説明

可動対象物の亀裂検知システム

【課題】駆動状態で発生する亀裂を検出する可動対象物の亀裂検知システムを提供すること。
【解決手段】可動対象物Wの亀裂想定箇所に接着される検知線11と、電源によって通電された検知線11の断線状態を検出し、その検出によって得られた情報の無線通信が可能なICタグを備えた検知装置本体12とを有する亀裂検知装置10と、その亀裂検知装置10から送信される情報を受信して当該情報に基づくデータの表示や管理を行う情報管理装置30とを有し、前記ICタグが可動対象物Wの駆動中に検知線11の断線の有無を確認し、当該断線の有無に関する情報を情報管理装置30に対して所定の時間間隔で送信を繰り返す可動対象物の亀裂検知システム1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームやクレーン、或いは車両のタイヤホイールなど、動きを有する物を対象にし、そこに発生する亀裂を検出するための亀裂検知システムであり、特に、その可動対象物の動作中に発生する亀裂をリアルタイムに検出することができる亀裂検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤホイールの亀裂などの異常を検出する場合は、車体からタイヤを取り外して目視によって確認を行っていた。こうした検査は、タイヤホイール以外の前述したロボットアームやクレーンなどでも同様である。その際、特にタイヤホイールの場合は、タイヤを車体から取り外さなくては目視検査を行うことができないため、作業負担が大きかった。そこで、そうした負担を解消するため、下記特許文献1には、車輪を取り外すことなく、亀裂検査を行うホイール異常判定システムが開示されている。図5は、同文献に記載されたシステムの概略図である。
【0003】
ホイール110には、そのフランジ111の表面を全周にわたって導電体101が連続的に接着されている。導電体101は、銅などの導電性材料であって、幅1mm以下、厚みは0.1mm以下程度の薄膜状に形成され、ホイール110の亀裂によって切断されるようになっている。ホイール110内には導通検査用端子102が設けられ、導電体101の引出部から延びる引出線103が接続されている。そして、その導通検査用端子102は、導通検査用導線105を介して導通状態検査装置106に接続される。なお、ホイール110には空気圧調整用バルブ120が装着され、引出線103は、そこを通って導通検査用端子102に接続されている。
【0004】
導通状態検査装置106は、導電体101の導通状態を検査するときに導通検査用導線105に接続され、検査が終了したら接続が外される。引出線103は導通検査用端子102に接続され、導通検査用導線105を介して導通状態検査装置106の内部の電源に接続される。こうして導通状態検査装置106の内部の電源と導電体101との間に閉回路が形成される。そして、導通状態検査装置106は、導電体101に導通がある場合にはホイール110は正常であると判定する一方、導通がない場合には導電体101が切断され、どこかで亀裂が発生したと判定する。
【特許文献1】特開2007−62456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、こうした従来の検査システムでは、疲労亀裂による初期段階の異常を確認できないのに加え、いつ亀裂が生じたのかも正確に把握することができなかった。そのため、ホイールなどのような亀裂箇所が外部から見えない可動対象物に対しては、取り外しの必要がない点で有効であるが、可動対象物がロボットアームのように通常状態で亀裂箇所が視認できるような可動対象物には利点がなかった。
【0006】
しかも、疲労亀裂初期の微小な亀裂は、可動対象物が駆動停止後の負荷から解放されると見かけ上はくっついてしまう。そのため、切断された導電体101が接触して導通状態に戻ってしまい、正確な検査ができない可能性があった。そして、停止させた状態で検査したのでは、例えば数日もの長い間駆動し続ける可動対象物については、亀裂がいつ生じたのかを正確に確認できなかった。そのため、初期段階の亀裂を見落とした場合、大きく破損するまで分からないといった状態になりかねなかった。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、駆動状態で発生する亀裂を検出する可動対象物の亀裂検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムは、可動対象物の亀裂想定箇所に接着される検知線と、電源によって通電された前記検知線の断線状態を検出し、その検出によって得られた情報の無線通信が可能なICタグを備えた検知装置本体とを有する亀裂検知装置と、その亀裂検知装置から送信される情報を受信して当該情報に基づくデータの表示や管理を行う情報管理装置とを有し、前記ICタグが前記可動対象物の駆動中に前記検知線の断線の有無を確認し、当該断線の有無に関する情報を前記情報管理装置に対して所定の時間間隔で送信を繰り返すものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムは、前記検知線が切断された場合に、前記ICタグが切断信号を自己保持する回路を有するものであることが好ましい。
また、本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムは、前記ICタグは、前記検知線の断線を検出した後も所定時間間隔で通電の有無を確認して初期亀裂と永久亀裂とを判別するようにしたものであることが好ましい。
また、本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムは、前記ICタグが、前記検知線の断線を検出した後の所定の短時間後に再び断線状態を確認し、その時の通電の有無によって断線と電気的ノイズとを判別するようにしたものであることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムは、前記亀裂検知装置が、ICタグやボタン電池からなる電源が小型ケースに入れられ、そのICタグがケース内でシリコンによって固められたものであることが好ましい。
また、本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムは、前記亀裂検知装置が、前記ICタグによって断線状態に応じて発光が制御される表示部を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
よって、本発明によれば、検知線とICタグとを有する構成の亀裂検知装置は、小型で軽量であるためロボットアームやその他の可動対象物に取り付けても、動きを妨げることなく亀裂検知を行うことが可能である。そして、可動対象物の駆動中に断線の有無に関する情報を情報管理装置に対して繰り返し送信するように構成されているため、駆動中に生じる亀裂をリアルタイムに検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムについて一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態の亀裂検知システムを示した概念図である。本実施形態の亀裂検知システム1は、可動対象物に設置する亀裂検知装置10と、その亀裂検知装置10から送信される亀裂情報を受信及び管理する情報管理装置30とから構成されている。
【0013】
亀裂検知装置10は、非接触型のICタグを使用したものであり、そのICタグとの通信により、情報管理装置30によって亀裂情報が管理できるように構成されている。亀裂検知装置10は、可動対象物Wに対し、亀裂Rの発生が予測される亀裂想定箇所に検知線11が接着される。検知線11は、検知装置本体12から出た導線27に接続され、閉回路となるように構成されている。その閉回路は、例えば図示するような矩形形状にして可動対象物Wへ配置されている。
【0014】
ここでは、中間に位置する直線部11aが、可動対象物Wにおいて亀裂が発生し易い箇所に対応している。そして、その直線部分11aが、接着剤によって可動対象物Wに固められて検知部13として形成されている。すなわち、図示するように可動対象物Wに亀裂Rが入った場合に、その亀裂Rが検知部13にも達し、検知線11が固められた接着剤とともに切断するようになっている。検知部13以外の部分の検知線11は、接着剤などで単純に接着され、検知装置本体12は両面テープなどによって可動対象物Wへ接着されている。
【0015】
ここで図2は、検知装置本体12を示したブロック図である。検知装置本体12は、検知線11の断線情報を記憶し、情報管理装置30との間で情報の送受信を行うICタグ20が設けられている。そのICタグ20は、情報の記憶や送受信などを制御するCPUからなる制御部21、断線情報を記憶するメモリ22、検知線11の断線による通電遮断状態を保持する自己保持回路23、そして無線通信するための通信回路やアンテナからなる通信部24を備え、それらが集積されたICチップによって形成されている。
【0016】
ところで、疲労亀裂の初期段階は当該亀裂が極めて小さいため、駆動中でも当該部分への負荷のかかり方によっては亀裂Rが閉じてしまい、検知線11の断線部分が接触して通電状態が復活してしまう。従って、所定の荷重を受ければ亀裂部分が広がって通電遮断状態になるが、瞬間的にまた通電状態に戻るため、亀裂発生の確認が困難になる。そこで、本実施形態では、検知線11が切断された場合にその通電遮断状態を保持する自己保持回路23が設けられている。ただし、永久亀裂の有無だけを検知すればよい場合などは、自己保持回路23は必須の構成要件ではない。
【0017】
亀裂検知装置10は、この制御部21を介して電源25から検知線11に対して電流が流され、その通電の遮断によって亀裂Rの発生によって生じる検知線11の断線を検知するよう構成されている。電源25にはボタン電池などの小型で軽量なものが使用される。また、表示部26には、緑色と赤色等の2色のLED26a,26b(図1参照)からなる表示部26が設けられ、無線の不確実性を補完し、検知装置本体12でも目視によって亀裂発生状況が確認できるようになっている。すなわち、通常時には緑色LED26aが電源25に接続されて点灯し、検知線11が断線した状態では赤色LED26bが電源25に接続されて点灯するようになっている。一方、故障などによって電源25からの通電が遮断された場合には両方のLED26a,26bが消灯するようになっている。
【0018】
亀裂検知装置10は、ICタグ20や電源25が縦横4cm、厚さ1cm程度のケースに入れられた小型で軽量なものである。そして、ICタグ20の基板をケース内でシリコンを充填して固めることにより、厳しい環境や、激しい動きにも対応でき、防振、防湿および防塵によって障害を防止できるようになっている。
【0019】
情報管理装置30は、亀裂検知装置10との間でデータの受信を行うためのアンテナ31が設けられ、それがデータ処理を行う情報管理装置としてパーソナルコンピュータ(管理PC)32がケーブル33によって接続されている。この管理PC32には、亀裂検知装置10から受け取った情報をディスプレイに表示し、亀裂の状態を確認するようになっている。また、表やグラフにする管理ソフトが格納されている。
【0020】
ところで、図1には1個の亀裂検知装置10のみを示しているが、小型であるため複数の箇所に取り付けることが可能であり、情報管理装置30も複数の亀裂検知装置10それぞれに付された識別番号に対応したICタグ20の情報を受信し、各情報を個別に管理することが可能である。
【0021】
続いて、本実施形態の亀裂検知システム1は、例えば図3に示すように、可動対象物としてロボットアーム40へ取り付けられる。なお、図に示した亀裂検知装置10の大きさは、ロボットアーム40に対する実際の比率とは異なる。
亀裂検知装置10は、検知装置本体12と検知線11が可動対象物であるアームロボット40に取り付けられるが、特に検知線11の一部である検知部13が亀裂発生可能箇所であるアーム治具41のクランク部分に接着剤によって固められる。そして、ロボットアーム40の駆動が行われている際、次のようにして亀裂の検知が行われる。
【0022】
図4は、亀裂検知装置10において行う亀裂判定フローを示した図である。検知線11は常時通電状態であり、通電状態の有無によって亀裂検出が行われる。その際、情報管理装置30へは一定時間間隔で通電情報が送信され、通電確認が行われている(S101)。しかし、電池切れや検知装置本体12に異常が生じたような場合には通電確認ができず(S101:NO)、その場合には情報管理装置30に対して何の情報も送信されない(S102)。その一方で、検知装置本体12が通常に動作している場合には断線状態が確認される(S103)。
【0023】
検知線11に断線がない場合には(S103:NO)、亀裂のない正常状態であることの情報がT2時間(例えば10sec)の無線通信間隔で情報管理装置30へ送信される(S104)。一方、検知線11に断線が生じた場合には(S103:YES)、次に電気的ノイズの判別(S105)が行われる。疲労亀裂ではない電気的ノイズと断線との違いを確認するためである。
【0024】
電気的ノイズは、非常に短い時間に発生することが実験的に分かっている。本実施形態では、断線検知後T1(10msec)後の通電によって断線を確認し(S105)、電気的ノイズを判別して除去することとしている。従って、通電があった場合には(S105:NO)、電気的ノイズであって疲労亀裂ではないと判断してS101へと戻る。一方、断線検知後T1後にもなお通電がなかった場合には(S105:YES)、電気的ノイズではなく疲労亀裂あるいは不具合による断線が生じているものと判断する。
【0025】
亀裂検知装置10では、自己保持回路23を利用し、一旦切断された後に再び接触状態に戻る瞬間断線を検知できるようにしている。そこで、疲労亀裂による断線が生じているものと判断された場合には(S105:YES)、自己保持回路23が作動して通電遮断状態が維持される。そして、次の亀裂状態判別のステップに進み、初期亀裂か永久亀裂のいずれかの判定が行われる(S106)。初期亀裂か永久亀裂の判別は、自己保持回路23で通電遮断状態となった後も一定時間T2(10sec)間隔で通電の有無を確認する。
【0026】
そして、T2時間後に通電が確認できれば(S106:NO)、初期亀裂であると判断され、その情報がT2の無線通信間隔で情報管理装置30へと送信される(S107)。また、T2時間後においてもなお断線であれば(S106:YES)、永久亀裂であると判断され、その情報がT2の無線通信間隔で情報管理装置30へと送信される(S108)。ロボットアーム40の駆動中はS106の断線状態の確認が繰り返され、初期亀裂の開始から更に永久亀裂への変化が情報管理装置30において確認できる。
【0027】
こうした亀裂状態の判定とは別に亀裂検知装置10では、検知線11の断線がない場合は表示部26の緑色LED26aが点灯している。一方で、永久亀裂と判断されると、表示部26の緑色LED26a側の通電が遮断され、赤色LED26bが通電状態に切り替えられる。従って、管理者は、情報管理装置30において確認しなくても、亀裂が生じたか否かの確認は目視によっても行うことができる。
【0028】
よって、本実施形態の亀裂検知システム1によれば、亀裂検知装置10が小型で軽量なものであるため、ロボットアーム40やその他、クレーンやタイヤのホイールなどにも取り付け、その可動対象物の動きを妨げることなく亀裂検知を行うことが可能になった。
そして、ロボットアーム40などの駆動中に亀裂検知を行い、それを通信によって受信した情報管理装置30でデータ管理するため、駆動中の亀裂の瞬間をリアルタイムに確認することができ、さらには亀裂初期から永久亀裂になるまでの状態も把握することが可能になった。
【0029】
以上、本発明に係る可動対象物の亀裂検知システムについて実施形態を説明したが、本発明は、これに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、一定時間間隔T2(10sec)でデータを情報管理装置3へ送信するようにしたが、発信間隔を広げれば消費電力の節約ができるため、時間を更に長くするようにしてもよい。また、発信間隔を短くし、詳細な判別を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】可動対象物の亀裂検知システムの実施形態を示した概念図である。
【図2】検知装置本体を示したブロック図である。
【図3】亀裂検知システムの可動対象物への取り付け状態を示した図である。
【図4】亀裂検知装置において行う亀裂判定フローを示した図である。
【図5】従来の亀裂検知システムを示した概略図である。
【符号の説明】
【0031】
1 亀裂検知システム
10 亀裂検知装置
11 検知線
12 検知装置本体
13 検知部
20 ICタグ
21 制御部
22 メモリ
23 自己保持回路
24 通信部
25 電源
26 表示部
30 情報管理装置
31 アンテナ
32 管理PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動対象物の亀裂想定箇所に接着される検知線と、電源によって通電された前記検知線の断線状態を検出し、その検出によって得られた情報の無線通信が可能なICタグを備えた検知装置本体とを有する亀裂検知装置と、
その亀裂検知装置から送信される情報を受信して当該情報に基づくデータの表示や管理を行う情報管理装置とを有し、
前記ICタグが前記可動対象物の駆動中に前記検知線の断線の有無を確認し、当該断線の有無に関する情報を前記情報管理装置に対して所定の時間間隔で送信を繰り返すものであることを特徴とする可動対象物の亀裂検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載する可動対象物の亀裂検知システムにおいて、
前記ICタグは、前記検知線が切断された場合に、切断信号を自己保持する回路を有するものであることを特徴とする可動対象物の亀裂検知システム。
【請求項3】
請求項2に記載する可動対象物の亀裂検知システムにおいて、
前記ICタグは、前記検知線の断線を検出した後も所定時間間隔で通電の有無を確認して初期亀裂と永久亀裂とを判別するようにしたものであることを特徴とする可動対象物の亀裂検知システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する可動対象物の亀裂検知システムにおいて、
前記ICタグは、前記検知線の断線を検出した後の所定の短時間後に再び断線状態を確認し、その時の通電の有無によって断線と電気的ノイズとを判別するようにしたものであることを特徴とする可動対象物の亀裂検知システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載する可動対象物の亀裂検知システムにおいて、
前記亀裂検知装置は、ICタグやボタン電池からなる電源が小型ケースに入れられ、そのICタグがケース内でシリコンによって固められたものであることを特徴とする可動対象物の亀裂検知システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載する可動対象物の亀裂検知システムにおいて、
前記亀裂検知装置は、前記ICタグによって断線状態に応じて発光が制御される表示部を有するものであることを特徴とする可動対象物の亀裂検知システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−44007(P2010−44007A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209560(P2008−209560)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】