説明

可溶化剤

【課題】従来知られている可溶化剤以上の可溶化作用を有する優れた可溶化剤を提供すること
【解決手段】ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体を含有する、可溶化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性化合物を可溶化する可溶化剤に関する。また、本発明は当該可溶化剤を用いて得られる難水溶性化合物溶液、及び当該可溶化剤を用いた難水溶性化合物可溶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、化粧品等を製造する際、水に難溶である有効成分や添加剤を、水へ溶解させる必要が生じる場合がある。特に、経口投与又は経皮投与しようとする物質が難水溶性である場合は、腸管吸収性、経皮吸収性が悪く、バイオアベイラビリティが著しく低くなるという問題がある。例えば、医薬品開発において、十分な薬理活性を示す化合物が発見されても、当該化合物が難水溶性であるためにバイオアベイラビリティが低く、開発途中でペンディング又はドロップアウトしてしまうこともしばしば起こる。
【0003】
そこで、従来から難水溶性化合物を可溶化する技術が研究されてきた。例えば、難水溶性薬物を、マイクロエマルジョンを用いて可溶化する技術が検討されてきている。しかし、マイクロエマルジョン化には粒子径を小さくするために高圧乳化機が用いられることが多く、薬物によっては高圧乳化時の摩擦熱による影響で活性が低下してしまうという問題点があった。またマイクロエマルジョン中の油滴自体が安定(小粒径)であったとしても、当該油滴内又は外水相との界面において難水溶性薬物の結晶が成長することにより、油滴が崩壊し、薬物が析出してしまうことも多かった。
【0004】
そこで可溶化剤として高分子界面活性剤、その中でもブロックコポリマー型界面活性剤が注目されている。ブロックコポリマー界面活性剤は、親水性ブロックと疎水性ブロックから構成されるコポリマーからなる。上市されている代表的なブロックコポリマー型界面活性剤として、ポロキサマーがある。ブロックコポリマー型界面活性剤は可溶化作用、分散作用に比較的優れ、かつ毒性も低いため、幅広い産業で利用されている。
【0005】
しかし、ポロキサマーの可溶化作用も十分とはいえず、ポロキサマー以上の可溶化作用を有するさらに優れた可溶化剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO02/17848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、難水溶性物質を水に可溶化する可溶化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、優れた可溶化作用を有する可溶化剤を見出すため、鋭意検討したところ、硬カプセルの皮膜に好適に用い得ることが報告されている“ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下で少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体”(特許文献1参照)が、難水溶性物質の可溶化作用に優れることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は例えば以下の項1〜8に記載の発明を包含する。
項1.
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体
を含有する、可溶化剤。
項2.
項1に記載の可溶化剤、及び難水溶性化合物を水性溶媒に溶解してなる難水溶性化合物溶解液。
項3.
難水溶性化合物が医薬化合物、医薬品添加物、化粧品添加物、及び食品添加物からなる群より選択される少なくとも1種である、項2に記載の溶解液。
項4.
医薬品製造用、化粧品製造用、又は食品製造用である、項2又は3に記載の溶解液。
項5.
項2又は3に記載の溶解液を用いて製造される医薬組成物、化粧品組成物、又は食品組成物。
項6.
項1に記載の可溶化剤を水性溶媒に溶解した可溶化剤溶液に、難水溶性化合物を溶解させる工程を含む、難水溶性化合物溶解液を製造する方法。
項7.
難水溶性化合物が予め有機溶媒に溶解されたものである、項6に記載の難水溶性化合物溶解液を製造する方法。
項8.
項1に記載の可溶化剤を水性溶媒に溶解した可溶化剤溶液に、難水溶性化合物を混合する工程を含む、難水溶性化合物の可溶化方法。
項9.
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体
が難水溶性化合物を内包してなる、ミセル粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明の可溶化剤は、難水溶性化合物を大量かつ安定に水に溶解させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る可溶化剤は、以下の重合体又は共重合体を含有してなる。
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体。
【0013】
当該重合体又は共重合体について説明する。
【0014】
用いるポリビニルアルコール(以下「PVA」ともいう)としては、特に制限はされず、例えば完全ケン化物、中間ケン化物、部分ケン化物等を用いることができる。また、PVAの誘導体としては、アミン変性PVA、エチレン変性PVA、末端チオール変性PVAなどの各種変性PVAを用いることができる。
【0015】
PVAは、酢酸ビニルをラジカル重合し、得られたポリ酢酸ビニルを適宜ケン化することによって得ることができる。よって、通常PVAには酢酸ビニル由来の−OCOCH基が存在する。PVAは、ケン化度の違いにより、完全ケン化物、中間ケン化物、部分ケン化物等に分類され得る。本発明に用いるPVAのケン化度は約70モル%以上であることが好ましく、約80モル%以上であることがより好ましく、約85モル%以上であることがさらに好ましい。なかでも、ケン化度約85〜90モル%、特に約86〜89モル%程度のPVAケン化物が好適である。なお、当該分野でよく知られているように、PVAの完全ケン化物とは通常ケン化度約98モル%以上のPVAのことであって、必ずしも100モル%ケン化されたものではない。
【0016】
また、PVAの誘導体として例示される、アミン変性PVA、エチレン変性PVA、末端チオール変性PVAなどの各種変性PVAは、例えば当該分野で公知の方法で製造することができる。
【0017】
なお、PVA及びその誘導体は、市販品を購入して用いることもできる。例えば日本合成化学工業株式会社、日本酢ビ・ポバール株式会社等から購入することができる。
【0018】
PVA及びその誘導体は、種々の重合度のものが知られているが、その平均重合度は特に限定されない。例えば、平均重合度約200〜5000、好ましくは約300〜3800、より好ましくは約300〜3000のものを本発明に用いることができる。当該平均重合度はGPC(Gel permeation Chromatography)法で求められる。
【0019】
PVA及びその誘導体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、ケン化度の異なるPVA及び各種変性PVAを、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明において使用される重合性ビニル単量体は、
一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される化合物である。
【0021】
具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、イソブチルアクリレートが挙げられる。また、アクリル酸及びメタクリル酸は、これらの塩を用いることもできる。例えば、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、又はアルキルアミン塩等を用いてもよい。
【0022】
また、重合性ビニル単量体は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0023】
重合性ビニル単量体としては、アクリル酸及びメタクリル酸(又はこれらの塩でもよい)の少なくとも1種と、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、及びイソブチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて使用するのがより好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸並びにメチルメタクリレートを使用するのがさらに好ましい。
【0024】
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、少なくとも1種の上記の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体(以下単に「PVA共重合体」ともいう)における、PVA及び/又はその誘導体と重合性ビニル単量体との割合は、特に制限されないが、好ましくは、PVA及び/又はその誘導体が20から95質量%、重合性ビニル単量体が5から80質量%である。さらに好ましくは、PVA及び/又はその誘導体が50から90質量%、重合性ビニル単量体が10から50質量%である。
【0025】
また、2種以上の重合性ビニル単量体を組み合わせて用いる場合、その組み合わせの割合は、特に制限されないが、(I)アクリル酸、メタクリル酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及びアルキルアミン塩からなる群より選択される少なくとも1種と(II)メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、及びイソブチルアクリレートからなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて使用する場合には、重合性ビニル単量体合計量に対し、(I)の質量比は好ましくは5から50質量%、より好ましくは10から40質量%であり、(II)の質量比は好ましくは50から95質量%、より好ましくは60から90質量%である。
【0026】
共重合の方法は、公知の方法を使用できる。例えば、水にPVA及び/又はその誘導体を添加し、加温して溶解し、次いで少なくとも1種の重合性ビニル単量体、及び重合開始剤とを添加し、共重合させて共重合体を得ることができる。例えば、イオン交換水へPVA及び/又はその誘導体を分散させ、90〜100℃で完全溶解させた後、少なくとも1種の重合性ビニル単量体を加えて窒素置換し、重合開始剤を加えて2〜5時間程度反応させて共重合体を得ることができる。水に添加するPVA及び/又はその誘導体、並びに重合性ビニル単量体の質量比によって、上述のPVA共重合体におけるPVA及び/又はその誘導体、並びに重合性ビニル単量体の質量比が決定される。よって、水に添加するこれらの質量比は上述のPVA共重合体におけるPVA及び/又はその誘導体並びに重合性ビニル単量体の質量比と同様であることが好ましい。
【0027】
重合開始剤は、従来使用されているものを用いることができる。例えば、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド、AIBN(アゾイソブチロニトリル)などのアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過酸化水素−酒石酸、過酸化水素−酒石酸ナトリウムなどのレドックス開始剤等を使用することができる。
【0028】
限定的な解釈を望むものではないが、本発明において、ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、少なくとも1種の上記特定の重合性ビニル単量体を重合又は共重合させる際の反応機構は、次のようなものであると考えられる。すなわち、まず、重合開始剤により、PVAに存在する−OCOCH基の末端のメチル基の水素が引き抜かれ、ラジカルが発生する。当該ラジカルに重合性ビニル単量体が結合し、当該重合性ビニル単量体の二重結合が切断され、再度ラジカルが発生する。当該ラジカルに重合性ビニル単量体が結合し、同様に反応が繰り返される。
【0029】
本発明において、PVA共重合体は、PVAの側鎖として存在する−OCOCH基に前述の少なくとも1種の重合性ビニル単量体がグラフト重合した構造を有する。なお、このグラフト重合において、少なくとも1種の重合性ビニル単量体が重合又は共重合した重合体を介してPVA同士が結合していてもよい。すなわち、本発明において、PVA共重合体は、少なくとも1種の重合性ビニル単量体が重合してPVA同士を架橋した構造を有してもよい。
【0030】
例えば、重合性ビニル単量体としてアクリル酸及びメチルメタクリレートを用いた場合は、PVA共重合体は、アクリル酸及びメチルメタクリレートの共重合体が、PVAの−OCOCH基を介してPVAに結合した構造を有する。
【0031】
このようなPVA共重合体(ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体)として、具体的には、POVACOAT(登録商標)Type F、POVACOAT(登録商標)Type R(いずれも大同化成工業株式会社製)等を例示できる。
【0032】
本発明の可溶化剤は、上記の重合体又は共重合体からなるものでもよいし、当該重合体又は共重合体の他に、本発明の効果を損なわない程度において、他の公知の可溶化剤及び各種界面活性剤等を含むものであってもよい。また、本発明の効果を損なわない程度において、賦形剤や溶剤等を含んでもよい。可溶化剤の形態も特に制限されず、例えば粉末状、固形状、液状等であり得る。このような可溶化剤は、例えば打錠や、溶剤への溶解等、公知の方法により製造できる。特に制限されないが、本発明の可溶化剤は、例えば上記の重合体又は共重合体を0.1〜100質量%含むものが例示できる。
【0033】
本発明の可溶化剤を用いることで、種々の難水溶性化合物を簡便にかつ比較的大量に水へ溶解させることができ、難水溶性化合物のバイオアベイラビリティを上げることが(すなわち、生体への吸収性を向上させることが)できる。
【0034】
難水溶性化合物の種類にもよるが、本発明の可溶化剤を用いて難水溶性化合物を水に溶解させる場合、難水溶性化合物をそのまま水に溶解させようとするのに比べ、質量比で、例えば、2倍〜100倍量、好ましくは2倍〜1000倍量の難水溶性化合物を水へ溶解させることができる。
【0035】
本発明の可溶化剤が可溶化できる難水溶性化合物は、難水溶性である化合物であれば特に制限されない。例えば、難水溶性の低分子化合物(分子量10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは2000以下の化合物、さらに好ましくは1000以下の化合物)が好適である。また、難水溶性薬物を水に溶解できれば、例えば当該難水溶性化合物を含む医薬品、化粧品、食品等の製品の製造を簡便に行うことができるため、生産性向上の点でも好ましい。また、このようにして得られる製品を投与、摂取又は適用する場合、上述の通り難水溶性化合物の生体への吸収性が向上しており、好ましい。難水溶性化合物としては、例えば、難水溶性の医薬化合物(動物薬を含む)、農薬化合物、肥料、化粧料、香料、食品材料、飼料、抗菌剤、防腐剤、防虫剤、殺虫剤、防錆剤、塗料など、広い分野の化合物を選択して用いることができる。なかでも、医薬化合物、医薬品添加物、化粧品添加物、食品添加物等が好ましい。
【0036】
なお、難水溶性化合物とは、水に溶解しにくい化合物をいい、第十五改正日本薬局方に記載される「やや溶けにくい」「溶けにくい」「極めて溶けにくい」「ほとんど溶けない」のいずれに当てはまるものであってもよい。具体的には、化合物が固形の場合は粉末とした後、水中に入れ、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、30分以内に溶ける度合を検討し、化合物1g又は1mLを溶かすのに要する水量が30mL以上100mL未満のものを「やや溶けにくい」、100mL以上1000mL未満のものを「溶けにくい」、1000mL以上10000mL未満のものを「極めて溶けにくい」、10000mL以上のものを「ほとんど溶けない」とする。
【0037】
本発明の可溶化剤により可溶化される難水溶性化合物としては、特に制限されないが、より具体的には、例えば公知の難水溶性の医薬化合物、医薬品添加剤、化粧品添加剤、食品添加剤等が挙げられる。難水溶性医薬化合物としては、例えば、インドメタシン、ナプロキセン、イブプロフェン、フェナセチン、フェニルブタゾン、グリセオフルビン、アゾール系化合物、フェニトイン、二硝酸イソソルビット、ニトロフェニルピリジン系化合物等が例示できる。なお、ニトロフェニルピリジン系化合物はニトロフェニル基とピリジン環構造を有する難水溶性化合物を包含する。ニトロフェニルピリジン系化合物としては、ピリジン環の2位〜4位のいずれかにニトロフェニル基が結合した構造を有する化合物が好ましい。具体的な化合物としては、ニフェジピン、ニルバジピンなどが挙げられる。またさらに、アムホテリシンB、ユビデカレノン、トレチノイン、シクロスポリンA等も例示される。
【0038】
また、添加剤としては、例えば難水溶性の防腐剤が好ましい。特に制限はされないが、防腐剤として、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、イソブチルパラベン、ブチルパラベン等を例示できる。
【0039】
なお、これらは難水溶性化合物の例示であり、これらに限定される訳ではなく、上述の通り、難水溶性である化合物であれば特に制限されない。
【0040】
なお、難水溶性化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組み合わせて用いる場合の比率も特に制限されず、適宜設定できる。
【0041】
本発明の可溶化剤を用いて、難水溶性化合物を水(又は水を主とする溶媒)に安定して大量に溶解させることができる。なお、水を主とする溶媒とは、水及び有機溶媒が混合してなる溶媒であって、水が50質量%以上(好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上)含まれる溶媒である。水以外に含まれる有機溶媒としては、例えばアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール等の低分子アルキルアルコールや、グリセリン等の多価アルコールが例示される)、アセトン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。水以外の有機溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。以下、水及び水を主とする溶媒をまとめて水性溶媒とも呼ぶ。
【0042】
本発明の可溶化剤を用いて、難水溶性化合物を水性溶媒に安定して大量に溶解させる手順としては、可溶化剤及び難水溶性化合物を一時に溶解させても、難水溶性化合物を分散させた後可溶化剤を加えてもよいが、本発明の可溶化剤を水性溶媒に溶解させて可溶化剤溶液を作製し、当該溶液に難水溶性化合物を溶解させるのが好ましい。(以下、可溶化剤を水性溶媒に溶解した溶液を可溶化剤溶液とも呼ぶ。)可溶化剤溶液は、やや白濁した溶液となることもあるが、特に問題なく難水溶性化合物を溶解させるために用いることができる。なお、限定的な解釈を望むものではないが、用いた可溶化剤の一部がいわゆる高分子ミセルを形成することが考えられ、このために可溶化剤溶液が白濁したコロイド溶液となる場合があるものと考えられる。
【0043】
また、得られた難水溶性化合物溶解液も同様に白濁がみられたとしても、難水溶性化合物は溶解しているためそのまま用いてもよい。また、濾紙又はフィルター等を用いて濾過を行って得られる濾液を用いてもよい。このようにして得られる難水溶性化合物溶解液には、難水溶性化合物が大量かつ安定に溶解しており、様々な用途に用いることができる。
【0044】
本発明の可溶化剤は、特に制限されないが、可溶化剤溶液の可溶化剤濃度が大きいほど、溶解できる難水溶性化合物量も多くなる傾向を有するものが好ましい。可溶化剤溶液の可溶化剤の濃度は、溶解させる難水溶性化合物の量に応じて適宜設定できる。例えば、2質量%(w/w%)以上、5質量%以上、又は10質量%以上等であってよい。
【0045】
可溶化剤溶液に加える難水溶性化合物量は、特に限定されない。可溶化剤溶液に溶解する量を適宜設定して用いることが出来る。また、可溶化剤溶液に溶解しきらない量(過剰量)を加えてもよい。溶解しきらない可溶化剤又は難水溶性化合物が存在する場合は、濾紙又はフィルター等を用いて濾過を行ってもよい。濾過により、溶解しきらない可溶化剤又は難水溶性化合物が除去され、難水溶性化合物が大量かつ安定に溶解した濾液を得ることが出来る。
【0046】
難水溶性化合物溶解液の可溶化剤及び難水溶性化合物の濃度は、用いる難水溶性化合物の種類や用途等に応じて適宜設定でき、特に制限されない。例えば、可溶化剤濃度は0.1〜10質量%であり得る。また、例えば、得られる難水溶性化合物溶解液を医薬組成物として用いる場合、可溶化剤濃度は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。
【0047】
また、特に制限されないが、例えば、難水溶性化合物濃度は、可溶化剤を用いずそのまま水に溶解させた際10μg/ml未満しか溶解しない化合物の場合、20μg/ml以上が好ましく、50μg/ml以上がより好ましく、80μg/ml以上がさらに好ましい。また、可溶化剤を用いずそのまま水に溶解させた際10μg/ml以上100μg/ml未満しか溶解しない化合物の場合、120μg/ml以上が好ましく、200μg/ml以上がより好ましく、300μg/ml以上がさらに好ましい。また、可溶化剤を用いずそのまま水に溶解させた際100μg/ml以上200μg/ml未満しか溶
解しない化合物の場合、250μg/ml以上が好ましく、300μg/ml以上がより好ましく、400μg/ml以上がさらに好ましい。難水溶性化合物の濃度をこの程度まで高くできるのは本発明の可溶化剤の効果による。
【0048】
可溶化剤及び難水溶性化合物の溶解方法については特に制限されず、常法に従えばよい。例えば、可溶化剤又は難水溶性化合物を溶液に加え、かき混ぜて、又は振とうさせて溶解させればよい。あるいは、難水溶性化合物を予め少量の溶媒に溶かしてから可溶化剤溶液に加えて溶解させてもよい。難水溶性化合物を溶かす溶媒としては、難水溶性化合物を溶解できる溶媒であれば特に制限されない。例えば、両親媒性溶媒を用いることができる。両親媒性溶媒中に溶解させる難水溶性化合物料は、両親媒性溶媒及び難水溶性化合物の種類に応じて適宜設定できる。難水溶性化合物を予め両親媒性溶媒に溶解させて用いる場合、可溶化剤溶液に溶解させた後で当該両親媒性溶媒を留去してもよい。用いる両親媒性溶媒としては例えばメタノール、エタノール、グリセリン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。当該両親媒性溶媒の留去は、公知の方法で行い得る。例えばエバポレーターを用いて当該溶媒を留去することができる。なお、グリセリンやポリエチレングリコールを用いた場合は、留去しなくてもよい。
【0049】
また例えば、難水溶性化合物を溶かす溶媒として、例えばアセトンを用いることもできる。またさらに、酢酸エチル、n−ヘキサン、クロロホルム等の水に溶解しない溶媒を用いることもできる。難水溶性化合物によっては、このような溶媒を用いることで溶解度が比較的向上する場合もあり、好ましい。なお、このような溶媒を用いる場合、難水溶性化合物を予め当該溶媒に溶かしてから可溶化剤溶液に加えて溶解させた後、当該溶媒を留去することが好ましい。当該溶媒の留去は、公知の方法で行い得る。例えばエバポレーターを用いて当該溶媒を留去することができる。
【0050】
なお、本明細書では、定性濾紙No.2(JIS P 3801[ろ紙(化学分析用)]に規定される2種)を用いて濾過処理して濾液を得、目視で濾液中に沈殿が確認されない場合、濾液に含まれる物質は“溶解”しているものとする。よって、物質が溶解しているかどうかは、当該濾過処理を行い、濾液に沈殿が生じていないことを確認した後、当該濾液中に物質が含まれているかを分析することにより判定できる。分析は、例えば吸光光度法により行い得る。また、吸光光度法であれば、溶解している物質を定量することもできる。また、定性濾紙No.2よりも細かい孔径のフィルターで濾過処理する場合も、同様にして物質が溶解
しているかを判定できる。特に孔径0.45μmのフィルターで濾過処理する場合は、孔径が小さいため、濾液に沈殿が生じることは考えにくいことから、濾液に含まれる物質は溶解していると判定してよい。
【0051】
なお、上述のように、本発明の可溶化剤を用いて難水溶性化合物を水性溶媒に溶解させた場合、該可溶化剤が高分子ミセル粒子を形成し、当該ミセル粒子中に難水溶性化合物が内包されて存在すると考えられる(この場合、難水溶性化合物は当該ミセル粒子の内核であり、本発明の可溶化剤は当該ミセル粒子の外殻といえる)。
【0052】
このため、本発明の可溶化剤が難水溶性化合物を内包した当該ミセル粒子を積極的に調製し、当該ミセル粒子を水性溶媒に溶解させることでも、難水溶性化合物を水性溶媒に安定して大量に溶解させることが(すなわち、難水溶性化合物溶解液を得ることが)できる。またさらに、本願発明は、当該ミセル粒子も包含する。当該ミセル粒子は、換言すれば、
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体
が難水溶性化合物を内包してなる、ミセル粒子である。
【0053】
当該ミセル粒子を積極的に調製する方法としては、公知の方法を用いることができる。公知の方法としては、透析法、蒸散法等が例示される。例えば、透析法によりミセル粒子を調製する場合は、本発明の可溶化剤及び難水溶性化合物を適当な溶媒(例えばDMSO)に溶解させ、透析処理し、溶媒を分離除去して得ることができる。得られたミセル粒子は、凍結乾燥させて保存することもできる。また例えば、蒸散法によりミセル粒子を調製する場合は、本発明の可溶化剤を水に溶解させ可溶化剤水溶液を得、一方で難水溶性化合物を適当な溶媒(クロロホルム等)に溶解させて難水溶性化合物溶液を得、可溶化剤水溶液に難水溶性化合物溶液を滴下後、徐々にクロロホルムを蒸散させることで得ることができる。得られたミセル粒子は、凍結乾燥させて保存することもできる。
【0054】
以上のようにして得られる難水溶性化合物溶解液(溶媒が水の場合は難水溶性化合物水溶液)は、例えば、医薬組成物、化粧品組成物、食品組成物などを製造するために好適に用いることができる。換言すれば、当該溶解液は、医薬品製造用、化粧品製造用、又は食品製造用の溶液として好ましく用いることができる。難水溶性であるためにバイオアベイラビリティが低く、摂取させても十分な効果が期待できない化合物を、本発明の可溶化剤により可溶化させ、バイオアベイラビリティを向上させた上で、組成物の製造に用いることができるので有利である。つまり、当該難水溶性化合物溶解液を用いて製造される組成
物(特に液状組成物)は、難水溶性化合物のバイオアベイラビリティが高められているため、当該組成物を用いることで、難水溶性化合物が奏する効果を効率よく得ることができる。
【0055】
これらの組成物に含まれる可溶化剤量及び難水溶性化合物量は特に制限されない。用いる難水溶性化合物が奏する効果、及び当該効果を得るための用量等を考慮した上で、難水溶性化合物量を適宜設定すればよい。また、難水溶性化合物溶解液中に溶解した難水溶性化合物量は、吸光光度法により求めることができる。よって、溶解している難水溶性化合物量を目安として、組成物製造時に用いる難水溶性化合物溶解液の量を設定すればよい。特に制限されないが、例えばこれらの組成物は難水溶性化合物溶解液が0.1〜100質量%含まれて製造され得る。
【0056】
例えば、医薬組成物を製造する場合、可溶化剤を用いて溶解する難水溶性化合物が、有効成分である薬物であってもよいし、防腐剤、保存剤等の医薬品製造に必要な薬剤であってもよい。難水溶性化合物が難水溶性薬物である場合、難水溶性薬物溶解液そのものを医薬組成物として用いることもできるし、これに適宜他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)などを配合してもよい。医薬組成物の剤形も特に制限はされず、常法により、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤(外用液剤、内用液剤)、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、軟膏剤、カプセル剤、注射剤、点眼剤、貼付剤などの医薬製剤を製造してもよい。難水溶性薬物は水に難溶性であるため、通常、液剤、乳剤、軟膏剤、カプセル剤、注射剤、点眼剤等として調製することが難しい。しかし、本発明により難水溶性薬物であっても水性溶媒に多量かつ安定に溶解させることができるため、これらの剤に調製することも容易であり、好ましい。投与方法も特に限定はされないが、難水溶性薬物の溶解性を高めることにより、経口投与、経皮投与、経血管投与(経動脈投与、経静脈投与等)等によるバイオアベイラビリティを向上させることができるため、特にこれらの投与方法は、本発明の特徴を生かせる点で好適である。なかでも、液剤や乳剤の点滴や注射による経血管投与や、カプセル剤の経口投与が好適である。本医薬組成物の投与対象及び投与量は、溶解した難水溶性薬物(有効成分)の種類に応じて適宜設定できる。なお、本医薬組成物は、ヒトのみならず、他の哺乳類も投与対象とできる。医薬組成物の場合、難水溶性薬物として、例えばインドメタシン、ナプロキセン、イブプロフェン、フェナセチン、フェニルブタゾン、グリセオフルビン、アゾール系化合物、フェニトイン、二硝酸イソソルビット、ニトロフェニルピリジン系化合物、アムホテリシンB、トレチノイン、シクロスポリンA等の医療用医薬化合物や、公知の医薬添加剤等を好適に用いることができる。また、例えばメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、イソブチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤も好適に用いることができる。
【0057】
また、化粧品組成物の製造も、例えば上記医薬組成物の製造と同様にして行うことができる。つまり、可溶化剤を用いて溶解する難水溶性化合物が有効成分(例えば、保湿成分、美白成分、)である薬物であってもよいし、防腐剤、保存剤等の化粧品製造に必要な薬剤であってもよい。難水溶性化合物溶解液そのものを化粧品組成物として用いることもできるし、これに適宜他の薬理活性成分、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等)などを配合してもよい。化粧品組成物の形態も特に制限はされず、常法により、例えば、クリーム、乳液、洗顔料、パック等に調製することができる。難水溶性化合物を溶解したクリーム、乳液、洗顔料、パック等は、当該難水溶性化合物のバイオアベイラビリティが高く、有利である。すなわち、これらは難水溶性化合物が安定かつ大量に溶解した化粧品組成物であるため、当該化合物のバイオアベイラビリティ(特に経皮吸収性)が高まるので有利である。化粧品組成物の場合、難水溶性化合物として、例えば脂溶性ビタミン類や抗酸化剤(例えばユビデカレノン)、防腐剤、紫外線吸収剤等を好適に用いることができる。また、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、イソブチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤も好適に用いることができる。
【0058】
また、食品組成物の製造も、上記と同様に行い得る。つまり、可溶化剤を用いて溶解する難水溶性化合物が機能性成分(生体調節機能に関与する食品成分)であってもよいし、防腐剤、保存剤等の食品製造に必要な薬剤であってもよい。難水溶性化合物溶解液そのものを食品組成物として用いることもできるし、これに適宜他の栄養成分、薬学的又は食品衛生学的に許容される基剤、担体、添加剤などを配合してもよい。食品組成物の形態も特に制限はされず、常法により、例えば、加工食品、飲料、健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメント、病者用食品等に調製することができる。このような食品は、難水溶性化合物のバイオアベイラビリティが高く、有利である。食品組成物の場合、難水溶性化合物として、例えば脂溶性ビタミン(例えばビタミンE等)、抗酸化剤(例えばユビデカレノン)、防腐剤等を好適に用いることができる。
【0059】
なお、上述した、本発明の可溶化剤が難水溶性化合物を内包したミセル粒子を医薬組成物、化粧品組成物、食品組成物などを製造するために、上記と同様に好適に用いることもできる。また、当該ミセル粒子そのものを、医薬組成物、化粧品組成物、又は食品組成物として用いることもできる。
【0060】
また、当該ミセル粒子の粒子径は通常数十〜数百nm(例えば10〜400nm程度、好ましくは20〜200nm程度、より好ましくは20〜100nm程度)である。このような粒子径であれば、EPR効果により癌のターゲティングを達成することが期待されるため、難水溶性抗ガン剤を内包した当該ミセル粒子を抗癌用医薬組成物として用いることは有用である。
【0061】
また、特に制限はされないが、当該ミセル粒子のゼータ電位は、−5〜−25mV程度が好ましく、−10〜−20mV程度がより好ましい。
【0062】
なお、当該ミセル粒子の粒子径及びゼータ電位は、ミセル粒子(凍結乾燥品)1mgを水1mLに溶解し、メンブランフィルター(Millex-HV 0.45 μm)でろ過した後、ゼータサイザーナノZS(マルバーン)を用いた動的光散乱法により測定した値である。
【0063】
また、当該ミセル粒子は、特に制限はされない(また、用いる難水溶性化合物の種類にもよる)が、難水溶性化合物の含有量(w/w%)が0.5〜20%程度であることが好ましく、0.5〜10%程度であることがより好ましい。なお、当該含有量は、ミセル粒子(凍結乾燥品)1mgを水1mLに溶解し、メンブランフィルター(Millex-HV 0.45 μm)でろ過した後、高速液体クロマトグラフィーにより測定した値である。
【0064】
また、当該ミセル粒子の用途から明らかなように、この用途においては、本発明の可溶化剤(PVA共重合体)は、化合物キャリヤー高分子ミセルを製造するために用いることもできる。言い換えれば、本発明は、化合物キャリヤー高分子ミセル用PVA共重合体をも包含する。なお、当該PVA共重合体は、上述したものである。
【0065】
つまり、化合物(好ましくは難水溶性化合物)を当該PVA共重合体が内包したミセルであれば、容易に水性溶媒に溶解することができるため、当該化合物のキャリアー(特に化合物を生体投与する際のキャリアー)として用いることができ、有利である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
1.PVAコポリマーの合成
冷却還流管、滴下ロート、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けたセパラブルフラスコにPVA(EG05、平均重合度500、けん化度88%、日本合成化学製)175.8g、イオン交換水582.3gを仕込み、常温で分散させた後95℃で完全溶解させた。次いでアクリル酸5.4g、メチルメタクリレート37.3gを添加し、窒素置換後50℃まで昇温した後、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド8.5g、エリソルビン酸ナトリウム8.5gを添加し4時間で反応を終了しPVA共重合体を得た。これを乾燥・粉砕してPVA共重合体粉末を得た。
【0067】
以下、当該PVA共重合体粉末を「PVAコポリマー」として実験に用いた。
2.各種可溶化剤とPVAコポリマーの比較
下記表1に記載する各種高分子化合物(可溶化剤)と、上記のようにして製造したPVAコポリマーとの、可溶化能力を比較した。なお、当該検討は、特に断りのない限り室温(20℃±5℃)で行った。
【0068】
【表1】

【0069】
可溶化能力を比較するために、ニフェジピン、ナプロキセン、及びブチルパラベンの3種の難水溶性薬物を用いた。ニフェジピンは血管拡張薬の1種であり、狭心症、高血圧の治療に使用される。ナプロキセンは、芳香族カルボン酸に分類される有機化合物で、鎮痛、解熱、抗炎症薬として用いられる非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID) の一種である。ブチルパラベンは、防腐剤又は抗菌剤として、多くの化粧品等に配合される成分である。下にニフェジピン、ナプロキセン及びブチルパラベンの構造式を記載する。
【0070】
【化1】

【0071】
【化2】

【0072】
【化3】

【0073】
各高分子化合物の可溶化能力の比較検討は、具体的には次のようにして行った。表2〜4に示す、実施例1〜9および比較例1〜9に示す処方の高分子水溶液を50gずつ100mLのガラス瓶に量り取り、難水溶性薬物(ニフェジピン、ナプロキセン、又はブチルパラベン)0.20gを加えて室温で3時間振とうさせた後、3000rpmで1時間遠心分離を行い不溶な薬物を沈殿させ、上清を0.45μmのフィルターでろ過し、ろ液中の薬物濃度を吸光光度法により測定した。振とうは、振とう機(TAITEC社のWATER BATH SHAKER MM-10)を用いて、25℃で140rpmの速度で行った。遠心分離機は、(株)日立ハイテクノロジーズ製の分離用超遠心機himac CP80MXを使用した。なお、表中の水溶液濃度(%)は質量%(w/w%)を示す。
【0074】
結果も表2〜4に併せて示す。実施例1〜3、4〜6、7〜9に示されるように、PVAコポリマーの濃度が高くなるにつれ、難水溶性薬物の濃度は高くなっており、PVAコポリマーにより難水溶性薬物の溶解度が上がったことがわかった。また、10%PVAコポリマー水溶液上清中の薬物濃度は、ニフェジピンで89.8μg/mL(実施例1)、ナプロキセンで328.6μg/mL(実施例4)、ブチルパラベンで449.1μg/mL(実施例7)であり、これらは各薬物をイオン交換水へ溶解させたときの濃度(比較例1、比較例8、及び比較例9)の約3〜35倍であった。以上のことから、PVAコポリマーは化学構造の全く異なる3種類の難水溶性薬物全てに対して優れた可溶化能力を持つことがわかった。
【0075】
また比較例2〜7に示すとおり、検討した高分子化合物のうち、可溶化能力はPVAコポリマーが最も高く、PVA、PVP、ポロキサマー等に比べ優れていた。
【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
3.可溶化に用いる各種有機溶媒の検討 可溶化に用いる各種有機溶媒について検討した。具体的には次のようにして行った。表5に示す各有機溶媒1mLとニフェジピン100mgを100mLのガラス瓶に量り取り混合した後、5%のPVAコポリマー水溶液を50mL加えて蓋を閉め、ボルテックスミキサー(VORTEX-GENIE2, Scientific Industries,Inc.)を用いて目盛10の強度で5分間攪拌した。その後ロータリーエバポレーター(EYELA TYPE N-N, 東京理化器械(株))を用いて(温浴温度65℃で3時間)各有機溶媒を留去した。その後、有機溶媒留去済み液を50mLまで水でメスアップし、一晩静置して上清のニフェジピン濃度を吸光光度法により測定した。
【0080】
結果を表5に併せて示す。有機溶媒を使用していない実施例2と比較すると、実施例A〜Dは全てニフェジピンの濃度が高くなっており、有機溶媒を使用することによりニフェジピンの溶解度が上がったことがわかった。また実施例Dの上清を暗所で2週間静置したものについても同様の測定を行ったところ、ニフェジピンの濃度はほとんど変化していなかった。このことから、PVAコポリマーが長期間(少なくとも2週間)安定してニフェジピンを可溶化していることがわかった。
【0081】
【表5】

【0082】
4.PVAコポリマーを用いた難水溶性化合物内包高分子ミセルの調製
透析法又は蒸散法を用いて、PVAコポリマーが難水溶性化合物を内包したミセル粒子の調製を検討した。なお、当該検討は、特に断りのない限り室温(20℃±5℃)で行った。
【0083】
難水溶性化合物として、アムホテリシンB、ユビデカレノン、トレチノイン及びシクロスポリンAの4種の難水溶性薬物を用いた。いずれの薬物も、第十五改正日本薬局方に記載される「水にほとんど溶けない」性質を有する。アムホテリシンB はポリエン系抗生物質で、カンジダなどの真菌症の治療に使用される。ユビデカレノン(コエンザイムQ10)は動物や植物の体内で合成される脂溶性の物質で、心臓疾患の治療に用いられるほか、エネルギー代謝を促進し、抗酸化力、免疫力を高める健康食品として繁用されている。トレチノインはビタミンA誘導体の一種で、急性前骨髄性白血病の第一治療薬として経口投与される。シクロスポリンAは、環状ポリペプチド抗生物質で、臓器移植による拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療に使用される。以下にアムホテリシンB、ユビデカレノン、トレチノイン及びシクロスポリンAの構造式を記載する。
【0084】
【化4】

【0085】
【化5】

【0086】
【化6】

【0087】
【化7】

【0088】
PVAコポリマーを用いたアムホテリシンB内包高分子ミセルの調製は、具体的には次の透析法により行った。PVAコポリマー100 mgとアムホテリシン B 10 mgをDMSO 10 mLに溶解させ4 hr撹拌した。その後、透析チューブ(Spectra/Por Membrane MWCO:6-8,000)につめ、水を替えながら72 hrの透析を行い、溶媒のDMSOを完全に除去した。得られた透析チューブ内液を遠心分離(3,000 rpm,10 min)にかけ不溶物を分離除去した。上清をメンブランフィルター(Millex-HV 0.45 μm)でろ過した後凍結乾燥し、アムホテリシン B内包高分子ミセル(凍結乾燥品)を得た。収率はおよそ90 %であった。また、比較例として、PVA JMR-10HH(完全けん化ポリビニルアルコール:日本酢ビ・ポバール(株))及びPVA JMR-10P(部分けん化ポリビニルアルコール:日本酢ビ・ポバール(株))を用い、PVAコポリマーと同様にしてミセルの調製を行った。
【0089】
上記透析法により得られたアムホテリシンB内包高分子ミセル(凍結乾燥品)を水に溶解させ、アムホテリシンBの質量含量(w/w%)、粒子径及びゼータ電位を測定した。具体的には、アムホテリシンB内包高分子ミセル(凍結乾燥品)1mgを水1mLに溶解し、メンブランフィルター(Millex-HV 0.45 μm)でろ過した後、測定試料とした。アムホテリシンBの溶液中の濃度測定には高速液体クロマトグラフィー(LC-10AD, 島津)を用いた。また、粒子径及びゼータ電位はゼータサイザーナノZS(マルバーン)を用いた動的光散乱法により測定した。
【0090】
PVAコポリマー、PVA JMR-10HH及びPVA JMR-10Pを用いて調製したアムホテリシンB内包高分子ミセルの測定結果を表6に併せて示す。完全けん化PVAであるJMR-10HHではアムホテリシンBの可溶化は起こらず高分子ミセルは形成されなかった(比較例I)。また、部分けん化PVAであるJMR-10Pでは、高分子ミセルが得られたものの、アムホテリシンBを3.00 w/w%含有するにすぎなかった(比較例II)。なお、アムホテリシンB含有量は少ないながらも、ミセルが形成されたのは、PVAに残存するアセチル基の寄与があったためと考えられる。
【0091】
一方、PVAコポリマーを用いた場合は、これらのPVAを用いた場合に比して極めて優れた可溶化能を示し、アムホテリシンBを8.27 w/w%含有する高分子ミセルが得られることがわかった(実施例I)。
【0092】
さらに粒子径についても、部分けん化PVAを用いた場合(比較例II)に比べ、PVAコポリマーを用いた場合(実施例I)では87.4 nmと格段に小さくなり、安定な粒子になっていることが明らかとなった。また、ゼータ電位から判断すると、実施例IのPVAコポリマーを用いたミセルでは-14.63 mVであり、比較例IIのミセルに比べ、負の電荷に帯電していることが明らかとなった。これは、ミセル粒子の凝集を防ぎ、生体内においては、負に帯電した細胞組織膜への吸着も回避できる利点があると考えられた。なお、実施例Iのミセルが負に帯電するのは、PVAコポリマー分子内に存在するアクリル酸由来の負電荷が存在するためと考えられる。
【0093】
【表6】

【0094】
実施例IのアムホテリシンB内包高分子ミセル(凍結乾燥品)40 mgを水1 mLに溶解した際、高濃度にもかかわらず、極めて安定に再溶解された。不溶性残渣もほとんど発生しなかった。また、当該溶液のアムホテリシンB濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した結果、1600 μg/mLという極めて高濃度であることがわかった。また、室温で1週間以上保存しても不溶性残渣が出現せず、極めて安定に存在することが明らかとなった。
【0095】
PVAコポリマーを用いたユビデカレノン内包高分子ミセル、トレチノイン内包高分子ミセル及びシクロスポリンA内包高分子ミセルを調製した。具体的には次の蒸散法により調製した。PVAコポリマー100 mgを蒸留水10 mLに溶解した。薬物10 mgをクロロホルム2 mLに溶解し、これをPVAコポリマー溶液に滴下後、室温で撹拌しクロロホルムを18 hrかけて徐々に蒸散させた。この溶液を遠心分離(3,000 rpm,10 min)後、上清を凍結乾燥し薬物内包高分子ミセル(凍結乾燥品)を得た。収量は薬物によって異なるが、およそ80〜90 %であった。
【0096】
上記透析法により得られた各薬物内包高分子ミセル(凍結乾燥品)を水に溶解し、各薬物の質量含量(w/w%)、粒子径及びゼータ電位を測定した。具体的には、各薬物内包高分子ミセル1mgを水1mLに溶解し、メンブランフィルター(Millex-HV 0.45 μm)でろ過した後、測定試料とした。各薬物の溶液中の濃度測定には高速液体クロマトグラフィー(LC-10AD, 島津)を用いた。また、粒子径及びゼータ電位はゼータサイザーナノZS(マルバーン)を用いた動的光散乱法により測定した。
【0097】
表7に示すように、いずれの薬物も効率よく高分子ミセル中に内包された。中でもユビデカレノンはPVAコポリマーを用いると8.29 w/w %と高率に高分子ミセル中に内包され、凍結乾燥品は黄色粉末として得られた。本品は水溶けがよく、高分子ミセル30 mgを水1 mLに溶解した際、高濃度にもかかわらず、極めて安定に再溶解された。不溶性残渣もほとんど発生しなかった。本溶液のユビデカレノン濃度を高速液体クロマトグラフィーで測定した結果、1170μg/mLという極めて高濃度であることがわかった。また、室温で1週間以上保存しても不溶性残渣が出現せず、極めて安定に存在することが明らかとなった。
【0098】
同様の検討をトレチノイン及びシクロスポリンAを用いて行ったところ、薬物含量がそれぞれ0.57w/w %及び3.43 w/w %の高分子ミセルが得られ、程度の差はあるがいずれも水にほとんど溶けない薬物を可溶化高分子ミセルとして調製することに成功した。
【0099】
さらに粒子径も実施例II〜IVの高分子ミセルではそれぞれ62.6 nm、56.9 nm及び43.8 nmと100 nm以下で、安定な粒子になっていることが明らかとなった。また、ゼータ電位から判断すると、実施例II〜IVのいずれの高分子ミセルでも-18.4〜-19.8 mVと比較的負に帯電していることが明らかとなった。これは、粒子の凝集を防ぎ、生体内では負に帯電した細胞組織膜への吸着も回避できる利点があると考えられた。なお、実施例II〜IVのミセルが負に帯電するのは、PVAコポリマー分子内に存在するアクリル酸由来の負電荷が存在するためと考えられる。
【0100】
【表7】

【0101】
以上のことから、PVAコポリマーは従来知られている可溶化剤に比べて、極めて優れた可溶化能力を有する難水溶性化合物用の可溶化剤として用い得ることがわかった。また、難水溶性薬物を可溶化することにより、当該薬物のバイオアベイラビリィティーが向上することが期待できるため、当該可溶化剤は特に難水溶性薬物を可溶化するために好ましく用いることができる。
【0102】
さらには、PVAコポリマーが難水溶性化合物を内包したミセル粒子を調製し、これを水に溶解させることによっても難水溶性化合物を水性溶媒に大量かつ安定に可溶化できることがわかった。当該ミセル粒子は凍結乾燥して粉末として保存することも可能であり、この点でも有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体
を含有する、可溶化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の可溶化剤、及び難水溶性化合物を水性溶媒に溶解してなる難水溶性化合物溶解液。
【請求項3】
難水溶性化合物が医薬化合物、医薬品添加物、化粧品添加物、及び食品添加物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の溶解液。
【請求項4】
医薬品製造用、化粧品製造用、又は食品製造用である、請求項2又は3に記載の溶解液。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の溶解液を用いて製造される医薬組成物、化粧品組成物、又は食品組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の可溶化剤を水性溶媒に溶解した可溶化剤溶液に、難水溶性化合物を溶解させる工程を含む、難水溶性化合物溶解液を製造する方法。
【請求項7】
難水溶性化合物が予め有機溶媒に溶解されたものである、請求項6に記載の難水溶性化合物溶解液を製造する方法。
【請求項8】
請求項1に記載の可溶化剤を水性溶媒に溶解した可溶化剤溶液に、難水溶性化合物を混合する工程を含む、難水溶性化合物の可溶化方法。
【請求項9】
ポリビニルアルコール及び/又はその誘導体の存在下、一般式[1]
C=C(R)−COOR [1]
〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは水素原子または1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を示す。〕
で表される少なくとも1種の重合性ビニル単量体を重合又は共重合した重合体又は共重合体
が難水溶性化合物を内包してなる、ミセル粒子。

【公開番号】特開2012−56950(P2012−56950A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177301(P2011−177301)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 日本薬剤学会第26年会組織委員会 刊行物名 日本薬剤学会第26年会講演要旨集 発行年月日 2011年5月1日
【出願人】(598005661)日新化成株式会社 (9)
【Fターム(参考)】