説明

可溶化コラーゲン粉末及びその製造方法

【課題】水馴染みが良く簡便に水性化粧料に調合できる可溶化コラーゲン粉末を提供する。
【解決手段】可溶化コラーゲン粉末は、粒子中にトレハロースが共存するように複合化される。可溶化コラーゲン及びトレハロースを含有する水性噴霧液を調製し、これを噴霧乾燥することによって可溶化コラーゲン粉末を得る。また、両性界面活性剤やグリコール化合物を配合することによって、親水性、触感が改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液状態では変性し易いコラーゲンを変性させずに良好な状態で水性化粧料として使用することを可能とする可溶化コラーゲン粉末及びその製造方法に関し、特に、使用時に簡便に水性化粧料に調製できる可溶化コラーゲン粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物の生皮、腱、骨等を形成する主要タンパク質はコラーゲンであり、コラーゲンは、3本のポリペプチド鎖がヘリックス状になった物質で、通常、水、希酸、希アルカリ、有機溶媒などに対して不溶性である。一般的に、牛や豚等の動物の皮から得られる。
【0003】
近年、コラーゲンが有する保湿性を利用して、皮膚の保湿性を高めるための成分としてコラーゲンを配合したメークアップ用品やスキンケア用品等が提供されている。このような用途において、コラーゲンは水性溶液の状態で利用されるが、生体材料に含まれるコラーゲンの大部分は分子間に架橋が形成されており水に不溶性であるため、可溶化処理を施して架橋を切断することによって得られる可溶化コラーゲンが使用される。
【0004】
可溶化処理は、不溶性コラーゲンに対してアルカリや酵素等を作用させるもので(下記特許文献1、2参照)、不溶性コラーゲンのポリペプチド鎖末端のテロペプチドにおける分子間または分子内架橋あるいはテロペプチド自体が切断される等によりペプチド鎖間の束縛が解消されて可溶化されると考えられており、粘稠質の可溶化コラーゲン水溶液が得られる。
【0005】
水性液状の可溶化コラーゲンは、常温において変性や腐敗を生じ易く、保管には温度管理や品質を安定化させるための成分添加が必要となるが、乾燥状態では安定化する。下記特許文献3においては、粉末コラーゲンの製造方法を提案しており、コラーゲンの水性液を噴霧乾燥することによってコラーゲン粉末が得られる。
【特許文献1】特公昭44−1175号公報
【特許文献2】特公昭46−15033号公報
【特許文献3】特開平8−27035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可溶化コラーゲン水性液の噴霧乾燥によって得られる可溶化コラーゲン粉末は、水に溶解することによって水性化粧料として使用することができ、溶解する水性液に他の化粧料用成分を配合することによって、様々な機能を付加することができるので、非常に優れた化粧料となる。
【0007】
しかし、可溶化コラーゲンの粉末は、初期の水馴染みが良くなく、水に分散する際に水を弾いて水滴として排除したり粉末が水面に浮遊したりし易いため、分散し難く、均一化に時間を要することになる。
【0008】
本発明は、上述の点を改善し、水を用いて可溶化コラーゲン化粧水を調製する際に初期の水馴染みがよく化粧料を調製し易い可溶化コラーゲン粉末及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
又、本発明は、水への均一化が促進され、短時間で均一な可溶化コラーゲン化粧料を調製可能な可溶化コラーゲン粉末及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0010】
又、素早く水に分散し、肌へ塗布した時の触感が良好な化粧料が得られる可溶化コラーゲン粉末及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、添加成分を用いて可溶化コラーゲン粉末の水馴染みを改善可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の一態様によれば、可溶化コラーゲン粉末は、粒子中にトレハロースが共存するように複合化されることを要旨とする。
【0013】
又、本発明の一態様によれば、可溶化コラーゲン粉末の製造方法は、可溶化コラーゲン及びトレハロースを含有する水性噴霧液を調製する工程と、前記水性噴霧液を噴霧乾燥する乾燥工程とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用時に素早く簡便に水に分散して水性液状のコラーゲン化粧料に調合できる可溶化コラーゲン粉末が提供できるので、常温管理であっても使用前におけるコラーゲンの変性及び腐敗のおそれがなく、常に高品質のコラーゲン化粧料を使用することができる。水や市販の化粧水等を利用して、使用者各人の要望に合った最適のコラーゲン化粧料を調合することが可能であり、製品仕様を細分化することなく様々な使用者に幅広く提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
動物の皮膚から得た不溶性コラーゲンの可溶化処理によって調製される可溶化コラーゲン水溶液は、水を除去すれば固形の乾燥物となる。水溶液状態での可溶化コラーゲンの変性開始温度は非常に低く、牛、豚由来の場合で30℃前後、フグ、タイ等の場合で20℃前後であるので室温でも変性し得るが、乾燥状態では100℃前後であり、通常の取り扱いにおいて変性する恐れがない。また、乾燥状態のコラーゲンは、水溶液と異なり水分活性が低いため、腐敗の恐れがない。従って、化粧料の水性媒体と可溶化コラーゲン乾燥物とを別体として化粧料を構成し、使用時に可溶化コラーゲンを水性媒体に混合・溶解すれば、変性や腐敗を受けていないコラーゲンを含有する化粧料として使用可能である。この点において、可溶化コラーゲン粉末は好適な化粧料であり、使用時に調製される化粧料の適応性が高い。
【0016】
しかし、可溶化コラーゲンの粉末は、水を加えた際に水面に浮遊し易く、水に馴染むまでに時間を要するため、凝集してダマになるなど、化粧料の調製作業において支障を生じ易くなる。より簡便に可溶化コラーゲン粉末を水に分散して化粧料とするには、コラーゲン粉末の水馴染みを改善する必要がある。本発明では、付加成分としてα,α−トレハロース(本願ではトレハロースと記する)を可溶化コラーゲンに配合し、複合粒子化して粒子中に可溶化コラーゲンとトレハロースとを混合状態で共存させる。トレハロースが共存することによって、可溶化コラーゲン粒子の親水性が向上して粒子の水馴染みが良くなり、水が粒子中に浸透し易くなって粒子崩壊及び拡散が促進される。更に、界面活性剤やグリコール化合物の併用によって可溶化コラーゲン粉末の溶解速度や化粧料としての触感の向上が可能であることも見出した。
【0017】
以下、本発明の可溶化コラーゲン粉末及びその製造について、詳細に説明する。
【0018】
可溶化コラーゲンを調製するための不溶性コラーゲンは、牛、豚、鳥等の動物の皮膚やその他のコラーゲンを含む組織を利用して、従来の方法によって好適に調製することができ、原料を特に限定する必要はない。魚皮や魚鱗等の水性生物材料から不溶性コラーゲンを得てもよい。コラーゲンを得る原料によって、コラーゲンの変性温度には差が見られるが、乾燥状態では、何れの原料由来の可溶化コラーゲンであっても通常の取り扱いにおいて問題はない。需要においては、BSE対策に関連して豚由来又は魚等の水生生物由来のコラーゲンを原料とすることが好ましいとされる。牛皮、豚皮等のコラーゲン原料は、必要に応じて、石灰漬け等による脱毛、水洗、チョッパー等を用いた細切などの処理を施して適切な寸法の原料片に加工して、不溶性コラーゲンの可溶化処理に供する。
【0019】
不溶性コラーゲンの可溶化処理は、タンパク質分解酵素を用いた方法(例えば特公昭44−1175号公報参照。以下、酵素処理法と称する)と、苛性アルカリ及び硫酸ナトリウムが共存する水溶液中に少量のアミン類又はその類似物を添加したもので処理する方法(例えば特公昭46−15033号公報参照。以下、アルカリ処理法と称する)に大別することができ、本発明においては、何れの可溶化処理方法を用いても良い。得られる可溶化コラーゲンの等イオン点(水に対する溶解性が最も小さくなるpH域)は可溶化処理方法によって異なり、アルカリ処理法で得られる可溶化コラーゲンの等イオン点は、アスパラギン残基及びグルタミン残基が脱アミノ反応によって各々アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基に変化することにより、概して、約4.8〜5.0となり、酵素処理法によるものでは概してpH7前後となる。可溶化コラーゲンの等イオン点が低い方が弱酸性から中性の水性溶媒に対する溶解性が高くなる。化粧料は、通常、弱酸性から中性であり、このpH領域においてコラーゲンが溶解し易い方が好ましいことから、一般的な酵素処理法による可溶化コラーゲン製品では、サクシニル化を施して等イオン点を下げて中性での溶解性を高めている。本発明においても、このような方法によって得られる可溶化コラーゲンを好適に利用することができる。
【0020】
可溶化処理を施したコラーゲンは、可溶化やサクシニル化に使用したアルカリの中和、脱塩処理(例えば、遠心分離、透析、水洗等)を経て、粘稠質の水性液の状態で得られる。或いは、前述の可溶化処理を静置状態で行うことによって、原料形状を保持したままコラーゲンを可溶化することが可能であるので、これを中和・脱塩すると含水状態の可溶化コラーゲン片として得ることができ、脱水・乾燥により可溶化コラーゲン乾燥物が得られる。
【0021】
可溶化コラーゲン粉末は、可溶化コラーゲン乾燥物の粉砕、又は、可溶化コラーゲン水性液を液滴化して水を除去することによって調製できるが、乾燥物の粉砕はコラーゲンの変質を生じ易いので、通常、水性液から調製される。可溶化コラーゲン水性液から水を除去する方法としては、液体窒素等を用いる凍結乾燥法、噴霧乾燥法、及び、塩水又は有機溶媒中で凝固させる方法があり、有機溶媒中で凝固させる方法は、水性液中の可溶化コラーゲンが有機溶媒に接触すると凝固することを利用するもので、特開平6−228505号公報等を参照し、ノズル等を用いて可溶化コラーゲン水性液を有機溶媒中に吐出・凝固させて乾燥することによって可溶化コラーゲン粉末が得られる。噴霧乾燥法は、細かい粉末を簡便に製造できる点で優れており、本願では噴霧乾燥法を採用して可溶化コラーゲン粉末を調製する。これに従って可溶化コラーゲン粉末を調製する実施形態について以下に詳細に説明する。
【0022】
本発明の可溶化コラーゲン粉末は、粒子中に可溶化コラーゲンとトレハロース等の付加成分とが共存する粉末であり、これを噴霧乾燥法を利用して調製するには、可溶化コラーゲン水性液を液滴にする前に、付加成分を可溶化コラーゲン水性液に配合して付加成分を含有する水性液を調製し、これを粒子化する。つまり、可溶化コラーゲンと付加成分とを含有する水性混合液を調製した後に、これを噴霧液として乾燥することによって粒子化する。尚、コラーゲンの純度を高める点で、可溶化処理後のコラーゲン水溶液から一旦有機溶媒を用いて可溶化コラーゲンを凝固・乾燥した後に、再度水に溶解して得られる水溶液を噴霧液の調製に用いると好適であり、噴霧液の濃度調整が正確さに行える。
【0023】
噴霧乾燥によって得られる粉末粒子の質量は、噴霧液滴の大きさ(容積)及び噴霧液の濃度によって定まる。従って、噴霧する可溶化コラーゲン水性液の濃度調整によって製造するコラーゲン粉末の粒径を調節することができるので、噴霧液は、目的の粒径に応じて適切な濃度で可溶化コラーゲン及び付加成分を含むように調製する。但し、コラーゲン濃度を過度に増加させると、噴霧液の粘度を上昇させて霧化を難しくするので、濃度の設定において考慮する必要がある。噴霧液の可溶化コラーゲン濃度は、0.1〜10質量%程度が好ましく、より好ましくは0.5〜3質量%程度に調製する。又、水性液のpHも、噴霧液の粘度を変化させ、pHが可溶化コラーゲンの等イオン点から離れると噴霧液の粘度が高くなるので、噴霧液の粘度を低下させて噴霧し易くするには、等イオン点付近にpHを調整することが好ましい。特に水性液のpHと等イオン点との差が1.0を超えると、粘稠になり噴霧が困難になるので、可溶化コラーゲンの等イオン点から±1.0程度以内の範囲に水性液のpHを調整することが好ましく、より好ましくは等イオン点±0〜0.5程度のpH範囲とする。この点に関し、可溶化コラーゲンの溶解度は等イオン点において最も小さく、噴霧液のpHを等イオン点付近に調整すると過飽和の可溶化コラーゲンは分散状態となるので、均一な微小分散にするためには混練機等を用いて可溶化コラーゲン及び付加成分の撹拌混合を充分に行うことが望ましい。混合均一化を容易にするためには、pHの調整は、混合均一化を行った後に行うことが望ましい。従って、噴霧液を調製する好適な形態は、1)可溶化処理によって得られる可溶化コラーゲン水性液に付加成分及び水を添加して濃度を調整する、2)撹拌混合により十分に均一化する、3)pHを等イオン点付近に調整する、の順に行う。尚、両性界面活性剤については、混合時の起泡を避けるために、pH調整後に添加することが好ましい。
【0024】
可溶化コラーゲン水性液のpH調整に用いる酸は、化粧料に使用可能な成分であることが望ましく、クエン酸、乳酸等の有機酸を用いることが好ましい。又、pH調整に使用する塩基については、NaOHのみであると、可溶化コラーゲン水性液の粘度が高くなり易く、作業性の点で問題となるが、硫酸ナトリウム等の無機塩や乳酸ナトリウム等の有機酸塩が共存すると、粘度上昇が抑制される。
【0025】
付加成分として配合されるトレハロースは、ネオトレハロースや環状四糖及びシクロデキストリンと同様の非還元性糖質であって、コラーゲンと反応しない点で還元性糖質とは異なる。トレハロースをコラーゲン粉末に複合化することによって、親水性が向上して粉末の水馴染みが良くなる。その親水性化は、配合によって急激に昂進して、可溶化コラーゲンに対して18質量%程度以上の割合において顕著であり、30質量%程度以上においては極めて水馴染みがよい。又、親水性の向上によって粉末の分散が促進され、拡散が速くなる。トレハロースは、増量剤としての配合も可能であり、トレハロースの配合量が多い状態では、粉末粒子の崩壊助剤として機能し、粉末粒子が細かく分断されて容易に拡散する。トレハロースは、ダマを形成し易い成分の水中への分散を促す機能がある(特開2003−88308号公報参照)ので、粒子崩壊後のコラーゲン粉末が再凝集するのを抑制して分断コラーゲン粒子を拡散させる点でも有効である。但し、配合量が可溶化コラーゲンに対して900質量%程度を超えると、噴霧乾燥時に過乾燥状態を生じ易く、その後の吸湿による粒子の凝集や化粧料の使用時におけるべたつきが問題となる。これらを総合すると、トレハロースの配合割合は、可溶化コラーゲンに対して20〜900質量%程度が好適であり、好ましくは40〜400質量%程度、より好ましくは100〜300質量%程度である。
【0026】
更に、両性界面活性剤の配合も、可溶化コラーゲン粉末粒子の親水性を高めて溶解し易くする効果があり、トレハロースとの併用により更にコラーゲン粉末の溶解速度を高めることができる。又、粉末粒子に表面潤滑性を付与して粉末の軋みや静電気の発生を抑制する作用もある。両性界面活性剤は、陽イオン基と陰イオン基とを有する化合物であり、アルキルアミノ脂肪酸塩のようなアミノ酸系化合物、アルキルベタインのようなベタイン系化合物、アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド系化合物に大別することができ、イミダゾリニウムベタイン、アミドプロピルベタイン、アミノジプロピオン酸塩等が含まれる。具体化合物としては、例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N’−カルボキシエチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミンオキシド等が挙げられ、1種又はそれ以上を適宜選択して使用できる。両性界面活性剤は、可溶化コラーゲンに対して10質量%程度の割合まで配合することができるが、その効果には限界があるので、可溶化コラーゲンに対して0.1〜2質量%の割合での配合が効率的であり、0.5〜1質量%前後が最も好ましい。
【0027】
又、グリコール化合物を配合すると、トレハロースによる化粧料のべたつき感を緩和することができるので、トレハロースの配合量の増加が可能である。又、両性界面活性剤と併用すると、粉末粒子の親水性化及び分散促進効果を増強できる。使用可能なグリコール化合物としては、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられ、中でもプロピレングリコール及びブチレングリコールが好ましい。可溶化コラーゲンに対して0.5〜50質量%の割合で配合することができるが、添加量が過剰であると粉末が凝集し易くなる。可溶化コラーゲンに対して1〜10質量%の割合での配合が効率的であり、5質量%程度が最も好ましい。
【0028】
上述のような配合割合に従って可溶化コラーゲン水性液に付加成分を添加し、脱イオン水を用いて濃度を適宜調整し、ホモジナイザー、ディスパースミル等を用いて十分に撹拌混合して均一に分散させすることにより、可溶化コラーゲン及び付加成分を含有する水性液が調製され、このpHを調整することにより水性噴霧液が得られる。
【0029】
上述のように調製した噴霧液を噴霧乾燥機を用いて乾燥することにより、所望の大きさの可溶化コラーゲン粉末が得られる。噴霧液滴の乾燥は、熱風等を用いてコラーゲンが変性しない程度の温度に液滴を加熱することによって促進でき、例えば、噴霧器への可溶化コラーゲン水溶液の供給速度及び噴霧器の出口に供給する熱風温度を適宜調節して所望の温度に噴霧液滴を加熱することができる。水中のコラーゲンは加熱により変性し易く、通常、噴霧器の出口温度は60℃程度以下に設定する必要があるが、pHを等イオン点付近に調整した可溶化コラーゲン水性液では、噴霧器の出口温度を80〜85℃程度まで上げることが可能である。噴霧乾燥によって好適に調製される可溶化コラーゲン粉末は、標準状態(20±2℃、湿度65±2%)でも水分を10〜20質量%程度含有するが、変性温度は高く、牛、豚由来のコラーゲンでは100℃前後となる。付加成分と可溶化コラーゲンとが粒子中に共存することにより、可溶化コラーゲン粉末の水馴染みが向上し、粉末粒子の崩壊及び分散が促進される。噴霧乾燥によって得られる粉末の粒径は、噴霧液滴の容積及び濃度に依存し、前述に従って調製される噴霧液を用いて一般的な噴霧乾燥機により複合粒子化することによって、概して、平均粒径が5〜30μm程度の粉末を調製できる。可溶化コラーゲン粉末の粒径が小さいほど水馴染みが低下する傾向があるので、平均粒径が10μm程度以上の粉末に調製することが好ましい。
【0030】
この様にして得られる可溶化コラーゲン粉末は、水に接すると、粒子表面における可溶化コラーゲンが水中へ細かく分散すると共に、トレハロースを介した粒子内部への透水及び粒子崩壊が生じて粒子内部の可溶化コラーゲンも水と接触して水中へ分散し、これによって急速に拡散する。尚、等イオン点から離れたpHに調整された噴霧液から調製される可溶化コラーゲン粉末の場合には、水と接すると、粒子表面のコラーゲンが吸水膨潤して被膜様の粘性溶液になるため、コラーゲン単独の粉末では、粒子同士が凝集して粒子内部への透水が阻害されダマになり易いが、トレハロースとの複合粉末では、トレハロースによる透水・粒子崩壊によって分散が可能であるので、ダマの生成が抑制される。
【0031】
本発明の可溶化コラーゲン粉末は、必要に応じて、更に、上記以外の物質を付加成分として複合可能である。複合可能な物質は、コラーゲンと相溶性があり(特に弱酸性〜中性において)、常温で固体の水溶性の物質である。その溶解性が電荷に起因してpHに依存する物質の導入については、可溶化コラーゲンの等イオン点を調節することによって対応可能である。付加成分として使用可能な物質として、具体的には、多糖類やタンパク質・ペプチド等の水溶性高分子化合物、水溶性ビタミンや植物エキス成分、発酵生成物等の生態関連物質が挙げられ、グルカン、フルクタン、ガラクタン、マンナン、ペントザン、グリクロナン、ポリグルコサミン等の単純多糖、ヘミセルロース、ペクチン、アガロース、アガロペクチン、ポルフィラン、カラゲナン、フコイダン、アスコフィラン、ムコ多糖類、ペプチドグリカン、テイコ酸、テイクロン酸、リポ多糖、莢膜多糖、糖蛋白質等の複合多糖などが例示される。キチン類の場合は、水溶性キトサン誘導体又は水溶性キチン誘導体が使用可能である。凝固性の良いものとしては、グルクロナン、ポリグルコサミン及びムコ多糖が挙げられ、特にグルクロナンの1種であるアルギン酸及びムコ多糖に属するヒアルロン酸は、凝固性の高い保湿剤であり、可溶化コラーゲン粉末粒子に複合化する固形成分として好適である。これらは、可溶化コラーゲン水溶液中で塩基成分との塩の形態で存在するとコラーゲン水溶液への溶解性が向上するので、アルカリ金属、アルカリ土類金属、貴金属等との強塩基との塩として用いるのが好ましく、特にナトリウム塩が好適である。付加成分は複数組み合わせて用いても良い。また、付加成分として美白成分やニキビ対応成分等を配合することもでき、前述のトレハロース等と同様にして可溶化コラーゲン水溶液に添加して複合粒子化することにより粒子中に共存させることができる。但し、この様な付加成分は、可溶化コラーゲン粉末に複合化させる必要性はないので、各単体粉末を可溶化コラーゲン粉末に混合してもよい。美白成分としては、例えば、プラセンタエキス、ビタミンC誘導体、L−システイン、β−アルブチン等が挙げられ、ニキビ対応成分には、例えば、ビタミンB2、ビタミンB6等が挙げられる。これらの付加成分は、各々、可溶化コラーゲンに対して0.01〜1質量%程度の割合で配合することができ、合計量が可溶化コラーゲンの3質量%程度以下となるように配合することが好ましい。
【0032】
可溶化コラーゲン水溶液に含まれる付加成分の種類が多数になると、凝固性が低下して良好な粉末が得られ難くなる可能性もある。このような場合は、各成分を個別に複合化した複数種の可溶化コラーゲン粉末を調製して混合したり、これらの単独粉末を所望の割合で混合すれば、実質的に同等のものが得られ、容易に調製できる。又、付加成分を含まないコラーゲン単独粉末又は付加成分単独粉末を適宜加えることによって、粉末全体としての付加成分の割合を調整することもできる。
【0033】
以下に、可溶化コラーゲン粉末の製造方法の好適な一実施形態を記載する。
【0034】
先ず、可溶化処理後に中和・脱塩を経て得られる可溶化コラーゲン水溶液(コラーゲンの等イオン点:pH4.8程度)を、等イオン点から外れた酸性又は中性近辺で濃度2〜10質量%程度に調整した水溶液を、アルコール、好ましくは2−プロパノール等の低級アルコールを凝固溶剤として、溶剤中に糸状に吐出して可溶化コラーゲンを凝固させ、取り出して溶剤除去及び乾燥することによって高純度の可溶化コラーゲン繊維を得る。
【0035】
これを、乳酸酸性(pH3〜4程度)又は中性近辺の水に溶解して得られる可溶化コラーゲン水溶液に、可溶化コラーゲン質量に対して18〜900質量%のトレハロースを添加し、必要に応じて、1〜10質量%のグリコール化合物を更に添加する。他の付加成分(両性界面活性剤を除く)も複合化する場合には、この段階において添加する。これに、脱イオン水を適宜添加して可溶化コラーゲン濃度が0.5〜3質量%となるように濃度を調整する。この水溶液を、乳酸又はクエン酸等の有機酸水及び有機酸アルカリ金属塩水を用いてpH4.8程度に適宜調節し、両性界面活性剤を使用する場合は、この段階で可溶化コラーゲン質量に対して0.1〜2質量%の割合で配合することにより噴霧液が得られる。
【0036】
噴霧液は、噴霧乾燥機を用いて、出口温度を70〜75℃程度になるように熱風温度と送液量とを調整して噴霧乾燥する。これにより、粒径5〜30μm程度の可溶化コラーゲン粉末が得られる。必要に応じて、可溶化コラーゲン粉末に所望の添加剤を混合してもよい。
【0037】
この様にして調製される可溶化コラーゲン粉末は、トレハロースの複合化により非常に水馴染みが良くなるため、掌上で水を加えた際に水を弾かず、水滴が良好に拡がって浸透するので、粉末が水性液に素早く分散し、化粧料とする際の作業が行い易い。1回の使用における可溶化コラーゲンの適量は概して10〜20mg程度であり、これに対応する量の粉末を水性液に溶解して化粧料として使用する。1回の使用量づつ可溶化コラーゲン粉末を個別包装すると、簡便且つ清潔に使用でき、携帯性もよい。可溶化コラーゲン粉末は、30秒程度で素早く水に溶解する。
【0038】
化粧料を調製するための水性液は、化粧料に一般的に添加される種々の成分を、コラーゲンの溶解を妨げることなく含有し得るので、市販の化粧水や美容液にも容易に溶解し、使用者が任意に使用している化粧料にコラーゲンを簡単に配合することができる。例えば、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセロール、尿素等の保湿剤、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール等の保存料(防腐剤)、アロエエキス等の植物抽出物、エタノール等のアルコール系溶剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、抗炎症剤、オリーブ油等の油脂類、脂肪酸類などや、美白成分、アンチエージング成分等の美容上の効能を有する各種機能成分を含んで良い。得られる化粧料のコラーゲン含有量が0.01〜10質量%程度、特に0.1〜3質量%程度となるようにコラーゲン粉末と水性液とを組み合わる割合を調整すると良い。
【0039】
上述のように、本願における可溶化コラーゲン粉末は、トレハロースの複合化によって可溶化コラーゲン粉末の水馴染みがよいので、作業性が良く、市販の化粧水や化粧液にも容易に溶解するので、使用者は、好みに応じて水、化粧水、化粧液等から選択して、これと可溶化コラーゲン粉末とを合わせることによって簡単にコラーゲン化粧料を調製できる。従って、使用者の要望を満足するコラーゲン化粧料を新鮮な状態で使用者に随時提供することが可能であり、使用者の肌質に応じて好適な化粧料に調合できる。液状コラーゲン化粧料のような冷温保存も不要であり、化粧料の調合に要する時間が短かいので、使用に際して時間的な制限がなく、使用者のニーズに従って適時使用することができる。又、1回の使用適量である10mg程度の可溶化コラーゲンは非常に小量であるので、使用時の粉末の取り分け量が変動し易いが、トレハロースの配合を増量手段として利用すれば、取り分け量の調節がし易くなる。
【0040】
本発明の可溶化コラーゲン粉末は、単独で販売したり、容器に封入した化粧料用水性液と組み合わせて提供できる。水性液の1回の使用量を示す目盛りを付した容器と1回の使用量の可溶化コラーゲン粉末を分取する匙とを添付して提供すれば、使用者が化粧水等を用いて化粧料を調合する際の計量が簡単であり、常に好適な化粧料が得られる。1回の使用量の水性液を収容可能な容器に1回の使用量の可溶化コラーゲン粉末を小分けして封入すると、使用時に開封して容器に水を加えるだけで、使い切り量の新鮮なコラーゲン化粧料が得られ、携帯用コラーゲン化粧料として非常に利便性が高い。また、軽く力を加えることによって破断可能な仕切り片で遮断された2つの収容区画を有する軟質容器に、化粧料用水性液と可溶化コラーゲン粉末とを区分け封入し、仕切り片を破断してこれらを接触・混合するように構成してもよく、簡単に使用でき、混合割合を調節する必要もない。
【0041】
以下に、本発明の化粧料及びその製造について、実施例を参照して更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0042】
下記に従って可溶化コラーゲン粉末の調製及び粉末の特性評価を行った。この際、可溶化コラーゲンの等イオン点は次のように確認した。又、粉末の平均粒径は、マイクロスコープ(×500)で非塊状粒子120〜150個程度の直径を実測することによって得た。
【0043】
(等イオン点の測定)
予め活性化及び洗浄した陽イオン交換樹脂(アンバーライトIPR−120B、オルガノ(株)社製)と陰イオン交換樹脂(アンバーライトIPA−400、オルガノ(株)社製)とを2:5の割合で混合して混床イオン交換体を調製した。混床イオン交換体100mlを脱イオン水で平衡化させた後、タンパク質濃度が5%になるように調製した試料溶液を50ml加えて、40℃の水浴中に保持して30分間穏やかに攪拌して混合し、混合液から上澄みを分離して上澄みのpHを測定して、その値を等イオン点とした(J.W.Janus, A.W.Kenchington and A.G. Ward, Research, 4247(1951)に記載される方法を参考とした)。
【0044】
<可溶化コラーゲンの調製>
ブタの塩蔵皮を原料として、石灰漬けを行った。詳細には、半裁したブタの塩蔵皮1枚(約4kg)を3cm角程度の皮片に裁断し、その質量に対して300%の水及び0.6%の非イオン性界面活性剤を加えて攪拌することによって皮片を洗浄し、皮片を回収した。次いで、皮片質量に対して300%の水、0.6%の非イオン性界面活性剤及び0.75%の炭酸ナトリウムを加えて2時間攪拌して皮片を回収した。更に、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を、回収した皮片に対して2回行った後、皮片質量に対して300%の水、0.15%の非イオン性界面活性剤、3.6%の水硫化ナトリウム、0.84%の硫化ナトリウム及び2.4%の水酸化カルシウムを加えて16時間攪拌し、皮片を回収して、皮片質量に対して700%の水を用いた洗浄を3回行った。
【0045】
水酸化ナトリウム6質量%、硫酸ナトリウム15質量%及びモノメチルアミン1.25質量%を含有する水溶液8000gを調製し、上記皮片2000g(乾燥質量として約500g)を投入してよく攪拌混合した。これを密閉容器中で25℃に保持して5日間インキュベートすることによりコラーゲンを可溶化した。水溶液を穏やかに攪拌しながら水溶液中のアルカリと等量の硫酸を少量ずつ滴下して中和し、pHを4.8に調整した。中和後の皮片を取り出し、圧搾して液を除去し、pH5.0の乳酸水溶液約8000gを加えて30分間攪拌した後、皮片を圧搾して脱水した。この操作をさらに4回繰り返して行い、十分に脱塩した。中和の段階で皮片は可溶化コラーゲンの等イオン点付近のpHに調整されているため、コラーゲンは可溶化されているが、脱塩操作の後もほとんど水に溶解せず皮片の形状を保持していた。
【0046】
脱塩後の皮片のコラーゲン含有量をキエルダール法による総窒素測定の結果から算出し、このコラーゲン含有量に基づいて、脱塩後の皮片からコラーゲン質量240gに相当する分量を取分け、コラーゲン濃度が6.0質量%となるように乳酸酸性(pH3.5)の水を加えてよく混練し、可溶化コラーゲン水溶液4000gを得た。
【0047】
この可溶化コラーゲン水溶液を、ノズル(孔径:0.10mm、孔数:1000)から2ープロパノール中に吐出させて紡糸した。紡糸された可溶化コラーゲン繊維の束を、巻き取りロールによって巻き上げた後に洗浄用2−プロパノールに浸漬し、引き上げて無菌空気を送風して十分乾燥することによって平均繊度が7.0dtxの可溶化コラーゲン繊維60g(等イオン点:pH4.9)を得た。可溶化コラーゲン繊維中の脂質量をJIS K6503:(2001)5.6「油脂分」のヘキサン抽出法に従って測定したところ、0.1質量%未満であった。
【0048】
<可溶化コラーゲン粉末の製造>
(試料1)
上記可溶化コラーゲン繊維を用いて、可溶化コラーゲン濃度が1.5質量%、クエン酸ナトリウム2水和物濃度が0.2質量%の水性液(pH5.6〜5.8)を調製した。この水性液を撹拌混合しながら、20質量%クエン酸水溶液を用いてpHを5.0に調整することにより、噴霧液を調製した。
【0049】
噴霧乾燥機(L−8型、大川原化工機(株)製)を用いて、出口温度が約70℃となるように熱風温度と送液量とを調整して噴霧乾燥した。これにより、平均粒径が12.0μmの粒子表面が粗い可溶化コラーゲン粉末を得た。
【0050】
(試料2)
上記可溶化コラーゲン繊維、トレハロース結晶粉末(高純度含水α,α−トレハロース結晶、株式会社林原生物化学研究所製登録商標「トレハ」)、クエン酸ナトリウム2水和物及び水を配合して均一化し、可溶化コラーゲン濃度が1.35質量%、トレハロース濃度が0.15質量%、クエン酸ナトリウム2水和物濃度が0.2質量%の水性液(pH5.6〜5.8)を調製した。この水性液を撹拌混合しながら、20質量%クエン酸水溶液を用いてpHを5.0に調整することにより、噴霧液を得た。
【0051】
得られた噴霧液を、試料1と同じ条件で噴霧乾燥することにより、平均粒径が12.8μmの粒子表面が粗い可溶化コラーゲン粉末を得た。
【0052】
(試料3)
可溶化コラーゲン濃度が1.125質量%、トレハロース濃度が0.375質量%となるように上記可溶化コラーゲン水溶液、トレハロース、クエン酸ナトリウム2水和物及び水を配合したこと以外は試料2と同様にして水性液を調製し、20質量%クエン酸水溶液を用いて可溶化コラーゲン水溶液のpHを5.0に調整することによって噴霧液を得た。
【0053】
得られた噴霧液を、試料1と同じ条件で噴霧乾燥することにより、平均粒径が12.5μmの粒子表面が粗い可溶化コラーゲン粉末を得た。
【0054】
(試料4)
可溶化コラーゲン濃度が0.75質量%、トレハロース濃度が0.75質量%となるように上記可溶化コラーゲン水溶液、トレハロース、クエン酸ナトリウム2水和物及び水を配合したこと以外は試料2と同様にして水性液を調製し、20質量%クエン酸水溶液を用いて可溶化コラーゲン水溶液のpHを5.0に調整することによって噴霧液を得た。
【0055】
得られた噴霧液を、試料1と同じ条件で噴霧乾燥することにより、平均粒径が10.8μmの粒子表面が滑らかな可溶化コラーゲン粉末を得た。
【0056】
(試料5)
可溶化コラーゲン濃度が0.375質量%、トレハロース濃度が1.125質量%となるように上記可溶化コラーゲン水溶液、トレハロース、クエン酸ナトリウム2水和物及び水を配合したこと以外は試料2と同様にして水性液を調製し、20質量%クエン酸水溶液を用いて可溶化コラーゲン水溶液のpHを5.0に調整することによって噴霧液を得た。
【0057】
得られた噴霧液を、試料1と同じ条件で噴霧乾燥することにより、平均粒径が14.6μmの粒子表面が滑らかな可溶化コラーゲン粉末を得た。
【0058】
(試料6)
可溶化コラーゲン濃度が0.15質量%、トレハロース濃度が1.35質量%となるように上記可溶化コラーゲン水溶液、トレハロース、クエン酸ナトリウム2水和物及び水を配合したこと以外は試料2と同様にして水性液を調製し、20質量%クエン酸水溶液を用いて可溶化コラーゲン水溶液のpHを5.0に調整することによって噴霧液を得た。
【0059】
得られた噴霧液を、試料1と同じ条件で噴霧乾燥することにより、平均粒径が13.3μmの粒子表面に艶がある可溶化コラーゲン粉末を得た。粉末は綺麗な球状粒子であった。
【0060】
(試料1A)
上述で調製した試料1の可溶化コラーゲン粉末とトレハロース結晶粉末とを質量比で1:1の割合で混合して粉末混合物を調製した。
【0061】
(接触角の測定)
試料1〜6及び試料1Aの可溶化コラーゲン粉末の各々について、親水性を評価する目安として、以下の操作に従って接触角を測定した。
【0062】
先ず、水平に配置した平板上に可溶化コラーゲン粉末を薄く均一に敷き詰めて平板表面が見えないように覆った。この上に脱イオン水の水滴(約20μL)を滴下して水滴を側面から写真撮影し、この写真に基づいて、水滴上面とコラーゲン粉末とが接する水滴周縁において水滴上面と粉末面(水平面)とが成す角度(接触角)を測定した。結果を表1に示す。接触角が小さいほど可溶化コラーゲン粉末の親水性が高いことを意味し、接触角<π/2の場合を親水性、接触角>π/2の場合を疎水性とすることができる。
【0063】
(分散時間の測定:粉末当り分散時間)
試料1〜6の可溶化コラーゲン粉末の各サンプルについて、手のひら上で可溶化コラーゲン粉末20mgを半径1cmの円状に拡げて局方精製水1.0gを加え、指先で馴染ませて溶かして可溶化コラーゲン粉末が均一に分散するまでの時間を計測した。各試料について計測は5回行い、得られた計測値から平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0064】
(分散時間の測定:コラーゲン当り分散時間)
試料1〜6の可溶化コラーゲン粉末の各サンプルについて、手のひら上で可溶化コラーゲン20mgに相当する量(表中に括弧書きで記載)の可溶化コラーゲン粉末を半径1cmの円状に拡げて局方精製水1.0gを加え、指先で馴染ませて溶かして可溶化コラーゲン粉末が均一に分散するまでの時間を計測した。各試料について計測は5回行い、得られた計測値から平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0065】
(トレハロース配合による効果)
試料1〜6の可溶化コラーゲン粉末の粒径はほぼ同程度であり、噴霧液の固形分(コラーゲン+トレハロース)濃度に基づいて粉末粒径を調節可能であることが分かる。得られる可溶化コラーゲン粉末は、トレハロースの配合量が増加すると、粒子表面が滑らかになり、特にコラーゲン/トレハロースの組成比率(質量比)が50/50以下(=トレハロースがコラーゲンに対して100質量%以上)の粒子において顕著である。これに伴って粉末の軋みも若干低下する。
【0066】
接触角の測定において、滴下した水滴が可溶化コラーゲン粉末と接触すると、接触面から水滴中に可溶化コラーゲンが微小分散して懸濁する現象が観察される。表1によれば、水滴の接触角はトレハロースをコラーゲン粉末に複合化することによって急激に減少することが明らかであり、トレハロースの複合化によって粉末粒子の親水性が急激に向上して水馴染みが良くなることを示している。これは、目視観察によっても容易に確認でき、試料1の場合は、可溶化コラーゲン粉末上に載せた水滴が盛り上がった略球形を維持するのに対し、試料2〜6では水滴が周囲に拡がって平らになり、トレハロースの割合が増加するに従って水滴の直径が増加して2倍超に至る。表1の結果に基づくと、粒子のコラーゲン/トレハロース組成比率(質量比)が85/15程度以下(=コラーゲンに対してトレハロースが約18質量%以上)において、粉末粒子は親水性(接触角<π/2)であり、75/25以下(=コラーゲンに対してトレハロースが約30質量%以上)において親水性が高い。これに対し、可溶化コラーゲン粉末とトレハロース粉末との混合物である試料1Aの場合、組成比率が同じである試料4に比べて接触角が非常に大きく、疎水性が著しいことから、複合化によって粉末粒子の親水性を効率よく高めることができ、粉末の水馴染みの改善に有効であることが分かる。
【0067】
分散時間の測定において、可溶化コラーゲン粉末に水が接触すると、コラーゲンの分散による白濁が観察される。表3によれば、トレハロースを配合すると、粉末当りの分散時間だけでなくコラーゲン当りの分散時間も減少し、トレハロースの配合が可溶化コラーゲン粉末の分散促進に有効であることが分かる。これは、粉末粒子の親水性向上に伴って初期の水馴染みが良くなると共に、粒子の複合化によって透水性が向上して粒子崩壊及び微小拡散が進行することによると考えられる。
【0068】
(表1)
トレハロースの効果
組成比率[質量/質量] 接触角 分散時間[秒]
コラーゲン/トレハロース [°] 粉末当り コラーゲン当り
試料1 100/0 127.87 28 28(20mg)
試料2 90/10 117.99 21 21(22mg)
試料3 75/25 48.45 17 20(27mg)
試料4 50/50 46.81 14 24(40mg)
試料5 25/75 41.39 9 23(80mg)
試料6 10/90 28.55 3 16(200mg)
試料1A 50/50 111.54 − −
【実施例2】
【0069】
実施例1と同様にして調製した脱塩後の可溶化コラーゲン皮片を原料として用いて可溶化コラーゲン繊維を調製し、表2に示す濃度組成 [質量%]に従ってトレハロース、グリコール化合物(プロピレングリコール、ナカライテスク(株)社製試薬)、脱イオン水を添加して水性液を調製した後、20%クエン酸ナトリウム2水和物水溶液を用いてpHを5.0に調整し、表2に示す量の酢酸ベタイン型両性界面活性剤(NIKKOL AM-301、日光ケミカルズ(株)社製試薬)を加えて、試料7〜14の噴霧液を調製した。
【0070】
得られた噴霧液を、各々、実施例1と同じ条件で噴霧乾燥機を用いて乾燥することにより、試料7〜14の可溶化コラーゲン粉末を得た。得られた可溶化コラーゲン粉末の平均粒径及び表面状態を表3に示す。
【0071】
得られた可溶化コラーゲン粉末について、実施例1と同様にして、接触角、粉末20mg当りの分散時間及び可溶化コラーゲン20mg当りの分散時間を測定した。結果を表3に示す(表中、括弧内は使用粉末量を示す)。
【0072】
(各複合成分の有効性)
試料7〜14の噴霧液の固形分濃度及び噴霧条件は、粒径が試料1〜6と同程度の大きさの粉末を調製するように設定されており、表3の結果において、両性界面活性剤又はグリコール化合物の配合による噴霧乾燥への影響は小さいと考えられる。
【0073】
表3によれば、試料8,10,12,14の結果から、トレハロースと同様に両性界面活性剤も可溶化コラーゲン粉末の親水性を高めるのに有効であることが明らかである。グリコール化合物は、単独では粉末の分散を促進する効果は低いが、試料10,14の結果から、両性界面活性剤と組み合わせて用いると有効であることが理解される。
【0074】
(表2)
噴霧液の濃度組成[質量%]
コラーゲン トレハロース 界面活性剤 グリコール
試料7 1.5 − − −
試料8 1.5 − 0.015 −
試料9 1.5 − − 0.075
試料10 1.5 − 0.015 0.075
試料11 0.75 0.75 − −
試料12 0.75 0.75 0.015 −
試料13 0.75 0.75 − 0.075
試料14 0.75 0.75 0.015 0.075
【0075】
(表3)
界面活性剤及びグリコールの効果
平均粒径 表面状態 接触角 分散時間[秒]
[μm] [°] 粉末当り コラーゲン当り
試料7 12.0 粗い 127.87 28 28(20mg)
試料8 11.3 粗い 34.18 17 17(20mg)
試料9 14.9 粗い 131.71 25 25(20mg)
試料10 12.2 粗い 29.58 15 15(20mg)
試料11 10.8 滑らか 46.81 14 24(40mg)
試料12 12.2 滑らか 21.57 15 24(40mg)
試料13 11.4 滑らか 50.16 23 30(40mg)
試料14 13.7 滑らか 14.27 9 20(40mg)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子中にトレハロースが共存するように複合化される可溶化コラーゲン粉末。
【請求項2】
更に、前記可溶化コラーゲンに対して0.1〜2質量%の両性界面活性剤が粒子中に共存する請求項1記載の可溶化コラーゲン粉末。
【請求項3】
更に、前記可溶化コラーゲンに対して1〜10質量%のグリコール化合物が粒子中に共存する請求項1又は2記載の可溶化コラーゲン粉末。
【請求項4】
可溶化コラーゲン及びトレハロースを含有する水性噴霧液を調製する工程と、前記水性噴霧液を噴霧乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする可溶化コラーゲン粉末の製造方法。

【公開番号】特開2009−67703(P2009−67703A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235911(P2007−235911)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】