられる。これに対し、本変形例の構成によれば、ユーザ毎に、位置関係が適切な場合の周波数特性を登録することができるから、ユーザは、より高精度に受音領域30からの音声を聞き取りやすい条件で、携帯電話機10の位置や姿勢の調整動作を行うことができるようになる。
【0044】
(3−5)変形例5
上述した実施形態では、発信ボタンが押下されたときに、制御部11は受音部変更制御を開始したが、例えば、例えば制御実行を指示する所定のボタンが押下されたときであってもよいし、制御を開始する契機はどのようなものであってもよい。
また、携帯電話機10は、受音部変更制御が完了してから電話番号の発信を行っていたが、電話番号の発信中に受音部変更制御を行ってもよい。電話番号の発信時においては、携帯電話機10は、交換機へ電話番号を伝達するために、電話番号と対応したパルス信号や、DTMF(Dual Tone Multi Frequency)信号等の周波数信号を送信する。そこで、携帯電話機10はこの周波数信号を参照音として、受音部変更制御を行ってもよい。これらの信号はその周波数成分や音量は既知であるし、携帯電話機10は、通話を開始するまでの期間だけ受音部変更制御を行うから、その制御のための別の時間を確保しなくて済む。
【0045】
(3−6)変形例6
上述した実施形態では、ユーザの耳穴と携帯電話機10の受音領域30との位置関係を調整するものであったが、携帯電話機等のヘッドセットや、家庭用電話機、ヘッドフォン、トランシーバ等の受音機能を有する装置(受音装置)に本発明を適用することもできる。要するに、装置に内蔵されたスピーカによって放音される受音領域を有し、ユーザがその受音領域に耳を当てて音を聞く構成の装置であれば、上述したような受音部変更制御を行うことによって、本発明の受音装置とすることができる。
上述した実施形態では、放音手段としてのスピーカ18を、受音部変更制御と通話用とで共用していたが、これらを別々に設けてもよい。
また、上述した実施形態では、携帯電話機10の内部空間に調整用マイクロホン20を1つだけ設けていたが、複数設けるようにしてもよい。調整用マイクロホン20を複数設けるようにすれば、各マイクロホンの位置が違うから、収音した反射音の周波数特性においても各々のマイクロホンの解析結果に差異が生じる。よって、制御部11は、各マイクロホンによって収音した反射音を用いて受音部Rの移動制御を行うようにすれば、より適切な位置に受音部Rを設けることができる。
また、孔HSやHT、HMにおいてもその形状や、サイズは必要に応じて適宜変更されてもよい。また、受音部Rが移動可能であれば、孔HTや、スピーカ18を移動させるための機構は周知の種々の手法によって実現されてもよい。
また、スピーカ18や調整用マイクロホン20は、携帯電話機10に内蔵されていなくてもよく、耳100からの反射音を収音する位置に設けられていればよい。例えば、受音領域30に凹部を設けておき、そこに嵌め込まれるようにして設けられた構成であってもよい。
【0046】
(3−7)変形例7
上述した実施形態において、制御部11及び音声処理部17が実行していた受音部変更制御の一部が他のハードウェアとの協働により行われてもよいし、これ以外の1又は複数のハードウェアが行うようにしてもよい。また、音声処理部17がプログラムを実行して各機能を実行する場合、制御部11や音声処理部17によって実行されるプログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスクなど)、光記録媒体(光ディスク(CD、DVD)など)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録した状態で提供し得る。また、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】携帯電話機の外観を示した図である。
【図2】携帯電話機の構成を示すブロック図である。
【図3】調整用マイクロホンの構成を示す分解斜視図である。
【図4】携帯電話機の内部の構成を模式的に示した図である。
【図5】板状部材の構成を示した斜視図である。
【図6】受音部Rの位置の変更を説明する図である。
【図7】制御部及び音声処理部の機能を示す図である。
【図8】参照音の周波数特性、及び参照音が耳を反射した反射音の周波数特性の一例を示した図である。
【図9】耳の内部構造を模式的に表した図である。
【図10】制御部が実行する処理の手順を示したフローチャートである。
【図11】携帯電話機の内部の構成を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0048】
10…携帯電話機、100…耳、11…制御部、110…耳介、12…記憶部、120…外耳道、13…操作部、130…鼓膜、14…表示部、15…通信部、16…アンテナ、17…音声処理部、171…放音制御部、172…収音音声取得部、173…収音音声解析部、174…判断部、175…位置変更部、18…スピーカ、19…通話用マイクロホン、20…調整用マイクロホン、201,302…筐体、202…収音素子、21…駆動部、203…信号処理回路、204…上面部材、211…シリコン膜、212…背面電極、22…スピーカ駆動部、30…受音領域、301…基板、303…板状部材、304…支持台、40…送音領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放音手段と、
前記放音手段が設けられている空間と自装置の外部空間とを連通する孔と、
前記孔の位置を移動させる移動手段と、
収音手段と、
前記放音手段に所定の参照音を放音させる放音制御手段と、
前記放音手段により放音された前記参照音の反射音を前記収音手段が収音したときに、収音された当該反射音の特徴に基づき、前記ユーザの耳穴と前記孔とが所定の位置関係にあるか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記ユーザの耳穴と前記孔とが前記所定の位置関係にないと判断された場合に、前記移動手段により前記孔の位置を移動させて、その位置を変更する位置変更手段と
を備えることを特徴とする受音装置。
【請求項2】
放音手段と、
前記放音手段の位置を移動させる移動手段と、
収音手段と、
前記放音手段に所定の参照音を放音させる放音制御手段と、
前記放音手段により放音された前記参照音の反射音を前記収音手段が収音したときに、収音された当該反射音の特徴に基づき、前記ユーザの耳穴と前記放音手段とが所定の位置関係にあるか否かを判断する判断手段と、
前記判断手段によって前記ユーザの耳穴と前記放音手段とが前記所定の位置関係にないと判断された場合に、前記移動手段により前記放音手段の位置を移動させて、その位置を変更する位置変更手段と
を備えることを特徴とする受音装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記放音手段により放音される前記参照音における所定の周波数成分の音圧に対して、前記収音手段により収音される前記反射音における前記所定の周波数成分の音圧が小さく、且つその差が閾値以上である場合には、前記所定の位置関係にあると判断する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の受音装置。
【請求項4】
前記判断手段は、前記放音手段により放音される前記参照音の振幅に対して、前記収音手段が収音した前記反射音の振幅が小さく、且つその差が閾値以上である場合には、前記所定の位置関係にあると判断することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の受音装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の受音装置と、
無線による送受信を行う通信手段と、
前記収音手段とは異なる第2の収音手段と、
前記通信手段により受信した音声データに応じた音を前記放音手段に放音させ、前記第2の収音手段により収音した音に応じた音声データを前記通信手段から送信させる制御手段と
を備えることを特徴とする携帯電話機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−87890(P2010−87890A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255382(P2008−255382)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】