説明

可溶性ハイブリッドプリオンタンパク質、ならびに伝染性海綿状脳症の診断、予防および処置におけるそれらの使用方法

本発明は、伝染性海綿状脳炎に関与するタンパク質(PrPsc)と結合できる、プリオンタンパク質(PrPC)に由来する第一ポリペプチド配列、および第二ポリペプチド配列(tag)を少なくとも含み、機能性膜アンカー部分を含まない、可溶性ハイブリッドタンパク質に関する。また本発明は、伝染性海綿状脳症の診断のためのハイブリッドタンパク質の使用も対象とする。加えて本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)の予防または処置のための薬剤を製造するための、ハイブリッドタンパク質、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸を含むベクターおよび/または宿主細胞の使用に関する。更に本発明は、ハイブリッドタンパク質を製造する方法を対象とし、また、ハイブリッドタンパク質を安定的に発現するトランスジェニック動物、トランスジェニック動物の骨髄、および伝染性海綿状脳症(TSE)の処置のための骨髄の使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、伝染性海綿状脳炎に関与するタンパク質(PrPsc)と結合できる、プリオンタンパク質PrPCに由来する第一ポリペプチド配列、および第二ポリペプチド配列(tag)を少なくとも含み、機能性膜アンカー部分を含まない、可溶性ハイブリッドタンパク質に関する。また、本発明は、伝染性海綿状脳症の診断のための該ハイブリッドタンパク質の使用も対象とする。加えて、本発明は、伝染性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathies:TSE)の予防および/または処置のための薬剤を製造するための、該ハイブリッドタンパク質、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸を含むベクターおよび/または宿主細胞の使用に関する。更に、本発明は、該ハイブリッドタンパク質を製造する方法を対象とし、該ハイブリッドタンパク質を安定的に発現するトランスジェニック動物、該トランスジェニック動物の骨髄、および伝染性海綿状脳症(TSE)の処置のための該骨髄の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
伝染性海綿状脳症(TSE)は、ウシ(BSE)、ヒト(クロイツフェルト−ヤコブ病)およびヒツジ(スクレイピー)を含む哺乳動物を冒す、致命的な神経変性疾患である。この疾患は、宿主がコードする細胞性プリオンタンパク質(PrPC)の部分的にプロテアーゼ耐性である異常な形態(PrP-resまたはPrPSc)の蓄積を特徴とする。この感染性病原体またはプリオンは、部分的または全体的にPrPScで構成され、PrPScへのPrPCの転換を誘導することによって、自身を増殖させると考えられている[Prusiner, 1982]。様々な種からの、正常な、プロテアーゼ感受性である形態のPrP(PrPC)の溶液中の三次元構造が解明されており、PrPScが、有意に増加したβシート含量を有する異常な立体配座を表すことの少なからぬ証拠が存在する。βシートに富む立体配座は、脳組織中で、凝集しやすく、明確なアミロイド斑へと蓄積するアミロイド原線維を形成する[総説についてはAguzziら、2001bを参照されたい]。
【0003】
豊富な証拠が、プリオン病の発症にはPrPCが不可欠であり、PrPCをコードするPrnp遺伝子[Buelerら、1992]の切除は、実験的スクレイピー接種に耐性を付与し[Buelerら、1993]、ヒト伝染性海綿状脳症(TSE)の家族性の症例は、すべて、Prnpの突然変異を特徴とすることを示している。
【0004】
PrPCをコードする読み取り枠は、Prnp遺伝子の単一エキソン内に含まれる。PrPCは、そのアミノ末端分泌シグナル配列の除去、糖鎖形成、およびそのカルボキシル末端シグナル配列の、細胞外表面にそれを係留するGPI残基での置換によって、成熟形態へとプロセシングされる。PrPCの生理学的機能は、依然として僅かに理解されているにすぎない。PrPCの大部分が膜結合性であるのに対し、糖脂質部分を欠く可溶性形態のPrPCは、血清中[Periniら、1996]、および副睾丸液中[Gattiら、2002]に存在する。脾臓細胞および小脳顆粒細胞の初代培養では、実質的な量のPrPCが、GPIアンカーの喪失後に流出する。流出は、血清の存在下で増大して、血清ホスホリパーゼが、この過程に参加することを示唆している[Parizekら、2001]。
【0005】
プリオン増幅の最も理論的なモデルは、PrPScおよびPrPCがTSE病態形成の途中で直接作用し合うことを予測する。無細胞転換系では、PrPScは、多くの物理化学的特性をPrPScと共有する部分へのPrPCの転換を駆動する[Kociskoら、1994]。これらは、凝集、原線維の形成、およびプロテイナーゼK(PK)による消化に対する部分的耐性を包含する。プロテアーゼ感受性PrPCとのプロテアーゼ耐性PrPScの特異的結合が、GPIアンカーを欠く可溶性PrPCを発現する細胞の放射線標識した溶解物中で観察されている[HoriuchiおよびCaughey、1999]。動物実験[Scottら、1989]およびインビトロ転換アッセイ法[Bessenら、1995;Kociskoら、1995]が、効率的なPrPSc形成には、PrPCとPrPScとの間の配列適合性が必要であることを示している。
【0006】
無細胞転換系は、PrPScへのPrPCの結合、およびプロテアーゼ耐性状態への転換が速度論上は分離され得ることを示している[DebBurmanら、1997]。二つの結合相手間の初期の結合が転換機序全体の死活的側面である。転換事象は、細胞表面でか、またはPrPScのエンドサイトーシス転送の際のいずれかで生じることが提唱されている。その後、PrPScは、リソソーム内に蓄積されると思われる。しかし、他の研究者は、疾患関連PrPが主として、細胞外またはニューロン表面に蓄積されることを、感染動物で[Jeffreyら、1992]、および培養細胞[Veyら、1996]で見出して、転換が専ら細胞外的であり得ることを示唆している。
【0007】
技術的障害が、インビボでのPrPCとPrPScとの間の物理的相互作用、すなわち唯タンパク質仮説の中心的予測の立証を妨げている。外部から導入されたとき、PrPScは、急速に分解される[Sailerら、1994]。そのため、その生化学的運命を直接決定することは不可能である。
【0008】
PrPScおよびPrPC-PrPSc複合体の、インビトロおよびインビボでの、詳細な定量的および定性的分析に適する、新規な診断用薬剤を提供することが、本発明の1つの目的である。
【0009】
更に、利用しやすい末梢組織(例えば扁桃)または体液(例えば血液、尿、脳脊髄液)中の低濃度のPrPScを検出することによって、前臨床状態でTSEを効率的かつ安全にスクリーニングする緊急の必要性が存在する。
【0010】
特に、TSEの予防および処置のための、PrPScの形成を阻害および/またはPrPScを封鎖する化合物の必要性が存在する。
【発明の開示】
【0011】
発明の開示
本発明の一つの態様は、
(a)伝染性海綿状脳炎に関与するタンパク質(PrPsc)と結合できる、プリオンタンパク質PrPCに由来する第一ポリペプチド配列、および
(b)第二ポリペプチド配列(tag)
を少なくとも含み、機能性膜アンカー部分を含まない、可溶性ハイブリッドタンパク質を提供する。
【0012】
本発明による第一ポリペプチド配列は、本明細書では、伝染性海綿状脳炎に関与するタンパク質(PrPsc)に結合できる任意のプリオンタンパク質PrPCまたはその機能性誘導体として定義される。
【0013】
プリオンタンパク質PrPCの「機能性誘導体」なる用語は、生物学的活性を有し、天然に生じる完全に機能的なヒトプリオンタンパク質PrPC、すなわち成熟した(翻訳後プロセシングされた、アミノ末端分泌配列なしの)、野生型ヒトプリオンタンパク質PrPCのアミノ酸配列[Schatzlら、J. Mol. Biol., 245, 362-374 (1995)]またはその機能性断片(プリオンタンパク質PrPSc結合活性を有する、部分的なプリオンタンパク質PrPCアミノ酸配列)と好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、および最も好ましくは少なくとも90%同一であり、且つ野生型プリオンタンパク質PrPCと少なくとも幾らか、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、および最も好ましくは少なくとも90%のPrPSc結合活性を保持するポリペプチドを包含する。
【0014】
相互に関連するポリペプチドの同一性百分率は、公知の手順を用いて決定することができる。原則として、特殊な必要条件を考慮に入れたアルゴリズムを有する、特殊なコンピュータプログラムが用いられる。同一性百分率を決定するのに好ましい手順は、初めに、調べる配列間の最大の一致を作成する。二つの配列間の同一性を決定するためのコンピュータプログラムは、GAP[Devereux, J.ら、Nucleic Acids Research, 12 (12): 387 (1984)]を初めとするGCGプログラムパッケージ;Genetics Computer Group University of Wisconsin, Madison (WI);BLASTP、BLASTNおよびFASTA[Altschul, S.ら、J. Molec. Biol., 215: 403-410 (1990)]を非限定的に含む。BLAST Xプログラムは、National Centre for Biotechnology Information (NCBI)その他の供給源から入手することができる[BLAST Handbook, Altschul, S.ら、NCB NLM NIH Bethesda MD 20894;Altschul, S.ら、J. Mol. 215: 403-410 (1990)]。周知のSmith Watermanアルゴリズムも、同一性%の決定に用いることができる。
【0015】
配列比較に好適なパラメータは、下記を含む:
アルゴリズム:Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol., 48, 443-453 (1970)
比較行列:Henikoff & HenikoffのBLOSUM62, PNAS USA, 89 (1992), 10915-10919
ギャップペナルティー:12
ギャップ長ペナルティー:2
【0016】
GAPプログラムも、上記のパラメータとともに用いるのに適する。上記のパラメータは、アミノ酸配列比較のための標準的パラメータ(デフォールトパラメータ)であって、末端での間隙は、同一性百分率の値を減少させない。配列が参照配列に比して非常に小さいと、期待値を100,000まで増加し、ある場合にはワード長(ワードサイズ)を2まで削減することが更に必要になる可能性がある。
【0017】
Program Handbook, Wisconsin Package、バージョン9、1997年9月中で指名されたものを初めとする、さらなるモデルアルゴリズム、間隙開放ペナルティー、間隙拡張ペナルティーおよび比較行列を用いることができる。その選択は、実施しようとする比較、更には、比較を、配列対の間で実施するのか(この場合、GAPまたはBest Fitが好ましい)、1つの配列と大規模な配列データベースとの間で実施するのか(この場合、FLSTAまたはBLASTが好ましい)に依存することになる。
【0018】
プリオンタンパク質PrPCの誘導体に基づく上記のポリペプチドは、機能性断片(プリオンタンパク質PrPSc結合活性を有する、部分的なプリオンタンパク質PrPCアミノ酸配列)および変異体(例えば、野生型タンパク質に構造的かつ生物学的に類似し、PrPSc結合活性を有する)を含む。更に、用語「プリオンタンパク質PrPCの誘導体」は、プリオンタンパク質PrPCの類似体(例えば、PrPSc結合が野生型タンパク質またはその断片に実質的に類似する、タンパク質またはその断片)、プリオンタンパク質PrPCの化学的誘導体(例えば、さらなる化学的部分、例えばポリエチレングリコールおよびその誘導体を含有する)、およびプリオンタンパク質PrPCのペプチド模倣体(例えば、ペプチドを構造および/または機能において模倣する、低分子量化合物)[例えば、Abell, Advances in Amino Acid Mimetics and Peptidomimetics, London: JAI Press (1997); Gante, Peptidmimetica - massgeschneiderte Enzyminhibitoren Angew. chem. 106:1780-1802 (1994); and Olson et al., J. Med. Chem. 36: 3039-3049 (1993)を参照されたい]を含んで、それらが、すべて、少なくとも幾らか、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも90%の、ヒトの成熟野生型プリオンタンパク質PrPCのPrPSc結合機能を保持していて、この結合機能は、先行技術で確立された任意の結合アッセイ法、例えばルミネセンス免疫アッセイ法[Biffigerら、J. Virol. Methods, 101: 79-84 (2002)]で試験することができる。好適な機能性誘導体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失または付加を含んでいる。
【0019】
好ましい態様では、本発明によるハイブリッドタンパク質は、第一ポリペプチド配列が、ヒトの天然に生じる完全に機能的な野生型プリオンタンパク質PrPCのPrPsc結合ドメインと、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%同一であり、野生型プリオンタンパク質のPrPsc結合ドメインのPrPsc−タンパク質との少なくとも幾らか、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも90%の特異的結合能を保持する、ヒトPrPCのPrPsc結合ドメインを含む、ヒトプリオンタンパク質(PrPC)またはその機能性断片であるものである。
【0020】
より好ましくは、このハイブリッドタンパク質は、野生型プリオンタンパク質の機能性誘導体が、野生型プリオンタンパク質またはその機能性誘導体の機能性断片、変異体、類似体、化学的誘導体、またはペプチド模倣体であるものである。
【0021】
PrPプリオンタンパク質をコードするPrP遺伝子は、多くの哺乳動物種で解明されている。例えば、一般的に公知のいくつかのPrP配列が、Schaetzlら、J. Mol. Biol. 245, 362-374 (1995);Wopfnerら、J. Mol. Biol. 289, 1163-1178 (1999)に記載されており、対応する配列が、Public Medlineのデータベースを介して利用できるGenbankに寄託されている。そのような遺伝子が発現するタンパク質は、PrPC(非疾患)またはPrPSc(疾患)形態をとることができる。
【0022】
用語「プリオンタンパク質PrPC」または「PrPC」は、簡潔には、成熟Prnp遺伝子生成物の天然に産する形態を意味する。PrPCは、そのアミノ酸末端分泌シグナル配列の除去、糖鎖形成、およびそのカルボキシル末端シグナル配列のGPI残基での置換によって、成熟形態へとプロセシングされる。所与の細胞型におけるその存在は、プリオン複製に必要であるが、充分ではない。
【0023】
用語「PrPSc」は、TSE罹患者の組織に見出される成熟Prnp生成物の「異常な」形態を意味する。この形態は、標準化された条件下でのプロテアーゼ消化に対して部分的に耐性であることとして定義される[Schallerら、Acta Neuropathol (Berl) 98: 437-443 (1999)を参照されたい]。PrPScは、立体配座においてのみ(または主として)PrPCと異なると考えられる。
【0024】
本発明によるハイブリッドタンパク質は、診断、予防および治療のような、インビトロおよびインビボでの適用に役立つ。
【0025】
このハイブリッドタンパク質は、プリオンタンパク質のPrPsc形態に安定的に結合することができる。したがって、プリオンタンパク質のハイブリッド結合PrPsc形態は、さらなる診断尺度のためか、または哺乳動物の免疫系によって検出されるために標識化される。
【0026】
治療および予防的なインビボでの適用には、本発明のハイブリッドタンパク質は、PrPscに結合したとき、PrPsc形態への転換に耐性を有するものであることが好ましい。
【0027】
好ましい態様では、本発明によるハイブリッドタンパク質は、多量体ハイブリッドタンパク質、好ましくは二量体または五量体、より好ましくは二量体を形成する。多量体ハイブリッドタンパク質は、単量体ハイブリッドタンパク質より構造および/または結合が安定的である。
【0028】
好ましくは、少なくとも1つのさらなるハイブリッドタンパク質の少なくとも1つのさらなる第二ポリペプチド配列との共有結合(例えばジスルフィド架橋)または代替的結合(例えば化学的な架橋結合)を形成して、多量体ハイブリッドタンパク質を形成するのは、第二ポリペプチド配列である。
【0029】
膜を含む環境での適用には、ハイブリッドタンパク質は、望みの結合相手に到達する前の膜への結合による固定化を回避するよう、機能性膜アンカー部分を含まないことが重要である。
【0030】
本明細書に述べるとおり、用語「機能性膜アンカー部分」は、それを含有する所与のポリペプチドをインビトロおよび/またはインビボで脂質膜に、好ましくはインビトロおよび/またはインビボで細胞膜に付着させる、アミノ酸配列を意味する。
【0031】
より好ましくは、このハイブリッドタンパク質は、野生型PrPCプリオンタンパク質のGPI-(グリコシル−ホスファチジル−イノシトール)残基および/またはカルボキシル末端シグナル配列を含まない、第一ポリペプチド配列を含む。
【0032】
好ましい態様では、本発明は、本発明のハイブリッドタンパク質の任意の1つの二量体またはオリゴマー、好ましくは二量体また五量体を含む、多量体ハイブリッドタンパク質を対象とする。
【0033】
この多量体ハイブリッドタンパク質では、ハイブリッドタンパク質の第一および第二ポリペプチド配列は、同じまたは異なる種に由来することができる。例えば、第一ポリペプチド配列は、1つの哺乳動物に由来することができ、第二ポリペプチド配列は、もう1つの哺乳動物に由来することができる。より好ましくは、両ポリペプチド配列とも、同じ哺乳動物に由来し;最も好ましくは、両配列とも、ヒトを起源とするものである。
【0034】
また、この多量体ハイブリッドタンパク質では、単量体単位は、同じ種(ホモ多量体)または異なる種(ヘテロ多量体)に由来することができる。例えば、1つのハイブリッド単量体は、ウシ(またはウシおよび更に1つ;上記の項を参照されたい)を起源とするが、もう1つのハイブリッド単量体は、ヒト(またはヒトおよび更に1つ;上記の項を参照されたい)を起源とする。好ましくは、多量体ハイブリッドタンパク質の単量体単位は、同じ種に由来する。
【0035】
より好ましい本発明の態様では、本発明のハイブリッドタンパク質は、第一ポリペプチド配列が、完全長プリオンタンパク質(PrPC)、より好ましくは、野生型のPrPCプリオンタンパク質のGPI-(グリコシル−ホスファチジル−イノシトール)残基および/またはカルボキシル末端シグナル配列を含まない完全長プリオンタンパク質(PrPC)であるものである。
【0036】
用語「完全長プリオンタンパク質(PrPC)」は、アミノ末端分泌シグナル配列の除去後の、さらなる糖鎖形成を伴うか、または伴わない、天然のPrnP遺伝子がコードするアミノ酸配列を意味する。
【0037】
ハイブリッドタンパク質の第二ポリペプチド配列は、好ましくは、ペプチド結合によって、第一ポリペプチド配列に結合されているが、他のリンカーも、この目的で用いることができる(例えばホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド)。非ペプチド性のポリペプチドリンカー、例えばストレプトアビジン−ビオチン結合系は、当業者間では一般的に公知である。
【0038】
第二ポリペプチド配列は、第一配列の構造的な立体配座を安定化することが見出されている。更に、第二ポリペプチド配列は、タンパク質にタグ付けする結果、特定の診断試薬が該タグと作用し合って、該ハイブリッドタンパク質を検出および/または分離し、その結合パートナーのPrPscも検出および/または分離することができるよう機能してもよい。例えば、第二配列のポリペプチドは、反応性に富む相対物、例えばストレプトアビジン含有診断試薬が捕捉することができる反応性部分、例えばビオチンを含んで、該ハイブリッドタンパク質を、単独で、またはその結合相手であるPrPscとともに検出および/または結合することができる。PrPsc結合相手を伴うか、または伴わないハイブリッドタンパク質は、標準的なタンパク質手法によって、例えば既知分子量のマーカーの存在下での、PAGEゲル系における大きさの差によって、識別することができる。その上、インビボ系、すなわち哺乳動物では、タグは、ハイブリッドタンパク質に対する免疫学的応答を誘発する結果、結合した任意のPrPscとともに免疫系によって封鎖され、こうして、危険なPrPscプリオンタンパク質の破壊を助けることができる。
【0039】
特に好ましい態様では、本発明による第二ポリペプチド配列は、免疫グロブリンに由来する。好ましくは、該由来する免疫グロブリンは、免疫グロブリン機能性誘導体である。
【0040】
該誘導体の機能は、多量体形成、エピトープ結合および/または補体活性化のような、免疫グロブリンに代表的であるものであってよい。好ましくは、該誘導体は、免疫応答を含んではならない。
【0041】
免疫グロブリン「機能性誘導体」なる用語は、生物学的活性を有し、天然に生じる完全に機能的な免疫グロブリン、すなわち、野生型の哺乳動物免疫グロブリンアミノ酸配列、またはその機能性断片(免疫グロブリンの結合および/または補体関連活性を有する、部分的な免疫グロブリンアミノ酸配列)、好ましくはヒト免疫グロブリンγまたはmμ重鎖[Canfieldら、J Exp Med 173: 1483-1491 (1991)、Lundら、J Immunol 147: 2657-2662 (1991)、およびTaoら、J Exp Med 178: 661-667 (1993)]と、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、および最も好ましくは少なくとも90%同一であり、野生型免疫グロブリンの少なくとも幾らか、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、および最も好ましくは少なくとも90%の免疫グロブリン結合活性(すなわち、他の免疫グロブリン結合もしくはその断片、および/または補体因子に対する結合活性、好ましくは多量体形成のためのその他の免疫グロブリンに対する結合)および/または補体関連活性を保持する、ポリペプチドを包含する。
【0042】
上記のポリペプチドに基づく免疫グロブリン誘導体は、機能性断片(免疫グロブリンの結合および/または補体関連活性を有する、部分的な免疫グロブリンアミノ酸配列)および変異体(例えば野生型免疫グロブリンに構造的かつ生物学的に類似し、免疫グロブリンの少なくとも1つの生物学的に等価なドメインを有する)を含む。更に、用語「免疫グロブリン誘導体」は、免疫グロブリン類似体(例えば、生物学的機能が野生型タンパク質またはその断片に実質的に類似する、タンパク質またはその断片)、免疫グロブリンの化学的誘導体(例えば、追加の化学的部分、例えばポリエチレングリコールおよびその誘導体を有する)、および免疫グロブリンのペプチド模倣体(例えばペプチドを構造および/または機能において模倣する、低分子量化合物)[例えば、Abell, Ad- vances in Amino Acid Mimetics and Peptidomimetics, London: JAI Press (1997) ; Gante,Peptidmimetica-massgeschneiderte Enzyminhibitoren Angew. Chem. 106:1780-1802 (1994); and Olson et al., J. Med. Chem. 36: 3039-3049 (1993)を参照されたい]も含んで、それらが、すべて、野生型免疫グロブリンの少なくとも幾らか、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも90%の免疫グロブリンの結合および/または補体関連機能を保持している。
【0043】
より好ましくは、第二ポリペプチド配列では、Fcγレセプターおよび補体に対する結合部位が不活性化されている。
【0044】
はるかに好ましくは、本発明によるハイブリッドタンパク質は、該第二ポリペプチド配列が、免疫グロブリン重鎖定常領域に由来する、より好ましくは哺乳動物免疫グロブリンγ重鎖、好ましくはヒト免疫グロブリンγ重鎖に由来するものである。
【0045】
また、より好ましいのは、該第二ポリペプチド配列は、哺乳動物免疫グロブリンmμ重鎖、好ましくはヒト免疫グロブリンmμ重鎖に由来する、ハイブリッドタンパク質である。
【0046】
更に、第二ポリペプチド配列は、少なくとも1つのさらなるハイブリッドタンパク質の少なくとも1つのさらなる第二ポリペプチド配列との結合を促進する、FK506結合タンパク質(FKBP)ドメインを含んで、二量体/多量体ハイブリッドタンパク質を形成してもよい[Briesewitzら、1999]。
【0047】
好ましくは、このハイブリッドタンパク質は、該第二ポリペプチド配列が、第一ポリペプチド配列のカルボキシル末端側に直接融合されているものである。
【0048】
好ましい態様では、ハイブリッドタンパク質は、固体支持体に結合されているものである。そのため、ハイブリッドタンパク質、および任意で、その結合相手であるPrPscは、他の化合物から容易に単離し、分析することができる。タンパク質に適する固体支持体の材料は、当業者に周知である。
【0049】
このハイブリッドタンパク質は、PrPscに安定的に結合することから、診断に特に役立つ。
【0050】
したがって、更に1つの局面では、本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)を診断するための、本発明によるハイブリッドタンパク質の使用に関する。
【0051】
更に、本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)の診断に用いるための診断キットを提供する。
【0052】
もう1つの局面では、本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)を検出する方法に関する。好ましくは、該方法は、
(a)PrPscタンパク質を含むと疑われる試料を、本発明のハイブリッドタンパク質に、PrPscタンパク質と該ハイブリッドタンパク質とを結合させる条件下で接触させる工程、および
(b)PrPscタンパク質-ハイブリッドタンパク質複合体を検出する工程
を含む。
【0053】
本発明は、PrPscおよび/またはPrPCに直接的または間接的に結合できる分子を同定および/または単離する方法にも関する。好ましくは、該方法は、下記の工程:
(a)PrPscおよび/またはPrPC結合分子を含むと疑われる試料を、請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質に、該分子とハイブリッドタンパク質とを直接的または間接的に結合させる条件下で接触させる工程、ならびに
(b)該ハイブリッドタンパク質が分子と結合したか否かを検出する工程、ならびに任意で
(c)該ハイブリッドタンパク質に直接的または間接的に結合した分子を単離する工程
を含む。
【0054】
更に、本発明によるハイブリッドタンパク質は、PrPscおよび/またはPrPCと作用し合う分子の同定に用いることができる。
【0055】
本発明の更に1つの好ましい態様では、好ましくは培養された細胞内で産生され、好ましくはビーズ上にアフィニティー固定化された、可溶性ハイブリッドタンパク質は、TSE感染哺乳動物、好ましくはヒトの組織ホモジネートからPrPScを効率的に捕捉する。
【0056】
プリオンタンパク質PrPscの疾患関連立体配座をその正常な同族体であるPrPCから区別するのに、プロテアーゼ処理を全く必要としないことは、本発明の診断用TSEアッセイ法の重要な利点である。
【0057】
好ましくは、組織試料は、脳、またはプリオンタンパク質を発現することが公知であるその他の組織、例えば扁桃のようなリンパ組織に由来する。同じく好ましいのは、血液、唾液、尿または脳脊髄液のような体液からの試料である。
【0058】
補助試薬(例えば固相のタグ認識試薬等々)、緩衝液、pH、温度、インキュベート時間、検出方法等々のような、ハイブリッドタンパク質の診断への適用のためのパラメータは、それぞれのハイブリッド系、特定のタグ、および検定される組織または液体とともに異なる。当業者は、ポリペプチド診断方法に関する豊富な先行技術を考慮して、定型的な実験操作を通じて、これらのパラメータを決定し、最適化することができる。加えて、付記された実施例が、当業者がこれらのパラメータを決定し、最適化するのを助ける。
【0059】
検出の目的には、本発明によるハイブリッドタンパク質は、任意の標識、例えば放射性同位元素、蛍光色素、および電気化学的発光色素を包含する発光色素を含んでもよい。
【0060】
本発明の更に1つの局面は、本発明によるハイブリッドタンパク質をコードする核酸分子に関する。ハイブリッドタンパク質の核酸配列は、アミノ酸配列から直接演繹することもできるし、より好都合には、ハイブリッドタンパク質が組換えによって生成されるため、既に入手可能であることもできる。組換え生成のためには、第一および第二ポリペプチド配列をコードするDNAを、標準的な分子生物学的手法[Sambrookら、1989, Molecular Cloning - A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Press, New York]を用いて、組織、細胞培養、またはクローニングされたDNAから直接、化学的なDNA合成もしくはDNA増幅、または分子クローニングによって、望みどおりに入手し、修飾することができる。
【0061】
本発明は、インビトロで培養された細胞内の可溶性プリオンタンパク質の調製も可能にする。
【0062】
加えて、本発明は、本発明による核酸を含むベクターにも関する。
【0063】
クローニングした融合タンパク質は、遺伝子の発現に適したベクターに挿入することができる。融合タンパク質の発現には、プラスミド、コスミド、ファージ、ファージミドまたはウイルスを非限定的に含む様々な発現ベクターを用い得る。例は、ラムダ誘導体のようなバクテリオファージ、またはpBR322もしくはpUCプラスミドのようなプラスミドを含む。代表的には、そのような発現ベクターは、適切な宿主細胞内でのベクターの増殖のための機能的な複製起点、ベクターへのプリオンタンパク質融合遺伝子配列の挿入のための、1つまたは複数の制限エンドヌクレアーゼ部位、プロモーター、エンハンサーおよび異種イントロン配列のような調節要素、ならびに原核生物および真核生物選別のための1つまたは複数の選別マーカーを含む。望みの融合タンパク質の発現は、当業者に公知の任意の宿主−ベクター系で達成することができる。
【0064】
本発明のもう一局面は、本発明による核酸および/またはベクターを含む宿主細胞に関する。
【0065】
好ましいのは、酵母、昆虫、哺乳動物細胞およびトランスジェニック動物のような真核生物の発現系である。好適な哺乳動物の宿主細胞は、ヒト、サルおよび齧歯類に由来するもの、例えばSV40で形質転換されたサル腎細胞系(COS-7、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)CRL 1651)、ヒト胚性腎細胞(293、293-EBNA)、ハムスター仔腎細胞(BHK、ATCC, CCL10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)を非限定的に含む[例えばGene Transfer and Expression: A Laboratory Manual, Freeman & Co., New York, 1990中のKriegler, M.を参照されたい]。適切にプロセシングされた可溶性プリオンタンパク質の長期間の高収率産生には、哺乳動物または昆虫細胞での安定的な発現が、一過性発現より好ましい。
【0066】
可溶性融合タンパク質の精製は、標準的なタンパク質精製法によって実施することができる。例えば、タグとその結合相手との特異的な分子相互作用に基づく、数多くの方法が公知である。このための例は、プロテインAまたはプロテインGアフィニティークロマトグラフィーであって、免疫グロブリン定常領域に融合させた組換えタンパク質を精製するのに広く適用できる方法である。組換え融合遺伝子の分泌された生成物を含有する、トランスフェクションされた細胞の上清を、例えばプロテインAのカラムに直接かけることができ、結合したタンパク質を、当技術に公知の様々な緩衝系によって溶離することができる。
【0067】
PrPsc形態への転換に耐性であるようなハイブリッドタンパク質は、哺乳動物における予防および/または治療的適用に役立つ。したがって、さらなる一局面では、本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)の予防および/または処置のための薬剤を製造するための、本発明によるハイブリッドタンパク質、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸を含むベクターおよび/または宿主細胞の使用にも関する。
【0068】
抗PrP抗体[Heppnerら、2001]、可溶性リンホトキシンβレセプター[Montrasioら、2000]およびその末梢接種後にのみ抗プリオン活性を発揮するその他の化合物[Aguzziら、2001a]とは対照的に、本発明のハイブリッドタンパク質は、プリオンの脳内および腹腔内投与の双方の後も効力があることが既に立証されている(下記の実施例を参照されたい)。
【0069】
治療および予防のためには、本発明によるハイブリッドタンパク質、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸を含むベクターおよび/または宿主細胞を有効量で該哺乳動物に投与する。
【0070】
用語「治療」または「治療的」は、TSE関係の疾患または状態の進行を遅延、中断、停滞もしくは停止させ得るが、必ずしもすべての症状の全面的除去を示さない、すべての処理を意味するものとする。
【0071】
本明細書に用いられる限りでの用語「予防」または「予防的」は、TSE関係の疾患または状態の症状のうち1つまたは複数の開始の阻害または遅延という文脈で理解しなければならない。
【0072】
本明細書に用いられる限りで、用語「哺乳動物」は、温血動物を意味する。モルモット、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、ウシ、ヒツジ、サル、チンパンジーおよびヒトが、哺乳動物の例であり、用語の意味の範囲内にあると理解される。ヒトにおける適用が好ましい。
【0073】
TSEの処置または予防が必要な哺乳動物の処置もしくは予防を実施するには、上に列挙されたハイブリッドタンパク質、ベクター、核酸または宿主細胞を、これらの化合物を有効量で生体利用できるようにする、経口または非経口経路を初めとする、任意の形態または様式で投与することができる。例えば、本発明の生成物は、腹腔内、鼻内、口腔内、局所、経口、皮下、筋内、静脈内、経皮、直腸などに投与することができる。好適な投与経路は、皮下、静脈内、腹腔内、筋内、皮内または粘膜投与である。より好ましくは、ハイブリッドタンパク質を、静脈内、脳内または腹腔内に投与する。
【0074】
例えば、本発明による核酸を、哺乳動物対象に、適切なウイルスベクター、例えばレンチウイルスまたはアデノウイルスベクターを用いて形質導入し得る。更に、DNA接種様の手法では、本発明によるベクターおよび/または核酸を皮下注入してもよい。また、本発明によるハイブリッドタンパク質を発現する宿主細胞を、プリオンの危険性があるか、またはそれに感染した哺乳動物に移転してもよい。そのような細胞としては、骨髄、繊維芽細胞およびゴアテックス(goretex)繊維で作成された「ネオ器官」[Moullierら、1993]またはカプセル封入された生産者細胞の「ラビオリ」[Aebischerら、1996]を採用し得る。
【0075】
処方物を調製する当業者は、選択される生成物の特定の特徴、処置しようとする疾患または状態、疾患または状態の段階その他の関連する状況に応じて、投与の適正な形態および様式を容易に選択することができる[Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (1990)]。本発明の生成物は、単独で、または薬学的に許容され得る担体もしくは賦形剤と併せた薬学的製剤の形態で投与することができて、その比率および性質は、選択される生成物の溶解度および化学的特性、選択される投与経路、ならびに標準的な薬学的実施によって決定される。経口適用の場合、適する製剤は、錠剤、丸薬、カプセル剤、散剤、トローチ剤、サシェー剤、カシェ剤、懸濁液、乳濁液、溶液、滴剤、ジュース剤、シロップ剤の形態をなすが、非経口、局所および吸入適用の場合、適する形態は、溶液、懸濁液、容易に再構成できる乾燥製剤および噴霧剤である。任意で、皮膚への浸透を促進する薬剤を加えた、溶解した形態、または硬膏としての徐放性物質中の本発明による化合物が、適する経皮適用製剤である。本発明の生成物は、それ自体効果的であるが、安定性、疎水性の調整、溶解度の増大などを目的として、薬学的に許容され得るその塩、例えば酸付加塩または塩基付加塩の形態で処方し、投与してもよい。
【0076】
患者に投与しようとする活性薬剤、すなわちハイブリッドタンパク質の量は、患者の体重、適用の形式、症状、および疾病の重篤度に依存する。通常、少なくとも1種類のハイブリッドタンパク質0.1 mg/kg〜25 mg/kgを投与するが、局所的に、例えば冠動脈内投与に適用するときは、はるかに低い総投与量も可能である。
【0077】
本発明の更に1つの局面は、本発明によるハイブリッドタンパク質、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸、該ハイブリッドタンパク質をコードする核酸を含むベクターおよび/または宿主細胞、ならびに薬学的に許容され得る担体を含む薬学的組成物に関する。
【0078】
本発明のもう一局面は、本発明によるハイブリッドタンパク質を製造する方法であって、本発明による核酸および/またはベクターを含む宿主細胞を、該ハイブリッドタンパク質を発現させる条件下で培養する工程を含む方法に関する。
【0079】
本発明は、本発明によるハイブリッドタンパク質を安定的に発現する、トランスジェニック動物、好ましくはトランスジェニックマウスにも関する。
【0080】
これに関して、本発明は、可溶性ハイブリッドプリオンタンパク質をインビボで発現するトランスジェニック動物を生成する方法を提供する。タンパク質を発現するトランスジェニック動物を生成する方法は、当業者に周知である。特定の態様では、本発明は、可溶性ハイブリッドタンパク質を発現するマウスを開示する。該ハイブリッドタンパク質は、病原性形態に転換されず、TSEに罹患したヒトその他の哺乳動物への投与に対して安全である。重要なことに、可溶性ハイブリッドタンパク質は、脳内または腹腔内プリオン接種後のプリオン病の開始を遅延させる。この知見の生物学的意義は、(1)トランスジェニックマウスのいくつかの独立に確立された系統で病態形成の遅延が生じること、(2)その遅延が、脳内および腹腔内投与の双方の際に検出できること、(3)トランスジェニックマウスの脾臓および脳でPrPScの蓄積が遅延すること、ならびに(4)プリオンの感染力が、同等の時点で野生型の脳と比較した場合に、トランスジェニックな脾臓および脳で低下していることから、確固たるものである。
【0081】
更に1つの局面では、本発明は、本発明によるトランスジェニック動物の骨髄に関する。
【0082】
これに関して、本発明は、骨髄再構成された哺乳動物における本発明による可溶性ハイブリッドタンパク質の治療効果を開示する。更に1つの特定の態様では、マウスについて、トランスジェニック動物からの骨髄で再構成された野生型マウスが該可溶性ハイブリッドタンパク質を発現することが立証されている。本発明の化合物による骨髄の好成績の再構成は、当業者に公知のELISAまたは類似の免疫診断手法を用いて確認することができる。可溶性ハイブリッドタンパク質は、再構成された感染哺乳動物の脾臓におけるPrPScの量の劇的な減少をもたらす。
【0083】
または、可溶性ハイブリッドタンパク質を発現する、遺伝学的に修飾された骨髄は、この可溶性タンパク質を含む形質導入性ウイルス(例えばレンチウイルスまたはマウス幹細胞ウイルス)を用いて、骨髄を遺伝学的に修飾することによって生成することもできるし、当業者に公知のその他の送達法によって生成することもできる。
【0084】
もう一局面では、本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)の処置のための薬剤を製造するための、該骨髄の使用に関する。
【0085】
本発明は、本発明によるハイブリッドタンパク質を含む組成物およびそれを含む固相材料、例えば磁性ビーズにも関する。
【0086】
更に、本発明によるハイブリッドタンパク質および/または該組成物および/または担体は、体液のような生物学的材料からPrPscを除去および/または不活性化するのに役立つ。したがって、本発明によるハイブリッドタンパク質は、治療目的で(例えば凝固因子、ヒト、またはウシ胎児血清に曝露させた培養細胞に由来する治療用タンパク質として)用いられる流体からPrPscを捕捉して、該流体を非感染性にするのに用い得る。
【0087】
なおも更には、本発明は、生物学的材料からPrPscを除去する方法も提供する。
【0088】
本発明は、抗PrP抗体[Heppnerら、2001]、可溶性リンホトキシンβレセプター[Montrasioら、2000]および末梢接種後にのみ抗プリオン活性を発揮するその他の化合物[Aguzziら、2001a]とは対照的に、本発明によるハイブリッドタンパク質が、プリオンの脳内および腹腔内投与の双方の後も効能があることを立証した。特定の一態様では、発現分析が、ハイブリッドタンパク質:PrPC比が、分析されたトランスジェニックマウスの特定の一系統の脳および脾臓(<1:3.8)で、大幅にサブストイキオメトリー的(<1:12)であることを立証し、顕著な抗プリオン効能を立証した。プリオン病の病態形成を対照させる可溶性ハイブリッドタンパク質の能力は、本発明の可溶性ハイブリッドタンパク質(またはその断片)が、抗プリオン剤の新たな一群を代表することを立証する。該ハイブリッドタンパク質への末梢曝露後のリンパ細網性プリオン複製の遅延は、可溶性PrPが、曝露後の予防にも役立つことを示す[Aguzzi、2003]。優性ネガティブアミノ酸置換の操作[Perrierら、2002]を初めとする、可溶性PrP導出の変化形および洗練は、その効能をはるかに増大させる可能性があり、本発明の範囲はこれを特定して包含する。
【0089】
(表1)
プリオンを脳内または腹腔内投与したtg550+および野生型マウスの脳および脾臓におけるプリオン感染力の力価の決定。すべての場合に、脳または脾臓ホモジネート30μlを、tga20指標マウスに脳内注射した。

a マウス1匹は、>150 dpi後も発症しなかった。
【0090】
実施例
以下の実施例は、本発明者らがその発明を実施する際に考えた最良の形態を更に例示する。
【0091】
実施例1:トランスジェニックマウスにおける可溶性二量体PrP-Fc2の発現
Fcγレセプターに突然変異を有する修飾されたIgG1読み取り枠、および補体結合部位(CH2ドメイン;L234A、L235E、G237AおよびP331S)を含む、プラスミドCA125(C. Ambrose, Cambridgeからの好意による贈呈)(Canfield and Morrison, 1991; Lundら、1991; Taoら、1993)を、SalIおよびNotIで切断し、平滑化し、pJE14/PrPに挿入した。得られたプラスミドpJE14/PrP-Fc2を、PinAIおよびNotIで切断し、PrPHGベクター[Fischerら、1996]の融合したエキソン2/3に挿入し、それによって、PrPコーディング領域を、ヒトIgG1重鎖のFc部分に融合させたマウスPrP(カルボキシル末端GPI付着シグナルを欠く)で置き換えた。Fcγレセプターおよび補体に対する結合部位を、突然変異誘発によって不活性化した[Ettingerら、1996]が:これは、補体系の様々な構成要素が効率的なプリオン病態形成に重要であり、PrP-Fc2とのその結合がプリオン病態形成に対して予測できない効果を発揮し得ることから、助けとなることができる。トランス遺伝子を条件的および組織特異的に発現させるために、loxPに挟まれた転写停止カセットを、この読み取り枠のすぐ上流でエキソン2/3に挿入した(図1A)。二つのloxP部位で挟まれた転写停止カセットを、このベクターのエキソン2に挿入した。プラスミドを配列決定によって確認し、挿入部分をNotIおよびSalIで切断した。Prnp0/0マウス(129/SvxC57BL/6ハイブリッドの遺伝的背景)に由来する受精卵母細胞への核注入を従来法によって実施した。トランス遺伝子陽性の子孫を、プライマー602

およびプライマー603

を用いたPCR、ならびにテールDNAのサザンブロット分析によって特定した。6匹の創始マウスを生成し、Prnptm1-Tg(PrP/FcStop)Zbzと命名して、これから二つの系統、すなわちtg550(低い発現体)およびtg588(より高い発現体)をPrnp0/0(混合129/SvxC57BL/6)またはPrnp+/+マウス(C57BL/6)と交配した。その後、転写停止カセットをその生殖系列から除去するために、トランスジェニックマウスをCMV-Cre欠失マウス[Schwenkら、1995]と交配した。非フロックス(floxed)マウス(tg550stopおよびtg588stop)を対照として使用した。
【0092】
トランスジェニックマウスにおけるPrP-Fc2の発現を、定量的なウエスタンブロット分析によって評価した。Prnp0/0ホモジネート中の脳または脾臓ホモジネートの連結1:2希釈物を、12.5% SDS-PAGEゲル中で電気泳動させ、ブロットし、抗体ICSM18[Heppnerら、2001]でプロービングし、強化化学発光によって検出した。シグナルをKodakのImageStationで定量した。PrP-Fc2:PrPCの発現比を、PrP-Fc2およびPrPCについてのシグナルが等しい強さとなるホモジネートの希釈を決定することによって評価した。血清PrP-Fc2濃度をELISAによって測定した。微量滴定プレートを、ICSM18(1:1500)で被覆し、tg550およびtg588に由来する様々な希釈(1:50〜1:2000)の血清とともにインキュベートした。シグナルを、セイヨウワサビペルオキシダーゼとカップリングした抗ヒトヤギIgG(Rockland)およびABTSで可視化した。マウスPrPC(121-231)、およびscFcのNMRおよびX線構造を、後者の無構造性N末端と結び付けて用いて、PrP-Fc2の仮説的モデルを、拡大した立体配座として生成した。次いで、scFcのN末端を、CHARMMプログラム[Brooksら、1983]による分子動力学シミュレーションを実施することによって弛緩させた。シミュレーションは、溶媒の暗示的処理とともに300 Kで1 nsの間で実施した。本発明者らは、PrP-Fc2分子が、二つのPrP部分が免疫グロブリンFab部分に類似する配置で向かい合う、ジスルフィド架橋された二量体として組み立てられるであろう[Dwyerら、1999]と予測した(図1B)。非還元性条件下では、PrP-Fc2は、トランスジェニック動物の血清、脳および脾臓タンパク質抽出物中に100〜130 kDaのタンパク質として検出された(図1C)。還元性条件下(β-メルカプトエタノール)では、PrPおよびヒトFcγ1に対する抗体が、トランスジェニック脳で50〜65 kDaの帯域を検出した(図1D)。これは、非還元性条件下で見られる帯域の半分の大きさである。したがって、PrP-Fc2は、インビボでは二量体として存在する。
【0093】
グリカンを除去するPNGアーゼF消化が、還元されたPrP-Fc2帯域を、55 kDaの期待分子量を有する主要部分、および40 kDaの副次帯域へと移動させた。副次帯域は、抗N末端PrP抗体によって検出されず(データ示さず)、PrP-Fc2切断事象のN末端生成物を表すことを示唆した。
【0094】
PrP-Fc2の発現を、定量的ウエスタンブロット分析によって、脳および脾臓内の内在性PrPCと比較した。適切な組織のホモジネートの連続2倍希釈物をブロットし、二つの分子の相対的発現レベルを、以前に記載された方法[Heppnerら、2001]を用いて、化学発光の獲得によって得た較正曲線から算出した。脳PrP-Fc2は、tg550およびtg588の脳内のPrPCより、それぞれ約12および10倍の少なさで発現された(データ示さず)。脾臓では、PrP-Fc2発現は、tg550でのPrPCより4倍の少なさであったが、tg588では1.5倍の多さであることが見出された。したがって、tg550およびtg588の脳内のPrP-Fc2発現は、野生型動物のそれの8%および10%であった。脾臓では、それは、PrPC発現の27%および150%に相当した(データ示さず)。
【0095】
実施例2:可溶性二量体プリオンタンパク質を発現するトランスジェニックマウスの感染。可溶性PrPは、疾患特異的PrPの形態へと転換されない。
PrP-Fc2は、自己増殖する「PrP-FcSc」形態へと転換され得るのか否かを調べるために、PrP-Fc2トランス遺伝子を、スクレイピーに耐性であるPrnp0/0マウス[Buelerら、1992]で増殖させた[Buelerら、1993;Sailerら、1994]。PrP-Fc2を発現するが、内在性PrPCを欠く、成体のtg550-Prnp0/0マウス(簡潔にtg5500)に、以前に記載されている[Kleinら、1997]ように調製した、Rocky Mountain Laboratory系(RML、5.0継代)スクレイピープリオン3 x 102〜106 LD50感染単位を含む脳ホモジネートそれぞれ30μlおよび100μlにて、RMLプリオンを脳内(i.c.)または腹腔内(i.p.)接種した。あり得る用量依存性効果を明らかにするために、プリオンの飽和用量および律速用量を投与した。
【0096】
tg5500マウスは、腹腔内経路または脳内経路による接種後 >450日(dpi)でも健常であったのに対し、Prnp+/+の対照マウス(129/Sv x C57BL/6)は、すべて、≦206 dpiでスクレイピーに罹患した(図2A〜B)。接種したトランスジェニック動物を犠牲に供し、脳および脾臓タンパク質抽出物を、免疫ブロット分析に付した。プロテアーゼ耐性プリオンタンパク質の痕跡は、末期的に病んだ脳で代表的に報告されるものより104〜105倍の低さの濃度での脳PrPScの検出を可能にするリンタングステン酸ナトリウム(NaPTA)沈降によってPrPScを濃縮した[Heppnerら、2001; Safarら、1998]ときでさえ、PK消化後の脳および脾臓で検出されなかった(図2F)。スクレイピーを接種されたtg5500マウスにおけるプリオン複製を、4匹のtga20指標マウスへの脳ホモジネート(450 dpiに採取)3 mgの脳内接種によって評価した。≧150 dpiでスクレイピーを発症した指標マウスは皆無であったのに対し、末期的に病んだPrnp+/+マウスからの僅か3 x 10-8gの脳ホモジネートが、4匹中4匹のtga20マウスにスクレイピーを誘発した。
【0097】
組織学的分析のために、器官を、PBS中4%のパラホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋し、2μmの切片に切断し、ヘマトキシリン/エオシン(HE)で染色した。膠細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP)についての免疫染色を、ウサギ抗GFAP抗血清(DAKO:1:300)を用いて実施し、ビオチニル化ブタ抗ウサギ血清(DAKO:1:250)、アビジンペルオキシダーゼ(DAKO)およびジアミノベンジジン(Sigma)で可視化した。組織学的分析は、HE染色後の接種tg5500マウスからの脳切片にいかなる空胞形成をも示すことができなかった(図2C〜D)。星状膠細胞の活性化マーカーである膠細胞繊維性酸性タンパク質についての免疫組織化学は、加齢と整合する最小限の大膠細胞症を示した(図2C〜D)。上記の結果は、すべて、PrP-Fc2が、プリオン複製を支援せず、プリオン感染後にプロテアーゼ耐性タンパク質へと転換されないことを明確に確立するものである。
【0098】
実施例3:PrP-Fc2は、トランスジェニックマウスの脳および脾臓におけるPrPSc蓄積に拮抗する。
tg550+、tg588+およびそれらの野生型同腹仔に、低用量かつ律速用量のプリオンを脳内または腹腔内接種した。PrPScの蓄積を、NaPTA強化ウエスタンブロット分析[Safarら、1998]によって分析した。リンタングステン酸(NaPTA)沈降を、10%組織ホモジネート(脳および脾臓)500μgまたは1 mgを用い、記載された[Heppnerら、2001; Safarら、1998]とおりに実施した。沈澱物を0.1%サルコシルに再懸濁させた。脳およびホモジネートのNaPTA沈澱物を、SDS-PAGE(5%スタッキング、8、12または16%解像)にかけ、ウェットブロット法によってニトロセルロース[Schleicher & Schuell]に移した。膜を、トリス緩衝化生理食塩水−ツウィーン(TBS-T)中5%のTop-Block(Juro)により、室温(RT)で1時間ブロックし、ICSM18(PrPの場合)、およびPrP-Fc2検出またはヤギ抗ヒトIgG(Rockland)(PrP-Fc2の場合)とともにTBS-T中1%のTop-Block中で、RTで1時間、または4℃で終夜インキュベートし、TBS-T中で15分間3回洗浄し、ICSM18の場合TBS-T中1%のTop-Block、およびウサギ抗マウスIgG1−セイヨウワサビペルオキシダーゼ(Zymed, 1:10,000)とともにインキュベートし、TBS-T中で15分間3回洗浄し、強化化学発光(ECL)検出試薬を用いて現像した。102 dpi(プリオン感染性の強化が指数関数的に増大するとき)に脳内接種したマウスの脳で、かつ48 dpi(感染性およびPrPScがプラトー期に達したと思われる時点)に腹腔内接種したマウスの脾臓で、PrPScを分析した。PrPScが、これらの時点で、野生型の脳および脾臓で容易に検出されたのに対し、PrPScはtg550+およびtg588+の器官に存在しなかったが、その痕跡しか存在しなかった(図3)。したがって、PrP-Fc2は、中枢神経系および脾臓の双方におけるPrPScの蓄積を阻害する。
【0099】
平行して、脳および脾臓内のプリオン力価を、接種後48および102日に、tga20マウスでのバイオアッセイ法[Fischerら、1996]によって決定した。野生型マウスの脳は、脳内接種後48日に、組織1 gあたり3.5〜4 logLD50というかなりのプリオン力価を有したのに対し、tg550+の脳内の感染力は、検出不能またはかろうじて検出可能であった。しかし、102 dpiでは、tg550+の脳内のプリオン力価は、ほぼ追い付いて、野生型の対照より僅か0.5 log10単位少ないにすぎなかった(表1)。
【0100】
腹腔内接種の後、プリオンは、成熟した濾胞性樹状細胞(FDC)に依存する複雑な過程によってリンパ細網系に移住し[Montrasioら、2000]、結果的に神経侵入を招く。この過程も、PrP-Fc2によって拮抗されることが見出された。腹腔内接種後48 dpiに採集された野生型マウスの脾臓におけるプリオン力価は、4.7〜4.9 logLD50単位/gに達したが、これは、リンパ細網器官で代表的に到達される最高プラトーレベルに相当する。ところが、1匹のtg550+マウスの脾臓におけるプリオン感染力は、これより1log低かった(3.7 logLD50単位/g)のに対し、第二のtg550+の脾臓は、かろうじて検出可能な感染力を有し、僅か1/4の投与割合でtga20指標マウスにスクレイピーを誘発した(表1)。これは、PrP-Fc2が、中枢神経系内ばかりでなく、リンパ細網器官内でもプリオン複製を損なわせることを示している。プリオン複製のリンパ細網系遅延が、脳での感染力の損なわれた「洗い戻し」による可能性は、プリオンが、48 dpiのいずれの遺伝型の腹腔内接種されたマウスの脳でも検出不能であった(この早期の時点では、プリオンは中枢神経系に未到達であったことを示す)ことから、公式に排除された。
【0101】
実施例4:PrP-Fc2は、にインビボおよびインビトロでPrPSc結合する。
第一の実験では、トシル活性化常磁性ビーズを、(1)ヒトFcγ1に対する抗体、(2)プロテインAまたは(3)ヒトIgAに対する抗体と共有結合させた。前二者の試薬は、PrP-Fc2のFcγ部分に結合することが期待されたが、第三の試薬は負の対照として役立った。スクレイピー発病PrP-Fc2マウスの未変性脳ホモジネートとともにインキュベートしたとき、試薬1および2(しかし3ではない)は、プロテアーゼ耐性PrPScを含むタンパク質複合体を沈澱させた(図4A)。ところが、スクレイピー発病野生型マウスからは、バックグラウンドレベルのPrPScしか捕捉されなかった。したがって、ヒトFcγ1に表面固定化した試薬は、プロテアーゼ耐性PrPを含む多種タンパク質複合体を沈澱させる。これは、PrPScとPrP-Fc2とがインビボで作用し合う第一線の証拠を提供する。
【0102】
表面固定化されたPrP-Fc2は、プルダウン(pull-down)アッセイ法で効率的にPrPScを捕捉する
インビトロで固相基質に結合されたPrP-Fc2でPrPScを捕獲するため、常磁性ビーズを、(1)マウス抗ヒトIgG、(2)プロテインAまたは(3)マウス抗ヒトIgAとカップリングさせた。ビーズを、PrP-Fc2発現構成体でトランスフェクションしたCOS-7細胞の上清とともにインキュベートし、洗浄し、プリオン感染野生型脳ホモジネートとともにインキュベートした。沈澱物を、PKで消化し、ブロットし、PrPまたはヒトIgGに対する抗体でプロービングした。
【0103】
固定化PrP-Fc2は、スクレイピー発病野生型の脳からPrPScを容易に捕捉したのに対し、模倣体をトランスフェクションされた細胞の上清とともにプレインキュベートしたビーズで回収されたPrPScは皆無であった(図4B)。効率的な捕捉は、免疫沈降の前にプロテイナーゼKによる消化に付された脳ホモジネートでも達成されて、PrP-Fc2がPrPScに加えてPrP27-30に結合することを示した(データ示さず)。組換えPrP-Fc2を省くならば、PrPが捕捉されず、ヒトFcγを認識しない抗IgA抗体に共有結合させたビーズでも捕捉されないことから、相互作用は、特異的であり、PrP-Fc2およびPrPSc双方の存在を必要とする。
【0104】
PrP-Fc2は、液相でPrPScと作用し合う
アフィニティー精製したPrP-Fc2によるPrPScの高感度プルダウンアッセイ法での捕捉は、インビボでは検出不能である弱い相互作用を特定し得る:フィブリノーゲン、抗トロンビンIIIおよび因子IXをはじめとする多数の血清タンパク質が、プロテアーゼ消化PrPScをインビトロで固定化することができる[Fischerら、2000]が、生細胞では必ずしもPrPScと作用し合わないことがある。これは、(1)常磁性ビーズとの直接共有結合が、ベイト(餌)タンパク質を部分的に変性させ、PrPScと非特異的に作用し合う疎水性パッチを露出させ得ること、(2)抗IgGまたはプロテインAビーズによるPrP-Fc2のアフィニティー捕捉により、非常に反復的で非等方的である非常に高い結合力を有するアレイが得られ得ること、または(3)ビーズ表面上でのベイトの局所濃度が、インビボで達成される濃度よりはるかに高い可能性があることに起因し得る。
【0105】
液相でのPrPScとPrP-Fc2との間の相互作用を特定するため、捕捉が、トランスジェニックな脳に存在する濃度のPrP-Fc2でも生じるか否かを調べた。
【0106】
スクレイピー発病野生型マウスおよび非感染PrP-Fc2マウスからの等量(100:100μg)の脳抽出物を同時インキュベートした。抗ヒトIgGおよびプロテインAビーズによるその後の捕捉が、この脳ホモジネート混合物からのPrPScの回収へと導いて、PrP-Fc2およびPrPScの結合がインビトロで生じることができることのさらなる証拠を提供した(図4C)。ところが、スクレイピー発病野生型脳抽出物を、非感染StopPrP-Fc脳ホモジネート500μgと混合したときは、PrPScは全く検出されず、本発明者らのアッセイ系の特異性が確認された(図4C)。マウス抗ヒトIgAとカップリングさせたビーズをさらなる対照として用いた(図4A〜C)。後者の実験では、PrPScまたはPrP-Fc2の電気泳動移動度特性を有する帯域は、全く検出されなかった。
【0107】
同時インキュベートされる非感染PrP-Fc2ホモジネートの量を5倍(100:500μg)増加させたとき、沈降するPrPScの明らかな増加があって、PrP-Fc2の利用度が律速的であることが示唆された。後者の所見は、PrP-Fc2対PrPCの比が大幅にサブストイキオメトリー的であるという事実に合致する(データ示さず)。
【0108】
プリオンに感染すると、PrP-Fc2は、NaPTAおよびプラスミノーゲンによって沈降可能になる
次いで、プリオンに感染すると、PrP-Fc2は、PrPScの生物物理学的特性のいくつかを獲得するか否かを調べた。PrPScの顕著な特性は、それが、4%リンタングステン酸ナトリウム(NaPTA)の存在下で容易に沈降するのに対し、PrPCは可溶性のままであることである[Safarら、1998]。したがって、健常な、およびスクレイピー発病したtg550+および野生型脳ホモジネートのNaPTA沈降を実施した。次いで、ペレットおよび上清を、任意で、プロテアーゼ消化し、ブロットし、ヒトFcγまたはPrPに対する抗体でプロービングした。期待されたとおり、野生型およびトランスジェニック双方のスクレイピー発病マウスのNaPTA沈澱物は、プロテアーゼ耐性PrPScを含有した。その上、末期的症状tg550+からの(しかし非感染のものからではない)NaPTAペレットは、抗Fcγ抗体とで強いシグナルを生じた(図4D)。したがって、PrP-Fc2は、PrPScと同様に、PrP-Fc2およびPrPCを同時発現する組織が感染すると、NaPTA沈降可能になる。この知見は、PrP-Fc2およびPrPScがインビボで複合体を形成することを立証する。その上、沈澱物のタンパク質分解性消化は、PrP27-30の分子量を有する部分のみを生じさせて、PrP-Fc2が、PrPScとの複合体形成の結果としてプロテアーゼ耐性になるわけではないことを示す。
【0109】
高濃度の洗剤の存在下では、表面固定化プラスミノーゲンは、PrPCとPrPScとを分別するのに用いることもできる[Fischerら、2000]。したがって、PrP-Fc2が、プラスミノーゲンと結合するか否かを試験した。トシル活性化常磁性ビーズを、ヒトプラスミノーゲンに共有結合させ、スクレイピー発病または非感染の野生型もしくはtg550+の脳のホモジネートとともにインキュベートした。結合アッセイ法の前に、ホモジネートを、任意でプロテアーゼ消化した。スクレイピー発病野生型およびtg550+の脳のブロットした溶出物(しかし健常な脳のものではない)がPrPScを含有することが見出された(図4E)のに対し、抗Fc抗体は、消化しなかったスクレイピー発病tg550+溶出物でのみ、プラスミノーゲン沈降材料を可視化した(図4E、左のパネル)。したがって、PrPCおよびPrP-Fc2を同時発現するマウスの感染後、後者は、プラスミノーゲンによって沈降可能になる。この知見は、PrP-Fc2およびPrPScがインビボで複合体を形成することのさらなる証拠を提供する。
【0110】
PrPScの変性は、PrP-Fc2と作用し合うその能力を失わせる
次いで、未変性PrP-Fc2の結合が、PrPScの立体配座に依存するか否かを決定した。末期的症状の野生型マウスからの脳ホモジネートを、増加する濃度の塩酸グアニジニウム(GdnHCl)または尿素中での18時間の前インキュベートによって変性させ、カオトロピックな塩の濃度を変性閾値未満に低下させるために50倍に希釈し、非感染tg550+脳ホモジネートとともにインキュベートした(100μg:500μg)。次いで、タンパク質を、プロテインAビーズで捕捉し、PKで消化し、ブロットした。≧1.5Mの塩酸グアニジニウム(Gdn、図4F)または≧4.5Mの尿素(図4G)による変性の後、未変性PrP-Fc2による沈降によって回収できたPrPScは皆無であった。したがって、PrPScとPrP-Fc2との相互作用は、PrPScの未変性立体配座に依存する。興味深いことに、結合を排除するのに充分なGdnまたは尿素の濃度は、プリオン感染を滅菌するのに要する濃度よりはるかに低いように思われる。
【0111】
プリオンに感染すると、PrP-Fc2は、脂質ラフト(raft)に再局在する
次いで、独立した、完全に無関係の実験手法を用いて、インビボでのPrPScとPrP-Fc2との相互作用を確認した。他のグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)係留タンパク質と同様に、PrPScを、脂質ラフトと名付けられた、コレステロールに富む膜ミクロドメイン[Naslavskyら、1997]に挿入する。冷トリトンX-100中での抽出、および密度勾配上での超遠心分離の後、脂質ラフトに付随するタンパク質が最上画分中を浮遊する。
【0112】
冷TX-100中で調製し、「浮遊アッセイ(フローテーションアッセイ(flotation assay))」(ニコデンツ(Nycodenz)勾配中での超遠心分離)に付したとき、PrPScは、より低い密度の勾配画分とともに浮遊することが見出されて(図5B)、以前の報告[Naslavskyら、1997]を確認した。ところが、脂質に付随することが期待されないPrP-Fc2が、より高密度の画分とともに移動した(図5A)。対照的に、プリオン感染は、ラフトの残留物から期待されたとおり、Fcγ陽性PrP-Fc2の浮遊性を、tg550+の脳から、より上部の勾配画分へと移動させた(図5C)。この知見は、トランスジェニックマウスにおけるPrP-Fc2の細胞レベル以下の局在が、プリオン感染の結果として、インビボで劇的な移動を経験することを示し、分泌されたPrP-Fc2が、脂質ラフト内のPrPScとの複合体に係わることを立証する。いくつかのPrPScおよびPrP-Fc2が、低密度画分に加えて、遠沈管の底に常に存在した。これは、おそらく、ラフトの部分的崩壊が、いくつかのタンパク質を脱落させ、密度勾配中のそれらの沈降を許し得るためである(図5B〜C)。
【0113】
実施例5:トランスジェニックPrP-Fc2マウスからの骨髄で再構成された野生型マウスにおけるPrPSc合成の阻害
実施例3の実験は、PrP-Fc2が、PrPプロモーターの制御下でトランスジェニックマウスに発現させたとき、中枢神経系内ばかりでなく、リンパ細網器官中でもプリオン複製を損なうことを立証した。これらの実験で、PrP-Fc2は、PrPが正常に発現されるすべての器官、特に神経およびリンパ様組織に存在した。治療剤PrP-Fc2が静脈内または腹腔内投与されるTSEにおける可溶性プリオンタンパク質の治療的効力を評価するために、血中で可溶性PrPを発現する骨髄キメラを生成した。マウスを致死的に照射し、供与動物からの胎児肝細胞で再構成した。略述すると、tg588の骨髄を、野生型マウスに(1)、野生型骨髄をtg588マウスに(2)、野生型を野生型に(3)、およびtg588をtg588に(4)再構成した。再構成がうまくいったかどうかを確認するため、これらのマウスの血清からのPrP-Fc2のELISAを実施すると、野生型骨髄から野生型マウスへの群以外は、すべてのマウスで、高レベルの可溶性PrP-Fc2を示した。(1): OD=1.2;(2): OD=2.8;(3): OD=0.2; および(4): OD=2.8。再構成マウスに、低用量のプリオンを腹腔内接種し、第4群以外のすべての群のいくつかのマウスを、接種後50日(感染力およびPrPScがプラトー期に達したはずである時点)に犠牲に供した。これらの時点で、PrPScは、野生型骨髄で再構成された野生型マウスの脾臓では容易に検出されたのに対し、他の群のマウスの脾臓には、PrPScが皆無であるか、またはその痕跡しか存在しなかった(図7)。したがって、可溶性二量体PrP-Fc2は、リンパ様区画でのみ発現させたときでさえ、脾臓内でのPrPSc蓄積を阻害する。
【0114】
引用文献



【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】PrP-Fc2を発現するトランスジェニックマウスの生成および特性記述を示す。 パネルA:可溶性PrPの条件的発現を達成するためのクローニング方針を示す。loxP部位に挟まれた停止カセットを有する半ゲノムベクター[Fischerら、1996]を発現するトランスジェニックマウス、およびエキソン2/3における融合タンパク質PrP-Fcを、CMV-Cre欠失マウスと交雑させた。これによって、停止カセットの除去、および内在性PrPcを発現する組織内での可溶性PrPの分泌が生じた。 パネルB:マウスPrPc(121-231)およびヒトFcγのNMRおよびX線構造を後者の無構造性N末端と結び付けて用いて生成したPrP-Fc2の二つの仮説的モデルを拡大立体配座として示す。PrPcおよびFcγの異なる二つの配置を用いて、ここに示した2モデルを生じさせるシミュレーションを開始した。 パネルCおよびD:抗PrPのICSM18による免疫沈降後の野生型およびtg550+マウスからの血清、脳および脾臓ホモジネートの、ICSM18で顕示させたウエスタンブロット分析を示す。PrP-Fc2は、脳内および血清中に、非変性条件下ではホモ二量体PrP-Fc2として約130 kDで、また(D)還元性条件下では単量体として約65 kDで存在する。より小さい副次的な追加的帯域は、この融合タンパク質の部分的減成によると思われる。脾臓では、PrP-Fc2は、非還元性条件下では二量体として約100 kDで(C)、また還元性条件下では単量体として約50 kDで(D)存在する。
【図2】PrP-Fc2を過剰発現するトランスジェニックマウスにおけるスクレイピーの病態形成を示す。 パネルAおよびB:プリオンの脳内(A)および腹腔内(B)投与後のtg550;Prnp+/+および129/Sv x C57BL/6対照マウスにおける末期スクレイピーの発症までの潜伏期間(日)を表示する生存プロットである。脳内および腹腔内暴露の双方の後の末期スクレイピーの発生は、tg550;Prnp+/+マウスでは強力に遅延されたのに対し、tg550;Prnp0/0は、疾患を発症しなかった(接種後>450日) パネルCおよびD:プリオンによる脳内(C)および腹腔内(D)投与の際の海馬錐体細胞のリボンの組織学的分析が、末期的に発病したtg550;Prnp+/+および野生型マウスにおける病理学的変化を明らかにしたことを示す。マウスは、脳組織の散漫な微細空胞形成(上の列)、およびGFAPの強い発現を伴う星状膠細胞の活性化(下の列)を有した。tg550;Prnp0/0の脳組織は、加齢と整合する軽い神経膠症以外、スクレイピーに代表的な病理学的変化を示さなかった。 パネルE:末期的病状のtg550;Prnp+/+マウスの脳内で、野生型の発病マウスからの脳内と同様の量およびパターンの糖鎖形成されたPrPScが検出されたことを示す。 パネルF:tg550の脳および脾臓組織のウエスタンブロット分析を示す。接種後450日で犠牲に供されたPrnp0/0は、プロテアーゼ耐性PrPScの存在を示さなかった。
【図3】トランスジェニックなPrP-Fc2マウスにおけるプリオン蓄積に関する。脳内および腹腔内接種したときの、示された接種後日数でのマウスの脾臓および脳内の、PKで消化されたか、またはされなかったプリオンタンパク質のウエスタンブロット分析を示す。27〜30 kDの強いプロテアーゼ耐性のシグナルが、表示された時点での野生型動物からのすべての脾臓および脳で視認できたのに対し、突然変異マウスは、非常に微かな帯域または検出不能のシグナルを、脳内では後期の時点での脳内接種後に、また脾臓では初期の時点での腹腔内注射後に示して、スクレイピー蓄積が、脾臓および脳の双方で可溶性PrPを過剰発現するマウスで遅延することを意味した。マウスには、300 IUおよび1x103 IUのスクレイピープリオンを、それぞれ、脳内および腹腔内投与により接種した。
【図4】PrP-Fc2が、疾患関連プリオンタンパク質とインビボおよびインビトロで作用し合い、かつ沈澱することを示す。スクレイピー−:非感染マウスの脳ホモジネート;スクレイピー+:末期的スクレイピー発病マウスの脳ホモジネート;PrP-Fc2+:PrP-Fc2プラスミドでトランスフェクションした細胞の上清;模倣体+:模倣体プラスミドでトランスフェクションした細胞の上清。 パネルA:抗ヒトIgGまたはプロテインAにカップリングさせたビーズへのPrP-Fc2の末期的症状のマウスからの脳ホモジネートの添加、およびPK消化後に、ウエスタンブロット分析は、PrPScを表す強い帯域の存在を示して、PrP-Fc2およびPrPScのインビボでの相互作用の証拠となった。負の対照としての抗ヒトIgAビーズを用いた免疫沈降は、バックグラウンドと一致する弱いシグナルを示した。 パネルB:PrP-Fc2は、PrPScをインビトロで沈澱させる。PrP-Fc2または模倣体をトランスフェクションした細胞の上清を、指定のビーズとともに前インキュベートし、次いで末期的症状の野生型マウスからの脳ホモジネートとともにインキュベートした。PK消化の後、ウエスタンブロット分析は、ビーズをPrP-Fc2でトランスフェクションした細胞の上清とともに前インキュベートした場合にのみ、PrPScを表す強い帯域を示した。 パネルC:非感染tg550+および感染野生型マウスからの脳ホモジネートを、37℃で30分間混合してから、免疫沈降に付した。PrP-Fc2脳ホモジネート(PrP-Fc2、5倍)の量を野生型感染脳ホモジネートに対して5:1の比率(500μg:100μg)に増加したとき、PrPScを表す帯域の強さを1:1の比(100μg:100μg)に比して増大させることができて、PrP-Fc2が、PrPSc-PrP-Fc2相互作用において律速的であることを示唆した。 パネルD:NaPTA沈澱の後、PrP-Fc2は、感染した突然変異マウスからの脳ホモジネートを用いた場合に、ペレットに付随することが見出されたのに対し、非感染脳では、PrP-Fc2は、ペレット化されなかった。 パネルE:プラスミノーゲンビーズを、スクレイピー発病野生型およびPrP-Fc2トランスジェニック脳の脳ホモジネート、ならびに非感染PrP-Fc2脳とともにインキュベートした。結合アッセイの前に、任意で、ホモジネートをプロテアーゼ消化した。健常PrP-Fc2脳ではなく、スクレイピー発病野生型およびPrP-Fc2脳のブロットされた溶出物は、PrPScを含むことが見出されたのに対し、抗Fc抗体は、消化されなかったスクレイピー発病PrP-Fc2溶出物でのみ、プラスミノーゲン沈降材料を可視化した。 パネルF:PrP-Fc2のPrPSc結合活性の特性記述を示す。野生型感染マウスからの脳ホモジネートを、増加するグアニジニウム濃度で18時間前インキュベートし、次いで、免疫沈降を乱さないことが示された濃度まで希釈した。PrPScとのPrP-Fc2の結合活性は、1.5Mのグアニジニウムの存在下で検出可能であったが、2Mのグアニジニウムから出発して消失した。 パネルG:≧4.5Mの尿素による変性後、PrPScは、未変性PrP-Fc2による沈澱によって回収することが全くできなかった。したがって、PrPScとPrP-Fc2との相互作用は、PrPScの未変性立体配座に依存する。hom:ホモジネート;sup:上清;Gdn:塩酸グアニジニウム。
【図5】脳ホモジネートの浮遊アッセイに関する。 (A)健常なtg550+マウス、(B)PK消化後のスクレイピー感染マウス、および(C)感染PrP-Fc2動物からの脳ホモジネートを、1%トリトン(Triton)X-100中4℃で調製し、浮遊アッセイに付した。ニコデンツ(Nycodenz)密度勾配から試料を捕集し、抗PrPのICSM18を用いて免疫ブロットした。非感染マウスでは、可溶性PrP-Fc2は勾配の底部に存在した(A)のに対し、感染マウスでは、PrP-Fc2(C)は頂部画分に見出されたが、ここには、脂質ラフト(raft)がPrPScと同じ画分に局在する(B)。
【図6】PrP-Fc2の抗プリオン作用に関するモデルを示す。 パネルA:プリオン複製の鋳型再折り畳みモデル(上部パネル)を示して、PrPCおよびPrPScの一過性二量化を仮定する。その結果、PrPScは、それ自身の、βシートに富むプロテアーゼ耐性立体配座をPrPCに付与する。しかし、これまで、技術的障害がPrPC-PrPSc複合体のインビボでの直接的視覚化を妨げてきた。 パネルB:PrPCの不在下では、可溶性二量体PrPが、感染性病原体の複製も、プロテアーゼ耐性部分の形成も支持しないことを示す。いくつかの系統の証拠が、それがPrPScと会合できることを示しているが、この会合は、非生産的である。 パネルC:PrPCおよび可溶性二量体PrPを同時発現するマウスが、プリオンを複製し、結果的にスクレイピーを発症する方法を示す。しかし、スクレイピーの病態が発展し、プリオン感染性が複製し、PrPScが蓄積する速度論は、野生型マウスにおける場合よりも遅い。入手できるすべての実験的証拠は、PrP-Fc2が、到来しつつあるPrPScおよび発生したPrPScを封鎖し、それをPrPCのさらなる鋳型指向転換に利用できなくすることを示唆している。
【図7】プリオン感染骨髄再構成マウスにおけるPrPSc蓄積の減少を示す。腹腔内接種して、50 dpiでの骨髄再構成マウスの脾臓における、PKで消化しなかったか、または消化したプリオンタンパク質のウエスタンブロット分析を実施した。27〜30 kDの強いプロテアーゼ耐性シグナルが、野生型骨髄で再構成された野生型動物からの脾臓では視認できたが、血清中でPrP-Fc2を発現することがELISAによって示された、その他すべてのマウスの群は、非常に微かな帯域または検出不能のシグナルを脾臓で示して、血中に可溶性PrPを発現するマウスでは、スクレイピー蓄積が遅延することを意味した。マウスには、腹腔内投与によるスクレイピープリオン1x103 IUを接種した。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)伝染性海綿状脳炎に関与するタンパク質(PrPsc)と結合できる、プリオンタンパク質PrPCに由来する第一ポリペプチド配列、および
(b)第二ポリペプチド配列(tag)
を少なくとも含み、機能性膜アンカー部分を含まない、可溶性ハイブリッドタンパク質。
【請求項2】
PrPscに結合した場合に、PrPsc形態への転換に耐性である、請求項1記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項3】
少なくとも2つのハイブリッドタンパク質が、多量体ハイブリッドタンパク質、好ましくは二量体または五量体、より好ましくは二量体を形成する、請求項1または2記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項4】
第二ポリペプチド配列が、少なくとも1つのさらなるハイブリッドタンパク質の少なくとも1つのさらなる第二ポリペプチド配列に結合して、多量体ハイブリッドタンパク質を形成することができる、請求項1〜3のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項5】
第一ポリペプチド配列が、GPI-(グリコシル-ホスファチジル-イノシトール)残基、および/または野生型PrPCプリオンタンパク質のカルボキシル末端シグナル配列を含まない、請求項1〜4のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質のいずれか1つの二量体またはオリゴマー、好ましくは二量体および五量体を含む、多量体ハイブリッドタンパク質。
【請求項7】
ハイブリッドタンパク質の第一および第二ポリペプチド配列が、同じ種または異なる種に由来する、請求項6記載の多量体ハイブリッドタンパク質。
【請求項8】
多量体ハイブリッドタンパク質の単量体単位が、同じ種または異なる種に由来する、請求項6または7記載の多量体ハイブリッドタンパク質。
【請求項9】
第一ポリペプチド配列が完全長プリオンタンパク質(PrPC)である、請求項1〜8のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項10】
第二ポリペプチド配列が免疫グロブリンに由来する、請求項1〜9のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項11】
第二ポリペプチド配列において、Fcγレセプターおよび/または補体に対する結合部位が不活性化されている、請求項10記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項12】
第二ポリペプチド配列が、免疫グロブリン重鎖定常領域に由来する、請求項1〜11のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項13】
第二ポリペプチド配列が、哺乳動物免疫グロブリンγ重鎖、好ましくはヒト免疫グロブリンγ重鎖に由来する、請求項12記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項14】
第二ポリペプチド配列が、哺乳動物免疫グロブリンmμ重鎖、好ましくはヒト免疫グロブリンmμ重鎖に由来する、請求項12記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項15】
第二ポリペプチド配列が、第一ポリペプチド配列のカルボキシル末端側に直接融合されている、請求項1〜14のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項16】
第一ポリペプチド配列が、ヒトプリオンタンパク質(PrPC)の機能性誘導体またはその機能性断片であり、ヒトの天然に生じる完全に機能的な野生型プリオンタンパク質PrPCのPrPsc結合ドメインと好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、および最も好ましくは少なくとも90%同一であり、且つ野生型プリオンタンパク質のPrPsc結合ドメインのPrPscタンパク質と少なくとも幾らか、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、および最も好ましくは少なくとも90%の特異的結合能を保持するヒトPrPCのPrPsc結合ドメインを含む、請求項1〜15のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項17】
野生型プリオンタンパク質の機能性誘導体が、野生型プリオンタンパク質またはその機能性断片の機能性断片、変異体、類似体、化学的誘導体、またはペプチド模倣体である、請求項16記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項18】
タンパク質が固体支持体に結合されている、請求項1〜17のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質。
【請求項19】
伝染性海綿状脳症(TSE)を診断するための、請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質の使用。
【請求項20】
伝染性海綿状脳症(TSE)の診断に使用するための診断キットであって、請求項1〜18のいずれか一項記載のタンパク質を例えば緩衝液のようなさらなる試薬および作業指示と組み合わせて含む診断キット。
【請求項21】
伝染性海綿状脳症(TSE)を検出する方法であって、
(a)PrPscタンパク質を含むと疑われる試料を、請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質に、PrPscタンパク質と該ハイブリッドタンパク質とを結合させる条件下で接触させる工程、および
(b)PrPscタンパク質-ハイブリッドタンパク質複合体を検出する工程
を含む方法。
【請求項22】
PrPscおよび/またはPrPCに結合できる分子を同定および/または単離する方法であって、
(d)PrPscおよび/またはPrPC結合分子を含むと疑われる試料を、請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質に、該分子とハイブリッドタンパク質とを直接的または間接的に結合させる条件下で接触させる工程、ならびに
(e)該ハイブリッドタンパク質が分子と結合したか否かを検出する工程、ならびに任意で
(f)該ハイブリッドタンパク質に直接的または間接的に結合した分子を単離する工程
を含む方法。
【請求項23】
PrPscおよび/またはPrPCに結合できる分子を同定するための、請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質の使用。
【請求項24】
請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質をコードする核酸。
【請求項25】
請求項24記載の核酸を含むベクター。
【請求項26】
請求項24記載の核酸および/または請求項25記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項27】
伝染性海綿状脳症(TSE)の予防および/または処置のための薬剤を製造するための、請求項2〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質、請求項2〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質をコードする核酸、請求項2〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質をコードする核酸を含むベクターおよび/または宿主細胞の使用。
【請求項28】
請求項2〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質、請求項2〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質をコードする核酸、請求項2〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質をコードする核酸を含むベクターおよび/または宿主細胞、ならびに薬学的に許容され得る担体を含む、薬学的組成物。
【請求項29】
遺伝子療法に使用するための、請求項28記載の薬学的組成物。
【請求項30】
請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質を製造する方法であって、請求項26記載の宿主細胞を、該ハイブリッドタンパク質を発現させる条件下で培養する工程を含む方法。
【請求項31】
請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質を安定的に発現する、トランスジェニック動物、好ましくはトランスジェニックマウス。
【請求項32】
請求項31記載のトランスジェニック動物の骨髄。
【請求項33】
伝染性海綿状脳症(TSE)の処置のための薬剤を製造するための、請求項32記載の骨髄の使用。
【請求項34】
PrPSc、および請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質を含む組成物。
【請求項35】
PrPScがハイブリッドタンパク質に結合されている、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
PrPScがハイブリッドタンパク質に非共有結合的に結合されている、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質を含む担体。
【請求項38】
磁性ビーズ、フィルター片、微量滴定プレート、非磁性ビーズ、プラズモン表面共鳴プレート、マイクロアレイプレート、固体への相転移がなされる液体担体、およびそれらの組合せから選択される、請求項37記載の担体。
【請求項39】
生物学的材料からPrPScを除去するためのインビトロ法であって、該材料を、請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質に接触させ、且つ該ハイブリッドタンパク質に結合されたPrPScを除去する工程を含む方法。
【請求項40】
生物学的材料からPrPScを除去および/または不活性化するための、請求項1〜18のいずれか一項記載のハイブリッドタンパク質、および/または請求項34〜36のいずれか一項記載の組成物、および/または請求項37もしくは38記載の担体の使用。

【図3】
image rotate

image rotate

image rotate

image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2007−523607(P2007−523607A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504674(P2006−504674)
【出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【国際出願番号】PCT/EP2004/002617
【国際公開番号】WO2004/081052
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(505346665)ユニバーシティー オブ チューリッヒ (1)
【Fターム(参考)】