説明

可撓性で多孔性の構造をもつ抗菌性埋入物

【課題】 生体適合性合成材料からなる可撓性で多孔性の構造をもつ抗菌性埋入物が、長期持続的抗菌効果を有するようにする。
【解決手段】 本発明は、生体適合性合成材料からなる可撓性で多孔性の構造をもち、少なくとも1種の抗菌剤の粒子を含有する抗菌性埋入物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性合成材料からなる可撓性で多孔性の構造をもつ抗菌性埋入物(インプラント)に関する。
【背景技術】
【0002】
人工血管などの埋入物に、一次感染あるいは二次感染を抑制するために抗菌性仕上げを施す傾向が最近増大している。たとえば、US5,019,096は、種々のタイプの感染抵抗性埋入物を作成する方法を記載している。この目的で、埋入物あるいはカテーテルやゴム手袋などの他の医療用品の表面に、相乗作用を呈する量の銀塩およびビグアニド化合物を含有する被覆材が施される。
【0003】
EP0184465は、基材表面に少なくとも1種の熱可塑性ポリウレタン層が設けられ、それが植込み・移植後に血栓形成や感染を回避するため適切であれば抗血栓症薬および抗生物質を含有していてもよい、熱可塑性ポリウレタン製品を開示している。
【0004】
DE10043151A1は、抗菌活性をもつ骨セメントを記述している。この活性は、セメント材料中の2重量%までの量のナノまたはミクロ分散性の銀によって生じる。DE4344306A1は、表面におよび/またはその下に金属銀を有する合成材料製物質を記載している。この物質、たとえば管は、金属銀のコーティングを有していてもよい。押出し用組成物中に銀粉末を配合することも可能である。WO2004/060210A1は、PTFE粒子を発泡・膨張PTFEからなる人工器官に加工するに先立ち、それら粒子を放射線不透過性物質、たとえば銀の粒子と混合することによって、放射線不透過性人口血管を製出することを開示している。銀粒子がPTFE粒子自体の中に包埋されていないために、ここでは銀粒子が血流中に放出されるという危険があるということは別にしても、変形・変種の可能性は限られている。
【0005】
WO96/03165A1は、微細孔性膜またはメッシュ生地の形態の多孔性構造をもつヘルニアインプラントを記載している。この多孔性構造には、抗菌剤を含む吸収されうる材料を含浸させてもよい。
【0006】
EP0633032B1には、管状多孔性物質からなる人工血管が、該人工血管の表面の一部が被覆されないように、人工血管のまわりに抗菌性物質を付与された高分子材料からなる管、繊維またはシートを巻きつけることによって、抗菌仕上げを施される。
【0007】
WO98/31404では、生体組織または生体高分子からなる人工器官が、該人工器官に銀イオンを含む外来性材料を付与することによって抗菌仕上げを施される。
【特許文献1】US5,019,096
【特許文献2】EP0184465
【特許文献3】DE10043151A1
【特許文献4】DE4344306A1
【特許文献5】WO2004/060210A1
【特許文献6】WO96/03165A1
【特許文献7】EP0633032B1
【特許文献8】WO98/31404
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体適合性合成材料からなる可撓性で多孔性の構造をもつ抗菌性埋入物を、簡易に、長期持続的抗菌効果が達成されるように、製造するという目的に基づいている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、埋入物の合成材料中に抗菌剤が存在することによって達成される。
【発明の実施の形態】
【0010】
本発明は、少なくとも1種の抗菌剤の粒子を含有する生体適合性合成材料からなる可撓性で多孔性のウェブ構造をもつ抗菌性埋入物に関する。該合成材料が抗菌剤を含有している、すなわち繊維ウェブの繊維内に含有していることにより、のちに特別なコーティングを施す必要なしに、既知の手法によって該多孔性埋入物を製造することが可能である。本発明の埋入物の細孔がふさがれていない、すなわち抗菌剤を含有するコーティング材料によっても、抗菌剤粒子そのものによっても閉塞されていないことも、本発明の重要な一つの利点である。本発明の埋入物は、さらに、常法によって取扱い、処理することもできる。すなわち、それは、通常の方法によって、とりわけエチレンオキシドによって、滅菌できる。
【0011】
本発明の埋入物は、扁平人工器官、たとえば、とりわけ創傷を被覆するまたは閉じるためのパッチとして設計できる。かくして、それをヘルニアインプラントとして設計できる。該人工血管は、ヒトまたは動物の身体の中空器官に置換えるための中空器官として設計することも有利である。かくして、本発明の好ましい実施形態では、本発明の埋入物は、人工血管として設計される。本発明に従った好適な中空器官は、可撓性で多孔性の管、とりわけ2〜38mmの内径をもつもの、と定義される。内径が2〜24mm、とりわけ2mmから14mm未満の小内腔管がとくに好適であることがわかる。該多孔性構造は、微細孔構造、とりわけ透気度が圧力差1.2kPaで5〜500ml/cm/分であるものであることが好ましい。該構造、とくに三次元構造の多孔度は、適当な生産プロセスによって調節できる。かくして、10〜200ml/cm/分、とりわけ10〜100mlまたは100〜200ml/cm/分の範囲内で、好ましい多孔度を調節することができる。
【0012】
前記生体適合性合成材料は、有利には、非吸収性合成材料である。かくして、本発明の埋入物は、長期持続性である。該合成材料は、それが分解性でなくても、抗菌効果を示すのに十分な量の抗菌剤を放出できることが明らかになっている。生体適合性合成材料として有利に好適なのは、熱によって可塑化できる合成材料、とくに熱可塑性プラスチックである。有機溶媒に可溶性の合成材料も好適である。かくして、有利に好適な合成材料は、ポリエステル類、たとえばダクロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリ弗化ビニリデン、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリウレタンである。用途によっては、ポリウレタン、ポリプロピレンなどの疎水性の合成材料が好ましい。
【0013】
本発明の埋入物は、好ましくは、薄壁のものとして設計され、とりわけ0.1〜2mm、好ましくは0.3〜0.6mmの壁厚をもつ。
【0014】
本発明によれば、前記可撓性で多孔性のウェブ構造は、不織布材料、すなわち編物材料でも織物材料でもない材料である壁材料によって形成される。材料適用によって製出された繊維ウェブ、とりわけ吹付けウェブやメルトブローンウェブがとくに有利である。かかるウェブ製造のための諸方法が既知である。
【0015】
前記した少なくとも1種の抗菌剤の粒子は、上記合成材料中に実質的に均一に分散させることができ、有利である。この均一性は、該ウェブ構造の個々の各繊維を構成する合成材料に関するものであることが好ましい。繊維が所在する位置に応じて、それらが、ウェブ構造中の他の位置にある繊維濃度と異なる薬剤濃度をもっていてもよい。特定の実施形態では、該少なくとも1種の抗菌剤の粒子が埋入物の少なくとも1つの表面で富化・濃縮されていることが望まれることもありうる。このタイプの構成は、ここで利用可能な製造手法、たとえば吹付け(スプレー)手法によって容易に生じさせることができる。ウェブ構造の製出に際して、とりわけ抗菌剤粒子の濃度が異なる別の合成材料溶液または溶融液を用いて操作することが可能である。該溶液または溶融液は、異なるスプレーガンから流出させることができる。それによって、埋入物の層構造が可能になる。前記の異なる濃度は、合成材料中の異なる量の粒子によっておよび/または異なる粒子寸法によって惹起させることができる。
【0016】
抗菌剤粒子の大きさは、ナノメートル領域にあることが好ましい。50〜100nmの粒度がとくに好適である。それらの粒子は、結び付けられて、とりわけ5〜10μmの寸法をもっていてよい集合体を形成していてもよい。抗菌作用をもつ粒子の材料としてとくに好適なのは、抗菌作用をもつ金属または金属合金であり、金属銀がとくに好ましい。銀の傑出した抗菌作用はよく知られている。好適な銀粒子が、たとえばWO02/17984A1に記載されている。本発明の埋入物の合成材料中の少なくとも1種の抗菌剤の粒子の含量は、広い範囲内で変えることができる。その含量は、好ましくは0.1〜10重量%、とりわけ0.2〜5重量%である。通常は、0.5〜2.5重量%の量がとくに好適である。
【0017】
本発明は、本発明の埋入物の製造方法に関するものでもある。そのプロセスでは、遅くとも埋入物多孔性ウェブ構造形成の間、好ましくはその前に、前記合成材料を前記抗菌剤粒子で処理する。基材への物質塗布によって、とりわけ吹付け手法によって、一回の操作で、少なくとも1種の抗菌剤の粒子を付与された合成材料から該埋入物を形成することが好ましい。既に述べたように、吹付けウェブ手法が、吹付け手法としてとくに好適である。既に少なくとも1種の抗菌剤の粒子を含有する生体適合性合成材料の溶液を、該吹付け手法を変更することなしに、加工処理することができる。薬剤粒子、とくにナノ粒子形態のものを、前記溶液中に均一に分散させることができる。とくに、メルトブロ−ンウェブ手法を適用して可撓性で多孔性のウェブ構造を製出するためには、合成材料の溶融物中にも該少なくとも1種の薬剤を配合することが可能である。
【0018】
本発明のさらなる特徴および利点は、従属請求項に関連した好ましい実施例の下記の記載から明らかである。なお、それらの特徴の各々を単独で実現することも、他のものと組合せて実現することも可能である。
【0019】
ポリウレタン製人工血管の製造
粒状ポリウレタン1200gとクロロホルム13500g(9リットル)を撹拌槽に入れ、約270rpmで72時間撹拌して、完全に溶解させる。
【0020】
つぎに、粒径が約50〜100nm(凝集して5〜10μm)のナノ銀73.5gを前記溶液に添加し、撹拌して均質化する(3時間)。得られた懸濁液を、2つのスプレーガン(たとえばクラウツベルガーA−7型)を通して、3.5バールの圧縮空気によって吹付ける。それらのガンは、350mm離して、300rpmで回転しているロールに対して60°の角度をなすように配置する。吹付けは、まず、ロールから23.5cmの距離からスプレーガンにより150サイクル、つぎに、ロールから11cmの距離から280サイクル、最後に、再度23.5cmの距離から280サイクル実施する。銀含量の異なる懸濁液を用いて操作することが可能で、とくに異なるサイクルでそうすることが可能である。銀含量はとりわけ人工血管壁内部よりも、人工血管の少なくとも1つの表面で、高くてもよい。吹付け過程完了後、ロールとウェブを有機溶媒に10秒間浸漬して、ウェブを完全に湿潤させる。5分間液をしたたらせて液切りしたのち、ウェブを回転させながら乾燥する。得られた人工血管の内径は6mm、外径は7mmである。それは、わずかに灰色をしている。
【0021】
このようにして製造した人工血管の銀含量は、6.1±0.4%である。まったく同様にして、吹付け溶液の銀含量を前もって調節すると、下記銀含量の人工血管が得られる:
銀含量0.1%の吹付け溶液→銀含量1.2%の人口血管
銀含量0.5%の吹付け溶液→銀含量6.1%の人口血管
銀含量1.0%の吹付け溶液→銀含量12.3%の人口血管
PU製人工血管の気孔率および細孔径
気孔率 50%(自由体積)
細孔径 細孔の95%が0.1〜100μmの間の細孔径をもつ。大部分(細孔の50%より多く)が1〜10μmの間の径をもつ。最も共有されている細孔径は1μmである。
【0022】
透水圧
方法: 試験対象人工血管を水で満たし、増大していく圧に曝露する。外面に水が認められると、直ちに圧を記録し、試験を中止する。この圧が透水圧である。PU製人口血管の透水圧は、250〜320mmHgである。
【0023】
2.抗菌活性試験
1)試験方法
検体を、試験対象菌株の細胞とともにインキュベートし、娘細胞の周囲への増殖を、光学濃度によって確認する。
【0024】
試験菌株
スタフィロコッカス・エピデルミディス9142(〜10CFU/ml)
2)操作法
人工血管を、大きさ7x4mmの試験片に切断し、試験片当りn=8の回数で調査を行なった。
【0025】
試験を、さらに1回、ヒト血漿中でプレインキュベーションを行なって、さらに1回はそれを行なわないで、実施した。ヒト血漿中でのプレインキュベーションの際には、試料をその中で、37℃で2時間インキュベートしたのち、リン酸緩衝液で洗った。
【0026】
すべての試験片を、試験菌株の細胞とともに、最初37℃で1時間インキュベートして、細胞を試験片表面に完全に付着させた。該表面に付着していない微生物を、リン酸緩衝液で1回洗って除去した。つぎに、それらの試験片を、試験菌株の細胞とともに、37℃でさらに24時間インキュベートして、抗菌性を発揮させたのち、インキュベーション培地から取出した。
【0027】
残った細菌懸濁液中の増殖した娘細胞を、48時間にわたって、光学的に確かめ、ある特定の閾値を超えるのに要する時間を増殖遅延時間として示した。
【0028】
3)材料
銀配合ポリウレタン製人工血管
最初のPU/クロロホルム溶液を基準にした添加ナノ銀の含量は、0.1%、0.5%および1.0%(PU基準の重量百分率で1.2%、6.1%、12.3%)であった。
【0029】
4)結果
銀含有検体の増殖遅延は、銀不含検体の比較値からの銀含有検体の測定された時間差から明らかになる。
【表1】

【表2】

【0030】
ヒト血漿中での追加プレインキュベーションなしおよびありの双方ともに、銀不含ポリウレタン人工血管では、増殖した試験菌株の娘細胞がごく短時間後に検出されたが、銀を追加配合した人工血管では、増殖時間の顕著な遅延が生じている。
【0031】
これらの場合の抗菌活性は、銀濃度に依存し、かくして0.1%<0.5%<1.0%の順に増大している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性合成材料からなる可撓性で多孔性のウェブ構造をもつ抗菌性埋入物であって、少なくとも1種の抗菌剤の粒子を含有する埋入物。
【請求項2】
中空器官、とりわけ人工血管として設計されていることを特徴とする請求項1に記載の埋入物。
【請求項3】
平面状埋入物、とりわけパッチとして設計されていることを特徴とする請求項1に記載の埋入物。
【請求項4】
多孔性構造が微孔性構造であり、とりわけ圧力差が1.2kPaのときの空気透過率が5〜500ml/cm/分、好ましくは10〜200ml/cm/分のものであることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項5】
合成材料が非吸収性合成材料であることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項6】
合成材料が熱によって可塑化しうる合成材料、とりわけ熱可塑性プラスチックであることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項7】
合成材料が、溶媒に可溶性の合成材料であることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項8】
合成材料が疎水性合成材料であることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項9】
薄壁のものとして設計されており、とりわけ0.1〜2mm、好ましくは0.3〜0.6mmの壁厚みをもつことを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項10】
吹付けウェブとして設計されていることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項11】
メルトブローンウェブとして設計されていることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項12】
抗菌剤の粒子が、ウェブ構造の個々の繊維の合成材料中に均一に分散されていることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項13】
抗菌剤の粒子が、埋入物の少なくとも1つの表面で富化・濃縮されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の埋入物。
【請求項14】
表面に位置するウェブ構造の繊維が、表面より下に位置する繊維よりも高い抗菌剤粒子濃度を有することを特徴とする請求項13に記載の埋入物。
【請求項15】
少なくとも1種の抗菌剤の粒子が50〜100nmの粒度をもつことを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項16】
少なくとも1種の抗菌剤の粒子が、抗菌活性をもつ少なくとも1種の金属、とりわけ銀からなることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項17】
少なくとも1種の抗菌剤の粒子の含量が0.1〜10重量%、とりわけ0.2〜5重量%であることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の埋入物。
【請求項18】
先行請求項のいずれかに記載の埋入物を製造する方法であって、生体適合性合成材料を、遅くとも該埋入物の多孔性構造を成形する間、好ましくはその前に、該少なくとも1種の抗菌剤の粒子で処理することを特徴とする方法。
【請求項19】
少なくとも1種の抗菌剤の粒子を付与された合成材料からなる埋入物を一回の操作で、とりわけ基材への材料塗布によって形成することを特徴とする請求項18に記載の方法。

【公表番号】特表2008−514248(P2008−514248A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532832(P2007−532832)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010256
【国際公開番号】WO2006/032497
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(500122569)アエスクラップ アーゲー ウント コー カーゲー (9)
【Fターム(参考)】