説明

合成シリカガラス及びその製造方法並びに該合成シリカガラスを用いた放電灯用ランプ又は合成シリカスート焼成炉芯管を備えた装置

【課題】 耐白色失透や耐黒色失透に優れ、かつ耐熱性の高い合成シリカガラス及びその製造方法並びに該合成シリカガラスで作成した部材を備えた装置を提供することをその目的とする。
【解決手段】 OH基濃度が5ppm以下、金属不純物濃度の総和が1ppm以下、250nmでの酸素欠損型欠陥量が吸収係数で0.01〜6/cmで、215nmでの吸収係数が250nmの吸収係数より小さく、かつ1100℃での粘度が1014〜1016ポアズの合成シリカガラス、特にランプ用の発光管のため波長250nm以下の光線の内部透過率を50%/cm以下とした合成シリカガラス及びその製造方法並びに前記合成シリカガラスで作成した部材を備えた装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐失透性に優れ、高温粘度が高い合成シリカガラス、特に250nm以下の光線の内部透過率が低く放電灯用、好ましくは高圧水銀ランプ又はメタルハライドランプの発光管として有用な合成シリカガラス及びその製造方法並びに該合成シリカガラスを用いた放電灯用ランプ又は合成シリカスート焼成炉芯管を備えた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成シリカガラスは、赤外線から真空紫外線までの広い波長範囲において透明であるばかりでなく、高純度で、比較的耐熱性が高く、かつ耐薬品性にも優れていることから、各種照明ランプ等の発光管として、また、金属不純物による損失の少ない光ファイバ用母材を作成するための合成シリカスート焼成炉芯管として使用されている。前記発光管としては、例えば発光管内に希土類金属元素のハロゲン化物を封入し、それを発光時のバルブ温度が900〜1100℃で、内圧が5〜30kgf/cmの高温、高圧で発光させるメタルハライドランプや高圧水銀ランプの発光管などが挙げられるが、それらの発光管を備えたランプの点灯を続けるうちに発光管」の内表面に徐々に黒色失透や白色失透が生じ、光の強度低下が生じ、また、演色性の悪化が起こる。特に、高温、高圧でハロゲン化物を発光させるメタルハライドランプにあってはこの黒色失透や白色失透に加えて作動電圧の上昇および再点弧スパイク電圧の発生が起こりランプの寿命を短いものにした。黒色失透は、シリカガラス中に存在する水分子またはOH基の分解により発生する酸素と電極部分の金属との酸化反応に基づくものであり、また、再点弧スパイク電圧の発生および作動電圧の上昇はシリカガラス中に溶存する水素分子や前記水分子又はOH基の加熱分解により発生する水素分子に起因する。さらに、白色失透は、シリカガラス中に含まれているアルカリ金属元素やアルカリ土類金属元素等の金属不純物によるシリカガラスの再結晶化の促進にあると推定されている。この白色失透を起こす金属不純物は、例えば天然石英ガラスからなる炉芯管にみるようにシリカスート体の焼成中に炉芯管内に放出され、光ファイバ母材を汚染する。合成石英ガラスは、高純度であることから金属不純物の放出による光ファイバ母材の汚染は少ないが、耐熱性が天然石英ガラスに比較して低いためシリカスートの焼成温度である1500℃程度で軟化し炉芯管の全長が伸び加熱炉底壁に接触するなどの変形を起こし、使用時間を短くする欠点があった。
【0003】
上記に加えて、合成シリカガラスは、高い光透過性のため光源から発生した紫外線が直接人体に悪影響を及ぼすばかりでなく、紫外線により空気中の酸素から人体に有害なオゾンが発生し、また、紫外線によるランプの発光管を支える樹脂にダメージを与えて劣化させるなどの問題があった。中でもメタルハライドランプにおいては紫外線の放出量が多くその抑制を図ることが重要な課題となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように合成シリカガラスは黒色失透や白色失透を起こし易いことから、その解決のため含有するOH基濃度や金属不純物濃度を特定の範囲に限定するとともに、アルミニウムを特定の範囲で含有した合成シリカガラスが特許文献1で提案されている。しかし、この合成シリカガラスにあっては紫外線の透過率がよくランプ用として使用するには紫外線に起因する問題点を解決するものではなかった。そこで、合成シリカガラスに特定の遷移金属元素を含有させて紫外線の透過率を低減させる合成シリカガラスが引用文献2で提案されている。この特許文献2で示されている合成シリカガラスは紫外線の透過率を抑えるため遷移金属元素をドープするが、そのドープ工程が余分な工程となりコスト高となる上に、遷移金属元素による光の吸収、散乱が起こり放電管用合成シリカガラスとしては満足できるものではなかった。これらの欠点を解決する合成シリカガラスとして特許文献3に記載の合成シリカガラスが提案さた。この合成シリカガラスは、OH基濃度を20ppm以下、水素分子の含有量を1×1017個/cm3以下、Cl含有量を10ppm以下及び金属不純物含有量の総和を1ppm以下とした合成シリカガラスである。 確かに、特許文献3の合成シリカガラスは、黒色失透や白色失透を抑制し、かつ紫外線の透過率を低いものにするが、白色失透の抑制が十分ででない上に、高温粘度が低く、高温、高圧での発光又は焼成時に熱変形を起りし、部材の使用時間を短いものにする欠点があった。
【特許文献1】特開平6−305767号公報
【特許文献2】特開平7−69671号公報
【特許文献3】特開2005−170706号公報
【0005】
こうした現状を踏まえて、本発明者等は鋭意研究した結果、合成シリカガラス中のOH基濃度、アルカリ金属元素濃度およびアルカリ土類金属元素などの金属不純物濃度を最大限低減する一方、合成シリカガラス中の酸素欠損型欠陥量を特定の範囲にして高温粘度を高くすることで、黒色失透、化学的エッチングや再結晶化による白色失透、作動電圧の上昇および再点弧スパイク電圧の発生を抑え、かつ、高温加熱時の変形も抑えることができる合成シリカガラスが得られることを見出した。また、前記合成シリカガラスは波長250nm以下の光線の内部透過率が50%以下となり紫外線の諸問題点も起りにく、さらに、水素含有濃度を特定の範囲以下とすることでランプの作動電圧の上昇や再点弧スパイク電圧の発生をより良好に抑えることができことも見出した。そして、前記合成シリカガラスはその製造中に還元性を有する雰囲気中で加熱するなど特定の処理を施すことで容易に製造できることを見出して本発明を完成したものである。すなわち、
【0006】
本発明は、耐白色失透や耐黒色失透に優れ、かつ耐熱性の高い合成シリカガラスを提供することをその目的とする。
【0007】
本発明は、上記に加えて250nm以下の光線の内部透過率が低く、かつ作動電圧の上昇および再点弧スパイク電圧の発生を抑えた合成シリカガラスを提供することをその目的とする。
【0008】
本発明は、耐熱性が高く高温加熱時の変形や金属不純物による光ファイバ母材の汚染が少なく部材を長時間使用できるシリカスート焼成用炉芯管用の合成シリカガラスを提供することをその目的とする。
【0009】
本発明は、上記合成シリカガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、上記合成シリカガラスを用いて作成した放電灯用ランプを備えた放電灯装置を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、上記合成シリカガラスを用いて作成した炉芯管を備えたシリカスート焼成炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、OH基濃度が5ppm以下、金属不純物濃度の総和が1ppm以下、250nmでの酸素欠損型欠陥量が吸収係数で0.01〜6/cmで、215nmでの吸収係数が250nmの吸収係数より小さく、かつ1100℃での粘度が1014〜1016ポアズであることを特徴とする合成シリカガラス及びその製造方法並びに該合成シリカガラスで作成した部材を備えた装置に係る。
【0013】
シリカガラス中に含まれる水分子またはOH基は熱的に不安定であり、例えばランプの発光管や焼成炉等の高温にさらされる条件で使用した場合、加熱分解して水素と酸素を放出し、それらが電極部分の金属や封入金属ガスと反応し、黒色失透を起したり、再点弧スパイク電圧の発生および作動電圧を上昇させ、さらに、シリカガラス骨格構造ともOH基が反応し耐熱性を低下させることが起こる。また、金属不純物、特にアルカリ金属及びアルカリ土類金属等を含むとシリカガラスのクリストバライトへの相転移が容易となり誘起白色失透が発生する。そのため合成シリカガラス中の水分子またはOH基濃度並びに金属不純物濃度はできるだけ少なくする必要がある。OH基濃度については、5ppm以下、好ましくは1ppm以下がよく、これを超えるとシリカガラス骨格構造との反応による耐熱性の低下が起こりメタルハライドランプのように高温で使用するランプや炉芯管の寿命を短くする。また、金属不純物濃度の総和は1ppm以下とする。金属不純物濃度の総和が1ppmを越えるとシリカガラスのクリストバライトへの相転移が容易となり白色失透が発生し、可視光線の透過率の低下が起こる上に、シリカガラスの耐熱性も低下し、ついには部材の破損が起る。前記金属不純物としては、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素などが挙げられ、具体的にはLi、Na、K、Ca、Mgなどが挙げられる。
【0014】
本発明で規定する酸素欠損型欠陥は、シリカガラスの構造欠陥の1つである酸素原子の欠損に基づく欠陥であるが、この酸素欠損型欠陥が存在するとクリストバライトの生成、即ちシリカガラスのクリストバライトへの相転移が抑制されるとともに、耐熱性が向上する。さらに、シリカガラスから放出される酸素原子量も減少し白色失透や黒色失透が低減できる。前記酸素欠損型欠陥量は250nmでの吸収係数で0.01〜6/cmで、かつ215nmでの吸収係数が250nmの吸収係数より小さい範囲が良い。その範囲の酸素欠損型欠陥量を有することでクリストバライトの生成が抑えられ、また、放出される酸素原子量も低減でき白色失透、黒色失透が少なくなる上に、Si-Si結合が増大し、その吸収性により波長250nm以下の光線の透過率を低下する。波長250nm以下の吸収係数が0.001/cm未満では酸素欠損型欠陥による、クリストバライトの生成の抑制効果や波長250nm以下の光線の透過率の低減効果がなく、また、6/cmを越えると可視光線の透過率が抑えられランプの発光効率が低下する。215nmでの吸収係数が、250nmの吸収係数を超えると、耐熱性が減少する。酸素欠損型欠陥の吸収係数は、酸素欠損型欠陥が約250nm(5.0eV)と215nm(5.8eV)の吸収帯としてあらわれる(H.Imai et at.(1988) Two types of oxygen−
deficient centers in synthetic silica
glass. Physical Review B. Vol.38,No.17,pp12772〜12775)。例えば250nmの吸収係数を測定し式1に当て嵌めることにより内部透過率が算出できる。
【0015】
【数1】

(上記式において、Tは内部透過率(%)、dは測定試料の厚さ(cm)である。)
【0016】
本発明の合成シリカガラスはその1100℃における粘度が1014〜1016ポアズであることが重要である。合成シリカガラスの粘度が1100℃で1014未満では、耐熱性に劣りランプの放電管やシリカスート焼成のための炉芯管に変形が起こり使用寿命を短いものにする。その一方、1100℃での粘度が1016を越える高粘度を有する合成シリカガラスはその製造が困難である。
【0017】
さらに、本発明の合成シリカガラスにおいては水素分子濃度を1×1016分子/cm以下、好ましくは1×10〜1×1016分子/cmの範囲とする。これによりランプ作動電圧の上昇や再点弧スパイク電圧の発生が一段と抑制できる。水素分子濃度の測定は、V,S. Khotimchenko,et al.(1987)
Determining the Content of Hydrogen
Dissolved in Quartz Glass Using the
Method of Raman Scattering and Mass
Spectrometry,J.Appl.Spectrosc., Vol.46,
No.6,pp632〜635に記載の方法に従う。
【発明の効果】
【0018】
本発明の合成シリカガラスは、耐熱性が高く、かつ白色失透が少ない上に、黒色失透の発生も少なくランプの放電管用として、また、シリカスートの焼成炉芯管として有用である。さらに、本発明の合成シリカガラスは、ランプの放電管として使用した場合、作動電圧の上昇および再点弧スパイク電圧の発生が少なく、部材寿命を長く保持できる上に、波長250nm以下の光線の内部透過率を50%/cm以下と低くでき紫外線による弊害を低減できる。この合成シリカガラスは、多孔質合成シリカガラス体を還元性を有する雰囲気中、好ましくは揮発性有機珪素化合物を含む還元性雰囲気中で還元処理した後、水素雰囲気中で焼成し、それを加熱成型するという簡便な方法で容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の合成シリカガラスの製造方法を説明するが、本発明の製造方法はこのスート法に限定されるものではなく、シリカゲル法等合成シリカガラスの製造方法も採用できる。すなわち、多重管構造の石英ガラス製バーナーの中心からSiCl4、(CH3)SiCl3、(CH32SiCl2などの原料ガスを供給し、その外側の管から水素やメタン及び酸素を供給し、前記原料を火炎加水分解してシリカ粒子(スート)を得、それをターゲット上に堆積させてVAD多孔質合成シリカガラス体(スート体)とし、それを還元性を有する雰囲気中、好ましくは揮発性有機珪素化合物を含む還元性雰囲気中で加熱する還元処理を施した後、水素を含む雰囲気中、300〜1900℃、好ましくは500〜1500℃の温度で加熱処理し、次いで1100〜1900℃、好ましくは1200〜1800℃の温度で焼成して緻密化シリカガラス体を作り、それを真空中又は不活性ガス中、1500〜2200℃、好ましくは1800〜2100℃で加熱成型して合成シリカガラス体とする。前記多孔質合成石英ガラス体は、水酸基を100〜500ppmの範囲で含んでいるものが好ましい。水酸基を多く含むことで還元処理における反応が容易となる。還元処理としては、還元性を有する雰囲気中で、100〜1300℃、好ましくは400〜1000℃に加熱することが行われる。還元性を有する雰囲気に含まれる気体としては、水素、アンモニア(NH)、ヒドラジン(N)、エタノール(COH)、一酸化炭素(CO)、塩素(Cl)、四塩化ケイ素(SiCl)、揮発性有機珪素化合物又はそれらの混合物が挙げられ、好ましくは揮発性有機珪素化合物を含む還元性雰囲気がよい。揮発性有機珪素化合物としては、ヘキサメチルジシラザン([(CHSi]NH)、トリクロロメチルシラン((CHCl)SiH)、ヘキサメチルジシロキサン[(CHSi]Oなどが挙げられる。
【0020】
上記製造方法において、水素を含む雰囲気中での加熱処理、それに続く透明シリカガラス体の真空中又は不活性ガス中の加熱成型で、シリカガラス体中の骨格構造はSi―Oで形成されるようになり、余分な含有ガス分子、例えば、水素、酸素、残留した還元性を有する気体は排出除去される。その一方、Si・や、Si-Si結合である酸素欠乏型構造欠陥が残留し、黒色失透や白色失透が少なくなるとともに1100℃における粘度が1014以上となり熱変形を少なくし、さらに、波長250nm以下の光線の内部透過率を50%/cm以下にする。
【0021】
以下に実施例でさらに具体的に説明する。なお、以下の例に示す物性値は次の測定方法に従った。
(i) 水放出量の測定;ガスマス分析法(那須昭一、他(1990)石英ガラスのガス放出、照明学会誌、第74巻、第9号、595〜600頁参照)
(ii) OH基濃度の測定;赤外線吸収法(D.M.Dodd,etal.,J.
Appl.Phys.Vol.37(1966),pp3911参照).
(iii) アルミニウム,アルカリ金属、およびアルカリ土類金属元素各含有量の測定;原子吸光光度法。
(iv) 粘度テスト;ビームベンヂング法(ASTM,C−598−72(1983)参照)
(v) 吸収係数の測定;紫外線分光光度法。
(vi)内部透過率(2面鏡面10t)の測定法;紫外線分光光度法。
(vii) 水素分子濃度測定;ラマン散乱分光高度法(V.S.Khotimchenko,etal.(1987))
(vii) 失透テスト;大気中、1280℃、120hr.の熱処理を行った後、目視にて微結晶生成による白色失透を観察する。
(viii) メタルハライドランプ点灯実験;東忠利(1981)希土類ハロゲン化物入りメタルハライドランプの発光特性、照明学会誌、第65巻、第10号、487〜492頁の第4節に記載する高輝度光源用短ア−クランプの作成法を参照にしてランプを作成した。初期の光出力を100%として、500時間点灯後の出力を測定すると共に、目視にて白色化と黒色化の程度を観察した。なお、ランプバルブの厚さは2mmとした。
【実施例】
【0022】
実施例1
テトラクロロシランの火炎加水分解によって得た、外径100mm×内径60mm×長さ300mmの円筒状で密度が0.7g/cmの多孔質合成シリカガラス体(OH基約300ppm含有)約1kgを電気炉内に装着されたシリカガラス製の炉心管(直径200mm)内にセットし、次いで、炉心管内を排気した後、500℃に加熱し、この温度で約60分間予熱した。その後、ヘキサメチルジシラザン蒸気をNガスで希釈しながら供給し、ヘキサメチルジシラザンと多孔質合成シリカガラス体中のOH基とを反応させた。前記ヘキサメチルジシラザンによる還元処理の温度と時間とを表1に示す。なお、
ガスの流量は1mol/hrである。
【0023】
還元処理終了後、多孔質合成シリカガラス体を加熱炉内に移し、炉内温度を800℃に昇温し、Hガスを1mol/hr掛け流しながら、1時間保持した。次いで、炉内を1×10−3mmHgに減圧するとともに、1500℃に昇温し、1時間保持した。それを室温まで冷却して緻密化された外径100mm×内径90mm×長さ300mmの透明なシリンダー状シリカガラスを得た。
【0024】
上記透明シリンダー状シリカガラスを炉内に垂直方向にセットし、その下部より加熱をはじめ、2000℃にてゾーン加熱移動しながら、シリカガラス上部まで加熱溶融し、外径30mm×内径20mm×長さ1000mmのチュ−ブ状シリカガラスを作成した。得られたチュ−ブ状シリカガラスについてその物性値を測定し、それを表1に示した。また、このチュ−ブ状シリカガラスについて波長250nm以下の光線の内部透過率をも調べた。その結果を図1に示す。
【0025】
実施例2
実施例1において、ヘキサメチルジシラザンの代わりにトリクロロメチルシラン(
(CHCl)SiH)を用いた以外、実施例1と同様にしてチューブ状シリカガラスを得た。得られたチュ−ブ状シリカガラスについてその物性値を測定し、それを表1に示した。また、このシリカガラスについても波長250nm以下の光線の透過率を調べた。その結果を図1に示す。
【0026】
実施例3
実施例1において、ヘキサメチルジシラザンの代わりにヘキサメチルジシロキサン[(CHSi]を用いた以外、実施例1と同様にしてチューブ状シリカガラスを得た。得られたチュ−ブ状シリカガラスについてその物性値を測定し、それを表1に示した。また、このシリカガラスについても波長250nm以下の光線の透過率を調べた。その結果を図1に示す。
【0027】
実施例4
実施例1において、外径200mm×内径60mm×長さ4000mmの円筒状で密度が0.7g/cmの多孔質合成シリカガラス体を用いて、外径200mm×内径160mm×長さ3000mmの透明シリンダー状シリカガラスを得た。得られたチュ−ブ状シリカガラスについてその物性値と透過率を調べた。その結果は、実施例1のチュ−ブ状シリカガラスと同様であった。
【0028】
このチュ−ブ状シリカガラスを光ファイバ用合成シリカスート焼成炉芯管に加工し、電気加熱炉内に設置した。炉芯管内部では図2に示すようにVADスートを中空上に吊り下げ、塩素雰囲気にて 1100℃で20Hr加熱処理し、その後、ヘリウム雰囲気に置換して、1500℃まで、昇温させて、200Hr加熱処理した。 室温まで冷却後、透明ガラス体を取り出したが、炉芯管に変形がほとんどなかった。前記VADスートの透明ガラス体中の金属不純物を分析したところ、表2に示すとおりであった。
【0029】
比較例1
テトラクロロシランの火炎加水分解によって得た、外径100mm×内径60mm×長さ300mmの円筒状で密度が0.7g/cmの多孔質合成シリカガラス体(OH基約300ppm含有)約1kgを電気炉内に装着されたシリカガラス製の炉心管(直径200mm)内にセットした。次いで、炉心管内を排気した後、500℃に加熱し、この温度で60分間予熱した。その後、多孔質合成シリカガラス体を加熱炉内に移し、炉内温度を800℃に昇温し、Nガスを1mol/hr掛け流しながら、1時間保持した。炉内を1×10−3mmHg以下に減圧するとともに、1500℃に昇温し、1時間保持した。室温まで冷却し、緻密化され外径100mm×内径90mm×長さ300mmの透明なシリンダー状シリカガラスを得た。
【0030】
上記透明シリンダー状シリカガラスを炉内に垂直方向にセットし、その下部より加熱をはじめ、2000℃にてゾーン加熱移動しながら、上部まで加熱溶融し、外径30mm×内径20mm×長さ1000mmのチュ−ブ状シリカガラスを作成した。得られたチュ−ブ状シリカガラスについて物性値を測定し、それを表1に示した。また、このチュ−ブ状シリカガラスについて波長250nm以下の光線の内部透過率を調べた。その結果を図1に示す。
【0031】
比較例2
比較例1において、透明シリンダー状シリカガラスを炉内に垂直方向にセットし、その下部より加熱をはじめ、1780℃にてゾーン加熱移動しながら、上部まで加熱溶融し、外径30mm×内径20mm×長さ1000mmのチュ−ブ状シリカガラスを作成した。得られたチュ−ブ状シリカガラスについて物性値を測定し、それを表1に示した。また、このチュ−ブ状シリカガラスについて波長250nm以下の光線の内部透過率を調べた。その結果図1に示す。
【0032】
比較例3
テトラクロロシランの火炎加水分解によって得た、粘度0.05μm〜2μmの合成石英ガラスヒュームを、純水中に溶いてスラリー状とし、大気雰囲気中にて、200℃で、400hr保持し、乾燥させて、外径100mm×内径60mm×長さ300mmの円筒状で密度が0.7g/cm3の多孔失合成シリカガラス体(OH基約300ppm含有)約1kgを作成し、それを比較例1と同様な処理を施してチュ−ブ状シリカガラスを得た。このチュ−ブ状シリカガラスについて物性値を測定し、それを表1に示した。純度が低下し、白色失透が強く確認された。
【0033】
比較例4
チュ−ブ状シリカガラスを電気溶融天然シリカガラスで作成した以外は、実施例4と同様にして光ファイバ用合成シリカスート焼成炉心管を作成した。この炉芯管を用いて実施例4と同様にVADスート体を緻密化し、透明化して外径100mm×内径90mm×長さ300mmのシリンダー状シリカガラスを得た。焼成に使用した炉芯管には失透が外面から内面まで進み、小さな割れが多発した。前透明ガラス体中の金属不純物を分析したところ、表2に示すとおりであった。
【0034】
比較例5
チュ−ブ状シリカガラスで1100℃での粘度が13.5である合成シリカガラスで作成した以外は、実施例4と同様にして外径100mm×内径90mm×長さ300mmの透明なシリンダー状シリカガラスを得た。焼成に使用した炉芯管は縦方向が伸びて、電気炉底壁に接触した。前記透明ガラス体中の金属不純物を分析したところ、表2に示すとおりであった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
(評価)
上記表1にみるように本発明合成シリカガラスは金属不純物による汚染が少なく、かつ黒色失透も低い上に、耐熱性が高く、さらに、波長250nm以下の光線の内部透過率が低く抑えられていることが窺える。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、金属不純物による汚染及び黒色失透が少ない上に、耐熱性が高く、しかも波長250nm以下の光線の内部透過率が低いので、放電灯用発光管やシリカスート焼成用炉芯管材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】は、合成シリカガラスの紫外線透過率(2面鏡面30t)を示す曲線である。
【図2】は、VADスート体焼成用炉芯管の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OH基濃度が5ppm以下、金属不純物濃度の総和が1ppm以下、250nmでの酸素欠損型欠陥量が吸収係数で0.01〜6/cmで、215nmでの吸収係数が250nmの吸収係数より小さく、かつ1100℃での粘度が1014〜1016ポアズであることを特徴とする合成シリカガラス。
【請求項2】
OH基濃度が1ppm以下、水素分子濃度が1×1016分子/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の合成シリカガラス。
【請求項3】
波長250nm以下の光線の内部透過率が50%/cm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の合成シリカガラス。
【請求項4】
合成シリカガラスが高圧水銀ランプ又はメタルハライドランプ用合成シリカガラスであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1記載の合成シリカガラス。
【請求項5】
合成シリカガラスが光ファイバ用シリカスート焼成炉芯管の合成シリカガラスであることを特徴とする請求項1又は2記載の合成シリカガラス。
【請求項6】
多孔質合成シリカガラス体を還元性を有する雰囲気中で加熱する還元処理した後、水素を含む雰囲気中で加熱処理し、次いで焼成して緻密なシリカガラス体とし、それを真空中又は不活性ガス中、1500〜2200℃で加熱成型することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の合成シリカガラスの製造方法。
【請求項7】
還元性を有する雰囲気が揮発性有機珪素化合物を含む還元性雰囲気であることを特徴とする請求項6記載の放電灯用合成シリカガラスの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれか1記載の合成シリカガラスで作成した放電灯用ランプを備えた放電灯装置。
【請求項9】
請求項1又は2記載の合成シリカガラスで作成した光ファイバ用合成シリカスート焼成炉芯管を備えた焼成炉。




【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−298686(P2009−298686A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110990(P2009−110990)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】