説明

可視光応答型光触媒、可視光応答型光触媒組成物およびその製造方法

【課題】 本発明は、可視光により空気中の有害物質を浄化したり、汚れを分解除去したり、抗菌、防黴作用を発揮し、各種用途に適用可能な可視光応答型光触媒およびその製造方法に関するものである。
【解決手段】 380nm以上の波長の光で作用する酸化タングステンを含有する可視光応答型光触媒であって、X線回折分析において少なくともWO(2.5≦X<3.0)の結晶ピークが検出されることを特徴とする可視光応答型光触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内の微弱な蛍光灯のような可視光を主体とする光により空気中の有害物質を浄化したり、汚れを分解除去したり、抗菌、防黴作用を発揮し、各種用途に適用可能な可視光応答型光触媒およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン等の光半導性を有した物質にバンドギャップ以上のエネルギーを有した光を照射すると電子と正孔とが生成する。これによりスーパーオキサイドやOHラジカル等の強い酸化力を有した酸素種が光触媒の表面に生成して、接触する有害成分等を酸化分解することができる。そこで光触媒を建物の室内外に塗工して太陽光や蛍光灯の光を利用して大気や室内の環境浄化や脱臭、防汚、殺菌などへの応用が進められている。
【0003】
光半導性を有した物質としては一般に光触媒活性が高く化学的に安定な酸化チタンが使用されている。しかしながら、アナターゼ形酸化チタンを励起するためには380nm以下の紫外線を照射する必要があり、例えば室内では十分な効果を期待することができなかった。
【0004】
酸化チタンは紫外線しか利用できないが、可視光を利用できる光半導性物質として硫化カドミウムや酸化タングステンを用いることは公知の技術である。しかしながら、これらバンドギャップの小さい光半導性物質は量子効率が低かったり、光溶解等の安定性に問題があることが知られている。
【0005】
例えば、可視光光活性を有していることが知られている三酸化タングステンWOはバンドギャップが2.5eVであり480nmまでの可視光を利用することができる。しかしながら、三酸化タングステンは代表的な臭気物質であるアセトアルデヒドの光触媒分解反応を実施した際に酸化チタンと比較して副生成物として酢酸を生成しやすい傾向があり、酢酸はアセトアルデヒドと比べると分解速度が遅いため光触媒粒子の表面に付着して反応速度の低下を招くという問題があった。また、三酸化タングステンはアルカリに可溶であり酸化チタンと比較すると化学的安定性に劣り実用レベルで使用されるには至っていない。
【0006】
そこで酸化タングステン粒子に白金、ルテニウム、パラジウム等の金属微粒子を担持した、バインダーを含む光触媒膜組成物や、さらに、吸着材や酸化チタンを併用したものが活性低下防止策として提案されている(特許文献1参照)。しかし、白金等の金属粒子の担持はコストアップとなり、しかも酸化タングステンの化学的安定性に対する対策として不十分であり、限られた用途にしか適用することができなかった。
【0007】
また、光触媒の性能を向上するために酸化チタンにPt,Pd,Rh,Ru,Ir等の白金族金属やFe,Co,Ni,Cu,Zn,Ag,Cr,V,W等の各種遷移金属を添加することが検討されている。特に白金族金属の添加は光触媒の活性を高める効果が得られることがよく知られている。例えば、酸化チタン等の異方性形状を有する光触媒粒子の表面にハロゲン化白金化合物を担持したことを特徴とする可視光応答型光触媒が例示されている(特許文献2参照)。しかし、白金族金属は高価であり微量担持するだけでも光触媒の製造コストアップを招くため好ましくない。
【0008】
そこで酸化チタンに窒素や硫黄をドープした可視光応答型光触媒が提案され注目されている。例えば、酸化チタン結晶に窒素を含有させたTi−O−N構成を有し、可視光領域において光触媒作用を発現する光触媒物質の形成方法や製造方法が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、これら光触媒物質を製造するためには(1)窒酸化チタン、酸化チタン、金属チタンのうち少なくとも一つをターゲット材料とし、これを窒素ガスを含む雰囲気中で蒸着又はイオンプレーティングした後、アンモニアガスを含む雰囲気中で400℃以上700℃以下の温度で熱処理することや(2)酸化チタンあるいは含水酸化チタンをアンモニアガスを含む雰囲気、あるいは窒素ガスを含む雰囲気、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合雰囲気中で熱処理する等の方法が例示されており、特殊な製造装置や製造方法が必要であり適用性に問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開2001−70800号公報
【特許文献2】特開2004−73910号公報
【特許文献3】特許第349839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記現状に鑑み、室内や太陽光に含まれる可視光照射により光触媒効果を発現し、かつ安定性に優れた可視光応答型光触媒、この可視光応答型光触媒を含む可視光応答型光触媒組成物、およびこれらの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
現在、光触媒として広く使用されている酸化チタンは光照射により生成した電子と正孔とが再結合を起こしにくく優れた光半導性を有しているが、光触媒作用を発現するためには380nm以下の紫外線が必要であり室内の微弱な光では十分な効果が得られない。可視光応答型光触媒として知られている酸化タングステンは三酸化タングステンWOであり、そのバンドギャップは約2.5eVである。酸化チタンと比較すると長波長の可視光まで利用できる可視光応答型光触媒であるが、アセトアルデヒドの光触媒分解反応を実施すると時間経過と共に分解速度が徐々に低下してくることが知られている。これは三酸化タングステンではアセトアルデヒドの分解により酢酸やギ酸等の副生成物が生成しやすいことが前記速度低下の原因と推定される。
【0012】
本発明者らは上記問題点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、X線回折分析において少なくともWO(2.5≦X<3.0)の結晶ピークが検出される酸化タングステン、すなわちX線回折分析すると、WO(2.5≦X<3.0)の結晶に帰属されるピークが検出される酸化タングステンからなる光触媒は、380nm以上の可視光照射により優れた光触媒機能を発現することを見出して本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次のとおりのものである。
(1)X線回折分析において、少なくともWO(2.5≦X<3.0)の結晶ピークが検出される酸化タングステンからなる可視光応答型光触媒。
(2)酸化タングステンがW2573(X=2.92)、W2058(X=2.90)、またはW2468(X=2.83)のいずれかである上記(1)の可視光応答型光触媒。
(3)上記(1)または(2)の可視光応答型光触媒と多孔質無機酸化物とを含有する可視光応答型光触媒組成物。
(4)多孔質無機酸化物が、比表面積が200m/g以上であり、SiO/Alのモル比が50〜90の範囲のZSM5である上記(3)の可視光応答型光触媒組成物。
(5)ZSM5にタングステン酸アンモニウム水溶液を含浸担持した後、還元雰囲気で熱処理することを特徴とする上記(4)の可視光応答型光触媒組成物の製造方法。
(6)シュウ酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、マレイン酸およびリンゴ酸より選ばれる少なくとも1種の有機カルボン酸とともに、タングステン酸アンモニウム水溶液をZSM5に含浸担持させた後に、酸化雰囲気で熱処理することを特徴とする上記(4)の可視光応答型光触媒組成物の製造方法。
【0013】
上記(3)の可視光応答型光触媒組成物において、多孔質無機酸化物100質量部に対して、上記(1)または(2)の酸化タングステンが3〜100質量部の比率で含有されていることが好ましい。多孔質無機酸化物のなかでも、ゼオライトが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の可視光応答型光触媒および可視光応答型光触媒組成物は、380nm以上の可視光により作用し、室内の微弱な光によってもホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等の各種有機化合物等を効率よく分解することができ、かつ化学的安定性においても優れている。また、本発明の可視光応答型光触媒および可視光型光触媒組成物の製造方法によれば、上記の特性を有した可視光応答型光触媒および可視光型光触媒組成物を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の可視光応答型光触媒ではアセトアルデヒド分解反応において酸化チタンと同様に酢酸等の副生が少なく二酸化炭素への完全酸化をスムーズに進行させることができる。詳細は不明であるが三酸化タングステン光触媒との違いは以下にようなことによると推定される。バンドギャップが短い三酸化タングステンでは生成した活性酸素種の酸化力が酸化チタンと比較して弱いため酢酸の分解が律速となるが、本発明のWO(2.5≦X<3.0)の結晶構造を有する酸化タングステンの場合は、バンドギャップが広がり酢酸を分解できる酸化力の強い活性酸素種が生成し、その結果、酢酸の蓄積による性能低下を招くことなくアセトアルデヒドを可視光で分解できるようになった。
【0016】
また、三酸化タングステンはアルカリ水溶液に溶けやすいのに対して、本発明のWO(2.5≦X<3.0)の結晶構造を有する酸化タングステンは、溶解が著しく抑制できることも確認され、三酸化タングステンとは明らかに異なる特性を有している。
【0017】
本発明におけるX線回折分析は、CuKαを線源として、下記条件で実施したものである。
<X線回折分析>
装置:X線回折装置X‘Pert Pro(PHILIP社製)
管電圧:45kV
管電流:40mA
サンプリング幅:0.017度
計数時間:5.08秒
酸化タングステンの結晶構造は、国際回折データセンターICDDのJCPDSで編集された粉末X線回折データPDFにより確認することができる。粉末X線回折データPDFに記載されているWO(2.5≦X<3.0)の結晶構造を有するものとしては、W2573、W2058、W2468、W1849等が挙げられる。
【0018】
一般に酸化タングステンと呼ばれているのは6価の三酸化タングステンWOであり、レモン黄色で斜方晶の結晶性粉末であり空気中で極めて安定である。酸化タングステンは存在が明確でないものを含めて2価〜6価の価数のものがあるとされており、例えば6価の酸化タングステンを水素で還元すれば各種の中間的酸化数の酸化物を経て金属タングステンにまで還元されるとされている。本発明のXが2.5以上3未満に相当する酸化タングステンは価数で言えば5価以上6価未満に相当するものであり、斜方晶の酸化タングステンを比較的緩和な条件で還元処理することにより製造することができる。Xを2.5未満まで還元すると光触媒活性の著しい低下を招き好ましくない。また単一の結晶形である必要はなく、前記X線回折分析において、Xが3.0未満で2.5以上であるWO(2.5≦X<3.0)の結晶構造に帰属されるピークが検出し得る限り、X=3.0の斜方晶のWOが一部含まれていてもよい。
【0019】
一般に酸化タングステンは比重が大きく、微細なポアを形成することが難しく巨大粒子となりやすい。そこで比表面積が大きく耐熱性が優れた多孔質無機酸化物等に分散することにより酸化タングステンの微細粒子が得られ光触媒性能の向上が得られる。このような多孔質無機酸化物としては、活性アルミナ、シリカ、シリカーアルミナ、ゼオライト、酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン−シリカ複合酸化物、チタン−ジルコニウム複合酸化物等が挙げられる。特にゼオライトが好ましい。
【0020】
本発明の可視光応答型光触媒組成物としては、X線回折分析において、少なくともWO(2.5≦X<3.0)の結晶ピークが検出される酸化タングステンと多孔質無機酸化物とからなるものが好ましく、なかでも多孔質無機酸化物100質量部に対して上記酸化タングステンが3〜100質量部の比率で含有されているものが好ましい。多孔質無機酸化物100質量部に対して酸化タングステンの含有比率が100質量部を超える場合は分散性の低下を招くため好ましくない。酸化タングステンの含有比率が3質量部未満である場合は十分な光触媒性能が得られない。
【0021】
多孔質無機酸化物としてはゼオライトが好ましく、A型、X型、Y型、β型、モルデナイト、ZSM5等の各種構造の天然及び合成のゼオライトが使用可能である。また、H(プロトン)型、Na型、NH型等のいずれのカチオンであっても使用可能であるが、特にH型が好ましい。また、SiO/Alのモル比が20以上である疎水性のハイシリカゼオライトを使用することが好ましい。
【0022】
可視光応答型光触媒組成物の性能を高めるためには、トータルの質量に対して酸化タングステンの含有比率を高めることが好ましいが、含有比率を高めると酸化タングステンは結晶性であり、ポア閉塞や粒子成長による性能低下を起こしやすくなる。ゼオライトは一般の多孔質無機酸化物と比較して酸化タングステン含有比率を高めることが可能であり、ゼオライトの二次元、三次元の網目構造の中に酸化タングステン粒子が分散されることにより、粒子成長が抑制されると推定される。
【0023】
各種ゼオライトのなかでも、比表面積が200m/g以上であり、SiO/Alのモル比が50〜90の範囲にあるZSM5を用いることが好ましい。ZSM5が特に良好である理由は明らかではないが、上記物性のZSM5は、酸化タングステンの微細担持に好適な三次元網目構造を有しているためと推定される。また、ZSM5上に酸化タングステンが微細担持されたことにより、本発明の特徴とするWO(2.5≦X<3.0)の結晶構造が還元処理により得られやすくなる効果もあると考えられる。
【0024】
本発明の可視光応答型光触媒は、酸化タングステンおよび/または酸化タングステン前駆体を還元雰囲気で熱処理することにより得られる。酸化タングステン前駆体としては、塩化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、タングストイソプロピルオキシドなどのタングステン化合物を挙げることができる。
【0025】
還元雰囲気での熱処理としては、酸化タングステンや酸化タングステン前駆体を水素、一酸化炭素やプロパン等の還元性ガスを電気炉等に導入して加熱処理することによりX線回折分析においてWO(2.5≦X<3.0)の結晶ピークを有する可視光応答型光触媒を製造することができる。また、酸化タングステン前駆体は空気中等の酸化雰囲気で一旦焼成して三酸化タングステンとしてから還元雰囲気での熱処理を実施してもよい。あるいは、酸化タングステンまたは酸化タングステン前駆体を含有する組成物に液状、固体状の有機化合物やカーボン等の可燃性化合物を添加して酸素の存在下で加熱処理して可燃性化合物を分解することによっても前記結晶構造を有する酸化タングステンを製造することが可能である。
【0026】
加熱処理は用いる還元手段により適宜選択できるが、200〜600℃の温度で実施することにより、前記結晶構造を有した可視光応答光触媒を調製することができる。酸化タングステンは、5価より更に還元が進行すると可視光性能の低下が起こるので、加熱温度は余り高くせずにマイルドな還元方法を用いることが好ましい。
【0027】
本発明の可視光応答型光触媒と多孔質無機酸化物とからなる可視光応答型光触媒組成物は、上記結晶構造を有する酸化タングステンが多孔質無機酸化物上に担持されているものである。担持方法としては含浸法、混練法、イオン交換法、イオン注入法、蒸着法等が使用でき、特に含浸法が好ましい。可視光応答型光触媒組成物は、例えば、酸化タングステン前駆体であるタングステン化合物溶液を多孔質無機酸化物に含浸担持して、還元雰囲気で熱処理することにより製造することができる。酸化タングステン前駆体としては、塩化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、タングストイソプロピルオキシド等が担持方法に合わせて選択される。
【0028】
より好ましい本発明の可視光応答型光触媒は、多孔質無機酸化物として比表面積が200m/g以上であり、SiO/Alのモル比が50〜90の範囲であるZSM5を用い、これに酸化タングステン前駆体としての、タングステン酸アンモニウム水溶液を含浸担持した後、還元雰囲気で熱処理することにより特に好適に製造される。ZSM5は水素型のものを使用することが好ましい。また、タングステン酸アンモニウムの水溶液としてはメタタングステン酸アンモニウムの水溶液が好ましい。還元雰囲気での熱処理は、例えば、含浸後に100℃前後で乾燥処理して水分を蒸発させてから電気炉に水素、一酸化炭素やプロパン等の還元性ガスを導入して加熱処理することにより実施することができる。加熱温度は用いる還元手段により適宜選択されるが、200〜600℃で実施することにより、本発明の結晶構造を有する可視光応答型光触媒組成物を製造することができる。また、前述の製造工程において、乾燥処理後に空気中等の酸化雰囲気で焼成して酸化タングステンに変換してから還元処理を実施してもよい。また、酸化タングステン前駆体を含有する組成物に液状、固体状の有機化合物やカーボン等の可燃性化合物を添加して酸素の存在下で加熱処理して可燃性化合物を分解することによっても本発明の可視光応答型光触媒組成物を製造することができる。
【0029】
また、上記製造方法において、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、マレイン酸およびリンゴ酸より選ばれる少なくとも1種の有機カルボン酸をタングステン酸アンモニウムの水溶液に添加し、ZSM5に含浸担持して酸化雰囲気で熱処理することにより、本発明の特徴とするWO(2.5≦X<3.0)の結晶構造を有する可視光応答型光触媒組成物を製造することができる。還元雰囲気で熱処理する前に水分を蒸発させるために100〜150℃の温度で乾燥処理することが好ましいが、前述の有機カルボン酸は乾燥処理時には分解せず残存し、200〜600℃に加熱する際に分解して実質的に還元雰囲気とすることができる。水素や一酸化炭素等の危険な還元剤を用いることなく空気下で酸化タングステンの還元処理を実施することができる。なお、加熱処理に際して乾燥物を容器に入れて蓋等をすることにより酸素濃度を絞ることによってより効率的に還元処理を実施することができる。
【0030】
本発明の可視光応答型光触媒は室内外の建材等の表面に塗工することにより太陽光や室内光を利用して、大気中の有害物質や臭気物質を分解除去したり、廃水浄化、防汚、抗菌、防黴等の優れた機能を得ることができる。特にアセトアルデヒドやホルムアルデヒドの可視光による分解特性が優れており、シックハウス症候群や改正建築基準法への対応として天井材、壁紙、カーテン、絨毯、カーペット、床材、照明器具、家具、タイル等の室内建材用に利用することが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例の光触媒A〜Dおよび比較例の光触媒a〜cの組成は表1に示した。
(実施例1)
市販のメタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算濃度50wt%)30gに純水30gで希釈した含浸液にZSM−5(水素型、比表面積が400m/g、SiO/Alモル比=50)30gを投入して混合して100℃で5時間乾燥してから、空気中500℃で2時間焼成した後、還元雰囲気(水素5%/窒素バランス)にて500℃で2時間の熱処理して光触媒Aを得た。この光触媒Aは、ZSM5が100質量部に対して酸化タングステンとして50質量部担持されていた。X線回折分析を実施した結果、図1に示すように光触媒Aは2θが23.5°、23.2°、33.3°、48.1°、53.7°に主ピークを有するWO2.83(ICDDカード番号36−0103)に同定され、Xが2.83に相当するWOX結晶ピークが確認された。
(実施例2)
実施例1において還元温度を350℃に変更した以外は実施例1と同様にして光触媒Bを得た。X線回折分析を実施した結果、図2に示すように光触媒Bは2θが23.3°、24.2°、33.0°、33.8°、40.8°に主ピークを有するWO2.92(ICDDカード番号30−1387)に同定され、Xが2.92に相当するWOX結晶ピークが確認された。
(実施例3)
クエン酸20gをメタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算濃度50wt%)30g及び純水70gに溶解した含浸液にZSM−5(アンモニア型、比表面積420m/g、SiO/Alモル比=80)50gを投入し混合して100℃で5時間乾燥した。乾燥物を粗粉砕して磁製皿に入れアルミホイルで覆ってから空気中500℃で2時間焼成して光触媒Dを得た。光触媒DはZSM5が100質量部に対して酸化タングステンとして30質量部担持されていた。X線回折分析を実施した結果、図3に示すように光触媒Dは2θが23.8°、33.8°、54.9°、60.5°、41.0°に主ピークを有するWO2.90(ICDDカード番号18−1417)に同定され、Xが2.90に相当するWOX結晶ピークが確認された。
(実施例4)
実施例3において、クエン酸の代わりにシュウ酸20gを使用した以外は実施例4と同様にして光触媒Eを得た。光触媒EはZSM5が100質量部に対して酸化タングステンとして30質量部担持されていた。X線回折分析を実施した結果、光触媒Dは実施例3と同様にWO2.90(ICDDカード番号18−1417)に同定され、Xが2.90に相当するWOX結晶ピークが確認された。
【0032】
実施例1〜4の可視光応答型光触媒の構成を表1にまとめて示した。
(比較例1)
市販の酸化タングステン(和光純薬工業製)を比較例1の光触媒aとした。X線回折分析を実施した結果、光触媒aは斜方晶WO(ICDDカード番号20−1324)に同定される結晶ピークを有していた。
(比較例2)
実施例1で用いたZSM5(水素型、比表面積が400m/g、SiO/Alモル比=50)20gと市販の酸化チタン(アナターゼ型、比表面積80m/g)10gを混合して比較例2の光触媒bとした。参考までにZSM5単独のX線回折測定結果を図4に示した。
(比較例3)
実施例1と同じ市販のメタタングステン酸アンモニウム水溶液(WO換算濃度50wt%)30gに純水50gで希釈した含浸液に市販の酸化チタン(アナターゼ型、比表面積が80m/g)50gを投入して混合して100℃で5時間乾燥してから、空気中500℃で2時間焼成して光触媒cを得た。この光触媒cは酸化チタンが100質量部に対して酸化タングステンとして30質量部担持されていた。X線回折分析を実施した結果、光触媒cは比較例1と同様に、酸化タングステンは斜方晶WO(ICDDカード番号20−1324)に同定される結晶ピークを有していた。
【0033】
【表1】

【0034】
<蛍光灯照射光触媒性能試験>
実施例1〜4及び比較例1〜3の光触媒を以下に示す閉鎖系試験方法でアセトアルデヒド分解性能を測定した。光触媒粉末をエタノールに分散させて塗布量20g/mとなるように150×70mmのガラス板の片面に塗布して60℃で乾燥し試験片を作成した。
【0035】
反応器としてテドラーバックを用い試験片を袋内に封じてから2Lの試験用ガスを挿入した。なお、試験用ガスはアセトアルデヒドが300ppmで25℃で相対湿度50%となるように調整したものを用いた。反応器の上方に光照射用蛍光灯ランプが設置されており、試料片面の照度が1000ルクスとなるようにセットした。
【0036】
光照射後の各試料のアセトアルデヒドの濃度減衰をガスクロマトグラフィで測定した。試験結果はアセトアルデヒド濃度が初期濃度の98%まで分解されるのに要する時間をアセトアルデヒド分解時間として表2に示した。また光照射24時間経過後における二酸化炭素濃度を測定してアセトアルデヒドの分解により生成した二酸化炭素の生成率を表2に示した。
<可視光光触媒性能試験>
前記蛍光灯照射光触媒性能試験において反応器と光照射用蛍光灯ランプの間に5mm厚の透明アクリル板を設置して蛍光灯に含まれる380nm以下の紫外線をカットして評価した以外は上記蛍光灯光触媒性能試験と同様にして可視光光触媒性能試験を実施した。試験結果は同様にアセトアルデヒド分解時間及び二酸化炭素生成率を表2に示した。
【0037】
【表2】

【0038】
本発明の可視光応答型光触媒は蛍光灯照射条件及び可視光照射条件において優れたアセトアルデヒド分解速度と高い二酸化炭素の生成率を有していることは明らかである。一方、比較例1や比較例3の酸化タングステンがWOの結晶構造である光触媒は可視光性能を有しているものの二酸化炭素の生成率が低く酢酸等の副生成物が生成しているものと思われる。また、比較例2の酸化チタンとゼオライトとを組み合わせた従来の光触媒では可視光照射による光触媒性能はほとんど得られず室内の照射下では十分な効果が得られにくいものであった。
<タングステン溶解性試験>
実施例1〜4及び比較例1〜2の酸化タングステンを含有する光触媒をアルカリ性水溶液に対する安定性を調べた。試験は1.0重量%のアンモニア水10gに光触媒各試料0.3gを添加して一晩放置した後にICP発光分析装置を用いて液中に溶出したタングステン濃度を測定した。結果を表3に示した。
【0039】
【表3】

【0040】
比較例に示す従来の酸化タングステン系光触媒ではアルカリに対する溶出の問題があったが、本発明の可視光応答型光触媒は、優れた化学的安定性を有しており、長期にわたり安定的に効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の可視光応答型光触媒AのX線回折図である。
【図2】実施例2の可視光応答型光触媒BのX線回折図である。
【図3】実施例3の可視光応答型光触媒CのX線回折図である。
【図4】ZSM5のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折分析において、少なくともWO(2.5≦X<3.0)の結晶ピークが検出される酸化タングステンからなる可視光応答型光触媒。
【請求項2】
酸化タングステンがW2573(X=2.92)、W2058(X=2.90)、またはW2468(X=2.83)のいずれかである請求項1記載の可視光応答型光触媒。
【請求項3】
請求項1または2の可視光応答型光触媒と多孔質無機酸化物とを含有する可視光応答型光触媒組成物。
【請求項4】
多孔質無機酸化物が、比表面積が200m/g以上であり、SiO/Alのモル比が50〜90の範囲のZSM5である請求項3記載の可視光応答型光触媒組成物。
【請求項5】
ZSM5にタングステン酸アンモニウム水溶液を含浸担持した後、還元雰囲気で熱処理することを特徴とする請求項4の可視光応答型光触媒組成物の製造方法。
【請求項6】
シュウ酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、マレイン酸およびリンゴ酸より選ばれる少なくとも1種の有機カルボン酸とともに、タングステン酸アンモニウム水溶液をZSM5に含浸担持させた後に、酸化雰囲気で熱処理することを特徴とする請求項4の可視光応答型光触媒組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−98293(P2007−98293A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291994(P2005−291994)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】