説明

可溶化ケラチンの製造方法

【課題】ケラチンを加水分解する際に起こる着色と臭いの発生が抑えられた利用価値の高い可溶化ケラチンを収率よく簡便に製造する方法の提供。
【解決手段】可溶化ケラチンの製造方法であって、羽毛を含水率20〜80%の含水状態とした後、0.1〜0.8moL/Lのアルカリ溶液中で、80〜120℃、0.1〜16時間加水分解処理し、次いで該処理液を中和し、上清よりケラチン分解物を抽出することを特徴とする平均分子量が8000〜13000(ゲル濾過法)の可溶化ケラチンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛等のケラチン含有原料から可溶化ケラチンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケラチンは、動物体表面に存在する毛、爪、角又は皮膚を構成しているタンパク質である。近年、ケラチンやその加水分解物が飼料や肥料、化粧品基材、生態系に適した界面活性剤、医用高分子素材等として利用できることが報告され、羊毛や羽毛を集め、これよりケラチンを抽出しようとする研究が行なわれている。
【0003】
ケラチンは、天然の架橋構造を備えた難溶性の高分子物質であるため、その抽出は非常に困難なものであった。ケラチンの可溶化方法は大きく2つの工程より成る。第1の工程は微粉砕であり、当該工程は、ケラチン原料を各種溶媒中で懸濁した後に、乾式又は湿式粉砕器で粉砕する方法(特許文献1〜3参照)、液体窒素下で粉砕する方法(特許文献4及び5参照)、高圧下で粉砕する方法、切断機で細切りした後に乾式又は湿式の粉砕器で粉砕する方法(特許文献6参照)等、多岐にわたっている。第2の工程は、微細化したケラチンを加水分解して可溶化する工程であり、還元条件下でタンパク質変性剤又は酵素を用いる方法(特許文献7〜14参照)、酸やアルカリを用いる方法がある(特許文献15参照)。
【0004】
しかしながら、上述した2つの工程から成る従来の可溶化方法では、調製後の可溶化ケラチンに特有の臭いと色が存在するためにそれを利用する場合高濃度での使用ができないという欠点を有していた。この欠点は、可溶化ケラチンを毛髪保護剤等に使用する場合には大きな障害となる。また、羊毛や羽毛等は、比重が低く互いに絡み合う性質を有することから、かさ高くなり、加水分解の効率が悪いという問題があった。
【特許文献1】特開平4−281856号公報
【特許文献2】特開平4−312534号公報
【特許文献3】特開2001−302800号公報
【特許文献4】特公昭61−2416号公報
【特許文献5】特公昭57−163392号公報
【特許文献6】特開平5−170926号公報
【特許文献7】特開平6−336499号公報
【特許文献8】特開平6−100600号公報
【特許文献9】特開平6−116300号公報
【特許文献10】特開平10−291998号公報
【特許文献11】特開平10−291999号公報
【特許文献12】特開平7−21061号公報
【特許文献13】特許第2777196号公報
【特許文献14】特許第3283302号公報
【特許文献15】特開2003−301377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ケラチンを加水分解する際に起こる着色と臭いの発生が抑えられた利用価値の高い可溶化ケラチンを収率よく簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アルカリ加水分解法を用いたケラチン分解物の製造に関し、種々検討した結果、ケラチン原料を一定濃度の水分を保有させた状態において、アルカリ加水分解し、次いで該処理液を中和し、その上清からケラチンを抽出することにより、着色が起こらず、特に臭いの付着が大幅に低減された可溶化ケラチンが効率的に得られることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、可溶化ケラチンの製造方法であって、ケラチン原料を含水率20〜80%の含水状態とした後、アルカリ溶液中で加水分解処理し、次いで該処理液を中和し、上清よりケラチン分解物を抽出することを特徴とする可溶化ケラチンの製造方法に関する。
【0008】
また本発明は、羽毛をケラチン原料とし、上記の方法により製造され、平均分子量8000〜13000(ゲル濾過法)である可溶化羽毛ケラチンに関する。
【0009】
また本発明は、上記方法により製造された可溶化ケラチンからなる化粧品配合剤に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、ケラチン原料を穏和な条件で且つ効率よく加水分解でき、着色が起こらず、特に臭いの付着を殆ど起こすことなく加水分解物を得ることができる。すなわち、本発明の方法は、毛髪化粧料等の化粧品配合成分として利用価値の高い可溶化ケラチンを収率よく且つ簡便に取得し得る方法として有用である。また本発明の方法によれば、本来の用途として再利用し得なくなった衣類、羽毛布団、古着等の他、今まで大量に焼却処分されてきた廃棄羊毛、廃棄羽毛等をケラチン原料として有効的に再利用することができ、環境保全にも貢献し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の可溶化ケラチンの製造方法は、ケラチン原料を含水率20〜80%の含水状態とした後、アルカリ溶液中で加水分解処理し、次いで該処理液を中和し、その上清よりケラチン分解物を抽出するものである。
本発明において、可溶化ケラチンとは、原料ケラチン中の分子内の任意のアミド結合を加水分解することにより得られるケラチン分解物であり、その平均分子量が8000〜13000であり、好ましくは9000〜12000であり、更に好ましくは10000〜11000の範囲にあるものをいう。
【0012】
ケラチン原料としては、動物の毛、爪、角又は皮膚等のケラチンを含有するあらゆる材料を使用することができる。好ましくは、鶏、羊、アルパカ、モヘア、アンゴラ、カシミヤ等の獣毛が挙げられ、このうち羽毛、羊毛が好ましい。また、本発明のケラチン原料には、上記材料を利用した二次製品、例えば羽毛布団等の羽毛寝具、ダウンジャケット等の羽毛衣類、ムートン等の羊毛寝具、セーター等の羊毛衣類等も包含される。資源の有効活用の観点からは、特に上記製品のリサイクル品及び製造工場や養鶏場から出される廃羊毛、廃羽毛等を用いるのが好ましい。
【0013】
上記ケラチン原料はそのまま使用することができるが、水、各種溶媒、洗剤等で洗浄したものを用いるのが好ましい。洗浄によって動物の毛等に存在する汚れや色素を落としておくことにより、ケラチン分解物の着色と臭いの付着をより抑えることができるためである。ケラチン原料として、羊毛又は羽毛からなる衣類、羽毛布団及びこれらのリサイクル品、廃羊毛、廃羽毛等を用いる場合には特に洗浄して使用することが好ましい。
ここで、洗浄に用いられる溶剤としては、ドライクリーニングで一般的に用いられている有機溶剤が挙げられ、例えば、石油系溶剤、塩素系溶剤、フッ素系溶剤等を用いることができる。また洗剤は、特に限定されるものでなく、例えば陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を配合した衣料用洗浄剤を用いることができる。溶媒、洗剤等で洗浄を行った場合は、洗浄に用いた溶剤を除去するために、すすぎを十分に行う必要がある。また、斯かる洗浄の後又は洗浄とは別に、ケラチン原料をアルカリ溶液(0.1〜0.8mol/Lの水酸化ナトリウム溶液等)に浸漬する工程を付加することにより、疎水性であるケラチン原料表面が変性され、加水分解の際に溶液との親和性が高くなり、好ましい。
【0014】
当該原料ケラチンは、アルカリ処理する前に、それを粉砕したり、微粉化することは特に必要ではないが、微粉化して使用することにより加水分解の効率をより向上させることができる。
【0015】
本発明の可溶化ケラチンの製造法においては、ケラチン原料をアルカリ加水分解処理する前に、当該ケラチン原料を含水率20〜80%の含水状態とすることが必要である。一般に、羽毛や羊毛においては、気温20℃、湿度65%の状態において、12%前後の水分を含有するとされているが、本発明においては、含水率がそれよりも高いことが必要である。これにより、原料ケラチンのかさを減少させることができ、溶媒と原料とのなじみが向上し、且つその重量が一定となることより、より緩和な条件で効率よく加水分解を行うことが可能となり、同時にケラチン分解物への着色や臭いの付着を防止することができる。
斯かる効果の点から、ケラチン原料の含水率は20〜80%であるのが好ましく、25〜80%がより好ましく、30〜75%が更に好ましい。
【0016】
含水量の調整は、ケラチン原料を水に浸漬し、一定温度、一定湿度の下、一定時間脱水すること等により行うことができる。尚、ケラチン原料を洗浄して用いる場合には、すすぎ及び脱水工程において上記水分含量の調整を行えばよい。
【0017】
ここで、含水量(含水率)の測定は、80℃の恒温容器内で16時間以上、一定量の原料を乾燥させたときの乾燥減量により求めることができる。
【0018】
本発明の加水分解処理は、アルカリ溶液中で行われるが、当該アルカリとしては、タンパク質やペプチドの加水分解に通常用いられるもの、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア等が挙げられ、対象のケラチン原料の性質等によって適宜選択すればよい。羊毛、羽毛を原料として用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用するのが反応の効率性、コスト、安全性の点から好ましい。
尚、アルカリ溶液は、アルカリの水溶液であるのが好ましいが、アルコールと水との混合溶媒を用いてもよい。
【0019】
溶液中におけるアルカリの濃度は、対象のケラチン原料に適した条件を適宜選択すればよいが、羽毛、羊毛を原料とする場合、通常0.1〜0.8mol/Lとするのが好ましく、0.2〜0.5mol/Lであるのがより好ましい。
【0020】
加水分解処理は、上記アルカリ溶液中でケラチン原料を振とう又は攪拌することによって行われる。反応は、通常20〜120℃の範囲内で、0.1〜72時間処理するのが好ましい。かように、本発明の方法においては、アルカリ濃度が低濃度で、高温、短時間で加水分解処理が可能であり、これにより、分解物の着色や臭いの発生が回避できる。
羊毛又は羽毛を原料とした場合の加水分解条件としては、アルカリ濃度を0.1〜0.5mol/Lとし、80〜120℃で0.1〜16時間処理するのが好適である。
【0021】
上記加水分解反応終了後、当該処理液に対して中和処理がなされる。中和は、酸及び/又は過酸化物を用いて行うのが好ましく、酸としては、例えば、塩酸、硫酸、酢酸等が挙げられ、好ましくは塩酸、酢酸、より好ましくは塩酸である。また、過酸化物としては、例えば、過蟻酸、過塩素酸、過酸化水素等が挙げられ、好ましくは過塩素酸、過酸化水素、より好ましくは過酸化水素である。このうち、過酸化物は、その酸化力により、メラニン等の色素や臭い物質等を分解し、脱色・脱臭効果を発揮することから、特に好ましい。
斯かる酸及び過酸化物は、それぞれを単独で使用すること或いは数種類を適宜組み合わせて使用することができる。
【0022】
上記中和処理により、ケラチン分解物はケラチン溶解液と未溶解物に分離することができ、本発明の可溶化ケラチンは、その上清(溶解液)から抽出することにより得ることができる。抽出は通常の固液分離手段が採用でき、例えば濾過、脱塩、遠心分離等を用いて行うことができる。尚、濾過は活性炭を用いて行うことができ、脱塩は限外濾過、イオン交換、透析膜、電気透析、電解透析、ゲル濾過等を用いて行えばよい。
得られた可溶化ケラチンは、そのままでも種々の用途に使用できるが、必要により更に精製し、また水分を除去して濃縮又は粉末化することも可能である。
【0023】
斯くして得られたケラチン分解物(可溶化ケラチン)は、着色と臭いが殆どなく、また皮膚刺激性もない。特に、従来法により得られるケラチン分解物に比べ、臭いの付着が大幅に低減されている(後記実施例参照)。そして、本発明の方法によれば、斯かる良質のケラチン分解物を収率よく、簡便に製造することができる。
ここで、羽毛をケラチン原料として用い、本発明の製造方法により製造された可溶化羽毛ケラチンは、平均分子量8000〜13000程度(ゲル濾過法)の新規なタンパク質であり、無色・無臭であり皮膚刺激性がなく、優れた毛髪保護作用及び保湿性を有する。
【0024】
上記のようにして得られた可溶化ケラチンは、目的に応じて、ケラチン加水分解物の分子内官能基を修飾することにより、エステル誘導体、第4級アンモニウム誘導体、アシル化誘導体、シリル化誘導体等の各種誘導体とすることができ、その方法は公知の方法を用いることが可能である。
【0025】
本発明の可溶化ケラチンは、上記のような性質を有することから、毛髪化粧料(例えば、シャンプー、トリートメント、ヘアリンス、ヘアクリーム、ヘアコンディショナー、ヘアローション、ヘアパック、養毛、育毛剤、ヘアカラー、パ−マネントウェーブ剤1液2液等)や、化粧水、乳液、洗顔料、ハンドクリーム、シェービングフォーム、アフターシェービングフォーム、脱毛剤、入浴剤、石鹸、マスカラ等のメイキャップ用品等に配合する化粧品配合剤として好適に利用可能である。
【0026】
上記、可溶化ケラチンからなる化粧品配合剤の配合量は、毛髪保護作用、毛髪や皮膚に艶や潤いをもたらす量であればよく、通常、化粧品中に0.1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%程度とするのが好ましい。そして、可溶化ケラチンからなる本発明の化粧品配合剤は、化粧品等に配合される各種成分、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等の各種界面活性剤、コラーゲンやケラチン、大豆、シルクといった動植物由来の蛋白質の加水分解物やその誘導体、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の合成ポリマー、グリセリン、ブチレングリコール等の保湿剤、動植物油やエステル油、脂肪酸、高級アルコール類、低級アルコール等の油剤、シリコーン油、シランカップリング剤等のシラン化合物、コラーゲン、ケラチン、カゼイン、大豆、小麦等の動植物由来のタンパク質や酵母、キノコ類等の微生物由来のタンパク質やそのタンパク質の加水分解物及びその誘導体、L−アルギニン、L−システイン等の各種アミノ酸、グルコース、グルコサミン、グルクロン酸、キトサン、ヒアルロン酸、トレハロース、キシログルカン等の糖類、防腐剤、香料等と共に化粧品中に配合される。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
尚、実施例、比較例において示す各成分の配合量は質量部であり、溶液の形であるものは、成分の後に括弧書きで固形分濃度を表記する。また、濃度を示す%は、質量%濃度である。
【0028】
実施例1 可溶化ケラチンの製造(1)
1:1の重量比となるように加水した羽毛(含水率50%)10gに対し、0.1〜1.0規定の水酸化ナトリウム溶液を300mLの割合で添加し、室温で24〜72時間振とう抽出を行う。この操作で約30〜70%のケラチンが可溶化する。抽出残さを遠心分離又はフィルターで濾過し、その濾液を塩酸で中和する。限外ろ過により脱塩を行い、凍結乾燥して可溶化ケラチン(本発明品1)を1.2g得た。
この工程において使用されうる反応槽及び濃縮槽をそれぞれ図1及び2に示す。
【0029】
実施例2 分子量の測定
実施例1で調製した可溶化ケラチンの分子量を高速液体クロマトグラフィーで推定した。条件は以下の通りである。装置には東ソー社製GPC−8020、溶離液は純水、流速0.6mL/min、検出はUV280nm及びRIで行った。スタンダードとして、既知の分子量のデキストランを用いた。その結果、平均分子量は9074と推定された。
【0030】
実施例3 可溶化ケラチンの製造(2)
未粉砕羽毛10gを水道水で洗浄し、脱水後の羽毛重量が20gになるように調製した(含水率50%)。内容積500mLの三角フラスコに6gの水酸化ナトリウムと水300gを入れ、洗浄後の羽毛20gを添加し、振とうしながら27℃で3日間羽毛を加水分解した。分解終了後、未分解物をろ過し、30%過酸化水素水を10g添加した。室温で24時間脱色を行った後、亜硫酸ナトリウムを12g添加し、余剰な過酸化水素の除去を行った。更に、透析膜で脱塩精製し、凍結乾燥して羽毛由来の可溶化ケラチン粉末(本発明品2)を4.2g得た。
【0031】
実施例4 可溶化ケラチンの製造(3)
粉砕羽毛20gを水道水で洗浄し、脱水後の羽毛重量が40gになるように調製した(含水率50%)。内容積500mLの三角フラスコに2.4gの水酸化ナトリウムと水300gを入れ、洗浄後の粉砕羽毛40gを添加し、120℃で5分間羽毛を加水分解した。分解終了後、未分解物をろ過し、30%過酸化水素水を21.4g添加した。37℃の恒温器内で24時間脱色を行った後、亜硫酸ナトリウムを24g添加し、過剰な過酸化水素の除去を行った。更に、透析膜で脱塩精製し、凍結乾燥して羽毛由来の可溶化ケラチン粉末(本発明品3)を10.6g得た。
【0032】
実施例5 可溶化ケラチンの製造(4)
内容積1000mLのビーカーに15gの水酸化ナトリウムと水500gを入れ、更に粉砕羽毛30gを添加し、室温で5分間反応させた。反応終了後、羽毛を脱水し、60gとなるようにアルカリ含水羽毛(含水率50%)を調製した。内容積500mLの三角フラスコにアルカリ含水羽毛60gと水を300g添加し、120℃で3分間羽毛を加水分解した。分解終了後、実施例4と同様の操作を行い、羽毛由来の可溶化ケラチン粉末(本発明品4)を13.8g得た。
【0033】
実施例6 可溶化ケラチンの製造(5)
粉砕羽毛20gを水道水で洗浄し、脱水後の羽毛重量が40gになるように調製した(含水率50%)。内容積500mLの三角フラスコに2.4gの水酸化ナトリウムと水300gを入れ、洗浄後の粉砕羽毛40gを添加し、120℃で5分間羽毛を加水分解した。分解終了後、未分解物をろ過し、36%塩酸を4g、30%過酸化水素水を10.3g添加し、45℃の恒温室内で18h反応を行い、亜硫酸ナトリウムを10g添加し、過剰な過酸化水素の除去を行った。更に、透析膜で脱塩精製し、凍結乾燥して羽毛由来の可溶化ケラチン粉末(本発明品5)を8.6g得た。
【0034】
実施例7 可溶化ケラチンの製造(6)
含水率50%に調製した羽毛800gに0.2Nの水酸化ナトリウム溶液4000gを加え、120℃で15分間加水分解を行った。反応終了後、室温まで冷却した後、36%塩酸を90g加えて、一晩静置した後、ろ過して未分解物を除去した。更に、イオン交換樹脂で脱塩精製し、スプレードライを行い、羽毛由来の可溶化ケラチン粉末(本発明品6)を88g得た。
【0035】
実施例8 分子量の測定
実施例4〜7で得たケラチン粉末(本発明品3〜6)を25%濃度になるように溶解した溶液のゲルろ過分析による分子量分析を行った結果を表1に示す。また、本発明品6については、ゲルろ過分析の結果を図3に示す。なお、本発明におけるゲルろ過分析による重量平均分子量は下記の条件により測定された値である。
【0036】
(ゲルろ過分析条件)
ゲルろ過用カラム:東ソー(株)社製、G2000SWXL 7.8×300mm
移動相:0.1Mリン酸緩衝液 pH6.8(0.3M NaCl含む)
流速:0.6mL/min
カラム温度:40℃
検出器:UV230nm
分子量マーカー:アルドラーゼ(Mw158,000)
牛血清アルブミン(Mw68000)
オボアルブミン(Mw45000)
キモトリプシノーゲン(Mw25000)
シトクロムC(Mw12500)
インシュリン(Mw5500)
【0037】
【表1】

【0038】
表1、図3及び実施例2の結果から明らかなように、ゲルろ過重量平均分子量8000〜13000の範囲に分布していることが確認された。
【0039】
実施例9 含水効果試験
乾燥羽毛8.8gを含水率12%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%に調製し、それぞれに水酸化ナトリウムを0.7g添加した。さらに羽毛が含んでいる水分も含めた全体の水分量が88gになるように水を適量添加してよくかき混ぜた後、120℃で5分間、加水分解を行った。加水分解終了後、この溶液を遠心分離し、沈殿物を80℃で60時間乾燥させた時の乾燥物の重量を測定し、羽毛の含水率の違いによる分解率を比較した。結果を表2に示す。これより、含水率20%以上の原料を用いた場合には、12%前後の原料を用いた場合に比べ、格段に優れた加水分解率を示した。
【0040】
【表2】

【0041】
試験例1 着色及び臭いの評価
表3に示す組成の評価用溶液原液(有効成分25%)を調製し、この溶液をイオン交換水で5倍に希釈し、有効成分5%溶液に調製した溶液を用いて、本発明品の可溶化ケラチン溶液の色相と臭いの強さを評価した。比較として羊毛由来加水分解ケラチン((株)成和化成社製 プロモイスWK)をイオン交換水で5倍に希釈し、有効成分5%溶液に調製した溶液を評価した。
【0042】
【表3】

【0043】
20人のパネラーに、各評価溶液の色相と臭いについてどちらが優れているかを比較評価させた。その結果を表4に示した。なお、数値はパネラー20人中の人数を示している。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示した結果から明らかなように、パネラーの大多数が比較品を用いた溶液に比べて、本発明品を用いた溶液の方が臭いが感じられなかった。すなわち、本発明の方法により得られた可溶化ケラチンは、従来の可溶化方法で調製した可溶化ケラチンよりも臭いの付着が大幅に低減されていた。
【0046】
試験例2 皮膚刺激試験
実施例1で調製した可溶化ケラチン(本発明品1)の皮膚刺激試験を行った。日本化粧品工業連合会編の安全性評価に関する指針2001年度版に準拠し、モルモットを用いた皮膚感作性について検討した。最初に、15匹のモルモットを用意し、それらを5匹ずつ陰性対照群、陽性対照群及び試験群に分け、感作性物質(それぞれ純水、ジニトロクロロベンゼン、本発明品1)を塗布する個所を剃毛し、当該個所にマジックで印を付けた。純水を除く感作性物質は、あらかじめ所定の濃度(重量%)となるように純水で希釈した。続いて、上記感作性物質をそれぞれ各群のモルモットの皮膚上に付した上記印の端に塗布し、そして皮膚反応について判定した(図4参照)。尚、皮膚反応は、上記指針中の皮膚反応の判定基準に基づき判定した。ここで、判定結果として示されるスコアは、「紅斑なし」をスコア0、「ごく軽度の紅斑」をスコア1というように、赤味の程度が深刻になるにつれ数値が増大するものであり、スコア4まで規定されている。例えば、図4bの陽性対照群は「明らかな紅斑」として認められる程度の赤味を示しており、この場合にはスコア2と判定される。その結果、図4cに示すように、本発明の可溶化ケラチンを塗布した試験群は、0.01〜2.0%の濃度でいずれも赤味を示さなかったため、全てスコアが0と判定され(表5参照)、上記濃度における本発明の可溶化ケラチンの安全性が確認された。尚、本発明の可溶化ケラチンが塗布された図4cの試験群において一部赤い部分が認められたが、本発明の可溶化ケラチンを適用した部位とは異なる部位であったため、別の要因により紅化したものと考えられる。
【0047】
【表5】

【0048】
試験例3 引っ張り強度試験
10cm約1gの毛束(株式会社ビューラックス製)を4.5%,2.5%アンモニア水の混合液に室温で16時間浸漬することによりブリーチ処理を行う。ブリーチ処理後、試験例1で使用したものと同じサンプル溶液(本発明品6(5%溶液)、プロモイスWK)に40℃で10分間浸漬した後、水ですすぎを行い、タオルドライ、ドライヤー乾燥を行う。この際の毛髪とドライヤーの距離は15cmとする。この処理を6回繰り返し、評価用サンプル毛髪とした。この毛束からランダムに15本の毛髪を選び、クリープメーター(山電(株)製)を用いて、引っ張り強度及び毛髪の直径を測定し、引っ張り強度を断面積で割った平均値を求めた。結果を表6に示す。
【0049】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、ケラチンの可溶化において使用されうる反応槽を示す。
【図2】図2は、可溶化されたケラチンのろ過及び濃縮に使用される、フィルター及び濃縮槽を示す。
【図3】図3は、可溶化ケラチンのゲルろ過の結果を示す。
【図4】図4は、調製した可溶化ケラチンの皮膚刺激試験結果を示す。a〜cの図は、それぞれ陰性対照群、陽性対照群、試験群を表し、図中の番号は感作性物質の濃度を表す(1:2.0%、2:1.0%、3:0.5%、4:0.2%、5:0.1%、6:0.05%、7:0.02%、8:0.01%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶化ケラチンの製造方法であって、羽毛を含水率20〜80%の含水状態とした後、0.1〜0.8moL/Lのアルカリ溶液中で、80〜120℃、0.1〜16時間加水分解処理し、次いで該処理液を中和し、上清よりケラチン分解物を抽出することを特徴とする平均分子量が8000〜13000(ゲル濾過法)の可溶化ケラチンの製造方法。
【請求項2】
洗浄された羽毛を用いるものである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
中和が過酸化物を用いるものである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
羽毛がそれを含む衣類若しくは寝具用品又は廃棄羽毛である請求項1−3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により製造された可溶化ケラチン。
【請求項6】
請求項5記載の可溶化ケラチンを有効成分とする化粧品配合剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247925(P2008−247925A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154843(P2008−154843)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【分割の表示】特願2006−516887(P2006−516887)の分割
【原出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(801000072)農工大ティー・エル・オー株式会社 (83)
【Fターム(参考)】