説明

可動式手摺

【課題】手摺バーの回動操作中の安全性に優れ、外観性も良好な可動式手摺を提供する。
【解決手段】可動式手摺10は、使用者が把持する手摺バー11が壁面に対し回動可能に構成され、手摺バー11を保持する保持部材13を回動可能に軸支するため壁面に対し固定されたブラケットと、ブラケットの前面を覆うように装着されたカバー15と、保持部材13の連結部13aを回動可能に貫通させるためカバー15前面に設けられた開口部15aと、を備え、保持部材13が前壁面側に回動されたとき、開口部15aの端縁部15bと保持部材13との間に位置し、手指退避用の有底凹部16aを有するスペーサ16を設けている。保持部材13の回動基部13bにおけるスペーサ16と対向する領域に、スペーサ16に向かって膨出した拡径部材17が取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅や公共施設などの建造物の壁面に設けられる手摺に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明に関連する従来の可動式手摺としては、壁面に固定されたブラケットに手摺バーが回動可能に軸支されたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1記載の可動式手摺の場合、手摺バーを壁面に対し回動可能に軸支するブラケットなどの機構が露出しているため、外観性に劣るものであった。そこで、図9に示す可動式手摺90のように、壁面91に固定されたブラケット92の前面をカバー95で覆うとともに、手摺バー93を保持する保持部材94の回動範囲に亘ってカバー95に開口部95aを設け、このカバー95の開口部95aから手摺バー93の保持部材94などを臨出させた構造とすることが対策として考えられる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−353364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9に示す可動式手摺90においては、図10に示すように、手摺バー93を起立方向に回動させたとき、カバー95の開口部95aの端縁部と保持部材94との間に、使用者が手指を挟んでしまうおそれがある。一方、これを回避するため、保持部材94の回動範囲よりカバー95の開口部95aの端縁部を拡げると、保持部材94と開口部95aとの隙間からカバー95内部のブラケット92などの機構が見えてしまうので、外観性が損なわれる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、手摺バーの回動操作中の安全性に優れ、外観性も良好な可動式手摺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の可動式手摺は、使用者が把持する手摺バーが壁面に対し回動可能に構成された可動式手摺において、
前記手摺バーの基端部を保持する保持部材を回動可能に軸支するため壁面に対し固定されたブラケットと、
前記ブラケットの前面を覆うように装着され、前記保持部材が貫通した状態で回動可能な開口部を有するカバーと、を備え、
前記保持部材が前記壁面側に回動されたとき、前記開口部の端縁部と前記保持部材との間に位置する手指退避用の有底凹部を形成するスペーサを設けたことを特徴とする。
【0007】
このような構成とすれば、手摺バーを壁面側に回動したとき、開口部の端縁部と保持部材との間に手指が退避可能な有底凹部が形成されるため、手指を挟むことがなく、回動操作中の安全性に優れている。また、カバーの開口部と保持部材との間が有底凹部の底部によって覆われ、外からカバー内が見え難くなりため、外観性も良好である。なお、スペーサはカバーやブラケットとは別部材であっても良いが、カバーあるいはブラケットと一体化させた構造とすることもできる。
【0008】
ここで、前記有底凹部の壁面側に、前記保持部材の回動中心から遠ざかるにつれて前記壁面側に接近する形状の傾斜面を設けることが望ましい。このような構成とすれば、手摺バーとともに壁面側に向かって回動する保持部材によって押された手指は有底凹部の傾斜面に沿ってカバー外へスムーズに押し出されるので、安全性がさらに向上する。
【0009】
また、前記保持部材は、その回動中心を中心軸とする円柱状の回動基部と、前記回動基部より突設され前記手摺バーの基端部と連結する連結部とを有し、前記保持部材の回動基部の外周面に近接し且つ前記外周面に沿って湾曲した曲面を前記スペーサに設ければ、スペーサと保持部材との間に手指が侵入不能となるので安全確保に有効である。
【0010】
一方、前記保持部材の回動基部における前記スペーサの曲面と対向する領域に、前記曲面に向かって膨出した拡径部を設けることもできる。このような構成とすれば、保持部材のサイズアップを回避しつつ、設計時に拡径部の膨出量を調整することで保持部材の回動中心を所望の位置に配置しながら、カバー内へ手指が深く侵入するのを防止することができる。なお、拡径部は回動基部の一部を膨出させて設けてもよいが、回動基部と一体的に回動する別部材を当該回動基部に設けてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、手摺バーの回動操作中の安全性に優れ、外観性も良好な可動式手摺を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態である可動式手摺を示す斜視図、図2は図1に示す可動式手摺の分解斜視図、図3(a)は図2に示すスペーサを斜め上方から見た斜視図、同図(b)は前記スペーサを斜め下方から見た斜視図である。また、図4は図1に示す可動式手摺の回動状態を示す斜視図、図5は図4に示す可動式手摺の保持部材付近の垂直断面図である。
【0013】
図1,図2に示すように、本実施形態の可動式手摺10は、使用者が把持する略U字状の手摺バー11が壁面12に対し回動可能に構成されている。手摺バー11を保持する略T字状の保持部材13は、T字の水平部分に相当する円柱状の回動基部13bが支軸13cを介して略コ字状のブラケット14に回動可能に軸支され、T字の垂直部分に相当する連結部13aに手摺バー11の基端部11cが連結されている。後述する図5に示すように、手摺バー11は円筒状のステンレス管11aとその外周を密着状に覆う塩化ビニルからなる被覆管11bとで形成されている。
【0014】
平板材を略コ字状に折り曲げて形成されたブラケット14は、そのコ字の垂直部分に相当する固定部14bがネジ18(図5参照)を用いて壁面12に対して固定され、固定部14bの両側にから前方に突出する一対の軸受け部14aの間に保持部材13の回動基部13bが回動可能に軸支されている。
【0015】
ブラケット14には、その前面を覆うようにカバー15が装着され、カバー15の前面には、保持部材13の連結部13aが貫通した状態で回動可能な開口部15aが開設されている。また、保持部材13が壁面12側に回動されたとき(図4参照)、開口部15aの端縁部15bと保持部材13外周との間に位置する手指退避用の有底凹部16aを形成するスペーサ16が設けられている。さらに、保持部材13の回動基部13bの外周の一部には、拡径部材17が取り付けられている。
【0016】
図3,図5に示すように、スペーサ16は、その背面部をブラケット14の固定部14bに密着させた状態でネジ19により固定されている。スペーサ16の中央部分には、カバー15の開口部15aの端縁部15b(図2参照)付近と同形のU字状の湾部16bを有し、その下部に平面状の底部16cが設けられている。また、スペーサ16の底部16c下方には、保持部材13の回動基部13bの外周面に近接し且つ当該外周面に沿って凹状に湾曲した曲面16eが形成されている。スペーサ16の湾部16bの両側には、前方に突出した一対の角状部16dが設けられている。
【0017】
また、図5に示すように、保持部材13の回動基部13bにおけるスペーサ16の曲面16eと対向する領域に拡径部材17が取り付けられ、拡径部材17の外面には、スペーサ16の曲面16eに向かって膨出した曲面17aが設けられている。
【0018】
ここで、図4,図5に基づいて、手摺バー11の回動状態について説明する。図4(a)及び図5(a)に示すように、水平状態にある手摺バー11を壁面12側に回動させると、図4(b)及び図5(b)に示すように、開口部15aの端縁部15bと保持部材13との間に手指Fが退避可能な有底凹部16aが形成される。このため、開口部15aの端縁部15bと保持部材13との間に手指Fを挟むことがなく、回動操作中の安全性に優れている。また、カバー15の開口部15aと保持部材13との間が有底凹部16aの底部16cで覆われ、外からカバー15の内部が見え難いので、外観性も良好である。
【0019】
また、前述したように、スペーサ16には、保持部材13の回動基部13bの外周面に近接し且つ当該外周面に沿って湾曲した曲面16eが設けられているため、スペーサ16と保持部材13との間に手指Fが侵入不能となるので安全確保に有効である。さらに、保持部材13の回動基部13bにおけるスペーサ16の曲面16eと対向する領域に、曲面16eに向かって膨出した曲面17aを有する拡径部材17が固定されている。従って、設計時に拡径部材17の厚みを調整することにより、保持部材13のサイズアップを回避しつつ、保持部材13の回動中心(支軸13c)を所望の位置に配置しながら、カバー15内へ手指Fが深く侵入するのを防止することができる。
【0020】
また、可動式手摺10においては、保持部材10の回動中心(支軸13c)が、円弧状に形成されているカバー15の前面の中心とほぼ一致するよう拡径部材17の厚みが設計されている(図5参照)。このような構成としたことにより、保持部材13の回動範囲において開口部15aからの連結部13aの露出量はほぼ一定となるため、外観が良好に保たれる。
【0021】
次に、図6〜図8に基づいて、スペーサに関するその他の実施形態について説明する。図6(a)はその他の実施形態であるスペーサを上方から見た斜視図、同図(b)は前記スペーサを下方から見た斜視図、図7は図6に示すスペーサを組み込んだ可動式手摺の斜視図、図8は図7に示す可動式手摺の保持部材付近の垂直断面図である。なお、図6〜図8において図1〜図5と同符号を付している部分は前述した可動式手摺10の構成部分と同じ構造、機能を有する部分であり、説明を省略する。
【0022】
図6〜図8に示すように、スペーサ26は、その背面部をブラケット14の固定部14bに密着させた状態でネジ19により固定されている。スペーサ26の中央部分には、カバー25の開口部25aの端縁部25b付近と同形状のコ字状の湾部26bを有し、湾部26bで囲まれた有底凹部26aの壁面12側に、滑らかな曲面状の傾斜面26cが設けられている。また、スペーサ26の有底凹部26a下方には、保持部材13の回動基部13bの外周面に近接し且つ当該外周面に沿って凹状に湾曲した曲面26eが形成されている。スペーサ26の湾部26bの両側には、前方に突出した一対の角状部26dが設けられている。
【0023】
図6,図8に示すように、スペーサ26の有底凹部26aの傾斜面26cは、保持部材13の回動中心(支軸13c)から遠ざかるにつれて壁面12側に接近するように傾斜している。従って、図7(a)及び図8(a)に示すように、水平状態にある手摺バー11を、図7(b)及び図8(b)に示すように、起立させたとき、手摺バー11とともに壁面12側に向かって回動する保持部材13によって押された手指Fは有底凹部26aの傾斜面26cに沿ってカバー25外へスムーズに押し出されるので、安全性がさらに向上する。
【0024】
また、図7,図8に示すように、保持部材13の回動基部13bにおけるスペーサ26の曲面26eと対向する領域に拡径部材27が取り付けられ、拡径部材27の外面には、スペーサ26の曲面26eに向かって膨出した曲面27aが設けられるとともに、曲面27aの手摺バー11先端側に突出部27bが設けられている。図8(b)に示すように、手摺バー11を起立させたとき、突出部27bは、有底凹部26aの前縁部26fと、保持部材13の連結部13a外周との隙間に位置するので、手摺りバー11を回動させる際にもこの隙間に手指Fが入り込む余地がなくなり、安全性がさらに向上する。その他の部分の構造、機能などは可動式手摺10と同様である。
【0025】
なお、前述した実施の形態においては、可動式手摺10,20の手摺バー11が水平状態と垂直状態との間で回動する場合について説明したが、本発明はこれらに限定するものではないので、手摺バーが水平状態を保ちながら回動する可動式手摺においても実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の可動式手摺は、一般住宅や公共施設のトイレなどの壁面に設置して広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態である可動式手摺を示す斜視図である。
【図2】図1に示す可動式手摺の分解斜視図である。
【図3】(a)は図2に示すスペーサを斜め上方から見た斜視図、(b)は前記スペーサを斜め下方から見た斜視図である。
【図4】図1に示す可動式手摺の回動状態を示す斜視図である。
【図5】図4に示す可動式手摺の保持部材付近の垂直断面図である。
【図6】(a)はその他の実施形態であるスペーサを上方から見た斜視図、(b)は前記スペーサを下方から見た斜視図である。
【図7】図6に示すスペーサを組み込んだ可動式手摺の斜視図である。
【図8】図7に示す可動式手摺の保持部材付近の垂直断面図である。
【図9】従来の可動式手摺を示す斜視図である。
【図10】図9に示す可動式手摺の回動状態を示す部分斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
10,20 可動式手摺
11 手摺バー
11a ステンレス管
11b 被覆管
11c 基端部
12 壁面
13 保持部材
13a 連結部
13b 回動基部
13c 支軸
14 ブラケット
14a 軸受け部
14b 固定部
15,25 カバー
15a,25a 開口部
15b,25b 端縁部
16,26 スペーサ
16a,26a 有底凹部
16b,26b 湾部
16c 底部
16d,26d 角状部
16e,17a,26e,27a 曲面
17,27 拡径部材
18,19 ネジ
26c 傾斜面
26f 前縁部
27b 突出部
F 手指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が把持する手摺バーが壁面に対し回動可能に構成された可動式手摺において、
前記手摺バーを保持する保持部材を回動可能に軸支するため壁面に対し固定されたブラケットと、
前記ブラケットの前面を覆うように装着され、前記保持部材が貫通した状態で回動可能な開口部を有するカバーと、を備え、
前記保持部材が前記壁面側に回動されたとき、前記開口部の端縁部と前記保持部材との間に位置し、手指退避用の有底凹部を形成するスペーサを設けたことを特徴とする可動式手摺。
【請求項2】
前記有底凹部の壁面側に、前記保持部材の回動中心から遠ざかるにつれて前記壁面側に接近する形状の傾斜面を設けたことを特徴とする請求項1記載の可動式手摺。
【請求項3】
前記保持部材は、その回動中心を中心軸とする円柱状の回動基部と、前記回動基部より突設され前記手摺バーの基端部と連結する連結部とを有し、前記保持部材の回動基部の外周面に近接し且つ前記外周面に沿って湾曲した曲面を前記スペーサに設けた請求項1または2記載の可動式手摺。
【請求項4】
前記保持部材の回動基部における前記スペーサの曲面と対向する領域に、前記曲面に向かって膨出した拡径部を設けたことを特徴とする請求項3記載の可動式手摺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−180046(P2009−180046A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21868(P2008−21868)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】