説明

可変インダクタ

【課題】機械的駆動によることなくインダクタンス値を任意に可変できる可変インダクタを提供する。
【解決手段】コイル11の中に、積層セラミックコンデンサ12を備えており、積層セラミックコンデンサ12の電極13には、直流電圧(DCバイアス)が印加されている。積層セラミックコンデンサ12は、直流電圧(DCバイアス)が印加されると、誘電率εと透磁率μが変化し、静電容量が変化する。透磁率μが変化することによりコイル11のインダクタンス値も変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンス特性を任意に調整できる可変インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の可変インダクタは、コイルの中に挿入する磁性体コアを出し入れしてインダクタンス特性を任意に可変していた。これは、機械的駆動によりコイルの中に磁性体コアを出し入れするために、小型化には不向きである。したがって、現在でも、基本的に可変インダクタは利用されていない。
なお、従来技術として、無線機の送信部とアンテナとの間のインピーダンス整合をとる整合回路素子として用いられる可変インダクタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−55733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、現在でも、基本的には機械的駆動による可変インダクタは利用されていない。そのため、無線機における周波数チューニングでは、固定インダクタと可変コンデンサが用いられているが、固定インダクタと可変コンデンサにより周波数チューニングを行うにしても、小型化には限界があるため、機械的駆動のない小型化が可能な可変インダクタが必要とされている。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、機械的駆動によることなくインダクタンス値を任意に可変できる可変インダクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る可変インダクタは、コイル内部に、誘電率および透磁率が変化するコンデンサを備えることを特徴とする。
【0007】
第1の態様に係る可変インダクタにおいて、前記コンデンサに電圧を印加することにより前記誘電率および透磁率が変化することが好ましい。
【0008】
第1の態様に係る可変インダクタにおいて、前記コンデンサは、積層セラミックコンデンサであることが好ましい。また、前記積層セラミックコンデンサには、F特性品に相当する誘電体が用いられることが好ましい。
【0009】
また、本発明の第2の態様に係る可変インダクタは、誘電率および透磁率が変化するコンデンサの内部にコイルを備えることを特徴とする。
【0010】
第2の態様に係る可変インダクタにおいて、前記コイルを複数有し、前記コイルそれぞれは、直列接続されていることが好ましい。
【0011】
第2の態様に係る可変インダクタにおいて、前記コイルを複数有し、前記コイルそれぞれは、並列接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、積層セラミックコンデンサに印加する電圧を可変することにより、コイル内部の誘電率、透磁率が変化するので、機械的駆動によることなくインダクタンス値を任意に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】積層セラミックコンデンサの静電容量の変化特性を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る可変インダクタの構成を示す図である。
【図3】インダクタンス値が変化することを確認するために用いたコルピッツ型の発振回路を示す図である。
【図4】発振周波数の変化量を示す図である。
【図5】コイルがコンデンサに内蔵された可変インダクタの構成の一例を示す図である。
【図6】コイルがコンデンサに内蔵された可変インダクタの構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の可変インダクタの実施の形態について説明する前に、積層セラミックコンデンサの特性について説明する。図1は、積層セラミックコンデンサの静電容量の変化特性を示す図である。縦軸は静電容量変化率(%)を示しており、横軸は直流電圧(V)を示している。誘電体材料にチタン酸バリウム(BaTiO)を使う高誘電率系の積層セラミックコンデンサは、図1に示すように、積層セラミックコンデンサに直流電圧(DCバイアス)を印加すると、高容量コンデンサでは、静電容量がそのバイアスと共に変化する性質を有している。例えば、定格電圧が10Vで静電容量が10μFの積層セラミックコンデンサに直流4Vを印加すると、B特性品の場合は静電容量が約20%減少し、F特性品の場合は静電容量が約80%減少する。図1からF特性品が特に静電容量の減少が大きいことが分かる。
【0015】
積層セラミックコンデンサの静電容量が印加電圧によって変化するのは、バイアス電圧の印加により見かけ上の誘電率εが変化するからである。
静電容量Cは、
C=εS/D
ε:誘電率
S:電極面積
D:電極間距離
で表される。積層セラミックコンデンサに、直流電圧(DCバイアス)を印加することにより、静電容量Cが変化するということは、電極面積Sおよび電極間距離Dは一定であるから、積層セラミックコンデンサ12の見かけ上の誘電率εが変化しているということである。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態に係る可変インダクタの構成を示す図である。コイル11の内部に、積層セラミックコンデンサ12を備えており、積層セラミックコンデンサ12の電極13には、直流電圧(DCバイアス)が印加されている。可変幅を大きくする場合には、積層セラミックコンデンサ12には、静電容量の変動の大きいF特性品に相当する誘電体を用いることが好ましい。
【0017】
積層セラミックコンデンサ12の電極13に、直流電圧(DCバイアス)が印加され、積層セラミックコンデンサ12の見かけ上の誘電率εが変化すると、誘電率εと透磁率μとの間には、
εμ=1/v
v:媒質中の光速
の関係があるので、それに伴い見かけ上の透磁率μも変化することになる。そうすることにより、コイル11の内部の積層セラミックコンデンサ12の透磁率μが変化することになり、インダクタンスLは、
L=μSN/d
S:コイルの断面積
N:コイルの巻数
d:コイルの長さ
で表されるので、透磁率μが変化することによりインダクタンスLも変化することになる。
【0018】
上述のように、積層セラミックコンデンサ12に印加する直流電圧(DCバイアス)を可変することにより、コイル内部の誘電率、透磁率が変化するので、図2で示した可変インダクタは、機械的駆動によることなくインダクタンス値を任意に変化させることができる。
【0019】
図3は、積層セラミックコンデンサの電極に印加する直流電圧(DCバイアス)を変化させたときに、積層セラミックコンデンサを内部に備えたコイルのインダクタンス値が、実際に変化することを確認するために用いたコルピッツ型の発振回路を示す図である。図3の回路にて、積層セラミックコンデンサの電極に印加するDCバイアスを1Vずつ増加させたときの、Vout における発振周波数を観測した。表1に発振周波数の測定結果と発振周波数の変化量を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
図4は、表1をグラフ化させたもので、DCバイアスが0Vのときの発信周波数を基準にした発振周波数の変化量を示す図である。横軸が印加電圧(V)を示し、縦軸が変化量(ppm)を示す。DCバイアスを大きくしていくと、コイルのインダクタンス値が大きくなる方向に動き、発振周波数が下がっていることが実験的に確かめられた。
【0022】
表2は、測定結果の発信周波数から算出したコイルのインダクタンス値Lとインダクタンス値の変化量を示している。
【表2】

【0023】
図1に示す積層セラミックコンデンサの静電容量の変化特性と比較すると、静電容量の変化量と桁数が違うが、インダクタンス値が、変化していることが分かる。インダクタンス値の変化量が小さいのは、積層セラミックコンデンサは、印加電圧による電極間誘電率の変化により、容量値が変化しても、コイルは、コンデンサの周囲に巻き回しているため、誘電率変化の影響を間接的にしか受けないためである。
【0024】
また、DCバイアスを変化させたときに発振周波数の特性のみが変化し、他の特性に影響を与えていないことも確認できた。これにより、積層セラミックコンデンサへ印加するDCバイアスを可変とすることにより、コイルのインダクタンス値のみを可変できることが確認できた。
【0025】
また、本発明は、コンデンサの内部電極でコイルを形成し、コンデンサに内蔵するようにしてもよい。図5は、コイルがコンデンサに内蔵された可変インダクタの構成の一例を示す図である。積層セラミックコンデンサ22の内部に、コイル21を備えており、積層セラミックコンデンサ22の電極23には、直流電圧(DCバイアス)が印加される。
【0026】
図6は、コイルがコンデンサに内蔵された可変インダクタの構成の他の例を示す図である。積層セラミックコンデンサ32の内部に、多層パターンで複数個のコイル31が形成されており、積層セラミックコンデンサ32の電極33には、直流電圧(DCバイアス)が印加される。コイル31を直列接続することで、大きなインダクタンス値の可変インダクタを形成することができる。また、コイル31を並列接続することで、電流容量の大きな可変インダクタを形成することができる。
【0027】
なお、上述した実施形態では、コイル内部、または外部に、積層セラミックコンデンサを備えているが、本発明は、積層セラミックコンデンサに限らず、印加電圧によって誘電率、透磁率が変化するものであれば、どのようなコンデンサでもよい。
【符号の説明】
【0028】
11、21、31 コイル
12、22、32 積層セラミックコンデンサ
13、32、33 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル内部に、誘電率および透磁率が変化するコンデンサを備えることを特徴とする可変インダクタ。
【請求項2】
前記コンデンサに電圧を印加することにより前記誘電率および透磁率が変化することを特徴とする請求項1に記載の可変インダクタ。
【請求項3】
前記コンデンサは、積層セラミックコンデンサであることを特徴とする請求項1に記載の可変インダクタ。
【請求項4】
前記積層セラミックコンデンサには、F特性品に相当する誘電体が用いられていることを特徴とする請求項3に記載の可変インダクタ。
【請求項5】
誘電率および透磁率が変化するコンデンサの内部にコイルを備えることを特徴とする可変インダクタ。
【請求項6】
前記コイルを複数有し、
前記コイルそれぞれは、直列接続されていることを特徴とする請求項5に記載の可変インダクタ。
【請求項7】
前記コイルを複数有し、
前記コイルそれぞれは、並列接続されていることを特徴とする請求項5に記載の可変インダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−204491(P2012−204491A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66158(P2011−66158)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】