説明

可溶性伝導性高分子およびその製造方法

本発明は、酸によってドープされた伝導性高分子であって、塩基型の重量平均分子量が5,000以下であり、極性有機溶媒に対する溶解度が3%以上である伝導性高分子、およびその製造方法を開示する。本発明の伝導性高分子は、多様な極性有機溶媒に溶解が可能であるため、使用目的に応じて自由な溶媒選択が可能であって産業的な応用範囲が非常に広い。また、前記伝導性高分子の製造方法は、簡単であるうえ、廃水発生量が少ないため、コスト節減および環境保護に有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶性伝導性高分子およびその製造方法に係り、さらに詳しくは、分子量調節合成法によって製造され、多様な極性有機溶媒によく溶解する低分子量の伝導性高分子、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリアニリンは、塩酸水溶液または硫酸水溶液の下でアニリン単量体を酸化剤を用いて反応させてポリアニリン塩を製造し、このポリアニリン塩をさらに塩基で中和させて塩基型のポリアニリンに製造される。塩基型のポリアニリンは不導体なので、さらに酸でドープさせるときにだけ伝導性を持つことになる。こうして製造された伝導性ポリアニリンは、大部分の有機溶媒に溶解せず、加熱しても融解しないため、加工性に乏しい。また、上述した伝導性ポリアニリンは、製造過程中に水溶液処理によって多量の廃水を発生させるので、深刻な環境汚染を引き起こすという欠点を持つ。
【0003】
かかる問題点を解決するために、多様な研究が試みられた。最も先に提示された方法は、硫酸、塩酸などの構造が簡単な酸でドープされたポリアニリンは溶解し難いため、カンファースルホン酸でドープしてメタクレゾールに溶解させる方法であった。その後、多様な酸でドープしてメタクレゾールに溶解させる方法が提示されたが、メタクレゾールが猛毒性なので、産業的利用に多くの制約が伴うという欠点があった。その後、溶解度を増加させるための方法として、アニリンにある芳香族環に置換体を付ける方法が提示された。ところが、このような方法により、溶解度を増加させることはできたものの、伝導度の低下や生産コストの増加といった問題を引き起こし、廃水発生の問題が未解決のままであった。
【0004】
MacDiarmid等(A. G. MacDiarmid et. al., “Polyaniline: A New Concept in Conducting Polymers”, Synthetic Metals. 18(1987), pp285-290)は、塩酸水溶液の下で合成したポリアニリンを脱ドープして塩基型のポリアニリンを製造し、これを多様な酸でドープした後、伝導度の変化を観察した結果を報告した。ところが、この方法は、ドーパントとして使用できる酸の種類が制限的であり、伝導性高分子を溶解させることが可能な溶媒も制限的であるという欠点があった。
【0005】
ポリピロールは、一般に、酸性水溶液下でピロール単量体に酸化剤を加えて重合反応を行わせることにより製造された。ところが、このようなポリピロールは、水または有機溶媒に溶解しないため、産業的な利用が困難であった。1995年、Lee Jin−Young等(J. Y. Lee D. Y. Kim, and C. Y. Kim, Synthetic Metals 74(1995), p103)は、ドデシルベンゼンスルホン酸(HDBSA)をドーパントとして用いて、m−クレゾール、THF(tetrahydrofuran)、DMF(dimethylformamide)に可溶性のポリピロールを報告したが、ドーパントがドデシルベンゼンスルホン酸に限定されており、溶解可能な溶媒が、m−クレゾール、THF、DMFと制限的であり、溶解度も制限的であるという欠点があった。
【0006】
現在まで報告された合成法で製造されたポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビレニンなどの高分子は水または有機溶媒に殆ど溶解しないものと知られている。
【0007】
米国特許第5,567,356号には乳化重合法が開示されているが、この乳化重合法は、有機溶媒層に過量のドーパントが残り、伝導性も低下するという問題があった。韓国特許第10−0633031号には、混合ドーパントを用いて溶解度を増加させる方法が開示されているが、この方法は、有機溶媒層と水層とを分離しなければならず、高価な混合ドーパントを使用しなければならないうえ、ドーパントの種類が多様ではないという問題があった。また、有機溶媒層に複雑な構造のドーパントが多量に存在することにより、これを除去するために多量の廃水が発生するという問題もあった。
【0008】
産業全般にわたって伝導性高分子の用途は非常に多様である。ところが、前述したように、従来の公知の伝導性高分子は、上述した特定のドーパントでドープされた状態で極少数の特定の有機溶媒を使用する場合にのみ溶解するため、多様な用途に適用することが難しいという問題を抱えている。従来の公知の伝導性高分子が前述の欠点を持つ理由はいろいろであろうが、最も重要な理由の一つは、ドープされた伝導性高分子の分子量が大きいことにあると推測されている。
【0009】
一般に、伝導性高分子の合成は、相当量の水を含む溶媒中で行われるが、このような合成方法によって製造された伝導性高分子は、大部分が少なくとも10,000以上の重量平均分子量を持つものと報告されている。
【0010】
具体的に考察すると、Mattoso等(“Controlled Synthesis of High Molecular Weight Polyaniline and Poly(o-methoxyaniline”, L. H. C. Mattoso, A. G. MacDiarmid and A. J Epstein, Synthetic Metals, 68(1994) pp1-11)は、0℃の塩酸水溶液下で合成したポリアニリンの重量平均分子量は53,000程度の値を有し、温度を0℃未満に変化させ、且つ反応に使用した触媒を変化させたときのポリアニリンの重量平均分子量は36,900〜384,900の値を有するものと報告した。
【0011】
韓国特許第10−0373926号(特許権者:スマートテック株式会社、発明者:Lee Sung−Joo)に記載の内容によれば、酸性水溶液下で合成したポリアニリンは少なくとも10,000以上の重量平均分子量を有するものと言及している。
【0012】
E.J.Oh等(“High Molecular Weight Soluble Polypyrrole”, E. J. Oh, K. S. Jang and A. G. MacDiarmid, Synthetic Metals, 125(2002), pp267-272)は、0℃でピロール単量体とジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸のナトリウム塩を水溶液下において過硫酸アンモニウムで反応させた結果、合成したポリピロールの重量平均分子量が62,296となることを報告した。
【0013】
Jang Kwan−Sic(doctoral thesis, Department of Chemistry of Myong Ji University Graduate School, 2001)は、酸性水溶液で合成したポリピロールの重量平均分子量は10,000以上の値を示すと報告した。
【0014】
また、韓国特許公開第2001−0112574号では、前述したLee Jin−Young等が、0℃でドデシルベンゼン酸とポリピロールを水溶液下に酸化反応で合成したポリピロールの重量平均分子量を13,441程度と推定した。
【0015】
前述した理論的根拠に基づいて判断するとき、多様なドーパントでドープされた伝導性高分子が多様な有機溶媒によく溶解するようにするためには、基本的に重量平均分子量が現在一般に合成されているもの(重量平均分子量10,000以上)より著しく低い値を持つように伝導性高分子を合成する必要があるものと思われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述した従来の技術の問題点を解決するためのもので、その目的は、一般な極性有機溶媒に対して可溶性を示す、多様な酸によってドープされた低分子量(重量平均分子量5,000以下)の伝導性高分子を提供することにある。
【0017】
また、本発明の他の目的は、環境に優しい低分子量の伝導性高分子を簡単に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、酸によってドープされた伝導性高分子であって、塩基型の重量平均分子量が5,000以下であり、有機溶媒に対する溶解度が3%以上であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、伝導性高分子合成用の単量体を有機溶媒に溶解する段階と、前記段階で得られた単量体溶液に、前記有機溶媒100重量部に対して0重量部より大きく10重量部以下の水を添加する段階と、前記段階で製造された単量体溶液に任意の順序でドーパントおよび酸化剤を添加し、それぞれ反応させる段階と、前記段階の反応混合物を濾過して伝導性高分子溶液を得る段階とを含む、伝導性高分子の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の酸によってドープされた伝導性高分子は、低分子量を持つので、多様な極性有機溶媒に溶解が可能である。よって、使用目的に応じて自由な溶媒選択が可能となり、産業的な応用範囲が非常に広い特徴を持つ。また、構造が簡単な低価の酸をドーパントとして使用することが可能なので、製造コストが低い。
【0021】
また、本発明の伝導性高分子の製造方法は、少量の水と有機溶媒中で単量体を重合させるため、低分子量(重量平均分子量が5,000以下)を有する伝導性高分子を提供することが可能である。また、構造が簡単な低価の酸をドーパントとして使用することにより、残留ドーパントが殆どないため精製が不要であり、廃水の発生量が少ないためコスト節減効果および環境保護効果にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1は、本発明の方法で合成した伝導性ポリアニリン溶液をアンモニア水で中和し、乾燥させて得た塩基型ポリアニリンのFT−IRスペクトルである。
【0023】
図2は、本発明の方法で合成した伝導性ポリアニリン溶液をアンモニア水で中和して得た塩基型ポリアニリン(溶媒:メチルピロリジノン)の紫外線−可視光線スペクトルである。
【0024】
図3は、本発明の方法で合成した伝導性ポリアニリン溶液をアンモニア水で中和して得た塩基型ポリアニリンの500M Hz NMR分析結果を示すグラフである。
【0025】
図4は、本発明の方法で合成した伝導性ポリピロール溶液をアンモニア水で中和し、乾燥させて得た塩基型ポリピロールのFT−IRスペクトルである。
【0026】
図5は、本発明の方法で合成した伝導性ポリピロール溶液をアンモニア水で中和して得た塩基型ポリピロール(溶媒:メチルピロリジノン)の紫外線−可視光線スペクトルである。
【0027】
図6は、本発明の方法で合成した伝導性ポリピロール溶液をアンモニア水で中和して得た塩基型ポリピロールの500M Hz NMR分析結果を示すグラフである。
【0028】
図7は、本発明の方法で合成した伝導性ポリチオフェン溶液をアンモニア水で中和し、乾燥させて得たポリチオフェンのFT−IRスペクトルである。
【0029】
図8は、本発明の方法で合成した伝導性ポリチオフェン溶液をアンモニア水で中和して得た塩基型ポリチオフェン(溶媒:メチルピロリジノン)の紫外線−可視光線スペクトルである。
【0030】
図9は、本発明の方法で合成した伝導性ポリチオフェン溶液をアンモニア水で中和して得た塩基型ポリチオフェンの500MHzでのNMR分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、酸によってドープされた伝導性高分子であって、塩基型の重量平均分子量が5,000以下であり、極性有機溶媒に対する溶解度が3%以上であることを特徴とする、伝導性高分子に関する。
【0032】
本発明において、上述した特性を持つ伝導性高分子としてはポリアニリン、ポリピロールまたはポリチオフェンなどを挙げることができる。
【0033】
また、伝導性高分子がポリピロールの場合、溶解度を向上させるために、塩基型の重量平均分子量を3,000未満に製造することができる。
【0034】
本発明の伝導性高分子において、ドーパントとして使用される酸は例えば、硫酸、塩酸、リン酸、塩化硫酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸、硝酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、蟻酸、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、ジフェニルスルホンスルホン酸、安息香酸、アントラキノンスルホン酸などを挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
この分野において、伝導性高分子の硫酸塩、メタンスルホン酸塩、塩化硫酸塩、塩酸塩、リン酸塩などは有機溶媒に溶解しないものと知られている。また、他の酸による伝導性高分子の塩は、溶解可能な溶媒が非常に制限的であることが知られている。
【0036】
ところが、本発明において、伝導性高分子塩は、分子量調節法によって製造されて低分子量を持つので、多様な極性溶媒に溶解する特徴を持つ。
【0037】
本発明において、硫酸、塩酸、リン酸、塩化硫酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸、硝酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、蟻酸、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、ジフェニルスルホンスルホン酸、安息香酸、アントラキノンスルホン酸などのドーパントでドープされた伝導性高分子は、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール(iPA)、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、トリフルオロアセトニトリル、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド(DMAC)、DMAC−LiCl、N,N’−1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(N,N’−1,3−ジメチルプロピレンウレア、DMPU)、モルホリン、ピリジン、およびピロリジンの中から選ばれた有機溶媒それぞれに全て溶解する重要な特性を持つ。
【0038】
本発明において、このような酸によってドープされた伝導性高分子は、上述した有機溶媒の中から選択される少なくとも1種で構成される有機溶媒に伝導性高分子合成用の単量体を溶解し、有機溶媒100重量部に対して0重量部より大きく10重量部以下の水を入れ、ドーパントと酸化剤を添加して製造されることを特徴とする。
【0039】
本発明の伝導性高分子は、前述したように少量の水と有機溶媒中で酸によるドーピングおよび単量体の重合が行われるため、塩基型の伝導性高分子の重量平均分子量が5,000以下に製造され、最大分子量が20,000を超えない(本発明において、塩基型の伝導性高分子とは、酸によってドープされた伝導性高分子を塩基で中和させたものを意味する)。特に、ポリピロールの場合は、重量平均分子量が3,000未満となるように製造できる。
【0040】
即ち、酸性水溶液における合成法、または有機溶媒における乳化分散合成法で合成された伝導性高分子とは異なり、有機溶媒中で合成された本発明の伝導性高分子は、合成の際に反応速度が遅くても分子量が大きく増加しないため、低分子量の伝導性高分子を製造することが可能である。
【0041】
本発明の伝導性高分子は、有機溶媒100重量部に対して0重量部より大きく10重量部以下の水を添加して製造されるが、添加された少量の水は反応速度を速くする。ところが、水の添加量が有機溶媒100重量部に対して10重量部を超過すると、伝導性高分子が溶媒に溶けないという問題が発生し、多量の酸化剤副生成物が水に溶けて伝導性高分子溶液の純度が低下する。このような酸化剤副生成物は、製造された伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造する場合、そのフィルムに含まれて水分を吸収するので、フィルムの物性を低下させるという問題点を引き起こす。
【0042】
水の添加量は、有機溶媒100重量部に対して0重量部より大きく5重量部以下であることが好ましく、0重量部より大きく1重量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
ドーパントの使用量は、伝導性高分子合成用の単量体のモル数/ドーパントのモル数の値が、0.125〜4.00となる範囲内で決定されることが好ましい。単量体のモル数/ドーパントのモル数の値が、0.125未満であれば、伝導性高分子が非常に強い酸性を示し、水分を吸収するという不都合が生じる場合があり、単量体のモル数/ドーパントのモル数の値が、4.00より大きいと、ドーピングが十分に行われないという不都合が生じる場合がある。
【0044】
また、本発明は、伝導性高分子合成用の単量体を有機溶媒に溶解する段階と、前記段階で得られた単量体溶液に有機溶媒100重量部に対して0重量部より大きく10重量部以下の水を添加する段階と、前記段階で製造された単量体溶液に任意の順序でドーパントおよび酸化剤を添加し、それぞれ反応させる段階と、前記段階の反応混合物を濾過して伝導性高分子溶液を得る段階とを含む、伝導性高分子の製造方法に関する。
【0045】
前述した本発明の伝導性高分子に関する内容は、本発明の伝導性高分子の製造方法にもそのまま適用されるので、以下で重複する内容は省略する。
【0046】
上述の製造方法において、ドーパントおよび酸化剤を添加する段階では、触媒とドーピング補助剤をさらに添加して反応を行わせることができる。本発明において、ドーピング補助剤とは、ドーピングに直接関与しないが、伝導性高分子溶液に添加されて伝導性高分子の電気伝導度を増加させる役割を果たす物質をいう。
【0047】
触媒とドーピング補助剤は、ドーパントと共に或いはドーパントの添加後に添加することが一般的であるが、ドーパントの添加順序に制限されず、酸化剤の添加前後に添加して反応を行うこともできる。
【0048】
触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、リチウムテトラフルオロホウ酸塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウムなどを挙げることができ、これらは単独で或いは2種以上を組み合わせて使用できる。触媒は有機溶媒の総重量に対して10重量%以下で使用されることが好ましい。触媒の使用量が10重量%を超過しても、触媒効果はもはや増加しない。
【0049】
ドーピング補助剤としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、酢酸ブチルなどを挙げることができ、これらは単独で或いは2種を組み合わせて使用できる。
【0050】
また、ドーパントおよび酸化剤を添加する段階で、酸化剤添加反応は第1酸化剤を添加して反応を完了した後、反応物を濾過し、この濾過溶液に第1酸化剤よりさらに酸化力の強い第2酸化剤を添加して反応を行わせる方式で行われる。
【0051】
なお、上述した反応は、必要なだけ繰返し行うこともできる。
【0052】
上述の酸化剤添加反応方式は、反応せずに残存する未反応単量体を反応させる方法、或いは2〜5個以下の単量体が結合している低分子量の伝導性高分子の分子量を増加させる方法として有用である。
【0053】
また、ドーパントおよび酸化剤を添加する段階で、酸化剤添加反応は、酸化剤を添加して反応を完了した後、その反応物を濾過し、蒸留器を用いて濾過溶液から有機溶媒と伝導性高分子製造用の未反応単量体を除去して、濾過溶液が20〜50重量%のみ残るように濃縮する方式で行われ得る。20重量%未満で残るように濃縮すると、濃縮に多くの時間がかかり、多量のエネルギーが使用されるため、経済性が低くなるという不都合が生じる場合があり、50重量%を超過するように濃縮すると、濃縮による効果を得ることが困難になる場合がある。なお、濾過溶液が30〜35重量%のみ残るように濃縮することがさらに好ましい。
【0054】
また、濃縮された濾過溶液にさらに酸化剤を添加して、反応をさらに行わせる方式で行うこともできる。
【0055】
上述した酸化剤添加反応方式は、重合反応が良好に行われないときに適用することができる。例えば、単量体としてチオフェンを使用するとき、未反応単量体が、かなり多く存在する場合があるが、このような濃縮方法を使用すると、重合反応が容易に行われる。
【0056】
本発明の製造方法において、ドーパントの使用量は、伝導性高分子合成用の単量体のモル数/ドーパントのモル数の値が0.125〜4.00となる範囲内で決定することができる。
【0057】
一般に、伝導性高分子の合成の際にドーパント酸を加えると、溶液の粘度が大きくなるため、溶媒が分離されて沈殿物が生成され、それにより攪拌が難しくなって、それ以上、合成を行うことができない場合が、頻繁に生じる。
【0058】
本発明の製造方法は、前述した問題が生じた場合、既に使用された有機溶媒以外の他の有機溶媒を溶液の総重量に対して5〜30重量%の量で、さらに添加することができる。前述した段階を行うと、沈殿物が溶解して溶液の粘度が低くなり、それにより伝導性高分子の合成を行うことが可能となる。
【0059】
他の有機溶媒を溶液の総重量に対して5重量%未満で添加すると、合成が可能な溶液を形成することが困難になる場合があり、また、30重量%よりも多く添加すると、溶液の濃度がかなり薄くなる。
【0060】
他の有機溶媒とは、既に使用された有機溶媒とは異なる有機溶媒を意味するもので、このような条件を満足する限りは、その種類が特に限定されるのではない。具体例を挙げると、後述する有機溶媒のいずれか一つが伝導性高分子の合成のために使用された場合、その有機溶媒を除いた残りの溶媒の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0061】
本発明の製造方法において、伝導性高分子合成用の単量体としては、置換もしくは無置換のアニリン、置換もしくは無置換のピロール、置換もしくは無置換のチオフェンなどを挙げることができる。置換アニリン、置換ピロール、置換チオフェンなどは、アニリン、ピロール、チオフェンなどの芳香族環が当該分野における公知の少なくとも一つの置換体によって置換されたものを意味する。置換アニリン、置換ピロール、置換チオフェンとしては、例えば、下記式(1)に示す化合物が挙げられる。
【0062】
【化1】

【0063】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素、炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状アルキル、または炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルコキシ基を示す。)
本発明の製造方法において、有機溶媒としては、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール(iPA)、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、トリフルオロアセトニトリル、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド(DMAC)、DMAC−LiCl、N,N’−1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(N,N’−1,3−ジメチルプロピレンウレア、DMPU)、モルホリン、ピリジン、ピロリジンなどを挙げることができ、これらは単独で或いは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0064】
有機溶媒のうち、特に、メチルエチルケトンが好ましく使用できる。メチルエチルケトンは、過硫酸アンモニウムと過マンガン酸カリウムなどの酸化剤副生成物を溶解させないため、伝導性高分子の製造の際に、製造工程を簡素化させることができるため、メチルエチルケトンを使用することは非常に効果的である。
【0065】
本発明の製造方法において、ドーパントとしては、硫酸、塩酸、リン酸、塩化硫酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸、硝酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、蟻酸、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、ジフェニルスルホンスルホン酸、安息香酸、アントラキノンスルホン酸などを挙げることができ、これらは単独で或いは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0066】
本発明の製造方法において、酸化剤、第1酸化剤および第2酸化剤としては、それぞれ独立に過硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、硫酸トルエン鉄(III)、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、およびトリトルエンスルホン鉄(III)(Fe(OTs))からなる群より選ばれる少なくとも1種で構成されたものを使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例を用いてさらに詳しく説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、多様に修正および変更できる。
【0068】
実施例1:伝導性高分子ポリアニリンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
常温でアニリン単量体0.2モルをメチルエチルケトン600mL入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液にドーパントとして硫酸0.1モルを加え、30分間さらに攪拌した後、過硫酸アンモニウム((NH)0.25モルを加え、その後、48時間以上反応させた(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。次いで、反応溶液を濾過して伝導性高分子溶液を得た。
【0069】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は10−4S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sqであった。
【0070】
伝導性高分子溶液を乾燥させて溶媒を除去し、粉末の伝導性高分子を得た後、その伝導性高分子粉末にメチルエチルケトン600mLを加えて48時間攪拌させ、濾過し、さらに溶液状態にした場合にも、溶媒を乾燥させる前と同一の伝導性高分子溶液を得ることができた。
【0071】
実施例2:伝導性高分子ポリアニリンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
常温でアニリン単量体0.2モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に、水10mlとドーパントとしての硫酸0.1モルを加えた。この溶液に、ドーピング補助剤としてN−メチルピロリジノン(NMP)10mlを入れて30分間攪拌した後、過硫酸アンモニウム((NH)0.25モルを加え、その後、24時間以上反応させた(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。次いで、反応溶液を濾過して伝導性高分子溶液を得た。
【0072】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は最大で10S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sq以下であった。
【0073】
実施例3:伝導性高分子ポリアニリンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
ドーピング補助剤として、N−メチルピロリジノン(NMP)10mlの代わりに、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルおよび酢酸ブチルよりなる群から選ばれるドーピング補助剤10mlを使用したこと以外は、実施例2と同一の方法で伝導性高分子溶液を製造した。伝導性高分子溶液を用いて製造されたフィルムの電気伝導度、透過度および表面抵抗は、ドーピング補助剤としてN−メチルピロリジノン(NMP)10mlを使用した場合とほぼ同一であった。
【0074】
実施例4:伝導性高分子ポリアニリンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
ドーパントとして、硫酸0.1モルの代わりに、メタンスルホン酸0.1モルを使用したこと以外は、実施例2と同一の方法で伝導性高分子溶液を製造した。伝導性高分子溶液を用いて製造されたフィルムの電気伝導度、透過度および表面抵抗は、ドーパントとして硫酸を使用した場合とほぼ同一であった。

実施例5:伝導性高分子ポリアニリンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
常温でアニリン単量体0.2モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に水10mlと過硫酸アンモニウム((NH)0.25モルを加えた後、48時間以上反応させた。反応溶液を濾過して塩基型の伝導性高分子溶液を得た。この溶液にドーパントとして硫酸0.1モルを入れて24時間さらに攪拌した後、さらに濾過して伝導性高分子溶液を得た(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。
【0075】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は、最大で10S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sqであった。
【0076】
実施例6:伝導性高分子ポリアニリンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
常温でアニリン単量体0.2モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に水5mlと過硫酸アンモニウム((NH)0.25モルを加えた後、48時間以上反応させた。反応溶液を濾過して塩基型の伝導性高分子溶液を得た。この溶液にさらにKMnO0.05モルを入れて24時間反応させた後、濾過して塩基型の伝導性高分子溶液を得た。この溶液にドーパントとして硫酸0.1モルを加えた。この溶液にエタノール10mlを入れて24時間以上攪拌させた(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。この溶液を濾過して伝導性高分子溶液を得た。
【0077】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は最大で100S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sq以下であった。
【0078】
実施例7:伝導性高分子ポリピロールおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
常温でピロール単量体0.2モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に水10mlと過硫酸アンモニウム((NH)0.25モルを加えた後に、48時間以上反応させた。反応溶液を濾過して塩基型の伝導性高分子溶液を得た。この溶液にN−メチルピロリジノン(NMP)10mlを入れて1時間攪拌し、ドーパントとして硫酸0.1モルを入れて24時間さらに攪拌した後、さらに濾過して伝導性高分子溶液を得た(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。
【0079】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は10S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sqであった。
【0080】
実施例8:伝導性高分子ポリピロールおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
ドーパントとして、硫酸0.1モルの代わりに塩化硫酸0.1モルを使用したこと以外は、実施例7と同一の方法で伝導性高分子溶液を製造した。伝導性高分子溶液を用いて製造されたフィルムの電気伝導度、透過度および表面抵抗は、ドーパントとして硫酸を使用した場合とほぼ同一であった。
【0081】
実施例9:伝導性高分子ポリピロールおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
ドーピング補助剤としてN−メチルピロリジノン(NMP)10mlの代わりにイソプロピルアルコール10mlを使用したこと以外は、実施例7と同一の方法で伝導性高分子溶液を製造した。伝導性高分子溶液を用いて製造されたフィルムの電気伝導度、透過度および表面抵抗は、ドーピング補助剤としてN−メチルピロリジノン(NMP)10mlを使用した場合とほぼ同一であった。
【0082】
実施例10:伝導性高分子ポリピロールおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
常温でピロール単量体0.2モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に水10mlとドーパントとしての硫酸0.1モルを加えた。この溶液に触媒として塩化リチウム8gを入れ、ドーピング補助剤としてN−メチルピロリジノン(NMP)10mlを入れて30分間攪拌した。その後、過硫酸アンモニウム((NH)0.25モルを加えた後、24時間以上反応を行わせた。反応溶液を濾過して伝導性高分子溶液を得た(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。
【0083】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は最大で100S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sq以下であった。
【0084】
また、ドーピング補助剤として、N−メチルピロリジノン(NMP)10mlの代わりに、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルおよび酢酸ブチルよりなる群から選ばれるドーピング補助剤10mlを使用した場合にも、ほぼ同一の結果を得た。
【0085】
実施例11:伝導性高分子ポリピロールおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
常温でピロール単量体0.2モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に水5mlと過硫酸アンモニウム((NH)0.25モルを加えた後、48時間以上反応させた。反応溶液を濾過して塩基型の伝導性高分子溶液を得た。この溶液にさらにKMnO0.05モルを入れて24時間反応させた後、濾過して塩基型の伝導性高分子溶液を得た。この溶液にドーパントとして硫酸0.1モルを加えた。この溶液にメタノール10mlを入れて24時間以上攪拌させた(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。この溶液を濾過して伝導性高分子溶液を得た。
【0086】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は最大で100S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sq以下であった。
【0087】
実施例12:伝導性高分子ポリアニリンおよびポリピロールの製造、並びにそれらを用いた伝導性フィルムの製造
反応温度を常温にせず、それぞれ−20℃、0℃、25℃および50℃に変更したこと以外は、それぞれ実施例2〜実施例11と同一の方法で伝導性高分子溶液を合成した。このように反応温度を変更して伝導性高分子を製造した場合にも、常温で合成したものと同一の結果を得た。
【0088】
実施例13:伝導性高分子ポリチオフェンおよびそれを用いた伝導性フィルムの製造
(1)常温でチオフェン単量体0.3モルをメチルエチルケトン600ml入りの三角フラスコに入れて磁石攪拌棒で攪拌した。この溶液に水5mlとドーパントとしての硫酸0.1モルを加えた。この溶液に触媒剤として塩化リチウム(LiCl)8gを入れ、ドーピング補助剤としてN−メチルピロリジノン(NMP)10mlを入れて30分間攪拌した後、過硫酸アンモニウム((NH)0.3モルを添加し、72時間以上反応させた。この溶液を濾過して伝導性高分子溶液を得た(溶液の粘度が大きくなって沈殿物が生成された場合、メチルエチルケトンを除いた他の溶媒を溶液の総重量に対して5重量%以上加えて攪拌を可能にした)。
【0089】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は最大で100S/cmであり、透過度94%以上における表面抵抗は10Ω/sq以下であった。
【0090】
(2)伝導性高分子溶液を蒸留器に入れ、80℃で蒸留して、溶媒と未反応チオフェンを除去して、溶液の重量が1/3となるまで濃縮した。
【0091】
濃縮された伝導性高分子溶液を用いて、フィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は最大で100S/cmであり、透過度92%以上における表面抵抗は10Ω/sq以下であった。
【0092】
(3)1/3に濃縮された伝導性高分子溶液に、酸化剤として過マンガン酸カリウム0.05モルを入れ、さらに24時間反応させて濾過することにより、伝導性高分子溶液を得た。
【0093】
伝導性高分子溶液を用いてフィルムを製造し、電気伝導度、透過度および表面抵抗を測定した。その結果、フィルムの電気伝導度は最大で200S/cmであり、透過度90%以上における表面抵抗は10Ω/sq以下であった。
【0094】
また、ドーピング補助剤として、N−メチルピロリジノン(NMP)10mlの代わりに、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチルおよび酢酸ブチルよりなる群から選ばれるドーピング補助剤10mlを使用した場合にも、ほぼ同一の結果を得た。
【0095】
(4)反応温度を常温にせず、それぞれ−20℃、0℃、25℃および50℃に変更したこと以外は、上記(1)と同一の方法で伝導性高分子溶液を合成した。前述したように、反応温度を変更して伝導性高分子を製造した場合にも、常温で得たものと同一の結果を得た。
【0096】
実験例1:伝導性高分子ポリアニリンの合成確認
(1)実施例2で合成された伝導性ポリアニリン溶液をアンモニア水で中和し、乾燥させて塩基型のポリアニリンを得た後、FT−IR分光器を用いて塩基型のポリアニリンのFT−IRスペクトルを得た(図1)。
【0097】
図1に示すように、3,400cm−1付近におけるN−H伸縮振動ピーク、2,000cm−1〜1,600cm−1のベンゼン置換体ピーク、1,600cm−1と1,510cm−1付近のキノン型環とベンゼン型環のC=C伸縮振動ピークが確認されてポリアニリンが合成されたことを確認することができた。
【0098】
(2)また、得られた塩基型のポリアニリンをN−メチルピロリジノン(NMP)に溶解させ、紫外線−可視光線分光法(UV-Visible Spectrophotometer)を使用して塩基型ポリアニリンの紫外線−可視光線スペクトルを得た(図2)。
【0099】
図2に示すように、水溶液で合成した塩基型のポリアニリンの分子エキシトンピークが約635nmで現れるが、これに対し、得られた塩基型のポリアニリンの場合は370nm付近で非常に弱いピーク形状を示した。
【0100】
(3)また、得られた塩基型のポリアニリンをDMSO溶液に溶解させ、500MHzNMRを用いて、図3に示したNMRスペクトルを得た。
【0101】
実験例2:伝導性高分子ポリピロールの合成確認
(1)実施例7で合成された伝導性ポリピロール溶液をアンモニア水で中和し、乾燥させて塩基型のポリピロールを得た後、FT−IR分光器を用いて得られた塩基型のポリピロールのFT−IRスペクトルを得た(図4)。
【0102】
図4に示すように、1,570cm−1付近のC=C伸縮振動ピーク、1,467cm−1付近のC−N振動ピーク、1,417cm−1付近のC−C振動ピーク、および1,074cm−1付近のC−H平面内振動ピークから、ポリピロールが合成されたことを確認することができた。
【0103】
(2)また、得られた塩基型のポリピロールをN−メチルピロリジノン(NMP)に溶解させ、紫外線−可視光線分光法によって、塩基型のポリピロールの紫外線−可視光線スペクトルを得た(図5)。
【0104】
図5に示すように、塩基型のポリピロールは、470nm付近で非常に弱いピーク形状を示した。
【0105】
(3)また、得られた塩基型ポリピロールをDMSO溶液に溶解させ、500MHzNMRを用いて、図6に示したNMRスペクトルを得た。
【0106】
実験例3:伝導性高分子ポリチオフェンの合成確認
(1)実験例13の(3)で合成された伝導性ポリチオフェン溶液をアンモニア水で中和し、乾燥させて塩基型のポリチオフェンを得た後、FT−IR分光器を用いて得られた塩基型のポリチオフェンのFT−IRスペクトルを得た(図7)。
【0107】
図7に示すように、3,066cm−1付近でC−H伸縮振動ピーク、チオフェンにおける特徴的な791cm−1と785cm−1の2つのリングストレッチモードによるC−Hピークが確認され、これにより、ポリチオフェンが合成されたことを確認することができた。
【0108】
(2)また、得られた塩基型のポリチオフェンをN−メチルピロリジノン(NMP)に溶解させ、紫外線−可視光線分光法によって、塩基型のポリチオフェンの紫外線−可視光線スペクトルを得た(図8)。
【0109】
図8に示すように、塩基型のポリチオフェンは、385nm付近で吸収ピーク形状を示した。
【0110】
(3)また、得られた塩基型ポリチオフェンをDMSO溶液に溶解させ、500MHzNMRを用いて、図9に示したNMRスペクトルを得た。
【0111】
実験例4:本発明の伝導性高分子の分子量、分子サイズ分布および溶解度の測定
(1)分子量および分子サイズ分布の測定
本発明で製造された伝導性高分子溶液をアンモニア水で中和し、乾燥させて塩基型の伝導性高分子を得た。得られた塩基型の伝導性高分子をメチルピロリジノン−塩化リチウム(0.5重量%)に溶かして分析した。その結果を表1に示す(下記分子量はポリスチレンを基準物質として用いて測定したものである。)。
【0112】
【表1】

【0113】
(2)溶解度の測定
本発明で製造された各伝導性高分子を、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリジノン、メチルエチルケトンに溶解して、溶解度を測定した。溶解度測定結果を表2に示す。
【0114】
【表2】

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸によってドープされた伝導性高分子であって、塩基型の重量平均分子量が5,000以下であり、有機溶媒に対する溶解度が3%以上であることを特徴とする伝導性高分子。
【請求項2】
前記伝導性高分子が、ポリアニリン、ポリピロールまたはポリチオフェンであることを特徴とする請求項1に記載の伝導性高分子。
【請求項3】
前記ドーパントとして使用される酸が、硫酸、塩酸、リン酸、塩化硫酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸、硝酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、蟻酸、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、ジフェニルスルホンスルホン酸および安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種で構成されることを特徴とする請求項1に記載の伝導性高分子。
【請求項4】
前記伝導性高分子は、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール(iPA)、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、トリフルオロアセトニトリル、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド(DMAC)、DMAC−LiCl、N,N’−1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(N,N’−1,3−ジメチルプロピレンウレア、DMPU)、モルホリン、ピリジン、およびピロリジンからなる群より選ばれるいずれの有機溶媒にも溶解することを特徴とする請求項3に記載の伝導性高分子。
【請求項5】
前記伝導性高分子合成用の単量体と前記ドーパントの使用量は、前記単量体のモル数/前記ドーパントのモル数の値が、0.125〜4.00の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載の伝導性高分子。
【請求項6】
伝導性高分子合成用の単量体を有機溶媒に溶かす段階と、
前記段階で得られた単量体溶液に、前記有機溶媒100重量部に対して0重量部より大きく10重量部以下の水を添加する段階と、
前記単量体溶液に任意の順序でドーパントおよび酸化剤を添加し、それぞれを反応させて反応混合物を得る段階と、
前記反応混合物を濾過して伝導性高分子溶液を得る段階と
を含むことを特徴とする伝導性高分子の製造方法。
【請求項7】
前記ドーパントおよび酸化剤を添加する段階で、触媒とドーピング補助剤をさらに添加して反応を行うことを特徴とする請求項6に記載の伝導性高分子の製造方法。
【請求項8】
前記ドーパントおよび酸化剤を添加する段階で、酸化剤添加反応は第1酸化剤を添加して反応を完了して反応物を得た後、前記反応物を濾過して、得られた濾過溶液に前記第1酸化剤よりさらに酸化力の強い第2酸化剤を添加して反応を行わせることを特徴とする請求項6に記載の伝導性高分子の製造方法。
【請求項9】
前記ドーパントの添加量は、前記伝導性高分子合成用の単量体のモル数/ドーパントのモル数の値が、0.125〜4.00となる範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の伝導性高分子の製造方法。
【請求項10】
前記伝導性高分子合成用の単量体が、置換もしくは無置換のアニリン、置換もしくは無置換のピロール、或いは置換もしくは無置換のチオフェンであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の伝導性高分子の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒は、メチルエチルケトン、クロロホルム、ジクロロメタン、N−メチルピロリジノン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、t−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール(iPA、2−プロパノール)、ベンジルアルコール、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、蟻酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、アセトニトリル、トリフルオロアセトニトリル、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド(DMAC)、DMAC−LiCl、N,N’−1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(N,N’−1,3−ジメチルプロピレンウレア、DMPU)、モルホリン、ピリジン、およびピロリジンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の伝導性高分子の製造方法。
【請求項12】
前記有機溶媒がメチルエチルケトンであることを特徴とする請求項11に記載の伝導性高分子の製造方法。
【請求項13】
前記ドーパントは、硫酸、塩酸、リン酸、塩化硫酸、メタンスルホン酸、スルファミン酸、硝酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、蟻酸、ポリスチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、シュウ酸、ジフェニルパラスルホン酸、および安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の伝導性高分子の製造方法。
【請求項14】
前記酸化剤、またはそれぞれ独立の第1酸化剤および第2酸化剤は、過硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、硫酸トルエン鉄(III)、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、およびトリトルエンスルホン鉄(III)(Fe(OTs))からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の伝導性高分子の製造方法。

【公表番号】特表2011−510131(P2011−510131A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543053(P2010−543053)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【国際出願番号】PCT/KR2009/000203
【国際公開番号】WO2009/091184
【国際公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(510198309)
【Fターム(参考)】