説明

可動部取付用帯状部材、腕時計、腕巻型電子機器、鍵保持バンド、および、可動部取付用帯状部材の製造方法

【課題】可動部取付用帯状部材の表面に立体感のある印刷模様を設けること。
【解決手段】シリコーンゴム、熱硬化性ポリウレタン、および、熱可塑性ポリウレタンから選択される材料を含み、弾性を有する帯状の基材20と、基材20の少なくとも片面上に設けられた加飾層40と、加飾層40を被覆する透明または半透明の樹脂層50と、を少なくとも有し、加飾層40の一部が、加飾層40のその他の部分40Bに対して、加飾層40の基材20が配置された側と反対側に突出するように凸部40Tを形成し、少なくとも、加飾層40の凸部40Tを形成している部分と基材20との間に、熱硬化性材料30が充填されている可動部取付用帯状部材、これを用いた腕時計、腕巻型電子機器および鍵保持バンド、ならびに、当該可動部取付用帯状部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部取付用帯状部材、これを用いた腕時計、腕巻型電子機器および鍵保持バンド、ならびに、当該可動部取付用帯状部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腕時計用バンドとしては、一般的に、金属製、皮革製、または、樹脂製のものが知られている。また、バンドが複数の連結されたコマから構成される場合、たとえば、コマを、トルマリン石、貴石、貴金属または象牙より形成することで、ファッション性を付与することが提案されている(特許文献1参照)。また、この他にも、一般的には、時計用バンドに何がしかのデザイン性を付与する方法としては、バンドの形状に工夫を凝らしたり、バンドの表面に刻印文字や、丸印、三角印などの幾何学的形状からなる単純な凹凸模様を設けたりすることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−346086号公報(段落番号0010等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、腕時計用バンドなどのように、手足などの可動部に脱着可能に取り付けられる樹脂製バンドの表面に装飾性を付与しようとした場合、樹脂製バンドの表面に所定の色模様を表示する印刷層を設けることも可能である。しかしながら、このような装飾処理は、平面的であるため、デザイン的には、平凡なものとなりやすい。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面に立体感のある印刷模様を有する可動部取付用帯状部材、これを用いた腕時計、腕巻型電子機器および鍵保持バンド、ならびに、当該可動部取付用帯状部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の可動部取付用帯状部材は、シリコーンゴム、熱硬化性ポリウレタン、および、熱可塑性ポリウレタンから選択される材料を含み、弾性を有する帯状の基材と、基材の少なくとも片面上に設けられた加飾層と、加飾層を被覆する透明または半透明の樹脂層と、を少なくとも有し、加飾層の一部が、加飾層のその他の部分に対して、加飾層の基材が配置された側と反対側に突出するように凸部を形成し、少なくとも、加飾層の凸部を形成している部分と基材との間に、熱硬化性材料が充填されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の可動部取付用帯状部材の一実施態様は、加飾層の、凸部を形成している部分と、その他の部分との高低差Hが、0.05mm〜14mmの範囲内であることが好ましい。
【0008】
本発明の可動部取付用帯状部材の他の実施態様は、凸部の幅Wに対する高低差Hの比(H/W)が、0.005〜14の範囲内であることが好ましい。
【0009】
本発明の可動部取付用帯状部材の他の実施態様は、基材の幅方向における樹脂層断面の、樹脂層の基材が設けられた側と反対側の輪郭線が、基材に対して凸を成す円弧形状を有することが好ましい。
【0010】
本発明の可動部取付用帯状部材の他の実施態様は、加飾層の一部に形成された凸部に対応させて、樹脂層の表面に凸部が形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明の可動部取付用帯状部材の他の実施態様は、樹脂層が熱可塑性ポリウレタンを含むことが好ましい。
【0012】
本発明の可動部取付用帯状部材の他の実施態様は、基材がシリコーンゴムを含むことが好ましい。
【0013】
本発明の可動部取付用帯状部材の他の実施態様は、腕時計用バンド、腕巻型電子機器用のバンド、および、鍵保持バンド用のバンドから選択されるいずれか1つのバンドとして用いられることが好ましい。
【0014】
本発明の腕時計は、バンド取付部を有する腕時計本体部分と、バンド取付部に取り付けられた本発明の可動部取付用帯状部材とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の腕巻型電子機器は、バンド取付部を有する電子機器本体部分と、バンド取付部に取り付けられた本発明の可動部取付用帯状部材とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の鍵バンドは、鍵と、鍵を保持する鍵保持部と、鍵保持部と接続された本発明の可動部取付用帯状部材とを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の可動部取付用帯状部材は、樹脂フィルムの片面に加飾層を形成する加飾層形成工程と、プレス面に凸部を有する第一のプレス金型と、第二のプレス金型との間に、樹脂フィルムと加飾層とを含むシートを、加飾層が設けられた面が第一のプレス金型のプレス面側に対向するように配置した後に、第一のプレス金型と、第二のプレス金型とにより加熱プレスする加熱プレス工程と、少なくとも、加熱プレス工程を経て第一のプレス金型のプレス面の凸部に対応して形成された加飾層表面の凹部内を充填するように、未硬化状態の熱硬化性材料を塗布する熱硬化性材料付与工程と、成型用金型の底面に、加飾層表面の少なくとも凹部内に対して未硬化状態の熱硬化性材料が塗布されたシートを、当該シートの未硬化状態の熱硬化性材料が塗布された面と反対側の面が底面と対向するように配置した後に、成形用金型内に、基材形成用材料を充填し、加熱することで、シートと基材とを一体的に成形する一体形成工程と、を少なくとも経て、本発明の可動部取付用帯状部材を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面に立体感のある印刷模様を有する可動部取付用帯状部材、これを用いた腕時計、腕巻型電子機器および鍵保持バンド、ならびに、当該可動部取付用帯状部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の可動部取付用帯状部材の一例を示す模式断面図である。
【図2】樹脂フィルムの片面に加飾層が形成されたシートの一例を示す模式断面図である。
【図3】加熱プレス工程の一例を示す模式断面図である。
【図4】加熱プレス工程を経た後のシートの一例を示す模式断面図である。
【図5】図4に示すシートに対して、未硬化状態の熱硬化性材料が塗布または印刷された後の状態の一例を示す模式断面図である。
【図6】本実施形態の可動部取付用帯状部材の他の例を示す模式断面図である。
【図7】本実施形態の可動部取付用帯状部材の他の例を示す模式断面図である。
【図8】本実施形態の腕時計の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(可動部取付用帯状部材)
本実施形態の可動部取付用帯状部材は、シリコーンゴム、熱硬化性ポリウレタン、および、熱可塑性ポリウレタンから選択される材料を含み、弾性を有する帯状の基材と、基材の少なくとも片面上に設けられた加飾層と、加飾層を被覆する透明または半透明の樹脂層と、を少なくとも有し、加飾層の一部が、加飾層のその他の部分に対して、加飾層の基材が配置された側と反対側に突出するように凸部を形成し、少なくとも、加飾層の凸部を形成している部分と基材との間に、熱硬化性材料が充填されていることを特徴とする。
【0021】
本実施形態の可動部取付用帯状部材では、加飾層の一部分が、その他の部分に対して凸部を形成している。したがって、可動部取付用帯状部材の表面に立体感のある色模様からなるデザインを付与することができる。
【0022】
図1は、本実施形態の可動部取付用帯状部材の一例を示す模式断面図である。図1に示す可動部取付用帯状部材10A(10)は、基材20、熱硬化性材料30、加飾層40、樹脂層50A(50)が、この順に積層された層構成を有する。また、加飾層40の一部が、加飾層40のその他の部分に対して、加飾層40の基材20が配置された側と反対側に突出するように凸部40Tを形成している。そして、熱硬化性材料30は、加飾層40の凸部40Tを形成している部分と基材20との間も含めて、加飾層40と基材20との間に連続的な層を形成するように設けられている。また、樹脂層50Aの表面52は、樹脂層50Aの基材20が配置された側に凸部40Tが存在するか否かに関係なく、平坦な面を成している。なお、加飾層表面44(加飾層40の樹脂層50A側の面)には、所定の色模様からなるデザインが付与されており、樹脂層50Aは透明である。したがって、表面52側から可動部取付用帯状部材10A(10)を観察した場合、加飾層表面44の色模様が視認できる。これに加えて、加飾層40の一部は、その他の部分40Bに対して凸部40Tを形成しているため、視認される色模様は立体感のあるものとなる。
【0023】
なお、凸部40Tは、基材20の平面方向に対して、(a)離散的に配置されていてもよく、(b)一方向に連続するラインを形成するように配置されていてもよく、(c)網目状を形成するように配置されていてもよく、あるいは、(d)上述した(a)〜(c)に示す配置形態から選択される少なくとも2種類が混在した態様で配置されていてもよい。
【0024】
なお、加飾層40の、凸部40Tを形成している部分と、その他の部分40Bとの高低差H(基材20の厚み方向における凸部40Tの頂上部分または天面部分の表面44とその他の部分40Bの表面44との距離)は特に限定されるものではないが、後述する加熱プレス加工により凸部40Tを形成するに際して、加飾層40および/または樹脂層50Aが引きちぎれない範囲で適宜選択することができる。しかしながら、視認される色模様をより立体感あるものとする観点からは、高低差Hは、0.05mm以上であることが好ましく、0.13mm以上であることがより好ましい。なお、高低差Hの上限は特に限定されないが、凸部40Tのプレス成形に際して、加飾層40および/または樹脂層50Aの引きちぎれを防止するなどの実用上の観点から、14mm以下が好ましく、7mm以下がより好ましい。
【0025】
ここで、高低差Hを大きくした場合においても、加熱プレス加工時に、加飾層40または樹脂層50Aが引きちぎれるのを確実に防止する観点から、高低差Hを14mm以下とする場合には、加飾層40の厚みは0.2μm以上とすることが好ましく、樹脂層50Aの厚みは30μm以上とすることが好ましい。なお、当該加飾層40の厚みとは、凸部40T以外のその他の部分40Bにおける厚みを意味し、当該樹脂層50Aの厚みとは、加飾層40のその他の部分40Bの表面44上に位置する樹脂層50Aの厚みを意味する。
【0026】
また、凸部40Tの幅Wに対する高低差Hの比(H/W)は特に限定されるものではないが、後述するプレス加工により凸部40Tを形成するに際して、加飾層40および/または樹脂層50Aが引きちぎれない範囲で適宜選択することができる。しかしながら、視認される色模様をより立体感あるものとする観点からは、比(H/W)は、0.0005以上とすることが好ましく、0.13以上とすることがより好ましい。なお、比(H/W)の上限は特に限定されないが、凸部40Tのプレス成形に際して、加飾層40および/または樹脂層50Aの引きちぎれを防止するなどの実用上の観点から、14以下が好ましく、7以下がより好ましい。ここで、凸部40Tの幅Wとは、凸部40Tの裾野部分における幅W(基材20の平面方向における長さ)を意味する。ここで、凸部40Tの平面形状が円形である場合、幅Wは、平面方向における凸部40Tの直径を意味するが、凸部40Tの平面形状が円形以外の形状である場合、幅Wは、凸部40Tの裾野部分における最小幅を意味する。よって、たとえば、凸部40Tの平面形状が楕円形であれば、幅Wは、当該楕円の短径を意味し、凸部40Tの平面形状が長方形であれば、幅Wは、長方形の短辺長さを意味し、凸部40Tの平面形状が帯状であれば、幅Wは、帯の幅を意味する。
【0027】
ここで、比(H/W)を大きくした場合においても、加熱プレス加工時に、加飾層40または樹脂層50Aが引きちぎれるのを確実に防止する観点から、比(H/W)を14以下とする場合には、加飾層40の厚みは0.2μm以上とすることが好ましく、樹脂層50Aの厚みは30μm以上とすることが好ましい。なお、当該加飾層40の厚みとは、凸部40T以外のその他の部分40Bにおける厚みを意味し、当該樹脂層50Aの厚みとは、加飾層40のその他の部分40Bの表面44上に位置する樹脂層50Aの厚みを意味する。
【0028】
<可動部取付用帯状部材の製造方法>
なお、図1に一例を示した本実施形態の可動部取付用帯状部材10は、加飾層形成工程、加熱プレス工程、熱硬化性材料付与工程、および、帯状部材形成工程を、少なくともこの順に実施することで作製される。以下に図1に示す可動部取付用帯状部材10Aを作製する場合を例として、各工程について説明する。
【0029】
−加飾層形成工程−
加飾層形成工程では、樹脂フィルムの片面に、インクジェット印刷、熱転写印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、グラビア印刷等の公知の印刷方法により加飾層40を形成する。なお、印刷方法としては、グラデーション表現が可能であるなどの理由により、デザイン性に優れるインクジェット印刷または熱転写印刷が好ましい。この樹脂フィルムは、可動部取付用帯状部材10Aにおける樹脂層50Aとなりうる層を含むものであれば特に限定されないが、通常は、樹脂層50Aとなりうる層とこれを支持するシート状の支持体(キャリアシート)とを有するものであることが好ましい。なお、樹脂層50Aとなりうる層は、後述する加熱プレス工程において加飾層40の一部に凸部40Tを形成するために、変形容易な層であることが必要である。この意味では、樹脂層50Aとなりうる層は、加熱プレス工程において圧力および熱が加わった際に容易に変形できる層(軟質層)であることが必要であり、具体的には、(1)ビカット軟化温度の低い樹脂層(低軟化温度樹脂層)、(2)未重合状態および/もしくは未架橋状態の樹脂原料を主成分として含む未硬化樹脂層、ならびに、(3)未硬化樹脂層が半硬化した状態の半硬化樹脂層、から選択されるいずれかの層であることが必要である。ここで、低軟化温度樹脂層のビカット軟化温度は、加熱プレス工程の成形温度を基準温度として、基準温度−0℃〜基準温度−80℃の範囲内で選択されることが好ましい。
【0030】
図2は、樹脂フィルムの片面に加飾層が形成されたシートの一例を示す模式断面図である。図2に示すシート100A(100)は、樹脂フィルム110と、その片面に設けられた加飾層40とから構成されている。また、樹脂フィルム110は、樹脂層50Aとなりうる層(軟質層)112と、キャリアシート114とから構成されている。ここで、加飾層40は、樹脂フィルム110の軟質層112の側の面に設けられている。
【0031】
−加熱プレス工程−
加熱プレス工程では、プレス面に凸部を有する第一のプレス金型と、第二のプレス金型との間に、樹脂フィルム110と加飾層40とを含むシート100Aを、加飾層40が設けられた面が第一のプレス金型のプレス面側に対向するように配置した後に、第一のプレス金型と、第二のプレス金型とにより加熱プレスする。これにより、第一のプレス金型のプレス面に設けられた凸部に対応するように、加飾層40の一部に凸部40Tが形成される。なお、軟質層112が、未硬化樹脂層、あるいは、半硬化樹脂層の場合、加熱プレス工程における加熱によって、硬化反応が進行し、樹脂層50Aとなる。
【0032】
図3は、加熱プレス工程の一例を示す模式断面図であり、具体的には、図2に示すシート100の加熱プレス処理について説明する図である。図3に示すように、シート100Aは、第一のプレス金型120と、第二のプレス金型130との間に配置されている。ここで、第一のプレス金型120のプレス面122には、凸部124が設けられており、第二のプレス金型130のプレス面132は平坦面となっている。そして、加熱プレス処理に際しては、シート100Aを、加飾層40が設けられた面が第一のプレス金型120のプレス面122側に対向するように配置した状態で、シート100Aを第一のプレス金型120と第二のプレス金型130とにより加熱しながらプレスする。
【0033】
これにより、図4に示すように、シート100B(100)の加飾層40が設けられた表面(加飾層表面)102に凹部104が形成される。なお、この凹部104は、図1に示す可動部取付用帯状部材10Aの凸部40Tに対応するものであり、符号102で示される加飾層表面は、図1に示す可動部取付用帯状部材10Aの加飾層表面44と反対側の面(図1に示す裏面46)に相当する。また、図4中において、樹脂層50Aは、加熱プレス工程前の軟質層112に対応する層である。
【0034】
なお、加熱プレス処理する際の加熱温度、プレス時間、プレス圧力等の諸条件は、シート100に形成される凹部104の深さ、シート100を構成する各層の厚み・材料に応じて適宜選択することができる。しかしながら、通常、加熱温度としては、80℃〜190℃の範囲内が好ましく、80℃〜140℃の範囲内がより好ましく、プレス時間としては5秒〜60秒の範囲内が好ましく、5秒〜30秒の範囲内がより好ましく、プレス圧力としては、4kgf/cm〜210kgf/cmの範囲内が好ましく、4kgf/cm〜100kgf/cmの範囲内がより好ましい。
【0035】
−熱硬化性材料付与工程−
熱硬化性材料付与工程では、少なくとも、加熱プレス工程を経て第一のプレス金型120のプレス面122の凸部124に対応して形成された加飾層表面102の凹部104内を充填するように、未硬化状態の熱硬化性材料を付与する。なお、当該「未硬化状態」とは、完全に未硬化の状態(完全未硬化状態)および半硬化した状態(半硬化状態。具体的には硬化反応が完全に終了していない状態)から選択されるいずれか一方の状態を意味し、当該「付与」とは、印刷または塗布を意味する。なお、未硬化状態の熱硬化性材料は、少なくとも、凹部104内のみを充填するように付与されていればよいが、通常は、加飾層40と基材20との密着性を確保するなどの観点から加飾層表面102の全面を覆うように付与されていることが好ましい。図5は、図4に示すシートに対して、未硬化状態の熱硬化性材料が塗布または印刷された後の状態の一例を示す模式断面図である。図5に示す例では、未硬化状態の熱硬化性材料140は、凹部104内を埋めつくすように充填されると共に、加飾層表面102の全面を覆うように層状に塗布されている。
【0036】
なお、塗布または印刷される未硬化状態の熱硬化性材料140としては、通常、完全未硬化状態のものが用いられる。そして、未硬化状態の熱硬化性材料140が完全未硬化状態を維持したまま、一体形成工程を実施してもよく、付与後に、たとえば、ベーク処理、常温での風乾、放置による自発的かつ緩やかな硬化反応の進行などを利用して、未硬化状態の熱硬化性材料140を、完全未硬化状態から半硬化状態へと変性させた後に一体形成工程を実施してもよい。
【0037】
加飾層表面102の全面に、未硬化状態の熱硬化性材料140を付与する場合、(i)全面にスクリーン印刷または塗布処理を行うことができる。一方、加飾層表面102の凹部104内のみに未硬化状態の熱硬化性材料140を付与したい場合、(ii)全面にスクリーン印刷または塗布処理を行った後、凹部104以外の加飾層表面102を覆う未硬化状態の熱硬化性材料140を剥ぎ取るように除去したり、あるいは、(iii)ディスペンサーを用いて凹部104内のみに未硬化状態の熱硬化性材料140を充填・塗布することができる。ここで、上記(ii)項に示す方法により凹部104内のみに未硬化状態の熱硬化性材料140を付与する場合、凹部104以外の加飾層表面102を覆う未硬化状態の熱硬化性材料140を剥ぎ取るように除去した後に、未硬化状態の熱硬化性材料140を、完全未硬化状態から半硬化状態に変性させることが好ましい。
【0038】
未硬化状態の熱硬化性材料140を、凹部104内のみに付与するか、または、加飾層表面102の全面に付与するかの選択や、また、塗布・印刷された未硬化状態の熱硬化性材料140を完全未硬化状態のまま維持するか、または、半硬化状態に変性させるかの選択は、後工程(一体形成工程)において形成される基材20を構成する主材料に応じて適宜選択することが好ましい。たとえば、基材20を構成する主材料がシリコーンゴムである場合、未硬化状態の熱硬化性材料140は、加飾層表面102の全面に付与され、かつ、付与後も完全未硬化状態を維持することが好ましい。また、基材を構成する主材料が、熱硬化性ポリウレタンまたは熱可塑性ポリウレタンである場合、未硬化状態の熱硬化性材料140は、凹部104内のみに付与され、かつ、付与後に完全未硬化状態から半硬化状態に変性させることが好ましい。
【0039】
−一体成形工程−
一体成形工程では、まず、成型用金型の底面に、加飾層表面102の少なくとも凹部104内に対して未硬化状態の熱硬化性材料140が塗布されたシート100Bを、シート100Bの未硬化状態の熱硬化性材料140が塗布された面106と反対側の面108が成型用金型の底面と対向するように配置する。そして、この状態で、成型用金型内に、基材形成用材料を充填し、加熱することで、未硬化状態の熱硬化性材料140が塗布されたシート100Bと基材20とを一体的に成形する。これにより、未硬化状態の熱硬化性材料140が硬化して(硬化状態の)熱硬化性材料30に変性すると共に、シート100Bと一体化した状態で基材20が形成される。すなわち、断面構造が、図1に示す可動部取付用帯状部材10Aと、その表面52に設けられたキャリアシート114と、を有する部材を得ることができる。
【0040】
なお、一体成形処理する際の金型温度、成形時間等の諸条件は、形成される基材20の材質・厚み等に応じて適宜選択することができる。しかしながら、通常、金型温度としては、90℃〜220℃の範囲内が好ましく、90℃〜140℃の範囲内がより好ましく、成形時間としては10秒〜300秒の範囲内が好ましく、45秒〜260秒の範囲内がより好ましい。
【0041】
−その他の工程−
そして、一体成形工程を終えた後は、通常、キャリアシート114を剥離する剥離工程を実施する。なお、キャリアシート114が透明または半透明の部材である場合、外部から加飾層40の表面44の色模様が視認できるため、必要に応じて剥離工程は省略してもよい。言い換えれば、キャリアシート114も可動部取付用帯状部材10Aの一部を構成してもよい。
【0042】
また、平面形状を、最終的に作製される可動部取付用帯状部材10Aと同様の形状とするために、一体成形工程を終えて得られた上記の部材を、所定の帯状形状に切断する切断工程、あるいは、熱硬化性材料付与工程を終えた後の未硬化状態の熱硬化性材料140が、加飾層40が設けられた面102に塗布されたシート100Bを所定の帯状形状に切断する切断工程を実施することができる。ここで、切断に際しては、レーザ、カッター、ウォータジェット等の公知の切断方法を用いることができる。また、シート100Aとして、最終的に作製される可動部取付用帯状部材10Aと同様の形状のものを用いる場合には、切断工程を省くこともできる。
【0043】
なお、一体成形工程では、シート100Bは、高温で加熱される。一方、加飾層40は、所定の色模様からなるデザインを付与するために、固形分が顔料等の色材とバインダー樹脂とを主成分とするインクを用いて形成されるため、加熱により変形し易い。また、インクの代わりに、熱転写印刷に用いられる金属蒸着膜を用いて加飾層40を形成した場合、金属蒸着膜の厚みが薄く、膜自体の剛性が不足しているため、一体成形工程における加圧によって容易に変形し易い。このため、加飾層40の構成材料のみに着目する限りでは、一体成形工程における加熱処理によって、シート100Bの表面102に形成された凹部104、すなわち、図1に示す凸部40Tの形状が型崩れして平坦化・消滅してしまうことになる。
【0044】
このような型崩れを防ぐためには、加飾層40の片面側に配置される樹脂層50Aとして、より剛性の高い材料を採用することも考えられる。しかしながら、本実施形態の可動部取付用帯状部材10は、手足などの可動部に脱着可能に取り付けられるものであるため、樹脂層50Aは柔軟性に富んだものであることが必要であり、あまり剛性の高い材料を用いることはできない。この理由は、可動部取付用帯状部材10の脱着動作や、手足等の可動部に可動部取付用帯状部材10が取り付けられた状態における手足等の屈曲運動などにより、樹脂層50Aは日常的に屈曲変形に曝されるためである。これに加えて、このような屈曲変形によって、樹脂層50Aの脆性破壊によるひび割れ等の発生を防いで、審美性を長期に渡って維持するためにも樹脂層50Aは柔軟性に富んだものであることが必要である。なお、上述したような柔軟性に富むことは、加飾層40についても同様である。それゆえ、樹脂層50Aの剛性、あるいは、加飾層40自体の剛性に起因する形状保持効果により、一体化成形工程における型崩れを抜本的に抑制することは困難である。
【0045】
しかしながら、本実施形態の可動部取付用帯状部材10の製造に際しては、一体成形工程の実施前の段階で、凹部104内には未硬化状態の熱硬化性材料140が充填されている。よって、一体成形工程における加熱処理によって、未硬化状態の熱硬化性材料140が硬化する。このため、シート100Bと基材20とを一体的に成形する際の加熱処理によって、先に硬化し終えた熱硬化性材料30が凸部40T(凹部104)の形状保持効果を発揮し、凸部40T(凹部104)の形状の型崩れを防止できる。これに加えて、加飾層40の少なくとも凸部40Tを成す部分を充填するように熱硬化性材料30が設けられることになるため、基材20と加飾層40との間に隙間が生じず、基材20と加飾層40との間の密着性も向上させることができる。なお、熱硬化性材料30自体は、上述したように形状保持効果を発揮するために、必然的にその剛性は高くなる。言い換えれば、可動部取付用帯状部材10が屈曲変形に曝された場合に、割れ等が生じ易くなることが予想される。しかしながら、熱硬化性材料30は、加飾層40で覆われており、外部からは視認できないため、仮に割れ等が発生したとしても、可動部取付用帯状部材10の外観を損なうことは無い。
【0046】
また、基材20は、ゴム材料を主成分として含むため、一体形成工程を実施した際に、ゴム原料の硬化に伴い体積収縮が生じる。このため、基材20の体積収縮によって加飾層40が基材20側へと部分的に窪み(いわゆる「ひけ(Sink Mark)」)が発生する可能性がある。しかしながら、基材20と加飾層40との間に熱硬化性材料30が介在することで、加飾層40に部分的な窪みが生じることで外観形状が悪化するのを抑制できる。
【0047】
<可動部取付用帯状部材のその他の実施態様>
次に、図1に示した本実施形態の可動部取付用帯状部材10A以外のその他の実施態様について説明する。
【0048】
図6は、本実施形態の可動部取付用帯状部材の他の例を示す模式断面図である。なお、図6中、図1と同様の機能・構造を有するものについては同じ符号が付してある。図6に示す可動部取付用部材10B(10)は、図1に示す可動部取付用帯状部材10Aと同様に、基材20、熱硬化性材料30、加飾層40、樹脂層50B(50)が、この順に積層された層構成を有する。ここで、図1に示す樹脂層50Aは、凸部40Tに対応する部分が部分的に薄くなっている点を除けば、基材20の平面方向のいずれの部位においても一定の膜厚を有するものとなっている。言い換えれば、樹脂層50Aの基材20と反対側の輪郭線(図1中の表面52を構成するライン)が直線を成している。これに対して、図6に示す可動部取付用帯状部材10Bでは、基材20の幅方向における樹脂層50B断面の、樹脂層50Bの基材20が設けられた側と反対側の輪郭線(図6中の表面52を構成するライン)が、基材20に対して凸を成す円弧形状を有する点に特徴がある。このため、樹脂層50Bは、一種の凸レンズとしての機能も有することになる。したがって、表面52側から可動部取付用帯状部材10Bを観察した場合、加飾層表面44の色模様が凸レンズ(樹脂層50B)によって拡大されたように視認できる。このため、視認される色模様は図1に示す可動部取付用帯状部材10Aと比べて、上述したレンズ効果によって、より立体感のあるものとなる。
【0049】
なお、図6は、可動部取付用帯状部材10Bの一断面を示したものであり、当該一断面において、樹脂層50Bの輪郭線(図6中の表面52を構成するライン)が、基材20に対して凸を成す円弧形状を有していれば、樹脂層50Bの全体的な形状は特に限定されない。たとえば、樹脂層50Bは、球体または楕球体をスライスして切り出したドーム形状を有するものであってもよいし、円柱体または楕円柱体をその軸方向と平行にスライスして切り出した形状を有するものであってもよい。
【0050】
また、図6に示す可動部取付用帯状部材10Bを作製する場合、加熱プレス工程において、樹脂層50Bの表面52の凸状に湾曲した形状に対応させて、プレス面132を凹面とした第二のプレス金型130を用い、一体成形工程において、樹脂層50Bの表面52の凸状に湾曲した形状に対応させて、底面を凹面とした成形用金型を用いる。そして、この点を除けば、図1に示す可動部取付用帯状部材10Aを作製する場合と同様にして、図6に示す可動部取付用帯状部材10Bを作製することができる。
【0051】
図7は、本実施形態の可動部取付用帯状部材の他の例を示す模式断面図である。なお、図7中、図1および図6と同様の機能・構造を有するものについては同じ符号が付してある。図7に示す可動部取付用部材10C(10)は、図1に示す可動部取付用帯状部材10Aと同様に、基材20、熱硬化性材料30、加飾層40、樹脂層50C(50)が、この順に積層された層構成を有する。ここで、図1に示す樹脂層50Aは、凸部40Tに対応する部分が部分的に薄くなっている点を除けば、基材20の平面方向のいずれの部位においても一定の膜厚を有するものとなっている。言い換えれば、樹脂層50Aの基材20と反対側の輪郭線(図1中の表面52を構成するライン)が直線を成している。これに対して、図7に示す可動部取付用帯状部材10Cでは、加飾層40の一部に形成された凸部40Tに対応させて、樹脂層50Cの表面に凸部50Tが形成されている点に特徴がある。すなわち、凸部40Tと、凸部50Tとは、基材20の平面方向において同じ位置に存在し、基材20の厚み方向における形状は、略相似形となる。このため図1に示す可動部取付用帯状部材10Aと同様に、立体感のある色模様が視認できることに加えて、樹脂層50Cの表面52には凹凸が存在することになるため、ザラツキ感のある手触りも得られる。
【0052】
なお、図7に示す可動部取付用帯状部材10Cを作製する場合、(1)加熱プレス工程において用いる第一のプレス金型120のプレス面122に設けられた凸部124の突起高さに対して、シート100Aを構成する樹脂フィルム110の厚みを薄くすることができる。この場合、加熱プレス工程において、凸部50Tがキャリアシート114側に突出するように形成される。すなわち、キャリアシート114の厚みにより、凸部50Tに対応する凹み代を確保する。あるいは、(2)樹脂層50Cの表面52に存在する凸部50Tの形状に対応させて、プレス面132に凹部を設けた第二のプレス金型130を用い、一体成形工程において、樹脂層50Cの表面52に存在する凸部50Tの形状に対応させて、底面に凹部を設けた成形用金型を用いる。そして、上記(1)または(2)に示す点を除けば、図1に示す可動部取付用帯状部材10Aを作製する場合と同様にして、図7に示す可動部取付用帯状部材10Cを作製することができる。
【0053】
<各層の詳細>
次に、本実施形態の可動部取付用帯状部材10を構成する各層の詳細や、可動部取付用帯状部材10の作製に際して必要に応じて用いられるキャリアシート114の詳細について説明する。
【0054】
−基材−
基材20は、弾性を有し、シリコーンゴム、熱硬化性ポリウレタン、および、熱可塑性ポリウレタンから選択される材料を主成分として含むものであり、基材20はこれらの材料のみから構成されていてもよい。なお、低温の金型温度で成形可能であること、および、可動部取付用帯状部材10の装着対象が人間である場合において、人体へのアレルギーが少なくかつ装着時に滑りにくいことから、これら材料の中でも、シリコーンゴムが最も好ましい。なお、基材20の厚みは、特に限定されるものではないが、可動部取付用帯状部材10全体の強度を確保すると共に、脱着時や装着状態における適度な変形を可能とする観点から1mm〜10mm程度の範囲内が好ましい。
【0055】
−熱硬化性材料−
未硬化状態の熱硬化性材料120としては、一体成形工程における加熱処理によって硬化すると共に、印刷または塗布が利用できる公知の熱硬化性材料から適宜選択できる。しかしながら、一体成形工程における加飾層40の形状保持効果の発揮や、加飾層40および基材20を構成する材料に対する親和性を考慮すると、未硬化状態の熱硬化性材料120としては、シリコーン系の熱硬化型または室温硬化型のエラストマーを用いることが好ましい。この場合、シリコーン系の熱硬化型または室温硬化型のエラストマーのJIS K 6253に基づいて測定されるショアE硬度(タイプEデュロメータ使用)は、20以上が好ましく、29以上がより好ましい。ここで、シリコーン系熱硬化型エラストマーとしては、たとえば、LIMS用特殊プライマー(信越化学株式会社製、X−33−518(A/B)、ショアE硬度:30)を用いることができる。また、シリコーン系室温硬化型エラストマーとしては、たとえば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTSE3351(ショアE硬度:21)を用いることができる。なお、シリコーン系室温硬化型エラストマーは、加熱硬化させてもよい。
【0056】
−加飾層−
加飾層40は、固形分として、顔料または染料から選択される色材と、バインダー樹脂と、を主成分とするインク、あるいは、熱転写印刷する場合において熱転写フィルムとして用いることができる金属蒸着膜を用いて形成される。すなわち、加飾層40は、インクにより形成されたインク層、または、金属蒸着層から構成される。なお凸部40Tとそれ以外の部分40Bとにより形成される凹凸の陰影をより際立たせて、立体感をより強調することができる観点からは、加飾層40は、金属蒸着層であることが好ましい。加飾層40の厚みとしては特に限定されないが、色濃度を確保するなどの実用上の観点から、1〜30μmの範囲内で適宜選択することが好適である。
【0057】
−樹脂層−
樹脂層50は、加飾層表面44の色模様が外部から視認できるように透明または半透明であることが必要である。ここで、透明または半透明とは、可視域の波長の光に対する透過率が、70%〜100%の範囲内であることを意味し、透過率の下限値は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。樹脂層50の膜厚としては特に限定されないが、加飾層40の保護、加熱プレス加工時の引きちぎれ防止等を考慮して、30μm〜1000μmの範囲内で、適宜選択することが好適である。また、樹脂層50を構成する樹脂材料としては、透明または半透明の公知の樹脂材料から、加熱プレス工程の実施に際して、加飾層40に凸部40Tが形成しやすく、かつ、可動部取付用帯状部材10が屈曲変形に繰り返し曝されても割れが生じにくい特性を有するものを利用できる。このような樹脂材料としては、熱可塑性ポリウレタン、熱硬化性ポリウレタン、あるいは、熱可塑性エラストマーが好ましく、これら3種類の樹脂材料の中でも、高低差Hおよび比(H/W)の大きい凸部42の形成がより容易な熱可塑性ポリウレタンが特に好ましい。また、熱可塑性ポリウレタンとしては、JIS K 7311に基づき測定された硬度が65A〜97Aの範囲内である、ポリエステル構造部分がポリカーボネート系のポリエステル無黄変ポリウレタンが好ましい。
【0058】
−キャリアシート−
キャリアシート114としては、可動部取付用帯状部材10の作製過程において、軟質層112または樹脂層50と、加飾層40とを支持する強靭性、加熱プレス工程および一体形成工程における加熱処理にも劣化しない耐熱性、および、一体成形工程を終えた後に、樹脂層50からキャリアシート114を剥離する際の剥離性、に優れた材料から構成されるシートを用いることができる。このようなシートとしては、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、塩化ビニールフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、紙などを利用でき、これらの中でも強靭性、耐熱性および剥離性をバランス良く両立させることができる観点からPETフィルムを用いることが好ましい。なお、剥離性を確保または向上させる観点から、キャリアシート114の軟質層112が設けられる面には、離型剤が塗布されていてもよい。また、キャリアシート114の厚みは特に限定されないが、強靭性を確保するなどの観点から下限値は30μm以上であることが好ましく、上限値は、実用上の観点から160μm以下であることが好ましい。
【0059】
<可動部取付用帯状部材の利用態様>
本実施形態の可動部取付用帯状部材10は、人間やペット等の動物の手足などの可動部あるいは、その他の可動部であって人の目にも触れることが多く、何がしかのデザイン性が付与されていた方が好ましい部位に取り付けられるバンドや、ベルト等として利用できる。また、本実施形態の可動部取付用帯状部材10は、その利用に際して表裏面が人の目に触れるリバーシブルタイプでもよい。この場合、基材20の両面に、図1、図6または図7に例示したように、熱硬化性材料30、加飾層40、樹脂層50を設けることが好ましい。
【0060】
本実施形態の可動部取付用帯状部材10の利用態様の具体例としては、代表的には、機械式またはクオーツ式の腕時計用のバンドが挙げられるが、その他にも、時計機能、電話機能、撮像機能、音楽再生機能、画像再生機能、心拍数表示機能等から選択される少なくとも1つ以上の機能を有する腕巻型電子機器用のバンド、プール、公衆浴場、温泉などで用いられる鍵保持バンド用等のバンドとして利用することもできる。
【0061】
たとえば、本実施形態の可動部取付用帯状部材10が腕時計用のバンドとして利用される場合、図8に例示すように、腕時計200は、バンド取付部210A、210Bを有する腕時計本体部分210と、バンド取付部210A、210Bに取り付けられた本実施形態の可動部取付用帯状部材10D(10)、10E(10)とを少なくとも備える。なお、図中、可動部取付用帯状部材10D、10Eの外観デザインについては記載を省略してある。また、図8に示す腕時計本体部分210は、機械式時計でもよく、クォーツ式時計でもよい。ここで、図8に示す例では、可動部取付用帯状部材10Dは、その一方の端が腕時計本体部分210の一方のバンド取付部210Aに取り付けられ、他方の端には、留め具220が設けられている。また、可動部取付用帯状部材10Eは、その一方の端が腕時計本体部分210の他方のバンド取付部210Bに取り付けられると共に、その幅方向の中央部に、長手方向に沿って、複数個の穴230が等間隔に設けられている。
【0062】
また、本実施形態の可動部取付用帯状部材10が腕巻型心拍計用のバンドとして利用される場合、腕巻型心拍計は、バンド取付部を有する心拍数表示部本体部分と、バンド取付部に取り付けられた本実施形態の可動部取付用帯状部材とを少なくとも備える。ここで、心拍数表示部本体部分は、内部の機能・構造が異なる以外は、図8に示す腕時計本体部分210と略同様の外観形状・大きさを有するものが利用できる。この腕巻型心拍計は、たとえば、人間の胴体等に取り付けられたトランスミッターから送信される心拍数を心拍数表示部本体部分の表示部に表示することができる。
【0063】
なお、上記に例示した以外にも、図8に示す腕時計本体部分210の代わりに、電話機能、撮像機能、音声再生機能、画像再生機能等の機能を有し、かつ、腕時計本体部分210と同程度のサイズの電子機器本体部分を備えた腕巻型電子機器としてもよい。また、当該腕巻型電子機器は、時計機能、心拍数表示機能、撮像機能、音声再生機能、画像再生機能等に例示されるような各種の小型または携帯型の電子機器で実現される機能を少なくとも2つ以上有するものであってもよい。
【0064】
また、本実施形態の可動部取付用帯状部材10が鍵保持バンド用のバンドとして利用される場合、鍵保持バンドは、鍵と、鍵を保持する鍵保持部と、鍵保持部と接続された本実施形態の可動部取付用帯状部材10を少なくとも備える。ここで、鍵保持部は、その構造・機能・外観形状が異なる以外は、図8に示す腕時計本体部分210と略同程度のサイズを有するものが利用できる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみに限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
−加飾層の形成−
図1に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Aを以下の手順で作製した。まず、透明な熱可塑性ポリウレタンフィルム(厚み100μm、モビロンフィルム、キャリアシート(厚み75μm)付き、日清紡ケミカル社製)の片面に、熱転写印刷を行うことにより所定の色模様からなるインク層から構成される加飾層を形成したシートを準備した。
【0067】
−加熱プレス加工−
次に、一対のプレス金型を用いて、このシートに対して加熱プレス加工を実施した。ここで、一対のプレス金型としては、一方のプレス金型(上型)のプレス面は平坦面であり、他方のプレス金型(下型)のプレス面には、高さ0.07mmの凸部が設けられているものを用いた。なお、この凸部は、升目模様状に設けられており、升目の各片を構成している部分の幅は0.53mmである。また、加熱プレス加工に際しては、シートの加飾層が設けられた面と、凸部が設けられたプレス面とが対向するように、シートを、一対のプレス金型の間に配置した。また、加熱プレス加工の条件は、金型温度:100℃、プレス時間:15秒とした。そして、この加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.062mm、幅0.505mmの升目状の凹部が形成された。
【0068】
−未硬化状態の熱硬化性材料の付与および切断加工−
続いて、スクリーン印刷により、加熱プレス加工後のシートの加飾層が設けられた側の面に対して、凹部も含めて全面に、シリコーン系熱硬化型エラストマー(信越化学株式会社製、X−33−518(A/B))を付与した。凹部以外の平坦面上に存在するシリコーン系熱硬化型エラストマー層の厚みは、10μmであった。その後、さらに、レーザー切断により、シリコーン系熱硬化型エラストマー層が印刷されたシートを、帯状に切断した。
【0069】
−一体成形加工−
次に、帯状に切断されたシートを、シリコーン系熱硬化型エラストマー層が形成された面を上面として、成型用金型の底面に配置した後、液状シリコーンゴム(信越化学株式会社製、KE−1950−70 A/B)を成形用金型内に充填して、基材とシートとを一体的に成形した。なお、一体成形加工を行う際の条件は、金型温度:130℃、成形時間:260秒とした。そして、一体成形加工を終えた後に、キャリアシートを剥離することで可動部取付用帯状部材10Aを得た。
【0070】
(実施例2)
下記(1)および(2)に示す事項以外は、実施例1と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図6に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Bを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.065mm、幅0.497mmの升目状の凹部が形成されていることが確認された。
(1)加飾層の形成に際して用いた透明な熱可塑性ポリウレタンフィルムとして、厚み300μmのモビロンフィルム(日清紡ケミカル社製、キャリアシート(厚み75μm)付き、)を用いた。
(2)加熱プレス加工に際して用いた上型として、プレス面が緩やかに湾曲した凹面を有するものを用い、加熱プレス加工の条件を、金型温度:130℃、プレス時間:30秒とした。
【0071】
(実施例3)
加飾層の形成に際して用いた透明な熱可塑性ポリウレタンフィルムとして、厚み50μmのモビロンフィルム(日清紡ケミカル社製、キャリアシート(厚み75μm)付き)を用いた以外は、実施例1と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図7に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Cを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.063mm、幅0.502mmの升目状の凹部が形成されていることが確認された。
【0072】
(実施例4)
加熱プレス加工に際して、下型としてプレス面に平面形状が帯状の凸部(凸高さ:1.5mm、幅:5.4mm)が設けられたものを用いた。また、上型としては、上型プレス面に設けられた凸部と対応する位置のプレス面に平面形状が帯状の凹部(凹深さ:1.5mm、幅:5.4mm)が設けられたものを用いた。そして、この点以外は、実施例1と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図7に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Cを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ1.470mm、幅5.380mmの帯状の凹部が形成されていることが確認された。
【0073】
(実施例5)
下型プレス面の凸部の凸高さおよび上型プレス面の凹部の凹深さを5mm、下型プレス面の凸部および上型プレス面の凹部の平面形状を幅6mmの帯状とした以外は、実施例4と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図7に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Cを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ4.990mm、幅5.970mmの帯状の凹部が形成されていることが確認された。
【0074】
(実施例6)
下型プレス面の凸部の幅を17.5mmとした以外は、実施例1と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図1に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Aを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.064mm、幅17.43mmの升目状の凹部が形成されていることが確認された。
【0075】
(実施例7)
加飾層の形成に際して用いた透明な熱可塑性ポリウレタンフィルムとして、厚み100μm、キャリアシート75μm付、ハイグレス(シーダム株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図1に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Aを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.065mm、幅0.502mmの升目状の凹部が形成されていることが確認された。
【0076】
(実施例8)
未硬化状態の熱硬化性材料として、シリコーン系室温硬化型エラストマー(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、TSE3351)を用いた以外は、実施例1と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図1に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Aを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.063mm、幅0.505mmの升目状の凹部が形成されていることが確認された。
【0077】
(実施例9)
一体成形加工に用いる基材用材料として液状シリコーンゴム(信越化学株式会社製、KEG−2000−70 A/B)を用いた以外は、実施例1と同様にして、加飾層の形成、加熱プレス加工、未硬化状態の熱硬化性材料の付与、切断加工、および、一体成形加工を実施した。これにより、図1に示す層構成を有する可動部取付用帯状部材10Aを得た。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.065mm、幅0.505mmの升目状の凹部が形成されていることが確認された。
【0078】
(比較例1)
シリコーン系熱硬化型エラストマーのスクリーン印刷を省略した以外は実施例1と同様にして、可動部取付用帯状部材を作製した。なお、加熱プレス加工を行うことで、シートの加飾層が設けられた側の面には、深さ0.062mm、幅0.501mmの升目状の凹部が形成されていることが確認された。
【0079】
<評価>
各実施例および各比較例で得られたサンプルについては、所定の色模様からなるデザインが施された面の外観を目視観察して、所定の色模様からなるデザインが施された面の加飾層表面の色模様の立体感の有無および程度、および、デザインが施された面の窪みの有無を評価した。また、サンプルを切断して、断面を光学顕微鏡にて観察し、凸部40Tの存在の有無、高低差H、幅W、加飾層40の引きちぎれの有無を評価すると共に、比(H/W)を求めた。さらに、サンプルを繰り返し屈曲させた後のデザインが施された面の割れの有無を観察した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
なお、表1に示す、「立体感」および「窪み」の評価方法および評価基準は以下の通りである。
【0082】
−立体感−
サンプルのデザインが施された面(デザイン面)を目視観察し、実施例1のサンプルを基準サンプル(評価B)として、立体感を以下の基準で相対的に評価した。
A:高い立体感がある。
B:立体感がある。
C:多少の立体感がある。
D:全く立体感が無い(通常の平面印刷により形成された色模様と同様)
【0083】
−ひけ−
サンプルのデザイン面を目視観察し、一体形成時の基材の体積収縮に起因する局所的な窪みの存在の有無およびその程度を以下の基準で評価した。
A:デザイン面に窪みは全く観察されない。
B:若干の窪みが観察されるが、デザイン面の審美性を損なうレベルでは無い。
C:デザイン面の審美性を損なう顕著な窪みが観察される。
【符号の説明】
【0084】
10、10A,10B、10C、10D,10E 可動部取付用帯状部材
20 基材
30 熱硬化性材料
40 加飾層
40T 凸部
40B (加飾層40の凸部40T以外の)その他の部分
44 (加飾層40の)表面
46 (加飾層40の)裏面
50、50A、50B、50C 樹脂層
50T 凸部
52 表面
100、100A、100B シート
102 (シート100を構成する加飾層40の)表面(裏面46に対応する面)
104 凹部
106 表面(シート100Bの未硬化状態の熱硬化性材料140が塗布された面)
108 表面(表面106と反対側の面)
110 樹脂フィルム
112 軟質層(樹脂層50Aとなりうる層)
114 キャリアシート
120 第一のプレス金型
122 プレス面
124 凸部
130 第二のプレス金型
132 プレス面
140 未硬化状態の熱硬化性材料
200 腕時計
210 腕時計本体部分
210A、210B バンド取付部
220 留め具
230 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム、熱硬化性ポリウレタン、および、熱可塑性ポリウレタンから選択される材料を含み、弾性を有する帯状の基材と、
該基材の少なくとも片面上に設けられた加飾層と、
該加飾層を被覆する透明または半透明の樹脂層と、を少なくとも有し、
上記加飾層の一部が、上記加飾層のその他の部分に対して、上記加飾層の上記基材が配置された側と反対側に突出するように凸部を形成し、
少なくとも、上記加飾層の上記凸部を形成している部分と上記基材との間に、熱硬化性材料が充填されていることを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項2】
請求項1に記載の可動部取付用帯状部材において、
上記加飾層の、上記凸部を形成している部分と、その他の部分との高低差Hが、0.05mm〜14mmの範囲内であることを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の可動部取付用帯状部材において、
前記凸部の幅Wに対する前記高低差Hの比(H/W)が、0.005〜14の範囲内であることを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材において、
前記基材の幅方向における前記樹脂層断面の、前記樹脂層の前記基材が設けられた側と反対側の輪郭線が、前記基材に対して凸を成す円弧形状を有することを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材において、
前記加飾層の一部に形成された凸部に対応させて、前記樹脂層の表面に凸部が形成されていることを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材において、
前記樹脂層が熱可塑性ポリウレタンを含むことを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材において、
前記基材がシリコーンゴムを含むことを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材において、
腕時計用バンド、腕巻型電子機器用のバンド、および、鍵保持バンド用のバンドから選択されるいずれか1つのバンドとして用いられることを特徴とする可動部取付用帯状部材。
【請求項9】
バンド取付部を有する腕時計本体部分と、上記バンド取付部に取り付けられた請求項1〜8のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材とを含むことを特徴とする腕時計。
【請求項10】
バンド取付部を有する電子機器本体部分と、上記バンド取付部に取り付けられた請求項1〜8のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材とを含むことを特徴とする腕巻型電子機器。
【請求項11】
鍵と、該鍵を保持する鍵保持部と、該鍵保持部と接続された請求項1〜7のいずれか1つに記載の可動部取付用帯状部材とを含むことを特徴とする鍵保持バンド。
【請求項12】
樹脂フィルムの片面に加飾層を形成する加飾層形成工程と、
プレス面に凸部を有する第一のプレス金型と、第二のプレス金型との間に、上記樹脂フィルムと加飾層とを含むシートを、加飾層が設けられた面が上記第一のプレス金型のプレス面側に対向するように配置した後に、第一のプレス金型と、第二のプレス金型とにより加熱プレスする加熱プレス工程と、
少なくとも、上記加熱プレス工程を経て上記第一のプレス金型のプレス面の凸部に対応して形成された上記加飾層表面の凹部内を充填するように、未硬化状態の熱硬化性材料を塗布する熱硬化性材料付与工程と、
成型用金型の底面に、上記加飾層表面の少なくとも凹部内に対して上記未硬化状態の熱硬化性材料が塗布されたシートを、当該シートの上記未硬化状態の熱硬化性材料が塗布された面と反対側の面が上記底面と対向するように配置した後に、上記成形用金型内に、基材形成用材料を充填し、加熱することで、上記シートと基材とを一体的に成形する一体形成工程と、
を少なくとも経て、可動部取付用帯状部材を製造することを特徴とする可動部取付用帯状部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−11135(P2012−11135A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153280(P2010−153280)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】