説明

可撓性シャフトに曲線状経路を形成するケーシングを備えた回転運動伝達装置

【課題】振動を制限するために、内径が永久的な変形を有するケーシングを備えた回転運動伝達装置を提供する。
【解決手段】可撓性を備えたシャフト(2)と同シャフトが収容されるケーシング(3)からなる回転運動伝達装置。ケーシングは、ケーシング内でシャフトが回転できるように内径が設定されたプラスチック材料からなる中空体から形成され、中空体の壁は異なる厚さを有するため、ケーシングの一部が長手方向に延びる波状部(6)からなる内面(4)を備える。また、上記の伝達装置(1)を備えた自動車用シートの調整システムにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を伝達するための装置、及び同装置を備える自動車シート用の調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性を備えたシャフト、及びシャフトを収容するケーシングを備える回転伝達装置は周知である。
このような伝達装置、特に、自動車のシートを調整するための装置においては、ケーシング内のシャフトの回転速度は、2000rpmより多く、従来はほぼ3000rpmである。
【0003】
そのような速度で回転できるようにするためには、シャフトとケーシングとの間に、10分の数ミリメートルの間隙が必要である。しかしながら、このような間隙は、回転中に振幅の小さい振動を起こし、その振動がシャフトに沿って伝わり、不快なノイズを発生させ、身体に不快感を与える。
【0004】
振動に関するこの問題を解決するために、特許文献1は、そのケーシングが収縮した状態で少なくとも1つの変形を発生させる、即ち、ケーシングの直径が部分的に縮小するような回転伝達装置を提案している。この理由として、収縮がシャフトとケーシングとの間に強い接触を生じさせ、この接触により振動が制限されることが挙げられる。しかしながら、このような接触によりシャフトとケーシングとの間に大きな摩擦が生じ、本来の用途に必要な十分なシャフトの回転速度を得るためには、モータのトルクを増大させる必要が生ずる。更に、この摩擦はケーシングの変形部分の摩耗を早めることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−310730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、これらの問題を解決するために、ケーシングの内径を縮小することなく、振動を制限するように構成された永久的な変形を有するケーシングを備えた回転運動伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するため、及び第1の態様によれば、本発明は、可撓性を備えたシャフトと、同シャフトが収容されるケーシングとからなる回転運動を伝達するための装置に関する。ケーシングは、プラスチック材料からなる中空体から形成され、その内径は、ケーシングの内側でシャフトが回転できるように設定される。また、中空体の壁は異なる厚さを有するため、ケーシングの一部が長手方向に延びる波状の内面を有する。
【0008】
第2の態様において、本発明は、自動車の構造体に取り付けられた少なくとも1つの調整ランナーと、同ランナーにシートを固定するための調節可能な手段とを備える自動車のシートの調整システムに関する。同システムは、少なくとも1つの回転部分を備えた駆動モータを更に有し、また、駆動モータの出力部と固定手段との間に配置された上記の伝達装置を有して、出力部の回転に応じて調整ランナーに沿って固定手段を移動させる。
【0009】
本発明の他の目的及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより、明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による伝達装置のチューブ内に収容されたケーシングを示す長手方向における一部破断側面図。
【図2】図1のケーシングのみを示す長手方向における一部破断側面図。
【図3】他の実施例におけるケーシング内に収容されたシャフトを示す長手方向における一部破断側面図。
【図4】本発明による自動車シート用の調整システムを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、回転運動伝達装置1は、可撓性を備えたシャフト2及びケーシング3を備える。シャフト2は、ケーシング3内に収容され、その内径はケーシング3内でシャフト2が回転できるように設定される。
【0012】
本明細書において、「長手方向(longitudinal)」とは、図1及び2において示されるケーシング3の軸線Aに沿った方向である。
シャフト2の回転速度は、従来、約3000rpmである。この速度で回転できるようにするためには、シャフト2とケーシング3との間に10分の数ミリメートルの間隙が必要である。
【0013】
ケーシング3は、ポリウレタンなどのプラスチック材料から製造される。ケーシング3は、ピンの周囲にプラスチック材料を射出成形して製造されてもよい。
ケーシング3は、中空体から形成されており、内面4及び外面5を有する。内面とは、中空のシリンダーの壁を構成する面のことであり、ケーシング3の内側を構成する。
【0014】
中空体の壁は異なる厚さを有するため、内面4はケーシング3の少なくとも一部を覆って長手方向に延びる波状部6を有する。そのため、図1に示すように、ケーシング3とシャフト2との間の接触点7において、ケーシング3の内側にわずかに曲がった経路を形成し、接触点7は、ケーシングの軸線Aに対して対向し、軸線Aのいずれかの側に交互に位置する。これらの接触点7は、シャフト2の回転を低下させないで、振動の発生を抑制する。モータのトルクは、変形部分を備えていないケーシングに使用されるモータのトルクと類似しているため、ケーシング3の変形部分が早く摩耗することはない。また、ケーシング3とシャフト2との間に形成された間隙に、シャフト2を円滑に回動させるためのグリースを保存する部分8を形成してもよい。
【0015】
図3に示される一実施例において、波状部6は、ケーシング3の内側に向かって延び、少なくともケーシング3の一部に沿って配置される突出部19により形成される。同図において、複数の突出部19により、わずかに曲がった経路がケーシングの内側に形成される。複数の突出部19は、いずれの形状の断面を有してもよく、特に三角形、円形の一部、菱形の一部、又は四角形の一部から選択されてもよい。
【0016】
適切な方法で波状に形成されたピンの周囲でケーシングの成形が行われ、ケーシングが成形される間に波状部6が形成される。
一実施例において、波状部6はケーシング3の端部に構成され、ケーシングの残りの部分は、変形されていないケーシングと同様にほぼ円筒状の内面を有する。
【0017】
他の実施例によれば、特に5cm乃至10cmなどの短いケーシングにおいては、内面4全体に、ケーシングの全長に沿って延びる波状部6が構成される。
波状部6は、連続状に形成される。しかし、これは絶対的要件ではなく、非連続的な波状部を形成してもよい。
【0018】
図1及び図2に示される実施例において、ケーシングの外面5はほぼ円筒状である。従って、ケーシングは平坦な外面を有する。同実施例は、特に、図1に示すように、ケーシング3が、伝達装置1のケーシングとしてガイダンスチューブ9の内側を進む場合に適している。
【0019】
この理由として、特定の用途において、ケーシング3が、その外径とほぼ等しい内径を有する硬質のガイダンスチューブ9の内側を進むことが挙げられる。ケーシングの外面5も変形されている場合は、チューブ9は、同チューブを変形させようとする力に対して、逆方向への力でチューブ押しつぶすようにしてチューブ本来の形状を維持し、さらにはケーシング3の内部で曲線状経路の形成を抑制するために、ほぼ円筒状の外面5が構成される。
【0020】
一実施例において、ケーシング3の一端或いは両端は、チューブ9内に収容される。ケーシングは、図2に示すように、制限止め部10を形成する少なくとも1つの領域を有する。この領域10は、外面5から突出して延びる。ケーシング3の端部がチューブ内に挿入されると、チューブ9の端部は、止め部10を形成する領域に接触するため、チューブ内に進められるケーシングの長さが制限される。
【0021】
波状部6は、ケーシング3の内側に構成され、外面5は、ケーシング3を固定手段により支持部に固定できるように構成される。従って、ケーシング3の外面5は、異なる厚さを有するため、図3に示すように、支持部にケーシング3を固定する外部手段と共に領域20を形成する。固定手段とは、クリップやコネクタなどである。
【0022】
可撓性を備えたシャフトは、その周囲が切削加工されて平坦になっていてもよい。そのため、ケーシング3内のシャフト2の摩擦が減少されるため回転が生じる。可撓性を備えたシャフト2は、例えば、フランス国特許出願公開第0303034号明細書に記載された実施例に合わせてもよい。
【0023】
一実施例において、シャフト2は、基部と端部の自由端との間に延びる最大の長さを超えてハウジング内に収容される少なくとも1つの端部を有し、同端部は、ベース部と自由端との間に延びる頂部が平面に切断された螺旋形のピラミッド状をなす。シャフトは、例えば、フランス国特許出願公開第0351001号明細書に記載された実施例に合わせてもよい。
【0024】
従って、シャフト2の端部は、その自由端まで減少する断面を有する。そのため、シャフトの断面がハウジングの内壁に接触するまでシャフトの端部をハウジング内に挿入することにより、ハウジングと正確で間隙のない連結が構成できる。
【0025】
端部が螺旋状の場合、シャフト2は、頂部が平面に切断されたピラミッドの縁部がハウジングの壁に干渉することにより回転すると、ハウジング内に固定される。更に、そのような異なる断面により、シャフト2は異なるハウジングの寸法に適合できる。
【0026】
図4において、上記した回転運動伝達装置1を有する自動車シート11の調整システムについて説明する。
調整システム11は、自動車の構造体にある好適な手段(図示せず)により固定された2つのランナー12,13を有する。これらのランナーは、調整ノッチを有し、その機能については以下に述べる。
【0027】
ランナー12,13は、自動車シートのフレーム(図示せず)を支持し、同フレームのランナーに対する移動及び固定は、前記ノッチと協働する歯車をそれぞれ備えた縮小ギア14,15などの調節手段によって行われる。
【0028】
電気モータ16は、自動車の構造体、又は異なる態様において、シートのフレームに固定される。このモータ16は、2つの回転出力部17,18を有する。これらの出力部17,18は、本発明の回転運動伝達装置1により、縮小ギア14,15にそれぞれ連結される。
【0029】
伝達装置1は、可撓性を備えたシャフト2の端部を収容するハウジングにより、モータの出力部及び縮小ギアと連結する。端部とハウジングとは、端部の断面がハウジングの内壁と接触するまで端部を押すことにより、連結される。従って、可撓性を備えたシャフト2とハウジングとの間には間隙が生じないため、回転運動を効率よく伝達でき、システム11により発生するノイズを削減できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を備えたシャフト(2)と、同シャフトが収容されるケーシング(3)とからなる回転運動伝達装置であって、
前記ケーシングは、同ケーシング内で前記シャフトが回転できるように内径が設定されたプラスチック材料からなる中空体から形成されることと、
前記ケーシングの少なくとも一部が長手方向に延び、かつ、前記シャフトの回転時に同シャフトの振動の発生を抑制する波状部(6)からなる内面(4)を備えるように、前記中空体の壁は異なる厚さを有することと、
前記ケーシングは、円筒状の外面(5)を有することと、
前記ケーシングとシャフトとの間に、シャフトを円滑に回動させるためのグリースを保存する部分を更に備えることとを特徴とする回転運動伝達装置。
【請求項2】
波状部(6)は、ケーシング(3)の内側に向かって延びる複数の突出部(19)により形成されて、ケーシング(3)の少なくとも一部に沿って配置される請求項1に記載の伝達装置。
【請求項3】
複数の突出部(19)は、三角形、円形の一部、菱形の一部、又は四角形の一部から選択された断面形状を有する請求項2に記載の伝達装置。
【請求項4】
ケーシング(3)の一端又は両端は、長手方向に延びる波状部(6)を備える内面(4)を有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の伝達装置。
【請求項5】
ケーシング(3)全体は、長手方向に延びる波状部(6)を備える内面(4)を有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の伝達装置。
【請求項6】
ケーシング(3)の外径に等しい内径を有する硬質チューブ(9)を更に備え、少なくともその端部が同チューブ内に収容される請求項1乃至5のいずれか一項に記載の伝達装置。
【請求項7】
ケーシング(3)は、制限止め部(10)を形成する領域を有し、同領域は外面(5)から突出して延びる請求項1乃至6のいずれか一項に記載の伝達装置。
【請求項8】
チューブ(9)の一端は、制限止め部(10)を形成する領域に接触することを特徴とする請求項7に記載の伝達装置。
【請求項9】
ケーシング(3)は、その外面(5)において異なる厚さを有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の伝達装置。
【請求項10】
ケーシング(3)の外面(5)は、チューブ(9)の内側を進むために平坦状をなし、さらに、ケーシング(3)は、制限止め部(10)を形成する少なくとも1つの領域を有することを特徴とする請求項6に記載の伝達装置。
【請求項11】
シャフト(2)は、頂部が平面に切断された螺旋形のピラミッド状をなす少なくとも1つの端部を有することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の伝達装置。
【請求項12】
シャフト(2)は、平坦な外面を有するように加工される請求項1乃至11のいずれか一項に記載の伝達装置。
【請求項13】
自動車シートの調整システムであって、自動車の構造体に取り付けられた少なくとも1つの調整ランナー(12,13)と、同ランナーにシートを固定するための調節可能な手段(14,15)とを備えることと、同システムは少なくとも1つの回転部分を備える駆動モータを更に有することと、同システムは、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の伝達装置を備えることと、伝達装置は駆動モータの出力部(17,18)と固定手段との間に配置され、出力部の回転に応じて調整ランナーに沿って固定手段を移動させることを特徴とする調整システム。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−169470(P2011−169470A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128414(P2011−128414)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2004−366054(P2004−366054)の分割
【原出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(504436963)インダーフレックス−テクノフレックス (4)
【氏名又は名称原語表記】INDERFLEX−TECHNOFLEX
【Fターム(参考)】