説明

可燃性液体のミスト爆発を制御する方法

【課題】 前記ミストの下限界濃度や限界支燃性ガス濃度により、可燃性液体のミスト爆発を制御すること。
【解決手段】 可燃性液体を、当該可燃性液体の引火点未満の温度で取り扱う際に、当該可燃性液体を、当該可燃性液体に係わる、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度以下および/またはミスト爆発における限界支燃性ガス濃度以下に調整することによって、可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度および/または限界支燃性ガス濃度により、可燃性液体のミスト爆発を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、可燃性液体を安全に取り扱う基準の一つとして、可燃性液体の引火点と導電率が採用されている。
【0003】
引火点とは、可燃性液体が支燃性ガス雰囲気中でその液体表面の近くに引火するのに十分な濃度の蒸気を生じる最低温度であり、引火点を測定する手段としては、ASTM,ISOやJISによって承認された多数の装置や測定法が知られている。しかし、可燃性液体は気相において、常時、蒸気で存在しているものではなく、ミスト状態で存在する場合がある。かかる可燃性液体のミストの燃焼は、引火点との関連性が低く、引火点以下においても、静電気放電等の着火源の存在によって燃焼を生じるミスト爆発が起きる。したがって、可燃性液体を取り扱う場合には、引火点のみを考慮していては不十分であり、ミスト爆発が起こらない条件を設定する必要がある。
【0004】
また、導電率とは物質の静電気の帯易さや電荷の逃げ易さを示す指標となる値であり、導電率が10-8S/m以上の物質は一般に非帯電性に分類され、着火爆発を防止する為の静電気対策が不要とされる。しかし、帯電したミストの電荷の減衰は、ミストが存在する媒体である気体の導電率によって左右される。空気等の気体は一般に導電率が小さく、絶縁性であるため、導電率が10-8S/m以上の可燃性液体がミストとして存在する場合には、当該可燃性液体の導電率が10-8S/m以上であっても、ミスト爆発が起こらない条件を設定する必要がある。
【0005】
ミスト爆発の指標としては、ミスト爆発を起こさないミストの下限界濃度を測定することが知られており、当該下限界濃度を測定する装置としては、たとえば、第28回安全工学研究発表会講演予稿集第35〜第38頁に記載のものが知られている。当該予稿集に記載の装置は、所定容積の燃焼筒内に、被検可燃性液体をミスト状態で噴霧した後に燃焼筒内のミスト重量を測定することによりミスト濃度を割り出すとともに、当該ミスト濃度における点火によるミスト爆発の有無を確認することにより、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度を測定している。しかし、当該予稿集に記載の装置では、燃焼筒内のミスト重量の測定にあたって、ミスト状態を呈しなくなって燃焼筒内壁を付着・流下する被検可燃性液体の重量もミスト重量として加えられているため、ミストの下限界濃度が実際よりも高く認識され、ミストの下限界濃度が正確に測定されているとはいえなかった。このように誤って高く認識された、ミストの下限界濃度では、当該下限界濃度以下でもミスト爆発が起こりうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ミストの下限界濃度や限界支燃性ガス濃度により、可燃性液体のミスト爆発を制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す方法により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち本発明は、可燃性液体を、当該可燃性液体の引火点未満の温度で取り扱う際に、当該可燃性液体を、当該可燃性液体に係わる、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度以下および/またはミスト爆発における限界支燃性ガス濃度以下に調整することによって、可燃性液体のミスト爆発を制御する方法に関する。
【0009】
可燃性液体の取り扱いにおいて、ミストの下限界濃度や、限界支燃性ガス濃度による管理、制御を行うことにより、引火点のみでは予期できなかった、ミスト爆発の制御が可能になる。さらには、前記ミスト爆発を制御する方法は、可燃性液体の導電率が10-8S/m以上の場合において有用である。導電率が10-8S/m以上の可燃性液体は、通常、静電気爆発を生起し難いが、ミスト状態で空気等の媒体中に存在する場合には、帯電して爆発に通じる場合があり、このような導電率を有する可燃性液体についても、ミストの下限界濃度や限界支燃性ガス濃度による管理、制御を行うことにより、引火点のみでは予期出来なかった、ミスト爆発の制御が可能になる。
【0010】
なお、ミスト爆発は、通常、引火点未満の温度で起きるため、ミストの下限界濃度や、限界支燃性ガス濃度の管理により、引火点を考慮することなく、可燃性液体の取り扱いを安全に行うことができる。
【0011】
ミスト爆発におけるミストの下限界濃度の測定、ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度の測定は、下記方法、装置により求めたものを用いることにより、ミスト爆発の制御を、より正確になしえる。
【0012】
ミスト爆発におけるミストの下限界濃度の測定は、所定容積を確保しうる燃焼筒内に、被検可燃性液体をミスト状態で噴霧した後、燃焼筒内に噴霧されたミスト状態の被検可燃性液体の重量を、燃焼筒内でミスト状態を呈しなくなって燃焼筒内壁に付着・流下する被検可燃性液体の重量が関与しないようにして測定した結果から、ミスト濃度を割り出すとともに、被検可燃性液体の前記ミスト濃度での点火によるミスト爆発の有無を確認することによって、行うことができる。
【0013】
上記のように、燃焼筒の容積とミスト状態の被検可燃性液体の重量 (ミスト重量)から、ミスト濃度を割り出すにあたって、ミスト重量に、ミスト状態を呈しなくなった可燃性液体の重量を算入外とすることにより、燃焼筒内に存在するミスト重量を正確に把握できる結果、ミストの下限界濃度を正確に測定できるようになる。
【0014】
上記ミストの下限界濃度を測定する方法に用いる、可燃性液体のミスト爆発におけるミストの下限界濃度測定装置としては、たとえば、所定容積を確保しうる燃焼筒を有し、当該燃焼筒内には被検可燃性液体のミスト発生装置およびミスト爆発させるための着火装置を有し、当該燃焼筒の下部には燃焼筒内でミスト状態を呈しなくなって燃焼筒内壁に付着・流下する被検可燃性液体の回収槽を有し、かつ当該燃焼筒内でミスト発生後に自然落下するミスト重量を測定しうる測量計を備えたもの、が用いられる。
【0015】
当該下限界濃度測定装置によれば、燃焼筒の下部に設けた回収槽に、ミスト状態を呈しなくなって燃焼筒内壁に付着・流下する被検可燃性液体が溜まるため、燃焼筒内でミスト状態を呈しない被検可燃性液体は測量計の重量に加わらず、一方、燃焼筒内におけるミスト状態を呈する被検可燃性液体が自然落下することにより測量されて、燃焼筒内のミスト重量が正確に測量される。
【0016】
前記ミスト発生装置は、気液混合物を噴霧させる仕組みからなるものが好ましい。下限界濃度測定装置におけるミスト発生装置は、ミストを発生させうるものであれば特に制限されるものではないが、ミスト爆発はミストの平均粒径が50μmよりも小さな粒径で起きやすい傾向があることから、50μm以下の平均粒径を形成させることが可能な、気液混合物を噴霧させる仕組みからなるノズルの適用が好ましい。
【0017】
前記燃焼筒の開口部は網状物とするのが好ましい。当該開口部の網状物によって燃焼筒は開放系になり、燃焼筒内に噴霧したミストの一部は、燃焼筒外に拡散されるが、燃焼筒外に拡散したミストは、燃焼筒内に逆戻りすることはなく、ミスト重量の測定に係わる燃焼筒の容積を明確に確保でき、燃焼筒内の所定容積に係わるミストのみが重量測定される。また網状物は、燃焼筒内でミスト爆発させた際に生じる爆風の燃焼筒外への風路を確保でき燃焼筒の破壊を防止できる。また、当該網状物はフレームアレスタの役割をしてミスト爆発により生じる火炎が燃焼筒外にまで及ぶことを防止でき、測定上の安全性が向上する。
【0018】
さらに、燃焼筒の開口部を錘状にするのが好ましい。燃焼筒上部を錘状にして傾斜を持たせることにより、燃焼筒の上面部においてミスト状態を呈しなくなった被検可燃性液体が壁面に沿って被検可燃性液体の回収槽に流下し易くなり、燃焼筒内のミスト重量の測定をより正確に行うことができる。
【0019】
また、ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度を測定は、略密閉された燃焼筒内を、所定の支燃性ガス濃度に設定するとともに、被検可燃性液体をミスト状態で噴霧した後に、点火による爆発の有無を確認することによって、行うことができる。上記方法にしたがって、ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度が測定され、被検可燃性液体に固有の限界支燃性ガス濃度を把握できる。
【0020】
上記ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度を測定する方法に用いる、可燃性液体のミスト爆発における限界支燃性ガス濃度測定装置としては、たとえば、可燃性液体のミスト爆発における限界支燃性ガス濃度測定装置であって、略密閉された燃焼筒を有し、当該燃焼筒内には、支燃性ガス導入管、支燃性ガス濃度計、被検可燃性液体のミスト発生装置およびミスト爆発させるための着火装置を有するものが用いられる。かかる限界支燃性ガス濃度測定装置により、所定支燃性ガス濃度における各種条件下のミスト爆発を繰り返すことにより、限界支燃性ガス濃度が容易に求められる。
【0021】
また、限界支燃性ガス濃度測定装置においても、ミストの下限界濃度測定装置と同様に、前記ミスト発生装置を、気液混合物を噴霧させる仕組みからなるものにするのが好ましい。前記燃焼筒は、燃焼筒の開口部を薄膜で覆うことにより略密閉とするのが好ましい。薄膜は、外部からの空気が混入するのを防止でき、一方、燃焼筒内からはある程度通気可能なため、燃焼筒内の支燃性ガス濃度を均一に安定化できる。薄膜はミスト爆発における爆風によって吹き飛ばされることにより、燃焼筒そのものが破損することを防ぐことができ安全性が向上する。また、前記開口部は、薄膜でシールされた網状物で覆うのがより好ましい。網状物が、フレームアレスタの役割をして、ミスト爆発により生じる火炎が燃焼筒外にまで及ぶことを防ぐ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度測定装置に関するものである。燃焼筒1の材質は、耐熱性のものであれば特に制限されないが、運搬等の取り扱いの容易なプラスチック製のものが好ましく、特にポリ塩化ビニール、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等の透明樹脂が好ましい。透明樹脂は、燃焼筒1内の燃焼を目視で観察でき、ミスト爆発の程度の把握が容易である。
【0024】
燃焼筒1は、下限界濃度測定の基準となる所定容積を有するものである。本発明でいう所定容積を確保しうる燃焼筒1とは、燃焼筒1内の噴霧状態のミストが自然落下することにより、測量計2に現れるミスト重量の数値として、そのまま反映されるように所定容積を確保しうるものであればよい。また、燃焼筒1内へはミストが加圧噴霧されるため、燃焼筒1は開放系であり、間隙が必要である。図1は、燃焼筒1の上部開口部は錘状の網状物11が設けられて開放系になっている。当該網状物11からはミストが飛散しうるが、飛散したミストは燃焼筒1内に戻ることはなく、燃焼筒1では測定に係わるミストの所定容積が確保されている。網状物としては、フレームアレスタに有効な金属素材、たとえば金網とするのが好ましい。
【0025】
燃焼筒1は、通常、高さ300〜3000mm程度であり、また断面形状は特に制限ないが、通常、円筒形のものが用いられ、直径100〜1000mm程度とするのが好ましい。なお、ミスト濃度を割り出す際に使用する所定容積としては、燃焼筒1から測量計2に至るミストの落下の過程における最小径を元に算出する。したがって、図1では、燃焼筒1の直径でなく、回収槽7の直径を基準にする。
【0026】
また、燃焼筒1の底面には、燃焼筒1内でミスト状態を呈しなくなって燃焼筒1内壁に付着・流下する被検可燃性液体の回収槽7を有する。回収槽7は、燃焼筒1の底部の壁面に沿って設けられている。被検可燃性液体は、燃焼筒1内にミスト状態で噴霧されるが、ミストの一部は、燃焼筒1の内壁に付着・流下して、回収槽7に回収される。回収槽7には、排出管8を設けることにより、連続的に回収槽7から排出することもできる。
【0027】
燃焼筒1内のミスト発生装置3の設置位置は特に制限されないが、図1に示すように、ミストを上向きに噴霧する場合には燃焼筒1の下部中央に設けるのが、燃焼筒1内のミストの分散性がよく好ましいが、ミスト発生装置3は上部中央に設けてミストを下向きに噴霧することもできる。ミスト発生装置3としては、たとえば、霧のいけうち社製の2流体ノズルBIM K60075やBIM K6015等が用いられる。ミスト発生装置3には、被検可燃性液体を導入するための液体導入管4と気体導入管5が接続されている。液体導入管4の液圧と気体導入管5の気圧を適宜に調整することにより、噴霧するミスト濃度が調整される。気体導入管5には、酸素、塩素、酸化窒素等の支燃性気体が用いられ、ミスト発生装置3により、燃焼筒1内に被検可燃性液体のミストを噴霧するとともに、支燃性気体を導入する。なお、支燃性気体としては、通常、空気が用いられる。
【0028】
ミスト爆発させるための着火装置6の位置は特に制限されないが、図1に示すように、燃焼筒1の高さの下から1/4〜3/4程度の位置とするのが好ましい。着火装置6としては、たとえば、放電電極、ニクロム線溶断や白金線溶断等が用いられる。
【0029】
また、ミストの下限界濃度測定装置には、燃焼筒1内でミスト発生後に自然落下するミスト重量を測定するための測量計2を備えている。測量計2上には、通常、受皿9が設けられている。受皿9に、ミスト発生後に自然落下するミストが液状で溜まり、その重量が測定される。測量計2としては、遠隔指示パネルを備えうる電子天秤等の各種のものを使用できる。
【0030】
受皿2上には、ミスト飛散防止壁10を設けることができる。ミスト飛散防止壁10は、必ずしも必要ではないが、ミスト噴霧後に自然落下するミストは軽く、回収槽7と受皿9の間を容易にすり抜けられるため、ミスト飛散を防止して、より正確にミスト重量を測定するために用いるのが好ましい。ミスト飛散防止壁10は金網等の網状物とすることもできる。
【0031】
燃焼筒1、回収槽7は、ミスト状態を呈しなくなった被検可燃性液体の重量に係わるため、通常、別の支持体に支持されて測量計2に重量がかからないように設ける。たとえば、燃焼筒1は上方より吊るす等の手段により、回収槽7は、横方向の支持体により、測量計2に重量がかからないようにすることができる。また、回収槽7、ミスト発生装置3は、燃焼筒1にボルト等により固定することにより、測量計2に重量がかからないようにすることもできる。
【0032】
上記図1に示す下限界濃度測定装置を実際に操作するにあたっては、まず、液体導入管4の液圧と気体導入管5の気圧を所定条件に適宜に調整して、ミスト発生装置3から被検可燃性液体を所定時間噴霧し、ミスト状態で燃焼筒1内に噴霧させる。噴霧時間は、通常、10〜60秒程度が適当である。噴霧停止後、直ちに、測量計2の示す重量を確認する。噴霧停止してから、通常、60〜300秒程度放置して、浮遊ミストを自由落下させる。放置後、再度測量計2の示す重量を確認する。再度確認したときの重量増加分が、浮遊ミストが自由落下した結果示すミスト重量であり、これを燃焼筒1の容積で除算してミスト濃度を計算する。なお、当該ミスト濃度の計算には、重量増加分に回収槽7内に溜まった可燃性液体は算入されないため、正確な浮遊ミスト濃度となる。
【0033】
こうして所定条件で測定された浮遊ミスト濃度と同様の条件で、別途、被検可燃性液体を噴霧した後、着火装置6により点火して、ミスト爆発の有無を確認する。爆発の有無の確認は、通常、目視で行うが、燃焼筒1の内部に熱電対等を挿入して燃焼筒1内の温度上昇の有無により判断することもできる。なお、図1の装置では、燃焼筒1の上部に金網を用いているので、ミスト爆発により炎が燃焼筒1外に殆ど出ない。
【0034】
この操作を、ミスト濃度を変更して繰り返して行うことにより、ミスト爆発するミスト濃度とミスト爆発しないミスト濃度を探って、最終的にミスト爆発のミストの下限界濃度を見出す。ミスト爆発はミスト径が50μm以下、通常は10〜40μm程度の場合に起こり易いため、少なくとも前記範囲内のミストの径のものを確認するのが望ましい。ミストの下限界濃度は、測定条件の中で燃焼が伝播しない最高のミスト濃度とすることができる。
【0035】
なお、ミスト爆発にあたっては、測量計2、受皿9、ミスト飛散防止壁10、回収槽7は不要なので、これらを燃焼筒1から、取り外しておくのが、これらの燃焼変形、破損を防止でき好ましい。ただし、回収槽7が燃焼筒1に固定されている場合には、作業、操作等の便宜から特に取り外す必要はない。また、着火装置6を燃焼筒1の中央部よりも下部に設置した場合は、火炎は上方伝播しやすいため、ミスト爆発にあたって、測量計2等を燃焼筒1から取り外した場合、燃焼筒1の底部を開放口のまま使用できる。開放口は金網等の網状物で塞いで火炎の下方伝播を防ぐこともできる。
【0036】
図2は、ミスト爆発におけるミストの限界支燃性ガス濃度測定装置に関するものであり、ミスト爆発させるための燃焼筒21の材質は、前記下限界濃度測定装置と同様に耐熱性のものであれば特に制限されないが、運搬等の取り扱いの容易なプラスチック製のものが好ましく、特にポリ塩化ビニール、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等の透明樹脂が好ましい。燃焼筒21は、略密閉となりうるものを用いる。略密閉とは、燃焼筒21内の支燃性ガス濃度調整が可能な程度に気密性を保持した状態をいう。
【0037】
図2は、燃焼筒21の開口部を、網状物22aおよび23で覆い、その外側から薄膜22bおよび24で覆って、燃焼筒21内部を略密閉状態とすることにより、燃焼筒21内の支燃性ガス濃度の制御を可能にしている。なお、燃焼筒21の上部開口部22は、薄膜22bでシールされた網状物22aを用いている。支燃性ガスを含む気体をパージすることにより、燃焼筒21が加圧状態になると薄膜の間隙から外部へ通気し、燃焼筒21内の支燃性ガス濃度を一定に維持する。薄膜の材質としては、ポリ塩化ビニール、ポリエチレン、アルミ箔等が用いられる。薄膜22b、24は、爆発により容易に破壊され、燃焼筒21が破損するのを防ぎ、網状物22a、23は、図1の網状物11と同様に火炎の伝播を遮断する。また、網状物22a、23としては、網状物11と同様に金属素材の金網が好ましい。
【0038】
また、薄膜24は、落下したミストが溜まりうるようにある程度余裕を持たせて底面部を覆うのが好ましい。なお、薄膜24に落下したミストの量が多くなると、薄膜24の剥脱が生じうるので、網状物23を設ける場合には、底面部に図1のミスト回収槽7を設けるのが好ましい。
【0039】
燃焼筒21は、通常、高さ300〜3000mm程度、また断面形状は特に制限ないが、通常、円筒形のものが用いられ、直径100〜1000mm程度である。
【0040】
燃焼筒21には、支燃性ガス導入管25、不燃性ガス導入管26が備えられている。燃焼筒21は、支燃性ガス導入管25から送られる支燃性ガスと、不燃性ガス導入管26から送られる不燃性ガスによって、所定支燃性ガス濃度に置換される。なお、支燃性ガス導入管25から送られる支燃性ガスは、酸素、塩素、酸化窒素等が用いられる。通常は、空気等が用いられる。不燃性ガス導入管26から送られる不燃性ガスは、窒素、二酸化炭素、スチ−ム等が用いられる。通常は窒素等が用いられる。支燃性ガスと不燃性ガスを予め混合しておけばすれば不燃性ガス導入管26は不要である。燃焼筒21内の支燃性ガス濃度は支燃性ガス濃度計27により常時測定する。
【0041】
ミスト発生装置28の設置位置は特に制限されないが、図2に示すように、上向きにミストを噴霧する場合は燃焼筒21の下部中央に設けるのが、燃焼筒21内のミスト状態がよく好ましいが、上部中央部にミスト発生装置28を設けて下向きにミストを噴霧することもできる。ミスト発生装置28としては、たとえば、たとえば、霧のいけうち社製の2流体ノズルBIM K60075やBIMK6015等が用いられる。ミスト発生装置28には、被検可燃性液体を導入するための液体導入管29と支燃性ガス導入管30が接続されている。液体導入管29の液圧と支燃性ガス導入管30の気圧を適宜に調整することにより、噴霧されるミスト濃度が調整される。
【0042】
支燃性ガス導入管30には通常、燃焼筒21内の支燃性ガス濃度に調整されたガスが用いられる。なお、ミストを噴霧する前に支燃性ガス導入管30を用いて所定濃度の支燃性ガスを送り込むことにより、燃焼筒21中の支燃性ガス濃度を所定濃度に設定することもできる。この場合には、支燃性ガス導入管25、不燃性ガス導入管26は不要である。
【0043】
ミスト爆発させるための着火装置31の位置は特に制限されないが、図2に示すように、燃焼筒21の高さの下から1/4〜3/4程度の位置とするのが好ましい。着火装置31としては、たとえば、放電電極、ニクロム線溶断や白金線溶断等が用いられる。
【0044】
上記図2に示す限界支燃性ガス濃度測定装置を実際に操作するにあたっては、ます燃焼筒21内を、支燃性ガス濃度計27により測定しながら、たとえば、支燃性ガス導入管25 から送られる空気と不燃性ガス導入管26から送られる不燃性ガスによって、所定濃度に置換する。
【0045】
次いで、液体導入管29の液圧と支燃性ガス導入管30の気圧を適宜に調整して、ミスト発生装置28から被検可燃性液体を噴霧し、ミスト状態で燃焼筒21内に噴霧させる。噴霧時間は、通常、10〜60秒程度が適当である。
【0046】
次いで、着火装置31により点火して、ミスト爆発の有無を確認する。爆発の有無の確認は、通常、目視で行うが、燃焼筒21の内部に熱電対等を挿入して燃焼筒1内の温度上昇の有無により判断することもできる。なお、図2の装置では、燃焼筒21の上面部および底面部に網状物網22a、23を用いているので、ミスト爆発により火炎が燃焼筒21外に殆ど出ない。しかも、爆風によって網状物22にシールされている薄膜22b、24が破壊されるのみで燃焼筒21は損傷しない。
【0047】
この操作を、所定の支燃性ガス濃度において、種々の条件でミスト爆発の有無の確認をする。ミスト爆発は、ミスト径が50μm以下、通常は10〜40μm程度の場合に起こり易いため、少なくとも前記範囲内のミストの径のものを確認するのが好ましい。また支燃性ガス濃度を変更して繰り返し行うことにより、ミスト爆発する支燃性ガス濃度とミスト爆発しない支燃性ガス濃度を探って、最終的にミスト爆発の限界支燃性ガス濃度を見出す。ミストの限界支燃性ガス濃度は、測定条件の中で燃焼が伝播しない最高の支燃性ガス濃度とすることができる。
【0048】
このようにして可燃性液体のミスト爆発におけるミストの下限界濃度、限界支燃性ガス濃度が正確に測定可能であり、可燃性液体を当該可燃性液体の引火点未満の温度で取り扱う際に、当該可燃性液体ミストの下限界濃度以下および/または限界支燃性ガス濃度以下に調整することにより、可燃性液体のミスト爆発を制御でき、安全な操業が可能になる。ミストの下限界濃度、限界支燃性ガス濃度の測定は、本発明の方法、装置、特に前記図1、図2の装置によれば、正確な値を把握できる。
【0049】
可燃性液体の存在する系内におけるミストの濃度をミスト爆発が起きないように調整する手段としては、ミスト濃度が高くなってきた際に、たとえば、ガスによりミスト雰囲気を希釈化する方法、ミスト発生の原因となる液体流量を低下させる方法等によりミスト濃度を下げる方法等があげられる。
【0050】
また、可燃性液体の存在する系内における支燃性ガス濃度をミスト爆発が起きないように調整する手段は、たとえば、窒素、二酸化炭素、スチーム等の不燃焼性ガスにより支燃性ガス濃度を希釈化する方法等により可燃性液体の存在する系内の支燃性ガス濃度を下げる方法等があげられる。
【0051】
こうしたミスト爆発の制御にあたっては、限界支燃性ガス濃度の調整の方が容易に行うことができる。
【0052】
実際の操業にあたっては、ミストの下限界濃度、限界支燃性ガス濃度の前記限界値よりも、低いところで操業することにより、ミスト爆発を制御する。ミスト濃度に関してはミストの下限界濃度よりも 60%程度低い条件下、支燃性ガス濃度に関しては限界支燃性ガス濃度よりも60%程度低い条件下で操業するのが好ましい。
【0053】
なお、可燃性液体としては、ミスト爆発のおそれがあるであれば特に限定されず、たとえば、2−エチルヘキサノール、N−メチルピロリドン、エタノール等や、エタノール等を水等で希釈したもの等を例示できる。ミスト爆発のおそれがあるような操業としては、たとえば、前記可燃性液体を用いたベンチュリースクラバー、スプレー塔、スプレー洗浄設備等の取り扱い現場や製造現場等があげられる。
【実施例】
【0054】
実施例1
ミストの下限界濃度測定の具体例として、図1のような装置を用いて、可燃性液体(2−エチルヘキサノール、引火点73℃)の下限界濃度を測定した例を示す。燃焼筒1の高さ2m、内径0. 6m、回収槽7の内径0.55m、測量計2上部から燃焼筒1上部までの高さ2.1m、平面形状の網状物11、ミスト濃度算出所定容積0.5m3のものを用い、表1に示すように液体導入管4の液圧と気体導入管5の気圧(空気)を変化させてミスト量を調整した。その他、点火実験時の気温21℃、湿度54%、噴霧空気温度22℃、噴霧液温度20〜21℃、噴霧時間40秒の条件であり、ミスト濃度測定時の気温16.5〜22℃、湿度57〜74%、噴霧空気温度17〜25℃、噴霧液温度16〜18℃、噴霧時間40秒、噴霧停止後の計測時間180秒の条件である。表1にミスト量、ミスト濃度、ミスト爆発の有無の判定を示す。なお、ミスト爆発の有無の判定の項は、○:点火により火炎が目視で観測され燃焼筒1内全体に燃焼が伝播、×:点火しても燃焼非伝播、を示す。
【0055】
点火は同一噴霧圧力条件で最大3回実施し、1回でも燃焼が伝播すれば爆発すると判定し、3回とも燃焼が伝播しない場合を爆発しないと判定した。ミスト濃度の測定は同一噴霧圧力条件で5回実施し、最小値と最大値を削除して中間の3つの測定値を平均して算出した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から、2−エチルヘキサノールに関して、ミスト爆発のミストの下限界濃度は約15g/m3であることが認められる。
【0058】
実施例2
ミストの限界支燃性ガス濃度測定の具体例として、図2のような装置を用いて、可燃性液体(2−エチルヘキサノール、引火点73℃)の限界支燃性ガス濃度を測定した例を示す。燃焼筒21の高さ2m、直径0.6m、平面形状の網状物22a、23、薄膜22b、24を用い、表2に示すように支燃性ガス導入管25から送られる空気、不燃性ガス導入管26から送られる不燃性ガスによって、燃焼筒21内を所定濃度に置換した。また、表2に示すように液体導入管29の液圧と支燃性ガス導入管30の気圧(所定支燃性ガス濃度)を変化させてミスト濃度を調整した。表2に酸素濃度、ミスト爆発の判定を示す。なお、ミスト爆発の有無の判定の項は、○:点火により火炎が目視で観測され燃焼筒21内全体に燃焼が伝播、△:点火しても火炎は目視では観測できないが燃焼筒21内に設置した熱電対等の温度上昇によって検知可能な弱い燃焼伝播、×:点火しても燃焼非伝播、を示す。その他、気温18〜21℃、湿度72〜81%、噴霧気体温度16〜22℃、噴霧液温度16〜20℃、噴霧時間40秒の条件である。
【0059】
点火は同一噴霧圧力条件で最大6回実施し、1回でも燃焼が伝播すれば爆発すると判定し、1回も燃焼が伝播しない場合を爆発しないと判定した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2から、2−エチルヘキサノールに関して、ミスト爆発の限界酸素は約11%であることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ミスト爆発におけるミストの下限界濃度測定装置である。
【図2】ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度測定装置である。
【符号の説明】
【0063】
1:燃焼筒
2:測量計
3:ミスト発生装置
6:着火装置
21:燃焼筒
25:支燃性ガス導入管
27:支燃性ガス濃度計
28:ミスト発生装置
31:着火装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性液体を、当該可燃性液体の引火点未満の温度で取り扱う際に、当該可燃性液体を、当該可燃性液体に係わる、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度以下および/またはミスト爆発における限界支燃性ガス濃度以下に調整することによって、可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項2】
可燃性液体の導電率が10-8S/m以上である請求項1記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項3】
ミスト爆発におけるミストの下限界濃度として、
所定容積を確保しうる燃焼筒内に、被検可燃性液体をミスト状態で噴霧した後、燃焼筒内に噴霧されたミスト状態の被検可燃性液体の重量を、燃焼筒内でミスト状態を呈しなくなって燃焼筒内壁に付着・流下する被検可燃性液体の重量が関与しないようにして測定した結果から、ミスト濃度を割り出すとともに、被検可燃性液体の前記ミスト濃度での点火によるミスト爆発の有無を確認することによって、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度を測定する方法により求めたものを用いる請求項1または2記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項4】
ミスト爆発におけるミストの下限界濃度の測定を、可燃性液体のミスト爆発におけるミストの下限界濃度測定装置であって、所定容積を確保しうる燃焼筒を有し、当該燃焼筒内には被検可燃性液体のミスト発生装置およびミスト爆発させるための着火装置を有し、当該燃焼筒の底部には燃焼筒内でミスト状態を呈しなくなって燃焼筒内壁を付着・流下する被検可燃性液体の回収槽を有し、かつ当該燃焼筒内でミスト発生後に自然落下するミスト重量を測定しうる測量計を備えた、ミスト爆発におけるミストの下限界濃度測定装置により行う、請求項3記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項5】
ミスト発生装置が、気液混合物を噴霧させる仕組みからなるものである請求項4記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項6】
燃焼筒の開口部を、網状物で覆った請求項4または5記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項7】
燃焼筒の上部開口部を、錘状にしてなる請求項4ないし6いずれか一項記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項8】
ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度として、
略密閉された燃焼筒内を、所定の支燃性ガス濃度に設定するとともに、被検可燃性液体をミスト状態で噴霧した後に、点火による爆発の有無を確認することによって、ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度を測定する方法により求めたものを用いる請求項1ないし3いずれか一項記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項9】
ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度の測定を、可燃性液体のミスト爆発における限界支燃性ガス濃度測定装置であって、略密閉された燃焼筒を有し、当該燃焼筒内には、支燃性ガス導入管、支燃性ガス濃度計、被検可燃性液体のミスト発生装置およびミスト爆発させるための着火装置を有する、ミスト爆発における限界支燃性ガス濃度測定装置により行う、請求項8記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項10】
ミスト発生装置が、気液混合物を噴霧させる仕組みからなるものである請求項9記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項11】
燃焼筒の開口部を、薄膜で覆った請求項9または10記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。
【請求項12】
燃焼筒の開口部を、薄膜でシールされた網状物で覆った請求項11記載の可燃性液体のミスト爆発を制御する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−177976(P2006−177976A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82644(P2006−82644)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【分割の表示】特願平11−317840の分割
【原出願日】平成11年11月9日(1999.11.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】