説明

口腔ケア用飲食品

【課題】 口腔ケアを必要とする成人、高齢者または要介護者等に対して、口腔内微生物の定着を抑制し、口腔状態を良好に保ち、QOL(Quality Of Life)の向上に寄与できるような口腔ケア用飲食品を提供する。
【解決手段】 ストレプトコッカス(Streptococcus)属レンサ球菌やカンジダ(Candida)属に属する真菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のいずれか2種以上の菌の菌体または産生タンパク質を抗原とする鶏卵抗体、そして好ましくは茶カテキンを含有することを特徴とする口腔ケア用飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔ケア用飲食品に関する。詳しくは、口腔ケアを必要とする高齢者または要介護者等に対して提供することのできる、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌、カンジダ(Candida)属に属する真菌、そして黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のいずれかの菌や産生タンパク質に吸着する鶏卵抗体と、好ましくは、茶カテキンを含有する口腔ケア用飲食品に関する。本発明により、口腔内有害微生物の定着阻害、口臭発生の予防等を有する飲食品が提供でき、特に高齢者や要介護者の口腔状態を良好に保ち、QOL(Quality Of Life)の向上に寄与できる。
【背景技術】
【0002】
口腔ケアを日常的、継続的に行うことは、口腔内有害微生物の定着の阻害、さらには口臭発生の予防といった重要な役割を持つ。口腔内には500種を超える細菌種が検出され、さらに高齢者の口腔内には肺炎起因菌と呼ばれるさまざまな細菌種が生息している。最も多く検出されるのはプラークを形成するレンサ球菌(Streptococcus属など)で、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が検出されることもある。また、歯周病菌や真菌(Candida 属ほか)等も頻繁に検出される。特に、Candida属真菌は義歯を入れると検出率、検出菌数が大きく上昇すると言われている(非特許文献1参照)。また近年の臨床研究でも、口腔ケアは誤嚥性肺炎の発症予防に役立つことが認められてきており(非特許文献2参照)、単なる清掃効果だけでなく、感染防御の面でも口腔ケアは重要な機能となっている。加えて、口の機能改善が、口から食べることにつながり、消化管機能や免疫機能の向上にも役立つと考えられる。
【0003】
口腔ケアは健常人のみならず、口腔内の汚染が進んだ成人、高齢者や要介護者にとって、特に重要である。
急激な高齢化社会を迎えた日本では、65歳以上の高齢者は2000年で2100万人に達し、2025年には3200万人にまで増加すると推定されている(例えば、非特許文献3参照)。また老齢人口の増加に伴い、介護を必要とする要介護者数も増加しており、厚生労働省の平成17年3月分介護保険事業状況報告によれば、要介護者数は約400万人に達している(非特許文献4参照)。
このような高齢者や要介護者にとって、摂食、会話、呼吸機能の維持、増進を目的に口腔疾患予防と口腔由来の呼吸器疾患予防及び口腔機能リハビリを施すことにより生きがいのある長寿を支援すること、すなわち口腔ケアを日常的、継続的に行うことは口臭予防や日和見感染症の予防、さらには歯周病の予防といった重要な役割を持つ。要介護者のプラーク中の微生物叢を分析した報告では、レンサ球菌(約83%)やカンジダ(Candida)属真菌(約61%)が高頻度に検出されている(非特許文献5参照)。さらには、施設入所高齢者の口腔内プラークや舌の微生物を検査した報告では、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)は高齢者の約40%に検出され、しかも、自立高齢者に比べて寝たきり高齢者では、カンジダ(Candida)属真菌の検出頻度が高まると言われている(例えば、非特許文献6参照)。したがって、特に、高齢者等においては、若年者以上にこれら口腔内微生物を除去する口腔ケアが必要である。
【0004】
しかしながら、従来の口腔ケアとは、機械的・化学的清掃によって行われており、ブラッシングや歯磨き等による洗浄や洗口液等による口腔内洗浄等を意味し、食品を用いて口腔内微生物の定着を防止することで口腔ケアを達成するとの発想は少なかった。
ある種の食品または食品成分が、歯周病予防あるいはう蝕予防、口臭予防に利用された例としては、例えば、ラクトフェリンがう蝕を予防すること(例えば、特許文献1参照)やラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、ポリフェノール等を含有する低う蝕性栄養組成物(例えば、特許文献2参照)が開示されている。あるいは、紅茶から抽出したプラーク形成阻害剤(例えば、特許文献3参照)や、茶から抽出したカテキン類によるう蝕菌増殖抑制(例えば、特許文献4参照)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)菌体に対する抗体とポリフェノールを同時に含有する抗う蝕組成物(例えば、特許文献5参照)が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記の食品成分は比較的健康な成人や児童、乳幼児を主たる対象としたう食予防に関するものであり、本発明のように、高齢者や要介護者に多く見られる、舌苔を形成するカンジダ(Candida)属に属する真菌や日和見感染菌を制御するものではない。口腔内の汚染が極度に進んだ高齢者及び要介護者に対しては、う蝕や口臭の予防だけでなく、日和見感染菌等の口腔内微生物の定着を抑え、舌苔形成をも予防することが必要であり、このような口腔ケアに関する飲食品は未だ明らかにされていない。さらには、口腔内微生物を制御することで誤嚥によって生じる肺炎等の感染症を予防することが可能となるような口腔ケアに関する食品も未だ明らかにされていない。
【特許文献1】特許第2673320号公報
【特許文献2】特許第3396069号公報
【特許文献3】特許第3465039号公報
【特許文献4】特公平04-027204号公報
【特許文献5】特許第1948510号公報
【非特許文献1】Geriatric Medicine、Vol.42、No.3、287、2004
【非特許文献2】日歯医学会誌、20、58、2001
【非特許文献3】食品工業、Vol.44、No.21、2001
【非特許文献4】介護保険事業状況報告(H17年3月分、厚生労働省)
【非特許文献5】老年歯学、17、337、2003
【非特許文献6】Bacterial Adherence研究、Vol.14(21〜26)、2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、口腔ケアを必要とする高齢者または要介護者等に対して、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌、カンジダ(Candida)属に属する真菌、または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの口腔内微生物の定着を抑制し、口腔状態を良好に保ち、QOL(Quality Of Life)の向上に寄与できるような口腔ケア用飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような状況に鑑み、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌の産生タンパク質、カンジダ(Candida)属に属する真菌の菌体、または黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌体を抗原とする鶏卵抗体を含有する卵粉末と、緑茶由来の茶カテキンを同時に口腔ケア用飲食品に含有させることにより、それぞれ単独で用いるよりも効果的に口腔内微生物の定着、口臭発生を抑制することを見出した。さらには、とろみ剤を含有させて粘度を上げることにより口腔内での滞留性が向上し、口腔内微生物に対する定着抑制効果が増強される現象を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の口腔ケア用飲食品は、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌、カンジダ(Candida)属に属する真菌、そして黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のいずれか2種以上の菌の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を含有することを特徴とする。
本発明によれば、レンサ球菌やカンジダ属に属する真菌、黄色ブドウ球菌など口腔ケア上問題となる口腔内微生物の定着を抑制することができる。
【0009】
また、本発明の口腔ケア用飲食品においては、前記特異抗体が前記抗原を免疫したニワトリの卵から得られるポリクローナル抗体であることが好ましい。
ニワトリの卵由来ポリクローナル抗体を用いることにより、食品素材として安心・安全で、大量生産でき、しかも低コストの特異抗体含有飲食品を提供することが出来る。
【0010】
また、本発明の口腔ケア用飲食品においては、とろみ剤またはゲル化剤を加えることによって飲食用時の粘度が500mPa・s以上もしくはゲル強度が500N/m2以下となることが好ましい。
とろみ剤やゲル化剤を加えることにより、特異抗体やカテキンの口腔内滞留時間を長くして、これらの成分の効果を高めることが出来る。
【0011】
そして、本発明の口腔ケア用飲食品に、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を含有させるための食品素材として、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の菌体またはグルコシルトランスフェラーゼを抗原として免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末が好ましく、この卵粉末の飲食品中の含有量は0.1〜50重量%が好ましい。
【0012】
さらに、本発明の口腔ケア用飲食品に、カンジダ(Candida)属に属する真菌の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を含有させるための食品素材として、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌体または産生タンパク質を抗原として免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末が好ましく、この卵粉末の飲食品中の含有量は0.1〜50重量%が好ましい。
【0013】
さらに、本発明の口腔ケア用飲食品に、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を含有させるための食品素材として、この抗原を免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末が好ましく、この卵粉末の飲食品中の含有量は0.1〜50重量%が好ましい。
【0014】
さらに、本発明の口腔ケア用飲食品においては、茶カテキンを含有することが好ましい。
茶カテキンを含有することにより、タンパク相互作用などによる抗体の非特異的吸着を抑え、口腔内微生物に対する特異抗体の効果を高めることが出来る。そして、本発明の口腔ケア用飲食品中の茶カテキンの含有量は0.1〜50重量%が好ましい。
【0015】
さらに、本発明の口腔ケア用飲食品は、口腔ケアを必要とする口腔内の汚染が進んだ成人、高齢者及び要介護者向けとして特に好ましい。本発明によれば、レンサ球菌やカンジダ属に属する真菌、黄色ブドウ球菌など口腔ケア上問題となる口腔内微生物の定着を、より効果的に抑制することができ、食品素材として安心・安全で購入しやすい、高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明におけるストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌、カンジダ(Candida)属に属する真菌、そして黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のいずれか2種以上の菌の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を含有する口腔ケア用飲食品は、口腔ケアを必要とする高齢者、要介護者等に対して、口腔内微生物の定着阻害作用、口臭発生の予防作用を持つ。さらには、特異抗体と茶カテキンを併用すること、そしてとろみ剤やゲル化剤を加えることで、その効果は格段に高まる。このような特徴は、従来に報告されていないもので、本発明特有のものであり、高齢者、要介護者の口腔衛生上きわめて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の口腔ケア用飲食品は、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌、カンジダ(Candida)属に属する真菌、そして黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のいずれか2種以上の菌の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を有効成分として含有する。
【0018】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌には、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans) のほか、ストレプトコッカス・クリセタス(S. cricetus)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(S. sobrinus)、ストレプトコッカス・フェラス(S. ferus)等が挙げられる。中でも、本発明に用いる特異抗体作成のための抗原としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)の菌体または産生タンパク質が好ましい。本抗体はストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)等のレンサ球菌によるプラーク形成も阻害する。
【0019】
上記抗原として、例えばストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)のグルコシルトランスフェラーゼは以下のような方法によって調製できる。
まず、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)をブレインハートインフュージョン培地(BHI培地)等の適当な培地で培養し、培養上清からグルコシルトランスフェラーゼを精製する。本精製方法には特別な工程は必要ないが、例えば、特開平1-242584(特許第2666214号)記載の方法等が採用できる。また菌体培養上清や精製標品等を用いることも可能である。
特開平1-265010に開示されているようなストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)全菌体に対する抗体の利用は、心筋とのクロスリアクトの問題があり、グルコシルトランスフェラーゼを用いることがより好ましい(Dental Diamond 2002(7)、p.50参照)。
【0020】
カンジダ(Candida)属に属する真菌には、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)のほか、カンジダ・グラブラタ(C. grabrata)、 カンジダ・クルセイ(C.krusei)などが挙げられる。中でも、本発明に用いる特異抗体作成のための抗原としては、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)の菌体または産生タンパク質が好ましい。
抗原として用いるカンジダ・アルビカンス(C. albicans)の菌体や細胞壁マンナンは、以下のようにして調製することが可能である。例えば、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)M−1012株(serotype A)をサボウラウド・デキストロース液体培地(Sabouraud Dextrose broth:Difco Laboratories社)で27℃、24時間好気培養し、得られた培養菌体を10mMリン酸緩衝液で2度洗浄し、遠心分離(1000×g、4℃、10分間)によって集菌した。この菌体を脱イオン水で遠心法によって3回洗浄後、100℃2時間熱処理を行い、菌を2×108個/mlの濃度に調整した。
【0021】
他方、菌細胞壁マンナンの抽出は次の操作で行う。熱処理した菌体を遠心分離によって集め、菌体体積の5倍量の2%水酸化カリウム溶液に懸濁させることによってマンナンを抽出し、銅錯塩にして精製した。
抗原として用いるカンジダ・アルビカンス(C. albicans)の産生タンパク質として、外膜に存在するアドヘシンのALS1pやMPA、Hwp1等のヒト細胞接着タンパク質や定着因子タンパク質、または細胞内成分であるエノラーゼ(enolase)、HSP90 (heat shock protein 90)、ホスホグリセレートキナーゼ(phosphoglycerate kinase)、アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase )、SAP2等のプロテアーゼ等が挙げられる。これらの産生タンパク質の調製方法として、例えば、外膜タンパク質ALS1pはラウセオ(Rauceo)らの方法(Rauceo J.M., Gaur N.K., Lee K.G., Edwards J.E., Klotz S.A., Lipke P.N.)で培養し、精製することもできる。
【0022】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)には、通常の食品汚染で問題となる株のほか、抗生物質耐性をもつMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),VRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)など様々な株が知られている。本発明に用いる特異抗体作成のための抗原としては、Staphylococcus aureusのNBRCの3060株、3761株、12712株、13276株、14462株、100910株、そしてMRSA、VRSA等の菌体または産生タンパク質を用いることができる。
抗原として用いる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌体は、以下のようにして調製することが可能である。例えば、Staphylococcus aureusをPEA(phenyl ethyl alcohol)血液寒天培地にて37℃48時間培養後、得られた培養菌体を10mMリン酸緩衝液で2度洗浄し遠心分離(1000×g、4℃、10分間)によって集菌した。この菌体を脱イオン水で遠心法によって3回洗浄後、100℃、2時間熱処理を行い、菌を死滅させた後、遠心分離(1000×g、4℃、10分間)により菌体を得ることが出来る。
【0023】
抗原として用いる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の産生タンパク質として、プロテインA、タイコ酸、フィブロネクチン結合因子等の病原因子やエンテロトキシン、TSST−1、ヘモリジン、表皮剥脱毒素、ロイコシジン等の毒素因子、コアグラーゼ、クランビング因子、スタフィロキナーゼ、RNase、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素群等が挙げられる。これらの産生タンパク質の調製方法として、例えばフィブロネクチン結合因子は、フエスカらの方法(Huesca M, Sun Q, Peralta R, Shivji GM, Sauder DN, Mcgavin MJ., Infect Immun.2000 Mar;68(3):1156-63)を用いて培養、精製することも出来る。
【0024】
本発明における特異的抗体は、モノクローナル抗体や、ウシ、羊、ヤギ等の畜産動物の乳から得られるポリクローナル抗体も用いることが出来るが、食品素材としての安全性や効率的な生産性等の観点からみて、前記菌体や産生タンパク質を抗原として免疫したニワトリの卵から得られるポリクローナル抗体であることが好ましい。
【0025】
免疫されるニワトリとしては、特に制限はないが、抗体の量産性等の点からは、白色レグホン系、ロードアイランドレッド系、横斑プリマスロック系、ニューハンプシャー系等の卵用種を用いるのが特に好ましい。
免疫方法としては、皮下注射、筋肉注射、腹腔内投与等、ニワトリを免疫することのできる方法であれば特に制限はなく、例えばProduction and Characterization of Anti-human Insulin Antibodies in the Hen's Egg(Agric.Biol.Chem.,55(8).2141-2143.1991)に記載された方法等を採用できる。
抗原の投与量は所望の抗体価が得られ、かつニワトリに対して悪影響を与えない程度の量を適宜選択すればよい。
【0026】
また、本発明において、複数の抗原を用いることが出来るが、抗原を1つずつ別々に免疫しても、1度に混ぜて免疫しても良い。混ぜた方が簡便である。一方、別々に免疫して、それぞれの特異抗体を含有する各卵粉末を混ぜた方が高い抗体力価となることもある。
通常、初回免疫後、毎週1回で3〜5回程度くり返し投与すると、本発明の抗原に特異的に反応する抗体が鶏卵中等に得られる。
その後、抗体価の維持を目的として1〜4カ月毎に追加免疫すると良い。
また、必要に応じてFCA(フロイント完全アジュバント)、FIA(フロイント不完全アジュバント)等のアジュバントを併用して免疫しても良い。
このようにして通常、初回免疫から1カ月以上経過すると、鶏卵中等から十分な抗体価を有する抗体を調製することができる。
【0027】
また、抗原を免疫されたニワトリが生産した卵からポリクローナル抗体を調製する方法としては、例えば、卵から卵黄液を分離し、得られた卵黄液をスプレードライ法や凍結乾燥法などにより粉末化した後、その粉末をエタノールによって脱脂した粉末中から緩衝液を用いて抽出することにより調製できる。なお、上記免疫卵をそのまま血糖値改善及び肥満改善のための組成物として用いることもできる。また、この他に、例えば、デキストラン硫酸やポリエチレングリコール(PEG)、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸誘導体等を用いてリポタンパク質を沈澱させ、その上清から分離、精製する方法(Journal of Immunological Methods,46,63−68,1981/Immunological Communication,9(5),475−493,1980、特開昭63−215699号公報、特開昭64−38098号公報)を用いることも出来る。
【0028】
さらに、本発明におけるポリクローナル抗体は、前記のような粉末化処理、脱脂処理、抽出処理、分離処理を経た後、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過、硫酸ナトリウム塩析、塩酸アンモニウム塩析等の公知のタンパク質精製方法により精製することもできる。
【0029】
そして、本発明の口腔ケア用飲食品に、上記のような口腔内微生物の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を含有させるための食品素材として、上記抗原を上記のようにニワトリに免疫して得られる卵から調製したポリクローナル抗体を用いてもよいが、このようなポリクローナルを含有する卵から調製される卵粉末をそのまま用いても良い。
前記卵粉末とは、通常の鶏卵加工で製造される全卵粉末、卵黄粉末、脱脂全卵粉末又は脱脂卵黄粉末を指し、中でも脱脂全卵粉末又は脱脂卵黄粉末が好ましく用いられる。これらの加工粉末は上記抗原を上記のようにニワトリに免疫して得られる卵を割卵し、上記全卵粉末ならば全卵を、上記卵黄粉末ならば卵黄部分のみを噴霧乾燥あるいは凍結乾燥することにより得ることができる。上記脱脂全卵粉末は全卵粉末をエタノール、ヘキサン等の有機溶媒で脱脂し、減圧乾燥等の乾燥工程を経ることで得ることができ、上記脱脂卵黄粉末も卵黄粉末を有機溶媒で脱脂し、減圧乾燥等で乾燥して得ることができる。また、上記脱脂全卵粉末又は脱脂卵黄粉末から水抽出して得られる水溶性画分から得られる粉末を用いることもできる。このような水溶性画分からは、例えば、脱脂卵黄にその質量の5〜10倍量の水を加えて撹拌した後、濾過して得られる濾液を濃縮後、噴霧乾燥又は凍結乾燥して粉末を得ることができる。
そして、上記のような特異抗体を含有する卵粉末として、商品名「オーバルゲンDC」(株式会社ゲン・コーポレーション)等の市販品を用いても良い。
【0030】
本発明の口腔ケア用飲食品においては、上記口腔内微生物の菌体または産生タンパク質を抗原として免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末を、粉末スティック、キャンディー、チュアブル、トローチ等の固形食品では1〜50重量%、ヨーグルト、ゼリー、粘性を持つ流動食等のゲル状または液状食品では0.1〜10重量%含有することが望ましい。また1日あたり10〜1000mgの上記卵粉末を摂取することが望ましく、また、本摂取量以上配合しても、摂取量に見合うだけの効果が発現せず、コストの面でも不利になる。
【0031】
本発明の口腔ケア用飲食品は、上記特異抗体を含有させるだけでも効果があるが、茶カテキンを有効成分として含有させることにより、さらに効果が向上する。本発明で用いられる茶カテキンは分離精製して得ることができる。上記茶カテキンとは、茶に含まれるポリフェノールの1種の総称であり、緑茶から公知の方法によって得ることができる(特開昭59-219384号公報、特開昭60-13780号公報、特開昭61-130285号公報等に記載の方法)。また、緑茶を熱水で抽出して得られた抽出物を、酢酸エチル等の有機溶媒で分画することにより、エピガロカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、カテキンガレート、エピガロカテキン、ガロカテキン、エピカテキン、(+)カテキン等を得ることができ、少なくとも一種以上が好ましく例示でき、特にエピガロカテキンガレートが好ましく例示できる。他にも例えば、イオン交換クロマトグラフィー等の方法によって更に分画精製することによっても、エピガロカテキンガレートを得ることができる。また、商品名「PF−TP−90」(株式会社ファーマフーズ)等の市販の茶カテキンを用いることもできる。
【0032】
本発明のカテキンを有効成分として含有する口腔ケア用飲食品中の上記卵粉末を粉末スティック、キャンディー、チュアブル、トローチ等の固形食では1〜50重量%、ヨーグルト、ゼリー、粘性を持つ流動食等のゲル状または液状食品では0.1〜10重量%含有することが望ましい。また1日あたり10〜1000mgの上記卵粉末を摂取することが望ましく、また、本摂取量以上では、摂取量に見合うだけの効果が発現せず、コストの面でも不利になる。
【0033】
本発明の口腔ケア用飲食品は、とろみ剤またはゲル化剤を加えることによって飲食時の粘度が500mPa・s以上もしくはゲル強度が500N/m2以下となることが好ましい。即ち、高齢者にとって、舌や歯茎でつぶせる形態あるいは既につぶれた形態の食品が好ましく、また嚥下時にむせたり誤嚥しにくい形態、すなわち粘性を持つとろみ剤を含有する形態やゲル化剤を含有するゼリー状の形態であることが好ましい。
本発明に用いることのできるとろみ剤またはゲル化剤として、アラビアガム、大豆多糖類、グアーガム、ローカストビーンガム、タラガム、キサンタンガム、タマリンドガム、プルラン、トラガントガム、カラヤガム、アゾトバクタービネランジガム、ジェランガム、ファーセレラン、カードラン、カシアガム、グルコマンナン、ペクチン、寒天、メチルセルロース、CMCナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の増粘多糖類が挙げられる。またデンプンやデキストリン、その酵素分解物類、アラビアガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガムのようなガム類およびそれら混合物も用いる事ができる。
【0034】
本発明の組成物を食品に利用する場合、食品の種類は特に限定されない。例えば、ヨーグルトやゼリー状の食品は好適に用いられる。抗体の特性上、水溶液では活性の低下が速いので、粉末状に加工して、摂取時にとろみ剤を加えたり、ゼリー化剤等を加えたりすることは可能である。また、キャンディーやチュアブル、トローチ状の形態に加工することも可能である。
【0035】
以下、実施例および試験例で本発明を説明する。
【実施例1】
【0036】
(抗原の調製)
カンジダ・アルビカンス(C. albicans)をサボウラウド・デキストロース寒天培地(Sabouraud Dextrose Agar:2% glucose, 1% polypepton, 1.5% Bacto agar :Difco Laboratories社)で35℃、24時間好気培養し、得られた培養菌体を生理食塩水で2度洗浄した。次に、洗浄菌体を生理食塩水に懸濁した菌体懸濁液を、35℃で1時間撹拌処理した。その後、この菌体懸濁液を粗精製(免疫抗原)標品とした。
該標品のタンパク質濃度及びタンパク質全量をCBB−G法[Branford,M.M.,Anal.Biochem.,72,248(1976)]により測定したところ、タンパク質濃度が9.7mg/ml、タンパク質全量が231mgであった。
【0037】
本発明の抗原として用いられる、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)由来のグルコシルトランスフェラーゼは、以下の方法で調製された抗原を用いることができる。血清型がc、e、f型であるストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)を適当な培地で培養し、得られた菌体を集菌した後、尿素溶液、グアニジン塩酸溶液等を用いる方法で菌体に結合しているグルコシルトランスフェラーゼ を抽出し、これを粗精製(免疫抗原)標品とした。該標品のタンパク質濃度及びタンパク質全量をCBB−G法[Branford,M.M.,Anal.Biochem.,72,248(1976)]により測定したところ、タンパク質濃度が5.9mg/ml、タンパク質全量が189mgであった。
【0038】
また本発明で抗原として用いられる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のフィブロネクチン結合因子は、以下のようにして調製した。
Staphylococcus aureus 34の菌体をブレインハートインフュージョン培地(Brain heart infusion broth:Difco Laboratories社))にて培養しフエスカ(Huesca)らの方法(Huesca M, Sun Q., Peralta R., Shivji G.M., Sauder D.N., Mcgavin M.J.,Infect Immun. 2000 Mar;68(3):1156-63)を用いてフィブロネクチン結合因子の抽出を行い、これを粗精製(免疫抗原)標品とした。該標品のタンパク質濃度及びタンパク質全量をCBB−G法[Branford,M.M.,Anal.Biochem.,72,248(1976)]により測定したところ、タンパク質濃度が4.9mg/ml、タンパク質全量が112mgであった。
【実施例2】
【0039】
(鶏卵抗体の調製)
実施例1で得た各抗原0.5ml(CBB−G法で測定した場合の1mgタンパク質量を含む)とFCA(フロイント完全アジュバント)0.05mlを1:1の割合で混合してW/O型のエマルジョンとした。得られたエマルジョンをニワトリの左右の胸筋に0.5mlずつ注射し、初回免疫を行なった後、下記の方法に従って、採取した卵から得たWSF(後述)の抗体価を測定し、その推移を観察した。
【0040】
(1)抗体価測定用WSFの調製;
卵から分離した卵黄とこれと同容量のPBS(リン酸緩衝液、pH7.4)を混合し、得られた混合溶液に更にPBSの2倍容量に相当する量のクロロホルムを加えてこれをよく撹拌した。撹拌終了後、混合液を室温下で30分間放置した後、これを3,000rpm、20分間の遠心分離にかけ、最上層の透明画分を回収し、抗体含有画分(Water Soluble Fraction、WSF)とした。
【0041】
(2)抗体価の測定方法;
抗体価の測定は、ELISAによって行なった。まず、実施例1で得た粗精製免疫抗原標品をタンパク質濃度が1.25μg/mlとなるように溶解させて得られた溶液を、96穴プレート[イムロン(Immulon)2、ダイナテック社]の各ウエルに100μLずつ入れ、4℃で一晩放置し、該画分に含まれる精製抗原をプレートに吸着させた。次に、プレートをPBS‐T[0.05%Tween‐20含有PBS(pH7.4)]で5回洗浄した。洗浄終了後、プレートに3%BSA(牛血清アルブミン)を含むPBS(pH7.4)と37℃で1時間接触させて、ブロッキングを行なった後、PBS‐Tでプレートを5回洗浄した。ここで、先に得たWSFのPBS‐Tによる2段階希釈液の100μLを各ウエルに加え、37℃、1時間で反応を行なわせた。反応終了後、プレートをPBS‐Tで5回洗浄し、更に、プレートに2次抗体 としてのペルオキシダーゼ結合抗ニワトリIgG抗体 (タンパク質量1.67μg/ml)の100μLを各ウエルに加え、25℃で30分間反応させた後、PBS‐Tで5回洗浄した。次に、プレートの各ウエルに0.2Mリン酸2ナトリウム−0.1Mクエン酸緩衝液(pH5.0)50mlに、基質であるフェニレンジアミン20mg及び過酸化水素10μLを溶解した溶液を100μL加え、25℃で20分間反応させた。反応停止は3N硫酸溶液を100μL加えることで行なった。反応終了後、各ウエルの吸光度(OD492)を測定することによって抗体価を測定した。抗体価はエンドポイントタイター法により求め、吸光度が0.2となる希釈倍率とした。
次に、初回免疫後8週後に卵黄中の抗体価が下がり始めたのを確認して、前回と同様にして2次免疫を行なった。2次免疫終了後約1カ月経過後に採卵し、上述の方法により抗体価を求めた。その結果、初回免疫から12週(2次免疫から4週)経過後に8.4×103の抗体価を有するWSFが得られた。
【0042】
(3)上記抗体を含有する脱脂卵黄粉末の精製法
実施例1で得られたストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)由来のグルコシルトランスフェラーゼ、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)由来の全菌体および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のフィブロネクチン結合因子を抗原として上記(実施例2冒頭)のように免疫したニワトリの卵から脱脂卵黄粉末を以下の方法を用いてそれぞれ調製した。上記抗体を含有した卵を割卵し卵黄部のみを抽出した。この卵黄1000gに水を1000g加えて噴霧乾燥機により粉末化し、卵黄粉末500gを得た。次に脱脂工程として、先に得られた卵黄粉末500gにヘキサン2500gを加え、30分間強攪拌した。上記溶液をろ過し、沈殿物、すなわち脱脂卵黄物を回収した。以下、上記脱脂工程を合計3度行い、得られた沈殿物を減圧乾燥し上記各抗原[ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)由来のグルコシルトランスフェラーゼ、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)由来の全菌体および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のフィブロネクチン結合因子]に対する抗体を含有する各脱脂卵黄粉末を、それぞれ240〜250g得た。
【0043】
(4)上記抗体を含有する鶏卵抗体粉末の精製法
上記実施例2(3)と同様の方法で得られた上記各抗原[ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)由来のグルコシルトランスフェラーゼ、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)由来の全菌体および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のフィブロネクチン結合因子]に対する抗体を含有する各脱脂卵黄粉末から鶏卵抗体粉末を以下の方法を用いてそれぞれ精製した。上記脱脂卵黄粉末200gに2000gの水を加えて撹拌した後、濾過して得られた濾液、すなわち抗体含有画分(Water Soluble Fraction、WSF)を得た。次に上記WSFを硫安塩析法により精製して10mMリン酸緩衝液で透析後凍結乾燥し、鶏卵抗体含有粉末を回収した。この粉末を上記タンパク質量測定法[CBB−G法: Branford,M.M.,Anal.Biochem.,72,248(1976)]およびゲル濾過測定法で分析したところ、得られた粉末は鶏卵抗体を90%含有しており、本精製により上記脱脂卵黄粉末から上記鶏卵抗体含有粉末約6gを得ることができた。
【実施例3】
【0044】
(高齢者向け粉乳の製造)
脱脂乳100kgに、乳清蛋白質濃縮物(WPC)4kg及び乳糖4.5kgを添加溶解し、さらに所定のアルカリ溶液で溶解した酸カゼイン0.4kgを加えた。これに、水溶性ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンC、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン等)及びミネラル成分(炭酸カルシウム、硫酸鉄、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸銅等)1.0kgを添加溶解し、さらに脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)を添加溶解した調製脂肪15kgを混合して均質化した。得られた溶液を殺菌し、常法により濃縮、乾燥後原末約50kgを得た。
【0045】
一方、実施例2(3)と同様の方法で得られた各抗原[ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)由来のグルコシルトランスフェラーゼ、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)由来の全菌体および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のフィブロネクチン結合因子]に対する抗体を含有する各脱脂卵黄粉末各1000g(計3000g)とカテキン500gおよび上述乾燥原末を粉々混合し、本発明の高齢者用粉乳50kgを得た。
本調製粉乳を13%調乳濃度で1日当たり500〜1000ml飲用すると、上記鶏卵抗体を含有する各脱脂卵黄粉末を1.3〜2.6g、カテキンを0.65〜1.3g摂取できる。
【実施例4】
【0046】
(ゼリーの製造)
実施例2(3)と同様の方法で得られたカンジダ・アルビカンス(C. albicans)菌体に対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、および黄色ブドウ球菌由来のフィブロネクチン結合因子に対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、ゼラチン5g、スクロース10gの混合粉末を水200ccに溶かし、60℃に加熱、再度混ぜた後、4℃、30分間冷やして本発明のゼリーを製造した。
【実施例5】
【0047】
(トローチの製造)
メントール100mg、還元麦芽糖4.5g、タルク50mg、ステアリン酸マグネシウム100mg、抗体含有脱脂卵黄粉末200mg(グルコシルトランスフェラーゼに対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末100mg、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)菌体に対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末100mg)、茶カテキン(PF-TP-90、株式会社ファーマフーズ)100mgの割合で含有する原料混合物を打錠して本発明のトローチ(約5g/1錠)を製造した。
【実施例6】
【0048】
(とろみ剤入り粉末スティックの製造)
実施例2(3)と同様の方法で得られたグルコシルトランスフェラーゼに対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)菌体に対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、茶カテキン(PF-TP-90、株式会社ファーマフーズ)500mg、デキストリン0.5g、λ-カラギーナン0.25gの割合で含有する原料混合物(とろみ剤入り粉末A)と、グルコシルトランスフェラーゼに対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)菌体に対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、茶カテキン(PF-TP-90、株式会社ファーマフーズ)500mg、デキストリン0.5g、λ-カラギーナン2.0gの割合で含有する原料混合物(とろみ剤入り粉末B)、およびグルコシルトランスフェラーゼに対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)菌体に対する抗体を含有する脱脂卵黄粉末500mg、茶カテキン(PF-TP-90、株式会社ファーマフーズ)500mgの割合で含有する原料混合物(とろみ剤なし粉末C)を製造した。
前記とろみ剤入り粉末Aあるいはとろみ剤入り粉末Bを水100ccに溶かした場合、B型粘度計により粘度を測定すると、とろみ剤入り粉末Aは粘度280mPa・s、とろみ剤入り粉末Bは粘度2000mPa・sをそれぞれ示した。
【0049】
[試験例1]
(カンジダ・アルビカンス(C. albicans)抗体とカテキンによるカンジダ・アルビカンス(C. albicans)接着抑制試験)
カンジダ・アルビカンス(C. albicans)の接着因子(アミノ酸配列KLRIPSV, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, Nov. 2004, p. 4337-4341)で表面をコーティングした直径90μmのポリエチレングリコールビーズ(PEGビーズ)を作製し、各種溶液におけるカンジダ・アルビカンス(C. albicans)の接着度を測定した。
PEGビーズをTEバッファー(10mM Tris-HCL, 1mM EDTA, pH7.0)を用いて1,000ビーズ/mLのビーズ溶液を作製し、6ウエル-培養トレイに1mLずつ分注した。これに1010CFU/mL カンジダ・アルビカンス(C. albicans)菌体溶液、上記実施例2(4)と同様の方法で得られたカンジダ・アルビカンス(C. albicans)に対する抗体および茶カテキンを表1に示された最終濃度になるように調製し、6ウエル-培養トレイに加えた。トレイを30分間振とう培養しPBSにて洗浄後、顕微鏡下にてカンジダ・アルビカンス(C. albicans)の接着数を測定した。結果を表1に示す。
結果から明らかなように、カテキンを配合せずに特異抗体単独でもカンジダ・アルビカンス(C. albicans)の接着抑制効果が見られるが、茶カテキンを有効成分として含有させることにより、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)の接着抑制効果がさらに向上する。
【0050】
【表1】

*顕微鏡下にて観察されたカンジダ・アルビカンス(C. albicans)菌体数/ビ ーズ。同サンプルを10回測定した結果である。
【0051】
[試験例2]
(プラーク形成率の比較試験)
上記実施例2(4)と同様の方法で得られた抗体と茶カテキンのプラーク形成阻害活性を調べた。試験はブレインハートインフュージョン培地(1%蔗糖含有)に所定の濃度になるように各サンプルを添加し、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)をシャーレ内で培養した。培養液には、あらかじめカバーグラスを加えておき、37℃で24時間培養後にカバーグラス表面に付着したプラークの面積を画像解析装置にて計測した。サンプル無添加のプラーク形成率を100%とし、各サンプルのプラーク面積から形成率を算出した。結果を表2に示す。
結果から明らかなように、カテキンを配合せずに特異抗体単独でもプラーク形成率は低下したが、グルコシルトランスフェラーゼに対する抗体と茶カテキンが共存することで、プラーク形成率は顕著に低下した。
【0052】
【表2】

【0053】
[試験例3]
(ラットを用いたカンジダ・アルビカンス(C. albicans)定着抑制効果確認試験)
3週齢のWistar系雄ラット(体重50〜70g)を10匹ずつ8群に分け、カゼイン20%、セルロース8%、大豆油6%、AIN−76ミネラル混合物3.5%、AIN-76ビタミン混合物1.0%、残りを全量蔗糖に置換した餌を摂取させた。摂取開始後、1週間目からストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)とカンジ ダ・アルビカンス(C. albicans)の生菌混合物を口腔内に5日間(1回/日)接種した。接種終了後から、蒸留水に上記実施例2(4)と同様の方法で得られたストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)由来のグルコシルトランスフェラーゼおよびカンジダ・アルビカンス(C. albicans)全菌体に対する抗体と茶カテキン(PF-TP-90、株式会社ファーマフーズ)を溶解添加し、飲用水としてラットに抗体とカテキンを摂取させた。飲用水中の濃度は、ラットの1日あたりの抗体とカテキンの摂取量を1mg/日から1000mg/日になるよ うに調整した(摂取量に満たない場合は、口腔内を洗うように強制的に投与した)。群1は抗体およびカテキンを摂取しない群、群2〜6は抗体とカテキンの摂取量を変化させた群、群7,8は抗体のみを摂取した群とした。2ヶ月間摂取させた後にラットのプラークを無菌綿棒で採取して、カンジダ・アルビカンス(C. albicans)をカンジダGE培地(日水製薬)にて培養し、検出率からカンジダ・アルビカンス(C. albicans)の定着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
この結果から明らかなように各抗体を約1〜1000mg/日、茶カテキンを1〜1000mg/日で摂取することでカンジダ・アルビカンス(C. albicans)の検出率が低下した。また、群7、8に示すようにグルコシルトランスフェラーゼおよびカンジダ・アルビカンス(C. albicans)抗体のみを摂取した場合もカンジダ・アルビカンスの検出率は低下した。
【0054】
【表3】

【0055】
[試験例4]
(抗体および茶カテキン含有トローチ投与試験)
65歳以上の高齢者ボランティア30名を3群にわけ、上記実施例5で製造した抗体および茶カテキン含有トローチと抗体のみを含有するトローチ、両者を含まないトローチを1日3回、食後に摂取させ、2週間後に検体採取用の滅菌済み綿棒を用いて舌背部から口腔内微生物を採取し、所定の培地を用いて培養した。総菌数はBHI血液寒天培地にて嫌気的に、レンサ球菌はミティスサリヴァリウス培地(Difco Laboratories社)で嫌気的に、カンジダ属はカンジダGE培地(日水製薬)で、ブドウ球菌はマンニット食塩培地(栄研)で37℃、48時間培養した。同時に呼気中の硫化物濃度を分析し、1.口臭なし、2.かすかに口臭あり、3.口臭あり、4.明らかに口臭ありの4段階評価を行った(ブレストロン利用、新コスモス電機)。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【0057】
結果から明らかなように、抗体を含有するトローチを摂取した高齢者で口腔内微生物が減少し、さらにカテキンと特異抗体を含有するトローチを摂取した高齢者で口腔内微生物がさらに減少し、口臭の原因とされる硫化物濃度も少なくなった。
【0058】
[試験例5]
(とろみ剤投与による効果試験)
65歳以上の高齢者ボランティア51名を3群に分け、上記実施例6で製造したとろみ調整剤入り粉末A、B、とろみ調整剤なし粉末Cをそれぞれ100ccの水で溶いたとろみ液A、とろみ液B、とろみ無し液Cをそれぞれ1日2回食後に摂取させ、2週間後に検体採取用の滅菌済み綿棒を用いて舌背部から口腔内微生物を採取し、所定の培地を用いて培養した。総菌数はBHI血液寒天培地(Difco Laboratories社)にて嫌気的に、レンサ球菌はミティスサリヴァリウス培地(Difco Laboratories社)で嫌気的に、カンジダはカンジダGE培地(日水製薬)で、ブドウ球菌はマンニット食塩培地(栄研)で37℃、48時間培養した。同時に呼気中の硫化物濃度を分析し、1.口臭なし、2.かすかに口臭あり、3.口臭あり、4.明らかに口臭ありの4段階評価を行った(ブレストロン利用、新コスモス電機)。結果を表5に示す。
この結果から、とろみ剤Bを添加した特異抗体とカテキンを含有する粉末を水100ccに溶かして飲用した高齢者の口腔内微生物は他の剤型に比べ減少していた。また口臭の原因とされる硫化物濃度も少なくなった。
【0059】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の口腔ケア用飲食品は、口腔内微生物の定着阻害、口臭発生の予防等によって、高齢者や要介護者の口腔状態を良好に保ち、QOL(Quality Of Life)の向上に寄与できるため、介護の現場で広く利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属するレンサ球菌、カンジダ(Candida)属に属する真菌、そして黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のいずれか2種以上の菌の菌体または産生タンパク質を抗原とする特異抗体を含有することを特徴とする高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項2】
特異抗体がニワトリの卵から得られるポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項1記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項3】
とろみ剤またはゲル化剤を加えることによって飲食用時の粘度が500mPa・s以上もしくはゲル強度が500N/m2以下となることを特徴する請求項1または2記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項4】
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)の菌体またはグルコシルトランスフェラーゼを抗原として免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項5】
カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌体または産生タンパク質を抗原として免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項6】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の菌体または産生タンパク質を抗原として免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項7】
免疫したニワトリの卵から調製される卵粉末を、0.1〜50重量%含有することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項8】
茶カテキンを含有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。
【請求項9】
茶カテキンを0.1〜50重量%含有することを特徴とする請求項8に記載の高齢者及び要介護者向け口腔ケア用飲食品。



【公開番号】特開2007−82469(P2007−82469A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275870(P2005−275870)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【出願人】(500101243)株式会社ファーマフーズ (30)
【出願人】(000129976)株式会社ゲン・コーポレーション (11)
【Fターム(参考)】