説明

可視近赤外光遮蔽黒色膜、可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材、及び固体撮像素子

【課題】可視光及び近赤外光域にわたる遮蔽能力が従来の黒色膜よりも優れており、固体撮像素子用遮光膜等のような可視光及び近赤外光の遮蔽能力が求められる用途に好適な可視近赤外光遮蔽黒色膜及び可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材、並びに固体撮像素子を提供する。
【解決手段】平均一次粒子径が1nm以上かつ300nm以下の金属微粒子を含有してなり、膜中における前記金属微粒子が、略球状粒子と略棒状粒子との混合物、略球状粒子と略板状粒子との混合物、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子の混合物、のいずれかであることを特徴とする可視近赤外遮蔽黒色膜、可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材、及び固体撮像素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光及び近赤外光に対する遮蔽能力を有する可視近赤外光遮蔽黒色膜、可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材、及び固体撮像素子に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子は、通常、光電変換素子であるフォトダイオード(受光部)が二次元配列されたシリコン等の半導体基板と、各フォトダイオードの上方に二次元配列されたレッド(R)色、グリーン(G)色、ブルー(B)色のカラーフィルターと、カラーフィルター上に設けられ、入射光をフォトダイオードに集光させるためのオンチップマイクロレンズとから構成されている。
ここで、固体撮像素子の撮像部(有効画素領域)の周縁領域には、暗電流の低減、ダイナミックレンジの低下防止、周辺回路の動作安定を図るための遮光膜が設けられる。周縁領域に光が入射すると、上記作用のためにノイズが発生し、またイメージセンサとしての画質が低下してしまうことから、この影響を防止するためである。
また、隣接するカラーフィルター間相互の影響を低減し、画質を向上させるために、カラーフィルター上に設けられる遮光膜、いわゆるブラックマトリックスを設けることも行われてきている。
【0003】
近年、固体撮像素子の画素単位(光電変換素子の大きさ)の微小化に伴い遮光膜の薄膜化が求められている。すなわち、画素の微小化に伴い、光電変換素子の受光量を確保するためにはシリコンウエハ等の半導体基板上に形成された光電変換素子の上面(基板表面)からオンチップマイクロレンズの下面までの有効光学機能層の厚さを薄くする必要が生じ、例えば4μmの厚さが要求されるようになってきている。このため、撮像部周縁の遮光膜や、固体撮像素子カラーフィルター用ブラックマトリックスも、薄くする必要に迫られている。
【0004】
ここで、画像表示装置用ブラックマトリックスに用いられる遮光膜としては、主に可視域における遮光性が要求されるのに対し、固体撮像素子用遮光膜やブラックマトリックスとしては、可視域における遮光性に加え近赤外域における遮光性をも必要とされている。その理由として、赤外領域光は人の目には見えないために画像表示装置では遮光性があまり問題にならないのに対して、固体撮像素子は赤外領域光にも感度を有するため、赤外領域光も遮光されていないと、ノイズが発生するためである。このように、固体撮像素子用としての遮光膜や固体撮像素子カラーフィルター用ブラックマトリックスには、遮光性の向上と薄膜化の両立が求められている。
【0005】
従来、固体撮像素子用遮光膜や固体撮像素子カラーフィルター用ブラックマトリックス(以下、遮光膜とブラックマトリックスを合わせて「遮光膜等」という場合がある)を形成するための黒色材料としては、液晶表示装置用ブラックマトリックス用と同様のカーボンブラックやチタンブラック等が知られていた。しかしながら、カーボンブラックやチタンブラックといった従来の黒色材料では可視光及び近赤外光の遮蔽能力が十分ではない。このため、従来の黒色材料を使って固体撮像素子用遮光膜等の遮光性を向上させる場合には遮光膜等に含まれる黒色材料の含有量を増加させるか、又は遮光膜等の膜厚を増加させることにより、可視光及び近赤外光の遮蔽能力を確保する必要がある。しかしながら、遮光膜等中の黒色材料の含有量を増加させる場合、遮光膜等に含まれる樹脂成分の比率が少なくなるために、パターン形成時に硬化が不十分になり、膜強度が不足したり微細パターンの形成が不十分になってしまうという問題点があった。また、遮光膜等の膜厚を増加させる場合、微細パターンの形成が不十分になったり、何よりも撮像素子の薄型化が難しくなったりするという問題点があった(例えば、特許文献1、2参照)。
さらに、従来も金属微粒子を用いた黒色材料は存在したが、可視域の光遮蔽だけが高いものであり、可視域、近赤外域の両方で高い遮蔽能力を示す金属微粒子含有黒色材料は存在していなかった(例えば、特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−115921号公報
【特許文献2】特開2010−106268号公報
【特許文献3】特開2006−089771号公報
【特許文献4】特開2006−227268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に鑑み、本発明は可視光及び近赤外光域にわたる遮蔽能力が従来の黒色膜よりも優れており、固体撮像素子用遮光膜等のような可視光及び近赤外光の遮蔽能力が求められる用途に好適な可視近赤外光遮蔽黒色膜及び可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材を提供することを目的とする。また、上記の可視近赤外光遮蔽黒色膜又は可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材を有する固体撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は下記の本発明により解決される。すなわち本発明は下記の通りである。
[1] 平均一次粒子径が1nm以上かつ300nm以下の金属微粒子を含有してなり、膜中における前記金属微粒子が、略球状粒子と略棒状粒子との混合物、略球状粒子と略板状粒子との混合物、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子の混合物、のいずれかであることを特徴とする可視近赤外遮蔽黒色膜。
[2] 前記略球状粒子の平均一次粒子径が1nm以上かつ100nm以下であり、かつ略棒状粒子又は略板状粒子の平均一次粒子径が5nm以上かつ300nm以下である[1]に記載の可視近赤外遮蔽黒色膜。
[3] 前記略球状粒子、略棒状粒子、略板状粒子のいずれか又は全てが前記金属微粒子の凝集粒子であって,当該略球状粒子の膜中における平均分散粒子径が1nm以上かつ100nm以下であり、かつ当該略棒状粒子又は当該略板状粒子の膜中における平均分散粒子径が5nm以上かつ300nm以下である[1]又は[2]に記載の可視近赤外遮蔽黒色膜。
[4] 前記金属微粒子が、白金、金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、及びビスマスからなる群から選択される1種又は2種以上を含む上記[1]〜[3]のいずれかに記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜。
[5] 前記可視近赤外遮蔽黒色膜における波長400nmから1300nmにおける光学濃度の平均が1.0以上、かつ波長555nmにおける光学濃度が1.0以上、かつ波長1300nmにおける光学濃度が0.6以上である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の可視近赤外遮蔽黒色膜。
[6] 体積抵抗率が1011Ω・cm以上である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜。
【0009】
[7] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜が形成された可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材。
[8] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜、又は上記[7]に記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材を有する固体撮像素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可視光及び近赤外光域にわたる遮蔽能力が従来の黒色膜よりも優れており、固体撮像素子用遮光膜やブラックマトリックスのような可視光及び近赤外光の遮蔽能力が求められる用途に好適な可視近赤外光遮蔽黒色膜及び視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材を提供することができる。また、上記の可視近赤外光遮蔽黒色膜又は可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材を有する固体撮像素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の黒色膜の断面の一部をTEMで観察した結果を示す画像である。
【図2】実施例2の黒色膜の断面の一部をTEMで観察した結果を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[可視近赤外光遮蔽黒色膜]
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜(以下、単に「黒色膜」ということがある)は、平均一次粒子径が1nm以上かつ300nm以下の金属微粒子を含んでなり、膜中における該金属微粒子の形態が、略球状粒子と略棒状粒子との混合物、略球状粒子と略板状粒子との混合物、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子の混合物、のいずれかである。
従来も金属微粒子を用いた黒色膜は存在したが、可視域での光遮蔽だけが高いものであり、可視域、近赤外域の両方で高い遮蔽能力を示す金属微粒子含有黒色材料は存在していなかった。本発明は、金属微粒子の粒子径とその形態を規定することで光を吸収する波長をコントロールし、可視域に加え近赤外域の両方で高い遮蔽能力を示すものである。
【0013】
平均一次粒子径を1nm以上かつ300nm以下と限定した理由は、平均一次粒子径を上記の範囲内とすることで所望の可視近赤外光遮蔽黒色膜を容易に形成できるからである。即ち、平均一次粒子径が1nm未満では、可視光や近赤外光の波長と比較して小さすぎるために透過光量が増加して所望の黒色度が得られないおそれがあり、一方、平均一次粒子怪が300nmを超えると、散乱が生じて所望の黒色度を得難くなったり、黒色膜の表面の凹凸が大きくなったりするおそれがある。
【0014】
平均一次粒子径は3nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、3nm以上かつ60nm以下がより好ましく、5nm以上かつ60nm以下がさらに好ましく、10nm以上かつ40nm以下が特に好ましい。
ここで、平均一次粒子径は種々の形状を持つ金属微粒子をTEM(透過型電子顕微鏡)で観察し、得られた微粒子の面積が同じになるような円に相当する直径とする。
【0015】
また、金属微粒子の黒色膜中における形状は、略球状粒子と略棒状粒子との混合物、略球状粒子と略板状粒子との混合物、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子の混合物、のいずれかである必要がある。このように、略球状粒子と、略棒状粒子及び/又は略板状粒子とを共に含むことにより、可視光領域から近赤外領域までの遮光性を向上させることができる。
【0016】
ここで、略球状粒子、略棒状粒子、略板状粒子は、黒色膜をTEMで観察した画像から、次のように規定した。
先ず、略球状粒子と略板状粒子は、TEM画像で観測される金属微粒子において、その最も長い部分の長さをLとし、Lと直角方向の長さをWとした際に、L/Wで示される値(以下、「アスペクト比」ということがある)が2未満であるものとした。すなわち、略球状粒子と略板状粒子は、TEM画像上(平面に転写された形状)が必ずしも完全な円状である必要はなく、歪んだ円状、楕円状、多角形状、角が取れた多角形状等であってもよい。そして、粒子径が約40nmよりも小さいものについては、TEM画像からは略球状であるか略板状であるかの判定が難しいことと、製法上、数10nmサイズの板状粒子を形成させるのは難しいと考えられることから、略球状粒子とした。また、粒子径が約40nmよりも大きいものについては、TEM画像において粒子中央部の透過率が粒子外周部よりも低いもの(粒子中央部が外周部に比べて黒く写っているもの)は略球状粒子とし、一方、TEM画像において粒子中央部と粒子外周部の透過率がほぼ同等のもの(粒子中央部と外周部が同等の明度で写っているもの)は略板状粒子とした。
次に、略棒状粒子は、TEM画像で観測される金属微粒子において、アスペクト比が2以上のものであるとした。
【0017】
この略球状粒子の、黒色膜中における平均一次粒子径は1nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、1nm以上かつ50nm以下がより好ましく、3nm以上かつ40nm以下であることがさらに好ましい。また、略棒状粒子および略板状粒子の、黒色膜中における平均一次粒子径は5nm以上かつ300nm以下であることが好ましく、5nm以上かつ100nm以下であることがより好ましく、10nm以上かつ100nm以下であることがより好ましい。
【0018】
さらにまた、略球状粒子、略棒状粒子および略板状粒子は、凝集粒子であってもよい。
粒子径が1nmから数100nm程度の金属微粒子(ナノメートルサイズの金属微粒子)は、金属の表面プラズモン吸収により様々な色調を呈することが知られており、本発明の黒色膜においてもこの表面プラズモン吸収を利用しているが、金属凝集粒子であっても、その凝集粒子径が1nmから数100nm程度であれば、同様の表面プラズモン吸収を起こしうるからである。また、金属微粒子は、その寸法や形状が変わると誘電関数が変化して微粒子が吸収する光の波長が変わるが、一次粒子ではなく、凝集粒子の寸法や形状変化でも誘電関数に影響を与え、吸収する光の波長を変えられる場合があるためである。
なおここで、「凝集粒子」とは、TEM画像において凝集状態を呈していると観測できるものを示す。
【0019】
そして、これら略球状粒子、略棒状粒子および略板状粒子が凝集粒子である場合においても、この略球状粒子の、黒色膜中における平均分散粒子径は1nm以上かつ100nm以下であることが好ましく、1nm以上かつ50nm以下がより好ましく、3nm以上かつ40nm以下であることがさらに好ましい。また、略棒状粒子および略板状粒子の、黒色膜中における平均分散粒子径は5nm以上かつ300nm以下であることが好ましく、5nm以上かつ100nm以下であることがより好ましく、10nm以上かつ100nm以下であることがより好ましい。
なお、「膜中における平均分散粒子径」とは、分散液中における平均分散粒子径と同様の意味である。すなわち、膜中における粒子が凝集粒子のみであれば、当該凝集粒子の粒子径の平均値であり、凝集粒子と一次粒子が混在する場合には、これらを合わせた粒子の粒子径の平均値であり、一次粒子のみ(粒子が凝集していない)であれば、一次粒子の粒子径の平均値である。
【0020】
この凝集粒子を形成する一次粒子には特に形状の限定はなく、略球状金属微粒子、略棒状金属微粒子、略板状金属粒子のいずれでもよく、これら金属微粒子の混合物であってもよい。また、その他の形状、例えば楕円球状や角柱状等であってもよい。
また、凝集略棒状粒子における凝集の形態としては、上記一次粒子が連続して連なってなることが好ましい。例えば、金属微粒子2つ以上が直線状に連なっている形態が挙げられる。これらの存在はTEMで確認することができる。
【0021】
そして、黒色膜中における略球状粒子の体積≪A≫と、略棒状粒子の体積≪B≫と、略板状粒子の体積≪C≫との比(≪A≫:(≪B≫+≪C≫))は、5:95以上かつ95:5以下であることが好ましく、10:90以上かつ90:10以下であればより好ましい。
【0022】
金属微粒子においては、粒子径や粒子形状を制御することで光を吸収する波長を調整することが可能である。従って所望の可視光、近赤外光の遮蔽能力を得るために種種の粒子径や粒子形状の粒子を組み合わせることができる。本発明においては、上記の分散粒子径範囲及び粒子形状の組み合わせにより、可視域、近赤外域の両方で高い遮蔽能力を示す金属微粒子を得ることができ、よって可視域、近赤外域の両方で高い遮蔽能力を示す黒色膜を得ることができる。
【0023】
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜は、波長400nmから1300nmにおける光学濃度の平均が1.0以上であることが好ましい。光学濃度はOD値(Optical Density)とも呼ばれ、光学濃度=−log10T (T:透過率)・・・(式−1)
で表される。
【0024】
波長400nmから1300nmにおける光学濃度の平均は、例えば分光光度計で波長400nmから1300nmの透過率を1nm間隔で測定し、上記(式−1)にしたがって各波長の透過率を光学濃度に換算した後に、波長400nmから1300nmの範囲で換算した光学濃度を平均すればよい。波長400nmから1300nmにおける光学濃度の平均が1.0以上であると、可視近赤外光遮蔽黒色膜の可視光及び近赤外光での光吸収が良好なものとなる。
波長400nmから1300nmにおける光学濃度の平均は1.0以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましく、1.8以上であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜は、波長555nmにおける光学濃度が1.0以上であることが好ましい。波長555nmにおける光学濃度が1.0以上であると可視近赤外光遮蔽黒色膜の可視光での光吸収が良好なものとなる。
波長555nmにおける光学濃度は1.4以上であることがより好ましく、1.6以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。
【0026】
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜は、波長1300nmにおける光学濃度が0.6以上であることが好ましい。波長1300nmにおける光学濃度が0.6以上であると可視近赤外光遮蔽黒色膜の近赤外光での光吸収が良好なものとなる。
波長1300nmにおける光学濃度は1.0以上であることがより好ましく、1.2以上であることがさらに好ましく、1.5以上であることが特に好ましい。
【0027】
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜の膜厚は5μm以下であることが好ましい。例えば固体撮像素子用カラーフィルターでは遮光性の向上と薄膜化の両立が求められており(例えば、特開2010−008655号公報参照)、5μmを上回ることは好ましくない。当該膜厚は3μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
本発明の黒色膜は、可視域及び近赤外域の遮光性が優れているため、膜厚が薄くても、可視域及び近赤外域の遮光性を優れたものにすることができる。
【0028】
本発明における金属微粒子は、白金、金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、ビスマスからなる群から選択される1種又は2種以上を含むものであることが好ましく、銀、銅、ニッケル、錫、コバルト、鉄からなる群から選択される1種又は2種以上であることがより好ましく、銀、銅、ニッケル、錫からなる群から選択される1種又は2種以上であることがさらに好ましい。
【0029】
上記金属微粒子の中でも、(1)銀又は銀を含む合金及びこれらの混合物が特に好ましい。
銀は可視光、近赤外光で誘電率の実数部が負であり光吸収特性に優れている。また、従来、粒子径が1nmから数100nm程度の金属微粒子(ナノメートルサイズの金属微粒子)は、金属の表面プラズモン吸収により様々な色調を呈することが知られており、また、この色調は微粒子の組成や粒子径により変化することも知られている。銀はナノメートルサイズの金属微粒子で可視光域でのプラズモン吸収が高いことから、銀又は銀を含む合金及びこれらの混合物が好ましい。
【0030】
また、上記金属微粒子の中でも、(2)銀及び銀錫合金部を含むものが特に好ましい。
銀は単体での吸収特性に優れているが、可視近赤外光遮蔽黒色材料が銀微粒子のみから構成されていると、反射率が高くなって黒色度が低下したり、二百数十度の焼成で吸収スペクトルが変化してOD値が低下したりする場合がある。金属微粒子を合金化することで、合金化により発生した散乱の効果で電子の移動が単体金属の場合よりも阻害されるため、黒色遮光膜の反射率を低下させることができる。
【0031】
本発明において、銀錫合金部とは、例えば次のものであって、銀錫金属間化合物の結晶構造を有するもの(以下、「銀錫金属間化合物相」とも言う)だけではなく、銀の結晶構造を有するもの(以下、「銀相」とも言う)を含んでもよい。
まず、銀錫金属間化合物相を有するものとしては、銀錫合金を化学式Ag1-XSnXで表した場合のXの範囲としては、0.118≦X≦0.2285のζ相(空間群P63/mmc)及び0.237≦X≦0.25のε相(空間群Pmmn)が知られている(Binary Alloy Phase Diagram,p.94−97による)。これらの相の組成と空間群を、X線回折のICDDカード(JCPDSカード)と比較すると、ε相のX線回折データがAg3Sn(IDCC 71−0530)、ζ相のX線回折データがAg4Sn(IDCC 29−1151)に相当すると考えられる。従って、斜方晶系であるε相(Ag3Sn)又は六方晶系であるζ相(Ag4Sn)の構造を有する銀錫合金部を有する微粒子であれば、化学的安定性と黒色度とを満足することができる。
【0032】
次に、銀相、すなわち銀の結晶構造を有するものとしては、銀中に銀の結晶構造を保った状態で錫が固溶したもの、すなわち銀結晶中の銀原子の一部を錫原子が置換したものとなるが、この場合の銀錫合金を化学式Ag1-YSnYで表した場合、0<Y≦0.115であり、前記文献では(Ag)相(以下の表記で示される空間群:立方晶系)で示される。
【0033】
【数1】

【0034】
この範囲を、AgZSn(Zは実数)で表記すれば、7.70≦Z<∞(無限大)となる。
なお、Y=0(Ag1Sn0)あるいはZ=∞(Ag∞Sn)はAg単独相に相当するため、ここで示す銀錫合金部としての規定範囲からは外してある。ただし、本発明の黒色膜における金属微粒子としては、前記のように銀又は銀を含む合金及びこれらの混合物が特に好ましいことから、黒色膜中にはY=0のものを含んでもかまわない。
【0035】
金属微粒子の粒子径や粒子形状を制御しながら、酸化還元電位が大きく異なる錫と銀との合金を製造する方法は従来見出されていなかったが、本発明者は反応温度、pH、攪拌効率といった反応条件を厳密に制御することで粒子径や粒子形状を制御しながら銀錫合金を生成させることに成功した。
金属微粒子に銀錫合金微粒子を含むことで遮光性、黒色度、吸光度の波長依存性の三者をバランス良く得ることができる。
吸収特性が優れた銀に、黒色度や耐熱性が優れた銀錫合金を加えると、吸収特性と黒色度とを兼ね備えた好ましい可視近赤外光遮蔽黒色材料を得ることができる。
【0036】
可視近赤外光遮蔽黒色材料を構成する金属元素中の銀元素の含有量は、30質量%以上かつ100質量%以下であることが好ましい。この金属微粒子中の銀元素の含有量は、例えばEPMA(電子線マイクロアナライザー)で測定することができる。金属微粒子中の銀元素の含有量はEPMAの測定値から銀元素の重量/金属元素の重量の総和で算出することができる。前式の分母には例えば金属微粒子の周囲に付着している分散剤等に起因する炭素や金属微粒子の表面の酸化で等に起因する酸素等、金属以外の元素は含まない。
なお、銀元素含有量は、通常はICP発光分析等の湿式化学分析で求めることが多いが、金属元素のみの分析であれば、EPMAを用いても問題なく測定できる。
【0037】
上記金属微粒子中の銀元素の含有量は45質量%以上かつ100質量%以下が好ましく、60質量%以上かつ100質量%以下がより好ましく、70質量%以上かつ100質量%以下がさらに好ましく、70質量%以上かつ95質量%以下が特に好ましい。
【0038】
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜には、さらに樹脂成分を含むことが好ましい。
本実施形態における樹脂成分としては、前記金属微粒子が前記分散粒子径及び粒子形状を有する状態で均一に分散された状態で硬化するものであって、形成された黒色膜に要求される特性に適したものを選択すればよい。このような樹脂成分としては、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が各種使用可能である。
【0039】
電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波又は荷電粒子線、例えば紫外線又は電子線等を照射することにより、架橋又は重合反応にて硬化する樹脂を意味するものであって、ラジカル重合型のアクリル系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂や、カチオン重合型のエポキシ樹脂、ビニルエーテル系樹脂、オキセタン類、グリシジルエーテル類を例示することができる。
なお、アクリル系樹脂としては、ポリエステル(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリオール(メタ)アクリレート系、シリコーン(メタ)アクリレート系等を例示することができる。
また、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ−トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びポリ−ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂等を挙げることができる。
なお、ここで、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。以下同様である。
【0040】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリシロキサン樹脂、ポリウレタン樹脂、汎用の2液硬化型アクリル樹脂(アクリルポリオール硬化物)等を例示することができる。
これらのうち、エポキシ樹脂としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリスヘノールメタン型エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレートとスチレンの共重合体エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレートとスチレンとメチル(メタ)アクリレートの共重合体エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレートとシクロヘキシルマレイミドの共重合体エポキシ樹脂、及びフルオレン系エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0041】
さらに、前記熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が好適に用いられる。
これらのうち、ポリエステル樹脂としては、塗料に一般的に用いられているものなら限定はされないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸等の多価カルボン酸とエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールの重縮合物等が挙げられる。また、ポリウレタン樹脂も、塗料に一般的に用いられているものなら限定はされず、例えば、イソシアネート基とポリオールを反応させて鎖延長されたポリウレタン樹脂が好ましい。上記ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等が挙げられる。
また、本発明の黒色膜をブラックマトリクス等とする場合には、樹脂成分の原料である樹脂形成成分としてアルカリ可溶性樹脂を選択し、この樹脂形成成分を用いて形成される樹脂を樹脂成分とすることが好ましい。
【0042】
本発明の黒色膜においては、少なくとも平均一次粒子径が1nm以上かつ300nm以下の金属微粒子を含有している。この金属微粒子は可視域及び近赤外域での光吸収性能が高く、樹脂中での分散性にも優れている。
本発明に示される波長400nmから1300nmの光学濃度の平均が1.0以上、波長555nmにおける光学濃度が1.0以上かつ波長における光学濃度が1300nmのOD値が0.6以上の可視近赤外光遮蔽黒色膜を得るためには、黒色膜中の金属微粒子の体積分率が2体積%以上かつ50体積%以下であることが好ましい。
【0043】
黒色膜中の金属微粒子の体積分率が2体積%以上とすることで、可視域及び近赤外域において十分な光遮蔽性が得られやすくなる。50体積%以下とすることで、金属微粒子による反射率が高くなることによる黒色度の低下を抑制し、かつ樹脂成分の含有比率が低下することによる膜の硬度低下や現像パターンの精度不良を防ぐことができる。
【0044】
黒色膜中の金属微粒子の体積分率は、既述の通り2体積%以上かつ50体積%以下が好ましく、2体積%以上かつ30体積%以下がより好ましく、2体積%以上かつ20体積%以下がさらに好ましく、5体積%以上かつ15体積%以下が特に好ましい。
本実施形態の黒色膜中における金属微粒子の体積分率は、黒色材料及び樹脂成分それぞれの比重が既知であることから、原料として使用する黒色材料及び樹脂形成成分の質量より求めることができる。
【0045】
また、黒色膜中における金属微粒子の体積分率により、黒色膜の導電性を制御することができる。金属微粒子自体は導電性を有するが、黒色膜中において金属微粒子間に樹脂成分が存在し、樹脂成分が金属微粒子間の導電経路を阻害する。さらに、黒色膜中の金属微粒子は分散性がよく均一に分散しているため、例えばカーボンブラックのように金属微粒子同士が連続的につながり導電パスを形成するようなことがない。従って、黒色膜中の金属微粒子と樹脂成分の比率を変化させると、樹脂による金属微粒子間の導電経路を阻害する程度が変わるため、黒色膜の導電性が変化する。導電性の黒色膜を得たい場合には膜中の金属微粒子の体積分率を高く、絶縁性の黒色膜を得たい場合には膜中の金属微粒子の体積分率を低くすればよい。
【0046】
例えば、固体撮像素子の反射防止膜には絶縁性を求められる場合がある。この場合、黒色膜中の金属微粒子の体積分率を2体積%以上かつ30体積%以下にすれば、可視域及び近赤外域の遮光性を保ちながら、例えば体積抵抗率で1011Ω・cm以上、より好ましくは1013Ω・cm以上の黒色膜を得ることができる。本発明に係る金属微粒子は、可視域及び近赤外域の遮光性が優れているため、膜中の金属微粒子の体積分率が低くても、膜厚の増加を図ることなく、可視域及び近赤外域の遮光性に優れた黒色膜、すなわち前記光学濃度を有する黒色膜を得ることができる。
【0047】
また、絶縁性の黒色膜を得るためには、金属微粒子の膜中の平均粒子径は1nm以上200nm以下であることが好ましい。本発明においては、用いられる金属微粒子の平均一次粒子径を1nm以上としているから、平均粒子径が1nm未満では粒子として存在することが難しく、一方、平均粒子径が200nmを超えると黒色膜中での黒色材料微粒子の凝集による導電パスが生じやすくなるために、所望の体積抵抗率の確保が困難となる上、黒色材料微粒子の凝集が著しい場合には、遮光性も低下する。
ゆえに、絶縁性の黒色膜を得るためには、上記膜中の平均粒子径は2nm以上200nm以下であることが好ましく、5nm以上200nm以下であることがより好ましい。
【0048】
また、黒色膜における金属微粒子の膜中の粒度分布指標D90%は、600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましい。膜中の粒度分布指標D90%が600nm以下であることで粒子径のばらつきが大きくならず、所望の体積抵抗率を維持しつつ十分な遮光性を確保することができる。
ここで、前記膜中の粒度分布指標D90%とは、粒度を累積分布で示した場合に、累積値90%に対応する粒子径(累積90%径)のことであり、膜中に存在する黒色材料粒子の粒子径の均一性を示す指標となるものである。
なお、D90%の下限値は特に規定されないが、金属微粒子の平均粒子径の下限値が1nmであることから、D90%を5nm未満とすることは実際の製造工程上困難である。
【0049】
上記金属微粒子の膜中の平均粒子径は、例えば膜試料を、FIB(集束イオンビーム)を用いて断面方向に切断して薄片化し、切断面をTEMにより観察することにより測定することができる。
本発明においては、観察視野から一定数の任意の粒子(例えば50ないし100個)を選び、それぞれの粒子像を円で近似し、当該円の直径を該粒子の粒子径とした上で、粒子径の累積分布を求め、累積値50%に対応する粒子径(メジアン径)を膜中の平均粒子径とする。また、粒度分布指標D90%は選択した粒子の粒子径の累積90%径として求めることができる。
【0050】
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜は、例えば、下記のようにして作製することができる。
まず、本発明の黒色膜において使用される金属微粒子の製造方法としては、上記の組成及び分散粒子径と分散粒子形状が得られるものであれば特に制限はなく、気相反応法、噴霧熱分解法、液相反応法、凍結乾燥法、水熱合成法等の金属微粒子合成法を適用することができるが、特に金属微粒子として、銀錫合金微粒子、もしくは銀錫合金微粒子及び銀微粒子の混合微粒子を選択する場合においては、これらの微粒子が容易に得られる液相反応法を用いることが好ましい。
【0051】
液相反応法としては、水系の反応系を用いることが好ましく、例えば、錫コロイド分散液中に銀化合物溶液を滴下し、錫と銀とを合金化させる方法、あるいは、銀コロイドと錫コロイドとが共存する分散液中に酸化剤や還元剤を添加することで、銀と錫とを合金化させる方法等を用いて、銀錫合金微粒子と銀微粒子とを生成させることができる。この製造方法であれば、反応条件(例えば、錫と銀(銀イオン)との比率、反応液のpH、反応温度、反応時間、酸化剤や還元剤の種類や量等)を適宜調整することにより、銀錫合金微粒子の生成量、銀微粒子の生成量(実質的に生成されない場合、すなわち銀錫合金微粒子のみが生成される場合を含む)、銀錫合金微粒子と銀微粒子との生成量比、さらに粒子の形状を、必要に応じて制御することができる。
【0052】
本発明において、得られる金属微粒子の粒子径や形状が前記範囲、すなわち平均一次粒子径が1nm以上かつ300nm以下であり、該金属微粒子の膜中における形状が、略球状粒子と略棒状粒子との混合物、略球状粒子と略板状粒子との混合物、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子の混合物となるような金属微粒子を得る方法としては、次のような方法がある。
まず、金属微粒子自体の粒子径や形状を制御する方法としては、液相反応法における前記各種条件(製造条件)を調整することにより、略球状粒子と略棒状粒子、略球状粒子と略板状粒子、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子、のいずれかを同時に形成する方法が挙げられる。ただし、同時に複数形状の粒子を形成させるためには、製造条件を厳密に制御する必要がある。そこで、より容易な方法としては、液相反応法で略棒状粒子及び/又は略板状粒子を生成させた後、さらに略球状粒子を生成させる条件で金属イオンと還元剤等を添加して略球状粒子を生成させる方法が挙げられる。先に略球状粒子を生成させて後、略棒状粒子及び/又は略板状粒子を生成させてもよい。
さらに、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子とを別々に製造した後に、略球状粒子に対して略棒状粒子及び/又は略板状粒子を混合して目的の金属微粒子を得ることもできる。
【0053】
次に、略棒状粒子や略板状粒子が凝集粒子である場合には、略球状粒子が得られる条件であれば、他の金属微粒子自体の粒子径や形状の制御は必ずしも必要ではない。その理由としては、略球状粒子を凝集させて略棒状粒子や略板状粒子を形成すればよいからである。
同様に、略球状粒子が凝集粒子である場合には、略棒状粒子及び/又は略板状粒子が得られる条件であれば、略球状粒子自体の粒子径や形状の制御は必ずしも必要ではない。略棒状粒子や略板状粒子を凝集させて略球状粒子を形成すればよいからである。
さらに、略球状粒子、略棒状粒子、略板状粒子の全てが凝集粒子である場合には、これらの凝集粒子を構成する一次粒子である金属微粒子が得られる条件であれば、金属微粒子自体の粒子径や形状の制御は必ずしも必要ではない。金属微粒子(一次粒子)を凝集させて、略球状粒子、略棒状粒子、略板状粒子を形成すればよいからである。
【0054】
また、この金属微粒子を樹脂成分中に分散させるとともに、金属微粒子の分散状態を制御することで略球状、略棒状、略板状の凝集粒子を形成させるためや、金属微粒子と樹脂成分との親和性を高めるために、金属微粒子の表面を表面処理剤や分散剤(以下、「分散剤等」と表記する場合がある。)により表面処理しておくことが好ましい。これらの表面処理剤や分散剤は、樹脂成分の材質や、樹脂成分中に金属微粒子を分散させる方法に合わせて、公知のものの中から選択すればよいが、後述のように、表面処理剤や分散剤の種類とともに、分散方法や分散条件を併せて調整し、金属微粒子を樹脂成分に良好に分散させることにより、本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜を得ることができる。
【0055】
上記分散剤としては、高分子分散剤が好ましく、例えば、ウレタン系分散剤、変性ポリエステル系分散剤、ポリカルボン酸塩、ポリアルキル硫酸塩、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド等を挙げることができる。また、高分子分散剤の構造としては、ランダムコポリマー、櫛型コポリマー、ABA型コポリマー、BAB型コポリマー、両末端親水基含有ポリマー、片末端親水基含有ポリマー等を選択することができ、特に金属微粒子の分散性が高いことを考慮すると、ランダムコポリマー、ならびに櫛型コポリマーが好ましい。
上記分散剤の具体例としては、EFKA(エフカーケミカルズビーブイ(EFKA)社製)、Disperbyk(ビックケミー社製)、ディスパロン(楠本化成社製)、SOLSPERSE(ゼネカ社製)、KP(信越化学社製)、ポリフロー(共栄社化学社製)等を挙げることができる。
【0056】
また、前記表面処理剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤等を挙げることができる。
【0057】
上記表面処理において、金属微粒子表面に結合する分散剤等の量は、金属微粒子量に対して2〜30質量%の範囲であることが好ましい。さらに、金属微粒子の組成や一次粒子径、金属微粒子を分散混合させる樹脂成分原料の組成により、より好適な範囲が存在する。その理由として、この金属微粒子を用いて形成された黒色塗料から、塗膜を形成し、さらに可視近赤外光遮蔽黒色膜を形成する場合において、塗膜中や可視近赤外光遮蔽黒色膜中における金属微粒子の分散性を確保するとともに、場合によっては本発明を満たす範囲での金属微粒子の凝集粒子を得るためには、金属微粒子に対する分散剤等の添加量を厳密に調整しておく必要があるためである。
すなわち、分散剤等の量が少なすぎる場合には、金属微粒子表面の一部に分散剤等の被覆量が少ない部分ができてしまい、その部分における樹脂成分原料や溶剤への親和性が低下する一方で金属微粒子同士の親和性が残存するために、金属微粒子を樹脂成分原料又は溶剤分散後に、この高分子分散剤等の被覆量が少ない部分から金属微粒子同士が凝集し、粗大な凝集粒子を形成してしまうおそれがある。
【0058】
一方、高分子分散剤等の量が過多である場合、分散剤自体が分散性を低下させる因子となるおそれがある。さらに、樹脂成分原料を硬化させて可視近赤外光遮蔽黒色膜を形成する場合において、過剰の高分子分散剤等が樹脂成分原料の重合による硬化を阻害してしまい、十分な膜強度が得られなくなるおそれがある。また、フォトレジスト等を硬化樹脂に用いた場合、光による露光後の現像工程において、現像性が悪くなることも挙げられる。
なお、本発明に係る略球状粒子、略棒状粒子や略板状粒子が単独の粒子である場合には、金属微粒子表面に結合する分散剤等の量は、金属微粒子量に対して5〜30質量%の範囲であることがより好ましく、一方、略球状粒子、略棒状粒子や略板状粒子の少なくとも一部が凝集粒子である場合には、2〜25質量%の範囲であることがより好ましい。
【0059】
このように、金属微粒子に対する分散剤等の添加量を厳密に調整するためには、親水性表面を有する金属微粒子を分散させた水系溶媒中に分散剤等を加えて攪拌等を行うことで金属微粒子の表面に分散剤等を被覆処理させた後、溶媒のみを除去する方法、例えばエバポレーター等を用いて金属微粒子の乾燥を行うことが好ましい。このようにすれば、金属微粒子に対して設計量の分散剤等を用いることができる。
さらに、分散剤等による表面処理時点においては分散剤の処理が不均一であっても、当該表面処理された金属微粒子を樹脂成分原料や樹脂成分原料と相溶性の高い溶剤に分散させた後において、金属微粒子に対する分散剤等の吸脱着平衡により、各粒子に対する分散剤等の被覆を均一にすることができるので、金属微粒子の均一な分散性も確保されることになる。
【0060】
次に、分散剤等により表面処理を行なった金属微粒子と、樹脂成分原料とを含む黒色塗料を作製する。ここで、樹脂成分原料とは、液状であり、硬化や溶剤留去等により前記樹脂成分を形成するものであって、前記樹脂成分のモノマー、オリゴマー、プレポリマーのほか、樹脂成分を溶剤に溶解したもの、さらには樹脂成分のモノマー、オリゴマー、プレポリマーを溶剤に溶解したものも含まれる。
上記樹脂成分のモノマー、オリゴマー、プレポリマーが液状の場合には、この樹脂成分モノマー、オリゴマー、プレポリマーをそのまま樹脂成分原料とし、この中に金属微粒子を混合分散させ、黒色塗料を作製してもよい。また、適当な溶剤中に樹脂成分又は固体状の樹脂成分モノマー、オリゴマー、プレポリマーを溶解させて液状とした溶液や、液状の樹脂成分のモノマー、オリゴマー、プレポリマーを溶媒中に希釈させた溶液を樹脂成分原料として、この中に金属微粒子を混合分散させ、黒色塗料を作製してもよい。
また、この黒色塗料中は、後述の添加剤を含んでもよい。
【0061】
本発明では、上記高分子分散剤等により表面処理を行なった金属微粒子を微粒子の状態で樹脂成分原料中に混合して分散させ黒色塗料を形成してもよく、またあらかじめ樹脂成分原料と相溶性の高い溶剤中に金属微粒子を分散させた金属微粒子分散液を作製し、この分散液と樹脂成分原料とを混合することで、黒色塗料を形成してもよい。なお、この金属微粒子分散液中には、後述の添加剤をあらかじめ溶解させておいてもよい。
【0062】
本発明では、樹脂成分原料に紫外線感光性を持たせることにより、塗布乾燥膜に対して露光、現像を行って複雑なデザインや意匠性を高めた形状とした黒色膜を形成することができる点で好ましい。また、紫外線感光性を有する樹脂成分原料を用いることにより、黒色パターン形成用のブラックレジストとしても使用することもできる。
ここで、紫外線感光性としてはネガ型(現像により感光部が残留する)とポジ型(現像により感光部が除去される)があるが、本発明の黒色膜は、両者ともに適用することができる。但し、この可視近赤外光遮蔽黒色膜や膜中の金属微粒子は紫外線に対しても遮光性を有するため、黒色膜が厚くなる場合には、露光部(紫外線照射部)において膜の底部が十分に感光されない状態となる場合があり、この影響を防ぐためにはネガ型のほうが好ましい場合がある。
【0063】
上記紫外線感光性を有する樹脂成分原料としては、市販のレジスト材料を用いることができるほか、前記のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂に、光反応化剤を添加しても良い。前記市販のレジスト材料としては液晶用やMEMS用のものを用いることが好ましいが、この理由としては、これらのレジスト材料により形成された膜に対して熱硬化等の処理を行うことにより、永久膜としての形成が可能となるからである。
【0064】
また、黒色塗料にはこれらの樹脂成分原料を硬化させるための反応開始剤として、熱や光によりラジカルを発生させて樹脂成分の重合を開始/促進させる物質を添加しても良い。このように、樹脂成分原料に光硬化性を持たせることにより、樹脂成分原料をネガ型レジストとしても扱うことができる。
【0065】
樹脂成分原料に用いられる溶剤や、金属微粒子分散液に用いられる溶剤としては、使用する樹脂成分(原料)の溶解性及び金属微粒子の分散性を保つことができるものであれば特に限定はされないが、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン等を挙げることができる。
【0066】
前記黒色塗料や金属微粒子分散液を得るための混合分散は、金属微粒子と樹脂成分原料や溶剤等を含む混合液を、超音波分散機、ペイントシェーカー、ボールミル、ビーズミル、アイガーミル等の公知の混合分散機を用いて分散処理することにより行うことができる。特に、分散性の点からビーズミルが好ましい。
さらに金属微粒子の混合時には、粘度や分散状態を調整するための溶剤の追加や、前記硬化剤の添加のほか、膜の硬度を向上させるための低分子量の架橋剤の添加や、形成する可視近赤外光遮蔽黒色膜と塗布基材との密着性を向上させるためのシランカップリング剤等を、形成する可視近赤外光遮蔽黒色膜の特性を劣化させない範囲で添加してもかまわない。
【0067】
このようにして得られた黒色塗料を基板上に塗布して塗布膜を形成する。
使用する基板としては、可視近赤外光遮蔽黒色膜の使用方法や使用形態に合わせて選択すればよく、特に限定はされないが、例えばシリコンウェハー等の半導体基板、ガラス等の無機基板のほか、アクリル基板、ポリカーボネート基板のように硬度の高い基板を使用すれば、可視近赤外光遮蔽黒色膜を有する構造体を得ることができる。また、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンサルフォン(PES)、トリアセチルセルロース(TAC)等の高分子フィルム等を使用すれば、可撓性を有する可視近赤外光遮蔽黒色膜を得ることもできる。
【0068】
また、黒色塗料の塗布方法(塗布膜形成方法)も特に限定されるものではないが、スピンコート法、フローコート法、スプレーコート法、ディップコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、バーコート法、スリットコート法、スリット&スピンコート法、インクジェット法等を挙げることができる。
【0069】
得られた塗布膜を硬化あるいは溶剤を揮発除去させること等により、可視近赤外光遮蔽黒色膜を得ることができる。なお、上記硬化により黒色膜を得るに際し、黒色塗料中に溶剤を含む場合には、初めに塗布膜中の溶剤を除去して塗布乾燥膜(溶媒が除去されることにより固体の膜状になっているが、樹脂成分の重合硬化はほとんど起こっておらず、溶剤と接触させることにより再度溶剤中への溶解が可能な状態の膜)を形成後、塗布膜を硬化させる。
硬化方法としては、樹脂成分原料のモノマー、オリゴマー、プレポリマーが熱重合を開始する温度で加熱してもよく、また反応開始剤を添加した場合には、反応開始剤に対応した熱や光の印加を行えばよい。また、両方を併用してもかまわない。なお、上記塗布膜中の溶剤除去をより完全に行う(具体的には溶媒除去をより高温で行う)ことにより、溶媒への再溶解性を減じることで、硬化に代えることもある。
【0070】
次に、前記紫外線感光性を有する樹脂成分原料を含む黒色塗料を用いた塗布膜に対して、紫外線照射(露光)、現像を行って、複雑な形状を得る方法について、簡単に説明する。
露光方式には特段の制限はないが、平面形状のものであれば、市販の紫外線露光装置とフォトマスクとを使用することで、容易に露光を行うことができる。また、光源として紫外線レーザーを用い、微細なレーザービームをスキャンすることで塗布乾燥膜に直接パターンを書き込む、いわゆる直接描画(直描)を行うこともできる。
現像方式にも特段の制限はなく、ディップ式やパドル式等の通常の方法を用いればよい。また、これら露光や現像の条件は、使用する樹脂成分原料や要求する形状に合わせて、適宜選択・調整すればよい。
上記プロセスにしたがって、樹脂成分原料に例えばレジスト材料を用い、塗布乾燥膜に対して露光、現像を行って複雑形状を得るものの好例としては、後述の固体撮像素子用遮光膜や画像表示装置用ブラックマトリックスを挙げることができる。
【0071】
[可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材]
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材は、既述の本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜が基材上に形成されてなる。可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材は、例えば固体撮像素子を形成する場合であればシリコンウェハー等の半導体基板等の上に、画像表示装置用ブラックマトリックスを形成する場合であれば光透過性基板等の上に、公知の方法により本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜を形成し、必要に応じてパターニングすることで作製される。
【0072】
基材としては、特に限定されるものではないが、シリコンウェハー、ガラス基材、プラスチック基材(有機高分子基材)等を挙げることができる。また、その形状としては、平板、フィルム状、シート状等が挙げられる。また、上記のプラスチック基材としては、プラスチックシート、プラスチックフィルム等が好適である。
【0073】
ガラス基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ソーダガラス、アルカリガラス、無アルカリガラス等から適宜選択することができる。
プラスチック基材の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、セルロースアセテート、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテル、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアクリレート等から、用途や使用条件に基づいて適宜選択することができる。
【0074】
また、パターニングして複雑な形状を得る方法は、特に限定はされないが、前記のように樹脂成分原料に紫外線感光性を持たせ、露光、現像等の工程を行えばよい。
上記露光、現像等のパターニング工程を、例えば画像表示装置用のブラックマトリックスとして適用する場合には、特開2006−251095号公報の段落番号0096から0106に記載の方法や、特開2006−251237号公報の段落番号0116から0126に記載の遮光画像の形成方法が、本実施形態においても好適に用いることができる。
本発明の黒色膜は、含まれる金属微粒子(黒色材料)の黒色度が高いことから、黒色膜中の黒色材料粒子量を減ずることができる。すなわち、黒色膜中の樹脂成分比率を低下させることがない。従って、パターニングして複雑な形状を得る場合においても、形成した黒色膜の硬化が不十分になったり、膜強度が不足したり、微細パターンの形成が不十分になってしまうという問題が発生することがない。
【0075】
また、黒色塗料を使用し、インクジェット法を用いて、基材上に直接パターンが形成された層を作製する方法もある。この場合、黒色塗料の塗膜には光感光性を与える必要は無いが、黒色塗料においては、微小なインクジェットノズルからの吐出性(吐出量や吐出方向の安定性)に優れるとともに、吐出され基材に付着した塗料は、流出や変形しないように高粘度状態となるようにする必要がある。このため、黒色塗料の粘度を調整したり、チクソトロピーを与えるための助剤を添加したりする等の方法が用いられる。
この工程についても公知の方法を使用できるが、例えば画像表示装置用のブラックマトリックスとして適用する場合には、特開2008−116895号公報の段落番号0029から0031に記載の方法を用いることができる。
【0076】
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材は、可視光域および近赤外光域の両範囲に渡って遮蔽性を有することから、固体撮像素子用カラーフィルターに用いられるブラックマトリクス(遮光膜)が設けられたブラックマトリクス基板としても、好適に用いることができる。
固体撮像素子用カラーフィルター用ブラックマトリクス基板としたときの、可視近赤外光遮蔽黒色膜の膜厚は0.2μm以上かつ5.0μm以下が好ましく、0.2μm以上かつ4.0μm以下がより好ましい。また、ブラックマトリクス基板における黒色膜は、本発明の黒色膜を使用しているので、薄膜でも高い光学濃度を有する。
【0077】
[固体撮像素子]
本発明の固体撮像素子は、前記本発明の可視近赤外遮蔽黒色膜を有するか、又は前記本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材を有してなる。
固体撮像素子としては、CCD(Charge Coupled Device)素子、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)素子が代表的であるが、本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜及び可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材は、これらの固体撮像素子を始めとする各種固体撮像素子において、好適に用いることができる。
【0078】
固体撮像素子は、通常、光電変換素子であるフォトダイオード(受光部)が二次元配列されたシリコン等の半導体基板と、各フォトダイオードの上方に二次元配列されたレッド(R)色、グリーン(G)色、ブルー(B)色のカラーフィルターと、カラーフィルター上に設けられ、入射光をフォトダイオードに集光させるためのオンチップマイクロレンズとから構成されている。
そして、固体撮像素子の撮像部(有効画素領域)の周縁領域には、暗電流の低減、ダイナミックレンジの低下防止、周辺回路の動作安定を図ることで、ノイズの発生やイメージセンサとしての画質低下を防止るための遮光膜が設けられている。また、隣接するカラーフィルター間相互の影響を低減し、画質を向上させるため、カラーフィルターにブラックマトリックスを設けられる場合もある。
【0079】
本発明の黒色膜は、黒色度が高く可視領域から近赤外領域の光に対して遮光性が高いこと、その高い遮光性ゆえに薄膜化が可能なことから、固体撮像素子用の遮光膜、すなわち撮像部の周縁領域に設けられる遮光膜や、カラーフィルターのブラックマトリックスとして、好適に用いることができる。すなわち、画素の微小化に伴う、光電変換素子の上面からオンチップマイクロレンズの下面までの有効光学機能層の厚さを薄くすることに対応して遮光膜やブラックマトリックスを薄くしても、十分な遮光性を確保することができる。また、含まれる金属微粒子(黒色粒子)の粒径が小さくかつ分散性が良いことにより、膜の均質性が高く、表面の平坦性も良好であるから、遮光膜やブラックマトリックスを薄くしても遮光むらや膜表面荒れによる画質の低下が生じることもなく、固体撮像素子用の遮光膜として用いることに対してより好適である。
【0080】
さらに、含まれる金属微粒子(黒色材料)の黒色度が高いことから、黒色膜中の黒色材料粒子量を減ずることができ、また粒径が小さく分散性が良いことにより、高い体積抵抗率を示すことから、黒色膜を設けるために新たに絶縁層を形成させる必要がない。また、例えばブラックマトリックスと撮像素子自体が直接接した場合でも、撮像素子間の短絡等による動作不良といった問題が発生することもない。
さらにまた、黒色膜中の黒色材料粒子量が少ない、すなわち、黒色膜中の樹脂成分比率を低下させることがないことから、パターニングにより得られる複雑な形状の黒色膜においても、膜硬化が不十分であったり、膜強度が不足したり、微細パターンの形成が不十分になることがない。従って、微細で正確な形状の固体撮像素子カラーフィルター用ブラックマトリックスを得ることができるから、固体撮像素子の特性をより高めることができる。
【0081】
[画像表示装置]
本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜及び可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材は、可視領域の光に対する遮光性も良好であることから、固体撮像素子用としてだけではなく、各種画像表示装置において好適に用いることができる。画像表示装置としては、プラズマディスプレイ表示装置、EL表示装置等の自発光型表示装置、CRT表示装置、液晶表示装置等が挙げられ、中でも液晶表示装置やEL表示装置に用いた場合に、本発明の可視近赤外光遮蔽黒色膜及び可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材の黒色膜の効果が顕著に発揮される。ここで、液晶表示装置の種類としては、STN、TN、VA、IPS、OCS、及びR−OCB等が挙げられる。
【0082】
本発明の黒色膜は、黒色度が高くかつ高い体積抵抗率を有していることから、その遮光性(光の無反射性)と抵抗率を利用した画像表示装置用部材として、好適に用いることができる。これらの部材としては、液晶表示素子や自発光型表示装置におけるブラックマトリックスとそれを用いたカラーフィルターやブラックストライプ、液晶表示装置や自発光型表示装置において各色の画素間を分離する遮光壁、液晶表示装置において液晶を充填する基板間のスペーサー等を挙げることができる。
【0083】
ここで、ブラックマトリックスとそれを用いたカラーフィルターへの適用においては、黒色度が高いことからブラックマトリックスの厚さを減じることができ、結果として得られるカラーフィルターの平坦性が高いため、このカラーフィルターを備えた液晶表示装置は、カラーフィルターと基板との間にセルギャップムラが発生せず、色ムラ等の表示不良の発生が改善される。
さらに体積抵抗率が高いことから、COA方式やBOA方式の液晶表示素子や自発光型表示装置のように、ブラックマトリックスと画素駆動用の配線とが接触する場合においても、配線の短絡等による素子の駆動不良をおこすおそれがない。
【0084】
また、遮光壁やスペーサーへの適用においても、体積抵抗率が高いことから、各画素間の配線が短絡する虞がなく、従って素子の駆動不良をおこすことがない。さらに黒色度が高いことから、遮光壁の厚さを減じることができ、各画素における発光領域の拡大によるコントラストの向上、あるいは画素間隔の減少に伴う発光素子の高密度化等をはかることができる。
さらには、高い光吸収性を利用して、コントラスト増強フィルム等へ応用することも可能である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0086】
<各測定・評価方法>
以下に、実施例又は比較例において採用した、材料及びシートの特性等の各測定方法、評価方法を示す。
【0087】
・黒色材料
後述する黒色微粒子の水分散液から粒子を分離、乾燥して粉末試料とし、以下の評価を行った。
(含まれる微粒子種の同定)
粉末試料について、X線回折装置(XRD)により結晶相を同定するとともに、圧粉体を電子線マイクロアナライザー(EPMA)で定性及び定量分析することにより、結晶相と組成比(含有比率)から含まれる金属粒子種を確認した。
【0088】
[XRD測定による結晶相同定]
粉末試料をガラス製試料ホルダーに詰め、X線回折装置(PANalytical製、X'Pert PRO)により、CuKα線を用いて測定した。得られたXRDプロファイルの回折角2θ=38°付近および44°付近のピークを銀、2θ=34.7°付近および39.7°付近のピークを銀錫金属間化合物(Ag3Sn及び/又はAg4Sn)、2θ=30.7°付近および32°付近のピークを錫の結晶相ピークとして同定することにより、含まれる金属粒子種の結晶相を確認した。
【0089】
[EPMA測定による定性・定量分析]
黒色材料粉末の圧粉体を電子線マイクロアナライザー(EPMA、日本電子社製、JXA8800)にて分析し、波長分散型X線分光器を用いた定性ならびに定量分析によって粉末中の錫及び銀の存在及び含有比率(質量比)を測定した。
【0090】
[XRD測定とEPMA測定からの微粒子種の同定]
XRD測定で同定された結晶相に対して、その結晶相を構成する元素が十分な量存在することをEPMA測定で確認することにより、微粒子種を同定した。
すなわち、XRD測定で銀錫金属間化合物の結晶相が確認された試料については、EPMA測定で銀及び錫の存在を確認することで、微粒子種が銀錫金属間化合物を含むと同定し、XRD測定で錫の結晶相が確認された試料については、EPMA測定で錫の存在を確認することで、微粒子種が錫を含むと同定し、XRD測定で銀の結晶相が確認された試料については、EPMA測定で銀の存在を確認することで、微粒子種が銀を含むと同定した。
【0091】
・黒色膜
(光学濃度(膜の遮光性))
黒色膜付き基板の透過率を分光光度計(ジャスコエンジニアリング製、V−570)を用いて1nm間隔で測定した。測定した透過率を、
光学濃度=−log10T (T:透過率)の式によって光学濃度に換算した。
1nm間隔で換算した400nmから1300nmの光学濃度を平均し、400nmから1300nmまでの平均光学濃度とした。555nm、1300nmにおける光学濃度を記録した。
【0092】
(黒色膜中の黒色材料粒子の平均一次粒子径、平均分散粒子径、粒度分布指標)
作製した黒色膜試料を、FIB(集束イオンビーム)を用いて断面方向に切断して薄片化し、切断面を透過型電子顕微鏡(TEM:日本電子社製、JEM−2010)により観察した。観察視野像から微粒子の形状およびアスペクト比を求めた。観察視野から任意の一次粒子100個を選び、それぞれの粒子像を円で近似し、当該円の直径を該粒子の粒子径として平均一次粒子径と粒度分布を算出した。
また、観察視野から任意の粒子100個を選び、それぞれの粒子像を円で近似し、当該円の直径を該粒子の粒子径として平均分散粒子径と粒度分布を算出した。なおここで「任意の粒子」とは、凝集粒子と、凝集をおこしていない一次粒子とを含むものとする。すなわち、黒色膜中における粒子が凝集粒子のみであれば当該凝集粒子、凝集粒子と一次粒子が混在する場合にはこれらを合わせた粒子、一次粒子のみ(粒子が凝集していない)であれば当該一次粒子、のことを示す。
【0093】
(黒色膜の体積抵抗率)
成膜基板としてITO膜をスパッタ法により表面に成膜したガラス基板を選択し、この基板上に成膜した黒色膜について、絶縁抵抗計(エーディーシー社製、超高抵抗/微小電流計R8340A)を用いて体積抵抗率を測定した。なお、体積抵抗率測定はDC5Vにて実施した。
【0094】
<実施例1>
(略球状粒子の合成)
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A1−1液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物314g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン360gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B1−1液)を調製した。次いで、B1−1液中にA1−1液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム10gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合してC1−1液を得た。
【0095】
次いで、錫コロイド(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)150g及び純水を混合した4000gの錫微粒子分散液中に、上記C1−1液を滴下、混合した。さらに酒石酸180gを純水2000gに溶解した水溶液を錫微粒子分散液とC1−1液との混合液中に滴下、攪拌し、過剰の錫コロイドを溶解させた。その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(D1−1液、固形分:25質量%)を調製した。
【0096】
(略棒状粒子の合成)
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A2−1液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物78g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン60gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B2−1液)を調製した。次いで、B2−1液中にA2−1液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム0.1gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合し、さらにアスコルビン酸18gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合してC2−1液を得た。
【0097】
次いで、錫コロイド(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)150g及び純水を混合した4000gの錫微粒子分散液中に、上記C2−1液を滴下、混合した。さらに酒石酸180gを純水2000gに溶解した水溶液を錫微粒子分散液とC2−1液との混合液中に滴下、攪拌し、過剰の錫コロイドを溶解させた。その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(D2−1液、固形分:25質量%)を調製した。
【0098】
(黒色材料分散液の作製)
次いで、上記D1−1液30g、D2−1液70g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−1粉)を得た。
次いで、上記E−1粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−1液、固形分:25質量%)を得た。
【0099】
(黒色膜の作製)
黒色材料分散液(F−1液)、多官能性アクリレートを樹脂形成成分とするレジスト(分散媒:PGMEA)及び溶媒としてのPGMEAを、固形分体積比(黒色微粒子:レジスト)が7.5:92.5となるように混合し、超音波処理により分散して黒色塗料(G−1塗料)とした。なお、上記固形分体積比は仕込比である。
次いで、厚さ0.7mmのガラス基板上に、前記調製したG−1塗料をスピンコーターを用いて塗布し、ホットプレート上で120℃にて2分間プリベークし、さらに230℃で30分間ポストベークし、実施例1の黒色膜(H−1膜)付きガラス基板を得た。黒色膜の膜厚は1μmであった。なお、図1に、実施例1の黒色膜の一部を、FIBを用いて断面方向に切断して薄片化し、TEM(日本電子社製、JEM−2010)で観察した結果(40万倍)を示す。
【0100】
(評価)
上記で得られた黒色材料、黒色膜について、前記の条件にしたがって微粒子の組成、膜中の粒子形状、アスペクト比、分散粒子径、光学濃度等の測定を行った。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例2]
実施例1で用いたD1−1液30g、D2−1液70g、櫛形ウレタン系高分子分散剤2.5g及びメチルエチルケトン22.5gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−2粉)を得た。
次いで、上記E−2粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−2液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例2の黒色膜(H−2膜)を作製した。なお、図2に、実施例2の黒色膜の一部を、実施例1と同様にしてTEMで観察した結果(40万倍)を示す。
作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0102】
[実施例3]
実施例1で用いた黒色金属微粒子分散液F−1液(固形分:25質量%)、多官能性アクリレートを樹脂形成成分とするレジスト(分散媒:PGMEA)、溶媒としてのPGMEAを、固形分体積比(黒色微粒子:レジスト)が10:90となるように添加し、超音波処理により分散して黒色塗料(G−3塗料)とした。なお、上記固形分体積比は仕込比である。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例3の黒色膜(H−3膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0103】
[実施例4]
実施例1で用いた黒色金属微粒子分散液F−1液(固形分:25質量%)、多官能性アクリレートを樹脂形成成分とするレジスト(分散媒:PGMEA)、溶媒としてのPGMEAを、固形分体積比(黒色微粒子:レジスト)が30:70となるように添加し、超音波処理により分散して黒色塗料(G−4塗料)とした。なお、上記固形分体積比は仕込比である。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例4の黒色膜(H−4膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0104】
[実施例5]
実施例1で用いた黒色金属微粒子分散液F−1液(固形分:25質量%)、多官能性アクリレートを樹脂形成成分とするレジスト(分散媒:PGMEA)、溶媒としてのPGMEAを、固形分体積比(黒色微粒子:レジスト)が3:97となるように添加し、超音波処理により分散して黒色塗料(G−5塗料)とした。なお、上記固形分体積比は仕込比である。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例5の黒色膜(H−5膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0105】
[実施例6]
実施例5のG−5塗料を用い、膜厚を2μmとした他は実施例1と同様にして、実施例6の黒色膜(H−6膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0106】
[実施例7]
実施例5のG−5塗料を用い、膜厚を5μmとした他は実施例1と同様にして、実施例7の黒色膜(H−7膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0107】
[実施例8]
実施例1で用いたD1−1液10g、D2−1液90g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−8粉)を得た。
次いで、上記E−8粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−8液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例8の黒色膜(H−8膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0108】
[実施例9]
実施例1で用いたD1−1液50g、D2−1液50g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−9粉)を得た。
次いで、上記E−9粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−9液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例9の黒色膜(H−9膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0109】
[実施例10]
実施例1で用いたD1−1液90g、D2−1液10g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−10粉)を得た。
【0110】
次いで、上記E−10粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−10液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例10の黒色膜(H−10膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0111】
[実施例11]
(略棒状粒子の合成)
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A2−11液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物78gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B2−11液)を調製した。次いで、B2−11液中にA2−11液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム0.025gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合し、さらにアスコルビン酸18gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合してC2−11液を得た。
【0112】
次いで、錫コロイド(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)150g及び純水を混合した4000gの錫微粒子分散液中に、上記C2−11液を滴下、混合した。さらに酒石酸180gを純水2000gに溶解した水溶液を錫微粒子分散液とC3液との混合液中に滴下、攪拌し、過剰の錫コロイドを溶解させた。その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(D2−11液、固形分:25質量%)を調製した。
【0113】
(黒色材料分散液の作製)
次いで、実施例1で用いたD1−1液30g、上記D2−11液70g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−11粉)を得た。
次いで、上記E−11粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−11液、固形分:25質量%)を得た。
【0114】
(黒色膜の作製)
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例11の黒色膜(H−11膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0115】
[実施例12]
実施例1で用いたD1−1液10g、実施例11で用いたD2−11液90g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−12粉)を得た。
【0116】
次いで、上記E−12粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−12液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例12の黒色膜(H−12膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0117】
[実施例13]
(略球状粒子の合成)
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A1−13液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物314g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン360gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B1−13液)を調製した。次いで、B1−13液中にA1−13液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム25gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合してC1−13液を得た。
その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(D1−13液、固形分:25質量%)を調製した。
【0118】
(略棒状粒子の合成)
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A2−13液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物78g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン60gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B2−13液)を調製した。次いで、B2−13液中にA2−13液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム0.1gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合し、さらにアスコルビン酸36gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合してC2−13液を得た。
その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(D2−13液、固形分:25質量%)を調製した。
【0119】
(黒色材料分散液及び黒色膜の作製)
次いで、黒色微粒子の水分散液として上記D1−13液30g及び上記D2−13液70gを用いたことを除いては実施例1と同様にして、乾燥粉(E−13粉)及び黒色材料分散液(F−13液、固形分:25質量%)を得た。
さらに実施例1と同様にして、F−13液より実施例13の黒色膜(H−13膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0120】
[実施例14]
実施例1で用いたD1−1液17g、D2−1液38g、錫コロイド(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)112g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−14粉)を得た。
次いで、上記E−14粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−14液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例14の黒色膜(H−14膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0121】
[実施例15]
(略板状粒子の合成)
硝酸銀56gを純水に溶解し1500gの硝酸銀水溶液(A2−15液)を調製した。また、クエン酸3ナトリウム2水和物39g及び1質量%に希釈したポリビニルピロリドン60gを純水に溶解し、2500gのクエン酸3ナトリウム水溶液(B2−15液)を調製した。次いで、臭化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム3600gを40℃の純水に溶解してB2−15液に加えた。次いで、臭化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを加えたB2−15液中にA2−15液を滴下して混合したのち、これに水素化ホウ素ナトリウム0.1gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下して混合し、さらにアスコルビン酸18gを純水に溶解した500gの水溶液を滴下、混合してC2−15液を得た。
【0122】
次いで、錫コロイド(平均粒子径:20nm、固形分:10質量%、住友大阪セメント社製)150g及び純水を混合した4000gの錫微粒子分散液中に、上記C2−15液を滴下、混合した。さらに酒石酸180gを純水2000gに溶解した水溶液を錫微粒子分散液とC2−15液との混合液中に滴下、攪拌し、過剰の錫コロイドを溶解させた。その後、遠心分離により洗浄を行い、黒色微粒子の水分散液(D2−15液、固形分:25質量%)を調製した。
【0123】
(黒色材料分散液及び黒色膜の作製)
次いで、黒色微粒子の水分散液として実施例1で用いたD1−1液30g及び上記D2−15液70gを用いたことを除いては実施例1と同様にして、乾燥粉(E−15粉)及び黒色材料分散液(F−15液、固形分:25質量%)を得た。
さらに実施例1と同様にして、F−15液より実施例15の黒色膜(H−15膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。
黒色膜の断面を観察したところ、略球状粒子と略板状粒子(三角板状粒子)が混在していた。これらの結果を表1に示す。
【0124】
[実施例16]
実施例1で用いたD1−1液30g、D2−1液70g、櫛形ウレタン系高分子分散剤1.88g及びメチルエチルケトン17gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−16粉)を得た。
次いで、上記E−16粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−16液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、実施例16の黒色膜(H−16膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0125】
[比較例1]
実施例13で用いたD1−13液100g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−21粉)を得た。
次いで、上記E−21粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−21液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、比較例1の黒色膜(H−21膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0126】
[比較例2]
実施例1で用いたD1−1液100g、櫛形ウレタン系高分子分散剤3.75g及びメチルエチルケトン34gを混合した後、エバポレーターを用いて混合物から水分及びメチルエチルケトンを蒸発させて、乾燥粉(E−22粉)を得た。
次いで、上記E−22粉29gと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)71gとを混合し、これをビーズミルを用いて分散させ、黒色材料分散液(F−22液、固形分:25質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、比較例2の黒色膜(H−22膜)を作製した。作製した黒色微粒子、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0127】
[比較例3]
カーボンブラック(Nipex35、デグサ社製)30g、ウレタン系分散剤3g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)67gを混合し、次いでビーズミルを用いて分散させ、黒色微粒子分散液F−23液(固形分:30質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして比較例3の黒色膜(H−23膜)を作製した。作製した黒色微粒子分散液、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0128】
[比較例4]
チタンブラック(13M−T、ジェムコ製)30g、ウレタン系分散剤6.67g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)63.33gを混合し、次いでビーズミルを用いて分散させ、黒色微粒子分散液F−24液(固形分:30質量%)を得た。
以降の工程は実施例1と同様にして、比較例4の黒色膜(H−24膜)を作製した。作製した黒色微粒子分散液、黒色膜の物性を実施例1と同様に評価した。これらの結果を表1に示す。
【0129】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が1nm以上かつ300nm以下の金属微粒子を含有してなり、
膜中における前記金属微粒子が、略球状粒子と略棒状粒子との混合物、略球状粒子と略板状粒子との混合物、略球状粒子と略棒状粒子と略板状粒子の混合物、のいずれかであることを特徴とする可視近赤外遮蔽黒色膜。
【請求項2】
前記略球状粒子の平均一次粒子径が1nm以上かつ100nm以下であり、かつ略棒状粒子又は略板状粒子の平均一次粒子径が5nm以上かつ300nm以下である請求項1に記載の可視近赤外遮蔽黒色膜。
【請求項3】
前記略球状粒子、略棒状粒子、略板状粒子のいずれか又は全てが前記金属微粒子の凝集粒子であって,当該略球状粒子の膜中における平均分散粒子径が1nm以上かつ100nm以下であり、かつ当該略棒状粒子又は当該略板状粒子の膜中における平均分散粒子径が5nm以上かつ300nm以下である請求項1又は2に記載の可視近赤外遮蔽黒色膜。
【請求項4】
前記金属微粒子が、白金、金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、錫、コバルト、ロジウム、イリジウム、鉄、ルテニウム、オスミウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、及びビスマスからなる群から選択される1種又は2種以上を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜。
【請求項5】
前記可視近赤外遮蔽黒色膜における波長400nmから1300nmにおける光学濃度の平均が1.0以上、かつ波長555nmにおける光学濃度が1.0以上、かつ波長1300nmにおける光学濃度が0.6以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の可視近赤外遮蔽黒色膜。
【請求項6】
体積抵抗率が1011Ω・cm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜が形成された可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜、又は請求項7に記載の可視近赤外光遮蔽黒色膜付き基材を有する固体撮像素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−203083(P2012−203083A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65806(P2011−65806)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】